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Pavilion Energy およびシンガポールにおける LNG トレーディングの動向

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Pavilion Energy およびシンガポールにおける LNG トレーディングの動向
更新日:2013/12/18
調査部:片山 治
Pavilion Energy およびシンガポールにおける LNG トレーディングの動向
(脚注に示す各種資料およびコンサルタント情報等)
要旨

Pavilion Energy について
 シンガポールのソヴェリンウェルスファンド Tamasek Holdings は、石油・ガスの上流事業および
LNG 関連施設建設、LNG 船投資等を事業対象とする子会社、Pavilion Energy を今年 4 月に設
立した。
 同社は、シンガポール LNG の第2フェーズのフランチャイズ(輸入販売者)となるべく準備を進
めている。一方、シンガポールおよび近隣諸国への供給目的のスポット LNG カーゴ、メジャー
向けの10年長期契約を既に締結している。
 同社はまた、今年11月に、LNG 化が計画されているタンザニアの探鉱鉱区の権益を Ophir
Energy から買収した。

シンガポールにおける LNG トレーディングについて
 資源・エネルギートレーダーおよびメジャーを初めとする石油ガス会社、金融機関が続々とシ
ンガポールに LNG 事業目的でオフィスを構えている。
 この中には、今年初のカーゴが入港し、拡張工事が進行しているシンガポール LNG ターミナ
ルでのフランチャイズとなることを目的とする会社もあるが、多くの企業はむしろ第三国間のトレ
ーディングならびに LNG を含む将来のガス関連事業展開のための情報収集ならびに準備を
目的としている。
 シンガポールを拠点とする LNG のスポット取引は現時点では限定的だが、世界各地の新規ソ
ースからの供給が増えるに従い、増加すると考えられる。
 シンガポールは、国内の天然ガス/LNG 需要の大きさでは、中国や日本に劣る。一方、自国の
経済活動におけるトレーディングの重要性を認識し世界の LNG トレーディング拠点の一つとし
たい政府による政策、輸送・販売部門の分離、輸送ネットワークの発達と自由なアクセス、金融
機関の参加において他地域を凌駕しており、アジアにおける LNG 取引の一大拠点となる有力
候補である。
 シンガポール LNG ターミナルの拡張に伴い、LNG バンカーリングも計画されている。
–1–
Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
1. Pavilion Energy
(ア) 沿革および会社概要
Pavilion Energy はシンガポールのソヴェリンウェルスファンド(SWF)の一つである Temasek Holdings
が今年 4 月に設立した 100%子会社で、授権資本は 10 億米ドル。石油・ガスの上流事業から LNG
関連施設建設と LNG 船投資等を事業対象とする。
取締役の顔ぶれには、元ペトロナス社長兼 CEO で現在シンガポール電力(Singapore Power)会長
を務めるハッサン・マリカン(Hassan Marican)会長、Temasek Holdings の上級専務を務める Seah
Moon Ming CEO 兼常務、元エクソンモービルの上級役員コー・ケン・シオン(Koh Kheng Siong)、元
シェル社員で LNG コンサルタント兼オックスフォード・エネルギー研究所研究員のデイヴィッド・レデ
スマ(David Ledesma)らがある。
(イ) なお、同社はガス販売子会社 Pavilion Gas を設立しており、同社の役員にはチャンギ空港グループ
の会長リュー・ムン・レオン(Liew Mun Leong)、ペトロナスおよびペトロナス LNG の元上級役員のリ
ー・チン(Lee Ching)、三菱商事マレーシア法人元 CEO でマレーシア LNG の日本への販売に長年
かかわった桑原哲郎などがいる。
(ウ) 事業計画
同社の今後の事業展開は以下の 3 つのステップを踏む。第一に、シンガポールのエネルギー安定
供給をサポートしさらに同社を地域有数の LNG プレーヤーとするため、天然ガス資産、LNG プラン
ト、LNG 船、再ガス化施設といった戦略的な資産を買収する。第二に、LNG トレーディング・販売・マ
ーケティング・リスク管理(ヘッジ)、LNG の各技術プロセスに至るまで LNG の操業全てに係る能力
を持つこと。第三に、シナジー効果を生み、価格競争力を最大限にするよう、全事業の各部門を統
合することである。

LNG トレーディングおよび契約について
2013 年12 月現在、Pavilion Energyは 2018 年に開始されるシンガポールLNGターミナル処理能
力年間300万トン超部分の供給フランチャイザーとなるべく、シェルおよびエクソンモービルとと
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
もにEMAに参加意思を表明した後、候補として承認されている 1。
Pavilion は 10 月に、Total からポートフォリオ LNG の売買(0.5 mtpa×10 年)に関する覚書を締
結。同社はシンガポールの LNG ターミナルで BG に続く第 2 のフランチャイズとしてシンガポ
ール政府に申請予定(決定は 2014 年末)。最終的にもう一つのサプライヤーと合計年間 2 百万
トンの契約を結ぶ計画で、仮にフランチャイズの選考から漏れても、トレーダーとして LNG 取引
をする考えである。
(ア) Pavilion Energy の 100%親会社 Temasek Holdings について

沿革・設立目的等
1965 年の国家創立以来シンガポール政府(財務省)が所有していた投資及び資産の管理を目
的として 1974 年に設立された納税義務のある民間投資会社。設立当初の資産額は 3 億 5400
万シンガポールドルで、当時の主要な所有資産は鳥獣園、ホテル、靴メーカー、洗剤メーカー、
船舶修理会社、シンガポール航空、鉄鋼会社。現在 2 つある同国のソヴェリンウェルスファンド
の一つ。
株主および財務省による取締役の選任、除名、交代ならびに取締役会による CEO の選任・除
名は大統領の同意を条件とする。
社債の格付は Standard & Poors が AAA、Moody’s が Aaa。格付の対象となっている社債は、グ
ローバル MTN およびユーロ・コマーシャル・ペーパー・プログラム、Temasek 債。

取締役および役員
以下の取締役を含む。リム・ブン・ヘン(Lim Boon Heng、会長、閣僚およびシンガポール与党
の People’s Action Party の会長等を歴任)、ホー・チン(Ho Ching、CEO、リー・シェンロン首相
の妻)、マルクス・ヴァレンベリ(Marcus Wallenberg 、Director、スウェーデン有数の投資会社複
数の会長)、ロバート・ゼーリック(Robert Zoellick、元世銀総裁)

投資事業の地域別および産業別割合
地域:シンガポールを除くアジア 41%、シンガポール 30%、北米欧州豪州ニュージーランド
1
The Business Times, 13 September 2013 および Pavilion Energy 社ウェブサイト
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Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
25%、中南米アフリカ中央アジア中東 4%
産業:金融 31%、IT・メディア 31%、運送・一般産業 20%、生命科学、消費製品、不動産 12%、
エネルギー・資源 12%、その他 7%

投資事業会社(SWF)との関係
同社は、投資事業会社の経営には基本的に直接立ち入らないとしている。
(イ) Temasek による天然ガス関連投資
Sabine Pass LNG ターミナルのオペレーターである Cheniere Energ Inc.の株主となっている。
(ウ) Ophir Energy のタンザニア鉱区権益買収
11 月 14 日、Pavilion Energy は Ophir Energy とタンザニア鉱区 Block 1, Block 3, Block 4 の 3 鉱区そ
れぞれの同社権益 40%のうち 20%を FID 後にファームインする契約を締結した。売却金額は 125
億ドル。Ophier 社は 2013 年 8 月の投資家説明会で同 3 鉱区の平均(mean)可採資源量を 15 Tcf と
している。Ophir は 2012 年よりファームアウト相手を探すプロセスに入っていた。
上記 3 鉱区のオペレーターBG/Ophir(JV)は近隣鉱区 Block 2 のパートナーStatoil(オペレーター)
および ExxonMobil と組み、タンザニア南部に 10 mtpa(2 トレイン)の LNG 液化設備建設予定で、
Pavilion によると、LNG 出荷開始は 2020 年となっている。
2. LNG トレーディング
(ア) LNG トレーディングの歴史と現状
LNGトレーディングはTotalおよびBG等によって約十数年前に欧州を拠点として始められたとされて
いる。欧州の市場自由化および世界のLNG供給量の増加、域内のインフラ整備によって、オープン
な取引機会が広がり、これらの会社は積極的にトレーディングを行うようになった。その理由は、1.
自社が権益を持つLNGプロジェクトにおいて、買主との長期契約交渉時に需給関係の調整のため
にトレーディングを利用 2.自社のポートフォリオLNGが最も市場機会を利用できるよう(高値で売
れる)にトレーディングを利用したことにある。Totalは2011年時点で、LNGトレーディング部門はロン
ドン(拠点)、ヒューストン、シンガポールにオフィスを構え、欧州の取引量が 60%で最も多かったが、
2020 年には世界のLNGトレーディングの中心は、中国、韓国、インドでの取引増加によりアジアだろ
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
うと予測している。2
現在約 20 社が LNG 事業目的でシンガポールにオフィスを構える。コンサルタントによると、日本の
あるユティリティーは、「LNG 取引活発化による競争の効果は、望ましくは価格低下だが、逆に特定
のカーゴに競争が集中すると価格上昇につながりかねない。」とする。一方、シンガポールのあるト
レーダーは「競争によりアービトラージが働くようになるし、新たに LNG 取引を始めようとしている企
業のスタッフは経験豊富であり、また、多くの会社は LNG 船や LNG の引き取り権を保有している。」
と語る。
トレーダーは次々とLNGトレーディングもしくはその準備を開始している。Koch Supply and Trading
(Koch Industriesの子会社)およびTrafiguraは昨年、コモデティーのトレーディング最大手の
Glencore Xtrataは、今年 9 月にそれぞれLNGトレーディング用デスクを設置しており、Glencore
Xtrataは、2014 年にアジア向けにLNGカーゴ 2 隻を供給する予定である。比較的大きな市場間の価
格レベル差があることおよび取引の単位がカーゴであること、それによってカーゴが世界各地を移
動できることで、パイプラインガスに比べ裁定取引がしやすい 3。Glencore Xtrataの石油トレーディン
グオペレーション部門のヘッドは、数年前LNG市場と言えば一定の地点を結ぶものだったが、現在
は転換期にあるとする。4
一方、金融機関は規制強化によりコモディティー・トレーディングの規模を縮小しており、Glencore
Xtrataは、LNGトレーディングを手掛けていたモルガン・スタンレーからトレーダーを引き抜きロンド
ンとシンガポールに配置するなど、LNGトレーディング事業を強化している。5
ただし、シンガポールでのLNG取引はすぐに拡大しないかもしれず、同地がアジアのLNGハブとな
るにはさらなる流動性が必要と見るトレーダーもいないわけではない。GIIGNL(国際LNG輸入者連
盟理事会)も、アジア各国でLNG需要が増加する一方、主要な新規LNG供給源になると見られる、
米国、東アフリカ、カナダ等からの出荷開始はまだ数年先であり、現在はスポット取引が発生する余
2
Total “Liquefied Natural Gas – A Booming Industry” 2011 年 11 月ほか
このヘッドは、LNG トレーディングは石油のそれに似ており、カーゴで移動し、また裁定取引も可能なことか
ら、現物トレーディングは伝統的にトレーダー向きである。一方、パイプライン天然ガスのトレーディングは、裁
定取引が成立しにくく、むしろ先物などのデリヴァティブを多く手掛ける金融機関に向いているとも語る。
4 “Glencore Xstrata Opens LNG Trading Desk”, Wall Street Journal, 9 Sep 2013 および”Spot Market for
Liquefied Natural Gas Takes Shape”, Wall Street Journal, 31 Oct 2013
5 “Glencore muscles in on energy majors' LNG turf”, Reuters, 6 Jun 2013
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
地は少ないとする。一方、LNGをビジネス目的にシンガポールにオフィスを置く、企業の全てが今
すぐにもしくは近未来にトレーディングを行っているわけではなく、一部は調査および将来の事業を
睨んだスタッフの教育のために少人数を派遣しているようである。6
(イ) スポット市場の発展
LNG はこれまでそして現在も長・中期契約に依る取引が中心だが、近年スポットおよび短期契約は
近年増加している。(注1)(注2)
(注 1)国際ガス協会(International Gas Union, IGU)によると、2012 年のスポットおよび短期契約は 7
千 3 百 5 千万トンで、LNG 取引全体の 31%だった。
(注 2)一般的にスポット取引は、契約期間が 1 年未満もしくは期間契約なしの取引のことを、短期契
約は 1 年以上 4 年未満のそれを、中期契約は 4 年以上 10 年未満、長期契約は 10 年以上のものを
指す。
(ウ) シンガポールおよび周辺でトレーディングを含む LNG 事業を行う(予定の)企業の動向
前述のとおり、LNG 事業目的でシンガポールにオフィスを構えるもしくはその予定企業数は少なくと
も 20 あると見られる。(Total, Morgan Stanley, Gunvor, GAIL, Gazprom, BP, Shell, 三菱商事,
Petronas, GDF Suez, SK Energy, Mercurial, BG, 伊藤忠, ConocoPhillips, Petrobras, PetroChina,
Pavilion Energy, Citi, Glencore Xstrata, Inpex)。そのうちいくつかの会社を紹介する。

Pavilion Energy
2014 年 2 月にアジア向けスポット LNG および欧州のメジャー向け(2018 年にシンガポールお
よびその他のアジア地域向けに出荷開始)10 年間分の LNG 契約の取引が成立したことを明ら
かにした。

ガスプロム
Gazprom Marketing & Trading Singapore (GM&TS)-Gazprom の 100%子会社。自由化されつ
つある欧州のガス市場に対応すべく 1999 年に設立された Gazprom Marketing & Trading
“Singapore Challenged as LNG Hub by Trading Delay: Southeast Asia”, Bloomberg, 30 Oct 2013 および在シ
ンガポール価格情報提供会社スタッフ談
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6
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
Limited の支店。ロンドン本社の 24 時間のトレーディング体制を可能とするため、オフィスがロン
ドン、ヒューストン、シンガポールに設置された。GM&TSはLNGのトレーディング・マーケティン
グ・シッピングおよび炭素削減(取引)事業を目的に 2009 年 12 月に設立された。最近締結され
た LNG マーケティング関係の契約に、GAIL および Kogas とのポートフォリオ LNG 販売契約が
ある。

シェル
アジア特に極東の天然ガス需要の増大ポテンシャルに対応し、統合事業ガス(”Shell Integrated
Gas)の拠点が本社所在地のオランダ・ハーグから2013年1月よりシンガポールに移転している。
後述の、2018 年以降の第 2 次 LNG 供給フランチャイザーの候補。

エクソンモービル
後述の、2018 年以降の第 2 次 LNG フランチャイズの候補の一つ。

BP
メジャー各社の中で歴史的にトレーディングに力を入れており、シンガポールのオフィスはロン
ドンおよびヒューストンと並び、同社石油製品トレーディング拠点の一つだったが、アジアの
LNG需要増大ポテンシャルを見込んで、オフィスを拡大中である。2012 年に、中部電力はBPグ
ループのLNGポートフォリオより2012年度から16年間計約800万トンを購入する契約を、また、
同年関西電力も 2017 年度から 15 年間計約 50 万トン購入 7する契約を結んでいるが、これら契
約のBP側の当事者はBPシンガポールである。

Inpex(予定)
Inpexは、原油・コンデンセートの海外の顧客への直接販売やLNGのトレーディングを目的とし
て、シンガポールにオフィスを設立する。シンガポールでのLNGトレーディングの主目的は
Ichtysプロジェクトの稼働開始前に自社LNGを日本国内の買主(電力会社等)へ販売 8するため
だが、中長期的には自社権益分も含めたスポット取引を行う可能性もあるだろう。9
7
天然ガス価格を指標価格としている。
同社の直江津 LNG ターミナル
(地上式 18 万 kl タンク×2 基、
将来 1 基増設可)
は、
今年 8 月第一船 TANGGUH
FOJA が入港し操業を開始した。(8 月 27 日 Inpex プレス発表)
9 Reuters, 11 Dec 2013
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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
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Petronas(拠点はマレーシア)
シンガポールの対岸にあるマレーシア・ジョホール州のPengerang Integrated Petroleum
ComplexにLNGターミナルを 13 億円かけて建設する予定。LNGターミナルはPengerang
Independent Deepwater Petroleum Terminal (PIDPT)10と呼ばれ、建設工事はジョホール州政府
およびオランダのタンク会社Royal Vopak、マレーシアのDialog Groupのコンソーシアムが実施
する。
マレーシア政府が 2010 年に開始した 12 の国家主要経済分野(National Key Economic Areas (NKEAs))に係
る経済経済変革プログラム(Economic Transformation Programme (ETP))の一環。
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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
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(エ) シンガポール LNG ハブ(ならびにターミナル建設・稼働状況)

供給計画
再気化ガスを年間 3 百万トンもしくは 2023 年(のどちらか早い方)まで国内供給するためLNGを
輸入する独占フランチャイズ(アグリゲーター)として 2008 年にBGが起用された。2013 年 11 月
現在BGは年間 270 万トンの契約がある。一方、EMAは自国エネルギーミックスの実現のため
LNG輸入をさらに推し進める計画であり、現在の年間 3 百万トンを超える輸入を扱うフランチャ
イズの選考方法を検討してきた。現在、EMAが提案する選考方法は競争ライセンス規約(CLF)
で、この中でEMAが 5 つの候補を選定したうえで、候補者は 1 年内に国内のガス買主と仮の売
買契約を結ぶ。EMAは契約の数量、将来の需要量に見合うLNGを確保する能力、供給先が多
様化しているか、価格等の供給条件を審査したうえで、最終的に 2 社 11へ輸入ライセンスを与え
たいと考えており、2014 年内に候補者を募集する予定である。12

ターミナル能力増強計画
現在進行している総費用4 億ドル超の貯蔵設備および桟橋の拡張工事等は数か月後に完了し、
再ガス化能力は現在の 350 万トン/年から 600 万トン/年となる。100%国内需要向けである第 1
フェーズの再ガス化能力である年間350 万トンを超える分については、小分けを含むロットの積
み直し(再輸出)およびLNGバンカーリングの需要が想定されている 13。桟橋には 2 番目のバー
スが追加され、将来的にLPGもしくは石化製品分解用LP原料の運搬船の荷卸し用となる可能
性もある(注3)。
現在使用されている桟橋に着桟可能な LNG 船は 12 万㎥から 26.5 万㎥(Qmax)クラスだが、拡
張により 6 万㎥からの LNG 船が、さらなる拡張で 1 万㎥から 4 万㎥の小 LNG 船も着船が可能
となる。
第 4 の貯蔵タンクが完成するとターミナル全体の能力は 9 百万トン/年となる。FID(最終投資決
定)は 2014 年第 2 四半期に予定されている。
国内外を問わず、1 輸入者でも複数の輸入者のコンソーシアムでもかまわない。(Post-3 Mtpa LNG Import
Framework Draft Determination Paper, EMA, 5 Dec 2013)
12 Temasek Racing Exxon to Build Biggest LNG Terminal Stash, Bloomberg, 18 Jul 18 2013
13 Business Times, 8 Nov 2013
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
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(注 3)シンガポールの石化工場ではこれまでナフサが石化原料分解用に使用されてきたが、
これをより安価なLP原料に置き換えようとするもの。なお、経済開発庁によると、西部ジュロン島
ではLPG貯蔵基地の建設が近く開始される。2022 年までにジュロン島と本島を結ぶ第2 連絡橋
の建設調査も進む。これら、石化分解用原料のLP原料へのシフトやLPG貯蔵基地建設は、国
内石化産業の競争力を中東、米国並みに高める振興策「ジュロン島バージョン 2.0 (JI 2.0
Initiative)」の一環である。発電会社トゥアス・パワーの石炭・バイオマス燃料併用の熱供給発電
所や、政府系複合企業セムコープ・インダストリーズの廃棄物利用のプロセス蒸気供給工場の
開設に続くもので、投資額は 1 億~1 億 2000 万ドルとなっている 14。

法制度整備状況
EMA は現在、ターミナル利用規定(Terminal Access Code)を策定中で、これがスポット LNG お
よび再輸出、その他の付随するサービス(LNG バンカーリング等)にどれくらいを割けるかを規
定することになる。

LNG バンカーリング
Singapore LNG Corp.による、シンガポール LNG ターミナルの第2 バースの建設計画には LNG
バンカーリングを前提とした小型 LNG 船専用の桟橋が含まれている。
同社はLNGのship-to-ship(STS)トランスファーを実験しており、EMAは 2014 年後半から 2015
年前半にLNGバンカーリングを開始するとしている。東南アジアには小規模のLNG顧客ポテン
シャルが非常に大きいと見られている。LNGターミナルの次期フランチャイズが決まり次第、小
型LNG船の発注が行われる模様である。15
(注4)(注5)(注6)
(注 4)シンガポール海事港湾庁(MPA)は 11 月 7 日、英ロイド船級協会(LR)と進めてきた、シ
ンガポール港での LNG バンカーリングの技術基準や作業手順に関する研究を完了したと発表
した。
研究内容は、(1)LNG バンカーリングの基準と手順(2)LNG 燃料補給船と LNG 駆動船の技術
(3)安全基準(4)緊急時の対策(5)作業員の資格基準。今後、業界関係者らとの意見交換を行
14
15
Business Times, 27 Sep 2013
Tradewindsnews.com, 10 Apr 2013 および Reuters ,5 Apr 2013
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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
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い、LNG 燃料補給の基準を策定する予定。(コンサルタント情報)
(注 5)IMO(国際海事機関)規制 16により、大気汚染及び地球温暖化の原因となる排出物、特に
硫黄酸化物の排出規制を目的とした船舶燃料への対応としては、マリン・ディーゼル油を初め
とする低硫黄分石油製品の利用が短期的な解決とされている。一方、中期的にはスクラバー排
出防止技術が、そして長期的にはLNGを燃料として用いることが特に定期航路を航行する船舶
に対する環境対策として注目されている。
現在、世界では主に欧州でフェリーへのLNGバンカーリングが行われている 17が、LNGローリ
ーが用いられている。Lloyd’s Registerが行った調査では、本格的なLNGバンカーリング用ター
ミナルはロッテルダム(バンカー燃料取扱高世界第二位 18)およびシンガポールが有力候補とさ
れている。19
(注 6)IMO による船舶燃料規定
MARPOL条約 20Annex VIは、窒素酸化物(SOx)および硫黄酸化物(NOx)の排出を制限してい
る。硫黄酸化物は、一般海域と排出規制海域(Emission Control Area (ECA))に分けて設定され
ている。後者にはバルト海、北海、英仏海峡が指定されている。
EU は SOx 規制を 1999 年に導入し、当初はディーゼル油のみに適用されたが、2005 年には重
油まで拡大された。また内陸水路航行船に対しては別の規制が適用されている。
NOx と Sox の排出に関する規制が開始され、IMO および EU の関心は温室効果ガス排出規制
に移り、2011 年に同規制が新たに採択された。
一般海域においては、船舶燃料の硫黄分を現行の 3.5%から 2020 年以降 0.5%以下に、ECA
では現行の 1%を 2015 年以降 0.1%以下に抑制することが定められている。
排出量規制指定海域(”Emission Control Areas”) には 2015 年から、全世界には 2020 年を期限として適用さ
れる
17 現在、LNG 船を除き約 35 隻が LNG を燃料として航行している。(”LNG AS MARINE FUEL:
CHALLENGES TO BE OVERCOME”, Pablo Semolinos, et.al.)
18 2010 年の時点でシンガポールのバンカー燃料取扱量は 3900 万トンで世界第一。これは、世界全体の 17%で東
京湾の約 11 倍である。(Lloyd’s Register LNG Bunkering Infrastructure Study)
19 Lloyd’s Register LNG Bunkering Infrastructure Study
20 船舶の航行や事故による海洋汚染を防止することを目的として、規制物質の投棄・排出の禁止、通報義務、そ
の手続き等について規定するための国際条約とその議定書(ウィキペディア)。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
なお、日本では 2010 年に国交省が沿岸の一部または全域を ECA とする検討を開始したが、
2012 年 7 月の検討委員会で、既存の対策の継続で環境基準は達成でき、ECA 設定の必然性
は低いとして導入の見送りを決めた。
地中海沿岸、米国沿岸およびセントローレンス川・五大湖沿岸等もECA適用が計画されてい
る。21
(オ) パイプラインガスとの競合の可能性
シンガポールではマレーシアおよびインドネシアからのパイプラインガスが輸入される LNG と競合
する。
EMAは国内のパイプラインガス輸入会社 4 社 22に対し、今年のLNG輸入開始から 2018 年とLNG需
要が3百万トン/年に到達する時点のどちらか早い方までガスの輸入を禁止(モラトリアム)している。
理由はLNGの需要を一定期間広げることによって、供給ソースをより確実に確保するためである。一
方、輸入開始数か月後で輸入量は 3 百万トンに近づいているため、間もなくモラトリアムは解除され
る見込みで、EMAは信頼に足る供給者から競争力のある価格であれば新たな供給ソースからのパ
イプラインによる輸入は可能だとしている。
現在、ナツナのKakap PS契約およびNatuna Sea Block AおよびBlock B鉱区PS契約で生産される天
然ガスは全長 656 kmのWest Natuna Transportation System(パイプライン)を通じてSembcorp Gas23
へ供給されている。パイプラインの最大輸送能力は 1 Bcf/dで、上記3 契約からの供給量のピークは
2016 年前後と予想されているが、1 割強の余力がある見込である 24。
西ナツナおよびマレー半島東海岸沖の探鉱の結果次第ならびに周辺の海底パイプラインの新設も
しくは拡張次第、さらにはインドネシア国内のガス需要と新フィールドの価格次第では、これらの地
域で生産されるガスがシンガポールへ供給される可能性が全くないわけではないだろう。
(カ) スポット取引活発化における課題
JPEC2013 年度レポート第 7 回、国交省第5回「船舶からの大気汚染物質放出規制海域(ECA)に関する技術
検討委員会」資料、DGR 第 1121 号(9/4)
22 Gas Supply および Sembcorp Gas、Senoko Energy、Keppel Gas
23 シンガポールのガス供給会社で、
国内の電力会社等へ販売している。主な株主は Temasek Holdings(49.5%)。
24 Temasek Racing Exxon to Build Biggest LNG Terminal Stash, Bloomberg, Jul 18, 2013 ほか
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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
シンガポール政府は LNG トレーディングの進展を強力に支援し、また、当業者も将来的なビジネス
ポテンシャルとしての LNG トレーディングを積極的に捉えているが、一方、LNG の引き取り手はそ
れほど積極的に動いてはいない。
また、トレーディング拠点の発展に必要な LNG 需要もシンガポールおよびその周辺諸国は、日本
および韓国、中国等と比較して少ない。
自国および周辺諸国の需要の規模をスポット取引拡大のポテンシャルとすることができる点で、日
本、韓国、中国は有利である。特に、中国は一時的に発生する需要のみならず LNG 価格を国内パ
イプラインガス価格と比較して購入することができるので、より自然なスポット取引の条件が整ってい
ると言える。
また、シンガポールがLNGを輸入するのは 2018 年までは国内需要による。当業者がシンガポール
を取引の拠点とする理由は、国内とその近隣諸国の取引よりむしろ、他の当業者との情報交換等を
通じて第三国間同士の取引を成立させることができるからだ。25
(キ) LNG トレーディングにおけるシンガポールの長所・特徴
KPMG Global Energy Institute による報告書「Exploring opportunities in the energy value chain –
Singapore as a gateway to the region」(2013)中にある石油・ガス企業へのアンケート調査によると、
シンガポールにオフィスを設置する理由は、高い順から、税制、戦略的な位置、法制度、インフラ、ト
レーディングに必要なスキル・才能を持った人材、技術的環境、投資優遇条約の存在、トレーディン
グ用オフィスの移動先としての望ましさである。
また、IEA が 2013 年 3 月に発表した報告書「Developing a Natural Gas Trading Hub in Asia」によると、
ガスのトレーディング拠点として必要な条件と考えられる 6 つの項目で最も条件を満たすとされてい
るのがシンガポールである(下記参照)。
中国
日本
韓国
シンガ
ポール
市場を重視した政府のアプローチ
×
×
×
〇
輸送・販売事業の分離
×
×
×
〇
組織・構造的な必要条件
25
The Edge, 7 Oct 2013
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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
卸価格の自由化
△
〇
×
〇
輸送ネットワークの発達と非差別的アクセス
×
×
×
〇
競争的環境となるに十分な市場参加者の数
×
〇
×
△
金融機関の参加
×
△
×
〇
以下に、LNG トレーディングにおけるシンガポールの長所・特徴と考えられるものを示す。
 貿易・トレーディングの知見・経験
LNG ビジネス目的シンガポールにオフィスを構える企業の多くは、同地で既に石油トレーディ
ングを含む貿易・トレーディングの知見・経験がある。
 LNG 取引に向いたロケーション
主要 LNG 産国(中東、豪州、PNG、マレーシア、インドネシア等)と主要消費国(日本、韓国、中
国、インド等)の中間に位置する
 Global Trader Programme (GTP)
Approved Oil Trader プログラムを 2001 年に引き継いだ形で始まった、シンガポールに石油・ガ
ス企業を初めとするトレーディング企業を誘致するためのプログラム。
 金融機関の参加
先物取引においては取引所が取引の履行を担保させるため、証拠金を金融商品取引所又は
金融商品清算機関(クリアリングハウス)に預託する制度が設けられている。また、NYMEX(クリ
アリングハウスは現在ニューヨークからCEMに移転)およびロンドンのICE(Intercontinental
Commodity Exchange)を通じた原油及び石油製品の先物取引で見られるように、当業者(石油
会社やトレーダー等)は自ら直接、先物取引所で取引をするよりも、リスク管理(ヘッジ)を専門
の一つとする金融機関との間で個別のニーズに合った相対取引によって、ヘッジを行うことが
多い 26。電子取引が活発となっている昨今でも、電話や電子メールのみならず面談を通じて互
いを知り、情報交換することが重要視されているのはこのためである。
シンガポールの石油・ガス会社およびトレーダーはこれまで、Raffles Place、Temasek Avenue、
26
時事通信社「石油価格はどう決まるか」
– 14 –
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Harbour Front Placeなどに集中していたが、Pavilion Energyを初めとしてその親会社のTemasek
HoldingsおよびBG、GDF-Suezは、2012 年に完成したシンガポールの新ビジネス街Marina Bay
にある金融センター(面積 3.55 ヘクタール)27にオフィスを移転している。敷地内に金融機関群
だけでなくレストラン街もあるなど、比較的時間的制約のある昼に情報交換を兼ねた会食をする
ことが多い同国において、このような利便性の高いビジネス街が形成されていることもトレーディ
ングを行う上での強みの一つと考えられる。
なお、シンガポールLNGターミナル建設の最終段階である第 3 フェーズ完成時の取扱量は年
間 9 百万トンで、これを上海やオールジャパンと比較して少ないことが弱点(注 7)と見る向きがある
が、トレーディングだけを見れば実物の取引は必ずしも必要ではない 28。非現物(いわゆるペー
パー)も含め、いかに取引を増やし流動的な市場にするかを優先するならば、同国の条件は他
国のそれを優に凌駕している(注8)。
出所:Google Map
(注7)日本はターミナル毎に見るとアジアの他の LNG ハブ候補地と比較して劣る。一方、日本
全体の LNG 取扱量は国レベルで見れば現在優に世界第一位で、実物ではなくヴァーチャル
の LNG ハブとして機能する上で必要な流動性の確保の一条件は整っていると言える。
27
28
“ASIA’S BEST BUSINESS ADDRESS™”, Marina Bay Financial Centre
“RPT-LNG traders flock to Singapore to tap China, India demand”, Reuters, 28 Feb 2011,
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(注8)実物の取扱量が比較的少ないところに大量の資金が流入することは、価格の乱高下に繋
がる。したがって、シンガポール LNG ターミナルを起点とした輸送費等の差による裁定取引を
通じて近隣諸国の LNG ターミナルでのトレーディングも対象とすることにより、市場流動性の確
保とともに価格乱高下の可能性の緩和や地域におけるハブ価格の形成を助けるだろう。
 マレーシアとのガス・トレーディングの協働の可能性
マレーシアのPengerang Integrated Petroleum Complexに建設予定のLNGターミナルはシンガ
ポールLNGと競合するが、後者はジュロン島の面積的制約から最大の取扱量は年間9 百万トン
であることから、長期的に見てマレーシア側のLNGターミナルと相互補充関係を形成して一つ
のターミナル事業として発展する可能性もあるだろう。29
29
欧州の一大原油・石油製品の貯蔵およびトレーディングハブであるアムステルダム・ロッテルダム・アンソワ
ープ(ARA)が好例。Pengerang ターミナル建設プロジェクトのオペレーターDialog Group の会長 Ngau Boon
Keat によると、Pengerang とシンガポールのジュロン島の石油精製・石油化学の規模は今後 20 年で ARA のそ
れを凌駕する可能性を持つ、と語っている。(The Star Online, 12 April 2012)
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