...

九州大学感性融合デザインセンター コンテンツ創成科学部門 九州大学

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

九州大学感性融合デザインセンター コンテンツ創成科学部門 九州大学
九州大学感性融合デザインセンター コンテンツ創成科学部門
九州大学大学院芸術工学研究院教授
竹田 仰
1.VRをはじめた頃
2.HMD の製作
バーチャルリアリティ(VR)に興味を持ったのは 1988 年
93 年頃から 3D で CG を眺めることができる HMD(Head
頃であった.89年DCモータを利用して,把持する場合の
Mounted Display)が必要となった.しかし,HMD は当時非
力のフィードバック装置を作り始めたが思ったようには動
常に高価なため,自作することを考えたが 2 つの問題が
作しなかった.興味は,腕全体の大きな制御をしたいとい
あった.一つは,頭の動きを計測する 3 次元空間センサ
うことだった.90 年に,空気式ゴム人工筋(LAB)のロボッ
を格安で製作できるかということ.もう一つは,立体映像を
ト紹介記事をみて,軽い割に大きな力を取り出せるので,
どのように映像信号として出力させるかといことであった.
このアクチュエータを利用しようと考えた.それで,最初に
頭部の計測には,磁気コンパス(2 万円程度)と傾斜角セ
試作したのが図1に示す LAB アームだった.これで,
ンサを組み合わせて使うことで疑似 3 次元空間センサを
LAB の使い方や空気の制御方法が分かった.しかし,
試作した.立体映像は,dore 上で仮想カメラ 2 台と設定し,
CG が効率よく制作できる高速処理のワークステーション
1 フレーム内に,左右両方の映像を作り,これを AD 変換
(WS)がなかった.幸いに,クボタコンピュータの支援に
して取り出し,DA 変換して映像信号に戻す.このときに
より「TITAN」の寄贈を受け,dore というソフトを使うことに
AD と DA のサンプリング速度を変えて(DA するときにサ
なった.図2に示すのは,TITAN を使った力覚ディスプレ
ンプリング速度を 1/2 にする).このようにして 1 つの映像
イ1号機である.資金もないので塩ビのパイプに LAB を
から 2 つの視差のある映像信号を取り出すことに成功し,
取り付けて,図3の仮想世界のダンベルを持ち上げたとき
実用新案も受理された.図5に手作りの HMD を示す.
に力の感覚を感じるというものだが,腕を挿入しただけで
重く,何もしないで筋トレができた.このようなアイディア
は,当時は非常に珍しかったので,図4に示すように共和
技報に掲載された.竹田研究室初期のトンでもない代物
だった.
図5 手作りHMD
3.実用的な力覚ディスプレイ
図1 ゴム人工筋アーム
図2 力覚ディスプレイ1号機
その後,94 年頃に試作に試作を重ね図6に示すような
軽量で3つの関節自由度がある力覚ディスプレイを開発
した.図では,HMD を被ってボールのドリブルを楽しん
でいる.図7には,ボールのドリブルの様子を示し,図8に
は,力覚ディスプレイの構造を示している[1].また,この
ディスプレイを応用して図9に示すように腕相撲の研究も
図3 ダンベル
始めた[2].HMD には,図 10 のような人物が見える.つま
り,機械側が人間と対峙するとき,力の出し方を学び人間
らしく対戦するというものである.これらの実験や製作から
仮想世界でリハビリのトレーニングを行うという発想を得て,
論文とした[3],[4].
図4 共和技報に掲載
方向に垂直成分の多いコンテンツ(例えば,図14 のような
高層ビルなど)を,揺れの周波数2秒程度で振らせると転
倒する被験者が出てきた.この実験の論文は今でも引用
され,うれしく思っている[5].
図6 実用的な力覚ディスプレイ
図7 ボールのドリブル
図11 重心動揺テスト
図8 力覚ディスプレイの構造図
図12 航空宇宙研での実験の様子
図9 腕相撲機
図10 仮想人物と腕相撲
4.映像酔いの研究
図 11 に示すように,被験者に HMD を被らせ重心動揺
計の上に立たせ,揺れのある映像を見せると重心に影響
がでる.映像と揺れの関係について詳しく調べようと思っ
たが,HMD の視野角が狭い上に映像の質がよくないの
で思ったほどの結果が出なかった.95 年頃ちょうどタイミ
ングよく航空宇宙技術研究所の半径5mのハーフドームタ
イプの映像装置を見る機会があり,この装置で図 12 に示
すような実験を開始した.その結果,図13 に示すように映
像の揺れの方向により,動揺の軌跡も変わり,特にロール
図13 揺れの軌跡
傾斜型スクリーンを考案してリア方式で3D 映像を映すシ
ステムを設計した.図 16 に外観を図で示す.
03 年には,新潟県長岡市にバーチャル花火館の設置
を提案し,実現する.図 17 に外観を示す.特長は,5m の
スクリーンを折り曲げて 2 面とし,正面と天井に3D 映像が
映るようにした.このため,花火が打ち上がり,空で開く様
子が観賞できる点である.
図14 水平・垂直成分を強調した揺れの映像
この後から,移動できる大型3D スクリーンの開発を考え
るようになる.というのは,学校や展示会場での展示は,
5.CAVE の設計製作と研究
時間内や期限付きの場合が多く,常設の必要がない場合
航空宇宙研のハーフドームが,これほどまでに人の身体
が多々あるからで,短時間に組み立てられ簡単に撤去・
動揺に影響を与えるとは思わなかったので,このような大
移動できる方式を考案する必要があった.そこで,スクリ
型映像装置を大学に設置できないか検討を始めた.そこ
ーンを中央で折り曲げて没入感を深めた図18のV 字型も
に,CAVE システムの開発を,セガが新しくオープンした
のや,さらに進化させて図19 の U 字型に滑らかに曲げた
お台場で製作中の情報を得た.不思議な因縁で,これの
ものなどを次々に開発した[7].図 20 には,県外の高校で
開発担当が私の卒研生だった.見学して,大型にしなくて
VR により空間認知力を調べて教育効果をアップするため
も囲まれればよいと気が付いた.CAVE とは 2.5m 四方の
の研究風景である[8].
スクリーンの中に入り込み,3D 映像をリアから投影してそ
の仮想環境にいるように仕向ける装置である.折しも長崎
県の計らいで 98 年に 4 面 CAVE を独自に開発して設置
し,続けて 03 年に隣室に 5 面 CAVE を設置した.図 15
に CAVE を示す.この CAVE を利用して,映像酔いの研
究をかなり本格的に行った.生理計測の大須賀美恵子さ
ん(現在,大阪工業大学),また乗り物酔いにも繋がるの
で鉄道総合技術研究所から中川千鶴さんらと 4 年に渡り
研究をした[6].この結果,酔いの発症を本人の意識前に
図16 長崎市のバーチャル水族館
図17 長岡市のバーチャル花火館
検知する信号を見つけ,「動揺病発症検知システム」(特
願 2000-393973)として特許出願した.
図18 V 字型スクリーン
図19 水素エネルギー展示の U 字スクリーン
図15 5 面CAVE
6.アミューズメント施設の展示室設計
2001 年に長崎水族館が,ペンギンに焦点をあててリニ
ューアル化したことにより,バーチャル展示を行うことにな
った.そこで,当時は非常に珍しかった横7m 高さ 3.5m の
図20 理科教育の授業風景
7.最近の研究
音,地図,貴重な記録フィルム)を融合しオーサリングシス
これまで,力覚ディスプレイの設計・製作から始まって,
テム上に構築するか,またどのような方法で統合されたフ
HMD の製作,それらを合わせたVR システムの研究,さら
ァイルを展示するかなどの問題点がある.図 24 に各種の
に大型映像装置の製作と映像酔いの研究を行ってきた.
資料を統合し,3D や2D で展示するための流れを示す.
しかし,3D 映像で例えば水飛沫が飛んで来るときに顔に
また,図 25 に,軍艦島のマンモスアパートの 65 号棟の3
当たっても衝撃がない.それで,水飛沫は人の顔面に当
DCG を示す.現在,居住地区の大半が完成している.
てられないが図 21 のように空気玉なら代替えとして可能
性がある.しかし,空気玉をどのようにして作り,どのような
効果があるのか分かってない部分も多い.そこで,基礎
実験のつもりで図 22 に示すような AC サーボモータを使
って精密な空気砲の発射機(重量 40Kg)を作ることにした.
空気が出ていくピストンの直径や送り出すピストン幅など
を変えると図 23 に示すように空気玉の様子が変わってく
る.このようにして最適渦輪のパラメータを見つけ,顔に
当たったときの空気玉の物理量と感性の関係を求める必
図24 アーカイブス統合
要がある.現在,研究中である[9].次に,デジタルアーカ
イブスの研究である.例として,長崎の軍艦島をここ 3 年
間調査,研究を行っているが,どのようにして多くの資料
(古い写真,建物や道路などの各種図面,音楽や時代の
図21 空気砲写真
図25 軍艦島65 号棟
参考文献
[1] T.TAKEDA, Y.TSUTSUI:On the Computer Simulation of Ball Dribble in the
Virtual Environment,International Conference on Human-Computer Interaction
HCI International'95,1995.07.
[2] 竹田仰,蒲原新一:仮想人物との腕相撲対戦システムの構築,電子情報通
信学会論文誌A, Vol.J79-A No.2,pp.489-497,1997.02.
[3]竹田仰:人工現実感による上肢訓練および筋力計測システムの開発,バイ
オメカニズム学会,バイオメカニズム 12,pp.265-279,1994.08.
図22 空気砲背面構造
[4]T.TAKEDA, Y.TSUTSUI:Development of a Virtual Training Environment,The
Amechanrican Society of Meical Engineers(ASME),Winter Annual Meeting,
Advances in Robotics,Mechatronics and Haptic Interfaces,1993.12.
[5]竹田仰,金子照之:広視野映像が重心動揺に及ぼす影響,テレビジョン学会
誌,Vol.50,No.12,pp.1935-1940,1996.12.
[6] 中川千鶴,大須賀美恵子,竹田仰:映像と動きに誘発された「酔い」における
生理反応の基礎的検討- 大型4 面立体映像提示装置と 6 軸モーションを用い
て -,日本バーチャルリアリティ学会,Vol.6,No1,pp.27-35,2001.04.
[7] 岩崎勤,北島律之,竹田仰:移動可能な大型立体映像装置の実用設計と
評価,映像情報メディア学会誌,Vol.60,No.12,pp.2026-2031,2006.01.
[8] 瀬戸崎典夫,森田裕介,竹田仰:ニーズ調査に基づいた多視点型VR教
材の開発と授業実践,日本バーチャルリアリティ学会論文誌,Vol.11,No.4,
pp.537-544,2006.01.
[9] 高森文子,橋口哲志,竹田仰:空気砲を用いた触覚ディスプレイの制御と
その有用性に関する研究,日本バーチャルリアリティ学会第 14 回大
会,2009.09.
図23 径やピストン幅を変えた測定例
Fly UP