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複雑流体現象の解明とそのモデリンググループ
複雑流体現象の解明とそのモデリンググループ ボルツマンシステムによる混合希薄気体の安定性解析と 縮約化モデルとしての流体力学 工学研究科機械理工学専攻 高田 滋 Abstract: Fluid dynamic model for a binary mixture of monatomic gases in the Knudsen compressor is derived from the scaled Boltzmann system. Then the gas separation effect of the Knudsen compressor is investigated numerically by the use of this model. The numerical results show the prospective performance of this device for the gas separation. In the meantime, the results are sensitive to the choice of the molecular model and suggest a fundamental defect of the celebrated Maxwell molecules for the research of the present topic. Key words: Gas separation, Knudsen compressor, Boltzmann equation, Thermal transpiration 1. はじめに 近年,マイクロマシン工学に代表される微小システムを対象とした工学的研究が盛んである.こ うした事情を背景に,流体力学においてもマイクロスケールの微細管内の流れの解明と工学的応 用の研究が注目されている.一般に,流管径の微細化が進むと,管内での分子間衝突が十分に起 こらなくなり,流体は(局所)熱平衡状態であるという通常の流体力学の前提が満たされなくな る.大まかに言って,流体が液体の場合には,熱平衡の破れはナノスケール程度の微細化により 漸く生じるが,気体の場合,これはマイクロスケール程度の微細化ですでに顕在化する.系の微 細化が進んでも,それがマイクロスケール程度のものであれば,内部にはなお十分な量の分子が 存在し,分子動力学に代表されるように個々の分子の運動を追跡しなくても,分子集団の相空間 内での運動を論じることによって,気体の運動を精確に記述することができる.この立場に立っ て気体の運動を論じるのが,ボルツマン方程式を基礎とする分子気体力学である. 本報告書では,マイクロデバイスや真空ポンプとしての応用が期待されている,分子流効果を 利用した Knudsen compressor [1] を,気体濃縮に応用するアイディアについて報告する.気体が作 用流体の場合,分子流効果の研究にはボルツマン系による解析は必須であるが,ここではボルツ マン系の縮約化モデルとして compressor 内の流動解析を容易に実行できる流体力学モデルを構築 した.[2] 2. Knudsen compressor とは 図 1 に示すような,細管と太管とで構成された流路を単位ユニットとし,これを多数個連結し て構成した周期構造を持つ装置を Knudsen compressor [1] という.その特徴は, 1. 各ユニット内に細管部と太管部とがある, 2. それぞれの部位では流路方向に沿って壁面に非一様な温度分布が与えられている, 図 1: Knudsen compressor の概念図 3. そのため,装置全体としては幾何学的形状だけではなく壁面温度分布も周期的である, という点にある.各ユニットの壁面に与える温度分布は,典型的には図中のものである. このような装置を通常の大きさで作成し,常圧気体中に置いても別段特別なことは起こらない. しかしこれを 1/10000 気圧程度まで減圧した低圧気体内におくと,図 1 で示した温度分布では,図 中の左から右方向へ気体を輸送することができる.これは低圧環境下では気体分子の自由行程が 流路の管径と同程度になり,熱遷移流 [3] と呼ばれる分子流効果が起こるためである.熱遷移流は (単純な)流路壁に与えられた温度勾配の方向に誘起される低圧環境下の流れで,図 1 の場合,細 管部で右方向へ,太管部で左方向へ誘起される.Knudsen compressor は,管の太さの違いを巧みに 利用し,両者が完全に相殺されることなく細管部での熱遷移流が優越して装置全体としてみると 一方向へ気体輸送を行えるように工夫された装置である.このように,Knudsen compressor の動 作の要は気体分子の自由行程が流路の管径と同程度になることにあり,流路径をマイクロスケー ルまで小型化すれば常圧環境下で作動する装置を作成することが原理上できる. Knudsen compressor は,気体輸送が可能であることに注目して,真空ポンプやマイクロアクチュ エータへの応用を念頭に近年盛んに研究されている.しかしここでは,これまで注目されてこな かったこの装置の別の可能性,気体濃縮器としての可能性を指摘し,この側面に注目して研究を 行った. 3. 解析の概略 前節で述べた事情から,Knudsen compressor 内の動作特性を解明するにはボルツマンシステム による解析が必要である.ここでの主目的は気体濃縮の可能性を検討することであるから,2 成分 混合気体を対象に, 1. 気体の振舞いはボルツマン方程式で記述できる, 2. 気体分子は壁面上で反射されるが,反射された分子の速度分布は,壁面の温度と同じ温度に対 する静止 Maxwell 分布に従う(拡散反射条件), と仮定して解析を行う.この仮定に従い,ボルツマン系を直接数値シミュレーションすることも 可能であるが,このアプローチはプログラムコードが煩雑になったり,大規模シミュレーション を要するため,必ずしも効率的ではない.特に基本ユニットを多数個連結した装置の動作特性を 調べたい場合,これらの難点はとりわけ顕著になる. マイクロスケールの流路径を考える際でも,各ユ ニット内の単純形状の流路の長手方向はずっと長い ことが普通である.たとえば,単位ユニットが mm オーダーの長さを持つ場合では,各部のアスペクト 比は 1/1000 程度にもなる.したがって壁面に与え た不均一な温度分布は,流路径のスケールではなく, むしろこの長手方向の緩やかなスケールで変化する. しかもこのスケールはもはや通常の流体力学で扱え るスケールであって,長手方向に気体の状態が実質 的に変化するまでの間に,気体分子は無数の分子間 衝突あるいは壁面との衝突を経ることができる. 図 2: 単純形状の 2 次元流路 このように Knudsen compressor 内部では,流路の 断面方向と流路に沿う方向とでは変化の尺度が大幅 に違う.そこでまず図 2 のような単純形状の流路内にある混合気体の振舞いを考える.流路幅 D と壁面温度の変化の尺度 L との比 ε = D/L が十分小さいと仮定して,ε を微小パラメータとする ボルツマンシステムの漸近解析を行う.以下では簡単のため 2 次元流路を仮定している.この解 析により,単純形状の流路内にある混合気体の振舞いを記述する流体力学モデルを導くことがで きる.実際の Knudsen compressor は単純形状の流路を組み合わせた図 1 のような複雑なものであ る.各部が ε ≪ 1 を満たすことを前提にすると,各単純流路の接合部で一定の連続性の条件を要 請して compressor 全体を支配する流体力学モデルを構築することができる.このようにして構成 した流体力学モデルは,実際上,ε . 0.1 では,ボルツマン系を直接数値計算して得られる結果を ほぼ再現していることを数値的に確認している. 混合気体は 2 種類の気体種 A,B から成るとし,時間を t,流路に沿った方向の空間座標を X1 , 壁面の温度を Tw (X1 ),混合気体の圧力を p,気体種 A の成分濃度を χA と表すと,上記の方針に より得られた流体力学モデルは次のように書ける: 方程式 ∂J ∂χA ) ∂p p ( ∂ ln p ∂ ln Tw + Tw = 0, J = D(2kTw /mA )1/2 MP + MT + Mχ , ∂t ∂X1 Tw ∂X1 ∂X1 ∂X1 ∂J A ∂ ln Tw ∂χA ) ∂pχA p ( A ∂ ln p + Tw = 0, J A = D(2kTw /mA )1/2 + MTA + MχA MP , ∂t ∂X1 Tw ∂X1 ∂X1 ∂X1 接合部上における連続性の条件 A χA + = χ− , p + = p− , D+ J+ = N D− J− , A A D+ J+ = N D− J− . ここで k はボルツマン定数,mA は気体種 A の分子質量である.また,D は流路幅であり,太管部 と細管部とでは異なる値をとる.係数 MP ,MT ,Mχ は混合気体の,MPA ,MTA ,MχA は気体種 A の 無次元流量で,それぞれ単純形状の管内において (1) 圧力勾配によって誘起される流れ(Poiseuille 流),(2) 温度勾配によって誘起される流れ(熱遷移流),(3) 成分濃度の勾配によって誘起され る流れ,による流量を表している.連続性条件における + および − の添え字は,それぞれ接合部 の太管側,細管側からとった極限値を表し,N は細管の本数である(図 1 では N = 4,図 3 では N = 3;細管はすべて同じ流路幅を仮定している). 上の流体力学モデルは気体の圧力,温度,成分濃度分布について ε の 1 次の精度をもち,この精 度の範囲内でこれらの量は流路断面内で一定である(X2 によらない).このモデルは,一見すると 純粋に流体力学的であるが,MP ,MT . . .といった係数は,成分濃度 χA ,無次元温度 Tw /T∗ およ び代表長を D にとった局所 Knudsen 数 Kn とで決まる物理量であり,分子流効果はまさにこの部 分に集約されている.これらの係数の関数形を具体的に求めるには,上記 3 つの基本的問題 (1) – (3) を線形化ボルツマン方程式によって解析する必要がある.本研究では,線形化ボルツマン方程 式に対する McCormack のモデル方程式 [4] を用いて数値解析を行い,0 ≤ Kn < ∞,0 ≤ χA ≤ 1 および実用上十分広い範囲の温度領域をカバーし,これらの量の任意の組に対して上記係数をた ちどころに与えるデータベースを構築して,流体力学モデルを完成させた. 4. 結果 両端を閉鎖した Knudsen compressor の 2 次元流路モデル(図 3 参照)に対するシミュレーショ ンの結果を紹介する.図 3 は細管 3 本(N = 3)と太管 1 本で構成された基本ユニットを 4 つ連結 図 3: 数値シミュレーションを行った Knudsen Compressor の概念図 させた全長 4L の装置の概念図であるが,図 4 に示すシミュレーションの結果は,N = 5 で基本 ユニットを 50 連結させた場合のものである.太管の流路幅は細管の 25 倍に,両者の流路長は等 しく(rI = 0.5)とってある.シミュレーションでは,はじめ壁面を一定温度 T∗ に保った装置内 に 2 種の気体を同量封入し(χA = 0.5),その後壁面温度を図 3 に示す分布に保って定常状態に達 した後の装置内の圧力ならびに成分濃度分布を調べた.初期状態における Knudsen 数は1である. なお,シミュレーションでは,閉鎖した両端で J = J A = 0 の境界条件を課して流体力学モデルを 解いている. シミュレーションは種々の分子模型[Lennard-Jones (LJ),逆べきポテンシャル(IPL),剛体球(HS), Maxwell 分子(M)]を用いて,He–Ar,He–Ne,Ne– Ar の 3 種の混合系に対して行った.それぞれの結果 が図 4(a),(b),(c) に示してある.実線は成分濃度 の,破線は圧力の分布を示している.圧力分布はどの 分子模型でもほぼ同じ結果が得られているが,成分 濃度分布は用いた分子模型によってずいぶん異なっ ている.装置に気体濃縮の効果がなければ,成分濃 度は一定値 0.5 を示すことになる.したがって 0.5 からのずれの程度が気体濃縮の効果を表している. Maxwell 分子(M)では気体濃縮の効果がほとんど 見られない一方,剛体球分子(HS) ではその効果が 非常に顕著に現れている.分子モデルを逆べきポテ ンシャル(IPL)や Lennard-Jones(LJ)模型へ精緻 化することで,剛体球分子の予測が誇張はあるが現 象の本質を捉えており,Knudsen compressor による 気体濃縮が十分可能であることが確認された.分子 模型の影響がこれほど顕著に現れる現象は珍しく, 分子模型の適正な選択が物理現象の有無の判断にま で影響を与えかねない,興味深い,示唆に富んだ結 果が得られた. 参考文献 [1] Y. Sone, Kinetic Theory and Fluid Dynamics (2002) Sec. 3.11.6, Birkhäuser. [2] S. Takata, H. Sugimoto and S. Kosuge, Gas separation by means of the Knudsen compressor, Eur. J. Mech. B/Fluids(投稿中). [3] 曾根良夫,青木一生,分子気体力学(1994) 図 4: 数値シミュレーションの結果.p,χα 4.3.C 節,朝倉書店. は各基本ユニット内の平均圧力,気体種 α の [4] F. J. McCormack, Construction of linearized ki平均成分濃度を表す(α = He, Ne).p∗ は netic models for gaseous mixtures and molecular 初期状態における混合気体の圧力,L は基本 gases, Phys. Fluids, 16 (1973), 2095. ユニットの長さである. Bordeaux–Toulouse 武者修行報告書 2006 3 月 工学研究科 航空宇宙工学専攻 1. 吉田 広顕 はじめに 私は,2006 年 3 月 5 日から 12 日まで Bordeaux 第 1 大学,続いて 12 日から 17 日まで Toulouse の Paul Sabatier 大学へ滞在し,研究内容の交流,および共同研究を行ってまいりました.Bordeaux 第 1 大学では,応用数学科の Pierre Charrier 教授のもとを訪問し,報告者の最近の研究結果,お よび先方で行っている研究内容について議論を交わしました.Paul Sabatier 大学では,応用数学 科の Pierre Degond,Luc Mieussens 両教授のもとを訪問し,同じく報告者の研究結果の紹介,お よび共同研究を行ってまいりました. 2. Bordeaux 第一大学訪問 Bordeaux 市には,Tram と呼ばれる路面電車 が整備されており,大学は市の中心街から Tram で 20 分ほどのところに位置しています.滞在 時には,フランス政府が新しい雇用制度を定め たことに対してストライキ・デモが盛んに行わ れており,Tram やバスが動かないことが多々 ありました.学生の間や,社会一般としてスト ライキやデモは日本に比べ盛んであることを感 じました. 訪問先の教授は,応用数学科の Pierre Charrier 教授です.そこには,本学航空宇宙工学専 攻を修了した田口智清博士がポストドクターと して勤務しています.滞在中は,両氏を含むグ 図 1: Bordeaux 第一大学 応用数学科 ループの研究者に対して,報告者の最近の研究 結果であります「蒸気・非凝縮性気体からなる混合気体の円筒 Couette 流」および「曲線状チャ ネルからなる温度場を利用した真空ポンプ」について報告し互いに議論致しました.また,先方 の最近の研究成果である「均質化法による多孔質体内の流れのモデリング」についても議論を交 わしました. 3. Toulouse Paul Sabatier 大学訪問 Toulouse 市は,Bordeaux 市から電車で2時間ほどのところ に位置しています. 「フェルマーの最終定理」で有名な Fermat の出身地でもあります.街のいたるところに教会があり,ま たピンク色のレンガからなる建造物が多く建てられています. この街でも,学生のデモが盛んに行われており,市庁舎前の 広場では学生と警官が衝突する様子を目撃することが出来ま した. 訪 問 先 の 教 授 は ,応 用 数 学 科 の Pierre Degond,Luc Mieussens 両教授です.滞在中はおもに,共同研究として進 めている「曲線状チャネルからなる温度場を利用した真空ポ 図 2: 市庁舎前に飾られている Ferンプ」についての議論・研究を進めました.報告者の最近の mat の絵 研究結果である「蒸気・非凝縮性気体からなる混合気体の円 筒 Couette 流」についての報告・議論も行ってまいりました. 4. 蒸気・非凝縮性気体からなる混合気体の円筒 Couette 流 ここでは,Bordeaux・第 1 大学,および Toulouse・Paul Sabatier 大学にて議論致しました,最 近の研究結果を報告致します. 4.1 問題と基礎方程式 凝縮相から成る同軸 2 重円筒の間に充填された,凝縮相の蒸気と,それ とは別の気体の 2 成分混合気体を考える.以下蒸気を気体 A,別の気体を気体 B と呼ぶ.気体 A は円筒との境界面上で蒸発 (昇華) または凝縮するが,気体 B は蒸発も凝縮も起こさない.内・外 円筒の半径はそれぞれ LI , LII であり,それぞれ温度 TI , TII に保たれている.また,円筒の軸を 中心として表面速度 VI , VII でそれぞれ回転している.混合気体の定常的振る舞いを,円筒軸周り に対称で円筒軸方向に一様である場合に限定し,Boltzmann 方程式によって特に Knudsen 数 (後 述) が消滅する極限 (連続体極限) に注目して解析する.本報告の理論は,より一般的な境界条件 モデルにも適用可能であるが,ここでは最も簡単なモデル,すなわち気体 A には完全凝縮型境界 条件,気体 B には拡散反射型境界条件を仮定する.これらの境界条件の詳細は後述する. 両円筒の共通軸を z 軸とする円筒座標系 (r, θ, z) を導入する.ξ を気体の分子速度ベクトル (ξr , ξθ , ξz はそれぞれ r, θ, z 成分),F α (r, ξ) を気体 α (α = A, B) の速度分布関数とする.n, ρ, v, p, T をそれぞれ混合気体の数密度,質量密度,流速,圧力,温度とし,nα , v α , pα , T α をそれぞ れ気体 α の数密度,流速,圧力,温度とする.以下,記号 α および β は混合気体の成分を示すも のとする (α, β = A, B). 解析の便利のために,以下の無次元変数を導入する: r̂ = r , LI n̂α = n̂ = ζ = (ζr , ζθ , ζz ) = nα , nI n , nI ξ , Vth v̂ α = (v̂rα , v̂θα , 0) = ρ̂ = ρ , ρI fα = vα , Vth v̂ = (v̂r , v̂θ , 0) = 3 Vth F α, nI p̂α = v , Vth pα , pI p̂ = m̂α = T̂ α = p , pI mα , mA Tα , TI T̂ = (1) T , TI ここで,Vth = (2kB TI /mA )1/2 は気体 A が温度 TI にあるときの気体分子の最頻速さである (kB は Boltzmann 定数,mα は気体 α の分子質量);ρI = mA nI および pI = kB nI TI はそれぞれ気体 A が温度 TI の凝縮相と飽和平衡状態にあるときの質量密度と圧力である. 上記の無次元変数により,本問題の基礎方程式である Boltzmann 方程式は以下のように書ける: Df α = √ D = ζr ∫ Jˆβα (f, g) = ∑ 2 K βα Jˆβα (f β , f α ), πKn β=A,B 2 ζθ ∂ ∂ ζr ζθ ∂ + − , ∂ r̂ r̂ ∂ζr r̂ ∂ζθ [f (ζ∗0 )g(ζ 0 ) − f (ζ∗ )g(ζ)]B̂ βα (|e · V̂ |/V̂ , V̂ )dΩ(e)dζ∗ , ζ0 = ζ + µ̂βα (e · V̂ )e, m̂α V̂ = ζ∗ − ζ, V̂ = |V̂ |, µ̂βα (e · V̂ )e, m̂β 2m̂α m̂β = α , m̂ + m̂β ζ∗0 = ζ∗ − µ̂βα (2) (3) (4) (5) (6) ここで,ζ∗ は ζ に対応する積分変数,また dζ∗ = dζ∗r dζ∗θ dζ∗z であり,dΩ(e) は単位ベクトル e の方向の立体角素である.積分範囲は全 ζ∗ 空間および全 e の方向である.式 (2) の右辺の Kn は Knudsen 数で,Kn = `0 /LI と定義される (`0 は気体 A が温度 TI ,数密度 nI の静止平衡状態にあ るときの平均自由行程).B̂ βα および K βα は,それぞれ気体分子の分子間ポテンシャルに依存す る関数および定数である. 気体 A に対する完全凝縮型境界条件は以下のとおり, ( ) { 1 n̂w ζr2 + (ζθ − V̂w )2 + ζz2 A f = exp − , at r̂ = , for ζr ≷ 0. (7) 3/2 (π T̂w ) T̂w LII /LI ここで, { n̂w = { 1 nII /nI , T̂w = { 1 , TII /TI V̂w = VI /Vth VII /Vth , (8) であり,上下段は複号と同順である.気体 B に対する拡散反射条件は, ( )∫ ( B )2 2 + (ζ − V̂ )2 + ζ 2 2 m̂ ζ w θ z fB = ∓ exp − r ζ∗r f B dζ∗ , π T̂w T̂w /m̂B ζ∗r s70 { 1 at r̂ = , for ζr ≷ 0. LII /LI (9) 問題を完結するためには,以下の量を定める必要がある: nB 2 av = nI (LII /LI )2 − 1 ∫ LII /LI r̂n̂B dr̂, (10) 1 ここで,nB av は気体領域にわたる気体 B の平均数密度で,上式は気体領域内に含まれる気体 B の 総量を定めることに相当する.上記の境界値問題 (2),(7),(9) は気体分子の分子間ポテンシャル のモデルと以下の無次元パラメータを指定することにより定まる: nII /nI , TII /TI , VI /Vth , VII /Vth , nB av /nI , LII /LI , mB /mA , dB /dA . (11) 4.2 漸近解析と流体力学的方程式 ここでは,Knudsen 数 Kn が小さな場合を考え,前節の境 界値問題 (2),(7),(9) に対して漸近解析を行う.解析は Sone (e.g., Ref. [1]) によって確立され た方法に従う.本解析は特に Ref. [2] と同様に行うことができる.以下,便利のために Kn のかわ りに微小パラメータ ² を用いる: √ ² = ( π/2)Kn ¿ 1. (12) α /∂ r̂ = O(f α ) を満たすような滑らかに変化する大 はじめに,境界条件 (7) をさておいて,∂fH H α を ² のべき級数の形で求める: 域解 fH α α α fH = f(0) + f(1) ² + ··· . (13) α の積分量として得られる巨視的物理量 h (文字 h は n̂, v̂, T̂ , etc. を示す) も これに対応して fH H べき級数の形に展開される: hαH = hα(0) + hα(1) ² + · · · , (14) hH = h(0) + h(1) ² + · · · , (15) α (m = 0, 1, . . .) に対する べき級数展開 (13) を方程式 (2) に代入し,² のべき毎に整理すると,f(m) 一連の積分方程式が得られる.これらは,m = 0 から順に解いてゆくことができるが,そのため α (m > 0) に対する方程式が解を持つために必要な可解条件が満たされなければならない. には f(m) この可解条件が巨視的物理量 h(m) に対する微分方程式を与える.これが流体力学的方程式である. 以下に,初項 n̂α (0) , v̂θ(0) , T(0) (解析の途中で v̂r(0) =0 とわかる) を求めるための方程式を示す: 2 1 dp̂(0) ρ̂(0) v̂θ(0) − = 0, 2 dr̂ r̂ ) d ( r̂ρ̂(0) v̂r(1) = 0, dr̂ (16) 1/2 ( ) ) d 2 T̂(0) dv̂θ(0) v̂θ(0) d ( r̂v̂θ(0) = , r̂ρ̂(0) v̂r(1) − r̂ µ̂ dr̂ dr̂ 2 dr̂ r̂ [ ( ) ) ( dv̂θ(0) v̂θ(0) d d 5 1/2 2 r̂ρ̂(0) v̂r(1) v̂θ(0) + T̂(0) = r̂µ̂T̂(0) v̂θ(0) − dr̂ 2 dr̂ dr̂ r̂ + ここで, 1/2 r̂ρ̂(0) v̂r(1) = − r̂ T̂(0) χB (0) 1/2 dT̂(0) r̂λ̂T̂(0) dr̂ ( A A B B ρ̂(0) = m̂A n̂A (0) + m̂ n̂(0) , χα(0) = χA (0) dχ(0) d ln T̂(0) D̂T + D̂AB dr̂ dr̂ − 2(m̂ − m̂ )D̂AB B − kT r̂ρ̂(0) v̂r(1) T̂(0) (17) ] , (18) ) χA (0) v̂ 2 , 1/2 θ(0) (19) p̂(0) = n̂(0) T̂(0) , (20a) T̂(0) n̂α(0) B , n̂(0) = n̂A (20b) (0) + n̂(0) . n̂(0) B 式 (17)-(19) 中の µ̂, λ̂, kT , D̂T , および D̂AB は,T̂(0) および χA (0) (または χ(0) ) の関数で,その関 数形は分子間力の関数 B̂ βα の形に依存する.式 (16)–(19) は,式 (20a) と (20b) を用いて他の変 B 数を消去すれば n̂A (0) , n̂(0) , v̂r(1) , v̂θ(0) , T̂(0) に対する閉じた形をなす. α が境界上で満たすべき条件から,巨視量に対する境界条件が次 速度分布関数の展開の初項 f(0) のように求まる: VI , T̂(0) = 1, at r̂ = 1, (21) n̂A v̂θ(0) = (0) = 1, Vth nII VII TII , v̂θ(0) = , T̂(0) = , at r̂ = LII /LI . (22) n̂A (0) = nI Vth TI 4.3 連続体極限と幽霊効果 ここでは,連続体極限,すなわち Kn (つまり ²) が消滅する場合を 考察する. この極限では,巨視的物理量はそれぞれ初項に収束する.すなわち (n̂A , n̂B , T̂ , v̂θ , v̂r ) B → (n̂A (0) , n̂(0) , T̂(0) , v̂θ(0) , 0). つまり,この極限では動径方向の流速 v̂r が消滅して,蒸発および凝 縮は止まる.したがって,この極限では通常の (つまり凝縮相ではなく普通の固体壁でできた) 同 軸 2 重円筒間の流れ (通常の円筒 Couette 流と呼ぶ) と等しくなると予測できそうである.しかし B これは間違いである.なぜなら,初項 n̂A (0) , n̂(0) , T̂(0) , v̂θ(0) は,動径方向流速の 1 次の項 v̂r(1) と 同時に決まるからである.これは,蒸発・凝縮がないのにもかかわらず,連続体極限の流れ場が無 限小の動径方向流速 v̂r(1) の影響を受けることを意味する.[v̂r = v̂r(1) ² + · · · → 0, であるが v̂r(1) は O(1) であることに注意]. この効果は, Ref. [3] によって指摘された幽霊効果 の一例である. 参考文献 [1] Y. Sone, Kinetic Theory and Fluid Dynamics (Birkhäuser, Boston, 2002). [2] S. Takata and K. Aoki, Phys. Fluids 11, 2743 (1999). [3] Y. Sone, K. Aoki, S. Takata, H. Sugimoto, and A. V. Bobylev, Phys. Fluids 8, 628 (1996); Erratum: ibid 8, 841 (1996). 熱尖端ポンプの混合気体濃縮効果 工学研究科航空宇宙工学専攻 杉元 宏 Abstract: The gas separation effect of the pump without a moving part driven by the thermal edge flow is investigated numerically by the DSMC method for the Boltzmann equation for a binary mixture. It is shown that the pump is promising as a gas separator. The qualitative feature of the numerical result on the separation effect is sensitive to the molecular model for a wide range of the Knudsen number. The simulation is carried out for realistic molecular model (Lennard-Jones 12-6 model) as well as classical models (hard-sphere and Maxwell models). A fairly large gas separation effect is observed for hard-sphere and Lennard-Jones models, whereas only a little separation effect is observed for Maxweillian molecular model. Key words: thermal edge flow, gas separation, vacuum pump, kinetic theory, Knudsen compressor 1. はじめに 希薄気体, すなわち, 低圧あるいはミクロな系の気体においては , 外力が無い場合でも, 温度場に よって種々の定常な流れが誘起される. 例えば , パイプ中の希薄気体は , パイプに沿って温度勾配が あれば , 高温側に流れる (熱遷移流).1 また, 気体中に鋭い尖端部を持つ高温 (低温) 物体を置けば , 尖 端から気体の平均自由行程程度離れるまでの範囲内において , 熱尖端流と呼ばれる別種の流れが誘 起される.2, 3 これら温度場によって誘起される流れを駆動力とするポンプが熱駆動型ポンプであり, 運動する部品が不要な点, 微細システムも可能な点等が注目され , 近年研究が進められている.4, 5 それらの研究では , 熱駆動型ポンプの純粋気体に対する挙動が調べられている. このポンプの混 合気体に対する動作を考えると , この種のポンプには , ポンプ以外の応用があることに気づく. 熱駆 動型ポンプの内部の気体は希薄気体であり, 気体の流速は成分によって異なる. 従って , 熱駆動型ポ ンプによって , 混合気体の成分を濃縮できる可能性がある. 本稿では , この気体濃縮効果の有無を数 値解析によって調べる. 2. 熱尖端ポンプ 本稿では , 文献 6 で考案された熱尖端ポンプについて解析を行なう. 熱尖端ポンプは , 駆動力を持 つポンプユニットを直列に多数接続した構成となっている. そのユニットの一例を Fig. 1 に示す. ユニットは , 流路内部に , 高温の平板列と低温の平板列を近接して並べたペアを置いたものである. このポンプの動作原理は次の通りである. 2種の平板列の近接部分では , 気体中に図の矢印方向の 温度勾配が生じ , 気体中の温度勾配によって矢印方向の熱尖端流が誘起される. 一方, 各平板の別の 尖端部 (すなわち, 平板列ペアの両端) 付近では , 同じ温度の平板が縦方向に列を成し , 異なる温度 の物体が近くに無いため, 気体の温度はほぼ一様になる. また, 各平板の中央部では , 平板の温度が 一様であるため, ここでも気体の温度はほぼ一様である. 従って, これらの場所では僅かな流れしか 誘起されない. 結局, ポンプ全体では図中の矢印方向の流れが誘起される. 本稿では , 上記のポンプユニットを軸方向に 10 個直列に接続して両端を壁面で塞ぎ , 内部に A, B の二成分から成る混合希薄気体を封入したシステムを考える. 各壁面の温度は , 流路壁面・低温 平板で Tc , 高温平板で Th とする. 3. 基礎方程式と境界条件 ポンプ内部の気体の運動は , 混合気体に対する Boltzmann 方程式 X ∂F α ∂F α + ξj = J βα (F β , F α ), (α = A, B), ∂t ∂Xj β=A,B Z £ ¤ βα J (f, g) = f (ξ )g(ξ ) − f (ξ )g(ξ) B βα (|V · a|, |V |)dΩ(a)dξ , |a|=1,| |<∞ (1) (2) ξ = ξ + mαβ ∗ (V · a)a, mα ξ = ξ − mαβ ∗ (V · a)a, mβ V = ξ − ξ, mαβ ∗ = 2mα mβ , (3) mα + mβ に従うとする. ここに , t は時間, Xi , ξi は空間直交座標と分子速度, F α は α 気体 (α = A, B) の速度分布関数, mα は α 分子の質量, dξ = dξ∗1 dξ∗2 dξ∗3 , dΩ(a) は単位ベクトル方向の立体角素, B βα は分子間力 によって定まる非負関数である. 混合希薄気体の分子間力には注意が 必要であり, モデルによっては特定の物理現象が再現できないことも ある.7 本稿では , 剛体球・Maxwell 分子モデルの他に , 輸送係数など の実験との一致において優れる Lennard-Jones モデル 8についての解 析も行い, 結果のモデル依存性を検証する. 各モデルにおいて , 距離 r だけ離れた α 分子と β 分子に働く分子間力ポテンシャル U βα (r) は次 のように表される. 剛体球分子モデル : ( U βα (r) = ∞ (r < dβα m ) , 0 (r ≥ dβα m ) Maxwell 分子モデル : U βα (r) = U0βα , r4 (4) Fig. 1: 熱尖端ポンプ の一 例. 図の下側に示す矢印の 方向に流れを誘起する. (U0βα = U0αβ :定数), (5) Lennard-Jones 12-6 モデル : Ã ! ! Ã βα 12 βα 6 dm βα dm . U βα (r) = 4κTm − r r βα (6) βα ここに , κ は Boltzmann 定数であり, dm , Tm はそれぞれ分子間力の影響範囲と強さを表す定数で , q αα ββ βα αα T ββ , dβα = (d + d )/2, T = Tm (7) m m m m m が成り立つとする. Boltzmann 方程式の境界条件となる, 壁面上の分子の反射則には , 拡散反射 µ α ¶2 · ¸Z m mα |ξ|2 1 α exp − ξ · nF α (ξ )dξ , (ξ · n > 0), F =− 2π κTw 2κTw ·n<0 (8) を仮定した. ここに , Tw , n は , それぞれ壁面の温度, 壁面の気体方向の単位法線ベクトルである. 気体の巨視的量は速度分布関数 F α のモーメントとして求められる. 例えば , α 気体の数密度 nα , 流速 v α , 混合気体の数密度 n, 流速 v, 温度 T , 圧力 p は次のように求められる: Z Z 1 nα = F α dξ, v = α ξF α dξ, (9) n X X X n= nα , v= mα n α v α / mα nα , (10) α=A,B X Z mα 3 κnT = |ξ − v|2 F α dξ, 2 2 α=A,B α=A,B p = κnT. (11) α=A,B また, α 気体の濃度 χα およびそのシステム全体における平均濃度 χ̄α を ÁZ Z nα α α α , χ̄ = n dX1 dX2 ndX1 dX2 , χ = n 系全体 系全体 と定める. (12) 4. 解析 Table 1: Lennard-Jones モデルのパラ 方程式系 (1), (8) を無次元化し , 問題に含まれるパラメー メータ.8 分子の質量も併せて示す. タを整理する. 本稿では Knudsen 数 Kn(= `¯A /Dh , `¯A : シ 気体種 He Ne Ar ステムの平均数密度 n̄, 温度 Tc の静止平衡状態に対応する dαα [m] 2.576 2.789 3.432 m A 気体の平均自由行程, Dh : Fig. 1 参照), A 気体の平均濃 ×10−10 ×10−10 ×10−10 A B A αα Tm [K] 10.2 35.7 122.4 度 χ̄ , 温度比 Th /Tc , 分子の質量比 m /m および分子間 α m [kg] 6.647 3.351 6.634 力に関するパラメータを用いる. 分子間力のパラメータは , ×10−27 ×10−26 ×10−26 BB AA 剛体球分子の場合には dm /dm , Maxwell 分子の場合には U0BB /U0AA , U0BA /U0AA , U0BB /U0AA , Lennard-Jones モデルの βα AA 場合には , dBB m /dm , Tm /Tc (α, β = A, B) である. Lennard-Jones モデルについては , パラメータと して Table 1 に示す値を用い, Tc = 300[K] のケースの解析を行なう. 解析の手順は , 次の通りである. 時刻 t = 0 に , システム内に温度 Tc , A 気体の濃度 χ̄A の一様な 静止混合気体があるとし , その後のシステム内部の時間発展を (1), (8) の方程式系に対する直接シ ミュレーションモンテカルロ (DSMC) 法9によって数値的に追跡する. 5. 結果 AA Th /Tc = 3, Kn= 0.5, χ̄A = 0.5, mB /mA = 10, 剛体球分子モデル (dBB m /dm = 1) のケースの時 α 間発展の様子を Fig. 2 に示す. Fig. 2(a) は各成分の分子の軸方向流束密度 n1 v1α をシステム全体に わたって平均した量 Z nα v1α dX1 dX2 nα v1α = システム全体 Z , (13) dX1 dX2 システム全体 の時間発展である (以降, この量を単に流束と書く). Fig. 2(b) は , 上式に習ってシステム両端のポン プユニットの内部における混合気体の平均数密度 nL (X1 最小のユニット ), nH (X1 最大のユニット ) を求めたもので , ポンプ効果を表している. 時間発展の初期においては , A, B どちらの気体も, ポンプ の動作によって X1 方向に流れる. システムの両端が壁面で塞がれているため , この流れによってシ ステム内部に X1 方向の密度 (圧力) 勾配が生じてくる. 時間の経過に従って流束は減少するが , 成分 別の流束の大小関係は変わらず , 常に B 気体が大きな値をとる. t/t0 ∼ 800[t0 = Dh /(2κTc /mA )1/2 ] 程度で nA v1A は零となり, その後は , 軽い A 気体が −X1 方向に , 重い B 気体が X1 方向に流れる状 態が続く. t/t0 > 800 ではシステム内の数密度分布はおよそ一定に保たれるから , システムの高圧 側と低圧側の間で気体成分を交換する流れが生じていると考えてよい. この流束差によって , A 気 p gas B nH 1 nL gas A 0 −0.002 p 2 nL/n̄, nH /n̄ (nv1)α/n̄(2κTc/mA)1/2 0.01 p 102 t/t 103 0 (a) 104 p 0 102 t/t 103 0 104 (b) Fig. 2: システム内部の時間発展 I: 剛体球分子モデル . (a) システム内部の平均流束密度 nα v1α ; (b) システム AA 両端のユニット内部の平均数密度 nL , nH . Th /Tc = 3, Kn= 0.5, χ̄A = 0.5, mB /mA = 10, dBB m /dm = 1. p X2/Dh 5 00 25 X1/Dh 50 1 2 (a) T /Tc 3 p p X2/Dh 5 00 25 X1/Dh 50 1 2 (b) p/n̄κTc 3 p p X2/Dh 5 00 25 X1/Dh 50 0.3 0.5 (c) χA 0.7 p Fig. 3: システム内部の定常状態 I: 剛体球分子モデル . (a) 温度場; (b) 圧力場; (c) A 気体の濃度場. Fig. 2 の ケースに対応する結果. ポンプシステムの中心軸 X2 =p 0 に対する対称性より, X2 > 0 のみを示す . p 2 nL/n̄, nH /n̄ (nv1)α/n̄(2κTc/mA)1/2 0.01 gas B nH 1 nL gas A 0 −0.002 p 102 t/t 103 0 104 p (a) 0 102 t/t 103 0 104 (b) Fig. 4: システム内部の時間発展 II: Lennard-Jones 分子モデル . (a) nα v1α ; (b) nL , nH . Th /Tc = 3, Kn= 0.5, χ̄A = 0.5. A 気体: He, B 気体: Ar, Tc = 300[K]. p X2/Dh 5 p 00 25 X1/Dh 50 0.3 0.5 χA 0.7 Fig. 5: システム内部の定常状態 II: Lennard-Jones 分子モデル . A 気体の濃度場. Fig. 4 のケースに対応する. 体の濃度勾配が減少し , 同時に , 気体成分の交換量も減少して定常状態に近づく. Fig. 2 のケースの 定常状態における温度, 圧力, A 気体の濃度の分布を Fig. 3 に示す. システム両端にあるユニットの 間で , 約 26%の濃度差が得られる. Fig. 2, 3 に相当するケースを Lennard-Jones モデルを用いて解析を行なった. ここでは , A 気体と して He, B 気体として Ar を用いた (従って mB /mA = 9.98 である). 結果を Fig. 4, 5 に示す. 二成 分の流束の大小関係は剛体球分子を用いた結果と類似しており, 定常状態では , システム両端のユ ニットの間に約 18%の濃度差が得られる. p 2 nL/n̄, nH /n̄ (nv1)α/n̄(2κTc/mA)1/2 0.01 p gas A nH 1 gas B nL 0 −0.002 p 102 t/t 103 0 104 p (a) 0 102 t/t 103 0 104 (b) Fig. 6: システム内部の時間発展 III: Maxwell 分子モデル . (a) nα v1α ; (b) nL , nH . Th /Tc = 3, Kn= 0.5, χ̄A = 0.5, mB /mA = 10, U AA = U BB = U AB . p X2/Dh 5 p 00 25 X1/Dh 50 0.3 0.5 χA 0.7 Fig. 7: システム内部の定常状態 III: Maxwell 分子モデル . A 気体の濃度場. Fig. 6 のケースに対応. Fig. 2, 3 と同じ問題を Maxwell 分子モデル (U AA = U BB = U AB ) を用いて解析した結果を Fig. 6, 7 に示す. ポンプ効果を表す Fig. 6(b) の結果には , 他の分子モデルの結果と大きな違いは見られな い. しかし , 各気体成分の流束や濃度分布には大きな違いがある. X1 方向の流束は , 初期には A 気 体の方が大きいが , やがて B 気体の方が大きくなる. 定常状態ではシステム内部で気体の濃度がほ ぼ均一になり, 気体濃縮効果は僅かである. ここまでの解析では , 10 個の熱尖端ポンプユニットを接続したシステムで解析を行なった . 多く のポンプユニットを連結すれば両端の濃度差は増大する. 多数のユニットを持つシステムの定常状 態を推定するため, まず , 定常状態にある二つのシステムを連結することを考える. 連結後も定常状 態を保つためには , 一方のシステムの低圧側ユニットと , もう一方のシステムの高圧側ユニットで , 圧力 (あるいは局所 Knudsen 数)・濃度・流束・温度が一致しなければならない. システムが定常で あれば流束は零であり, 温度はシステム中で周期的なので一致する. 問題は , 局所 Knudsen 数と濃 度である. そこで , Th /Tc , mB /mA および分子間力のパラメータを固定して種々の (Kn, χ̄A ) につい て解析を行い, それぞれの結果においてユニット i = 1, 2, . . . , 10 毎の平均濃度 χ̄A i および平均数密 度・温度を求めた. その平均数密度・温度に対応する A 気体の静止平衡状態の平均自由行程 `¯A i を 用いて, 局所 Knudsen 数 Kni を定める: `¯A (14) Kni = i . Dh 結果を Fig. 8 に示す. 図中の●印がシステムの (Kn, χ̄A ) を表し , 一連の○印が各ユニットの (Kni , χ̄A i ) を表す. 剛体球分子および Lennard-Jones モデルの場合, 多くのケースで気体濃縮効果が得られ , (Kni , χ̄A i ) は曲線群を構成する. さらに計算を追加すれば , 曲線群の形および隣接する○印同士の間 隔を用いて , 指定した濃度差を実現するために必要なユニット数を見積もることができるようにな る. 一方, Maxwell 分子モデルを用いた結果では , システム内部の濃度変化は 0 ではないが , かなり 小さい. 気体濃縮効果が得られないといってよいだろう. 6. 議論 剛体球分子および Lennard-Jones モデルを用いた解析では , 熱尖端ポンプに気体濃縮効果が見ら れる. 一方, Maxwell 分子モデルについては明確な気体濃縮効果は見られない. p p p 1.00 1.00 1.00 0.75 χ̄Ai 0.50 0.75 χ̄Ai 0.50 0.75 χ̄Ai 0.50 0.25 0.25 0.25 0.00 p 0.1 (a) 0.00 1 Kni 10 p 0.1 (b) 0.00 1 Kni 10 p 0.1 (c) 1 Kni 10 Fig. 8: 定常状態における熱尖端ポンプの気体濃縮効果. Th /Tc = 3. ●: システム全体の Knudsen 数 Kn およ び平均濃度 χ̄A ; ○: システムの各ユニットにおける局所 Knudsen 数 Kni および平均濃度 χ̄A i (1 ≤ i ≤ 10). AA B A (a) 剛体球分子モデル (dBB /d = 1, m /m = 10), (b) Lennard-Jones 分子モデル (A 気体 : He, B 気体: Ar, m m mB /mA = 9.98, Tc = 300[K]), (c) Maxwell 分子モデル (U AA = U BB = U AB , mB /mA = 10). 剛体球分子や Maxwell 分子に比べると , Lennard-Jones モデルは種々の輸送係数を正確に与える 点で高精度なモデルである. このことから判断すれば , 本研究の結果は次のようにまとめられる. (1) 熱尖端ポンプは , 気体濃縮効果を有する. (2) 熱尖端ポンプの気体濃縮効果については , 剛体球分子 モデルは定性的に正しい結果を与える. (3) 一方, Maxwell 分子モデルは , 熱尖端ポンプの気体濃縮 効果を記述することが不可能である. 7. 今後の展開 熱尖端ポンプを , 実際に混合気体の濃縮に利用するには , 次に示す多くの課題がある. (i) 濃縮効 果が実証されていない; (ii) 濃縮効率の点からは , ポンプの動作圧力が高い方が望ましいが , このた めには , ポンプの流路を気体分子の平均自由行程に応じて微細化する必要がある. この場合, 精緻 な流路を用いることは現実的ではない. 流路の詳細な構造に対する依存性が少ないシステムを工夫 し , さらに , その流路の作成方法を確立する必要がある; (iii) 連続的に気体濃縮を行なうには , 熱尖 端ポンプのネットワークを構築する必要があるだろう. しかし , 現在, その設計基準については何も 分かっていない. 現在, これらの課題を解決するための研究を進めている. 参考文献 [1] J. C. Maxwell, On stresses in rarefied gases arising from inequalities of temperature, Philos. Trans. R. Soc. 170 (1879), 231–256. [2] Y. Sone nad K. Yoshimoto, Demonstration of a rarefied gas flow induced near the edge of a uniformly heated plate, Phys. Fluids 9 (1996) 3530–3534. [3] K. Aoki, Y. Sone, and N. Masukawa, A rarefied gas flow induced by a temperature field, Rarefied Gas Dynamics, J. Harvey and G. Lord, eds. (1995) Oxford U. P., Vol. I, 35–41. [4] G. Pham-Van-Diep, P. Keeley, E. P. Muntz, and D. P. Weaver, A micromechanical Knudsen compressor, Rarefied Gas Dynamics, J. Harvey and G. Lord, eds. (1995) Oxford U.P., Vol. I, 715–721. [5] Y. Sone, Y. Waniguchi and K. Aoki One-way flow of a rarefied gas induced in a channel with a periodic temperature distribution, Phys. Fluids 8, (1996) 2227–2235. [6] H. Sugimoto and Y. Sone, Vacuum pump without a moving part driven by thermal edge flow, Rarefied Gas Dynamics, M. Capitelli, ed. (2005) AIP, 168-173. [7] K. E. Grew and T. L. Ibbs, Thermal Diffusion in Gases (1952) Cambridge U. P. [8] R. B. Bird, W. E. Stewart, and E. N. Lightfoot, Transport Phenomena 2nd ed. (2002) Wiley. [9] G. A. Bird, Molecular Gas Dynamics and the Direct Simulation of Gas Flows, (1994) Oxford U. P. プラズマと固体表面・微細構造との相互作用による表面・界面の電荷 蓄積と,その薄膜表面界面への影響 工学研究科 航空宇宙工学専攻 江利口 浩二 Abstract: The spectroscopic ellipsometry system combined with the photoreflectance technique is presented for studies of layered electronic devices, in particular, the investigation of so-called plasma-induced damage to the devices. Using the system, the photoreflectance spectrum is confirmed to be obtained for the typical structure of 1.7nm-thick SiO2 /n-type Si (001) system. Key words: spectroscopic ellipsometry, photoreflectance, plasma-induced damage, SiO2, Si 1. はじめに 航空宇宙工学の1つの主要課題であるナノサテライト開発をはじめ,将来の航空宇宙機器の構成要素であ る機能素子開発における研究課題に,プラズマを応用した超微細加工技術(ナノテクノジー)がある.[1] 多くの 機能(ファンクション)を融合したシステム素子の機能設計においては,将来,その機械的特性向上に加えて, 電気的特性(信頼性)向上が不可欠である.一方,前記のシステム素子設計を鑑みた場合,シリコン半導体素子 からなるシステム LSI(大規模集積回路)技術分野は,日本が先駆的取り組みを進めている領域であり,その電 気的特性設計の研究が精力的に進められている.しかしながら,例えば,プラズマから構成される宇宙空間で の動作を想定した,システム素子(システム LSI,MEMS,推進機器などが融合した素子)の電気的信頼性設計 は,未だ十分に研究されておらず,早急な潜在的課題の抽出,工学的な研究開発が急務である.すなわち, ナノテクノロジーの基幹である低温プラズマプロセスの将来における潜在的課題,すなわち,プラズマプロセス により誘発される機能素子の電気的信頼性劣化機構(プラズマダメージ[2])を物性面・電気特性面の両面から 解明し,形成メカニズム・要因を解明することが必須である. 本研究活動では,プラズマと機能素子に固体プラズマプロセスにおける固体表面の反応機構を理解するた めに,プラズマ加工処理によってシリコン半導体デバイス表面に誘起される欠陥層を,光学的手法及び電気的 手法により解析し,反応機構を解明することを目的とした研究を行う.今回,光学的手法としてエリプソ分光シス テムと変調反射率分光システムを融合したシステムを構築し,シリコン基板及びその上に形成された極薄絶縁 膜表面の状態の検出を試みた. 2. 光学解析システム~エリプソ分光法と変調反射率分光法 シリコン半導体素子の製造工程モニター 技術として,例えば,成膜工程後の膜厚評 価には,エリプソ分光法[3]が広く用いられて いる.今回,既存のエリプソ分光システムの 構成に,新規に光変調機能を追加し,直接 遷移型半導体のバンド構造解析に広く用い られている光変調反射率分光法[4]としての 解析機能の追加を試みた.本システムの概 念図を図1に示す.本システムの特長は,従 来のエリプソ分光システムの機能を維持しつ つ,新たな機能を追加することで,極薄絶縁 膜厚だけでなく,固体表面・界面の電界強度 ハイブリッドリフレクトメトリシステム Ar+ Laser エリプソシステム(従来) チョッパー Analyzer Shutter Polarizer Monochromater 光弾性 素子 PM 制御ユニット 図1 新光変調反射率分光システム サンプル Xe Lamp (表面ポテンシャル)を同じシステムで解析できる点である.将来,本機能によって,プラズマとの相互作用により 発生する,電荷蓄積及びイオンなどの粒子衝突による表面・界面の欠陥形成機構を解明することを目指すもの である. 3. エリプソ分光機能による極薄絶縁膜表面・界面の解析 まず,エリプソ分光機能に基づいた,p 型シリコン(001)基板上に形成された HfO2 膜,SiO2 膜を含めた系での 膜 厚 , 屈 折 率 計 測 機 能 を 構 築 し た . HfO2 膜 は , 現 在 の シ リ コ ン 半 導 体 素 子 を 構 成 す る MOS(Metal-Oxide-Semiconductor)型トランジスタの絶縁膜である SiO2 膜に代わる誘電率の高い絶縁膜(High-k 膜)の1つとして注目されている重要な材料[1]である.今回,BCl3/Cl2/O2 からなる混合ガス系のプラズマにより 処理された HfO2/Si (001)構造を有するサンプルのプラズマによる変化を,エリプソ分光法により解析した.詳細 は省略するが,以下の事項が判明した. (a) 高誘電率絶縁膜(HfO2 膜)とシリコン基板からなる系を,Single Oscillator モデルを用いて解析する過程で, HfO2 膜とシリコン基板の界面には,第 3 の層として,シリコン酸化膜層(SiO2 膜)が存在することがわかった.こ れは,HfO2 膜の成膜時に,HfO2 膜中の O 原子と Si 基板との反応により形成されたものと考えられる.この結果 は,同じ成膜方法で作製された別サンプルの TEM 解析結果と一致している.したがって,本システムのエリプ ソ分光機能は,HfO2 膜とシリコン基板の界面状態を高感度・高精度に解析できるものであることが確認できた. (b) (a)に準じた,4 層モデル(Ambient/HfO2/SiO2/Si Substrate)により算出される膜厚のプラズマ処理による変 化は,これまでの段差計測による変化とおおむね一致し,エリプソ分光による計測結果の妥当性が確認できた. ただし,一部相違点もあり,今後更なる検討が必要である. 4. 変調反射率分光機能による極薄絶縁膜表面・界面の解析 既存のエリプソ分光システムに図 2 で示すように,光変調機能源として Ar イオン(Ar+) レーザ(既所有)を適 用した.変調(光変調)は,機械式チョッパーを使用し,変調の同期は,エリプソ分光側のシステムを活用して実 現した.一般的に用いられている光変調反射率分光法(Photoreflectance Spectroscopy)でのシステム構成は, 光源からのプローブ光をモノクロメータで分光した後にサンプルに照射する構成となっている.[4] Ar+レーザ Chopper 図2 変調用レーザーと変調部(Chopper) しかし,本システムは,図 1 で示すように,エリプソ分光システムを継承した構成となっているので,光源からの プローブ光をそのまま光ファイバーにて照射し,その反射光を分光して,スペクトルを取得するという特殊な形 態となっている.SN 比の点では不利な反面,エリプソ計測が同じシステムで行え,また,光ファイバーを用いて いるのでプローブ光,変調光の入射角に自由度がある.したがって,将来,その場計測の観点から,拡張性は 高いと考える. 図 3 に,今回構築した光変調反射率分光システムの写真を示す.図 2 の Ar イオンレーザからの光を光ファ イバーにて誘導し,既存のエリプソ分光システムの上部より変調光を照射する構成とした.照射光は,サンプル ステージ上部に設けたレンズにより,プローブ光照射部に集光される.Xe ランプからのプローブ光は,サンプ ル表面に照射された後,分光される構成である. 変調光 プローブ光 サンプル 図3 新光変調反射率分光システム 図 4 に本システムで解析した結果の一例を示す.サンプルは,低抵抗(0.02Ωcm)の n 型 Si(001)基板である. 基板表面には自然酸化膜(SiO2 膜)が形成されている.膜厚は,エリプソ分光解析から,1.7nm と求められてい る. 1.50 ΔR/R (103 arb. units) 1.00 0.50 0.00 -0.50 -1.00 -1.50 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 3.7 Photon Energy (eV) 図4 変調反射率分光スペクトルの例 厳密な理論は省略するが,本手法は,光変調によって,材料の誘電率変化が生じ,その結果,反射率が変化 するというメカニズムに基づいた解析手法である.そのスペクトルは,誘電率の光照射による電場変化の応答 (分散)に対応する.一般に,光による変調電場強度が小さい場合の反射率の変化(ΔR/R)は, [ ΔR −n = ℜ C exp(iθ ) (E − E g + iΓ ) R ] (1) で与えられる.[5] ここで,C,θ は,振幅,位相に対応した定数,Eg はエネルギーギャップ,Γは Broadening parameter,n はバンド間遷移の臨界点形状に関連する次元である.図 4 からわかるように,本システムにおい ても,従来から報告されている[6],シリコン結晶の L 点及びΓ点での価電子帯⇒伝導帯への電子の光学遷移 (3.3eV~3.4eV)に起因するスペクトルピークが検出できた.スペクトル強度,ピーク位置は,表面層の半導体内 キャリアの輸送及び結晶構造に依存するものである.このスペクトル強度,ピーク位置から,プラズマ処理など でシリコン基板内に形成される電気的欠陥に関する情報が得られ[6],今後,プラズマ処理を施したサンプルの 詳細な解析を進める予定である. 5. おわりに 今回,エリプソ分光システムに光変調機能を追加し,エリプソ分光解析及び Photoreflectance 分光解析(光変 調反射率分光解析)の両方の解析が可能な,新しいシステムを構築した.本解析システムの機能を,HfO2 膜 (High-k膜)を有するサンプルのエリプソ分光解析結果と,低抵抗シリコン基板のPhotoreflectance分光解析結果 から確認した.今後,本システムを駆使した,プラズマ処理によるダメージを受けたサンプルの表面・界面の詳 細な解析を通して,表面・界面の電荷蓄積に代表されるプラズマダメージの反応機構解明の研究を進める予 定である. 参考文献 [1] SIA(Semiconductor Industry Association), “The International Technology Roadmap for Semiconductors 2004”, by SEMATECH (Semiconductor Manufacturing Technology). [2] K. Eriguchi, K. Takahashi and K. Ono, “Plasma-induced damage and its impacts on the reliability of advanced semiconductor devices”, 6th International Conference on Reactive Plasmas and 23rd Syposium on Plasma Processing, (2006), pp.5-6. [3] 例えば,Z.-T. Jiang, T. Yamaguchi, M. Aoyama and T. Hayashi, “Possibility of simultaneous monitoring of temperature and surface layer thickness of Si substrate by in situ spectroscopic ellipsometry”, Jpn. J. Appl. Phys., 37(2), (1998), pp.479-483. [4] 例 え ば , F. H. Pollak and H. Shen, “Photoreflectance Characterization of Semiconductors and Semiconductor Heterostructures”, J. Electronic Materials, 19(5), (1990), pp.399-406. [5] F. R. Pollak, “Modulation Spectroscopy of Semiconductors and Semiconductor Microstructures”, in Handbook on Semiconductors, edited by T. S. Moss, Elsevier Science (1994), pp.527-635. [6] H. Wada, M. Agata, K. Eriguchi, A. Fujimoto, T. Kanashima, and M. Okuyama, “Photoreflectance characterization of the plasma-induced damage in Si substrate”, J. Appl. Phys. 88(5) , (2000), pp.2336-2341. 塩素系プラズマによるシリコンエッチングにおける イオンの表面散乱の原子スケールモデルと形状進展の数値解析 工学研究科航空宇宙工学専攻 小佐野 祐吾 Abstract: A model has been developed for collision between incident Cl+ ions and substrate Si atoms during plasma etching, to analyze effects of the forward ion reflection from feature surfaces on the etched profile evolution. The trajectory of ions was analyzed on the basis of the momentum and energy conservation for an incident ion through successive binary collisions with substrate Si atoms. The Si atoms were allocated in the two-dimensional square lattices of atomic scale. The resulting trajectories of ions included both reflection from surfaces and penetration into substrates on incidence. The distribution of reflection angles and energies depending on the incident angle exhibited a similar tendency to those given by the corresponding molecular dynamics (MD) simulation. The feature profile evolution was simulated for different line-and-space patterns of poly-Si etched in Cl2 plasmas, to analyze effects of the forward ion reflection. The numerical results clarified that the forward ion reflection causes reduced effect of the geometrical shadowing of ions. Moreover, the ions reflected from sloped sidewalls cause the ion flux to be collected into the corner of the feature bottom, resulting in the formation of microtrenches thereat. Key words: Plasma etching, Cl2 plasma, Ion reflection on surfaces, Feature profile simulation, Microtrench 1. はじめに 近年,プラズマを用いた薄膜加工や薄膜形成は,半導体プロセスやマイクロマシニングに不可欠の微 細加工手段である.現在の半導体デバイスの回路パターンにおいては,最小加工寸法が 65nm 程度に到 達し, 今後さらなる縮小化を目指し開発が行われている. これらのデバイスの加工プロセスにおいては, ナノメートルスケールの加工精度が必要であり,プラズマプロセスにはより一層の技術開発が求められ ている. エッチング形状をナノメートルスケールで制御するためには,エッチング中のプラズマ・表面相互作 用を解明することが不可欠である. エッチング形状進展に関わる多数の物理的・化学的相互作用のうち, 微細パターン内部の表面におけるイオンの反射を理解することが特に重要である.パターン側壁におい て反射したイオンによってトレンチ内部のイオンフラックスが不均一になり,パターン底面の両端にマ イクロトレンチと呼ばれる形状異常が形成される. 微細パターン内部のプラズマ・表面相互作用を解明し,エッチング形状を予測するために,形状進展 の数値シミュレーションが行われてきた.形状シミュレーションによって,パターン底面両端に形成さ れるマイクロトレンチは,パターン側壁からのイオン反射と,マスク表面に蓄積した負電荷によるイオ ンの吸引に起因することが示されている.従来の形状シミュレーションにおいては,表面におけるイオ ンの反射はすべて鏡面反射として扱われている.しかし,基板表面に入射するイオンの反射角とエネル ギーは,入射時のイオン・Si 原子の位置関係により分散することが分子動力学計算によって解析されて いる[1].したがって,より精密な形状進展を得るためには,衝突時のイオンと Si 原子の相互作用をより 精密にモデリングすることが必要である. 本研究では,塩素系プラズマによる poly-Si ゲートエッチングにおけるイオン・Si 原子間の衝突を原 子レベルでモデリングし,パターン側壁での反射および侵入を含むイオンの軌跡をモンテカルロ計算に よって求める.イオンと基板原子との二体衝突が連続して起こるものとして,運動方程式を計算するこ とによって衝突前後のイオンの軌道を求める.poly-Si パターンの形状進展を解析し,イオンの Si 表面に おける反射が形状進展に与える影響を解析する. 2. シミュレーションモデル シリコンのトレンチの形状進展は,我々が以前開発した原子 スケール格子モデル[2]を用いて表現する.シミュレーション領 域の模式図を図1に示す.Cl2プラズマ中に置かれたSi基板上に おいて,無限長の微細トレンチに,Cl+イオン,中性粒子Cl,中 性粒子O,エッチング生成物SiClxOyが入射する.基板の断面の 形状は,格子長 L = 2.7 Å の2次元格子上にセルを配置するこ とによって表す.Si原子を各セルの中央 (x, y, z) = ((nx + 1/2)L, (1/2)L, ((nx + 1/2)L)(nx, nz は整数)に配置し,エッチング反応に よってこれらの原子が取り除かれていくものとする.表面反応 のモデルはイオンアシスト反応エッチング,中性粒子の吸着に よる表面の塩素化および酸化,エッチング生成物SiClxOyの堆積 を含む.生成物の堆積はballistic deposition model [3]を用いて表 し,堆積が起こった場合は対応する格子点に新たにSi原子を配 置する. 基板表面のSi原子に衝突したイオンの散乱は,図2 に示すよ うに二体間に弾性衝突が起こるものとして計算する.衝突は, イオンとあるSi原子に関する衝突パラメータpがCl-Si原子間に 働くStillinger-WeberポテンシャルV(r)[4]のカットオフ半径 rcutoff = 3.5 Å よりも小さい場合(p < rcutoff)に起こるとする.衝突にお けるエネルギー損失と散乱後の軌道は運動量保存とエネルギー 保存に基づいて決定する. 重心座標系における衝突の散乱角は, 系全体のエネルギーをEcとして Ω =π −∫ pdr ∞ −∞ V (r ) p 2 − 2 r 1− Ec r 12 , 図 1 シミュレーション領域 の模式図 (1) 2 となり,イオンのエネルギー損失Tと実験室系での散乱角ωは,SiとClの質量をそれぞれMSiとMClとして T= 4 EC M Si M Cl Ω sin 2 , 2 2 ( M Si + M Cl ) (2) M Si sin Ω , M Cl + M Si cos Ω (3) tan ω = となる. イオンがあるSi原子に衝突した後,そのSi原子に隣接する 別のSi原子に関する衝突パラメータp' がrcutoffよりも小さい 場合,図3(a)に示すように,衝突が連続して起こるものとす る.このモデルにより,イオンと複数の表面原子間の相互 作用を解析することが可能となる.イオンが表面のSi原子 との衝突を繰り返した後,そのイオンが空間に向かって行 ったらそのイオンは反射したものと見なす.一方,固体内 部に向かっていった場合はそのイオンは表面に侵入したも のと見なす.図3(b)に示すように,固体内部では,イオンが 図 2 Cl+イオンと Si 原子の二体衝突 L 進行するごとに最も近接するSi原子 と衝突を繰り返すものとする.図4 に, Siの平滑平面に入射エネルギーEi = 50 eV,表面の法線方向からの入射角θi = 75° で入射するCl+イオンの軌道を示す.イオ ンの軌道は,表面からの反射と表面内部 への侵入の両方が現れる.反射したイオ ンの反射角の変化は,式(1)におけるpが 各イオンによって異なることに起因す る.基板表面に侵入したイオンは,運動 エネルギーが消滅した位置で停止し,そ の位置で基板原子に吸着して多層の SiClx層を形成する. 図 3 (a)基板表面と(b)内部における Cl+イオンとSi原子の連続的な衝突 3. 形状進展シミュレーション 厚さ200nmの多結晶シリコン(poly-Si)膜上にラインアン ドスペースのマスクパターンを配置した形状を対象に,形状 進展をシミュレートする.マスク厚さは50nm,ラインの幅は 100nmとし,異なるスペース幅30, 50, 100, 200, 500 nmを隔て る.poly-Si膜の下層にはシリコン酸化膜(SiO2層)があり, エッチングはされないものとする.Cl+イオンはフラックス Γi0 = 1.0 × 1016 cm−2s−1,入射エネルギーEi = 100 eV,イオン温 度kTi = 0.5 eVで入射し,中性粒子ClはフラックスΓn0 = 1.0 × 1018 cm−2s−1で入射するものとする. 図 4 Si の平滑平面に入射した まず,イオンの反射の効果を調べる.図5(a)と5(b)に,イオ イオンの軌道 ンの反射が無い場合と反射を考慮する場合の5秒ごとの形状 進展をそれぞれ示す.エッチング生成物SiClxの堆積は無いも のとする(生成物の吸着確率をSq = 0とする) . イオン反射が無い場合,シャドーイングの効 果のためパターン底面両端におけるイオン フラックスが減少し,フラックスが不均一と なるために底面が丸みを帯びた形状となる [2].さらに,中性粒子Clもシャドーイングの 影響を受けるため,スペース幅の狭いパター ンでエッチングの進展が遅くなるreactive ion etching (RIE)ラグが現れる.これに対して, イオンの反射を考慮すると,パターン側壁で 反射したイオンがパターン底面の両端付近 に到達するために,丸みが無く異方性の高い 形状が得られる.スペース幅の狭いパターン でも,反射によって底面まで到達するイオン が多く,RIEラグが抑制される. 図 5 イオンの(a)反射が無い場合と 次に,イオンの反射に加え,パターン内で (b)反射を考慮する場合の形状進展 脱離したエッチング生成物の再堆積を考慮 して形状進展の解析を行う.簡単のため,エ ッチング生成物はすべてSiCl4として扱う. 図6(a)と6(b)に,生成物の吸着確率をSq = 0.02, 0.05として解析した形状進展を示す. エッチング生成物が堆積するため,パター ン側壁がテーパ形状となり,吸着確率が高 い場合(Sq = 0.05)にテーパ角が大きい.エ ッチング生成物は主にパターン底面で脱離 するため,側壁下部で生成物の再堆積がよ り頻繁に起こり,テーパ角は底面に向かっ て増加して裾引き形状となる.スペース幅 の狭いパターンではエッチング生成物の壁 面への入射がさらに頻繁に起こるため,再 堆積が顕著になって側壁のテーパ角が大き くなる. テーパ形状のパターン側壁から反射した イオンのためにフラックスが側壁下部に集 図 6 イオンの反射に加え,生成物の吸着確率を 中し,パターン底面の両端にマイクロトレ (a) Sq = 0.02, (b) Sq = 0.05 として解析した形状進展 ンチが形成される.テーパ角が増加するに つれ反射するイオンも増加して,よりフラ ックスが底面両端に集中するために,吸着確率が高い場合(Sq = 0.05)により深いマイクロトレンチが 形成される.同様の理由で,スペース幅W = 200, 500 nmよりもW = 100 nm においてより深いマイクロト レンチが現れる.一方,スペース幅W = 30, 50 nmにおいては,アスペクト比が大きいためにパターン底 面におけるイオンフラックスはそれほど不均一になることがなく,マイクロトレンチはほとんど現れな い. 4. まとめ 塩素系プラズマエッチングにおけるシリコンエッチングにおけるCl+イオンとSi原子の衝突のモデル を開発した.衝突においては,イオンと基板原子が二体衝突を繰り返すと仮定し,運動量とエネルギー 保存則に基づいてイオンの軌道を計算した.Si原子は,原子スケールの二次元格子に配置した.得られ たイオンの軌道は表面からの反射と表面内部への侵入の両方を含み,本モデルがイオンの反射と侵入を 包括的に取り扱えることが示された.このモデルを用いて,異なるスペース幅のpoly-Siパターンの形状 進展を解析し,イオンのSi表面における反射が形状進展に与える影響を解析した.解析により,パター ン側壁において反射したイオンのためにイオンのシャドーイングの効果が減少することが示された.さ らに,傾斜したパターン側壁から反射したイオンによってイオンフラックスがパターン底面の両端に集 中するために,マイクロトレンチが形成されることが示された. 参考文献 [1] B. 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The dependence of the amplitude on the frequency had a peak appeared around 20 Hz. This resonance of the particle motion could be explained in simple equation of motion for the particle. When the oscillation amplitude was as large as the particle mean distance, the crystalline structure was destroyed. The interaction potential between particles in dusty plasmas was discussed with the resonance of particle motion and the destruction of Coulomb crystals taken into account. Key words: Plasma, Dusty plasma, Coulomb crystal, Forced oscillation, Wake 㻃 1. ◂✪ࡡ┘Ⓩ 㟸ᖲ⾦ࣈࣚࢫ࣏୯࡞Ꮛᅹࡌࡾኬࡀࡈᩐ࣏ࢠ࣒࣭ࣞࢹࣜࡡ᚜⢇Ꮔࡢ㸡࢛࡛ࣤ㞹Ꮔࡡ⛛ິᗐࡡ㐢࠷ ࠾ࡼㇿ࡞ᖈ㞹ࡌࡾ㸣ᐁ㥺ᐄ࡚ᐁ⌟ࡈࡿࡾᆵⓏ᚜⢇Ꮔࡡᖈ㞹㔖ࡢ㸡⣪㞹Ⲭ㔖࡚⾪ࡌ࡛ᩐ༐࡞ࡽ㸡ࡆ ࡡ㞹Ⲭ࡞ࡻࡽ᚜⢇Ꮔ㛣࡞ࡢࢠ࣭ࣞࣤ┞பష⏕഼ࡂ㸣ࡆࡡ┞பష⏕࢙ࢾ࣭ࣜ࢟᚜⢇Ꮔࡡ⇍㐘ິ࢙ࢾࣜ ࣭࢟ࢅ୕ᅂࡾ࡛ࡀ㸡᚜⢇Ꮔ㞗ᅆࡢᙁ⤎ྙ≟ឺ࡛ࡽ㔘ᒌࡡᅖమ⤎ᬏ࡞ぜࡼࡿࡾぞ์ḿࡊ࠷㒼า᚜ ⢇Ꮔ࡞ࡻࡽᙟᠺࡈࡿࡾ㸣ࡆࡡ᚜⢇Ꮔ࡞ࡻࡾ㒼าࢅࢠ࣭ࣞࣤ⤎ᬏ࡛ࡩ[1, 2, 3]㸣ࢠ࣭ࣞࣤ⤎ᬏ࡞ࡢ㟻ᚨ❟ ᪁ᵋ㏸㸡మᚨ❟᪁ᵋ㏸㸡༟⣟ඵ᪁ᵋ㏸ぜࡼࡿࡾ㸣༟⣟ඵ᪁ᵋ㏸࡛ࡢ㸡Ềᖲ㟻୕࡚ࡢ㸧ḗඔⓏ⣵ᐠᵋ ㏸࡚࠵ࡾඵ᪁ᵋ㏸㸝みᏄ㸞ᙟᠺࡈࡿ࡙࠽ࡽ㸡㕼├᪁ྡྷ࡞ࡢࡐࡡ⣵ᐠᵋ㏸⢇Ꮔన⨠ࢅን࠻ࡍ✒ࡲ 㔔ࡖ࡙࠷ࡾ≟ឺ࡚࠵ࡾ㸣 ࢠ࣭ࣞࣤ⤎ᬏ࡞࠽࠷࡙㸡ࣈࣚࢫ࣏ᐠᗐࡡንࡡິ࡞ࡻࡽ᚜⢇Ꮔࡡᖈ㞹㔖ንࡌࡾ࡛㸡⮤ທᣲ ິㄇ㉫ࡈࡿࡾ[4, 5]㸣ᣲິㄇ㉫ࡈࡿࡾ࡛㸡ࢨ࣭ࢪ࡞࠽ࡄࡾ㞹⏲࡞ࡻࡽ᚜⢇Ꮔࡡ㐘ິຊ㏷ࡈࡿ㸡᚜⢇ Ꮔ㒼าࡡぞ์ᛮࢂࡿࡾࢠ࣭ࣞࣤ⤎ᬏᵋ㏸ࡡ◒ቪ࡞⮫ࡾࡆ࡛ࡵ࠵ࡾ㸣⮤ທᣲິἸ┘ࡈࡿࡾୌ᪁࡚㸡 ណᅒⓏአ࡞ࡻࡽㄇ㉫ࡈࡿࡾᣲິ㸝ᙁโᣲິ㸞⌟㇗࡞ࡗ࠷࡙ࡵ◂✪ࡈࡿ࡙࠷ࡾ㸣ࡆࡡࡻ࠹࡞ࢠ࣭ࣞࣤ ⤎ᬏ࡞࠽ࡄࡾᣲິ⌟㇗⢥ງⓏ࡞◂✪ࡈࡿ࡙࠷ࡾࡡࡢ㸡᚜⢇Ꮔ㒼า࠽ࡻࡦ᚜⢇Ꮔࡡ㐘ິࡢࣈࣚࢫ࣏୯ࡡ 㞹⏲ࡷⲬ㞹⢇Ꮔ㸝㞹Ꮔཀྵࡦ࢛ࣤ㸞ࡡᐠᗐฦᕱࢅ⾪ࡊ㸡᚜⢇Ꮔࢅよᯊࡌࡾࡆ࡛࡞ࡻࡽࣈࣚࢫ࣏ࡡሒࢅ ᚋࡾࡆ࡛࡚ࡀࡾࡆ࡛ࡵࡐࡡណ⩇࡛ࡊ࡙ᣪࡅࡼࡿࡾ࠾ࡼ࡚࠵ࡾ㸣㻃 ࡆࡿࡱ࡚ࡡ◂✪࡞࠽࠷࡙ࡢ㸡ࣈࣚࢫ࣏୯࡞࣠ࣕࢅ㒼⨠ࡊࡐࡆ㞹ᅸࢅ༰ຊࡌࡾࡆ࡛࡞ࡻࡖ࡙ࣈࣚࢫ ࣏୯ࡡ㞹⏲࡞ິࢅຊ࠻㸡ࢠ࣭ࣞࣤ⤎ᬏࢅᙟᠺࡌࡾ᚜⢇Ꮔ࡞ᙁโᣲິࢅ㉫ࡆࡌᡥἪ⏕࠷ࡼࡿ࡙࠷ࡾ㸣 ࡆࡡᙁโᣲິ࡞㛭ࡊ࡙㸡Ềᖲ᪁ྡྷࡡ᚜⢇Ꮔࡡᣲິ࡞Ἰ┘ࡊࡒሔྙ[6]㸡༟ᒒࡡඵἪᵋ㏸ࢅᙟᠺࡌࡾ᚜⢇Ꮔ ࡡ㕼├᪁ྡྷࡡᣲິ࡞Ἰ┘ࡊࡒሔྙ[7, 8]࡞ࡗ࠷࡙ሒ࿈ࡈࡿ࡙࠷ࡾ㸣ࡊ࠾ࡊࡼ㸡༟⣟❟᪁ᵋ㏸ࡡ㕼 ├᪁ྡྷ࡞ᘇࡦࡾ᚜⢇Ꮔ㙈࡞࠽ࡄࡾᣲິ⌟㇗࡞ࡗ࠷࡙ࡢሒ࿈↋࠷㸣ࡆࡡ㕼├᪁ྡྷ࡞࠽࠷࡙㸡᚜⢇Ꮔ㛣࡞ ࡢᘤງ഼ࡀ㸡ࡐࡡᘤງࡢ࢙ࢠ࣎ࢷࣤࢨࣔࣜ࡞ࡻࡽᙟᠺࡈࡿ࡙࠷ࡾ࡛⩻࠻ࡼࡿ࡙࠷ࡾ[9, 10]㸣༟⣟ ඵ᪁ᵋ㏸࡞࠽ࡄࡾ㕼├᪁ྡྷࡡᣲິ⌟㇗ࡡよᯊ࡞࠽࠷࡙ࡢ㸡ࢠ࣭ࣞࣤ⤎ᬏࡡᣲິ≁ᛮࢅ⌦よ࡚ࡀࡾࡡࡲ ࡼࡍ㸡ㇿᖈ㞹᚜⢇Ꮔ㛣࡞ᘤງష⏕ࡌࡾ࡛࠷࠹≁Ṟ≟ឺ࡞ࡗ࠷࡙ࡐࡡᘤງష⏕ࡌࡾᶭᵋࢅ᪺ࡼ࠾࡞ ࡚ࡀࡾྊ⬗ᛮ࠵ࡾ㸣ᮇ◂✪࡚ࡢ㕼├᪁ྡྷ࡞࠽ࡄࡾ᚜⢇Ꮔࡡᙁโᣲິ⌟㇗ࢅよᯊࡊ㸡᚜⢇Ꮔࡡᣪິ࠾ࡼ ᚜⢇Ꮔ㛣┞பష⏕ࢅࡻࡽࡂ⌦よࡌࡾࡆ࡛ࢅ┘Ⓩ࡛ࡌࡾ㸣㻃 2. ◂✪ࡡᠺᯕ 2.1 ༟⣟ඵ᪁ᵋ㏸࡞࠽ࡄࡾ㕼├᪁ྡྷࡡ᚜⢇Ꮔᣲິࡡふᐳ ᖲᯀᆵrfࣈࣚࢫ࣏⏍ᠺᐖჹ㸝ᅒ1㸞࡞࠽ ࠷࡙㸡᚜⢇Ꮔࣈࣚࢫ࣏ࢅⓆ⏍ࡈࡎࡒ㸣N2 (20 sccm)࡛Ar (2 sccm)ࢅᨲ㞹࢝ࢪ࡛ࡊ࡙⏕࠷㸡⢇ᙼ5 µmࡡ ᅒ 1 ᐁ㥺⨠ᅒཀྵࡦአふ┷ ࢠࣛࣜ᚜⢇Ꮔࢅᐖჹහ࡞ᑙථࡊࡒ㸣㞹ᴗࡡ├୕࡞ ࡢ᚜⢇Ꮔᤍᤂ⏕ࡡ㔘ᒌࣛࣤࢡࢅ㒼⨠ࡊࡒ㸣ᅸງࢅ 200 mTorr࡛ࡊ㸡༰ຊ㞹ງࢅ1.5 W࡞ಕࡔ㸡ࡐࡡࡡ ᚜⢇Ꮔࡡᣪິ࡞Ἰ┘ࡊࡒ㸣᚜⢇Ꮔ࡞࣭ࣝࢧ࣭කࢅ↯ ᑏࡊ࡙ᚋࡼࡿࡾࡐࡡᩋක࡛ࣈࣚࢫ࣏࠾ࡼࡡⓆක ࡢCCD࣒࢜ࣚ࡞ࡻࡽふᐳࡈࡿࡒ㸣᚜⢇Ꮔࣈࣚࢫ ࣏࣬ࢨ࣭ࢪሾ⏲㎾എ㎾㞹ᴗ୕㸝4ࠤ6 mmࡡ㒂ฦ㸞 ࡞ᤍᤂࡈࡿ㸡ࡐࡡሔᡜ࡚༟⣟ඵ᪁ᵋ㏸ࡡࢠ࣭ࣞࣤ⤎ ᬏᙟᠺࡈࡿࡾࡆ࡛☔ヾࡈࡿࡒ㸝ᅒ2㸞 㸣 ࢠ࣭ࣞࣤ⤎ᬏࡡ├୕㸝㞹ᴗ࠾ࡼ15 mmࡡ㧏ࡈࡡన ⨠㸞࡞ࢰࣤࢡࢪࢷࣤ࣠ࣕ㸝├ᙼ100 µm㸞ࢅ㒼⨠ࡊ㸡 ᅒ 2 ༟⣟ඵ᪁ᵋ㏸ࡡࢠ࣭ࣞࣤ⤎ᬏ ࡆࡿ࡞ᢤᢘ㸝7 Ω㸞ࢅࡊ࡙ࣆࣤࢠࢨࣘࣤࢩ࢘ࢾ ࣭ࣝࢰ࠾ࡼࡡḿᘳἴ㞹ᅸࢅ༰ຊࡊࡒ㸣༰ຊࡌࡾ㞹ᅸ ࡡ࿔ἴᩐཀྵࡦᣲᖕࢅንࡈࡎ㸡ࡆࡿ࡞ࡻࡾ᚜⢇Ꮔࡡ ᣪິࡡንࢅふᐳࡊࡒ㸣࣠ࣕ࡞㞹ᅸࢅ༰ຊࡊࡒ࡛ ࡀ㸡ࡐࡡ㞹ᅸࡡ㛣ን࡞ఔ࠷㸡㕼├᪁ྡྷ࡞୩ࡩ᚜ ⢇Ꮔࡐࡡన⨠ࢅንࡈࡎࡒ 㸝ᅒ3㸞 㸣 ᅒ3ࡡ1st㸡 2nd㸡 3rd࡛࠷࠹⾪オࡢ㸡᚜⢇Ꮔࡡన⨠࡞ᑊᚺࡊ㸡㕼├᪁ ྡྷࡡ1␊୕࠾ࡼᩐ࠻ࡒ࡛ࡀࡡ1┘㸡2┘㸡3┘ࡡ ᚜⢇Ꮔࢅ⾪ࡌ㸣ࡐࡿࡑࡿࡡ᚜⢇Ꮔࡡ㐘ິࡢ㸡㞹ᅸࢅ ༰ຊࡊ࠷࡛ࡀࡡన⨠ࢅཋⅤ࡛ࡌࡾ㕼├᪁ྡྷࡡᣲ ິ࡚㸡㕼├᪁ྡྷ࡞ฦᕱࡌࡾ᚜⢇Ꮔࡐࡿࡑࡿࡡ㐘ິࡡ ᅒ 3㻃 㕼├᪁ྡྷ䛱䛐䛗䜑᚜⢇Ꮔ䛴న⨠ን 㛣ን࡞న┞ࡡᕣࡢࡲࡼࡿ࠾ࡖࡒ㸣 ࣠ࣕ࡞㞹ᅸࢅ༰ຊࡌࡾࡆ࡛࡞ࡻࡽ᚜⢇Ꮔࡡᣲິㄇ㉫ࡈࡿࡾᶭᵋ࡛ࡊ࡙㸡࣠ࣕ࠾ࡼࡡ㞹⏲ࡡ├ Ⓩᙫ㡢ࢅུࡄࡾࡆ࡛ࡷ㸡ࡐࡡ㞹⏲࡞ࡻࡽࣈࣚࢫ࣏ࡡ≟ឺ㸝㞹Ꮔᐠᗐࡷ࢛ࣤᐠᗐ㸞ᑻᡜⓏ࡞ንࡊ ࡐࡡሔࡡን࠾ࡼࡡᙫ㡢ࢅུࡄࡾࡆ࡛ᣪࡅࡼࡿࡾ㸣ᐁ㝷ࡡ࣠ࣕ࠾ࡼࡡ㞹⏲ࡡᙫ㡢ࡢ㸡ࡆࡡ୦⩽ࡡ㔔 ࡠྙࢂࡎ࡚⾪ࡈࡿࡾ࡛⩻࠻ࡾࡡጂᙔ࡚࠵ࡾ㸣ᚃ⩽ࡡࣈࣚࢫ࣏㸝㞹Ꮔࡷ࢛ࣤ㸞ᐠᗐࡡን࡞⏜ᮮࡌࡾ ᣲິ࡚ࡢ㸡ᐠᗐንᑚࡈ࠷≟ឺ࡚ࡢ᚜⢇Ꮔࡡᣲິᣲᖕୌᏽ࡞ࡾࡆ࡛♟ࡈࡿ࡙࠷ࡾ[11]㸣 ᅒ4࡞࣠ࣕ࡞༰ຊࡌࡾ㞹ᅸࢅቌຊࡈࡎࡒ࡛ࡀࡡᣲິᣲᖕࡡ࿔ἴᩐ≁ᛮࢅ♟ࡌ㸣༰ຊ㞹ᅸ7 Vཀྵࡦ10 Vࡡ࡛ࡀ࡞ࡢ㸡20 Hz㎾࡚ᣲິᣲᖕ᚜⢇Ꮔ㛣ࡡᖲᆍ㊝㞫ࢅ୕ᅂࡽ㸡᚜⢇Ꮔࡡぞ์Ⓩ㒼าࢅぞ์ "!!! *!! )!! 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Hayashi and K. Takahashi, Advances in Dusty Plasmas (World Scientific, Singapore, 1997) 153. Y. Hayashi and K. Takahashi, Jpn. J. Appl. Phys. 36 (1997) 4976. K. Takahashi, Y. Hayashi and K. Tachibana, Jpn. J. Appl. Phys. 38 (1999) 4561. S. Nunomura, T. Misawa, N. Ohno and S. Takamura, Phys. Rev. Lett. 83 (1999) 1970. O. S. Vaulina, A. A. Samarian, A. P. Nefedov, V. E. Fortov, Phys. Lett. A 289 (2001) 240. D. Samsonov, A. V. Ivlev and G. E. Morfill, Phys. Rev. E 63 (2001) 025401. A. V. Ivlev, R. Sutterlin, V. Steinberg, M. Zuzic and G. E. Morfill, Phys. Rev. Lett. 85 (2000) 4060. S. Park, C. R. Seon and W. Choe, Phys. Plasmas 11 (2004) 5095. K. Takahashi, T. Oishi, K. Shimomai, Y. Hayashi and S. Nishino, Jpn. J. Appl. Phys. 37 (1998), 6609. K. Takahashi, T. Oishi, K. Shimomai, Y. Hayashi and S. Nishino, Phys. Rev. E 58 (1998), 7805. G. Sorasio, D. P. Resende and P. K. Shukla, Phys. Lett. A 293 (2002) 67. S. V. Vladimirov. S. A. Maiorov and N. F. Cramer, Phys. Rev. E 67 (2003) 016407. よく制御された乱流の実験 工学研究科 機械理工学専攻 後藤 晋 Abstract: A new and simple method using a biaxially rotating sphere to generate and sustain turbulent flows is suggested, and an apparatus has been built up based on this suggestion. By the visualisation of flows inside the rotating sphere, it is verified that turbulent flows are easily sustained and the flows possess a high reproducibility because the system is extremely simple. Key words: turbulence, biaxially rotating flow, laboratory experiment, turbulent mixing 1. はじめに 乱れた流れの重要な特徴のひとつは強混合性である.乱流のもつこの特徴はわれわれの日々の 生活のさまざまな場面において本質的な役割を演じている.たとえば燃焼機関では酸素と燃料と をいかにしてよく混合させるかが,その効率を決めるひとつの大きな要因となる.しかし乱れた 流れを発生させれば強い混合が誘起されることは明らかであっても,どのような乱れをどのよう な強さで発生させればもっとも効率がよいのかは必ずしも明らかではない. そこでわれわれは,おもに大規模数値シミュレーション解析により,乱流による拡散,混合現 象の解明をおこなってきた.その結果,乱流が強い拡散や混合を産み出す理由は,発達した乱流 中には秩序だった渦構造が自己相似的な階層構造をなして安定に存在しており,また各階層では 反平行にそろった渦の間で強い拡散や混合が産み出されていること,などが明らかとなってきた [1, 2]. そこで本年度は,これまでに数値シミュレーションを通じて明らかにしてきたこれらの知見が, 数値シミュレーションでは到達できないような高いレイノルズ数の乱流中でも有効であることを 示すことを大きな目的として,室内実験を計画し実行した. ところで,乱れた流れはわれわれの身のまわりにありふれており,それを室内実験で実現する こともまた難しくない.しかし,制御された乱流状態を生成維持することは易しくない.乱流混 合という複雑現象を相手にするためには,その基礎となる乱流状態からは可能な限り不確定要素 を排除したい.そこで,単純で不確定要素の少ない装置を構築し,再現性の極めて高い実験をお こなうことを目標とした.以下では本年度おこなったこの室内実験については簡単に報告する. 2. 実験装置の概要 本研究で考案する乱流生成装置は二軸回転する球体を用いる(図 1(a) を参照).具体的には半径 が a の球体中に流体を充填し,この球体を水平軸まわりに一定の角速度 ΩH で回転させ,さらにそ の回転球体全体を一定の角速度 ΩV で鉛直軸まわりに回転させる.つまりこの球は水平軸および 鉛直軸まわりの二つの回転軸をもつ.ここで後者の軸は慣性系において静止しているのに対して, 前者の軸は慣性系に対して回転してしており,これら二つの軸の役割は異なることに注意する. われわれは,半径 a = 50mm のアクリル球体中に水を充填して実験をおこなった(図 1(b) を参 照).この装置の最大の特徴は,二つの軸の回転速度(および流体の温度)さえ精度よく制御でき れば不確定性が入り込む余地がほとんどなく,非常に強い再現性が期待できることである.この ことはこれまでに用いられてきた他の乱流実験装置と比較しても大きな利点となる.本実験装置 では,二軸の回転はステッピングモータおよび安定した発振器を用いて駆動しており,これらの 回転速度は極めて高精度で制御可能である. さて,この球体内の流れは連続の式, ∇·u=0 (1) (a) (b) ΩH ΩV 図 1: (a) 実験装置の概略.(b) 実際の室内実験装置. および,ナビエ・ストークス方程式, 1 ∂ u + u · ∇ u = − ∇p + ν ∇2 u + 2 u × ΩV ∂t ρ (2) とで記述される.ここで u(x, t) および p(x, t) は位置 x 時刻 t における流速および圧力,また ρ は 流体の質量密度を表す.ただし (1) で流体の非圧縮を仮定した.また (2) は鉛直軸まわりの角速度 ΩV の回転とともに運動する非慣性系において記述されたものであり,右辺第3項がコリオリ力を 表す.またこの座標系での境界条件は壁面上の粘着条件, u = ΩH × r (壁面上,r = a) (3) となる.ただし,r は球の中心を原点とする位置ベクトル,r はその大きさである. ここで時間と長さとをそれぞれ水平軸まわりの回転角速度の逆数 ΩH −1 と球体の半径 a とで規 格化し,支配方程式および境界条件 (1)—(3) を無次元化すると ·u =0 ∇ ΩV ∂ u p + ν ∇ 2u +u ·∇ = −∇ +2 × ê2 u u 2 a ΩH ΩH ∂ t = ê1 × r (壁面上,r = 1) u (4) (5) (6) を得る.ここで のついた量は無次元量を表し,ê1 および ê2 はそれぞれ水平回転軸方向および 鉛直回転軸方向の単位ベクトルである.これらはいま考えている(鉛直軸まわりに回転している) 座標系において時刻には依存しない.結局,無次元化された方程式系 (4)—(6) は,レイノルズ数, Re ≡ a2 ΩH ν および,角速度比, W ≡ ΩV (7) ΩH にのみ依存する.したがって,Re と W とが系を支配するコントロールパラメタとなる. (8) 3. 実験結果とその考察 球体内の流れの様子を観測するために,流体中に微小なトレーサー粒子(ポリエチレン粒子あ るいは銀でコーティングされた中空のガラス微小粒子)を混入し,また水平軸に垂直なシート光 を球体に照射し,このシート光面内の粒子の動きを鉛直軸まわりに球体とともに回転するビデオ カメラで撮影した.このときシート光もこの軸のまわりにカメラとともに回転させ,つまり撮影 された粒子の運動は,運動方程式 (2) を記述した回転系における運動となる.またカメラの視線方 向は水平回転軸とほぼ平行とした.こうして可視化された流れ場の例を図 2 に示す.(a) は W = 0 つまり鉛直回転を止めた場合の可視化であり流れは水平軸まわりの剛体回転流となっているのに 対して,(b) は Re = 15 000,W = 0.1 の場合の可視化であり流れ場は乱流となっている. このような断面内流れを,さまざまなパラメタの組み合わせに対して詳細に観察することによ り,流れの様子を層流,周期流,乱流へと分類した.結果を図 3(a) に示す.図の横軸は (7) で定義 されるレイノルズ数 Re,また縦軸は (8) で定義される回転角速度比 W である.この相図は Re を 固定したまま W を 0 から次第に増大させたときの流れの変化を追うと理解しやすい. まず,一軸のみの回転(つまり W = 0)の場合にはレイノルズ数や初期条件に依存せずに,こ の軸のまわりの剛体回転流となる.このことは球が静止する回転座標系における運動エネルギー の発展方程式によれば,エネルギーは系内の速度勾配がある限りにおいて常に減少することから 示される(この系において剛体回転流は運動エネルギーが 0 となることに注意). また,水平軸まわりの回転角速度に比べて,鉛直軸まわりの回転角速度が十分に小さい場合(つ まり W 1 の場合)には,水平面内で鉛直軸回転に対して遅れる方向に回転軸が傾いた,水平軸 まわりの回転定常流が得られる.この流れは W = 0 の場合の剛体回転流がコリオリ力の影響で傾 き,それが圧力勾配あるいは粘性力とつりあう結果実現される流れであると解釈できる. この回転流は W を大きくすると不安定となり周期流へと分岐し,さらに回転数比 W を上げる と乱流へと遷移する.図 3(a) に示すように,Re = O(104 ) では W はわずか 0.05 程度(つまり, 鉛直軸まわりの回転角速度は水平軸まわりの回転角速度のわずか 5%)で乱流状態が得られる.こ のことは上述の一軸のみの回転ではどんなにレイノルズ数を大きくしても層流しか得られないと いう事実とは対照的であり,二軸回転を用いれば容易に乱れた流れが生成できることを意味する ので,今後さまざまな応用も期待される. ちなみに乱流中ではエネルギーは大きな長さスケールから小さい長さスケールへと輸送され最 終的に粘性により散逸される.したがって効率のよい乱流生成装置とは,なるべく大きなスケー ルの渦にエネルギーを注入し,その渦を効率よく不安定化させる装置である.本実験装置で(図 3 の範囲で)得られた乱流においては,速い水平回転軸まわりの回転により装置と同程度の大きさ の渦にエネルギーが注入され,それが鉛直回転軸まわりの比較的遅い回転により不安定化されて いることにより維持されているようである. また,鉛直軸まわりの回転角速度 ΩV をさらに大きくした場合に興味深い現象が観察された. ReV ≡ a2 ΩV ν で定義される鉛直軸まわりの回転角速度に基づくレイノルズ数が小さいうちは乱 流は(考えている回転座標系において)平均流を伴わない一様な乱流に見えるが,ReV が大きい 場合の乱流状態は平均流を伴う(図 3(b) を参照).この平均流は鉛直軸まわりの循環流であり, (観 察された限りのすべての場合において)この循環流は印加された鉛直軸まわりの回転に対してさ らに速く循環している.つまり,球体壁面よりも速い速度で内部流体は循環する.この現象は,い くつかの惑星で観測される(スーパーローテーションなどとよばれる)地表面速度を超える強い 東西風を彷彿とさせるが,いずれにしてもその生成機構は不明である. 4. 今後の課題 以上に報告したとおり,二軸回転球体を用いるという,従来にはなかったが単純な手法により, よく制御された乱流を生成維持する方法を提案した.室内実験によれば,実際にこのような装置 は容易に製作可能であり,また流れ場の再現性の高さから今後さまざまな発展が期待される.今 年度はおもに可視化に基づく定性解析により,流れのパラメタ依存性(図 3)を明らかにした.そ (a) (b) 図 2: 流れ場の様子.(a) Re = 15 000, W = 0; 水平軸回りの剛体回転流.(b) Re = 15 000, W = 0.1; 乱流. (a) (b) 0.1 15000 ReV W 10000 0.05 5000 0 10000 20000 Re 30000 0 10000 20000 30000 Re 図 3: (a) 角速度比 W とレイノルズ数 Re とで表現した相図.•,定常流.◦,周期流.,乱流. (b) 縦軸を鉛直回転軸回りの角速度で定義されるレイノルズ数とした場合の相図.記号は (a) と同 じだが,鉛直軸回りの循環流を伴う乱流は二重四角で示す. の結果によれば,層流,周期流,乱流といった多様な流れを単純なパラメタの制御により意のまま に実現できることが分かった.しかしたとえば図 3 に示した相図は目視による結果であり,各状態 の境界は必ずしも明確ではない.このためレーザーシート光と高速高解像度カメラによる撮影に よる粒子流速計測法などの定量解析を計画中である.また乱流にいたる過程における不安定性の 性質も明らかではない.そこで,数値シミュレーションおよび数値的な不安定性解析もはじめた. 来年度はこれらの流れの計測および数値解析を用いたより定量的な解析に踏み込む計画である. 謝辞 本研究は木田重雄教授,西岡通男教授,修士課程の石井伸和氏との共同研究である.なお, 本COEプログラムからの援助ぬきではこの萌芽的研究を即座に開始することは不可能であった し,週に一度の西岡通男教授(COE研究員)との議論も実験遂行のために極めて有意義であっ た.本プログラムの活動に心から感謝したい. 参考文献 [1] Susumu Goto and J.C. Vassilicos, Particle pair diffusion and persistent streamline topology in twodimensional turbulence, New J. Phys., 6 (2004), 65. [2] Susumu Goto and Shigeo Kida, Reynolds-number dependence of line and surface stretching in turbulence: folding effects, (2006), submitted. 熱塩二重拡散系の成層乱流中の熱・塩分輸送 工学研究科機械理工学専攻 花崎 秀史 Abstract: Rapid distortion theory (RDT) is used to examine differential diffusion of two active scalars in unsheared, initially isotropic turbulence. RDT is well suited to study differential diffusion because it applies to strongly stratified flows with weak turbulence---that is, the conditions under which differential diffusion occurs. The theory reproduces several key features of the evolution of scalar fluxes and scalar flux spectra observed in direct numerical simulations (DNS). Predictions of the diffusivity ratio match laboratory results well after a parameter of the theory is related to a parameter of the experiments. RDT also allows parameters such as molecular diffusivities to be varied over a wider range than DNS can currently reach. RDT may prove to be a useful tool for computing mixing in weakly turbulent parts of the stratified ocean interior and possibly for parametrizing subgrid scale mixing in general circulation models. Keywords: Differential Diffusion, Stratification, Turbulent vertical flux of heat and salt 1.目的 海洋大循環を支配する熱塩循環において,熱と塩分の二重拡散の評価は非常に重要である.特に鉛直 方向の乱流拡散は海洋大循環の流速自体に大きな影響を与えることが知られている[1,2].本研究では, 熱と塩分による二重の成層がかかった系における乱流中の熱・塩分の輸送メカニズムを解析する.熱・ 塩分が共に安定成層を形成する場合でも,両者の分子拡散係数の大きな違いにより,differential diffusion(差別的拡散)あるいは,熱の優先的な輸送が起こる可能性があるからである[3,4]. 室内実験の結果によると,熱と塩分の differential diffusion は,浮力レイノルズ数と呼ばれるパラ メータ Reb = ε / νN 2 ( ε :乱流運動エネルギー散逸率, ν :動粘性係数, N = g(αdT / dz − βdS / dz) : Brunt-Vaisala(浮力)振動数,α は熱膨張係数, β は塩分収縮係数,T は平均鉛直温度分布, S は平均 鉛直塩分濃度分布)が O(10 3 ) 程度以下で発生する.この値は,海洋表層やでこぼこした境界から離れた 海洋内部,例えば,赤道温度躍層,極密度躍層,深海,あるいは深海に近い海底斜面で典型的な値であ る[5,6].実際,アメリカのオレゴン州沿岸での海洋観測結果は,differential diffusion が実際に起こ っていることを示唆している. 直接数値シミュレーション(DNS)は,differential diffusion のメカニズムの解明への情報を与え て く れ る が , 解 像 度 の 問 題 が あ る . 熱 と 塩 分 の シ ュ ミ ッ ト 数 は そ れ ぞ れ ScT = ν / DT = 6 と Sc S = ν / DS = 600 程度( DT は熱の拡散係数, DS は塩分の拡散係数)であり,特に塩分拡散の解像には 非常に細かい格子が必要となる.このため,実際のシュミット数を用いて数値シミュレーションを行う ことはあまり現実的ではない.そこで,本研究では,今後の数値シミュレーションの指針となる理論と して,rapid distortion theory(RDT)による解析を行う. 成層の原因が1つである安定成層乱流においては,成層が強い場合に逆勾配拡散と呼ばれる現象が間 欠的に発生することが知られている.これは,安定成層の場合,熱フラックスの向きが,通常の拡散と 逆の下向き( ρ' w' < 0 ,ただし w は鉛直速度)となるものである.このとき,乱流渦拡散モデルにおける 渦拡散係数 KT = −w'T ' /(dT / dz) あるいは K S = −w' S' /(d S / dz) が負になり,数値解自体が不安定となる. 本研究では,熱と塩分の differential diffusion が存在する場合について,それらの鉛直フラックス (鉛直拡散係数)の時間変化を解析し,その逆勾配拡散を含めたメカニズムを調べる. 2.熱と塩分の鉛直フラックスの時間変化 図1に,熱( FT = −w'T ' )と塩分( FS = −w' S' )の鉛直フラックスの時間発展を示す[7].横軸は, Brunt-Vaisala 振動数 N で無次元化した時刻 Nt である.実線は,塩分フラックス FS を,破線は熱フラッ クス FT を表す(左側目盛り) .点線は両者の差 FT-Fs を表す(右側目盛り) .初期条件としては,熱と塩 分濃度の乱れを0とし,等方性の速度乱れによる運動エネルギーの存在を仮定している.このとき,初 期(t>0)には, FS , FT 共に正(順勾配拡散)であり,両者はほぼ一致しているが,浮力振動の1/4周 期を過ぎると順勾配拡散が弱まり, 1/2周期の時刻で逆勾配拡散に転じ, その後も時間的に振動する. 振動の周期はおよそπ/N である.また,3<Nt<6 付近で Fs と FT の差が大きくなり,シュミット数の大 きい(分子拡散係数の小さい)塩分の方が強い逆勾配拡散(Fs<0)を示している.こうした分子拡散係 数の効果は,従来の RDT による結果,あるいは,実験結果と類似の結果である.なお,FT - FS の符号は, FS と FT が符号を変える直前に変わっている. また, FS と FT の長時間発展(0<Nt<30)を示す RDT の結果は, FS と FT の大きな差は,1回目の逆勾 配拡散が現れる前後の,比較的短時間にしか現れないことを示している.一方,実際の海洋では,時間 平均した値が時の差が重要となると考えられる.そこで,時間平均を取った拡散比: d = Rρ ∫ ∫ dT (ただし,温度成層と塩分成層の密度への寄与比: Rρ = − dz ) , dS β dz ∞ α FS dt 0 ∞ 0 FT dt の1からのずれを見ることで,塩分フラックスと熱フラックスの差を見ることができる.ここで,時間 積分の長さは,上式の定義上は0から無限大までとなっているが,無限大までの計算は(数値計算では) 当然できないため,適当な有限時刻までの平均としてある. −3 x 10 8 0.04 6 0.02 4 0 2 −0.02 0 S F ,F T FT − FS 0.06 −0.04 0 5 10 15 20 25 −2 30 Nt 図1 熱と塩分の鉛直フラックスの時間発展.実線は,塩分フラックス FS を,破線は熱フラックス FT を表す(左側目盛り).点線は両者の差 FT - FS を表す(右側目盛り).FS >0 の時が順勾配拡散, FS <0 の時が逆勾配拡散である.グラフを見やすくするため,左側目盛りと右側目盛りの零点を上 下にずらしてある. 図2は d の値のグラスホフ数 Gr 依存性について,実験結果[8,9]との比較を示したものである.ここで,グラス ホフ数は Gr = Nl 2 / ν ( l はエネルギースペクトルのピーク波数に対応する長さスケール〜積分長)で定義され, RDT の支配方程式に現れる無次元数である.なお,その定義から一見密度比 Rρ は d に比例しそうであるが, 実は d の値に殆ど影響しない.例えば, Rρ =0.5 の場合と Rρ =1 の場合を比べると,実験では最大 0.5%,RDT では最大 2%しか d の値に影響を及ぼさない.このため図には Rρ 依存性は示していない. 図2は,グラスホフ数 Gr あるいは浮力レイノルズ数 Reb = ε / νN 2 の増加につれて d が増加することを示してい る.同時に,十分 Gr あるいは Reb が大きい場合には漸近的に d=1に近づくことがわかる.すなわち,塩 分によるフラックスと熱によるフラックスが等しくなる.RDT の結果と実験の結果は Gr = 7ε / νN 2 = 7Reb の場合 によく一致するが(図2の上下の目盛りはこれに従っている),これは RDT の成立条件とも整合している.これ は以下のように説明できる.運動エネルギー散逸率εを ε ~ u 3 / l と見積ると,グラスホフ数 Gr,浮力レイノルズ ( 数 Reb ,Ozmidov スケール Lo = ε / N 3 ) 1/ 2 ,及び,フルード数 Fr = u / Nl は,一般に Reb / Gr = (Lo / l ) = Fr 3 2 の関係を満たす.今の場合,この関係から (Lo / l ) = Fr 3 = 1 / 7 となり,RDT の成立条件である Fr < 1 (あるい 2 は Lo / l < 1 )と整合している.結論として,以上のような d の変化は,Gr と Reb の間に比例関係を仮定すれば (この根拠については,さらに検討が必要であるが) ,最近の室内実験と RDT でよく一致している. また,RDT の結果は,ScT=7,ScS=700 の場合の方が, ScT=7,ScS=70 の時よりも大きい differential diffusion(d が小さい)を示している.その差は,グラスホフ数 Gr が非常に小さい場合を除いて,あ まり大きくはなく,例えば,Gr>600 では 10%以下,Gr>300 で 40%以下であり,これは過去の2次元数値 シミュレーションの結果[4]である40%以下ともほぼ一致している. 2 ε/ν N 0 1 10 2 10 3 10 4 10 10 d 1 1 0.8 0.8 0.6 0.6 0.4 0.4 0.2 0.2 0 1 2 10 図2 拡散率の比 d = Rρ 3 10 ∫ ∞ 0 FS dt / ∫ 10 Gr 4 0 10 ∞ 0 FT dt のグラスホフ数 Gr 依存性.横軸の下側の目盛りは Gr(RDT 用),上側の目盛りは浮力レイノルズ数(実験用)を表す.また,図中の3本の線は RDT による 結果を表す.実線は,ScT=7,ScS=700 の場合,一点鎖線は ScT=7,ScS=70 の場合,破線はパッシブス カラーである染料を想定した ScT=2300, ScS= 21000 の場合の結果である.なお,ここでは ScT は 低シュミット数(の物質),ScS は高シュミット数を表しており,必ずしも熱と塩分を表すもので はない.また,図中の RDT の結果はすべて Rρ =1の場合の結果を示してある.シンボル○印[4] 及び□印[8]は室内実験(回流水槽)の結果を表す. 3.結論 以上のことから,海洋内部の乱流強度が弱く成層効果が強い領域に対しては,実現象では間欠的に拡 散係数が負になってしまう渦拡散を用いるモデル(実際に使われている海洋モデルでは,渦拡散係数は 時間的に一定(>0)であるのでそれによる誤差が生じる)に比して RDT による解が有効であること が予想される.今後,数値シミュレーションと室内実験により,さらに定量的な解析が必要であるが, この結果は,メカニズムの理解と同時に,数値計算,実験におけるパラメータ設定の指針となると考え られる.今後,数値シミュレーションとの定量的な比較検討を行って行く予定である. ただし,今回の結果は RDT の支配方程式を数値的に解き,それをスペクトル空間で積分した結果で あり,実験や数値シミュレーションとの結果の比較は可能であったが,メカニズムの理解,あるいは, パラメータ依存性の解明のためには解析解を得ることが重要であると考えられる.1波数成分に着目し た従来の線形安定性解析もそれほど単純ではないため,それを積分した結果について議論することは, 線形の範疇においてさえも非常に複雑になることが想定されるが,それ以上に複雑な非線形効果の解析 の前に理解しておくべき事柄であるとも言えよう. また,乱流フラックスのモデル化の観点からみると,実際に使われている海洋モデルで小さい時間ス ケールまで解析できるほど時間刻みを小さくとることは不可能であるから,時間平均的な乱流拡散係数 が必要になると考えられる.また,本研究でも,拡散比 d のような時間平均値を調べたが,あくまでも 有限時間での時間平均となっている.数学的には,上記の解析解が求まれば,任意の時刻までの平均で 求めた d の値を得ることは可能であるが,時間スケールとしてどこまでを考えるのが実際的にも意味が あるのかなどの吟味も,今後の課題である. 参考文献 [1] Gargett, A. E., & G. Holloway, Sensitivity of the GFDL ocean model to different diffusivities of heat and salt. J. Phys.Oceanogr. 22, pp. 1158-1177 (1992). [2] Merryfield, W. J., G. Holloway & A. E. Gargett, A global ocean model with double-diffusive mixing. J. Phys. Oceanogr. 25, pp. 1124-1142 (1999). [3] A. E. Gargett, Differential diffusion: An oceanographic primer, Prog. Oceanogr. 56, pp. 559-570 (2003). [4] Merryfield, W. J., G. Holloway & A. E. Gargett, Differential vertical transport of heat and salt by weak stratified turbulence, Geophys. Res. Lett. 25, pp. 2773-2776 (1998). [5] Moum, J. N., Quantifying vertical fluxes from turbulence in the ocean, Oceanogr. 10, pp, 111-115 (1997). [6] Nash, J. D. & J. N. Moum, Microstructure estimates of turbulent salinity flux and the dissipation spectrum of salinity, J. Phys. Oceanogr. 32, pp. 2312-2333 (2002). [7] P. R. Jackson, C. R. Rehmann, J. A. Saenz & H. Hanazaki, Geophy. Res. Lett. 32(10), pp. L10601-10604 (2005). [8] Jackson, P. R. & C. R. Rehmann, Laboratory measurements of differential diffusion in a diffusively stable, turbulent flow, J. Phys. Oceanogr. 33, pp. 1592-1603 (2003). [9] Martin, J. E. & C. R. Rehmann, J. Phys. Oceanogr. (2004). クエット乱流における混合 工学研究科機械理工学専攻 渡部 威 Abstract: The statistical properties of movement of passive particles in Couette turbulence are investigated numerically using an unstable periodic motion which represents the turbulence. It is shown that the turbulence mixing is taking place most actively where low-velocity streaks from the two boundary plates are closest. Key words: unstable periodic motion, Couette turbulence, mixing, stagnation point, stretching 1. はじめに 激しい変動による流れのかき混ぜ — 強混合性 — は乱流のきわだった特徴のひとつである. た とえば, ジェットエンジンでは, 乱流が燃料と酸素の混合率を高め燃焼効果に大きな役割を担ってい る. また河川や海では, 乱流によって水がかき混ぜられることにより大気中の新鮮な空気を取り込 んでいる. 乱流に伴う混合現象を理解することは工学や環境などの問題にも大変重要であるが, 一 般に混合の定量化は簡単ではない. 混合の定量化の手法のひとつに, 流れに受動的に移流される仮 想的な線や面の伸びや変形を調べる方法がある [1]. 本研究では, クエット乱流に対し, パッシブな 線分と正三角形, 正四面体の変形を調べることによって混合効率の定量化を考察するとともに, 混 合と流れ構造との関係を探る. 2. クエット乱流を表す周期運動 一般に, 乱流は流体の不規則な運動で再現性がなく, さまざまな力学特性や統計的性質の解析は 容易ではない. ここでは最近発見された, クエット乱流の特性をよく表す不安定周期運動 [2] を採用 する. この周期運動はクエット乱流の流れ方向渦と低速ストリークの再生成サイクルを極めて忠実 に再現し, いわば, 乱流の基本的な時空間構造—乱流の骨格—と考えられる. 周期運動は乱流とは違 い, 何度も同じ状態が再現されるので, 流れによる物質混合や拡散の係数などさまざまな統計量を 精度よく計算できる利点をもつ. 数値計算は距離 2h だけ離れ, 互いに反対方向に一定の速さ U で移動する2つの平行平板の間に 満たされた, 動粘性係数 ν の非圧縮流体の運動を取り扱う. 平板の移動する方向 (x) とスパン方向 (z) にはそれぞれ 5.6h(=Lx ) と 3.8h (=Lz ) で周期的とする. この場合, レイノルズ数 Re = U h/ν が 約 320 以上で乱流が維持される. ここでは, まず,Re = 400 に対し,x, y (平板に垂直方向),z のそれぞ れの方向に (16, 17, 16) の格子点をとり, 不安定周期運動を求めた. この周期運動の周期は T = 68.5 であった. また得られた不安定周期運動には, (i) 平面 z=0 に対する反転と x 方向への半周期並進, (ii) 直線 x=y=0 まわりの 180 °回転と z 方向への半周期並進 の 2 つの空間対称性があり,4 つの定常淀み点が存在する. 各々の淀み点の位置は (Lx /4, 0, Lz /4), (3Lx /4, 0, Lz /4), (Lx /4, 0, 3Lz /4), (3Lx /4, 0, 3Lz /4) である. 3. 混合の定量化 パッシブ物質の混合の度合いは, 流れ構造ばかりではなく対象とする物質の大きさや向きにも依 存して異なる. ここでは流体部分の変形の度合を計算する簡便な方法を提案する. まず計算領域に おいて x, y, z 各方向に 0.3h 間隔で一様にパッシブな粒子を配置 (これらの粒子を特に基準粒子と よぶ) し, 各基準粒子が中点になるように 100 本の線分, 正三角形および正四面体をそれらの方向を ランダムにして配置する. このとき, 線分, 正三角形および正四面体の各頂点と基準粒子の間の距離 は全て共通で,0.01h とする. そして, ある時間 ∆t (= 0.1T ) だけ時間積分し, 基準粒子ごとに線分の 伸長率, 正三角形の面積変化率および正四面体の体積変化率の平均と標準偏差を求める. これらの 平均と標準偏差を求めたら, 新たに各基準粒子が中心になるように 100 本の線分, 正三角形および 1.2 4 σ(mean)/V0 V(mean)/V0 1.1 1 3 2 0.9 1 0.8 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 t 図 1:正四面体の平均体積変化率の時間発展. V0 は初期の正四面体の体積を表す. 0.7 0.8 0.9 1 図 2:正四面体の体積変化率の標準偏差の 時間発展. 10000 10000 1000 1000 σ(tetra)/V0 σ(tetra)/V0 0.6 t 100 10 100 10 1 1 0 2 4 6 8 10 12 σ(triangle)/S0 14 16 18 図 3:各基準粒子に付随する正四面体の体積変化率 の標準偏差と正三角形の面積変化率の標準偏差の の相関.S0 は初期の正三角形の面積を表す. 0 5 10 15 20 25 L(line)/L0 30 35 40 45 図 4:各基準粒子に付随する正四面体の体 積変化率の標準偏差と線分の伸長率の平 均の相関.L0 は初期の線分の長さを表す. 正四面体を考え (長さも初期の値に戻す), 再び同じ ∆t だけ時間積分させ平均と標準偏差を求める. 同様の作業を 10 周期分繰り返す. このようにして得られた標準偏差で流体部分の変形の度合いを 見積もる. 4. 計算結果 各基準粒子に付随する 100 個の正四面体の体積変化率の平均をさらに基準粒子全体で平均した もの, すなわちすべての正四面体の体積変化率の平均の時間変化を図 1 に示す. これは 10 周期にわ たる時系列のデータであるが, 時間周期性を考慮して 1 周期の間に 10 本の線を描いている. 図 2 は 各基準粒子に付随する 100 個の正四面体の体積変化率の標準偏差を基準粒子全体で平均したもの である. 図 1 と図 2 から t = 0.7 − 0.8T のときに体積変化率の標準偏差が大きく, 他の時刻と比べ ると流れ場が乱れていると考えられる. 図 3 は t = 0.7 − 0.8T において各基準粒子に付随する正四 面体の体積変化率の標準偏差 (縦軸) が, ある閾値 (= 2) より大きな基準粒子と同基準粒子に付随す る正三角形の面積変化率の標準偏差 (横軸) の相関である. 正四面体の標準偏差が大きい基準粒子は 正三角形の標準偏差も大きいことがわかる. 図 4 は図 3 で得られた基準粒子の正四面体の体積変化 率の標準偏差と線分の平均伸長率の相関である. この図より正四面体の体積変化率の標準偏差が大 きい基準粒子, すなわち流れ場が乱れているところでは線分の伸長率も大きいことがわかる. この ことから, 混合の定量化の一つの指標として線分の伸長率を調べることは有意義であると結論づけ られる. 図 5:混合が盛んな領域を基準粒子の位置 で示す. 図 6:図 5 を別の角度 (z 軸正側) から見たもの. 5. 伸長率と乱流構造 図 2 において体積変化率の標準偏差が大きくなる時間帯 (t = 0.7 − 0.8T ) の流れ場の構造につ いて考察する. 図 5 は図 4 でプロットされた基準粒子の位置で, 濃い丸ほど混合強度, すなわち線分 伸長率が大きい. 図 5 では混合が強い場所は空間一様に分布しているように思われるかもしれない が, 図 6 のように見る角度を変えるとある特定の領域 (曲面上) に分布しているのがわかる. 図 7 は T /4 ごとの (x, z) 平面 (y=0) での速度場と 4 つの淀み点を表している. この図の t = 0.75T の速度 場では, 4 つの淀み点のうち右上と左下の淀み点付近で流れが強く収束・発散し, 双曲型の速度場が 形成されていることがわかる. 図 6 で見たような線分伸張率の大きくなる領域が特定の曲面上に分 布しているのは, これら淀み点付近の速度場が強い歪み場を形成することによって生じると思われ る. なお図 7 では 4 つの時刻の速度場を示したが,1 周期全体でもこのような現象は t = 0.7 − 0.8T のみで見られ, 図 1,2 に対応していることがわかる. 図 8 には t = 0.75T における上面と下面に付随 するそれぞれのストリークの様子を示している. 濃灰色は上面のストリーク, 薄灰色は下面のスト リークで, 丸で示した淀み点に向って両方のストリークが接近しているのがわかる. これは図の淀 み点の左下側から下面付近の流体塊が, そして右上側から上面付近の流体塊が近づき, 互いにぶつ かり合いシアーが生じ, 強い歪み場を形成することを示唆している. 6. まとめ クエット系の不安定周期運動を用いて流体線の伸長および正四面体の変形を調べた. その結果, 次のようなことがわかった. (i) 流体線の伸長率は混合定量化のよい指標になる. (ii) 上下 2 つのストリークが接近する淀み点付近では速度場が双曲型となり, 流体線の伸張率は大 きくなる, すなわち混合が盛んである. 参考文献 [1] Goto, S. and Kida, S. 2003: Enhanced stretching of material lines by anti-parallel vortex pairs in turbulence. Fluid Dyn. Res. 33, 2166-2169. [2] Kawahara, G. and Kida, S. 2001: Periodic motion embedded in plane Couette turbulence: Regeneration cycle and burst. J. Fluid Mech. 449, 291-300. 図 7:1/4 周期ごとの (x, z) 平面 (y=0) での速度場. ⃝は淀み点を表わす. 図 8:(y, z) 平面 (x=4.2) での上面と下面のス トリーク. ⃝は淀み点を表わす.t = 0.75T . マイクロ流路内での気液間物質移動 工学研究科機械理工学専攻 伊藤 靖仁 Abstract: Experimental studies on mass transfer through the gas-liquid interface in a micro channel were carried out to investigate gas absorption rates against flow patterns and the efficiency of gas absorption. The micro channel used was a glass capillary tube which had a diameter of 0.5mm and carbon dioxide was absorbed into distilled water in the micro channel. The superficial velocities of gas and liquid were widely changed to form various flow patterns in the channel. The results show that the gas absorption is remarkably progressed as the gas flow rate increases. The volumetric mass transfer coefficient, kL a, generally has a linear relationship with gas superficial velocity, regardless of the liquid flow rate and flow patterns. Key words: Multi-phase Flow, Mass Transfer, Gas Absorption, Capillary Tube 1. 緒言 ガス吸収やガス放散などの気液間物質移動現象は,環境中や工業装置中で見られる基本的な現 象である.したがって,気液間物質移動に関する諸特性を明らかにすることは,工学分野におい て非常に重要である. 二酸化炭素のように液側への溶解度が比較的小さな気体が液体に吸収される場合には,液側に 濃度境界層が形成されるため,吸収速度は液側の挙動に支配される.したがって,気液間物質移 動,特にガス吸収を促進させるためには,気液接触面積を増加させることや気液界面近傍の液体 を混合により入れ替える (表面更新させる) ことが必要である.気液間の物質移動促進に関する研 究はこれまで盛んに行われており,現在は,気泡塔や薄膜流,スプレ状態での液滴の噴射などが ガス吸収装置として一般に用いられている. 一方,近年マイクロリアクタ等のマイクロスケールの工業装置が着目されており,その開発が 盛んに行われている [1].マイクロスケールの流路内では,流体の単位体積あたりの表面積が通常 の装置に比べてはるかに大きいため,高効率なガス吸収が期待される. 管内径がラプラス定数以下の管路 (微細管) 内に気体と液体を同時に流入させると,表面張力の 影響により気液が上下二相に分離せず,微細管内特有の流れになる.その流れの形態は流入する 気体と液体の流量や流量比により異なり,気泡流,スラグ流,環状流,チャーン流などの流れが 形成されることが明らかにされている.しかし,このような細管内気液二相流の流れの形態の変 化に関する研究 [2, 3] や管内圧力損失に関する研究 [2, 4],また,スラグ間物質移動に関する研究 [5] は数多く存在するものの,気液間物質移動を定量的に評価した研究 [6, 7] は数少ない.さらに, それらの研究 [6, 7] においてもスラグ流のみが対象とされており,細管内に形成される流れの形態 とガス吸収量の関係は明らかにされていない. そこで本研究では,マイクロスケールのガス吸収装置に関する基礎研究として,気泡流や環状 流など微細管内における様々な形態の気液二相流に対してガス吸収実験を行い,流れの形態とガ ス吸収量の関係を明らかにすることを目的とした. 2. 実験装置および測定システム 図 1 に実験装置の概略を示す.流路は内径 d = 0.5mm のガラス管であり,気液の流入部 (合流点) から流出部までの長さ L は 200mm または 30mm である.流体流入部は Y 字型になっており,一方 から気流を,他方から液流を供給する.なお,気液合流部までの流路の内径はともに d = 0.5mm で あり,気液供給部の合流角は約 45◦ である.本実験では,液流として純水を,気流として二酸化炭素 (ともに温度 T =293K) を用いた.なお,純水の炭素濃度 C0 はほぼ 0 である.液体の流入量をシリ ンジポンプ (HARVARD PHD2000) を用いて,気体の流入量を流量計 (KOFLOC RK1200Series) を用いて制御した.液体の流入速度 vL を 0.2∼1.6m/s(QL =2.36∼18.8ml/min),気体の流入速度 図 1: Experimental setup (a)Bubbly flow (b)Slug flow (d)Annular flow (c)Slug-Annular flow (e)Churn flow 図 2: Flow pattern map vG を 0.085∼68.0m/s(QG = 1.0 ∼800ml/min) と大きく変化させることにより,管路内に様々な流 れの状態を形成させた.ただし,ここでの vG ,QG は大気圧下での値である.管内流れの撮影を, 微細管の主流方向中心位置においてデジタルカメラ (Nikon D1X) を用いて行った.また,管内圧力 損失を測定するために,微細管の気体流入部直前に圧力計 (長野計器 AA10-121-0.1MPa) を設置し た.微細管の流出部から得られる液体の炭素濃度の測定には,全有機炭素測定装置 (SHIMADZU TOC-5000) を用いた.さらに,液体の水素イオン指数 (pH) を pH メータ (堀場製作所 F-16) を用 いて測定することにより,液体中の CO2 分子溶存量を求め,物質移動容量係数 kL a を算出した. なお,液体を採取する際には,流路出口部分での物質移動を可能な限り避けるために,注射針を 流出部に挿入して流路内部で液体を採取した. 3. 実験結果 図 2 に,本実験で得られた流れの可視化画像を示す.(a) 液流に小さな気泡が分散して流れる気 泡流,(b) 気泡と液体が交互に並んで流れるスラグ流,(c) 気流のところどころに液流のくぼみが あり液流が完全なフィルム状ではないスラグ-環状流,(d) 微細管の壁面上に液体がフィルム状に流 れて中心部を気体が流れる環状流,(e) 気液界面が複雑に乱れて流れるチャーン流であり,通常の 微細管路内流れで形成される全ての流れの形態を観察した.図 3 に,本実験における液体の流入 速度 vL と気体の流入速度 vG を変化させた場合の流れの形態分布を示す.流れの形態は徐々に変 化するため明確に分類することは困難であるが,図 3 に示す結果は,既往研究 [2, ?, ?, 3, ?, ?] と ほぼ同様の傾向を示している.ただし,図中に A で示される領域では,既往研究では気泡流が見 図 3: Flow pattern map られる傾向にあるが,本実験ではスラグ流が見られた.この領域では,Y 字の付け根から気液が 不安定に揺れ,気側が液側に突っ込む,あるいは液側が気側に突っ込む現象が見られた.これは流 路の形状に起因すると考えられるが気液の供給の安定性等の他の原因も考えられ,はっきりとし た原因を特定することはできなかった.なお,本実験での助走区間は最大で 15mm 程度であった. 図 4 に,気体の流入速度 vG に対する物質移動容量係数 kL a の分布を示す.なお,kL a は単位時 間・単位体積あたりの物質移動速度を代表する値であり,単位時間・単位体積あたりの物質移動量 F ,物質移動係数 kL ,単位体積あたりの有効表面積 a,気液界面での炭素濃度 C ∗ ,液側バルク炭 素濃度 Cb 用いて以下の式で表される. kL a = F C ∗ − Cb (1) ただし,F は,液中炭素濃度 C ,流体の管内平均速度 vs ,管路長さ L を用いて F =C vs L (2) で与えられる.ここで,管内流体速度 vs は気流と液流の速度の合計で与えられるが,管内で圧力 が低下することから気流の速度 (気体の管内体積) を正確に評価することは極めて困難である.そ 0 こで本研究では,管内圧力損失から気流の管内体積を算出し,流路中央部における気流の速度 vG を算出した.図 4 より,気体の流入速度 vG に対する物質移動容量係数 kL a の傾きがほぼ一定であ ることから,kL a は流れの形態によらず vG に比例することがわかる.また,vG が等しい場合には, kL a は液体の流入速度に関係なくほぼ同じ値をとる.なお,L =30mm の場合の方が L =200mm の場合に比べて kL a が大きな値をとるが,これは流体流入部で二酸化炭素が吸収されていること に起因する.一方,半白抜きのプロットは,L =200mm と 30mm の流路における二酸化炭素吸収 量の差から算出された,微細管路内のみに対する物質移動容量係数 kL a である.ただし,図 3 中 に A で示された領域は信頼性が低いと考えられるため除外した.L =200mm の場合と L =30mm の場合とでは管内圧力損失などが異なるため,この値が必ずしも微細管内のみで吸収された (流入 部の影響を除いた) 量に相当するとはいえないが,それとほぼ同等の値を表すと考えられる.図 4 より,液体の流入速度 vL =0.4∼1.6m/s の場合には,微細管内のみにおける kL a と vG がほぼ比例 図 4: Volumetric mass transfer coefficient against gas superficial velocity. L =30mm, Closed symbols: L =200mm Open symbols: 関係を持つことがわかる.ただし,vL =1.6m/s で vG が小さな場合には,kL a が vG に比例せず, その値は他の場合に比べて小さい.これは,気体の流入速度が小さいため流路上流部で気体が液 体にほとんど溶解するからであると考えられる.一方,vL =0.2m/s の場合にも,vG に対して kL a が比例しない.これは,上述したように,流体流入部で二酸化炭素の液側への溶解が大きく進み, 流入部直後において液中の炭素濃度が飽和近くになるためである. 4. 結言 微細管路内における気液間物質移動 (ガス吸収) に関する実験を行った結果,微細管路内に気液 を同時に流入させることにより,気液間物質移動 (ガス吸収) が著しく進むこと,また,物質移動 容量係数は流れの形態によらずに気体の流入速度に比例することが明らかになった. 参考文献 [1] Stone, H. A., Stroock, A. D. and Ajdari, A., “Engineering Flows in Small Devices: Microfluidics Toward a Lab-on-a-Chip” Annu. Rev. Fluid Mech., 36 (2004), 381-411. [2] Cubaud, T. and Ho, C. -M., Transport of bubbles in square microchannels, Phys. Fluids, 16-12 (2004), 4575-4579. [3] Triplett, K. A., Ghiaasiaan, S. M., Abdel-Khalik, S. I. and Sadowski, D. L., Gas-liquid two-phase flow in microchannels Part I: two-phase flow patterns, Int. J. Multiphase Flow, 25 (1999), 377-394. [4] Triplett, K. A., Ghiaasiaan, S. M., Abdel-Khalik, S. I., LeMouel, A. and McCord, B. N., Gas-liquid two-phase flow in microchannels Part II: void fraction and pressure drop, Int. J. Multiphase Flow, 25 (1999), 395-410. [5] Thulasidas, T. C., Abraham, M. A. and Cerro, R. L., Dispersion during bubble-train flow in capillaries, Chem. Eng. Sci., 54 (1999), 61-76. [6] 中別府 修・出野 恒平,マイクロチャンネル内スラグ流におけるガス吸収特性, 日本機械学会論文集 (B 編), 70-693 (2004), 1285-1292. [7] Sato, M. and Goto, M., Gas absorption in water with microchannel devices, Sep. Sci. Tech., 39-13 (2004), 3163-3167. [8] Triplett, K. A., Abraham, M. A. and Cerro, R. L., Flow patterns in liquid slugs during bubble-train flow inside capillaries, Chem. Eng. Sci., 52-17 (1997), 2947-2962. 風波気液界面上の乱流に及ぼす斜めのうねりの影響 工学研究科機械理工学専攻 今城 貴徳 Abstract: Turbulence structure and friction and pressure forces acting on the wavy wall that imitates wind-driven air-water interface with oblique swell was numerically investigated. A threedimensional direct numerical simulation (DNS) based on a finite difference method was applied to turbulent boundary layer over the wavy wall. The results show that the streamwise and vertical mean velocities a little far from wavy wall are similar to that of general wall turbulence over a flat wall. However, the spanwise mean velocity is different from that of wall turbulence especially near the wall. The spanwise mean velocity have negative value because the shape of oblique swell guides the flow near the wavy wall. The shear stress on the wavy wall acts in both streamwise and spanwise directions by the flow near the wavy wall. The streamwise shear stress is large at the crest of wind-wave and swell and small at the trough of them. The spanwise mean velocity is positive at the crest of the swell and negative at the trough of swell. The pressure is small at the crest of wind-wave and swell and large at the trough of them. These results are important correlated to scalar flux across air-water interface. Key words: Turbulent Flow, Boundary Layer, Fluid Force, DNS, Wavy Wall, Swell 1. 緒言 近年問題となっている環境問題のひとつに大気中の二酸化炭素濃度の上昇を主な要因とする地 球温暖化現象があります.この地球温暖化の正確な予測を行ううえで大気・海洋間の二酸化炭素 等の物質交換機構を明らかにし,その交換量を正確に評価することは非常に重要である.大気と 海洋の境界面である海水面では,その上を吹く風により風波と呼ばれる波が発生し,気液界面は, 風波気液界面と呼ばれる複雑な形状を持つ界面となる.風波気液界面を通しての物質移動量は気 流の流速のみを用いて相関される [1, 2] ことがほとんどであるが,丹野ら [3] は,風波水槽を用い た室内実験により,物質移動係数がうねり(遠方から伝播してくる風波の低周波成分)により同 風速であっても減少することおよびその原因は物質移動を支配する表面更新渦 [4] の発生がうねり により抑制されるためであることを明らかにした. また,気液界面上の乱流構造は壁面上の乱流構造と類似なものとなることが知られていること から,風波気液界面を波状壁面とみなし [5],気流のみを解いた数値計算も行われ [6],物質移動係 数がうねりにより減少する原因は,風波気液界面がうねりにより変形したことで,界面に作用す る摩擦力が減少したためであることが明らかにされている.しかし,これらの研究は気流とうね りの伝播方向が同じ場合の研究であり,気流とうねりが斜めに交差する風波気液界面に対する研 究は現在のところ存在しない.一般に海洋では気流とうねりが斜めに交差する場合も多いと考え られることから,これまでの研究では不十分である.そこで本研究では,気流とうねりが斜めに 交差している風波気液界面について研究を行うことにした. ところが,実験において,気流に対してうねりを斜めに発生させるには広大な実験装置が必要 となることから,現実問題として実験で斜めうねりの影響を見るのは困難である.そこで,本研 究においても気液界面を波状壁面とみなしてその上の気流に対して数値計算を行い,斜めのうね りが風波気液界面上の乱流および界面に作用する流体力に与える影響について解明することを目 的としている.なお,波状壁面上の乱流についての研究は数多く存在するが,うねりがある風波 の形状を模した壁面に対する研究は全く見られない. 2. 数値計算 基礎方程式は非圧縮性流体に対する連続の式および Navier-Stokes(N-S) 方程式 ∂Ui =0 ∂xi (1) 1 ∂P ∂ 2 Ui ∂Ui ∂Ui + Uj =− +ν ∂t ∂xj ρ ∂xi ∂xj ∂xj (2) である.ここで,添え字 i = 1, 2, 3 はそれぞれ x,y ,z 方向を表す.これらの式を有限差分法に 基づく MAC(Marker and Cell) 法を用いて直接解いた.対流項の離散化には五次精度の風上差分 を,粘性項の離散化には四次精度の中心差分を,その他の微分項には二次精度の中心差分を用い た.(計算方法の詳細および本 DNS の精度については Komori et al.[7] を参照) 図 1 に計算領域の概略を示す.風波の波長 λ(= 1.0 × 10−2 m) を基準として,計算領域の大きさ を,主流 (x) 方向,スパン (y) 方向,鉛直 (z) 方向に,それぞれ 12λ,5.36656λ,2.6λ とした.下 側境界面を波状壁面とし,上側境界面を平滑面とした.風波は主流方向に,うねりは主流方向よ り arctan(6/5.36656)(∼ = 47◦ ) 傾けて配置した.風波およびうねりを正弦関数で近似し,うねりが あるときの界面形状をその和で与えた.風波の波長を λ,波高を 0.055λ,うねりの波長を 4λ,波 高を 0.225λ とした. Z Y X 図 2: Mean velocities over the wavy wall. 図 1: Schematic diagram of the computational domain 計算格子には境界適合格子を用い,格子間隔を主流およびスパン方向に等間隔とし,鉛直方向 には関数を用いて壁面近傍の空間分解能を高くした. 気流の一様流速 U∞ を 6m/s とし,このときの U∞ と計算領域の z 方向高さの半分である代表長 さ 1.3λ に基づくレイノルズ数 Re はおよそ 5,100 であった.なお,主流方向の圧力こう配を調整 することで,波状壁面上の乱流境界層外部における一様流速を調整した.速度の境界条件として は,主流およびスパン方向に対しては周期境界条件を用い,上下壁面上では全ての速度成分を零 とする粘着条件を用いた.初期条件としては平板境界層に対する対数速度分布に一様乱数を加え たものを用い,発達した流れが得られるまで計算を繰り返した.静水面に相当する波状壁面高さ を z = 0 とし,主流方向に空間平均をとる場合には,z = 0 からの距離が一定の直線領域で平均を とった.この平均化の方法は,実験または観測における方法と対応するものである. 3. 結果および考察 各統計量は主流方向に空間平均を取り,中心付近の最大流速 Umax ,空気の密度 ρ で無次元化し たものである. 3.1 波状壁面上の乱流構造 図 2 に,主流,スパンおよび鉛直方向時間平均流速の鉛直方向分布 を示す.図において,z/H=0.1 付近において曲線が折れ曲がっているのがわかる.これは,その 位置に波の頂上があり,そこより波状壁面側の領域の平均流速は波の間での平均値であるからで ある.また,波状壁からすこし離れた領域では,主流および鉛直方向平均流速は一般的な壁乱流 と傾向に大差はないが,スパン方向平均流速は負の値をとることがわかる.これは,うねりが斜 めに存在することにより,うねりに沿う形でスパン方向に流れが発生するためである. 3.2 波状壁面上のせん断応力 Y Z -0.0008 Y Z X 0.0000 0.0008 0.0016 0.0024 0.0032 -0.0030 X -0.0020 -0.0010 0.0000 0.0010 0.0020 図 3: X-directional shear stress on the wavy wall. 図 4: Y -directional shear stress on the wavy wall. 気液界面を通しての物質移動に関係する界面に作用するせん断応力について考察する.図 3,4 に波状壁面に作用するせん断応力の瞬間値を主流方向とスパン方向に分けて示す.図には波状壁 面の形状も同時に示す.図より,せん断応力はばらつきはあるもののうねりや風波の形状に対応 する形に分布していることがわかる.ここで,詳細に見るために計算領域中心部の x − z 平面にお いて時間平均をとり,図示したのが図 5 である.図より,主流方向のせん断応力は,うねりや風波 の山で大きな値,谷で小さな値をとることがわかる.また,スパン方向のせん断応力に注目する と,うねりの谷で負の値をとり山で正の値をとることがわかる.つまり,うねりの谷ではスパン 方向に負の向きに,うねりの山ではスパン方向に正の向きにせん断力が作用している. 3.3 波状壁面上の圧力 図 6 に波状壁面上の瞬間圧力分布を示す.図より,圧力はばらつきはあ るもののうねりや風波の形状に対応する形に分布していることがわかる.ここで,詳細に見るた めに計算領域中心部の x − z 平面において時間平均をとり,図示したのが図 7 である.図より,圧 力はうねりや風波の山で小さな値,谷で大きな値をとることがわかる. 4. 結言 主流に対して斜めにうねりがある波状壁面上の乱流場に三次元直接数値計算 (DNS) を適用し, 波状壁面上の乱流構造を明らかにするとともに,壁面に作用する流体力を評価した.その結果,以 下の結論を得た. 1. 斜めうねりの存在により波状壁面近くではスパン方向に平均流が生じる. 2. 波状壁面上の主流方向せん断応力分布は,うねりや風波の山で大きな値,谷で小さな値をとる ことがわかる. 3. 波状壁面上のスパン方向のせん断応力は,うねりの谷で負の値を,山で正の値をとる.つまり, うねりの谷ではスパン方向に負の向きに,うねりの山ではスパン方向に正の向きにせん断力が 作用する. Y Z 図 5: Time-averaged shear stress on the wavy wall. -0.2000 X -0.1500 -0.1000 -0.0500 0.0000 0.0500 0.1000 0.1500 図 6: Pressure on the wavy wall. 図 7: Time-averaged pressure on the wavy wall. 4. 波状壁面上の圧力はうねりや風波の山で小さな値,谷で大きな値をとる. 参考文献 [1] Liss, P. S. & L. Merlivat, Air-sea gas exchange rates: introduction and synthesis, In The Role of Air-Sea Exchange in Geochemical Cycling (ed. P. Buat-Menard), D Reidel, (1986), 113–127. [2] Wanninkhof, R., Relationship between wind speed and gas exchange over the ocean, J. Geophys. Res., 97 (1992), 7373–7382. [3] 丹野賢二,小森 悟,風波気液界面近傍の乱流構造と物質移動に及ぼすうねりの影響, 日本機械学会論 文集 (B 編), 70–691 (2004), 644–649. [4] Komori, S., R. Nagaosa & Y. Murakami, Turbulence structure and mass transfer across a sheared air-water interface in wind-driven turbulence, J. Fluid Mech., 249 (1993), 161-183. [5] Komori, S., Turbulence structure and CO2 transfer at the air-sea interface and turbulent diffusion in thermally-stratified flows, CGER’s Supercompute Monograph Report, 1, Centre for Grobal Environmental Research, National Institute for Envionmental Studies, Environment Agency of Japan (1996). [6] 今城貴徳,長田孝二,小森 悟,波状壁面上の乱流構造と抗力に及ぼすうねりの影響, 日本機械学会論 文集 (B 編), 71–706 (2005), 1504–1510. [7] Komori, S., R. Nagaosa, Y. Murakami, S. Chiba, K. Ishii & K. Kuwahara, Direct numerical simulation of three-dimensional open-channel flow with zero-shear gas-liquid interface, Phys. Fluids A, 5 (1993), 115-125. 風波気液界面を通しての熱と物質の輸送機構 工学研究科機械理工学専攻 大坪 周平 Abstract: Heat and mass transfer mechanism across a wind-driven air-water interface was investigated through laboratory experiments in a wind-wave tank. The results show that heat transfer coefficient estimated on the water side increases with wind speed. However, in the middle windspeed region, the increasing behavior of heat transfer coefficient on the water side becomes gentle and tends to level off. Therefore, the previous assumption that heat transfer coefficient on the air side is proportional to wind speed, is not correct. Furthermore, heat transfer coefficient on the water side agrees with CO2 transfer coefficient on the water side in the whole wind-speed region. The result suggests that there exists the similarity between heat and mass transfer across a wind-driven clean air-water interface. Key words: Heat Transfer, Mass Transfer, Diffusion, Air-Water Interface, Wind-Wave Tank 1. 緒言 近年,人類社会が直面している環境問題として,局所的海水温上昇に伴うエル・ニーニョ・南方 振動現象や土壌風化に伴う砂漠化現象等があり,これらの異常現象が生態系や人類社会に多大な 影響を及ぼすことが危惧されている.したがって,これらの現象の発生や進行と深い関わりを持 つ気候変動を精度良く予測することは極めて重要である. 現在,気候変動の予測には,GCM(General Circulation Model) と呼ばれる大気海洋大循環モデ ルが用いられているが,そのモデルの信頼性が低いことが問題視されている.その原因の一つと して,GCM を構成するサブモデルでは,大気・海洋間,つまり風波気液界面を通しての熱交換量 を評価する際に,モデルとしての使い易さのみを考えた物理的根拠に欠ける「熱交換量と風速は 比例関係にある」という仮定に基づいた式が用いられていることが挙げられる.地球表面の約七 割を占める海洋は大量の熱を貯蔵できるため,そのような強引な手法を用いて算出された熱交換 量には大きな誤差が生じる可能性が高い.気液界面を通しての熱輸送機構は界面近傍の乱流構造 に支配されることから,信頼性の高い大気・海洋間での熱輸送モデルを構築するためには,風波 気液界面を通しての熱の輸送機構を乱流構造と関連づけて流体力学的に解明することが必要不可 欠である. 風波気液界面を通しての熱輸送に関する研究は,これまでに海洋物理学や気象学等の分野にお いて数多く行われてきた.それらの研究では,気液界面を通しての熱フラックスは,海水面と海 水面上 10m の位置における大気側との温度差 Ti − T10 および湿度差 qi − q10 を用いて大気中の顕 熱 QH と潜熱 QE を求め,それらの値に海水面からの放射熱 QR を加えた総和を全熱フラックス Q とするバルク法により評価されてきた (1) . Q = QH + QE + QR (1) QH = ρa CP CH U10 (Ti − T10 ) (2) QE = ρa LV CE U10 (qi − q10 ) (3) ここで,ρa :大気の密度 [kg/m3 ],CP,a :大気の定圧比熱容量 [J/kg·K],LV :蒸発潜熱 [J/kg],CE :潜 熱に対するバルク交換係数 [-],CH :顕熱に対するバルク交換係数 [-] である.しかし,このバルク 法には,顕熱 QH と潜熱 QE に対する評価式中に物理的根拠に乏しい海水面上 10m の位置におけ る風速 U10 との比例関係が仮定されているだけでなく,温度成層等の種々の流体力学的効果をし わ寄せするための無次元数であるバルク交換係数 CH , CE が含まれている.さらに,バルク係数 CH , CE はほぼ一定値を取るとされているにも関わらず,現実には研究者間でそれらの値は大きく ばらついており,この係数自体が各フラックスを評価する上で大きな不確定性要因の一つとなっ ている (2) . 高精度な大気海洋間での熱交換モデルを構築するためには,第一段階として各熱量の総和であ る全熱フラックスを正確に評価することが必要となる.気側基準の熱フラックスの評価法である バルク法に対して,液側基準で熱フラックスを評価する場合,全熱フラックス Q は液側熱伝達係 数 hL および液側バルク温度 Tb と界面温度 Ti の差を用いて次式で定義される (3)(4) . Q = hL (Tb − Ti ) (4) 温度差 Tb − Ti は実際の海洋における実測値で与えられるため,液側熱伝達係数 hL を正確に評価 することができれば,本手法の方がバルク法よりも正確かつ容易に気液界面を通しての熱輸送量 を評価することができる. また,海洋における熱輸送量の評価法としては, 「気液界面を通しての熱の輸送機構は,同じスカ ラ量である物質の輸送機構と相似である」という仮定に基づいた相関法も提唱されている (4) .こ れは,境界層近似から導出された風波気液界面を通しての液側物質移動係数 kL の Sc 数への依存 性を拡張したもので,P r 数と Sc 数を用いて液側熱伝達係数 hL と液側物質移動係数 kL を次式で 相関させる方法である. hL = kL Sc Pr (5) しかしながら,式 (5) の妥当性は,気液界面の上下に典型的な乱流境界層が形成されない円形循環 式風波水槽を用いた実験 (5) でしか立証されていない.実際の海洋で見られる風波乱流場では,界 面が清浄ではない場合には熱輸送と物質輸送の相似性が成立しないことが明らかにされているた め (6) ,界面が清浄な場合においても式 (5) が成立するかどうかを明らかにする必要がある. そこで,本研究では,風波乱流場での室内実験により,風波気液界面を通しての熱の輸送機構 の解明および熱と物質の輸送機構の相似性が成立するかどうかを明らかにすることを目的とした. 具体的には,海洋のシミュレーション装置である風波水槽を用いて,界面シアーのみによって気液 界面近傍に乱流が作られる風波乱流場で,高温の液流側から風波気液界面を通して常温 (低温) の 気流側へ熱が放散される熱輸送実験を行い,液側熱伝達係数を測定した.また,CO2 を過飽和さ せた水を風波水槽内に貯めて物質輸送実験を行い,液側物質移動係数を測定することにより,清 浄な風波気液界面を通しての熱と物質の輸送機構の相似性について考察を行った. 2. 実験装置および測定方法 実験装置の概略を図 1 に示す.水槽部分は全長 6.5m,全幅 0.3m,全高 0.8m であり,槽底の壁 乱流の影響をなくすために水深を 0.5m とした.整流した空気を気液界面上の 0.3m × 0.3m の正 方形ダクト内に流し,気液界面上に風波を発生させた.水槽末端部には風波の反射を防ぐため波 浪吸収装置を設置した. Honey-comb Screen aa aaaaa aa aaaaa aa aaaaa aa aaaaa aa aaaaa aaa aaaaaaa a a a a aa aaaaa y z x aaaaa aaaaa aaaaaa aaaaaa aaaaaa aaaaaa aaaaaa aaaaaa aaaaaa aaaaaa 図 1: Schematic of a wind-wave tank. 熱輸送の実験においては,風波水槽内に一様温度の温水を貯め気液界面上に空気を流すことに より風波を発生させ,気流中へ放散される熱量を測定した (6) .ここで,測定中の放熱量を一定に 保つために,風波水槽に温水循環装置を設置した.水槽内にあらかじめマイクロボア濾過器を通 した清浄な水道水を供給し,ヒータにより温度調整が可能な貯水タンクと風波水槽をパイプを介 して接続することにより温水を循環させた.液流の瞬間温度および流速の同時測定を行い,渦相 関法を用いて液側界面近傍における乱流熱フラックスを測定することにより液側熱伝達係数 hL を 評価した.瞬間温度の測定には定電流型抵抗線温度計を,瞬間流速の測定には偏光型レーザドッ プラ流速計 (LDV) を用いた.測定は,気流流入部を原点とする吹送距離 x =4m の位置において 行った. 一方,物質輸送の実験においては,CO2 をあらかじめ過飽和させた水を風波水槽内に貯め,気 液界面上に空気を流すことにより風波気液界面を通して気流中へ放散される CO2 量を測定した (7)∼(9) .x=4m の位置で測定した気側の平均流速と CO 濃度の鉛直方向分布を用いて,対数分布 2 則に従う領域に傾度法を適用することにより液側物質移動係数 kL を評価した.気側平均流速の測 定には PIV を用い,CO2 濃度の測定には CO2 濃度計を用いた.ただし,風波が激しく崩壊する 高風速域では,気流中に多量の液滴が飛散するために気流側での CO2 濃度の測定が極めて困難と なる.しかし,この風速域では液流側が完全混合に近くなるため,x=4m の位置における液流側 での CO2 の濃度分布の経時変化を求めることで kL を評価した.液側の溶存 CO2 濃度の測定には 全炭素濃度計を用いた. 3. 結果および考察 3.1 液側熱伝達係数 液側熱伝達係数 hL を風速 U10 に対してプロットしたものを図 2 に示す. ここで,U10 は,気側の主流方向の平均流速分布を界面から 10m の高さまで外挿することにより 評価した.図から分かるように,さざ波が発生する U10 ≤11m/s の低風速域では U10 の増加に伴い hL は急激に増加する.しかし,風波が急激に成長する 11m/s≤ U10 ≤16m/s の中風速域では U10 に対する hL の増加が弱まり,ほぼ一定値を取る.さらに,波が激しく崩壊する U10 ≥16m/s の高 風速域では hL は再び急激に増加する.このように,hL は U10 と単純な比例関係を持たないこと がわかる.したがって,hL が式 (2),(3) に示すように顕熱係数 CH U10 および潜熱係数 CE U10 を含 むものであることを考慮すると,hL と U10 の比例性に関する仮定,つまり式 (2),(3) に示す従来 のバルク法を用いて熱交換量を評価する際にバルク係数 CH ,CE を単純に一定値とする仮定は誤り であると言える. 図 2: Heat transfer coefficient hL versus wind speed U10 . 3.2 熱輸送と物質輸送の相似性 式 (5) を用いて液側熱伝達係数 hL を液側物質移動係数 kL に換 算した値,および CO2 に対する液側物質移動係数 kL を風速 U10 に対してプロットしたものを図 3 に示す.図より,kL は hL と同様に風速に対して単調増加せず,中風速域 (11m/s< U10 <16m/s) において一旦増加速度が弱まる横ばいの領域を持つ.このとき,hL と kL は全風速域においてほ ぼ良好に一致する.よって,清浄な風波気液界面を通しての熱輸送と物質輸送は相似関係にある と言える.この結果は,熱輸送の実験から得られる液側熱伝達係数から液側物質移動係数を換算 する際には,あるいは,逆の換算をする際には,相似性の仮定に基づく式 (5) を用いて移動係数を 正確に変換できることを示唆している. 図 3: Comparison of heat transfer coefficient hL (■) with CO2 transfer coefficient kL (○). 4. 結言 本研究は,風波気液界面を通しての熱の輸送機構を調べたものである.得られた知見は以下の 通りである. 1. 風波乱流場において,液側熱伝達係数は風速との間に単純な比例関係が存在せず,液側物質移 動係数と同様に,低風速域では風速とともに増加するが,中風速域では横ばいの傾向を示し, さらに高風速域では急激に増加する. 2. 清浄な風波気液界面を通しての熱輸送と物質輸送の相似性は成立する. 本研究で得られた知見は,将来の気候モデルの改良に非常に役立つものと期待される. 参考文献 [1] T. V. Blanc, ”Accuracy of bulk-method determined flux, stability, and sea surface roughness,” J. Geophys. Res., 92 (1987), pp. 3867-3876. [2] T. V. Blanc, ”Variation of bulk-derived surface flux, stability, and roughness results due to the use of different transfer coefficient schemes,” J. Phys. Oceanogr., 15 (1985), pp. 650-669. [3] B. M. Howe, A. J. Chambers, S. P. Klotz, T. K. Cheung, & R. L. Street, ”Comparison of profiles and fluxes of heat and moumentum above and below an air-water interface,” Trans. ASME., 104 (1982), pp. 34-39. [4] C. J. Zappa, W. E. Asher & A. T. Jessup, ”Microbreaking and the enhancement of air-water transfer velocity,” J. Geophys. Res., 109 (2004), C0816. [5] B. Jähne, K. O. Münnich, R. Bösinger, A. Dutzi, W. Huber, & P. Libner, ”On the parameters influencing air-water gas exchange,” J. Geophys. Res., 92 (1987), pp. 1937-1946. [6] 嶋田隆司, 小森 悟, ”風波気液界面を通しての熱移動と物質移動の相似性,” 日本機械学会論文 集(B 編), 65 (1999), pp. 2092-2098. [7] Komori, S., R. Nagaosa & Y. Murakami, ”Turbulence structure and mass transfer across a sheared air-water interface in wind-driven turbulence,” J. Fluid Mech., 249 (1993), pp. 161-183. [8] Komori, S., T. Shimada & R. Misumi, ”Turbulence structure and mass transfer at a winddriven air-water interface,” Wind-over-Wave Couplings(eds. S. G. Sajjadi, N. H. Thomas & J. C. R. Hunt), Oxford University Press, (1999), pp. 273-285. [9] 丹野賢二, 小森 悟, ”風波気液界面近傍の乱流構造と物質移動に及ぼすうねりの影響,” 日本機 械学会論文集(B 編), 70 (2004), pp. 644-649. 風波乱流場における液滴の飛散機構および気泡の巻き込み 機構 工学研究科機械理工学専攻 杉岡 健一 Abstract: The propeties of dispersed droplets and entrained bubbles generated by breaking waves were experimentally estimated. The diameter, velocity and number of droplets and bubbles were measured using a phase Doppler anemometer. The results show that the horizontal flux of droplets has an universal size distribution independent of wind speed, height and fetch, and that the horizontal flux of droplets increases with 8th power of friction velocity. Bubbles size spectra are independent of wind speed, height and fetch. Key words: Dispersed droplets, Entrained bubbles, Breaking Wave 1. 緒言 地球規模での CO2 の循環の正確な予測モデル化を構築するためには,大気・海洋間,すなわち 風波気液界面を通しての物質移動機構を明らかにする必要がある.風波気液界面を通しての CO2 の移動量を精度良く評価するためには,液側物質移動係数を正確に評価することが重要であり,そ の試みの中で,風速が大きくなり気液界面が激しく崩壊する砕波域と呼ばれる領域において,風速 の増加に伴い,物質移動係数が急激に上昇することが明らかにされている (1)(2) .その原因の一つ として,気液界面の崩壊に伴う液滴の飛散および気泡の巻き込み(気泡エントレインメント)が 考えられる (3)(4) .しかし,風波気液界面全体における物質移動に対する飛散液滴や巻き込み気泡 の寄与を定量的に評価した研究は報告されていない.そこで崩壊する風波気液界面を通しての物 質移動に及ぼす液滴および気泡の効果を明らかにすることが必要となる. 液滴・気泡による物質移動量を評価するためには,液滴・気泡の径,速度,周囲流との相対速 度,数密度等の諸特性量を正確に把握することが必要となる.しかしこれらの諸特性量は既往研 究 (5)−(9) においてはかなりばらついており,完全には把握されていない.したがって,精度のよ い測定を行うことができ,また実験条件を自由に設定できる室内実験により正確な測定を行い,液 滴・気泡の諸特性量を把握することが必要である. そこで,本研究では海洋のシミュレーション装置である風波乱流水槽において飛散液滴および 巻き込み気泡の諸特性量の測定を行い,吹送距離が液滴・気泡の諸特性量に及ぼす影響を明らか にした. 2. 実験装置および実験方法 2.1 実験装置 図 1 に実験装置である大型風波乱流水槽の概略図を示す.この装置は,上流側か ら送風機部,拡散部,整流部,縮流部,テストセクション部,吐出部から構成される全長 26.7m の吹き出し式風波水槽である.軸流ファン(昭和電機;AV-8KM)によりテストセクション内に 気流を流入させた.テストセクション部は長さ 18m,幅 0.6m,高さ 1.3m であり,槽底における 壁乱流が界面に及ぼす影響を防ぐために水深を 0.7m と十分深くした.テストセクション部の側面 および底面は透明のガラス製であり,上面はアクリル製である.テストセクション内に活性炭濾 過装置(日本錬水;RAC-200)を通した水道水を貯め,テストセクション上部に整流した気流を 流すことにより気液界面上に風波を発生させた.測定座標系を主流方向を x,鉛直方向を z とし, 水槽入り口部中心の静止水面上を原点とした.風洞内の一様流速 U∞ は 2 ∼ 20 m/s の範囲で可変 であった.高風速域 U∞ > 12m/s において,風波が激しく崩壊し,気流側への液滴の飛散・気泡 の巻き込みが観察された.そこで本研究では,この高風速域において実験を行った. 図 2(a)(b) に飛散液滴および巻き込み気泡の測定システムの概略図を示す.気側に飛散する液滴 の径 d,速度 Ud ,飛散量 F を 2 カラー Ar+ レーザ (LEXEL model95-2:波長 448.0nm,514.5nm; a aaa a aaa aaa aaa 図 1: Schematic diagram of experimental apparatus. 出力 0.3 W) を光源とした位相ドップラ方式粒子計測計 (PDA:DANTEC 58N80-SYSTEM) を用い て測定した. また,PDA による測定と同時に,前方散乱型レーザドップラ流速計(LDV)を用いて液側流速 の測定を行い,気泡と周囲流との相対速度 Uc を算出した.また,相対速度を算出する際には,気 泡の通過時に起こる LDV 信号のドロップアウトを避けるために,気泡通過時から前後 0.005s の 流速の平均値を周囲流速とした.飛散液滴,巻き込み気泡ともに測定時間を 1800s とした.風波 が十分に発達し,かつ端効果のない吹送距離 x = 5, 10m において測定を行った. (b) for bubbles. (a) for droplets. 図 2: Schematic diagram of measurement system. 砕波が起こり,液滴の飛散・気泡の巻き込み現象が見られる 3 つの一様流速に対して実験を行った. 表 1(a),(b) に吹送距離 x = 5m および 10m における一様流速 U∞ ,摩擦速度 u∗ ,有義波高 Hs を示す. 表 1: Experimental conditons. x=5m x=10m ∗ U∞ [m/s] u [m/s] Hs [cm] U∞ [m/s] u∗ [m/s] RUN 1 RUN 2 RUN 3 3. 15.4 16.6 17.5 1.45 1.62 1.76 5.70 5.93 5.94 17.0 18.2 19.4 1.68 1.86 2.05 Hs [cm] 7.96 8.28 8.31 実験結果および考察 3.1 液滴の飛散機構に及ぼす吹送距離の影響 図 3(a),(b) に吹送距離 x = 5m および 10m にお ける,液滴と気流との相対速度 Uc と液滴径 d の関係を示す.縦軸は相対速度 Uc を各測定点での 風速 Uf で無次元化した.これらの図から Uc /Uf は z/Hs に依存せず同一の分布形となり,d0.8 に 従い増加することがわかる.さらに,吹送距離 x=5m と 10m で同じ分布形となることがわかる. また,図を省略するが異なる一様流速においても同様の結果を得た. 図 4(a),(b) に吹送距離 x = 5m および 10m において,無次元化した鉛直方向位置 z/Hs を固 (a) x=5m and U∞ =16.6m/s. (b) x=10m and U∞ =18.2m/s. 図 3: Size distributions of relative velocity between wind and droplet normalized by wind velocity, Uc /Uf . 定して,気流の一様流速 U∞ を変化させた場合の飛散液滴径の分布 f (d) を示す.これらの図か ら,f (d) は U∞ に依存せず同一の分布形となり,d ≥ 100µm では d−2.1 に従い減少することがわ かる.さらに,吹送距離 x =5m と 10m で同じ分布形をとることがわかる.図 5(a),(b) に吹送距 離 x = 5m および 10m において,気流の一様流速 U∞ を固定して,測定点を鉛直方向に変化させ た場合の飛散液滴径の分布 f (d) を示す.これらの図から,f (d) は z/Hs に依存せずほぼ同一の分 布形となり,d ≥ 100µm では d−2.1 に従い減少することがわかる.さらに,吹送距離 x =5m と 10m で同じ分布形をとることがわかる.したがって,飛散液滴径の分布 f (d) は U∞ ,z/Hs ,吹送 距離 x に依存せず同一の分布形をとることがわかる. (a) x=5m and z/Hs =1.18 (b) x=10m and z/Hs =1.20 図 4: Size distributions of normalized horizontal flux of droplets, f (d), for different wind velocity. (a) x=5m and U∞ =16.6m/s (b) x=10m and U∞ =18.2m/s 図 5: Size distributions of normalized horizontal flux of droplets, f (d), for different height. 液滴の飛散量と水面に作用する摩擦応力との関係を明らかにするため,図 6 に吹送距離 x =5m および 10m での各鉛直方向距離 z/Hs において,液滴の飛散量 F を摩擦速度 u∗ に対してプロッ トしたものを合わせて示す.この図から,F は z/Hs とともに変化するが,全ての位置において u∗8 に従い増加することがわかる.また,F と u∗ の関係は有義波高で無次元化した鉛直方向距離 z/Hs が同じなら,吹送距離 x によらず一致することがわかる.そこで,静水面からの鉛直方向距 離に対する飛散量の依存性を明らかにするため,図 7(a),(b) に吹送距離 x = 5m および 10m に おける液滴の飛散量 F の鉛直方向分布を示す.ただし,縦軸は飛散量 F を波頂付近での液滴の飛 散量 F0 で,横軸は鉛直方向距離 z を有義波高 Hs で無次元化した.図 7 から,F/F0 は風速に依 存せず z/Hs < 1.5 では 1.0 であり,z/Hs ≥ 1.5 では (z/Hs )−2.7 に従い減少し,その変化は吹送 距離 x によらず同じであることがわかる.したがって,液滴の飛散量 F は,摩擦速度 u∗ と波高 Hs で無次元化した鉛直方向距離 z/Hs を用いると吹送距離 x によらず同一の関数形で表すことが できる.つまり,相似性が存在することがわかる. 図 6: Relation between horizontal flux of droplets, F , and friction veocity, u∗ at x =5m and x =10m. (a) x=5m (b) x=10m 図 7: Vertical distributions of F/F0 . 3.2 気泡の巻き込み機構に及ぼす吹送距離の影響 図 8(a),(b) に吹送距離 x = 5m および 10m において,静水面からの鉛直方向距離 z を固定して風速を変化させた場合の,気泡の数密度で正規 化した気泡径の分布スペクトル θ(d) を示す.これらの図から,θ(d) は風速に依存せず d ≥ 100µm で d−4 に従い減少することがわかる.さらに,x = 5m と 10m の場合で同じ分布形をとることが わかる.図 9(a),(b) に吹送距離 x = 5m および 10m において,一様流速 U∞ を固定して測定点 を鉛直方向に変化させた場合の,気泡の数密度で正規化した気泡径の分布スペクトル θ(d) を示す. これらの図から,静水面からの距離 z に依存せず,ほぼ d−4 に従って減少することがわかる.さ らに,x = 5m と 10m の場合で同じ分布形をとることがわかる.これらのことから,気泡径の分 布 θ(d) は U∞ ,z ,および吹送距離 x に依存せず同一の分布形となることがわかる. 気泡の数密度と水面に作用する摩擦応力との関係を明らかにするため,図 10(a),(b) に吹送距 離 x = 5m および 10m において気泡の数密度 Θ を摩擦速度 u∗ に対してプロットしたものを示す. これらの図から,Θ は z とともに変化するが,全ての位置において u∗4 に従い増加することがわ かる.このように,Θ の摩擦速度に対する依存性は吹送距離が変化しても全ての位置において u∗4 に従い増加することがわかる.そこで,静水面からの鉛直方向距離に対する気泡の数密度の依存 性を調べるため,図 11(a),(b) に吹送距離 x = 5m および 10m における気泡の数密度 Θ の鉛直方 向分布を示す.数密度 Θ の鉛直方向分布は,半理論モデルでは静水面からの距離が大きくなるに (a) x=5m and z =-7cm (b) x=10m and z =-7cm 図 8: Bubble size spectra normalized with bubble concentration, θ(d), for different wind velocity. (a) x=5m and U∞ =16.6m/s (b) x=10m and U∞ =18.2m/s 図 9: Bubble size spectra normalized with bubble concentration, θ(d), for different height. 従い指数関数的に減少すると言われている (11) .図 11 から,今回測定した Θ は吹送距離 x =5m では U∞ に依存せず e−0.03(−z) に,x =10m では U∞ に依存せず e−0.05(−z) に従い減少することが わかる.このように,吹送距離が大きくなるに従い気泡の数密度 Θ の鉛直方向距離に対する減少 率が大きくなることがわかる. 4. 結言 風波乱流水槽を用いた室内実験により,崩壊する風波乱流場での飛散液滴および巻き込み気 泡の諸特性量を明らかした.その結果,以下のことが明らかになった. 1. 風波乱流場において,液滴の飛散量は摩擦速度と有義波高で無次元化した鉛直方向距離を用い ると吹送距離によらず同一の分布形で表され,摩擦速度の 8 乗に従って増加する.また,飛散 液滴の気流との相対速度,径の分布は吹送距離に依存しない. 2. 風波乱流場において,周囲流との相対速度,径の分布スペクトルは吹送距離に依存しない.し かし,吹送距離が大きくなるに従い巻き込み気泡の数密度の鉛直方向距離に対する減少率が大 きくなる. 参考文献 (1) Komori, S., Shimada, T. & Misumi, R., Turbulence structure and mass transfer at a winddriven air-water interface, in Wind-over-Wave, Couplings: Perspectives and Prospects (edited by S.G. Sajjadi, N.H. Thomas & J.C.R. Hunt) (1999), 273-285, Oxford University Press. (a) x=5m (b) x=10m 図 10: Relation between bubble concentration, Θ, and friction veocity, u∗ . (a) x=5m (b) x=10m 図 11: Vertical distributions of bubble concentration, Θ. (2) Wanninkhof, R., Asher, W.E., Weppernig, R., Chen, H., Schlosser, P., Langdon, C. & Sambrotto, R., Gas transfer experiment on Georges Bank using two volatile delibera tracers, J. Geophys. Res., 98-C (1993), 20237-20248. (3) Farmer, D.M., McNeil, C.L. & Johnson, B.D., Evidence for the importance of bubbles in increasing air-sea gas flux, Nature, 361 (1993), 620-623. (4) Merlivat, L. & Meméry, L., Gas exchange across an air-water interface: experimental results and modeling of bubble contribution to transfer, J. Geophys. Res., 88-C (1983), 707-724. (5) Andreas E.L., A New sea spray generation function for wind speeds up to 32m s−1 , J. Phys. Oceanogr., 28 (1998), 2175-2184. (6) Broecker, H.C. & Siems, W., The role of bubbles for gas transfer from water to air at higher windspeed. Experiments in the wind-wave facility in Hamburg, in Gas Transfer at Water Surfaces (edited by W. Brutsaert & G.H. Jirka) (1984), 229-236, Reidel. (7) Johnson, B.D. & Cooke, C., Bubble populations and spectra in coastal waters: a photographic approach, J. Geophys. Res., 84-C (1979), 3761-3766. (8) Geiβler, P. & Jähne, B., Measurements of Bubble size Distributions with an Optical Technique Based on Depth from Focus, in Air-Water Gas Transfer (edited by B. Jähne & E.C. Monahan) (1995), 351-362, AEON Verlag & Studio (9) Hsu, Y.H.L., Hwang, P.A. & Wu, J., Bubbles produced by breaking wind waves, in Gas Transfer at Water Surfaces (edited by W. Brutsaert & G.H. Jirka) (1984), 221-227 Reidel. (10) Baldy, S. & Bourguel, M., Measurements of bubbles in a stationary field of breaking waves by a laser-based single-particle scattering technique, J. Geophys. Res., 90-C (1985), 1037-1047. (11) 松永信博,櫨田操, 鵜崎賢一, 強風によって輸送される白波砕波上の飛沫量と風応力の関係, 土 木学会論文集, No.635/ -49 (1999), 113-126. SOLAS Summer School への参加報告 工学研究科機械理工学専攻 丹野 賢二 1. はじめに 本 COE プログラム( 「動的機能システムの数理モデルと設計論 – 複雑系の科学による機械工学の新た な展開-」 )の助成を受け,2004 年 8 月 29 日より 9 月 9 日まで約二週間にわたってフランスのコルシカ 島にて行われた SOLAS Summer School に参加する機会を頂いた.本稿はそのときの様子と所感を報告す るものである. 2. SOLAS Summer School について 2.1 SOLASについて SOLASとは「Surface Ocean-Lower Atmosphere Study」の略であり,大気・海洋間 の相互作用を解明することで,今後の気候変動に及ぼす影響および気候変動による影響を解明するため の国際的な研究の枠組みである.その研究目標は, 「大気・海洋間において重要な生物化学的過程と物理 過程との間の相互作用およびフィードバックを定量的に解明すること,およびこの複雑な系がどのよう に気候および環境変動に影響を与え,また影響を受けているかを解明すること」である.また,大気・ 海洋間について取り扱うSOLASと同様に,海洋・陸域間にはLOICZ,大気・陸域間にはiLEAPSと呼ばれる 枠組みが存在する. 2.2 Summer School について SOLAS は立ち上がって間もない枠組みであるため,今後の SOLAS に関す る研究を担う若い研究者(とその卵)を育成することが Summer School の目的である.今回の Summer School には世界各地から約 200 名の応募があり,その中から書類審査により選ばれた約 70 名の参加者 と,約 20 名の講師を招いて行われた.日本人の参加者は私を含めて 5 人であった.参加者の国籍は様々 であり,アメリカとヨーロッパを中心に世界中から参加者が集まった.またその専門分野も,海洋物理 学,海洋化学,大気科学,気象学,海洋生物学など多岐にわたっており,その研究手法についても観測, 室内実験,モデリング,衛星データ解析と,非常に幅広い分野から若手研究者が参加した.参加者は博 士課程の学生がほとんどであり,このようなことから も,本 Summer School の教育的意味合いの強さがわか る. Summer School はコルシカ島西岸の Cargese という 小 さ な 町 の 外 れ に あ る Institute d’Etudes Scientifiques という海沿いの研修施設にて行われた. (図1)この施設は一つの大きな講義室と幾つかの小 さな講義室からなる小規模の施設であった.大きい方 の講義室を使う場合でも,参加者全員が入ろうとすれ ば席を詰めて座らなければならないほどであり,体の 大きい欧米人の間に挟まれた場合には少々手狭な思い をした.Summer School 期間中は学生達は,歩いて 30 分ほど離れた町のアパートで共同生活をしたり,この 図1:Institute d’Etudes Scientifiques 施設の近所で自分でキャンプ生活をして生活した. 3. Summer School の内容 Summer School の内容は, 「講義」と「実習」の二つに大別される.最初の三日間と最後の四日間は「講 義」が行われ,その間の三日間に「実習」が行われた. 3.1 講義 講義のある日は朝の 9 時から夕方 6 時半まで,1 時間半の講義を 4 つ受講する.また,講 義が終わったらそれで終わりというわけではなく,その後軽い食事を取りながら参加者が各々の研究を 発表する時間が取られた.最初の三日間はポスター発表によるもので,最後の四日間には口頭発表によ るものであった.このように,朝から晩までみっちりとカリキュラムが組まれており,決して夏休み気 分で参加したものではないことは強調しておきたい. 次に実際に受講した講義の課目であるが,大気科学,海洋化学,海洋生物,沿岸環境,大気・海洋間 でのガス交換,海洋表装の循環,鉄サイクル,エアロゾル,DMS サイクル,地球温暖化,炭素循環,モ デリング,リモートセンシングなど,非常に多岐に渡った.また講義に進め方は,非常に基礎的な部分 の説明に始まり,その研究分野の現在の動向までをまとめたものが多かった.講義はもちろん英語で行 われた.専門分野ならともかく,初めて聴く分野の講義が多かったため,最初のうちはスピーチをちゃ んとフォローできるか不安でしょうがなかった.しかし,講師陣はだいたい聞き取り易い発音で割とゆ っくり話してくれたため,そのような不安は杞憂に終わ った.また,講義の雰囲気であるが,疑問を持った参加 者がいれば即座に質問し,講師の方も多少授業が滞ろう ともお構いなしとばかりに熱弁を奮った.このようなア グレッシブな授業は(私が受けた中では)日本での大学 の講義の中ではほとんど目にかかることできなかったも のであり,海外の研究者(の卵)達の意識の高さを感じ た.また,私は機械工学の立場から大気・海洋間のガス 交換についての研究を行っているが,学部生時代に受け た講義は工学に関するものがほとんどであり,このよう に大気科学,海洋科学に関する基礎的な講義を集中的に 受講できたのは非常によい経験であった. 図2:ポスターセッションの様子 ポスターセッションに用いるポスターは各自が出発前 に作って持ってきたものを用いた.ポスターセッション に充てられた三日間をそれぞれ「大気」,「海洋」,「大 気・海洋の界面」とテーマ毎に分け,自分のテーマに則 した日に発表を行った.私の研究テーマは「大気・海洋 間のガス交換」を「室内実験」から取り組むものであり, 参加者の中では非常にマイナーなテーマであったため, 始めるまでは人が来てくれるか非常に不安であったが, いざ始まってみれば,食事を取る暇がないほど多くの人 が話を聞きに来てくれてホッとしたことを覚えている. また,ポスターセッションは屋外で行われた(図 2) .勿 論スペースの問題もあったであろうが,参加者が開放的 図 3:口頭発表の様子 な気分で討論できるように,という気配りもあったよう にも思う. 最後の四日間の講義終了後は各参加者の口頭発表に充てられた(図 3) .発表時間は 4 分と短く,的確 に要点をまとめる必要があった.後述するが, 「実習」の中で口頭発表を指導してもらえる時間があり, その成果があったのだろう,発表した後は周囲の人間から口々に「良かった」と言ってもらえた.この 発表が終わった後は随分安心したものである. また,ポスターセッションと口頭発表は参加者全員がそれぞれを採点し合い,得点の高かった上位 3 名が表彰された.ポスターセッションの方はそこまでの手ごたえはなかったが,口頭発表の方は結構褒 められたりしたため、ひょっとしたら?と淡い期待を抱いていたのだが,残念ながら表彰の際に私の名 前が呼ばれることはなかった.さらに研鑽を積めというコルシカの神様のお告げだったのであろう. 3.2 実習 実習は, 「海洋観測とその際得られたサンプルの測定と解析」 , 「屋外での大気・海洋間の ガス交換」 , 「モデル」 , 「口頭発表指導」 , 「論文執筆指導」の 4 つのうち 3 つを参加者がそれぞれ選択す るもので,私は「海洋観測とその際得られたサンプルの測定と解析」 , 「屋外での間のガス交換」 , 「口頭 発表指導」を選択した. 海洋観測では,小型の観測船(図 4)に乗り港から 7km ほ ど離れた地点で海水試料およびプランクトンの採取,クロロ フィル測定用のろ過作業を行った.大気・海洋の研究を行っ ている身でありながら,実際に観測船に乗って海に出るのは これが初めての経験であった.航海は心配していた船酔いも なく,気持ち良い海の風を受けて順調に進んだ.しかし,こ れはたかだか半日程度の航海であり,実際の観測ともなれば 一ヶ月や二ヶ月の航海は当たり前である.洋上でそれほど長 期に渡って観測生活を行う観測分野の研究者達には頭が下が る思いがした.航海終了後,採取したサンプルを研修施設内 に作られたラボに持ち帰り,栄養塩および塩分濃度測定,プ 図4:海洋観測船 ランクトンの観察, クロロフィル濃度の測定を行った. また, その結果をまとめたレポートをグループのメンバーで協力して作成した. 「屋外での大気・海洋間のガス交換」と題して行われた実習では,実際にガス交換量の測定はせず, 沿岸部において高さを変えて風速できる装置を設置し,超音波風速計を用いて風速の測定を行った(図 5) .また,測定値から界面での摩擦速度,および海上 10m での 風速を対数式より求めた.室内実験とは言え同様の研究をして いる自分からすると,半日でガス交換量の測定を行うのは時間 的に厳しいだろうしやむを得ないとは思ったが,事前には屋外 でのガス交換量の測定を行えるものと思って参加しただけに, ガス交換量の測定を経験できなかったのは残念だった.この点 についてはほぼ全ての参加者が同じ感想を頂いていたようであ る.ちなみに,この実習を担当した講師は面識のある研究者で あったため,大いに手伝わされた. 口頭発表指導では,各自が事前に準備してきた 4 分間の発表 を行い,それを講師が厳しく指摘したり,同じグループの中の 参加者同士でアドバイスしあったりした.一人当たり 4 分の発 表時間に対して,30 分から 1 時間かけて見てもらう相当濃密な 指導であったが,その甲斐あってこの実習を受けた者の発表は 見違えるように良くなっていた.また,英語での発表を外国人 図 5:屋外での風速測定の様子 にここまでしっかり見てもらう機会はなかなか得られるもので はないと思うし,今更ながら貴重な体験であったと思う.ちな みに,参加者の発表を一通り聞いてみると,英語圏の人間だから発表が上手とか,アジアの人間だから 発表が苦手といったことはなさそうで,要は個人個人の問題なのだと感じた. 4. コルシカ島での生活 コルシカ島での生活についても述べさせて頂く.私が滞在していたのは 8 月末から 9 月上旬という日 本ではまだ残暑の厳しい時期であったが,地中海の島だけあってコルシカ島はからっとした気持ちのい い陽気が続いた.ともすれば,朝晩などは寒いと感じたほどである.宿舎と研修施設のあった Cargese という町は非常に静かでのんびりした雰囲気の町 で(図 6) ,このような研修をするのには最適な場 所であった.ヨーロッパ本土からバカンスに来て いるという人達にも出会ったが,心からのんびり しに来ているようだった.また,フランスだけに さぞ料理はおいしいと思われるだろうが,地理的 にもコルシカ島はフランスよりイタリアに近く, レストランのメニューもピザやスパゲッティが多 かった.イタリアに近いにも関わらずスパゲッテ ィの味はイマイチで,外食するときはだいたいピ 図 6:Cargese の風景 ザを食べていた.短期間にあれだけピザを食べる という経験は人生の中でも最初で最後になるので はないだろうか.値段については,ヨーロッパ諸国 と同様に外食は高かった. 滞在中の宿舎は,Cargese の町の中にある小さな 家(図 7)をユトレヒト大学から来ている日本人の 方と二人で使った.二人で使うには十分な広さがあ り,家具,電化製品も完備してあって快適な生活が できた.同居人が日本人であれば,当然家での会話 は日本語である.語学力向上という意味ではあまり 良くない環境であったかもしれないが,昼間は散々 英語を聞いているし,日本語でゆっくり昼間のグチ などを言い合ったりしたのは,慣れない生活の中で よい気休めであったと思っている. 図 7:滞在中の宿舎 5. まとめ 今回 SOLAS Summer School に参加することで,専門知識のすそのを広げ,語学力の向上ができたと考 えている.しかし,自分にとって一番有意義であったのは,専門分野は異なるにも関わらず,研究目的 を共にしている多くの研究者達と知り合えたことである.彼らとは講義の時間のみならず,昼夜大いに 語らった.最初は自己紹介がてらお互いの研究を紹介しあうだけだったが,次第に彼等は自分の研究に 対して遠慮せずに,彼等の感じたことを言ってくれるようになった.そのような指摘を受けたことは, 自分の研究を新たな視点で見るいい機会であったように思う.今回の経験は単に国際学会に参加しただ けではなかなか得難いものであり,非常に充実した海外研修であったと考えている. 6. 謝辞 今回このような機会を与えて頂いた本 COE 拠点リーダー 航空宇宙工学専攻 土屋和雄 教授,流体 グループリーダー 小森悟 教授をはじめとする関係者の皆様に心より感謝いたします.また,SOLAS Summer School における講師の方々と運営スタッフの皆様に深く感謝いたします. 直線渦管に巻き込まれたらせん渦層のエネルギー散逸 工学研究科航空宇宙工学専攻 河原源太* Abstract: Energy dissipation in spiral layers of high azimuthal vorticity around a straight vortex tube is investigated analytically. Asymptotic expressions of local and total viscous dissipation are obtained for the spiral vortex layers. When a vortex tube, which aligns with a uniform shear flow of a shear rate S, starts with a vortex filament of circulation Γ at an initial instant t = 0, it wraps and stretches background vorticity lines around itself to form double spiral vortex layers of intense dissipation. The contribution of the spiral 4/3 layers to total dissipation per unit axial length is evaluated to be 1.29πν 2S 2 (Γ/2πν ) t at large vortex Reynolds numbers Γ/ν � 1, ν being the kinematic viscosity of fluid. There exists the critical time after which the contribution of the spirals to the total dissipation dominates that of the tube. The contribution to turbulent energy dissipation from spiral structures around a tubular vortex at a large-Reynolds-number limit is also discussed based upon recently reported direct numerical simulations and the present analysis. Key words: Spiral Vortex Layer, Vortex Tube, Energy Dissipation, Turbulence 1. はじめに 様々な乱流場において渦度の集中した管状渦構造が広く観測されており,エネルギーの大半が この管状構造で散逸されるものと古くから考えられている [1].一方,渦管以外でエネルギー散逸 を担う構造としては層状渦が考えられるが [2],乱流中の渦層構造については未だ十分な理解が得 られていない.本報告では,この層状構造,特に実際に乱流場で観測されているらせん状の渦層 におけるエネルギー散逸を解析的に議論する. らせん状構造の生成メカニズムとしては次の2つが考えられる.その1つは渦層の Kelvin– Helmholtz 不安定であり,渦層が巻き上がって渦管を形成すると,巻き上がった渦層自身は渦管ま わりに2重らせんを形成する [3].このメカニズムで生成される渦層は,層内の渦度が渦管に平行 になる,いわゆる Lundgren [4] のらせん渦層に相当する.これに対して,渦管が弱い渦度場の中 に存在するときには,渦管は周囲の渦線を自分自身に巻き付け,かつ伸長し,2重らせん渦層を 発生させる [5], [6], [7].この場合は,巻き込みによる渦度の伸長・強化の結果,らせん渦層内の 渦度は渦管に垂直な成分が支配的になる.つまり,渦線の巻き込みによって生成される Moore の らせん渦層は,層内での渦度が渦管に垂直になる点で,Lundgren のらせん渦層とは異なることに 注意されたい. 最近,Kida and Miura [8] は,一様等方乱流の直接数値シミュレーションにおいて,渦管に垂直 な渦度成分をもった2重らせん渦層,つまり Moore のらせん渦層が実際に乱流場中に存在するこ とを示した.本報告では,この Moore のらせん渦層に伴うエネルギー散逸について考える [9]. 2. Moore のらせん渦層 x 軸方向の一様剪断流 Sy における,x 軸を中心軸にもつ直線渦管を考える.ここに S (> 0) は剪断率である.渦管の渦度は x の正の方向を向いているものとし,その循環を Γ (> 0)とす る.この流れ場は Moore [5] が取り扱ったものと全く同一である. 流れが非圧縮で,かつ x 軸に沿って一様であると仮定すると,速度場 v(y, z, t) および渦度場 ω(y, z, t) が ∂ψ ∂ψ v = u ex + ey − ez , (1) ∂z ∂y ω = −∇2 ψ ex + ∂u ∂u ey − ez ∂z ∂y (2) と表せる.ここに,ex ,ey ,ez は x,y ,z 方向の単位ベクトルであり,u(y, z, t) は速度の x 方向 成分,ψ(y, z, t) は速度の y ,z 成分の流れ関数を表す.∇2 = ∂ 2 /∂y 2 + ∂ 2 /∂z 2 は2次元 Laplace _______ * 平成 17 年 10 月より大阪大学大学院 基礎工学研究科 機能創成専攻 教授 作用素である. 流れ関数 ψ の時間発展は(x 方向)渦度方程式 ∂(ψ, ∇2ψ) ∂ − ν∇2 ∇2 ψ − =0 ∂t ∂(y, z) (3) に支配される.ここに ν は流体の運動粘性係数である.ここでは ψ の初期条件として ψ(y, z, t = 0) = − なる強さ Γ の渦糸を与える.ここに r = y 2 + z 2 この初期条件の下で式 (3) の解は Γ ψ(r, t) = − 2π 1 2 Γ ln r 2π は x 軸(渦管の中心軸)からの距離を表す. 2 η 1 − e−ξ 0 (4) ξ dξ (5) と一意に決定され,対応する x 方向渦度成分は −∇2 ψ(r, t) = Γ −η2 e 4πνt (6) 1 となる.ここに,η = 12 r(νt)− 2 は相似変数であり,この解はいわゆる Lamb–Oseen 渦(軸対称拡 散渦)を表す(Saffman [10] 参照). さて,流れ関数 ψ が与えられると,x 方向速度成分 u の時間発展が Navier–Stokes 方程式 ∂(ψ, u) ∂ − ν∇2 u − =0 ∂t ∂(y, z) (7) によって決定される.ここでは,初期時刻で u が一様剪断流に等しい,すなわち u(y, z, t = 0) = Sy とする.式 (7) の解を変数分離された相似解の形 u = SrRe f (η) e−iθ に置くと,f に対して (8) (9) 2 3 Γ 1 − e−η f + 2η + f + i f =0 (10) η 2πν η2 なる常微分方程式が得られる.ここに,θ は (y, z) 平面における偏角である(y = r cos θ,z = r sin θ).f の境界条件は η = 0 で rf が正則,かつ η → ∞ で f → 1 となることである.この方 程式は Moore [5] によって得られたものである. 図 1 (a) は,Reynolds 数 RΓ = Γ/(2πν) = 100 に対して式 (10) を数値的に解くことにより得ら 1 れた渦管に垂直な渦度成分の大きさ (∂u/∂r)2 + r −2 (∂u/∂θ)2 2 /S を示したものである.時刻は 後述の臨界時刻 Stc = 2.94 にとった.図中には渦線が実線で示されている.渦管の誘導する r に 依存した周方向速度によって渦線が渦管まわりに巻き込まれて伸長され,強い周方向の渦度成分 をもった2重らせん渦層が形成されている. 式 (10) の高 Reynolds 数 RΓ = Γ/(2πν) 1 における漸近解は Moore [5] によって導出されて おり,さらにその解は Kawahara et al. [6] により任意の方向を向いた渦管に対して拡張されている. 1 1 高 Reynolds 数における遠方場 r (Γ/2πν) 4 (νt) 2 での近似解は RΓ R2 f ≈ exp i 2 − Γ6 4η 48η (11) で与えられる.解 (11) は渦管の遠方でのらせん渦層,つまり渦糸まわりの粘性らせん渦層を表し, したがって渦管の内部構造の詳細には依らない一般性の高い漸近解であることに注意されたい. y y z (a) z (b) 図 1.渦管垂直方向の渦度成分の大きさおよびエネルギー散逸率の空間分布.Γ/(2πν) = 1 100,St = 2.94.実線は渦線を表す.図の対角線の長さは 40(νt) 2 である.(a) 渦管垂直 方向の渦度成分の大きさ (∂u/∂r)2 + r −2 (∂u/∂θ)2 DS )/(νS 2). 1 2 /S .(b) エネルギー散逸率 (DT + 3. エネルギー散逸 単位質量あたりの粘性散逸率 Φ は Φ(r, θ, t) = νS 2 + DT + DS (12) で与えられる.ここに,νS 2 は一様剪断流の寄与であり, ∂ 2 ψ 1 ∂ψ − ∂r2 r ∂r DT (r, t) = ν DS (r, θ, t) = ν 2 ∂u ∂r 1 + 2 r 2 , ∂u ∂θ 2 (13) −S 2 (14) は,それぞれ渦管およびらせん渦層に伴うエネルギー散逸を表す.図 1 (b) は,図 1 (a) に示した流 れ(RΓ = 100,St = 2.94)に対するエネルギー散逸率 (DT + DS )/(νS 2 ) の空間分布を示す.図 中には図 1 (a) と同様に渦線が実線で示されている.エネルギー散逸分布には,渦管に伴う円環状 の高散逸領域まわりに2重らせん渦層に伴うらせん状高散逸領域が形成されている. 渦管から(渦管方向単位長さあたりの)総エネルギー散逸への寄与は 2π ∞ dθ 0 r drDT = 0 Γ2 2πt ∞ ηdη 0 1 1 2 − 1 + 2 e−η η2 η 2 = Γ2 8πt (15) と評価される.一方,らせん渦層からの寄与は 2π ∞ r drDS = 8πν 2 S 2 I0 t dθ 0 と表され,積分 I0 は ∞ I0 = η dη 0 (16) 0 1 2 2 |ηf | + 12 η(|f |2) + |f |2 − 1 (17) で与えられる.高 Reynolds 数 RΓ = Γ/(2πν) 1 での I0 の漸近形は (11) を用いて I0 ≈ 2 −3 − 23 3 Γ( 13 ) Γ 2πν 4 3 (18) 10 2 10 1 I0 100 –1 10 –2 10 0 10 1 10 10 2 Γ/(2πν) 図 2.積分 I0 の Reynolds 数依存性.実線は数値解,破線は漸近形 (18) を表す. と表される.ここに Γ はガンマ関数である.この漸近形 (18) は図 2 に示すように比較的低い Reynolds 数においてもよい近似を与える.(16),(18) から,高 Reynolds 数におけるらせん渦層の 寄与は 4 2π ∞ Γ 3 2 2 dθ r drDS ≈ 1.29πν S t (19) 2πν 0 0 と評価される. 渦管の総エネルギー散逸 (15) は時間とともに減少し,一方らせん渦層のそれ (16) は時間ととも に増加する.したがって,両者は − 12 Stc = 14 I0 Γ 2πν 1 3 (20) なる臨界時刻で等しくなり,t > tc ではらせん渦層のエネルギー散逸が渦管のそれを上回ること になる.Γ/(2πν) 1 では,(18) を用いて Γ Stc ≈ 0.623 2πν 1 3 (21) が得られる.図 3 に臨界時刻 tc の Reynolds 数依存性を示す. さて,ここで Moore のらせん渦層に伴うエネルギー散逸を直観的に解釈してみよう.渦糸に誘 導される周方向流れによる渦軸方向速度成分 u の移流拡散は Γ ∂u ∂u + = ν∇2 u ∂t 2πr 2 ∂θ (22) に従う.ν = 0 に対する式 (22) の非粘性解は,初期条件 (8) の下で u = Sr cos θ − Γt 2πr 2 (23) となる.この解中の余弦関数はらせん θ − Γ t/(2πr 2 ) = const. 上で同一位相となる.らせんの 間隔 ∆r は,上式において θ が π だけ変化したときの r の変化分であるので,双方の変化分の 関係 (Γ t/r 3 )∆r ∼ ∆θ ∼ 1 から ∆r ∼ r 3 /(Γ t) と与えられる.らせん渦層に伴う速度勾配は u/∆r ∼ SΓ t/r 2 となる.したがって,非粘性らせんでは,r がゼロに近づくにつれ(渦糸に近づく につれ),らせんの間隔 ∆r はゼロに近づき,その結果,速度勾配は無限大になる.しかし,実際に は r が小さくなると粘性の影響が現れ,式 (22) における非定常項と粘性項とが釣り合うことにな 5 4 3 Stc 2 1 0 0 10 10 1 10 2 Γ/(2πν) 図 3.臨界時刻 tc の Reynolds 数依存性.実線は数値解,破線は漸近形 (21) を表す. る.両者の釣り合い 1/t ∼ ν Γ t/r 3 2 1 1 から,釣り合いが実現する半径方向位置は r ∼ (Γ/ν) 3 (νt) 2 1 1 となる.この位置では,らせんの間隔は ∆r ∼ (νt) 2 であり,速度勾配は最大値 u/∆r ∼ S (Γ/ν) 3 2 をとり,エネルギー散逸率も最大値 ν (u/∆r)2 ∼ νS 2 (Γ/ν) 3 をとる.したがって,らせん渦層の 1 1 総散逸率のオーダーは,この r ∼ (Γ/ν) 3 (νt) 2 なる散逸最大領域からの寄与で決まり, ν u ∆r 2 Γ ν 2 3 νt ∼ ν S 2 2 Γ ν 4 3 t (24) と評価される.この直観的な評価 (24) は,厳密な漸近形 (19) のオーダーと一致している.散逸最 大領域のエネルギー散逸率は時間に依らず一定である.らせん渦層の総散逸率が時間 t に比例し て増加するのは,渦線の巻き込みによってらせん渦層の全断面積 O(Γ t) が時間 t とともに線形に 増加するためである. 4. 乱流におけるらせん渦層のエネルギー散逸 従来,乱流におけるエネルギー散逸の多くが渦管によってなされるものと考えられてきた.し かし,最近この考えに対する否定的な結果が Jiménez et al. [11],[12] によって報告されている.他 方,本報告第 3 章の結果から,渦管よりむしろらせん渦層のエネルギー散逸が重要であることが 示唆される.そこで,以下では乱流場における高 Reynolds 数での渦管とらせん渦層のエネルギー 散逸について考察する. 1 乱れの速度と渦度の平均強度を以下 u ,ω と書くと,Kolmogorov 長は (ν/ω ) 2 の程度であり, また Taylor 長は λ ∼ u /ω となる.Taylor 長に基づく Reynolds 数を Rλ = u λ/ν とする.この Rλ を用いると,積分長は L ∼ λRλ となる.いま渦 Reynolds 数,および体積 L3 の領域内での渦 β 管(そしてらせん渦層)の全長 l がそれぞれ Γ/ν ∼ Rα λ ,l/L ∼ Rλ のように Taylor 長 Reynolds 数 Rλ でスケーリングされるものとしよう.また,乱流中の渦管は Kolmogorov 長程度の径をもつ Burgers 渦(伸長拡散渦,Saffman [10] 参照)で近似できると仮定すれば,その場合,渦管の伸長 率は σ ∼ ω になる.さらに,渦管まわりの渦度強度は O(ω ) であると考えられるので,(19) にお ける剪断率(直線渦周囲の渦度)は S ∼ ω である.前述のように,らせん渦層の断面積は巻き込 みのため時間とともに増加するので,時間 L/u での平均的な断面積を考えることにする. 以上の仮定の下に渦管からの寄与を考えると,その体積占有率および乱流エネルギー散逸への 寄与率はそれぞれ (Γ 2 σ)l (ν/σ)l β−3 ∼ R , ∼ R2α+β−3 (25) λ λ L3 (νω 2 )L3 と評価される.一方,第 3 章の結果を用いると,時間 L/u にわたる平均的ならせん渦層の体積占 有率および散逸への寄与率はそれぞれ 2 2 [ν(Γ/ν) 3 L/u ]l α+β−2 ∼ Rλ3 , 3 L 4 4 [ν 2 S 2 (Γ/ν) 3 L/u ]l α+β−2 ∼ Rλ3 2 3 (νω )L (26) となる. 最近の一様等方乱流の直接数値シミュレーションに基づく低圧力渦の詳細な解析 [13] によれ ば,渦 Reynolds 数および渦管の全長のスケーリング指数は α = 0.15,β = 2.15 である.そこで, α ≈ 0,β ≈ 2 として乱流中の渦構造の体積占有率と散逸への寄与率を見積もると,渦管に対して は,式 (25) から体積,散逸のいずれも R−1 λ が得られ,らせん渦層に対しては,式 (26) から体積, 散逸のいずれも R0λ が得られる.この評価では,高 Reynolds 数極限 Rλ → ∞ での渦管の寄与は 消えてしまうが,らせん渦層の寄与の方は有限値に保たれることになる. 以上の結果は,もし仮に Jiménez et al. [11],[12] が主張しているように高 Reynolds 数乱流中の 渦管自身のエネルギー散逸への寄与が小さいとしても,少なくとも渦管まわりに形成されるらせ ん渦層においては,高 Reynolds 数でも乱流エネルギー散逸への重要な寄与がなされることを示唆 している. 参考文献 [1] H. Tennekes, Simple model for the small-scale structure of turbulence, Phys. Fluids 11 (1968), 669. [2] S. Corrsin, Turbulent dissipation fluctuations, Phys. Fluids 5 (1962), 1301. [3] T. Passot, H. Politano, P. L. Sulem, J. R. Angilella, and M. Meneguzzi, Instability of strained vortex layers and vortex tube formation in homogeneous turbulence, J. Fluid Mech. 282 (1995), 313. [4] T. S. Lundgren, Strained spiral vortex model for turbulent fine structure, Phys. Fluids 25 (1982), 2193. [5] D. W. Moore, The interaction of a diffusing line vortex and aligned shear flow, Proc. R. Soc. Lond. A399 (1985), 367. [6] G. Kawahara, S. Kida, M. Tanaka, and S. Yanase, Wrap, tilt and stretch of vorticity lines around a strong thin straight vortex tube in a simple shear flow, J. Fluid Mech. 353 (1997), 115. [7] D. I. Pullin and T. S. 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Kida (2002), p 229. ストックホルム武者修行報告 工学研究科航空宇宙工学専攻 樋渡 一晃 1. はじめに COE武者修行制度のサポートにより,11月4日からおよそ 12月2日までスウェーデン・ストックホルムにある王立工科大 学 (KTH) にて回転平板クエット流に関する実験を行いました. 本レポートは,その実験成果およびストックホルムでの滞在につ いてまとめたものです.私にとっては初めての外国での滞在でし たが,スウェーデンの国柄・知り合った人々に多く助けられ,と ても楽しい一ヶ月間をすごすことができました. 2. ストックホルムおよび王立工科大学について 図 1が,スウェーデンとストックホルム市の位置を示す地図です. この地図は日本語版 Wikipedia (スウェーデン) より転載しました.か なりの高緯度に位置する国で,確かに気温は低かったのですが,寒 くて不快に思ったことはありませんでした.北大西洋海流の影響を強 く受けているおかげで,緯度の割には暖かいと聞きました.実際,滞 在中にストックホルムと日本の気温を比較していましたが,北海道の 気温とあまりかわらない程度で前後していました.ストックホルム市に ついて特に印象に残っているのは,その町の美しさです.「北欧のヴ ェネツィア」と呼ばれているらしく,映画のような町並みでした.宮崎駿 監督のアニメ「魔女の宅急便」のモデルの1つであるらしく,確かに似 図 1 スウェーデン・ストックホ た印象を受けました.滞在中に大学近辺をよく散歩していたのですが, ルムの位置 町の美しさとともに印象に残っているのが,科学をモチーフにした芸 術作品です.大学の近くという事情もあるのでしょうが,磁力線とマクスウェル方程式を書いた絵や,カルマン 渦を描いたものを見かけました.王立工科大学はストックホルムの中心から地下鉄で数分の位置にある大学で す.大学の名前を冠した地下鉄の駅を登るとすぐに大学構内なのですが,そのすぐそばにはセブンイレブン があります.(ストックホルムいたるところにセブンイレブンがありました.) 大学周辺だけでも寿司屋・カレー屋, さらにはラーメン屋までもがあり,食生活に関しては日本での生活と同じように過ごしていたと思います. ストックホルムおよび王立工科大学 図 2 SUSHI バー(1)(ストックホルム中心街 にて)ストックホルムでは寿司の人気が高く,か 図 3 SUSHIバー(2) (中心街から2駅南) このお店 では,メニューに日本食の定食が多くありました. なりの頻度でスシ・バーを見かけました. 3. 実験について それでは,KTHにて行った実験について報告しま す.実験は,回転平面クエット流について基本流から の遷移過程について調べました.回転平面クエット流 の形態を,図 4 に記します.この回転平面クエット流 の流れ場は,2つの無次元パラメータにより記述されま す.それらのパラメータ R , Ω は,次の式で定義されま す. R= V *h* Ω= , 2Ω *0 h * 2 (1) ν ν ここで,ν は動粘性係数です. 図 4 Physical configuration of rotating plane Couette 本実験は,Tillmark & Alfredsson (1992) [3] で用いられた平板クエット流のための実験装置を用いました. 系に回転を与えるために,本実験では平板クエット流の 実験装置は回転する台の上に置かれています. この実 験装置は2つのタンクと横 1500mm, 高さ 360mm からなる 観測部から作られ,水で満たされています(図 5).観測 部はガラス板により構成され,壁間の長さ 2h * は 10mm に 設定しました. この実験装置では,ベルトの速度は最大 0.16 m/s まで動作し,回転台の速度は 0.55 rad/s まで 図 5 実験装置概略 (W = 360mm ) 上げることができます. これらの速度は,ガラス壁間が 10mm の場合,レイノルズ数 R=800 および回転パラメータ Ω=27.4 に対応します.観測部におけるクエット流 れは,透明なループ状のベルトにより駆動され,流体の流れを観測するために水には染料(Merck, Iriodin 120) が加えられています. 動粘性係数は,水槽に設置された水温計の値により計算しました.本実験を行った際, 水温は 17.7℃から 19.5℃の間で変動していましたので,動粘性係数を計算するために水の動粘性は 15℃で の値と 20℃での値を線形補完した式から計算を行ないました. 4. 実験結果 4.1 基本流からの遷移 回転クエット流の実験装置が妥当に作動するかを確認するために,基本流が安 定に存在する領域とロールセル形の不安定性により不安定になる領域の中立曲線を実験的に求め,理論 値とよく一致するかを確かめました.基本流からロールセルへと分岐する中立曲線は, R = Ω + 107. / Ω (2) により得られます.また,実線は実験結果から求めた 曲線であり,式 R =aΩ + b + c/Ω (3) の形の多項式にフィットするように最小二乗法を用い て計算を行ないました. 図 6 において◆で示され ている点が,もっとも低いレイノルズ数でロールセル を肉眼で確認できたところであり,破線は式(2)で計 算される理論値,実線が式(3)の形で補完された結 果となります. 実験をおこなう際,回転台の回転速度を一定にし, 図 6 Neutral stability curve obtained experimentally. 徐々に壁の速度を上げていきました.2次流れであ るロールセルは回転方向に周期的な流れ場を形成 します(図 7). 境界の影響から,実験装置底部に 比べて上部でのロールセルの波長が短くなる傾向が 存在しました.図 7 において,実験装置上部でのロ ールセルの波長は1.8 cm, 中央で2.0cm, 底部では 2.6cm となり,これらに対応する無次元化された波 数は,上部で 1.7, 中央で 1.6, 底部で 1.2 となりま す.理論値は1.56 [4] であるので,観測領域中央部 での値がもっとも理論値と近くなる結果を得ました. 4.2 3次流れへの遷移 次に,2次流れロールセルからさらに壁の速度を上 図 7 R=49.9, Ω=9.49 における実験結果 げ,3次流れへの遷移について調べました.永田 (1998)[2] によると,3次元構造をもつ流れ場は,レイノルズ数50では4.75<Ω<6.63 の領域で線形安定,レイノ ルズ数100では1.63<Ω<1.85,8.0<Ω<10.5 の領域で線形安定となります.はじめ,これらの領域に対応する3 箇所(R=48.4, Ω=5.51),(R=101, Ω=1.73),(R=100, Ω=9.31) で3次流れへの遷移が起こるかを調べまし た.これら3箇所のうち,もっとも明瞭に3次元構造を持った流れ場を観測することができたのが,パラメータ (R=100, Ω=9.31)での実験です.図 8 が,実験で撮影した流れ場の写真となります. また,この流れ場に対応する直接数値計算の結果を図 9 に示します. 図 8 で示されている流れ場につ いて,x方向(図では右方向)の波長は 8 cm ∼ 9 cm であり,これは無次元化された波数では 0.4 ∼ 0.35 に対応します. 数値解析で求められた3次流れの波数は 0.5 であり,この値に近い結果を得ています.この ことから今回観測された流れ場は,数値解析により求められ,線形安定が確認された3次流れと同一のもので あると考えられます.また,回転軸方向(y軸,図では上方向) の波長はロールセルも波長とほぼ同じであり,こ の場合も同様に,観測部底部では上部にくらべて波長が長くなっていました. パラメータ ( R=48.4, Ω=5.51 ) での条件でも,3次流れへの遷移が確認された. この場合では可視化され た流れ場は 図 8 ほど鮮明ではありませんでしたが,肉眼で3次元構造を持っていることが識別できる程度に は明瞭でした. パラメータ ( R=101, Ω=1.73) では上の2つの場合と異なり,3次元構造をもつ流れ場が一様に現れるこ とはありませんでしたが,,3次元構造をもつ流れ場が部分的に出現することはありました.この部分的な遷移 は,観測区間底部でのみ出現します.部分的に現れる3次元構造は一時的な流れ場であり,数分後にロール セルへと戻ります. この3次元構造は,出現・消滅を観測区間底部で繰り返していました. 図 8 R=100, Ω=9.31 において実験により求められ た流れ場の様子.渦をみている視点は,図 5 での直 接数値計算結果を可視化したものと同一である. 図 9 R=100, Ω=9.31 での直接数値計算での 結果.表示されている渦管の抽出は,Mitsuru & Kida(1993) [5] による. 濃い灰色で着色されて いる渦管は ω x > 0 ,他方は ω x < 0 である. 4.3 実験のまとめ 次に,上での実験からさらにレイノルズ数を上げ て実験をおこない,その結果をまとめたものが図 10 です.Ω=5.5 付近および Ω=10 付近では, 実験結果は理論的な予想とよく一致していました が,,回転が弱い Ω=2 付近では,理論とは異な る結果を得ています.パラメータ( R=101, Ω =1.73)からさらにレイノルズ数を上げた( R=149, Ω=1.73 ) でも,3次元構造を持つ不安定性が出 現し,数分後にロールセルへと戻ります.低いレイ ノルズ数の場合と同様に,この3次元構造は出現・ 図 10 実験のまとめ.実線は基本流とロールセルの 消滅を繰り返すが,この場合には3次元構造を持 間の中立曲線( 式(2) ).図中の記号は,×:ロールセ った不安定性は観測領域底部のみではなく,観測 ル,△:3D 不安定性が観測領域底部でのみ出現,▲: 領域全体にわたって観測されました. 3D 不安定性が観測領域全体で出現,○:定常な3次 この実験で,永田(1986)[1],永田 (1998)[2] に 流れへの遷移を意味する.グレーの太線は,数値解 より存在が予想された流れ場を実験的に確認する 析により3次流れが安定となった領域を示す. ことができ,実験的に測定された流れ場の波長が, 数値解析による予想とよく一致することが確認されました.今後の研究としては,理論と実験結果をよく比較す るために別の手法を用いての比較を行いたいと考えています.具体的には,PIV 法などにより実験での実際の 流れ場の様子を測定して,その結果を数値計算での結果と比較したいと考えています.また,基本流からの遷 移を調べたグラフ (図 6) のように,ロールセルの状態から3次流れへと遷移する領域を具体的に調べてい こうと考えています. 5. 最後に 今回の武者修行では,いつもの生活では得られない貴重な経験を得ることができました. ここで心から感 謝の意を述べさせていただきます. 特に,ストックホルムでの生活の手配から実験の指導まで面倒をみてい ただいた Alfredsson & Tillmark,一ヶ月という短い滞在にもかかわらず一緒に遊んでくれた研究室のみなさん, 本当にありがとうございました.今回,私にストックホルム滞在の貴重な機会を与えて下さった土屋先生,小森 先生,永田先生,それにCOE関係の事務に携わっておられる多くの皆様,本当にありがとうございました. 参考文献 [1] M. Nagata,Bifurcations in Couette flow between almost corotating cylinders.,J. Fluid Mech.,169 (1986), 229. [2] M. Nagata,Tertiary solutions and their stability in rotating plane Couette flow.,J. Fluid Mech.,358 (1998), 357. [3] N. Tillmark and P. H. Alfredsson, Experiments on transition in plane Couette flow., J. Fluid Mech., 235 (1992), 89. [4] D. K. Lezius and J. P. Johnston,Roll-cell instabilities in rotating laminar and turbulent channel flows.,J. Fluid Mech.,77 (1976),153. [5] M. Tanaka and S. Kida,Characterization of vortex tubes and sheets.,Phys. Fluids,A5 (1993),2079. ナノ・マイクロスケールの構造と振動・波動の相互作用の解明 工学研究科機械理工学専攻 松本 充弘 Abstract: Micro and nano scale thermofluidal phenomena are studied from the viewpoint of mass and energy transfer through various interfaces. The main achievements this year are: (i) Development of a hybrid simulation code, which is a combination of molecular dynamics calculation near and inside the bubble and continuum fluid dynamics in outside region of the bubble, to investigate nano bubble dynamics, and (ii) Molecular simulation study of nano droplet collision on solid surface, in which property of solid surface (hydrophilic/hydrophobic) and surrounding gas are found to have strong effects on the droplet behavior. Key words: Nano fluidics, Molecular dynamics simulation, Hybrid method, Nano bubble, Droplet collision 1. はじめに 本研究は,自然界や工学における様々な熱・流体現象の解明と制御のために,マイクロスケールの複 雑な構造をもつ界面と振動・波動の相互作用を明らかにすることを目的としている.特に,原子・分子 スケールからマイクロメートルスケールまでの階層性を念頭において,表面・界面を通しての物質やエ ネルギーの輸送機構の解明をめざして,研究を進めている.本年度に得られた主な成果は以下の通りで ある. 2. MD/連続体連成によるマイクロ気泡ダイナミクスの計算[1] キャビテーション,超音波による気泡駆動,衝撃波と気泡群の干渉など,気泡の激しい振動を理論的 に取り扱うには様々な困難がある.例えば,音速に近い速度で圧壊する気泡の挙動を解明することは, 物理的壊蝕やソノケミカル反応など工学分野でも重要であるが,高速な移動界面の取扱いといった技術 的な困難だけではなく,大非平衡状態での気液界面物性(表面張力など)や蒸発・凝縮現象の取扱いな ど,本質的に連続体描像でアプリオリに扱うことのできない重要な要素がある.我々が従来取り組んで きた分子シミュレーションからのアプローチでは,適当な分子間相互作用を選びさえすれば,連続体描 像の様々な仮定なしに,このような熱流体現象を取り扱えるが,計算資源の制約から扱える系のサイズ が限られてしまう. 本研究では,相補的な方法である,連続体計算と分子シミュレーションを組み合わせることにより, マイクロスケールの気泡ダイナミクスを調べることのできるハイブリッド計算コードの開発をめざした. 2.1 方法 最初の計算対象として,単一球形気泡の体積振動を取りあげた.気泡より十分遠方では物質 輸送・エネルギー輸送の時間変化は小さいため,連続体描像が成り立つとして,通常の数値流体計算を 行う.ただし,移動境界問題を扱うことになるため,計算スキームとして CIP法を採用し,簡単のた めに,球対称1次元の基礎方程式(連続の式,運動量保存の式,圧力変化の式)を数値積分した.ただ し,液相の熱容量が大きいことを考慮して,ここでは連続体領域の温度は近似的に一定であるとした. 気泡表面近傍ならびに気泡内部は,分子動力学(MD)法により粒子の運動方程式を数値積分して粒子 の位置を追跡した.ここでは,Lennard-Jones (LJ) 粒子間相互作用を仮定した.連続体領域とMD領域の 境界を,両領域からの圧力差により移動させることでハイブリッド計算を行う. 2.2 テスト計算系 仮想的に「水」に対応する計算パラメタを使用した.連続体領域の空間格子幅は 3 nm,時間刻みは 630 fs とした.MD領域は,111,160 個の粒子により構成し,時間刻みは 6.3 fs とし た.これにより,100MDステップごとに連続体領域の更新を行うことになる.300 K で初期半径 12 nm 程度の気泡の平衡状態を作成した後, 気泡遠方の圧力を瞬間的に増加して, 気泡の圧壊挙動を追跡した. なお,この計算コードでは,Xeon 3.2 GHz の単体計算で,50 万MDステップ(約 3 ns)に5日程度を 要した. 数密度分布 温度分布 圧力分布 r r r 図 1 ハイブリッド計算コードによる計算結果の例.プロファイル中の太い縦実線は,MD領域とCIP領 域の境界を表す. 2.3 計算結果の例 図1に,気泡の断面図,密度プロファイル,温度プロファイル,圧力プロファイル の例を示す.MD領域と連続体領域がうまくつながっていることがわかる.温度プロファイルから,気 泡が崩壊する途中では熱が気泡内から外向けに輸送され,リ バウンド後に気泡が膨張する際には熱輸送が逆転することが 示されている.なお,この条件では気泡は完全に崩壊・消滅 した後,均質核生成的な過程を経て再び出現・膨張する様子 が見られた.すなわち,リバウンド直後には,図2に示すよ うに小さな気泡核 bubble nuclei が瞬間的に出現し,それら が合体する.このため,リバウンド後は計算系の球対称性は 崩れている.非凝縮性のガスが封入されている「ガス気泡」 ではこのような現象は見られない. この計算コードでは,計算資源の制約から連続体領域は1 次元で取り扱ったが,球対称を仮定せず,3次元的に取り扱 図2 リバウンド直後の気泡核生成. うように拡張することは容易である.またMD領域を単原子分子モデルではなく,水などの現実的な物 質や,界面活性剤の表面吸着など複雑な系を扱うように拡張することも可能である. 3. 微小液滴の固体表面への衝突[2] 液滴をうまく制御して固体壁に衝突させる技術は,インクジェットプリンタ,スピンコーティング, ミスト冷却など様々な分野に利用され,最近ではリソグラフィを使わずに半導体回路を製造する技術と しても注目されている.本研究では,表面張力が支配的となるようなナノスケール液滴について,その 衝突挙動に影響を与える外的要因を検討する出発点として,分子動力学シミュレーションを行った. 3.1 方法 Lennard-Jones 相互作用をもつ粒子約 14,000 個からなる液滴を真空中で平衡化した後,一定 の並進速度を与えて固体壁に垂直に衝突させる.固体壁は,LJ 粒子が一様に分布していると仮定して, 半無限空間で LJ ポテンシャルを積分した形の相互作用 ⎡ 1 ⎛ σ ⎞9 1 ⎛ σ ⎞3 ⎤ Φ w ( z ) = 4παεσ ρ ⎢ ⎜ ⎟ − ⎜ ⎟ ⎥ ⎢⎣ 90 ⎝ z ⎠ 12 ⎝ z ⎠ ⎥⎦ 3 (1) を粒子に対して及ぼすものとする.ここで, ε ,σ はそれぞれ LJ 相互作用のエネルギーパラメタとサ イズパラメタである.また,固体壁の性質(親水性,疎水性)を調節するパラメタα を新しく導入した. さらに,ガス雰囲気の影響を検討するため,液滴周囲に反発力(soft core ポテンシャル) のみをもつガス 粒子を導入した系についても計算を行った. 検討した外的要因は次の4つである: ・・平衡化温度 T :LJ 流体の三重点温度近傍である 0.65 (アルゴンでは 78 K 相当)と,それより少し 高温の 0.75 (90 K)の2種類とした. ・初期並進速度V :ここでは,0.2, 0.4, 0.6, 0.8, 1.0, 1.25, 1.5, 2.0 の8通り (アルゴン換算で 32~320 m/s) を選んだ. ・固体壁との相互作用パラメタα :1.0, 0.5, 0.1 の3 種類とした.α = 1.0 は,固体壁が液滴と同じ“材質”で 構成されていることに対応し, “親水性 hydrophilic”と 言える.一方, α = 0.1 は,固体壁と液滴の相互作用が 非常に小さいことに対応し, “疎水性 hydrophobic” (あ るいは撥水性)である.このことは,静止液滴の接触角 (図3)からも裏付けられる. ・ガス雰囲気:LJ 粒子だけの系と,計算セル内に液滴と 同じ初期温度で 64,000 個のガス(soft core)粒子を均一 に分布させた系について比較する.これは 20 atm 程度 のガス圧に対応する. 3.2 計算結果 図4に,液滴の形状変化の代表例を示し た.液滴のサイズ,形状,接触面積などの解析から,次 のようなことがわかった: ・親水性の壁面上では液滴は衝突後大きく広がるが,疎 水性が強くなると衝突後にリバウンドする. ・真空中(液滴からの蒸気のみ)では液滴は衝突後容易 に広がるが,ガス雰囲気中では,広がりが妨げられる. これは,ガスが液滴の形状変化,特にフロントラインの 進行を妨げるためである. 図3 固体表面上での静止液滴(数密度の これらは,微小液滴の利用技術を開発する上で重要な 等高線) ;三重点温度近傍. 知見だと思われる. M M M 図4 固体壁への微小液滴衝突過程の例. (左)真空中,親水性壁, (中)真空中,疎水性壁, (右)ガ ス中,親水性壁.衝突速度は 160m/s,三重点温度近傍. 参考文献 [1] M. Matsumoto, S. Kinouchi, “Molecular Dynamics of an Oscillating Bubble”, 2nd International Symposium on Micro & Nano Technology (Hsinchu, Taiwan, 2006) to be presented. [2] 松本充弘・中澤伸之, “分子動力学法による微小液滴の固体表面への衝突シミュレーション”, 第 43 回日本 伝熱シンポジウム (名古屋, 2006) 発表予定. 実在表面の温度・ミクロ構造の熱ふく射スペクトル診断法の開発 工学研究科機械理工学専攻 若林 英信 Abstract: For the development of a better thermophotovoltaic (TPV) power generation system, we present an idea of a coefficient for evaluating the matching performance of such an emitter. The index compares the electric power gain for the case of the functional emitter with that for the case of a gray surface to which the same thermal energy as that to the functional surface is input. The ratio is noted as (COP) spec . We choose a high-temperature-air-oxidized nickel surface as an emitter candidate. This film system has a spectrally-selective emission function based on the radiation interference. We present a spectral experiment technique to determine the condition for fabricating the optimum film system. We make the optimum film system experimentally to clarify the reality of the excellent result of (COP) spec = 6. It is concluded that this film system is excellent in spectral performance, and that the system has a simple structure for the spectral characteristics to be controlled easily. This surface can be produced in a m2 -scale large area, and it is prospective for the thermal energy engineering application. Key wrds : Thermal radiation, Emission, Interference, Spectral selectivity, Functional surface, Thin film, TPV power generation. 1. はじめに 著者は,21 世紀 COE「動的機能機械システムの数理モデルと設計論」-複雑系の科学 による機械工学の新たな展開-の 2005 年度(平成 17 年度)のフロンティア研究助成プログ ラムにより,2005 年 9 月 27-29 日に大韓民国・ソウル・ソウル国立大学校にて開催された The Fifth Kyoto-Seoul National-Tsinghua University Thermal Engineering Conference に参 加した.表題の研究課題の研究成果の 1 つである Development of a Functional Surface for Emitting Spectrally-Selective Thermal Radiation (熱ふく射の分光選択放射機能をもつ表面 の開発) [1] について口頭発表した.また,上記 3 大学の熱工学の分野の研究者たちと議論 した.研究[1]の概要を述べることにより研究成果報告とする. 2. 熱ふく射の分光選択放射機能をもつ表面の開発 熱 工 学 の 分 野 で は , エ ネ ル ギ ー の 有 効 利 用 の 観 点 か ら , 熱 光 起 電 力 (TPV, thermophotovoltaic)発電 (図 1) が注目されている.この方式は,熱エネルギーから電力を得るにあた って,(熱エネルギー) → (ふく射エネルギー) → (電気エネルギー) というエネルギー変換 過程を経るものであり,力学的エネルギーへの変換を経ないという意味で直接発電的なも のである.実際には,あまり温度の高くない低質の熱源からおもに赤外域のふく射を得て, それをその波長のふく射に対して機能する光電変換素子で電気に変換することにより,エ ネルギーの有効利用を図ることが多い. この場合,熱エネルギーをふく射(radiation)のエネルギーに変換して放射(emission)する エミッターのふく射放射特性と,そのふく射を電気に変換する光電変換素子のふく射吸収 特性の波長マッチングが重要になる.すなわち,有効に電力になるふく射だけを放射させ ることによって,結果的にむだになる熱エネルギーを減少させる.ここで,光電変換素子 の分光特性の開発・制御はやさしくないので,よい分光選択放射機能性をもつエミッター の開発がまず期待される. そのようなエミッターとしては,物質の光学的性質に依存するもの [2] のほかに,表面 にふく射の波長のオーダの周期的な微細構造を加工したもの(格子系) [3, 4],表面に薄膜を 設けたもの(薄膜系) [5-7] などの表面におけるふく射の干渉特性を利用するものがある.著 者ら [5-7] は,金属の下地上に酸化物の単層薄膜を設けた簡単な系が,放射率スペクトル にシャープな干渉の放射帯をもつことを見出し,その薄膜系が上記の目的のためのエミッ ターの候補となることを示唆した.その系は,分光選択性に優れるのみならず,構造が簡 単で,分光特性の制御が容易であり,大面積のものが容易に製作できるという点で有望で ある. 本研究では,TPV 発電系のためのエミッターとして,1 種の金属酸化表面(薄膜系)に注 目し,その分光選択放射機能を評価する考え方を提案した.また,そのような表面の最適 設計・製作の手法を示し,そのような表面を試作して,その性能を分光実験によって検証 した. 図1 TPV 発電システムにおけるエネルギー変換の概要 参考文献 [1] Wakabayashi, H and Makino, T, Development of a Functional Surface for Emitting Spectrally-Selective Thermal Radiation, Proceedings of the Fifth Kyoto-Seoul National-Tsinghua University Thermal Engineering Conference, (2005), 31-38. [2] Sai, H., Yugami, H., Nakamura, K., Nakagawa, N., Ohtsubo, H., and Maruyama, S., Selective Emission of Al 2 O 3 /Er 3 Al 5 O 12 Eutectic Composite for Thermophotovoltaic Generation of Electricity, Japanese Journal of Applied Physics, 39-1 (2000), 1957-1961. [3] Hesketh, P. J., Gebhart, B. and Zemel, J. N., Measurements of the Spectral and Directional Emission From Microgrooved Silicon Surfaces, Journal of Heat Transfer, 110, (1988), 680-686. [4] Sai, H., Yugami, H., Akiyama, Y., Kanamori, Y., and Hane, K., Spectral Control of Thermal Emission by Periodic Microstructured Surfaces in Near-Infrared Region, Journal of the Optical Society of America, 78-2, A (2001), 1471-1476. [5] 若 林 英 信 ・羽 田 哲 ・纐 纈 尚 人 ・牧 野 俊 郎 , 実 在 表 面 の熱 ふく射 現 象 研 究 のためのスペクトル測 定装置, 機論, 67-660, B (2001), 2121-2128. [6] 牧野俊郎・若林英信, 実在表面の温度・ミクロ構造の熱ふく射スペクトル診断法, 機論, 69-687, B (2003), 2501-2509. [7] 牧野俊郎・若林英信, 薄膜系により放射される熱ふく射球面波の干渉, 機論, 投稿中. 固体酸化物形燃料電池における空気流の冷却効果 工学研究科航空宇宙工学専攻 岩井 裕 Abstract: Effects of the inlet temperature and the flow rate of the air flow (cathode side) on the cell thermal field of an indirect internal reforming tubular solid oxide fuel cell were numerically studied by using a quasi-three-dimensional single cell model. Multi component thermo-fluid fields and electric potential/current fields in the cell were simultaneously solved with a consideration of reforming/electrochemical reactions. Preliminary power generation experiments were carried out for planar single cells. Fundamental performance of the cells such as OCV, I-V curves etc. were successfully obtained. Key words: Solid oxide fuel cell, Thermal management, Simulation, Experiment, Electrochemical reaction 1. はじめに 固体酸化物形燃料電池(SOFC)は発電効率が高く環境負荷が小さいこと,燃料が水素に限定されない こと,白金触媒を要さないので大量生産時に低価格化の可能性を持つことなどの特徴を持ち,次世代発 電装置の候補である.SOFC で使用される固体電解質のイオン伝導度は常温では低すぎるため,充分高 いイオン伝導度が得られる 800~1000℃まで加熱する必要がある.その一方で,周囲に比して著しく温 度の高い領域(ホットスポット)の存在は電池セルの寿命を低下させるため避けなければならない.ま た電解質はセラミックスであるため,温度分布の非一様が顕著になると熱応力によって割れが生じる. このような要求から,SOFC のセルは,電気化学反応による発熱と電極を流れる電流によるジュール発熱 を,空気流および内部改質を行う場合にはその吸熱反応を利用して抜熱し,結果としてセル全体を均一 かつ望ましい高温度に保つという高度な熱管理を必要とする.本研究は SOFC の単一セルにおける空気 流の冷却効果を,数値解析と実験により明らかにし,セルの熱管理指針を得ることを目的とする. 2. 数値解析 2.1 計算手法 解析で対象とした円筒型間接内部改質 SOFC の単セルの概要を Fig.1 に示す.円筒縦縞 型セルであり,三層構造および支持管からなるセル管(Cell tube)と供給管(Feed tube)によって構成さ れている.それぞれの材質は図中に記された通りである.燃料供給管の内側には内部改質用の多孔質触 媒が充填されている.供給管内の 触媒層で改質された燃料の流れは セル管の閉端部で折り返され,燃 料極での電気化学反応によって消 費された後,セルの外部へ流出す る.一方,空気はセル管の外側を 流れる. 本数値解析モデルの全体像を Fig. 2 に示す.本解析の中心となる のは,セル内の二次元軸対称の 熱・物質流動場モデルと非軸対称 の電流場モデルであり,両者が密 接に関連している.すなわち,セル の温度とガスに含まれる各化学種 の濃度の分布から起電力や過電圧 Fig. 1 Schematic view of a single cell of IIR-T-SOFCs. の分布が計算され,これらが電流場 Fig. 2 Overall picture of the IIR-T-SOFC model. Fig. 3 Computational domain for the gas flow field (inside the broken line) and chemical reactions considered in the model. の計算に導入される.また,周方向に平均した電流密度分布から局所の反応熱やジュール熱,各化学種の生 成あるいは消滅率が計算され,これらが熱・物質流動場の計算に反映される仕組みになっている.円筒型内部 改質 SOFC のセルモデルの断面形状と寸法及び考慮した化学反応を Fig.3 に示す.燃料は燃料供給管 (Feed tube)内側の多孔質触媒層で改質された後,セル閉端部で折り返され,セル管(Cell tube)を構成 する電極部での電気化学反応によってその一部を消費されて,セル外部へ流出する.空気はセル管の外 側を流れるが,計算の都合上,空気流の外側には断熱壁を設けた.燃料は水素,水蒸気,一酸化炭素, 二酸化炭素,メタンの混合気体,空気は酸素と窒素の混合気体であると仮定した.また,ガスの流れは セル管の中心軸に対して軸対称かつ定常な層流と仮定し,二次元円筒座標系において熱・物質移動計算 を行った.支配方程式には連続の式,Navier-Stokes 式,エネルギー式(固体部では熱伝導方程式)及び 物質移動方程式を採用し,有限体積法を用いてこれらの式を解いた. 気体の物性値については局所の温度依存性と濃度依存性を考慮した.燃料供給管の内側の領域では多 孔質触媒の流れへの影響を考慮し,セル管と燃料供給管の間の輻射伝熱の影響も考慮した.燃料供給管 の内側ではメタンの水蒸気改質反応と一酸化炭素のシフト反応を,外側ではシフト反応を考慮し,それ ぞれの反応速度は実験式を用いて推定した.一方,電極部では水素と一酸化炭素の電気化学反応を考慮 した.これらの反応に伴って発生するセル内の電流の分布はオームの法則とキルヒホッフの法則を用い て計算した.その際,起電力は Nernst の式,活性化過電圧とオーム損失は温度依存性を考慮した実験式 を用いて計算した.以上の方法で得られる改質反応速度及び電流密度の分布から各化学種の反応量や反 応熱,ジュール熱を求め,前述の熱・ 物質移動計算に反映させた. 比較の基準となる“Base case”では, 空気の入口温度を 800℃,入口平均 流速を 2.0m/s に設定した.一方, “Case AT-750”では空気の入口温度を 750℃に,“Case AF-40”では空気の入 口平均流速を 4.0m/s にそれぞれ変更 した.なお,以上の 3 種類の計算にお いて燃料の入口温度は 800℃,入口 Fig. 4 Distributions of EMF, activation overpotential and ohmic 平均流速は 0.923m/s で共通とした.こ loss (Base case, 3926 A/m2). れらの燃料入口条件は,仮に燃料利 用率が 100%に達した際のセル平均電流密 (a) Base case 度 iav が 5000A/m2 となるよう設定したものであ 850 900 950 1000 14.6 1100 [ C] る.また,改質用触媒(Ni)の密度分布は燃料 1000 10 供給管の内側で一様とし,2.0g/cm3 とした. 900.0 5 2.2 解析結果 Fig.4 に起電力,活性化過 800.0 700.0 0 電圧,オーム損失の各分布を示す.活性化過 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0 電圧とオーム損失の大きさは曲線間の幅で示 (b) Case AT-750 800 850 900 950 14.6 されていることに注意されたい.起電力は水 1100 [ C] 1000 素と一酸化炭素の濃度が最も高い供給管出 10 900.0 口(x = 0.05)付近で最大となるが,活性化過 5 800.0 電圧(特に空気極側)は温度の高いx = 0.3 ~ 700.0 0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0 0.4 m付近で著しく小さくなることが分かる.電 (c) Case AF-40 解質でのオーム損失も同様に,温度の高いx 850 900 14.6 1100 [ C] = 0.3 ~ 0.4 m付近で小さくなる.一方,電極 1000 10 でのオーム損失は温度による影響が小さく, 900.0 5 その分布は電流密度の分布に類似している. 800.0 なお,電解質より電極でのオーム損失が大き 700.0 0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0 いのは,電解質の厚さに比べて電極の周方 x [m] 向長さが遥かに大きいからである. Fig.5 Temperature fields for (a) Base case: iav = 3926 A/m2, 2 セルの平均電流密度 iav が約 4000A/m で (b) Case AT-750: iav = 3960 A/m2 and (c) Case AF-40: ある場合の温度場を Fig.5 に示す.結果を比 iav = 3920 A/m2. 較すると,セルに供給する空気の温度や流 量がセルの温度場に大きな影響を及ぼすこ とが確認できる.Base case では,セル管の最 高温度が約 1050℃に達する一方で燃料入口 付近の温度は 800℃を下回り,結果的に x = 0.4~0.5m 付近で大きな温度勾配が生じる. これは,電気化学反応に伴う発熱の影響でセ ル管の温度が上昇し,吸熱反応であるメタン の水蒸気改質が燃料入口付近で集中的に進 Fig.6 Temperature gradients in the electrolyte layer for Case 行することが主な原因である.空気の入口温 AT-750, AF-40 and the Base case. 度を下げた Case AT-750 では,セルの温度は 全体的に低下するが,燃料入口付近では依 Table 1 Cell performance results. 然として大きな温度勾配が生じる.一方,空 Case Base AT-750 AF-40 気の流量を増やした Case AF-40 では,セル 2 Av.current density [A/m ] 3926 3960 3920 の最高温度が著しく低下し,燃料入口付近の Terminal voltage [V] 0.55 0.485 0.5 温度勾配も若干緩やかになる. Output power [W] 58.2 51.7 52.8 これらの影響は,電解質の温度分布を示し Max. temperature (electrolyte) [oC] 1047.0 1017.9 968.0 た Fig. 6 からも明確に読み取ることができる. Av. temperature (electrolyte) [oC] 957.6 910.1 909.5 すなわち,Base case と比べて空気の流量を 増やすと特に高温部(x=0.4m 付近)の温度 が低下する.一方,空気の温度を下げた場合は特に低温部(x=0~0.2m 付近)の温度が低下するが,これは 主に活性化過電圧が温度の低下によって著しく増加することに起因している. セルの発電性能の比較を Table 1 に示す.Case AT-750 と AF-40 では電解質の最高温度が大きく異なるが, 平均温度は同程度であり,出力も AF-40 のほうが若干高い程度である. r [mm] o r [mm] o r [mm] o 燃料供給系 3. セル性能評価用実験装置の作製 本年度は実験装置の設計,製作を行った.Fig.7 は 電気炉 作製した実験装置の主要部分の写真である.ただし 測定系は写っていない.燃料電池セルは,将来的に は独自に作製することも視野に入れるが,本年度は 企業からの提供を受けた.セルは平板型の単セルで あり,電解質はイットリア安定化ジルコニア(YSZ) とガドリニア添加セリアの2種類を試みた. ガス (主 SORC 単セル に燃料の水素)リーク,電解質の熱割れ,集電体と 電極の接触不良など多く問題が発生したが,最終的 には単セルの I-V 特性の測定が可能となった.Fig.8 は YSZ セルの発電性能を示したものである.セルの 温度が高いほど電解質のイオン伝導率も上がるため, Fig. 7 Experimental setup for SOFC performance 発電性能もよくなることが確認できる. evaluation. 4. まとめ 発表論文ほか 14 1100 12 1000 Voltage (mV) 900 10 800 8 700 6 600 900℃ 4 500 400 Power density (mW/cm2) 数値解析を行うことにより,SOFC に導入される空 気流の温度と流量がセル内温度分布や発電性能に与 える影響を明らかにした.また実験によるセル性能 評価を行うために,単セルでの発電実験装置を新た に作製し,電解質が異なる2種類のセルを用いて実 際に発電実験を行った.得られた結果の一部は論文 集あるいは会議において報告された.それら以下に まとめる. 2 300 800℃ 0 2 4 6 8 850℃ 0 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 2 Current density (mA/cm ) Fig. 8 Typical I-V relation obtained for test cell(YSZ). [1] Takafumi Nishino, Hiroshi Iwai, Kenjiro Suzuki, Comprehensive Numerical Modeling and Analysis of a Cell-Based Indirect Internal Reforming Tubular SOFC, Trans. ASME Journal of Fuel Cell Science and Technology, 3-1, 2006, 33-44. [2] 西野貴文,岩井 裕,鈴木健二郎,円筒型間接内部改質SOFCの包括的数値シミュレーション, 機 論, 71-711, B(2005), 2800-2807. [3] Hiroshi Iwai, Hideo Yoshida, Heat Exchangers in Solid Oxide Fuel Cell Systems, Three Asian University Thermal Engineering Conference, 2005, 111-116. [4] Hideo Yoshida, Hiroshi Iwai, Thermal Management in Solid Oxide Fuel Cell Systems, Proc. of 5th International Conference on Enhanced, Compact and Ultra-Compact Heat Exchangers: Science, Engineering and Technology(CD-ROM), 2005, CHE2005-01. [5] Hiroshi Iwai, Tatsuo Ishikawa, Hideo Yoshida, Numerical study of SOFC based on electrolyte with mixed ionic and electronic conductivity, Thermal Science and Engineering, 13-4, 2005, 37-38. [6] Daisuke Shiomi, Hiroshi Iwai, Kenjiro Suzuki, Hideo Yoshida, Numerical Study on Transient Characteristics of a Tubular SOFC Cell, Proc. of Third International Conference on Fuel Cell Science, Engineering and Technology(CD-ROM), 2005, FUELLCELL2005-74171. タービン動翼内全温一定膨張燃焼に関する研究 工学研究科航空宇宙工学専攻 齋藤 元浩 Abstract: Since the adiabatic efficiencies of compressor and turbine of a micro gas turbine are not so high, one of the ways that improve the thermal efficiency is an increase of turbine inlet temperature (TIT). However, in the conventional gas-turbine cycle, TIT which is restricted by endurance of material is attained just at the transient state from isobaric combustion to adiabatic expansion processes. Therefore, it is effective to utilize such a high temperature field throughout the process for converting thermal energy to mechanical work. From this point of view, if combustion is controlled just to compensate for the temperature drop in the expansion process, the resulting isothermal expansion process could increase the cycle efficiency under the allowable TIT. In order that the total temperature relating to the endurance of material is kept constant, the isothermal combustion should be executed in turbine rotor with energy conversion. In this report, we show the experiment of “turbine inlet combustion” to realize isothermal expansion combustion process. Key words: Micro Gas Turbine, Constant Total-Temperature Combustion, Thermal Efficiency 1. 緒論 近年,分散化エネルギーシステムが注目されており,システムを構成する候補としてマイクロガスタ ービン,あるいは,マイクロガスタービンと燃料電池とハイブリッドシステムが検討されている.現状 では,再生式マイクロガスタービン単体の熱効率は 30%程度である.従来のガスタービンにおける熱効 率の改善の有力な手法の 1 つにタービン入口温度の高温化が挙げられる.しかしながら,マイクロガス タービンにおいてその手法は,小径であるがゆえの翼冷却技術の導入の困難さやタービン材料の選択肢 が限られていることから容易ではない.本研究は,発想を転換して高温化の困難さから解放されるべく サイクルそのものに手を加えることが着想点となっている.具体的にはマイクロガスタービンサイクル に全温一定過程の導入を考え[1],実験を行った. 2. 実験装置 タービン内燃焼による全温一定膨張過程の妥当性を検証するために,タービン内で火炎を保持できる実験 装置を設計・製作した.実験は,自動車用のターボチャージャを利用したタービンに圧縮空気を送り,タービン 入口付近で発生させた火炎をタービン内に入り込ませることによって行われる.テストセクション全体の概略図 を図 1 に示す.実験装置のテストセ フレームホルダ付き クションは,タービン,自作ケーシン 点火用バーナ 燃料供給口 高速高温風洞装置より グ,ノズルブレードから構成される 整流用多孔体 主流流路に,フレームホルダ付き燃 料噴出口及び点火用バーナからな る燃焼装置を組み込んだものとなっ ている. 主流流路は,タービン,ケーシン グ,ノズルブレードからなる.作動空 気は 4 つの流路から半径方向内向 きにケーシングへ流入し,リング状 の多孔体によって整流された後,ノ ズルブレードによって加速されてタ ービンへと流入し,ここでエネルギ ーを抽出されてタービン出口から軸 方向へ排出される. タービン動翼 ノズルブレード 基幹部となるタービンには自動車 図 1 テストセクション概略図 用のターボチャージャを用いた.その際タービンを覆っているケーシングは本来備わっていたものを取り外し て自作のものを用いた.これはタービン内燃焼及び各測定を行う装置を取り付けるためと,本来のケーシング のボリュートよりも全周流入に近い形でタービンに空気を流入させるためである.またケーシングのうちタービ ン近傍部分の材質を石英とし,タービン内燃焼の様子を肉眼で確認できるようにした. 作動流体である空気は,高速高温風洞装置からの圧縮空気を用いた.高速高温風洞装置とは,大型のコン プレッサから出た圧縮空気を燃焼ガスとの熱交換によって温度上昇させて高温・高圧の空気として流すことの できる装置である.定格最大吐出空気量は 3.7 Nm3/min であり,この流量が流れた際のタービン入口における 流速は標準状態換算で 136m/s に相当する.最大吐出ゲージ圧力は 0.69MPa,最高温度は 650℃である. 本来のケーシングにおけるボリュートに代えて,ノズルブレードを設置することによって作動空気を加速させ た.外観を図 2 に示す.形状は直径 6.0mm の半円と直線を組み合わせたストレート形で,長さは全長 40.0mm, ブレードの枚数は 8 枚とした.ブレード下部にはネジが切ってあり,これを下ぶたとナットで止めて固定する. また最適なタービン性能のための流入角度を探るために,ノズルブレードを取り付ける穴の位置を変えた 3 種類の下蓋を用意し,3 種類の流入角度で実験を行った.角度は,ノズル出口を出た作動流体がそのまま直 進すると仮定した場合の,タービン動翼入口における作動流体の流入角度で表し,60°,45°,30°の 3 種類 とした.この際,それぞれの角度において条件が等しくなるよう,ノズルブレード出口先端とタービン動翼入口 の間隔がどの場合も 10.0mm となるように配置した. 実際に実験装置を稼動させて最大空気流量を流した場合,タービン動翼入口の流速は 75m/s という高速流 となる.この高速流中で火炎を保持するためには,フレームホルダを設けて流速の小さな領域を作ることが必 要であると判断し,フレームホルダを兼ねた燃料供 給口を製作してノズル出口付近に設置し,ここから 燃料を噴き出しながら火炎を保持した.このフレー ムホルダ付き燃料供給口の写真を図 3 に示す. フレームホルダの形状は外径 8mm,内径 6mm の半円管形とし,これを下ぶたから 5.1mm 突き出さ せる形で設置した.流路高さは 5.2mm であるため ほぼ流路の床から天井まで伸びていることになる. 流路に突き出ている部分以外は円管となっており, 燃料はこの管を通って供給される.燃料としてはプ ロパンを主成分とする LPGと空気からなる予混合気 を用いた.LPG と空気それぞれのボンベの圧力を 図 2 ノズルブレード 調節することによって供給量と混合比は自由に変え ることができる. 内径については,このフレームホル ダを製作するまでに,内径 1.5mm~ 4.0mm のものも作って試してみたが, 形成される火炎の大きさ,燃料の供給 量が不十分であり,火炎を保持させな がら燃料を増やそうとすると燃料と空気 の混合気の噴出速度が大きすぎて火 炎が吹き飛んでしまうという結果となっ た.そこで内径 6mm のものを製作して 試したところ,タービン内で火炎を保持 することができ,また最大流量を流した 高速流中においても循環領域を確保し て火炎を安定に保持することができた. 図3 フレームホルダ付き燃料供給口 3. 実験装置 3.1 ノズルブレード角度によるタービン性能の変化 ノズルブレードの設置にあたって,性能の良い ノズルブレードの角度を探るために,30°,45°,60°の 3 種類のノズルブレード角度で実験を行った. 条件を等しくするため,ノズル出口とタービン動翼入口の隙間が同じになるように設計した 3 種類の下 ぶたで実験を行うことによって角度を変化させた.またこの際コンプレッサ側は同じ状態で実験を行っ ているため,ノズルの設置によってコンプレッサ側の性能が変化することはない. タービン流量と圧力比の関係を図 4,タービン流量とタービン仕事の関係を図 5 に示す.本実験では 2 種類のタービン流量でしか実験を行っていないが,ノズルの角度を大きくすることによって,圧力比, タービン仕事が共に増加する傾向にあり,3 種類の中では 60°で設計されたノズルブレード角度が最も 効率がよいと言える.これはノズルブレード角度を 60°にした場合,あるタービン流量に対してタービ ン仕事を最も多く抽出できることを表し,タービン熱落差やコンプレッサ仕事に関する計測がしやすい 角度であると言える.以降で述べるタービン出力実験,燃焼実験においては,タービン角度を 60°に固 定して実験を行った. 1.30 1.25 圧力比 1.20 60° 1.15 45° 30° 1.10 1.05 1.00 2.00 2.10 2.20 2.30 2.40 2.50 2.60 2.70 2.80 3 タービン流量 [m /min] 図 4 ノズル角度と圧力比の変化 0.45 タービン仕事 [kW] 0.40 0.35 0.30 60° 0.25 45° 0.20 30° 0.15 0.10 0.05 0.00 2.00 2.10 2.20 2.30 2.40 2.50 2.60 3 タービン流量 [m /min] 図 5 ノズル角度とタービン仕事の変化 2.70 2.80 3.2 タービン内燃焼の様子 フレームホルダ付き燃料供給口からLPGと空気の予混合気をタービン側の 流れに噴き出して燃焼を行ったときの火炎の様子を図6に示す.燃料供給口からタービン動翼入口まで 10mmほどの隙間はあるものの, タービン動翼付近で発生した青い火炎がタービン動翼内にまで入り込ん でいる様子が見て取れる. 図 6 タービン内燃焼の様子 3.3 高温での燃焼実験 作動空気として高温空気を用いて燃焼実験を行った.タービン熱落差分の燃料 は高温時におけるフレームホルダの可燃範囲の外になってしまったため,150W,300W,450Wと段階的 に投入熱量を増やしていったときの各値の変化を表1に示す.また,オイラーの式から求めた仕事の値も 示してある.タービン入口温度は315℃前後となっている.タービン熱落差の変化を見てみると,投入熱 量が増えるに従って,180W,330W,490Wとほぼ投入熱量に等しい熱落差の減少(作動空気の温度上昇) が見られ,常温空気での実験と同様に投入熱量のほとんどが作動空気の増加に費やされていることがう かがえる.ただし,常温時と違って,タービン熱落差の増加が投入熱量を上回ってしまっている.燃焼 による熱量以外に外部からエネルギーは加えられていないので,タービンの熱落差の増加が大きめに計 測される何らかの測定における問題があったと考えられる.また,回転数からオイラーを用いて計算し た仕事は750Wから780W程度の値となり,タービン熱落差の1.2kW程度と比べると小さな値となったが, コンプレッサ仕事と比べるとほぼ同等の値が得られた. 表 1 仕事と燃焼量の関係 タービン側 燃焼なし 燃焼 1 燃焼 2 燃焼 3 Tt,in [℃] 314.5 316.4 316.7 316.5 ΔTt [℃] 22.2 19.0 16.4 13.5 コンプレッサ側 ΔTc Wt- Wt' (Wt) [℃] [kW] [kW] 1.26 41.5 1.08 0.18 42.4 0.93 0.33 42.1 0.77 0.49 42.8 Wc Wc'-Wc [kW] [kW] 0.772 0.793 0.02 0.793 0.02 0.808 0.04 燃焼 回転数 • 回転数 m ・Δw [kW] [rpm] [kW] 114400 0.757 0.15 115300 0.775 0.30 115900 0.779 0.45 116000 0.781 Δq 4. 結論 タービン入口温度を上昇させなくとも熱効率を改善する方法として提案している,タービン内燃焼によるター ビン内全温一定膨張過程の導入について,ターボチャージャを用いた実験を行い,タービン近傍での燃焼を 実現した.また,その出力や可燃範囲を明らかとした. 参考文献 [1] M. Saito ・ H. Yoshida ・ R. Echigo,Cycle Analysis of a Micro Gas Turbine with Combustion Process under Constant Total Temperature,, 6th ASME/JSME Thermal Eng. Proc.,(2003).