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地域ブランドづくり実践行動マニュアル

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地域ブランドづくり実践行動マニュアル
~地域ブランド新時代にむけて~
地域ブランドづくり実践行動マニュアル
地域ブランドづくりによる地域再生の調査研究報告書(本編)
平成 18 年 3 月
財団法人 九州地域産業活性化センター
は
じ
め
に
我が国は、現在、多くの地域において過疎・高齢化の進展や中心市街地の空
洞化、産業構造の変化、地域間競争の激化、国・地方の財政制約等、様々な問
題に直面している。
今後、九州地域が持続的な発展を遂げていくためには、あらゆる分野・領域
(商品開発、観光・サービス、まちづくり等)において、知恵と創造力を最大
に発揮し、新しい市場を開拓していく必要がある。
そのためには、企業、大学、団体、自治体、住民等の地域関係者が協調して
地域固有の資源を活用した商品・サービスの高付加価値化を通し、地域イメー
ジを高めていく地域ブランドづくりが有効とされている。
さらに、地域としての拡がりを持たせるためには、複数の分野・領域の地域
資源を掛け合わせた新時代の地域ブランドづくりも必要と思われる。
そこで本調査では、九州経済産業局の協力のもと、地域ブランドづくりの成
功ポイントや新しい展開等について分析・検証を行い、成功事例の紹介も含め
て「地域ブランドづくり実践行動マニュアル」としてとりまとめた。
このマニュアルが地域活性化のお役にたてば幸いである。
なお、本調査の実施にあたっては、有識者で構成する「地域ブランドづくり
による地域再生の調査研究委員会」を設置してご審議を賜った。また諸調査に
ついては、専門的立場から株式会社電通九州にご協力いただいた。
ここに関係各位のご尽力に対し、深く感謝するものである。
平成18年3月
財団法人
九州地域産業活性化センター
会
1
長
大
野
茂
本マニュアルについて
本マニュアルの基礎データ
本マニュアル作成に際しては、地域ブランドづくりにおいて取り組むべき戦略を、過去
の調査や文献等から予め 8 項目設定し、それに沿ってアンケート調査とヒアリング調査を
実施した。
アンケート調査では、全国で地域ブランドづくりに取組む 543 の自治体・団体に調査票
を送付し、215 の有効回答を得た。(有効回答率 39.6%)
ヒアリング調査では、九州地方 18 ヶ所、関西地方 2 ヶ所、中部地方 5 ヶ所の合計 25 ヶ
所を現地訪問した。
それらの調査結果から、地域ブランドづくりにおける重要ポイントを抽出し、8つの戦
略ごとに 4 項目ずつを「成功条件」としてマニュアルにまとめた。
ただし、「成功条件」としているものの、これらすべてを実行しなければ地域ブランドづ
くは出来ないというものではなく、先行事例においてもすべてを満たしている例はない。
むしろ、ある部分で特別に強い力を持っていることが地域ブランドづくりにおいて重要な
要件となっている。
すなわち、ここでいう成功条件は、
「絶対必要条件」ではなく、地域ブランドづくりを成
功させる上での「重要課題」という意味である。
本マニュアルの想定利用対象
地域ブランドづくりは、ブランド化の対象物のちがいによって、あるいは、取組み年数
と進展段階等によって、為すべき施策の内容が大きく異なる場合がある。
(例えば、地場の
特産品を全国ブランド、さらには世界ブランドにまで発展させようとする場合には、地域
ブランドにはつきものである「地域性」を、あえて完全に排除する場合もある。)
しかしながら、マニュアルとしてまとめるに際しては、その目的上、ある程度の「一般
化」が必要となる。そのため、本マニュアルでは、地域ブランドづくりにこれから取組も
うとしておられる方々、地域ブランドづくりの初期段階にある方々を主たる利用者として
想定することで、マニュアルとしての一般性を担保した。
なお、本マニュアルのベースとなったアンケート調査は、別途「地域ブランドづくりに
よる地域再生の調査研究報告書(資料編)」としてまとめているので、参考にしていただけ
れば幸いである。
2
目
次
1.地域ブランドとは何か
(1)ブランドの定義 ································
···················1
(2)地域ブランドの定義 ································
···············2
2.地域ブランドづくりの戦略別成功ポイント
○ 地域ブランドづくりのフロー ································
········3
○ STEP1-ブランド化対象選定戦略 ································
···4
○ STEP2-推進組織戦略································
·············6
○ STEP3-ブランドの優位性戦略 ································
·····8
○ STEP4-生産戦略································
················10
○ STEP5-販売流通戦略································
············12
○ STEP6-ブランドプロモーション戦略 ······························14
○ STEP7-顧客管理戦略································
············16
○ STEP8-ブランド管理戦略································
········18
3.地域ブランドづくりの分野別成功ポイント
(1)A1分野(農林産品)································
·············21
(2)A2分野(水産品)································
···············22
(3)B 分野(加工品) ································
················23
(4)C 分野(まちづくり) ································
············24
(5)D 分野(産業集積) ································
··············25
4.地域ブランドづくりの新しい展開
(1)PB と RB の連動································
·················26
(2)複数の地域の連携による地域ブランドづくり ························27
(3)核ないし焦点としての地域性 ································
······29
(4)海外への展開 ································
····················30
(5)NPO 団体等の地域ブランドづくりへの取組み ·······················31
3
5.地域ブランドづくり事例集
(1)博多万能ねぎ ································
····················34
(2)佐賀牛 ································
··························36
(3)はちべえトマト ································
··················38
(4)宮崎ハマユウポーク ································
··············40
(5)日向夏 ································
··························42
(6)かごしまブランド ································
················44
(7)かごしま黒豚 ································
····················46
(8)鰤王 ································
····························48
(9)関あじ関さば ································
····················50
(10)いきいき宮崎のさかな ································
···········52
(11)手延素麺島原 ································
···················54
(12)黒酢(つぼ造り純米黒酢) ································
·······56
(13)させぼ四ヶ町商店街 ································
·············58
(14)黒川温泉 ································
·······················60
(15)豊後大山・ひびきの郷 ································
···········62
(16)酒泉の杜 ································
·······················64
(17)尚古集成館 ································
·····················66
(18)有田エコポーセリン ································
·············68
(19)八名丸さといも ································
·················70
(20)八丁味噌 ································
·······················72
(21)TMO 半田································
······················74
(22)栗と北斎と花のまち信州小布施 ································
···76
(23)愛知ブランド ································
···················78
(24)京都試作ネット ································
·················80
(25)東大阪ブランド ································
·················82
6.地域ブランドの取組みを加速する主な支援制度 ·····················84
<巻末資料>
九州・地域ブランドマップ
4
1.地域ブランドとは何か
(1)ブランドの定義
わが国では、ブランドという言葉は、若い女性が消費する高級ファッションブランドのイメージ
が強すぎるため、多くの誤解を招いているようだ。その代表的なものは、商品に何らかの特徴的な
マークがついたものがブランドであるというものであろう。確かにブランドの語源が家畜に押され
る「焼き印」であることからもわかるように、マークはブランドづくりの重要な要素であることは
間違いない。
しかしながら、ブランドの本質的な価値は「受け手の意識」の中でどのように認知されているか
というところにある。いかに物理的、機能的に優れた製品であっても、それだけではブランドとは
呼べない。そうした優れた製品特性の上に、そのブランドに関する知識や情報が人々の意識の中に
蓄積されていくことによって、ブランドはブランドとしての固有の価値を持つことができる。
したがって、ブランドを構築(開発)するに際しては、「そのブランドならではの特別の評価を
消費者の意識の中に形づくる」という視点で、商品開発やマーケティングに取組むことが重要とな
る。
そして、形成された「特別の評価」が長期的に保証されることで、ブランドと消費者の間には特
別な関係性が構築されるものとなる。
そのようにしてブランド化された商品は、結果として以下のような効果を発揮する。1
①
多少値段が高くても購入してくれる。
スーパーの特売日などでも値引きされずに売られている商品があるが、それは値段が高く
てもその商品が欲しいというお客様がいるため。ブランドはそのようなお客様を獲得する
のに役立つ。
②
同じ銘柄(メーカーや商品)の購入を続けてくれる。
商品を買い換えるときでも、他社の商品に流れるのではなく、同じ銘柄の商品を買ってく
れる。ブランドはそのようなお客様を増やすのに役立つ。
③
新商品でなくても購入してくれる。
新規発売時には広告や販促キャンペーンを大量に行い、お客様にとっても新しい商品は魅
力があるため売れるが、その後売れ行きが鈍ってくるのが普通である。しかし、ブランド
には商品の魅力を維持する力があり、商品を長く(つまりより多く)販売することができ
る。
1
九州大学 大学院芸術工学研究院教授 森田 昌嗣「ブランドのお話」(地域ブランドセミナー八女資料)より引用
1
(2)地域ブランドの定義
わが国の地域経済をめぐる状況は依然としてたいへん厳しいものがある。そうした中、それを打
開するための方策のひとつとして、「地域ブランドづくりによる地域再生」が各地で注目されてい
る。
ところが、地域ブランドに対する理解は、ひとによって様々である。最も一般的な理解は、地域
と関連性を持つ特定の商品やサービスをブランド化しようとするものであり、これはいわば「特産
品のブランド化」という段階である。
これに対し、特産品のブランド化にプラスして、まちづくりや産業集積等のさまざまな地域資源
をも含む「地域全体のブランド化」の段階に至っている例も、昨今、多く見られるようになった。
こうした動きを捉え、経済産業省は地域ブランドを下図(図表 1-1)のような概念で示している。
それによれば、「地域ブランド化とは、(Ⅰ)地域発の商品・サービスのブランド化と、(Ⅱ)地
域イメージのブランド化を結び付けることで、他にない付加価値を与え、地域外の資金・人材を呼
び込むという好循環を生み出し、持続的な地域経済の活性化を図ること」とある。
すなわち、この概念に従えば、地域ブランドとは、単に地域名を冠した商品が売れるだけ、ある
いはその地域のイメージがよくなるだけでは不十分であり、その両方が相互に影響しあい、商品と
地域の両方の評価が高くなっていくことこそが、地域ブランドの本来の姿(理想型)ということに
なる。
しかしながら、地域ブランドがそうした理想型に至るためには、その前段階として、(Ⅰ)地域
発の商品・サービスのブランド化、もしくは(Ⅱ)地域イメージのブランド化というステップを踏
むことが必要であることは言うまでもない。
そのため、本マニュアルの作成に際しては、経済産業省の概念を地域ブランドの理想型と定義し
た上で、(Ⅰ)および(Ⅱ)の段階にある事例についても対象とした。
<地域ブランドの概念図>
(経済産業省)
図表
1-1 地域ブランドの概念図
(経済産業省)
(Ⅰ)地域発の商品・
サービスのブランド化
商品
サービス
新たな商品
サービス
新たな商品
サービス
連続的に展開
地域イメージを強化
付加価値
(Ⅱ)地域イメージの
ブランド化
地域イメージ
2
2.地域ブランドづくりの戦略別成功ポイント
○地域ブランドづくりのフロー
地域ブランドづくりの初期の段階においては、下図(図表 2-1)に示す8つの戦略をステップを踏
んで着実にこなしていくことが必要である。さらに、地域ブランドが実際に商品化され顧客・市場
に届けられた段階では、そこにおける評価を把握した上で、顧客管理、ブランド管理を行い、ブラ
ンドプロモーションや、ブランドの優位性に反映させることが重要となる。
次ページ以降では、これら8つの戦略ごとの重要テーマを「地域ブランドづくりの成功条件」と
して提示すると共に、それらに該当する事例を紹介していく。
図表 2-1
地域ブランドづくりのフロー
STEP 1. ブランド化対象選定戦略
何を地域ブランドとして
育てていくのかを決める
STEP 2. 推進組織戦略
地域ブランドづくりを実行していく
組織体制を構築する
STEP 3.
STEP 6.
ブランドの優位性戦略
そのブランドならではの
STEP 4. 生産戦略
ブランドプロモーション戦略
「他とのちがい」を決める
設定されたブランドの優位性
そのブランドの存在、優位性を知っても
を確実に守りながら生産する
らうために広告・販促活動等を行なう
STEP 5.販売流通戦略
STEP 7. 顧客管理戦略
生産されたものを
顧客にどう評価されているかを把握した
「売りの現場」に乗せていく
上で顧客との向き合い方を検討する
STEP 8.
ブランド管理戦略
ブランド価値を生み出す
「強み」を絶えず点検する
継続的な取組み
継続的な取組み
市場の状況・顧客の評価
市場の状況・顧客の評価
顧客・市場
そのブランドならではの特別の評価を消費者の意識の中に形づくる
地域ブランドづくりに成功!
3
STEP 1. ブランド化対象選定戦略 ~何を地域ブランドとして育てていくのかを決める~
成功条件 1-1.「地域の活性化」という目的を常に意識する。
・ 地域ブランドづくりの事例を見ると、①「地域の活性化を図ることを目的に、地域ならではの
商品・サービスのブランド化に着手する」場合と、その反対に、②「地域ならではの商品・サ
ービスのブランド化から着手して、それが結果として地域の活性化につながる」場合とが見ら
れる。
・ ①の場合はもちろんだが、②の場合にも、
「地域の活性化」という着地点が強く意識されている
ほど成功の確率は高くなっている。これは、そうした意識が地域ブランドづくりに取組む人々
に共有されていることによって、それぞれの現場での実践活動がより熱意のこもったものにな
るからである。
<事例紹介>
● はちべえトマト(熊本県) 八代平野はかつてイ草の大産地だったが、安い中国産の輸入によって
壊滅的打撃を受けた。
「イ草の悲劇を再び繰り返してはならない。」、
「トマトによって地域を守
るのだ。
」という熱い目的意識がブランドづくりの根底にある。
● 豊後大山ひびきの郷(大分県)
ひびきの郷は「交流人口を呼び込み、新たな地域産業を先導す
る交流拠点施設として地元主導で整備する」ことを目的として建設された。この設置目的が、
緻密な広報活動によって、ブランドづくりに取組むすべての人々に充分理解されている。
成功条件 1-2.「素質」(もともとの商品力)が高いものを選ぶ
・ ブランドがブランドである所以は、そのブランドならではの「他とのちがい」にある。しかし
「他とのちがい」を云々する前提には、もともとの商品力が、物理的・機能的・イメージ的に
ある程度の高いレベルにあることが望ましい。
・ そうした「素質」が低い場合には、当然ながら、ブランド化に際してより多くの努力を要すも
のとなる。アンケートでも、地域ブランドづくりの成功要因のトップは「ブランド化の対象物
として選んだものが適切だった」となっており、「素質」の影響力の大きさがうかがわれる。
<事例紹介>
● 関あじ関さば(大分県)は、昔から「関もの」と呼ばれ、特別に高い評価を受けていた。しかし
市場ではその評価が価格に反映されることはなかった。そうした状況を打破するためブランド
化が図られた。
● 佐賀牛(佐賀県)
佐賀県下の若手肥育農家グループが肥育技術の研究を重ね、肉質の向上が顕
著となったことから 1983 年に「佐賀牛」と命名し販売を開始した。
4
成功条件 1-3.地域への影響力(波及効果)が大きいものを選ぶ。
・ 地域ブランドづくりが目指すところは地域の活性化である。そのためには、地域全体がその意
義を理解し、地域一丸となって取組むことが望ましい。したがって、地域ブランドづくりの対
象物を選ぶに際しては、
「より多くの地域住民の賛同を得られるもの」
という視点が重要となる。
・ より多くの地域住民の賛同を得るには、地域への影響力(波及効果)が大きいもの(=労働力
をはじめ、より多くの地域資源がそこに集中しているもの)を選ぶことが肝要である。
<事例紹介>
● 博多万能ねぎ(福岡県)
万能ねぎは出荷前に「ねぎ揃え」という調整作業を要すが、現在、地
元のお年寄りを中心に 800~900 名の方々がその作業に従事しており、地域への波及効果はた
いへん大きい。
● 手延素麺島原(長崎県)
島原半島全体では 350 社ものそうめん製造業者がある。
その意味では、
そうめん業界の活性化が地域の活性化に直結する。
● 鰤王(鹿児島県)
「鰤王」の産地である東町は昔から養殖漁業が盛んであった。現在では、漁
業生産全体の 95%を養殖が占めている。
成功条件 1-4.時代のトレンドをつかむ。外部の視点から再評価する。
・ 選定した対象物をブランドとして育てていくに際しては、それが時代のトレンド(人々が今、
何を求めているのか)とどう関係しているかを見ることも重要な要素となる。
・ 従来からの視点では、時代に合致していないと思われたものでも、見方を変えることによって
新しい価値が見出されることがある。見方を変えるに際しては、外部の視点を利用することが
有効である。
<事例紹介>
● 有田エコポーセリン(佐賀県) エコポーセリンは、陶磁器の大産地である有田で大量に発生する
規格外の素焼きくずなどをリサイクルして原材料の一部とする磁器である。限りある陶土をリ
サイクルすることで、資源循環型社会の要請に応えるものである。
● 尚古集成館(鹿児島県)
尚古集成館のある仙巌園一帯を一観光地として見た時、従来からの
「大名庭園」という位置づけだけでは観光客を惹きつけにくくなってきている。そこで現在脚
光を浴びつつある「産業観光」の視点から、薩摩の歴史や文化を伝える施設として尚古集成館
を位置づけ、
「集成館」事業をブランド化していくこととなった。
● 黒酢(鹿児島県)
200 年の伝統を誇る黒酢は、
「本物志向」「高級志向」というトレンドにうま
く合致している。さらに成分・効能的には「健康志向」に合致している。なお、成分・効能的
な分析に際しては、大学に研究を依頼し、科学的データの充実に努めている。
5
STEP 2. 推進組織戦略 ~地域ブランドづくりを実行していく組織体制を構築する~
成功条件 2-1.組織を引っぱっていく強いリーダーの存在がある。
・ 地域ブランドづくりを推進している団体は、生産者団体、行政、企業、協議会などさまざまで
ある。しかし、地域ブランドづくりに成功している団体に共通しているのは、キーマンとなる
強いリーダーの存在があるということである。
・ 地域ブランドづくりでは、推進組織の確立が重要であるが、リーダーには、第一にその推進組
織を引っぱっていく力が求められる。さらに、関係機関や他の団体との連携も地域ブランドづ
くりでは重要となるが、その連携をコーディネイトする役割もリーダーには求められる。
・ リーダーはその団体の中からしかるべき人物が選任されるケースが多い。しかし、それがかな
わぬ場合には、外部の人間を擁立することも検討する必要がある。
<事例紹介>
● 手延素麺島原(長崎県)
手延素麺島原を製造している株式会社素兵衛屋の社長は、地元島原出
身で、東京でノンフィクション作家、経済ジャーナリストとして活躍している永川幸樹氏。広
い人脈を持つ永川氏に対し、出資者たちが社長就任を懇願したのである。特に流通チャネル開
発において、永川社長の実力はいかんなく発揮された。
● 豊後大山ひびきの郷(大分県)
ひびきの郷の計画は、当時、町職員であった緒方英雄氏を中心
に 90 年代後半から作成された。その後「あんたが企画した仕事なので、運営管理も面倒みて
いただけないだろうか」という町長(三苫前町長、現在はおおやま夢工房代表取締役社長)の
願いにより、緒方氏は、現在、ひびきの郷の総支配人を務められている。
成功条件 2-2.推進体制を確立し、長期的視点で取組む。
・ ブランドづくりは、その対象物の選定から始まり、生産、販売、さらには消費者の意識の中に
どのような認知を形成していくか、他とのちがいをどのように作るかなど、高度な専門知識が
要求される。そのため、地域ブランドづくりに際しては、初期の段階から推進体制を確立し、
専任担当者を置くなどして、それらのノウハウを着実に獲得・蓄積していくことが成功の大き
な鍵を握るものとなる。
<事例紹介>
● させぼ四ヶ町商店街(長崎県)
商店街のリーダーグループの 5 人が、それぞれ企画・運営・実
行等のスペシャリストとして、さまざまなイベントに取組んでいる。10 年の実績があるので若
い人たちが育ち、彼らに任せることもできるようになった。
● 黒川温泉(熊本県)
組合は月例の「八日会」の下に、観光部、宣伝部、おかみの会等の部会が
あるほか、若手だけの「二十日会」(青年部会)も行っている。
6
成功条件 2-3.関係者間の役割分担を明確にし、密に連携する。
・ 地域ブランドづくりにおいては、生産、流通、販売、プロモーションなど、さまざまな場面で
多くの人々の関与がある。それらの人々が一丸となって取組むことが重要である。
・ そのためには、推進組織がそれらの人々の核となって、密な連携をアレンジする必要がある。
・ 特に、協議会組織においては、構成団体がよく連携することが肝要である。そのためには、事
前に役割分担を明確に決めておかねばならない。
<事例紹介>
● 宮崎ハマユウポーク(宮崎県) 普及促進協議会では、県が品種開発、経済連が販促・PR、
(株)
ミヤチクが販売と、それぞれ役割分担している。
● かごしまブランド(鹿児島県) 役割分担については、JA が出荷・流通の実務を担当し、県は後方
支援(産地づくり、PR 等)を行っている。
● いきいき宮崎のさかな(宮崎県)
漁連が販売を担当し、協議会がブランドづくりを担当してい
る。両者は密な連携をとっている。
成功条件 2-4.地域住民をまきこむ。
・ 地域ブランドづくりが目指すところは「地域の活性化」である。その意味で、地域ブランドづ
くりには、より多くの地域住民の参画を得ることが望ましい。
・ そのためには、地域ブランドづくりに関して地域住民に積極的に情報を発信すると共に、参加
しやすい仕組みを提供することが必要である。
・ 地域ブランドづくりが地域全体のムーブメントとなったとき、地域資源のブランド化と地域イ
メージのブランド化は強い相乗効果を持つものとなる。
<事例紹介>
● 尚古集成館(鹿児島県)
尚古集成館を経営している島津興業の社長である島津公保氏は、仙巌
園一帯を「皆様からお預かりしている歴史資産」と捉えており、一企業の活動という範疇を越
えて、地域と共にどう活用するかを考えている。地域住民、大学をまじえて研究会を実施して
いる他、秋には観月会を催すなど地元町内会との親交を深めている。
● させぼ四ヶ町商店街(長崎県) 住民の参加意欲がたいへん高い。佐世保市制 100 周年の PR 隊
として発足した「飛躍年隊」(
「100 年」と「飛躍」のダブルミーニング)は、毎年公募して県
内全域に 180 名の隊員がいる。飛躍年隊は全国各地の YOSAKOI 祭りに参加している。
● 黒川温泉(熊本県) 地域住民の誰もが「黒川全体のために何かをやりたい」と思っている。景
観についての理解もあり、周囲との調和を乱す突拍子も無いデザインの家が建てられるような
ことはこれまでなかった。
7
STEP 3. ブランドの優位性戦略 ~そのブランドならではの「他とのちがい」を決める~
成功条件 3-1.製品・仕組みづくりなどで「他とのちがい」を明確に打ち出す。
・ ブランドがブランドであるためには、そのブランドならではの優位性(
「他とのちがい」)がな
くてはならない。同じような商品がある中で単に地域名をつけただけならば、一度は消費者の
興味を惹くことはできても継続的な支持をえることはできない。
・ 当然ながら、
「他とのちがい」は大きいに越したことはない。容易に真似されるような「ちがい」
ならばブランドとしての魅力は小さい。
・ 「他とのちがい」を元来備えたものであれば、それをさらに伸ばして行く。そうでない場合に
は、「ちがい」を創り出して付加することを考える。
<事例紹介>
● 黒酢(鹿児島県) 「黒酢」
(つぼ造り純米酢)は米と地下水のみを原料とし、野天にならべた「つ
ぼ」で発酵・熟成するという技法で作られる。この技法は地元福山町の気候風土に根ざしたも
のであり、他の土地では真似することが出来ない。
● 関あじ関さば(大分県)
漁場、漁法、取扱い方等を厳格に定めており、味覚、鮮度の点で他の追
従を全く許さない。
● 博多万能ねぎ(福岡県)
博多万能ねぎは商品本来の高い品質を維持するため、日航機でジェッ
ト空輸され、一束ごとに JAL マークをつけて店頭に並ぶ。こうした「後付けされた型破りな特
徴」が、明確な「他とのちがい」となっている。
成功条件 3-2.ブランドコンセプトを関係者全員の共通認識とする。
・ そのブランドならではの「他とのちがい」
(ブランドの優位性)は、消費者に対する「約束」で
ある。この「約束」を確実に守るには、その内容を明確に規定し、さらにその内容をブランド
に関わるすべての関係者が共通認識としておかなければならない。
・ そのための手法としてマニュアルが有効である。マニュアルを作って関係者に配布し、その遵
守を義務づけることにより、受け手に対する約束は確実なものとなる。
<事例紹介>
● 鰤王(鹿児島県)
国内外を問わず生産履歴が求められるので、詳細なマニュアルをつくり 150
名の生産者すべてに配布しその厳守を義務づけている。それが守られていない魚は取り扱わな
い。加工作業についても HACCP の基準に沿って厳格な衛生管理のもとで行なわれている。
● 手延素麺島原(長崎県)
株式会社素兵衛屋では、粉の配合、製造の方法、衛生管理、麺線(面
の細さ)
、含有水分量などの厳しい規格を、すべての生産者がクリアすることで、大手コンビニ
エンスストアからの大量受注を実現している。
8
成功条件 3-3.地域の特色を反映させる。
・ 本来、地域ブランドとは、地域資源のブランド化によって地域の活性化を目指すものであるか
ら、そのブランドのイメージと地域のイメージは、密に連動することが望ましい。
・ したがって、そのブランドならではの「他とのちがい」
(ブランドの優位性=ブランドコンセプ
ト)を規定するに際しては、その地域の特色をそこにいかに反映させるかが重要となる。
・ 地域イメージのアップという目的が先にあり、そのためにブランド化の対象を選定する場合に
は、地域の特色が強く感じられる対象物を選定し、さらに地域イメージとの関連づけを行なう
ことが肝要である。
<事例紹介>
● はちべえトマト(熊本県) 「はちべえ」は漢字で書くと「八平」
、産地である八代平野の八と平を
とったものである。語感からも八代平野の豊かな自然、のんびりとした風土が感じられ、トマ
トに「安全で美味しい」という好ましいイメージを付与することに成功している。そして、こ
のトマトの実際の美味しさが、ひるがえって、八代の地域イメージを向上させることにつなが
っている。
● 酒泉の杜(宮崎県) 酒泉の杜が立地する綾町は水の良さで知られ、また「有機栽培の町」とし
て地域のブランド力も高い。そのため、酒泉の杜のブランドづくりにおいては、
「綾の自然との
共生」、
「綾の自然に循環させること」が根本に置かれている。そういう意味では、酒泉の杜は、
綾町の魅力をシンボライズする「情報発信基地」と位置づけられるものであり、地域の発展と
酒泉の杜の発展は密接に連動している。
成功条件 3-4.商標登録を戦略的に活用する。
・ 商標は自己の商品やサービスを表示し、自己の商品やサービスを他人の商品やサービスと識別
する標識である。また、消費者にとっては、その商品やサービスが誰のもので、信頼できるも
のなのかを判断する材料となるものである。
・ 従来、地域名と商品名の組み合わせである地域ブランドは、商標登録しようとしても識別力が
ない、特定の者の独占に馴染まないといった理由で原則として権利を受けることができなかっ
たが、2006 年 4 月からは「地域団体商標」として、一定の要件を満たせば商標登録ができる
ようになった。地域ブランドの確立のために商標が戦略的に活用される可能性が高まった。
<事例紹介>
● 黒酢(鹿児島県) 1987 年に商標登録をしようとしたが、既に食酢メーカーのほとんどが黒酢を
商品化しており、広く普及して一般的に使われていたため、商標の登録要件を満たすことがで
きなかった。現在、地域団体商標の申請準備をしている。
● 関あじ関さば(大分県)
漁協として地域団体商標の申請を予定している。
9
STEP 4. 生産戦略 ~設定されたブランドの優位性を確実に守りながら生産する~
成功条件 4-1.ブランドの約束を確実に守る
・ 消費者が多少値段が高くてもブランド品を購入するのは、そのブランドならではの「他とのち
がい」があるからである。ブランドはこの「他とのちがい」を消費者に対して保証する「保証
書」として機能する。
(消費者は、商品の品質をいちいちチェックする手間を、「ブランド品だ
から…」と信用することで省く。
)すなわち、ブランドは消費者に対する「約束」なのである。
・ したがって、この「約束」が生産段階で守られないならば、ブランドを名乗る資格はない。ブ
ランドの「約束」は、ブランドがブランドとして存在するための絶対条件である。
<事例紹介>
● 手延素麺島原(長崎県)
生産者の自覚を促し責任の所在を明らかにするために、商品パッケー
ジに生産者の顔写真を印刷している。
● かごしま黒豚(鹿児島県)
品質の維持こそブランドの命と考え、指定店を対象に、抜き打ちで
商品を DNA 分析調査している。同時に店頭における指定店証・証明書等の陳列状況についても
指導している。
成功条件 4-2.供給量を確保し、安定的に供給する。
・ プレミアムブランド(単価の高いブランド)については、希少性がブランドの価値を高めるこ
ともあるが、普及型ブランド(希少性を高単価に結び付けることに限界がある商品)において
は、ある程度まとまった量を確保しなければ経済的意味での地域活性化効果は小さい。
・ また、販売流通の視点からみれば、ある程度まとまった量を供給可能であることが、チャネル
開拓の重要な条件となる。さらに、量販店等からは、その量を安定的に供給することが強く求
められる。
・ しかし、そうした量的な確保が困難な場合には、現地での直売やインターネット販売等、流通
サイドからの要求にしばられない販売方法に特化するという手もある。
<事例紹介>
● かごしまブランド(鹿児島県)
かごしまブランドは品質の良い農産物を安定的に供給することを
目的とする産地指定制度である。ブランド産地指定に当って、例えば野菜では、量的に 5 億円
以上の出荷額があり、出荷量の多い市場の方々等の審査を受けるほか、畜産物では、出荷頭数
や飼養管理、肉質など多様な基準を設けている。
● いきいき宮崎のさかな(宮崎県) 本来、魚には旬があり年間を通じて安定供給できる魚種は、
(養
殖魚を除いては)ない。そこで季節ごとの旬の魚をつないでいくことで年間を通じてブランド
を訴求していくという戦略をとっている。
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成功条件 4-3.研究開発により商品力・競争力の強化に努める。
・ ブランドの存立基盤が「他とのちがい」であるからには、ブランドは常にその部分に磨きをか
ける必要がある。なぜなら、消費者は本来、飽きっぽいものであり、いかにすぐれた「他との
ちがい」であっても、時間の経過と共にその価値が摩滅していくことは避けられないからであ
る。
・ また、競合する他のブランドに対する優位性を維持するためにも、研究開発によって常に商品
力・競争力の強化に努めることが必要である。
<事例紹介>
● 鰤王(鹿児島県)
市場のニーズに的確に応えるべく、肉質の改善・均一化に努めている。その
ために飼料メーカーと協働してオリジナル飼料をつくった。今後は 100%その餌に限定するこ
とで肉質の均一化を進めていく。
● 宮崎ハマユウポーク(宮崎県)
「宮崎ハマユウポーク」という大きなくくりでは特徴に欠ける
ため、細分化の動きが出てきた。例えば、餌に特徴をもたせた「かんしょ豚」「お茶メ豚」
、木
酢酸を使用した高城町の「観音池ポーク」など。こうしたブランドであれば生産者の顔が見え
るし、からいも、お茶、木酢酸とも健康イメージを伴ったものであるから、そのイメージを豚
に波及させることができる。
成功条件 4-4.企業、大学、研究機関等との連携を図る。
・ 地域ブランドの研究開発に関しては、大学の研究室や民間の研究機関等との連携を行なってい
るケースが多く見られる。また、研究開発以外の分野でも、他の企業や団体との連携が活発化
している。激化する競争環境で勝ち抜くには、自団体だけの能力だけでは限界があることを知
るべきだろう。
<事例紹介>
● 豊後大山ひびきの郷(大分県)
商品開発に力を入れている。最初はニッカウヰスキーと組んだ
「梅酒」
、そこから共同開発のノウハウを学び、そのノウハウを応用して、佐賀の桜月堂と組ん
だ「梅羊羹」
、大牟田の今村食品と組んだ「梅干茶漬け」などを商品化した。
● 博多万能ねぎ(福岡県) 当初、京浜市場へは鮮魚列車や冷蔵トラックで運んだが、輸送中に水
分が奪われてしまい失敗。
「いっそのこと空の便を使ったら」という大胆な発想のもと、日本航
空の協力により空輸が実現した。さらに、JAL の鶴のマークをねぎ一束ごとにつけることで、
高級イメージが生まれ、以後、飛ぶように売れ始めた。
● 黒川温泉(熊本県) 永年の懸案であった天神からの直行バスを、西鉄の協力により 2005 年 11
月~12 月に試験的に走らせた。結果がよかったので、2006 年 4 月より本格導入されることと
なった。
11
STEP 5. 販売流通戦略 ~生産されたものを「売りの現場」に乗せていく~
成功条件 5-1.ターゲット(どこの、誰に売るか)を設定する。
・ 販売流通を考えるに際しては、最初に「どこの、誰に売るか」という方針を定め、その後、そ
れに適した流通チャネル(経路)を開発するという手順を踏むことが重要である。
・ その商品を漠然と売り込むのではなく、何を目的に、どこの誰に対して売るかを決めることが、
限られた資源(人材、資金、情報等)の有効活用につながり、目的達成のための戦略も決めや
すくなる。
・ そうした検討においては、その商品の特性、生産量、物流体制等が考慮されなければならない
が、地域によって受容性が異なる商品もあるので注意を要する。例えば、関東は元来「白ネギ
文化圏」であり(博多万能ねぎ)
、またサバを刺身で食べる習慣もなかった(関さば)。
<事例紹介>
● 有田エコポーセリン(佐賀県)
エコの理念は、イメージアップを狙う企業や、グリーン購入法
を意識した行政に歓迎される傾向が強く、一般食器としての販売よりも、記念品、ノベルティ、
業務用食器としての需要が多い。
● 関あじ関さば(大分県)
大分県が日本文理大学の藤沢教授に「関あじ関さばの販売流通戦略」の
研究を依頼し、その結果を受けて、まずは福岡に狙いを定めることとした。
成功条件 5-2.安売りに走らない
・ 供給力に見合うだけの販売力がない場合、しばしば在庫の山ができる。これを処理する手っ取
り早い方法は、安売りをすることである。
・ しかし、ブランドは安売りしてはならない。本来、ブランドは価格以外の部分で、
「他とのちが
い」をアピールすべきものであり、安売りはブランド価値を毀損する。
・ ただし、ブランドの価値(そのブランドならではの「他とのちがい」
)を実体験してもらうため
に、一時的に価格を下げてトライアル需要を喚起することは、顧客拡大策としてあり得る。
(そ
の場合も期間や回数を限定するなど、慎重な対応が求められる。
)
<事例紹介>
● 尚古集成館(鹿児島県) 本物志向を心がけており、展示物は可能な限り現物主義を貫いている。
物品販売に関しても「薩摩切子」は価格政策の維持、売り先を広げない限定販売に徹している。
● 佐賀牛(佐賀県)
肉質等級によって「佐賀牛」と「佐賀産和牛」を分けてブランド化している。
これにより、食肉流通業者・小売店・消費者のそれぞれのニーズにあった肉質のものを、より
わかりやすい形で供給できるようになった。BSE 問題では佐賀牛も価格低下を余儀なくされた
が、結果的には、それがトライアル需要を喚起し、以後の需要拡大につながっている。
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成功条件 5-3.新しい販売チャネル(経路)開発に努める。
・ 地域ブランドづくりの目標である地域の活性化のためには、ある程度の量的な拡大が不可欠で
あり、その量的拡大の前提には、それを売りさばくための販売チャネルが確保されていなけれ
ばならない。
・ 流通チャネルの開発に関しては、専門家の協力を仰ぐことも有効だが、その場合でも決して他
人任せにしてはならない。地域ブランドづくりにおける「売り」の重要性を肝に銘じて、強い
当事者意識をもって取組むことが重要である。
<事例紹介>
● 鰤王(鹿児島県)
最初は関西から、その後、関東、全国、アメリカと広がり、まだ量は少ない
が EU、さらに 2005 年 10 月には上海にも初出荷した。アメリカ向けの出荷額は全体(約 100 億
円)の約 10 分の1程度。市場を経由して量販店というルートが主流だが、今後は直販ルートも
拡大していく意向。
● いきいき宮崎のさかな(宮崎県)
新しい販路として、いつでもおいしい宮崎のさかなを食べられ
る店を「指定店」としている。現在、東京に 4 店、大阪に 3 店、福岡に 3 店あり、客層は拡大
している。
● 宮崎ハマユウポーク(宮崎県)
直販を拡大したいと考えているので、今後、加工品に力を入れ
ていく。そのためのブランド「農村協働工舎」を新しく立ち上げた。
成功条件 5-4.インターネットのチャネル化を検討する。
・ インターネットによって流通全体の構造変化が起こりつつある中にあって、地域ブランドにお
いても、このチャネルは今後大きな比重を占めていくものと思われる。
・ 定時性、定量性(一定量の安定供給)が厳しく求められる量販店チャネル等に比べると、イン
ターネットはその部分への対応がしやすく、その点でインターネットは地域ブランドに非常に
適したチャネルといえる。
・ 現状では鮮度保持など克服すべき問題も多いが、技術革新はどんどん進んでいる。これまで適
さないと考えられていた商品分野でも、今後、インターネットの可能性は拡大していくものと
思われる。最初から否定することなく、積極的にその可能性を検討するべきである。
<事例紹介>
● 鰤王(鹿児島県)
年末の需要期には、インターネットによる販売を実施している。
13
STEP 6. ブランドプロモーション戦略
~そのブランドの存在、優位性を知ってもらうために広告・販促活動等を行なう~
成功条件 6-1.多様な手法を組み合わせて積極的に情報発信する
・ 生産者が陥りやすい過ちは、
「良いものさえ作れば、黙っていても消費者は買ってくれる」とい
う誤解である。モノ不足の時代であれば、そうした状況もあっただろうが、現代のようなモノ
余りの時代においては、自己の存在を強くアピールしないかぎり、誰も見向きもしない。
・ プロモーションの展開に際しては、多様な手法を組み合わせることが望ましい。多様な手法の
組み合わせにより、より広く、より深く、ブランドを認知させることが可能となる。
<事例紹介>
● はちべえトマト(熊本県)
2001 年に、ネーミングとシンボルマークを公募し、3000 通の応募の
中から「はちべえトマト」と命名した。シンボルマークも決めデビューキャンペーンを行なっ
た。当初は全国を対象にしていたが、2002 年以降、関東に絞った。中央線のキャンペーン電車、
トラックのボディーにディスプレイした「はちべえトラック」、
「トマト料理コンテスト」など、
さまざまなプロモーションを積極的に展開した。
● 宮崎ハマユウポーク(宮崎県)
認定証、盾やポスター・幟を店に渡し、店頭に表示している。
リーフレット、店頭掲示物、PR ビデオなども作り配布している。食育にも取組んでいる。県
下の小学校 35 ヶ所で「豚とん教室」と銘うってウインナーづくりの実習を実施している。
● 博多万能ねぎ(福岡県)
白ネギ文化圏である関東で青ネギを売るには食べ方の啓発から始めな
ければならず、100 店以上で試食宣伝を実施した。1982 年からはタレントを起用したラジオ
CM を、1985 年にはテレビ CM も開始した。さらに、アイデア料理コンテストを行い、それ
をまとめた料理誌も発行した。毎年 10~12 月を拡販期と定め、プレミアムキャンペーンを行
なっている。
成功条件 6-2.専門家のノウハウを活用する
・ 「地域ブランドだから、プロモーションも手作りで…」という発想では限界がある。市場を広
く全国に求める場合には、地域ブランドといえども、企業ブランドと同様の展開が求められる。
・ その際には、広告会社等の専門的ノウハウを使うことが有効である。また PR や販促に関して
も、専門会社のノウハウを活用することのメリットは大きい。
<事例紹介>
● 博多万能ねぎ(福岡県)
当初から大手広告会社、プロモーション会社を使っている。
● はちべえトマト(熊本県) 広告会社および PR 会社を使った。
● 手延素麺島原(長崎県)
大手広告会社を使い関西地区でテレビ CM を放送した。
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成功条件 6-3.PR
を戦略的に活用する。(PR のネタづくりとその発信)
・ ブランドの本質的価値は受け手の意識のなかでどのように認知されているかというところにあ
る。したがって、認知を形成するための情報発信はたいへん重要である。
・ 広告はそのための主力となる手法だが、いかんせん、お金がかかる。その打開策として PR の
活用が有効である。PR の基本的な考え方は、
「マスコミの興味を惹きそうな情報(ネタ)を積
極的に提供して、記事やニュースとして取り上げてもらう」ということである。
・ したがって、PR においては、
「マスコミの興味を惹きそうな情報」の中身が成否の鍵をにぎる。
そのネタに独自性がありニュース性が高く、さらには「物語」的な性格を持ったものであれば、
記事やニュースとなる可能性は飛躍的に高まる。また、クチコミの発火点ともなりやすい。
・ ブランドがそうしたネタを生来的に備えている場合は、その発信の仕方を工夫する。ネタがな
い場合には、なんらかの情報を付加することを考える。こうした作業においては広告会社や PR
会社など専門家の知恵を借りることも有効である。
<事例紹介>
● 博多万能ねぎ(福岡県)
ジェット空輸、JAL マーク、万能ねぎという名前。型破りなこれらが
PR の絶好のネタとなった。
● 黒酢(鹿児島県) 「黒酢」はいろいろなテレビ番組で取り上げられることで知名度を上げてき
た。現在よく使われる「血液さらさら」という表現は、黒酢を紹介する NHK の番組の中で初め
て使われた言葉だという。
● 関あじ関さば(大分県)
東京進出に際しては試食会を実施したが、当時はさばを刺身で出すこと
を拒むホテルがほとんどで会場捜しに苦労した。しかし逆に「生で食べられるさば」というこ
とを珍しがって、マスコミが積極的に取り上げてくれた。そのおかげで、折からの「グルメブ
ーム」にもうまく乗れた。
成功条件 6-4.インターネットを活用する。
・ ブランド認知を形成するための情報提供手段としてインターネットの重要性は高い。今回のア
ンケートの結果でも、約 6 割の地域ブランドの推進団体がホームページを持っている。
・ インターネットによる情報収集においては、Yahoo や Google などの検索サイトを経由する
ことがほとんどである。したがって、そうしたサイトを利用した販促手法(ネットプロモーシ
ョン)も今後、検討されるべきである。
<事例紹介>
● いきいき宮崎のさかな(宮崎県)
ホームページへのアクセスだけを見ると 10 万件/年を超える漁
協もある。以前、アンケートを実施したところ、魚をインターネットで買うことに抵抗のない
という人が 10%以上いたのには驚くとともに、この分野への希望が大きく膨らんだ。
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STEP 7. 顧客管理戦略
~顧客にどう評価されているかを把握した上で顧客との向き合い方を検討する~
成功条件 7-1.真の顧客はエンドユーザーであることを常に意識する。
・ 卸や小売業者を通じて販売を行なっている場合、エンドユーザーと直接取引が発生することは
ないため、ややもすると、卸や小売業者が「顧客」であるという誤解をしがちである。しかし、
卸や小売業者はあくまでも、エンドユーザーへ届けるための「仲介者」として存在しているの
であって、実際に商品を食べたり、使ったりするのは、消費者(エンドユーザー)であること
を忘れてはならない。
<事例紹介>
● はちべえトマト(熊本県) キャンペーン時には、生産者(婦人部)が売場に立っている(年
間 10 名程度)。それにより消費者の気持ちがわかるようになり、よりいっそう生産への意
欲が向上した。
● 佐賀牛(佐賀県)
JA 佐賀経済連直営アンテナショップ「さが風土館 季楽」には、佐賀牛を
中心とするメニューを取りそろえた“佐賀牛レストラン”を設け、佐賀牛のおいしさを手軽に
味わっていただくと同時に、消費者の声の収集に努めている。
「季楽」は佐賀本店に次いで、
2005 年 9 月には東京銀座に開店した。
成功条件 7-2.「ファン」化を図る。
・ 消費者が食べたり、使ったりした結果、そこに他とはちがう何らかの優位性があった場合、そ
の人はリピーターとなって再びそのブランドを購入する。
・ この場合、リピーターとブランドとの間には、
「信頼関係」が生まれていると言える。この関係
をさらに強化し、単なるリピーターから、そのブランドに対し特別な思い入れをもった「ファ
ン」にまで進化させることができれば、ブランドはさらに強固なものとなる。
・ 会員組織づくりは、ファン化のための有効な手法である。ファンとなった人は、その地域に足
を運ぶようになる。商品のブランド化が地域のブランド化に波及するという地域ブランドの理
想型がそこに見られる。
<事例紹介>
● 豊後大山ひびきの郷(大分県) 福岡都市圏からのお客様が主であり、これらの方々を中心に
約 15000 人を会員化している。会員には、物販 5%割引、誕生日優待など、さまざまな特
典を付与し、囲い込みを行なっている。
● させぼ四ヶ町商店街(長崎県) PR 隊が各地の YOSAKOI に行く。反対に各地の YOSAKOI
隊が佐世保に来る。その人たちが佐世保の魅力にとりつかれ「佐世保ファン」になる。
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成功条件 7-3.顧客満足度に常に気を配る。
・ そのブランドに対し消費者が満足した場合には再購入が期待できるが、満足しなかった場合に
は再び購入される可能性は極めて低い。したがって、ブランドとなって継続的な購入を獲得し
ていくためには、顧客満足度を把握することが基本的作業と言える。
・ 顧客満足度は直接、顧客を調査対象とすることが理想であるが、それが不可能な場合には、市
場を通じて間接的に顧客の評価を収集することも有効である。また第 3 者機関の調査を利用す
ることも有効である。
<事例紹介>
● かごしま黒豚(鹿児島県) 首都圏に 15 名の消費者モニター「黒のご意見番」をおいて、美
味しさなどの食感評価情報を収集している。
● かごしまブランド(鹿児島県)
個々の顧客を管理することはできないが、県の県外事務所は常に
市場に出向いて情報収集に努めている。出荷団体も東京をはじめとする大消費地には出先を持
っており、情報の収集に努めている。
● させぼ四ヶ町商店街(長崎県)
イベントの後では、チーム委員会を中心に反省会をやって顧客
満足度について検討している。市民の声にも常に耳をかたむけている。
● 酒泉の杜(宮崎県) 顧客満足度については、旅行専門紙「旅行新聞新社」が実施している「プ
ロが選ぶホテル・旅館 100 選」では、毎年、全国の上位にランクされている。
成功条件 7-4.顧客の評価・要望をブランドづくりにフィードバックさせる。
・ ブランドの本質的な価値は、受け手の意識の中でどのように認知されているかというところに
ある。ところが、受け手の意識は日々刻々と変化している。そのため、ブランドが現状に慢心
してその歩みを止めたならば、ブランドは一挙に陳腐化してしまう。
・ そうならないためには、ブランドは常に受け手の意識(評価・要望)に注意を払い、それをブ
ランドづくりの各段階にフィードバックさせることが重要である。この継続的な繰り返しが、
ブランドを強固なものとする。
・ フィードバックに際しては、マーケティングの原則にしたがって、
「強みを伸ばす」ことを「弱
みを克服する」ことよりも優先すべきである。すなわち、買わない理由よりも、何故売れてい
るかをしっかり把握し、その部分をさらに伸ばしていくことが重要である。
<事例紹介>
● 博多万能ねぎ(福岡県) トップブランドの地位を維持していくためには、既にある認知の上に
新たなるストーリーを付加することが重要だと考えている。アンケート等から、顧客が現在、
「食」に求めているものは「健康」
、「安全」であることがわかった。今後はこのキーワードを
ブランドづくりにフィードバックさせていく。
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STEP 8. ブランド管理戦略 ~ブランド価値を生み出す「強み」を絶えず点検する~
成功条件 8-1.内的なブランド価値毀損要因を排除する。
・ ブランドの本質的な価値は、受け手の意識の中でどのように認知されているかというところに
ある。したがって、ブランド管理とは、その認知の状態を常にベストコンディションに保つこ
とを意味する。
・ 内的なブランド価値毀損要因(ブランド関係者自らに起因するブランドにとってのマイナス要
因)は次の3点である。こうしたことが発生しないよう努めなければならない。
①ブランドの約束を守らない。
②ブランドを安売りする。
③ブランドの進化を怠る。
・ 「ブランドの約束を守らない」とは、表示内容を詐称したり、安全管理を怠ったりすること。
これはブランドがブランドであるための条件を自ら否定するものであり、消費者に対する重大
な裏切り行為である。そのためブランドにとって致命傷となる。
・ 「ブランドを安売りする」とは、目先の売上を優先して値引き販売に走ること。本来、ブラン
ドは、価格以外の部分で「他とのちがい」をアピールすることで高付加価値の獲得を狙うもの
であるから、安売りは自己否定に等しい。同様に、供給量を増やしすぎた結果、希少性がなく
なりブランドの魅力が失われる場合もある。
・ 「ブランドの進化を怠る」とは、ブランドが現状に慢心してその歩みを止めること。消費者の
意識は日々刻々と変化しているのだから、常にその動きへの対応に努めなければ、ブランドは
時代遅れになったり、飽きられたりしてしまう。
成功条件 8-2.外的なブランド価値毀損要因を排除する。
・ 外的なブランド価値毀損要因(ブランド関係者以外に起因するブランドにとってのマイナス要
因)とは、専ら「ニセブランド」の問題である。
・ ニセブランドは、本物が備えている「そのブランドならではの優位性」
(他とのちがい)が保証
されていないという点で、消費者に著しく不利益をもたらす。そして、それに起因する悪評は
本物にまで波及するため、結果としてブランドの価値が損なわれてしまう。
・ 商標登録は、そうしたニセブランドの問題への対抗措置として、さらには消費者保護という意
味でもメリットは大きい。従来、地域名と商品名の組み合わせは、原則として登録することが
できなかったが、2006年4月からは「地域団体商標」として、一定の要件を満たせば商標
登録できるようになった。ニセブランドへの有効な対抗策として期待される。
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成功条件 8-3.継続的にブランド管理に取組む。
・ お気付きのとおり、内的なブランド価値毀損要因、外的なブランド価値毀損要因とも、すでに
STEP 7.までで述べてきた事柄である。それをあえてここで繰り返したのは、ブランド管理
が地域ブランドづくりにおいて継続的に取組むべき重要課題であるからである。
・ ブランドづくりは、販売に至るまでに多くのステップを要す。しかし、販売にこぎつけたから
といって、それで終わりということにはならない。ブランドは長い時間をかけて、その価値を
形成・維持していくことが必要である。そして、その長い道程の途中においては、ブランドの
価値を毀損する要因が発生しないよう、常に管理をしていく必要がある。
・ 内的な毀損要因については、ブランドづくりに関わるすべての人々が毀損要因に対する認識を
共有し、ブランドの価値を高めるという視点で商品開発やマーケティングに取組むことが肝要
である。
・ 外的要因については、商標登録など法的な措置を講じておくことも有効である。
成功条件 8-4.ブランドの拡張を検討する。
・ 地域ブランドづくりがある程度進展した段階では、
「ブランドの拡張」は検討してみる価値があ
る。ブランドの拡張とは、現在あるブランドのコンセプトとの整合性を維持した中で、新たな
商品開発を行うことであるが、そこから生まれる相乗効果により、ブランド力の強化が期待さ
れる。
・ 地域ブランドの本来の姿(理想型)は、
「地域発の商品・サービスのブランド化と、地域イメー
ジのブランド化が相互に影響しあい、商品と地域の両方の評価が高くなっていくこと」とされ
ているが、これは、まさにブランド拡張の考え方そのものと言える。
・ ただし、ブランドの拡張に際しては、現在展開しているブランドについて、ロイヤルユーザー
たちが次に何を求めているかを的確に把握しなければならない。
もしそれが外れていたならば、
ブランドイメージは、拡張どころか“拡散”してしまうこととなる。
<事例紹介>
● 有田エコポーセリン(佐賀県) 一般消費者向けのエコ 21(リサイクル陶土率 21%)に加え、業務
用にシフトしたエコ 50(リサイクル陶土率 50%)も商品化した。
● 酒泉の杜(宮崎県) 綾町の魅力をうまく酒泉の杜に反映することを基本に、ブランド拡張とい
う視点で、地ビール工場、ワイン工場、およびそれらに付帯するレストラン、ガラス工芸・陶
芸・木工芸館等を設けた。ぶどうやブルーベリーなどの農園も好評である。
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3.地域ブランドづくりの分野別成功ポイント
前章では、地域ブランドづくりの成功ポイントを8つの戦略別に見た。ここでは、視点を変えて、
対象分野別に成功ポイントを分析した。(戦略別の視点をヨコ切りと呼ぶならば、この分野別の視
点はタテ切りということになる。)
分析においては、それぞれの分野の中で多くの事例が共通して抱えている課題(問題点)を抽出
して「重要課題」とし、その解決の方向性、具体的方策を紹介した。
さらに、タテ切りにおけるヨコ切りとの関係を示すため、
「参照:成功条件○-○」を記した。
「分
野別の重要課題」を読まれたあとに、「戦略別の成功条件」に再度、立ち戻っていただければ、よ
り理解が進むものと思われる。
なお、分野の分け方は以下のとおりとする。
分 野
ブランド化の対象物
A1 分野
農林産品
A2 分野
水産品
B 分野
加工品
C 分野
まちづくり
D 分野
産業集積
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(1)A1 分野(農林産品)
重要課題-1 流通サイドの要求への対応力強化
・ 農林産品を地域ブランドとして販路開拓しようとした場合、市場を経由するにせよ、量販店等
に直で卸すにせよ、ある程度の量的確保は、取引開始の条件として必ず流通サイドから求めら
れる。量を確保するためには、多くの生産者にその作物を作ってもらうことが必要である。そ
のため、農林産品のブランド化は、JA 等の推進主体が系統共販を行なうケースが多い。
・ さらに流通サイドは安定供給も要求する。安定供給とは常に一定量を確保せよということでは
なく、事前に流通側と話し合って立てた出荷計画を着実に実行することが強く求められる。そ
のため、推進主体には、高い価格を維持しながら、生産と出荷をうまくコントロールする高い
調整能力が求められる。
・ さらに、地域ブランドとしてチャネルを拡大しようとする場合には、流通サイドからの突発的
要求にも臨機応変に応えられることが望ましい。そのためには、生産力に余力を持つと共に、
市場の情報に常に目を光らせ、流通サイドの要求を先読みするくらいの敏感さが必要となる。
参照:成功条件 4-2(10P)
重要課題-2 輸入農産物対策
・ 多くの農業生産者にとって、輸入農産物の存在は大きな脅威となっている。農林産物のブラン
ド化は国内の産地間競争を闘うための武器であると同時に、輸入農作物と闘うための武器でも
ある。輸入農産物との闘いを強く意識した場合には、地域ブランドづくりのキーワードは、
「安
全」や「健康」であろう。品質や鮮度といった基礎的商品特性をきっちりと確保した上で、さ
らに「安全」
、「健康」という優位性を付加することが重要である。
参照:成功条件 3-1(8P)
重要課題-3 地域に人を呼び込む。
・ 現在ブランド化に成功している産地でも農業後継者の問題は深刻である。なぜなら、ブランド
化によって比較的高単価で取引されているにもかかわらず、かならずしも労力に見合った収入
が得られているとは言えないからである。それゆえに後継者がない。
・ それを打開するには、農産物のさらなる高付加価値化を考える必要がある。そのひとつの切り
口が、地域に人を呼び込むということである。農産物を出荷するだけでなく、消費者を産地に
招き入れるという双方向の流れを作ることで、高付加価値化の可能性が広がる。
・ 農産物直売所や農村レストランはその好例である。直売ならば利益率は大きい。また、レスト
ランで農産物を料理して提供すれば、さらに利益率は拡大する。
・ そうした数字的なメリット以外に、生産者が消費者と直接接する機会が生まれるというメリッ
トも大きい。それにより、生産者は消費者が何を求めているのかを知ることができ、生産への
意欲が高まる。
・ そのようにして、消費者のニーズを把握する力を身につけることができたならば、インターネ
ット等を利用して消費者と直接取引をすることの可能性も開けてくる。直販は量的には限界が
あるが、やり方によっては、高付加価値を得ることが可能である。
21
参照:成功条件 1-1(4P)
(2)A2 分野(水産品)
重要課題-1 供給力の確保
・ 水産品は農林産品以上に自然の影響を受けやすい。
天候や潮流によって漁獲量は大きく変わる。
それまで獲れていた魚が急に獲れなくなることもある。そのため、流通サイドが要求する安定
供給はなかなか実現しにくく、それが水産物のブランド化の阻害要因となっている。
・ この問題は、基本的には自然が相手の問題であり、さらには国際的な資源保護の問題等ともか
らんでくるので、いかんともしがたい部分も多いが、安定供給に向けた取り組みはブランド化
を進めるに際しては避けては通れない課題である。
・ この問題を解決するひとつの方法として、宮崎県の「いきいき宮崎のさかな」というブランド
づくりは注目される。これは、季節ごとにその時々の旬の魚をつなげていくことで、結果とし
て、魚の産地としての宮崎の地域イメージを作り上げて行こうとするものであるが、この方法
であれば、一種類の魚種をブランド化する場合よりも、安定供給への対応は容易となる。
・ いずれにせよ、水産物は「鮮度が命」という傾向が特に強いので、ブランド化を進めるに際し
ては、鮮度を保って高い品質を維持したまま消費者に届けることが、基本中の基本となる。
参照:成功条件 4-2(10P)
重要課題-2 地域に人を呼び込む。
・ 農林産品の場合と同様、水産品のブランドづくりにおいても、出荷するという一方通行の流れ
だけでは、充分な経済的うるおいは期待できない。さらなる高付加価値化をめざすならば、そ
のブランドによって地域に人を呼び込むという双方向の流れを作ることが有効である。
・ 水産物直売所や漁村レストランはその好例である。直売ならば利益率は大きい。また、レスト
ランで水産物を料理して提供すれば、さらに利益率は拡大する。
・ そうした数字的なメリット以外に、生産者が消費者と直接接する機会が生まれるというメリッ
トも大きい。それにより、生産者は消費者が何を求めているのかを知ることができ、生産への
意欲が高まる。
・ この「人を呼び込む」という発想は、生産規模が小さい水産物をブランド化しようとする場合
に特に有効である。市場に出荷しようすれば、ある程度の量を安定的に供給することが求めら
れるが、それが難しい場合は、地元に足を運びそこで食べてもらうことを優先させることで、
高い利益率を確保しつつ、評判づくりも同時に行うことができる。
参照:成功条件 1-1(4P)
重要課題-3 「魚ばなれ」対策
・ 若年層を中心に「魚ばなれ」が進んでいる。その対策としての「食育」
(魚食のメリット、魚の
おろし方、料理方法等を教える)は、基本的には国家的課題であろうが、水産物を地域ブラン
ド化しようとする場合にも、その対象魚種に特化した食育は、地域ブランドづくりの根底部分
を支えるものとして、長期的視点で地道に取り組まなければならない課題である。
22
(3)B 分野(加工品)
重要課題-1 販売に対する意識改革
・ 加工品づくりに携わる人は、作ることへのこだわりが強いあまり、総じて販売に関しては関心
が低い。いわゆる「職人気質」の人が多い。
・ かつては作ったものは卸売り業者に卸しておけばそれでよかったが、現在ではそのやり方では
充分な利益を確保することが難しくなっている。
・ 高い利益率を確保するためには自らが販売も手がけることが望ましいが、そこまでやらないに
しても、生産者が販売に対する意識を変え、それに積極的に取り組むことは、生産物の品質向
上を図る上でも非常に有効である。なぜなら、販売を意識することで、結果的に消費者サイド
に立ったものづくりが実現されるからである。
参照:成功条件 5-1(12P)、7-1(16P)
重要課題-2 地域イメージとの連動を強化する。
・ 加工品は民間企業が生産主体となっているケースが比較的多い。しかし、民間企業には地域の
活性化の視点が比較的希薄なので、加工品と地域イメージの連動はあまり考慮されていないケ
ースがしばしば見られる。
・ しかし、販売力の強化を考えた場合には、今後は地域イメージをうまく活用することが得策で
あり、ここに加工品を地域ブランド化する意味がある。
・ 地域イメージをブランドづくりに活用するためには、地域全体のまきこみがポイントとなる。
その地域の歴史や風土、そこに住む人々の暮らし、その加工品にまつわる背景など、地域が持
っているあらゆる情報をブランドづくりに活用していくことで、ブランドイメージは厚みを増
す。さらに、加工品ブランドとの相乗効果により、地域イメージ自体もブランド化していくこ
ととなる。
・ ただし、地域ブランドづくりの進展に伴い、全国市場さらには世界市場を目指すというような
場合(例えば、JAPAN ブランド育成支援事業の採択を受けた場合など)には、あえてブラン
ドイメージから地域性を排除する場合もある。
参照:成功条件 2-4(7P)、3-3(9P)、6-3(15P)
重要課題-3 商標登録で地域との連動を確たるものにする。
・ 地域イメージを商品のブランドイメージに転化させるに際しては、その商品と産地との関係を
クリアなものにしておく必要がある。他所で作られたものにその地域産であるかのように名乗
ることを許してはならない。
・ また、地域ブランドづくりは、ある意味では「地域間競争」でもある。地域間競争であるから
には、地域ブランドは地元との関連性を強くアピールすることが重要である。
・ そういう意味では、
「地域名+商品名」という組み合わせが、地域ブランドの商標の基本的かつ
理想的パターンといえる。従来、このパターンは基本的には登録できなかったが、新設される
「地域団体商標」ではそれが可能となる。この制度の積極的な活用により、地域ブランドは地
域との連動を確たるものにすることが期待される。
23
参照:成功条件 3-4(9P)、8-2(18P)
(4)C 分野(まちづくり)
重要課題-1 地域イメージ発信のテーマ(手法)選び
・ 「まちづくりを地域ブランドづくりの対象にする」とは、何らかの方法でその地域のイメージ
を発信し、そのイメージをブランド的な高み(他とのちがいが消費者の意識の中にしっかりと
認識されている状態)にまで引き上げていこうとすることを意味する。
・ 地域のイメージを発信する方法としては、イベントの実施、核となる施設の建設、町並みの整
備、名物料理店の集積等々、さまざまな切り口が見られる。
・ しかし、どんな切り口を取るにせよ、情報発信力の強いことが地域イメージをブランド化する
に際しては重要なポイントとなる。例えば、佐世保四ヶ町は住民参加型のイベント(「きらきら
フェスティバル」、
「YOSAKOI させぼ祭り」他)によって「日本一元気な商店街」というイメ
ージを確立することに成功しているが、そこに至るためには、年間を通じて話題性のあるイベ
ントをつないでいき、さらにそれを長年続けるという努力が重ねられている。つまり、イベン
トは単発では情報発信効果が小さいため、それを積み重ねることで情報発信力の強化を図って
いるのである。
・ 核となる施設の建設で地域のイメージを発信する場合には、その施設がイメージ的にも、機能
的にも、その地域の特色を色濃く反映していることが重要である。大分県日田市大山の「ひび
きの郷」
、宮崎県綾町の「酒泉の杜」)はその好例である。
・ 町並みの整備で大成功を収めているのが、黒川温泉である。ここは里山の自然を街中に再現す
るという他にはない独自性が強い情報発信力となっている。
・ このように、まちづくりを地域ブランドづくりの対象とする場合には、地域イメージ発信に際
して、情報発信力の強いテーマ(手法)を選択することが重要な課題となる。
参照:成功条件 1-1(4P)、1-3(5P)、3-3(9P)
重要課題-2 地域全体で取り組む。
・ この分野では、
「地域の活性化」という地域ブランドづくりの目的が前面に出てくるので、比較
的、地域住民の理解は得られやすい。しかし、その理解をより深めるためには、地域住民に対
し緻密な情報提供を行うと共に、住民が参加しやすい仕組みを作るなどして、ブランドづくり
を地域全体の取り組みとすることが重要である。
参照:成功条件 2-4(7P)
重要課題-3 商品・サービスのブランド化への展開
・ 地域イメージをブランド化することはそれだけで大いに意味がある。ブランド化された地域で
はそこにあるものすべてが魅力的に感じられるようになる。しかし、それをさらに発展させる
には、地域のブランドイメージを、地域発の商品やサービスのブランド化に転化させることが
有効である。これが実現されたとき、地域イメージのブランド化と地域発の商品やサービスの
ブランド化は、相互に影響しあい、両方のイメージが相乗的に高くなっていく。これこそが地
域ブランドの理想的な型といえる。
参照:成功条件 8-4(19P)
24
(5)D 分野(産業集積)
重要課題-1 地域の産業構造の分析
・ 「産業集積を地域ブランドづくりの対象にする」とは、その地域の産業構造(どのような産業
が集積しているか、そこにどんな強みがあるか)に注目し、そこから抽出される他の地域には
ない優位性をコンセプトにすえて、地域のブランド化を図る(地域イメージをブランド的高み
にまで上げる)ことを意味する。したがって、この分野での地域ブランドづくりは、地域の産
業構造を分析することから着手することとなる。
参照:成功条件 1-2(4P)
重要課題-2 コンセプトの抽出
・ 地域の産業構造を分析したら、そこから他所にはない優位性をブランド化のコンセプトとして
抽出する。
・ 愛知県は自動車産業をはじめ、多様な業種が集積し、量産体制を得意とするメーカーの裾野の
広さがある。そのため「製造業出荷額 28 年連続日本一」という実績を誇っている。この優位
性を国内外に向けアピールするために設けられたのが「愛知ブランド」である。
・ 京都には都市としての 1200 年の歴史がある。今、京都の伝統工芸といわれているものは、か
つてはすべて先端技術であった。また産業の裾野も非常に広く、ベンチャー型の企業も多い。
さらに大学も多くある。それらを総合すると、京都は研究開発型の産業構造を持っているとい
える。そういう特徴を活かすために「試作」というものに着目し、そこから「京都試作ネット」
が生まれた。
・ 有田は日本有数の陶磁器産地としてのポテンシャルに、材料のリサイクルという視点を付加す
ることで、産業集積としての活路を見出した。
「エコポーセリン」という製品のブランド化を図
っている。
参照:成功条件 3-1(8P)
重要課題-3 コンセプトを具現化するための仕組みづくり。
・ 産業構造を分析し、コンセプトを抽出したならば、次はそのコンセプトを具現化するための仕
組みを考えなくてはならない。
・ 「愛知ブランド」は、一定の基準をクリアした企業を「愛知ブランド企業」として認定する活
動である。愛知県が主導しているが、産・学・官・民が密に連携しており、さらに認定企業同
士の連携も生まれている。
・ 「京都試作ネット」は、民間の若手経営者の研究会がそのルーツであり、純粋に民間主導であ
る。クライアントからの試作のオーダーはメールで入ってくるが、それはメンバー各社に一斉
に届く。それを内容に応じてどの社に担当させるかをコントロールしている。この取組みを次
世代につないでいくため行政に働きかけを行っている。
・ 「有田エコポーセリン」は、趣旨に賛同した商社、窯元、陶土屋、型屋など 30 の会社・団体
がエコポーセリン推進協議会をつくり、ワーキングプロジェクトを立ち上げている。
参照:成功条件 2-2(6P)
25
4.地域ブランドづくりの新しい展開
(1)PB(プロダクトブランド)と RB(リージョナルブランド)の連動
先に述べたように、地域ブランドには、
(Ⅰ)地域発の商品・サービスのブランド化と、
(Ⅱ)地
域イメージのブランド化という2つの概念が含まれており、その両方が相互に影響しあい、商品と
地域の両方の評価が高くなっていくことこそが、地域ブランドのあるべき姿として求められている。
こうした連動の事例としては、下に示す 3 つのパターンが見られる。なお、説明の都合上、
(Ⅰ)
地域発の商品・サービスのブランド化を PB(プロダクトブランド)、(Ⅱ)地域イメージのブラン
ド化を RB(リージョナルブランド)と略すものとする。2
連動パターン①
PB 先行→RB に波及
連動パターン②
RB 先行→PB に波及
連動パターン③
PB、RB が同時進行
連動パターン①
PB 先行→RB に波及
大分市関(旧佐賀関町)の「関あじ」
「関さば」は地域産品のブランド化の代表的成功事例であ
り、そのブランド力により大都市の市場での高い取引価格を維持しているのであるが、近年、関あ
じ、関さばを現地で食べようという観光客も増え、地域の観光業にもプラスの効果をもたらしてい
る。この例は、商品・サービスのブランド化が地域イメージのブランド化に好影響をもたらしたも
のといえる。
こうした流れをさらに加速すべく、2005 年 10 月から、毎月第3土曜日に「朝市」を開催してい
る。そこでは、関あじ関さばをはじめとする鮮魚やその加工品はもちろん、近隣の農家の手による
農産物も売られており、遠来からも多くの人々が訪れている。なお、朝市を企画するに際しては、
朝市の先進地である佐賀県唐津市呼子に視察団を送った。
毎年、2 月には、「関あじ関さば祭り」を実施しており、たいへん賑わっている。
連動パターン②
RB 先行→PB に波及
湯布院は、湯布院のまち全体イメージがブランド化されているために、そこで提供される観光サ
ービス、農産物、加工品など、あらゆるものが他所のものよりも魅力的に感じられている。そのた
め、湯布院の名を冠した商品が多数開発され、売れ行きも好調である。(その反面、湯布院とは全
く関係のないものまで湯布院を名乗るという弊害も発生した。
) この例は、地域イメージのブラン
ド化が商品・サービスのブランド化に好影響をもたらしたものといえる。
2
PB、RB という略称については、中小企業基盤整備機構「地域ブランドマニュアル」
(2005 年 6 月発行)を参考
とした。
26
連動パターン③
PB、RB 同時進行
産業観光施設「酒泉の杜」が立地する宮崎県綾町は水の良さが魅力であり、また「有機栽培の町」
として地域のブランド力も高い。そのため、酒泉の杜のブランドづくりにおいても、「綾の自然と
の共生」、
「綾の自然に循環させること」が根本に置かれている。これを逆の視点からみれば、酒泉
の杜が綾町の魅力をシンボライズする「情報発信基地」となっていると言うことができる。
つまり、綾町の地域としてのブランド化(RB)と酒泉の杜の観光施設としてのブランド化(PB)
は密接に連動し、同時進行しているのである。
綾町の自然と共生する酒泉の杜
(2)複数の地域の連携による地域ブランドづくり
上に示した3つの連動の事例は、いずれも、単一の地域内における PB と RB の連動である。し
かし、今後は複数の地域が連携し、それぞれの強みを持ち寄って地域ブランドづくりを行なうケー
スも想定される。すなわち、
連動パターン④
( A 町の PB + B 町の PB+ C 村の RB ) = 広域の RB
というような形である。
この連動のパターンは、例えば、
・ 阿蘇地域 ~ 財団法人阿蘇地域振興デザインセンターの取組み
・ 筑後川流域 ~ 流域市町村が連携して地域活性化に取組んでいる例
・ 奥八女地域 ~ 旧八女郡に属する町村が連携して観光を中心とした地域活性化に取組んだ例
などがあり、これらは新しい地域ブランドのあり方を示唆しているように思われる。
特に「財団法人阿蘇地域振興デザインセンター」は、阿蘇地域内の多くの市町村を巻き込んで、
さまざまな施策に積極的に取組んでいる。
27
■阿蘇地域振興デザインセンターとは
阿蘇地域振興ザインセンター(以後「阿蘇DC」と呼ぶ)は、阿蘇地域内の連携を図り、地域振
興、観光振興、環境・景観保全、情報発信を広域で取り組むためのシンクタンクとして、旧阿蘇郡
12か町村と熊本県が30億円を出捐し、その運用益で事業を推進する公益法人です。
■阿蘇地域振興デザインセンターの役割
阿蘇DCは、地域課題に対応する広域的な取り組みの提案、および仕組みづくりを行う核的な存
在であることから、広域連携に関するソフト事業は、阿蘇DCがコーディネーターの役割を果たし
ながら推進し、具体的な振興策は、阿蘇地域における町村などの行政機関、広域行政事務組合など
の各広域関係機関、あるいは関係する民間団体などの地域住民と広範な連携を図り進めています。
また、阿蘇DCは行政により設立された団体ですが、その役割は行政に限って果たすものではなく、
各種団体、個人、組織などと連携を図りながら、阿蘇地域全体を考えるシンクタンクとしての役割
と、実際に事業の実施も行うドゥタンクとしての2面性を持つ財団です。
出所:同センターホームページ
上に示すとおり、同センターの設立目的は、地
域課題全般への対応であり、特に地域ブランドづ
くりが意識されているというものではない。しか
し、広域連携の「核的な存在」としてソフト事業
のコーディネーターの役割を果たすという業務の
中では、必然的に阿蘇という地域全体の地域づく
りを進めながら、それを観光的に情報発信すると
いった地域ブランド的な取組みが発生している。
「阿蘇」は元来、阿蘇カルデラの雄大な自然と
温泉の2大資源を持ち魅力的な地域イメージを備
えている。そうした高い地域としてのブランド力
の下で、地域内の各種団体、個人、組織などが、
「地
域ブランド」という視点を持って商品化やマーケ
ティングに取組めば、その相乗効果により「阿蘇
ブランド」はますます強固なものとなるだろう。
そうした連携をコーディネートする核的な存在と
しての位置づけや地域ブランドという観点からも、
同センターの今後の活動は注目される。
28
(3)核ないし焦点としての地域性
以上の例に見られるように、地域発の商品・サービスのブランド化(PB)と地域イメージのブ
ランド化(RB)は、生来的に、相互に強め合っていく構造を持っている。
しかし、それをうまく導き出すには、核ないし焦点としての真の意味での「地域性」が問われる
のであり、また各地域資源ブランドを束ねるための構図と調整力が必要となる3
そのため、現実にはそうした成功事例はまだまだ少数に留まっているのが実情であり、今後、そ
うした多様な地域資源の掛け合わせについては、さらなる研究が求められる。
図表 4-1
地域ブランド構築の基本構図
傘ブランドとしての地域
(象徴としての「地域性」
)
②
③
観光地ブ ランド
商業地ブ ランド
核として の地域 性
加工品ブ ランド
農林水産 物ブラ ンド
④
①
ブランディングの「場」としての地域
(地域資源プランの基礎としての「地域性」
)
①「地域性」を活かした地域資源のブランド化
③地域ブランドによる地域資源ブランドの底上げ
②地域資源ブランドによる地域全体のブランド化
④地域資源ブランドによる地域(経済)の活性化
出所:青木 幸弘(2005)
3
学習院大学経済学部経営学科教授 青木 幸弘(2005)
「何故、いま地域ブランドなのか」
(地域ブランド・フォー
ラム in SAGA 資料)より引用
29
(4)海外への展開
近年、地域ブランドが海外へ進出する動きが出てきている。九州の地域ブランドの海外展開につ
いては、地理的な優位性ゆえに、中国(上海)や香港が最初の足がかりとなるケースが多い(「博
多万能ねぎ」JA 筑前あさくら、「あまおう」JA 全農ふくれん、等)が、
「鰤王」
(東町漁業協同組
合)のように、アメリカや EU に進出している例もある。
そうした海外展開に際しては、地域ブランドの中心的概念でもある「地域イメージ」をどう扱う
かという問題が発生する。基本的には、日本国内における「地域性」よりも、「メイド・イン・ジ
ャパン」であることが先行するものと思われる。しかし、そうした中で、福岡県の「福岡ブランド
農産物」の取組みは注目される。
経済発展著しいアジアでは多くの富裕層が誕生し、少々値段が高くても、美しくて、美味しく、
高品質、安全な日本の農産物を求める市場が出現している。
福岡県は、この傾向をとらえ、福岡県地域食品輸出振興協議会を立ち上げた。これは、JA 全農
ふくれん等の農林水産関係 10 数団体と福岡県が官民一体となって輸出促進を図るため組織したも
のであるが、
「日本の農産物」というイメージをさらに一歩前進させ、日本の農産物の中でも特に
「福岡県の特産品・農産物」であることをアピールすることで県産品の輸出を拡大することを目指
している。
そのための具体策として、2004 年に輸出農産物の福岡統一ブランドマーク(通称「まる福マー
ク」)を策定した。この「まる福マーク」は、全国初の輸出用ブランドマークとして、香港、台湾、
中国、韓国にも商標登録を申請し、現在までに、香港、台湾、韓国で登録が完了している。
現在、
「まる福マーク」を活用して、海外での商談会、バイヤーの招聘、海外デパートでの福岡
県物産展などさまざまな輸出促進支援が行なわれている。特にいちご「あまおう」は各地で大人気
を博しており、輸出農産物の牽引役となっている。因みに、2003 年の「あまおう」の輸出量は 1.4
tであったものが、2004 年には 23.4tと大幅増になっている。
そうした成果もあり、2004 年度の県産農産物の輸出額は 4 億 2500 万円(2003 年度は 2 億円)
に拡大したが、今後は「福岡ブランド」の一層の浸透を図り、2008 年には 20 億円に拡大すること
をめざしている。
(写真提供:福岡県)
30
(5)NPO 団体等の地域ブランドづくりへの取組み
昨今、NPO がさまざまな分野で注目を集めている。地域ブランドづくりの究極の目的が地域の
活性化にあることを考えると、地域ブランドづくりの推進主体としても NPO は可能性が高いと思
われる。
しかしながら、実態を調べてみると、まだまだその事例は少ない。九州各県の NPO 登録リスト
の中から「ブランド」をキーワードに検索したところ、ヒットしたのは4件のみであった。
そうした中で、NPO 認証はまだ受けていないが、長崎の任意団体「まちづくり屋」の活動は、
学生や市民の中から沸き起こった地域ブランドづくりの動きとして注目される。
まちづくり屋とは…
長崎グッズ事業化研究グループ「まちづくり屋」は、2004 年 4 月に長崎市内に住む現役大学生
が市民有志と共に結成した団体です。
当団体の設立にあたっては、長崎市が主催した市民講座が背景にありました。その市民講座では、
20 代~60 代の学生、社会人、行政職員まで幅広い年代の人たちが集まり、まちづくりを継続的に
行うために「コミュニティビジネス」という形態を模索・研究していました。
その中に、のちのち、まちづくり屋の母体となる長崎グッズ事業家グループがありました。この
グループは、洋館群、おくんち、ちゃんぽん、カステラ、路面電車、眼鏡橋、出島などに代表され
る長崎の多くの魅力を県内外に発信することで観光活性化することを目的に、新しい長崎グッズを
開発・企画を検討していました。
2004 年 5 月、長崎県コミュニティビジネス起業化トライ支援事業補助金に採択されたのをきっ
かけに、本格的に活動を展開しました。そして 8 月に「カステラねくたい」が完成し試験販売を開
始。12 月には長崎市内の 6 店舗にて本格販売を開始しました。
1 年目にはそのほかにも、ご当地ネクタイ第2弾「吉宗オリジナルネクタイ」の企画や、長崎大
学経済学部地域経済研究会と諫早商業高校商業クラブとの共催で「高校生と大学生によるまちづく
りフォーラム」を実施しました。
2 年目には、ご当地ネクタイ第 3 弾のデザインを全国から公募する「長崎ねくたいデザインコン
テスト」を実施しています。現在では、
「カステラねくたい」を長崎・東京・大阪の全 16 店舗にて
販売しています。
長崎グッズ事業化研究グループ「まちづくり屋」は、今後事業範囲を広げていくにあたり、NPO
化を視野に入れています。ただし、まだ設立して数年しかたっていないため、これから試行錯誤し
ながら組織を作り上げていく段階です。そのため、今までの活動を通じて蓄積されたノウハウとネ
ットワークを生かして、地域の方々の協力を得ながら、日々成長していきたいと考えています。
出所:まちづくり屋
31
「カステラねくたい」 切り分けたカステラを図案化している。
32
5.地域ブランドづくり事例集
本マニュアル作成に際して行ったヒアリング調査の結果を要約して「地域ブランドづくり事例
集」とした。なお、九州域内と九州域外では取材のフレームが若干異なったものとなっているが、
これは、九州域内の事例については、第 2 章「地域ブランドづくりの戦略別成功ポイント」との関
連づけを特に考慮したためである。
分
野
農林産品
ブ ラ ン ド 名 (県)
ページ
34
佐賀牛(佐賀県)
36
はちべえトマト(熊本県)
38
宮崎ハマユウポーク(宮崎県)
40
日向夏(宮崎県)
42
かごしまブランド(鹿児島県)
44
かごしま黒豚(鹿児島県)
46
鰤王(鹿児島県)
48
関あじ関さば(大分県)
50
いきいき宮崎のさかな(宮崎県)
52
手延素麺 島原
54
黒酢(つぼ造り純米黒酢)
(鹿児島県)
56
させぼ四ヶ町商店街(長崎県)
58
黒川温泉(熊本県)
60
豊後大山・ひびきの郷(大分県)
62
酒泉の杜(宮崎県)
64
尚古集成館(鹿児島県)
66
産業集積
有田エコポーセリン(佐賀県)
68
農林産品
八名丸さといも(愛知県)
70
九
加工品
八丁味噌(愛知県)
72
州
まちづくり
TMO半田(愛知県)
74
栗と北斎と花のまち信州小布施(長野県)
76
愛知ブランド(愛知県)
78
京都試作ネット(京都府)
80
東大阪ブランド(大阪府)
82
九
博多万能ねぎ(福岡県)
州 域 内
水産品
加工品
まちづくり
域
外
産業集積
33
を行なっていた。京浜市場への出荷が始ま
博多万能ねぎ
った 1977 年、朝倉町農協博多万能ねぎ部会
が設立された。現在 150 名の生産者がいる。
(福岡県)
□ 対象区分:農林産品(A1 分野)
□ 事業主体:筑前あさくら農業協同組合
□ 取組開始:1976 年
「ジェット空輸」という型破りな発想が、プ
ロモーションでも大いに役立った。
トップブランドの地位を維持するため、新
たなストーリーづくりに着手している。
3) ブランドの優位性戦略
当初、京浜市場へは鮮魚
列車や冷蔵トラックで運
んだが、輸送中に水分が奪
1) ブランド化対象選定戦略
われてしまい失敗。そうし
1976 年、暖冬による豊作で野菜の値段が
た折、「いっそのこと空の
大暴落し、日本中の産地が窮地に陥ってい
便を使ったら」という大胆
た。何かいい値で売れる野菜はないかと福
な発想のもと、日本航空の
岡県園芸連の東京事務所担当者が市場をか
協力により空輸が実現し
けずり回っていたところ、東京ではあさつ
た。夕方出して朝のセリに
きが 100g400 円で売られているのを見て
間に合うため、高い品質が
仰天した。あさつきによく似た朝倉ねぎは
維持されることとなった。
福岡市場で 100gわずか 20 円足らずであっ
同時に高級青ネギの名
たからだ。さっそく東京青果の杉山勇氏を
を思い切って「博多万能ね
朝倉町の産地に招き意見を聞いたところ、
ぎ」と改名。さらに、JAL
工夫しだいで売れるとの答えを得られたの
の鶴のマークをねぎ一束
で、京浜市場への出荷が着手された。
ごとにつけることで、高級
万能ねぎは出荷の前に「ねぎ揃え」とい
イメージが生まれ、以後、
う調整作業を要すが、地元のお年寄りを中
飛ぶように売れ始めた。
心に、現在、800~900 名の方々がその作業
に従事しており、地域への波及効果はたい
4) 生産戦略
へん大きい。
万能ねぎは通年生産が可能である。夏場
は 60 日、冬場は 90~120 日を費やす。水
2) 推進組織戦略
を多く与えればもっと短期間で出荷できる
当初は 43 名程度の任意組合で共選共販
34
が品質は下がる。そうしたことがないよう
いえ、白ネギ文化圏である関東で青ネギを
生産マニュアルを定めている。等級・階級
売るには食べ方の啓発から始めなければな
についても厳格に管理している。
らず、100 店以上で試食・宣伝を実施した。
現在、年間 100 万ケース(1 ケース=100
1982 年からはタレントを起用したラジ
オ CM を、1985 年にはテレビ CM も開始
g/一束×30 束)を出荷している。
台風による被害を避けて安定供給を図る
した。
ため、耐台風強化ハウスの導入を推進して
さらに、アイデア料理コンテストを行い、
いる。
それをまとめた料理誌も発行した。
毎年 10~12 月を拡販期と定め、プレミア
ムキャンペーンを行なっている。
7) 顧客管理戦略
アンケート等による顧客データはあるが、
残念ながらこれまでそれを活用できていな
い。
「価格は高めだけど、やっぱり万能ねぎ
よね」と言ってもらえるような層を大事に
育てていくことを目指している。
そうした中で、トップブランドの地位を
5) 販売流通戦略
維持していくためには、既にある博多万能
わずか進出 6 年で全国市場制覇すること
ねぎの認知の上に、新たなるストーリーを
ができた。1986 年には第 25 回農林水産祭
付加することが重要だと考えられている。
で栄えの天皇杯を受賞した。現在も青ネギ
そのキーワードは「安全」と「健康」であ
のトップブランドである。現在の出荷先は
り、それを切り口に「万能」に新しい意味
70%が東京、
関西 15%、
中国・九州地方 15%。
づけを行なっていくことがこれからの課題
出荷調整による価格誘導が JA の重要な
とされている。
役割となっている。モノのコントロールと
情報のコントロールが市場での価格を大き
8) ブランド管理戦略
く左右する。市場流通については問題点も
博多万能ねぎの成功に追随するように、
多いと認識している。しかし、直販は代金
現在では、全国に競合産地が 20 数ヶ所ある。
回収等のリスクが伴うので慎重に検討を進
「万能ねぎ」の商標登録は取得しているが、
めている。
中にはよく似たパッケージも見られるため、
ポスター等により類似品に対する警告を行
6) ブランドプロモーション戦略
った経過がある。
(パッケージの帯ラベルに
ジェット空輸、JAL マーク、万能ねぎと
も「万能ねぎ」が登録商標である旨印刷し
いう名前。型破りなこれらがプロモーショ
ている。)
ンを行なう上で大きな力を発揮した。とは
http://www.hakatabannounegi.com/
35
した。これは、JA に加入することのメリッ
佐賀牛
トを維持し続けてきた努力の賜物である。
現在、肥育 JA は県下に 11 組合ある。研
(佐賀県)
修会、共励会等を活発に行い、切磋琢磨し
□ 対象区分:農林産品(A1 分野)
ている。かつては組合間で力の差があった
□ 事業主体:JA 佐賀経済連
が、今はどの組合も力をつけている。
□ 取組開始:1983 年
JA グループの傘下の肥育農家の比率
が高かったため、ブランドの一本化が比
較的容易にできた。
テレビ CM、アンテナショップなど、プロモ
ーションに積極的に取組んでいる。
1) ブランド化対象選定戦略
佐賀県下の若手肥育農家グループが肥育
3) ブランドの優位性戦略
技術の研究を重ね、肉質の向上が顕著とな
もともと、佐賀産の牛の評価は高かった。
ったことから 1983 年に「佐賀牛」と命名し
しかし、佐賀牛のシールを貼りはじめたこ
販売を開始した。
ろは、流通段階で剥がされたこともあった。
現在ではそういうことはない。佐賀牛は松
坂牛、神戸牛とならぶ高級ブランドとして
確たる地位を築いている。
等級の管理は厳格に行われている。
(社)
日本食肉格付協会の定める牛枝肉取引規格
で肉質等級「4」BMS(脂肪交雑)
「7」以
上を「佐賀牛」としており、それ以下は「佐
賀産和牛」となる。
「佐賀牛」の発生率(
「佐
賀牛」の基準を満たす割合)は現在 24%で
ある。
.
2) 推進組織戦略
4) 生産戦略
「佐賀牛」としてまとめるに際しては、
佐賀県においては JA グループの傘下の肥
肥育農家には、主に「佐賀牛指定配合飼
育農家の比率が 90%以上あったことが幸い
料」を供給している。これにより、肥育農
36
家で飼料を混ぜる手間を省き、規模拡大を
生産者自らが売場に立つことを行なってい
容易にしている。
る。
このため、肥育農家一戸当り 120~130
JA 佐賀経済連直営アンテナショップ「さ
頭と全国平均(約 60 頭)の倍の飼養規模が
が風土館 季楽」には、佐賀牛を中心とする
実現し、安定供給できる体制が整っている。
メニューを取りそろえた“佐賀牛レストラ
また、肥育農家の後継者も他県にはみられ
ン”を設け、佐賀牛のおいしさを手軽に味
ないくらい育っており、今後の安定供給も
わっていただくと同時に、消費者の声の収
維持できる。
集に努めている。
「季楽」は佐賀本店に次い
で、2005 年 9 月には東京銀座に開店した。
5) 販売流通戦略
指定店制度を 1988 年に発足させた。指定
店は、これまで関西中心だったが、今後は
関東も伸ばしていく計画である。
量販店からはプライベートブランド商品
化の要望が強いが、
「佐賀牛」では量的、価
格的に対応できないので、
「佐賀産和牛」で
対応している。この場合も 1 農場では安定
8) ブランド管理戦略
供給が困難なので、複数の農場によるグル
トレーサビリティー導入は佐賀牛にとっ
ては追い風となった。2002 年 10 月には、
ープ指定という形をとっている。
通販は JA 佐賀経済連直営「さが風土館
トレーサビリティーを完全に確保すること
季楽」が対応している。A コープ(地元に
ができた。
7~8 店舗)でも販売している。
肉の品質レベルについては、等級をいう
BSE 問題に際しては値下げを余儀なくさ
よりも、
「地名イコール等級」である方が分
れた。しかし、それが和牛の美味しさを知
かりやすいという意見もあるようである。
ってもらう機会となり、以後、需要が拡大
業界としての今後の検討課題である。
1989 年に面浮立のマークを、2000 年に
した。思いがけない幸運だった。
は佐賀牛のロゴを商標登録した。
6) ブランドプロモーション戦略
さがブランド確立対策推進協議会が窓口
となって、テレビ CM を関西では 1988 年
から、関東では 2002 年から出稿している。
テレビ CM の効果は大きいため、今後とも
継続して放映していく予定である。
7) 顧客管理戦略
http://www.sagagyu.jp/
「生産者の顔の見える販売」事業として、
37
と思った。以来、2 年間のテストののち、
はちべえトマト
2001 年から農家に実行してもらった。現在
約 400 戸の農家が参加し、300ha の作付面
(熊本県)
積で 24000 トンの出荷量がある。冬トマト
としては日本一の産地である。
・ 対象区分:農林産品(A1分野)
・ 事業主体:八代地域農業協同組合
3) ブランドの優位性戦略
・ 取組開始:1999 年
黄色蛍光灯、防虫テープ、防虫網などの
減農薬資材を使用することによって、農薬
地域ぐるみの取組みにより「安全・安心・
美味しい」を実現。
の使用量を半分以下にすることができた。
詳細な生産マニュアルを作るとともに、ほ
とんどの生産者が「エコファーマー」の認
複合的なプロモーションが功を奏し、大
規模チャネルの開発に成功した。
定を取っている。
(エコファーマーとは、堆肥等
の土づくりを基本として化学肥料、化学農薬の使
用量を低減するための生産方式を自分の農業経営
1) ブランド化対象選定戦略
八代平野はかつてイ草の大産地だったが、 に導入する計画を立て、県知事に申請し、認定さ
れた農業者の愛称。
)
安い中国産が輸入されるようになって大打
撃を受けた。そうした折、トマトについて
も韓国産が大量に輸入されるようになり、
冬トマトの日本一の産地でもある八代はイ
草の悲劇がトマトでも繰り返されるのでは
ないかと危惧した。その対策として減農薬
栽培によるトマトのブランド化に取組むこ
ととなった。
黄色灯(防蛾灯):これにより農薬の使用を低減できた
4) 生産戦略
オリジナルで開発したオール有機の肥料
「はちべえ有機」を使用しており、それに
よって安全性の確保と美味しさの向上に努
めている。しかし、味に関しては土壌の違
い等によってバラつきがあるのが実情であ
2) 推進組織戦略
JA 八代営農指導部の奥村氏は普及セン
る。現在、JA が中心となって美味しさの向
ター職員とともに、広島県に黄色電灯によ
上・均質化の研究に着手している。これが
る害虫防除の方法を視察に行き、「これだ」
実現できれば「はちべえトマト」ブランド
38
の優位性はいっそう強固なものとなるもの
みキャンペーンも行なった。これら一連の
と期待される。
プロモーションの展開に際しては、広告会
「一個のトマトに真剣です」パンフレッ
社、PR 会社の力を借りた。
トにあるこのコピーのように、各生産農家
は「安全・安心・美味しさ」に向けて、一
生懸命取組んでいる。
5) 販売流通戦略
全量を農協共販としている。出荷先は関
東 60%、関西 20%、中部 10%、地元九州は
2~3%と少ない。
マルエツ(関東)の 200 店舗に、500~
1000 ケース/日を納入しており、これがメ
インのチャネルとなっている。マルエツ分
7) 顧客管理戦略
については、一個一個に「はちべえシール」
を貼っている。
マルエツでの販促キャンペーン時には、
アンケート調査を行なっている。またキャ
インターネット等を利用した個人向け販
ンペーンでは栽培農家の女性部の人が店頭
売は現状では未着手だが、重要検討課題と
に立っている(年間 10 名程度)。それによ
されている。
り消費者の気持ちがわかるようになり、よ
りいっそう生産への意欲が向上した。
6) ブランドプロモーション戦略
2001 年 7 月に、ネーミングとシンボルマ
8) ブランド管理戦略
ークを公募し、3000 通の応募の中から「は
マルエツ用に貼っているシールやその他
ちべえトマト」と命名し、シンボルマーク
の宣材はマルエツ専用としているので、そ
も決め、デビューキャンペーンを行なった。
の他の店が使いたいと言ってきた場合には、
当初は全国を対象にしていたが、2002 年
基本デザインは守りつつ、コピー等は少し
以降、関東に絞った。中央線のキャンペー
変えてもらっている。その際にはチェック
ン電車、トラックのボディーにディスプレ
しているし、使用後の報告も受けている。
イした「はちべえトラック」、「トマト料理
コンテスト」など、さまざまなプロモーシ
ョンを積極的に展開した。それを見たマル
エツが関心を示して取引が始まった。
朝日新聞で「はちべえクイズ」を 3 ヵ年
継続して実施した。その応募ハガキが 1 万
枚ある。マルエツの店頭ではテレビデオで
http://www.hatibee.com/
ビデオ・パッケージを流したし、ぬいぐる
39
いる。
宮崎ハマユウポーク
4) 生産戦略
(宮崎県)
生産農家は県下全域に広がっている。県
□ 対象区分:農林産品(A1分野)
全体の年間出荷 140 万頭の内、約7%が「宮
□ 事業主体:JA 宮崎経済連
崎ハマユウポーク」である。残りはハムメ
□ 取組開始:1990 年
ーカーからの委託生産等となっている。ハ
マユウポークの供給力はやや不足気味であ
る。生産基盤を充実させ、年間出荷 20 万頭
飲食店チャネルの開発、通販への取組
みが活発に行なわれている。
を目標としている。
「宮崎ハマユウポーク」という大きなく
くりでは特徴に欠けるため、昨今、飼料等
ブランド細分化の動きも出てきている。
の工夫によるブランド細分化の動きが出て
きた。いわゆる「銘柄豚」である。例えば、
1) ブランド化対象選定戦略
餌に特徴をもたせた「かんしょ豚」、「お茶
種豚「系統豚ハマユウ」は 1979 年からの
メ豚」、木酢酸を使用した高城町の「観音池
取組みである。それをベースに、宮崎県と
ポーク」など。こうしたブランドであれば
JA と生産農家が一体となって品種改良、普
生産者の顔が見えるし、からいも、お茶、
及させたのが「宮崎ハマユウポーク」であ
木酢酸とも健康イメージを伴ったものであ
り、宮崎県を代表するブランドとなってい
るから、そのイメージを豚に波及させるこ
る。
ともできる。これらの銘柄豚はそれぞれ基
準が設けられている。今後の展開が期待さ
2) 推進組織戦略
れる。
宮崎ハマユウポーク普及促進協議会がで
きたのは 1990 年。県と経済連と経済連の協
5) 販売流通戦略
同会社である株式会社ミヤチクが幹事とな
商品の販売には、指定店制度をとってい
っている。県が品種開発、経済連が販促・
る。全国に 135 店、そのうち県内は約半分
PR、株式会社ミヤチクが販売と、それぞれ
を占める。量販店よりも「宮崎の豚が食べ
役割分担している。
られる店」という売りで飲食店を狙ってい
る。最近、地元の料理屋で「宮崎ハマユウ
3) ブランドの優位性戦略
ポークのセイロ蒸し」を提供しているが好
豚の改良(選抜)は最低 7 年かかるとい
評を博しているようである。
う。消費者、流通関係者の声を汲み取りつ
販売流通に関しては、基本的には株式会
つ、美味しい豚づくりに向けて常に改良を
繰り返している。
「県内全域」を対象とし、
社ミヤチクが担当しているが、新たなチャ
ネルを増やすつもりはなく、むしろ、消費
県の商品ブランド認証基準を満たしたもの
者へのダイレクト販売を拡大していきたい
を「宮崎ハマユウポーク」として認証して
40
という。
アピールすることが有効であるとの考えの
ダイレクト販売には加工品の方が適して
もと、今後は、宮崎の特産品とハマユウポ
いるので、今後は加工品に力を入れていく。
ーク製品をセットにし、そこに宮崎の季節
そのため、ハム・ソーセージの新しいブラ
ごとメッセージ(情報)を添えて消費者に
ンド「農村協働工舎」を立ち上げた。
「農村
直接届けるような仕組み(通販)に取組ん
協働工舎」の商品コンセプトは「牧場から
で行くことを計画している。
食卓へ、健康とおいしさの風を送る」とな
っている。
8) ブランド管理戦略
「宮崎ハマユウポーク」は 1999 年に商標
6) ブランドプロモーション戦略
認定証、盾やポスター・幟を店に渡し、
登録した。まじめに嘘をつかずにやり、そ
店頭に表示している。リーフレット、店頭
れをきちんと訴えていくことが、ブランド
掲示物、PR ビデオなども作り配布している。 づくりの基本だと考えられている。
食育にも取組んでいる。県下の小学校 35
ヶ所で「豚とん教室」
(ウインナーづくり教
室)を実施した。その際、農家の方に先生
をやってもらっている。その結果、農家の
人も作ることの責任を強く意識するように
なったという。生産意欲もあがり一石二鳥
である。
7) 顧客管理戦略
宮崎ハマユウポークはさっぱりした脂が
特徴なので、ターゲットとしては若年層、
特に女性を狙っている。
http://www.miyazakibrand.jp/brand-list/p
安定的需要を確保するには、「宮崎ファ
ork/main.html
ン」をつくることが重要であると認識され
ている。そのためには、宮崎のイメージを
41
「宮崎県の商品ブランド」となっている。
日向夏
2) 推進組織戦略
(宮崎県)
30 年くらい前に「日向夏研究会」という
□ 対象区分:農林産品(A1 分野)
生産者有志のグループができ、よいものだ
□ 事業主体:JA 綾町
けを厳選して出荷販売していた。それによ
□ 取組開始:1989 年
り、現在の日向夏の高い評価の基礎ができ
た。
しかし、綾の日向夏の高い評価の前提に
高い品質の上に「有機農業の町」という
綾の地域イメージがプラスされ、相乗効
果を生んでいる。
は、
「有機農業の町」という綾町の高い地域
イメージの存在があることを忘れてはなら
ない。綾町は 1988 年食の安全を追求する目
的で全国初の「自然生態系農業の推進に関
宮崎ブランドに統一されたが、いまだに
綾ブランドの評価は高い。
する条例」を制定し、町を挙げて有機農業
に取組んでいる。この有機農業への取組み
については、行政と農協の一体感によると
ころが大きい。
89 年には、有機農業開発センターができ
た。その販売先のひとつに北九州生協(現
グリーンコープ)があった。ここは当時か
らエコに関心が高く、その影響を受けたと
いう面もある。
1) ブランド化対象選定戦略
かつて宮崎県綾町の八朔は日本一と言わ
れていた。しかし、20 年ほど前、寒波とそ
の後のウィルス病の発生により大打撃を受
けた。
綾町では、それを機に日向夏への転換が
3) ブランドの優位性戦略
図られ、同時にブランド化への取組みが進
綾町は「有機農業の町」であるため、日
められた。
向夏も除草剤を使用しないで栽培している。
その後、日向夏は綾町のみならず県内の
品質向上については、生産者が団結して
他地域でも栽培されるようになり、今では
42
取組む一方で、互いに競い合いながら切磋
イントとなっている。食べ方のパンフレッ
琢磨しているという面もある。
トやリーフレットが必ず出荷箱には入れら
7 割が個人選果なので、出荷時期前には
れている。
「目揃え会」を行い、選果基準の徹底を図
プロモーションについては、以前は綾独
っている。また出荷期には抜き打ち検査を
自にやっていたが、現在では全県統一的に
行い品質の保持に努めている。
県、JA がいろいろな取組みを行なっている。
肥料もメーカーとの協力で特別配合した
「日向夏特合」という綾独自の肥料を使用
7) 顧客管理戦略
している。この肥料も「綾で使われている
宮崎山形屋では、贈答用に毎年決まった
なら安心」というイメージがあるためか他
人たちが大量に買ってくれており、送り先
所でも評判がよいという。
の人が注文してくれるという連鎖もあると
いう。生協や中卸にも支援してくれる層が
4) 生産戦略
多くいる。
「2・4・4運動」
(施設栽培 2 割、早生
種 4 割、在来種 4 割)を行なっている。こ
8) ブランド管理戦略
れは消費者のニーズに応えるという意味と
ロゴ・マークは JA 経済連が管理してい
同時に、農家の労働力を一時期に集中させ
る。綾産は青い箱が特徴となっているが、
ないという意味もある。
それを変えようとしたところ、流通関係者
JA 綾、綾町、普及センター、生産農家の
から、
「青が綾産の目印になっているから変
連携がうまく機能しており、現在、綾では
えるな」言われた。つまり、現在でも「宮
25ha の作付で年間 700 トンを出荷してい
崎ブランド」よりも「綾ブランド」の方が
る。これは宮崎県全体の日向夏出荷量の
強いということなのだが、宮崎ブランドと
60%を占めている。
して統一されたからには、それにしたがっ
ている。
5) 販売流通戦略
現在、
県内 50%、
県外 50%となっている。
価格的には、ギフト商品として扱ってもら
うことが最も望ましい。
宮崎県内の販路開拓は宮崎中央市場と共
同で行なってきたので、市場外取引につい
てはあまり考えていないという。
市場では「みやざきブランド」として一
元集荷、一元販売されている。
6) ブランドプロモーション戦略
http://www.kei.mz-ja.or.jp/
食べ方のアピールが今後の消費拡大のポ
43
2) 推進組織戦略
かごしまブランド
かごしまブランド推進本部は、県知事や、
農業団体、市場関係者、消費者代表等、16
(鹿児島県)
団体で構成される。それぞれの地域には「地
□ 対象区分:農林産品(A1分野)
域推進本部」がある。その本部長は代表市
□ 事業主体:かごしまブランド推進本部
町村の首長である。かごしまブランドは鹿
□ 取組開始:1989 年
児島県総合計画の主要プロジェクトに位置
づけられており、年次ごとの計画にしたが
って推進されている。
全国市場を対象としているので、量の維
持が重要課題と位置づけられている。
ブランド産地に指定されることは、地域
の人々の誇りとなり、その結果、他の産地
の生産意欲も向上する。将来は世界に誇れ
品質についても、厳しい基準をクリアす
ることが義務づけられている。
るかごしまブランドの育成をめざしている。
役割分担については、JA が出荷・流通の
実務を担当し、県は後方支援(産地づくり、
PR 等)を行っている。
3) ブランドの優位性戦略
鹿児島県産の農産物は元来、大消費地向
け生産が主である。ブランドの確立によっ
て県農産物のイメージアップと安定供給を
狙っている。作物ごとに産地指定基準があ
り、厳格に審査している。
1) ブランド化対象選定戦略
2005 年 10 月から、
「かごしまの農林水産
品質の良い農産物を安定的に供給するこ
物認証制度」がスタートした。これは県内
とを目的として、産地指定制度をスタート
で生産される農林水産物を対象に、県が「安
させた。
心・安全」に関する基準を策定し、その基
準どおりに生産・出荷されていることを第
三者機関が審査・認証する制度で、全国に
先駆けて導入された。
かごしまブランドの申請に際しては、こ
れを先行して取得することが義務づけられ
た。すなわち、
「安心・安全」への配慮が一
層強く求められるものとなったのである。
かごしまブランドの農畜産物
44
4) 生産戦略
いる。
ブランド産地指定に当って、例えば野菜
では、量的に 5 億円以上の出荷額があり、
出荷量の多い市場の方々等の審査を受ける
ほか、畜産物では、出荷頭数や飼養管理、
肉質など多様な基準を設けている。
これを満たすには、県、農協、自治体が
一体となって継続的に取組まなければなら
ず、一朝一夕に実現できるものではない。
審査に合格し、推進本部長である知事が
認めれば「かごしまブランド産地」として
指定される。
これまでに 12 品目 18 産地が指定を受け、
産地全体(農畜産物)の年間出荷額は約 470
億円の規模となっている。
伊藤知事のトップセールス
5) 販売流通戦略
7) 顧客管理戦略
それぞれの産品によって出荷先は異なる
個々の顧客を管理することはできないが、
が、基本は市場流通である。大量供給を維
県の県外事務所では、常に市場に出向き情
持するため系統共販を重視している。
報収集に努めている。出荷団体も東京をは
じめとする大消費地には出先を持っており、
情報の収集に努めている。ブランド推進本
部のメンバーには市場の重役も入っており、
情報収集にぬかりはない。
8) ブランド管理戦略
ロゴ・マークは鹿児島県が図形商標登録
している。ロゴ・マークの使用ルールの遵
守は、日頃から指導している。
売場キャンペーン風景
6) ブランドプロモーション戦略
①経済団体が行う活動、②県が主体とな
って行う活動、③ ①と②を合同で行う活動
がある。伊藤知事はマニュフェストでトッ
http://www.pref.kagoshima.jp/home/ryue
プセールスを宣言しており、活発に動いて
nka/
45
2) 推進組織戦略
かごしま黒豚
生産者が一体となって、消費者が求める
安全で美味しい黒豚肉の生産促進と「かご
(鹿児島県)
しま黒豚」のブランドを確立するため、1990
□ 対象区分:農林産品(A1分野)
年にかごしま黒豚生産者協議会が設立され
□ 事業主体:かごしま黒豚生産者協議会
た。
協議会では、消費者および流通関係者と
□ 取組開始:1990 年
密接な情報交換を行い、
「高品質なかごしま
黒豚を消費者まで確実に届ける」生産・販
黒豚証明書制度および販売指定店制度
により、生産から流通・販売まで一貫し
た管理を行なっている。
売体制の整備を図っている。
協議会には、県内の 22 の黒豚生産者グル
ープ(生産系列)が加入し、2004 年には約
27 万頭(県内黒豚出荷頭数の約 65%)を出
荷している。22 生産系列中 15 系列が鹿児
島県が指定する「かごしまブランド」の産
地として指定されている。
3) ブランドの優位性戦略
1992 年から、かごしま黒豚証明書制度を
設けている。証明書の交付は、かごしま黒
豚生産者協議会会員が出荷した「かごしま
1) ブランド化対象選定戦略
黒豚」が対象である。
(2006 年からは、販
かごしま黒豚のルーツは非常に古い。約
売指定店のみに交付するように改正されて
400 年前に、当時の島津藩主家久によって
いる。
)
琉球から移入され、以後、鹿児島の風土と
① 証明書は、県黒豚生産者協議会会長が各
密着して改良に改良を重ねながら作り上げ
生産系列の責任者の申請に基づき、生産
られた。
系列名(生産社名を含む)および証明書
1960 年代半ばまでは、県内の養豚は黒豚
番号(連番)を印刷のうえ交付される。
一色だったが、1970 年頃から、経済効率に
② 交付された証明書は、農家から荷受・パ
すぐれる白豚への転換が進み、1980 年代半
ッカーに渡され、出荷時に処理年月日等
ばには黒豚は絶滅の危機に瀕した。
を記入して枝肉セットあるいは部分肉
しかし、その頃、東京では美味しい「黒
のパッケージに添付される。
豚」を求める声が起こっていた。東京の産
③ 証明書を添付し、販売店等まで流通する
直グループも黒豚を欲していた。
伝統の黒豚を守っていかねばならないと、
ことにより、生産農家が生産物(黒豚肉)
に対して自信と責任を持つとともに、か
当時の県知事以下、県として取組みが始ま
ごしま黒豚の美味しさに安全と安心を
った。
46
プラスできるという利点がある。
きる販売店、料理店が「かごしま黒豚販売
④ なお、生産者協議会では、かごしま黒豚
指定店」となることができる。現在、全国
に 325 店(2005 年度)を指定している。
の出荷量と販売量の整合を確認し、適正
な流通体制を整備するために、販売店に
対し、黒豚肉の販売後の証明書返還を依
6) ブランドプロモーション戦略
頼している。
販売促進については各生産系列が中心に
取組んでいる。生産者協議会としては、例
えば「証明書」がよりよく機能するように、
ポスター、のぼり、チラシ等を作成・配布
する等々の支援を行なっている。
7) 顧客管理戦略
首都圏に 15 名の消費者モニター「黒の御
意見番」をおいて、食感情報や首都圏にお
ける販売状況を把握している。イベント会
4) 生産戦略
場等では、アンケートを実施している。
鹿児島県の肉豚出荷頭数は日本一である。
その内の約 20%が黒豚であり、その黒豚の
8) ブランド管理戦略
約 65%を生産者協議会のメンバーが生産し
ロゴ・マーク(図形入りのかごしま黒豚)
ている。
を商標登録している。地域団体商標にどう
品質の維持こそブランドの命と考え、指
対応するかも現在、検討中である。
定店を対象に、抜き打ちで商品を DNA 分
析調査している。同時に店頭における指定
店証・証明書等の陳列状況についても指導
している。
5) 販売流通戦略
「販売指定店制度」を設けている。その
目的は、産地の明確なかごしま黒豚が、確
実に販売店等に行き届いていることを確認
する仕組みを構築することにより、生産と
流通・販売の一体化を図り、消費者の信頼
を揺ぎないものにすることにある。
かごしま黒豚ブランド産地が出荷し、か
ごしま黒豚肉を年間一定量以上取り扱って
おり、添付された証明書を 95%以上返還で
http://www.minc.ne.jp/k-kurobuta/
47
3) ブランドの優位性戦略
鰤王
生産履歴が国内外を問わず求められるの
で、詳細なマニュアルをつくり、その厳守
(鹿児島県)
を義務づけている。それが守られていない
魚は取り扱わない。
□ 対象区分:水産品(A2分野)
加工作業についても 90 年代後半から
□ 事業主体:東町漁業協同組合
HACCP に沿った厳格な衛生管理のもとで
□ 取組開始:1990 年
行なわれている。
肉質と並んで重要なのがトレーサビリテ
品質管理、衛生管理を高いレベルで実
現している。
ィーである。どこの誰がどういう餌を使っ
てどのように育てたかが明確に記録されて
いる。牛とちがって一頭ごとの管理は無理
大規模な生産力を背景に、海外市場に
も進出している。
だが、生簀ごとに管理されている。
1) ブランド化対象選定戦略
昔から東町一帯の漁業は養殖生産が主流
だった。しかし、生産者は作ることしか頭
厳格な衛生管理のもとで解体される
になく、
「売り」に関しては全く無関心だっ
た。そうした折、激化する産地間競争に打
4) 生産戦略
ち勝つには「売り」に対する取組みが不可
市場のニーズを的確に把握し、肉質の改
欠であるとの認識のもと、東町漁業協同組
善・均一化に努めている。そのためにオリ
合が主導してブランド化に着手した。
ジナルの飼料をつくっている。
今後は 100%
その餌に限定することで、肉質の均一化を
2) 推進組織戦略
進めていく計画である。
現在約 150 名の生産者がいる。
養殖鰤は全国的に生産過剰状態が続いて
前の漁協組合長は自らも養殖を行なって
おり、今後は適正な需給バランスの維持に
いる人だったこともあり、漁協がリーダー
業界として努めることが求められている
シップを発揮して引っぱっていった。営漁
指導課が加工工場と連携して推進役の中心
5) 販売流通戦略
なり、また県も町もさまざまな助成・支援
最初は関西から、その後、関東、全国、
を行なった。
48
アメリカと広がり、
まだ量は少ないが EU、
い。しかし、トレーサビリティーを武器に
さらに 2005 年 10 月には上海にも初出荷し
ダイレクト販売にはチャレンジしたいと考
た。アメリカ向けの出荷額は全体(約 100
えている。
億円)の約 10 分の1程度である。
市場を経由して量販店というルートが主
8) ブランド管理戦略
流だが、今後は直販ルートも拡大していき
鰤王の品質の高さが認められて仕入れら
たいという。
れたとしても、切り身になって店頭に並ん
現在、年末の需要期のみインターネット
だときには、
「鰤王」を示すシールが貼られ
販売を行っている。そうした部分に関わる
ない場合もある。そのためいくら品質向上
専任者を欲している。
に努力してもそれが直接消費者に理解され
ることが難しい状況も見られる。今後、ブ
ランド力を強化していく上で、この問題は
解決すべき重要課題である。解決のための
ひとつの方向として、消費者へのダイレク
ト販売が有望視されている。
東町風景
6) ブランドプロモーション戦略
若い人たち(40 歳以下)の間で、魚ばな
れが進行しているので、魚食のメリットを
訴える PR 活動が必要だと認識されている。
食べ方だけでなく、さばき方も教えていく
鰤王マーク
必要があるという。
ジャパン・インターナショナル・シーフ
ードショーやパリ国際見本市などにも参加
した。
大手水産会社に対抗できるように、生産
と販売の一貫性の確保と、スピード対応を
心がけられている。
7) 顧客管理戦略
卸、バイヤーなどへのアンケートはやっ
http://www.azuma.or.jp/
ているが、個々の顧客管理という考えはな
49
3) ブランドの優位性戦略
関あじ・関さば
漁場、漁法(一本釣り)、取扱い(活けじ
め)など、高い品質を守るために数々の約
(大分県)
束事を決めている。組合員には「魚を大切
□ 対象区分:水産品(A2分野)
に扱ってくれ」とお願いする一方、組合と
□ 事業主体:大分県漁業協同組合
しては「鮮度の良い状態で消費者に届ける」
ことに最大限の努力を払っている。
佐賀関支店
関あじ関さばの美味しさの秘密について
□ 取組開始:1989 年
は、90 年代前半に大分大学の望月教授に研
究していただき、お墨付きを得た。
「関あじ関さば」ならではの優位性が、マ
スコミの積極的取材を誘発した。
2006 年 4 月に導入される地域団体商標に
ついては、取得するための準備を行なって
いる。
「出荷するブランド」から「招き入れるブラ
ンド」へと新たな展開を図っている。
4) 生産戦略
魚自体をみれば約束事が守られているか
どうかはすぐにわかるという。現在、関あ
じ関さばを釣っている組合員は約 150 名。
尾びれにシールタッグ(組合員名・住所・
出荷番号入り)を付け、自らの出荷品に責
任を負わせるようにしている。
供給が途切れる時期(5~7 月)があるの
1) ブランド化対象選定戦略
が辛いが、こればかりは自然相手なので致
昔から佐賀関の魚は「関もの」と言われ
し方ない。養殖とか、一本釣り以外の漁法
高い評価を受けていた。しかし、1988 年以
とかは全く考えていない。一本釣りのみで
前は仲買にすべて任せていたため、その高
い評価が魚価に反映されることはなかった。
そうした状況を打破するため、漁業協同
組合が自ら買い取り、自ら販売するという
ことを始めた。
2) 推進組織戦略
当時の佐賀関漁協と佐賀関町、大分県が
一体となって取組んだことが成功に結びつ
いた。
50
細く長くやっていきたいという方針である。
5) 販売流通戦略
高齢化が進む中、安定収入を確保するため
ブランド化への着手と同時に、大分県は
には、
「出荷するブランド」であると同時に、
日本文理大学の藤沢教授に「関あじ関さば
「呼び込むブランド」であることが重要だ
の販売流通戦略」の研究を依頼した。その
と考えられている。
結果を受けて、まずは福岡に狙いを定める
こととした。
8) ブランド管理戦略
1989 年福岡、1990 年北九州、1991 年東
特約店には看板を掲示してもらっている。
京、1992 年大阪と販路を拡大していった。
魚自体には尻尾の部分にシールタッグをつ
現在、市場を通じて全体の 45%を福岡、20%
けて出荷している。
を東京に出荷している他、特約店(約 50 店)
にダイレクトに行く分が 30%ほどある。
「関あじ関さば」のロゴとマークは 90 年
代に商標登録しているが、名称だけの登録
は現行制度では出来なかった。
2005 年 6 月に勃発したニセモノ問題では
6) ブランドプロモーション戦略
各地でのキャンペーンは、基本的には流
苦労し、指導も受けた。
通関係者等に試食してもらうことを主体に
今後はそうしたことがないよう、地域団
行なった。当時は、さばを刺身で出すこと
体商標の取得を予定している。
を拒むホテルがほとんどで、会場捜しに苦
労したという。しかし逆に「生で食べられ
るさば」ということを珍しがって、マスコ
ミが積極的に取り上げてくれた。そのおか
げで、折からの「グルメブーム」にもうま
く乗れた。
7) 顧客管理戦略
現在は特に何もやっていないが、市場流
通だと価格変動が大きいので、将来的には
直接販売を増やすことを目指している。
そのための布石として、「佐賀関ファン」
を作るために、2005 年 10 月から「朝市」
(月 1 回、第 3 土曜)を始めた。関あじ関
さばでお客さんを呼び込み、併せて地元産
品も買ってもらおうという作戦である。こ
のようなやり方は、佐賀県呼子が先進地で
あるので、視察団を派遣した。
佐賀関に人を呼び込むため、
「関あじ関さ
http://www.sekiajisekisaba.or.jp/
ば会館」の建設も構想中である。漁業者の
51
2) 推進組織戦略
いきいき宮崎のさかな
1996 年、宮崎県漁連の中にブランド化の
必要性を訴える声が起こり、
「いきいき宮崎
(宮崎県)
のさかなブランド確立推進協議会」が設立
□ 対象区分:水産品(A2分野)
された。その後、2000 年に宮崎県、漁業関
□ 事業主体:いきいき宮崎のさかな
係団体、漁協、内水面漁業、おさかな普及
協議会連合会などをメンバーとする現体制
ブランド確立推進協議会
が誕生した。
□ 取組開始:1996 年
漁連が販売を担当し、協議会がブランド
旬の魚をつないでいくことで、魚の産地
としてのイメージ確立をめざしている。
づくりを担当している。両者は密な連携を
需要の底辺拡大のため「食育」に取組ん
でいる。
3) ブランドの優位性戦略
とっている。
2002 年に、宮崎県を代表する魚介類とし
て「いきいき宮崎のさかなブランド認証制
度」を設け、現在までに「宮崎かんぱち」、
「北浦灘アジ」、「門川金鱧」、「ひむか本サ
バ」の 4 種を認証している。2015 年までに
11 魚種を認証する予定である。
選定基準は以下の 3 点。①宮崎県産のも
の ②品質や規格がすぐれた水産物 ③ブラ
ンド認証効果があるもの。
4) 生産戦略
資源量の減少のためか、近年漁獲高は落
ちている。そうした中で漁家経営を維持し
ていくには魚価のアップが不可欠である。
1) ブランド化対象選定戦略
ブランド化には安定供給が大きな要素で
宮崎県は長崎、鹿児島に次いで九州では
あるが、本来、魚には旬があり年間を通じ
第 3 位の漁獲量を誇っているにもかかわら
て安定供給できる魚種はない。そこで季節
ず、魚の産地としての宮崎のイメージは希
ごとの旬の魚をつないでいくことで年間を
薄であった。そこで、
「いきいき宮崎のさか
通じてブランドを訴求していくという戦略
な」というブランド傘下で、季節ごとに旬
構想を立てている。
の魚をアピールし、ブランド化とともに、
また、ブランド品の品質管理に対する意
さかなの産地としての宮崎のイメージを確
識は高まっており、違反した者には指定を
立することとなった。
取り消す等の厳しい措置もある。
52
5) 販売流通戦略
プロモーションを通じた消費者との積極的
チャネル開発は漁連が主としてやってい
なコミュニケーション作りを進めている。
る。
「宮崎かんぱち」、
「北浦灘アジ」は全国
2001 年からやっているインターネット
に出荷している。
「門川金鱧」は主に関西と
販売は、アクセスだけを見ると 10 万件を超
中津。
「ひむか本サバ」は全国に出したいが
える漁協もあり、今後、流通改革の切り札
生産量が不足している。
になるのではないかと期待されている。ま
新しい販路として、いつでもおいしい宮
た、アンケートを実施したところ、魚をネ
崎のさかなが食べられる店を「指定店」と
ットで買うことに抵抗のないという人が
している。現在、東京 4 店、大阪 3 店、福
10%以上いたのには、驚くとともにこの分
岡 3 店あり、客層は拡大している。
野への希望が大きく膨らんだという。
7) 顧客管理戦略
過去にアンケートを行った程度で、顧客
管理への取組みは弱い。
「ひむか本サバはお
いしいよね」というような評判が聞かれる
ようになってきているので、認知度は上が
っていると思われる。
8) ブランド管理戦略
商標登録の必要性は感じているが、経費
の問題が立ちはだかっている。
宮崎のさかな地図
6) ブランドプロモーション戦略
ポスター、リーフレット、チラシのほか、
料理レシピ集等も作り、魚食の普及という
底辺の拡大にも取組んでいる。特に地元宮
宮崎のさかなカンパチ
崎では、さかなの作文コンクールや、魚お
ろしの体験学習を地道に、手作りで行なう
などして魚食の普及に努めている。
http://www.freshbrand.jp/
旬のさかなをつないでいくことでブラン
ドイメージを構築するという戦略のもと、
53
つ永川氏に対し、出資者たちが社長就任を
手延素麺 島原
懇願したのである。
(長崎県)
3) ブランドの優位性戦略
□ 対象区分:加工品(B 分野)
島原そうめんは、
「生産者間で品質にバラ
□ 事業主体:株式会社素兵衛屋
ツキがある」との理由で、流通業者に安く
□ 取組開始:2002 年
買い叩かれていた。それを克服するために
素兵衛屋では独自に「高度熟成法」
(商標登
録)という製法を開発。それにより新鮮な
高い品質基準が生産者に徹底されてい
る。
小麦粉の風味とコシのあるモチモチとした
食感という他のブランドにはない素兵衛屋
ならではの優位性を持つものとなった。
大物社長の起用により、大型チャネル
の開拓に成功した。
現在では、粉の配合、製造の方法、衛生
管理、麺線(麺の細さ)、含有水分量などの
厳しい規格をクリアして、大手コンビニエ
1) ブランド化対象選定戦略
ンスストアからの大量の受注を実現してい
島原の手延そうめんは兵庫に次いで全国
る。
2 位の生産規模を誇るものの、下請け生産
が中心だったため地域ブランドとしての知
名度は低く、低価格を強いられていた。
そうした折、下請け元で産地表示問題が
勃発。島原は産地としての自立が強く求め
られることとなった。
島原半島全体では 350 社ものそうめん製
造業者がある。その意味では、そうめん業
界の活性化が地域の活性化に直結する。そ
うした認識のもと長崎県は、島原そうめん
4) 生産戦略
の新ブランド立上げのバックアップに着手
「高度熟成法」という素兵衛屋ならでは
した。
の優位性も、それが生産段階で確実に守ら
れなくては意味がない。そのためには、
「作
2) 推進組織戦略
れば売れる」という昔を経験した生産者の
このような県のバックアップを受けなが
意識を改革することから着手しなければな
ら、111 人の生産者が 100 万円ずつを出資
らなかった。パッケージに生産者の顔写真
し、2002 年、株式会社素兵衛屋が設立され
を載せることで、生産者としての責任の自
た。社長は地元島原出身で、東京でノンフ
覚を促している。
ィクション作家、経済ジャーナリストとし
て活躍している永川幸樹氏。広い人脈を持
54
5) 販売流通戦略
保しつつ、ブランド形成のために「素兵衛
素兵衛屋は設立以来、順調な成長をつづ
屋」ブランドで販売展開することが重要と
けているが、その背景には、流通戦略の成
なる。それがあってこそ、真の意味での地
功がある。その最大の要因は、もちろん素
域ブランドとなることができるものと思わ
兵衛屋のそうめんの品質の高さであり、こ
れる。
こでも「高度熟成法」は大いにバイヤーの
関心をひきつけたようだ。
7) 顧客管理戦略
さらに永川社長の人脈によるところも大
購買実績のあるお客様のリスト化を行な
であった。現在、主力となっている大手コ
っている段階である。通販もやっているが、
ンビニエンスストアとの取引開始に際して
まだまだ緒に付いたばかりで、今後の課題
は、永川社長の人脈が大いにプラスとなっ
と位置づけられている。
た。「冬にアイスクリームが売れるならば、
素麺も売れるはず」との着眼のもと、大手
8) ブランド管理戦略
コンビニエンスストアに 2004 年 2 月から
素兵衛屋に属さない生産者の中には、類
「冷しそうめん」を供給。爆発的ヒットを
似したマークを使っている人がいる。同じ
記録した。今後は大手企業グループ各社で
地元の生産者ということもあり全面的に争
の職域販売を計画している。職域販売は返
うことはしていないが、ブランド維持のた
品がないのがメリットである。
めには今後解決すべき課題のひとつと認識
また「食育」の一環としての学校給食へ
している。
の導入や、長崎県が力を入れている中国市
場も視野に入れている。
6) ブランドプロモーション戦略
ブランド立上げの当初、県の支援を受け
てテレビ CM を実施した。その経験から広
告宣伝の重要性は社として充分に認識され
ている。
今後は食べ方の提案が重要であるとの考
えのもと、アンテナショップや地元の廃校
手延作業風景
を利用した「そうめんの里」なども計画さ
れている。
大手コンビニエンスストアでの販売では
http://www.sobey.co.jp
商品パッケージ等に一切「素兵衛屋」の名
前は登場しないので、購買経験によるブラ
ンド価値の形成は望めない。ブランドとし
ての独自の価値を築くためには、販路を確
55
コレステロール・中性脂肪の正常化等の医
黒酢(つぼ造り純米黒酢)
学的効果は、九州大学、鹿児島大学をはじ
め多くの大学や公的研究機関の研究で実証
(鹿児島県)
されている。
「黒酢」の原料基準、成分基準
□ 対象区分:加工品(B 分野)
は鹿児島大学の蟹江教授によって定められ
□ 事業主体:鹿児島県天然つぼづくり
ている。
商標については、1987 年に登録を試みた
米酢協議会
が、既に食酢メーカーのほとんどが黒酢を
□ 取組開始:1990 年
商品化しており、広く普及して一般的に使
われていたため、商標の登録要件を満たす
伝統的な製法が他に対する明確な優位
性となっている。
ことができなかった。そのため現状では「つ
ぼ畑」の写真を商標登録している。
農水省の「ふるさと認証食品」
(E マーク)
商標登録では後手に回ったので、地域
団体商標で巻き返しを狙う。
については、全国第1号を協議会で取得し
ている。
1)ブランド化対象選定戦略
つぼ造り純米黒酢(いわゆる「黒酢」
)は、
鹿児島県の北東に位置する霧島市福山町で、
約 200 年前から連綿と続く米と地下水のみ
を原料とし、野天にならべた「つぼ」で発
酵・熟成する伝統的な壷造りの米酢である。
1975 年に近畿大学の有地教授と坂元醸
造の坂元会長の相談により、
「黒酢」と命名
された。
4) 生産戦略
現在、福山地域全体で 7.5 万本の壷があ
2) 推進組織戦略
る。年間生産高は 20~25 億円。いたずらに
1980 年代後半から研究会を作り、黒酢の
生産量を増やすつもりはなく、また安売り
飲み方等の生活提案を行なっていたが、
「鹿
に走るつもりもない。
児島県天然つぼづくり米酢協議会」として
かつてタンク等を使って別の生産方法に
正式に発足したのは 1990 年。メンバーは生
チャレンジしたこともあったが、出来上が
産メーカー7 社。地域全体の取組みとして
ったものは全く黒酢とは別物となってしま
行政の応援が得られている。
ったという。昔ながらの、効率を排除した
製法を守りぬくことが黒酢の黒酢たる所以
3) ブランドの優位性戦略
である。黒酢づくりを称して「壷を使った
何故、黒酢ができるのかそのメカニズム
農業」という人もある。
は解明されていないが、血糖値を下げる、
56
7) 顧客管理戦略
ハガキによるアンケートは実施したこと
があるが、会員組織などは特にない。しか
し、2 代、3 代と続く「黒酢ファン」は確実
に存在するので、その人たちの組織化は今
後の重要課題とされている。
8) ブランド管理戦略
「黒酢を飲んでいるが効果がない」とい
うクレームがあったので調べてみるとニセ
つぼ畑
5) 販売流通戦略
モノだった。このようなことで消費者に迷
「薬」として扱われる場合と、
「食品」と
惑を掛けてはならないので、商標の管理は
して扱われる比率は現在ほぼ半々。百貨店
重要な課題となっている。
やスーパーでも販売しているが、本来、黒
幸い、2006 年 4 月には、地域団体商標の
酢は量販店向きの商品ではないと思われる
制度が導入される。それを機に他にはない
ので、今後は通販によって顧客とのダイレ
優位性を明確に主張できる商標を取得する
クトな関係を強化したいという。
ことで鹿児島の「黒酢」は新たな一歩を踏
鹿児島の「黒酢」は、その商品特性上、
み出すこととなろう。
通販に非常に適していると考えられる。地
域団体商標の取得を機にその分野での飛躍
も期待される。
6) ブランドプロモーション戦略
「黒酢」はいろいろなテレビ番組で取り
上げられることで知名度を上げてきた。現
在よく使われる「血液さらさら」という表
現は、黒酢を紹介する NHK の番組の中で
初めて使われた言葉だという。
協議会の中心メンバーである坂元醸造株
式会社は、地元福山町に、工場見学施設と
して「くろず情報館 阿萬屋」を設けており、
年間 5 万人以上の来館者がある。
協議会として県が行なう E マーク関連の
PR イベントには積極的に参加している。
http://www.kurozu.co.jp/
57
10 年の実績があるので若い人が育ち、彼
させぼ四ヶ町商店街
らに任せることが出来るようになった。
住民の参加意欲もたいへん高い。佐世保
(長崎県)
市制 100 周年の PR 隊として発足した「飛
□ 対象区分:まちづくり(C 分野)
躍年隊」(「100 年」と「飛躍」のダブルミ
□ 事業主体:させぼ四ヶ町商店街協同組合
ーニング)は、毎年公募して県内全域に 180
□ 取組開始:1997 年
名の隊員がいる。飛躍年隊は全国各地の
YOSAKOI 祭りに参加している。
イベントを継続的に積み重ねていくこと
で、「元気なまち」イメージを確立した。
3) ブランドの優位性戦略
人口約 24 万人の佐世保は、海と山に囲ま
れた天然のコンパクトシティである。高度
住民の高い参加意識が、交流人口の拡
大に結びついている。
成長期にも都市再開発の動きは鈍かったの
で、街中に歴史が多く残っている。それが
昨今のレトロブームの中では他の都市には
1) ブランド化対象選定戦略
ない魅力となっている。一周遅れでトップ
「まちづくり」を地域ブランドづくりの
ランナーとなった感じである。
対象物にするとは、何らかの方法でその地
このような佐世保の都市としての物理的、
域のイメージを発信し、そのイメージをブ
地理的な魅力の上に、さらに「元気なまち」
ランド的な高み(他とのちがいが消費者の
というイメージを付加することをめざして
意識の中にしっかりと認識されている状
いる。そうした努力により、今では、佐世
態)にまで引き上げていこうとすることを
保四ヶ町は「日本一元気な商店街」と言わ
意味するが、佐世保の場合には、四ヶ町商
れるまでになった。
店街を舞台としたさまざまな地域活性化イ
ベントが、地域イメージ発信の手段となっ
ている。イベントは単発では情報発信力は
弱いが、年間を通じて話題性のあるイベン
トをつないで行き、それを長年続けること
で情報発信力の強化を図っている。
2) 推進組織戦略
商店街のリーダーグループが力を合わせ
きらきらフェスティバル
てさまざまなイベントに取組んでいる。ア
4) まちの魅力づくり戦略
イデアの遠田、企画の川上、実行の竹本、
「元気」イメージの発信にはイベントが
運営の山縣、良識の田中丸。この 5 人で企
最適だと考え、さまざまなイベントに取組
画・運営・実行を分担してやってきたとい
んできた。
う。
58
毎年 12 月に行なう「きらきらフェスティ
7) 顧客管理戦略
バル」では、街中をイルミネーションで飾
「また佐世保に行きたい」と思ってくれ
るが、そこには「佐世保の街をきらきら輝
るようなファンづくりを目指しており、そ
かせたい=元気なまちにしたい」という意
のため、イベントはだれでも参加できるこ
味が込められている。
とが重視されている。
商店街事務所があるビルは、改装して「四
5) 販売流通戦略
ヶ町まちの駅よんぶら広場」という交流広
まちのイメージ発信においても、実質的
場にする予定だという。
「ハードよりソフト、
な活性化の面でも、交流人口の拡大が基本
ソフトよりハートのまち」が志向されてい
と位置づけられている。賑わいが「売り」
る。
につながり、まちが元気になるという考え
イベントの後では、チーム委員会を中心
方である。
に反省会を行い、顧客満足度について検討
交流人口の拡大に際しては、交通機関と
されている。市民の声にも常に耳がかたむ
の連携をうまく取る必要があるが、ここで
けられている。
もコンパクトシティならではのメリットが
「YOSAKOI させぼ祭り」では、全国各
見られる。バス会社の社長、市の交通課、
地から多くの踊り隊がやってくる。佐世保
JR の駅長等はみんな友達なので連動がス
の魅力に触れた彼らの多くは、確実に「佐
ムーズに進んでいる。人口 24 万人というの
世保ファン」になるという。
は、実に程好い規模だという。
8) ブランド管理戦略
6) ブランドプロモーション戦略
「きらきらフェスティバル」に関連して
飛躍年隊は全国各地の YOSAKOI 祭りに
地域団体商標の取得が検討されている。ま
参加するが、反対に全国各地からも佐世保
ちイメージのブランド化に成功したあかつ
の「YOSAKOI させぼ祭り」にやってくる。
きには、そのイメージを波及させた商品ブ
ブランドプロモーションは、このような形
ランドづくりにも挑戦したいという意向で
での交流人口の拡大を基本に置いて、リピ
ある。佐世保にはすでに「佐世保バーガー」
ーターづくりを目指している。
があるが、
「きらきらフェスティバル」とも
っと直接的に連動する商品があってもよい
のではないかと考えられている。
http://www.yonkacho.com/
佐世保飛躍年隊お披露目パレード
59
常に行い、地元の人の協力を大事にしてい
黒川温泉
る。
地域住民の誰もが、黒川全体のために何
(熊本県)
かをやりたいと思っている。景観について
□ 対象区分:まちづくり(C 分野)
の理解もあり、周囲との調和を乱す突拍子
□ 事業主体:黒川温泉観光旅館協同組合
も無いデザインの家が建てられるようなこ
□ 取組開始:1986 年
とはこれまでなかった。
3) ブランドの優位性戦略
地域一丸の取り組みが、まちの魅力に
磨きをかけている。
「黒川全体が良くならないと個々の旅館
は良くならない」との考えが全員に共有さ
れていることが黒川の良さを支えている。
「入湯手形」の弊害を改め、ブランド価値
の維持に努めている。
そのため「都会の人が好む田舎の風景」
というコンセプトも、地域で足並みを揃え
て実現することができている。
1) ブランド化対象選定戦略
黒川温泉は古くからの温泉地である。参
4) まちの魅力づくり戦略
勤交代の宿場としての歴史もある。40 年前
「入湯手形」の販売収入の一部を組合が
のやまなみハイウェイの開通時には大ブー
事業費として使えるようになってからいろ
ムが起き、農業をやめて旅館専業となった
いろな施策を実施しやすくなった。例えば
人も多いという。
景観を損なうようなものを隠すために木を
しかし、その後ブームが去って、長く低
植えた方がよいと思われる場所には、他人
迷。1986 年に「入湯手形」を作ったのが今
の土地であろうとも、組合がお金を出して
日の黒川温泉の隆盛の第一歩となった。
木を植えたりする。
永年の懸案であった福岡市天神からの直
2) 推進組織戦略
行バスを 2005 年 11 月~12 月に試験的に走
黒川温泉観光旅館協同組合のメンバー
らせたところ、結果がよく、2006 年 4 月よ
(旅館経営者 24 名)は、全員たいへん親し
り本格導入されることとなった。
い関係なのでまとまりやすい。旅館経営に
ついても、お互いに何もかも包み隠さず教
5) 販売流通戦略
え合うので、全体としてレベルが上がって
「入湯手形」を旅行代理店に卸せば大量
いく。
の日帰り客を確保することができる。しか
組合は月例の「八日会」の下に観光部、
しその結果、宿泊客はのんびり湯につかる
宣伝部、おかみの会等の部会があるほか、
ことができなくなるという弊害が発生した。
若手だけの「二十日会」
(青年部会)も行っ
そのため、その後は、身の丈にあったこと
ている。
をやっていくということに方針転換した。
地域(商店・農家・JA など)との連携も
60
6) ブランドプロモーション戦略
リーフレットや案内地図などは組合で作
成している。2006 年は「入湯手形」20 周
年なので何か記念イベントをやりたいと計
画されている。
毎年 10 月には「黒川温泉感謝祭」を実施
しているが、農家も出店を出したりして大
いに盛り上がっている。
7) 顧客管理戦略
2004 年度の宿泊客は約 33 万 7 千人。
個々
の顧客の管理はそれぞれの旅館がしっかり
行っている。予約の受付についてもほとん
どの旅館が各種旅関連サイトとリンクして
インターネット対応している。
8) ブランド管理戦略
ロゴ・マークは厳密に定めているわけで
はない。
http://www.kurokawaonsen.or.jp/
61
在はおおやま夢工房代表取締役社長)の願
豊後大山・ひびきの郷
いにより、緒方氏は、現在、ひびきの郷の
総支配人を務められている。
(大分県)
ひびきの郷に限らず、旧大山町がこれま
□ 対象区分:まちづくり(C 分野)
で展開してきた地域づくり施策の大半は、
□ 事業主体:株式会社おおやま夢工房
大山町歴代町長およびスタッフの企画力に
□ 取組開始:2001 年
負うところが大きい。
旧大山町は「地域づくりにおける地域住
民を巻き込むことの重要性」をよく理解し
住民の同意と参画を得るため、きめ細
かい対応が積み重ねられた。
ていた。そのため、広報紙は「政策提示の
道具」として位置づけられ、さらに、CATV
の活用やワークショップの実施など、地域
異業種との連携による商品開発が活発
に行われている。
住民の同意と参画を得るためのきめ細かい
対応がなされてきた。現在のひびきの郷の
隆盛は、そうしたものの積み重ねによるも
1) ブランド化対象選定戦略
大分県日田郡大山町(現在は日田市大山)
のである。
は、かつて「ウメ・クリ植えてハワイへ行
3) ブランドの優位性戦略
こう」のキャッチフレーズで全国的に有名
になった。その後も「全国梅干コンクール」、
ひびきの郷は、温泉施設、宿泊施設、大
山産の梅を使ったリキュールの工場、レス
「おおやま生活領事館イン福岡」など、ユ
トラン、体験工房等から成る複合型の観光
ニークな地域活性化施策に取組んできた。
そうした中、
「大山町の地理的条件や環境、
施設である。そのため、幅広い層を対象顧
客とすることに成功している。
産業資源を積極的に活用し、交流人口を呼
また、多くの人をひきつけるために、シ
び込み、新たな地域産業の育成を先導する
ンボルマークやシンボルカラーの作成にそ
集客・飲食・体験・滞在型の交流拠点を地
の道の第一人者であるパオスの中西元男氏
元主導により整備する」という町の基本方
を起用したが、結果、2003 年度のグッドデ
針のもと、その具体的プロジェクトのひと
ザイン賞を受賞した。
つとして「豊後大山・ひびきの郷」が建設
された。
2) 推進組織戦略
ひびきの郷の計画は、当時、町職員であ
った緒方英雄氏を中心に 90 年代後半から
作成された。その後「あんたが企画した仕
事なので、運営管理も面倒みていただけな
キャラクターサークル
いだろうか」という町長(三苫前町長、現
62
4) まちの魅力づくり戦略
6) ブランドプロモーション戦略
サービス業の基本である接客の向上には
梅の買取り価格を上げることを狙って、
日常的に努力している。
ウイスキーの樽に寝かせた高級梅酒「源天」
物販については地元大山の産品だけでは
を開発している。その新製品発表会を 2006
不足するので「筑後川流域の産品」という
年 6 月にボルドーで行なう予定である。こ
視点で、ほとんどの流域市町村の産品を網
のように商品を作りつつ、
「物語」も同時に
羅している。地元のものだけを商っていて
作ることを心がけている。
は井の中のかわずになってしまうが、他の
地域との競争状態を作ることで好結果が生
まれている。
姉妹施設として、道の駅「水辺の郷おお
やま」を 2004 年 12 月にオープンした。
商品開発にも力を入れている。最初はニ
ッカウヰスキーと組んだ「梅酒」、そこから
共同開発のノウハウを学び、そのノウハウ
を応用して、佐賀の桜月堂と組んだ「梅羊
羹」、大牟田の今村食品と組んだ「梅干茶漬
リキュール工房 うしゅく
け」などを商品化した。この方法であれば、
7) 顧客管理戦略
地域の名称が商品名として残るので、単な
福岡都市圏からのお客様が主であり、こ
る原材料供給に比べ、経済的にはもちろん、
れらの方々を中心に約 15000 人を会員化し
地域イメージの向上にも大きく寄与する。
ている。会員には、物販 5%割引、誕生日優
待など、さまざまな特典を付与し、囲い込
みを行なっている。
8) ブランド管理戦略
旧大山町は市町村合併で日田市となった
が「地域づくりの思い入れは吸収されない」
という考えのもと、旧大山町のスピリット
を「豊後大山ひびきの郷」ブランドに継承
することを目指している。
特産品販売所
5) 販売流通戦略
物販・日帰り入浴については、旅行代理
店からの貸切バスを受け入れているが、宿
泊に関しては、収容力が限られているので、
自らによる営業活動にとどめている。
http://www.hibikinosato.co.jp/
63
2) 推進組織戦略
酒泉の杜
故郷田実元町長の要請に、雲海酒造の中
島社長が全面的に賛同したことが今日の成
(宮崎県)
功の第一歩となった。当初は町も参画した
□ 対象区分:まちづくり(C 分野)
第3セクターで始めたが、現在は雲海酒造
□ 事業主体:雲海酒造株式会社
の一事業部となっている。
酒泉の杜事業部
□ 取組開始:1987 年(オープン 1989 年)
3) ブランドの優位性戦略
綾町は水の良さが魅力である。また「有
機栽培の町」として地域のブランド力も高
地域の発展と酒泉の杜の発展が密接に
連動している。
い。そのため、酒泉の杜のブランドづくり
においても、
「綾の自然との共生」
、
「綾の自
然に循環させること」が根本に置かれてい
九州の産業観光の成功事例になるもの
と期待される。
る。そういう意味では、酒泉の杜は、綾町
の魅力をシンボライズする「情報発信基地」
と位置づけられるものであり、地域の発展
1) ブランド化対象選定戦略
と酒泉の杜の発展は密接に連動している。
1980 年代半ば、当時の綾町長、故郷田実
これは地域ブランドのひとつの理想型とい
氏から「産業観光を目指す酒造工場を作っ
うことができるだろう。
てくれ」と要請されたのがきっかけとなっ
た。
「水の良さを生かした産業観光」の視点
で見学施設としての充実を図り、さらに、
温泉や飲食・宿泊の機能も付加され、観光
施設としてもたいへん充実したものとなっ
ている。
酒泉の杜メインストリート
4) まちの魅力づくり戦略
地域との連動を深めるため、行政主導に
よる観光案内所も町内数ヶ所にもうけられ、
酒泉の杜の観光を含めた町の案内が行われ
「綾手造り蔵」
(雲海酒造・綾蔵内)
ている。
64
5) 販売流通戦略
評を博している。今後は文化的イベントも
JTB、近畿日本ツーリストなどと深く連
計画されている。
携している。それら旅行代理店を通じての
集客は福岡が主で、2 位関西、3 位関東とな
っている。近隣からは学校行事としての見
学ツアーも多い。
しかし、全体で見るとそうした団体客よ
りもフリー個人客の方が多い。今後は滞在
型の産業観光に本格的に取組んでいく計画
である。
近年、全国各地で産業観光への取組みが
にぎわう「綾蔵春まつり」
活発に行なわれているが、九州においては
7) 顧客管理戦略
この分野において成功事例と呼べるものは
60%が女性客である。フリーの個人客が
少ない。酒泉の杜は地域の資源を活用しつ
多く客層が多様性に富むため、サービスの
つ、自然との共生も実現しているという意
充実にはたいへん神経を使っている。
味で、これからの産業観光の成功事例とな
顧客満足度については、旅行専門紙「旅
りうるものである。今後、九州観光推進機
行新聞新社」が実施している「プロが選ぶ
構等と連携して、この分野へ本格的に参入
ホテル・旅館 100 選」では、毎年、全国の
ことするが模索されている。
上位にランクされている。土産物部門では
全国でベスト 10 に入っている。エンドユー
ザーを対象としたものではないが、取引先
等を対象とした会員組織があり、活発な活
動が行われている。
8) ブランド管理戦略
ブランド管理においては「酒泉の杜のフ
ァンづくり」が重要視されている。また、
雲海酒造のブランド情報発信の拠点ともな
っている。
試飲コーナー「杜の酒蔵」
綾町の魅力をうまく酒泉の杜に反映する
6) ブランドプロモーション戦略
ことを基本に、ブランド拡張という視点で、
「継続は力なり」の方針のもと、年 4 回
地ビール工場、ワイン工場、およびそれら
の大型イベントを毎年行なっている。特に
に付帯するレストラン、ガラス工芸・陶芸・
4 月の「綾蔵春まつり」(本格焼酎、清酒、
木工芸館等が設けられている。ふどうやブ
地ビール、ワイン)は、2 万人近い集客が
ルーベリーなどの農園も好評である。
あり、地元や宮崎県内の方々に毎年、大好
http://mori.unkai.co.jp/
65
現在、その事実を知る人は少ない。
尚古集成館
一方、
「集成館」事業を顕彰する歴史博物
館である尚古集成館のある仙巌園一帯を一
(鹿児島県)
観光地として見た時、従来からの「大名庭
□ 対象区分:まちづくり(C 分野)
園」という位置づけだけでは、観光客を惹
□ 事業主体:株式会社島津興業
きつけることはできなくなりつつあった。
そこで株式会社島津興業は「薩摩ルネサ
□ 取組開始:2001 年
ンス」という考えのもと、尚古集成館を薩
摩の歴史や文化を伝える施設として位置づ
日本初の「産業集積」を、「産業観光」の
テーマにするという画期的取組み。
け、
「集成館」事業をブランド化していくこ
とになった。
一企業の活動という範疇を越えて、鹿児
島の観光全体の浮揚が意図されてい
る。
現在の尚古集成館外観
2) 推進組織戦略
島津興業の社長である島津公保氏は、仙
当時の集成館一帯
巌園一帯を「皆様からお預かりしている歴
1) ブランド化対象選定戦略
史資産」と捉えており、一企業の活動とい
嘉永 4 年(1851 年)、薩摩藩主となった
う範疇を越えて、地域と共にどう活用する
島津斉彬は、日本をヨーロッパの国々のよ
かを考えている。
うに強く豊かにすることを夢見て集成館事
地域住民、大学をまじえて研究会を実施し
業を推進した。
ている他、秋には地元町内会と観月会を催
集成館事業は、鹿児島城下郊外の磯に築
すなど地元との親交を深めている。
かれた工場群「集成館」を中核に、製鉄・
社長自らが広報マンとして、あらゆる場
造船・造砲・紡績・機械・印刷・出版・教
面で情報発信しており、その結果、マスコ
育・製薬・製糖・ガラス・ガス燈・医療な
ミ、経済界、大学等のまわりも集成館事業
どさまざまな分野にわたっていた。
のブランド化に積極的に賛同してくれるよ
すなわち、
「集成館」は幕末にできた日本
うになった。
で最初の産業集積であるとされており、近
代日本の礎とも言えるものである。しかし、
66
3) ブランドの優位性戦略
6) ブランドプロモーション戦略
産業観光は今後おもしろくなる分野であ
東京や福岡をはじめとする各地で、旅行
る。尚古集成館は「日本初の産業集積」
、
「近
代理店等を集めて、鹿児島の歴史や産業観
代日本の礎となった産業遺産」という点で、
光をアピールする講演会が定期的に実施さ
鹿児島の産業観光の拠点的施設と位置づけ
れている。
られる。
営業現場では「産業観光」を視野に入れ
鹿児島には多くの近代化産業遺産が存在
たルート化等、いろいろな企画が考えられ
する一方で、時代の最先端をいくロケット
ている。
の基地もある。尚古集成館が産業観光の拠
点となって新しい鹿児島の魅力づくりに寄
7) 顧客管理戦略
与することが大いに期待されている。
主要なターゲットは、これからの大きな
マーケットである「団塊シニア」と捉えら
4) まちの魅力づくり戦略
れている。日本の近代化の原点としての歴
尚古集成館は基本的には展示施設である。 史は、団塊シニア層に十分魅力的なテーマ
したがって、より分かりやすい展示をめざ
であるものと期待される。
して、解明されていない部分の調査研究(例
えば日本初の溶鉱炉の発掘とか)が大学や
8) ブランド管理戦略
地域の研究者の協力を得ながら、継続的に
施設内の受け入れ体制(展示の内容の質
行われている。
の高さや楽しさ)がすべてに優先すると考
展示物については、可能な限り「現物主義」
えられており、それを維持することがブラ
「本物志向」が貫かれている。
ンドの価値を高めることにつながると認識
されている。
5) 販売流通戦略
旅行代理店等へは定期的な営業活動が行
われている。
物品の販売に関しては、薩摩切子は価格
政策の維持、売り先を広げないという限定
販売が徹底されている。
展示室イメージ
http://www.minc.ne.jp/shimadzu/heritage
/shuseikan/shuseikan.htm
薩摩切子猪口
67
セリン推進協議会に結集し、ワーキングプ
有田エコポーセリン
ロジェクトを立ち上げている。
(佐賀県)
3) ブランドの優位性戦略
「白磁再生」というコンセプトのもと、
□ 対象区分:産業集積(D 分野)
□ 事業主体:大有田焼振興協同組合
産業用陶磁器産地としてどのように生き残
□ 取組開始:2000 年
るかを一生懸命模索している。
外国製品に対抗するには、価格以外のフ
ィールドで戦わなければならない。その切
安い外国製品との競争の武器を「エコ」
に設定した。
り口を「エコ」においたわけだが、一般消
費者をひきつけるものはデザインであり、
エコは二の次というのが現実である。その
原材料としての不要磁器の回収も計画
している。
ため 20~30 代の若い女性をターゲットに
「新しいライフスタイル提案」の器を指向
している。リビングデザインセンター
1) ブランド化対象選定戦略
OZONE の力を借りて、収納性にすぐれ電
有田は、400 年の歴史を誇る日本の磁器
子調理器対応も考えた器づくりを行ってい
発祥の地であり、その伝統的技法を生かし
る。
た美術工芸品や高級食器は、国際的にも最
高級品として高く評価されている。
その一方で、有田は産業用陶磁器の大産
地でもある。しかし、この分野は近年、安
い中国製製品等に押され大きく売上を落と
している。
そうした状況を打破すべく誕生したのが
「エコポーセリン」である。これは規格外
品の素焼きくずなどをリサイクルして原材
スマートライフのミニマルなエコポーセリン
料として一部使用するもので、資源循環型
社会の要請に応えるものである。
2) 推進組織戦略
柴田昭彦氏(実業家・有田焼コレクター、
2003 年逝去)の存在抜きには語れない。コ
ンセプトから中長期の実行計画まですべて
を柴田氏が作成した。
現在、商社、窯元、陶土屋、型屋など約
30 の会社・団体が賛同した人々がエコポー
68
8) ブランド管理戦略
リバーシブル・エコポーセリン
4) 生産戦略
佐賀県のエコマークに続いて、財団法人
量産しないことには「エコ」の意味が出
日本環境協会のエコマークも取得した。
ないが、5 ヶ月で 30 万個のティッシュボッ
クスを受注したことで、量産体制に自信を
つけたという。
今後も機能性の高いものの量産を目指し
ている。
5) 販売流通戦略
エコの理念は、イメージアップを狙う企
業や、グリーン購入法を意識した行政に歓
迎される傾向が強く、一般食器としての販
売よりも、記念品、ノベルティ、業務用食
コニック:インテリア感覚の多機能器
器としての需要が多い。
インターネット販売、通販にも取組んで
いる。
6) ブランドプロモーション戦略
プロモーションは展示会への出品を中心
に展開している。2004 年には東京ドームで
の展示内容をそのままフランクフルトのメ
ッセ(見本市)にも出展した。海外で成功
して凱旋帰国するというパターンもあり得
るのではないかと考えられている。販売に
つながるプロモーションの企画力が課題と
なっている。
7) 顧客管理戦略
エンドユーザーをつかむ努力がなされて
いる。不要磁器の回収はその有効な手段と
位置づけられている。現在は、産地内で発
有田の技術を象徴する磁器製ひな人形
生する規格外品の回収を主としているが、
将来、有田エコーポーセリンのマークの入
ったものも回収する計画が構想されている。 .http://www.arita.or.jp/eco/
69
JA 愛知東の誕生と同時に販売企画課が新
八名丸さといも
設されたことの意味は大きい。それまでの JA
は「何もしていなかった」と言っても過言ではな
(愛知県)
い状態だったという。その反省に立ち、販売企
□ 対象区分:農林産物(A1 分野)
画課は ①販売先を見つける ②いくらで売る
□ 事業主体:愛知東農業協同組合
かを決める という業務に着手した。
それまでは、水田の転作作物としてさといも
□ 取組開始:2003 年
の作付けを奨励しても「儲からないからやらな
い」という声が大勢を占めていた。この状況を
従来の JA にはなかった「販売企画」とい
う取組み。
打破するには市場外取引を拡大するしかない
と考えたのである。
販売先であるイオングループの「フードアル
生産者、JA、量販店のいずれにもメリッ
トが発生している。
チザン」という認証制度も取得した。①伝統野
菜に指定されている ②商標登録している ③
味が美味しい という 3 点が認証を勝ち得たポ
イントだと考えられる。
●ブランド化への取組みと効果
現在、八名丸さといもは、JA 愛知東が農家か
ら直接買い取り、そのすべてをイオングループ
に販売している。その結果、市場に出荷してい
た時に比べ農家の手取りは約 2 倍、JA の手数
料収入は 10 倍近くに拡大した。
八名丸さといも
出荷量および価格については、イオングル
●ブランドの概況
ープと綿密な話し合いをもって決定されている。
八名丸さといもの名前は旧八名郡八名村に
具体的には、9 月の「早堀りさといも」が最も高
由来する。 1940 年代後半、里芋栽培に熱心
く、その後だんだん安くなる。それにしても市
な生産者が丸い形状の芋を選別し「八名丸」と
場では 150 円/kにしかならないものが、JA は
名づけた。
平均 220 円/kで買い取るのだから農家の生産
1970 年代半ばには、水田転作作物として奨
意欲はいやが上にも高まる。
励された。しかし、その後、特徴である丸い形
ただし、当初は綿密な出荷量の調整につい
状が不揃いとなり、またJA以外の取引量も多く
て農家の理解が得られなかったという。集落説
なっていた。
2001 年ブランド化推進協議会が設立された。
明会を何度も開催し、ようやく理解を得ることが
できた。
翌年 10 月には合併により新生 JA 愛知東が誕
いずれにせよ、販売先と販売単価が先に決
生。さらに「愛知の伝統野菜」に指定されたこと
まっていたので計画を立てることができたので
により、ブランド化が本格的に動き出した。
70
あり、そういう意味ではジャスコの存在は大きい。
に実入りが良い。ただし、現在は生産量がわ
もしイオングループがなかったら、その他の量
ずかしかなく棚が埋まらない状況もときどき発
販店をあたる予定だったが、各量販店とも、い
生している。この取組みはまだまだ始まったば
わゆる「ブランド野菜」については積極的に取
かりであり、今後拡大が期待される。
組んでいるようである。
「こども農学校」という取組みも行われている。
商標登録については、2003 年に「八名丸く
これは次世代を担う子供たちに、ふるさと奥三
ん」で登録したが、これではあまり防衛機能が
河の自然に触れながら、農業の大切さ、食べ
働かないということが分り、翌年には「八名丸」
物の大切さを学んでもらうというもので、今年は
及び「八名」を登録した。将来的には「八名米」
55 名の参加があったという。こうした活動は今
「八名西瓜」等、「八名」ブランドの拡張も構想
後も継続していく予定である。
されている。
農業法人として JA が出資して、(有)あぐり奥
三河が設立された。これは農業の先行きが不
透明な中、モデル事業的意味合いが強いもの
となっている。現在稲作は行っていないが、畑
作だけではなかなか黒字化は難しいものと想
像されている。しかし、モデル事業である以上
失敗は許されない状況である。
●今後の課題
商標に関わることだが、岐阜では同じ種類の
芋が「円空」というブランドで生産・販売されて
いる。これはかつて当地から種芋が流出したも
のである。当地の農家が種芋として出荷してい
た事実もあるので、とやかく言える問題ではな
いが、好ましい状態ではない。
さといも以外の動きとして、ジャスコとは「母の
「八名丸」商標登録証
野菜」という取組みも進められている。商標も
登録されている。「母の野菜の会」という部会を
立ち上げ、そこで生産さされる野菜はすべて
JA が買い取り、それをイオングループに卸すと
いう仕組みである。農家の手取りとしては産地
http://www.ja-aichihigashi.com/
直売所には劣るものの、市場流通よりもはるか
71
による岡崎の活性化が議論された。
八丁味噌
地域ブランドへの取組みについてはいろ
いろな段階がある。これから対象商品を作
(愛知県)
り上げようとしているところ、あるいはま
□ 対象区分:加工品(B 分野)
ち全体をブランド化しようとしているとこ
□ 事業主体:八丁味噌協同組合
ろ等々。
八丁味噌の場合は、大昔からありブラン
□ 取組開始:2005 年(組合設立)
ドとしての認知も出来上がっていたので、
その認知を岡崎という地域のイメージにい
味噌のブランド力を応用した地域活性化
への取組み。
かに波及させていくかということが中心的
テーマとなっている。そして、そうした取
組みにおいては、市役所、商工会議所、味
地域名の商標登録に関して課題を抱え
ている。
噌メーカー等がうまく連携している。
八丁味噌の郷 仕込み風景展示
●ブランド化への取組みと効果
味噌蔵
そうした取組みの中で、八丁味噌を商標
●ブランドの概況
登録し、
「八丁味噌=岡崎」というイメージ
岡崎市は家康ゆかりの地である。NHK で
を確立していくことが計画された。
大河ドラマ「徳川家康」が放送されたのを
しかし、いざ申請してみると、現行の法
機に、岡崎市は観光に目を向けはじめた。
律では「八丁」という地名をつかった商標
その際、地場産業を観光のネタにしよう
は登録できないとして拒絶された。
ということが発案され、繊維、石材、花火、
そこで、2006 年 4 月の「地域団体商標」
味噌などが検討された。最終的には岡崎の
制度の施行に合わせて、地元岡崎の味噌会
アイデンティティーを最も強く感じさせる
社 4 社(メーカー2 社、販社 2 社)は組合
ということで、八丁味噌がその対象として
を作り、組合として登録準備を進めている
選ばれた。
という。
以来、市役所、商工会議所、味噌メーカ
ところが、愛知県内の他の味噌メーカー
ー等が毎週のように会議を行い、八丁味噌
72
そうした際に、年間 20 万人を集める見学
から、八丁味噌を岡崎だけのものと限定す
施設「八丁味噌の郷」の PR 効果は大いに
ることについてのクレームが発生した。
そもそも八丁味噌とは「岡崎の八帖町(旧
期待される。ここで消費者に本物の八丁味
八丁村)で出来る味噌」という認識は地元
噌に触れてもらったなら、類似品との違い
では常識なのだが、そのメーカーは地元以
は明確に実感されるに違いない。この施設
外での販売分については、岡崎産でないに
はそういう意味も非常に大きい。
もかかわらず「八丁味噌」と表示している。
地元の認識では、岡崎以外のところで作ら
れる八丁味噌など有り得ないのであり、例
えば「愛知八丁味噌」などという名称は論
理矛盾としか考えられないのである。
すなわち、ボルドー地方以外で作られる
ワインが「ボルドーワイン」と名乗れない
のと同じ理屈で、岡崎以外のところで作ら
れた味噌が八丁味噌と名乗ることはおかし
いとの認識である。
八丁味噌の郷:仕込み風景展示
そうした折、味噌業界全体は「公正表示」
の問題に取り組み、2004 年 9 月にその規定
集が完成した。その中では明確に「八丁味
噌は産地表示」と規定されている。地元関
係者は、ここに「八丁味噌=岡崎」という
イメージ確立の活路を見出そうとした。
しかし、残念ながら、その後「その規定
を改正せよ」という意見が出ているという。
●今後の課題
商標の問題については、しばらくはこの
ような状態が続くものと思われる。組合と
しても全面的な対決は望んでいないので、
決定的な解決策はなかなか見出せないもの
と思われる。
しかし、例えば岡崎の組合だけの独自の
認証マークを作成するなどの方法は考えら
http://www.kakuq.jp/home/info.htm
れるであろう。つまり「八丁味噌=岡崎」
という主張を辛抱強くやっていくというス
タンスである。
73
●ブランド化への取組みと効果
TMO 半田
ブランド化に向けては、さまざまな取組みが
行われてきたが、中でも以下に述べる3つの要
(愛知県)
因が大きく貢献しているという。
□ 対象区分:まちづくり(C 分野)
成功の要因-1.グッズの販売
□ 事業主体:株式会社タウンマネージメン
5年に一度の「半田山車祭り」では、JR 半田
ト半田
駅前に 31 台の山車が集結し、30~40 万人の
□ 取組開始:1999 年
集客がある。2002 年の祭りに際して、キティち
ゃんに祭り法被を着せたぬいぐるみなどのグッ
日本初の商店街主導型 TMO。
ズをサンリオと共同で開発、販売したところ、約
4600 万円の売上があり、累積赤字が一挙に解
既成概念を破るさまざまな施策により活
性化を実現。
消した。
それらグッズの開発に際しては、試作品を自
ら制作しサンリオに持ち込んだ。ロットの問題
●ブランドの概況
など超えるべき課題も多かったが、何とか説得
半田市は知多半島の真ん中あたりに位置す
し販売にこぎつけた。蓋を開けてみると、いき
る人口 11 万人の地方都市である。2005 年 2
なり大反響。祭り当日以前に売り切れそうな勢
月のセントレア空港の開港によ って人口は
いだったので、出荷調整に苦労するほどだっ
2000 人増加した。
た。若干の在庫があったので愛知万博会場で
TMO 設立のきっかけは、1990 年に再開発計
も販売したが、好評であった。
画がスタートしたことに始まる。95 年にはまち
づくりプランを作成、96 年には海外の TMO の
視察も行なった。そうした折、中心市街地活性
化法の施行のニュースを聞き、TMO 設立に向
けて即行動が開始された。
99 年 10 月、株式会社タウンマネージメント半
田設立。商店街主導型の TMO としては日本
初と言われている。今年 6 周年を迎えるが、全
国の多くの TMO が課題を抱えている中で、成
功事例の一つとなっている。現在 4 つの商店
街で構成されている。
成功の要因-2.直営の喫茶店の開業
TMO 半田の資本は半田市 1000 万円、商工
地元の名家、中埜家の別荘であった建物が
会議所 300 万円、商店街 120 万円、その他出
商店街の一角にある。しかし、紆余曲折を経て、
資者で合計 2000 万円が集まった。
近年は使われないまま放置されていた。それ
を TMO 半田が借り受け、2001 年に紅茶専門
74
の喫茶店「T’s CAFÉ」としてオープンさせた。
以上の3つの要因により、TMO 半田は順調
重要文化財にも指定されているレトロな雰囲気
である。さらに、この組織ができたため、商店街、
が人気を呼び、お客の半分は市外からとなっ
商工会議所、市の 3 者の連携が非常にうまく
ている。すなわち、集客装置としてとてもうまく
いくようになった。当初は連携が弱かったが、
機能している。黙っていても旅行雑誌等が積
今では意思疎通がよくなり、結束が固まったと
極的に取り上げてくれるので PR 効果は絶大で
いう。
ある。これまで 200 回以上の掲載があった。
商店街の会員もさまざまな取組みを行なう中
で経験を積み、今では大抵のイベントは自分
たちだけで行なうことができるようになった。
成功の要因-3.フリーペーパーの発行
月刊のフリーペーパー「半田どまんなか」は、
約 7 年間の TMO の活動をつうじて良かった
現在 35 号となっている。編集は TMO 半田が
と思う点は、人の輪が確実に広がってきたこと
行なっているが、印刷と配布は中日新聞の販
だという。契約とか損得とかを超えて、TMO を
売店に委託しており、TMO 半田の出費はない。
手伝うということが「良いことをしている」という
(販売店は新聞購読者への読者サービスとし
認識となってきていることが何よりの成果である
てこのフリーペーパーを利用している。) 広告
と捉えられている。
は TMO 半田が募集し TMO 半田の収入となる。
事業計画については、タイムリーで手の届き
つまり広告料がまるまる利益となる仕組みであ
やすいことが心がけられている。実現性に乏し
る 。 こ の フ リ ー ペ ー パ ー に よ る 収 入 が T’s
いようなことは考えられていない。
CAFÉ の赤字を埋めているというのが現実だが、
T’s CAFÉ の話題性、集客効果を考えるとそれ
●今後の課題
でかまわないとされている。
商店街の中で 30~40 代の店主がやっている
店は元気である。逆に言うと、そういう店だけが
生き延びているということかもしれない。
1999 年には半田市の4商店街全体で約 400
店あったものが、2005 年には 220 店に減少し
た。「元気な商店街」と言われている本商店街
においても、現実はこのように厳しい。
今後の課題としては、まちづくりグッズについ
て地域団体商標の取得が検討されている。
http://www.tmo-handa.co.jp/
75
栗と北斎と花のまち
「・・・風、・・・流」を意味する「a la」に決定
信州小布施
し、商号を「ア・ラ小布施」として、1993
年 11 月に設立された。地方小都市「小布施
(長野県)
町」の生活文化をいかに高めるか、この視点
□ 対象区分:まちづくり(C 分野)
から、多彩な人々とのダイナミツクな交流
□ 事業主体:株式会社ア・ラ小布施
が生まれるような企業体を目指して活動し
□ 取組開始:1994年
ている。
人口 12,000 人の北信濃の小さなまち
~小布施っていいよね~
暮らしの中に音楽・映画・演劇が溶け込
む町へ~小布施流でおもてなし~
●ブランドの概況
ア・ラ喫茶
小布施の観光資源は、
「暮らしぶり、町民
● ブランド化への取組みと効果
の暮らしぶり、町民の暮らしをベースにし
1976 年の北斎館開館以来、30 年間、小
た生活文化」である。自立した個々の「小
布施人は、これまで自発的な取り組みによ
布施人(おぶせびと)」が特技や知恵、趣味を持
って「生活文化」を磨き上げてきている。
ちより、切磋琢磨してきた多彩な「住民ブ
多彩な魅力を発信した結果、静かな田園の
ランド」が交わり合い、合わさって「小布
まちは、人口 12,000 人の 100 倍以上の 120
施ブランド」が形づくられている。平成の
万人以上の年間来訪者を迎える「音連れ(訪
合併で自立の道を選んだ小布施、それを支
れ)」のまちへと育ってきている。来訪者か
えているのは、住民個々人の自立と協働に
ら受け取った未知の刺激を生かし、小布施
よる、創造的な「美日常(びにちじよう)」の生
人は自らの暮らしをより味わい深いものへ
活である。
と高めてきている。こうした循環から、
「花
小布施町当局を中心に、商工会等各団体
のまち、技人(わざびと)のまち」といった新
と連携し、歴史や文化、自然、風土などの
たな文化も芽ばえ、育ってきている。
地域資源を活かしながら魅力ある町づくり
1) まちの魅力づくり
を推進してきた。1994 年 4 月に業務開始し
「ア・ラ小布施」の出資者は、資金・労力・
た株式会社ア・ラ小布施は、
「一人でも多く
アイディアなど持てる資源を提供するが、
の住民がここに住んでよかったと幸福感を
直接の見返りは求めない。事業活動の成果
持って暮らせるような、成熟した生活文化
を持つ町にしたい」、そのための手段として、
として、小布施町全体が向上することの恩
恵の活動に携わった一住民としてまちの魅
第3セクター方式で出資者 33 人、
2 団体(小
力づくりを楽しみ合っている。
布施町・小布施町商工会)で、フランス語の
76
事業の選択にあたっては、
「農業とそれに
ランティア活動も事務局として進めている。
よって形成されている田園風景」というこ
町内の 12 の寺と1教会の協力により、小冊
の小布施空間の独自性に正面から向き合い
子「古寺巡り」の発行や、ニュースレター
ながら、農業・工業・商業が融合した循環
「小布施風」の発行も続けている。
産業の育成が推進されている。
また「ア・ラ小布施」の事業として、新
●今後の課題
しい交流の拠点コミュ二ティスペース「六
1)顧客管理
斎舎」を北信濃観光や、小・中・高校生の
「ア・ラ小布施」は、まちづくりに関す
活動、高齢者の集まり、ボランティア活動
る講演、説明会への対応と共に、全国から
等のサポートステーションとして、地域住
の団体や個人の方々の、観光案内・町内視
民に観光客を巻き込んだ活動を行っている。 察への対応も行い、小布施のガイドセンタ
情報交換と、外部情報を共同で享受し、
ーの役割を担っている。
小布施の「これから」を考えていこうとい
訪れるお客様の顧客管理等はまだ行って
う趣旨で「小布施クラブ」が結成され、学
はおらず、これからの課題である。
習を重ねてきている。
2) 集客状況
2)ブランド管理
旅行代理店を通じての集客は、小布施
ガイドセンター「ア・ラ小布施」やコミ
町・
「ア・ラ小布施」では、特別に行ってい
ュニティスペース「六斎舎」の喫茶店(飲
ないが、北斎館、高井鴻山記念館、栗菓子
物・軽食・手作りケーキ・和菓子)、地元特
店小布施堂界隈の関連スポツトが北信濃観
産品・手作り作品の販売、
「ゲストハウス小
光の拠点エリアとして 70 年代から注目さ
布施」の宿泊施設管理等で「ア・ラ小布施」
れ全国からの見学ツアー客も多い。しかし、
は、小布施ブランド管理の中心役として
全体で見るとそうした団体よりも個人客の
機能している。
小布施ファンが、数多く存在している。
これからの小布施ブランドを支える課題
として、
「EM菌による農産物の土壌づくり」、
3) 情報発信
「小布施丸なすプロジェクト」、「地域通貨
「ア・ラ小布施」の事業や情報発信は、
を考える研究会」、みどり豊かな環境づくり
ア・ラ小布施 2 階オープンスペースを、地
を目指す「森を造ろう会」、「小布施国際交
域住民(老若男女)の趣味や学習の拠点と
流クラブ事務局」等の活動をどのように続
して常時、活用すると共に、
「六斎市」にち
けていくか、問われている。
なみ毎月6の付く日にコミュ二ティスペー
ス「六斎舎」でのコンサート、芸能等のラ
イブを行い、小布施国際音楽祭、北信濃小
布施映画祭、北信濃小布施演劇フェステイ
バル等も開催している。混成合唱団「アン
http://www.ala-obuse.net/
ダンテ」による歌を通じての文化活動、ボ
77
れた企業は、なかなかイメージづくりをすること
愛知ブランド
が難しい。そこで大企業に推進役となってもら
って、みんなでいっしょに盛り上げていこうとい
(愛知県)
うのがこの事業の趣旨となっている。
□ 対象区分:産業集積(D 分野)
●ブランド化への取組みと効果
□ 事業主体:愛知県
2002 年、ブランド化に向けての「検討委員
□ 取組開始:2002 年
会」が水谷研治委員長(中京大学大学院教
授)のもと立上げられた。
厳格な基準による企業認定制度。
2003 年には、名古屋大学山田助教授や名
古屋工業大学の加藤助教授、日本福祉大学
愛知県の製造業のイメージアップを目的
としている。
の中村助教授らによる「評価委員会」を設け、
カスタマーエクイティーを重視し、理念、コアコ
ンピタンス、環境など5項目の評価軸が定めら
れた。評価基準の策定に際しては、ISO9001、
ISO14001、クオリティーアワード、ボルドリッジ
賞等の内容も検討されたが、結果的には地域
特性から、トヨタ方式に近い現場重視の評価
項目になっている。
各評価軸は 100 点満点で 70 点以上が認定
●ブランドの概況
対象となっているが、普通にやっていたのでは
グローバル化の進展による「製造業の空洞
60 点しか取れない。比較優位性がないと 70 点
化」への対応として、愛知県としても、産業の
には届かない。「比較優位性があるからこそブ
振興が急務であった。職員のブレストや企業ア
ランド」という考え方である。
ンケートの結果、「製造業出荷額連続日本一」
認定企業の選考に際しては、全応募企業の
という事に着目、効率の良さから優位性のある
現場調査とヒアリングを経て、評価委員会の先
製造業の振興に的が絞られた。これを切り口
生方には段ボール箱いっぱいの資料を読ん
にブランド化に取り組み、愛知県の製造業のイ
でいただいている。各企業のトップへのインタ
メージアップを図ることとなった。
ビューも含まれている。
そこで問題になるのは、どうやって「製造業日
2003 年度からスタートし、現在、155 社が認
本一(28 年連続)」をアピールしていくかという
定されている。今後はこれらの企業がネットワ
ことだが、結論的には、一定の基準をクリアし
ーク的に連携していくことが期待されており、
た企業を「愛知ブランド企業」として認定すると
県としてはそのためのアレンジをサポートして
いう方法を採ることとなった。
いる。
この事業では、隠れた技術力のある企業を
ブランド化のメリットは、製造業の地味でオジ
紹介する効果が大きく、普段めだたない企業
サン臭いイメージを幾分か払拭できた点がひと
をクローズアップすることができた。そうした隠
78
つ。さらに、リクルート面でも好影響が出ている
連携は、すでに実現した例もある。水面下でも
という。「取引先の見る目が変った」という話も
2 件ほど動いているという。
聞かれる。それに連れて「トップの考え方も変
認定は 200 社程度を予定しているが、もっと
ってきた。」との効果もある。
増やして欲しいという声もある。しかし、あまり
また、認定を勝ち取るために、社内教育を充
増えすぎるとブランドとしての価値が毀損して
実させたり、ISO の取得を推進したりといった企
しまう可能性もあり、慎重に検討されている。
業の自己成長を促す効果も多く発生している
ようである。この部分が最大のメリットかもしれ
ない。
最近、「元気な名古屋」とよく言われるが、そ
の背景には、この「愛知ブランド認定事業」と名
古屋商工会議所の「モノづくりブランド
NAGOYA 企業顕彰事業」の影響力が少なから
ずあるものと思われる。
愛知ブランド企業ネット総会
愛知ブランド企業認定式
●今後の課題
認定される企業はさすがに優秀なところばか
りであり、それら企業の方々は何をするにして
も話が早いという。そういう意味では、それら企
業が推進役となって、愛知の製造業のイメージ
が大いに高まるものと期待される。
事業を進める中で、当地には量産体制を得
意とするメーカーを中心に多様な業種の集積
が強みであることが明らかになった。あとは組
み合わせと進化である。
したがって、企業の交流、ネットワークづくり
http://www.pref.aichi.jp/chiikisangyo/aichibra
が今後の課題とされている。認定企業同士の
nd/
79
型の企業も多い。さらに大学も多くある。
京都試作ネット
それらを総合すると、京都は研究開発型の
産業構造を持っているといえる。
(京都府)
そういう特徴を活かすために「試作」と
□ 対象区分:産業集積(D 分野)
いうものに着目した。試作は産業の最も川
□ 事業主体:京都試作ネット
上に位置する。日本の工業の未来形として
□ 取組開始:2001 年
「世界の開発センター」的な意味での試作
をこの地に集積して残せないかと考えたの
である。
京都という都市は「研究開発型」の産業
構造をもっている。
●ブランド化への取組みと効果
それを活かすために「試作」に着目した。
現在、試作ネットには 12 社が加盟してい
るが、事の起こりは 22 年前に「機青連」と
いう任意団体をつくり、勉強会を始めたこ
とにある。当時はプラザ合意の直後であり、
下請けの自立が声高に叫ばれていた。自立
のためには「経営」を考える必要がある。
当時、経営的視点で見た場合に最も欠落し
ていたのは、仕事を見つけてくる能力だっ
た。自立するためには顧客は自分で発見し
なければならないし、あるいは新市場を創
造することも必要となってくる。
そのためには何をなすべきかが勉強会で
議論された。自社の強みを各社にプレゼン
させてみると、それを自己認識できている
会社は少なかった。それでもだいぶ時間を
●ブランドの概況
かけて各社の強みを分析していくと、それ
京都のこの地でモノづくりを今後とも続
らを持ち寄ることによって「試作」という
けていきたいという願いから試作ネットと
部分にチャンスがあることが明らかになっ
いう発想が生まれた。グローバル化の流れ
の中で、中国でできることはそちらに任せ、
ていった。
試作ネットを運営していく上においては、
日本は日本のモノづくりのあり方を探るべ
メンバー各社の間で3つの取決めがなされ
きだと考えたのである。
ている。
京都には都市としての 1200 年の歴史が
① 平等主義はとらない(お客の要求に最も
ある。今、京都の伝統工芸といわれている
ものは、かつてはすべて先端技術であった。
良く応えることのできる会社が対応す
る)
また産業の裾野も非常に広く、ベンチャー
80
② ネットの仕事をそれ以外の仕事よりも
●今後の課題
優先する。
京都試作ネットのメンバーは自分たちの
③ 簡単には「出来ない」と答えない。
世代さえよければそれでいいというような
現在、成約率は約 20%となっており、想
ことは考えていない。この取組みを次世代
定よりもやや高い。これまでの実績は 4 年
につないでいくため「京都試作センター」
で約 1000 件(年間 250 件程度)となって
の建設を行政に働きかけている。幸い、行
いる。金額的には昨年度までの累計で 4 億
政の理解も得られつつあるので、今後大い
5 千万円であった。
なる前進が見られるものと期待される。
現状についての評価は、当初の大きな目
京都は過去のストックを大切にしてきた
的であった顧客開拓を評価基準としてみた
だからこそ未来が見えるのではなかろうか。
場合には、
「まずまず成功している」とされ
ている。
2005/8/3 京都試作ネット(12社)
が、第1回ものづくり日本
大賞優秀賞を受賞!!
外部からの評価は、対応が早い点が好評
を博しているが、
「もっと早く」という要求
もある。
クライアントからの試作のオーダーはメ
このたび、京都試作ネット(鈴木三朗他 11 名)
ールで入ってくるが、それはメンバー各社
が第1回ものづくり日本大賞 優秀賞を受賞いた
に一斉に届く。それを内容に応じてどの会
しました。
社に担当させるかをコントロールしている。
プロモーションらしきことは特にやって
今回の受賞は、「企業連合により試作を専門に
いないというが、
「モノづくり日本大賞」や
受注から 製作までのプロセスを迅速対応するシ
「IT100 選」、「日経地域ブランド賞」等を
ステムを実現した」ことを評価いただいたもの
受賞したことによって、知名度は確実に上
で、これもひとえに皆様のご支援、ご愛顧のお陰
がっている。マスコミが全国レベルで取り
と一同心より感謝いたしております。
今後も「試作に特化したソリューション提供サ
上げてくれることの効果が非常に大きい。
ービス」を通じて、お客様にご満足 いただける
よう誠心誠意取組んでまいりますので、どうぞよ
ろしくお願いいたします。
京都試作ネットホームページより
http://kyoto-shisaku.com/
81
ブランド化のきっかけは、1999 年から 2
東大阪ブランド
年にわたって市内の全ての事業所を対象に
アンケート調査を行ったことに始まる。約
(大阪府)
24,000 の有効回答(回収率約 90%)を得て、
産業界の実態が把握された。
□ 対象区分:産業集積(D 分野)
その結果、製造業に関しては高い技術力
□ 事業主体:東大阪市経済部
があり、短納期や小ロット生産を得意とす
モノづくり支援室
るという強みを持つとともに、最終製品を
□ 取組開始:2000 年
製造する事業所の数は約 2,600 社、自社ブ
ランドを有する事業所は約 1,100 社もあり、
販売力、営業力を補うためのブランドづ
くり。
高い技術力で非常に多岐にわたる製品を製
造しているという実態が明らかとなった。
一方、販売や営業力に課題を抱えている
多品種少量生産に強みをもつ地域特性
から「製品認証制度」としている。
という弱みも明らかになった。そこで、営
業力の欠如から個々の事業所の製品が市場
でなかなか認知されないということを補完
するため、販売・営業力を支援する事業と
して東大阪ブランド事業が構想された。
●ブランド化への取組みと効果
まず、2000 年にブランドづくりのための
研究会が立ち上げられた。メンバーは市内
製造業者、小売業者、中小企業診断士、学
東大阪ブランドシンボルマーク
識経験者、CIプランナー、商工会議所、
地元のケーブルテレビなど。そこでは最終
●ブランドの概況
製品を持つ企業に対し参加意思を確認する
西日本経済の中心・大阪市に隣接する東
調査を行われ、ブランド事業の方向性や認
大阪市は面積 61.81k㎡に 6,991(平成 15
定基準等について議論がなされた。そして、
年工業統計調査)の事業所が密集する全国
でも有数の工場集積地「モノづくりのまち」
ブランドとしての価値を保持していくため、
以下の3つの基準のいずれかをクリアする
である。
製品を認定していくということが決定され、
東大阪市内では、古くから続く針金や金
その基準を満たす製品の募集・審査・選出
網製造に加え、近年は金属加工やプラスチ
が行われた。
ック関連の製造業者向け産業加工機械、さ
・Only One 製品(全国で唯一、自社のみが
らには食品関連といった具合に、生活用品
製造している製品)
から事業向けのものまで実にさまざまな分
・Number One 製品(特定の市場で第1位
野にわたってものづくりが行われてきた。
82
の販売数量や販売額を記録する製品)
ンによる新たな展開を図っている企業も出
・Plus Alfa 製品(従来製品にない付加機能、
てきており、横のつながりも構築されつつ
付加価値を有する製品)
ある。
製品の対象は、一般用(B to C)と産業
界用(B to B)の両方がある。
●今後の課題
また、ブランドマークのデザインは公募
東大阪ブランドに認定されているのは 43
で決定し、東大阪の H と O、コンセプトの
社の 93 製品(平成 18 年 2 月末)である。
1を組み合わせて王冠をイメージしている。
認定基準を満たすポテンシャルを保持し
決定したブランドマークの商標登録には、 た製品を製造している企業への事業PRを
市内企業が行うモノづくりの多様性を網羅
積極的に行うことで認定企業数を増やしな
するために 28 もの分類に登録がなされて
がら、生活関連製品と産業用製品のそれぞ
いる。
れの特徴をいかした事業展開を行っていく
2002 年には推進母体となる東大阪ブラ
ことで、1日も早く市場で東大阪ブランド
ンド推進機構が立上げられ、各種展示会へ
が確立されることを目指している。
の出展等による東大阪ブランド認定製品の
PR活動、ホームページによる会員企業の
紹介、マスコミへの情報提供、会員企業の
資質向上を目的とした研究会運営等 、デザ
イン学校と連携した事業等が行われている。
事業の成果としては、東大阪ブランドに
認定されていることで認定製品が新聞記事
に取り上げられたり、ローカルニュースの
1コーナーで紹介されるという効果が出て
きている。
また、認定企業の事業活動においても、
東大阪ブランドに認定されていることで大
手の入札に無条件で参加できたり、取引で
は商談がスムーズに進むという効果が出て
きている。
さらに、認定された企業の意識に変化も
見られてきており、「東大阪ブランドに認
定されているからには無責任なことはでき
ない、ブランドの名に恥じないよりよい製
品を造っていきたい」というように、責任
http://www.higashiosakabrand.jp/
感・一体感も出てきている。
さらに、認定企業同士でコラボレーショ
83
6.地域ブランドの取組みを加速する主な支援制度
●経済産業省
支援
分野
ー
普
及
・
啓
発
地
域
ブ
フラ
ン
ド
ラア
ムド
事バ
業イ
ザ
ォー
、
ブ
ラ
ン
ド
形
成
全
般
事業名
・
事業の概要
地域ブランドづくりの成功のポイント等を示すことにより、地域コミュニティーによる地
域ブランドづくりの取り組みを促進する。
具体的には、
(1)地域ブランドづくりに取り組もうとする地域の関係者に対してマーケティング等の専
門家を派遣し、地域イメージの形成・活用を意識した商品開発・販路開拓等の手法を
助言する。
(2)地域ブランドづくりに成功している地域の中心人物を講師とし、彼らと地域ブランド
づくりに取り組む者が一堂に介するフォーラムを各地域で開催し、地域ブランドづくり
への意識を喚起する。
問い合せ先、URL
九州経済産業局
産業部 産業課
TEL 092-482-5433
http://www.kyushu.meti.go.jp
中小企業基盤整備機構
九州支部
TEL 092-771-9181
http://www.smrj.go.jp/keiei/chiki
brand/
【対象者】
(1)地域ブランドアドバイザーの派遣
市町村、商工会、商工会議所等と連携し、地域ブランドに取り組む関係者・団体等
(2)地域ブランドフォーラム
地域ブランドつくりに関係、関心のある方々(都道府県等の担当者、中小企業関係
団体職員、関係業界担当者、地域ブランドづくりに取り組んでいる中小企業者)
【支援内容等】
(1)地域ブランドアドバイザーの派遣
専門知識を有する地域地域ブランドアドバイザーの派遣。
なお、派遣費用の一部(派遣1人・1日当たり16,700円)の負担が必要。
(1)JAPANブランド育成支援
九州経済産業局
地域の特性を活かした製品の魅力を更に高め、全国さらには海外のマーケットにお 産業部 中小企業課
いても通用する高い評価(ブランド力)を確立すべく、商工会・商工会議所等が地域の TEL 092-482-5449
企業等をコーディネイトしつつ行う、マーケットリサーチ、専門家の招聘、新商品開発・
評価、デザイン開発・評価、展示会参加等の取組を行うプロジェクトについて、総合的 http://www.kyushu.meti.go.jp
かつ継続的に支援を行う。
ブ
ラ
ン
ド
形
成
全
般
J
育
A
成
P
強
A
化
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支
ブ
援
ラ
事
ン
業
ド
(2)戦略策定支援事業(18年度新規)
地域の関係事業者の共通認識を醸成し、地域が一丸となったブランド育成に関する
取組を掘り起こすため、ブランド確立支援事業実施前段階におけるコンセプトメイキ
ングやマーケットリサーチ等のブランド戦略策定を支援する。
【対象者】
○商工会・商工会議所等
【支援内容等】(委託費)
○ブランド確立支援事業
2/3補助、1件当たり20,000千円、40件
○戦略策定支援事業
定額補助、1件当たり5,000千円、30件
ー
ビ
ジ
ネ
ス
モ
デ
ル
の
確
立
・
普
及
・
事
業
革
新
サ
ビ
ス
産
業
創
出
支
援
事
業
健康・集客交流・育児関連といった、地域のサービス産業における先導的な取組に
対し、
①事業戦略の策定等の基本調査
②コーディネータ機能の増進やデータベースの構築・活用等の事業基盤整備等、初
期段階での支援を行い、新たなビジネスモデルの確立・普及と、事業革新を促進す
る。
【対象者】
○事業主体は、サービス産業が本質的に有する特性(注)を克服する観点から、複数
の事業主体が連携・協働する「コンソーシアム」形式とする。
(注)サービス産業においては、協働関係となる顧客との適切な関係の構築や他の
事業者との戦略的な連携による効率的・効果的な事業実施体制の確保などが重要と
なる。
【支援内容等】(委託費)
○健康サービス
・モデル事業 1件当たり、1~2億円程度の事業(大規模な事業の基盤整備)
1件当たり、3,000万円程度の事業(コーディネータ機能の支援が中心)
○集客交流
・モデル事業 1件当たり、1~2億円程度の事業(大規模な事業の基盤整備)
1件当たり、3,000万円程度の事業(コーディネータ機能の支援が中心)
・調査事業
1件当たり、500万円程度
○育児関連サービス
・モデル事業 1件当たり、3,000万円程度の事業
84
九州経済産業局
産業部 流通・サービス産業課
TEL 092-482-5455
http://www.kyushu.meti.go.jp
支援
分野
販
路
開
拓
支
援
販
路
開
拓
支
援
事業名
発輸
掘出
支有
援望
事案
業件
輸
出
等
支
援
事
業
事業の概要
問い合せ先、URL
地域ブランドの強化にも資する地域の有望な商品の輸出を促進するため、各県 (独法)日本貿易振興機構
に設置されたジェトロの国内貿易情報センターに専門家を配置し、産業クラス 市場開拓部輸出促進課
ター計画等とも連携しつつ、地域でやる気と潜在能力を有する企業及び商品を TEL03-3582-5313
http://www.jetro.go.jp
積極的に発掘し、海外での販路開拓を支援する。
【対象者】
○海外企業との業務提携・取引の検討をしている中小企業者
【支援内容等】
○全国で9名の専門家と契約(1名あたり年間10件程度支援)
1機械・部品、2繊維、3伝統産品、4食品、5IT・コンテンツ、6環境・医
療・福祉の重点6分野を中心に、
・輸出促進を目的とした調査
・展示会への出展支援
・海外の展示会への出展、広報活動
・貿易相談
・ミッション派遣
・貿易セミナー
を実施する。
(独法)日本貿易振興機構
市場開拓部輸出促進課
TEL03-3582-5313
http://www.jetro.go.jp
【対象者】
○企業等
【支援内容等】
○対象要件等は各事業によって異なる。
産地等活性化のため、全国的な視点から産地の意欲的な取り組みや県域を越えて 九州経済産業局
実施する広域的な販路開拓事業、マーケットのニーズを的確に捉えた商品開発及び 産業部 中小企業課
人材育成等事業を重点的に支援。
TEL 092-482-5450
開
発
・
事
業
化
・
販
路
開
拓
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援
産
地
等
地
域
活
性
化
支
援
事
業
(1)地場産品等販路開拓等支援事業
http://www.kyushu.meti.go.jp
地域の公益法人、組合、中小企業者(流通・卸業者を含む)、グループ等が地場産
品の販路開拓のために行う、広域的な展示会や見本市の開催・出店、市場調査及び
外部人材を活用したマーケティング等の事業に対する補助。
(2)地場産品等開発等支援事業
地域の中小企業、グループ、組合、公益法人等が販路開拓まで視野に入れた商
品の開発又は改良等事業に対する補助。
(3)産地人材育成等支援事業
地域の公益法人、組合、中小企業、グループ等がマーケティングのために行う人
材育成・確保に資する研修会の開催、交流会開催等の事業に対する補助。
【対象者】
(1)公益法人、組合、中小企業者(流通・卸業者を含む)、グループ等
(2)中小企業、グループ、組合、公益法人等
(3)公益法人、組合、中小企業、グループ等
【支援内容等】(補助金)
○補助率:1/2
実
サ効
ポ性
確
ト保
事診
業断
・
ー
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づ
く
り
支
援
改正中心市街地活性化法に基づく中心市街地活性化協議会等が行う中心市街地
活性化の取り組みを支援するため、中小企業基盤整備機構の全国9ヶ所の地方支
部において、地域のまちづくりプランやタウン・マネジメント、核となる施設の運営手段
などを総合的に診断し、中心市街地活性化対策の実効性を高めるための助言を行
う。
加えて、これらのノウハウや成功事例等を広く普及することで、全国の中心市街地
におけるタウン・マネジメント活動のバックアップを図る。
【対象者】
○市町村、TMO、TMOになろうとする者、商店街振興組合等まちづくり関係団体
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九州経済産業局
産業部 流通・サービス産業課
TEL 092-482-5455
http://www.kyushu.meti.go.jp
事業名
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地
域
団
体
商
標
制
度
事業の概要
改正中心市街地活性化法に基づき、商業者、商店街等による中小小売商業活性
化に資する取り組みを支援するため、中小企業診断士、再開発プランナー等の商業
機能強化に有為なアドバイザーを派遣する。(ただし、派遣期間が10人日を超える
場合、アドバイザー謝金の1/3は自己負担となる。)
また、大手小売業(百貨店、スーパー等)のOB人材を新たに登録するなど、派遣登
録者の充実を図る。
問い合せ先、URL
九州経済産業局
産業部 流通・サービス産業課
TEL 092-482-5455
http://www.kyushu.meti.go.jp
【対象者】
○市町村、TMO、TMOになろうとする者、商店街振興組合等まちづくり関係団体
地域ブランドをより適切に保護することにより、事業者の信用の維持を図り、産業競
争力の強化と地域経済の活性化を支援することを目的にとするもの。
「地域の名称」と「商品(役務)の名称」のみ等からなる商標について、その商標が使用
された結果、一定の範囲で周知となった場合には、事業協同組合、農業協同組合等
が地域団体商標として商標登録を受けることができる。
※平成18年4月1日から地域団体商標登録の出願の受付開始
【対象者】
出願人が主体要件を満たしていること
ポイント1:出願人は、事業協同組合などの適格団体であること
ポイント2:構成員の資格を有する者の加入の自由が担保されている団体であるこ
と
ポイント3:出願人が複数の場合、出願人全員が主体要件を満たしていること
ポイント4:出願時に組合等であることを証明する書面の提出が必要
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九州経済産業局
地域経済部 技術企画課特許
室
TEL 092-482-5463
http://www.jpo.go.jp/indexj.htm
<巻末資料>
九州・地域ブランドマップ
今回の調査でアンケートにご回答いただいた自治体・団体等を掲載。
(市町村名は、調査時点の名称を使用しています。
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