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図書館の歴史文化資産が 現代に生まれ変わる

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図書館の歴史文化資産が 現代に生まれ変わる
市が所有する権利・資産等の活用
事例紹介 市が所有する権利・資産等の活用
貴重書庫の平山煙火カタログ
眠りから覚める
きっかけは、平成22年11月に横浜で行
われたAPEC首脳会議で来日したオバマ
大統領が菅直人首相(当時)に、日本人
図書館の歴史文化資産が
現代に生まれ変わる
第1号の米国特許のレプリカを寄贈したこと
に始まります。平山甚太こそ、「昼花火」
と
いう発明で明治16年、日本人として初めて
米国特許を取得した人物です。日本が国
際的な特許保護の枠組みに参加する以前、
さらには日本に特許制度ができる以前のこ
前列右から株式会社NDCグラフィックス 中川憲造・金江秀一/光画コミュニケーション・プロダクツ株式会社 野津手重之
中央図書館調査資料課 野田美樹子・瀬尾由紀子・望月和彦
後列右から政策局共創推進室 東華子・宮崎郁(敬称略)
とでした。
「貴重書庫は閉架図書ですから一般の
これが話題となり、中央図書館では甚太
皆様が直接閲覧することは原則的にできま
を紹介する展示会と講演会を企画。平成
せん。今回のように、できるだけ企画展な
23年7月からの開催に向け、甚太が残した
どでお見せするようにはしているのですが」
これは、「平山煙火」の平山甚太が輸出用として海外に向
花火カタログをもとに、ポストカードを作ろうと
と中央図書館調査資料課司書の望月和彦
けて発行したものです。今から120年以上前の1890年
(明
考えました。
さんは話します。所蔵する貴重な資料を目
治23年)
ごろに制作された貴重な歴史文化資産が、公民
甚太や花火カタログについては、一般的
に見えるカタチにして公開することはかねて
にあまり認知されていません。これを機に、
からの願いだったのです。
横浜に平山甚太という人物がいたこと、そ
しかし、図書館にはポストカードを作る予
横浜市中央図書館の貴重書庫に、「平山煙火」という
横浜の花火製造所が発行したカタログが所蔵されています。
連携により横浜オリジナルのポストカードとして現代に生ま
れ変わりました。
図書館に眠る資産を活用した企業と図書館のコラボ
レーションは、どのようにして実現したのか。その経緯をた
の手による貴重な資料が存在することな
算がありません。なんとか民間の力を生か
どを、図 書 館ではもっと広く市
し、費用負担せずにできる方策はないもの
民に知ってもらいたいと
どります。
考えたのです。
平 山 煙 火 カ タロ グ の 一 つ「ILLUSTRATED CATALOGUE of DAY
LIGHT BOMB SHELLS」
(昼花火絵入型録)の表紙。人形が乗る馬が空
を駆け、着物の女性が舞う。 金魚、風船、旗など凝った意匠が特徴。 下部
に「U.S.PATENT」の表示がある(1890年ごろ、横浜市中央図書館所蔵)
。
株式会社NDCグラフィックス/光画コミュニケーション・プロダクツ株式会社
×
横浜市
か—。相談された政策局共創推進室を通じ、
市内企業であるデザイン・プロデュース会社、
株式会社NDCグラフィックスからの共創フロ
ント提案につながります。これが連携の始ま
りでした。
〔これまでの経緯〕横浜市中央図書
館が明治時代に活躍した横浜の花
火師、平山甚太を紹介する展示会
を2011年に企画。 合わせて甚太が
残した所蔵資料、花火カタログから
ポストカード制作を発案した。 共創フ
ロント提案によりNDCグラフィックス
がデザインを担当、光画コミュニケー
ション・プロダクツの制作で花火ポス
トカードとして再現した。
企業PROFILE
NDCグラフィックス:
「気持ちのいい
生活デザイン」をモットーとするデザ
イン会社。デザインの各分野をトー
タルに結びつける活動を行っている。
横浜に根差した仕事も多く、横浜開
港資料館に残る型を使った日本初の
国産せっけんとパッケージの復刻も。
横浜グッズ関連では特に「ブルーダ
ル」のキャラクターが有名。
光画コミュニケーション・プロダクツ:
ミュージアムグッズなどの企画・製
造・卸・販売。 関連会社にデジタ
ル技術を駆使した印刷工場を持つ。
県立歴史博物館に直営のミュージア
ムショップがある。
・教育委員会事務局中央図書館調査資料課
平山甚太と平山煙火と昼花火
平山甚太(1840—1900)が1883年に米国特許を取った昼花
火は、その名の通り日中に上げる花火。 打ち上げると花火玉の外
皮が割れ、中に詰めておいた和紙など軽くて柔らかい素材でできた
人形や鳥形金魚、旗などの作り物が飛び出し漂う仕組み。 色のつい
た煙も花火のように空中に演出した。 米国特許を取得する6年前の
1877年(明治10年)
、天長節に横浜公園で打ち上げ、以後そのユニー
クさで横浜名物に。 居留外国人の評判となったことから輸出をスタート。
1904年(明治37年)にはセントルイス万国博で最高金牌を受賞してい
る。横浜商法学校(市立横浜商業高校の前身)創立発起人の一人。
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事例紹介 市が所有する権利・資産等の活用
と、季節に関わらず、20 〜 30代の女性を中
市民の皆さんにもっと気軽に見てもらえるよう、
心に好評だといいます。中川さんのねらいど
さまざまな形で活用していただきたい」とア
おり、単なるポストカードではなく、持っていた
ピールします。「図書館無料の原則」の解
い価値あるものとして発展する可能性を感じ
釈や、図書館自身が販売拠点を持つこと
させます。
の可能性など今後の課題もありますが、今
回の連携をきっかけに、図書館所蔵の浮
図書館は宝の山
眠っている資産を発掘し
活用・発信へ
ポストカード、復刻したカタログの原
本が一つのセット。好きなものを選ん
で1枚単位でも購入できる。
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います。
制作期間の短さ、事業費の負担などリ
企業と図書館をつなぐ役割を担った共
しました。読むアートと位置づけ、新しい価
スクを抱えた今回の連携を企業はなぜ決断
創推進室は「資料の価値をきっかけに結び
値を生み出したのです。
したのか。中川さんは「営利追求のみでな
ついたメンバーがそれぞれの役割を果たし、
製品に込めた思いは、まだ謎もある平山
く、文化的視点を持ち公的な意識で資料
新たに後世に残る資料を生み出した成功
図書館では、花火のイメージを絵にして
煙火カタログの物語性や歴史、当時のデザ
と向き合うことも必要だ」
と言います。
また「コ
事例。行政が企業への呼び掛けをさらに
並べたカタログや、打ち上げ方を英文で記
イナーや木版職人たちの仕事の素晴らしさ
ンテンツの素晴らしさに引きつけられたから」
続けていくことで、今回のような出会いを積
した資料など、糸かがりで製本された9冊
を、手に取る人に読み取ってほしいというこ
と野津手さん。いいものを作るという自信と
み重ねていければ」
と話しています。
を所蔵しています。初めて目にしたNDCグ
とです。そしてそこに秘められた横浜の魅
意気込みがあったと言います。
ラフィックス代表の中川憲造さんらが驚いた
力を再発見・再認識してもらいたい—。
本来、著作物は著作権で守られていま
のは、カタログという実用性を超えたデザイ
「資料の持つ価値は分かってはいても、
すが、幕 末から明 治のものはすでに著 作
ンや色鮮やかな仕上がりの美しさです。
「花
私たちとは別の発想・視点で資料の魅力を
権者が存在しないものがほとんどです。保
火のデザインはもちろん、版画の印刷物とし
引き出していただいた」と、中央図書館調
護されていても、許諾があれば複製化・製
て仕上げる130年前のデザイナーの力に感
査資料課の野田美樹子さんらは話します。
品化は可能であることから、質の高いデザ
動し、
この遺産をよみがえらせたいと思った」
一 方、中川さんも「一 緒に仕 事をしたこと
インを求める企業にとって、図書館は宝の
と振り返ります。
で、花火とカタログという素材を産業、貿易、
山かもしれません。
単なるポストカードでは終わらせたくなかっ
特許、デザインなどいろいろな視点で捉え
一方、図書館は、市民の課題解決支援
たという、現代のデザイナーならではの視点
ることができ、資料が別の輝きを増してみ
のための地域の情報拠点として、所蔵する
で発案したのは、ポストカードをデザインする
えた」
と感じたそうです。
資料や発信する情報が、市民や市内企業
ことに加え、カタログの1冊をはがき大に縮
製品は、わずか3週間で完成しました。
に有効活用されることを目指しています。
小した復刻版にすることでした。それらを厚
図書館が原本を無償で貸与し、NDCグラ
「今回、図書館資料を新たな形で活用
紙の箱に収め、新ブランド「eye BOOK」
と
フィックスがデザイン、光画コミュニケーション・
し、市民の方に見ていただけたことが大き
には両社が以前から培ってき
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だ連携が今後さらに進む可能性も高まって
新たな価値を生み
横浜の魅力を再発見
プロダクツが製品化。その際
ポストカード制作にあたって
は、所蔵の全ての平山カタ
ログの中から昼花火、夜花
火のイラストを厳選。「平山煙
火庭花火絵入型録」
(1890
年ごろ)
から取った「スターマイ
ンス」
「丸車火」などの裏には、
仕掛け花火の点火の方法を記
した解説文字も再現した。「情
報を一緒に買ってもらう工夫が必
要」
と中川さん。
を制作する取組も生まれるなど、一歩進ん
たネットワークとノウハウが、大
いに功を奏しました。
10種類のポストカードと箱入
りセットは初年度に完売。そ
の後もポストカードとしてはロン
グセラーを続けています。販
売も担当している光画コミュ
ニケーション・プロダクツ株式
会社の野津手重之さんによる
なメリット」
と言う野田さんは、
「貴重な資料も、
連携モデル図
連携事業の実施
NDC
グラフィックス
連携
提案
光画
コミュニケーション・
プロダクツ
政策局共創推進室
(共創フロント)
2010年、横 浜で開 催
されたAPEC首脳会議に来日
したオバマ大統領から、米国特許
のレプリカが日本に贈られた。
世絵を活用し、複写機メーカーがカレンダー
横浜市
教育委員会事務局
中央図書館
(左)同館主催の企画展示「日本人
初の米国特許 横浜の花火師・平山
甚太」
(2011年7月20日〜8月14日
開催)
、甚太の特許の調査をされた
櫻井孝さん(特許庁)の講演が7月
31日に開かれた。
(右 )横 浜 市 中 央 図 書 館 の 貴 重
書 庫:90年 の 歴 史 があり、およそ
2800冊の書籍、4000枚の絵はが
き、120枚の絵図、430枚の錦絵、
430枚の地図、190点の原稿・書
簡が保管されている。市立図書館デ
ジタルアーカイブとして「都市横浜の
記憶」
というデータベースもある。ホー
ムページで横浜資料を検索し、閲覧
することができる。
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