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ディスクロージャーニュース 2011 / 10 vol.14

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ディスクロージャーニュース 2011 / 10 vol.14
RID
ディスクロージャーニュース 2011/10
vol.14
2011 / 10 vol.14
ディスクロージャーニュース
《金融商品取引法》
・平成23年9月「第2四半期の四半期報告書」作成上の留意点
・改正金融商品取引法関連法令の概要
・「連結財務諸表に関する会計基準」等の解説
・東日本大震災に係る法定開示書類の事例分析①
・XBRLの歩み
・有価証券報告書の基礎(第13回)
・ディスクロージャー実務Q&A
《国際会計基準》
正しい理解に基づくIFRS議論の必要性
《会 社 法》
・平成23年3月期決算会社の株主総会招集通知
・中小企業に関する会計指針の動向
・会社法コラム第48回
《I R》
・IR部署が主導する株主総会
・ESGディスクロージャーの現状(3)
《取 引 所》
有償ストック・オプションの付与に関する適時開示について
《 研究所活動状況》
本 社/〒171-0033 東京都豊島区高田3-28-8 Tel. 03
(3971)
3101代表
大 阪 支 店/〒541-0048 大 阪 市 中 央 区 瓦 町 3-6-5 Tel. 06
(6203)
5760代表
札幌営業所/〒060-0042 札幌市中央区大通西11-4 Tel. 011
(271)
9891代表
名古屋営業所/〒460-0003 名 古 屋 市 中 区 錦 1-20-25 Tel. 052
(221)
6901代表
(241)
0755代表
広島営業所/〒730-0031 広島市中区紙屋町1-1-20 Tel. 082
福岡営業所/〒810-0001 福 岡 市 中 央 区 天 神 3-4-8 Tel. 092
(712)
0012代表
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1-3
総合ディスクロージャー研究所
総合ディスクロージャー研究所
・『カーボン・ディスクロージャー』出版記念シンポジウム
・第5回、第6回「ディスクロージャー制度研究会」議事概要
《そ の 他》
金融商品取引法関連法令の改正日誌
総合ディスクロージャー研究所
2011/09/28
14:42:50
RID ディスクロージャーニュース
2011/10 vol.14
Contents
■ 金融商品取引法
平成23年9月「第2四半期の四半期報告書」作成上の留意点
1
改正金融商品取引法関連法令の概要
9
改正企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」等の解説
13
東日本大震災に係る法定開示書類の事例分析①
18
公認会計士 山添清昭
総合ディスクロージャー研究所顧問 小谷 融
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 直原知佳
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 奈良幸一
総合ディスクロージャー研究所研究員 金井陵策
総合ディスクロージャー研究所 黒須悠子
「有価証券報告書等に関する業務の業務・システム最適化計画」 27
にみるXBRLの歩み
総合ディスクロージャー研究所研究員 新井晶美
有価証券報告書の基礎(第13回)
30
ディスクロージャー実務Q&A
39
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 新保秀一
総合ディスクロージャー研究所客員研究員 茨澤玲子
総合ディスクロージャー研究所研究員 増田美和
■ 国 際 会 計 基 準
正しい理解に基づくIFRS議論の必要性
46
平成23年3月期決算会社の株主総会招集通知の
主な記載項目の傾向について
50
中小企業に関する会計指針の動向
58
会社法コラム第48回
経営も株主総会も、曲がり角
61
総合ディスクロージャー研究所顧問 橋本 尚
■ 会
社
法
ディスクロージャー研究二部部長 今田範男
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 弁護士 六川浩明
■ I
R
IR部署が主導する株主総会
鳥飼総合法律事務所 弁護士 鳥飼重和
前日本IR協議会 専務理事 前澤秀忠
65
ESGディスクロージャーの現状(3)
株主の変化に対応した招集通知
71
有償ストック・オプションの付与に関する適時開示について
82
ディスクロージャー研究一部 顧問 菅原 道
ディスクロージャー研究一部 ESG担当 江森郁実
■ 取
引
所
事業創造大学院大学准教授 鈴木広樹
■ 研究所活動状況
『カーボン・ディスクロージャー』出版記念シンポジウム
ニッセイ基礎研究所 上席主任研究員 川村雅彦
第5回、第6回「ディスクロージャー制度研究会」議事概要
94
金融商品取引法関連法令の改正日誌
98
執行役員ディスクロージャー研究一部長 平松 朗
ディスクロージャー研究一部部長 藤井靖弘
■ そ
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1
の
他
87
2011/10/03
10:25:25
金融商品取引法
平成23年9月「第2四半期の四半期
報告書」作成上の留意点
山添 清昭
公認会計士 また、改訂後の新様式や詳細な記載上の留意点に
はじめに
3月決算の会社は、平成23年9月末から45日以
ついては、公益財団法人財務会計基準機構作成の
内に第2四半期の「四半期報告書」を各財務局に提
「四半期報告書の作成要領(平成23年9月第2四半
期提出用)」や宝印刷株式会社作成の「四半期報告
出することになります。
平成23年3月25日付で、企業会計基準委員会よ
り、企業会計基準12号「四半期財務諸表に関する
会計基準」
(以下「四半期会計基準」という)およ
び同適用指針14号「四半期財務諸表に関する会計
基準の適用指針」
(以下「四半期適用指針」という)
が改正・公表され、平成23年6月の第1四半期より
書記載例(平成23年版第2四半期提出用)」でご確
認ください。
なお、本稿の中で、意見に関するところは、筆者
の私見であることを最初にお断りしておきます。
目次
適用されています。
四半期報告書における財務情報および非財務情報
の記載内容の簡素化が規定され、四半期報告書の様
式も大幅に改正されています。
本稿では、平成23年9月末の第2四半期決算を迎
え、これから第2四半期の「四半期報告書」を作成
される方に向けて、①当第2四半期における主な改
正点と、②四半期簡素化の項目(記載項目の簡素化、
注記の簡素化)と当第2四半期における留意点につ
いてまとめています。
実際に第2四半期提出用の「四半期報告書」を作
成される際に、または、
「四半期報告書」の改正点
1. 当第2四半期における主な改正点
2.四半期簡素化の項目(記載項目の簡素
化、注記の簡素化)と当第2四半期に
おける留意点
1.当第2四半期における主な改正点
当年度の第2四半期の「四半期報告書」は、前年
度の第2四半期の「四半期報告書」を参考に作成す
ることになりますが、
「四半期会計基準」、
「四半期
適用指針」が改正され、当第2四半期における主な
改正点を確認しておく必要があります。
当第2四半期における主な改正点について、
【図
表1】にまとめています。改正された開示府令の公
表日順にまとめていますので、ご確認ください。
のチェックに活用してください。
【図表1】当第2四半期における主な改正点
改正規則等
改正の主な内容
平成22年内閣府令
第 4 5 号、 平 成 2 2
年 9月30日付改 正
(金融庁)
・開示府令
・四半期連結財規
★
「包括利益の表示に関する会計基準」の公表(平成22年6月30日付)を踏ま
えた改正がされました。
◦
「連結包括利益計算書」及び「連結損益及び包括利益計算書」に関する規定、
様式が新設され、平成23年3月末より連結包括利益計算書の導入がされ、下
記のいずれかを選択・適用することになりました。
チェック
①当期純利益を表示する損益計算書と、包括利益を表示する包括利益計算書
からなる形式(2計算書方式)
②当期純利益の表示と包括利益の表示を1つの計算書(「損益及び包括利益
計算書」)で行う形式(1計算書方式)
◦四半期決算における適用時期は、以下のとおりです。
四半期連結財務諸表について、平成23年4月1日以後に開始する連結会計年
度に係る四半期連結財務諸表から適用されています。
●当第2四半期においても、四半期連結包括利益計算書(2計算書方式又は1計
算書方式)の作成が必要となります。
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改正規則等
改正の主な内容
チェック
平成23年内閣府令
第 1 0 号、 平 成 2 3
年3月31日付改正
(金融庁)
・開示府令
・四半期連結財規
★四半期財務諸表の簡素化に係る「四半期財務諸表に関する会計基準」等の公
表(平成23年3月25日付)を踏まえた改正がされました。
◦四半期報告の簡素化
①四半期会計期間の損益計算書等の任意作成
②1Q・3Qのキャッシュ・フロー計算書の任意作成
③削除される注記、1Q・3Qで省略可能な注記等
◦四半期報告における財務情報の簡素化とともに、四半期報告書に記載すべき
非財務情報の記載内容の簡素化に伴い、四半期報告書等の様式(開示府令第
四号の三様式)の改正がされました。
◦簡素化に係る改正は、平成23年4月1日以後に開始する連結会計年度に属す
る四半期連結会計期間および四半期連結累計期間に係る四半期連結財務諸表、
同日以後に開始する事業年度に属する四半期会計期間および四半期累計期間
に係る四半期財務諸表について適用されます。
●当第2四半期の四半期報告書においては、改正後の第四号の三様式に基づく
四半期報告書の作成が求められます。
●当第2四半期において、当第2四半期連結累計期間に係る、四半期連結キャッ
シュ・フロー計算書を必ず作成する必要がありますので、ご留意ください。
●当第2四半期においても、前第2四半期と比べ注記事項が大幅に見直されてい
ます。削除された注記項目や簡素化された注記項目等がありますので、ご注
意ください。
★
「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、「過年度遡及会計基
準」という)に係る「四半期会計基準」の公表(平成22年6月30日付)を
踏まえた改正がされました。
◦会計方針の変更、表示方法の変更、会計上の見積りの変更を「会計上の変更」
とし、過去の誤謬は、これらと性質を異にするものとして区別しています。
過年度遡及会計基準
における用語
会計上の原則的な取扱い
会計上の変更
会計方針の変更
遡及処理する(遡及適用)
表示方法の変更
遡及処理する(財務諸表の組替え)
会計上の見積り
の変更
遡及処理しない
過去の誤謬の訂正
遡及処理する(修正再表示)
◦
「会計方針」等の定義に関して「表示方法の変更」および「連結財務諸表の組
替え」に相当する規定を除き、四半期連結財務諸表においても、規定が新設
されました。
◦
「未適用の会計基準等に関する注記」について、四半期報告の迅速性、国際会
計基準との整合性および作成者の負担等を考慮し、四半期では求められませ
ん。
★比較情報の導入がされました。
◦連結財務諸表規則に導入されている比較情報について、四半期連結財務諸表
規則5条の3の規定が新設され、「当該四半期連結財務諸表の一部を構成する」
比較情報について、以下のそれぞれを比較情報とすることが規定されました。
*四半期連結貸借対照表→前連結会計年度に係る事項
*四半期連結損益計算書および四半期連結包括利益計算書→前年度の対応する
四半期連結会計期間または四半期連結累計期間に係る事項
*四半期連結キャッシュ・フロー計算書→前年度の対応する四半期連結累計期
間に係る事項
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金融商品取引法
改正規則等
改正の主な内容
チェック
◦会計方針の変更を行った場合の影響額の注記が新設されました。
*
「税引前四半期純損益金額に対する前事業年度の対応する四半期累計期間にお
ける影響額及びその他の重要な項目に対する影響額」(四半期連結財務諸表規
則5条1項3号)
*遡及適用に係る原則的な取扱いが実務上不可能な場合についての規定も新設
された(同5条2項)
。
◦平成 23年 4月 1日以後開始する連結会計年度に属する四半期連結会計期間お
よび四半期連結累計期間に係る四半期連結財務諸表、同日以後に開始する事
業年度に属する四半期会計期間および四半期累計期間に係る四半期財務諸表
について適用されます。
●過年度遡及会計基準が当第1四半期より導入され、当第2四半期においても適
用されますので、ご留意ください。
平成23年7月8日
付公表
(日本公認会計士協
会)
★監査・保証実務委員会報告第85号
「監査報告書の文例」が公表されました。
◦
「四半期財務諸表に関する会計基準」等の改正や「四半期レビュー基準の改訂
に関する意見書」、関係府令等の改正等に対応する「四半期レビュー報告書」
の様式が公表されています。
◦主な改正に以下のものがあります。
①四半期レビュー報告書の記載区分を3区分から4区分に変更
◦四半期レビューの対象
◦経営者の責任
◦監査人の責任
◦監査人の結論
②四半期レビュー手続に、新たに「比較情報に係る四半期レビュー手続」が
追加
◦平成 23年 4月 1日以後に開始する連結会計年度または事業年度に係る四半期
連結財務諸表または四半期財務諸表の四半期レビューから適用されています。
●当第2四半期においても「四半期レビュー報告書」の様式が改正されていま
すので、ご注意ください。
2.四半期簡素化の項目(記載項目の簡素化、注記
の簡素化)と当第2四半期における留意点
平成23年3月31日に四半期報告の簡素化等を内
容とする四半期連結財務諸表規則等の一部を改正す
当第2四半期における留意点をまとめています。当
第2四半期における、四半期報告書の記載項目や注
記のチェックにご活用ください。
(1)四半期報告書の記載項目の簡素化
四半期報告書における記載項目の簡素化の主な改
る内閣府令が公表されました。
四半期報告における財務情報の簡素化とともに、
正点について、開示府令第四号の三様式の改正前・
四半期報告に記載すべき非財務情報の記載内容の簡
改正後の開示項目と主な改正点と当第2四半期にお
素化に伴い、四半期報告書等の様式の大幅な改正が
ける留意点を、【図表2】にまとめています。
行われました。記載項目の簡素化と注記の簡素化と
【図表2】四半期報告書の記載項目の簡素化
改正前
(2Q)
改正後
(2Q)
第一部 企業情報
第一部 企業情報
第1 企業の概況
第1 企業の概況
1 主要な経営指標等の推
移
1 主要な経営指標等の推
移
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主な改正点と
当第2四半期における留意点
チェック
★記 載対象期間が、当四半期連結累計期
間、前年同四半期連結累計期間および
最近連結会計年度に変更された。
★当 四半期連結会計期間および前年同四
半期連結会計期間の1株当たり純利益
(純損失)金額の記載が必要とされる。
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改正前
(2Q)
2 事業の内容
改正後
(2Q)
2 事業の内容
主な改正点と
当第2四半期における留意点
★当 四半期連結累計期間中に提出会社及
び関係会社の事業の内容に重要な変更
があった場合に記載することに変更さ
れた。
3 関係会社の状況
★削除された。
4 従業員の状況
★削除された。
★従 業員数に著しい増減があった場合に
は、「財政状態、経営成績及びキャッシ
ュ・フローの状況の分析」において、そ
の事情と内容をセグメント情報に関連
づけて記載する。
第2 事業の状況
チェック
第2 事業の状況
1 生産、受注及び販売の
状況
★削除された。
★当 四半期連結累計期間中に生産、受注
および販売の状況に著しい変動があっ
た場合には、「財政状態、経営成績及び
キャッシュ・フローの状況の分析」にお
いて、その内容を記載する。
2 事業等のリスク
1 事業等のリスク
3 経営上の重要な契約等
2 経営上の重要な契約等
4 財政状態、経営成績及
びキャッシュ・フローの
状況の分析
3 財政状態、経営成績及
びキャッシュ・フローの
状況の分析
第3 設備の状況
★当四半期連結累計期間中に「事業等のリ
スク」の発生・重要な変更がある場合に
記載することに変更された。
★第1四半期及び第3四半期において四半
期連結キャッシュ・フロー計算書を記載
していない場合は、キャッシュ・フロー
の状況に関する分析・検討内容の記載
を要しない。
★記 載対象期間が、四半期連結会計期間
から四半期連結累計期間における業績
の状況等についての比較・分析をする
ことに変更された。
★当 四半期連結累計期間において、以下
の場合は、その内容等について記載す
ることになる。
◦従業員数に著しい増減があった場合
◦生 産、受注及び販売の実績について著
しい変動があった場合
◦主 要な設備に著しい変動・変更があっ
た場合。
★削除された。
★当 四半期連結累計期間に主要な設備に
著しい変動・変更があった場合につい
ては、「財政状態、経営成績及びキャッ
シュ・フローの状況の分析」において、
その内容を記載する。
第4 提出会社の状況
第3 提出会社の状況
1 株式等の状況
1 株式等の状況
⑴ 株式の総数等
⑴ 株式の総数等
⑵ 新株予約権等の状況
⑵ 新株予約権等の状況
★新株予約権等を発行している場合から、
当四半期会計期間に新株予約権等を発
行した場合に、その内容を記載するこ
とに変更された。
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金融商品取引法
改正前
(2Q)
改正後
(2Q)
主な改正点と
当第2四半期における留意点
⑶ 行使価額修正条項付
新株予約権付社債券等
の行使状況等
⑶ 行使価額修正条項付
新株予約権付社債券等
の行使状況等
★行 使価額修正条項付新株予約権付社債
券等を発行している場合から、当四半
期会計期間に行使価額修正条項付新株
予約権付社債券等に係る新株予約権が
行使された場合に、その内容を記載す
ることに変更された。
⑷ ライツプランの内容
⑷ ライツプランの内容
★買 収防衛策の一環として新株予約権を
発行している場合から、当四半期会計
期間に買収防衛策の一環として新株予
約権を発行した場合に変更された。
⑸ 発行済株式総数、資
本金等の推移
⑸ 発行済株式総数、資
本金等の推移
⑹ 大株主の状況
⑹ 大株主の状況
⑺ 議決権の状況
⑺ 議決権の状況
2 株価の推移
★第2四半期報告書の記載は、従来どおり
の記載がされる。
★第1四半期及び第3四半期における大株
主の異動があった場合にその旨を記載
することとされていたが、不要とされ
た。
★削除された(他の情報源から入手可能で
あるため)
。
3 役員の状況
2 役員の状況
第5 経理の状況
第4 経理の状況
1 四半期連結財務諸表
1 四半期連結財務諸表
⑴ 四 半 期 連 結 貸 借 対
照表
⑴ 四 半 期 連 結 貸 借 対
照表
⑵ 四 半 期 連 結 損 益 計
算書
⑵ 四半期連結損益計算
書及び四半期連結包括
利益計算書(又は、四
半期連結損益及び包括
利益計算書)
★四 半期連結累計期間に係るもののみと
する改正がされた(四半期連結会計期間
に係るものは任意)
。
⑶ 四半期連結キャッシ
ュ・フロー計算書
⑶ 四半期連結キャッシ
ュ・フロー計算書
★第1・第3四半期連結累計期間に係るも
のは、任意とする改正がされた。記載し
ない場合には、四半期連結累計期間に
係る「減価償却費」、「のれんの償却額」
の注記が必要となる。
注記
注記
★注記事項の簡素化の状況は、以下の【図
表3】を参照してください。
2 その他
2 その他
第二 部 提 出 会 社 の 保 証
会社等の情報
第二 部 提 出 会 社 の 保 証
会社等の情報
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チェック
★有 価証券報告書の提出日後この四半期
報告書の提出日までに役員に異動があ
った場合から、有価証券報告書の提出
日後、当四半期累計期間において役員
に異動があった場合に記載することに
変更された。
★四 半期報告書提出会社が提出した有価
証券報告書に記載された「保証会社情報
(継続開示会社に該当しない保証会社の
最近事業年度に係る情報)
」を参照する
ことができることに変更された。
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改正前
(2Q)
改正後
(2Q)
主な改正点と
当第2四半期における留意点
独 立 監 査 人の 四 半 期レビ
ュー報告書
独立監査人の四半期レビ
ュー報告書
★
「監査・保証実務委員会報告第83号「四
半期レビューに関する実務指針」の改正
について」が公表され、四半期レビュー
報告書の様式が変更された。
チェック
四半期における留意点についても記載しています。
(2)注記の簡素化
注記について簡素化が行われています。注記の簡
注記の簡素化は、①項目自体が削除された注記、②
素化を、改正前と改正後を比較する形式で【図表3】
注記の一部が不要となったもの、③内容が簡素化さ
にまとめていますので、確認してください。当第2
れたものなどがあります。
【図表3】注記の簡素化
改正前
(2Q)
改正後
(2Q)
主な改正点と
当第2四半期における留意点
(注記)
(注記)
◦継 続企業の前提に関する
事項
◦継 続企業の前提に関する
事項
◦四 半 期 連 結 財 務 諸 表 作
成のための基本となる重
要な事項等の変更
★四 半期連結財務諸表作成のための基本
となる重要な事項を変更した場合、以
下の5つの区分に分けて記載とされてい
た。
①連 結の範囲に含めた子会社・持分法を
適用した非連結子会社・関連会社
②開示対象特別目的会社
③会計処理の原則及び手続
④表示方法
⑤キャッシュ・フロー計算書における資金
の範囲
◦連 結の範囲又は持分法適
用の範囲の変更
★別項目で記載することになった。
◦会 計方針の変更等
★別項目で記載することになった。
◦簡便な会計処理
★削除された。
◦四 半期連結財務諸表の作
成にあたり適用した特有
の会計処理
◦四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の
作成にあたり適 用した特
有の会計処理
◦財 政状態、経営成績又は
キャッシュ・フロー の 状
況に関する事項で、企業
集団の財政状態、経営成
績及びキャッシュ・フロー
の状況の判断に影響を与
えると認められる重要な
もの
◦財 政状態、経営成績又は
キャッシュ・フロー の 状
況に関する事項で、企業
集団の財政状態、経営成
績及びキャッシュ・フロー
の状況の判断に影響を与
えると認められる重要な
もの
チェック
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金融商品取引法
改正前
(2Q)
改正後
(2Q)
主な改正点と
当第2四半期における留意点
◦追 加情報
◦追 加情報
◦四 半期連結貸借対照表関
係
◦四 半期連結貸借対照表関
係
★省略可能となった注記
◦
「商品及び製品」
「仕掛品」
「原材料及び
貯蔵品」について一括して記載した場
合、第1四半期及び第3四半期における
内訳の注記
★不要となった注記
◦減 価償却累計額を資産の金額から直接
控除し、その控除残高を表示した場合
における減価償却累計額の注記
◦担保資産の注記
◦た な卸資産及び工事損失引当金の表示
に関連した注記
◦四 半 期 連 結 損 益 計 算 書
関係
◦四 半 期 連 結 損 益 計 算 書
関係
★不要となった注記
◦
「販売費」もしくは「一般管理費」、「販
売費及び一般管理費」の科目で一括して
記載した場合、第1四半期及び第3四半
期における内訳の注記
◦
「法人税、住民税及び事業税」、「法人税
等調整額」を一括して記載した場合にお
けるその旨の注記
◦四 半 期 連 結 キャッシュ・
フロー計算書関係
◦四 半 期 連 結キャッシュ・
フロー計算書関係
★不要となった注記
◦第1四半期及び第3四半期において四半
期連結キャッシュ・フロー計算書を作成
しない場合における、現金及び現金同
等物の四半期末残高と四半期連結貸借
対照表に掲記されている科目の金額と
の関係の注記
★新たに求められる注記
◦第1四半期及び第3四半期において四半
期連結キャッシュ・フロー計算書を作成
しない場合の注記(減価償却費、のれん
の償却額)
◦負 ののれんの未償却残高がある場合、
平成23年3月31日内閣府令第10号附
則2条5項の注記を記載すること。
◦株 主資本等関係
◦株 主資本等関係
★不要となった注記
◦発行済株式に関する注記
◦自己株式に関する注記
◦新株予約権等に関する注記
◦セグメント情報等
◦セグメント情報等
★省略可能となった注記
当 四半期連結会計期間及び前年同四半
期連結会計期間に係る注記
◦金 融商品関係
◦金 融商品関係
★省略可能となった注記
◦金 融機関等(*1)以外の企業の第1四
半期及び第3四半期における「金融商品
関係」の注記
四 半期連結貸借対照表計上額と時価と
の差額及び前連結会計年度の連結貸借
対照表計上額と時価との差額に重要性
が乏しい場合、注記の省略が可能
◦有価証券関係
◦有価証券関係
★省略可能となった注記
◦金 融機関等(*1)以外の企業の第1四
半期及び第3四半期における「有価証券
関係」の注記
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チェック
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改正前
(2Q)
改正後
(2Q)
主な改正点と
当第2四半期における留意点
◦デリバティブ取引関係
◦デリバティブ取引関係
★注記省略可能となった注記
◦金 融機関等(*1)以外の企業の第1四
半期及び第3四半期における「デリバテ
ィブ取引関係」の注記
◦ストック・オプション等関
係
★削除された。
◦企 業結合等関係
◦企 業結合等関係
★不要となった記載
◦取 得による企業結合が行われた場合、
当該企業結合が当連結会計年度の開始
の日に完了したと仮定した場合の四半
期連結損益計算書に及ぼす影響の概算
額の記載
◦資 産除去債務関係
★削除された。
◦賃 貸等不動産関係
★削除された。
◦1株当たり情報
◦1株当たり情報
◦重 要な後発事象
◦重 要な後発事象
◦リース取引関係
チェック
★不要となった記載
◦1株当たり純資産額の注記
1株当たり四半期純損益金額及び潜在株
式調整後1株当たり四半期純利益金額に
関する注記の記載対象期間:四半期連
結会計期間及び四半期連結累計期間か
ら、四半期連結累計期間に改正
★削除された。
(*1)
連結財務諸表提出会社を含む企業集団の総資産の大部分を金融資産が占め、かつ、総負債の大部分を金融負債及
び保険契約から生じる負債が占める企業又は企業集団(銀行、保険会社、証券会社、ノンバンク等)
。
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金融商品取引法
改正金融商品取引法関連法令の概要
小谷 融
総合ディスクロージャー研究所顧問 (大阪経済大学教授)
本稿は、本誌巻末の「金融商品取引法関連法令の
改正日誌」に掲載した平成23年6月1日~23年8
(2)有 価証券届出書の「経理の状況」欄に記載
すべき四半期連結財務諸表等
月31日の間に公布された金融商品取引法関連法令
四半期報告書における四半期連結キャッシュ・
の概要を紹介するものです。
フロー計算書の簡素化については、有価証券届出
書の「経理の状況」欄に記載すべき平成23年4
Ⅰ 開示府令関係
月1日以後に開始する連結会計年度に属する四半
期連結累計期間に係る四半期連結財務諸表につい
1.特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令
ても同様に取扱うことになります。
等の一部を改正する内閣府令(平成23年7月29
このため、有価証券届出書の四半期連結財務諸
日内閣府令第38号)
表に係る改正についての適用日を定めた平成23
【改正事項】
① 有価証券届出書の「業績等の概要」欄に記載
すべき四半期情報
② 有価証券届出書の「経理の状況」欄に記載す
べき四半期連結財務諸表等
【改正の概要】
(1)有 価証券届出書の「業績等の概要」欄に記
載すべき四半期情報
年3月31日内閣府令第10号「四半期連結財務諸
表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一
部を改正する内閣府令」附則第8条の規定を改正
し、同内閣府令による企業内容等の開示に関する
内閣府令の改正に係る有価証券届出書について
は、平成23年3月31日以後に終了する連結会計
年度を最近連結会計年度とする連結財務諸表から
適用することとされています。
四半期報告書の簡素化の一環として、平成23
年4月1日以後に開始する連結会計年度に属する
2.企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改
四半期連結会計期間に係る四半期報告書におい
正する内閣府令(平成23年8月5日内閣府令41
て、四半期連結キャッシュ・フロー計算書の記載
号)
の義務付けは第2四半期連結累計期間に係るもの
のみとされています。
しかし、発行開示の際には、有価証券届出書の
「経理の状況」欄において、最近連結会計年度終
了後の状況として四半期連結貸借対照表を掲げた
場合には、四半期連結キャッシュ・フロー計算書
の記載を要しない四半期連結累計期間において
も、「業績の概要」欄においてはキャッシュ・フ
① 有価証券届出書等に「有価証券をもって対価
とする公開買付けの場合の発行(交付)条件に
関する事項」欄の新設
② 臨時報告書に「有価証券をもって対価とする
公開買付けの場合」の記載事項の新設
【改正の概要】
(1)有価証券届出書・発行登録追補書類
ローの状況の記載を義務付けるための開示府令第
有価証券の募集または売出しがその有価証券を
2号様式(有価証券届出書)の「記載上の注意
もって対価とする公開買付けのために行われる場
(30)
」の改正が行われています。
合には、有価証券届出書等において、その募集等
本改正開示府令は、施行日(平成23年7月29
の発行条件等の合理性に関する考え方等を記載す
日)以後に提出する有価証券届出書から適用され
るため「有価証券をもって対価する公開買付けの
ます。
場合の発行(交付)条件に関する事項」欄が新設
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【改正事項】
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Ⅱ 財務諸表等規則等
されています(開示府令第2号の6様式ほか)。
公開買付けに係る提出会社は、同欄に次のこと
を記載することになります(開示府令第2号の6
1.財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する
様式記載上の注意(5-2)
)
。
規則等の一部を改正する内閣府令(平成23年6
① 発行(売出)価格(出資の目的とする有価証
月30日内閣府令第30号)
券との交換比率によって発行(売出)価格を決
【改正事項】
定している場合には、その有価証券の種類およ
本件は、企業会計基準委員会から平成23年3
び交換比率)その他の発行(交付)条件の合理
月25日に公表された「連結財務諸表に関する会
性に関する具体的な考え方
計基準」を踏まえた財務諸表等規則等の改正です。
② その発行(交付)条件により募集(売出し)
を行う理由および判断の具体的な過程
なお、本件の記載内容については、財務局にお
ける重点的審査事項として、審査要領が定められ
ています(開示ガイドラインCⅣ「有価証券をも
① 子会社(特別目的会社)の範囲
② ノンリコース債務
【改正の概要】
(1)子会社(特別目的会社)の範囲
「連結財務諸表に関する会計基準」において、
って対価とする場合の公開買付け」の記載に関す
一定の要件を満たす特別目的会社については、そ
るガイドライン)
。
の特別目的会社に対する出資者およびその特別目
(2)臨時報告書
的会社に資産を譲渡した会社の子会社に該当しな
有価証券の募集または売出しのうち発行価額ま
いものと推定することとされていましたが、この
たは売出価額の総額が1億円以上であるものが本
取扱いを特別目的会社への資産の譲渡者のみに適
邦以外の地域において開始された場合で、その募
用することとし、出資者となる場合が削除されま
集または売出しがその有価証券をもって対価とす
した(会計基準第7-2)。
る海外公開買付けのために行われる場合、臨時報
この改正は、この推定規定の制定当初、資産の
告書には、上記第2号の6様式の「有価証券をも
譲渡型の特別目的会社が想定されていましたが、
って対価する公開買付けの場合の発行(交付)条
その後、当初から物件の開発を行う開発型の特別
件に関する事項」欄等の事項を記載することとさ
目的会社等が増加し、この特別目的会社に対する
れています(開示府令第19条第2項第1号ワ)。
推定規定の適用が必ずしも明らかではなく、会計
また、募集に該当しない有価証券の発行が海外
公開買付けのために行われる場合、臨時報告書に
処理が区々となっている等の問題があったことに
よります。
は、上記第2号の6様式の「有価証券をもって対
この会計基準の改正に伴い、財務諸表等規則第
価する公開買付けの場合の発行(交付)条件に関
8条第7項においても、特定目的会社に対する出
する事項」欄等の事項を記載することとされてい
ます(開示府令第19条第2項第2号ヘ)。
(3)適用時期
資者となる場合が削除されています。
(2)ノンリコース債務
連結の範囲に含めた特別目的会社が有するノン
本改正開示府令は、公布の日(平成23年8月5
リコース債務について、連結貸借対照表上、次の
日)から施行されています。具体的には、有価証
いずれかの方法により表示することとされていま
券届出書および発行登録追補書類は、施行日以後
す(連結財務諸表規則第41条の2)。
に提出するものから適用されます。また、臨時報
① ノンリコース債務を示す名称を付した科目で
告書については、開示府令第19条第2項第1号に
流動負債または固定負債に表示する。
該当するものは施行日以後に開始する有価証券の
② 社債または借入金に含めて表示し、その負債
募集または売出しから適用され、第2号に該当す
の科目別にノンリコース債務の金額を注記す
るものは施行日以後に行われる取締役会の決議等
る。
がなされるものから適用されます。
また、中間連結財務諸表においても、年度と同
様、中間連結貸借対照表または注記においてノン
リコース債務の区分掲記が求められています(中
間連結財務諸表規則第43条の2)
。なお、四半期
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金融商品取引法
連結財務諸表においては、四半期報告の簡素化を
踏まえ、ノンリコース債務の区分掲記は求められ
ていません。
(2)附則該当企業
SECに米国式連結財務諸表を登録していない
日本企業のうち、連結財務諸表制度の導入(昭和
上記の規定の新設に伴い、
「社債明細表」にお
52年)前から米国基準を使用している日本企業
いて、特別目的会社の発行している社債がノンリ
が、金融商品取引法上の連結財務諸表の作成基準
コース債務に該当する場合には、その旨を記載す
として、米国基準を使用できる規定について、平
ることとされています(連結財務諸表規則様式第
成28年3月31日までとする期限を撤廃し、当分
9号)
。また、
「借入金明細表」においても、ノン
の間、米国基準を使用できることとされています
リコースの借入金は、短期借入金および長期借入
(平成14年内閣府令第11号「連結財務諸表の用
金等とは別に区分して記載することとされていま
語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正
す(連結財務諸表規則様式第10号)。
(3)適用時期
する内閣府令」附則第3項)。
(3)四半期連結財務諸表規則等
本改正財務諸表等規則等は、平成25年4月1日
上記連結財務諸表規則の改正を踏まえ、四半期
以後に開始する事業年度等に係る財務諸表等につ
連結財務諸表規則、中間連結財務諸表規則および
いて適用されます。なお、平成23年4月1日以後
内部統制府令等において所要の改正が行われてい
に開始する事業年度等に係る財務諸表等につい
ます(四半期連結財務諸表規則第7章の新設等)
。
て、早期適用が認められています。
(4)適用時期
本改正連結財務諸表規則等は、平成21年12月
2.連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関す
11日に公布された「連結財務諸表の用語、様式
る規則等の一部を改正する内閣府令(平成23年
及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内
8月31日内閣府令第44号)
閣府令」
(平成21年内閣府令第73号)における
【改正事項】
本件は、平成23年6月21日に公表された大臣
談話「IFRS適用に関する検討について」において、
米国基準の使用に係る規定について、改正前の状
況に戻すものであり、公布の日(平成23年8月
31日)から施行されています。
「米国基準での開示は使用期限を撤廃し、引き続
Ⅲ 監査証明府令
き使用可能とする」とされたことを受け、連結財
務諸表規則等を改正したものです。
① SEC登録企業の米国基準連結財務諸表
② SECに登録していないが附則に該当する企
業の米国基準連結財務諸表
【改正の概要】
(1)SEC登録企業
米国証券取引委員会(SEC)に米国式連結財
1.財務諸表等の監査証明に関する内閣府令の一部
を改正する内閣府令(平成23年7月15日内閣府
令第34号)
【改正事項】
平成23年7月1日企業会計審議会「中間監査基
準及び四半期レビュー基準の改訂に関する意見
務諸表を登録している日本企業が、金融商品取引
書」を踏まえた改正です。
法上の連結財務諸表の作成基準として、米国基準
① 中間監査報告書の記載区分等
を使用できる規定について、平成28年3月31日
② 四半期レビュー報告書の記載区分等
までとする使用期間が撤廃されています(平成
21年内閣府令第73号「連結財務諸表の用語、様
式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する
内閣府令」附則第2条、第3条の削除)。
また、新規にSECに米国式連結財務諸表を登
【改正の概要】
(1)中間監査報告書の記載区分等
中間監査基準において、次の改正が行れたこと
を受け、中間監査報告書の記載事項等について所
要の改正がなされています(監査証明府令第4
録した日本企業は、金融商品取引法上の連結財務
条)
。
諸表として、米国基準を使用できることとされて
① 監査人は中間監査報告書において、中間監査
います(連結財務諸表規則第8章)
。
の対象、経営者の責任、監査人の責任、監査人
の意見を明瞭かつ簡潔にそれぞれ区分した上
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で、記載しなければならない。
② 監査人は、監査意見とは別に、監査人がその
(参考文献等)
1.平成23年3月28日金融庁「財務諸表等の用語、
記載を強調するために追記する強調事項とその
様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正
他監査人が投資者等に説明することが適当であ
する内閣府令(案)」の公表について
ると判断して追記する説明事項とは区分して記
載しなければならない
(2)四半期レビュー報告書の記載区分等
2.平成23年6月1日金融庁「特定有価証券の内容
等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する
内閣府令(案)」の公表について
四半期レビュー基準において、次の改正がなさ
3.平成23年6月17日金融庁「企業内容等の開示
れたことを受け、四半期レビュー報告書の記載事
に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令
項等について所要の改正がなされています(監査
証明府令第4条)
。
(案)」等の公表について
4.平成23年6月30日金融庁「財務諸表等の用語、
① 監査人は四半期レビュー報告書において、四
様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正
半期レビューの対象、経営者の責任、監査人の
する内閣府令(案)
」に対するパブリックコメン
責任、監査人の意見を明瞭かつ簡潔にそれぞれ
トの結果等について
区分した上で、記載しなければならない。
5.平成23年7月29日金融庁「特定有価証券の内
② 監査人は、監査意見とは別に、監査人がその
容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正す
記載を強調するために追記する強調事項とその
る内閣府令(案)
」に対するパブリックコメント
他監査人が投資者等に説明することが適当であ
の結果等について
ると判断して追記する説明事項とは区分して記
載しなければならない
(3)適用時期
中間監査に係るものは、平成23年9月30日以
6.平成23年8月3日金融庁「連結財務諸表の用語、
様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正
する内閣府令(案)」の公表について
7.平成23年8月5日金融庁「企業内容等の開示に
後終了する中間会計期間に係る中間財務諸表の中
関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)
」
間監査から適用されます。
等に対するパブリックコメントの結果等につい
また、四半期レビューに係るものは、平成23
年4月1日以後開始する事業年度に係る四半期財
務諸表の監査証明から適用されます。
て
8.平成23年8月31日金融庁「連結財務諸表の用
語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を
改正する内閣府令(案)
」に対するパブリックコ
メントの結果等について
9.徳重昌宏「財務諸表等規則等の一部を改正する
内閣府令について」週刊経営財務 23.8.22
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金融商品取引法
改正企業会計基準第22号
「連結財務諸表に関する会計基準」等の解説
直原 知佳
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 はじめに
企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計
平成23年3月25日、企業会計基準委員会より、
連結財務諸表における特別目的会社 の取扱い等に
1
関する論点についての短期的な改善に関する審議の
結果、以下の会計基準等の改正がなされました。
◦企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する
会計基準」
◦企業会計基準適用指針第15号「一定の特別目
的会社に係る開示に関する適用指針」
基準」の改正
「子会社等の範囲の見直しに係る具体的取扱い」三
の改正
改正された企業会計基準第22号「連結財務諸表
に関する会計基準」
(以下、
「改正会計基準」としま
す)第7-2項において、「子会社等の範囲の見直し
に係る具体的取扱い」三について改正がなされてい
ます。
◦企業会計基準適用指針第22号「連結財務諸表
すなわち、従来、特別目的会社については、①適
における子会社及び関連会社の範囲の決定に関
正な価額で譲り受けた資産から生ずる収益を当該特
する適用指針」
別目的会社が発行する証券の所有者に享受されるこ
◦実務対応報告第20号「投資事業組合に対する
とを目的として設立されており、②当該特別目的会
支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務
社の事業がその目的に従って適切に遂行されている
上の取扱い」
ときは、当該特別目的会社に対する出資者及び当該
従来、特別目的会社を子会社に含めるか否かの判
特別目的会社に資産を譲渡した会社(以下、
「出資
断にあたっては、平成10年10月10日に企業会計
者等」とします)から独立しているものと認め、出
審議会から公表された「連結財務諸表制度における
資者等の子会社に該当しないと推定されていまし
子会社及び関連会社の範囲の見直しに係る具体的な
た。
取扱い」
(以下、
「子会社等の範囲の見直しに係る具
今回の改正では、この出資者等の範囲から「当該
体的取扱い」とします)三に定められている一定の
特別目的会社に対する出資者」が削除されました。
要件を考慮する必要がありました(詳細は後述)。
今回の改正は、近年、特別目的会社を利用した取
引が拡大するとともに複雑化・多様化してきている
ことや、国際的な会計基準とのコンバージェンスの
観点から、当該「子会社等の範囲の見直しに係る具
体的取扱い」三が一部見直されたものです。なお、
IASBの連結財務諸表に関する会計基準は、今回の
基準等改正時において開発中であり、今後も会計基
準のコンバージェンスの観点やその他必要な論点を
含め、引き続き、特別目的会社に関する連結の範囲
の取扱いの見直しが検討される予定です。
以下、今回、改正がなされた会計基準等につい
て、詳細に述べていきます。
なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であ
ることをあらかじめお断りしておきます。
特別目的会社とは、資産の流動化、証券化を目的として設立された会社をいいます(宝印刷株式会社編(2011)「財務報告実
1 務コンパクト用語辞典」167pp.より)。
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〈従来〉
OR
出資者
子会社に
該当しないと
推定
資産を譲渡
した会社
特別目的会社
以下の条件を満たす場合
①適正な価額で譲り受けた資産から生ずる収益を特別目的会社が発行する証券の所有者に享受させることを
目的として設立
②特別目的会社の事業がその目的に従って適切に遂行されているとき
〈改正後〉
×
出資者
×
OR
子会社に
該当しないと
推定
資産を譲渡
した会社
特別目的会社
以下の条件を満たす場合
①適正な価額で譲り受けた資産から生ずる収益を特別目的会社が発行する証券の所有者に享受させることを
目的として設立
②特別目的会社の事業がその目的に従って適切に遂行されているとき
なお、この場合、ノンリコース債務に対応する資
開示の改正
産については、当該資産の科目及び金額を注記する
連結の範囲に含めた特別目的会社に関して、当該
必要があります。
特別目的会社の資産及び当該資産から生じる収益の
みを返済原資とし、他の資産及び収益へ遡及しない
これらの改正を踏まえて、平成23年6月30日付
債務(以下、
「ノンリコース債務」とします)につ
で連結財務諸表等規則に上記と同様の内容を規定す
いては、連結貸借対照表上、他の項目と区別して記
る第41条の2が追加されております。
載するか、又は注記することとされました。
〈ノンリコース債務の開示例(固定負債のケース)〉
…
連結貸借対照表
×××
×××
×××
←又は他の項目に含め
たうえで金額を注記
…
社債
借入金
[ノンリコース債務]※
※必ずしも当該項目名を使用する必要はなく、ノンリコース債務を示す名称をもって開示すればよいものと考
えられます。
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金融商品取引法
また、当該規定の追加を受け、連結附属明細表の
様式第九号及び第十号も改正されています。
明細表
以下、社債明細表と借入金明細表の改正内容を表
形式にまとめています。
改正内容
社債明細表
借入金明細表
本表部分
特別目的会社の発行している社債がノンリコース債務に該当する場合に
は、欄外にその旨を記載する。
注記部分
連結決算日後5年以内における1年ごとの償還予定額の総額の記載につい
て、社債がノンリコース債務に該当する場合には、別に注記する。
本表部分
ノンリコース債務については、短期借入金、リース債務、長期借入金及
びその他有利子負債とは別に科目ごとに区分して記載する。
注記部分
ノンリコース債務に係る連結決算日後5年以内における1年ごとの償還予
定額の総額の記載について、リース債務、長期借入金及びその他有利子
負債とは別に科目ごとに区分して注記する。
帳簿価額により評価する必要があります。親会社
経過措置
改正会計基準の適用により新たに連結の範囲に含
の連結財務諸表上、適正な帳簿価額で評価された
められる子会社については、以下の取扱いが認めら
当該子会社に関する資産、負債及び少数株主持分
れています。
の純額と親会社が保有する当該子会社に対する投
①適用初年度の期首において子会社に関する資産、
資との差額は、適用初年度の期首の利益剰余金に
負債及び少数株主持分を連結財務諸表上の適正な
直接加減します。
連結財務諸表上の適正な帳簿価額で評価
負債
少数株主持分
資産
純額
親会社の
子会社に対する投資
差額 ※
※差額は、適用初年度の期首の利益剰余金へ直接加減
②①の定めによらずに、適用初年度の期首において
主に帰属する部分は少数株主持分として処理し、
当該子会社に関する資産及び負債のすべてを時価
親会社に帰属する部分と親会社が保有する当該子
により評価することができます。この場合、当該
会社に対する投資との差額は、適用初年度の期首
子会社に関する資産及び負債の純額のうち少数株
の利益剰余金に直接加減します。
適用初年度の期首において時価で評価
負債
純額
資産
少数株主に
帰属する部分→
少数株主持分
親会社に
帰属する部分
親会社の
子会社に対する投資
差額 ※
※差額は、適用初年度の期首の利益剰余金へ直接加減
③①②は改正会計基準の適用により新たに連結の範
に適用することが困難な会社がある場合には、①
囲に含められるすべての子会社に一律に適用する
又は②の定めのうち、他の子会社に適用した取扱
こととなりますが、いずれか一方の取扱いを一律
いと異なる取扱いを適用することができます。
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企業会計基準適用指針第22号「連結財務諸表にお
会計方針の変更における取扱い
改正会計基準の適用初年度においては、会計基準
の変更に伴う会計方針の変更として取扱います。な
ける子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用
指針」
お、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更による
子会社等の範囲の見直しに係る具体的な取扱い三
影響額の注記については、企業会計基準第24号「会
において子会社に該当しないものと推定される一定
計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第
の特別目的会社の取扱いの見直しによる連結会計基
10項⑸の定めにかかわらず、適用初年度の期首の
準の改正に伴う所要の改正がなされています。
利益剰余金に対する影響額を注記します。
実務対応報告第20号「投資事業組合に対する支配
企業会計基準適用指針第15号「一定の特別目的会
力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱
社に係る開示に関する適用指針」の改正
い」
子会社等の範囲の見直しに係る具体的な取扱い三
子会社等の範囲の見直しに係る具体的な取扱い三
において子会社に該当しないものと推定される一定
において子会社に該当しないものと推定される一定
の特別目的会社の取扱いの見直しによる連結会計基
の特別目的会社の取扱いの見直しによる連結会計基
準の改正に伴う所要の改正がされています。また、
準の改正に伴う所要の改正がなされています。
平成23年の企業会計基準第12号「四半期財務諸表
具体的には、新たに連結の範囲に含められる特別
に関する会計基準」の改正に伴い、第13項(四半
目的会社が商法上の匿名組合2の形態に該当する場
期連結財務諸表に関する開示対象特別目的会社に係
合における連結の範囲について改正がされていま
る注記事項)が削除されています。
す。当該改正を説明するにあたり、まずは以下の前
提を理解する必要があります。
すなわち、通常、投資事業組合が匿名組合の形態
をとる場合には、営業者が当該投資事業組合の財務
及び営業又は事業の方針を決定していますが、匿名
組合事業は営業者の個別財務諸表に反映されている
ため、匿名組合員は当該匿名組合を連結することは
ありません。
〈通常の匿名組合のケース〉
匿名組合員
出資
事業を運営
匿名組合
営業者
事業は営業者の
個別財務諸表に反映される
匿名組合員の
子会社には該当しない。
しかし、当該匿名組合に関して、①営業者が匿名
諸表に反映されていますが、匿名組合は当該匿名組
組合員の緊密な者 と認められ、かつ、②匿名組合
合員の子会社に該当し、連結の範囲に含まれること
員が当該匿名組合を支配している一定の事実が認め
となります。
3
られる場合には、匿名組合事業が営業者の個別財務
匿名組合とは、当事者の一方(匿名組合員)が相手側(営業者)の営業のために出資をし、その営業から生じる利益を分配する
2 ことを約することによって、その効力を生じる契約形態のことをいいます(商法535条より)。
緊密な者とは、自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより、自己の意思と同一の内容の業務
3 執行の権限を行使すると認められる者をいいます(「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の
取扱い」会計処理Q1 A2より)
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金融商品取引法
〈匿名組合が匿名組合員の子会社に含まれるケース〉
匿名組合員
支配している
一定の事実
緊密な者と認められる
出資
事業を運営
匿名組合
営業者
事業は営業者の
個別財務諸表に反映される
匿名組合員の子会社に
該当し、連結の範囲に
含まれる。
今回の改正は、匿名組合が匿名組合員の子会社に
る特定目的会社や信託を用いる場合との関係を考慮
含まれる場合における、以下の注書きの追加がなさ
して、営業者ではなく匿名組合自体を連結の範囲に
れています。
含めることが適当であると追加がなされています。
なお、営業者及び匿名組合が、いずれも匿名組合
この場合、当該匿名組合の事業を含まない営業者
員の子会社に該当する場合において、当該匿名組合
固有の事業については、通常重要性が乏しいと考え
の事業を含む営業者の損益のほとんどすべてが匿名
られ、当該営業者については子会社であっても連結
組合員に帰属するようなときは、同様の効果を有す
の範囲に含めないことができると考えられます。
匿名組合員
子会社
営業者の損益の
ほとんどすべてが帰属
匿名組合
匿名組合員の連結の
範囲に含まれる。
適用時期
これらの改正は、平成25年4月1日以後開始する
連結会計年度の期首から適用されます。
子会社
営業者
匿名組合の事業を含まない営業固有
の事業については、連結の範囲に含
めないことができる。
度から早期適用を行うことが可能です。なお、早期
適用をおこなう場合には、今回同時に改正された基
準等のすべてを同時に適用する必要があります。
また、平成23年4月1日以後開始する連結会計年
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金融商品取引法
東日本大震災に係る
法定開示書類の事例分析①
奈良 幸一
総合ディスクロージャー研究所研究員 金井 陵策
総合ディスクロージャー研究所 黒須 悠子
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 なお、本誌におけます意見にわたる部分は、筆
はじめに
当研究所では、平成23年3月11日に発生しま
した東日本大震災による被災状況等を開示した臨
者の私見であることをあらかじめお断りいたしま
す。
時報告書等の法定開示書類の提出状況と報告内容
等を集計分析し、本誌前号(7月号)において提
出件数と報告内容等の概要を報告しましたが、本
Ⅰ.臨時報告書
1.調査期間と提出件数(訂正を含む)
前号で報告しました件数に、8月までの3ケ
号では、臨時報告書の報告内容に係る課題等と四
月間を追加したものが以下のとおりです。
半期報告書の記載内容の報告を行います。
また、有価証券報告書につきましては、前期と
5月をピークに減少しています。これは、四
の比較を行うため、詳細は次号(1月号)とさせ
半期報告書若しくは有価証券報告書の作成過程
ていただきます。
において災害による損失額を特定した結果、提
出の要否が確認できたためと思われます。
表1
3月
4月
5月
6月
7月
8月
合計
臨報
14
33
45
11
6
2
111
訂正
―
4
14
3
3
1
25
2.事例(訂正前と訂正後)
⑴ 提出状況
訂正の内容は、①被害額及び影響額が「未
確定等」としていたものが「確定」したこと
で、当該個所を具体的な金額に訂正した事
を受けた資産の帳簿価額や事業に及ぼす影響
額を「未確定等」として提出していましたが、
その後、「確定」したことを提出理由に記載
しています。
なお、事例には掲げていませんが、災害が
例、②被害額及び影響額が確定したことで、
発生した場所を追加等した事例も散見されま
臨時報告書を提出すべき他の開示府令号数
す。
(具体的には、12号・19号)に該当した旨
事例2は、当初第5号の規定に基づき提出
を併せて提出事由に掲げている事例、に大別
していましたが、その後、被害を受けた資産
されています。
の帳簿価額や事業に及ぼす影響額が確定した
代表的な事例を以下に掲げました。
結果、第12号及び第19号にも該当する旨を
事例1は、当初第5号の規定に基づき被害
提出理由に記載しています。
事例1
1【臨時報告書の訂正報告書の提出理由】
平成23年3月11日に発生しました東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)に関しまして、金融商品取引法第24
条の5第4項及び企業内容等の開示に関する内閣府令第19条第2項第5号の規定に基づき平成23年3月22日付で臨
時報告書を提出しておりますが、その被害額並びに事業に及ぼす影響額が確定いたしましたので、金融商品取引法第
24条の5第5項により準用される同法第7条の規定に基づき、臨時報告書の訂正報告書を提出するものであります。
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金融商品取引法
2【訂正内容】
訂正箇所は を付して表示しております。
(訂正前)
③重要な災害により被害を受けた資産の種類及び帳簿価額
この災害により、たな卸資産、建物及び機械装置等に損害が発生しましたが、被害状況は未確定であります。
④重要な災害による被害が当該提出会社の事業に及ぼす影響
この災害による損害及び当期の経営成績に及ぼす影響を見積ることは、現時点では困難であります。
(訂正後)
③重要な災害により被害を受けた資産の種類及び帳簿価額
この災害により被害を受けた資産の種類及び帳簿価額は、たな卸資産85,324千円、建物及び構築物
13,088千円及び機械装置及び運搬具他1,952千円であります。
④重要な災害による被害が当該提出会社の事業に及ぼす影響
平成23年3月期(自 平成22年4月1日 至 平成23年3月31日)の事業年度において、被害を受けた資
産100,365千円及び損壊した資産の撤去費用並びに災害資産の原状回復費用等31,694千円を災害損失
132,059千円として特別損失に計上いたします。
事例2
1【臨時報告書の訂正報告書の提出理由】
金融商品取引法第24条の5第4項及び企業内容等の開示に関する内閣府令第19条第2項第5号の規定に基づき、
平成23年4月15日に提出しました臨時報告書の「当該重要な災害により被害を受けた資産の種類及び帳簿価額並び
にそれに対し支払われた保険金額」「当該重要な災害による被害が提出会社の事業に及ぼす影響」を把握することが
できましたので、金融商品取引法第24条の5第5項により準用される同法第7条、及び企業内容等の開示に関する内
閣府令第19条第2項第12号並びに第19号の規定に基づき、臨時報告書の訂正報告書を提出するものであります。
2【訂正内容】
訂正箇所は下線を付して示しております。
(3)当該重要な災害により被害を受けた資産の種類及び帳簿価額並びにそれに対し支払われた保険金額
(訂正前)
この震災により、当社グループの店舗の一部が損壊するなどの被害を受けました。被害を受けた店舗の主な資産
は、建物及び構築物、工具器具及び備品等の有形固定資産並びに商品等のたな卸資産です。これらの被害額につい
ては現在調査中です。
(訂正後)
この震災により被害を受けた主な資産の種類及び帳簿価額等は以下のとおりであります。
固定資産
519,200千円
たな卸資産
160,000千円
その他修繕費等
130,600千円
計
809,800千円
(4)当該重要な災害による被害が提出会社の事業に及ぼす影響
(訂正前)
当該震災による被害が当期(第31期)の財政状態及び経営成績に及ぼす影響について現在算定中です。
(訂正後)
上記の被害額809,800千円は、平成24年2月期の特別損失に計上する予定であります。
⑵ 事例調査
た。但し、12号若しくは19号は、純資産額
提出された訂正臨時報告書25件をみます
等に対する金額(災害による損失額)の割合
と、適用号数を追加した訂正臨時報告書が3
のほか、重要な後発事象に相当する事象であ
件ありました。即ち、事例2のケースです。
ることが提出要件ですから、13件すべてが
残りの22件は事例1ということになります。
事例2であるとは速断できません。
そこで、22件中、3月12日以降に提出さ
れた有価証券報告書または四半期報告書の連
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3.訂正の出ていない臨時報告書の検討
結損益計算書等の特別損失を見ました。計上
災害発生時には被災の全容を正確に把握す
されている「災害による損失額」から事例2
ることが困難な状況にあります。当局はこう
に該当すると思われるものは13件ありまし
した事情に鑑み、以下の見解を震災発生後直
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ちに公表しています。
はそれに準じる決定が行われたことで臨
⑴ 当局の見解
時報告書を提出したと思われますので、
報告事項の洩れ等が無い限り訂正の必要
有価証券報告書等の提出期限に係る特例措
性はないと考えられます。
置について
○臨時報告書について
なお、5号に該当するかを、有価証券
東日本大震災という不可抗力により臨
報告書または四半期報告書の連結損益計
時報告書の作成自体が行えない場合に
算書等の特別損失で調査しましたが、注
は、そのような事情が解消した後、可及
記も含めて「被害を受けた資産の種類及
的速やかにご提出いただくことで、遅滞
び帳簿価額」が確認できないことから不
なく提出したものと取り扱われることと
明でした。
② 5号と12号及び19号を併せて提出し
なります。
なお、臨時報告書そのものの作成は可
ている臨時報告書は9件で、提出日は4
能な状態にあるが、被災資産の帳簿価額
月下旬から6月中旬までとなっていま
の算定等ができない場合には、①まずは
す。前述(取締役会等における決算承認
重要な災害が発生した旨の臨時報告書を
等)と同じ理由と思われます。 5号に
提出し、②概算額ないし見込額を算定し
係る臨時報告書の提出時期は、企業内容
た段階で、その額等を記載した訂正臨時
等の開示に関する内閣府令(所謂、開示
報告書を提出いただくことで差し支えあ
府令)第19条第2項の5号(重要な災害
りません。
の発生)の規定に「それがやんだ場合」
(EDINET:有 価証券報告書等の開示書
と あ り、 同 開 示 ガ イ ド ラ イ ン 2 4 の
類を閲覧するホームページ
5-20(災害の場合の臨時報告書の提出
より)
時期等)に「それがやんだ場合とは、災
害が引き続き発生するおそれがなくな
⑵ 未提出と思われる事例
り、その復旧に着手できる状態になった
表1の臨時報告書の提出件数111件に対し
ときをいう。」とあります。
て訂正臨時報告書の提出件数は25件、差引
き86件の臨時報告書について、訂正の必要
3月11日の東日本大震災の発生から2
性を報告内容や3月12日以降に提出された
ケ月、臨時報告書の速報性について、結
有価証券報告書または四半期報告書の連結損
果論的な見方が許されるならば、「それ
益計算書等の特別損失から確認しました。
がやんだ場合」の判断と当局の見解の「な
お書き」をどの様に読むか、ということ
① 86件中、12号及び19号だけの臨時
です。
報告書は24件で、提出日が4月下旬か
ら6月中旬までとなっています。これは、
次の事例は、報告内容に「被害を受け
財政状態等に著しい影響を与える事象が
た資産の種類及び帳簿価額並びにそれに
発生したとして、3月決算会社の場合で
対し支払われた保険金額」がありません。
あれば取締役会等において決算承認或い
事例3
1【提出理由】
平成23年3月11日に発生した東日本大震災により、当社において重要な災害が発生しましたので、金融商品取引
法第24条の5第4項及び企業内容等の開示に関する内閣府令第19条第2項第5号、12号及び19号の規定に基づき、
提出するものであります。
2【報告内容】
重要な災害
①重要な災害の発生年月日
平成23年3月11日
②重要な災害が発生した場所
○○物流センター(所在地:宮城県○○市○○○区○○×-××-×)
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金融商品取引法
③当該事象の内容
東日本大震災の津波により、○○物流センターの建物、冷蔵設備などの建造物及びトラックが壊滅的な被害を
受けました。
④災害による被害が事業に及ぼす影響
平成23年3月期第4四半期累計期間及び連結累計期間において、次のとおり特別損失を計上する予定であり
ます。
(災害による損失)
固定資産除却損 343百万円
災害損失引当金繰入額 73百万円
計 416百万円
③ 5号だけの臨時報告書のうち15件は、
提出日後1年間は「未確定等」のまま閲
提出日が4月下旬から6月中旬までのた
覧されます。そこで、提出した根拠であ
めか、報告内容では事業に及ぼす影響額
る開示府令第5号に該当しなかった旨と
を記載するとともに、事業年度において
訂正前、訂正後の内容を記載した訂正臨
特別損失に計上する旨を記載しています
時報告書を提出すべきと考えます。
が、これも提出時期の疑問や報告内容の
Ⅱ.四半期報告書
洩れが散見されました。
1.調査期間と提出件数
3月から4月上旬に提出された5号だ
前号で報告しました件数に、7月までの2ケ
けの臨時報告書のうち5件は、被害を受
月間を追加したものが以下のとおりです。
けた資産の帳簿価額や事業に及ぼす影響
額が「未確定」
「見積り困難」と記載し
大震災の被害を受け、その被害額及び影響額
たまま、訂正臨時報告書が提出されてい
(損失額及び引当金額を含む)を計上した四半
ません。被災資産の特定や影響額が確定
期報告書のうち、※のとおり調査期間中に四半
できないのか、或いは、確定した結果、
期報告書を2回提出している場合は、損失額の
5号に該当しなかったのか、不明です。
確定が確実と思われる2回目の四半期報告書を
なお、5号に該当しなかったことが明
調査対象としました。その結果1,088件を以
らかになった場合に、提出済の臨時報告
下(2.四半期連結貸借対照表等に復旧費等の
書の取扱いは、①臨時報告書の取下げの
引当金を計上した件数以下)の調査項目に分類
規定がない。②EDINETには臨時報告書
整理しました。
の取下げのシステムがない。ことから、
月
a 提出件数
3月11日~
4月
5月
6月
7月
合計
107※1
191※2
502
137
339
1,276
b 計上した件数
0
6
133
38
28
205
割合(b/a)%
0
8.3
26.5
27.7
8.3
16.1
※1 107件のうち、6月に次の四半期報告書を提出した件数は69件です。
※2 191件のうち、7月に次の四半期報告書を提出した件数は119件です。
※ 調査は四半期連結累計期間としましたので、
3月及び4月の提出件数のうち、上記188件(69件+119件)を除き、
調査対象件数を1,088件としました。
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象件数1,088件中68件(6.25%)でした。
2.四半期連結貸借対照表等に復旧費等の引当金
また、当該科目に対する注記の状況は次のとお
を計上した件数
りです。
復旧費等の引当金を計上した件数は、調査対
■ ⑴追加情報にその旨の記載のある事例
24
26
■ ⑵引当金の注記のある事例
■ ⑶注記のない事例
33
※追加情報と四半期連結貸借対照表等の注記が重複している事例があるので68件にはならない。
⑴ 追加情報にその旨の記載のある事例の内訳(26件)
復旧費等の費用の支出に備えるため、会計期間末の見積も
り額を計上している旨
24
原発事故による警戒区域内の店舗の帳簿価額及び同店舗の
たな卸資産は損失処理している旨
1
被災した旨及び被災資産の滅失額及び修繕費用の見積額等
131百万円を特損に計上した旨並びに一部被災施設は今
後具体的な復旧作業を内容を検討するため、現時点で合理
的に費用を見積ることは困難の旨
1
0
10
20
30
⑵ 引当金の注記のある事例の内訳(33件)
30
P/Lの注記に含めて記載している事例
3
B/Sの注記にその旨を記載している事例
0
10
20
30
40
引当金を計上した68件のうち、追記情報や
ほか、日本公認会計士協会の監査委員会報告第
四半期連結貸借対照表等の注記がない事例24
77号(平成23年3月29日最終改正)「追加情
件については、当該四半期報告書が、東日本大
報の注記について」の規定があります。
震災が発生した3月11日以降最初に提出され
その概要は、
「追加情報の記載事項は、利害
た法定開示書類(臨時報告書を除く)であると
関係者が年度の財務諸表を理解していることを
いう意味では、投資家にとって最初に知り得る
前提に、年度の財務諸表と比較して著しい変動
情報であると考えられます。したがいまして、
がある項目や著しい変動の有無に関わらず四半
例えば、引当金の金額に重要性があれば、追加
期財務諸表に重要な影響を及ぼすと認められる
情報以外の注記も含めてその旨の記載が必要で
項目など・・・」と規定されています。
はないでしょうか。
なお、追加情報の記載については、四半期連
結財務諸表規則第14条(追加情報の注記)の
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金融商品取引法
1,088件中207件(19.03%)でした。また、
3.四半期連結損益計算書等に災害による損失額
当該科目に対する注記の状況は次のとおりで
等を計上した件数
す。
損失額等を計上した件数は、調査対象件数
■ ⑴災害による損失額等の注記のある事例
89
■ ⑵注記のない事例
118
91
①その旨と項目別内訳金額を記載している事例
27
②その旨だけで、項目別内訳の金額を記載していない事例
0
20
40
60
80
100
※その旨と項目別内訳金額を記載している事例91件には、引当金を含んでいる旨の記載がある事例は19件である。
注記に関する規定は、四半期連結財務諸表規
則第28条(注記の方法)の規定がありますが、
の合計額の78%で、税金等調整前四半期純利
益の53%に相当するものもありました。
そこで、注記の事例を以下のとおり掲載しま
具体的に注記をすべき金額基準等はありません。
注記のない事例のなかには損失額が特別損失
す。
①その旨と項目別内訳金額を記載している事例
その1
○○○㈱ 提出日 5月13日
※2 東日本大震災に関連する損失について、たな卸資産の滅失損失及び廃棄費用1,515百万円、建物、設備等の
原状回復費用701百万円など、当四半期連結会計期間末における見積額を含めた総額3,395百万円を特別損失
の「災害による損失」に計上しております。
その2
○○○○㈱ 提出日 5月13日
※2 災害による損失は東日本大震災によるもので、その内訳は次のとおりであります。なお、災害による損失には、
引当金繰入額が含まれております。(※編者注 B/S区分掲記なし)
固定資産除却損 369,918千円、棚卸資産滅失損 287,197千円、
災害資産の原状回復費用等 162,816千円 その他 175,582千円 合計995,513千円
その3
○○化学工業㈱ 提出日 6月14日
※3 東日本大震災による損失額であり、内訳は次のとおりです。
固定資産の修繕費
棚卸資産滅失等
操業停止期間の固定費
その他
計
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50百万円
39百万円
20百万円
14百万円
124百万円
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その4
㈱○○-○提出日 4月28日
災害による損失 ※ 3,909
※ 災害による損失の内訳は、平成23年3月11日に発生しました「東日本大震災」により被災した仙台市内の直営
2店舗の固定資産除却損3,909千円であります。なお、平成23年3月29日付で関東財務局長に提出いたしました
「第18期 有価証券報告書」の「重要な後発事象」において、被害を受けた商品、店舗設備及び什器等の被害見込
額として約30,000千円を記載しておりましたが、被害を受けた商品について、取引先への返品が可能になった
ことから被害額が当初の見込みより減少いたしました。
②その旨だけで、項目別内訳の金額を記載していない事例
その1
㈱○○○○○ 提出日 5月13日
※1 災害による損失
2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う、有形固定資産の復旧費用及びたな卸資産の廃棄費用等で
あります。 (※編者注 P/L 2,261百万円)
その2
○○○HD㈱ 提出日 5月12日
※1 災害による損失
東日本大震災の影響による棚卸資産滅失損、固定資産除却損の見込み額及び休業期間中の固定費などの損失額
であります。なお、現時点で合理的な見積もりが困難な震災関連の損失については、合理的な見積りが可能にな
った期に計上する予定です。 (※編者注 P/L 1,907百万円)
4.四半期連結キャッシュ・フロー計算書等に災
害による損失額等を計上した件数
審議会から、実務指針が日本公認会計士協会の
会計制度委員会報告第8号(最終改正:平成23
四半期連結キャッシュ・フロー計算書に、復
年1月12日)からそれぞれ公表されています。
旧費等の引当金を計上した件数は、調査対象件
これらの規定等には、具体的な科目名として
数1,088件中28件(四半期連結貸借対照表等
「災害」という名称はありません。唯一、実務
に引当金を計上した68件に対して41.18%)
指針において営業活動によるキャッシュ・フ
で し た。 同 じ く 損 失 額 等 を 計 上 し た 件 数 は、
ローの解説において「災害による保険金収入」
77件(四半期連結損益計算書等に損失額を計
という例示があります。
上した207件に対して37.20%)でした。
したがいまして、四半期連結キャッシュ・フ
なお、四半期連結貸借対照表等に引当金を計
ロー計算書に当該科目を記載する判断は、如何
上していた事例68件及び四半期連結損益計算
なる重要性によるかは明らかではありません
書等に災害による損失額を計上していた事例
が、四半期連結貸借対照表等及び四半期連結損
207件のうち、四半期連結キャッシュ・フロー
益計算書等との関連性も考慮すべきと考えま
計算書に当該科目を記載していない事例が
す。
110件ありました。
四半期連結キャッシュ・フロー計算書等にお
5.非財務情報に被災した旨の記載が有る場合で、
ける記載方法、表示区分そして営業活動による
四半期連結損益計算書等における被災金額の記
キャッシュ・フローの表示方法等は、連結財務
載状況
諸表規則等に規定されているほか様式が示され
ています。また、作成に関する基準が企業会計
事例
非財務情報の記載内容
⑴ 事業等のリスク
非財務情報と財務情報の関連性を調査しまし
た。以下の表はその一部です。
四半期連結損益計算書等に計
上した損失額(百万円)
1
影響は軽微
未記載
2
損害は軽微
3
注記なし
3
現時点では未確定
5
注記なし
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金融商品取引法
4
支店の建物等が被災(被災額等の記載はない)
129
注記あり
2,137
注記あり
⑵ 設備の状況
1
操業停止の設備(帳簿価額)2,313百万円
2
閉鎖による休止設備659百万円
1,269
注記あり
3
本社及び工場が甚大な被害を受けたが操業を再開した(被災額等の記載はない)
1,004
注記あり
⑶ 財政状態等
1
建物・商品等の一部が被災したが調査中、重大な影響を及ぼす見込みはない
2
本社及び工場が甚大な被害を受けたが操業を再開した(被災額等の記載はない)
3
重要な影響を与えるものではない
4
商品等の破損、建物の毀損も業績への影響は軽微
5
現在調査中、建物復旧費等が若干発生する見込み
6
建物等の一部損壊、商品等の破損の被害(被災額等の記載はない)
7
建物等に被害が生じ業績に大きな影響を及ぼす
8
連結グループ内の東北・関東の生産拠点が被災(被災額等の記載はない)
9
損害は軽微
34
1,004
13
翌四半期で計上
注記あり
翌四半期で計上
未計上
10 本社及び工場等が被災(被災額等の記載はない)
24
注記あり
112
注記あり
87
注記あり
1,067
注記なし
3
注記なし
65
注記なし
11 不動産等の一部に損害が発生も、業績に大きな影響は与えない
未計上
12 設備の一部が破損し修繕のため14日間休業(被災額等の記載はない)
未計上
13 災害による損失として特損に計上(被災額等の記載はない)
41
14 生産設備への被害は軽微
注記あり
46
注記あり
15 米沢工場が被災した(被災額等の記載はない)
1,269
注記あり
16 一部工場の操業停止(被災額等の記載はない)
未計上
※未計上には、その他の特別損失に損失額が含まれている可能性もある。
の規定があります。
6.開示後発事象(報告第76号付表2)の記載状
同報告の付表2ー開示後発事象の開示内
況
⑴ 後発事象を記載した四半期報告書
容の例示ーでは、火災、震災、出水等によ
調査対象期間中の件数1,088件のうち、
る重大な損害の発生における「開示する事
後発事象の記載があった四半期報告書は
項」を①その旨、②被害の状況、③損害額、
42件でした。
④復旧の見通し、⑤当該災害が営業活動に
及ぼす重要な影響、⑥その他重要な事項が
後発事象に係る規定は、四半期連結財務
ある場合にはその内容、と示しています。
諸表規則第13条(重要な後発事象の注記)
以下の表は、開示する事項の記載状況を
のほか、日本公認会計士協会の監査・保証
まとめたものです。
実務委員会報告第76号(平成21年7月8
日最終改正)
「後発事象の監査上の取扱い」
その旨
被害の状況
損害額
復旧の見通し
営業活動に及ぼす
重要な影響
記載有り
42
39※1
31※2
20※3
37※4
記載無し
0
3
11
22
5
※1 具体的な記述がある件数は36件で、調査中などと記載した件数は3件
※2 記載内容は、○○百万円程度が4件、軽微ほかが3件、被害なしが2件、調査中などが22件
※3 具体的な記載内容は、営業(稼働)中が4件、休業中(見通し無し含む)が8件、復旧中が5件、○○の予定が2件、
記載困難などが1件
※4 具体的に影響がある旨の記載が2件、調査中(困難・未確定を含む)などが35件
なお、レビュー報告書における追記情報の記載状況は、42件中記載有りが22件、無しが20件でした。
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も併せて計上している事例3件)で計上
⑵ 被害の状況を記載した39件の被災状況
の報告
された繰入額の合計額は1,643百万円
後発事象を記載した事例42件のうち、
でした。
被害が無かった旨の3件を除く39件につ
四半期連結損益計算書等に損失額また
いて、その後、提出された四半期報告書及
は引当金繰入額を計上していながら、四
び有価証券報告書の四半期連結財務諸表等
半期連結キャッシュ・フロー計算書等に
に計上された災害による損失額を調査しま
当該科目を区分掲記していない事例は
15件でした。
した。
④ 臨時報告書(5号、12号、19号)と
なお、①から③の件数は前記2から4ま
の関係
での件数と一部重複します。
後発事象を記載した事例42件のうち、
① 四半期連結貸借対照表等に災害損失引
当金を計上した事例は、10件(その他
被害なし3件を除く39件について、臨
引当金に含めた2件を除く。
)で計上さ
時報告書の提出状況を調査しました。提
れた引当金の合計額は2,964百万円で
出された件数は3件でした。その適用号
した。
数は5号(提出会社に重要な災害が発
② 四半期連結損益計算書等に災害による
生)
、13号(連結子会社に重要な災害が
損失額を計上した事例は、35件で計上
発生)
、19号(連結会社の財政状態等に
された損失額の合計額は10,269百万円
著しい影響を与える事象が発生)です。
でした。このうち、災害損失引当金繰入
被害を受けた39件から臨時報告書が
額を含めて計上した事例は、3件で計上
提出されている3件を除く36件につい
された繰入額の合計額は381百万円で
て、四半期連結損益計算書等の注記の内
容から、「被害を受けた資産の帳簿価額」
した。
災害による損失額及び災害損失引当金
「財政状態等に与える影響額」が把握で
繰入額に注記を付した事例は27件(注
きた34件について、5号、12号、19
記なしは8件)でした。
号に該当するかを確認した結果、未提出
と思われるのは1件だけでした。
なお、損失額等の名称で具体的な区分
表示がない事例は、4件でした。
注記に関する規定は前述のとおりです
おわりに
が、一口に損失額といっても内容は資産
未曽有と云われる東日本大震災が発生してから半
の棄損等や復旧費等の費用などで、科目
年が経過しましたが、テレビ等の報道を通じて目に
の名称だけでは内容が分からない場合も
映る被災地の現状は、多くの方が願う一日も早い復
あります。非財務情報における記載内容
興とは程遠い状況にあります。
や四半期連結損益計算書等以外の財務情
被害の深刻さ、被災地域の広さ、などから完全復
報との関係を含めて、注記の必要性を判
興には数年単位の年月が必要ともいわれ、その財源
断すべきと考えます。
の確保を巡る議論も具体的に始まりました。
今回の8件のうち、損失額が特別損失
8月末までに提出された有価証券報告書等にも、
の合計額に占める割合が50%を超えた
この大震災が日本経済に及ぼす影響を懸念する記述
ものが2件ありました。
が多く見られました。その一方で、復旧・復興に向
③ 四半期連結キャッシュ・フロー計算書
けた支援活動の一端を記載した事例も少なくありま
に災害による損失額を計上した事例は、
せんでした。
17件(四半期連結損益計算書等に災害
また、被害の無かった企業においても、自然災害
による損失額を計上した事例の49%)
に対するリスクを事業等のリスクとして捉え記載し
で計上された損失額の合計額は4,002
ている事例も増えています。
百万円(四半期連結損益計算書等に計上
企業の社会的責任と投資家への情報開示の内容の
された災害による損失額の合計額の
あり方、IRやCSRとの線引きを含めた法定開示書
39%)でした。災害損失引当金繰入額
類のあり方を考えさせられています。
を計上した事例は、6件(うち、損失額
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金融商品取引法
「有価証券報告書等に関する業務の業務・
システム最適化計画」にみるXBRLの歩み
新井 晶美
総合ディスクロージャー研究所研究員 1.はじめに
らは大量保有報告書について、EDINETによる提出
金融庁行政情報化推進委員会は2006年3月28
が義務化されております。この結果、EDINETによ
日に「有価証券報告書等に関する業務の業務・シス
る開示書類等の提出者数(内国会社)は、約2,500
テム最適化計画」を公表致しました。その後2009
社(2003年6月末)から約5,800社(2010年6
年4月15日、2009年12月16日、2011年3月
月末)に増加し、インターネットによるアクセス件
31日に改定がなされております。
数(月間平均)についても、約97,000件(2003
そこで本稿では当該計画に沿う形でXBRLの今ま
での歩みを著述したいと思います。
なお、本稿の意見にわたる部分については私見で
あることを申し添えます。
事務年度)から約7,833,000件(2009事務年度)
に増加しております。
当該計画が対象とする有価証券報告書等に関する
業務の業務・システムの対象範囲は「有価証券報告
書等に関する業務」及び「EDINET」と致します。
2.有価証券報告書等に関する業務の概要及び最適
化の対象範囲
なお、EDINETについては、金融庁が2004年
11月16日及び同年12月24日に発表した「ディス
「有価証券報告書等に関する業務」とは、証券市
クロージャー制度の信頼性確保に向けた対応」にお
場の公正性、透明性を高め、投資者保護を確保する
いて、開示企業に係る財務分析等の審査能力の向上
ために、上場会社等から提出される企業の財務内容
等を図るため、システムの機能充実、特に、XBRL
等が記載された有価証券報告書等を受理・審査し、
(eXtensible Business Reporting Language:
これを誰でも自由に閲覧可能にする業務です。有価
財務情報を効率的に利用可能なコンピュータ言語)
証券報告書等に関する業務は、2001年以降導入さ
化に向けた動きを加速することが必要とされており
れている 「有価証券報告書等の開示書類に関する電
ました。この点について、諸外国の企業開示システ
子 開 示 シ ス テ ム( 以 下「EDINET(Electronic
ム等においてもXBRL導入に向けた動きが進んでお
Disclosure for Investors' NETwork)」という。)」
り、こうした観点からもEDINETのシステムの高度
の開発・運用と不可分な関係にあります。
化(XBRL化)に向け、計画的かつ効率的な形で取
EDINETとは、従来紙媒体で提出されていた有価
証券報告書、有価証券届出書等の開示書類等につい
組みを進めていくことが必要であると明記されてお
りました。
て、その提出から公衆縦覧等に至るまでの一連の手
続を電子化することにより、①提出者の事務負担の
3.有価証券報告書等に関する業務の業務・システ
軽減、②投資者等の企業情報等へのアクセスの平
ム最適化の基本理念
等・迅速化を図り、もって証券市場の公平性・効率
有価証券報告書等に関する業務の業務・システム
性を高めることを目的として開発されたシステムで
最適化は、次の基本理念に基づき実施します。
あります。
・諸外国の企業情報開示システム等において導入に
EDINETによるディスクロージャーは、2001年
向けた動きが進んでいるXBRLをEDINETにも導
6月より順次実施しております。具体的には2001
入することで開示情報の二次利用性を高め、開示
年6月から有価証券報告書・半期報告書等の開示書
書類等利用者の利便性を向上させるとともに、広
類等について、2002年6月から有価証券届出書・
く国民が利用しやすいシステム環境を整備する
発行登録書等について、2003年6月から大量保有
・開示書類等に係る審査を強化するために審査支援
報告書等について、それぞれEDINETでの提出・縦
機能を充実させる
覧を可能にするよう、関係政令・内閣府令等の整備
・類似の機能を持つサブシステムを統合するととも
及びシステム構築を図ってきており、2004年6月
に、システムの効率的な開発と運用を実現するた
からは有価証券報告書等について、2007年4月か
めに、現在の企画開発・運用契約を見直すことに
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より、コスト低減を図る
・以上を実現するためにはシステムの抜本的な変更
が必要となることから、システムの再構築を行う
当該チェック機能の強化により、以下の効果
が期待できます。
・開示書類等提出者にとっては、開示書類等が
法定様式に則っているかを提出前に確認でき
4.最適化の実施内容(主としてXBRL導入による
高度な情報再利用の実現について)
るようになりました。
【平成19年度までに実
施済み】
EDINETにXBRLを導入することで、EDINETか
・開示書類利用者にとっては、従来よりも論理
ら二次加工可能なデータ形式で開示情報を取得でき
的不整合のないより精度の高い開示書類を利
る機能を提供し、以下のとおり開示情報の高度な再
用することができるようになりました。【平
利用を実現致します。
成19年度までに実施済み】
なお、XBRLは世界40カ国以上(2010年1月
・証券監査官等職員にとっては、審査作業時に
現在)で開発・普及が進んでおり、2009年11月
おける項目間の論理チェック作業が軽減さ
には、IFRSF(国際財務報告基準財団)
、SEC(米
れ、確認する画面・帳票の数が減少するな
国証券取引委員会)
、金融庁の三者から成る、タク
ど、審査時間を短縮できました。同時に、証
ソノミ(国際標準のコンピュータ言語であるXBRL
券監査官が事前相談時に行うチェック時間等
を用いた財務情報の電子的な様式)の国際標準策定
を削減することができました。
【平成19年度
のプロジェクトにおいて国際標準技術仕様が取りま
までに実施済み】
とめられました。今後はこれを踏まえて、更なる開
示情報の再利用促進のため、EDINETにおけるタク
ソノミを国際標準技術仕様に準拠させていく必要が
あります。
⑶ 開示書類等に係る審査支援機能の強化
開 示 書 類 等 に 係 る 審 査 業 務 に つ い て は、
XBRLの導入とともにEDINETからデータを取
り込み、加工・分析・帳票作成等、審査業務を
⑴ 開示情報の二次利用性の向上
投資家、アナリスト等開示データの利用者
は、従来EDINETの表示情報を手作業で自分の
支援する機能を構築し、業務の効率化を図りま
した。
このような機能の提供により、⒜審査作業に
分 析 シ ス テ ム に 入 力 し て お り ま し た が、
おける手入力・手作業を大幅に削減することが
EDINETからXBRL化された開示データを提供
できる、⒝転記・入力時に発生するミスを解消
することにより、当該データを分析システムに
し、審査作業の精度を高めることができる、⒞
直接取り込むことが可能となり、投資判断等の
審査作業のために確認する画面・帳票の数を減
分析を効率的に行うことができるようになりま
らし作業時間を短縮できることとなりました。
した。
【平成19年度までに実施済み】
なお、XBRL化の対象項目については、現在
⑷ 庁内他業務における開示情報の有効活用
の財務諸表本表のみの情報から、2013年度を
庁 内 他 業 務 に お い て は、XBRL化 さ れ た
目途に注記や附属明細表等の財務諸表本表以外
EDINETのデータを再利用することにより、迅
の情報まで拡大するとともに、大量保有報告書
速な開示情報の利用が可能となるとともに、外
等にも拡大することより、投資家の利便性の向
部情報ベンダ等から開示データを購入するため
上を図ります。
【平成25年度までに実施予定】
の費用の削減が可能となりました。
また、XBRLの言語切替機能を活用すること
により、XBRL形式で作成された開示書類は、
英文表記を日本文表記に切り替えることが可能
となるなど、開示情報としての有用性が向上し
ます。
【平成19年度までに実施済み】
⑸ 国際標準技術仕様に準拠することによる開示
情報の有効活用
これまでタクソノミは、各国それぞれ技術仕
様が異なっていたことから、開示データを国際
的に比較・分析することは極めて困難であった
⑵ 開示書類等に関するチェック機能の強化
が、タクソノミの基本的な部分を国際標準技術
開示書類等を提出する際に自動的に行われる
仕様に準拠させることにより、開示情報の国際
形式に係るチェック機能について、XBRL化さ
的な比較・分析が可能となり、国内外の企業や
れた開示データをシステムが自動的に取り込む
投資家による投資活動の維持・促進が図られま
ことにより、高度な項目値・項目間の論理的整
した。【平成22年度に実施】
合性チェックを行う機能を導入しました。
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金融商品取引法
5.おわりに
XBRL化の波は着実に実務に影響を与えておりま
す。本文で述べましたがXBRL化の対象項目につい
ては、現在の財務諸表本表のみの情報から、注記や
附属明細表等の財務諸表本表以外の情報まで拡大す
るとともに、大量保有報告書等にも拡大することが
予定されております。この波は我が国だけではなく、
欧米各国等世界的規模で広がりを見せております。
ま たInformation Technologyの 発 展 に よ る 影 響
も多々あります。XBRL化の今後の動向に注視する
必要があります。
本稿がその一助になれば幸甚に存じます。
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金融商品取引法
有価証券報告書の基礎(第13回)
新保 秀一
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 「有価証券報告書の基礎」、第13回目を解説いたします。今回は、第一部【企業情報】の第5【経理の状況】
における、
【注記事項】1.連結貸借対照表関係、2.連結損益計算書関係、3.連結包括利益計算書関係、4.
連結株主資本等変動計算書、5.連結キャッシュ・フロー計算書関係を解説いたします。なお、本稿におけ
る意見にわたる部分は、私見であることを申し添えます。
第5【経理の状況】
《
【注記事項】とは》
今回は、上記18項目のうち、1~4までを解説
いたします。
連結貸借対照表や連結損益計算書、連結包括利
益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結キャ
ッシュ・フロー計算書は、有価証券報告書におい
て、その中核をなすものとして重要な位置づけと
1.連結貸借対照表関係
⑴ 記載内容
連結貸借対照表上は、金額と勘定科目名の
なっています。しかしながら、これらにおいては、
表示だけです。しかし、これでは、投資家に
勘定科目と金額しか記載されておらず、読み手に
とって説明が不十分なものもあると思われま
補足的な説明事項を伝達することはできません。
す。したがって、これらについて補足して説
そこで、それを補うために記載されるのが【注
記事項】です。連結財務諸表規則において定めら
れている【注記事項】は、以下の様になります。
明しているのが、連結貸借対照表関係の注記
事項です。
注記の方法は、連結貸借対照表上の金額の
1.連結貸借対照表関係
前に※1などの記号を付記することによって、
2.連結損益計算書関係
当該注記との関係を明らかにしています。
3.連結包括利益計算書関係
4.連結株主資本等変動計算書関係
5.連結キャッシュ・フロー計算書関係
連結貸借対照表の主な注記は、下記に掲げ
るものです。該当条文も参考として掲げます。
なお、以下の注記のうち、網掛け部分(一
6.リース取引関係
般的に多い事例)を、⑵記載事例として紹介
7.金融商品関係
します。
8.有価証券関係
9.デリバティブ取引関係
10.退職給付関係
11.ストック・オプション等関係
12.税効果会計関係
13.企業結合等関係
14.資産除去債務関係
15.賃貸等不動産関係
16.セグメント情報等
17.関連当事者情報
18.1株当たり情報
19.重要な後発事象
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金融商品取引法
《連結貸借対照表で記載が求められる主な注記》
連結貸借対照表の注記の内容
条文等
たな卸資産の内訳
連結財務諸表規則第23条第4項
直接控除している引当金
連結財務諸表規則第24条、31条
減価償却累計額
連結財務諸表規則第27条
減損損失累計額を減価償却累計額に含む旨の記載
連結財務諸表規則第27条の2
非連結子会社・関連会社の株式等
連結財務諸表規則第30条第2項
関連会社株式等のうち、共同支配企業に対する投資の金額
連結財務諸表規則第30条第3項
事業用土地の再評価
連結財務諸表規則第34条の2
担保資産
連結財務諸表規則第34条の3
偶発債務
連結財務諸表規則第39条の2
手形割引高および裏書譲渡高
連結財務諸表規則第39条の3
たな卸資産及び工事損失引当金の表示
連結財務諸表規則第40条
企業結合に係る特別勘定の注記
連結財務諸表規則第41条
特別法上の準備金又は引当金の法令の条項
連結財務諸表規則第45条の2
⑵ 記載事例
(連結貸借対照表関係)の記載事例を示しま
す。〈図表1〉
〈図表1〉
(連結貸借対照表関係)
前連結会計年度
(平成22年3月31日)
当連結会計年度
(平成23年3月31日)
※1 たな卸資産の内訳
商品及び製品 3,639百万円
仕掛品 4,150 〃
原材料及び貯蔵品 1,314 〃
※1 たな卸資産の内訳
商品及び製品 3,290百万円
仕掛品 3,752 〃
原材料及び貯蔵品 1,188 〃
※2 有形固定資産の減価償却累計額 46,488百万円
※2 有形固定資産の減価償却累計額 52,565百万円
※3 非連結子会社及び関連会社に対するものは、次の ※3 非連結子会社及び関連会社に対するものは、次の
とおりであります。
とおりであります。
投資有価証券(株式) 820百万円 投資有価証券(株式) 984百万円
※4 担保資産
このうち社債16,561百万円(社債14,959百
万円、1年以内償還予定の社債1,602百万円)及
び 設 備 資 金 借 入 金 1 2,4 2 1 百 万 円( 長 期 借 入 金
1 2,3 0 0 百 万 円、 1 年 内 返 済 予 定 の 長 期 借 入 金
121百万円)の担保として財団抵当に供している
ものは、次のとおりであります。
建物及び構築物 20,233百万円(帳簿価額)
機械装置及び運搬具 4,630 〃 ( 〃 )
土 地 2,417 〃 ( 〃 )
計 27,280百万円(帳簿価額)
※4 担保資産
このうち社債14,959百万円(社債14,500百
万円、1年内償還予定の社債459百万円)及び設備
資金借入金27,742百万円(長期借入金25,568
百万円、1年内返済予定の長期借入金2,174百万
円)の担保として財団抵当に供しているものは、次
のとおりであります。
建物及び構築物 25,271百万円(帳簿価額)
機械装置及び運搬具 7,838 〃 ( 〃 )
土 地 3,003 〃 ( 〃 )
計 36,112百万円(帳簿価額)
※5 (偶発債務)
連結子会社以外の会社の金融機関からの借入金に
対して、次のとおり債務保証を行っております。
㈱XYZ 85百万円
㈱RST 7 〃 計 92百万円
※5 (偶発債務)
連結子会社以外の会社の金融機関からの借入金に
対して、次のとおり債務保証を行っております。
㈱XYZ 80百万円
㈱RST 7 〃 計 87百万円
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※1 たな卸資産の内訳
連結貸借対照表上は、商品及び製品、仕掛
られます。この記載事例も、債務保証に関す
るものです。
品、原材料及び貯蔵品に関しては、たな卸資
債務保証とは、第三者の行った借入金に対
産として一括表示することが可能です。この
して、第三者が支払い不能になった場合に、
場合、その内訳の注記を示すことが要求され
その借入金を肩代わりすることを意味します。
ています。内訳を示すことによって読み手に
この債務保証を弁済する可能性がかなり高い
補足的情報を提供しています。
場合には、引当処理して連結貸借対照表に計
上しなければなりません。しかしながら、そ
※2 有形固定資産の減価償却累計額
の可能性がそれほど高くない場合には連結貸
連結貸借対照表上、有形固定資産における
借対照表に計上する必要はありません。ただ
減価償却累計額を直接控除している場合には、
し、潜在的なリスクが伴っていることに、変
減価償却累計額を注記する必要があります。
わりはありません。そのため、注記事項とし
直接控除とは、連結貸借対照表上、減価償却
て記載することが要求されています。
累計額は表示されておらず、各資産の金額は、
減価償却累計額を控除した残額で表示されて
いることを意味します。
2.連結損益計算書関係
⑴ 記載内容
その注記の方法は、科目別又は一括のどち
連結損益計算書上は、連結貸借対照表と同
らでも構いません。記載事例は、一括して掲
じく、金額と勘定科目名の表示だけです。し
げています。ここでも読み手に、直接差し引
かし、これでは、投資家にとって説明が不十
かれた金額(減価償却累計額)を補足的情報
分なものもあると思われます。したがってこ
として提供しています。
れらについて、補足して説明しているのが、
連結損益計算書関係の注記事項です。
※3 非連結子会社および関連会社に対するも
注記の方法は、金額の前に※1などの記号
の
を付記することによって、当該注記との関係
連結貸借対照上、非連結子会社および関連
を明らかにしています。
会社に対するものは、投資有価証券に含まれ
連結損益計算書の主な注記は、下記に掲げ
ています。このため、これらの金額を注記事
るものです。該当条文も参考として掲げます。
項として記載します。
なお、以下の注記のうち、網掛け部分(一
般的に多い事例)を、⑵記載事例として紹介
※4 担保資産
します。
会社が銀行から借入を行う場合、担保(抵
当権の設定)を要求されることが一般的です。
この借入金を返済しない限り、会社が任意で
担保資産を処分することは出来ません。いわ
ゆる、借入金と担保資産は紐付きになってい
るということです。
このように会社が自由に処分できない拘束
された資産があるため、会社の事業活動に制
約があると解されます。そのため担保に供さ
れている資産について、借入金等と紐付きに
なっている状況を注記する必要性があります。
※5 偶発債務
偶発債務とは、現時点では債務とはなって
いませんが、将来、一定の条件が揃ったとこ
ろで債務となる可能性がある取引を言います。
例えば、他人のために行った債務保証が挙げ
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金融商品取引法
《連結損益計算書で記載が求められる主な注記》
連結損益計算書の注記の内容
条文等
工事損失引当金繰入額の注記
連結財務諸表規則52条の2
棚卸資産の帳簿価額の切下げ
連結財務諸表規則第53条
販売費及び一般管理費の内訳
連結財務諸表規則第55条
研究開発費の総額
連結財務諸表規則第55条の2
固定資産売却損益の内訳
連結財務諸表規則ガイドライン62
減損損失
連結財務諸表規則第63条の2
企業結合に係る特定勘定の取崩額
連結財務諸表規則第63条の3
引当金繰入額
連結財務諸表規則第66条
別記事業の収益及び費用
連結財務諸表規則第68条
⑵ 記載事例
(連結損益計算書関係)の記載事例を示しま
す。〈図表2〉
〈図表2〉
(連結損益計算書関係)
前連結会計年度
(自 平成21年4月1日 至 平成22年3月31日)
当連結会計年度
(自 平成22年4月1日 至 平成23年3月31日)
※1 販売費及び一般管理費の主なもの
運賃及び荷造費 4,724百万円
販売促進費 274 〃
給料及び手当 3,622 〃
賞与 508 〃
貸倒引当金繰入額 26 〃
賞与引当金繰入額 458 〃
役員賞与引当金繰入額 190 〃
退職給付費用 505 〃
減価償却費 579 〃
研究開発費 1,672 〃
※1 販売費及び一般管理費の主なもの
運賃及び荷造費 4,941百万円
販売促進費 325 〃
給料及び手当 3,855 〃
賞与 514 〃
貸倒引当金繰入額 67 〃
賞与引当金繰入額 513 〃
役員賞与引当金繰入額 160 〃
退職給付費用 393 〃
減価償却費 765 〃
研究開発費 1,687 〃
※2 一般管理費及び当期製造費用に含まれる研究開発
費は、次のとおりであります。
一般管理費 1,672百万円
当期製造費用 22 〃 計 1,694百万円
※2 一般管理費及び当期製造費用に含まれる研究開発
費は、次のとおりであります。
一般管理費 1,687百万円
当期製造費用 17 〃 計 1,704百万円
※3 有形固定資産売却益の内容は、次のとおりであり ※3 有形固定資産売却益の内容は、次のとおりであり
ます。
ます。
建物及び構築物 867百万円 建物及び構築物 617百万円
※1 販売費及び一般管理費の主なもの
連結損益計算書上、販売費及び一般管理費
研究開発費に関しては、非財務情報の第2
となっていますが、販売費及び一般管理費と
【事業の状況】の6【研究開発活動】において
いう科目にして、一括して表示することも可
説明されています。研究開発活動は会社が成
能となっています。後者の一括して表示した
長して行く上で、非常に重要な位置づけとな
場合には、その主要な費目にわけてその金額
っています。
例はそのケースです。
これも、読み手に補足的情報として提供す
ると解されます。
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研究開発費
は適当な費目に分類して掲記することが原則
を注記することが要求されています。記載事
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※2 一般管理費及び当期製造費用に含まれる
そこで、連結損益計算書においても、研究
開発費の総額を注記することが求められてい
ます。なお、この金額に関しては、第2【事
業の状況】の6【研究開発活動】に記載され
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ている金額との整合性に留意する必要があり
ます。
※3 有形固定資産売却益の内訳
有形固定資産売却損益はその性質上、特別
このため、読み手に補足的情報として注記
することが求められています。
3.連結包括利益計算書関係
⑴ 記載内容
損益項目に表示されます。特別損益は、臨時
連結包括利益計算書とは、下記の様に表示
的なものであるため、連結損益計算書上の勘
され、現行実務では、2種類の方法(1計算
定科目だけではその内容が判明しないケース
書方式と2計算書方式)を選択適用できるこ
が多いのが実情です。
とになっています。〈図表3〉
〈図表3〉
「1計算書方式」
「2計算書方式」
【連結損益及び包括利益計算書】
【連結損益計算書】
売上高 10,000
……
…… 税金等調整前当期純利益 2,200
法人税等 900
少数株主損益調整前当期純利益 1,300
少数株主利益(控除) 300
当期純利益 1,000
売上高 10,000
……
…… 税金等調整前当期純利益 2,200
法人税等 900
少数株主損益調整前当期純利益 1,300
少数株主利益 300
当期純利益 1,000
【連結包括利益計算書】
少数株主利益(加算) 300
少数株主損益調整前当期純利益 1,300
その他包括利益
その他有価証券評価差額金 530
繰延ヘッジ損益 300
為替換算調整勘定 △
180
持分法適用会社に対する持分相当額 50
その他包括利益合計 700
包括利益 2,000
少数株主損益調整前当期純利益 1,300
その他包括利益
その他有価証券評価差額金 530
繰延ヘッジ損益 300
為替換算調整勘定 △
180
持分法適用会社に対する持分相当額 50
その他包括利益合計 700
包括利益 2,000
(内訳)
親会社株主に係る包括利益 1,600
少数株主に係る包括利益 400
(内訳)
親会社株主に係る包括利益 1,600
少数株主に係る包括利益 400
連 結 包 括 利 益 計 算 書 は、 会 計 基 準 の コ ン
期適用)
バージェンスの取り組みの一環として、平成
このため1によれば、3月決算の会社は、
23年3月31日以後終了する連結会計年度の
平成22年3月期における包括利益金額及び
年度末に係る連結財務諸表から適用されるこ
その他の包括利益の項目の金額を注記する
とになりました。
必要があります。
この包括利益計算書に関する注記事項とし
ては、以下が挙げられます。
なお、上記2.その他包括利益の税効果
の金額や組替調整額に関する事項、に関し
て、平成23年3月期に、早期適用した会社
1. 最初に連結包括利益計算書又は連結損益
は上場会社のうち10社余りという結果でし
及び包括利益計算書を作成する場合には、
た。このため、⑵記載事例では、注記事項
当該連結会計年度の直前の連結会計年度に
の1のケースを解説します。
おける包括利益金額及びその他の包括利益
の項目の金額。
2. その他の包括利益の税効果の金額や組替
調整額に関する事項(平成23年3月期は早
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金融商品取引法
⑵ 記載事例
(連結包括利益計算書関係)の記載事例を示
します。〈図表4〉
〈図表4〉
(連結包括利益計算書関係)
当連結会計年度(自 平成22年4月1日 至 平成23年3月31日)
※1 当連結会計年度の直前連結会計年度における包括利益
親会社株主に係る包括利益 37,533百万円
少数株主に係る包括利益 4,218 〃 計 41,751百万円
※2 当連結会計年度の直前連結会計年度におけるその他の包括利益
その他有価証券評価差額金 771百万円
為替換算調整勘定 3,724 〃 持分法適用会社に対する持分相当額 9 〃 計 4,505百万円
なお、上記注記に関わる連結包括利益計算
書(一部)も、下記に合わせて示します。
【連結包括利益計算書】
少数株主損益調整前当期純利益
その他の包括利益
その他有価証券評価差額金
為替換算調整勘定
持分法適用会社に対する持分相当額
その他の包括利益合計
包括利益
(内訳)
親会社株主に係る包括利益
少数株主に係る包括利益
前連結会計年度
(自 平成21年4月1日 至 平成22年3月31日)
―
連結包括利益計算は、平成23年3月31日
以後終了する連結会計年度の年度末に係る連
―
(単位:百万円)
当連結会計年度
(自 平成22年4月1日 至 平成23年3月31日)
15,367
―
―
―
△1,003
△32,564
△59
※2 △33,627
※1 △18,260
―
―
△19,833
1,572
4.連結株主資本等変動計算書関係
⑴ 記載内容
結財務諸表から適用することとなったため、
連結株主資本等変動計算書上は、金額と勘
連 結 包 括 利 益 計 算 書 上 の 前 期 の 金 額 は、 ―
定科目名の表示だけです。しかし、これでは、
表示となっています。
投資家にとって説明が不十分なものもあると
しかし、これでは読み手に前期数値の情報
思われます。したがってこれらについて、補
が不足しているため、あえて注記事項として
足して説明しているのが、連結株主資本等変
記載が求められていると考えられます。
動計算書関係の注記事項です。
な お、 為 替 換 算 調 整 勘 定 が 大 幅 に 減 少
連結株主資本等変動計算書関係の注記事項
(3,724百万円→△32,564百万円)している
は、下記に掲げるものです。該当条文も参考
ことが読み取れますが、いわゆる円高の影響
と考えられます。
として掲げます。
なお、連結株主資本等変動計算書の注記事
項は、記載事項が明確に定められているため、
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連結貸借対照表や連結損益計算書のように、
ません。
金額の前に※印をつけることは要求されてい
《連結株主資本等変動計算書で記載が求められる注記》
連結株主資本等変動計算書の注記の内容
条文等
発行済株式に関する注記
連結財務諸表規則第77条
自己株式に関する注記
連結財務諸表規則第78条
新株予約権等に関する注記
連結財務諸表規則第79条
配当に関する注記
連結財務諸表規則第80条
⑵ 記載事例
(連結株主資本等変動計算書関係)の記載事
例を示します。〈図表5〉
〈図表5〉
(連結株主資本等変動計算書関係)
前連結会計年度(自 平成21年4月1日 至 平成22年3月31日)
(省 略)
当連結会計年度(自 平成22年4月1日 至 平成23年3月31日)
1.発行済株式に関する事項
株式の種類
前連結会計年度末
普通株式(株)
242,815,614
増加
減少
当連結会計年度末
782,857
―
243,598,471
(変動事由の概要)
新株の発行(新株予約権の行使)
転換社債型新株予約権付社債の新株予約権の権利行使による増加 382,857株
ストック・オプションの権利行使による増加 400,000株
2.自己株式に関する事項
株式の種類
前連結会計年度末
普通株式(株)
増加
1,472
減少
当連結会計年度末
27,148
―
28,620
(変動事由の概要)
平成22年6月27日の株主総会の決議による自己株式の取得 27,148株
3.新株予約権等に関する事項
目的となる
株式の種類
会社名
内訳
提出会社
第2回無担
保転換社債
型新株予約
権付社債の
新株予約権
(平 成 2 1 年
11月1日
発行)
普通株式
平成20年
ストック・
オプション
としての新
株予約権
―
合計
目的となる株式の数(株)
前連結
会計年度末
増加
減少
当連結
会計年度末
当連結会計
年度末残高
(百万円)
(注)
608,571
―
382,857
225,714
―
―
―
―
60
608,571
―
382,857
225,714
60
(注) 転換社債型新株予約権付社債については、一括法によっております。
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金融商品取引法
(変動事由の概要)
第2回無担保転換社債型新株予約権付社債の新株予約権の権利行使による減少 382,857株
4.配当に関する事項
⑴ 配当金支払額
配当金の総額
(百万円)
決議
株式の種類
平成22年6月27日
定時株主総会
普通株式
728
平成22年11月20日
取締役会
普通株式
729
1株当たり
配当額(円)
基準日
効力発生日
3.00
平成22年3月31日
平成22年6月27日
3.00
平成22年9月30日
平成22年12月10日
⑵ 基準日が当連結会計年度に属する配当のうち、配当の効力発生日が翌連結会計年度となるもの
決議
株式の種類
配当の原資
配当金の総額
(百万円)
平成23年6月27日
定時株主総会
普通株式
利益剰余金
730
1.発行済株式に関する注記
発行済株式に関しては、以下に掲げる事項を
注記します。
① 発行済株式の種類ごとに、前連結会計年度
1株当たり
配当額(円)
3.00
基準日
効力発生日
平成23年3月31日
平成23年6月27日
② 新株予約権の目的となる株式の数
③ 新株予約権の連結会計年度末残高
ただし、上記の①、②については、新株予約
権がストック・オプション又は自社株式ストッ
末及び当連結会計年度末の発行済株式総数並
ク・オプションとして付与されている場合には、
びに当連結会計年度に増加又は減少した発行
その記載が不要とされています。
済株式数
② 発行済株式の種類ごとの変動事由の概要
記載事例は、無担保転換社債型新株予約権付
社債の新株予約権の権利行使による減少
記載事例では、発行済株式は普通株式のみ
382,857株が記載されており、それが、1.発
であり、増加要因は新株予約権を行使した、
行済株式に関する事項の増加要因につながって
新株の発行であることが読み取れます。
いることが読み取れます。
2.自己株式に関する注記
自己株式に関しては、以下に掲げる事項を注
4.配当に関する注記
配当に関しては、以下に掲げる事項を注記し
記します。
ます。
① 自己株式の種類ごとに、前連結会計年度末
① 配当財源が金銭の場合には、株式の種類ご
及び当連結会計年度末の自己株式数、並びに
との配当金の総額、一株当たり配当額、基準
当連結会計年度に増加又は減少した自己株式
日及び効力発生日
② 配当財源が金銭以外の場合、①に加え配当
数
② 自己株式の種類ごとの変動事由の概要
財産の帳簿価額
記載事例では、発行済株式が普通株式のみ
③ 基準日が当連結会計年度に属する配当のう
で構成されているため、当然、自己株式も普
ち、配当の効力発生日が翌連結会計年度とな
通株式のみであることが読み取れます。また、
るものについては、配当の原資及び①、②に
株主総会決議により自己株式を取得している
準ずる事項
ことが脚注により判明します。
記載事例は、配当の財源が金銭のみであり、
定時株主総会と取締役会により決議された配当
3.新株予約権等に関する注記
新株予約権については、以下に掲げる事項を
なお、この配当に関する注記に関しては、第
注記します。
1【企業の概況】、1【主要な経営指標等の推移】
① 新株予約権の目的となる株式の種類
の「提出会社の経営指標等」における配当性向
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金支払額等が注記されています。
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や、第4【提出会社の状況】、3【配当政策】を
合わせて読むことにより、会社の株主への取り
組み方針を読み取ることができます。
⑤ 重要な非資金取引の内容
なお、キャッシュ・フロー計算書が対象と
する資金の範囲は、「現金及び現金同等物」と
しています。その内容は以下の様になります。
5.連結キャッシュ・フロー計算書関係
⑴ 記載内容
連結キャッシュ・フロー計算書関係の注記
Ⅰ 現金
手元現金と要求払預金を指します。ここ
で 要 求 払 預 金 と は、 普 通 預 金、 当 座 預 金、
事項は、以下が挙げられます。
通知預金を指し、預入期間の定めがある定
① 現金及び現金同等物の期末残高と連結貸
期預金は、含まれません。
借対照表に表示されている科目の金額との
Ⅱ 現金同等物
現金同等物とは、容易に換金可能であり、
関係
② 株式の取得により新たに連結子会社とな
価値変動のリスクを伴わないものとされて
った会社がある場合には、当該会社の資産
います。したがって、実務上は、取得日か
及び負債の主な内訳
ら満期日までの期間が3カ月以内の短期投
③ 株式の売却により連結子会社でなくなっ
資である定期預金、譲渡性預金、コマーシ
た会社がある場合には、当該会社の資産及
ャル・ペーパー、売戻し条件付き現先、公
び負債の主な内訳
社債投資信託が挙げられます。
④ 現金及び現金同等物を対価とする事業の
譲受け若しくは譲渡又は合併等を行った場
合には、当該事業の譲受け若しくは譲渡又
は合併等により増加又は減少した資産及び
⑵ 記載事例
(連結キャッシュ・フロー計算書関係)の記
載事例を示します。〈図表6〉
負債の主な内訳
〈図表6〉
(連結キャッシュ・フロー計算書関係)
前連結会計年度
(自 平成21年4月1日 至 平成22年3月31日)
当連結会計年度
(自 平成22年4月1日 至 平成23年3月31日)
※1 現金及び現金同等物の期末残高と連結貸借対照表
に掲記されている科目の金額との関係
現金及び預金 25,766百万円
預入期間3か月超の定期預金 △1,000 〃 現金及び現金同等物 24,766百万円
※1 現金及び現金同等物の期末残高と連結貸借対照表
に掲記されている科目の金額との関係
現金及び預金 26,088百万円
預入期間3か月超の定期預金 △1,715 〃 現金及び現金同等物 24,373百万円
上記記載事例は、一般的なケースを掲げま
以上が第5【経理の状況】における、【注記
した。預入期間が3か月を超える定期預金は、
事項】1.連結貸借対照表関係、2.連結損
キャッシュ・フロー上は現金及び現金同等物
益計算書関係、3.連結包括利益計算書関係、
には含まれません。このため連結貸借対照表
4.連結株主資本等変動計算書、5.連結キ
上の現金及び預金の金額から除いて算出して
います。
ャッシュ・フロー計算書関係でした。次回は、
【注記事項】6から解説いたします。
なお、連結貸借対照表上の現金及び預金の
金額と、キャッシュ・フロー計算上の現金及
び現金同等物の整合性も確認事項として重要
です。
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金融商品取引法
ディスクロージャー実務Q&A
―四半期簡素化・過年度遡及修正会
計基準適用後の四半期報告書①―
茨澤 玲子
総合ディスクロージャー研究所研究員 増田 美和
総合ディスクロージャー研究所客員研究員・公認会計士 はじめに
平成24年3月期第1四半期(平成23年6月第1四半期)は、「四半期報告の大幅簡素化」と「会計上の変更
及び誤謬の訂正に関する会計基準」
(以下、過年度遡及修正会計基準という。)の適用という、四半期決算報告
の大きな変化に直面する最初の決算期となりました。
「四半期報告の大幅簡素化」は、平成22年6月の閣議決定「新成長戦略」に盛り込まれていたものであり、
これは、IFRS適用を見据え、国際競争力の観点から企業の実務負担を軽減することを目的としています。
他方、
「過年度遡及修正会計基準」の適用は、会計基準の国際的なコンバージェンスの取り組みの中で、財
務諸表の期間比較可能性及び企業間の比較可能性を向上させることにより、財務諸表の意思決定有用性を高め
ることを目的に取り入れられたものです。これにより金融商品取引法上の開示において比較情報という概念が
導入されています。
これらの大きな変化は開示実務に大きな影響を与えていることから、その理解を深め、また実務動向を注視
することは、今後の開示に伴うリスクを軽減することに役立つものと思われます。
本実務Q&Aでは、
「四半期報告の大幅簡素化」及び「過年度遡及修正会計基準」の適用をテーマに留意事項
を取りまとめていきたいと思います。本実務Q&Aが四半期報告書作成の一助になれば幸いです。
Ⅰ「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」について
四半期報告の大幅な簡素化を目的とした「四半期連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の
一部を改正する内閣府令」が、平成23年3月31日に公布、同年4月1日より施行され、平成23年6月第1四
半期より適用となりました。
第2【事業の状況】においては、
【従業員の状況】、
【生産、受注及び販売の状況】及び【設備の状況】の3項
目が削除されましたが、著しい変動・変更がある場合には、
【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの
状況の分析】においてその内容等を記載することとされております。
本項目においては、今般の改正を踏まえた【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】に
おける記載事項について解説するとともに、平成23年6月第1四半期における開示事例をご紹介します。
なお、特に断りのない限り、平成23年8月22日時点において、日経平均225に採用されている銘柄のう
ち、3月決算会社200社の四半期報告書を分析対象として採用しております。
また、平成23年6月第1四半期を「当第1四半期」
、平成22年6月第1四半期を「前第1四半期」と記載して
おります。
Q1 当第1四半期の【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】において、新たに記
載が必要とされた事項はなんですか。またそれ以外で、前第1四半期と比較して記載すべき事項に変
更があった点はありますか。
A 前述のとおり、当第1四半期の【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】において
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は、以下のそれぞれの場合において、その内容等の記載が必要とされました。
・「従業員数」に著しい増減があった場合
・「生産、受注及び販売の実績」について著しい変動があった場合
・「主要な設備」に著しい変動・変更があった場合
また、記載を要しないこととされた事項として、
・
「経理の状況」でキャッシュ・フロー計算書を記載していない場合の「キャッシュ・フロー
の状況」
(第1・第3四半期)
記載対象期間が四半期(連結)会計期間から四半期(連結)累計期間に変更された事項として、
・
「業績の状況」
・
「キャッシュ・フローの状況」(記載が必要とされる場合)
・
「対処すべき課題」
・
「研究開発活動」
が挙げられます。
前第1四半期と当第1四半期を比較した【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】に
おける記載事項については、
〈図表1〉をご参照ください。
〈図表1〉
項目
前第1四半期
当第1四半期
業績の状況
当四半期(連結)会計期間におけるセグ
メント情報ごとの業績の状況(前年同四
半期(連結)会計期間と比較)
当四半期(連結)累計期間におけるセグ
メント情報ごとの業績の状況(前年同四
半期(連結)累計期間と比較)
キャッシュ・フローの
状況
当四半期(連結)会計期間におけるキャ
ッシュ・フローの状況(前年同四半期(連
結)会計期間と比較)
当四半期(連結)累計期間におけるキャ
ッシュ・フローの状況(前年同四半期(連
結)累計期間と比較)
※「経理の状況」においてキャッシュ・
フロー計算書を開示しない場合は記載不
要(第1・第3四半期)
事業上及び財務上の
対処すべき課題
・当四半期(連結)会計期間において、
対処すべき課題に重要な変更があった場
合又は新たに対処すべき課題が生じた場
合におけるその内容、対処方針等
・「基本方針(注)2」を定めている会社
については、会社法施行規則第118条第
3号に掲げる事項
・当四半期(連結)累計期間において、
対処すべき課題に重要な変更があった場
合又は新たに対処すべき課題が生じた場
合におけるその内容、対処方針等
・
「基本方針(注)2」を定めている会社
については、会社法施行規則第118条第
3号に掲げる事項
研究開発活動
当四半期(連結)会計期間における研究
開発活動の金額、研究開発活動の状況に
重要な変更があった場合にはセグメント
情報に関連付けた内容
当四半期(連結)累計期間における研究
開発活動の金額、研究開発活動の状況に
重要な変更があった場合にはセグメント
情報に関連付けた内容
―
当四半期(連結)累計期間において、著
しい増加又は減少があった場合には、セ
グメント情報に関連付けたその事情及び
内容
―
当四半期(連結)累計期間において、著
しい変動があった場合にはその内容
―
当四半期(連結)累計期間において、
・新設、休止、大規模改修、除却、売却
等により著しい変動が合った場合、その
内容
・最近連結会計年度末において計画中で
あった新設、休止、大規模改修、除却、
売却等について著しい変更があった場合、
その内容
従業員数
生産、受注及び販売の
実績
主要な設備
(注)1 「項目」の名称は調査対象企業において多く見受けられたものを採用している。
2 「財務及び事業の方針の決定を支配する者のあり方に関する基本方針」をいう。
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金融商品取引法
Q2 前第1四半期において、
「財政状態の分析」についても項目を設けて記載していましたが、当第1四
半期においては、当該項目の記載は不要となったのでしょうか。
A 【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】においては、従来から多くの会社が、
「財
政状態の分析」として主に資産、負債及び純資産の増減等について記載していました。
「財政状態の分析」については、記載上の注意において規定されている記載事項ではないため、改正に
よる変更はありませんが、当第1四半期から当該項目を記載しない事とされても、特に問題はないものと
思われます。
調査対象企業において、当第1四半期に「財政状態の分析」の項目を記載した会社は約半数ですが、前
第1四半期において同項目を記載していて、当第1四半期から記載しないこととした事例は見受けられな
かったため、前第1四半期の項目立てを踏襲した会社が多かったようです。
Q3 当社は、財務及び事業の方針の決定を支配する者のあり方に関する基本方針を定めており、いわゆ
る買収防衛策について、平成23年3月期有価証券報告書の【対処すべき課題】において記載しました。
当第1四半期において変更がない場合、【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分
析】において、当該内容を記載する必要はありませんか。
A 財務及び事業の方針の決定を支配する者のあり方に関する基本方針(以下、
「基本方針」といいます。)
を定めている場合、当第1四半期において変更がない場合でも、会社法施行規則第118条第3号に掲げる
事項を記載する必要があります。
【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】において新たに追加された記載事項(従
業員数・生産、受注及び販売の実績・主要な設備)や、対処すべき課題、研究開発活動については重要な
変更や著しい変動があった場合にその内容等を記載することとされておりますが、基本方針を定めている
場合については従来と同様に、変更がない場合でも記載が必要とされております。
したがって、第2・第3四半期においても継続して記載される必要がありますので、注意が必要です。
Q4 当第1四半期において、当社の従業員数が増加しました。【財政状態、経営成績及びキャッシュ・
フローの状況の分析】において、その内容を記載する必要があるのでしょうか。
また、著しい増加・減少がない場合も、項目を設けてその旨を記載する必要はありますか。
A 「従業員数」の「著しい増加又は減少」については、規定上、数値基準等は設けられておりません。何を
もって
「著しい増加又は減少」と捉えるかは、業種・企業規模等によっても異なるものと思いますので、各
社の実態に即して、どの程度の増減があった場合に開示を行うかについて、判断基準を定めておく必要が
あるものと思います。
「生産、受注及び販売の実績」「主要な設備」についても、同様のことが言えます。
当第1四半期において、
「従業員数」「生産、受注及び販売の実績」「主要な設備」の各項目について、著
しい変動・変更があったとして、その内容を開示した社数及びその調査対象企業全体に対する割合は、
〈図
表2〉をご参照ください。
〈図表2〉
項目
社数
割合
従業員数
7社
3.5%
生産、受注及び販売の実績
9社
4.5%
16社
8%
主要な設備
(注)「従業員数」等の項目を設けて記載している会社のみを対象としている。
「従業員数」の増加事由としては、生産拠点の本格稼動、吸収合併、連結子会社の増加などを、減少事由と
しては、連結子会社の構造改革を挙げている事例が見受けられました。
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伊藤忠商事㈱
⑿ 従業員数
当第1四半期連結累計期間において、連結会社の従業員数が前連結会計年度末に比し、9,054名増加
し、当第1四半期連結会計期間末日現在で71,689名となっております。その主な理由は、生活資材・
化学品セグメントのKwik-Fitグループの連結子会社化等によるものです。
エーザイ㈱
⑸ 従業員数
当第1四半期連結累計期間において、当連結グループの医薬品事業の従業員数は、主に海外連結子会社
の構造改革の影響により、前連結会計年度末から564名減少し10,196名となりました。
なお、当連結グループ全体では、前連結会計年度末から509名減少し11,051名となりました。
「生産、受注及び販売の実績」では、東日本大震災の影響を減少事由として挙げる事例が多く見られました
が、その他の増減事由としては、特許満了に伴う売上高の減少、事業統合などがありました。
また、増減事由やその内容については、「業績の状況」を参照とする事例も見受けられます。
トヨタ自動車㈱
⑸ 生産、受注及び販売の実績
当第1四半期連結累計期間における日本、海外を合わせた自動車の連結生産台数は、118万9千台と、
前年同四半期連結累計期間に比べて60万4千台 (33.7%) の減少となりました。また、当第1四半期連
結累計期間における日本、海外を合わせた自動車の連結販売台数は、122万1千台と、前年同四半期連
結累計期間に比べて59万9千台 (32.9%) の減少となりました。これらは、東日本大震災の影響などに
よるものです。
カシオ計算機㈱
⑷ 生産、受注及び販売の実績
当第1四半期連結累計期間において、平成22年6月に実施した携帯電話事業の事業統合に伴う影響等
により、生産実績は66,706百万円(前年同四半期比25.3%減)
、販売実績は69,189百万円(前年同
四半期比22.6%減)と著しく変動いたしました。
㈱神戸製鋼所
⑷ 生産、受注及び販売の実績
当第1四半期連結累計期間において、機械事業部門、資源・エンジニアリング事業部門及び神鋼環境ソ
リューションの受注並びに溶接事業部門、神鋼環境ソリューション及びコベルコ建機の販売の実績が著し
く変動いたしました。その事情及び内容などについては、「⑴ 業績の状況」をご覧下さい。
「主要な設備」では、売却や連結子会社の増加、計画の完了による主要な設備の著しい変動、新たな計画の
確定や計画の中止について記載する事例が見受けられました。
東急不動産㈱
⑷ 主要な設備
当第1四半期連結累計期間において、実質支配することになる匿名組合等について連結子会社としたこ
とから、主要な設備として、当該匿名組合等が保有するオフィスビル・商業施設等29物件、7,413億円
が増加しております。
日本板硝子㈱
⑸ 主要な設備
当第1四半期連結累計期間において、当社グループが保有する主要な設備について重要な異動はありま
せん。
当第1四半期連結累計期間において、新たに確定した重要な設備の改修計画は次の通りであります。
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金融商品取引法
会社名・
事業所名 所在地 日本板硝子㈱ 日本
千葉事業所 (千葉県)
投資予定金額(百万円) 資金調達
セグメント
設備の内容
の名称 方法 総額
既支払額
着手及び完了予定年月
建築用
ガラス
2012年
4月
板ガラス
製造設備
3,374
53 自己資金
着手
完了
2012年
10月
「従業員数」等の内訳項目の表示は、規定上必須とはされておりませんので、著しい増加・減少がない場合
に、項目を設けてその旨を記載する必要はありません。
なお、数としては少ないものの、著しい変動・変更がなかった場合でも、項目を設けてその旨を明記してい
る会社、前第1四半期の【従業員の状況】
、
【生産、受注及び販売の状況】及び【設備の状況】の項目に準じた
開示を行っている会社も見受けられました。
Ⅱ 比較情報概念の導入について
Q1 比較情報の開示と従来からの比較形式の開示の違いについて教えてください。
A 比較情報とは
平成23年6月第1四半期より「過年度遡及修正会計基準」が適用されています。これにより、会計方
針や表示方法の変更、過去の誤謬の訂正があった場合には、あたかも新たな会計方針や表示方法等を過去
の財務諸表に遡って適用していたかのように会計処理又は表示の変更等が行われることとなりました。
この過年度遡及修正会計基準の適用は、当期及び前期の財務諸表の2期比較形式で決算に係る情報を提
供してきた金融商品取引法上の開示に大きな影響を与えることとなりました。金融商品取引法上の開示に
おいて、従来は当期の財務諸表と並記して、前期に開示した財務諸表をそのまま開示してきました。しか
し、過年度遡及修正会計基準の適用後は、比較開示すべき前期の財務諸表は「当期の財務数値に対応する
前期の財務数値(比較情報)
」と整理し直され、必ずしも前期に開示した財務諸表と当期における比較情
報が同一とならないケースが想定されることとなりました〈図表3参照〉
。この比較情報における前期の
財務数値は、当期の財務数値の一部として位置付けられ、当四半期に係る財務諸表に対する監査証明の範
囲に含まれています。
開示された平成23年6月第1四半期に係る四半期報告書を見ますと、一見従来となんら変わりないよ
うにみえますが、比較開示すべき情報の概念が大きく変化していることに留意が必要です。
〈図表3〉四半期連結財務諸表規則における比較情報に係る規定
四半期連結財務諸表規則
四半期連結財務諸表規則ガイドライン
(比較情報の作成)
第五条の三 当四半期連結会計期間及び当四半期連結累
計期間に係る四半期連結財務諸表は、当該四半期連結財
務諸表の一部を構成するものとして比較情報(次の各号
に掲げる四半期連結財務諸表の区分に応じ、当該四半期
連結財務諸表に記載された事項に対応するものとして当
該各号に定める事項)を含めて作成しなければならない。
一 四半期連結貸借対照表 前連結会計年度に係る事項
二 四半期連結損益計算書及び四半期連結包括利益計算
書 前連結会計年度の対応する四半期連結会計期間及び
四半期連結累計期間に係る事項
三 四半期連結キャッシュ・フロー計算書 前連結会計
年度の対応する四半期連結累計期間に係る事項
5の3 規則第5条の3に規定する比較情報に関して
は、以下の点に留意する。
1 当四半期連結会計期間及び当四半期連結累計期間に
係る四半期連結財務諸表において記載されたすべての数
値について、原則として、前連結会計年度並びに当該連
結会計年度の対応する四半期連結会計期間及び四半期連
結累計期間に係る数値を含めなければならない。
2 当四半期連結会計期間及び当四半期連結累計期間に
係る四半期連結財務諸表の理解に資すると認められる場
合には、前連結会計年度並びに当該連結会計年度の対応
する四半期連結会計期間及び四半期連結累計期間に係る
定性的な情報を含めなければならない。
財務諸表への影響
比較情報としての前期の財務諸表に一番大きな影響を与えるのは、会計方針の変更及び表示方法の変更
が生じた場合であると考えられます。従来は、並記すべき前期の財務諸表は、訂正報告書により前期財務
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諸表が訂正されない限り、前期に開示された財務諸表とされ、変更の内容は注記にて開示がなされてきま
した。過年度遡及修正会計基準の適用後は、会計方針や表示方法の変更が生じた場合に、原則として過去
の財務諸表に遡って適用していたかのように会計処理又は表示の変更等が行われることから、比較情報と
して開示すべき前期の財務諸表は修正された後の前期の財務諸表となります。この場合にも、重要な会計
方針の変更である場合は、当該変更の内容が併せて開示されます。
〈開示事例〉
㈱ミクシィ(平成23年6月第1四半期)
【主要な経営指標等の推移】
(表略)
(注)4.
「第4 経理の状況 1 四半期連結財務諸表 会計方針の変更等(売上高の会計処理の変更)
」
に記載のとおり、従来、販売費及び一般管理費に計上していた販売手数料及び販売促進費の一部につい
て、当第1四半期連結会計期間より、売上高から控除する方法(純額表示)に変更を行ったため、当該変
更を反映した遡及適用後の数値を記載しております。
【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
⑴ 業績の状況
(略)
また、
「第4 経理の状況 1 四半期連結財務諸表 会計方針の変更等(売上高の会計処理の変更)」に記
載のとおり、従来、販売費及び一般管理費に計上していた販売手数料及び販売促進費の一部について、当
第1四半期連結会計期間より、売上高から控除する方法(純額表示)に変更いたしました。なお、当該会
計方針の変更は遡及適用され、前第1四半期連結累計期間については遡及適用後の数値を記載しておりま
す。
(略)
【会計方針の変更等】
当第1四半期連結累計期間
(自 平成23年4月1日 至 平成23年6月30日)
(売上高の会計処理の変更)
従来、販売費及び一般管理費に計上していた販売手数料及び販売促進費の一部について、当第1四半期
連結会計期間から、売上高から控除する方法(純額表示)に変更いたしました。
当該会計処理の変更は、会計制度委員会研究報告第13号「我が国の収益認識に関する研究報告(中間
報告)
」の公表を契機に、当第1四半期連結会計期間において広告枠の新たな販売形態の契約締結を開始
することを踏まえ、広告取引の内容を全体的に再検討したところ、広告取引全般における取引価格の決定
プロセスにおいては、広告掲載料が独立して決定されるものではなく、販売手数料及び販売促進費も取引
価格を構成する要素として考慮した上で決定されており、実質的には販売手数料及び販売促進費が広告掲
載料を構成する一部として捉えられることから、取引をより適切に反映するために行うものであります。
当該会計方針の変更は遡及適用され、前第1四半期連結累計期間及び前連結会計年度については遡及適
用後の四半期連結財務諸表及び連結財務諸表となっております。
この結果、遡及適用を行う前と比べて、前第1四半期連結累計期間の売上高、販売費及び一般管理費は
それぞれ898百万円減少しておりますが、営業利益、経常利益および税金等調整前四半期純利益への影
響はありません。
(以下略)
なお、誤謬の訂正が生じた場合にも前期の財務諸表が修正再表示されることになりますが、この点につ
いて、
【新起草方針に基づく改正版】
「過年度の比較情報―対応数値と比較財務諸表」
(監査基準委員会報
告書第63号)前書きにおいて、
「なお、会計基準上、過去の財務諸表に重要な誤謬があった場合には、修
正再表示を行うことになっております。一方、金融商品取引法上、重要な事項の変更等を発見した場合訂
正報告書の提出が求められていることから、一般的には過去の誤謬を比較情報として示される前期数値を
修正再表示することにより解消することはできないと考えられます。したがって、本報告書における過去
の誤謬の修正再表示に関する要求事項等については、金融商品取引法の監査においては、通常は適用され
ないことにご留意ください。
」との見解が示されているため、その適用にあたって今後の実務動向に十分
留意が必要と思われます。
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金融商品取引法
注記事項への影響
比較情報概念の導入は財務諸表だけではなく注記事項にも影響を与えています。すなわち、従来は注記
事項においても前期財務諸表において開示したものを繰り返し記載するだけで十分でしたが、比較情報の
開示においては、当期財務諸表に記載されたすべての数値について、原則として、対応する前年に係る財
務数値を記載することが求められます。その結果、前期に開示していない情報であっても当期の数値に対
応する数値と認められる場合にはあらためて前期に係る開示が求められる場合や、前期に開示した内容が
当期の比較情報として意味をもたないため記載が不要となる場合が生じる可能性があります。各注記事項
における比較情報をどう考えるかについての詳細な規定は定められていないため、四半期財務諸表の理解
に資すると認められる場合に該当するか否かについて、ケース・バイ・ケースでの慎重な検討が求められ
ます。
Q2 子会社がなくなり、当四半期から連結非作成会社となりました。当四半期損益計算書に対応する比
較情報として前年同四半期の損益計算書・キャッシュ・フロー計算書を作成・開示すべきでしょう
か。
A 当四半期より連結非作成会社となりましたので、前期に属する四半期においては、個別に係る四半期財
務諸表を開示していません。そのため、当四半期財務諸表に対応する比較情報をどうとらえるかが問題と
なります。
この点について、貸借対照表については前事業年度末の個別貸借対照表を開示し、損益計算書及びキャ
ッシュ・フロー計算書については前年同四半期に係るものの開示は要しないと考えられています。なお、
任意に前年同四半期を開示する場合は、当該前年同四半期の損益計算書及びキャッシュ ・フロー計算書に
ついて監査人のレビューを受ける必要がありますのでご留意ください。
〈開示事例〉
森尾電機㈱(平成23年6月第1四半期)
【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
文中の将来に関する事項は、当四半期会計期間の末日現在において当社が判断したものであります。な
お、当社は前年同四半期の四半期財務諸表を作成していないため、前年同四半期累計期間との比較につい
ては記載しておりません。
(以下略)
第4【経理の状況】
1.四半期財務諸表の作成方法について
当社の四半期財務諸表は、
「四半期財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」
(平成19年内
閣府令第63号。以下「四半期財務諸表等規則」という。)に基づいて作成しております。
当社の唯一の連結子会社であった上海森尾電器有限公司は、平成23年6月17日に清算結了いたしま
した。これにより当社は、当第1四半期会計期間及び当第1四半期累計期間から初めて四半期財務諸表を
作成しているため、前第1四半期累計期間の四半期損益計算書は記載しておりません。
(以下略)
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国際会計基準
正しい理解に基づくIFRS議論の
必要性
橋本 尚
総合ディスクロージャー研究所顧問 (青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授)
1.はじめに
国 際 財 務 報 告 基 準(IFRS) を め ぐ っ て は、
す。その意味では、ある意味で地域性といいますか、
ローカル性を持ったものであろうと思います。国際
2011年2月に、国際会計基準審議会(IASB)の
会計基準も、実はそうではないかと、つまり、国際
アジア・オセアニア地域のサテライト・オフィスの
資本市場というあるローカルな場において通用する
東京招致正式決定と6月30日で2期10年の任期を
会計の基準であって、これをその国の会計基準とし
満了する山田辰己理事に替わって、これまでIFRS
てその国に受け入れさせるというのは、これはいさ
解釈指針委員会委員を務めてこられた鶯地隆継氏が
さか問題があるのではないかと」1 といった発言に
7月1日からIASB理事に就任するという2つの朗報
代表されるように、IFRSに関する誤解やグローバ
が我が国にもたらされた。これらの朗報は、過去の
ル社会の実態から大きく乖離した議論が多々見ら
紆余曲折はあったにせよ、近年の我が国のIFRSに
れ、今後の議論の方向性が大いに危惧されるところ
対する積極的な姿勢が評価されたものといえよう。
である。加えて、6月30日の企業会計審議会総会・
このように本年も順調なスタートが切れたと思わ
企画調整部会合同会議の冒頭挨拶 2 において、自見
れていた矢先の3月11日に未曾有の東日本大震災
大臣は「今後予定される開発費やのれんの基準開発
が発生し、復旧・復興が最優先の課題となった。今
等、会計基準委員会(ASBJ)での活動が今般の内
般 の 大 震 災 の 発 生 し た 1 1 日 と い う 日 付 か ら、
外情勢の変化を踏まえたものとなっていくよう、
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロと結び
ASBJの活動に委ねるのではなく、この審議会でコ
つけて議論されることも多いが、会計・監査・コー
ンバージェンスの方向性をしっかりと議論していた
ポレート・ガバナンスの世界でも、同年12月2日
だきたいと考えております」とまで言及された。こ
にエンロン事件が勃発したことが想起される。これ
れは、本年で10周年を迎える民間機関による我が
との対比において、6月21日に金融庁のホームペー
国企業会計基準の設定という流れに逆行するばかり
ジに掲載された自見庄三郎金融担当大臣談話―
か、中立性、透明性、誠実性を旨とし、政治の介入
IFRS適用に関する検討について―は、我が国にお
を避けるために会計プロフェッションの手に委ねら
ける国際会計基準の取扱いをめぐる議論を「政治主
れてきた会計基準開発のあり方に関する国際的常識
導」の名の下に一変させ、大きな混迷をもたらす、
と伝統に対する挑戦的発言であり、きわめて由々し
まさに良識ある多くの会計・監査関係者にとって
き問題である。
は、「想定外」のできごとであった。その後、6月
本稿においては、我が国におけるIFRS議論の混
30日と8月25日に開催された企業会計審議会総
迷の発端ともいうべき、2010年12月に東京財団
会・企画調整部会合同会議では、新たに任命された
から公表された「日本のIFRS(国際財務報告基準)
臨時委員を中心に2009年6月公表の「我が国にお
対応に関する提言」3 を批判的に検討することで、
ける国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報
正しい理解に基づくIFRS議論の必要性をあらため
告)
」における議論を大幅に変更するような見直し
て指摘していきたい。
論や慎重論が台頭してきている。その中には、
「先
ほど、大臣がご指摘になりましたように、私は会計
2.
「日本のIFRS(国際財務報告基準)対応に関す
士制度あるいは会計基準というのは、まさにその国
る提言」の批判的検討
の文化を反映したものである必要があると思うので
本提言にあたっては、会計専門家の関与が少ない
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/gijiroku/soukai/20110630.html
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/hatsugen/soukai/20110630/01.pdf
http://www.tkfd.or.jp/admin/files/2010-12.pdf
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国際会計基準
ためか、会計理論や会計基準に関する記述には、日
理解ではない。この表現はすべての資産・負債
本基準とIFRSの正確な知識・理解に欠けるのでは
が公正価値で測定される場合には当てはまる
ないかと思われる部分が散見される。特にIFRSの
が、IFRSの下でも日本基準と同様に、資産・
内容に対しては、あたかも完全時価主義会計と財産
負債項目は、取得原価(低価法、減損会計を適
法での損益計算が求められているような極端なイ
用する場合を含む)で測定されるものと公正価
メージに基づく議論が展開されており、公正価値測
値で測定されるものとが混在しているため、
定の範囲・手法に関しても、一部のセンセーショナ
IFRSにおける包括利益は、将来キャッシュ・
ルな記事や書籍の主張にかなり影響されているよう
フローの増分を示すものではない。
「当期純利益は過去の業績であり、包括利益
な大きな誤解が見られる。
は将来の予測である」(8頁)というのも、正
⑴ 「資産負債アプローチとその問題点」について
しい理解ではない。包括利益も当期純利益と同
第2章の⑴の資産負債アプローチとその問題
様に過去の「業績」を示すものであるが、むし
点の全体を通じて、日本基準は「収益費用アプ
ろ、業績に含まれる範囲が異なるものと理解す
ローチ」=「取得原価会計」=「利益=収益-
べきであろう。IFRSは究極的には当期純利益
費用」という特徴を有しているのに対して、
の廃止を目指しており、現時点で当期純利益の
IFRSは「資産負債アプローチ」=「公正価値
表示を認めているのは、妥協の産物にすぎない
会計」=「利益=持分の純増」との単純化され
とか、過渡的な状態であるとの見方があるが、
た構図で論旨が組み立てられているが、日本基
最近のIASBがアウトリーチ活動を行うなど広
準、IFRSともに必ずしもこのような極端な対
く利害関係者の意見を聞きながら柔軟性をもっ
峙関係にあるものではなく、単純化した構図で
て基準開発を行っている状況を正しく見てほし
の議論の展開には、思わぬ落とし穴がある。こ
い。
うした反対論に対しては、次の見解を指摘して
IFRSが包括利益を表示することに対する批
判も多いが、2011年3月期からは、日本基準
おけば十分であろう。
「周知のとおり、会計基準を新たに設定する
においても連結財務諸表において包括利益概念
局面でも、あるいは既存の会計基準を説明する
が導入されており、包括利益に対する批判の多
局面でも、
『財産法か損益法か』
『時価主義か原
くは日本基準にも当てはまるので、今後は、こ
価主義か』といった二項対立の図式がしばしば
うした観点からのIFRS批判は沈静化していく
登場する。時にはそれらが議論を整理するため
ものと思われるが、当期純利益が唯一絶対的な
の道具という本来の役割を超えて拡大され、い
業績指標ともいえない。もっとも「その他の包
ずれか一方を全面的・排他的に適用して基準を
括利益」の内容については、組替調整(リサイ
作るのが理論的な整合性だと思い込んだり、一
クル)の問題を含めて、IASBも今後議題とし
方から他方への不可逆的な流れとして歴史をと
て取り上げ、詳細に検討していく予定にしてい
らえたりするステレオ・タイプの主張に結びつ
るので、そこでの議論の動向に注視していきた
いてきたようである。
い。
しかし、こうした二項対立の構図は、もとも
また、収益費用アプローチによって計算され
と両者の間のバランスによって基準の体系や変
る利益は「正確」であるとの主張が繰り返しな
化を理解する道具であって、どちらか一方だけ
されているが(9頁、10頁)、利益の「正確」
を適用して他を排除する教義やイデオロギーの
性とは何かという点や収益費用アプローチによ
類ではなかったはずである。会計基準の歴史を
り「正確」な利益が計算される根拠については、
振り返れば、むしろ基準形成の理念では対立す
必ずしも明示されていない。業績表示のあり方
る両極の一方を交互に選択しながら、具体的な
に関しては、包括利益か当期純利益かの二者択
個別基準ではいわば両者の組み合わせを少しず
一ではなく、複数の業績指標を必要に応じて利
つ変えることで、直面する問題の解決を図って
用するアプローチが利用者のさまざまなニーズ
きたというのが実態に近い。
」
を満たすことになると考えられる。他方で、特
4
「IFRSにおける包括利益は将来キャッシュフ
ローの増分」である(8頁)とあるが、正しい
別損益項目や非継続事業からの損益の取扱いに
ついては、日本基準の再考が必要であろう。
斉藤静樹編著『討議資料 財務会計の概念フレームワーク第2版』中央経済社 平成19年 5頁。
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「IFRSにおいて当期純利益の表示を残してい
れているが(11-12頁)
、再評価モデルまた
るのは、実務ニーズと政治闘争の妥協の産物に
は公正価値モデルの下で使用される公正価値
すぎない」
(8頁)とあるが、これはIASBが利
は、その定義にもあるとおり(10頁)、市場参
害関係者の意見を聞きながら柔軟性をもって基
加者にとっての価値をいい、特定の企業にとっ
準開発を行っていることの証左でもある。また、
ての(個別の企業の個別の使用方法を想定した)
金融庁が会計知識の無い国民に対してごまかし
価値ではない。したがって、このような懸念は
を行っているという主張(9頁)も根拠に乏し
直接には当てはまらない。経営者による将来キ
いと思われる。
ャッシュ・フローの予測は、むしろ、減損会計
利益操作の懸念について、一部の公正価値の
を適用した場合の使用価値の算定時に必要とな
算定における恣意性の介入の可能性をもって、
るが、これはIFRSと日本基準共通の会計処理
利益操作防止の趣旨を否定する見解が示されて
である。
いるが(10頁)
、例えば、含み益を有する資産
金融負債に関しても、公正価値測定につい
の売却による益出し等の可能性など、取得原価
て、格付けの引き下げにより企業の信用力が低
会計の下での利益操作の可能性と比較の上で主
下した場合に負債の公正価値測定によって利益
張を行うべきである。長年保有し続けた株式を
が生じるという「ダウングレーディングのパラ
当期に売却して得た利益を実現利益として売却
ドックス」の問題がしばしば指摘されるが、
した期の業績とすることは、益出しによる利益
IFRSの下で金融負債の時価評価が行われるの
操作の温床にもなるので適切とはいえないし、
は、売買目的保有であるか、あるいは、公正価
むしろ、株式の含み損益は、株価変動というリ
値オプションを適用した場合のみであり、時価
スクをとった結果として、未実現であるとして
評価の範囲は限定的である。また、公正価値オ
も純損益またはその他の包括利益として発生し
プションの適用は、公正価値で測定しなけれ
た期の業績と捉えて計上すべきである。
ば、資産・負債の測定のミスマッチが生じる場
合や金融負債が公正価値で管理されているポー
⑵ 「公正価値会計とその問題点」について
トフォリオに含まれる場合等に限られるため、
第2章の⑵の公正価値会計とその問題点で
金融負債の公正価値測定による損益がオフバラ
は、悪意ある経営者により公正価値が恣意的に
ンスとなっている資産側ののれんの価値の変動
決定された代表例としてエンロン事件が挙げら
と紐つくケースは想定しにくい。また、例示さ
れている(11頁)が、第一に、エンロン事件
れるような「カリスマ経営者の死亡等により企
はアメリカ基準の下で起こった事件であり、む
業の生み出す将来キャッシュフローの減少が予
しろ、細則主義の裏をつかれた例と捉えるのが
想される場合(12-13頁)
」では、非金融資
一般的である。また、エンロン事件の主要なス
産の減損損失が認識されるケースが多いと想定
キームは、公正価値測定を恣意的に行ったとい
され、事業からの十分な収益性を維持している
うよりも、特別目的事業体(SPE)等の連結
場合を除き、金融負債からの利益のみが認識さ
はずしによって公正価値測定を回避したもので
れることは考えにくい。そもそもこのような問
ある。同様のスキームへの脆弱性は、原則主義
題は、
「IFRSの問題というよりは、現在の会計
のIFRSよりもむしろ、現行の日本基準の方が
が抱えるむずかしい問題である。その意味で、
有しているのではなかろうか。
この指摘は適切ではあるものの、IFRSの欠陥
また、IFRSの下では、有形固定資産も公正
価値測定されるような記述となっているが(11
ではなく、現在の会計が持つ論理的な問題点」
5
といえよう。
頁)
、有形固定資産についてIFRSは「原価モデ
ル」と「再評価モデル」を認めており、「再評
価モデル」が採用される例は少ないのが実態で
ある。
⑶ 「プリンシプル・ベースとその問題点」につ
いて
IFRIC(現IFRS解釈指針委員会)が会計処理
有形固定資産等の公正価値測定に当たって経
に係る法的な係争について解釈を示すような可
営者自身が有形固定資産等が生み出す将来キャ
能性が示されているが(15頁)、IFRS解釈指
シュフローの予測を行うことによる懸念が示さ
針委員会による解釈指針は、解釈・運用にめだ
山田辰己「IASBの活動状況―10年の活動を振り返って」平成23年8月24日 一般財団法人会計教育研修機構特別講演会資料 10頁。
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国際会計基準
ったばらつきがある場合にそれについて将来に
⑴、⑵と同様の指摘が当てはまる。すなわち、
向かって混乱を回避し、解釈を統一することを
公正価値測定の範囲と公正価値算定の方法につ
趣旨とするものであり、過去の特定の会計処理
いて必ずしも正しくない理解に基づいた主張が
の是非についての解釈を示すことは本来の趣旨
なされている。測定に関して事業の将来キャッ
ではない。
シュ・フローが関連するものとしては、非金融
また、日本の内部統制報告制度の運用の実態
資産の減損や繰延税金資産の回収可能性の判断
等から我が国において「プリンシプル・ベース
等があげられるが、これらはIFRSと日本基準
が機能するほど会計インフラが成熟していると
の双方において共通の要求事項である
は言えない」との主張がなされているが(15
頁)
、これをもって細則主義(ルール・ベース)
3.むすびにかえて
を肯定するのではなく、むしろ、経営者の説明
今般の大震災をめぐる議論においても多用された
責任(アカウンタビリティー)や責任ある判断
「想定外」という用語は、細則主義に対する原則主
が達成されるように前向きな議論を行っていく
義の優位性をあらためて確信させるものであった。
べきではなかろうか。
なぜなら、いかに膨大な規則を定めたとしても、ま
た、いかに多くの条件、特別の事情および例外を設
⑷ 「比較可能性」という神話」について
けたとしても、それによって、捕捉すべきものすべ
ここでは、プリンシプル・ベースの下で運用
てを捕捉することはできないからである。規則によ
面でのばらつきがあることをもって比較可能性
って捕捉されない無限の事例が次々と出てきたと
の達成の根拠は薄弱と主張されているが(16
き、それを想定外のものとして片づけ、あるいは、
頁)
、IFRSと日本基準を併用する場合など複数
機能不全に陥り思考停止することは、会計基準には
の基準間での比較可能性(例えば、野球とクリ
許されない。この点、原則主義の会計基準は、想定
ケットの比較)と、同一の基準の下での比較可
外の事態に直面したとしても有効に機能するのであ
能性(例えば、野球とベースボールの比較)に
る。いかに網羅的・包括的に定めたとしても、細則
関して、どちらが財務諸表の比較可能性が高い
主義の会計基準には固有の限界があることを認識し
かを総合的に判断すべきである。実際、欧州で
た上で、細則主義から原則主義へと発想の転換を図
は、IFRS導入により同業種の企業間および異
るべきであろう。
なる国の企業間の比較可能性が高まったとする
今後の企業会計審議会の議論において、デュー・
投資家や企業側のアンケート結果も公表されて
プロセスをきちんと踏んだ上で、正しい理解に基づ
いる 。
くIFRS議論が展開され、我が国の進むべき道が決
6
なお、2011年8月31日付で連結財務諸表
定されることを切望するものである。
の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一
部を改正する内閣府令等が公布・施行され、日
本基準、アメリカ基準、IFRS(指定国際会計
基準)が併存するという基準間競争の状況にお
かれることとなっている。
⑸ 「過去の業績と将来予測、どちらが有用か」
について
第3章には、
「過去の業績と将来予測、どち
らが有用か」には、
「経営者にとっても、自ら
の経営の成果を評価するのは、過去の実現した
業績であって、自らの会社の将来の業績を自ら
が予想した数値では経営管理の参考にならな
い」
(18頁)とあるが、ここでも上述の第2章
ICAEW(2007), EU Implementation of IFRS and the Fair value directive - A report for the European Commission.
http://www.icaew.com/index.cfm/route/1 5 1 9 9 1/icaew_ga/pdfお よ びhttp://www.icaew.com/index.cfm/route/
151992/icaew_ga/pdf参照。
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会社法
平成23年3月期決算会社の
株主総会招集通知の
主な記載項目の傾向について
ディスクロージャー研究二部部長 今田 範男
合が大幅に変化するようだが、株主総会開催は分散
今年6月に開催された株主総会の開催日は昨年同
化傾向にあるようである。
様6月29日(水曜日)が集中日であったが、東京
証券取引所の調査によると、この集中日に開催した
所要時間については、1時間を超えた会社が増加
割合は41.2%で昨年の42.6%と比較し、1.4ポイ
し、出席株主についても増加している会社が多くな
ントの減少となっている。
っているようである。
また、昨年は集中日の前日28日が月曜日という
こともあり、前週の金曜日25日開催が23.1%の第
二集中日となっていたが、今年は集中日の前日28
今年3月期決算会社の招集通知に関し、機関投資
日が火曜日であったが、第二集中日は24日(集中
家等からの要望がある事項など関心の高い項目等の
日の前週の金曜日)の17.5%で昨年比5.6ポイン
記載項目・記載内容について弊社顧客先の調査結果
トの減少となっている。ちなみに28日の開催は
をご案内することとし、併せて日経225銘柄のう
14.0%であった。このように集中日といわれてい
ち3月期決算会社200社を対象に調査した結果に
る29日の曜日の関係により、第二集中日の開催割
ついてもご参考に供することとした。
記
1.調査対象会社 ・・・ 上場会社について弊社顧客先の一部
2.対象会社数 ・・・ 863社
3.調査項目
⑴ 議決権行使書・委任状(勧誘府令による)の採用状況
⑵ 招集通知の合冊方式・分冊方式の状況
⑶ 招集通知のカラー化の採用状況
⑷ 狭義の招集通知の記載状況
① 開催場所の変更についての記載の有無
② 提供書類の一部についてのWEB開示の採用状況
③ クールビズ・節電についての記載状況
④ 招集通知の持参依頼についての記載状況
⑸ 事業報告・計算書類・監査報告等についての記載状況
① 会社の支配に関する基本方針についての記載の有無
② 監査役(会)監査報告書に財務報告に関する内部統制についての記載状況
③ 役員報酬の決定方針についての記載の有無
④ 金融商品取引所規定による独立役員についての記載の有無
⑹ 株主総会参考書類についての記載事項
① 役員選任議案における新任候補者マークの記載の有無
② 役員選任議案における候補者の読み仮名の記載の有無
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会社法
4.調査結果
⑴ 議決権行使書・委任状(勧誘府令による)の採用状況
平成23年
議決権行使書・委任状等
社 数
平成22年
比率(%)
比率(%)
議決権行使書
655
75.9
77.2
議決権行使書・インターネット併用
178
20.6
18.1
28
3.3
4.0
2
0.2
0.7
委任状(勧誘府令による)
出席票(上程議案なし)
金融商品取引所の企業行動規範に基づき、株主数が1,000名未満の会社が議決権行使書制度の採用に
変更しており、委任状採用会社が減少している。
また、議決権行使書・インターネット併用を採用する会社が、今年は20.6%と昨年の18.1%から2.5
ポイント増加している。
100.0%
■議決権行使書
■議決権行使書・インターネット併用
80.0%
■委任状
60.0%
■出席票
40.0%
20.0%
0.0%
23年比率(%)
22年比率(%)
⑵ 招集通知の合冊方式・分冊方式の状況
平成23年
合冊方式・分冊方式の別
社 数
平成22年
比率(%)
比率(%)
合冊方式
779
90.2
91.5
分冊方式
84
9.8
8.5
合冊方式から分冊方式に変更している会社が
僅か(1.3ポイント)ではあるが増加した。
■合冊方式
100.0%
■分冊方式
80.0%
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
23年比率(%)
22年比率(%)
ご参考【日経225銘柄3月決算200社では】
分冊方式が28%と高い数字となっているが、
前年比では合冊方式が6社増、分冊方式が6社
減となっており、上記とは異なる調査結果であ
る
合冊・分冊方式
社 数
比率(%)
合冊方式
144
72.0
分冊方式
56
28.0
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■分冊方式
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
51 |
■合冊方式
80.0%
比率(%)
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招集通知の作成方法については、日本証券投
資顧問業協会と企業年金連合会から各金融商品
取引所・日本経団連・全国株懇連合会等に対し
を抑え、合冊方式に回帰する会社もあるように
思われる。
一方、会社情報の開示量の増加に伴って、
調査・整理等の便宜上、合冊方式で作成するよ
IR要素を加味した事業報告等を作成し、決議
う要望がなされており、議決権行使助言会社の
通知に同封していた事業報告書(株主通信)を
ISS等も上場会社に対し同様の要望を行って
作成せず、分冊方式によりコスト削減等を図る
いる。そうしたことから、特に株主数が多い会
会社も増加しているようである
社において、ウェブ開示を採用することで頁数
⑶ 招集通知のカラー化の採用状況
採用の有無
社 数
比率(%)
採 用
84
9.7
不採用
779
90.3
株主に見やすい招集通知のカラー化を採用す
る会社が増加傾向にある。
■採用
100.0%
■不採用
80.0%
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
比率(%)
ご参考【日経225銘柄3月決算200社では】
採用の有無
社 数
比率(%)
採 用
85
42.5
不採用
115
57.5
■採用
60.0%
■不採用
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
比率
(%)
⑷ 狭義の招集通知の記載状況
① 開催場所の変更についての記載
記載の有無
平成23年
社 数
平成22年
比率(%)
比率(%)
記載あり
78
9.0
8.6
記載なし
785
91.0
91.4
変更理由としては、出席株主数の増加によ
る株主総会場の収容人員の関係やビジュアル
化による使用機器の設置等、あるいは本店所
80.0%
在地の変更によるものが主な理由となってい
60.0%
る。
■記載あり
100.0%
■記載なし
40.0%
20.0%
0.0%
23年比率(%)
22年比率(%)
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会社法
② 提供書類の一部についてのWEB開示の採用状況
平成23年
採用の有無
社 数
平成22年
比率(%)
比率(%)
採 用
66
7.6
1.5
不採用
797
92.4
98.5
WEB開示の内容は連結計算書類および単
体の計算書類の注記表が多く、業務の適正を
確保するための体制あるいは会社の支配に関
80.0%
する基本方針についても見受けられる。
60.0%
昨年WEB開示した会社と比較すると5.1
ポイントの大幅増加である。
■採用
100.0%
■不採用
40.0%
増加の要因として、招集通知作成事務の簡
20.0%
素化、開示情報量の増加による諸経費の圧
0.0%
縮、資源節約が考えられる。
23年比率(%)
22年比率(%)
ご参考【日経225銘柄3月決算200社では】
採用している会社は67社、33.5%であった。
昨年との比較では42社、23ポイントの増加と
70.0%
なっている。
60.0%
採用の有無
社 数
比率(%)
採 用
67
33.5
不採用
133
66.5
■採用
■不採用
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
比率(%)
③ クールビズ・節電についての記載状況
記載の有無
社 数
比率(%)
記載あり
76
8.8
記載なし
787
91.2
原発事故の影響により、節電に関する関心
が高まったこともあり記載した会社が9%弱
■記載あり
100.0%
あった。昨年に比較し大幅に増加したものと
80.0%
思われる。
60.0%
■記載なし
40.0%
20.0%
0.0%
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比率(%)
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④ 招集通知の持参依頼についての記載状況
記載の有無
社 数
比率(%)
記載あり
41
4.8
記載なし
822
95.2
「資源節約のため」として、招集通知の持
参依頼を記載しているのが見受けられる。実
際には株主総会に出席する株主のほとんどが
80.0%
招集通知を持参しており、環境保護にも配慮
60.0%
していることを訴求するものと考えられる。
■記載あり
100.0%
■記載なし
40.0%
20.0%
0.0%
比率(%)
⑸ 事業報告・計算書類・監査報告等についての記載状況
① 会社の支配に関する基本方針についての記載の有無
平成23年
基本方針の有無
社 数
平成22年
比率(%)
比率(%)
基本方針あり
213
24.7
23.2
基本方針なし
650
75.3
76.8
本方針を記載している会社は、多くが敵対
的買収防衛策を導入しているが、昨年より導
入会社が横ばいとなっていることを反映した
ものと思われる。
■基本方針あり
80.0%
■基本方針なし
70.0%
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
23年比率(%)
22年比率(%)
上記、基本方針なしの会社において基本方針がない旨の記載の状況
平成23年
記載の有無
社 数
平成22年
比率(%)
比率(%)
記載あり
212
32.6
32.8
記載なし
438
67.4
67.2
■記載あり
70.0%
■記載なし
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
23年比率(%)
22年比率(%)
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会社法
② 監査役(会)監査報告書に財務報告に関する内部統制についての記載状況
平成23年
記載の有無
社 数
平成22年
比率(%)
比率(%)
記載あり
288
33.4
40.7
記載なし
575
66.6
59.3
平成19年に改正された日本監査役協会の
監査基準において会計監査の適正性および信
頼性確保のために監査役が果たすべき責務に
ついて必要な規定化を図ったこともあり、そ
の後、財務報告の信頼性についての記載が見
受けられるようになり、徐々に増加傾向にあ
■記載あり
70.0%
■記載なし
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
った。今年3月10日に日本監査役協会の監
10.0%
査基準において用語の変更等様々な改正があ
0.0%
った。監査基準の改正に伴い監査役(会)報
23年比率(%)
22年比率(%)
告書のモデルも改正され、この新たなモデル
を参考に作成したものと思われ、昨年記載し
た割合と比較すると7.3ポイント減少した。
③ 役員報酬の決定方針についての記載の有無
においても同様に表形式で報酬の種類ごとに
企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
記載しているかどうかを調査したものであ
に伴い、有価証券報告書で役員報酬の決定の
る。
方針が開示されている。これに伴い事業報告
記載の有無
社 数
比率(%)
記載あり
51
6.0
記載なし
798
94.0
* 委員会設置会社14社を除く。
■記載あり
100.0%
■記載なし
80.0%
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
比率(%)
ご参考【日経225銘柄3月決算200社では】
採用している会社は48社、25.5%であった。
記載の有無
社 数
比率(%)
記載あり
48
25.5
記載なし
140
74.5
*上記のほか委員会設置会社12社あり。
■記載あり
80.0%
■記載なし
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
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比率(%)
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④ 金融商品取引所規定による独立役員についての記載の有無
平成23年
記載の有無
社 数
平成22年
比率(%)
比率(%)
記載あり
687
79.6
50.5
記載なし
176
20.4
49.5
東京証券取引所のQ&Aで積極対応が推奨
されていたこと、議決権行使助言機関の要望
に加え、昨年の各社の記載状況が予想外に多
■記載あり
80.0%
■記載なし
60.0%
かったためか、大幅な増加となっている。
40.0%
20.0%
0.0%
比率(%)
ご参考【日経225銘柄3月決算200社では】
記載した会社は昨年とほぼ同数となっている。
記載の有無
社 数
比率(%)
記載あり
160
80.0
記載なし
40
20.0
■記載あり
80.0%
■記載なし
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
比率(%)
⑹ 株主総会参考書類についての記載事項
使助言会社等の要望もあり、株主の利便性向上
新任候補者のマークおよび役員候補者の読み
の観点から、記載している会社が増加してい
る。
仮名については、株主へのサービスや議決権行
① 役員選任議案における新任候補者マークの記載の有無
記載の有無
社 数
比率(%)
記載あり
247
38.8
記載なし
390
61.2
*役員選任議案の上程において新任候補者が
いた会社は637社となっている。
■記載あり
70.0%
■記載なし
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
比率(%)
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会社法
ご参考【日経225銘柄3月決算200社では】
昨年との比較では18ポイント増加している。
記載の有無
社 数
比率(%)
60.0%
記載あり
97
58.8
50.0%
記載なし
68
41.2
40.0%
■記載あり
■記載なし
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
比率
(%)
② 役員選任議案における候補者の読み仮名の記載の有無
記載の有無
社 数
比率(%)
記載あり
555
66.5
記載なし
280
33.5
*役員選任議案のない会社が28社あった。
■記載あり
70.0%
■記載なし
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
比率(%)
ご参考【日経225銘柄3月決算200社では】
昨年との比較では15ポイント増加している。
記載の有無
社 数
比率(%)
記載あり
190
95.0
記載なし
10
5.0
■記載あり
100.0%
■記載なし
80.0%
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
比率(%)
以 上
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会社法
中小企業に関する会計指針の動向
六川 浩明
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 弁護士 (成城大学法学部講師)
(首都大学東京 産業技術大学院大学講師)
1.はじめに
不正会計等に基づく有価証券報告書等の虚偽記載
事件等に対して課徴金が課せられる制度が平成17
られている(金商法関連法令である財務諸表等規則
1条2項、1条3項、連結財務諸表等規則1条2項、
1条3項)。
年証取法改正によって導入され、証券取引等監視委
未上場会社のうち金商法開示会社については、金
員会のHPにおいて毎年課徴金事例集が公表されて
商法が適用されるから、金商法関連法令である財務
いる。近年、上場会社の複雑な不正会計事件が継続
諸表等規則や連結財務諸表等規則が強制適用される
して発生しており、それらのうち監査役が経営者に
し、未上場会社のうち、会社法上の大会社には、会
よる不正会計処理を発見し監査役としての善管注意
計監査人制度が強制適用されるから、これらの企業
義務を果たしていれば、有価証券報告書虚偽記載事
の会計監査は、会計の専門家である監査法人や公認
件の発生を未然に防止し得たのではないかと思われ
会計士の監査を受けることとなる。
る事件が散見されることから、未上場の時代から、
ところが、未上場会社のうち、金商法開示会社及
監査役が、中小企業の会計に関するルールをきちん
び会社法上の大会社以外の約260万の会社につい
と理解し不正会計が発生しないような内部体制を構
ては、主として取得原価に基づく会計処理が行わ
築しておくことも重要であると思われる。
れ、確定決算主義(法人税法74条。会社法上の計
上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)にお
算書類に記載された当期利益に、税法に従った加算
いて直前5事業年度の財務諸表の開示が求められる
減算を行って、課税所得を申告するという制度。)
ことに加え(開示府令第二号の四様式、第二号様式
に基づく税務申告が計算書類作成の目的の大きな割
記載上の注意(25)
)
、上場審査基準によれば上場
合を占めており、税務会計のみに基づき計算関係書
申請直前期から遡って2年間(又は3年間)
(東証有
類が作成されるケースが多い。
価証券上場規程205条6号)が利益基準の対象期間
となるから、その2年間(利益基準において3年間
3.中小企業の会計に関する指針
のパターンを選択する場合は3年間)の金融商品取
この点、平成17年8月に「中小企業の会計に関
引法に準じた公認会計士(監査法人)の監査証明を
する指針」(日本税理士会連合会、日本公認会計士
取得する必要がある。したがって、監査役は、少な
協会、企業会計基準委員会、日本商工会議所)が公
くとも上場申請直前期から遡って5年間会社法違反
表された。その目的は「中小企業が、計算書類の作
とならないように当該未上場会社の会計監査を行っ
成に当たり、拠ることが望ましい会計処理や注記等
ておく必要がある。
を示すものである。このため、中小企業は、本指針
に拠り計算書類を作成することが推奨される。」と
2.中小企業の会計基準
されており、
「本指針は、とりわけ会計参与が取締
上場、未上場を問わず、株式会社の監査役は、
「一
役と共同して計算書類を作成するに当たって拠るこ
般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」(会社
とが適当な会計のあり方を示すものである」として
法431条)にしたがって会計監査を行わなければ
いる。
ならない。
上場会社にとっては、企業会計審議会及び企業会
4.中小企業向けの新指針
計基準委員会(ASBJ)が公表する会計基準が、財
平成22年6月、日本商工会議所など7団体が中小
務諸表及び連結財務諸表が従うべき一般に公正妥当
企業団体の総意として、現状の中小企業の経営の実
と認められる企業会計の基準に該当することが定め
態に合わない会計基準の問題点を指摘したうえ、中
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会社法
小企業の実態に即した会計基準を新たに策定するこ
6.
「非上場会社の会計基準に関する懇談会 報告書」
とを骨子とする「中小企業の実態に即した会計基準
「非上場会社の会計基準に関する懇談会 報告書」
の策定に関する意見」
(平成22年6月)を公表した。
それに対応する2つの報告書が公表されている。1
(平成22年8月30日公表)には、次のような事項
が指摘されている。
つは、中小企業庁が事務局である「中小企業の会計
①非上場会社、とりわけ中小企業への会計基準の
に関する研究会 中間報告書」
(座長:江頭憲治郎教
国際化の影響を回避又は最小限にすべきという
授、平成22年9月公表)であり、もう1つは、経団
問題意識に基づき作成されている。
連など5団体が共同事務局を構成する「非上場会社
の会計基準に関する懇談会 報告書」(座長:安藤英
義教授、平成22年8月30日公表)である。
②会社法上の大会社以外の会社について、2つの
対応が示されている。
1点目は、会社法上の大会社以外の会社につい
て、一定の区分を設け、その区分に該当するものに
5.
「中小企業の会計に関する研究会 中間報告書」
ついては、中小指針とは別に新たな会計指針を作成
「中小企業の会計に関する研究会 中間報告書」
することとする。一定の区分の区分方法については、
(平成22年9月公表)には、次のような事項が指摘
されている。
会社の属性(同族会社、法定監査対象外の会社、会
計参与の設置を当面予定していない会社、資金調達
①中小企業の実態を踏まえ、中小企業の成長に資
の種類、財務諸表の開示先等。将来上場を目指す企
するべきものとする視点を議論の出発点とすべ
業は対象外とする)を考慮する等という案が出され
きである。
ている。また、次の点も指摘されている。
②中小企業が会計実務の中で慣習として行ってい
る会計処理(法人税法、企業会計原則に基づく
・中小企業の実態に即し、中小企業の経営者に容
易に理解されるものとする。
ものを含む)のうち、会社法の「一般に公正妥
・国際基準の影響を受けないものとする。
当と認められる企業会計の慣行」と言えるもの
・法人税法に従った処理に配慮するとともに、
「一
を整理する。
③企業の実態に応じた会計処理も選択できる幅の
あるもの(企業会計基準や「中小企業の会計に
関する指針」の適用も当然に認められるもの)
とする。
④中小企業の経営者が理解できるよう、できる限
般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」
(会
社法431条)に該当するよう留意する。
・新たに設ける会計指針の作成主体は、中小企業
庁の研究会の動向も踏まえて、今後検討する。
2点目は、「中小企業の会計に関する指針」につ
いて、平易な表現に改める等というものである。
り専門用語や難解な書きぶりを避け、簡潔かつ
平易で分かりやすく書かれたものとする。
7.2つの報告書
⑤新指針は、会社法及び関係法令で認められてい
上述した「中小企業の会計に関する研究会 中間
る枠内の会計処理の体系とすべきであり、これ
報告書」及び「非上場会社の会計基準に関する懇談
に適切に準拠している場合には、その会計処理
会 報告書」においては、中小企業版の新たな会計
は会社法上適法であると事実上推定が及ぶもの
ルールを作成する必要があるという点で一致してい
とすべきである(36頁)
。
るが、その新たな会計ルールは、
「中小企業の会計
⑥利害関係者にとって必要かつ十分な情報が包含
に関する指針」を改正するものではなく、
「中小企
されることが重要であり、中小企業の経理体
業の会計に関する指針」とは別の新たな指針を策定
制、実務における会計慣行、法人税法で定める
することが想定されている。即ち、未上場会社のう
処理との親和性を考慮し、これらを可能な範囲
ち、金商法開示会社及び会社法上の大会社を除く、
で適切な会計処理として認めるべきである。
約260万の会社については、「中小企業の会計に関
⑦新指針の改定作業は数年に一度にとどめ、安定
する指針」と新指針の2つが、選択的に適用されて
的なものにすべきである。
いくことが予定されている。
⑧IFRSやIFRSへのコンバージェンスが進んでい
る会計基準を中小企業に適用させることの意義
は乏しく、現実的とはいえない。世界各国で、
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8.中小企業の会計に関する検討会
平成23年に入り、中小企業庁及び金融庁の共同
非上場企業(中小企業)に対してIFRSの適用
事務局による中小企業の会計に関する検討会におい
を強制している国は少ない。
て、新指針の策定に関する議論が始まっている。
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新指針は、中小企業の実態に即し中小企業の経営
者に容易に理解されること、国際基準の影響を受け
ないこと、税務との親和性のあるものとすること、
法人税法に従った処理に配慮するとともに会社法
431条に定める一般に公正妥当と認められる企業
会計の慣行に該当するよう留意すること等に基づい
て策定されることとが予定されている。自社の経営
に役立つこと、利害関係者への情報提供を行うこ
と、会計と税の調和を図ること、過重な事務負担を
かけないこと等の観点から、検討されていくようで
ある(平成23年8月10日 中小企業の会計に関す
る検討会第8回ワーキンググループ)
。
9.唯一の公正なる会計慣行
「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」
(会社法431条)の解釈について、近時の長銀事件
判決(最判平成20年7月18日)は、平成9年の旧
大蔵省の資産査定通達等に基づく決算経理基準のよ
うに、従うべきとされる会計処理の方法が定められ
たとしても、具体的かつ定量的な基準や、その解
釈・適用方法の明白性、周知徹底に要する時間の経
過、適用対象企業による認識の程度など多くの要件
を満たしていない限り、当該会計処理の方法が、
「唯
一の公正なる会計慣行」とは成り得ないということ
であり、
「唯一の公正なる会計慣行」となるための
要件のハードルは非常に高いことが示されている。
この最高裁判決に鑑みても、現行の「中小企業の会
計に関する指針」の他に、新指針が策定されること
となったとしても、不合理ではないこととなる。
10.金融庁「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」
(平成22年4月)
金融庁「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」
(平
成22年4月)では、中小企業とIFRSの関係につい
て次のように指摘されている。
①非 上場会社(中小企業など)に対するIFRSの
強制適用は、将来的にも全く想定されていな
い。
②上 場会社の連結財務諸表にIFRSを適用する場
合、当該会社の非上場の連結子会社等は親会社
に対し、親会社がIFRS適用のために必要な情
報を提供する必要があるが、その場合であって
も、当該連結子会社等が作成する財務諸表に
IFRSの適用を強制することはない。
以上
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会社法
会社法コラム第48回
経営も株主総会も、曲がり角
鳥飼 重和
鳥飼総合法律事務所 弁護士 予測された「失われた30年」への道
し、震災による多くの犠牲者を出すと同時に、原発
事故による放射能汚染による国際的な風評被害に見
米国経済も、
「失われた10年」
「失われた20年」
舞われたのである。
と言われているバブル崩壊後の日本経済と同じ道を
この未曾有の大災害・原発事故は歴史的なことで
歩いている、と論評する人が増えている。2008年
あり、その衝撃の大きさは、幕末の黒船襲来に匹敵
秋のリーマン・ショック後、米国政府は巨額の財政
するものであり、そのため、国民意識は大きく変わ
出動をして、二番底を防止したが、経済全体を活性
る可能性が高い。眠りを覚ます蒸気船、と同じよう
化するまでにいたっていない。そのため、巨額の財
に、眠りを覚ます東日本大震災である。その様な状
政赤字を抱えることになり、財政の健全化が必須に
況の中で、東京電力の電力供給を受けている個人や
なっている。
会社は大停電を防止するための節電協力を積極的に
その一方で、経済の成長を図るため、大幅な金融
行い、被災者の支援しようとして巨額の寄付が集ま
緩和策を維持してきたが、銀行の貸し出しは増え
ったり、多くのNPOが大活躍するように、社会全
ず、消費が冷え込んだままで、失業率が高い状態が
体に相互扶助の精神が出てきている。
続いているため、経済成長が期待できない状態に陥
これらは、相互扶助という日本人らしい精神を思
っている。最近、来年の大統領選挙をにらんで、大
い出した国民の意識が変化する兆候でもある。この
幅な雇用確保を狙って、オバマ大統領は再度の巨額
国民意識の変化が、幕末の志士たちと同じような国
な財政出動案を提示しているが、共和党の反対に遭
家的な危機感につながれば、元々優秀な民族である
遇して、どうなるか不透明な状態が予想される。
日本国民は、
「失われた20年」から立ち直る可能性
いずれにしても、短期的に米国経済が立ち直るこ
が期待できる。
とは難しいように見える。むしろ、大幅な金融緩和
ただ、その期待が現実化するには、あと、10年
と巨額の財政出動でも、経済成長が期待できない現
以上かかるだろう。豊かさの中にいる国民の危機感
状を素直に鳥瞰すれば、あらたな二番底の危険が高
が本物になるには、それだけの時間がかかるからで
まっている観がある。欧州におけるソブリンリスク
ある。国民の危機感が本物になれば、国民に選ばれ
の高まりを見れば、1929年以降の世界大恐慌と同
る政治家にも、危機感を持った優れた人物が多く輩
じようになる危険なしとしない。まさに、
「失われ
出することになるが、まだ、国民の方をふり向かな
た20年」の道の始まりである。
いで政争を続けている政治の現状があるからであ
日本では、日経平均株価の現状は、1989年の最
る。
高値の4分の1でしかない。この平均株価の下降線
その意味では、「失われた20年」は、「失われた
を全体的に観れば、文字通り「失われた20年」と
30年」になる可能性が高いものと予測する。それ
い う こ と に な る。 そ れ で も、 国 民 が 金 融 資 産 を
でも、
「失われた30年」につながる今後の10年間は、
1400兆円余も持つ日本は豊かな国であり、いまで
東日本大震災の衝撃によって、未来の日本を明るく
も、多くの国民の生活水準は高い状態を維持してい
するための助走期間になると期待できる。同じ「失
る。そのためか、国民全体に危機感はなく、その影
われた10年」でも、豊かさの上に胡坐をかいた10
響か、政党は国民不在の政争を繰り返し、短期間で
年と、危機感の下で明るい未来のために助走する
の首相の交代を続けた落ち着きのない政治が行われ
10年とでは、意味が全く異なるからである。
てきた。
道徳教育の父と呼ばれる故森信三氏は、1992年
ところが、今年の3月11日に、想定外の東日本
のバブル崩壊直後に死亡したが、その当時、バブル
大震災に襲われ、しかも想定外の原発事故に発展
崩壊後の「失われた30年」を予測したという。バ
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ブル崩壊後、日本の長期間の衰退を予測し、同時
かという再任の見栄えを気にするに過ぎないからで
に、日本が再生する時期を2025年と予測したから
ある。
である。その予測の基礎として、国民の道徳状態が
その意味では、一応、多くの日本企業の経営者
国家の盛衰を決定すると見て、日本国民の精神状態
は、機関投資家による議決権行使を背景にした投資
の変化を観たものと思われる。すなわち、国民道徳
家の要望に耳を傾けることはするが、その要望にお
の衰退がバブルを起こし、バブル崩壊後は長期間の
ける基本的考え方やそれに基づく経営改善の要望に
衰退がくるものと予測し、同時に、長期間の衰退に
本気で取り組んでいるとはいいがたい面があるのは
よって国民の危機感が道徳の重要性を思い起こさ
確かである。わかりやすくするために、これを極端
せ、それによって国家の衰退を反転させて、国家を
な言い方に置き換えると、多くの日本企業の経営者
再生させ、新しい成長が始まると観たのである。明
は、強い危機感の下で、時代の変化に必死に適応し
治における和魂洋才という日本民族の自助努力とい
ようとして、大きな経営リスクをとった思い切った
う道徳観が、維新後の短期間で、日本を世界の列強
抜本的な経営改革をしていないようにみえる。ここ
に導いたのと同じ道を歩ませてくれることになると
は、強い危機感をもっていなかった日本国民の意識
予測したのである。
と共通するものがある。
ところが、前述したように、東日本大震災によっ
経営も大きく変化する
て、日本国民の意識が大きく変化し、危機感を強く
持つような流れになる可能性が高い。その国民全体
経営も、国民意識の影響を受ける。日本企業の経
の危機感は、日本人の個人株主にも影響してくるだ
営者は、ほとんどが日本人であるから、国民意識が
ろうし、従来は日本企業の経営者に友好的だった大
変化すれば、その変化は、経営者の心理に影響する
株主・機関投資家にも、影響を与えてくるものと思
のは当然である。日本のグローバル企業の経営者は、
われる。同時に、従来の日本人の経営者にも、これ
経営対象が日本国民を超えているから、世界の人々
から新しく選任される日本人の経営者である取締
の意識の変化に適応する必要性に迫られているが、
役、あるいは、監査役にも、影響が及ぶことは必定
それでも、日本企業である以上、経営者は、日本国
と考えられる。これらの危機感の集積によって、日
民の意識の変化に敏感であることは確かである。
本企業の経営者は、大きなリスクをとった思いきっ
とくに、多くの日本企業の経営者の現状は、目に
た経営改革を迫られる可能性が高いと予測できる。
見えない機関投資家よりも、目に見える株主総会に
そのとき、日本の上場企業の経営は大きく変わる。
出席する株主を気にする。それは、日本企業は、諸
日本企業の経営者、あるいは、今後、経営者になる
外国の上場企業に比べると、多くは、経営者に友好
者は、この日本における国民意識の変化とそれに連
的な大株主が存在しており、同時に、日本人の個人
動する企業の変化を時代の流れとして素直に受け入
株主の大多数は経営者に親和的であるから、経営者
れ、自らの意識改革をする必要があることになる。
の地位を脅かす存在をそれほど気にする必要はな
く、せいぜい、株主総会に出席する株主を気にする
株主総会も変わる
だけで済んだからである。
物を言う買収ファンドの登場で敵対的買収防衛策
日本企業の経営が変わるのは、日本国民の意識が
が流行し、そのため機関投資家が議決権行使に関心
変わるからであるとすれば、ほとんど、日本国民で
を持ち、経営者へのガバナンスを強化する傾向はで
ある個人株主が出席する株主総会が大きく変化する
てきているが、日本の上場企業の全体を概観すれ
可能性が高い。
ば、その現実的な影響力は、それほど大きくなって
しかも、日本企業の抜本的な経営改革が、今後の
いるとは思えない。外国の機関投資家が議決権行使
10年余で行われると予測すれば、その予兆は、株
を背景に決定的に影響力を持っている日本企業は少
主総会における株主の質問に現れると考えられる。
数派だからである。
その株主の質問に対する回答の姿勢が従来と異なる
議決権行使結果の開示が義務付けられたが、その
ものでないと、その経営陣は、抜本的な経営改革を
影響は、それほど決定的なものではない。その点に
要請する時代の変化に適応しない可能性が高くなる
関して、経営者の関心事は、取締役再任議案で賛成
ことになる。
可決が取れるかどうかという切実な問題ではなく、
そうなると、そういう経営陣が経営する企業は、
賛成比率が90%後半のラインを維持できるかどう
衰退する可能性が高まることになる。ダーウィンの
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会社法
適者生存の法則によれば、強いものや賢いものが生
まり、企業やそこから生み出される製品・商品・
き残るのではなく、環境の変化に適応したものが生
サービスに対して信頼する者にすることである。こ
き残ると考えられるからである。ある意味では、経
のような信頼する者を創造することから、儲けが生
営陣に抜本的な経営改革を迫る株主の質問は、経営
み出されるのである。
者に時代の変化を受け止めて、時代の大きな変化に
わかりやすく言えば、客観的な「安全」ではなく、
適応してほしいとの願いというべきものかもしれな
それが安全だと思える信頼、つまり、顧客の「安心」
い。経営のわからない素人に何がわかるか、と個人
が儲けの核心なのである。
株主を捉える発想の経営者は時代に取り残される可
知識を持たない消費者に、「安全」かどうかはわ
能性があるのである。
からない。従来は、企業は、安全は技術の専門家で
今後の時代の大きな変化に適応するのに必要なの
ある我々の使命と捉え、素人である消費者は知らな
は、小手先の知識ではない。時代の大きな変化でも
いでいい、という態度だった。物的豊かさの発想だ
生き残っている普遍的な原理原則に基づく経営哲学
ったのである。ところが、原発事故で、超大企業に
ないし経営方針である。つまり、今後の株主総会で
おける安全神話は決定的に崩壊したことから、今後
の対応は、従来の株主総会における小手先の株主対
は、企業に対する信頼は大いに揺らぎ、専門家であ
応を超えたところを目指す必要がある。
る企業側が「安全」を叫んでも、消費者たる客の心
に響かなくなるだろう。東日本大震災から絆の大切
株主総会における変化の方向性
さを知った客は、心の豊かさを求めることは必定で
あるから、今後は、客の心に響くような「安心」を
不透明な時代の流れの中で、抜本的な経営改革を
メインにすえた対応をする必要がある。
する場合に必要なことは、改革の方向性を明確かつ
わからないから、素人として放置するのではな
一貫したものにすることである。実効性を上げるの
く、わからないからこそ、わかってもらえるように
に必要なのは焦点に集中することであるが、改革の
いかに努力しているかの姿勢があるかどうかが重要
方向性に焦点を当てないと実効性の上がる経営改革
になってくるのである。技術の安全性がわからない
はできないからである。この改革の方向性という焦
ときは、技術について語る人や企業の姿勢を見て、
点を設定する際に参考になるのが、以下のようなド
技術の安全性を信頼する、つまり、安心するからで
ラッカーの教えである。
ある。
1つは、企業の存在理由を述べたものである。今
この方向性は、株主総会の関係でも重要になる。
後は、企業の存続自体が問題なのであるから、企業
今後は、株主総会全般について、いかに、株主の信
の存在理由自体が問われていることの問題意識が非
頼を得るかが問われることになる、そう予測でき
常に重要になる。
る。
「人と社会をよりよくすることである」
たとえば、招集通知・添付書類関係でも、作成の
これが企業の存在理由であり、それを自社なりに
仕方ひとつで、企業への不信感がでてくることにな
具体的に捉えて、事業の見直しを行い、前例にとら
る。1つの例をあげよう。社外役員に関する事項を
われない思い切った抜本改革の方策を模索すること
ウェブサイトで開示する企業があるが、ガバナンス
である。
強化の必要性から社外役員がいるのだから、ウェブ
2つは、イノベーションを述べたものである。抜
開示をすると、ガバナンス強化というのは本気でな
本的な経営改革をすることはイノベーション、ある
いな、と思われてしまう可能性がある。このような
いは、創造的破壊をすることであるから、その中核
ことになるのは、従来の株主総会の専門家の慣行に
となる方向性の捉え方を理解する必要がある。この
目が行き、株主の受け止め方という心に目が行って
点、ドラッカーは見事核心をついた言葉を残してい
いないからである。
る。
株主の質問に対する回答の姿勢にも、同じような
「イノベーションとは、単なる技術の改革ではな
ことがある。
い。儲からない仕組みを儲かる仕組みにすることで
業績がよくない点についての質問・意見がある場
ある。
」
合、株主の心の面から見て、問題は何かを知る必要
儲けという漢字は、儲けの核心を言い当ててい
がある。業績が悪いことは過去のことであるから、
る。「儲」けという漢字は、
「信」+「者」から成り
株主から見て、重要な問題は、今後、業績を回復で
立っている。つまり、社会の人々を企業の信者、つ
きるかどうかである。この際、回答する場合に、景
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気の悪さ等を業績悪化の理由にし、業績悪化を他人
事のように言う回答者がいるが、この回答姿勢に、
株主は失望することになる。業績悪化は重大な問題
であり、経営者自身の責任であるという自覚を持っ
ている姿勢を示されなければ、株主は、経営者に対
する信頼をもてないからである。これも、株主の信
頼を得るにはどうすべきか、について思い至らない
からである。
さらに、株価の低迷に関する質問に対して、市場
が経営実態を反映していないというだけの回答で
は、株主は納得しない。株価低迷の中で、株価が上
昇している企業もあるからである。また、その回答
の姿勢は、経営者が株価の低迷を気にしていないこ
とを表しているからでもある。株主は株価を気にし
て当然なのであるから、株主の心を捉えるなら、株
価低迷の中でも、どうして株価が上昇するように努
力するのかの姿勢を示す必要がある。
今後は、株主の真の信頼を得る視点で、株主総会
に立ち向かう必要がある。それが経営の抜本改革の
証である時代が到来しようとしている。従来の株主
総会実務の慣行は見直しの時期に来ているのであ
る。
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IR
IR部署が主導する株主総会
前澤 秀忠
日本IR協議会 前専務理事 はじめに
近年、IR部署が株主総会を主導する傾向が顕著に
している。総務部に法務や経理・財務、広報、IRな
どの関係部署が加わり、総会は準備され開かれる。
なってきています。この点について考察しようと思
総会の関係者は、前述の部署だけに限らない。関与
います。
の差こそあれ、全社員が何らかの形で関わる。全員
なお、本稿におけます意見に関する点は筆者の私
見であることをお断りいたします。
野球が総会である。
全員野球だと述べたが、時間軸で見ると1980年
代の総会に、IR部門が加わることはなかった。この
1.IR活動の場としての株主総会
時代の日本ではIR活動が黎明期であり、現在のよう
な形のIR部署が、会社にはなかったのだから当然で
社長。株主総会も終わって、海外IRも済んだ。今
度は中間決算の発表とアナリストらへの決算説明会
ある。
時代が下った90年代は、IR活動の勃興期である。
が待っていますね。社長の仕事の三分の一がIRだと
93年にはIRの啓蒙と普及を目的に、日本IR協議会
言われているように、一年の内百日余りは、投資家
が発足した。90年代の後半になって会社は、IRの
やアナリストらとの説明と対話に追われる毎日。息
重要性を認識し、積極的に活動を開始する。活動の
を抜く暇もありませんね。
主体はIR活動を兼務した財務や広報、あるいは経営
ところで、社長の会社の株主総会は、IR部署の
企画の部署である。当然のことだが、総会にもIR活
方々が取り仕切っていますか。いや、株主総会は総
動に関わった社員が、わずかながらだが増え始め
務部の仕事。そのために総務部が存在する。オヤ?
る。
社長はそう言うのですか。
でも社長。株主総会は、株主に会社を知らせる。
2000年代に入るとIR活動は進展し、05年を境
に急速に発展する。会社はIR活動の専門の部署を作
あるいは株主から会社への注文を聞く絶好の機会で
る。広報IR部。経営企画IR室。財務部IR担当。IR担
はないですか。だから、普段から株主や投資家とお
当者はいずれも広報、経営企画、財務と兼務で仕事
付き合いしているIR部署が準備して当然。やって当
をする。それも年を経るごとに、独立したIR部署を
たり前。そうではありませんか。
設ける会社が増えてくる。あるいは独立しなくとも、
いや、そんな会社はない。総会は総務部の仕事だ。
どこの会社も伝統的に総務部が取り仕切っている。
社長はそう言い張るのですか。遅れていますね社長。
広報・IRの名称がIR・広報に変わる。仕事の比重が、
従来の広報からIRに移った証左である。
経営トップの重要な仕事の一つが、IR活動を通じ
今の時代、株主総会を主導するのはIRの部署。だか
た株主や投資家及び市場関係者との対話である。会
ら総務部そのものを廃止した会社もあるほどです。
社の事業を、業績を、戦略を、販売を、営業を、技
術を、製品を、商品を、研究開発等などを知らせ
2.IR活動と株主総会の歴史的関係
る。知らされた株主や投資家は、開示された様々な
情報を分析、評価する。最終的には、株式の売買と
定時株主総会(以下、総会と呼ぶ)は、会社にと
いう行為につなげる。
って、株主にとって、年に一度の一大イベントであ
会社と株主。あるいは会社と投資家。両者を結ぶ
る。総会は株式会社の基本的な、あるいは重要な方
もの、つなぎ止めるもの。言い古された言葉を使え
針や事項を決定する最高の意思決定機関である。
ば、かすがいとなるのがIR活動である。
日本の総会の準備と運営は、長らく総務部に委ね
株主や投資家には二種類がある。個人投資家と機
られていた。現在でも多くの会社では総務部が主導
関投資家。会社はこれらのいずれに対してもIR活動
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を展開している。個人投資家説明会。決算説明会。
会社見学、工場見学といった直接の活動。IRサイト、
ュージカル。
上記は、A社が40年近くロングランを続ける、
事業報告、アニュアルレポート、会社案内といった
○○劇場2011の案内パンフである。その昔、母
間接的な活動も含めて、会社は多種多様なIR活動に
親に手を引かれた園児が、ミュージカルを観劇し
余念がない。
た。20年後。母親となったその園児は、自分の
IR活動に優れた会社が、経営に優れた会社とは限
子供を連れて劇場にやって来た。4年ほど前、結
らない。だが、経営に優れた会社は押し並べてIR活
婚の際に両親から祝いの品として、A社の株券を
動に優れている。いまや、かすがいの役を担うIR活
もらって、株主になったからである。
動は、会社と株主・投資家の双方にとって不可欠の
存在となっている。
親子二代のA社の株主。その株主の多くは、長
期に株を保有する。○○劇場に来る株主は、A社
不可欠な存在に成長したIR活動は、総会でも不可
の長期のファン株主である。A社のIRサイトのタ
欠の存在になってきた。90年代を通じて端役を演
ブには「ファン株主のみなさまへ」とある。IR情
じたIR部署が、総会運営の脇役に。その脇役が主役
報。株主・投資家情報。大半の会社のIRサイトの
に。会社によって総会への関与の濃淡こそあるが、
タブがこれらだが、A社はファン株主の言葉を前
IR部署の参画なくして総会なし。これが今日の株主
面に出す。
総会である。
出すには理由がある。株主の多くは個人である。
IR部署が主導する総会の証左は、以下の数字が物
個人は株主になる前から、A社商品の購入者、顧
語る。日本IR協議会が毎年行う「IR活動の実態調査」
客であり、商品および会社のファンである。顧客
(2011年)を見よう。
調査は総会の準備段階、総会当日、総会後に分か
と株主は表裏一体の関係にある。A社は経営の哲
学としてこう考え、実践する。
れる。IR部署が手掛ける想定問答集は全体の75%
表裏一体となった顧客と株主。顧客は、A社の
に上る。機関投資家への議案説明は、73%の会社
商品を買ってみて、食べてみて、安心と安全を確
でIR部署が行う。
認する。同時に投資して株主となった顧客は、A
総会当日、会社の事業報告やプレゼン資料の説明
社がこれからも安心か安全かを確認する。株主は
は、
63%の会社でIR部署が作る。また、議案審議後、
確認して株を売り買いする。安全と安心は、A社
76%の会社でIR部署が株主向け説明会を担当して
の会社価値なのである。
いる。
総会後、総会の決議通知、あるいは当日の説明資
A社の株主の多くが個人株主だと述べた。では
実際の数字を見てみよう。01年、A社の株主数は、
料を自社のIRサイトで掲載するのは、IR部署の仕事
6500人余りだった。それが06年には10万人を
だ。60%を超える会社でIR部署が行っている。
突破し、13万8000人余りに達する。11年には
かつて、そして今も、総会と言えば総務部の所
17万人を超えた。驚異的な伸びである。
管。そうオウム返しに答えがちだが、調査結果で明
11年3月の時点で、個人・その他の株主数は
らかなように、実態は違う。繰り返すと、IR部署の
17万152人。金融・法人などが820人。B社を
参画なくして総会なし。これが今日の株主総会であ
筆頭に、上位10者の株主の持ち株比率は33%程
る。
度。残りの70%弱が個人である。その個人の
総務部からIR部署へ。総会業務が移行する理由は
70%以上が1単元を保有する株主である。この
何か。二つある。一つは時代の流れが移行を導く。
事実は、同業他社どころか、異業他社にも例がな
いま一つは、会社独自の理由である。以下は、二つ
い。
の会社の実例をもとに、IR型総会への移行のナゼに
迫る。
3-2.1998年からIR部署が総会を手掛ける
このユニークな会社には、もう一つの大きな特
3.A社はナゼ早期にIR型株主総会に踏み切ったの
色がある。総会を取り仕切るのは、IRの部署なの
である。それだけなら他社にも例を見るが、他社
か
に先駆けて、それも極めて早い時期に、IR部署が
3-1.17万人に拡大したファン株主
夏休みのおたのしみ。抽選で1,000組。株主
さまご招待。親子で楽しく学ぶ♪ぬいぐるみミ
中心になって総会を準備、運営した。これが珍し
い。
珍しいという理由は、IR部署が主導した総会開
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IR
催が、1998年だからである。2000年以前に、
万人を超えた。
A社以外の会社が、それもある程度名前の知られ
IR部署が主導する総会の結果は、総会出席者の
た会社がやっていたかどうか。少なくとも筆者は
数である。97年には80名程度だった出席者が、
知らない。
2011年には2007名に膨れ上がった。
何のためのIR活動なのか。ファン株主を作るた
C社は2000年。B社は2003年。比較的早い
時期のIR型の総会だが、A社は1998年である。
めである。誰のための総会なのか。ファン株主の
当時のIR活動はと言えば、A社に限らず前向き、
ためである。株主とA社をつなぐのがIR活動。だ
ひたむきという会社はまだまだ少なかった。そん
からIR部署が総会を主導する。
な状況下でA社は、IR型総会を開始した。ナゼか。
4.D社はナゼ総務部を廃止したのか
3-3.社長が指示したIR活動と総会
A社がナゼ極めて早い段階で、IR型総会を開催
4-1.D社の株主総会招集通知
できたのか。ナゼの回答は、社長にある。97年
手元にD社の株主総会招集通知がある。開催は
の総会を終えたA社社長は、社内に以下の指示を
2011年6月29日。前年の招集通知と比較して
した。
みた。内容も、デザインも、持ちやすさ、読みや
① 来年98年の総会は、集中日を避けよ
すさも進化した。
「株主への情報発信は多々ある
② 決算短信などの情報開示をスピードアップさ
が、いまD社のIR活動は招集通知が、いの一番。
せよ
とても大切にしたい」。B氏はこう言う。
③ そのためのIR活動を開始せよ
④ 株主と対話をし、総会を対話の場とせよ
4-2.IR説明会と総会の融合
B氏は、総会の責任者である。表の①と②は
⑤ IR活動の主体は経理部であり、総会も経理部
が行え
2011年6月29日総会に関わるスケジュールで
ある。①は多くの会社がやっているものと大きな
IR型の総会は、当時としては馴染みがなかっ
差はない。差があるのは②だ。左側に「IR決算説
た。極めて珍しかった。多くの会社と同様A社は、
明会」
。右側に「株主総会」とあって、真ん中の
総務部が総会を手掛けていた。それをIR部署がや
日程に「連携。連動」とある。
D社の総会の特色は、説明会と総会の連携と連
る。A社社長の指示だ。社長の果断な経営判断。
それは当時、同じ業界で起きた総会屋にからむ利
動にある。確かに多くの会社ではIR部署が、総会
益供与の事件と関係がある。そう指摘する人の話
を手助けし、総会に協力している。総会にIR部署
を聞いた。その真偽はとも角、社長の斬新的な発
の連携と連動は不可欠。これが今の総会だが、IR
想と指示が、A社に一大変革をもたす。これだけ
部署はあくまでサブ、お手伝いという会社が多
は確かだ。
い。D社はIR部署そのものが総会を準備、運営し
ている。
2007年度までD社では、IR決算説明会と総会
3-4.指示を受け止め実行した社内の人材
トップの判断と指示があっても、受け止めて、
が分離していた。決算発表と説明会に関わる仕事
具体化する人材が必要だ。人材がいなければ、IR
のピークは4、5月。総会は5、6月。説明会は東
型総会は日の目を見なかっただろう。A社にはA
証のルール、金商法に則って、広報部広報課が企
氏がいた。
画、運営する。一方、総会は商法・会社法のルー
A氏自身もIRの知識に乏しかった。97年から
ルに則って、総務部や法務部が企画、運営する。
表の②で分かるように、決算発表と説明会、総
急きょIR活動を手掛け、98年に総会を開くこと
になるA氏にとってIRは未知の領域であった。
会に関わる各種資料、文書は重なり合うものがほ
A氏は、未知を既知にした。2011年の今日ま
とんどだ。だからこれまで説明会も総会も部署が
で、経営トップは社長が三代、代替わりする。A
お互いに協力してやってきた。それならいっその
氏もまた、経理、財務、広報・IRと部署は代わる
事、部署を一体化した方が合理的ではないのか。
が、一貫してIR活動と総会を一手に引き受ける。
IR活動の結果は、株主数である。2001年には
わずか6500人だった株主が、2011年には17
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株主総会関連スケジュール①
法定日数
3カ月以内
日 程
主 な 内 容
3月31日(木) 議決権及び配当基準日
4月 5日(火) 株主名簿管理人が証券保管振替機構から総株主通知を受理
4月20日(水) 株主名簿管理人より全株主名簿を受領
計算書類等の監査役及び会計監査人への提出に係る取締役会
4月28日(木) 取締役は
計算書類・その附属明細書を監査役及び会計監査人に提出
事業報告・その附属明細書を監査役に提出
8週間前
5月 6日(金) 株主提案権の行使期限
5月12日(木) 決算短信承認/株主総会招集事項決定に係る取締役会 ⇒ 決算発表
5月13日(金) 決算説明会
(午前:機関投資家・アナリスト対象/午後:マスコミ対象)
4週間以内
5月17日(火) 会計監査人は会計監査報告(連単)を特定監査役・特定取締役に提出
1週間以内
5月20日(金) 特定監査役は監査役会監査報告(連単)を特定取締役・会計監査人に提出
5月24日(火) 計算書類等承認取締役会
2週間前迄
前日
6月 8日(水) 招集通知の発送
【3週間前】
6月28日(火) 議決権行使書の最終集計
(17:45まで)
、
質問状の整理
6月29日(水)
定時株主総会
臨時取締役会、
監査役会
議決権集計
6月30日(木) 配当金支払い開始
2週間以内
7月13日(水) 商業登記期限
株主総会関連スケジュール②
IR決算説明会
①昨今の株主総会概況
②本年株主総会の対応要所
③データ集・Q&Aの作成方針、など
連携・連動
株主総会
3月22日
(火)
役員への概要説明
3月28日
(月)
関係部門へのスケジュール説明
4月 6日
(水)
決算説明会担当者準備会議
4月22日
(金)
IR・株主総会統合データ集の配布
4月28日
(木)
決算発表
5月12日
(木)
IR決算説明会
5月13日
(金)
事業報告内容の役員報告会
(決算短信定性情報への連動)
事業報告・計算書類の内容報告
(監査前の確認・取締役会にて)
監査手続
5月17日
(火)
招集通知全内容の役員報告会
5月24日
(火)
事業報告・計算書類承認決議
①株主Q&A、動議対応の確認
②準備・運営スケジュール、など
6月 8日
(水)
役員勉強会
(第1回)
①総会事務局の組織・心得
②マニュアルに基づく各役割説明
③リハーサル・スケジュール説明、など
6月10日
(金)
総会事務局説明会
6月20日
(月)
役員勉強会
(第2回)
6月27日
(月)
全体リハーサル
6月29日
(水)
定時株主総会
投資家・アナリスト
1on1Mtg. 開始
株主総会に関する最終確認
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4-3.議論を尽くして総務部を廃止
2010年 株主が理解する招集通知の作成と議
決権行使のIT化
一体化して、分担していた仕事をIR部署がすべ
て請け負う。ただでさえ繁忙な時期に、仕事が増
2011年 D社の過去、現在、将来がわかる招
集通知の作成
える。やれるのか。やっていけるのか。加えて、
会社法の知識なくして瑕疵(かし)なく総会運営
ができるのか。
不安を安心に変えたい。変えるには、社内での
2011年6月29日の株主総会。D社の本社ホー
ルに約130人の株主が出席した。その数はまだ
議論。2006年からIR部署を所管するB氏を中心
少ない。所要時間も50分。質疑応答もなかった。
に、議論を重ねる。そして結論は、総務部を廃止
IR活動の最重点の場が総会。そう言い切るD社の
して全ての株式業務をIR部署に移管。
IR活動に、やるべき課題はまだまだ多い。
総務部がなくなったD社に、コーポレート・コ
ミュニケーション室が生まれた。2007年、総勢
5.時代が背中を押したIR型の総会
37名。専任者6名のIR推進グループをはじめ、
広報グループ、お客様相談グループ等。B氏を先
頭に、2008年の総会に向けてスタートダッシュ
5-1.消えた総会屋と株式の持ち合い
A社はトップの指示で。対するD社は、ボトム
アップでIR型総会が実現した。実現への道筋は違
する。
手始めは会社法の知識の習得。瑕疵なく適法に
うが、共通するのは、人材である。ひたむきに実
総会が成立する。総会の最優先事項である。だか
現にこぎつけた人材。A、B両氏を抜きにしてIR
らこそ初年度は、準備に時間を取った。取って運
型総会は語れない。
営にこぎつけた。
この一方、IR型総会が増えてきたのには、別の
IR活動で得た投資家への説明力。この説明力を
理由がある。時代が背中を押したのである。映画
総会に出席する個人株主に応用できないか。出来
「金融腐蝕列島・呪縛」 が上映されたのは1999
るはずだ。それにはアナリスト向け以上に、親切
年だった。20世紀というエポックにピリオドを
で丁寧な説明が必要になる。
打ち、新たな時代が始まる直前である。映画には
室員だけでなく、役員も勉強をする。総会対
策?いやそうではない。株主と同じ視点で対話す
るためのIR勉強会である。
総会屋が跋扈するのだが、上映のその時代には、
総会屋は過去の遺物と形を変え始めていた。
舞台から消えた総会屋に代わって、総会の場に
2008年の総会。コーポレート・コミュニケー
姿を見せたのは、一般株主である。それもモノを
ション室は、総会議長の補佐役を演じた。適法な
言う株主だった。80年代の日本市場には、金融
議事の進行、議決権の集計に加えて、経営と株主
機関による株式持合いが長らく鎮座した。大量の
が同じ視点で、総会で対話する。IR部署が主導し
株を持てる者強し。金融機関という大株主の前に
た総会の始まりである。
一般株主は縮こまり、口を硬く閉ざしていた。
4-4.IR活動の最重点の場が総会
に向かう。ぽっかり空いた大株主のスペースをま
ところがその持合いは、90年代を通じて解消
IR活動と総会の融合から生まれたものは、何
ず埋めたのが、外国人株主であった。持合いの恩
か。総会がIR活動の場となった。IR活動の最重点
恵による平穏無事な時を徳川時代と見れば、その
の場が、総会となった。D社はこう結論付けてい
解消は明治維新。外国人株主の台頭は、黒船襲来
る。一年に一度の総会をまずIR活動の中心に据え
とも言える。
る。総会ではどういったIR情報を株主に提供すれ
ばいいのか。発信には情報の統一を考える。考え
て首尾一貫した情報発信を、日ごろのIR活動で実
これまでの取り組みを簡単にまとめる。
た急増し、いまや比率は30%に達する。中には、
2008年 総 会の主管部署として初めて企画、
50%を超す会社も出現する。会社は株主のもの
運営。円滑な運営を目指す。
2009年 出席した株主に分かりやすくビジュ
アル化した丁寧な説明に注力
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がIR型
外国人株主が急増する。彼らの持ち株比率もま
践する。
69 |
5-2. 総会は株主との対話の場。開かれた総会
だ。キャッシュリッチは悪だ。レバレッジを上げ
ろ。ROEを上げろ。外国人株主は、物を言う株
主に変身する。物を言うどころか、会社の買収に
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乗り出す。敵対的買収は、日常茶飯事になる。
主に、きちんとフランクに経営の思いを語り、株
会社は、乗っ取りを恐れる。買収防衛策を導入
主の疑問には正々と答えていく。こういう相互の
する。同時に安定株主を探す。個人株主だ。個人
関係を作っていくための役員教育が、最初のステ
を増やし、外国人株主の対抗馬とする。だが、待
ップでした」。
てよ。これまでの個人株主への対応はどうだった
のか。個人の意見を無視し、情報は出さなかった。
最小限の制度的情報開示だけだった。
F社社長
「それはまさに世の中の変化ですね。私が取締
つれなくしてきた個人を、会社の懐に呼び込
役になったのは95年で、その頃の株主総会は30
む。そのためにはどうするのか。IR活動をして、
分というのが1つの目安でした。今年は27分で
自主的に多くの情報を開示する。開かれた情報開
済んだとか、今年は35分もやったということも
示への転換である。それなら総会も見直したらど
言っていました。当時は世間の総会はそんなもの
うか。
で、もめている会社は3、4時間やるというもの
議案をとにかく通す。短時間で通す。従来の総
会は、この目的だけだった。これからは総会を、
という認識だったと思いますね。
総会屋が押さえ込まれた後、株主総会は短くす
株主との対話の場にしよう。時間をかけて株主に
るのが目的ではなく、やるものはやるという時代
会社を知ってもらおう。会社を理解してもらおう。
になった。F社はその頃から1時間ほどやってい
株主に理解してもらって、株を売買してもらお
ます。会場は社内食堂のようなところだったが、
う。総会は変わる。開かれた総会の始まり。IR部
やがてホテルに会場を移して何百人も来られるよ
署が主導する総会の始まりである。
うにした。毎年総会の条件が整備されてきて、も
う総会は総務部がやることではないなという風に
5-3.トップが語るIR型株主総会
なったと私は認識していますね。
総会の運営に当たって、法務部などの関連部門
筆者がインタビューした二社の社長の話で、本
がサポートしてくれます。とはいっても、前面に
稿を締めくくる。
立って企画するのは経営IR部です。経営IR部が総
E社社長
会企画の主体になったのは2006年で、その流れ
「○○○○○○発売以前には、株主総会も業績
が厳しい中での開催でした。どちらかといえば受
から2007年に経営IR部が主管になりました」。
(了)
け身でやらざるを得ない。そういう面もありまし
た。しかしその後業績も向上し、一方で、企業の
社会的評価を含めて、あるいは一般株主が増えて
いくという資本市場サイドの変化も含めて、株主
総会とは株主の皆さんとの対話の場だ。そう考え
るべきではないか。社内こういった考え方が醸成
されました。
昔の総会は単に、ルールに従って法的な手続き
でやる。そんな感じでした。しかし、株主から投
資をしていただき、顧客に商品を買っていただく
といった企業の生き様を考えてみました。そうな
ると株主とのコミュニケーションが極めて重要だ
と認識しました。
そこで事務局を作って、きちんと研究してやっ
ていこうとなった。ちょうど私が経営企画部長の
ときです。スタートしたのは1999年ですね。総
会のプロジェクト自体は2003年くらいからで
す。開かれた株主総会にするためには、事務局も
さることながら、一番大事なのは社長と役員で
す。トップと役員が、株主総会で応援団である株
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ESGディスクロージャーの現状(3)
株主の変化に対応した招集通知
菅原 道
ディスクロージャー研究一部 ESG担当 江森 郁実
ディスクロージャー研究一部 顧問 っています。今回は、こうした動きの背景にある株
〈目次〉
はじめに
主構成と株主行動の変化を概観し、株主行動に最も
1 株主構成と株主行動トレンド
影響を与えるツールである招集通知の現状からその
1.1 日本企業における株主構成
エンゲイジメント機能を考察します。
なお、本稿の中で意見に関する部分は筆者の私見
1.2 株主行動の状況とESG課題
であることをあらかじめお断りいたします。
1.3 個人投資家における認識変化
2 招集通知の現状
2.1 招集通知における開示情報量
1 株主構成と株主行動トレンド
2.2 招集通知におけるESG情報
1.1 日本企業における株主構成
2.3 総会関連情報のオープン化
日本の上場企業における株主構成の変化を見る
おわりに
と、この20年では「金融機関」が20%以上減少
し、「外国法人等」が18%も増加しています。
はじめに
企業と株主の最も重要なエンゲイジメントのひと
「個人その他」も長期で見ると減少していますが、
つとして、株主総会とそれに伴う開示資料である招
直近の20年で見ると、6%増加しています。「事
集通知があります。招集通知は会社法で規定され、
業法人等」については、所有者割合で見ると大き
ひな形も存在する中で、いかに形式だけにとらわれ
な変化はありませんが、時価ベースでの数字を見
ずに実体的な情報開示をするかという考え方も広ま
ると減少トレンドにあります。
グラフ1:所有者別持株比率の推移
個人その他
政府・地方公共団体
70
60
50
40
30
20
10
0
金融機関
1950
1970
1990
2010
証券会社
外国法人等
事業法人等
出典)各証券取引所「平成22年度株式分布状況調査結果の概要」より筆者作成
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これらの推移は、株式の持ち合いが解消された結
果だと推察されます。従来安定株主と言われていた
1.2 株主行動の状況とESG課題
1.2.1 ISSのポリシー
株主が、外国人投資家や個人株主に入れ替わる形と
近年、欧米の長期機関投資家を中心にESG
なっており、バランスが変化した結果、反対票を投
ディスクロージャーのニーズが高まっていると
じる株主が増加しました。特に外国人投資家は文化
言われています。特にガバナンス情報に関して
的背景が異なるために、自社の株主構成の変化に対
は、ESG投資を行う投資家以外にもニーズは
応した議決権行使に対するマネジメントが必要にな
広まっています。世界最大手の議決権行使助言
ってきていると考えられます。
会 社 で あ るISS(Institutional Shareholder
Services)では、毎年ポリシーの見直しを行
っていますが、ガバナンス情報の開示を強く求
めるようになってきました。
表1:ISS 2011年ポリシー(一部要約抜粋)
■ 独立性基準
➢ 基本的な考え方:会社と社外取締役/社外監査役の間に、社外取締役/社外監査役として選任され
る以外に関係がないこと
➢ 独立していないと判断される例
✧ 会社の大株主である組織、メインバンクや借入先、主要な取引先である組織で、現在働いて
いる、もしくは過去に働いたことがある
✧ 会社の監査法人において、過去に働いたことがある
✧ コンサルティングや顧問契約などの重要な取引関係が現在ある、もしくは過去にあった
✧ 親戚が会社で働いている
■ 報酬型ストック・オプションへの新ポリシー
➢ 行使条件として具体的な業績条件がない場合は反対する。ただし、行使開始まで最低3年の期間が
あく場合を除く
【退職慰労金】
➢ 原則として反対の推奨とする条件
✧ 対象者が株主価値の棄損に責任があると判断される
✧ 対象者に社外取締役もしくは社外監査役が含まれる
✧ 金額が開示されない
【報酬型ストック・オプション】
➢ 原則として反対の推奨とする条件
✧ 発行済オプション残高に、当該プランで提案されるオプションの対象となる上限株数を加え
た希薄化が成長企業においては10%を超える、成熟企業においては5%を超える
✧ 提案されるオプションの対象となる上限株数が開示されない
✧ 株主価値の増大に寄与すると期待されない社外の第三者が対象者に含まれる
✧ 行使条件として具体的な行使条件がない
出典)商事法務No.1925「2011年ISS議決権行使助言方針」
ISSでは原則を明示し、企業に情報開示を求めて
べられています。報酬の決定方針や種類別の報酬額
います。形式的ではなく、企業が実態に則した開示
等の開示事例も出始めていますが、まだ多くはあり
をすることで、投資家に理解を求めることが重要だ
ません。特に重要なのは決定プロセスの説明ですが、
と考えられます。例えば、特に直近で要望の強い報
記載があってもその透明性があまり高くはなってい
酬開示については、重要なのは絶対額ではなく、決
ないのが現状です。
定プロセスの透明性や株主利益との連動であると述
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因-投資家のためのマニュアル-」を発行しまし
1.2.2 機関投資家への意識醸成
このような動きにも対応して、機関投資家へ
た。CFAではアナリストの試験にESG関連の
の意識醸成も進められています。米国のアナリ
ものも含めており、一部の専門家以外にも、意
スト協会にあたるCFA協会は2008年に「上
識醸成への取り組みを進めています。
場企業のESG(環境・社会・ガバナンス)要
表2:検討すべき主要ESG問題(一部抜粋)
【ガバナンス】
➢ 累積投票制
➢ 二重株式制度
➢ 役員報酬(業績連動型報酬、株式報酬)
➢ 多数決制
➢ ポイズンピル
➢ セイ・オン・ペイ(役員報酬に対する株主の勧告的決議)
➢ 取締役会議長/最高経営責任者の分離
➢ 株主権
➢ 期差選任取締役会
➢ 買収防衛策/企業支配権の取引
出典)CFA協会「上場企業のESG(環境・社会・ガバナンス)要因-投資家のためのマニュアル-」
また、2010年12月に日本労働組合連合会
1.2.3 外国人投資家の議決権行使動向
が発行した「ワーカーズキャピタル責任投資ガ
社会の意識変化を背景として、ESGに関連
イドライン」に書かれている年金基金による責
した株主行動が特に外国人投資家によってさか
任投資の手法にも、投資後の行動として、「企
んになってきています。近年、海外機関投資家
業との対話」
「議決権行使」
「株主提案」が推奨
の議決権行使率が上がってきたために、日本企
されています。
業でもその影響を受けることになると考えられ
SIF-Japanの示すSRIのスクリーニング手法
ます。
の中にもエンゲイジメントは存在し、企業に対
業態別に議決権行使率を見ると、「外国人」
してより責任あるビジネスを促すため、あるい
については2004年には33%だった行使率が、
は投資リターンを上げる手段のひとつとして議
2011年には61%(速報値)まで急増してい
決権行使が挙げられています。国内投資顧問会
ます。地域別では、特に英国での伸び率が高い
社においても議決権行使ガイドラインや議案別
のは、Stewardship Codeの影響が考えられ
行使結果を開示するところも出てきており、今
ます。そのため、欧州大陸でも今後同程度の比
後、国内機関投資家にも株主行動が広がる可能
率まで増加することが予想されています。
性も考えられます。
表3:業態別議決権行使率
2010年6月総会
信託銀行
94.6%
生命保険
71.3%
事業法人
59.5%
外国人
58.7%
個人
35.5%
※「信託銀行」「生命保険」「事業法人」については、当日分も含めると100%に近い数字になると推測されている。
出典)金融庁金融研究センター第3回企業財務研究会「本年度の株主総会の動向」発表資料
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表4:地域別行使率
2009年6月総会
2010年6月総会
北米
88%
86%
英国
58%
63%
欧州大陸
25%
25%
アジア
38%
30%
豪州
29%
25%
中東
0%
0%
出典)金融庁金融研究センター 第3回企業財務研究会「本年度の株主総会の動向」発表資料
1.2.4 株主提案の状況
近年の議決権行使率の増加には、2010年3
月期決算会社より提出が義務付けられた臨時報
欧米では日本よりも株主提案のプロセスが容
告書による、議決権行使結果の開示の影響も考
易なこともあり、ESG関連の株主提案も相当
えられます。欧州では過半数の賛成で選任され
数行われています。米国の総会運営コンサルテ
た役員であっても、賛成率が低い場合は自発的
ィング会社GERGESONの調査によれば、毎
に辞任するケースもあり、企業側も賛成率をな
年500~700件のガバナンス関連の株主提案
るべく高めるために、事前行使への働きかけを
が出されており、その内訳を見ると役員報酬が
行うところも出てきています。
最も関心の高い事項であることがわかります。
グラフ2:米国の株主提案内容
累積投票
5%
その他
11%
期差取締役会の廃止
経営者報酬
6%
34%
特殊決議の廃止
8%
取締役会関連
株主の特別総会招集権
23%
13%
出典)大和総研「EngagementとDivestment-欧米における社会的責任投資の手法と課題-」より引用
(原典:GERGESON「2010Annual Corporate Governance Review」)
この他、環境や社会に関する提案も359件
ンスに関する提案もなされていますが、可決さ
提出されており、そのうち26%が環境、温室
れる事例はほとんどありません。しかし、本年
効果ガス関連となっています。2010年2月に
においては賛成率が3割を超えた株主提案事例
SECが発表した気候変動情報の開示に関する
も出てきており、株主との対話によって企業へ
解釈指針も、株主・投資家の働きかけの結果で
の理解を得ることの重要性が増しています。議
あったことを踏まえれば、ESGディスクロー
決に影響のあるツールとして招集通知を意識
ジャーに対する要望は強いのは、一部のSRI投
し、作成する必要性が増していると思われま
資家だけではないと考えられます。
す。
日本においても、報酬の個別開示等のガバナ
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リターンよりも企業の信頼性を重視して投資し
1.3 個人投資家における認識変化
ている個人投資家は、85%にものぼり、信頼
1.3.1 個人投資家の認識
個人投資家においても、ESG情報を意識し
性や透明性といったガバナンスに対する関心は
ている投資家は少なくないのが現状です。JI
高くなっています。現状、この意識と実際の投
(ジャパニーズ・インベスター、弊社発行の個
資行動の間にはギャップが存在していますが、
人投資家向け情報誌)の読者を対象としたアン
今後これらが解消されてくることを考えれば、
ケート調査によれば、ESGという言葉自体の
企業としてもいち早く対応を変えていく必要性
認知は15.4%と必ずしも高くありませんが、
が出てきます。
グラフ3:個人投資家の企業の信頼性に対する意識
100%
Q:投資を考える企業の信頼性について、どの程度重視しますか?(選択式)
100%
■ リターン重視
■ その他
■ 信頼できる企業のみ
■ 信頼性をある程度重視
80%
75%
67%
60%
58%
61%
59%
57%
51%
50%
39%
40%
27%
20%
0%
27%
2%
全体
11%
10%
6% 6%
6%
0%
20代
30代
40代
25%
22%
18%
16%
13%
31%
28%
25%
3%
50代
7%
0%
60代
2%
70代
0% 0%
80代
0%0%0%
90代
出典)JI読者アンケート(2009年10月実施)
現 在、 企 業 側 も 個 人 投 資 家 向 け ペ ー ジ に
が主な課題として挙げられます。
CSR情報を開示したり、株主通信にCSR情報
や社会貢献活動に関する情報を掲載したりする
以上のようなトレンドは、日本企業における
等、積極的な開示の姿勢も見られます。しかし
株主構成の変化と、海外を中心とした株主行動
投 資 情 報 と し て 役 立 つESGデ ィ ス ク ロ ー ジ
の変化という背景が考えられます。議決権行使
ャーとしてではなく、表面的な評判を上げるた
結果を左右するのは、いわゆる安定株主ではな
めの宣伝である場合も多いのが現状となってい
い、外国人投資家と個人投資家だと思われるの
ます。
で、彼らに対してESGコミュニケーションを
重点的に図っていく必要もあります。
1.3.2 株主総会での質問
コミュニケーションが円滑にできていない場
本年の株主総会においては、東日本大震災の
合、企業の実態と乖離した認識を基に、議決権
影響もあり、ESG関連の株主質問が多く出て
行使をされてしまう可能性もあります。特に近
います。
「経理情報」の調査によれば、本年6
年の安定株主の減少からも、ディスクロージ
月総会においては、
「震災関連」の株主発言が
ャーから議決権行使までをマネジメントしてい
11.9%と、
「経営政策・営業政策」に次いで2
くことが重要になってくると考えられます。企
番目に多い割合となっています。
「リストラ・
業の実態に即した、正当な評価による議決権行
人事・労務」といった社会性情報の質問も全体
使を促すためのコミュニケーションツールのひ
の7.1%を占めています。震災関連のESG課題
とつとして、招集通知を捉えなおすためには定
を考えると、BCP(事業継続計画)や原料調
型から脱却していく必要があると思われます。
達の状況やサプライチェーン・マネジメント等
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図1:パターン別の株主構成比率
2 招集通知の現状
今回はトレンドを踏まえたディスクロージャーと
なっているか、ESGの観点から招集通知における
パターンA
記載内容を分析します。日経225の3月決算企業の
政府・地方公共団体
うち、連結売上高上位20社をサンプルとして取り
上げました。調査対象20社における株主構成比を
みると、上場企業全体平均と比較して「事業法人等」
が低く、
「外国法人等」が高くなっています。これ
個人その他
らは全体傾向よりも顕著に表れています。
グラフ4:調査対象20社の平均
50
40
30
20
10
0
金融機関
政府・地方公共団体
40
個人その他
20
金融機関
事業法人等
10
パターンB
0
政府・地方公共団体
証券会社
外国法人等
証券会社
外国法人等
30
個人その他
事業法人等
50
40
30
20
10
0
金融機関
出典)各社2011年3月期有価証券報告書より筆者作成
個別に見ていくと、
「外国法人等」が高く、
「個人
その他」と「事業法人等」がほぼ同率となっている
証券会社
外国法人等
調査対象20社平均に近い矢印型の企業群(パター
ンA)は9社、
「個人その他」が最も多く、「外国法
人等」も高い企業群(パターンB)が6社、
「その他
事業法人」もしくは「政府・地方公共団体」が突出
事業法人等
パターンC
政府・地方公共団体
して高い企業群(パターンC)が4社、外国法人等
が少なく、上場企業全体平均と近い企業が1社とな
っています。ここから日本の大企業の多くは自社の
株主構成に対応して、これまでの安定株主への対応
個人その他
とは違った総会運営を求められていることがわかり
ます。
50
40
30
20
10
0
金融機関
証券会社
外国法人等
事業法人等
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見るために添付書類のみの変化も見ます。調査対
2.1 招集通知における開示情報量
招集通知における開示情報量の変化を見るため
象の中には、2007年から2011年の間にサイズ
に、調査対象20社の2007年から2011年の招
変更をした企業もありますが、2倍程度変更のあ
集通知のページ数の変化を見ていきます。招集通
った2社のみ添付書類のページ数に補正を加えて
知全体のページ数とともに、純粋な開示情報量を
います。
表5:招集通知のページ数の変化
招集通知
2007年
添付書類
2011年
差
2007年
2011年
差
20社全体平均
67.7
67.9
0.2
47.4
52.7
5.3
パターンA
68.2
71.8
3.6
48.1
52.1
4.0
パターンB
69.2
72.3
3.1
45.7
50.0
4.3
パターンC
62.3
55.8
△6.5
46.0
51.5
5.5
委員会設置会社
57.0
69.8
12.8
40.3
42.5
2.2
監査役設置会社
70.4
67.4
△3.0
49.2
55.2
6.0
※添付書類:表紙、裏表紙、目次、メモページは除く。
出典)EDINET掲載の各社招集通知より筆者作成
添付書類のページ数は株主構成パターンによら
開示の解禁によって、物理的な制約が少なくな
ず、増加傾向にあることが分かります。2011年
り、従来よりも企業は任意情報をより多く伝えら
の数値に関しては、Web開示が可能になった影
れるようになったと考えられます。
Web開示をしている企業は年々増加しており、
響も大きいと考えられます。調査対象20社のう
今後も増加していくことが予想されます。
ち、Web開示を行っていたのは12社で、その平
均ページ数は15.7ページとなっています。Web
グラフ5:6月総会企業におけるWeb開示社数
200
180
180
160
140
120
100
80
60
44
40
20
0
14
2009年
2010年
2011年
出典)経理情報No.1290および弊社研究部調査より筆者作成
その内容は「注記事項」が多く、専門的で詳細
重要な情報もWeb開示とする事例も見受けられ、
な内容はWebのみの開示とし、重要でより伝え
メディア選択とその内容選定プロセスも今後の検
たい情報を冊子で手厚くする傾向にあると思われ
討課題になると考えられます。
ます。しかし買収防衛策の説明等、株主にとって
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2.2 招集通知におけるESG情報
いては、事前に担当のスタフ等から内容の説明
次に招集通知の内容を見ていきます。記載内容
を受け、また、毎月開催の執行役の連絡会議に
は会社法で定められているものですが、その表現
出席し、執行役との意思疎通、情報共有に努め
方法や任意情報の有無はその企業の開示姿勢が表
ました。監査委員である社外取締役については
れると推測されます。今回はESGの中でも特に
専任の監査委員会室スタフからサポートを受
関心の高いガバナンス、とりわけそれを構成する
け、指名委員、報酬委員である社外取締役につ
役員情報を中心にその開示動向を調査しました。
いては担当のスタフ等から必要に応じてサポー
トを受けました。」と開示しています。
2.2.1 役員の選任理由
社外役員に対しては記載が求められています
2.2.3 役員報酬
が、それ以外は任意の開示事項となっていま
最も関心が高まってきている項目のひとつと
す。社外役員に関して求められていることから
して役員報酬の開示があります。有価証券報告
鑑みれば、全ての役員について選任理由がある
書では、1億円以上の役員報酬開示や、種類ご
ことが望ましいと考えられます。調査対象20
との報酬開示が義務付けられています。
社のうち、社内外の役員について選任理由が記
役員報酬の決定方針を招集通知でも開示して
載されている企業は2社のみとなっていまし
いるのは、開示が義務付けられている委員会設
た。
置会社4社を除く16社のうち6社のみとなって
記載内容は社内外に関わらず、略歴を要約し
います。報酬開示については、有価証券報告書
たような事例も多く、独立性を株主の側で判断
と同様に表形式で開示しているのが20社中3
するような情報には至っていないと思われる事
社、総額のみ表で明示し、賞与等は注釈を付し
例も見受けられます。富士通では、役員候補者
ている企業が9社、残りの8社は総額のみの開
1人ずつに「重要な兼職」
、
「選任理由および就
示となっています。また、方針や報酬の内訳を
任年数」
、
「特別の利害関係」
、
「その他社外取締
開示している事例の中にも、ISSが要求するよ
役候補者に関する特記事項」
(社外役員候補者
うに決定プロセスの透明度を高めている事例は
のみ)の欄を設けて、分かりやすく伝えていま
あまり見受けられませんでした。
す。
2.2.4 選任役員の写真
2.2.2 役員の活動状況
招集通知のカラー化に伴い、役員の顔写真を
役員の主な活動状況を表すパフォーマンスの
掲載する企業が増えてきています。これは役員
ひとつとして取締役会等への出席状況と発言状
の責任を明確化する意味合いがあると考えられ
況の開示があります。内容までは細かく規定さ
ます。
れていないために、各社でバラつきが出ている
のが現状です。
選任役員の個人写真を掲載している企業は調
査対象20社中10社です。
調査対象20社のうち、取締役会等の開催回
数と社外役員の出席回数を併記しているのが
2.2.5 環境・社会関連情報
16社、割合のみが3社、
「ほとんど」等のあい
CSR経営が広まる中で、環境や社会情報も
まいな言葉を使用しているのが1社となってい
増加傾向にあります。今回は、企業の現況に関
ます。発言内容については、各社外取締役の立
する記述や、対処すべき課題等で小項目を立て
場や専門内容を明らかにしているのが14社、
て記載をしている場合にカウントしています。
具体的な指摘事項まで記載しているのが3社、
記載が多いのは「環境」で、気候変動等の環
「適宜適切な」等の表現で特に分野等に触れて
境リスクだけでなく、環境関連ビジネス等のオ
いないのが3社となっています。社内役員の出
ポチュニティ側面から開示される事例もありま
席率について開示している事例は20社の中に
す。調査対象20社中6社が小項目を立てて開
はありませんでした。
示しています。しかし20社全てがそれぞれ
追加の詳細な情報として、社外役員のサポー
CSRレポートは公表しており、その中では環
ト体制についても記載が見られるようになって
境についても詳細に開示しているおり、それと
きました。東芝では「取締役会の決議案件につ
の明確な連動はなかなか見られないのが現状で
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す。また「CSR」という項目を立てている事
例も4社ありました。
2.2.6 東日本大震災関連情報
本年、ESG情報の中でも特に注目されると
考えられるのは震災関連情報だと思われます。
そのESG側面を考えると、以下のような内容
が想定されます。
表6:震災関連情報開示のポイント
環境面:
被災による環境影響(汚染物質などの漏洩、復旧などに関わる過負荷、発生した
廃棄物とその適正な処理)についての報告。
社会面:
顧客、従業員、取引先などとの関係。被災地に対する支援。契約に関わること。
他者から受けた支援。
ガバナンス面:
リスク管理体制(BCP、復旧への工程)、被害額。
財務面:
特損益。業務への影響・対策。
出典)ESGコミュニケーション・フォーラム ESG国内外情報vol.13
以上の中で特にニーズが高い情報は自社への
影響だと考えられます。影響が長期化すること
ありますが、注記やその他でその内訳等まで開
示している事例は多くありません。
を考えれば、今後へ向けた計画も重要になって
きます。調査対象20社中10社が自社への影響
も含めた震災関連情報を開示しており、2社は
被災地等への支援内容のみを掲載しています。
2.3 総会関連情報のオープン化
招集通知はこれまで開示書類という認識では
なく、株主という特定のステークホルダーに向
(段落を変える等の項目立てに準ずる体裁にし
けた、限られたコミュニケーションツールでし
ている場合も含む)8社は項目を立てての報告
たが、近年ではEDINET等で、株主以外のス
はしていませんでした。
テークホルダーも目にすることができるように
自社への影響については、財務面だけではな
なってきました。また、実際に総会に足を運ぶ
く、復旧状況や今後強化する災害対策等が開示
株主は数%程度であることも要因となり、自社
されていました。記載場所は、
「企業集団の現
のホームページで招集通知や株主総会での情報
況に関する事項」の一項目として立てている事
を公開する事例が増えてきました。これにより
例や、
「対処すべき課題」の中の小項目として
企業情報のオープン化も進んできていると見る
報告されている事例、
「特筆すべき直近の課題」
ことも可能です。
としている事例が見受けられました。財務諸表
の中にも特別損失として計上されている事例も
今回の調査対象20社についてのWebでの総
会関連情報は以下の通りになっています。
表7:Webでの総会関連情報掲載状況
招集通知
100.0%
決議通知
100.0%
議決権行使結果
80.0%
株主通信
20.0%
総会映像
70.0%
総会質問
5.0%
プレゼン資料
30.0%
バックナンバー
40.0%
CSRレポート
5.0%
出典)各社ホームページより筆者作成
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招集通知や決議通知、議決権行使結果(臨時
よると、日本は、ミルトン・フリードマンが提唱し
報告書も含む)といった、EDINETで開示され
た「企業の社会的責任とは利潤を増大させることに
ている情報はほとんどの企業で、自社ホーム
ある」に最も賛同する国のひとつで、72%の人が
ページにも掲載されていますが、その他の総会
そう答えています。反対に、
「株主価値を生む事と
情報は公開される事例は多くないのが実態で
社会的利益とは共通であるべき」と考えている人は
す。映像についても、事業報告部分のみのもの
62%と調査国中2番目に低い数値となっており、
も多く、株主の質問等が公開される事例はさら
これらの質問は反比例の関係があります。特に外国
に少なくなります。
人持株比率の高い企業や、事業戦略としてグローバ
ル展開をしている企業は、グローバル基準に合わせ
総会質問については、質問の要約のみの公開
た意識変革が必要になってくると考えられます。
となっており、返答は開示されていませんでし
日本企業のESGディスクロージャーは開示ツー
た。震災を契機に、一般株主におけるESG課
題への関心が今後も高まると予想されますが、
ル全体を見れば増加傾向にあり、メインツールであ
現状Webでは定型的な情報のみが開示されて
るCSRレポートも充実してきています。アニュア
おり、ESGに関する情報提供はまだ多くあり
ルレポートにおいてもこれまでの形式的なCSR情
ません。
報から、より投資家の求めるESG情報が掲載され
CSRレポートは約3割の企業が総会開催月に
ている事例も増えてきました。法定書類においても、
発行し、当日会場で配布されています。調査対
特にガバナンス情報においては有価証券報告書や
象20社においては、1社が総会関連ページに
コーポレート・ガバナンス報告書での開示情報は増
CSRレポートを掲載しており、3社が総会開催
加傾向にあります。ただし全ての開示書類が必ずし
月発行としているため、当日配布していると思
も戦略をもって連動しているわけではありません。
われます。現状、ESG情報に関するツールは
とりわけ招集通知は、通常のIR活動の中で企業の
CSRレポートが最も充実していますが、それ
信頼感を醸成するためのツールでもあるアニュアル
を総会や議決権行使の前に開示する企業は少な
レポートとは異なり、株主の最終意思決定のための
いのが現状です。
ツールという特異性があります。議決権行使をマネ
ジメント下におくためには、招集による情報を整理
し、他ツールとも連動を図り、株主へのESGディ
おわりに
世界最大の独立系PR会社であるエデルマンが毎
年調査している「トラストバロメーター2011」に
スクロージャーを再考する必要があると思われま
す。
〈参考データ〉
■ガバナンス 役員の選任理由
役員の出席率
役員の発言状況
役員報酬の決定方針
種類別の役員報酬
選任役員の写真
■CSR ■環境 ■社会 人材
品質
顧客
社会貢献
公正
■震災の状況・影響
全体平均 パターンA パターンB パターンC
(20社) (9社)
(6社)
(4社)
10.0%
95.0%
85.0%
37.5%
60.0%
50.0%
20.0%
30.0%
10.0%
20.0%
15.0%
0.0%
5.0%
60.0%
11.1%
100.0%
88.9%
25.0%
77.8%
55.6%
11.1%
22.2%
11.1%
22.2%
11.1%
0.0%
0.0%
44.4%
83.3%
83.3%
66.7%
33.3%
16.7%
66.7%
16.7%
33.3%
16.7%
16.7%
0.0%
0.0%
16.7%
83.8%
0.0%
100.0%
75.0%
50.0%
100.0%
25.0%
50.0%
50.0%
0.0%
25.0%
50.0%
0.0%
0.0%
75.0%
委員会
設置会社
(4社)
25.0%
75.0%
100.0%
25.0%
100.0%
25.0%
25.0%
0.0%
25.0%
0.0%
0.0%
25.0%
75.0%
監査役
設置会社
(16社)
6.3%
100.0%
81.3%
37.5%
68.8%
37.5%
18.8%
31.3%
12.5%
18.8%
18.8%
0.0%
0.0%
56.3%
※「役員報酬の決定方針」は、監査役設置会社のみを対象。
出典)EDINET掲載の各社招集通知より筆者作成
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IR
〈参考文献〉
・「株主総会とIRや情報開示に関する変化」一般社団法人 日本IR協議会(2011年7月)
・「EngagementとDivestment~欧米における社会的責任投資の手法と課題~」大和総研 鈴木裕氏(2011
年4月)
・金融庁金融研究センター 第3回企業財務研究会「本年度の株主総会の動向」資料(2011年7月8日開催)
・経理情報 No.1290「平成23年6月株主総会分析」(2011年8月)
・「立命館経営学 第48巻 第5号 論説 わが国企業における株主による経営の規律づけに関する検討-外国人投
資家を中心にした分析-」篠田朝也氏(2010年1月)
・商事法務No.1894「2010年ISS議決権行使助言方針」リスクメトリックスグループISSガバナンスサー
ビシーズ 石田猛行氏(2010年3月)
・商事法務No.1925「2011年ISS議決権行使助言方針」ISSヴァイスプレジデント 石田猛行氏(2011年
3月)
・「ワーカーズキャピタル責任投資ガイドライン」日本労働組合総連合会(2010年12月)
・SIF Japan「SRIの概念」 http://www.sifjapan.org/sri/index.html
・2011エデルマントラストバロメーター http://www.edelman.jp/sites/jp/pages/insights.aspx
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取引所
有償ストック・オプションの
付与に関する適時開示について
鈴木 広樹
事業創造大学院大学准教授 ストック・オプションは、主に従来型のものと株
きています。今回はその有償ストック・オプション
式報酬型のものに分けることができます(注1)
。
の付与に関する適時開示の特徴について説明しま
しかし、最近、それらとは異なる有償ストック・オ
す。
プションと言われるものが付与されるようになって
株式報酬型ストック・オプションの場合、通常、
1 新株予約権の有償発行
以下にあげた開示例は、GCAサヴィアングルー
その付与対象者に対して、新株予約権が発行される
プ株式会社が平成22年12月24日に開示した「新
とともに、新株予約権の払込金額と同額の報酬が支
株予約権(有償ストックオプション)の発行に関す
給されます。そして、株式報酬型ストック・オプシ
るお知らせ」です(一部省略)
。主文及び「Ⅱ 新
ョンの付与対象者は、新株予約権の払込金額を会社
株予約権の発行要領 3.新株予約権と引換えに払
に対して支払わなければならない債務とそれと同額
込む金銭」の記載内容から、新株予約権が有償で発
の報酬を会社から受け取ることができる債権とを持
行されることがわかりますが、この点が有償ストッ
つことになり、その債権と債務を相殺することがで
ク・オプションの一番の特徴です。
きます(注2)
。そのため、金銭の払込みが不要に
なるのです。
しかし、新株予約権が有償で発行されるのは、有
償ストック・オプションだけではありません。株式
このように、会社が有償ストック・オプションを
報酬型ストック・オプションにおいても、新株予約
付与した場合、新株予約権と引換えに実際に金銭が
権が有償で発行されます。ただ、株式報酬型ストッ
払い込まれるため、従来型や株式報酬型のストッ
ク・オプションは、実質的に無償と言えるもので
ク・オプションを付与した場合と異なり、費用を計
す。有償ストック・オプションの場合、その付与対
上することはありません。現在のところ有償ストッ
象者は実際に新株予約権と引換えに金銭を払い込み
ク・オプションを付与している会社の多くは新興市
ます。それに対して、株式報酬型ストック・オプシ
場上場会社なのですが(注3)
、その理由として、
ョンの場合、その付与対象者が新株予約権と引換え
費用計上を避けたいという会社の意向もあるように
に金銭を払い込むことはありません。金銭を払い込
思われます(注4)。
む代わりに、会社に対する債権を充当するのです。
新株予約権(有償ストックオプション)の発行に関するお知らせ
当社は、本日開催の取締役会において、会社法第236条、第238条及び第240条の規定に基づき、当社
または当社の子会社の取締役、監査役、執行役員、従業員に対し、以下の通り新株予約権(以下「本新株予
約権」といいます。
)を発行することを決議しましたのでお知らせいたします。
なお、本新株予約権は、本新株予約権の公正価値に相当する払込金額の払込みにより有償にて発行され、
その払込金額は本新株予約権を引き受ける者にとって特に有利な金額でないことから、株主総会の承認を得
ることなく実施いたします。
記
Ⅰ 新株予約権を発行する目的
当社および当社子会社の取締役、監査役、執行役員、従業員の当社の企業価値向上に対する意欲を高める
ため、当社および当社子会社の取締役、監査役、執行役員、従業員に対し、有償にて本新株予約権を発行す
るものであります。なお、本新株予約権は、「Ⅱ 新株予約権の発行要領1.新株予約権の内容(6)新株予
約権の行使の条件」に定めるとおり、当社の連結業績において、あらかじめ定める基準を達成した場合に初
めて権利行使を可能とするものであります。(以下略)
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取引所
Ⅱ 新株予約権の発行要領
1.新株予約権の内容
(1) 新株予約権の目的である株式の種類および数
本新株予約権(本発行要項に基づき発行される新株予約権をいう。以下同じ。)の目的である株式の
種類は当社の普通株式とし、本新株予約権1個当たりの目的である株式の数(以下、
「付与株式数」と
いう。
)は、1株とする(なお、本新株予約権全体の目的である株式の総数は当初62,081株となる。
)
。
(以下略)
(2) 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額
本新株予約権の行使に際してする出資の目的は金銭とし、本新株予約権の行使に際して出資される
財産の本新株予約権1個あたりの価額は、次により決定される本新株予約権を行使することにより交
付を受けることができる株式1株当たりの金額(以下、「行使価額」という。)に、上記(1)に定める
付与株式数を乗じた金額とする。
行使価額は、金89,900円とする。(以下略)
(3) 新株予約権を行使することができる期間
本新株予約権を行使することができる期間(以下、「行使期間」という。)は、平成23年3月11日
から平成32年3月9日までとする。
(4)
~
(5)
(略)
(6) 新株予約権の行使の条件
1)本新株予約権の新株予約権者(以下、「本新株予約権者」という。)は、当社の平成23年12月期
乃至平成26年12月期のいずれかの事業年度末におけるROEが20%以上となった場合に初めて
新株予約権の行使を行うことができる。
なお、ROEは、当社が金融商品取引法に基づき提出した平成23年12月期乃至平成26年12月期
の各有価証券報告書に記載された連結財務諸表における当期純利益を株主資本合計で除して計算
されるものとする。
2)本新株予約権者が、以下のア乃至エに掲げる時期に行使可能な本新株予約権の数は、当該ア乃至
エの規定に定める数に限られるものとする。但し、行使可能な本新株予約権の数に1個未満の端
数が生じる場合は、これを切り捨てた数とする。
ア 平成23年3月11日から平成24年3月10日までは、割り当てられた本新株予約権の数の25%
まで
イ 平成24年3月11日から平成25年3月10日までは、上記アに掲げる期間に行使した本新株予
約権とあわせて、割り当てられた本新株予約権の数の50%まで
ウ 平成25年3月11日から平成26年3月10日までは、上記アおよびイに掲げる期間に行使した
本新株予約権とあわせて、割り当てられた本新株予約権の数の75%まで
エ 平成26年3月11日から平成32年3月9日までは、上記アおよびイ並びにウに掲げる期間に行
使した本新株予約権とあわせて、割り当てられた本新株予約権の100%まで
3)本新株予約権者は、当社または当社子会社の取締役、監査役、執行役員または使用人の地位(以
下、
「権利行使資格」という。
)をいずれも喪失した場合には、未行使の本新株予約権を行使でき
なくなるものとする。
4)
~10)
(略)
(7) 当社が新株予約権を取得することができる事由
1)新株予約権を割り当てる日から平成27年3月11日までの間に、東京証券取引所における当社普通
株式の普通取引終値が一度でも権利行使価額の50%に相当する金額を下回った場合、当社は、当
社取締役会が別途定める日の到来をもって、新株予約権を無償で取得することができる。
2)
~5)
(略)
(8)
~
(10)
(略)
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2.新株予約権の数
62,081個
3.新株予約権と引換えに払込む金銭
本新株予約権と引換えに払込む金銭は、本新株予約権1個あたり金9,150円とする。なお、当該金
額は、第三者評価機関である株式会社プルータス・コンサルティングが、当社の株価情報等を考慮し
て、一般的なオプション価格算定モデルであるモンテカルロ・シミュレーションによって算出した結果
を参考に決定したものである。
4.新株予約権の割当日
平成23年1月12日
5.新株予約権と引換えにする金銭の払込みの期日
平成23年1月26日
6.申込期日
平成23年1月7日
7.新株予約権の割当ての対象者及びその人数並びに割り当てる新株予約権の数
当社または当社子会社の取締役、監査役、執行役員、従業員177名に対し62,081個
なお、上記対象となる者の人数は本お知らせ提出時の予定人数であり増減することがあります。
また、
上記割当新株予約権数は上限の発行数を示したものであり、申込数等により減少することがあります。
以上
2 厳しい新株予約権の行使条件
有償ストック・オプションには、上述のように新
権の行使の条件」の記載のとおり、ROEが一定率
以上になることが新株予約権の行使条件とされてい
株予約権が有償で発行されることのほかに、新株予
ます(注6)
。また、
「Ⅱ 新株予約権の発行要領 約権の行使条件が厳しいという特徴もあります。従
1.新株予約権の内容 (7)当社が新株予約権を
来型や株式報酬型のストック・オプションの場合、
取得することができる事由」の記載のとおり、株価
その付与対象者は、新株予約権と引換えに金銭を払
が下落した場合、会社から新株予約権を取り上げら
い込まないため、たとえ新株予約権を行使できなか
れてしまう可能性もあります。
ったとしても、損失を被ることはありません(注
以下にあげたのは、ある会社が行った有償ストッ
5)。それに対して、有償ストック・オプションの
ク・オプションの付与に関する開示における新株予
場合、その付与対象者は、新株予約権と引換えに金
約権の行使条件の記載の一部です。新株予約権を行
銭を払い込んだにもかかわらず、新株予約権を行使
使できる条件ではなく、株価が下落した場合は新株
できず、損失を被ることがあるのです。
予約権を行使しなければならないという条件になっ
上にあげた開示例においては、
「Ⅱ 新株予約権
ています。そのため、新株予約権と引換えに払い込
の発行要領 1.新株予約権の内容(6)新株予約
んだ金銭を超える損失を被る可能性があるのです。
割当日から本新株予約権の行使期間の終期に至るまでの間に(中略)証券取引所における当社普通株式の普
通取引終値の1月間(当日を含む直近の20 本邦営業日)の平均株価が一度でも権利行使価額に40%を乗じ
た価格を下回った場合、新株予約権者は残存するすべての本新株予約権を、行使期間の満期日までに行使し
なければならないものとする。
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取引所
会社がストック・オプションを付与する目的は、
ョンを付与した場合の新株予約権の発行内容確定に
付与対象者の会社の業績向上への意欲を高めるため
関する開示が行われるのは、発行する個数が決まっ
です。有償ストック・オプションは、新株予約権が
た時点です。
有償で発行されるうえ、新株予約権の行使条件が厳
それでは、有償ストック・オプションを付与した
しいため、従来型や株式報酬型のストック・オプシ
場合、発行する新株予約権の個数が決まるのはいつ
ョンよりも、付与対象者の会社の業績向上への意欲
で、いつ発行内容確定に関する開示を行うべきなの
を高めるのに効果的であると思われます。しかし、
でしょうか。新株予約権の申込期日、割当日、それ
付与を受けるか否かは、あくまで各自の意思に委ね
とも払込金額の払込期日でしょうか。以下にあげた
られるべきでしょう。損失を被る可能性のあるもの
GCAサヴィアングループ株式会社による開示は新
を無理に引き受けさせるような圧力が生じることは
株予約権の割当日の前日に行われています(同社が
避けなければなりません。上述のように現在のとこ
平成22年12月24日に行った開示の「Ⅱ 新株予
ろ有償ストック・オプションを付与している会社の
約権の発行要領 4.新株予約権の割当日」の記載を
多くは新興市場上場会社です。新興市場上場会社は、
確認してください)
。現状は各社によって異なり、
本則市場上場会社と比べて人的規模が小さく、そう
新株予約権の申込期日に開示している会社もあれ
した圧力が生じてしまう可能性が相対的に高いと言
ば、割当日や払込金額の払込期日に開示している会
えるため、特に注意が必要かと思われます。
社もあります。
まず新株予約権の払込金額の払込期日では遅いと
3 2回の開示
言えるでしょう。新株予約権が発行されるのは、払
従来型と株式報酬型のストック・オプションの付
込金額の払込期日ではなく、それよりも前の割当日
与に関しては、通常3回の適時開示が行われます
だからです(会社法第245条第1項)(注9)。それ
が、有償ストック・オプションの付与に関しては、
では、新株予約権の割当日がいいのでしょうか。実
通常2回の適時開示が行われます。従来型と株式報
は発行する新株予約権の個数は割当日よりも前に決
酬型のストック・オプションの付与については株主
まっています。会社は、新株予約権の割当日の前日
総会の承認が必要な場合があり(注7)
、その場合、
までに、その申込者に対して、割り当てる個数を通
ストック・オプションの付与について株主総会への
知しなければならないとされているからです(会社
付議を決定した時点、株主総会の承認を経た後の取
法第243条第3項)
。発行する新株予約権の個数は、
締役会でストック・オプションの付与を決議した時
割当日の前日までには決まっていなければならない
点、そして、新株予約権の発行内容が確定した時点
ことになります。したがって、新株予約権の発行内
において、それぞれ適時開示が必要になります。そ
容確定に関する開示は、遅くとも新株予約権の割当
れに対して、有償ストック・オプションの付与につ
日の前日までには行わなければなりません。以下に
いては、新株予約権と引換えに実際に金銭が払い込
あげたGCAサヴィアングループ株式会社による開
まれるため、取締役会のみで決定することができま
示が新株予約権の割当日の前日に行われているの
す(注8)
。そのため、適時開示が必要となるのは、
も、おそらくそのためだと思われます。
取締役会でストック・オプションの付与を決議した
ただし、有償ストック・オプションの付与対象者
時点と新株予約権の発行内容が確定した時点のみで
はあらかじめ決められているため、特別な事情がな
す。
い限り新株予約権は全ての申込者に対して割り当て
以下にあげた開示例は、GCAサヴィアングルー
られるはずです。発行する新株予約権の個数は、実
プ株式会社が平成23年1月11日に開示した「新株
際のところ申込数が判明した時点で決まると言えま
予約権(有償ストックオプション)の発行内容確定
す。したがって、新株予約権の発行内容確定に関す
に関するお知らせ」で、これが2回目の開示です。
る開示は、申込数が判明した時点で(申込期日ある
従来型ストック・オプションを付与した場合の新株
いはその翌日に)行うのがより望ましいと思われま
予約権の発行内容確定に関する開示は、行使価額が
す。
決まった時点で、株式報酬型ストック・オプション
を付与した場合のそれは、払込金額が決まった時点
で行われます。それに対して、有償ストック・オプ
ションの場合、新株予約権の行使価額も払込金額も
あらかじめ決まっています。有償ストック・オプシ
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新株予約権(有償ストックオプション)の発行内容確定に関するお知らせ
当社は、平成22年12月24日開催の取締役会決議に基づき、当社または当社子会社の取締役、監査役、
執行役員または従業員に対して有償にて発行する新株予約権(以下「本新株予約権」といいます。)の発行内
容のうち、未定となっていた事項が本日確定いたしましたので、下記のとおりお知らせいたします。
記
1.本新株予約権の割当対象者、人数及び割当数
当社および当社子会社の取締役、監査役、執行役員および従業員135名/55,934個
2.本新株予約権の総数
55,934個
3.本新株予約権全体の目的となる株式の種類および数
普通株式 55,934株
ご参考
上記に記載した事項以外の本新株予約権の発行要領については、平成22年12月24日付当社プレスリ
リース「新株予約権(有償ストック・オプション)の発行に関するお知らせ」をご参照ください。
以上
(注1)
従来型ストック・オプションとは、主に従業員に対して付与されるもので、新株予約権が無償で発行され、その行
使価額が発行時の株価よりも高めに設定されるというもの。それに対して、株式報酬型ストック・オプションとは、
主に役員に対して付与されるもので、新株予約権が有償で発行され(新株予約権の価値を計算して)
、その行使価
額が通常1円に設定されるというもの。従来型と株式報酬型のストック・オプションの付与に関する適時開示の特
徴については、本誌第8号掲載の拙稿「ストック・オプションの付与に関する適時開示について」参照。
(注2)
新株予約権者は、金銭の払込みに代えて、払込金額に相当する金銭以外の財産を給付し、または会社に対する債権
をもって相殺することができる(会社法第246条第2項)
。
(注3)
平成21年から平成23年7月までに有償ストック・オプションの付与に関する適時開示を行った会社は23社で、そ
のうち新興市場上場会社は21社(マザーズ市場12社、ジャスダック市場5社、ヘラクレス市場1社、セントレック
ス市場1社、アンビシャス市場2社)
。
(注4)
早い時期から有償ストック・オプションを付与していた会社に、平成22年9月25日に虚偽記載によりマザーズ市
場上場廃止になった株式会社シニアコミュニケーションがある。同社は、もともとは従来型ストック・オプション
を付与していたが、平成19年以降は有償ストック・オプションを付与するようになった。同社の場合は、費用計上
を避けたいという意向が特に強くあったように思われる。
(注5)
新株予約権の行使条件も、従来型ストック・オプションの場合は、通常、権利行使時も従業員等の地位であること
程度である。株式報酬型ストック・オプションの場合は、役員退任後一定期間に限り行使できるという条件が課さ
れることがあるが、これは役員退職慰労金の代わりに付与されているためである。
(注6)
「Ⅱ 新株予約権の発行要領 1.新株予約権の内容 (3)新株予約権を行使することができる期間」では、平成
23年3月11日から新株予約権を行使することができるとされているが、実際には平成23年12月期におけるROE
が判明した後でなければ行使することができないことになる。
(注7)
従来型ストック・オプションを従業員に対して付与する場合、新株予約権の有利発行に当たるため(会社法第238
条第3項第1号)
、株主総会の承認が必要になる(会社法第238条第2項)
。なお、実務上は、通常、新株予約権発
行の取締役会への委任について株主総会の承認を受ける(会社法第239条第1項・第2項第1号)
。従来型と株式報
酬型のストック・オプションを役員に対して付与する場合は、新たな役員報酬として株主総会の承認が必要になる
ことがある(会社法第361条、第387条第1項。株式報酬型ストック・オプションの場合は、新株予約権の払込金
額と同額の報酬の支給が新たな役員報酬に)
。
(注8)
GCAサヴィアングループ株式会社が平成22年12月24日に行った開示の主文に「取締役会において、会社法第
236条、第238条及び第240条の規定に基づき、
(中略)新株予約権(中略)を発行することを決議」とあるが、
会社法第240条は、公開会社の場合、有利発行以外の新株予約権発行は株主総会ではなく取締役会において決定
できるという規定。
(注9)
ただし、新株予約権を取得した者は、払込期日までに払込金額を払い込まない限り、それを行使できない(会社法
第246条第3項)
。
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研究所活動状況
『カーボン・ディスクロージャー』
出版記念シンポジウム
川村 雅彦
ニッセイ基礎研究所 上席主任研究員 情報の開示実態」が報告された。最後に、パネル討
はじめに
宝印刷・総合ディスクロージャー研究所の主催に
論「日本企業のカーボン・ディスクロージャーの課
よるシンポジウム『カーボン・ディスクロージャー
題と提言」が行われた。パネリストにはCDP事務
の動向・制度化・提言』が、ほぼ募集定員の参加者
局の榎堀都氏、大阪経済大学の小谷融氏、そして基
のもと、本年9月9日に開催された。このシンポジ
調報告の村井秀樹氏に登壇いただき、司会は筆者が
ウムは、同研究所監修の「カーボン・ディスクロー
行った。なお、総合司会は大東文化大学の鶴田佳史
ジャー:企業の気候変動情報の開示動向」(税務経
氏にお願いした。
理協会刊)の出版記念として行われたものである。
本稿では、このシンポジウムの企画・運営に携わっ
た者として、シンポジウム全体の概要と主要な論点
を報告する(図表1)
。
シンポジウムの開催に当たり、まず主催者として
同研究所の関要所長から開会挨拶があり、続いて
カーボン債務に詳しい上智大学の藤井良広氏から
「カーボン・ディスクロージャーへの道」と題する
招待講演が行われた。次いで、基調報告として同書
の著者を代表する形で、日本大学の村井秀樹氏から
「カーボン・ディスクロージャーと会計」
、宝印刷の
松苗茂樹氏から「有価証券報告書における気候変動
図表1:シンポジウム『カーボン・ディスクロージャー』のプログラム
(総合司会) 鶴田佳史氏 :大東文化大学 環境創造学部 専任講師
(1)
開会挨拶
関 要氏:宝印刷 総合ディスクロージャー研究所長
(2)
招待講演「カーボン・ディスクロージャーへの道」
藤井良広氏:上智大学大学院地球環境学研究科 教授
(3)
基調報告
① 「カーボン・ディスクロージャーと会計」
村井秀樹氏:日本大学商学部 教授
② 「有価証券報告書における気候変動情報の開示実態」
松苗茂樹氏:宝印刷 ディスクロージャー研究一部 公認会計士
パネル討論「日本企業のカーボン・ディスクロージャーの課題と提言」
(4)
〔モデレーター〕 川村雅彦氏:ニッセイ基礎研究所 上席主任研究員
〔パネリスト〕
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榎堀 都氏:CDP事務局 プロジェクトマネージャー
小谷 融氏:大阪経済大学経営情報学部 教授
村井秀樹氏:日本大学商学部 教授(基調報告者)
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同書ではカーボン・ディスクロージャーの現状と
1.シンポジウムの狙いと論点
⑴ シンポジウム『カーボン・ディスクロージャー』
課題について、三編10章に分けて考察されている。
のテーマ
第Ⅰ編では開示の促進に向けた国際的な動向とそこ
近年、気候変動(地球温暖化)への世界的な実務
から得られる示唆、第Ⅱ編では国内外企業の有価証
的対応の進展にともない、企業に対するステークホ
券報告書や年次報告書あるいは環境・CSR報告書
ルダーからのカーボン・ディスクロージャー(企業
における開示の実態、そして第Ⅲ編では開示の促進
のCO2排出や気候変動にかかわるカーボン情報の開
に向けた実践と課題をテーマとした(図表2)
。
示)への要請が高まっている。その要請に応えるべ
各章は執筆者のそれぞれの問題意識から論じられ
く、わが国でも有価証券報告書においてカーボン情
てはいるが、全体的には詰まるところ、
“カーボン
報を開示する企業が増えつつある。また、東日本大
情報として、企業は何のために誰に何をどのように
震災を契機に、企業だけでなく国民にも広く省エネ
開示すべきか”という基本的な問題に行き着く。し
ルギーや創エネルギーへの意識が強くなっている。
かし、わが国ではこのようなカーボン・ディスク
このような状況のなかで、カーボン・ディスク
ロージャーに関するそもそも論でさえ、活発に議論
ロージャーについて多様な視点からの調査研究とと
されている状況にはない。ここに同書の意義が見い
もに提言を行った『カーボン・ディスクロージャー:
だせる。
・・・・・
企業の気候変動情報の開示動向』
(税務経理協会刊)
上記の問いに対する同書の答えを包括的に言え
が本年8月に出版された。そして、同書における問
ば、次のようになろう。つまり、地球規模の気候変
題意識と論点を広く社会に訴えるべく、次の3点に
動を抑制し持続可能な社会の実現を目指して、投資
焦点を当てて、公募型のシンポジウム(参加費無料)
家を主たる対象として、その適切な判断ができるよ
を開催することになったのである。
うに、
「制度開示」と「任意開示」の連携を図るな
・カーボン・ディスクロージャーに関する国際動
向
・カーボン・ディスクロージャーの実態と課題
かで、CO2排出に関する物量情報はもとより、その
企業価値への影響の定量的情報を一体的に開示すべ
きである。
・カーボン・ディスクロージャーの促進に向けた
提言
⑵ 図書『カーボン・ディスクロージャー』の問題
ただし、これは最終的な姿かもしれない。むしろ
現状を考えると直ぐにも実施すべき事項は多く、各
章では短期・長期の視点から具体的な提言がなされ
意識
ている。その意味では、同書はカーボン・ディスク
シンポジウムでは、上述の村井秀樹氏(同書の編
ロージャーに関する現状分析と課題抽出に留まら
著者の1人)から基調報告にて同書の概略が説明さ
ず、提言集ともなっている。
れた。しかし、残念ながら丁寧な解説を行う時間が
割けなかったため、ここで改めて同書の「終章」か
ら抜粋して、問題意識を確認しておきたい。
図表2:図書『カーボン・ディスクロージャー』の目次
序章(カーボン・ディスクロージャーの分析視角)
第1編:カーボン情報開示の国際的進展
第1章 「非財務情報開示の動向とステークホルダーニーズ」
第2章 「気候変動情報開示の国際動向とわが国への示唆」
第2編:カーボン情報開示の日米欧企業の実態
第3章 「有価証券報告書における気候変動情報の開示規制」
第4章 「有価証券報告書における気候変動情報の開示実態」
第5章 「日本における気候変動情報の開示事例」
第6章 「海外における気候変動情報の開示事例」
第3編:カーボン情報開示の実践と課題
第7章 「企業における気候変動情報の開示行動」
第8章 「排出クレジットの価格形成と会計」
第9章 「株主のCO2排出責任の試論」
第10章「気候変動にかかわるリスク・チャンスの両面開示」
終章(持続可能な社会を目指して)
(注)編著者:村井秀樹、川村雅彦、鶴田佳史
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研究所活動状況
⑶ 図書『カーボン・ディスクロージャー』の論点
情報」を提案した。企業経営の立場に立てば、
と提言
リスクの最小化と商機の最大化に向けた「カー
シンポジウムのベースとなった、カーボン・ディ
ボン戦略」が必要である。
スクロージャーの促進に向けた同書の論点と提言を
整理すると、次のようにまとめることができる。
言うまでもなく、企業の情報開示にはその枠組み
は不可欠であるが、カーボン情報の場合には、その
・カーボン・ディスクロージャーの国際動向は投
開示内容がより重要である。CO2排出量の現状や将
資家向けの制度開示の方向で進んでおり、わが
来目標の開示は当然である。さらにCO2排出の規制
国でも有価証券報告書による報告制度の設計と
強化が、短期だけでなく中長期の観点から、企業経
法的枠組みの検討が必要である。しかし、わが
営においてどのような意味をもち、業績にどのよう
国の取組は遅れており、国際的な枠組みの開発
な影響を及ぼすのか、企業は自ら評価し対処する必
との調和のために、日本企業の実務検証等への
要がある。そのうえで、投資家を始めステークホル
積極的な参加が求められる。
ダーに対して、適時・適切に開示する責務があるの
・適切な投資判断のためには、CO2排出量とその
である。
財務への影響の「見える化」が不可欠である。
わが国では、これまで企業のカーボン情報の開示
しかし、算定実務や内部統制が確立されていな
は環境・CSR報告書が中心であった。最近になって、
い現状では、有価証券報告書の記載事項とする
カーボン・ディスクロージャーにかかわる国際的な
には時期尚早である。当面の対策として、金融
動きを反映して、有価証券報告書や年次報告書にお
庁の開示ガイドラインに記載事例の追加が考え
いても記載される事例が増えてきている。その記載
られる。有価証券報告書と環境・CSR報告書
内容はまだ質・量ともに十分とは言えないが、これ
の連携・併用も検討の価値がある。
は「任意開示」から「制度開示」に向けた変化の始
・有価証券報告書に気候変動情報を記載する日本
まりを意味するのかも知れない。
企業は増えつつあるが、質・量ともに乏しく記
載場所も様々であり、投資判断への有用性は低
い。米国企業の開示事例では、多くが気候変動
規制動向の概説と事業や財務への影響に言及す
るが、大半は規制が不確実ゆえに予測困難とす
る。
・気 候変動情報には社会的共通資本の要素があ
り、ステークホルダーと共有することで企業存
在の正当性を獲得することができ、企業価値向
上への戦略的経営につながる。CO2排出を財務
諸表上の数値と結びつけ可視化するために、早
急な排出量取引会計基準の再構築が必要であ
講演する藤井良広氏
る。排出クレジットの価値評価がそのベースに
あり、来るべき低炭素社会の経済インフラとし
2.シンポジウムの内容
て会計は重要な役割を果たす。
⑴ 藤井良広氏:招待講演「カーボン・ディスク
・これまでCO2排出責任は排出企業に帰属すると
上智大学の藤井良広教授による招待講演「カーボ
も株式保有を通じて投資先企業のCO2排出に責
ン・ディスクロージャーへの道」の副題は「Carbon
任があるという考え方と算定手法を提示した。
Liability、Materialityの把握」と題され、企業に
これは株式保有の中に隠れた投資先企業の潜在
よるカーボン情報の把握と開示の重要性が強調され
的な経営リスクを定量的に示すことでもある。
た。そもそも、何を把握すべきか。これには二つあ
・気候変動にかかわる企業価値の適切な判断のた
る。一つは自社努力であるCO2の排出量と削減量で
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ロージャーへの道」
理解されてきたが、企業の所有者である株主に
めには、リスク・チャンス両面の定量的な開示
あり、排出規制の枠組みによって削減量が変動す
が必要である。リスク情報としてカーボン債務
る。もう一つは、キャップ&トレードの市場価格形
を反映した自己資本利益率「カーボンROE」
、
成による削減費用と売却収益である。これは同書の
商機情報として「低炭素ビジネスのセグメント
基本認識と全く同じであり、別の表現をすれば、
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CO2排出の物理量とその財務的な影響ということに
所主催、村井座長)の活動経緯と問題意識が披露さ
なる。
れた。特に、気候変動と生物多様性、地質時代の気
そのうえで、カーボンリスクとして環境債務とし
てのカーボン債務(企業活動によって、地球に対し
て影響を及ぼしている、あるいは将来及ぼしそうな
候変動は示唆に富むものであった。次いで、同書の
構成、概要、特徴について説明があった。
本題である「カーボン会計の現状と課題」では、
損失、費用、負荷)を取り上げ、その内部化の必要
乱立する国内排出クレジット制度、排出量取引会計
性が説かれた。また、カーボンの法的債務と会計的
基準の混乱、GHG検証と排出量会計基準の必要性、
債務の違いも指摘された。これらを総括する形で、
カーボン・ディスクロージャーに向けた内外動向に
良いディスクロージャーへの道として、ステークホ
ついて解説された。全体まとめとして、排出総量と
ルダー価値を高めるためには、標準化されかつ法定
クレジットを峻別し、開示制度設計が排出量取引会
の情報を統合して一箇所にて開示すべきことが強調
計基準(カーボン価値)や企業価値に影響するとい
された。
う認識のもと、次の2点が指摘された。①企業内部
最後に日本企業の直面する課題として、次の3点
のカーボン・マネジメントと企業外部へのカーボ
が指摘された。つまり、①規制導入の遅れ、欧米型
ン・ディスクロージャーの拡充:認識・測定・開
との不整合、例外・緩和業種の増加による規制リス
示・検証・分析の一体的把握とカーボン・マネジメ
クの台頭、②自然災害との連動性の高さ、東京集中
ントシステムの構築。強制開示と自主開示の連携。
の脆弱性による物理リスクの高さ、③低炭素経済に
②カーボン・ディスクロージャーの開示箇所:財務
向けた「スマートものづくり力」の基盤維持の弱さ。
報告書(財務諸表と財務諸表以外の情報)とCSR
なお、日本企業のこの分野の鈍感さに対する危惧が
報告書、さらに統合報告書へ。
表明され、逆説的な「規制のないリスク」の指摘は
⑶ 松苗茂樹氏:基調報告②「有価証券報告書にお
印象的であった。
⑵ 村井秀樹氏:基調報告①「カーボン・ディスク
ける気候変動情報の開示実態」
宝印刷の松苗茂樹公認会計士による基調報告「有
ロージャーと会計」
価証券報告書における気候変動情報の開示実態」で
日本大学の村井秀樹教授による基調報告「カーボ
は、有価証券報告書におけるカーボン情報の調査方
ン・ディスクロージャーと会計」では、まず今回の
法の解説とともに記載箇所と開示実態の調査報告
出版のベースとなった「気候変動に関するディスク
ロージャー研究会」
(総合ディスクロージャー研究
(事例ではなく、統計的分析)が行われた。
カーボン情報の記載箇所としては、
「非財務情報
パネルディスカッション風景
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研究所活動状況
の部」の「第2 事業の状況」が多く、その中では「対
用 を も た ら す 対 話 を 促 進 す る こ と に あ る。
処すべき課題」
「事業等のリスク」
「研究開発活動」
CDPの情報請求は、投資家が世界の大企業の
に多いが、
「事業等の概要」や「財政状況及び経営
気候変動対策を理解するのを助けるものであ
成績の分析」でも記載が見られる。記載内容につい
る。
ては、エネルギー多消費型業種に多く見られ、
「対
昨年度から日本企業を500社に増やした
処すべき課題」では地球温暖化防止のためのCO2削
「CDP2010 Japan 500」では、年々回答率
減を経営上の課題としている。
「事業等のリスク」
は上がって43%となり、今後が期待される。
でも、規制強化により経営圧迫のリスクがあるとす
内容的には、ガバナンスや戦略的削減目標だけ
る。「研究開発活動」ではCO2 削減のための技術・
でなく、コミュニケーションが増えている。た
製品の開発に関する記載が多い。総合的な評価は、
だし、サプライチェーンでのCO2削減の取組は
カーボン情報は質・量ともに乏しく、投資家の投資
まだ少ないことが報告された。なお、海外の企
判断には使えず、まだ認知されていない、であっ
業に比べると、カーボン情報の開示力の差は歴
た。
然としていることも明らかになった。
⑷ パネル討論「日本企業のカーボン・ディスク
ロージャーの課題と提言」
筆者がモデレーターを務めたパネル討論では、予
めパネリスト2名にカーボン・ディスクロージャー
に関するそれぞれの問題意識や現状認識について、
プレゼンテーションをお願いした(パネリストの1
人である村井秀樹氏は前述の基調報告で代替)。そ
のうえで、3つの視点から討論を行った。なお、登
壇いただいた3人の立場を一言で表現すれば、以下
のとおりである。
・榎堀 都氏:投資家と企業をつなぐ仲介者
・小谷 融氏:金融商品取引法と有価証券報告書
における開示
・村井秀樹氏:排出量取引会計の制度設計
パネリスト 榎堀都氏
② 小谷融氏:プレゼンテーション「カーボン・
ディスクロージャーの課題と提言」
大阪経済大学の小谷融教授によるプレゼン
テーション「カーボン・ディスクロージャーの
課題と提言」と題するプレゼンでは、上場企業
のディスクロージャー(法定開示、東証開示、
任意開示)
、環境報告書の課題、金融商品取引
法上の開示制度、有価証券報告書の記載事項、
ならびに環境情報を有価証券報告書の記載事項
とするための課題が解説された。
環境報告書の課題として指摘されたのが、①
経営戦略的視点の欠如、②環境報告ガイドライ
ン等への不準拠であり、上場企業間での一貫性
モデレーター 川村雅彦氏
① 榎堀都氏:プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン「Carbon
Disclosure Project」
CDP事務局の榎堀都プロジェクト・マネー
のある体系的な枠組みが必要であり、それゆえ
有価証券報告書における法定開示にすべきとの
意見もでてくる。現状でも、環境情報が企業の
経営成績や財政状態またはキャッシュフローに
ジャーによる「Carbon Disclosure Project」
影響を及ぼし、定量的な表記ができるものは記
と題するプレゼンでは、CDPの概要、企業へ
載事項となっている。ただし、直接的な要求事
の質問書を中心に解説された。CDPのミッシ
項ではない。当面は、任意開示の精度を上げる
ョンは、気候変動を回避し、GHGの計測・管
ことが重要である。
理・削減について投資家・企業・政府に触媒作
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・小谷氏:有価証券報告書と環境報告書における
開示促進方策
・村井氏:CO2の総量とクレジットの検証の課題
パネリスト 小谷融氏
③ パネル討論
パネル討論における視点とパネリストの発言
要旨は、以下のとおりである。
パネリスト 村井秀樹氏
〔視点1〕開示内容の質的・量的な課題と阻害・
促進要因
・榎堀氏:CDPからみた海外と日本企業のビヘ
イビアの違いとその要因
・小谷氏:有価証券報告書と環境報告書における
開示の課題
・村井氏:カーボン会計制度の役割
〔視点2〕機関投資家はどのように考えているの
か
3.シンポジウムを振り返って
総合ディスクロージャー研究所としては、このよ
うなシンポジウムは初めての試みであったとお聞き
した。しかし、企画から運営まで、全体的に誠実に
対応していただき、当日も順調に進み、参加者から
は好評を得た。図表3のアンケートにもあるように、
このテーマで継続的な開催を望む声が多いことか
ら、是非とも今後の開催をご検討いただきたい。
・榎堀氏:CDPからみた海外と日本の投資家の
今回のシンポジウムは研究会の成果を踏まえた出
違いとその要因、財務的な指標化の必
版を記念して行われたが、カーボン・ディスクロー
要性、リスクとチャンスの両面開示
ジャーに関する日本における全体論ないしそもそも
・小谷氏:有価証券報告書からみた投資家に有効
なカーボン情報に向けた課題
・村井氏:会計制度からみて投資家に有効なカー
ボン情報に向けた課題
〔視点3〕制度開示
(法定開示)と任意開示の関係
⇒ 統合報告書?
・榎堀氏:CDPからみた制度開示と任意開示の
関係と方向性
・
・
・
・
論を明確にあぶり出したものであり、この意味で意
義あるものとなったことは事実であろう。今後は、
CO2排出量という物量情報をいかに財務情報ないし
企業価値に落とし込んでいくかということが重要課
題である。そうでなければ、投資家の投資判断には
使えないからである。ここに総合ディスクロージ
ャー研究所の新たなミッションが加わったとも言う
ことができよう。大いに期待する次第である。
図表3:アンケートによる主な意見
招待講演「カーボン・ディスクロージャーへの道」
・カーボン・ディスクロージャーの概念はよく理解できた。
・リスクとチャンスは多岐にわたるため、どう開示すべきか、次の報告に期待する。
・環境債務とカーボンリスクの関係が良く理解できた。
・抽象的な表現が多く、もっと具体的な事例が欲しかった。
基調報告①「カーボン・ディスクロージャーと会計」
・地球温暖化と生物多様性、地質時代の気候変化の考案は興味深かった。
・カーボン情報の正確性や検証が必要だが、算定方法の枠組構築が重要だ。
・現在と今後の開示情報の内容、方法のポイントがわかった。
・ESG情報と財務情報のつながりについて、詳しく聞きたかった。
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研究所活動状況
基調報告②「有価証券報告書における気候変動情報の開示実態」
・平易な表現で分かりやすく、具体的な内容であり、開示実態がよくわかった。
・このような手法で有価証券報告書を分析評価できることが、新発見だった。
・調査内容はとても興味がもてたので、今後も調査を続けてほしい。
・電力会社の事例は興味深いが、大震災との関係や考え方の変化を説明してほしかった。
パネル討論「日本企業のカーボン・ディスクロージャーの課題と提言」
・パネリストの選択はよく考えられており、課題や知りたいことが議論されていた。
・有報記載が義務付けられるのか現実味は薄いが、記載となれば明確な規定が必要。
・法定開示が時期尚早としても、どう報告していくか悩みはつきない。
・パネルのテーマが大きすぎて、結論が見えにくかった。
シンポジウム全体
・これからも継続的なカーボン・ディスクロージャーのシンポジウムの開催を希望する。
・本は有益な内容が多く業務でも活用しており、著者の話を直接聞けてよかった。ただ、本の内容にそった
説明がもう少し欲しかった。
・新しい「流行」を創り出そうという気概を感じるが、地球温暖化には科学的根拠に対する疑問もあり、今
後どうなるのかの基本的な考え方を示すべきであろう。
・カーボン情報の開示範囲は、サプライチェーン連結やLCA連結が望ましいのではないか。通常の財務連
結では、環境・社会への影響範囲とずれてしまうので。
会場風景
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研究所活動状況
第5回、第6回「ディスクロージャー制度
研究会」議事概要
平松 朗
ディスクロージャー研究一部部長 藤井 靖弘
執行役員ディスクロージャー研究一部長 宝印刷総合ディスクロージャー研究所は、金商法
有力なものとして育って欲しかったというこ
上のディスクロージャー制度に関する課題の指摘を
となのだろうと思いますし、結局、ある程度
中心テーマとする「ディスクロージャー制度研究会」
は育ってきているのでしょうけれども、十
の第5回会合を5月14日㈯に、第6回会合を6月11
分、ニーズに合うような方向へは進まなかっ
日㈯に開催しました。本稿では、第5回会合及び第
た、まだ途中ということでしょうか。
6回会合の議事概要を記します。
○ 個人資金もそうですけれども、企業の中に
1.第5回会合議事概要
⑴ 参考人の報告及び議事概要
参考人として、アビームコンサルティング株
式会社の内藤純一氏をお招きして報告を行って
余剰資金があると言われていますから、そう
いったところからどういうふうにお金が回っ
ていくのか。
配当の比率が、上がっていましたけれど
いただきました。
「日本の金融の将来について」
も、かつての安定配当性向ではなくて業績連
という題目で、報告が行われました。
動で配当する会社が非常に増えていると思い
具体的には、金融ビッグバン以降とられた我
ますし、この4,5年はそういう傾向で業績
が国金融システムについての取組みに対して、
が上がれば株式投資の収入は、当然、個人投
制度導入の趣旨等をご説明いただき、日本の金
資家も含めて増えているということだろうと
融の将来についてご見解を伺いました。参考人
思っています。
は、ビッグバン以降の変革について、将来の展
業績連動で配当を行っても、結局、余剰資
開を考えたときに余りに銀行中心・偏重であり
金がたまっていく方向には違いありませんの
過ぎる日本の金融構造を、資本市場部門を強化
で、やはり成長分野にお金を投じていかない
していくということで始まったとの理解をされ
と企業としては拡大再生産ができない。その
ており、そのようなご理解を前提としたご説明
機会が日本で見つけられないから海外に投じ
をいただきました。
る。お金は多分、足もとの状況では国内の余
内藤氏の報告を受けて、各委員等から以下の
ような発言がありました。
○ ビッグバンの最初の考え方の中には、銀行
剰資金から海外に行くというふうになるので
はないかと感じています。
⑵ 秋葉委員の報告及び議事概要
が金融の中心になっている部分をもっとその
秋葉委員からは、
「会計基準について(金融
資本市場なり、証券というようなところで運
商品取引法における会計制度において)
」につ
用して、そちらの方の相対的な力を強くする
いて報告が行われました。
ということ、それから、そういう中で金融資
産として持っているものの比率もその証券関
具体的には、3つの事項について報告が行わ
れました。
連のものが増えてくるような、そういう経済
1つ目は、会計基準の法規範性についてで
なり世帯なりの状況をつくろうという考え方
す。民間機関である企業会計基準委員会の作成
があったと思うのです。
した会計基準に、何故、皆が従うのかという点
そういう観点から、今日のお話とつなげま
すと、株を買うというのではなくて、投信が
について、過去10年間の経緯についてご説明
いただきました。
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研究所活動状況
2つ目は、会計基準の国際化についてです
だから、
「一般に公正妥当と認められる」
が、ここでは、コンバージェンスが進められて
の中に本当に税法は入るのですかという話な
きた経緯についてご説明いただきました。
のです。税法はちょっと入れにくいとなって
3つ目は、最近、非常に議論になっている連
くると、「中小企業会計指針」とかを入れて
結と単体の関係について言及したご説明をいた
くるといいでしょうという話になってきて、
だきました。
その場合「一応、それをもって一般に公正妥
当と認められるものと推認する」というのが
秋葉委員の報告を受けて、各委員等から以下
のような発言がありました。
おそらく多数です。あれだとは言い切れない
のです。「あれに従っていれば、一応、公正
妥当であろう」という、一応というのがおそ
○ 個別財務諸表は会社法の財務諸表を添付す
らく結論だろうと思います。
れば良いのではないかという意見はあると思
います。ただ、金商法の体系から個別財務諸
⑶ 久保委員の報告及び議事概要
表は、基本的に外れるということです。添付
久保委員からは、「ディスクロージャーの枠
書類にするということで、会社法の体系もそ
組みのあり方について(公的規制と自主規制)」
うなってくるという意味で、整合性の問題と
について、報告が行われました。
か、会計基準の問題もあります。連結の会計
具体的には、ディスクロージャーの枠組みは
基準と単体の会計基準を作るところあるいは
一体どうあるべきなのかということに言及する
その関係をどうするかというのがある。
にあたり、取引所の自主規制、法定開示、財務
つまり、それは会社法に任せてしまえばそ
諸表以外の記述式情報開示のあり方、及び臨時
の会社法という範囲の中で会計基準が考えら
開示のあり方といった幅広いご考察について、
れていくでしょうから、ちょっと様相を異に
ご説明いただきました。
してきます。なぜなら、会社法には「公正妥
当な会計基準に従う」と書いてあって、それ
はかなり幅があるものです。中小企業の会計
久保委員の報告を受けて、各委員等から以下
のような発言がありました。
基準とかも入っているものですから、会社法
の法体系の中の会計基準と金商法の体系の中
に入ってくるものは違います。
○ やはり監査は会社法監査も含めて、5月の
連休が明けてまだやっているというケースが
相当ありますよね。やはりそれを終わらない
○ 会計の機能として分配機能と情報機能があ
と事実上の了承とまで言えないということに
るので、今、おっしゃっていただいたよう
重きを置くと、軽微なものは見つかる可能性
に、そこのところの議論は真剣にされている
があるというのが実態でして、しかも決算短
のでしょうけれども、なかなか表に出て議事
信の年度は相当なページ数に及ぶので、少し
録に見られないですよね。
も間違いがないという状態にしないと出さな
いとなると、逆に企業は内部情報で決算は一
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○ 会社法でいうとまさに確定決算主義があっ
応しまって、社内的にもかなりの程度の人が
て、いわゆる逆基準性というのはずっと言わ
知っているにもかかわらず、後の監査手続で
れてきているわけです。中小企業の会計をや
軽微なもののチェックも含めてやって、短信
るときに必ず税法基準をどこまで許容するか
に一切、誤謬がない状態にしないと出せな
というあの議論が出てくるのです。それが企
い。それが望ましいように努力はしています
業会計とぶつかっている部分があったとき
が、そこのタイムラグが2週間とか3週間と
に、こういう場合は税法基準で構わないかど
かになった場合に、どういうことに重きを置
うかと、例えばさっきでていたように、税法
くのか。
の減価償却のときもそれに従っていたらいい
○ 今日、作成者の負担が重いというのが言わ
のですかといった議論が必ず出てくるわけ
れていて、それが逆に法定開示の方にはね返
で、税法が決まっていると中小企業も絶対そ
ってくるような面があると思うのですが、例
ちらに従ってしまう。
えば、一律の規制をしないで、何かもうちょ
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っと任意の部分を増やすとか、そういうこと
○ 上場会社のガバナンスをどうするかという
で適時開示全体の負担をもうちょっと軽くす
話のところも、例えば会社法の中に上場会社
るような工夫は考えられないのでしょうか。
の規定が置かれていて、上場会社向けの規定
は全部、会社法にあるというような構造には
○ 有価証券報告書はやはり短信に比べても注
なっていないわけですから、そこはやはり金
記情報で、手を加えなければいけないものが
商法と一緒に歩調を合わせて、どのような規
相当多いのです。これにはやはり時間がかか
制をすべきか、あるいは会社法はどのように
っている。
考えて今までやってきたけれどもという話の
そこからまた監査をその新規事項について
すり合わせの中で、金商法としての会社のガ
もやってもらうということです。急げばもっ
バナンスについての開示規制というのが出来
と早くできるというのはあるかもしれません
ていくのが一番望ましいということだと思い
が、事実としては、そのボリュームがまた少
ます。
し違っているというのは大きいですね。
⑵ 参考人の報告及び議事概要
2.第6回会合議事概要
⑴ 参考人の報告及び議事概要
参考人として、公認会計士の森洋一氏をお招
きして報告を行っていただきました。「国際統
参考人として、西村あさひ法律事務所の郡谷
合報告委員会(IIRC)と統合報告」というテー
大輔氏をお招きして報告を行っていただきまし
マで、以下の事項について報告が行われまし
た。
「金融商品取引法と会社法の概念相違・交
た。
錯分野について」というテーマで、報告が行わ
れました。
具体的には、3つの事項が論点として取り上
げられました。
具体的には、企業の報告というものをより包
括的に財務と非財務を統合した統合報告という
形にしていこうという動きがあります。そして
国際的な委員会である国際統合報告委員会
1つ目は、自己株式の取扱いです。自己株式
(IIRC)が立ち上がって、そこでは、どういう
を取得後も保有し続ける意義、自己株式取得後
枠組みで企業の報告を行っていけばよいのかと
における金商法と会社法における取扱いの相違
いう議論が行われています。今回は、統合報告
について言及されました。
を巡る動きを中心にご説明いただきました。
2つ目は、議決権行使結果の開示についてで
す。議決権行使結果をカウントするのには、費
用負担が発生することについてご説明が行われ
森洋一氏の報告を受けて、各委員等から以下
のような発言がありました。
た上で、当該費用の負担関係等について言及さ
れました。
○ 課題のところで書いていただいている「保
3つ目は、役員報酬の開示についてです。個
証業務の位置づけ、監査人の役割と責任」と
別開示の基準で1億円以上というのがあります
いうところですが、どういった形でこの非財
が、何故、1億円が基準になるかの疑問が投げ
務情報とかそういったものに対して監査人が
かけられました。
保証をしていくのかというところは今後の戦
略的項目に挙がっていくというご説明があり
郡谷大輔氏の報告を受けて、各委員等から以
下のような発言がありました。
ましたけれども、非常に限定した形にならざ
るを得ないのではないかという印象は持ちま
した。
○ 自己株式の点については、要はまさに何故
今、これが自主的にいろいろ開示を進めら
まだ金庫株が残っているのかというのがすご
れている会社さんもいらっしゃるということ
く謎で、できたら自己株式取得の段階で自動
ですけれども、1つの統合報告という枠組み
的に消えるようにしてほしいというのが個人
が出たときには、やはりその情報の信頼性で
的な希望です。ただ、そうするとやはり上場
すとか、そういったものから何らかの保証が
会社について残していく意味は登録免許税し
必要になってくると思いますので、今後、そ
かないというのはまさにそのとおりです。
の保証業務というところに関してもこの動き
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研究所活動状況
と併せて一緒に検討していくことが重要なの
ではないかと感じました。
○ 法律屋から考えると、これはまさに企業間
の情報提供競争のような話ですよね。ところ
が、法律屋から見ると責任の問題とか、恐ら
く課題のセーフハーバールールの話になって
きて、見込情報などを提供したときにそれが
ミスレッドされた場合どうするかとか、監査
人についての責任論とかが、恐らく問題にな
ってきて、あとは任意開示の世界ですから、
どれだけたくさん情報を提供した方が投資家
にとって好意的に受け止められるかという話
なのかなと思っていたのです。
しかし、今、
「取り決め」という話が出て
きましたね。それは任意の取り決めですか。
それとも政治マタ―になってきて、これが強
制開示の話になってくるとちょっと法律事項
になってきまして、法的な感覚からいくとこ
れはどういう議論として受け止めれば良いの
でしょうか。
以上
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その他
金融商品取引法関連法令の改正日誌 平成23年6月1日~平成23年8月31日
〈
「企業内容等の開示に関する内閣府令」についての改正一覧〉
府令名
公布日
主な内容
施行日
適用日・経過措置
改正された様式
特 定 有 価 証 券 H23.7.29 四半期簡素化に伴う届出書に係る H23.7.29 施行日以後に提出 〈内国〉
改正
する届出書から適 2号(届出書・通常方式)
の内容等の開
用
示に関する内
⑴「業績等の概要」に記載すべき
閣府令等の一
四半期情報
部を改正する
「経理の状況」において、最近連結
内閣府令
会計年度終了後の状況として四半
(内閣府令第
期連結BSを掲げた場合には、四
38号)
半期連結CFを記載しない四半期
連結累計期間においても「業績の
概要」の記載を義務付ける
その他「生産、受注及び販売の状
況」及び「研究開発活動」を一部
改正
⑵「経理の状況」に記載すべき四
半期連結財務諸表等
「四半期連結財務諸表の用語、様式
及び作成方法に関する規則等の一
部を改正する内閣府令(平成23年
3月31日内閣府令第10号)」附則
第8条の規定を改正し、同内閣府
令による開示府令の改正に係る届
出 書 に つ い て は、 平 成 2 3 年 3 月
31日以後に終了する連結会計年度
を最近連結会計年度とするものか
ら適用することとする
企業内容等の
開示に関する
内閣府令の一
部を改正する
内閣府令
(内閣府令第
41号)
H23.8.5
有価証券の募集(売出し)が当該 H23.8.5 【臨報】
〈内国〉
有価証券を対価とする公開買付け
第1号-施行日以 2号-2(届出書・組込方式)
のために行われる場合、臨報、届
後に開始する有価 2号-3(届出書・参照方式)
出書及び発行登録追補書類におい
証券の募集又は売 2号-5(届出書・少額募集等)
て、当該募集(売出し)の発行(交
出しについて適用 2号-6(届出書・特定組織再
付)条件の合理性に関する考え方、
第2号-施行日以 編成発行手続等)
当該条件により発行(交付)を行
後に行われる取締 2号-7(届出書・新規上場に
う理由・判断の過程の記載を求め
役会の決議等につ 係る特定組織再編成発行手続
る
いて適用
等)
【 届 出 書 ・ 発 行 登 12号(発行登録追補書類)
臨報の記載内容を定める第19条第
録追補書類】
12号-2(コマーシャル・ペー
2項第1号(海外における有価証券
施行日以後に提出 パーに係る発行登録追補書類)
の募集又は売出し)及び第2号(私
する届出書及び発
募の有価証券の発行)において、
行登録追補書類に 〈外国〉
上記の場合の記載項目を追加
ついて適用
7号-2(届出書・組込方式)
届出書及び発行登録追補書類にお
7号-3(届出書・参照方式)
いても、同様の趣旨の記載項目を
7号-4(届出書・特定組織再
追加
編成発行手続等)
15号(発行登録追補書類)
連 結 財 務 諸 表 H23.8.31 H23.6.21に公表された大臣談話 H23.8.31
「IFRS適用に関する検討について」
の 用 語、 様 式
を受けた連結財規等の改正に伴う
及び作成方法
記載上の注意の改正
に関する規則
等の一部を改
正する内閣府
令
(内閣府令第
44号)
―
〈内国〉
2号(届出書・通常方式)
4号-3(四半期報告書)
(注1)
「企業内容等の開示に関する内閣府令」を開示府令、
「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(連結財務諸表規則)」を「連結財規」
、有
価証券届出書を「届出書」、臨時報告書を「臨報」、「貸借対照表」を「BS」、「キャッシュ・フロー計算書」を「CF」と、それぞれ略称を使用してい
る。
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その他
〈
「財規諸表等規則」等についての改正一覧〉
府令名
公布日
主な内容
施行日
適用日・経過措置
改正された財規の種類
財 務 諸 表 等 の H23.6.30 H23.3.25に企業会計基準委 H23.6.30 【財規・連結財規】
財規、
員会から公表された、「連結財
H25.4.1以後に開始する事業 連結財規、
用 語、 様 式 及
務諸表に関する会計基準」の
年度(連結会計年度)に係る財 中間連結財規、
び作成方法に
改正に伴う改正
務諸表(連結財務諸表)から適 四半期財規、
関する規則等
用
の一部を改正
四半期連結財規
財規
H23.4.1以後に開始する事業
する内閣府令
一定の要件を満たす特別目的
年度(連結会計年度)から早期
(内閣府令第
会社について、当該特別目的
適用可
30号)
会社に対する出資者及び当該
【中間連結財規】
特別目的会社に資産を譲渡し
H25.4.1以後開始する中間連
た会社の子会社に該当しない
結会計期間から適用
ものと推定する取扱いについ
H23.4.1以後に開始する中間
て、当該取扱いは資産の譲渡
連結会計期間から早期適用可
者のみに適用されることとな
ったことに伴う改正
連結財規・中間連結財規
ノンリコース債務の開示に係
る改正
その他、四半期財規及び四半
期連結財規の一部改正
連 結 財 務 諸 表 H23.8.31 H23.6.21に公表された大臣 H23.8.31
談話「IFRS適用に関する検討
の 用 語、 様 式
について」を受け、平成21年
及び作成方法
12月11日に公布された改正
に関する規則
連結財規(平成21年内閣府令
等の一部を改
第73号)における、連結財務
正する内閣府
諸表の作成基準としての米国
令
基準の使用に係る規定につい
(内閣府令第
て、改正前の状況に戻す改正
44号)
―
連結財規、
中間連結財規、
四半期連結財規
連結財規
⑴米国証券取引委員会(SEC)
登録企業が米国基準を使用で
きる規定について、平成28年
3月31日までとする使用期限
を撤廃する
SEC新規登録企業は、改正府
令の公布・施行の日以後、米
国基準を使用できることとす
る
⑵連結財務諸表制度の導入(昭
和52年)前から米国基準を使
用している企業(SEC登録企
業を除く)が米国基準を使用
できる規定について、平成28
年3月31日までとする期限を
撤廃し、当分の間、米国基準
を使用できることとする
中間連結財規・四半期連結財
規
連結財規と同様の改正を行う
(注)
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(財務諸表等規則)
」を「財規」、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(連結財務
諸表規則)
」を「連結財規」、
「中間連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(中間連結財務諸表規則)」を「中間連結財規」、「四半期財務諸
表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(四半期財務諸表等規則)」を「四半期財規」、「四半期連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則
(四半期連結財務諸表規則)」を「四半期連結財規」と、それぞれ略称を使用している。
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〈金商法ニュース Pick up〉
名称
公表日(情報元)
主な内容
備考
東日本大震災による有
価証券報告書等の提出
の義務の不履行につい
ての免責に係る期限に
関する政令の公布につ
いて
H23.6.22
(金融庁)
東日本大震災による金融商品取引法の規定による有価証券 「 東 日 本 大 震 災 に よ
報告書等の提出の義務の不履行について、特定非常災害の る有価証券報告書等
被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する の提出の義務の不履
法律の規定に基づき、免責の期限を平成23年6月30日か 行についての免責に
ら同年9月30日に延長する。
係る期限に関する政
令 」 は、 公 布 の 日
延長の対象となる報告書は、以下のとおり。
(H23.6.22)から施
⑴有価証券報告書
行
⑵四半期報告書
⑶半期報告書
⑷親会社等状況報告書
有価証券報告書の作
成・提出に際しての留
意事項及び重点審査に
ついて(平成23年3月
期版)
H23.6.24
(金融庁)
平成23年3月期有報の作成・提出に際しての留意事項。
―
1.「セグメント情報等の開示に関する会計基準」等の公表
に伴う連結財務諸表規則等の改正
2.「包括利益の表示に関する会計基準」等の公表に伴う連
結財務諸表規則等の改正
3.「資産除去債務に関する会計基準」等の公表に伴う財務
諸表等規則等の改正
4.「企業結合に関する会計基準」等の改正に伴う連結財務
諸表規則等の改正
5.株式保有の状況に関する企業内容等の開示に関する内閣
府令の改正
6.その他
本年度の重点審査は、震災の影響も考慮し、例年の全企業
に対するアンケート方式から、無作為に抽出した企業に対
する質問・ヒアリング方式により実施。
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RID ディスクロージャーニュース vol.14
2011年10月発行
編集・発行 総合ディスクロージャー研究所
宝印刷株式会社
(総合ディスクロージャー研究所事務局)
〒171-0033
東京都豊島区高田3-32-1 大東ビル3階
TEL 03-3971-3154
無断転載・複写を禁じます。
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RID
ディスクロージャーニュース 2011/10
vol.14
2011 / 10 vol.14
ディスクロージャーニュース
《金融商品取引法》
・平成23年9月「第2四半期の四半期報告書」作成上の留意点
・改正金融商品取引法関連法令の概要
・「連結財務諸表に関する会計基準」等の解説
・東日本大震災に係る法定開示書類の事例分析①
・XBRLの歩み
・有価証券報告書の基礎(第13回)
・ディスクロージャー実務Q&A
《国際会計基準》
正しい理解に基づくIFRS議論の必要性
《会 社 法》
・平成23年3月期決算会社の株主総会招集通知
・中小企業に関する会計指針の動向
・会社法コラム第48回
《I R》
・IR部署が主導する株主総会
・ESGディスクロージャーの現状(3)
《取 引 所》
有償ストック・オプションの付与に関する適時開示について
《 研究所活動状況》
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総合ディスクロージャー研究所
総合ディスクロージャー研究所
・『カーボン・ディスクロージャー』出版記念シンポジウム
・第5回、第6回「ディスクロージャー制度研究会」議事概要
《そ の 他》
金融商品取引法関連法令の改正日誌
総合ディスクロージャー研究所
2011/09/28
14:42:50
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