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次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発

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次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発
参考資料5
最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用
「次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発」
中間評価報告書
平成22年8月
「次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発」
中間評価委員会
-
目次
-
はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
Ⅰ
次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発の概要 ・・・・・・・・・・2
Ⅱ
中間評価の概要
Ⅲ
中間評価の結果
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.事業運営主体〔理化学研究所・茅 幸二〕
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
2.各チームおよび個別研究課題の評価
A
分子スケール研究開発チーム
〔理化学研究所・木寺詔紀〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
A1 長時間運動シミュレーション(全原子モデルと粗視化モデルの連成)
〔理化学研究所・木寺詔紀〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
A2 精密シミュレーション(分子動力学計算の高速化)
〔横浜市立大学・池口満徳〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
A3 タンパク質・脂質・核酸複合系の大規模長時間運動(粗視化モデルの確立)
〔京都大学・高田彰二〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
A4 量子化学計算の高速化
〔東京大学・佐藤文俊〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
A5 動的環境での酵素反応(量子化学計算と分子動力学計算の連成)
〔京都大学・林 重彦〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
A6 動的環境での酵素反応(量子化学計算、分子動力学計算、粗視化モデルの連成)
〔大阪大学・中村春木〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
B
細胞スケール研究開発チーム
〔理化学研究所・横田秀夫〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
B1 細胞シミュレーションプラットフォーム
〔理化学研究所・横田秀夫〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
B2 肝細胞モデル
〔慶應義塾大学・末松 誠〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
B3 小胞動態モデル
〔神戸大学・清野 進〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
B4 イオンチャネル・モデル
〔大阪大学・倉智嘉久〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
C
器全身スケール研究開発チーム
〔理化学研究所・高木 周〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
C1 ボクセル血流シミュレーション、重粒子線治療シミュレーション、ボクセル肺呼吸シミュ
i
レーション、筋繊維から筋肉へのマルチスケールシミュレーション、オイラー型有限差分
FSI シミュレーション〔理化学研究所・高木 周〕・・・・・・・・・・・・・・・・25
C2 超音波治療シミュレーション
〔東京大学・松本洋一郎〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
C3 肺呼吸・肺循環統合シミュレーション
〔大阪大学・和田成生〕
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
C4 筋骨格神経系モデリング
〔大阪大学・野村泰伸〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
C5 オイラー型有限要素法の開発
〔広島大学・岡澤重信〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
C6 有限要素法による心臓全体シミュレーション
〔東京大学・久田俊明〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
C7 オイラー型連成手法による心臓シミュレーション
〔北陸先端科学技術大学院大学・松澤照男〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
C8 心筋細胞のモデリング
〔立命館大学・天野 晃、京都大学・松田哲也〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・32
C9 血管網シミュレーション
〔千葉大学・劉 浩〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
C10 脳血管系血流シミュレーション
〔東京大学・大島まり〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
C11 マラリアシミュレーション
〔東北大学・山口隆美〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
C12 血栓症シミュレーション
〔東海大学・後藤信哉〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
D
データ解析融合研究開発チーム
〔理化学研究所・宮野 悟〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
D1 ゲノムバリエーション
〔理化学研究所・宮野 悟、鎌谷直之〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
D2 遺伝子ネットワーク
〔東京大学・宮野 悟〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
D3 シミュレーションモデル
〔情報・システム研究機構・樋口知之〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
D4 タンパク質ネットワーク
〔東京工業大学・秋山 泰〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
E
脳神経系研究開発チーム
〔理化学研究所・石井 信〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
E1 局所回路シミュレーション、視覚系シミュレーション
〔理化学研究所・石井 信〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
E2 神経細胞シミュレーション、視覚系シミュレーション
〔京都大学・石井 信〕 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
ii
E3 視覚系シミュレーション
〔東京大学・黒田真也〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47
E4 無脊椎動物嗅覚系シミュレーション
〔東京大学・神崎亮平〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
F
生命体基盤ソフトウェア開発・高度化チーム
〔理化学研究所・泰地真弘人〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
F1 高速化、利用支援技術、可視化ソフトウェア
〔理化学研究所・泰地真弘人〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51
F2 大規模仮想化合物ライブラリ
〔東京大学・船津公人〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52
おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
iii
はじめに
現在、我が国は、第3期「科学技術基本計画」(平成18年3月28日閣議決定)の下に、「科
学技術創造立国」を目指して諸施策を実施している。
文部科学省では、同基本計画に基づく分野別推進戦略(平成18年3月28日 総合科学技術会議)
において国家基幹技術として位置付けられている科学技術を牽引する世界最高水準の次世代スー
パーコンピュータピュータの開発に向けて、「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発
利用」プロジェクトを平成18年度から開始している。
また「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」プロジェクトの一環として、汎
用京速計算機システム(以下、次世代スーパーコンピュータ)をライフサイエンスの分野におい
て最大限利活用することで、第3期科学技術基本計画の政策目標として掲げられている「飛躍知
の発見・発明」や「科学技術の限界突破」を成し遂げ、「生涯はつらつ生活」などに貢献し得る
ることが期待できる応用ソフトウェアの研究開発に取り組むため、「次世代生命体統合シミュレ
ーションソフトウェアの研究開発」(以下、本プロジェクト)を平成18年10月より、公募に
より選定された研究開発拠点の代表機関である独立行政法人理化学研究所を中心に進めている。
平成22年度は、本プロジェクト開始から5年目にあたることから、中間評価を実施し、平成
21年度末段階における成果の内容や、プロジェクト開始後の様々な状況変化等を踏まえた対応
方針について評価を行い、その結果を本報告書としてとりまとめた。
-1-
Ⅰ
次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発の概要
(目的)
ライフサイエンス分野において次世代スーパーコンピュータを最大限利活用することで第3期
科学技術基本計画の政策目標として掲げられている「飛躍知の発見・発明」や「科学技術の限界
突破」を成し遂げ、「生涯はつらつ生活」を実現し得ることが期待できる応用ソフト(以下、グ
ランドチャレンジ)について、本プロジェクトを行う研究開発拠点を形成し、研究開発を推進す
る。
本プロジェクトは、計算科学技術を駆使したライフサイエンス分野における新技術の適用など
に道筋を付け、今後の我が国におけるライフサイエンス分野の科学技術の進展に大きく貢献して
いくことを目的とする。
(期待される効果)
研究開発拠点を形成することにより、ライフサイエンス分野におけるグランドチャレンジの実
現を目指す研究開発を進められる体制を構築する。これにより生命現象の理解の深化、医用工学
を軸としたその理論の解明やモデル化、新たな薬剤開発手法等につながる計算科学技術手法の確
立等、ライフサイエンス分野における計算科学技術を駆使した新技術の適用などに道筋を付け、
今後の我が国におけるライフサイエンス分野の科学技術の進展に大きく貢献することが期待され
る。
研究開発拠点において、ライフサイエンス分野におけるグランドチャレンジの研究開発に取り
組み、次世代スーパーコンピュータの能力を最大限利活用することにより、「飛躍知の発見・発
明」、「科学技術の限界突破」を成し遂げ、「生涯はつらつ生活」等を実現し得る応用ソフトを
開発することが期待される。
(実施期間)
平成18年度~平成24年度(開始後3年度目、5年度目に中間評価を行う)
(予算)
文部科学省が委託事業として実施している。
平成18年度 1.6億円
平成19年度 16億円
平成20年度 15億円
平成21年度 14.2億円
平成22年度 11億円
(実施体制)
実施機関の選定に当たっては、計算機科学者、計算科学者のみならず医学・工学等に携わる
理論や実験研究者、ソフトウェア開発技術者、研究開発成果を検証・実践する者等が一体となっ
た協働体制をとり、我が国の総力を結集した世界水準の国内の研究開発拠点を形成するための計
画と手段が明確であり、高性能なスーパーコンピュータを有する他の研究開発機関等との間でそ
の利用に関する協力の枠組みがある等、高性能な計算機環境において応用ソフトの研究開発を遂
-2-
行できる体制が構築されていることなどを基準に、研究開発拠点を構築し研究開発を推進する機
関を公募・選定した。
採択された機関は以下のとおりである。
《代表機関》
独立行政法人理化学研究所
《協働機関》
独立行政法人理化学研究所
公立大学法人横浜市立大学
国立大学法人大阪大学
国立大学法人京都大学
国立大学法人神戸大学
国立大学法人千葉大学
国立大学法人東京工業大学
国立大学法人東京大学
国立大学法人東北大学
国立大学法人広島大学
国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
学校法人慶應義塾
学校法人東海大学
学校法人立命館
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
(公募・選定の経緯)
本プロジェクトにおける実施機関の選定は、研究機関等を公募し、外部有識者により構成さ
れる選考委員会において書面および面接ヒアリングによる審査を実施し、選定している。
これまでの公募・選定の経緯は以下のとおりである。
・平成18年度公募・選定
平成18年6月15日~同7月14日
一般公募の実施
平成18年8月18日 受託実施機関選考委員会 開催
(ヒアリング審査、採択候補の選定)
-3-
Ⅱ 中間評価の概要
(1)目 的
「次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発」プロジェクト(平成18年度
~平成24年度(7年間))の実施に当たり、各委託機関の実施業務の平成21年度末段階におけ
る進捗状況および中間成果について、公正に評価を行うとともに、今後のプロジェクトの方向性
について提案することを目的とする。
(2)方 法
1)書面評価及びヒアリング評価により行う
2)評価対象
・事業全体のマネジメント
・研究開発チーム
・個別研究課題
3)評価者 評価委員会(平成22年5月6日設置)
※設置要綱(参考資料1)、委員一覧(参考資料2)
4)評価の観点
委員全員の審議によって、①計算(機)科学からの評価(次世代スーパーコンピュータ活
用度)と②生命科学と社会からの評価の2軸で、AA、AB、BA、BBの4つに定性評価
し提言を行う。なお、各評価基準には委員全員の平均評点(5点満点)を付記するが、この
平均評点と総合的な定性評価は直接的に連動するものではない。
AA:実装に向けて加速化を提言する。
AB:実装に向けて生命科学面の改善点を提言する。
BA:計算(機)科学面の改善または生命科学面での展開・転身を提言する。
BB:抜本的な見直しを提言する。
さらに事業全体のマネジメントと研究開発チームについては、③運営の評価と④今後の計
画についての評価を行う。
5)評価結果の反映
・今後の事業展開に向けた検討すべき課題の指摘および助言
・予算配分の重点化等の提案
(3)評価対象毎の評価の基準
1)事業全体の評価
①計算(機)科学からの評価
・次世代スーパーコンピュータを必要とする研究として推進しているか
・次世代スーパーコンピュータを充分に活用する方向に推進しているか
上記を総合的に勘案し5~1の5段階で評価する。
②生命科学と社会からの評価
・生命科学にとって意味のある研究として推進しているか
・社会に役立つ研究として推進しているか
上記を総合的に勘案し5~1の5段階で評価する。
-4-
③運営の評価
・公正・透明・効率的なマネジメントか
・プロジェクト内の優先順位付けとそれにもとづく資源配分は適切か
・チーム間、個別研究課題間の連携に成果があがっているか
・人材育成と産学連携に成果があがっているか
上記を総合的に勘案し5~1の5段階で評価する。
④今後の計画についての評価
2)研究開発チームの評価
①計算(機)科学からの評価
・次世代スーパーコンピュータを必要とする研究か
・次世代スーパーコンピュータを充分に活用する研究か
・特に平成20年の中間評価で承認した短期目標課題について、計算(機)科学面で成果を
あげたか
上記を総合的に勘案し5~1の5段階で評価する。
②生命科学と社会からの評価
・生命科学にとって意味のある研究か、生命科学の進歩に寄与しているか
・社会に役立つ研究か
・特に平成20年の中間評価で設定した短期目標課題について、生命科学または社会にイン
パクトある成果をあげたか
上記を総合的に勘案し5~1の5段階で評価する。
③運営の評価
・チーム内および他チームとの連携に成果があがっているか
・特に平成20年の中間評価で設定した短期目標課題について、進捗管理は適切であったか
・人材育成と産学連携に成果があがっているか
上記を総合的に勘案し5~1の5段階で評価する。
④今後の計画についての評価
3)個別研究課題の評価
①計算(機)科学からの評価
・次世代スーパーコンピュータを必要とする研究か
・次世代スーパーコンピュータを充分に活用するソフトウェアか
上記を総合的に勘案し5~1の5段階で評価する。
②生命科学と社会からの評価
・生命科学にとって意味のある研究か、生命科学の進歩に寄与する研究か
・社会に役立つ研究か
上記を総合的に勘案し5~1の5段階で評価する。
③今後の計画についての評価
-5-
(4)委員会開催実績
平成22年5月27日 第1回評価委員会 開催
(中間評価の視点、評価の進め方、評価方法の決定)
平成22年7月1日
第2回評価委員会 開催
(面接ヒアリング)
平成22年7月29日 第3回評価委員会 開催
(中間評価結果の取りまとめ)
-6-
Ⅲ
中間評価の結果
1.事業全体の評価
(1)計算(機)科学からの評価
評点3.4
前回の中間評価(平成20年度)において高い評価を受けた「ハードウェア完成に連携した研究開発計
画」が着実に遂行され、次世代スーパーコンピュータの性能を充分に発揮するソフトウェアがいくつも開
発されつつあることは高く評価できる。とりわけ、目標を短期および中長期に分け、各ソフトウェアを第1
走者から第3走者までに分類して、それぞれのマイルストーンを明確にし、それを遂行したことは高く評
価したい。今後は次世代スーパーコンピュータの並列度である100万に近い並列度を達成するための
マイルストーン、スケジュールを明確にし、それの達成に向けたより一層の努力、ブレイクスルーを期待
したい。
その一方で、ライフサイエンスに特化したモデリング技術の確立や新規アルゴリズムの開発といった
観点、すなわち『計算科学』の面においては、やや期待はずれの感がある。特に、分子-細胞-臓器と
いったスケール間を連携・統合する取組みについては、平成 20 年度の中間評価において強く指摘され
ていたにも関わらず大きな進展は見られなかった。視覚ネットワ-ク学習モデル、血栓形成と輸送に関す
る研究開発などスケール間統合に一部成果をあげている例がある一方、分子と細胞の連動はいまだ目
処がたっていないように見受けられる。ここで、スケール間統合の計算科学的な可能性と限界について
もう一度整理し直すことが重要であろう。その上で、今後どのように取り進めるかについての再検討を行
っていただきたい。
(2)生命科学と社会からの評価
評点3.1
個々の研究課題については、生命科学としては総じて高い水準にあると評価できる。また、排
出トランスポーター、肺がんと薬など個別研究課題をつなぐ生命科学上のテーマを設定し個別課
題の連携を促進したことについても高く評価できる。
しかし、生命科学に対してどこまで強いインパクトがあるか、生命科学の進化に向けての一貫
した意志やコンセプトがあるのか、という観点からは物足りなさが残る。例えば、上述のスケー
ル統合問題に対して、
「要素還元型の延長のマルチスケールパラダイムで現実生命に関する意味の
あるシミュレーションを行えるか」といった根源的な問いに対する検討の痕跡が見られない。ま
た、現在あるいは数年先に、生命科学においてどういうデータが出てきて、それに対してどうい
う問題を解かないといけないのかという洞察が一部の研究課題を除いて見あたらない。
こういった生命科学に対する深い洞察があってはじめて計算科学としての価値が生まれる。そ
こで、数年先に生命科学がどうなっているかの観点からの洞察を再度加えて、たとえ地味であっ
ても発展性のある個別研究課題や取り組みを選択し、資源集中をするなり、あるいは、他の生命
科学プロジェクトと連携させるなりして、これまでの成果をさらに展開・発展させる方策を講じ
ていただきたい。
社会面の成果は個別企業との連携が始まっている課題もあり概ね順調に進捗していると評価で
きる。ただし、出口(具体的活用)が明記されている研究課題と、まったく記述がない課題があ
るので、統一的な整理をして、活用の仕方、させ方を良く見えるように広報活動を進めていただ
きたい。また、特許出願件数合計3件の成果がある。本プロジェクトでは、どのような場合に特
許化するのか、もしくは特許化せずに無料公開するのか、知財戦略と公開・利用の原則を明らか
にしていただきたい。
-7-
(3)運営の評価
評点2.8
平成20年度の中間評価を機会に、ソフトウェアの優先順位づけ、チーム内・チーム間のミー
ティング開催、生命科学面を強化するためのコーディネーターの配置など、運営の努力を行った
ことは評価できる。特に各チームの進捗状況、計算機科学としての重要度などをきめ細かく精査
し、各課題を短期的、長期的課題に整理し、それに基づき研究課題や取り組みを再編成し、プロ
ジェクト全体を有機的かつ効率的に実施しようとした点は十分に評価できる。チーム間連携の弱
さ、多すぎる研究課題など課題は残されているが、本中間評価での指摘・提言を参考にして、さ
らなる運営の努力を続けていただきたい。
このような評価できる面がある一方で、運営の公正さ・透明性・客観性については十分確保さ
れているとは言いがたい面がある。現状では、個々の研究課題の取捨選択や予算配分がどのよう
に行われているのか、外部の客観的な評価が導入されているのか、プロジェクト参加者に公平に
目標・方針の周知がなされているのか等、運営面の問題があるように見受けられる。巨額を投じ
て国民の注目を集めているプロジェクトの説明責任は非常に重いことをよく認識し、運営の公正
さ・透明性・客観性についてさらなる努力を払っていただきたい。
(4)今後の方向性の提案
定性評価:AB.実装に向けて生命科学面の改善点を提言
俯瞰的にプロジェクト全体を見通して、生命科学として、計算科学として、あるいは両方の意
味で、何が大事か、何を伸ばすべきか、もう一度整理し見直して、今後に進むべきである。この
整理・見直しの際に、「真に次世代につながるものは何か」という視点を強調していただきたい。
生命科学においては、基本方程式に相当する知見や定量データの蓄積が少ない上に、計算科学
利用の歴史が浅いため、他研究分野でのシミュレーションのような顕著な成果がでにくいことは
本プロジェクトの開始時から十分予想されたことである。言い換えれば、現時点では、計算科学
-生命科学の両面で高い評価ができ、次世代スーパーコンピュータ実装に向けて資源投下できる
テーマはそれほど多くない。であるならば、であるからこそ、本中間評価を契機に原点に立ち返
り、次世代につながる芽を有する研究課題を育てることが重要ではないか。これこそが、まさに
グランドチャレンジではないか。
次世代につながる芽を育てるにあたっての視点を以下に例示する。
①期間内に次世代スーパーコンピュータ実装を目指すソフトウェア(第一走者)を除いた大部
分のソフトウェアは、基本のアルゴリズムを変えずに次世代スーパーコンピュータへの対応
を考えているため、また、目に見える成果を求めるあまり、新規アルゴリズムなどのチャレ
ンジが少ない。これでは着地や出口はしっかりしているように見えても次につながらない。
アルゴリズムの抜本的な改変を目指す研究課題にも挑戦してはいかがか。
②生命科学における本来の課題であるスケールを超えたモデル化に立ち返るべきである。つぎ
はぎ・寄せ集めでなく、画期的なモデリングを扱うテーマにも挑戦してはどうか。
③生命科学の特徴である多種多様なデータからのモデリングに、より本格的に取り組んではど
うか。データ整備に関して優秀な研究課題またはデータマネジメント技術を素直に受け入れ
る研究チームをピクアップして育ててはどうか。
④プログラムディレクターからモザイク絵画のピース作りという目標が示された。また、コー
ディネーターからデータドリブンという方向性が示された。そうであるならば、ピースをど
-8-
のようにつなぐのか(プログラムの連携性をどのように図るのか)、データの共有や活用をど
う図るのか、そのためのデータの標準化や品質保証をどのようにするのか、といったプログ
ラムおよびデータの連携性を重視した取り組みを強化してはどうか。
⑤製薬会社、医療機器メーカー、臨床医師など、ニーズ側、利用者側の人間が直接開発に関与
できる体制を構築できないか。ニーズ側、利用者側の人間の視点が入れば、安直なシミュレ
ーションや再現性のないデータやモデルに向かうことが防げるのではないか。
-9-
2.各チームおよび個別研究課題の評価
A
分子スケールチームとその個別研究課題
(1)計算(機)科学からの評価
評点3.8
着実な進捗が見られる。量子から巨大分子構造体までの階層を越えたマルチスケールシミュレ
ーションを目指して、25000 並列を達成し、1 万原子超計の全電子波動関数計算を可能とした意義
は大きい。また、3つの階層を接続するソフトウェアの開発は評価できるので、第二走者として
次世代スーパーコンピュータ実装につながるよう努力されたい。
(2)生命科学と社会からの評価
評点3.7
生命科学としての価値も十分に認められる。例えば、分子全体に広がる分子軌道の役割を解明
するなど成果が認められる。また、多剤排出トランスポーターや脂質代謝酵素複合体という巨大
系のシミュレーションは、分子機構解明の指針を与えたことと、その成果の実用化レベルの利用
という両面で評価できる。
ただし、依然として他のチームとの連携が弱い。分子スケールレベルから細胞スケールレベル
へのアプローチが困難なのは、このプロジェクトが立ち上がった時から想定されているはずだが、
どのような検討をしたのか。特に細胞スケールとの連携で肝細胞に絞って脂質代謝酵素複合体を
選択して研究を進めていたがどういう結果だったのか。これらの検討結果も大切な成果であるの
で、整理して再度細胞スケールチームとの連携について検討していただきたい。さらにデータ解
析チームで研究しているタンパクドッキング手法は、本チームと融和性がある。連携の可能性を
検討されたい。
(3)運営の評価
評点3.5
分子チーム内の運営はおおむね良好で、チーム内の協力体制にも努力が払われている。アカデ
ミアや産業界との共同研究についても、開かれた研究体制を構築している成果として評価できる。
ただし、他チームとは独立している。繰り返しになるが細胞スケールとの連携で成果は上がっ
ていない。難しい挑戦であることは理解しているが、今後の成果に期待したい。
発表論文数は充分であり、短期目標課題の進捗は概ね妥当である。
研究員を多数雇用し,若手の賞を受賞するなど成果を挙げつつある。ただし、このチームでど
のような人材を育成すべきなのかよく分からない、すでに充分な人材がいるのではないか。次世
代に向けて、この分野の人材の姿とキャリアパスを検討されることをお勧めする。
(4)今後の方向性の提案
定性評価:AB.実装に向けて生命科学面の改善点を提言
次世代スーパーコンピュータ実装に向けての第一走者として役割に大いに期待したい。ワーク
フローの構築等により、各プログラムの連携性に十分に配慮して開発を進めてもらいたい。具体
的には、個々の研究課題はつねに全体とのかかわりを意識して、連携性の開発により集中してチ
ューニングを行い実装化に間に合うよう指導力を発揮していただきたい。また、ソフトウェアの
公開・普及について、計画を策定していただきたい。
一方、細胞スケールチームとの連携にも配慮していただきたい。
「真に次世代につながるものは
何か」という観点で、挑戦的な研究課題を設定し、例えば「肝細胞・分子代謝ワーキンググルー
プ」といった具体的かつ実務的な連携が進むような体制を整備していただきたい。
以下、各研究課題の評価と、今後の方向に向けての提言を列挙する。
- 10 -
個別研究課題名 : [A1] 長時間運動シミュレーション(全原子モデルと粗視化モデルの連成)
代表機関名・代表研究者名 : 理化学研究所・木寺 詔紀
1. 計算(機)科学からの評価
評点4.0
巨大分子の長時間現象のシミュレーションを行うのには次世代スーパーコンピュータが必要であり、そのための
生体高分子系の階層を練成させるPlatypusMM/CG, REINというソフトウェアのプロトタイプを完成させたことは、次
世代スーパーコンピュータの活用に繋がると評価できる。平成20年度中間評価を真摯にうけてMM/CG結合に注力
し有効な成績をあげていることに高い評価を与えたい。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.8
多剤排出トランスポーターと脂肪酸代謝多酵素複合体という分子スケール共通ターゲットに研究を集中したこと
は、生命科学上新規な情報が集中的に得られることが期待できる。これらは、医薬開発への展開も期待できる。ま
た、MM/CG法によりタンパク質の機能発現過程のシミュレーションは、創薬の分野に於いて、薬剤結合に伴うタン
パク質構造変化の予測が可能となり、生命科学の進展に貢献する。特にタンパク質-リガンド結合予測の手法とし
て3D-RISM法の開発は評価出来る。
今後はWet実験での裏打ちに力を注いでいただきたい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AA.実装に向けて加速化を提言
計画にしたがって、着実に開発を継続すること。MM/CG法および3D-RISM法などの方法論について完成、およ
びPlatypus MM/CG, REINの統合と高度な並列化を期待する。多剤排出トランスポーターの機能的回転機構もさら
に研究を進めていただきたい。
なお、巨大蛋白質や、その複合体の基質と相互作用の詳細シミュレーションは、その実証的検証も必要である。
また、実用化に繋がる特許的価値はないのか精査していただきたい。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 11 -
個別研究課題名 : [A2] 精密シミュレーション(分子動力学計算の高速化)
代表機関名・代表研究者名 : 横浜市立大学・池口 満徳
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.4
ほぼ計画通りに進行している。
全原子シミュレーションプログラムMARBLEの開発を行い、生命科学の分野に於ける構造生物学実験との連携
技術の開発を進展させた。実験により小さな分子でのMABLEの応用可能性が検証されたことも評価できる。溶媒
まで含めた巨大超分子用全原子シミュレーションには、膨大な計算が必要であり、次世代スーパーコンピュータの
活用が必須である。
ただし、どこにブレイクスルーがあったのか、高速化は必須だが既存の技術の高速化だけではチャレンジとなら
ない。今後は生命体基盤ソフトウェア開発・高度化チームの支援を受けて、ブレイクスルーを意識して研究を進め、
MARBLEが第二走者にふさわしいか再点検していただきたい。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.9
実験における実証を重視していることは高く評価できる。NMR、X線溶液散乱実験との連携開発は有意義であっ
た。巨大分子である多剤排出トランスポーターの次世代スーパーコンピュータ上でのシミュレーションにより分子メ
カニズムが解明されれば生命科学においても、多剤耐性化を防止する薬剤の創薬に対しても貢献し得る。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AA.実装に向けて加速化を提言
高並列化での効率維持に留意されたい。
多剤排出トランスポーターはターゲットとしてもこのプロジェクトの目的に沿っているので推進を期待。多剤排出
トランスポーターの機能メカニズムの更なる解明が必要である。細胞との関連が強いテーマなので、細胞スケール
チームとの連携努力に期待する。
MARBLEは有用性の高いソフトなので、並列化、高速化が完了すれば研究は終息し、有用性が広く関連領域の
研究者に周知されるように期待する。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 12 -
個別研究課題名 : [A3] タンパク質・脂質・核酸複合系の大規模長時間運動(粗視化モデルの確立)
代表機関名・代表研究者名 : 京都大学・高田 彰二
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.7
計画に沿って着実に進展している。巨大システムのシミュレーションのためには次世代スーパーコンピュータが
必須であり、複合生体分子系の粗視化モデルシミュレーションのためのソフトウェア CafeMol の開発により、蛋白
質、資質、核酸などの複合系シミュレーションに成功したことは評価できる。特に転写制御の研究ではクロマチン線
維構造の解明に次世代スーパーコンピュータを要すると考える。ソフトウェア一般公開まで進めたことも評価でき
る。
しかし、CafeMol は第一走者として次世代スーパーコンピュータ実装を急ぐよりは、Embarrassingly Parallel に努
めることをお勧めしたい。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.6
多剤排出トランスポーター、クロマチン、ネキシンなどそれぞれのテーマで新しい知見を得たり、新しいメカニズ
ムを提唱したりしたことは、生命科学上大きな意義がある。また、既にソフトウェア CafeMol の公開を始めたことは、
すぐにも外部の生命科学研究者に役だたせ、波及効果が期待される。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AB.実装に向けて生命科学面の改善点を提言
ソフトウェアCafeMolは、10Petaに挑む第一走者なので、計画の見直し・遵守によって、超並列化へ向けてのア
ルゴリズム改良や分子複合体の構造機能解析を進めることが望ましい。特に、実験的検証によりシミュレーション
の精度がより高くなるのでウエット実験との連携計画の策定をしていただき、次世代スーパーコンピュータ上での計
算による巨大分子のメカニズムのシミュレーションで機能構造解析の面で成果が上がることに期待する。対象とし
て残り期間は多剤排出トラスポーターに力を集中すべきと考える。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 13 -
個別研究課題名 : [A4] 量子化学計算の高速化
代表機関名・代表研究者名 : 東京大学・佐藤 文俊
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.5
適切な課題、計画であり、それに沿って順調に進展している。Protein DF は巨大な生体分子であるタンパク質の
軌道計算を行う為のプログラムであり、現在、メモリ構成の為のソースコード変更と次世代スーパーコンピュータに
活用出来るソフトウェアへのスケールアップをして 2500 並列を達成したことは評価できる。トランスポーターやイオ
ンチャンネルの高信頼性計算の実現のために環境としての水分子を含んだ数万原子系における電子状態計算を
行うには、次世代スーパーコンピュータが必須である。
ただし全電子計算と他のプログラムとの連携が不明瞭なので、今後計画策定・報告の際は留意されたい。開発
した Protein DF は、マトリックスオペレーション等のネックについて先行しているナノグランドチャレンジと連携して解
決してはどうか。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.3
タンパク質の化学反応を全電子カノニカル波動関数計画でシミュレーション機能を構築しているが、完成により
今後の酵素研究や薬剤設計に有用であると推察できる。しかし、開発したプログラムでの具体的なシミュレーション
や、その実証検証が不足しており、生命科学的な意義の証明が不十分である。どこまで実用に耐えるものができて
いるのか、実証に注力されたい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AB.実装に向けて生命科学面の改善点を提言
20000原子全電子カノニカルは同関数計算達成に期待する。分子スケール共通ターゲットへの挑戦をより積極
的に進めていただきたい。今後は生命科学的な意義の証明に資源を集中していただきたい。
光合成アンテナ複合体 Protein DF は、本邦の独自開発であり、研究期間内のソフトウェア化および公開の推進
を期待する。特許化の検討も必要である。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 14 -
個別研究課題名 : [A5] 動的環境での酵素反応(量子化学計算と分子動力学計算の連成)
代表機関名・代表研究者名 : 京都大学・林 重彦
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.6
計画および進捗は妥当である。生体分子機能に関わる化学反応に関するハイブリッド QM/MM 法の開発を行
い、目標をほぼ達成したといえよう。ハイブリッド QM/MM 反応自由エネルギー計算法で新規の方法論の開発に成
功したことは、次世代スーパーコンピュータによる、巨大系の電子状態の時間発展を記述し、大規模構造変化と反
応の共役機構の解明する道を開いた。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.3
実際の反応系での応用は評価できる。タンパク質の酵素反応のシミュレーションは本邦独自な方向性であり、
生物学的機能の発現機序を明らかにしつつある。特に紅色光合成細菌のユビキノン還元の分子機構で、長距離プ
ロトン移動反応における水素結合ネットワーク形成揺らぎの重要性を解明したことは、分子スケールの共通ターゲ
ットである多剤排出トランスポーターの研究に繋がることから意義が大きい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AB.実装に向けて生命科学面の改善点を提言
次世代スーパーコンピュータに実装する計画がないようなので、個別研究課題ではなく、今まで以上に多剤排
出トランスポーターなど他の研究課題との連携に重点をおいていただきたい。特に、A4テーマ「量子化学計算の高
速化」とのさらなる連携に期待する。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 15 -
個別研究課題名 : [A6] 動的環境での酵素反応(量子化学計算、分子動力学計算、粗視化モデルの連成)
代表機関名・代表研究者名 : 大阪大学・中村 春木
1. 計算(機)科学からの評価
評点4.2
課題の必要性、計画の妥当性、その進捗はいずれも極めて明確である。
独自に開発した QM/MM/CG 連成計算ソフトウェア Platypus(CGM)によりマルチスケールシミュレーションも可能
にした。さらに超並列計算を可能にしており、タンパク質の生化学反応機構の解明の為に次世代スーパーコンピュ
ータの活用に耐えるソフトウェアと思われる。RICC での DFT 部分の 8000 コアまでの並列化性能の達成は評価でき
るので、第一走者として位置づけ、資源を集中して、実装化に向けたさらなるチューニングを期待したい。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.8
生体内で起こる種々の生命機構、特に発癌に関するプロリン異性化酵素の作用機構を Ab initio QM/MD で解析
するなど生命科学に貢献している。
今後に期待できる。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AA.実装に向けて加速化を提言
現在のプロジェクトの進行状況からみると研究期間内H23~H24に於いてソフトウェアの質の向上が想定でき
る。本ソフトウェアは、汎用性が高く、マルチスケールを取り入れたプラットフォームである。分子スケールチーム内
のマルチスケール推進役として、排出トランスポーターや脂質代謝酵素複合体における成果に期待したい。
また、関係者以外の研究者の次世代スーパーコンピュータ利用や、次世代スーパーコンピュータ以外でのプロ
グラムの利用の普及に向けての計画があることには大いに期待する。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 16 -
B
細胞スケールチームとその個別研究課題
(1)計算(機)科学からの評価
評点3.5
当初計画に沿った進展が見られる。シミュレーションとイメージング技術を駆使して、細胞の
膜機能、生化学反応、物質拡散、膜電位の現象を連成して解析することが可能な細胞シミュレー
ション統合プラットフォーム(RICS)を完成させた。このプラットフォームは、実際の細胞
情報(実験画像等)をそのまま取り込める点について高く評価できる。
ただし、ボクセル型のプラットフォームの重要性・必要性は理解できるが、これは既存の技術
を細胞に適用しただけのように見受けられる。今後は、肝臓細胞等に対象を絞り、また、ボクセ
ル以外のプラットフォームと比較する等して、ボクセル型プラットフォームの可能性と限界を明
らかにして、次世代の細胞モデリング手法を提示できるようになるまで極めることを期待する。
その前段階として、早急に肝細胞データ等を組み入れRICSの性能評価を行っていただきたい。
(2)生命科学と社会からの評価
評点3.6
肝細胞と血小板にターゲットを絞ったことが功を奏し、大きな成果があったことが認められる。
特に実際のデータを基に、今まで解明できなかった細胞機能の一端を解明出来た意義は大きい。
画像技術の活用で実験結果とのキャッチボールを行う姿勢は評価でき、今後もさらにシミュレー
ション結果の実験的検証が進むとよい。また血栓のシミュレーションによって、臓器スケールチ
ームと連携が図られたことの意義は高い。
産業界との連携がまだ無いが、医薬分野で貢献できることは確実と考えられる。短期目標は充
分達成している。
ただし、次世代へのつながりという意味では、細胞のシミュレータとしては、他にも解くべき
問題が多々あるのではないかという感がある。今後3年間の間に、様々な問題に挑戦することは
現実的でないので、分子スケールチームと臓器スケールチームとの連携に的を絞り、次世代細胞
-分子連成シミュレーションの糸口を見出すことを期待したい。
(3)運営の評価
評点3.8
長期目標、短期目標を分けて進めるなど工夫がされており、特に短期目標課題の進捗管理は極
めて順調。細胞内の複数の事象の連成解析のため、代謝、拡散、イオンチャネル、膜電位などに
分け、参画機関との連携をはかっており、チーム内外との連携は適切に行われていると評価でき
る。その成果が、分野を超えたユニバーサルな細胞シミュレーション統合プラットフォーム(R
ICS)にあらわれたと評価している。分野を超えた若手研究者の育成も評価できる。細胞スケ
ールは基盤を形成する段階であるので、産業界との連携は無理して進める必要はない。
しかし、このチームの成果と分子チームや臓器チームとどうつながってくるのか(分子、臓器
を結ぶコアになるべきだがまだそのような機能を果たしていない)、ボクセルシミュレーションは
それに適しているのか、という前述した大きな課題は残されている。平成23年度までの研究計画
はRICS統合を中心に適切にたてられているので、次世代へのつながりを意識した取り組みを
組み入れる運営をしていただきたい。
(4)今後の方向性の提案
定性評価:AB.実装に向けて生命科学面の改善点を提言
細胞スケールチームは、細胞という生命最小単位を扱っている上に、各スケールを結ぶ結節点
という重要な役割を果たしている。それがゆえに、計算(機)科学の面においても、開発したR
- 17 -
ICSの更なる高速化や並列化を継続して進めていただき、その利用可能性を追求していただき
たい。生命科学の面では、スケール間の連携に重点投資をしていただきたい。すでに細胞から臓
器スケールへの展開を図っている『血栓』、および分子スケールチームとの連携が期待できる『肝
細胞』に集中的に資源を配分し研究を推進していただきたい。
一方、上述の繰り返しになるが、次世代へのつながりという観点から、ボクセルデータでどこ
まで細胞機能を表現できるのか、また、シミュレーションできるのか、その可能性と限界を明ら
かににしてほしい。
以下、各研究課題の評価と、今後の方向に向けての提言を列挙する。
- 18 -
個別研究課題名 : [B1] 細胞シミュレーションプラットフォーム
代表機関名・代表研究者名 : 理化学研究所・横田 秀夫
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.7
複雑な形状を再現し、局所的な機能(代謝、拡散、膜機能)を有している細胞内部をシミュレーションするための
処理を前提とした細胞シミュレーションプラットフォームを実現したことは高く評価できる。次世代スーパーコンピュ
ータの必要性は明白である。
実装までは時間がかかることが想定されるが着実に課題を克服していただきたい。また、RICSがどこまでこの
分野の標準的なものになって行くか、競合技術の状況をよく調査していただきたい。
2. 生命科学と社会からの評価
評点4.0
生命科学の基本的単位は細胞であり、その細胞も細胞内の機能は均一ではない。また現在まで臓器のシミュレ
ータは存在するが、細胞の集合体のシミュレータは存在していない。このシミュレータは多くの疾患、特に肝臓や膵
臓の病態を解明する為に必須である。さらに、実験データに基づくシミュレーションは信頼が置けるものであり、各
種細胞でのシミュレーション結果は高く評価できる。さらに、臓器全身スケールへの展開も望めることから、今まで
難しかった階層を越えた研究展開で生命科学の進歩に寄与できるものと考えられ、将来の医学領域への貢献の
期待できる。
ただし、これであつかえる問題とそうでない問題(応用可能生)をより明確化にしていただきたい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AB.実装に向けて生命科学面の改善点を提言
細胞のシミュレータRICSはプロジェクト全体の根幹であり今後も開発を着実に継続すべきである。今後は次世
代スーパーコンピュータを用いた実験データとシミュレーション結果の検証に期待する。特に、細胞の機能は局所
的な反応が重要であり、特に局所的な細胞膜の反応に関する実験データによる検証を伴う次世代スーパーコンピ
ュータを用いたシミュレーションに期待する。さらに、特許的価値の検討をされたい。
ただし、開発内容は保守的な面がある。E-CELL、ボクセルモデルだけでは代謝系しか使えないので根本的に
新しいチャレンジも同時並行的に着手すべきである。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 19 -
個別研究課題名 : [B2] 肝細胞モデル
代表機関名・代表研究者名 : 慶應義塾大学・末松 誠
1. 計算(機)科学からの評価
評点4.0
本研究は全て臨床にフィードバック出来る重要なプログラムであり、大規模細胞代謝シミュレーションの構築、臓
器レベルでの拡張には次世代スーパーコンピュータを用いた大規模な並列計算が必須。今回、現実的なシミュレ
ーションが可能となったことは高く評価できる。プラットフォームをRICSに設定して、E-CELL の応用に特化すること
によって、実現した点が評価できる。
並列計算をすると実行時間がかかりすぎるように見受けられる。改良を進めていただきたい。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.9
肝臓モデルと赤血球モデルに集中したことが功を奏し、また中間評価を受けてデータ収集実験とモデルへの実
装のキャッチボール方式で臨んだことにより単細胞代謝シミュレーション、肝臓細胞の系統的エネルギー代謝制御
機構の解析ともに大きな成果が得られたことは評価できる。肝臓代謝の完成により肝硬変、がんなどの手術後の
肝臓予備能の予測が可能となり、社会的な意義も大いに期待できる。
国際特許出願も評価できる。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AA.実装に向けて加速化を提言
今後の研究計画は前述の研究成果を全てレベルアップさせるものであり、がん細胞増殖や肝再生、細胞周期と
エネルギー代謝などの成果が期待出来る。さらに細胞代謝シミュレーションはRICSの支援を受けることにより推進
させることを期待する。
さらには細胞集団レベルのシミュレーションは臓器スケールのシミュレーションにつながるため、肝硬変、がんな
どのより複雑な系の設定における多細胞シミュレーションに期待したい。
人材育成についても Wet と Computer を共に理解できる方と代表者が率先されている運営体制を是非継続して
いただき、他のチーム・個別研究課題の模範となっていただきたい。
生命科学面では十分な成果を挙げており、これを計算科学とどのようにマッチングさせていくかが今後の課題で
ある。
また、肝細胞モデルはニーズも高くチャレンジであるので、産業化部分とチャレンジ部分を意図的に区別して推
進してはどうか。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 20 -
個別研究課題名 : [B3] 小胞動態モデル
代表機関名・代表研究者名 : 神戸大学・清野 進
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.3
膵臓β細胞の分泌に注目して、全反射傾向顕微鏡を利用してリアルタイプの分泌を画像として取得可能なシス
テム構築の意義は大きい。次世代スーパーコンピュータを利用してインシュリン分泌および分泌不全のメカニズム
の解明を目指す野心的なプログラムである。
しかし、次世代スーパーコンピュータを必要とする研究であるか不明である。今年度中に、細胞シミュレーション
統合プラットフォーム(RICS)の利用可能性と次世代スーパーコンピュータ上で動作可能性を確認していただきた
い。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.5
複雑な膵臓β細胞からのインシュリン分泌をモデル化できたことは生命科学においても意義がある。今後次世
代スーパーコンピュータで、実際の糖尿病の再現やインスリン分泌薬の作用が解明できれば、社会的インパクトは
極めて大と期待できる。インスリン顆粒の動態など興味深い成果が出ている
しかしこのプロジェクトでやるべき課題か疑問が残る。上記の計算機科学面からの確認結果を待ち、今後の方
向性を定めていただきたい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:BA.生命科学面での展開・転身を提言
生命科学・医学の価値は高いが、次世代スーパーコンピュータの必要性が不明ということに加え、他の研究課
題やチームとの関連は薄い。
RICSへの搭載可能性、次世代スーパーコンピュータ実装の必要性・動作可能性が確認できれば、継続すべき
であるが、それが困難と判断された場合は、他の生命科学の事業への転身・展開を、理研・チームリーダーと真剣
に検討し、研究継続・発展の具体的な道筋を探していただきたい。例えば、糖尿病は広く研究されており、広く共同
研究することでさらなる生命科学の進歩に寄与できると考えられる。産業界も含めたソフトの普及も検討して欲し
い。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 21 -
個別研究課題名 : [B4] イオンチャネル・モデル
代表機関名・代表研究者名 : 大阪大学・倉智 嘉久
1. 計算(機)科学からの評価
評点2.8
本研究はアストロサイト、内耳血管系細胞などを対象として、K+、Cl-、水輸送を担うイオン、水チャネルの細胞内
での局在情報を三次元化シミュレーションにより解明するものである。内耳細胞の組織モデルの構築には既に成
果があり評価できる。
しかし、次世代スーパーコンピュータを必要とする研究であるか不明である。モデリングの独自性も不明瞭であ
る。
2. 生命科学と社会からの評価
評点2.1
細胞容積制御分子の実験的情報に立脚する内耳細胞の浸透圧変化による細胞体積変化モデルの基本構造
の検討が進み、プロトタイプ作成が開始されたことは評価できる。虚血時や遺伝性難聴で認められるシミュレーショ
ンによる病態生理の理解が進み、将来への治療へ道が開かれれば、社会的意義はある。
とはいえ、なぜ脳アストロサイトなのか、蝸牛なのか、虚血時のカリウム輸送での解析が臨床へつながるのか等
の疑問は残る。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:BB.抜本的な見直しを提言
細胞シミュレーション統合プラットフォームRICSの利用可能性、他の研究課題・チームとの連携可能性(例えば
脳神経チームとの連携)を早急に精査していただきたい。もし、可能性ありと判断された場合は、RICS搭載と連携
に精力を傾けていただきたい。もし可能性がないならば、細胞スケールチームは、肝細胞および血小板による他ス
ケールチームとの連携に資源を配分していただきたい。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 22 -
C
臓器全身スケールチームとその個別研究課題
(1)計算機科学からの評価
評点3.3
実際の医療現場に即した開発が進められており、オイラー型流体構造連成手法、各種画像のデータ
をボクセルデータ形式で集約する方法のような汎用性のある方法の開発を評価したい。いずれのプログ
ラムにおいても8000並列で良好なスケ―ラビリティーを達成していることは評価できる。特に全身ボクセ
ルシミュレーションソフトSPH3Dは、第一走者としてチューニングに留意しながら早期に次世代スーパー
コンピュータ実装をしていただきたい。
しかし、5つの研究グループに分けて研究推進を行っているが成果に大きな差がある。血栓シミュレー
ション以外次世代スーパーコンピュータの必要性がわかりにくく、次世代スーパーコンピュータを必要とし
ない課題が混在しているように思える。第二走者である重粒子線治療シミュレーションソフトZZ-DOSE
は、実装準備が遅れているので、むしろ臨床現場で使えるようコンパクト化の道筋を検討されることをお
勧めする。
まずは、計算機科学面での性能を再確認していただき、実装すべきアプリのプライオリティーを明確に
するべきである。
(2)生命科学と社会からの評価
評点3.2
本研究は次世代高度医療支援の為のシミュレーションツールの開発であり、医療としての意義は十
分にある。しかも個別化医療を推進するものであり社会に多いに貢献する。特に低侵襲治療支援、心臓、
血栓は比較的短期に応用が期待できる分野である。ただし、医療現場で次世代スーパーコンピュータが
利用できるわけではないので、方法開発と位置付けるべきである。
臓器全身スケールの解析はかなりな挑戦と考えられるが、その困難さを考えると、いまだ研究ターゲ
ットが分散しているように見受けられる。進捗しており応用可能性が高い個別課題の推進と課題間連携
に資源を集中していただきたい。例えば、順調に進捗しており細胞スケールチームとの連携が図られて
いる血栓症シミュレータの開発に集中し、その有効性を検証してはどうか。心臓モデルの完成度は高い
ので、東大モデル・京大(立命館)モデルとの連携及び細胞チームとの連携を検討してはどうか。
(3)運営の評価
評点2.9
研究課題が多い上に、課題毎のばらつきが著しく、代表者およびチームリーダーのガバナンスがはっ
きりしていない。また、途中中止の研究課題があるが、その成果や中止理由が明確でない。他のスケー
ルとの連携も強くない。その意味では、細胞スケール研究開発チームの血小板研究との連携によるマル
チスケール血栓症シミュレーション開発には大いに期待している。
テーマの困難さを乗り越えるために運営強化をしていただきたい。
多数の博士研究員を雇用し、これからの計算科学者に必要な能力をもった人材育成が行われている
ように見える。人材育成が重要な分野と考えられるので、今後の具体的なプランが欲しい。
(4)今後の方向性の提案
BB.抜本的な見直しを提言
当面、最も社会的貢献が期待できる分野であることから今後に期待したい。
しかし、研究課題の数が多く多様化し過ぎており、投入資源と成果が分散している。研究期間内に終
了するためには研究テーマを選択し、絞り込むことが必要である。
・今後につながる汎用性のあるものに絞り込み、今後その上でさまざまなシミュレータが開発できるよ
うな基盤技術開発を目指すべきである。血栓、心臓、超音波治療がふさわしいテーマではないか。
- 23 -
・細胞レベルとの連携が見えるという点では、血栓と心臓に資源集中すべきである。
・統合してさらにフォーカスできる研究課題としては、2つの良質な心臓モデル(東大モデルと京都モデ
ル)、一連の循環器系の研究課題が対象となりうる。
・一方、重粒子線など産業化ニーズが高い研究課題については、さらに実用化を推し進めて民間資金
を導入し、次世代スーパーコンピュータを使わずとも動くアプリを開発してはどうか。
以下、各研究課題の評価と、今後の方向に向けての提言を列挙する。
- 24 -
個別研究課題名 : [C1] ボクセル血流シミュレーション、重粒子線治療シミュレーション、ボクセル肺呼吸シミ
ュレーション、筋繊維から筋肉へのマルチスケールシミュレーション、オイラー型有限差分
FSI シミュレーション
代表機関名・代表研究者名 : 理化学研究所・高木 周
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.5
全身血管網のような巨大なシステムを3次元的にシミュレーションするには次世代スーパーコンピュータが必要
である。既に生きているヒトからのボクセルデータの構築し、新たな画像データに適した数値研鑽法の開発に成功
したことは評価できる。オイラー型手法など優れた数値計算手法を開発している。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.2
全身血管網シミュレータは企業との接点も見られるので活用を推進して欲しい。医療機器メーカーや医療機関に
おける血流評価依頼は、その社会的有用性を示すものである。
重粒子線治療シミュレーションは、シミュレータの活用によりきめ細かい線量の計画を可能とし、医療への貢献
が高いと期待できる。しかし、平成 20 年度中間評価後に課題として取り上げられたが、いかにも唐突な印象で成果
も明確ではない。この中間評価を機会に本プロジェクト内で推進すべきか、他の資金で実施すべきか検討して欲し
い。
生命科学にとってまだ重要な発見があるとはいえない。ボクセル型シミュレーションの意義を明確にする、医療
において実用的に使えるのか再検討する、医療費の高騰にならない機器開発につなぐことができるか再点検する
等の作業を早急に行い、テーマを絞り込んで欲しい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AB.実装に向けて生命科学面の改善点を提言
難しい領域にもかかわらず、ターゲット臓器の範囲が広すぎる。細胞スケールチームとの連携が期待できる血
栓症予測や心臓全体のシミュレーション等へ研究を集中したほうが良い。
超音波治療、重粒子線、肺呼吸については出口指向なので実用性について議論を深めてから進行すべきであ
る。競合技術や MRI・CT などの支援技術の進歩を比較検討する必要がある。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 25 -
個別研究課題名 : [C2] 超音波治療シミュレーション
代表機関名・代表研究者名 : 東京大学・松本 洋一郎
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.4
本研究は肝腫瘍や脳腫瘍に強力超音波治療を行う際に超音波の減衰、反射、屈折を防止する為のシミュレー
ションシステムを構築するものである。臓器やその周辺全体における超音波の複雑な反射・屈折挙動や温度上昇
を予測するためには次世代スーパーコンピュータが必要である。特に、時間反転法の導入による焦点制御の計算
法の開発は評価できる。すでにソフトウェアの開発を終え、RICSによる並列計算も可能にした。シミュレーションの
適用分野としては適切かつ面白く、高並列化も進んでおり有望である。計画どおり着実に進めていただきたい。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.4
強力収束超音波療法の開発で深部に存在する腫瘍の画期的な治療が可能になることから、社会的には大きな
インパクトのある研究と考えられる。比較的短期に直接的な応用が期待される。低侵襲治療の一つである強力超
音波治療を乳癌、前立腺癌から適応を肝癌、脳腫瘍に拡大し、従来の外科治療にとって代わる治療法として評価
できる。被爆などを生じない人体に優しい方法として是非完成させて欲しい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AB.実装に向けて生命科学面の改善点を提言
強力収束超音波療法に於ける精度を上げる為の各種実験、すなわち発熱効果の違いの検討によるモデルの
高精度化、音の伝播と減衰と温度場に対する実験が企画され、高精度化することを期待する。既に日立、オリンパ
スやアロカとの共同研究も進んでいるようであり、実用化に極めて近い研究であることから、こうした実用面からの
プログラムの評価に繋がることを期待する。特許化の検討をお願いしたい。
しかし、本来目指しているところの階層を越えた生命科学の進歩に向けた臓器全身スケールの理解という研究
目的からは外れていることは否めない。次世代スーパーコンピュータの社会寄与を代表するパイロットモデルとして
位置づけて継続するか、他のテーマを優先するかは、全体の資源を見渡して判断していただきたい。実用化を進
め企業から資金を投入し、次世代スーパーコンピュータ活用という制約から解放して実用化に向けて加速化する考
え方もある。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 26 -
個別研究課題名 : [C3] 肺呼吸・肺循環統合シミュレーション
代表機関名・代表研究者名 : 大阪大学・和田 成生
1. 計算(機)科学からの評価
評点2.9
肺実形状モデルと肺実質モデルの連携により呼吸動態の再現が出来たことは評価できる。さらに肺胞気と赤血
球のガス交換モデルを確立したことも評価できる。
しかし、平成 23 年度以降 3 万コアの並列計算を計画しているが、現状でどの程度並列計算の準備が進んでい
るか全く見えない。医療現場での実用的な診断時間のために次世代スーパーコンピュータが必要であるということ
であるが、これはかなり先のことであり、もっと本質的なところで次世代スーパーコンピュータを利用すべきであろ
う。また、数理モデルの開発やシミュレーションにおいて条件の違いによる個体差の再現まではできているが、その
結果の検証が弱いように見える。また現時点では次世代スーパーコンピュータへの計画の最適化が行われていな
い。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.1
本研究は肺呼吸と循環を統合し赤血球流動やガス交換シミュレーションを行い、肺機能と関連した病態の把握
を行うものであり、生命科学の進歩に貢献する。患者データを基本にシミュレーションシステムの構築を図っている
ことも評価できる。呼吸器疾患は、QOLから見ても辛い病である。異常部位の発見に役立つように機器開発へ繋
げて欲しい。
しかし、次世代スーパーコンピュータを用いて循環動態をシミュレーションするというのに、肺循環など臓器別に
区分けする考え方がやや安易である。本来目指しているところの階層を越えた生命科学の進歩に向けた臓器全身
スケールの理解という研究目的からは外れていることは否めない。計画の見直しも含めて実装に足るか否かを判
定するべきである。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:BB.抜本的な見直しを提言
本研究は生命科学に於いて重要な課題であるが、研究期間中に目標到達、すなわち次世代スーパーコンピュ
ータによるツールの開発が達成出来るか疑問である。個々の研究成果はそれぞれ異なったシミュレーションによる
ものであり、これらの統合によりはじめて臨床に於ける診断システムの構築が可能となる。実施期間中の達成が可
能だろうか。
統合シミュレーションというコンセプトの中では、他の階層との関連が薄く、このプロジェクトの中でやっている意
義は少ない。縮小や他事業への転身を検討すべきである。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 27 -
個別研究課題名 : [C4] 筋骨格神経系モデリング(すでに終了した研究課題)
代表機関名・代表研究者名 : 大阪大学・野村 泰伸
1. 計算(機)科学からの評価
評点2.6
本研究は神経系モデルを用いて、神経細胞、細胞間シナプス、筋収縮、骨格系全体のシミュレーションを行い、
運動破錠のメカニズムを解明する。このような大規模数理モデルを管理するソフトウェアが必要であり、大阪大学
のグローバルCOEプログラムのソフトウェアと連携し研究を推進している。次世代スーパーコンピュータ適用との相
性には疑問があるが、モデルファイルからのコード生成の自動化は興味深い
2. 生命科学と社会からの評価
評点2.8
途中終了の感があるので、低い評価をせざるをえない。どんな成果や教訓が残ったのか。このテーマだけで階
層を越えた神経・筋・骨格筋運動動態のマルチスケールシミュレーションとなっているので、ことさら成果と限界につ
いて、明らかにしていただくことは、生命科学の発展の上で価値がある。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:BB.抜本的な見直しを提言
モデリングツールとしては面白いが,並列計算に関してはほとんど準備できていない.阪大グローバル COE と
の共同でソフトウェアの開発を推進しているが、ペタコンの活用まで到達出来るか疑問である。
終了しているがその理由が不明。成果が出たのか(次世代スーパーコンピュータに)応用できるのか報告が必
要である。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 28 -
個別研究課題名 : [C5] オイラー型有限要素法の開発(すでに終了した研究課題)
代表機関名・代表研究者名 : 広島大学・岡澤 重信
1. 計算(機)科学からの評価
評点1.9
報告書の記載が不十分で評価が出来ない。21年度までの参加となっており、計画の全体像が不明。
2. 生命科学と社会からの評価
評点2.1
報告書の記載が不十分で評価が出来ない。そもそも、本研究課題は技術的なオイラー型有限要素法の開発を
目指した小規模なもので、この項は該当しないと考えた方がよい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:BB.抜本的な見直しを提言
他のチームへの貢献など成果を記載して終了の理由を報告すべきである。また、研究者が理研に移動し、現在
開発中の固体-固体連成システムの構築を今後どのように連携を進めるのか明確でない。
今後の計画にもあるように固体-固体連成システムに関する研究推進を基本的に見直す必要がある。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 29 -
個別研究課題名 : [C6] 有限要素法による心臓全体シミュレーション
代表機関名・代表研究者名 : 東京大学・久田 俊明
1. 計算(機)科学からの評価
評点4.0
実際応用と次世代スーパーコンピュータ実装のバランスがよく高く評価できる。
心臓機能は基本的に電気、化学、力学などのマルチフィジックス要素で構成されており、またタンパク分子から
臓器に至るマルチスケール問題を有している。研究者は両者を有すUT-Heartを研究してきたが、マクロとミクロ現
象を融合させるシミュレータであり、プログラムを適化した場合次世代スーパーコンピュータの活用は必要である。
細胞モデルから心筋組織レベルのシミュレーションを行う手法を開発し、ミクロの変化がマクロにどう現れるかノック
アウトマウスを用いて検証したことは評価できる。
UT-Heartは第一走者にふさわしいソフトなので、実装に向けて研究を加速化していただきたい。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.8
このテーマだけで階層を越えた心筋細胞、心組織、心臓、さらには内腔血液の流動と拍出に至るマルチスケー
ルシミュレーションで、大規模生命機能モデル構築に挑戦していることは、特にこのプログラムの意図するところに
極めて合致しており高く評価できる。疾患にかかわるシミュレーションは社会的にも大きな意義がある。例えば、突
然死や拡張型心筋症の原因に迫りうるような結果が期待される
他の研究課題、特に、C7北陸先端科学技術大学、C8京大、C9千葉大との連携を計画して欲しい。さらに、血
流、血栓などとの連携が可能ではないか。ただちに検討していただきたい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AA.実装に向けて加速化を提言
予備的な結果ながらマルチスケール・マルチフィジックスシミュレーションを実現しており、次世代スーパーコンピ
ュータで大きな成果を挙げることが期待できる、さらに今後の計画も周到であるので、資源を集中し計画を加速す
ることが適当と考えられる。特にヒトの疾患メカニズムについての実証に大いに期待する。
今後は、次世代スーパーコンピュータの活用に焦点を当てた研究、および同じ循環器系の研究としてC6-11
のテーマとの統合を検討していただきたい。
実施期間内に次世代スーパーコンピュータによるマルチスケール心臓シミュレーションを達成すると同時に、心
臓病学のブレイクスルーを期待する。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 30 -
個別研究課題名 : [C7] オイラー型連成手法による心臓シミュレーション
代表機関名・代表研究者名 : 北陸先端科学技術大学院大学・松澤 照男
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.1
本研究はボクセルデータの高度化によるステント留置術に対する血流シミュレーションの精度向上と心筋細胞
シミュレーションとオイラー型流体構造連成解析をsimBioとKyotoモデルを連成させ、システムの開発を行うもので
ある。補間処理により任意解像度のボクセルデータを生成する方法は開発の価値がある。
ただし、基本的なプログラムの一部がJavaで書かれているなど、高並列化にはまだ準備が必要である。並列化
の努力よりは、すでに開始している心臓モデルとの連携に力を注がれたい。
2. 生命科学と社会からの評価
評点2.9
医療画像をもとに血流シミュレーションが可能となり、ステント挿入患者のデータに基づく瘤内の血流抑制効果
を再現できたことは、医療分野での社会的インパクトを示すものであり評価できる。
しかしながら、C8京大との連携は評価するが、全く同様の研究を行っているC6の東京大学、C9千葉大の研究
との連携が無いのは問題である。連携の可能性を早急に検討されたい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:BB.抜本的な見直しを提言
本研究は現在の疾患発生率や治療法からみて生命科学としては重要なプロジェクトであるので、実証しながら
再現できるシミュレーションとなるように進めて欲しい。
ただし、ソフトウェアの開発とそのタイムスケジュールが明確でないので、それを早急に明らかにしていただきた
い。
同じ循環器系の研究としてC6-11のテーマを統合すべきである。特に東京大学の連携と患者医療画像から
のさらなるシミュレーションのためのボクセルデータの高度化に期待する。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 31 -
個別研究課題名 : [C8] 心筋細胞のモデリング
代表機関名・代表研究者名 : 立命館大学・天野 晃、京都大学・松田 哲也
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.5
心筋の虚血・梗塞による急性期から慢性期の心機能変化をシミュレーションする研究であり、心筋細胞モデル
に関しては達成出来ている。細胞レベルから臓器レベルへのボトムアップ構築性が明らかなモデリングであり、評
価できる。
空間と時間の4次元の状態量を記述するアプローチと大量に実験的アプローチを同時に進めるためには次世
代スーパーコンピュータが必要。虚血時の心筋細胞の反応を極めて高精度に再現可能になったことは評価でき
る。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.5
心臓モデルを目指しての動物モデルの実験結果をベースにした計算手法の開発は評価できる。虚血反応や心
筋リモデリング等、死亡率の高い心筋梗塞の病態解明は社会的にも大きな意義がある。心筋梗塞に於ける病態生
理を代謝物質の測定、微小循環など駆使して解明するものであり、将来的にはこれらのデータを基に治療とフィー
ドバック出来ることが想定される。すでに応用的な共同研究も見受けられる。
しかしながら、C7北陸先端技術大との連携は評価するが、全く同様の研究を行っているC6東京大学、C9千葉
大の研究との連携が無いのは問題である。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AA.実装に向けて加速化を提言
医薬品への活用が明確であると思うので継続的な推進を望む。早急に産学連携を活かすことを望む。ただし、
心筋細胞モデルを大規模化した際に、心筋梗塞の病態とシミュレーション結果が整合しない事が予測される。従っ
て今後はシミュレーションモデルの高度化に期待する。
業績に比較して投資額が少ないように思える。成果が期待できる分野であるので、他の循環器に関する個別研
究課題C6-11を含めて、心臓研究全体のテーマ再編を促すとともに、資源の集中化を検討していただきたい。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 32 -
個別研究課題名 : [C9] 血管網シミュレーション
代表機関名・代表研究者名 : 千葉大学・劉 浩
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.3
全身循環器マルチスケール・マルチフィジックスシミュレーターを開発し、全身スケール動脈系低次元モデルと
動脈静脈血管系の3次元モデルを構築したことは評価できる。
しかし、循環器血管系マルチスケールシミュレーターの開発は進んでいるが、ソフトウェアの構築、さらには次世
代スーパーコンピュータの活用が明確ではない。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.5
本研究により開発された循環器全身血管系マルチスケールシミュレーターにより、臨床に於いて重要な心機能
と血液循環の相関、血管狭窄や動脈瘤の血液循環、加齢と循環機能の相関など、多くの有益な臨床情報が得ら
れる。開発したモデルを実際の患者の状況に合わせて検証したことは評価できる。全身レベルで循環系の血球か
ら毛細血管内および動脈血管内の血流に至るまで生物流体として捕らえることの生命科学的意義は大きい。患者
の病態を非浸襲的に評価できる手法として、臨床現場でも大いに期待できる。
ただし、全身循環を臓器別に分けた形で統合する 0D-1D-3D がどの程度患者固有のデータを反映するのか示
されていない。手法をわかりやすく表現することともに、実用化の道筋を早急に検討されたい。個人医療や次世代
スーパーコンピュータへの応用を考えた時、とりあえずやってみることも必要だが、実用はどこにあるのかを考えな
くてはいけない。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:BA.生命科学面での展開・転身を提言
医療の現場に於いて臨床応用に焦点を当てた研究として評価出来る。さらなる臨床応用への応用検証に期待
したい。
しかし、その後の次世代スーパーコンピュータの活用など見えてこないので、今後の計画を再検討していただき
たい。
生物流体波の理論的研究にも期待。同じ循環器系の研究としてC6-11のテーマを統合し、資源の集中化を検
討していただきたい。さらには、次世代へのつながりとして、心臓―血栓―肝細胞―血小板などとの連携を期待し
たい。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 33 -
個別研究課題名 : [C10] 脳血管系血流シミュレーション
代表機関名・代表研究者名 : 東京大学・大島 まり
1. 計算(機)科学からの評価
評点2.9
非常に複雑な形状を成している脳循環系を対象に、医用画像と全身循環系ネットワークを統合したマルチスケ
ールシミュレーションを行うには次世代スーパーコンピュータが必要である。1次元の全身解析と3次元の流体連成
構造解析を統合し、その検証を行ったことは評価できる。連成解析によって生じる不安定性への対応も検討してい
る。
H20年度中間評価に際して設定した目標は「頸動脈あるいは脳動脈瘤などの疾患を起こした局所部分に基づ
いたマルチスケール血流解析」であったが、現時点での達成度は「簡単な二分管モデルと一次元全身解析の統
合」であり、ギャップがある。達成度についてはやや問題がある。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.0
全身循環を考慮した脳内の循環を再現できれば血流-血管壁の相互作用の解析が可能となり、特に血管内非
細胞が関与している動脈硬化症、脳動脈瘤の発生機序の解明につながり、生命科学上の意義は大きい。動脈硬
化症や脳動脈瘤と内皮細胞の関係は血行力学的に重要であり、本研究は全身循環を考慮し、脳内の血流を再現
する意義は大きい。さらに本研究は医用画像を基にして構築されており、個別化手術や治療方針の設定に重要で
ある。
ただし、頸動脈分岐部の血流解析のレベルから、脳全体の循環までは乖離が著しい。全身循環の中における
脳循環をどこまで明らかにできるのだろうか。シミュレーションによって得られた計算結果を検証するための実験系
がない。さらには、本来の目的であるスケールを越えた細胞レベル研究との連携が見られない。早急に今後の計
画の策定が必要である。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:BB.抜本的な見直しを提言
現在までの成果をもとに頚動脈やウィリス動脈輪を特定して 3 次元血流解析と 1 次元・0 次元全身解析を統合す
ることは意義がある。
ただし、脳循環だけを全身循環と独立して解析する事の意味が理解できない。他の循環器系課題との連携、統
合を検討されたい。また、連携という点では、血流-血管壁の相互作用の解析結果に期待。血管内皮細胞が重要
であるのであれば、その細胞レベルの研究をすることで階層を越えた研究が出来るのではないか。
脳循環はシミュレーションが重要なことは理解できるが実際の手術の際には CT、MRI のような現実の映像を見
るはずである。その時にシミュレーションはどのような用途であれば、やる意義があるのかを示していただきたい。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 34 -
個別研究課題名 : [C11] マラリアシミュレーション
代表機関名・代表研究者名 : 東北大学・山口 隆美
1. 計算(機)科学からの評価
評点2.9
マラリア感染は赤血球変形能の低下と正常赤血球と血管内皮細胞との接着能を発現する。本研究は、新しい
計算スキーム(粒子法)を活用して、細胞間の相互作用と細胞流動の流体力学的相互作用の同時解析を可能にす
る。
ただし、マラリア原虫の感染に基づく諸現象が複雑なものであることは理解できるが、解析に次世代スーパーコ
ンピュータが必要かどうかは不明である。計算モデルを構築したとあるので、検証は行い提示することが肝要であ
る。
新規アルゴリズムは重要なので、ターゲットをマラリアという特殊な状況ではなく、播種性血管内凝固症候群DIC
のような臨床ニーズの高いものに変更すべきである。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.0
生理的およびマラリア感染条件下の赤血球流動を統一的に解析出来るソフトウェアを開発し、マラリア診断、治
療、薬効評価など新しい医療を目指している。感染症へのシミュレーションの適用というユニークな研究である。
しかし、マラリア研究でシミュレーションが一番のニーズとは言い難い。
他の研究課題との連携が不足しており、本来のプログラムの目的である階層を超えた生命現象の解析からは
はずれており評価できない。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:BB.抜本的な見直しを提言
マラリア治療に関する研究を考えた場合には、この研究ではなく別の研究を想定する。次世代スーパーコンピュ
ータのソフトウェアとして取り上げる意義があまり感じられない。マラリア感染赤血球と血管内皮細胞間の接着モデ
ルの精密化をめざしているが、その他の白血球、フリーラジカルなどの関与と接着分子の発現も本研究に含まれ
るのだろうか。
血流における、もしくは血栓形成などの疾患に関連した赤血球の研究に集中し、他の血流関係の研究C6-11
と統合すべきである。さらには、細胞スケールチームとの連携の道を模索していただきたい。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 35 -
個別研究課題名 : [C12] 血栓症シミュレーション
代表機関名・代表研究者名 : 東海大学・後藤 信哉
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.9
本研究は心筋梗塞、脳梗塞の発症メカニズムを血小板の流動から求めるものであり、さらに臓器全体の循環に
関しても焦点を当てている。すなわち個々の血小板細胞内代謝、シグナル計算と微小血管内の血小板流動を連成
計算する血小板細胞シミュレーター基本モデルを開発したもので、高く評価できる。個別血小板内の代謝、シグナ
ル計算と微小血管内の血小板流動計算をして、階層を越えた生体現象を包括的にシミュレーションするには次世
代スーパーコンピュータが必要である。
また、細胞-臓器・全身スケールとの連成に向けて、血小板細胞流動モデルとの連成基盤を作成していることも
評価できる。
さらなる資源配分によって研究の加速と他個別課題との連携を求めたい。
2. 生命科学と社会からの評価
評点4.0
RICSを基盤にして、「階層スケールを超えたシミュレーションを達成する」という目的に最も合致した研究であ
り、生命科学上で次世代スーパーコンピュータを利用することの意義が極めて高い。また、心筋梗塞、脳梗塞の病
態解明と予防に直結することから社会的な貢献度もきわめて高いと期待される。例えば、脳心筋梗塞に予防的に
用いられている抗血小板薬を適応症例の選択、症例に応じた投与量、投与方法など本研究のシミュレータを用い
る事により理論的に決定される。さらに臨床試験に代わる創薬の現状を変えることが出来る。
血小板シミュレータにより、粘着、凝集や放出などの現象を当初の計画以上に再現したことは評価できる。
さらには、特許出願をしており高く評価できる。特許化の次はデファクトスタンダードを狙っていただきたい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AA.実装に向けて加速化を提言
計算科学的価値―生命科学的価値―社会的価値のバランスがよく、階層を超えたシミュレーションを達成して
いる非常に有意義な研究課題である。血栓症はイメージングの発達でリアル画像の入手が可能な領域である。そ
の中で細胞レベルからの積み上げとの接点をとって病気の原因を推定できれば有意義であろう。新しい地平線を
切り開いていただきたい。
特許の取得と製薬企業との連携による実際の応用への実証に大いに期待する。一般にソフトを公開することと
産業界との連携では、微妙な相反がある可能性があり、十分な考慮をされたい。理研や大学知財セクションに相談
されたい。
理科離れへの対処も気にかけていることは次の世代の後継者育成への寄与できる。人材育成の取り組みも積
極的に行われていることに対して評価できる。
以上、期待の大きな課題であるので、資源集中による加速化を求めたい。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 36 -
D
データ解析融合研究開発チームとその個別研究課題
(1)計算(機)科学からの評価
評点3.4
短期目標課題を達成している。膨大な遺伝子情報、遺伝子発現情報の解析にペタスケールデータ解
析とシミュレーションの融合は、生命科学にとっての大きな課題であり、まさに次世代スーパーコンピュー
タの活用を必要とするテーマである。予定していたソフトウェアの開発が順調に進んでいることは評価で
きる。
データ解析を肺癌とその薬物治療を対象として研究目標を明確にしたことは評価出来る。また本研究
を4つのグループに分け、それぞれソフトウェアを開発し、次世代スーパーコンピュータを活用する事は
意義がある。今後は、4研究の成果をどのように統合し、医学や臨床にフィードバックするのか検討を進
めていただきたい。
次世代につなぐために、根本的な困難な問題に正面から向き合っていただきたい。例えば、新NP問
*
題 を本当に解決できるか、基礎的なところから着実に進めたほうがよい。Data Driven Scienceといっても、
ネットワークは超並列次世代スーパーコンピュータに向かない分野なので、目標を創薬支援ではなく新
(分子)生物学か、疾病の分子定義などにしてはどうか。超多重比較の問題をクリアにしていただきた
い。
さらには、他の研究チームや個別研究課題のモデリング・スケール統合の面での支援を行う役割を担
ってはどうか。次世代につながる知見が蓄積されるはずである。
*新 NP 問題:N(データ数)、P(要因数)としたときに、N<P となるような問題。回帰モデルなど通常の多変量解析は、デー
タ数 N は変数や係数の数Pより格段に大きいという前提で考えられている。しかし、最近のゲノム関係のデータなどでは N
よりそれぞれの人から得られる要因数 P がはるかに多いのでベイズモデルなどのモデリング手法で対応している
(2)生命科学と社会からの評価
評点3.6
肺がんの分子病態と抗がん剤への応答、耐性をテーマとして選択し、開発したソフトウェアの有効性
を実証する計画は評価できる。さらに、肺がんに関する成果はそのまま医療分野への貢献に繋がること
が期待できる。ただし、一般的にがんは臓器や細胞の特異性があり、本成果が他のがんにも応用可能
か明確にしてほしい。またこれらの研究成果は個別化医療を目指しているが、医療の経済的観点から
検討の必要もある。
次世代につなぐという意味で、GWAS、SNP解析は疾病責任遺伝子の発見などに大きく貢献したが今
後は、個人ゲノム・部位別ゲノム・ダイナミックゲノム、エピゲノムなどのデータへの対応に挑戦すべきで
はないか。そこで喫緊の課題となる大量ゲノムデータへの対応(大規模ゲノム比較など)に力を入れてい
ただきたい。
さらには、他チームとの連携を模索していただきたい。
(3)運営の評価
定性評価:AA.実装に向けて加速化を提言
おおむね適切に運営されている。人材育成は成果も挙がっている。生命科学分野の計算科学の人
材育成は急務であり、計算科学コミュニティーの形成への貢献は評価できる。ソフトの公開、Wiki公開も
評価できる。
しかし、「肺がんと薬」をこのチームのターゲットにしたことによって、このチームの方法論的役割が不
明確になったと言わざるをえない。本チームが他チームとの連携が弱いことも鑑みると、データ解析の方
法論を確立して他チームに対してリーダーシップを発揮するという役割に立ち返っていただき、モデル構
築、モデル統合、スケール統合といった本プロジェクトの本質的な目標に向かって誘導していただきた
- 37 -
い。
(4)今後の方向性の提案
まずはソフトウェアの実証研究が重要である。産業界も含めて広く需要のあるソフトウェアと考えられ
るので、ソフトウェアの有効性を検証する為の具体的な臨床試験などの計画、および将来の公開スケジ
ュールや外部利用者のための利用システムの構築などの計画を早急に策定していただきたい。例えば、
現在、一種類の肺腺がん細胞と分子標的治療薬のin vitroの実験から遺伝子ネットワークの構築を推進
しているが、肺がんは多様でありまた本研究を推進する為には多くの肺がんサンプルが必要であり、そ
の辺の実証研究計画が欲しい。
一方で、繰り返しになるが、データ解析融合チームの本来の目的に立ち返った基本的研究をしたほう
がよい。そして、システムズバイオロジーの重要なパートである、Multi-Omicsを極め、細胞スケールと分
子スケールの統合に力を発揮していただきたい。
また、モデリングにおける大量データの活用は、生命体シミュレーションの成功のカギなので、量的成
果を直裁に目指すのではなく、全体の方法論的基盤を目指した研究をしていただきたい。他のチームに
役立つ手法になるはずであるし、スケール統合の基盤技術となるはずである。次世代につなげるために、
新型シーケンサーやそれによるパーソナルゲノム時代への対応をお願いしたい。
これらの重要な課題に対応するために予算規模が適切か、拡大の必要はないのか。全体で予算配
分を検討していただきたい。
- 38 -
個別研究課題名 : [D1] ゲノムバリエーション
代表機関名・代表研究者名 : 理化学研究所・宮野 悟、鎌谷 直之
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.6
遺伝子に関する情報は膨大であり、全ゲノム規模での遺伝子間交互作用を考慮した関連解析を高速に解析す
るためには次世代スーパーコンピュータが必須である。既に統計解析ソフトParaHaplo では、8000 並列を実現して
おり評価できる。ただし、4000 並列で能率が落ちている点が気がかりである。ナイーブな解析では計算時間がかか
るのはわかるが、工夫の余地はある。例えば、マトリックスの処理に留意され、継続して着実に進めていただきた
い。次世代スーパーコンピュータ実装の第一走者にこだわることはない。
統計の問題としては、RAT で多重比較の問題が解決されたのかどうかよくわからないので明らかにしていただ
きたい。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.6
ヒトの設計図である遺伝子の解析、特に個人差を解析できるSNPsの研究はその表現系との関連が解析でき
れば生命科学上の意義は極めて高い。また、疾患関連遺伝子の研究から病院の解明へと繋がり、新たな診断法
や治療法(薬剤開発も含む)の開発に展開すれば、社会的貢献度も極めて高いと期待できる。例えば、ヒトが肺が
んの薬物治療した時に効果の可能性や副作用の予測は重要であり、その為に SNP 座位のデータにより表現型関
連座位をつきつめる事が可能である。
GWAS は優れた手法だがこれからやるべきものは Full Sequencing 解析技術である。個人の薬物反応性の正
確な予測は NSP やゲノムだけではできない。Epigenetics を含むアプローチが必要。この分野が徹底的に遅れてい
ることを認識してほしい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AA.実装に向けて加速化を提言
GWAS の活用により解析プログラムが完成し、ParaHaplo を構築し得た。今後は大規模 SNP 関連解析の推進に
より肺がんを含めた 47 疾患の解析を着実に推進し、国際がんゲノムコンソーシアムに貢献したように、実際の疾患
等での解析成果に期待する。
次世代スーパーコンピュータへの適用の準備はできているようなので、ParaHaplo は第一走者として適切である
が、10万コア以上でも性能を発揮できるか不明なので、先述したように着実な工夫に軸足をおくことをお勧めす
る。また、ParaHaplo の有用性を検証すると同時に次世代スーパーコンピュータを活用し、そのセキュリティと疾患
解析の為のデータとの整合性を確立することが重要である。
次世代シークエンスの時代に備えて、今後の爆発的データの増加に見合う解析能力の開発に期待する。特に
個人ゲノムの解析に対応するソフト開発にも着手していただきたい。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 39 -
個別研究課題名 : [D2] 遺伝子ネットワーク
代表機関名・代表研究者名 : 東京大学・宮野 悟
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.8
遺伝子はその発現で複雑なネットワークを形成しており、数万ノードのネットワーク推定と解析が必要である。超
並列計算向きの計算アルゴリズム・探索方式を開発し、4000 並列程度までの遺伝子ネットワーク探索計算を実現
している。ネットワーク解析は重要だが、次世代スーパーコンピュータ対応は力技だけでこなしている。
2 万遺伝子からなるゲノムワイドなネットワーク推定が可能なソフトウェアの開発は評価できる。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.6
本研究は肺がんに対する薬物治療、特にゲフィチニブの薬剤応答遺伝子ネットワークにより、バイオマーカーや
創薬ターゲット探索技術を開発し、生命科学にとっては意義があり、進歩に貢献している。遺伝子のネットワークが
解明できれば、複雑な生命現象の解明の糸口となり生命科学上大きな意義がある。バイオマーカーや創薬ターゲ
ット探索に直接役に立つ可能性も高く、社会的な意義もある。
オープンソース化は評価できる。Wet のデータを使っているが、知識は使わない手法であり工夫が必要。
特許出願(PTC)は評価できる。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AA.実装に向けて加速化を提言
大規模遺伝子ネットワーク(SiGN)のさらなる高並列化を推進し、次世代スーパーコンピュータの早期活用を目
指してほしい。ただし、推定したネットワークの信頼性についても考察しておいたほうがよい。
肺がんと抗癌剤に関する遺伝子ネットワークの実際のデータでソフトウェアの有効性を確認することに期待。同
様な研究をしているD3と共同統合すべきではないか。
オープンソースにして広く研究者が使えるように、成果の出し方に工夫を求めたい。
今後も、実験データおよび効率的なプログラムの書き直しが必要と判断する。予算増も検討されたい。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 40 -
個別研究課題名 : [D3] シミュレーションモデル
代表機関名・代表研究者名 : 情報・システム研究機構・樋口 知之
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.7
観測・計測データの融合技術で、生体を構成している複雑大規模な遺伝子転写制御ネットワークを解明するに
ため 2880 並列という超高並列計算を実現したことは評価できる。
次世代スーパーコンピュータのアプリケーションとして LiSDAS の開発も順調に進展しており、その中核をなす粒
子フィルターによるアルゴリズムも既に開発済みであるので次世代スーパーコンピュータは必須である。ただし、
LiSDAS は基盤技術としての確立が最重要課題であるので、次世代スーパーコンピュータ実装の第二走者という位
置づけが妥当である。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.2
本研究で開発している LiSDAS を生命科学分野に応用し、細胞内における大規模な遺伝子転写制御ネットワー
クの解明を目標としている。近未来的には創薬基盤や個別化医療基盤の創出に貢献することも可能である。EGF
Rモデルの予測モデルの構築は評価できるが、実証的な部分が不十分なので実証研究をお願いしたい。また、研
究成果に記載された概日リズムに関する生化学反応系と、達成目標の肺癌における EGF 制御ネットワークの相関
がはっきりしないので明らかにしていただきたい。
細胞内のシミュレーションは、細胞レベルのチームとの連携に向けて役立たせて欲しい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AA.実装に向けて加速化を提言
LisDAS の開発に特化して、シミュレーションモデルのネットワーク構造やモデルパラメーターの探索など自動モ
デリング技術を開発し、次世代スーパーコンピュータにより早期の実現および新しいアルゴリズムの公開を期待す
る。
チーム内の連携という意味で、同様な研究をしているD2東京大学との統合および、D4 タンパク質ネットワークと
の連携を密にはかる必要がある。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 41 -
個別研究課題名 : [D4] タンパク質ネットワーク
代表機関名・代表研究者名 : 東京工業大学・秋山 泰
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.8
生命科学で重要なタンパク質間相互作用をネットワークする為に計算アルゴリズムを開発して大規模並列計算
を可能とするソフトウェア「MEGADOCK」を開発した。蛋白質形状相補性および静電相互作用に基づき高速にドッ
キングの可能性を評価する独自ソフトウェアの開発は評価できる。計算速度と予測精度を改良し、さらに次世代ス
ーパーコンピュータのアーキテクチャに適した手法を検討している。蛋白質構造の3次元形状相補性や表面の物理
化学的性質などに基づく相互作用性の判定を行い網羅的なネットワーク予測をするためには次世代スーパーコン
ピュータが必要である。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.4
本研究は肺がんに関する EGFR の研究に於いてシグナル伝達系に対するタンパク質相互作用ネットワーク解析
を行うものである。さらに遺伝子ネットワーク解析結果を融合させ、予測精度を上げる努力がなされている。
立体構造を生かした蛋白質相互作用の予測は、細胞内で起こる蛋白質ネットワークを解明する上で極めて有用
であり、生命科学の進歩にとって大きな意味がある。蛋白相互作用は創薬のターゲットでもあり、社会的貢献度も
期待できる。遺伝子ネットワークとの連携でチームの共通課題である肺がん関連のネットワークで最終目標の1/
4にあたる 25 万件の予測を既に達成したことは評価できる。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AA.実装に向けて加速化を提言
開発したソフトウェア「MEGADOCK」の精度の向上と同時に、システムの公開も計画されておりアカデミック活用
を目指している事は評価出来る。また、一度計算すれば、DB 化して結果を公開することができるので、実際の PPI
データとの関係を示し、基本的なバーチャル PPI 情報としての DB 公開を望む。(MEGADOCK 以上に有用である)
更には、ヒトの PPI の DB を作って公開して欲しい。
立体構造を生かした蛋白質相互作用の予測は、細胞内で起こる蛋白質ネットワークを解明するために重要であ
り、残り3/4のシミュレーションに期待する。特に、新たな相互作用の発見の可能性も明らかになっており、肺がん
関連のネットワークの検証に期待する。
現状、分子レベル、細胞レベルとの連携はされてなく、このチームの中でとじた研究である。そこで、分子チーム
と連携して、数十単位の分子問題を解く MO と数万単位の分子問題を解く MEGADOCK の間の数百から数千単位
の分子計算をどう解くかという野心的なテーマに挑戦してはどうか。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 42 -
E
脳神経系研究開発チームとその個別研究課題
(1)計算機科学からの評価
評点3.3
脳神経系のような多階層かつマルチフィジックスで、その機能も刺激→運動→学習と多岐にわたり、
こういった複雑なシステムの解明には次世代スーパーコンピュータの活用が期待される。また、脳神経
のシミュレーションは、BMI、AIや疾病理解の上で非常に重要である。大規模神経回路モデルのシミュレ
ーションを世界最高水準の高並列度で実施するソフトウェアの開発など、開始が他のチームより遅かっ
たにも関わらず成果が上がっていることは評価できる。特にNESTは超高並列計算を実現しているので、
第一走者の位置づけで次世代スーパーコンピュータ実装を目指していただきたい。
ただし、他のソフトウェアは高並列計算の準備が遅れている。今後どうするか検討されたい。また、原
点であるモデリングに立ち返ることをお勧めする。
なお、動機として競争相手「C2」に勝ちたいということが書かれているが、プロジェクトの目的は勝ち負
けではない。最終成果のイメージを明確にしていただきたい。
(2)生命科学と社会からの評価
評点3.1
視覚系を中心として、脳視覚野での回路の動態、視覚情報の出入力系のシミュレーションは、視覚を
中心とした脳機能の階層的な解析としてその意義を評価できる。視覚系シミュレーション、昆虫のモデル
にも意義を認める。脳における情報処理の解析は、医療分野だけでなく、情報分野でもその応用が期待
される。
しかし、脳神経系の複雑ゆえに、より単純な開発しやすい系に甘んじている印象が強い。グランドチャ
レンジとしての気概がやや乏しくないか。
また、個別課題間の連携が弱いと感じる。特に、嗅覚系シミュレーションについては、その位置づけが
不明確である。
(3)運営の評価
評点3.2
脳神経系研究開発チーム内の連携を推進しているようだが、脳神経系チーム全体の到達目標と個
別研究計画に齟齬があるので、個別研究課題の到達点についてもバラバラな印象を受ける。計画の見
直しを行い、目標管理に努めていただきたい。
細胞レベル、臓器レベルのつながりが薄く感じるが、細胞スケールチーム、臓器スケールチームとの
連携も計画されており、その成果が期待される。産業界との連携としては、既にロボットへの応用など共
同研究が進められていることは評価できる。短期目標課題の進捗管理は、多少遅延気味のようではあ
るが概ね妥当である。
(4)今後の計画についての評価
BA.生命科学面での展開・転身を提言
神経細胞シミュレーション、局所回路シミュレーション、視覚系シミュレーション、無脊椎動物嗅覚シミ
ュレーションという研究計画と、「入力から出力までの変換過程」、「適応過程」、「再生医療への指針」と
いった到達点との間に乖離がある。早急に全体の到達点、個別研究課題の役割、その行程といった研
究計画を見直していただきたい。
その中で、NESTについては、第一走者として、資源を集中し次世代スーパーコンピュータ実装に向け
て加速化を提言する。ただし、次世代スーパーコンピュータとの相性が良くないようなので、本体関係者
等と良く協議して進めていただきたい。
他の個別研究課題およびソフトウェアについては、次世代スーパーコンピュータ利用はほとんど見通
- 43 -
しがたっていない上に、個々のテーマの寄せ集めの感が否めないので、原点に立ち返り、テーマの再編
成をお願いしたい。
まず、脳神経系はそのものが多階層な系なので、分子から細胞、臓器、さらには高次機能に至るまで
を関連して解析できるメリットを生かして、スケールを超えた研究になることに重点をおいていただきたい。
こういった意味では、視覚系に集中すべきか、全体シミュレーションに近づいている嗅覚系を推進するの
か、再検討していただきたい。
次に、他のチーム(スケール)との連携の可能性を探索していただきたい。細胞スケールチームとCa
シグナル伝達で連携も進んでいるので、今後はこういった取り組みを推進していただきたい。
また、脳科学は社会応用で期待されている分野であるので、出口から今構築すべき研究基盤を見直
していただきたい。医学として、神経細胞機能の上で重要なTubulinを導入した研究課題に挑戦するとい
う考え方もある。脳全体プロジェクトが目指す自律型ロボットの制御への応用を到達点として、生命科学
的に価値のあるテーマに再編する考え方もある。
以下、各研究課題の評価と、今後の方向に向けての提言を列挙する。
- 44 -
個別研究課題名 : [E1] 局所回路シミュレーション、視覚系シミュレーション
代表機関名・代表研究者名 : 理化学研究所・石井 信
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.5
本研究は二つのシミュレーションの構築から成り、特に局所回路シミュレーションに於いては NEST というソフト
ウェアと並列化アルゴリズムの開発を終えた。NEST で 32768 コアの並列まで現時点で実証したことは評価できる。
大型計算機が活用できる課題であり、世界最高水準が期待される。これに比べて視覚系シミュレーションにおける
並列化が著しく遅れているので、第二走者の位置づけおよび計画の見直しをお願いしたい。
なお、NEST のコンセプトは良いが、GPU で稼働しても次世代スーパーコンピュータでどうなのか不明である。富
士通のコンパイラを通らないというのはもってのほかではないか。次世代スーパーコンピュータ本体のプロジェクト
との調整を理研事務局にお願いしたい。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.4
脳は多階層を成す超複雑システムであり、その情報処理のシミュレーションは生命科学の進歩上極めて重要で
ある。医療上も神経疾患などの解明に重要であるが、加えて情報処理という観点からは、ロボットなどのコンピュー
タ情報処理にも有用で社会的な貢献も期待できる。
テーマとして取り上げているヒトの視覚刺激から眼球運動までの視覚情報処理の再現は生命科学において重
要である。感覚入力から運動出力までを繋ぐ視覚―眼球運動系はこのために最適のモデルであり、大脳皮質局所
回路の結合モデルシミュレーションで視覚注意時の初期視覚野回路の動態を再現したことは評価でき、錯視の再
現などが期待される
競争相手との比較ばかりでなく、到達点について明らかにしていただきたい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AB.実装に向けて加速化を提言
多階層を成す超複雑システムである脳の研究は、本プログラムの目的に沿っており、神経系の情報処理システ
ムの解明に期待する神経回路モデルシミュレーター(NEST)の開発に意義を認める。
Fujitsuへの移植の問題、16384で頭打ちの傾向がみられるので、超並列化に向けて生命体基盤ソフトウェア開
発・高度化チームとの密接な連携が不可欠である。次世代スーパーコンピュータを利用する並列計算まで持ってい
けるのか見通しを出してほしい。
視覚系の情報処理の解明への展開に期待。さらには脳全体規模のシミュレーションへの研究展開に期待。
NEST は次世代スーパーコンピュータの実装を想定したソフトウェアであり、今後は実装の準備と実施を実現し
てほしい。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 45 -
個別研究課題名 : [E2] 神経細胞シミュレーション、視覚系シミュレーション
代表機関名・代表研究者名 : 京都大学・石井 信
1. 計算(機)科学からの評価
評点3.3
脳神経系の情報処理は刺激、運動、学習の過程を計算論的に解明する事が重要であり、本研究は視覚-眼球
運動系および神経細胞シミュレーションからなり、前者はソフトウェア NEST を用い、後者は各種物理的応答を統合
したマルチフィジックスシミュレーションのソフトウェアを開発する。従って次世代スーパーコンピュータとの実装も近
い。
実際の 1/104 スケールで神経細胞モデルの形態変化のシミュレーションを実現したことは評価できる。RICS と
の連携で効率的に進めた。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.2
脳は多階層を成す超複雑システムであり、脳全体レベルの研究を刺激、運動、学習および神経細胞をターゲッ
トとして、その情報処理のシミュレーションは生命科学の進歩上極めて重要である。医療上も神経疾患などの解明
に重要である。神経細胞の構造可塑による情報処理において培養細胞の極性形成過程を定量的に再現したこと
は評価できる。アルゴリズム等の開発は進んでいるが、実証研究までには至っていない。
ただし、神経細胞シミュレーションにおける設定目標と、現在の到達点に乖離がある。神経細胞に特化して進め
れば、目標到達できる可能性が上がるだろう。また、目標達成には、脳神経チーム内の黒田先生との共同により学
習モジュールの組み込みが重要である。着実な計画を再検討されたい。
抜本的な問題として、細胞内アクチン制御系は神経細胞特異的現象といえるだろうか。また、神経細胞の機能
上重要なのはむしろ Tubulin であり、これを外してシミュレーションする合理性が理解しにくく、簡単な系で説明して
いるという印象を受けた。Tubulin をどう扱うかについて、チーム内で議論を進めていただきたい。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AB.実装に向けて生命科学面の改善点を提言
多階層を成す超複雑システムである脳の研究は、本プログラムの目的に沿っており、神経系の情報処理システ
ムの解明に期待する。
計画は遅れ気味である。脳神経系に関して、計算科学を用いて新しい事実を明らかにするという気概が乏し
い。次世代スーパーコンピュータで計算できることを対象に選んでいるというeasy goingな姿勢が感じられた。
したがって、ここでいったん立ち止まり、次世代につながるという観点から計画を見直してはいかがか。例えば、
神経細胞の機能上重要な Tubulin を導入する可能性を検討する、RICS を通した細胞スケールチームとのより密な
連携を計画する、関連の深いE1テーマとのより強い連携を行う等。一方、当面は神経細胞の細胞移動を中心にシ
ミュレーションをアクチンフィラメントに焦点を当てて推進し、その解析を次世代スーパーコンピュータの活用まで目
標を高いところに置くという考え方もある。検討をお願いしたい。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 46 -
個別研究課題名 : [E3] 視覚系シミュレーション
代表機関名・代表研究者名 : 東京大学・黒田 真也
1. 計算機科学からの評価
評点2.9
脳神経系の刺激運動変換過程は環境に適応し、その学習過程は電気信号と神経細胞内の分子によって起こさ
れるマルチフィジックス現象であり、複雑な学習過程のシミュレーションには次世代スーパーコンピュータが必要で
ある。神経回路の学習を制御するスパイクタイミング依存シナプス可塑性モデルを構築したことは評価できる。
モデルに関しては面白い研究を行っているようであり、次世代スーパーコンピュータ利用の必要性は明らかだ
が、計算に関してはほとんど進行していないのではないだろうか。
このプロジェクトの連携の中で必須のパートとして機能する記述がないので、チーム全体のテーマ再編の機会
に役割・機能。位置づけを再確認していただきたい。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.4
脳神経系における学習過程の解明は生命科学の進歩にとって大きな意味のある研究である。医療上も学習障
害などの解明に重要であり、社会的な貢献も期待できる。視覚学習は生後の視覚経験に基づく神経回路変化であ
ることは知られていたがメカニズムは不明であった。今回、本研究により視覚学習の一つである方向選択性の獲得
メカニズムをアフリカツメガエルの視覚系で初めて実験結果を一貫して説明できるシナリオを提案できたことは極め
て高く評価できる。
3. 今後の方向性の提案
定性評価 AB.実装に向けて生命科学面の改善点を提言
チーム全体のテーマ再編と連動した上で、脳神経系における学習過程の解明は生命科学の進歩に貢献する意
味のある研究であり推進を期待する。特に、アフリカツメガエルの系からより高次で複雑な哺乳類の系の視覚系に
おける学習モデルの構築に期待したい。
視覚系シミュレーションとして眼球光学系モデルは構築したが、眼球運動、網膜モデルは推進中であり、全てが
完結して初めて視覚系シミュレーションの次世代スーパーコンピュータの活用となる。しかし研究期間内に到達出
来るか努力が必要である。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 47 -
個別研究課題名 : [E4] 無脊椎動物嗅覚系シミュレーション
代表機関名・代表研究者名 : 東京大学・神崎 亮平
1. 計算機科学からの評価
評点3.7
脳神経系は多階層を成す超複雑システムであり、複雑なシステムの中で本研究は無脊椎動物(カイコガ)にお
ける匂い刺激大から匂い源探索行動までの嗅覚情報処理をシミュレーションするものである。脳神経系の情報処
理基盤における入力から出力までの変換過程が環境により動的に適応する過程の解明には次世代スーパーコン
ピュータが必要である。昆虫の臭覚系で、世界で初めて特定の脳領域全体を再現する「昆虫嗅覚系シミュレータ
IOSSIM」を構築したことは評価できる。最終的には脳信号によるロボット身体を動作させる実験系を目指しており、
緻密な実験系との連携に重要な意味がある。
データベース整備は進んでいるが、高並列化はこれからの課題である。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.8
異種の感覚統合や記憶・学習などのダイナミックな脳神経回路の基盤の解明は生命科学の進歩に重要であ
る。また医療分野でも特定回路の不全による傷害の治療やロボティックスへの応用などその貢献が期待できる。特
に、多量の実験データに基づくシミュレーションから個々の神経細胞の生理学的、形態学的特徴を明らかにし、こ
れらの発生メカニズムや、進化プロセスにおける役割を提案したことは評価できる。
モデル生物を用いて DB 化を行うことで上位の(ヒト神経系)研究の基盤となる。生命科学的知見を得るためや
社会的関心を得るためには適度な複雑さの対象といえるかもしれない。成果は興味深く、今後の研究の進展に期
待する。
3. 今後の方向性の提案
定性評価 AB.実装に向けて生命科学面の改善点を提言
チーム全体のテーマ再編を踏まえて研究を推進していただきたい。嗅覚系でのシミュレータ構築は高く評価する
が、チーム全体での連携を考えると、視覚分野での研究に展開するか、生命科学分野での別プロジェクトで展開す
べきか、出口のわかりやすい本研究課題「嗅覚」に集中するか、という選択肢も出てくる。
再編と連動した上で、カイコガの感覚入力から行動出力までの全経路を再現するシミュレーションモデルへの展
開と「脳-機械融合システム」(BMI 型ロボット)の構築を期待する。モデル生物のシミュレーションは網羅性が高く
演繹的な結論が得られるので必要な過程と考えている。「脳-機械融合システム」は現在、企業との連携も進行し
ており、全脳レベルでのリアルタイムなシミュレーションの早期開発を期待する。
研究としては興味深いが、次世代スーパーコンピュータの必要性はやや疑問である。今後、次世代シミュレータ
でのリアルタイム稼働実現が試金石となる。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
- 48 -
F
生命体基盤ソフトウェア開発・高度化チームとその個別研究課題
(1)計算(機)科学からの評価
評点4.0
本研究チームの意義はコアソフトウェアを開発し、それを他のスケールチームに引き継ぎ、また他チ
ームで開発されたアプリケーションの評価や次世代スーパーコンピュータに稼動させた時の性能評価な
どであり、既に、分子動力学計算コアプログラム開発などで成果が着実に上がっている。次世代スーパ
ーコンピュータ上での必須の支援であると評価できる。インフラストラクチャの構築や他チームで開発さ
れたアプリケーションへの協力等、プログラム全体にとって今後も重要な開発である。全体を統括して効
果的利用になるように今後の計画を策定していただきたい。
次世代ゲノムデータ(ファイルシステム)への対応を検討してほしい。
プロジェクト後半の加速には本チームの貢献が必須であり、現在のマンパワーで十分であろうか。重
点的に集中を図る必要性と可能性を検討されたい。
(2)生命科学と社会からの評価
評点3.6
生命科学にとって重要な分子、細胞、臓器スケールなどのアルゴリズム、並列計算技術など技術的
支援を行う高度化チームであり、研究の共通基盤を支える意味でも重要である。
ただし、重要性も成果も理解できるが、分子チーム以外への貢献がはっきりしない。連携・支援の業
績と計画を明確にしていただきたい。
大規模シミュレーションを活用した創薬向けのインシリコ薬剤スクリーニングのパイプラインの完成と総
数 1 億件の仮想化合物ライブラリの構築は評価できる。創薬企業との協力も行っており、実際の創薬へ
の応用が期待される。なお、仮想化合物ライブラリの研究課題(F2)については、実際の合成可能な化
合物という部分は理解できるが、化合物としては既存の化合物空間にきわめて近いものになり、驚くよう
な化合物が発見されるという Breakthrough に不安が残るので製薬関係者の参画を期待する。また、この
研究課題は、本チームではなく、データ解析融合研究開発チームや分子スケールチームに参加し、具体
的な連携の姿を検討してはいかがか。
(3)運営の評価
評点3.4
基本的に各チームへの支援が目的のシミュレーションと可視化技術の開発であり、十分な連携が行
われていると評価できる。分子軌道法コアソフトウェアは成果を分子スケールチームに、アプリケーショ
ンミドルウェアのプロトタイプは臓器全身チームと細胞チームに於いて利用されており、十分な連携を保
っている。今後は、分子軌道などスケーラビリティの確実なチームとのコラボではなく、困難性の高い分
野のサポートをすべきではないだろうか。
人材育成の具体的内容を明らかにしていただきたい。
インシリコ薬剤スクリーニングのパイプラインでは既に創薬企業と連携が進められており、今後の共
同研究が期待される。
(4)今後の方向性の提案
定性評価:AA.実装に向けて加速化を提言
全体の成功のカギを握り、さらにハブとなるチームなので、多くの種類のシミュレータ及びソフトウェア
の開発と各スケールチームへの支援を積極的に行い、各グループの計算学に於ける向上に努力してほ
しい。特にF1は本研究開発の成功に不可欠なので、必要な資源を投入し、着実に開発を進める必要が
ある。次々世代スーパーコンピュータにつながるような技術開発も期待したい。
なお、受賞は大きな業績となるだろうが、本来の計画目標を忘れないでいただきたい。各レベルのチ
- 49 -
ームの成果が次世代スーパーコンピュータでスケーラブルに再現され、今まで実現できなかった結果を
出すこと、スケール間のシナジーあるいは統合による新しい成果が出せるかどうかがこのチームに問わ
れている。是非頑張っていただきたい。
さらに、薬剤スクリーニングについては外部からも利用可能なシステムの構築を期待する。類似点の
多いデータ解析融合研究開発チームや分子スケールチームに移行することをお勧めする。
以下、各研究課題の評価と、今後の方向に向けての提言を列挙する。
- 50 -
個別研究課題名 : [F1] 高速化、利用支援技術、可視化ソフトウェア
代表機関名・代表研究者名 : 理化学研究所・泰地 真弘人
1. 計算機科学からの評価
評点3.9
幅広く複合的な物理化学現象を含む生体現象を対象として次世代スーパーコンピュータを活用するためのアル
ゴリズムまで立ち返っての超並列化で高速・高効率シミュレーションの実現に向けプログラム全体への統合的な支
援を行っている。大規模並列化に向けてのソフトウェアの高速化と可視化が着実に推進されている。また、高並列
化された分子動力学計算コアソフトウェア分子スケールチームに引き継いだことは評価できる。
さらにアプリケーションミドルウェアを開発者に提供し、シミュレータ開発支援をし、また継続的なシミュレータ開
発環境を提供した。ソルバーの並列化、高速化が問題のようだが今後2年後の見通しが懸念される
全体の研究開発の推進に不可欠な部分だが、予算拡大が必要かどうか精査する必要がある。
2. 生命科学と社会からの評価
評点3.6
ツールと次世代スーパーコンピュータを利用できるインフラづくりである。次世代スーパーコンピュータを活用す
るためのプログラム全体の支援を行うことで、生命科学にとって結果的に意味のある研究となっているといえる。今
後の展開に大いに期待したい。
プログラム全体の基盤としての貢献とともに、産業応用として、可視化システムや薬剤スクリーニングパイプライ
ンに寄与している。大規模シミュレーションを活用し創薬向けのパイプラインを完成させた。
ユーザーはこのパイプラインパイロットの利用により初期設定のパラメーターを使ってスクリーニングが容易にな
る。ただし、創薬向けのパイプラインの完成は社会的な貢献としては評価できるが、これ自体はこのプログラムそ
のものには必要なのか再度検討する必要がある。
3. 今後の方向性の提案
定性評価:AA.実装に向けて加速化を提言
新しいアルゴリズム(言語開発)まで踏み込まないのは残念であるが、速やかな次世代スーパーコンピュータ実
機への移植作業とさらなる高性能化に向けたチューニング・支援は、プログラム全体の成果に関わり、本研究開発
の成功に不可欠であり、必要な資源を集中し、着実に開発を進める必要がある。基盤としての役割を果たし若干の
計画遅れを回復し、着実な推進に期待する。
次々世代次世代スーパーコンピュータにつながるような技術開発も期待したい。さらに産業応用に向けた薬剤
スクリーニングパイプラインの24年実利用の実施を望む。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
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個別研究課題名 : [F2] 大規模仮想化合物ライブラリ
代表機関名・代表研究者名 : 東京大学・船津 公人
1. 計算機科学からの評価
評点2.7
次世代スーパーコンピュータを活用したこれまでにない大規模な仮想化合物ライブラリは、国内製薬企業の国
際競争力強化に役立つ可能性がある。VL 作成、合成法推定自身は重要な課題である。
相対的に少ない予算で計画を達成しており、さらに件数を増やす価値はあると考える。
2. 生命科学と社会からの評価
評点2.7
大規模仮想バーチャルライブラリの構築は、国内製薬各社の新規創薬活性化に向け社会的に貢献でき、国際
競争力向上が期待される。創薬のための仮想化合物ライブラリは、医薬の候補化合物のバーチャルスクリーニン
グで直に産業界との連携が可能で、その意味で仮想化合物1億件の収録は評価できる。
ただし、今後本プロジェクト中で、これをどうするのか、生産可能情報は陳腐化しないだろうかという疑問があ
る。今後の展開の計画を早急に策定されたい。
また、実際の合成可能な化合物という部分は理解できるが、化合物としては既存の化合物空間にきわめて近い
ものになるので Breakthrough が期待できるのか不安である。大規模な化合物仮想ライブラリによるリード構造探索
が積極的に推進されているが、その活用により創薬に結びつく可能性とその方法論が多少明確ではない。実化合
物の 1000 倍の仮想化合物ライブラリが量的効果を発揮し、データを蓄積した上で明らかにしてほしい。
3.
今後の方向性の提案
定性評価:AB.実装に向けて生命科学の改善点を提言
スクリーニングへのアクセスを製薬会社だけでなく、実際の化合物スクリーニングが難しいアカデミアにも広げれ
ば、有力な創薬候補を同定できる可能性が広がり、新規医薬開発が困難な現状を打開できる可能性がある。デー
タベースの公開に際しては製薬業界に於ける国際競争を勘案し、タイミングと公開対象の選択を慎重にすることを
期待する。
ただし、国内製薬企業の国際競争力強化に役立つ可能性があるものの、生体の階層スケールを越えた解析を
進めるという本来のプログラムの目的には合致していない。生体機能の解明につなげる方法論を追及するか、他
チームの共通基盤とういう位置づけもなく、このチームにおくべきか他チーム(例えばデータ解析融合研究開発チ
ームや分子スケールチーム)に移すべきか、しっかり検討してほしい。
より実践的な化合物ライブラリになるように、製薬関係者の参画を検討してはどうか。
生命科学と社会の価値
BA.生命科学面での展
AA.実装に向けて加速
開・転身を提言
化を提言
次世代スーパーコ
ンピュータの活用度
BB.抜本的な見直しを
AB.実装に向けて生命
提言
科学面の改善点を提言
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おわりに
プロジェクトも残すところあと2年半、限られた時間と予算の中で、当初提示された期待される成果で
ある「次世代スーパーコンピュータの能力を最大限利活用することにより、『飛躍知の発見・発明』、『科
学技術の限界突破』を成し遂げ、『生涯はつらつ生活』等を実現し得る応用ソフトを開発する」を達成する
ことは、相当な困難をともなうと言わざるを得ない。ライフサイエンスにおける計算科学の利用の歴史は
浅く、次世代スーパーコンピュータ最大限利用と飛躍知・限界突破・社会貢献の3つの目標を同時に満
足するソフトを開発することは至難の技である。このことは当初から想定されたことではあるが、プロジェ
クトの進行とともに、より明らかになってきたと言えよう。
しかし、一方では、ここ5年間の着実な研究推進により、個別の研究課題や連携活動には、次世代ス
ーパーコンピュータ最大限利用または飛躍知、もしくは社会貢献の芽が確実に育ってきている。すなわ
ち、3つの目標を同時には満たさないが個々の目標は満足する研究が生まれてきたということである。こ
こで3目標を同時に満たすために無理な方向性を示すことはやめ、それぞれの目標に向けて、育った芽
をさらに伸ばし、それぞれの目標の可能性と限界を極めるという方向に、舵を切ってはどうだろうか。
そのために、5つの方向性を提案したい。
1番目は「①次世代スーパーコンピュータ実装に対する集中投資」という方向性である。開発したソフト
ウェアには、少数ではあるが生命科学的に意義があり、かつ超並列の準備ができているものがある。こ
れらに対しては、次世代スーパーコンピュータ実装に向けて集中投資を行い、生命科学におけるソフトウ
ェアの計算機科学面における可能性と限界を明らかにしていただきたい。
2番目は「②次世代につながる挑戦」で、計算科学と融合することによる生命科学面での『飛躍知の発
見・発明』『科学技術の限界突破』に向けての方向性である。プロジェクト期間中においては、次世代ス
ーパーコンピュータ実装よりは、飛躍知を生みだす、あるいは、生命科学の限界を突破することに挑戦
する課題を推進していただきたい。
3番目は「③統合に向けたテーマ再編と体制再構築」という方向性である。生命科学における限界突
..
破の1つは、スケールを超えた生命動態の統合的理解である。次世代統合シミュレーションの芽が小
さいながらも育ってきたので、ここでテーマと体制をいま一度再編し、次世代につながる芽を育
成していただきたい。
4番目は「④社会貢献の具体的な例示」である。個別的であるが早期に創薬や医療現場に役立
つと推測される研究がある。シミュレーションを導入することによって、社会に貢献できる例を
具体的に示していただき、次世代スーパーコンピュータの利用可能性に関しては間接的でよいの
で提示していただきたい。
5番目は「⑤公正なマネジメント」の方向性である。①から④の方向性に向けて大胆な決断が必要とな
る。それを実行するには、今まで以上に、各研究者と国民からの理解と支援が必要となる。公正で透明
性、客観性の高い判断と説明がもとめられる。
以下、各方向性について、具体的な提言を行う。
①次世代スーパーコンピュータ実装に対する集中投資
プロジェクト期間中に次世代スーパーコンピュータ実装を行ういわゆる「第一走者」の候補は、
・
全身ボクセルシミュレーションソフトSPH3D
・
マルチ心臓シミュレーションソフトUTHeart
・
ニューラルシミュレーションソフトNEST
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・
分子動力学ソフトcppmd
である。
分子スケール内では、粗視化ソフトCafeMolとタンパク質波動計算ソフトProteinDFという2つの第一走
者候補があるが、QM/MM/CG連成計算ソフトウェアPlatypusも第一走者候補となりうる、スケール間統
合の可能性を知る上で貴重なソフトウェアである。どのソフトウェアを第一走者とするか、よくご検討願い
たい。なお、CafeMolはEmbarrassingly Parallelに努めることをお勧めしたい。
UT Heartは細胞スケールと臓器スケールを統合したソフトなので、実装を急ぎ可能性を見出すことを
期待する一方、②において心臓・循環器テーマの統合という使命を提案するので、資源配分と合意形成
に十分留意されたい。一方、統計検定ソフトParaHaploは、次世代スーパーコンピュータ実装に急ぐより
も地道な工夫を続けていただきたい。
実装に向けて、生命体基盤ソフトウェア開発・高度化チームが主役となる。予算・人の配分に配慮して
いただくとともに、個別研究課題「[F2] 大規模仮想化合物ライブラリ」の別チームへの移管を考えていた
だきたい。
②次世代につながる挑戦
次世代につながる研究のキーワードは、「生命科学特有のモデリング・アルゴリズム手法」特に「スケー
ル間をつなぐ統合モデリング手法」「データ間・プログラム間をつなぐ手法」、さらに「莫大なデータ処理
法」の確立である。
スケール間をつなぐ要であるにもかかわらず、モデリング手法やウエット実験データとの連携にまだ研
究の余地を残す「細胞スケールチーム」に絞ってはどうか。対象は肝細胞に絞り、分子スケールチームと
の連携を視野に入れて、ボクセル型モデリングであるRICSの可能性と限界を明らかにしていただきた
い。
「分子スケールチーム」については、チーム内のテーマ統合を行うとともに、細胞スケールチームとの
連携を再検討していただきたい。
「臓器・全身スケールチーム」における次世代につながる挑戦は、血栓症シミュレーションによる細胞
チームとの連携と、心臓・循環器のテーマ再編成による世界最高水準のモデル化である。
「脳チーム」は、視神経テーマの再編により、Tubulinの導入など野心的なテーマに取り組んでいただき
たい。
「データ解析融合研究開発チーム」には、まさにモデリングとデータ処理法のバックボーンとしての役割
を担っていただきたい。まずは、多様なデータ-ネットワーク推定法-肺がんと薬でのケーススタディと
いう一連の流れを確立し、次世代シーケンサー時代に向けての技術の蓄積を図っていただきたい、次に
は、次世代シーケンサー等からの大量データ処理法の開発や、分子スケールチームと連携し、MOと
MEGADOCKとのはざまにある分子量のタンパク質・ドッキング解析手法の開発に着手してはどうか。
③統合に向けたテーマ再編と体制再構築
次世代につながるテーマ再編の一例を提案する。参考にされたい。
1)分子内連成:量子化学から粗視化までの連成を極めていただきたい。具体例は排出トランスポータ
ーでも酵素でも良いし、より基盤的なテーマでも良い。
2)肝細胞ボクセルシミュレーション:細胞スケール-分子スケールの連携の手法を探索する。できれ
ば、臓器スケールとの連携についても検討をされたい。
3)心臓・循環器オールシミュレーション:良質の2つの心臓モデルや血管網シミュレーション・マラリアシ
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ミュレーション等のテーマを再編してはどうか。
4)血栓症シミュレーション:細胞スケール-臓器スケールの連携の手法を追求する。
5)ネットワーク推定:遺伝子-分子ネットワーク推定の方法を確立する。その具体的なケーススタディ
として「がんと薬」を位置づける。
6)モデリング支援:データ解析融合研究開発チームを中心に、各チームと協議し、具体的なモデリング
に関する支援を行うと共に、次世代のモデリングの探索に着手されたい。
7)データ処理・マネジメント支援:つなぐデータ処理法、データベース化技術、大量データ処理法、ソフ
ト公開法、ツールのインタフェースの標準化を含む。現況での人的資源は限られているので、外部
人材の参画を検討してはどうか。
8)視神経オールシミュレーション:Tubulinの導入などを視野に入れ、根本的なモデリング手法と確立と
シミュレーション計算の有効性の例示をしていただきたい。
④社会貢献の具体的な例示
出口が見えているテーマを厳選し、重点的に資源を配分し、製品化と社会へのアプローチに努力さ
れたい。企業の資金導入も検討されたい。下にテーマの例を示す。
また、製薬会社、医療機器メーカー、臨床医師など、ニーズ側、利用者側の人間が直接開発に
関与できる体制を構築していただきたい。理研内の創薬セクションの協力を仰いではどうか。
1)重粒子線治療シミュレーション
2)超音波治療シミュレーション
3)嗅覚系シミュレーション:センサー開発などの具体的な姿で結実していただきたい。
4)大規模仮想化合物ライブラリ:他チームおよび製薬企業や実際の化合物ライブラリとの連携により、
利用方法の確立を目指されたい。
⑤公正なマネジメント
上記①から④の方向性を実現化するためには、既存のチームの枠組みを超えた再編や体制変更も
求められよう。大胆な取り組みを期待したい。
なお、テーマと体制の再編成に向かう際には、運営の公正さ・透明性・客観性について十分留意され
たい。また、再編の戦略性(意図)を伝え、その反応をきめ細やかに確認し、運営にフィードバックする体
制を構築していただきたい。
個々の研究課題の取捨選択や予算配分のルールを確立していただきたい。その中には、サイトビジッ
トやチーム会議等、個別研究課題代表者やチームリーダーの全員に、意思を確認したり、方針を周知す
る場の設定もこれまで以上に考慮されたい。
評価や最終決定に際しては、外部の第三者の参画を求めたい。運営委員会の過半数を外部委員にす
るぐらいの英断をお願いしたい。
最後に、本プロジェクトは、次世代スーパーコンピュータ戦略プログラムと関連がある。本プロジェクト
の範囲内のみで考えるのではなく、次世代スーパーコンピュータ戦略プログラムとの切り分けと連携を考
慮し、効果的、効率的な体制検討を行っていただきたい。
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参考資料1
「次 世 代 生 命 体 統 合 シミュレーションソフトウェアの研 究 開 発 」
中
間
評
価
委
員
会
設
置
要
綱
1.設置の目的
委員会は、「次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発」での進捗状況および中間成
果について、公正に評価を行うとともに、今後の方向性について提案することを目的とする。
2.組織等
(1)委員会は、ライフサイエンス及び計算機科学に関する分野の有識者で構成する。
(2)委員会には、主査を置き、文部科学省研究振興局ライフサイエンス課が指名する。
(3)主査は必要に応じて、副主査を指名することができる。副主査は主査に事故あるときは、その職務
を代理する。
(4)委員会は、主査が召集する。
(5)委員会は、委員の過半数の者の出席がなければ開会することはできない。
(6)委員会の議事は、出席した委員の過半数の同意を持って決し、可否同数のときは主査の決するとこ
ろによる。
(7)委員会に出席できない委員は、主査又は他の委員にその権限を委任することができる。この場合、
当該委員は委員会に出席したものとみなす。
(8)委員の委嘱期間は、平成22年5月6日から平成23年3月31日までとする。
3.情報公開
本委員会は特定機関の利害に関わる検討を行うため、会議及び議事については非公開とする。但
し、特定機関の利害に関わる議事を除き、評価委員会の資料及び議事録を適切な方法で公開するこ
とができる。
4.守秘義務
委員は、評価の過程で知り得た情報を他に漏らしてはならない。
5.庶務
委員会に係る庶務は、文部科学省研究振興局ライフサイエンス課において処理する。
6.附則
本要綱は平成22年5月6日から適用する。
a
参考資料2
「次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発」
中間評価委員会委員名簿
(敬称略、五十音順)
あおやぎ
むつみ
あかざわ
ちひろ
いいじま
さだよ
おおしま
やすお
きたがわ
げんしろう
きたじま
まさき
こはら
ゆうじ
ししど
よしお
たかぎ
としひさ
ながす
たけ し
やがわ
げんき
青柳 睦
赤澤 智宏
飯島 貞代
大島 泰郎
北川 源四郎
北島 政樹
小原 雄治
宍戸 芳雄
高木 利久
長洲 毅志
矢川 元基
九州大学情報基盤研究開発センター センター長(兼)教授
東京医科歯科大学大学院 保健衛生学研究科分子生命情報解析学
教授
三菱化学株式会社 ヘルスケア企画室 部長
共和化工株式会社 環境微生物研究所所長
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 理事
統計数理研究所長
国際医療福祉大学 学長
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 理事
国立遺伝学研究所 所長
国立医薬品食品衛生研究所スーパー特区対応部門 特任研究員
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
ライフサイエンス統合データベースセンター センター長
エーザイ株式会社 理事・CEO付 担当部長
東洋大学 計算力学研究センター長・大学院教授
以
b
上
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