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消化管への臨床応用 - 東芝メディカルシステムズ株式会社
CLINICAL ADVANCE 飯沼 元/富松英人/森山紀之 三宅基隆/鈴木兼保/荒井保明 国立がんセンター中央病院放射線診断部 消化管への臨床応用 宮谷美行 東芝メディカルシステムズ株式会社 設における消化管 CT 三次元画像の開 はじめに 発に基づき,64 列 MSCT を用いた CT 従来の消化管診断における CT の役 Colonographyの大腸がん術前診断につ 割は,悪性病変の術前診断における周 いて,現状と今後の展望を報告する。 囲臓器への浸潤や,リンパ節を含めた 他臓器転移の診断が主であり 1 ),消化 管病変そのものの評価に用いられるこ MSCTの進歩と大腸CT三次元 画像診断(CT Colonography) 64列MSCTによる大腸がん 術前診断システムの構築 国立がんセンター中央病院では,現 在 3 台の 16 列 MSCT を用いて CT 検査 を行っており, 検査数は 1 日 180 件以 上に達している。2005 年 5 月に東芝メ とはまれであった。近年,ヘリカルCT 国立がんセンターでは,2001年初め ディカルシステムズ株式会社と共同研 による三次元画像表示が各種臓器にお に 4 列 MSCT が導入され,臨床におけ 究契約を結び,国立がんセンター倫理 いて試みられ,消化管診断に応用する るMSCT検査を開始した。シングルス 審査委員会の承認を受け,64列MSCT 2) 研究も数多く行われたが ,X 線,内 ライス CT と比較し, 際立ったス による消化管 CT 三次元術前診断シス 視鏡診断の発達したわが国での存在価 キャンパフォーマンスの差から CT 検 テムの開発を開始した( 図 1)。 16 列 値は低く,実際の臨床診断に用いられ 査数は飛躍的に増加し,放射線検査数 MSCT を含め,CT 装置はすべてネッ ることはなかった。しかし,マルチス におけるCT検査比は著明に増加した。 トワークを介して画像ワークステー ライスCT(MSCT)の登場により,CT その後, 2002 年後半には 16 列 MSCT ション(WS)に接続されており,臨床 検査は本格的なボリュームスキャンの が導入され,現在は 3台の 16 列MSCT における脳外科の術前シミュレーショ 時代を迎え 3 ),広い範囲を高速かつ精 により,1 日あたり 200 件近い CT 検査 ン三次元画像診断を行っている。また 細に撮影可能になった。また,MSCT を行っている。現状では再構成画像の 4 列,16 列 MSCT を用いた消化管三次 から高速に生じる多量の画像データに ハードコピーを作成して診断している 元画像診断の経験に基づいて開発され 対する画像処理技術の進歩に伴い,革 ため,MSCTにより生み出される膨大 た新しい画像WSが,2004年11月に導 命的な CT 検査の効率化と画質の改善 な画像情報を効果的に診断に役立てる 入されており 8 ), 9),こうした診断シス が達成された。MSCTから得られる高 方法と,PACS 化が大きな課題となっ テムを基本として64列MSCTの評価を 解像度の優れたボリュームデータによ ている。具体的な CT 三次元画像診断 開始した。しかし,研究開始直後から, り,各種臓器の精細な三次元画像表示 は消化管診断から始まり,4 列 MSCT 64列MSCTの高精細スキャンにより発 が容易となり,消化管病変の診断にも の導入時より消化管がん術前診断にお 生する大量の再構成画像のハンドリン 応用されるようになった。 その後も ける評価を開始し,胃がん,大腸がん グが大きな問題となった。0.5mmスラ MSCTにおける検出器の進歩は著しく, の診断における CT 三次元画像診断の イス幅のスキャンで得られる等方性ボ 5 )∼ 7 ) この数年間に 4 列から 64 列へと多列化 有用性を報告してきた 。その後, クセルデータの場合,大腸三次元画像 が急速に進行し,三次元画像はさらに 16列MSCTの導入による三次元画像の 診断では 1 検査あたり 1000 枚以上の再 高精細化し,臨床における CT 三次元 高精細化を背景として,特に大腸がん 構成画像が得られるため,これを画像 画像診断が各種臓器において現実化し の診断において,臨床への応用をめざ WS に転送して三次元処理するのに時 ている。米国では,CT による大腸の した三次元画像表示法の研究を進め, 間を要し,実際の臨床応用への大きな 三次元画像表示を CT Colonography 4) スクリーニングを含めた三次元画像診 障害となった。こうした問題を解決す 8 ), 9 ) と称し,ヘリカル CT の時代から大腸 断の開発を行った 。こうした経験 るため,画像 WS の機能強化を行うと がんスクリーニングへの応用が研究さ に基づき,2005年度初めに導入された ともにサーバ構築を行い,システムの れていたが,こうしたMSCTの進歩に 64列MSCTを用いて,実際の大腸がん 高速化を行うことで対処した よりその傾向は活発化し,具体的なシ 術前において,臨床応用可能な診断シ (図 1 ①)。また,従来の研究ベースの ステムの構築が行われている。 ステムの構築を行った。 本稿では,これまでのわれわれの施 16 国立がんセンターがん予防・検診研究センター 64 列MSCT最先端臨床報告 INNERVISION(21・5)2006 別冊付録 システムと異なり,画像 WS で作成し た三次元画像を実際に病院情報システ エラスター針により静脈確保を行い, 前処置としてブスコパン 1A を静注 12 番CT室 する。注腸検査で用いる遠隔注入器に より肛門から炭酸ガス注入( 注入量 2000 ∼ 3000 mL を目安)を行い,撮影 TOSHIBA 部位と腸管ガス量を位置決め像で確認 東芝CT-LAN 放射線情報 システム(RIS) 2 HD & DVDライブラリ 1 (CT操作室) 病院情報 システム(HIS) 3 DICOMコンバータ ゲートウェイ (4Fカンファレンスルーム) した後に撮影する。炭酸ガスは速やか に腸管より吸収されるため,検査後の 腹満感が少なく,当センターの大腸内 視鏡検査でも使用されている 10 )。 ・スキャン条件:電圧120kV,電流 max 500 mA( Volume EC:Volume ドライプリンタ ZIOSTATION(GI version) 三次元シミュレーション 診断システム 中央病院4階 CT検査コーナー 図1 Exposure Control11) 使用),ガントリ ZIO server ZIOSTATION (GI version) プレゼンテーション用 (PC-projector) 消化管術前 プレゼンテーションシステム CTネットワークと消化管三次元画像診断システム 回転速度 0. 5 s /回転,0. 5 mm × 64 列, ヘリカルピッチ53.0 ・造影剤・造影タイミング:単純撮 影後,ヨード濃度 300 の造影剤 150 mL を 3.0 mL/s で注入。注入開始後 50 s で スキャンを開始し,大腸全体の動脈相 を撮影する。必要に応じて後期相を追 加する。 ・スキャン範囲:単純・造影とも肝 上縁∼骨盤部(肛門管が十分に入るよ うに)。転移の可能性がある場合は,造 影後期相(3分後)にて肝および肺の撮 影を行う。 ・画像再構成と三次元表示:画像再 構成は通常の腹部 CT で用いる関数 FC 03 を用い,0. 5 mm 幅で画像再構成 し,ネットワークを介して消化管専用 の画像 WS へ転送する。ボリュームレ ンダリング法を用いて,腸管内空気と 内腔面の密度のコントラストにより, 画像 WS 上で大腸の三次元画像表示を 図2 新しい画像ワークステーションにおける大腸三次元画像表示 行う。新しく開発された画像 WS 上で は仮想内視鏡表示, 三次元全体表示, MPR(Multi Planar Reconstruction) 表示による大腸の観察が容易である。 ム(HIS)へ転送することで,病棟や手 術室における画像参照を可能とした (図1②)。さらに,カンファレンスルー ムにも専用の画像 WS を導入すること 大腸がん術前診断における 64列MSCT Colonographyの 実際 また,各種表示法の組み合わせや,ス クリーニングを目的として開発された 新しい表示法である仮想切除標本展開 ( Virtual Gross Pathology: VGP)表 示 8) により,大腸病変のスクリーニン で,実際の術前カンファレンスにおい 64列MSCTによる大腸がん術前診断 て,高画質の三次元画像を操作しなが では,先に背臥位による腹部単純撮影 ら効果的なプレゼンテーションを行っ を行い,続く造影撮影では病変部が明 ている(図 1 ③)。 瞭に描出されるよう,直腸がん症例で 64 列 M S C T C o l o n o g r a p h y により は腹臥位,結腸がん症例では背臥位に 120 例以上の被検者に対して評価を行 て検査を行う。造影剤静注のため 20 G い,その評価結果に基づき実際の臨床 グも可能である(図 2)。 すでに,大腸がん術前診断において, INNERVISION(21・5)2006 別冊付録 17 CLINICAL ADVANCE 消化管への臨床応用 に応用可能なシステムの構築を行った。 ● MSCT検査は,大腸がん術前の局所や 症例 1 b a 転移の評価に必須であるため,大腸内 視鏡検査直後に行うことで術前検査の 効率化に寄与すると考えられた。従来 の4列,16列MSCTでの経験と比較し, 画像の高精細化とスキャンの高速化に よる大腸三次元画像の画質改善は著し い。特に,64列MSCTから高速に収集 される等方性ボクセルデータにより, 腸管蠕動の影響が少ない高精細な仮想 図3 三次元画像では,大腸粘膜における軽 症例 1 : 60 歳,女性 a:仮想内腔三次元表示 + MPR表示(MIP) b:三次元全体表示(air enema像) 度の凹凸も明瞭に描出されるように なった。さらに,仮想三次元画像と精 細なMPR像を組み合わせることで,病 変の拡がりに関する立体的構造の把握 が容易となり,正確な術式決定が可能 となった。また,われわれの施設では, ● 症例 2 b a MSCT Colonographyの画質向上によ り術前の注腸 X 線検査は省略されるよ うになり,今後の普及によっては術前 評価での必要性はなくなっていくと予 想される。実際の大腸がん術前評価に 64列MSCTの三次元シミュレーション 診断を導入することで,外科医から高 い評価を受けるに至った。 これまで, d c 大腸の画像診断は X 線や内視鏡を中心 に超音波内視鏡,CT,MRI を併用し て行われてきたが,MSCT Colonography の多彩な表示法の組み合わせによ り従来の検査を省略でき,効率的かつ 効果的な診断体系の確立が可能な状況 になった。 ●症例提示 症例 1(図 3):60歳,女性。大腸仮 想内視鏡像+MPR(MIP)像(図3a)で 図4 症例 2 : 55 歳,女性,直腸の結節集簇様病変 a:大腸内視鏡像(色素散布後) b:仮想内視鏡像 c:仮想内腔像 + MPR像 d:仮想内腔像 + MPR像(病変部) は,16列MSCTと比較して大腸の内腔 像と周囲臓器,および腹部血管を明瞭 に観察可能である。また,注腸X線類 似の三次元画像(図 3b)も格段に改善 仮想内視鏡像では,病変中央部の粗大 腸の Isp 型の早期がんである( 図 5a)。 し,画像 WS 上で大腸の全体像を任意 結節のみならず,周囲に広く拡がるIIa 仮想内視鏡像にて大腸内視鏡と同様に の方向から自由に観察することが可能 部分を明瞭に描出している。内腔像+ 病変が観察され( 図 5b), 三次元画像 である。 MPR 像(図 4c)では病変の局在が確認 では病変部の壁変化も明瞭に確認可能 症例 2(図 4):55歳,女性。大腸内 でき,さらに,病変中心部の拡大像に である(図 5c)。特に,64 列 MSCT の 視鏡にて中部直腸に半周以上を占める おいて腸管筋層を同定することで,深 等方性ボクセルデータにより,任意方 結節集簇様病変( Is + IIa 型早期がん) 達度診断も可能である(図 4d ←)。 向において高精細な内腔像+ MPR 像 を認める(図 4b)。64 列 MSCT による 18 INNERVISION(21・5)2006 別冊付録 症例3(図 5):63歳,女性。上部直 が得られるため, 原発巣のみならず, ● 症例 3 図5 a b d e c 症例 3 : 63 歳,女性,上部直腸の Isp 型の早期がん a:大腸内視鏡像 b:仮想内視鏡像 c:三次元表示(air enema像) d:仮想内腔像 + MPR像(前額断) e:仮想内腔像 + MPR像(矢状断) ● 症例 4 a 図6 b c 症例 4 : 61 歳,女性,上行結腸の IIa + IIc 型早期がん a:大腸内視鏡像 b:仮想内視鏡像 c:仮想内腔像(病変面像) 周囲臓器との関係や支配血管を的確に 診断することができる(図 5d,e)。 症例 5(図 7): 74 歳,男性。S 状結 腸に結節状隆起を認め,中心に白苔を 症例4(図 6):61歳,女性。大腸内 有する潰瘍性変化を認める(図7a)。仮 視鏡にて上行結腸の半月ヒダ上に,丈 想内視鏡でも不整な結節状隆起として (図 7d → ③),切除標本でリンパ節転 移が確認されている。 MSCT Colonographyに おける今後の展望 の低い平盤状隆起を認め,発赤した浅 認められ(図 7b),VGP 表示において い中心陥凹を伴う病変を認める も存在診断は容易である(図7c)。内腔 MSCT Colonographyは,内視鏡検 ( 図 6a)。従来の CT Colonography で 像+ MPR 像にて原発巣部分に壁の肥 査や X 線検査と比較して簡便で低侵襲 は,こうした IIa + IIc 型病変は描出困 厚が認められ,筋層浸潤の所見と考え であり,短時間の検査で局所病変のみ 難とされていた。しかし,64列MSCT られる(図 7d ← ①)。また,腸間膜内 ならず臓器全体の評価が可能である。 の仮想内視鏡像, 内腔正面像により, の血管群内に下腸間膜動脈が明瞭に同 64列MSCTの導入による検査の高速化 病変は不整に肥厚した半月ヒダ上の結 定可能で( 図 7d ↓ ②), その周囲に と三次元画像の高画質化により,大腸 節性病変として十分に認識可能である。 6 mm 大の腫大した結節が認められ 内視鏡後に施行することで術前診断に INNERVISION(21・5)2006 別冊付録 19 CLINICAL ADVANCE 消化管への臨床応用 ● タル CT 診断のメリットを生かした三 症例 5 次元画像表示,CADやデジタル前処置 の開発が進むことで,近い将来,大腸 がんの診断においてMSCT Colonographyは大きな地位を築くと考えられる。 本研究は平成18年度厚生科学研究費 補助金(第 3 次対がん 10 ヵ年総合戦略 研究事業 森山班)の援助を受けた。 2 3 1 図7 症例 5 : 74歳,男性,S 状結腸の小型2 型進行がん a:大腸内視鏡像 b:仮想内腔像 + MPR像 c:仮想切除標本展開像 d:仮想内腔像 + MPR像(病変部) 20 a b c d おける MSCT Colonographyの臨床的 診断( Computer Aided Detection : 有用性はほぼ確立したと考えられる。 CAD)12 )やデジタル前処置 13 )の開発が スキャンの高速化により造影剤のダイ 進んでおり,こうした技術の進歩によ ナミック注入を併用し,腸管膜∼腸管 り MSCT Colonographyがスクリーニ に至る,血管の動脈相や静脈相を的確 ングを含めて,近い将来,広く実際の にとらえることが可能となり,血管の 臨床診断に導入されていくことは確実 三次元画像再構成に基づく正確なリン と考えられる。デジタル前処置は,造 パ節転移診断や,外科手術における術 影剤(バリウムやガストログラフイン) 式選択も可能となった。早期病変の診 を tagging agent として用いることで 断においては, 4 ∼ 16 列 MSCT 腸管内の残便や残液を標識し,画像処 Colonographyでは5mm以下の病変や, 理により除去する方法で,欧米ではCT 丈の低い表面型腫瘍は診断困難であっ Colonographyの標準的な前処置法にな ●参考文献 1)藤田信行 : 腹部 CT診断学. 東京,中外医学 社, 323∼328, 1997. 2)小倉敏裕・他 : ヘリカルスキャン CTによる 大腸の三次元構築画像. 胃と腸, 33, 187∼196, 1998. 3) 田口克行・他:マルチスライス CT( Multislice CT). 日 本 放 射 線 技 術 学 会 雑 誌 , 55, 155∼164, 1999. 4) Hara, A.K., et al. : Detection of colorectal polyps with CT colography ; Initial assessment of sensitivity and specificity. 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