Comments
Description
Transcript
「シャボン玉の黒い膜」 1,研究の動機 2,研究の仮説
「シャボン玉の黒い膜」 池田学園池田高等学校 SSH物理班① 福岡明奈,大石未彩,安堂 翼 Abstract We studied the thickness of the membrane of a soap bubble. First, we measured the area of a membrane of Oleic acid which covered the surface of the water. The volume of one drop divided by the area determines the thickness of a membrane. The result was about 2.1nm. We inferred that the thickness of a double membrane on a soap bubble would be about 4.2nm. Second, we measured the surface tension of the solution by using the ring method. The surface tension of Oleic acid which was covering the surface of the water increased suddenly by just under 2nm. This result agreed with the previous one. Third, we measured the relationship between the surface tension of Oleic ammonium and the strength of the solution. The surface tension increased suddenly by just under 0.031%. Fourth, we measured the relationship between the surface tension and the strength of an added electrolyte. The surface tension increased suddenly by over 25g, when we added the salt. Fifth, we measured the intensity of reflected light on the surface of the membrane. We discovered that the thickness of the black membrane was about 28nm. 1,研究の動機 しゃぼん玉の膜は,一番うすい黒い膜と,その次 に白い膜,そして色のついた膜の3つの部分から できている(右図)。我々は,参考文献の追試を通じ て,おもに表面張力を測定することにより,黒い膜の 構造と厚さにせまろうと考えた。 なお使用した液は,オレイン酸アンモニウムの1% 水溶液である。 2,研究の仮説 黒い膜と白い膜の境目は不連続であり,そこで突 然膜の厚さが異なっている。白い膜と色のついた膜 の境目は連続であり,膜の厚さも連続的に変化して いると仮定した。 右下の図に示すように,色のついた膜の厚さは, 光の干渉の式 2nd (m 1 ・λ ) (m=0,1,2,・・・) 2 より,オレイン酸の屈折率を n=1.4586,紫色の波長が450nmとすると,0次で約77 nm,1次で231nmとなる。 白い膜では,231nmより薄いと考えら れる。 黒い膜は,77nmより薄く,境目では突 然厚さが薄くなっていると仮定した。 3,研究方法 しゃぼん玉の膜の性質については,水面に広がったオレイン酸膜の厚さの測定と表面張 力の測定により考察する。また膜の厚さについては,レーザー光の透過率を測定すること で調べてみる。 4,実験方法および結果 ①実験1:水面に広がるオレイン酸の薄膜の厚さを求める。 <実験方法> 水面に赤チョークの粉をふりかけ, そこにオレイン酸をエタノールで 400 倍∼3200 倍にうすめた液を1滴落と す。チョークの粉が広がったところで, 方眼紙をかぶせ,チョークの粉を移し 取る。 オレイン酸の1滴の体積を膜の広がった面積で割ることで,膜の厚さを求める。 <実験結果> 3200 倍にうすめた液 1回目 2回目 3回目 膜の広がった面積(cm2) 41.0 22.4 39.4 膜の厚さ(nm) 2.05 3.77 2.14 2.65 2400 倍にうすめた液 1回目 2回目 3回目 平均 膜の広がった面積(cm2) 51.6 39.3 42.4 膜の厚さ(nm) 2.18 2.86 2.65 2.56 1600 倍にうすめた液 1回目 2回目 3回目 平均 膜の広がった面積(cm2) 69.4 57.7 66.4 膜の厚さ(nm) 2.43 2.92 2.54 平均 2.63 <考察> 3200 倍∼1600 倍にうすめた液では,平均で 2.6nm ぐらいの厚さであるが,最も薄い所 では 2.05nm∼2.18nm の厚さで広がった。これより厚いところでは,膜が重なっているの ではないかと思われる。 オレイン酸の分子式は C18H34O2 で,分子構造は右図のようになって おり,親水基と疎水基をもっている。この分子をモデルで表すときは, 親水基を○印で,疎水基を線で表すことにする。 オレイン酸が水面上に広がるときには,親水基を下に,疎水基を上に 向けて,水面上に分子が一列に並んでいると考え,そして,その厚さは 約2.1nmであると考えられる。そして,オレイン酸アンモニウムの 液でつくったしゃぼん玉でも,膜の表面は全く同じような構造になって いると考えられる。 ②実験2:水面に広がるオレイン酸の膜の厚さと表面張力の関係を調べる。 <実験方法および結果> オレイン酸をエタノールで薄めた液を用いて,表面張力を測定する。たとえば,400倍にうすめた 液の場合,シャーレの面積が55.4cm2で,1滴の体積が 1/37cm3であったから,膜の厚さは, 1 1 1 37 55.4 400 0.000001219(cm) 12.19(nm) となる。このときの表面張力の値は,38.6(mN/m)であった。表面張力は,ジョリーばね秤を用 いて3回ずつ測定し,その平均をとった。すべての結果は, オレイン酸の希釈 128 200 400 800 1200 1600 2400 3200 度 倍液 倍液 倍液 倍液 倍液 倍液 倍液 倍液 膜の厚さ(nm) 44 24.4 12.2 6.1 4.1 3.0 2.0 1.5 表面張力(mN/m) 37.1 38.8 38.6 39.1 43.6 48.4 50.2 60.2 膜の厚さと表面張力の関係をグラフに直すと,下の図になる。 <考察> 膜の厚さが6nmから薄くなるにつれて,表面張力の値が少しずつ大きくなっていき, ちょうど2nmを境にして,急に大きくなった。これは,2nmより薄くなると,オレイ ン酸の膜は分断されて,表面に水の分子が顔を出すからであると考えられる。 この結果と,実験1の最も薄い2.05∼2.18nmの結果が一致するように思われ る。 ③実験3:しゃぼん玉液の濃度と表面張力の変化の関係を調べる。 オレイン酸アンモニウムのしゃぼん玉液をうすめていきながら表面張力の値を測定し てみた。同時に,直径3cmのモールの輪で膜をつくり,割れるまでの何秒かかるか測定 した。その結果を以下の表にまとめた。 液の濃度 1.0% 0.5% 0.25 % 0.125 % 0.063 % 0.031 % 0.016 % 0.008 % 12.2 12.6 14.0 13.3 12.6 17.7 34.7 36.1 20 秒 28 秒 47 秒 23 秒 21 秒 20 秒 20 秒 23 秒 41 秒 29 秒 28 秒 32 秒 29 秒 24 秒 25 秒 30 秒 15 秒 13 秒 20 秒 26 秒 1秒 1秒 3秒 1秒 できず できず 20 秒 20 秒 24 秒 29 秒 19 秒 2秒 (%) 表面張力 (mN/m) 割れるま での時間 (秒) 5回測定 濃度と表面張力の大きさの関係をグラフにすると,下の図になる。 <考察> ・しゃぼん玉液の濃度を薄くしていったとき,0.031%の濃度が膜のできる限界であった。 0.031%を境にして表面張力の値が大きくなっていった。 ・しゃぼん玉液をいくら薄めても白く濁った状態は変わらなかったので,液の内部にはコ ロイド粒子(ミセル)が存在していると思われる。 ・これらのことから,0.031%より薄くなると,液体の表面をおおうオレイン酸の分子の間 にすきまができ,水の分子が顔を出すのではないかと考えられる。 ④実験4:しゃぼん玉液に食塩を加えたときの表面張力の変化を調べる。 しゃぼん玉液に電解質を加えたときの膜の性質の変化を知るため,オレイン酸アンモニ ウムの 0.5%溶液 100g に食塩を 5g ずつ増やしながら加えていったときの表面張力の値の 変化を調べてみた。 加えた食 塩の量(g) 5.0g 10g 15g 20g 25g 30g 35g 表面張力 7.36 8.36 9.12 8.27 15.7 23.9 35.7 割れるま での時間 (秒) 14 秒 16 秒 20 秒 23 秒 9秒 39 秒 6秒 10 秒 8秒 7秒 10 秒 17 秒 2秒 2秒 4秒 できず できず 5回測定 6秒 9秒 33 秒 15 秒 12 秒 8秒 16 秒 15 秒 1秒 1秒 (mN/m) 加えた食塩の量と表面張力の大きさの関係をグラフにすると,下の図になる。 <考察> ・食塩を入れるとコロイドの「塩析」が起き,白い固形物が浮いてきた。 ・表面張力の大きさは,食塩を入れることにより小さくなった。 ・しゃぼん玉の膜のできる限界は,食塩を 25g 加えたところで,これ以上の食塩を加える と表面張力の大きさは大きくなっていくことがわかった。 ⑤実験5:反射光の強度を測定してしゃぼん玉の膜の厚さを求める。 膜の厚さについて,レイリーによって導かれた理論によると,もし光が膜面に垂直に投射さ れた場合,入射光の強さ I0 に対する反射光の強さ I の比 R を測定することができれ ば,次の式によって膜の厚さ d が測定される。 ここで n は膜の平均屈折率,λ は用い た単色光の真空中の波長である。 2 I (n−1) 2 2πnd R= =4 sin ( ) (レイリーの式) 2 I0 (n+1) λ そこで下の図のようにアクリルの円筒の中にしゃぼん玉の膜を張り,黒い紙で遮光して レーザー光線の透過率を照度計を用いて調べた。 レーザー光源 照度計 黒い紙 しゃぼん玉膜 黒い紙 <結果と考察> ・実験結果は,入射光が55ルクス,透過光が54ルクスであったので,反射光を1ルクスとして計算 してみると,d=28nmという膜の厚さが出た。 しかし,この結果は,黒い膜の厚さとしては厚すぎるので,さらに薄い値が得られるまで繰り返し実 験をしていきたい。 5,考察とまとめ しゃぼん玉の膜の構造は,下の図のように疎水基を外側にして,親水基が内側に向き合 っている。 ①実験1と2の結果から,液体表面に並ぶオレイ ン酸分子の厚さが約2.1nmであったので,黒 い膜の厚さは最も薄い所で約4.2nmであろう と推定される。 ②実験3と4の結果から,表面張力の値が15∼ 17mN/m より大きいとしゃぼん玉ができない のではないかと推定される。 また,しゃぼん玉液に食塩を少量加えると,表面 張力の大きさが小さくなることが見出されたが, この理由についてはまだわからない。 ③実験5の結果から,黒い膜の厚さは約28nmと推定される。 6.今後の課題 ①この研究では,黒い膜の厚さを追求してきたが,黒い膜ができると,すぐに割れてしま い,28nmより薄い黒い膜の厚さを測定することができなかったので,黒い膜を割れ ないで維持できるように工夫していきたい。 ②顕微鏡による黒い膜の観察や,偏光板を用いた観察をして,黒い膜の構造をさらに追求 していきたい。 ③これまでの実験を繰り返し行い,実験の精度を上げていきたい。 7,参考文献 「しゃぼん玉 その黒い膜の秘密」立花太郎