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安価で簡易な歩道融雪の研究

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安価で簡易な歩道融雪の研究
福井県雪対策・建設技術研究所
年報地域技術第2
2号 2
0
09.
8
安価で効果的な歩道融雪の研究
A study of simple and effective sidewalk melting snow
金 森 英 二
要 旨
歩道の融雪は、施工費が融雪面積に対して大きくなるため歩道融雪設備の普及は進んでい
ない。本研究では、車道消雪用の井戸ポンプを共用し、切替バルブにより歩道へも散水する
方法での施設整備により建設コストを抑え、歩道融雪を普及促進することを目的とする。昨
年度は歩道融雪モデル実験により短時間で融雪する散水方式を確立した。今年度は既存消雪
ポンプを共用し、実歩道へスプレー散水融雪設備を実歩道へ敷設し検証したので報告する。
キーワード:安価、歩道、融雪、散水、スプレー、画像処理型積雪センサ、切替バルブ
1.はじめに
そこで、複数箇所の積雪状況を把握できる画像処理
交通弱者の多い歩道融雪は、散水・無散水を問わず、
型積雪センサを使用する。このセンサはカメラを備え
施工費や施工期間がその規模に対して大きくなりやす
る利点を生かして画像による遠隔監視機能も有してい
く、公共費が年々削減される現況での融雪面積の拡張
る。
は厳しくなっている。そこで車道の消雪施設が整って
いる区画において、井戸ポンプを共用して切替バルブ
を設け、歩道へも散水する仕組みとすれば、安価に歩
道融雪を整備することが可能と考えられる。
しかし、車道の井戸ポンプを共用する関係上、車道
優先の融雪が求められることから、歩道への散水時間
は制限されることになる。そこで昨年度は、舗装仕様
と散水方式を変えた歩道融雪のモデル実験を行い、ス
プレーノズルを用いたスプレー散水方式により、短時
図−1
間で融けむらのない融雪が実現できることを確認した。
融雪施設の概要
今年度は実際の歩道へスプレー散水装置を設置し、
既設井戸ポンプを共用した融雪実験を行い、実用化に
2.2
散水制御方式
歩道融雪は、既設井戸ポンプの設置目的より本来の
向けた問題点について検討を行った。
融雪箇所ではないため、歩道融雪の優先順位は後段と
2.融雪施設の概要
なる。したがって、車道融雪を優先とした運転が求め
2.1
られ、歩道融雪は車道融雪の空き時間(=融雪不要時
構成
本研究の歩道融雪施設は、図−1に示すとおり既設
間)で行う制御方式とした。(図−2参照)
井戸ポンプからの送水配管を分岐し、新たに設置した
スプレー散水装置で歩道へ散水する簡単なシステムで
ある。
通常の融雪施設では、ポンプ制御(起動/停止)を
単地点監視による積雪センサや降雪センサにより行う
が、本方式による融雪施設ではポンプ制御の他、車道
と歩道の積雪状況を把握し切替弁を制御する必要があ
る。
図−2
−1
9−
散水制御について
(車道優先)
第1編
2.3
調査研究報告
検証を要する項目
実歩道でのスプレー散水による融雪方式には、下記
に示す懸念があることから、実際の融雪試験により確
認しておく必要がある。
(1)舗装状況(舗装モデルと実歩道の違い)
モデル実験は、縦断・横断勾配とも理想的な歩道舗
装モデルであったが、実歩道では条件が悪くなるため、
融けむらや融け残りが発生し短時間に融雪されない可
能性がある。
写真−1
(2)散水位置と積雪量
実験場所(全景)
歩道上に散水配管を置いたモデル実験では、積雪量
が多い状態から融雪を始めた場合に積雪下部は融雪さ
れるが積雪上部が残雪するスノーブリッジ現象が発生
し、十分な融雪ができないことが判明した。そこで今
回、地上高1
0㎝の位置から散水することでスノーブリ
ッジ対策とし、その効果を確認する。
(3)画像処理型積雪センサによる正常な制御
本センサは県内の融雪設備でも導入されているが、
車道/歩道と離れた2地点を積雪検知する運用実績は
ないことから今回確認を行う。
写真−2
実験場所(歩道橋消雪用設備)
3.実験施設
3.1
設置場所
本県では、交通弱者の安全や利便性の確保の観点等
から、小学校周辺5
0
0m圏内の通学路は小型除雪機械
等により除雪を行う施策をとっている。そこで、既に
井戸ポンプが近くにあり歩道融雪が行われていない箇
所をいくつか選定し、地元自治会および小学校の理解
が得られた一般県道吉野・福井線の日之出小学校前
(南側)歩道にて実験を行うこととした。
なお、本実験で使用する既設井戸ポンプは、歩道橋
融雪として使用されている井戸ポンプを使用した。写
真−1は歩道融雪実験箇所の全景である。
既設歩道橋消雪用配管(写真−2参照)から新たに
歩道融雪用配管を分岐(施工延長L=2
5m)し、分岐
箇所には切替バルブを取付ける。今回分岐施工する配
管口径は4
0Aであったことから3方弁を採用した。今
図−3
回改造した配管詳細を図−3に示す。
−2
0−
配管詳細図
福井県雪対策・建設技術研究所
3.2
年報地域技術第2
2号 2
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09.
8
積雪検知箇所と融雪箇所について
今回施工した制御回路および改造図について、参考
本実験では歩道橋消雪用配管を分岐し歩道融雪を行
に図−4、図−5に示す。
うため、融雪箇所は「歩道橋」または歩道になるが、
画像処理型積雪センサによる積雪検知の判断箇所は
「車道」と歩道としている。
歩道橋は、積雪しやすく散水しても融雪されにくい
条件の下棒状散水での融雪方式を採用しているが、歩
行者への水かかり対策として散水吐出量を絞って運用
している。そのため、歩道橋融雪は人力を併用するな
ど地域住民の協力を得ている状況にあり積雪検知の判
断箇所としては条件が整わないためである。これに対
し、車道は別の消雪装置が整備されており、積雪検知
判断箇所としての問題はない。当初想定の計画と異な
写真−3
るが実験上の支障はない。
積雪センサ
(カメラ部)
設置状況
なお、上述の理由により、本実験にあたっては歩道
橋の融雪状態が不完全でも歩道融雪に切替わる可能性
が高いため、歩道橋融雪を強制運転する制御スイッチ
を今回付加している。
3.3
積雪センサと制御装置について
画像処理型積雪センサのカメラは、写真−3のよう
に既設降雪センサと同じ箇所に設置した。このカメラ
で撮影している画像を写真−4に示す。黒線で示す四
角形は、今回積雪検知の判断を行う領域である。
なお、歩道の積雪検知の範囲は、大人1人が防寒具
を着て歩ける最小限の幅6
0㎝となるよう設定した。
写真−4
積雪センサ画像
画像処理を行う汎用コンピュータやルータ等の通信
機器は、写真−5のように既設歩道橋消雪ポンプ制御
盤上に箱体を設け、内部へ納めてある。なお、今回使
用した汎用コンピュータはデスクトップ型であったた
め箱体を設けたが、ノート型パソコンを採用すれば既
設制御盤内に収めることは可能である。
画像処理型積雪センサは、路面輝度の違いにより積
雪を判定するため、晴れて降雪がなく積雪もない路面
でも誤検知(積雪検知)する場合がある。その対策と
して、水分センサと温度センサ(気温監視)を制御に
付加している。今回、水分センサは降雪センサの出力
信号を代用し、気温センサは新たに組込んだ。
弁の切替制御および既設歩道橋消雪ポンプ制御盤の
改造は、リレーやタイマを用い簡単な回路構成により
実現する。
−2
1−
写真−5
制御装置等設置状況
第1編
3.4
調査研究報告
(3)凍結対策
融雪用散水配管
配管は地上部露出のため気温の影響を受けやすく、
散水管に取付けるスプレーノズルは、昨年度の融雪
配管内の残り水が凍結した場合、配管やスプレーノズ
実験を基に、次の手順により選定した。
1.
施工延長とノズル取付間隔から必要ノズル数を算出
ルが損傷する可能性がある。
そこで、末端部に排水弁(ドレンバルブ)を設置し
2.
施工延長の融雪に要するポンプ吐出量を算出
3.
井戸ポンプの水圧/流量を測定しPQ曲線を作成
た。弁は電気的な駆動力が不要な「低温作動弁」
(写真
4.
ポンプPQ曲線とノズルPQ表から、ポンプ吐出
−7)を選択した。低温時に配管内の水を自動排水す
るため凍結予防が出来る。内部にサーモエレメントを
量が最大となる種類を選択
散水角度は融雪効率が高い8
0度を基準としている。
ただし、ノズルPQ表に記載の噴霧流量や噴霧角度に
内臓しており外気温を感知して吐水し、吐水の水温で
止水を行う仕組みである。
は±5%、±5°のばらつきがあること、ポンプ吐出
状況の変化も考慮しておく必要があるため、ノズル製
造業者とも協議した。その結果、今回選択したノズル
は1ノズル吐出流量を1.
6
3L/minとし、施工延長で
の計画散水量は約6
5L/minと計画した。
また、散水管の敷設にあたっては昨年度の融雪実験
で得られた知見等を基にいくつか工夫を行っているの
で、以下に述べる。
(1)スプレー散水高さの変更
散水方式の違いによる融雪効率比較のモデル実験で
は、舗装上に直接置いた散水管からほぼ水平方向に散
水していた。そのため、積雪量が多くなってから散水
開始した場合、スノーブリッジが発生し融け残りが発
写真−6 スプレーノズル取付状況
生した。そこで、スプレー散水の高さを地上高1
0㎝と
することで、スノーブリッジ対策とした。
また、ノズル取付部材にエルボを組み合わせること
で、上下(左右)方向で散水角度を調整可能とした。
(写真−6参照)
(2)送水用配管の追加
散水管が送水機能を持つシングル配管は、費用面で
有利であるが、末端に向かって送水量が漸減し水圧低
下を招く。スプレーノズル使用での水圧低下は、適正
な散水角度、散水パターンが崩れる可能性がある。そ
こで、散水管の上部に送水管を配置し、各々末端部を
接続してクローズド配管(ループ配管)とすることで
水圧低下抑制対策とした。
なお、送水管を上部、散水管を下部とした写真−6、
図−4のような配置にすることで、歩行者の怪我防止
と、ノズル踏付け等によるノズル損傷対策を兼ねてい
る。
−2
2−
図−4
配管・ノズルの配置
福井県雪対策・建設技術研究所
写真−7
年報地域技術第2
2号 2
0
09.
8
低温作動弁
写真−9
3 0
:
1
0
歩道融雪状況 1/1
(車道積雪検知に伴う 歩道
散水停止)
4.融雪実験結果
4.1
融雪状況
平成2
0年度冬は、平年と比較して日照時間は多く、
気温も高く、降雪量が少ないという融雪実験にとって
不都合な気象状況ではあったものの、積雪量が多い場
合でも良好に歩道融雪されたことを確認した。
例として、平成2
1年1月1
3日の歩道融雪状況を報告
する。
前日2
4時までは車道積雪検知が継続され、当日0:
00∼0:1
0までは車道積雪検知解除に伴い1
0分間の歩
道散水があったが、0:1
0には再度車道積雪検知され
歩道散水は停止した。(写真−8,9参照)
その後、車道積雪検知は明け方6:3
5まで継続され、
6:3
5から歩道散水を開始し6
0分後には歩道積雪ナシ
写真−1
0 歩道状況 1/1
3 6
:
3
5
(歩道
散水開始直前)
と判定され歩道散水は停止した。
(写真−1
0∼1
4参照)
写真−8
写真−1
1 歩道融雪状況
歩道状況 1/1
3 0
:
0
0
(歩道
(歩道
散水開始直前)
−2
3−
1/1
3 6:
5
0
散水開始後 1
5分経過)
第1編
調査研究報告
4.2
歩道融雪の検証
4.2.1
散水量と融雪効率
平成21年1月13日の歩道融雪時間帯の散水量は3.
3
L/min・㎡(=ポンプ吐出量:約4
9L/min)であり、
散水時間(=積雪センサにより積雪ナシと検知するま
での時間)は60分であった。
この水量は、当初計画値(65L/min(散水管水圧
0.
05MPa))の約75%である。今回使用している井戸
ポンプはインバータ制御仕様でなく、歩道散水が開始
されるまでの連続散水(車道積雪検知による歩道橋融
雪)により地下水位が低下したためと思われる。
写真−1
2 歩道融雪状況 1/1
3 7
:
0
5
(歩道
スプレーノズルは計画値を基に選定し、隣接するノ
散水開始後 3
0分経過)
ズルの散水面が互いに融雪面をラップするよう調整し
ているが、適正にラップされていない状況が観測され
た。適正なラップが形成されれば融雪効率は向上する
ため、散水時間は短くなると思われる。
なお、平成21年1月13日の歩道融雪時間帯における
各々の測定値を表−1に示す。この結果に下記条件を
付与し今回の融雪効率を算出した。
表−1
歩道融雪時の測定値
写真−1
3 歩道融雪状況 1/1
3 7
:
2
0
(歩道
散水開始後 4
5分経過)
[融雪効率算出条件]
・融雪面積:15㎡〈L:25m W:60㎝〉
・積 雪 深:7㎝〈観測状況写真からの推定〉
3 7時:1
4㎝
(参考)アメダス気象データ 福井市 1/1
・雪 密 度:0.
1g/!〈新雪〉
・融雪利用域 7.
3℃〈スプレー着水水温−2℃〉
(参考)サーモトレーサによるスプレー散水温測定値
路面積雪無、気温0℃時
スプレーノズル噴出部水温:1
0.
3℃
〃
着水部水温: 9.
3℃
・気象条件:気温
0℃
,日射無し
熱量全てを融雪利用するとして、融雪時の気温0℃、
融雪時の日射無しという条件下で融雪する場合1,
1
79
写真−1
4 歩道融雪状況 1/1
3 7
:
3
5
(歩道
散水開始後 60分経過
歩道融雪完了ポンプ停止)
L(≒19.
7L/min)の水量が必要となるため、融雪
効率は約40%であったと算出される。
−2
4−
福井県雪対策・建設技術研究所
4.2.2
年報地域技術第2
2号 2
0
09.
8
実歩道による融雪検証
表−2
設置費用
融雪実験箇所の歩道は平板ブロック方式であった。
ブロック周辺の目地やひび割れに水みちができ、融け
むらが発生する懸念もあったが、スプレー方式の散水
方法で良好に融雪された。
4.2.3
スノーブリッジの検証
散水位置を高くしたことに加え、今冬の降雪量は少
なく積雪深も小さく、スノーブリッジが発生する状況
は観測されなかった。
4.2.4
画像処理型積雪センサの制御検証
積雪センサにより車道と歩道と離れた2地点を検知
し、出力信号によりバルブを切替える制御回路を組込
み、一連の自動制御が正常に動作することを確認した。
なお、積雪センサでの誤検知(積雪ナシを積雪アリ
と検知)は発生していたが、水分センサや温度センサ
を組み合わせる対策により誤動作(積雪ナシ時に散水
6.課題
今冬は降雪量が少なく、スノーブリッジ対策の効果
される)が発生することはなかった。
検証が十分にできなかった。来冬以降の降雪量が多い
5.コスト
とも限らないことから、スノーブリッジ発生抑止のた
本融雪施設は、新たに鑿井せずに、既設消雪用の井
めの対策を図る。その手法として、車道散水時間が長
戸ポンプを歩道融雪の熱源として兼用することで、建
時間になる場合、車道散水中でも歩道散水を定期的に
設コストを抑えるものである。
短時間実施するなど制御手法での対応により歩道への
改造費は施工条件により異なるため、例として一般
県道吉野・福井線の日之出消雪ポンプ№5を改造し歩
過度の積雪防止措置とし、スノーブリッジ発生対策と
しての効果検証をする。
道消雪設備(施工延長L=1
50m)を整備する費用に
なお、既設消雪用井戸ポンプを共用しスプレー方式
ついて試算した。試算結果、既存設備の改造等で1
95
による散水方式により、安価に効果的な融雪が実現で
万、また新たな歩道融雪敷設費で1
9
0万と見積もられ
きることが明らかとなった。しかし、住宅・店舗と併
ることから、本方式による歩道整備の施工費は約4
00
設する歩道では露出配管によるスプレー散水方式の採
万と試算される。(表−2参照)
用は困難な場合が多く、また既設消雪用井戸ポンプの
新規に鑿井する場合、1,
7
0
0万(2
5
0A×1
0
0A,水
位置と目的とする歩道融雪箇所が離れ過ぎている場合
中ポンプ含む)程度必要であることから、熱源として
には建設コストは大きくなることから、本方式の採用
既設井戸ポンプを共用し切替バルブで歩道融雪を可能
には一定の制約が生じる。
とする本方式の施設整備により、安価に歩道融雪を拡
張していくことが可能となる。
7.まとめ
今年度は平年と比較しても降雪回数が少なく、また、
まとまった積雪とならなかったため、積雪深が大きい
場合の十分な検証はできなかった。しかし、実歩道に
おけるスプレー散水の有効性や運転効率など以下の点
を確認した。
−2
5−
第1編
調査研究報告
・スプレー散水方式は、実歩道条件下においても融け
むらなく良好な融雪が可能
・画像処理型積雪センサを採用することで、既設井戸
ポンプ1つで、車道と歩道の2ヶ所の融雪制御が可
能
したがって、歩道融雪は車道消雪用の井戸ポンプが
既に整備されていれば、効果的な歩道融雪を安価に整
備可能である。本方式は採用箇所が限定されるものの、
既存井戸ポンプと融雪整備を要する歩道までの距離が
近い場合は得策であることから、本方式が歩道融雪の
普及へ寄与するものと考える。
【謝辞】
本融雪実験を行うにあたり、株式会社いけうち
坂
口氏からご助言を、また福井土木事務所には多大な協
力をいただいた。記して謝辞とする。
−2
6−
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