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医療制度の経済的機能と調整
論 文 医療制度の経済的機能と調整* 知 野 哲 朗** (東京学芸大学教授) はじめに 本稿の第一の目的は非市場的な資源配分方式である「医療制度」を取り上げ,その制度が医療分野にお ける資源配分と所得分配の側面でどのような機能を果たしているのかを直近の OECD(2009)の Health Data から明らかにすることである。また,Health Data は医療経済分野に関わる国際比較可能な貴重な データを収集したものであるが,その収集の基準とデータ制約を明らかにすることがデータ利用とその分 析結果にとって欠かせない。そのため,A System of Health Accounts(SHA)の仕組みおよび保健医療支 出を中心とした諸概念の説明と検討を行う。第二の目的は「市場」との対比を想定しながら,環境変化に 対して医療制度の調整がどのように行われるべきかを公共政策的観点から分析することである。この分析 に際しては高齢化という環境変化を取り上げ,それが医療制度の経済的機能に対してどのような調整を求 めているのかを考察する。これらの研究目的の設定,および日本を中心とした Health Data の利用の研究 は本稿の特徴でもある。 本稿の構成は次のようになる。第 1 節では,OECD Health Data の推計基準となる SHA の基本的な枠組 みを説明したのち,保健医療支出の概念を SHA の枠組みに沿って明らかにする。第 2 節では,保健医療 支出について機能別,提供主体別,および財源別という 3 つの基本的分類を通じてその構造的特徴を Health Data から明らかにする。これらの諸特徴は各国の医療制度の経済的機能を反映した側面をもつ。 第 3 節では,OECD 諸国における医療資源の保有と利用状況,さらに健康水準について Health Data を利 用して明らかにする。これら医療資源に関する諸特徴も各国の医療制度に影響されている。最後の節で は,社会の高齢化という環境変化を取り上げ,それが医療制度にどのような調整を求めているのかを吟味 する。 1 .SHA と OECD Health Data 本節では OECD Health Data の推計基準となる A System of Health Accounts(SHA)の基本的な枠組みを 研究の成果の一部は文部科学省科学研究費基盤研究(課題番号:20530240)からの援助を受けている。 1984 年東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得中退,同年東京都立大学経済学部助手,その後,東京学芸大学講師・助教 授,立命館大学経済学部教授,岡山大学経済学部教授を経て 2008 年より現職。所属学会は日本経済学会,日本 NPO 学会。著書等に「日 本の医療提供システムと医療政策」 (東京学芸大学紀要)2009 年,『制度と医療の経済分析』 (岡山大学経済学部研究叢書)2008 年など。 * ** 97 会計検査研究 No.41(2010.3) 説明したのち, 「保健医療支出」の概念を SHA の枠組みに沿って明らかにする。本稿で取り扱う Health Data は,保健医療支出の国際比較が可能となるように,国民保健医療勘定(National Health Account)に 関する国際基準に沿って収集された貴重な資料である。この Health Data の推計基準を示す SHA は 2000 年に公表され(OECD(2000)),それ以後,これに準拠した推計データの作成が OECD 諸国を中心に行わ れている。この SHA に基づく国際比較分析が Orosz and Morgan(2004)によってなされ,OECD 諸国の 医療制度に関する特徴が統一的な枠組みで明らかにされるようになった。また,その研究の基礎となる各 国の分析は OECD Health Technical Papers でなされ,それぞれの国に特有な医療制度の特徴と問題点が検 討されている1)。 SHA 策定の主要な目的は,国際比較可能なデータ収集の枠組みを提供すること,そして政策立案に役 立つように各国の国民保健医療勘定の再構築を促すと同時に,その勘定を補完するモデルを提示すること である(OECD(2000))。SHA の基本的な枠組みにおいては,保健医療サービスに関わる支出が保健医療 勘定の国際分類(International Classification for Health Accounts(ICHA))に沿って,つまり,機能別(ICHA -HC),提供主体別(ICHA-HP),財源別(ICHA-HF)の 3 つの基本的分類から推計されている2)。表 1 は これら 3 つの基本的分類の枠組みを示したものである。この枠組みを通じて,どのような保健医療サービ スが提供されているのか,その保健医療サービスはどのような供給主体によって提供されているのか,そ してそれがどのような財源でなされているのかが数量的に把握される。それぞれの分類は大・中・小分類 に分かれた項目をもつが,表 1 には基本分類の概要を示すために,機能別と提供主体別の分類については 大分類まで,財源別の分類については中分類までを掲載している。第 2 節ではこれら分類に基づいたデー タ分析を行っているので,各項目に関する具体的な内容については後述する。 次に,本稿で利用する「保健医療支出」 (Total Expenditure on Health, THE)の概念について説明しよう。 この保健医療支出(THE)は保健医療勘定の機能別分類から定義されたものである。表 2 は表 1 の機能別 分類で示された THE の内容を示したものである。この表から,HC.1 から HC.5 までの合計が Total expenditure on personal health で,HC.6 と HC.7 の合計が Total expenditure on collective health となる。この両 者 (つまり HC.1 から HC.7 までの合計)に HC.9 の項目を加えたものが経常保健医療支出(Total current expenditure, TCHE)と呼ばれる3)。この TCHE に HC.R.1(Investment(gross capital formation)in health)を加 えたものが保健医療支出(THE)である。したがって,THE は保健医療分野の財やサービスに関する最 終消費(経常保健医療支出)と保健医療設備に対する総投資から構成され,また,この支出には保健医療 サービス,公衆衛生サービス,予防サービス,および管理費に対する公的および私的支出が含まれる。一 般に,SHA に基づいて推計された THE は各国で公表されている National Health Expenditure(NHE)と相 違する。しかもこの両者の相違については OECD 諸国間でも格差が存在する。ちなみに日本の THE は 2000 年,日本の NHE(つまり厚生労働省で定義される「国民医療費」)の 127.4% に相当する金額である (Orosz and Morgan(2004)参照)。この日本の THE に関する各項目の推定金額については OECD Health Technical Papers に詳しい4)。 日本については H. Sakamaki, S. Ikezaki, M. Yamazaki, and K. Hayamizu(2004)を参照。 SHA に関する詳細は OECD(2000)を参照。 3) HC.9 の項目は OECD Health Data(2009)より記載されるようになるので,OECD(2000)には HC.9 の項目はない。各項目に関する内容 の詳細については OECD(2000) ,OECD Health Data(2009)および第 2 節を参照。 4) H. Sakamaki, S. Ikezaki, M. Yamazaki, and K. Hayamizu(2004)を参照。 1) 2) 98 医療制度の経済的機能と調整 表1 SHA の枠組み 資料:OECD(2000) 99 会計検査研究 表2 No.41(2010.3) 保健医療支出(THE)の構成 資料:OECD(2000) , OECD(2009) 本稿で利用する OECD Health Data(2009)は上記のような枠組みのもとに収集されるので,国際比較 可能なデータとして医療経済分野では貴重なものである。しかし,データ収集は一般に研究分析上の観点 からではなく,各国における収集の容易性と操作可能性の観点から行われるため,そのデータ内容には注 意を要する。たとえば,上述した日本の NHE(「国民医療費」 )は特定の範囲と定義に基づいてデータ収 集され,推定された金額である5)。このため,SHA に基づいた保健医療支出(THE)の推計で含められる べきもの,たとえば保険外適用となる室料差額料,マッサージ料金,あん摩・鍼の料金などが算入されて いないのが実情である。このようなことは日本のみならず,他の OECD 諸国にも該当する6)。したがっ 5) 日本の「国民医療費」 (NHE)の範囲と推計方法については毎年度公表される厚生労働省の「国民医療費の概況」を参照。 Orosz and Morgan(2004) ,H. Sakamaki, S. Ikezaki, M. Yamazaki, and K. Hayamizu(2004)および OECD Health Data(2009)を参照。 6) 100 医療制度の経済的機能と調整 て,Health Data を利用した国際比較分析の結果については十分に留意する必要があるだろう。また, Health Data では国によって利用出来ないデータ項目が存在するが,それは日本にも妥当する。とくに日 本の医療費データについては,他の OECD 諸国の 2007 年あるいは 2008 年データが利用可能であるにも 関わらず,日本の直近のデータが 2006 年となる。そのため,本稿では比較分析上の観点から 2006 年デー タを中心に採用せざるを得ない7)。 2 .保健医療支出の分析 本節では OECD 諸国の保健医療支出(THE)について OECD Health Data(2009)を利用して分析する。 日本を中心とした比較分析であることから,日本のデータが利用可能な事項に分析が絞られる。まず THE の推移について検討し,次に THE の構造について SHA の 3 つの基本的分類から考察する。 2. 1 保健医療支出の推移 OECD 諸国の保健医療支出(THE)についてその規模と推移をみよう。THE は SHA の分類によれば, 保健医療サービスの機能別項目への支出(HC)と,保健医療サービス関連項目への支出(HC.R)のうち の 1 項目とに分かれる(表 2 参照) 。前節で説明したように,前者が経常保健医療支出で,後者が保健医 療設備への総投資(HC.R.1)である。つまり, 「保健医療支出(THE)」=「経常保健医療支出(TCHE)」 +「保健医療設備への総投資」となる。本稿ではおもに保健医療支出(THE)を扱うが,2.2 では資料制 約から経常保健医療支出(TCHE)を一部,取り扱う。まず以下では,日本の THE がどのような傾向に あるのかを,THE 対 GDP 比率と 1 人当たり THE の推移から観察しよう。 図 1 は 1960 年-2006 年間の THE 対 GDP 比率について,OECD 諸国の平均,G 7 諸国(Canada, France, Germany, Italy, Japan, United Kingdom, United States)の平均,および Japan の値を描いたものである8)。こ の期間を通じて日本の数値は G 7 諸国の平均に比べて低く,OECD 諸国の平均と比べても 1983 年を除け ば常にそれ以下となる9)。ちなみに,その 1983 年については,日本の値が 6.9 で,OECD 諸国の平均が 6.8 である。また,図 2 では 2006 年の高齢化率(65 歳以上人口の総人口に対する比率,%)の上位 5 カ 国について THE 対 GDP 比率を示したものである。高齢化率上位の 5 カ国とは Japan(20.8),Germany (19.7),Italy(19.6),Greece(18.5),そして Sweden(17.3)である10)。ただし,括弧内の数値は高齢化 率(%)。これらの図から日本の THE 対 GDP 比率は当該期間を通じて他の OECD 諸国に比べて低く,そ のことは高齢化率の高い諸国に限定しても同様の結果となる。表 3 は 2006 年を含めて 10 年間隔で, OECD 諸国における THE 対 GDP 比率と 1 人当たり THE を示したものである11)。後者の単位は米国ドル 購買力平価($PPP)で換算された金額である。この 1 人当たり THE についても日本は OECD 諸国の平 均よりも概して低い金額となる12)。 人口データに関しては,日本の 2008 年データが利用可能であるにもかかわらず,他の OECD 諸国の多くが欠損値となる。 国名の表記については便宜上,OECD Health Data と同様に英語で行うが,Japan については適宜,日本語名を利用する。 9) ただし,1965,1966,1982,1984 および 1985 年では日本と OECD 諸国の平均が一致する。 10) 2006 年では Portugal と Sweden は同じ高齢化率(17.3) であるが,2007 年の Sweden(17.4) は Portugal (17.3) より高くなる。括弧内の数値は 高齢化率(%) 。その他の OECD 諸国の高齢化率については表 5 および表 8 を参照。 11) 表 3 のデータは OECD 諸国 30 カ国のうち 25 カ国で 2007 年データが利用可能であるが,日本は利用出来ない。そのため,直近データと して 2006 年データを採用している。 12) 1 人当たり THE について日本が OECD 諸国の平均を超える年は 1960-2006 年の期間を通じて,1994 年から 1998 年まで,および 2000 年 という 6 年間である。 7) 8) 101 会計検査研究 No.41(2010.3) 図1 THE 対 GDP 比率の推移 資料:OECD HEALTH DATA 2009, June 09 図2 高齢化率上位 5 カ国の THE 対 GDP 比率の推移 資料:OECD HEALTH DATA 2009, June 09 102 医療制度の経済的機能と調整 表3 保健医療支出(THE)の推移 資料:OECD HEALTH DATA 2009, June 09 備考:表の数値は保健医療支出(THE)の GDP に対する比率(%)。 a は 1971 年データ。 b は 1991 年データ。 c は 2005 年データ。 2. 2 資料:OECD HEALTH DATA 2009, June 09 備考:表の金額は 1 人当たり保健医療支出 (THE)の金額で,米 国ドル購買力平価($PPP)による表示である。 a は 1971 年データ。 b は 1991 年データ。 c は 2005 年データ。 保健医療支出の構造 OECD 諸国の保健医療支出(THE)について SHA の機能別,提供主体別および財源別分類からその構 造的特徴を明らかにしよう。ただしデータ制約のため,機能別と財源別分類では THE が対象となるが, 提供主体別分類については経常保健医療支出(TCHE)(=THE−「保健医療設備への総投資」 )が対象と なる。 まず機能別分類から保健医療支出(THE)の構造についてみよう。THE の機能別分類(ICHA-HC)は どのような保健医療サービスが提供されているのかを把握するためのものである。THE は既出の表 2 に 示されるように HC.1 から HC.7(および HC.9)までの項目からなるが,このうち,HC.1 から HC.5 まで の項目については個人的保健医療支出(Total expenditure on personal health),そして HC.6 と HC.7 は集団 的保健医療支出(Total expenditure on collective health)と呼ばれる。これら支出の THE に対する比率(つ まり HC.1∼HC.5/THE および HC.6+HC.7/THE)が表 4.A に示されている。そして残余は THE の定義か 103 会計検査研究 No.41(2010.3) ら保健医療施設への総投資(および HC.9)となる。日本の場合,個人的保健医療支出の比率は 93.4%(そ のうち HC.1+HC.2(治療・リハビリサービス)が 55.8%),集団的保健医療支出の比率が 4.7%,そして 残余の比率が 1.9% である。他の OECD 諸国に比べて,日本の場合,個人的保健医療支出の比率が高く, 総投資が低い特徴となる。 次に,提供主体別分類(ICHA-HP)は保健医療サービスがどのような供給主体によって提供されてい るのかを示すものである。この分類に基づいた各項目の経常保健医療支出(TCHE)に対する比率が表 4. B に示されている。この表では ICHA-HP のうち,HP.1 から HP.4 までの各項目に関する比率が示されて いるので,その残余の比率は HP.5 から HP.9 までの項目のものである。提供主体別分類に関する日本の 結 果 に つ い て は,HP.1 が 48.2%,HP.2 が 3.1%,HP.3 が 27.9%,HP.4 が 16.1% で,そ の 合 計 は 95.3% となる。他の OECD 諸国に比べて日本の特徴は病院サービス提供が高く,逆に,ナーシングケア施設等 のサービス提供が低くなることである。 表4 保健医療支出(THE)の構造 資料:OECD HEALTH DATA 2009, June 09 備考:A と C の数値は保健医療支出(THE)に対する比率(%),B の数値は経常保健医療支出(TCHE)に対する比率(%)。 a は 2005 年データ。 104 医療制度の経済的機能と調整 最後に,保健医療サービスがどのような財源でなされているのかを示した財源別分類(ICHA-HF)か ら保健医療支出(THE)の構造についてみよう。大分類によれば公的および私的保健医療支出に分かれ, 前者は中分類では一般政府と社会保障基金から,後者は中分類では民間保険,家計の自己負担,非営利機 関,法人などからの支出となる。表 4.C から,日本の公的保健医療支出の比率は 81.3%,私的保健医療支 出の値は 18.7% である。日本の家計の自己負担率は 15.1% で,OECD 諸国のなかでは低い値である。ま た日本の公的保健医療支出のうち社会保障基金の比率が 64% となる。一般に,医療制度は財源の在り方 を基本にして,公営システム,社会保険システム,民間保険システムに分類されるが13),表 4.C から Germany, France, Netherlands などと同様に,日本も社会保険システムに属することが社会保障基金の高い 比率によって確認できる。ちなみに,公営システムは United Kingdom, Denmark, Sweden などが,また民 間保険システムは United States, Switzerland などがそれぞれ典型的な国として指摘されている14)。 SHA の機能別,提供主体別,財源別分類という 3 つの側面からの分析結果から示唆されるように,保 健医療支出(THE)の構造的特徴について OECD 諸国間の相違は大きい。このことは保健医療サービス 分野の資源配分と所得分配を規定する「医療制度」の多様性を示唆している。次の節では OECD 諸国の 各医療制度のもとではどのような医療資源の保有や利用に関する特徴があるのかを Health Data により比 較分析する。 3 .OECD 諸国の特徴 本節では OECD 諸国の保健医療支出(THE)を規定する主要な要因として GDP と高齢化を取り上げ, その関係について考察する。そして,OECD 諸国それぞれの医療資源の保有と利用状況,および健康水準 について日本を中心に比較分析する。この節で観察される OECD 諸国の特徴はそれぞれの医療制度に関 する機能と成果を反映したものである。 3. 1 THE, GDP および高齢化の関係 保健医療支出(THE)の決定に関する研究では,その後の論争の出発点となった Newhouse(1977)が 先駆的な論文として挙げられる。Newhouse(1977)は 13 カ国について THE を所得の代理変数である GDP によって説明する分析を試みて,所得が医療支出の変動の大部分を決定する,そして所得弾力性が 1 の値 を超えるという結果を示した。その後,この結果については理論的および実証的議論が展開され,集計 データ分析の経済理論的含意,推計式に関わる分析手法,医療サービスの内容と質の特定化,および医療 費の価格指数の問題などが検討されてきた。とくに THE の説明要因については高齢化の程度,公的部門 の役割,および各国の医療制度の特性などの変数が導入されて,新たな分析が試みられた15)。本稿ではそ の重要な要因と考える GDP と高齢化についてその関係を直近の Health Data で観察する。 たとえば OECD(1994)を参照。 OECD 諸国における大部分の国民は私的あるいは公的保険によってほぼ完全にカバーされているが,OECD Health Data (2009) によると, United States, Turkey,および Mexico の保険カバー率がそれぞれ 85.3%(2007 年) ,67.2%(2003 年) ,65.7%(2007 年)となる。これら 3 カ国と他の OECD 諸国とでは国民の保険カバー率に大きな格差が存在する。なお,この 3 カ国の公的保険カバー率はそれぞれ 27.4% (2007 年) ,67.2%(2003 年) ,65.7%(2007 年)である。United States は低い公的保険カバー率で,私的保険の役割が相対的に大きい。 15) 保健医療支出(THE)の決定に関する国際比較研究をサーベイした Gerdtham and Jönsson(2000)を参照。また,国際比較研究を通じて 各国の医療制度に関わる制度的要因も重視されるようになり,国内データに基づいた医療支出分析が行われている。これについては,た とえば Hakkinen and Luoma(1995) ,Di Matteo and Di Matteo(1998) ,Tokita, Chino, and Kitaki(1999) ,知野(2003 b) ,知野・杉野(2004) を参照。 13) 14) 105 会計検査研究 No.41(2010.3) 表 5 は 1 人当たり THE($PPP),THE/GDP(%),1 人当たり GDP($PPP),そして高齢化率(65 歳 以上人口の総人口に対する比率,%)について示したものである16)。まず,この表から 2006 年における OECD 諸国の特徴をみよう。これら変数の格差は最大と最小の比率で言えば,それぞれ 11.2,2.8,4.8, 3.9 倍となる。1 人当たり THE の格差は 1 人当たり GDP に比べて一層,大きくなる結果を示している。1 人当たり THE の高い国は United States(6,933)で,低い国が Turkey(618)である。また 1 人当たり GDP については,高い国が Luxembourg(57,358)で,低い国が Turkey(12,074)となる。ただし,括弧内の 単位は$PPP である。 表5 THE, GDP および高齢化,2006 年 資料:OECD HEALTH DATA 2009, June 09 備考:THE は保健医療支出,高齢化率は総人口に対する 65 歳以上人口の比率(%)。 a は 2005 年データ。 1 人当たり GDP と高齢化率に関する日本の直近データは 2007 年であるが,THE の日本のデータが 2006 年となるため,表 5 では 2006 年を利用した。2007 年の高齢化率は表 8 を参照。 16) 106 医療制度の経済的機能と調整 では 1 人当たりの THE と GDP の関係についてみよう。図 3 は 2006 年における 1 人当たりの THE と GDP に関する散布図である。それは THE の決定において GDP の影響が大きいことを示唆している。た だし,図において 1 人当たり THE が突出した位置にあるのが United States で,その値が 6,933($PPP), 1 人当たり GDP が 43,904($PPP)である。この図からも United States が他の OECD 諸国に比べて突出 して 1 人当たり THE が高いことが観察される17)。United States を含めた OECD 諸国 30 カ国について,対 数型の単純な回帰分析を試みた結果は弾力性 1.36 で,修正済み決定係数 0.89 である18)。他方,United States を除いた OECD 諸国 29 カ国についての結果は弾力性 1.31 で,修正済み決定係数 0.91 となる。いず れにしても,GDP が THE の決定要因として重要な役割を果たしていることが示唆される。 図3 THE と GDP の関係,2006 年 資料:OECD HEALTH DATA 2009, June 09 次に 1 人当たり THE と高齢化率の関係についてみよう。図 4 は OECD 諸国における 1 人当たり THE と高齢化率に関する散布図である。この図においても図 3 と同様に,1 人当たり THE が突出した位置に あるのが United States である。両者の関係について,1 人当たり THE を被説明変数とし,高齢化率を説 明変数とする対数型の単純な回帰分析を試みた。United States を含めた OECD 諸国 30 カ国の結果につい United States の 1 人当たり THE が突出している理由については医療サービスの相対価格,管理費用,高費用となる疾病の発症率とその 治療件数などが指摘されている。たとえば Thorpe, Howard, and Galactionova(2007)を参照。 18) OECD 諸国 30 カ国についての単純な対数型の回帰分析結果(2006 年)は, ln(1 人当たり THE) =−6.17295+1.36185・ln(1 人当たり GDP) (−6.77904) (15.3905) 修正済み決定係数=0.890511 また,United States を除いた OECD 諸国 29 カ国の結果は ln(1 人当たり THE) =−5.68482+1.31278・ln(1 人当たり GDP) (−6.95550) (16.5067) 修正済み決定係数=0.906501 となる。括弧内の数値は t 値。 17) 107 会計検査研究 No.41(2010.3) ては,高齢化率の係数が 1.04 で有意,修正済み決定係数は 0.33 となる19)。他方,United States を除いた OECD 諸国 29 カ国についての結果は,高齢化率の係数が 1.09 で有意,修正済み決定係数は 0.42 となる。 高齢化率が高くなることは社会の人口の平均年齢が上昇することから,1 人当たり医療費が高くなる傾向 が存在する20)。しかし,Gerdtham and Jönsson(2000)が指摘するように,医療支出決定分析の研究では高 齢化が必ずしも統計的に有意ではない傾向にある。その意味で,高齢化が THE に及ぼす影響については さらに検討を必要とするが,その影響は THE という側面にのみ限定されるのではなく,より広い範囲の 医療分野の諸課題に関係する。たとえば,高齢化にともなって当該国で提供されるべき医療サービスの内 容に変化をもたらし,またその国にとって望ましい費用負担の在り方にも影響を与える。つまり,高齢化 の進展は医療分野における資源配分および所得分配全般の問題に関係する。後述するように,これらの問 題は急速な高齢化の進行する日本にとって医療制度に関わる緊急な課題となっている。 図4 THE と高齢化の関係,2006 年 資料:OECD HEALTH DATA 2009, June 09 OECD 諸国 30 カ国についての単純な対数型の回帰分析結果(2006 年)は, ln(1 人当たり THE) =5.08812+1.04006・ln(高齢化率) (7.16098) (3.88781) 修正済み決定係数=0.327382 また,United States を除いた OECD 諸国 29 カ国の結果は ln(1 人当たり THE) =4.92194+1.0882・ln(高齢化率) (7.77205) (4.57152) 修正済み決定係数=0.415434 となる。括弧内の数値は t 値。 20) たとえば日本に関する年齢階層別 1 人当たり国民医療費については『平成 18 年度国民医療費』 (厚生労働省)を参照。 19) 108 医療制度の経済的機能と調整 3. 2 医療資源の保有と利用 OECD 諸国における医療資源の保有と利用について Health Data からその特徴をみよう。医療資源の保 有と利用状況は各国の保健医療支出(THE)に関連するのみならず,その国の医療制度の機能と成果を反 映した側面を持つ。表 6 の A と B は日本を軸としてその他の OECD 諸国と比較することから,日本の データが利用可能な直近の 2006 年を中心に整理したものである。 表6 医療資源の保有と利用状況,2006 年 資料:OECD HEALTH DATA 2009, June 09 備考:a は 2005 年データ。 b は 2004 年データ。 c は 2003 年データ。 d は 2002 年データ。 資料:OECD HEALTH DATA 2009, June 09 備考:a は 2005 年データ。 b は 2004 年データ。 c は 2003 年データ。 d は 2002 年データ。 e は 2001 年データ。 表 6 の A は人的および物的医療資源の保有状況を示したものである。この表から日本は OECD 諸国の 平均に比べて,医師や看護師などの人的資源が低く,病床数と医療機器などの物的資源が高いという特徴 をもつ。病床数については病院の総病床数および急性期病床が OECD 諸国のなかで 1 番高い値である一 方,長期療養病床(long-term care beds)が逆に平均に比べて低いものとなる。医療機器については,こ 109 会計検査研究 No.41(2010.3) こで掲載した X 線 CT 装置と MRI の診療機器が OECD 諸国のなかで飛び抜けて高い値を示している21)。 医療サービスの生産はこれらの医療資源の投入によって行われることから,日本の医療サービスの内容も これらの医療資源の保有状況に影響される。表 6 の B では入手可能な医療資源についてその利用状況を 示したものである。この表から日本の特徴は,医師の診療回数,在院日数(総病床および急性期医療病 床),そして人工透析患者数が OECD 諸国のなかで突出した高い値を示すものとなっている。このような 人的および物的医療資源の保有と利用状況は各国の THE に関係するのみならず,その提供される医療 サービスの量と質に影響を与えるものである。 3. 3 健康水準 医療資源の保有と利用は国民の健康水準に影響を及ぼすものであろう。医療経済学的側面からみると, 医療サービスは健康水準を規定する重要な要素の 1 つで,またそのサービスは医療資源の投入によって生 産される22)。ここで OECD 諸国における各国の健康水準をみるために,平均寿命と 1,000 人当たり乳児死 亡率の指標を取り上げて観察しよう。しかし,これらの指標は医療サービスの量や質,そして医療資源の 効率性や公平性といった医療分野における要因のみならず,教育水準,生活スタイル,栄養,住居環境な どの様々な要因にも左右されることから,この点に留意することが必要ある23)。 表 7 は OECD 諸国における平均寿命と乳児死亡率(出生 1 年以内における乳児死亡数,出生児千人当 たり)を示したものである24)。Health Data では各国の平均寿命は 1960 年より利用可能で,日本のその数 値は 1982 年以降,OECD 諸国のなかで男女総合で 1 番に位置している。男女別の平均寿命でも 2006 年, 男性が Iceland, Switzerland に次いで OECD 諸国のなかで 3 番,女性は 1 番に位置する。また,乳児死亡率 については Iceland, Luxembourg に次いで OECD 諸国のなかで 3 番目に低い数値である25)。これらの健康 指標によれば,日本は他の OECD 諸国に比べて遜色のない結果を示している。かつて WHO(2000)が各 国の「医療制度」の目標達成度やパフォーマンスについて画期的な順位表を公表したが26),この WHO の 順位表によれば日本の医療制度に関する総合的評価は世界のなかで上位に位置づけられた。その意味で は,わが国の健康水準の良好さも日本の医療制度におけるパフォーマンスのそれを反映する側面をもって いる。ただ,先に示された医療資源の保有と利用状況ではデータ制約に関わる留意事項があるものの,日 本のその特徴は他の OECD 諸国に比べて顕著な相違を示していた。つまり,医療分野における人的医療 資源が少なく,物的資源が多くなるという資源配置上の著しい特徴があり,かつ,その利用についても同 様な偏りのある結果を反映するものであった。このような特徴は明らかに,その提供される医療サービス の質や量に,そして医療分野における効率性や公平性に一定の影響を及ぼしていると考えられる27)。これ は急速な高齢化に直面する日本にとって重要な政策課題となっている。 OECD(2009)によれば,日本の X 線 CT 装置の直近データは 2002 年で,MRI が 2005 年となる。このデータは診療機器を調査する『医 療施設調査(静態調査・動態調査)』に基づいており,これは通常の『医療施設調査』より詳細な調査で,3 年毎(2002 年,2005 年)に 行われる。しかし,X 線 CT 装置の項目が 2005 年においては記載されていないことから,この 2005 年データが Health Data でも欠損値と なる。そのため,X 線 CT 装置については 2002 年の値となる。『平成 17 年医療施設調査』 (厚生労働省)を参照。 22) 医療経済学における健康の生産関数については Zweifel and Breyer(1997)の 3 章,Folland, Goodman, and Stano(2009)の 6 章と 7 章を 参照。 23) 健康水準を規定する要因や健康指標に関する問題点については,たとえば Joumard et al.(2008) ,前掲の Zweifel and Breyer(1997)の 4 章や Folland, Goodman, and Stano(2009)の 5 章を参照。 24) 表 7 では,日本の直近データは 2007 年であるが,他の OECD 諸国のデータが欠損値であるため,2006 年データを採用している。 25) 国際間における乳児死亡率の相違は各国の早産新生児に関わる統計上の定義にも依存している。OECD Health Data(2009)を参照。 26) WHO(2000)の順位表は様々な領域から理論的な枠組みやその方法論を含めて,批判と議論が引き起こされた。この WHO(2000)で 利用された医療制度のパフォーマンス(health systems performane)に関する分析枠組みと方法論の問題点や改善点を含めた詳細な研究を 集めた Murray and Evans, eds.(2003)を参照。 27) この特徴が国民の健康水準にどのような影響を及ぼしているのかは,より広範な客観的資料の収集と詳細な分析を必要とするだろう。 21) 110 医療制度の経済的機能と調整 表7 平均寿命と乳児死亡率,2006 年 資料:OECD HEALTH DATA 2009, June 09 備考:a は 2005 年データ。 4 .高齢化と医療制度の調整 本節では医療制度の経済的機能を踏まえたとき,高齢化という環境変化が医療制度の機能にどのような 影響を及ぼすのかを考察することが目的である。まず,医療制度の機能に触れた後,OECD 諸国の高齢化 について観察する。とくに日本の高齢化が他の OECD 諸国に比べ顕著な特徴を示していることから,そ の対応が日本の医療制度に求められている。 「医療制度」は一般に,通常の財やサービスが取引される「市場」に代わる,あるいはそれを補完する 社会的な仕組みで,医療分野における資源配分機能と同時に,所得分配機能を有している28)。そして市場 28) 医療制度は各国の医療保障の在り方によって異なることから,その機能も相違してくる。同時に,医療分野における市場機能の利用方 法も国により異なる。医療制度という仕組みを非市場的な資源配分方法の 1 つという視点から日本の医療制度を分析した知野(2008)を 参照。 111 会計検査研究 No.41(2010.3) と基本的に異なる点は,医療制度には価格メカニズムのような自動調整機能が明示的に作用しないことで ある。したがって,医療サービスの需給両サイドにおける変化,さらに医療分野を取り巻く環境変化が生 じたとき,もし医療分野における制度や規制などの適切な変更が実施されない場合には,環境変化による 需給間の量的あるいは質的な乖離は医療サービスの量や質の変化を通じて暗黙的に調整される29)。この政 策変更を通じない暗黙的な調整は,医療サービスの取引関係者において hidden costs あるいは benefits を 課すことになる30)。その意味で,望ましい政策の在り方は環境変化に対応した医療制度の調整を適切に行 うことになる。 表8 OECD 諸国の高齢化率の変化 資料:OECD HEALTH DATA 2009, June 09 備考:高齢化率とは 65 歳以上人口の総人口に占める比率(%)。 高齢化率の変化とは「2007 年高齢化率−当該年高齢化率」の数値。 Barzel(1974,1997) ,Cheung(1974)は価格規制下における調整問題を扱い,とくに Barzel(1997)ではその調整問題が property rights の希薄化による public domain の発生に起因するとしている。知野(2003,2006)はこのような規制下における調整問題の視点から日本の 医療制度にアプローチしている。 30) 知野(2009)は療養病床に関わる医療サービスの調整問題を取り扱っている。 29) 112 医療制度の経済的機能と調整 環境条件の変化のなかでも日本にとって重要な高齢化の状況を他の OECD 諸国との比較でデータ観察 しよう。表 8 は 10 年毎の OECD 諸国における高齢化率(%)を示したものである。高齢化率は 65 歳以 上人口の総人口に対する比率である。日本の高齢化率は 1990 年頃に OECD 諸国の平均に到達した後,さ らに上昇して 2001 年には OECD 諸国のなかで 1 番高い値となった。 2007 年の高齢化率は 21.5% である。 日本に次ぐ高い値の国が Germany(20.2%),Italy(19.7%),Greece(18.6%),Sweden(17.4%)となる。 また表には 2007 年を軸として 47 年間,37 年間,27 年間,17 年間,7 年間それぞれの高齢化率の変化を 示した。この値の動きから日本が OECD 諸国のなかで急速な高齢化に直面していることが示唆される。 とくに 2007 年における高齢化率の高い 5 カ国について,1960 年からの高齢化率の推移を示したものが図 5 であるが,日本の高齢化が他の諸国に比べて顕著に異なった経路を辿っていることが観察される。その 後の将来について,日本の高齢化率は 2030 年に 31.8%,2055 年には 40.5% と予想されている31)。 図5 高齢化率上位 5 カ国の推移 資料:OECD HEALTH DATA 2009, June 09 このような人口の急速な高齢化によって,どのような医療制度の調整が経済的機能という観点から求め られているのだろうか。日本の社会は従来とは異なる資源配分と所得分配の調整に迫られているのであ る。2 節で明らかにした保健医療支出(THE)の構造的観点から言えば,日本の医療制度は加齢に伴う疾 患や治療方法の相違によって医療サービスの種類や内容の変更を,またその提供すべき場所について施設 なのか在宅なのかなどの変更を,さらに保険料,税,あるいは自己負担かという財源の変更を求めてい る32)。このような調整は高齢化という変化に限らず,たとえば疾病構造の変化,IT の医療分野への導入, そして患者の医療サービスに対する期待の変化などについても同様である。一般に,高齢化を含む環境条 件の変化は医療サービスの需要側あるいは供給側の条件変化を促すことから,医療分野のような非市場的 数値は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」 (平成 18 年 12 月推計)における出生中位,死亡中位のケースである。 たとえば,年齢別による医療費の相違については『平成 18 年度国民医療費』の年齢別国民医療費を参照。このような年齢別医療費の相 違は賦課方式の制度下で,かつ少子高齢化という状況のもとでは従来の負担の在り方にも影響を与えることは明らかである。高齢社会に 関わる政策については包括的議論を展開している Oxley(2009)を参照。 31) 32) 113 会計検査研究 No.41(2010.3) な資源配分方法を採用する領域では,その調整が政策的に求められてくるのである。この調整が適切に行 われるかどうかによって,医療制度のパフォーマンスは影響される。したがって,医療制度の調整が公共 政策的観点から適切に実行されるためには,医療制度のパフォーマンスを明示した運営が求められてく る33)。このような政策運営の 1 つの方向性については,医療制度の分析的フレームワークを提示している WHO(2000),そして医療制度のパフォーマンス向上に関わる政策研究を行った OECD(2002,2004)が 示唆しているだろう。 参考文献 Barzel, Y.(1974) “A Theory of Rationing by Waiting”, Journal of Law and Economics, vol. 17, April, pp. 7395. ────(1997)Economic Analysis of Property Rights, second edition, Cambridge University Press.(丹沢安 治 訳『財産権・所有権の経済分析』白桃書房 2003 年) Cheung, S.N.S(1974) “A Theory of Price Control”, Journal of law and economics, vol. 17, no. 1, pp. 53-72. 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