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声春~Wake Up~ ID:37919

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声春~Wake Up~ ID:37919
声春∼Wake Up∼
蒼之翼
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP
DF化したものです。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作
品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
︻あらすじ︼
音楽を完成させたい緒川操一朗
音楽から離れている坂井和奏
音楽から愛されたい宮元来夏
音楽と出会ってない沖田紗羽
音楽を追って楽しむ田中大智
音楽を自然に楽しむウィーン
夏の湘南で子供以上大人未満の少年少女が奏でるメロディ
そこに差し込むステンドグラスの不協和音
操一朗の父音夜と和奏の母まひる
﹂
﹂
双子の兄妹から受け継ぎ託されたモノを守るため、夜を繰り爪弾く
操一朗
﹁変身
﹁華激︵かげき︶に行こうか
﹃TARITARI﹄
×
声春∼Wake up∼
﹃仮面ライダーキバ﹄
!
!
合唱時々仮面ライダー
解き放つ鎖が縛っていたものは・・・・
目 次 序章 始まった、目覚めたり │││││││││││││
現在の章
第1話 躓いたり、本気だったり ││││││││││││
第2話 終わったり、負けたり │││││││││││││
第3話 怒ったり・たゆたったり ││││││││││││
第4話 落ち込んだり、倒れたり ││││││││││││
第5話 振り返ったり、外してみたり ││││││││││
︻23 years ago︼
第1話 躓いたり、本気だったり ││││││││││││
第2話 ヴィクトリーだったり、マーメイドだったり │││
第3話 一部だったり、キバったり │││││││││││
第4話 学んだり、焼いたり ││││││││││││││
第5話 着いて行ったり、組んでみたり │││││││││
声春ノベルMOVEI 暗黒夢城︵アクムジョウ︶の女帝
予告 │││││││││││││││││││││││││
序 ││││││││││││││││││││││││││
破ー① ││││││││││││││││││││││││
破ー② ││││││││││││││││││││││││
急 ││││││││││││││││││││││││││
1
17
33
52
66
85
159 149 135 128 113
224 206 191 175 172
序章 始まった、目覚めたり
湘 南 某 所 の 古 び た 洋 館。壁 に は 蔦 が 絡 ま っ て 庭 に は 鬱 蒼 と し た
木々が生えていた
その館で暮らしている緒川操一朗︵オガワソウイチロウ︶はその日
もいつものように朝5時に目を覚ました。寝起きだが寝惚けている
様子はない。
眼鏡をかけて髪の一部を眼と同じ高さでポニーテールに髪ゴムで
結んだ。そしてジャージに着替え、革製の竹刀ケースを背負って家を
出た。日課にしている砂浜での走りこみと竹刀素振り100回、木刀
の型稽古をして家に帰った。
シャワーを浴びて制服に着替え、バナナを野菜ジュースで流し込ん
だ。自室の机の上にある、昨夜折った折り紙の花束⋮今日は担任の高
橋先生が産休に入るのでクラスメイト全員で花束を贈呈することに
なっていた⋮を持って家を出た
﹁行ってくる﹂
出る直前、操一朗は玄関前に飾っている写真とバイオリン、その前
に並んでいる3つのボールに声をかけて家を出た
︻23 years ago︼
緒川音夜とまひるの双子は兄妹2人で暮らしいた。両親が遺した
財産は2人が十分な余裕を持って高校を卒業するがあり、住む自宅も
管理がやや面倒だが、洋館がある
﹁兄さぁ∼ん、朝だよ∼﹂
目覚し時計のアラームを不快音響とする音夜は毎朝妹の声で目を
覚ます
﹁ん⋮﹂
夜型の音夜は毎夜館の屋根の上で世間で名曲とされている曲、では
なく、その時々に閃いた音をバイオリンで繰り爪弾いていた
音夜は冷水シャワーを浴びて下着とバスローブを羽織っただけの
姿でダイニングキッチンに入ってきた。歩くたびに細身ながら引き
1
締まった身体の凹凸に沿って雫が流れ落ちていた
﹁また夜遅くまで演奏していたでしょ﹂
夏制服をきっちり着てエプロンをした妹のまひるは朝食の支度を
しながら、欠伸をしている兄に言った
﹁あぁ、昨夜は星の輝きがいつにも増して鮮やかでな。それを音と
して弾いていた﹂
﹁最近はあんまり無くなってきたけど、近所から騒音迷惑の苦情と
か気をつけてよ﹂
﹁フッ、このオレの演奏を騒音などと評する有象無象に何を遠慮す
る必要がある﹂
音夜はまひるのいれたコーヒーを飲みながらテーブルの上の新聞
に目を通した
﹁また失踪事件か⋮﹂
﹁最近多いよね、全国各地で。でもこういう新聞とかの報道は表面
﹁失踪した人たちは、実は人間に化けた妖怪とかお化けとかモンス
ターだって噂﹂
﹁なんだそれは。昨今地球温暖化で夏が長くなっているからって、
年がら年中怪談で涼を取りたいのか、そいつらは﹂
﹂
﹁でもそうなると、次は私たちも危ないかも﹂
﹁何でだ
音夜はまひるの髪を指で優しく梳いた
﹁心配するな、何があってもまひるはオレが守る﹂
つ、一個分を平らげた 音夜はくし型切りされたトマトをフォークを使って立て続けに4
﹁まったく⋮、世俗の人の噂というのもは﹂
影で。ちなみに吸血鬼は兄さんだけ﹂
﹁だって私たち﹃洋館わらし﹄とか﹃吸血鬼﹄とか言われるんだよ、
?
2
上の事実だけだけど、ネット上では妙な噂も立っているの知ってる
﹂
﹂
?
音夜はコーヒーカップを置いてまひるの方を向いた
﹁噂
?
﹁うん﹂
まひるは素直に頷いた
2人は目玉焼き、サラダ、トーストと特製野菜ジュースの朝食を食
べ終えた2人は身支度を整えた
音夜は櫛でまひるの髪を丁寧に梳いてポニーテールに結った
まひるは音夜がシャツの袖を通すのとボタン留めを甲斐甲斐しく
手伝った
これがこの双子のいつもの日常だった
館のガレージに停められているホンダ・Shadow︿750﹀。音
夜の愛車だ。学校の許可も取ってバイク通学をしているのだ
﹁行くぞ﹂
﹁はぁ∼い。いってきまぁ∼す﹂
音夜の放ってよこしたヘルメットをキャッチしながら、まひるは自
分たちの帰って来る家に挨拶した
3
︹23 years after︺
﹁お、大智﹂
﹁よぉ操一朗﹂
自転車で学校への坂道を登っているとクラスメイトで親友の田中
大智︵タナカタイチ︶がバドミントンのバッグを背負って自転車をこ
いでいた。操一朗と大智の2人は一人ぼっち部活動仲間である。剣
道部とバドミントン部は操一達が2年後半になった時点で部員が一
人しかいなくなり、本来なら廃部となるはずだったが、校長の計らい
で特例として部として活動できることになったのだ。大智とはそれ
﹂
以来クラスも同じこともあってよくつるんでいた
﹁今日も朝練か
大智はそう言うとスピードを上げて坂を登っていった んし﹂
﹁まぁな、そろそろ行くわ。先に行って体育館の掃除しなきゃなら
﹁大変だな﹂
﹁あぁ、声楽部の練習の端っこでな﹂
?
﹁ちっ、あの教頭の言いつけか﹂
舌打ちする操一の目の前に、またクラスメイト、今度は女子が見え
た
﹁が∼んばれ∼、ロンリボ∼イ﹂
﹂
ちりり∼∼∼ん
﹁うわっ
﹁むっかぁ∼
何その言いかた
﹂
くせに道幅取りすぎ、端に寄って歩け小動物﹂
﹁道の真ん中を聴覚遮断して歩いてる奴に言われたくない。ちっさい
﹁ちょっと緒川、危ないでしょ﹂
ルを鳴らした操一朗の方を向いた
ヤモトコナツ︶は付けていた携帯用ヘッドフォンを外すと自転車のベ
追い越した田中にちゃちゃを入れた小柄な女子生徒、宮本小夏︵ミ
!!!
!
二冊だからな﹂
!
いった
﹂
!
﹁え∼、いいじゃん別に。だってソウは訴えたりしないでしょ﹂
﹁女子から男子へもセクハラって法的には通用するんだからな、紗羽﹂
打ちを躱した
廊下を歩いていた操一朗は左足を軸に身体を裁いて臀部への平手
﹁おっはよ、ソウ
﹂
そ う 言 う と 操 一 朗 は 自 転 車 の ペ ー ス を 上 げ て 小 夏 を 追 い 越 し て
﹁俺は仕事をしているだけだ﹂
﹁性格わるっ⋮﹂
てやろうか
のHRで名指しで返却要求するからな。それとも、校内放送で要求し
﹁人通りの少ない通学路で良かったな。今日返しに来なかったら明日
﹁ちょ⋮、こんなとこで人が借りた本のタイトル暴露すんな∼
﹂
﹁一昨日返せ。﹃アガリ症克服術﹄と﹃プレッシャーに負けない自分﹄の
﹁げ⋮、きょ、今日返そうかと⋮﹂
﹁つーか宮本、お前図書室から借りた本延滞してるだろ﹂
!
?
4
!?
﹁そりゃしねぇけど⋮﹂
操一朗へのいつもの挨拶をしようとしたのは沖田紗羽︵オキタサ
ワ︶。寺の一人娘で操一朗とは小学高学年からの知り合い。小・中は
別だったが、紗羽の家にはサブレという馬がいて昔から動物、特に馬
などの大型動物が好きだった操一朗はサブレ目当てでよく遊びに
行っていた
﹁きゃっ﹂
その紗羽が悲鳴を上げた
﹂
小夏が後ろから佐和に体当たりしたのだ
﹁おっはよ、佐和。それ紫陽花
﹁うん、庭にあったの摘んできたんだ。そうだ小夏、ラッピング手伝っ
て﹂
早足で教室に入っていった2人。その後ろから歩いてきた女子生
徒に操一朗は声をかけた
﹁よぉ和奏﹂
﹁あ、操一朗、おはよ﹂
坂井和奏︵サカイワカナ︶は操一朗の従兄妹だ。操一朗の父親緒川
音夜︵オガワオトヤ︶の妹が和奏の母親坂井︵旧姓緒川︶まひるなの
だ。和奏の家は小さな喫茶店も兼ねた土産物屋を経営している
操一朗と和奏は家族ぐるみの交流もあったが、幼・小・中と同じ学
校でクラスも半分以上同じ。高校からは、和奏は音楽学科、操一朗は
普通科なので、交流は絶えて久しかった。しかし、3年次から普通科
﹂
に転科してきた。その理由を、操一朗は何と無く気付いていたが、敢
えて触れなかった
﹁普通科はどうよ、少しは慣れたか
﹁うん、まぁね﹂
するはめになっちゃた﹂
﹁ご苦労なこって﹂
﹁そういう操一朗は⋮、折り紙
﹂
﹁お父さんが昨日買って置いたの庭に植えちゃって、朝一で買い直し
操一朗は和奏の持ってきた鉢植えを見た
?
5
?
?
﹁俺切り花って苦手なんだよな。匂いとか﹂
﹁だからって⋮﹂
﹁ちゃんと花柄の折り紙で折った花だ﹂
﹂
そんな会話をしながら2人は教室に入った
﹁花束贈呈
担任の高橋先生が教室に入ってくると紗羽の号令で全員が花束を
贈った。ちょっとしたお祝いムードで和奏に歌を歌ってという生徒
まで出てきた
﹁え⋮と﹂
困 惑 し て い る 和 奏 に 助 け 舟 を 出 し た の は 高 橋 先 生 だ っ た。例 に
﹂
よって朝練で遅れていた大智を指名、大智は白浜坂高校校歌を歌った
﹁・・・ん
席が廊下側の操一朗は外に誰かの気配を聞いた。足踏みでリズム
﹂
を取って鼻歌で大智の歌に合わせていた
﹁いっけない
来夏は普通科で唯一の声楽部の部員だったが、今は譜面捲りしかし
︵また教頭から何か言われたな︶
何やら怒鳴り声的な響きが廊下にまで響いていた
職員室に入ろうとしたら、中から来夏が飛び出してきた。入る前から
図書室に向かう途中、先月入った図書の一覧表と領収書を提出しに
の局長でもあるのだ
ないので、要するに操一朗は初局員にしてただ一人の局員にして唯一
ただ、それは他の委員会と異なり各クラスから必ず選出するものでは
員 が 兼 任 し て い た 管 理 が 最 近 に な っ て 外 局 扱 い と し て 新 設 さ れ た。
大智にそう言うと操一朗は図書室に向かった。20年前は文化委
﹁じゃあ俺は図書局の仕事あるから、後でな﹂
校生の学校案内をすることになった
トリアから日本に帰ってきた転校生らしい。先生の指名で大智が転
高橋先生が慌てて廊下に出ると、私服の男子を連れてきた。オース
!
て⋮、させてもらっていなかった
6
!
?
︵歌うのは好き、でもそれだけじゃ駄目ってことか︶
教頭は生徒間ではかなり厳しい指導と融通が効かないことで有名
だった。声楽部顧問でもある教頭は音楽を徹底して理論的に指導す
る。妥協や私情は許さず挟まず、文科系の頭脳で体育会系の指導をし
ている
︵ま、紗羽辺りに慰めてもらうだろうがな︶
以前操一朗は紗羽の胸⋮同世代では巨に分類される⋮に顔を埋め
て何か叫んでいるシーンに⋮そもそも場所が図書室だったから当た
り前のように⋮遭遇したことがあった
操一朗は来夏の激昂とは対照的に冷ややかな教頭に必要書類を渡
し、判子をもらった
智子さん﹂
職員室から出ると、操一朗は今日送られた花束を抱えた高橋先生と
和奏を見つけた
﹁和奏、ちょっと貸せ﹂
﹂
車に花束を乗せた操一朗は図書局の仕事に戻ろうとした
﹁あ、そうだ。緒川、一彦さんが大事な話があるから明日会社に寄って
くれって﹂
﹁ん、分かった﹂
7
﹁あ、操一朗﹂
﹁これ車まで運べばいいんだよな
?
たのだ
﹁高橋先生ってまだ籍入れてないんですよね
﹂
をしてくれていた。そしてその五嶋と婚約したのが担任の高橋だっ
が未成年である操一朗の保護者として音夜が残した財産や館の管理
親音夜の友人で音楽関連会社の社長五嶋一彦︵ゴシマカズヒコ︶。彼
実は操一朗と担任の高橋はプライベートで付き合いがあった。父
﹁あのね、緒川。ここ学校なんだから敬語使いなさいって﹂
?
﹁うん、その前にこの子のことがわかっちゃったから、産んでから入れ
女
ようって一彦さんと相談したの﹂
﹁男
?
﹁まだ分かんない。産まれてからのお楽しみ﹂
?
︻23 years ago︼
私立白浜坂高校。普通科もあるが、一番力を入れているのはまひる
の在籍している音楽科。特に合唱部は2年連続で全国大会で優勝し
ており、今夏行なわれる地方演奏会でもゴールド金賞が有力視されて
いる
﹁音夜く∼ん、おはよ∼﹂
﹁まひる先輩、おはようございます﹂
緒川兄妹は学校一の人気者。容姿はもちろん、まひるは音楽科での
才能と実績、音夜も在籍普通科だが時折弾くバイオリンの音色や言動
で女子ファンが多くいた。裏では非公認ファンクラブまで存在して
﹂
いるらしい。2人はかけられる声や挨拶に適当に応えながら校舎に
入っていった
﹁あ、ナオ、おっはよ
﹂
確かに彼女去年と比べたら
?
まひるは教室に入ると同じ合唱部の親友、高倉直子に挨拶した
﹁あぁ、まひる。おはよう﹂
唐突に。それに志保って能登志保
﹁ねぇねぇ、今度のコンクールに2年の志保ちゃん入れない
﹁何
?
なんて﹂
﹁でも志保ちゃん、プレッシャーに強いし、今の歌に合ってると思う
よ﹂
﹁⋮もう、わかった。なら彼女を入れたメンバーで先生に提出するわ﹂
﹁たのんだよ、高倉部長﹂
︹23 years after︺
﹁⋮宮本の奴⋮⋮﹂
白浜坂高校図書室は私立だけあって蔵書量は豊富、特に音楽関連の
歴史書や実用書、CDやカセット、レコードまで揃っている。ちなみ
にアニメ、ドラマ&映画化にもなった某カンタービレ漫画も全巻揃っ
ていたりする。落ち着いた雰囲気の図書室のカウンターに座ってい
8
!
実力は高くなったけど、でもいきなり全国大会のかかったコンクール
?
る操一朗は日誌を書きながらぼやいた。結局、来夏は本を返しに来な
かったのだ
﹁お、操一朗﹂
﹂
大智と転校生が図書室に入って来た
﹁よぉ、案内は終わったか
﹁ここで最後だよ﹂
﹂
転校生は大智に訊いた
﹁タイチ、ここは
?
﹁⋮クロ
﹂
﹁ゲッゲッゲ
﹂
﹂
館に帰ってきた操一朗を迎えのは仄暗い赤紫の炎だった
﹁ただいま﹂
見て、操一朗は明日までに適当な本を見繕うことにした
操一朗は﹃今日から住んでも大丈夫日本版﹄というタイトルの本を
﹁へぇ∼・・・﹂
﹁オーストリアの空港にあったんだ﹂
﹁・・・それは
転校生はリュックから一冊の本を取り出した
﹁大丈夫、来る前にちゃんと買って来たから﹂
﹁日本の暮らしで困ってるなら、適当な本見繕うぞ﹂
トップ、緒川操一朗﹂
﹁図書室、借りたい本あったらここで借りるんだ。で、こいつはここの
?
ターが現れた
﹂
﹁なぁなぁソーイチロー、俺っちそろそろ外で人間脅かしてもいいよ
な
だからな﹂
﹁OっK∼
﹂
ゴースト族最後にして唯一の生き残り﹃玄牙︵ゲンガー︶﹄愛称クロ。
!
9
?
操一朗が天井付近に呼びかけると、ずんぐりした刺々しいモンス
!
!
﹁⋮まぁ、夏服になったし最近は暑い日続いてるしな。でもほどほど
?
人を脅かす事を何よりの喜びとするお調子者。毎年夏になると湘南
に出没する幽霊の都市伝説の正体だ。一応それ目当ての取材や観光
客もこの季節になると来ているので町の活性化、と操一朗は勝手に解
釈して許していた。クロは壁をすり抜けて外出した
﹁さて⋮と﹂
操一朗は地下室に下りた。そこは工房になっており、作りかけのバ
﹂
イオリンが作業台の上に置いてあった
いたのか
﹁⋮⋮操一朗⋮﹂
﹁うぉっ、ユノ
﹂
?
入ってるならドアノブにタオルかけとけっていつも
﹁っ て、ミ カ
﹁あ∼、操一朗∼。なになに、一緒に入る∼
操一朗は浴室で下着をぱっぱと脱いでドアを開けた
﹁さて、と﹂
服を途中のリビングのソファに脱ぎ捨てて、下着姿で浴室にむかった
ユノのゆっくりとした喋りを遮るように操一朗は部屋を出た。制
﹁いや、軽く水浴びるだけだ、沸かさねぇよ﹂
﹁⋮風呂なら、﹂
べとだし﹂
﹁あ∼、でもやっぱその前にひとっ風呂浴びるか。暑かったし服べと
た
操一朗はカバンからバイオリン関連の本や材木に関する本を出し
卒業までには完成させたいけど﹂
﹁あぁ、やっぱ親父のを越えるバイオリンは難しいな。できれば高校
﹁⋮どうだ、バイオリンの製作状況は﹂
残り﹃雪之王︵ユキノオー︶﹄。愛称ユノ
なモンスターが佇んでいた。ギガント族のやはり最後で唯一の生き
工房の隅に鏡餅を人の背丈くらいでかくして草を飾りつけたよう
!
﹁え∼、ちょっと前はよく一緒に入っていたし、身体の隅々までまひる
裸で
浴室内にはマリンブルーのロングヘアー女性が入っていた。当然、
﹂
言ってるだろ
!
10
!
!
と一緒に洗ってあげたんだよ∼﹂
﹂
﹁10年近く前の話をちょっとって言うな
なら俺が入るから出てってくれ
﹁はいはい∼﹂
洗って操一朗は浴室を出た
とりあえずもう満足した
﹂
ほ ど あ っ た。そ れ を 払 拭 す る か の よ う に シ ャ ワ ー で 顔 を 思 い 切 り
今年最後の剣道の全国大会、明日の五嶋との面会⋮、考えることが山
和奏のこともなんとかしたかったが、今の操一朗にはバイオリンや
迎え入れたりするのは難しいだろうな﹂
加え、高校3年生では特定グループに今時期から加えてもらったり、
﹁で、あろうな。別科からの転科というだけでも孤立しそうな状況に
操一朗は冷水シャワーを出して頭から浴びながら答えた
はちょっとな﹂
﹁んぁ、補講受けたりして学業面は問題無いけど、クラスでの交友関係
﹁ところで操一朗、和奏嬢の様子はどうだ
していたレジェンドルガと戦い、それを退けた過去があった。
操一朗の父・音夜は学生時代レイバット達と出会い、当時町を跋扈
に﹃零︵レイ︶バット﹄
キバット族を基に人工的に創られた人造キバット族、その0号機。故
3匹をまとめるリーダー的存在にして、父音夜の昔からの相談役。
﹁うっせぇな、レイバット﹂
風呂場の天窓からやたらド迫力な声の白い蝙蝠が入ってきた
貴様ときたら﹂
﹁まったく、ユノはミカが入っているから、と言おうとしていたのに、
姿である海獣形態にも変化できる
﹃美路歌露洲︵ミロカロス︶﹄。下半身を魚状にした人魚形態と本来の
今は人型になっているが、ミカはマーメイド族唯一最後の生き残り
ているので今さら興奮したりはしない
間、水を弾く肌は室内灯の下でも輝いていた。ただ、操一朗は見慣れ
⋮もとい毒だ。すらりと伸びやかな四肢、それに反する二大霊峰と谷
水を張った湯船から出たミカの身体は健全な高校生には目に保養
!
?
11
!
︻23 years ago︼
今日も一日、特に変わったこともなく過ぎていった。音夜は適当に
授業を聞き流し⋮それでも成績は上の下をキープしている⋮、まひる
が合唱部の練習で夕方遅くまで練習なのでそれまでの時間図書室で
過ごしていた。音楽科がある学校だけに防音設備がしっかりしてい
る図書室は周囲の雑音から切り離されているので音夜はここが好き
だった。しかし、ただ無為に時間を浪費するのではなく、音夜は常連
になって仲の良くなった司書に頼んで購入してもらった本を喰い入
る様に読んでいた。だいぶ日も落ちてきた頃⋮
﹁ごめ∼ん、兄さん。おそくなって﹂
﹁いや、いいさ﹂
音夜は読んでいた本を閉じて棚に戻した
︹23 years after︺
翌日、操一朗は革のライダージャケットを着て、父親の形見でもあ
る ホ ン ダ・S h a d o w︿7 5 0﹀に 乗 っ て 町 の 中 心 に あ る W M C
︵ワールド・ミュージック・カンパニー︶に向かった
日曜だが各地で行なわれるイベントの対応があるため一部の社員
は 休 日 出 社 し て い た。そ れ で も 社 内 は 静 か な も の で 受 付 も い な い。
今日は向こうからの呼び出しなので操一朗はそのままエレベーター
に乗って一気に最上階の社長室階まで上がった
コンコン
﹁操一朗だけど﹂
﹁入れ﹂
操一朗がドアを開けると、そこはトレーニング室、と見間違えるく
らいの器具が並んだ社長室だった
﹁来たか﹂
ルームランナーで走っていたTシャツ短パン姿の五嶋一彦はマシ
ンを止めるとタオルで汗を拭きながら操一朗を迎えた。今年で45
になる五嶋は髪には白髪が混じり顔にも皺が入り始めているが、五体
12
壮健。社内の若手よりも健康体で体力もあった
﹁まぁ座れ﹂
操一朗は部屋中央の来客用ソファに座った。その向かいに五嶋が
座った。そして単刀直入に切り出した
﹁⋮奴らが動き出した﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁驚かないんだな﹂
﹁ク ロ が 昨 夜 帰 っ て き た 時、町 の 様 子 か ら な ん と な く そ の 徴 候 が あ
〟﹂
るって言ってた。ユノも気配を感じ取ってた﹂
﹁なら、話が早い。で、〝どうするんだ
操一朗は眼鏡を右中指を押し上げた
﹁親父からの約束で、まひるちゃんから頼まれたんだ﹂
操一朗は一息吸った
﹁自分の心の音楽を貫け、そして和奏を頼むってな﹂
﹁⋮⋮その顔、昔の音夜とそっくりだな﹂
五嶋はアタッシュケースを操一朗の前に置いた
︻23 years ago︼
二人はやや暗くなり始めた町をバイクで走っていた。ただ、夕方と
兄さん﹂
夜の間の時間帯にも関わらず人通りは少なく、何やら不気味な雰囲気
が漂っていた
キィィ
﹁どうしたの
﹁まひる
﹂
黒い影は異形だった。蝙蝠のようではあるが、人間の姿形をしてい
る。言うなれば蝙蝠人間だ
﹂
﹁ちっ⋮、人間か⋮﹂
﹁喋った
13
?
音夜が上を見上げると、黒い影が落ちてきた
﹁不協和音に満ちている⋮﹂
?
音夜はまひるを抱えるとバイクから飛び降りた
!
!?
驚いたまひるを背後に庇いながら、音夜は一歩前に出た
﹁おいお前。何者だ﹂
﹁人間の分際でファンガイアに対して偉そうに﹂
蝙蝠人間、バットファンガイアは牙をむき出して威嚇した。すると
顔の一部がガラスのように皹が入って欠片がこぼれた
﹁ちっ、さっきの白い野郎の攻撃か⋮。ちょうどいい、お前らでライフ
エナジーを補給するか﹂
﹂
﹁何のことかは分からんが、お前は俺たちに害を成す存在と認識して
いいか
﹁ふん、害を成すのではない。一方的な捕食だ﹂
﹂
バ ッ ト フ ァ ン ガ イ ア の 頭 上 に 透 明 な 牙 の よ う な も の が 浮 か び 上
がった
バキッ
﹁あいた
バットファンガイアの顔面目掛け、音夜はヘルメットを投げた
怯んだ隙に音夜はバットファンガイア殴りかかった。しかし、音夜
の拳や蹴りは全く効かなかった
﹁くそ⋮﹂
音夜は近くの工事現場の三角コーンから棒を拝借した。それを旋
回させてバットファンガイアからの攻撃をさばいて無力化し、カウン
﹂
ターで何度も打ち据えた。しかし、薙ぎ払うだけの威力はなかった
﹁⋮兄さん﹂
﹁まひる、早く逃げろ
バン
後部座席に五嶋からのアタッシュケースを括り付けたバイクを押
操一朗は昼食を摂るために商店街に来ていた
︹23 years after︺
﹁く⋮﹂
ンスに激突した
バットファンガイアのパンチが音夜をふっ飛ばし、工事現場のフェ
!
14
?
!
!
して歩いていた。すると、どこからともなく歌声が聞えてきた
﹁この声⋮﹂
操一朗は声の聞える方へ向かった
そこにはヘッドフォンをして身体でリズムを取って歌っている来
夏、ソフトクリームを2つ持った紗羽、自転車に乗っている大智、例
の胡散臭い本を読みながら歩いていた転校生、コロッケを食べ歩いて
いる和奏が丁度来夏を中心に集まったところだった
﹂
操一朗は5人に声をかけようとした時⋮、
﹁⋮っ
蜘蛛人間という表現がしっくりくる異形の存在がビルの屋上から
今まさにその5人に近付こうとしていた
︻23 years ago︼
その時、
﹂
﹂
絶対絶命の音夜とまひるの前に白い影が現れた
﹁き、貴様
バットファンガイアはたじろいだ
﹁その命、青空の神に返してもらうぞ
﹂
︹23 years after︺
﹁ゲン
﹁行け
﹂
!
ボールから玄牙︵ゲンガー︶が飛び出すと、周囲は闇紅色︵アンコ
﹁ゲッゲッゲ
﹂
そのボールは次の瞬間には操一朗の手の中にあった
一瞬で消えた
操一朗が叫ぶと、洋館の3つのボールの内、真ん中の黒いボールが
!
!
15
!
!
!
愚か者めっ
﹂
ウショク︶になった。ゴースト族の幻術結界だ。ここで起きたことは
﹂
現実世界には影響を与えない
﹁貴様、何者だ
蜘蛛人間は操一朗を指差した
﹂
﹁地元の高校生だ
﹂
﹁地元のお化けだ
﹁2人してボケかましている場合ではないだろう
頭上からド迫力な声と共にレイバットが降りて来た
﹁操一朗、やるぞ﹂
﹁おぉよ﹂
を隠した
パキィィン
﹂
﹁華激︵カゲキ︶に行こうか
﹂
レイバットをベルトの中央に逆さまに取り付けた
ガシャン
﹁変身っ
﹂
操一朗の周囲に氷の結晶が浮かび上がり六角柱となり操一朗の姿
ピキピキピキ
そのレイバットを垂直に構えた左前腕に噛ませた
﹁ギャブリンチョ
操一朗はレイバットを右手で掴んだ
なったメカニックなベルトを取り出して腰に装着した
操 一 朗 は ア タ ッ シ ュ ケ ー ス か ら バ ッ ク ル 部 分 が 止 ま り 木 の 様 に
!
!
!
今世界を繰り爪弾く
己が運命の音楽を守るため
仮面ライダーレイ
イスブルー︶
白いボディ、鎖が巻かれた両腕、蜘蛛人間を見据える眼は蒼氷色︵ア
氷の六角柱が弾け砕けるとそこには白い戦士が立っていた
!!
16
!
!
!
!
現在の章
第1話 躓いたり、本気だったり
仮面ライダーレイ
﹂
操一朗が変身した白い戦士はゆっくりと歩を進め、スパイダーファ
ンガイアに近付いた
﹂
﹁そうか⋮、貴様がかつて我々を退けたという仮面ライダーか
﹁そういうこと、だ
!
に繰り出した
﹁まだまだぁ∼
﹂
堪らず後退したスパイダーファンガイア
﹁ぐぉっ⋮
﹂
操一朗、レイは答え代わりに右のパンチをスパイダーファンガイア
!
く去っていった
♪♪♪
﹁何をやっているのだ、この愚か者
﹂
スパイダーファンガイアは糸を使って某国の赤いヒーローよろし
﹁ち、厄介な奴が邪魔に入ったな。あのお方に報告しなくては⋮﹂
かった
スパイダーファンガイアもベルトのレイバットも呆れて声が出な
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
躓いて転んでしまった
ドシャッ
﹁っ、と⋮﹂
した。が⋮、
レイは突進して肩の鎧によるショルダータックルを繰り出そうと
!
﹁っせぇな、レイバット﹂
!
17
!
﹁つーか蹴っ躓くってダサ過ぎでしょ、ゲッゲッゲ﹂
変身を解いてレイバットに説教されている操一朗の周りを玄牙︵ゲ
ンガー︶はふわふわ浮遊しながら笑っていた
﹁な∼んか上手く動けねぇんだよな﹂
操一朗は肩をぐるぐる回しながらぼやいた
﹁システム自体は問題無く稼動している。あとは装着者である貴様
の問題だな﹂
﹁ん∼⋮﹂
レイバットの言葉に悩む操一朗
﹁じゃ、そろそろ幻術結界解くけど﹂
﹁おう﹂
﹁我らは戻っているぞ﹂
玄牙︵ゲンガー︶が消えると結界が解け、元の風景と時間が戻った。
レイバットが飛んでいったのを確認すると、操一朗は5人が集まって
食べないでよ﹂
18
いる所に向かった
何やら皆が全員、一方通行で話しかけ、会話が成り立っていない状
態だった
♪♪♪
﹁よぉ﹂
﹂
﹁あ、操一朗﹂
﹁ソウ
校生が振り向いた
?
﹁わたしは郵便局の帰り。あ、ちょっと操一朗人のコロッケ勝手に
﹁何の集まりだ
つーか宮本、人の顔見て、げ、ってなんだ﹂
操一朗が片手を挙げて声をかけると、和奏、紗羽、来夏、大智、転
﹁あ、ソーイチロー﹂
﹁おぅ、操一﹂
﹁げ、緒川﹂
!
操一朗は和奏が手に持っていた食べかけコロッケを一口で食べて
しまった
﹁私は来夏の保護者として﹂
﹁ちょ⋮、保護者ってなによ﹂
﹁ウィーンと偶々会ってな﹂
﹁制服受け取った帰りに皆と会ったの。ねぇ、ソーイチローはどう
してここに﹂
﹁⋮だいたいわかった﹂
﹂
操一朗は口をもごもごさせながら呟いて、状況とコロッケを飲み込
﹂
?
んだ
つーかウィーンって転校生のことか
﹁そうだ、ソウと田中はウィーンに町案内してあげたら
﹁は、案内
紗羽の提案に首を傾げる操一朗
?
﹂
操一朗に和奏が声をかけた
﹁ちょっと、ちゃんと野菜も摂りなさいよ
いよ、夕飯作ってるから﹂
﹁う∼ぃ﹂
適当に手を振って操一朗は応えた
♪♪♪
﹁ねぇねぇ、坂井さんと緒川って付き合ってるの
ら名前で呼び合ってるし﹂
転科して来た時か
あと、今日はうちに来なさ
飲食店が並ぶ商店街の方向に大智とウィーンと一緒に歩き出した
﹁いいね﹂
﹁おう﹂
﹁ん∼じゃ、男は男同士、とりあえず昼飯でも食うか﹂
紗羽と来夏に両手を掴まれた和奏は驚いた
﹁じゃあ女は女同士、紗羽ん家で﹂
﹁え、私
﹁うん、私達は坂井さんとちょっとお話したいことあるし﹂
?
?
!
19
?
﹁あ∼、それ私も気になってたの﹂
﹂
﹁ち、違うよ宮本さんや沖田さんが思っているような仲じゃないって
あいつとは﹂
﹁じゃあどんな関係
﹁私と操一朗は⋮﹂
♪♪♪
﹁こ、これがすき焼き﹂
全国展開されている丼とうどんのチェーン店に入って注文し運ば
れてきた牛丼を目の前にウィーンは例の胡散臭い本を開いて驚愕し
た
﹁ちげーよ﹂
﹁あとでちゃんとした本買おうな﹂
操一朗と大智は最早突っ込みも慣れた感じに箸を取った
﹁つーか操一朗、さっき坂井に言われたのにそのメニューか⋮﹂
呆れる大智の目の前に座る操一朗が頼んだのは、
牛丼特盛り からあげ5個 豚汁
3大肉の主食主菜汁物だった
﹁おう、育ち盛りだからな﹂
﹂
﹁野菜なんてちょっとの玉ねぎ、レタス一枚、入ってはいるけど肉と比
べたら微々たるニンジンとかの根菜類だけだな﹂
﹁ソーイチローみたいな人を〝肉食系男子〟って言うの
﹁それも違うぞ﹂
るウィーンに突っ込んだ
和奏と
付き合ってねーよ﹂
﹁でも操一朗って坂井と付き合ってたんだな﹂
﹁は
イベントだって、本に書いてあったよ﹂
それって恋人同士の
大智は隣に座って牛丼の肉を海苔のようにご飯を巻いて食べてい
?
20
?
﹁でも坂井さんの家に夕飯食べに行くんだよね
?
﹁⋮その本の筆者に会ってみてーな⋮﹂
?
?
﹁付き合ってないって、お前ら仲良すぎるだろ。転科して来た時から﹂
﹁俺と和奏は⋮﹂
﹂
﹁従兄妹だ﹂﹁従姉弟よ﹂
﹁い、従姉弟∼
﹁親戚だったの
﹂
紗羽と来夏は驚いた
﹁私のお母さんが操一朗のお父さんの妹なの、ちなみに双子の﹂
﹁し、知らなかった⋮﹂
﹂
﹁は∼、こりゃたまげた⋮。でもでも、兄妹とか親族って大抵別のクラ
スとかにならないの
いた
﹁沖田さん家ってお寺なの
﹁紗羽でいいよ﹂
﹂
そうこうしている内に3人は紗羽の自宅へ続く林道の階段まで着
﹁学校側も一緒にした、と﹂
染めるように⋮⋮﹂
﹁あ∼⋮たぶん音楽科からこの時期の転科だから少しでもクラスに馴
?
﹂
!
﹁お友達
﹂
トスーツを着て自転車にはサーフボードを載せていた
紗羽にどことなく似ている年上の女性が手を振っていた。ウェッ
﹁あ、志保さ∼ん﹂
﹁お∼い、紗羽∼、こなっちゃ∼ん
3人が階段を昇ってると、反対側の坂から声をかけられた
?
て
﹂
﹁あ、じゃあ貴女まひる先輩の娘さん
﹂
﹁はい、えっと⋮、沖田さんのお姉さんですか
﹁え
﹂
﹂
21
?! !?
﹁うん、同じクラスの坂井さん。あのねあのね、ソウの従姉弟なんだっ
?
﹁あっはっは、ありがと、あたしゃ紗羽の母親だよ﹂
?
!?
!
!?
﹁あたし和奏ちゃんのお母さんのまひる先輩とソウ君のお父さんの音
夜先輩の後輩なんだよ﹂
﹂
志保はそう言うと自転車を押して行ってしまった
﹁沖田さんって操一朗のこと知ってたの
♪♪♪
子の﹂
﹁へぇ∼﹂
ウィーンは手帳を取り出すとメモを取った
﹁つか、兄妹親戚とかってクラス別になるんじゃねぇの
土産物屋こかげや
夕方
♪♪♪
た日本知識を修正していった
﹂
その後、3人は商店街を適当にぶらつきながら、ウィーンの間違っ
大智はうどんを啜りながら相槌を打った
﹁教頭がよく許したよな∼﹂
頼れる奴がいた方がいいってことで﹂
先生が便宜はかってくれたんだと思うぞ。クラスで最低でも一人は
﹁ん∼、どうせ卒業1年もない時期での転科だし、それに智子⋮、高橋
?
﹁俺と和奏で言えば、俺の父親が和奏の母親の兄なんだよ、ちなみに双
﹁親の兄弟の子供のことだ﹂
﹁イトコって、何
﹂
﹁私はソウの幼馴染だもん﹂
紗羽はトンットンと階段をジャンプしてくるっとターンした
﹁うん。でもそれなら私たちもっと早く仲良くなれたかも、だって⋮﹂
?
閉店した店の掃除をしていた和奏の父、坂井圭介は操一朗に気付く
22
?
と振り返った
﹁おう、操一朗君おかえり﹂
﹁あぁ、叔父さん、ただいま﹂
ここでは挨拶は﹁おかえり﹂と﹁ただいま﹂というのが昔からの習
慣だった。操一朗は物心つくまでずっとこの家で暮らしていたのだ
﹁ちょっと待ってな、ここの掃除終わったら戻るから﹂
﹁んー﹂
操一朗は店の横の自宅へと続く戸を開けて勝手知ったる感じでダ
イニングキッチン、と言えば格好はつくが、テーブルが置かれた台所
に入ると、エプロン姿の和奏が料理を作っていた
﹁あ、操一朗。ちょっと待って今できるからドラにご飯あげといて﹂
﹁ん∼﹂
操一朗は台所の隅、坂井家の飼い猫ドラの食餌スペースに置いてあ
る餌皿にキャットフードを注いだ。太ったドラ猫は未だ散歩の途中
23
の様だ
そしてダイニングキッチンの隣の和室に入った。そこには仏壇が
あった
﹁まひるちゃん、ただいま﹂
操一朗は仏壇の写真に挨拶すると手を合わせた
﹁報告は⋮、敵をちゃんと倒してからするから⋮﹂
操一朗はそう言うと襖を閉めた
﹂
いつもは娘と父2人だけの食卓だが、今日は操一朗も加わり賑やか
だ
﹁つーかさ、和奏、これ野菜多くね
﹁はい、いただきます﹂
﹁⋮いただきます﹂
でいた
添えられていた。そしてじゃが芋と玉ねぎの味噌汁、雑穀ご飯が並ん
ぴらごぼう、胡瓜とワカメの酢の物、焼き鮭に大根おろしとシラスが
操一朗の目の前には、ほうれん草の白和え、かぼちゃの煮物、きん
﹁どうせお昼肉ばっか食べたんでしょ、なら夜に野菜摂りなさい﹂
?
﹁いただきま∼す﹂
操一朗、隣の和奏、二人の目の前の圭介は手を合わせて箸を取った
♪♪♪
食事が終わると茶の間で操一朗と和奏は食後のお茶と、紗羽の家か
﹂
ら貰った︵正確には檀家から貰って余った︶ちょっと高級な店の和菓
友達にはなれそうか
子の詰め合わせを食べていた。操一朗も和奏も髪をおろしていた
﹁そういえば、紗羽と宮本とはどうだった
ろ
﹂
﹁ま、普通科に来たけど、お前、音楽が嫌いになったわけじゃないんだ
和奏は湯のみを両手で持ったままうつむいた
﹁私は⋮、﹂
て思っただけだよ﹂
﹁俺はたまたま近場で好きなことがあってそれを仕事にしてみたいっ
操一朗は食べかけの饅頭を口に放り込むとお茶を流し込んだ
﹁⋮⋮﹂
﹁そっか⋮、いいね自分のやりたいこと決まってて﹂
だ﹂
﹁おう、将来は北大獣医学部で勉強して大型動物専門の獣医になるん
﹁そういえば、馬好きだったもんね﹂
ちょこちょこ。サブレのついでにな﹂
﹁あぁ、五嶋さん家があそこの檀家さんでな。その縁で小学時代から
﹁そういえば操一朗、沖田さんと知り合いだったんだね﹂
﹁ふ∼ん﹂
新しく作るんだって。当面の目標は今度の発表会﹂
﹁うん、合唱部の手伝いすることになったの。宮本さん声楽部辞めて
?
﹁え⋮
﹂
﹁たしかに、音楽で将来食べてこうとしてる奴が回りにいて、お前自身
?
24
?
﹁なら、さ。音楽科だけが音楽じゃないだろ﹂
﹁⋮うん﹂
?
﹂
気付かないうちにその空気に、というか音に浸って周りがつまらない
﹂
音にしか聴こえていなかったんじゃないか
﹁⋮
﹁⋮、そうかい⋮﹂
として面倒みるようにって﹂
﹁まったく、操一朗のことはお母さんから頼まれてるんだよ、お姉さん
﹁うぇ∼⋮﹂
﹁これ、ちゃんと食べなさいよ。お肉も入ってるから﹂
身は、夕飯とは別に作っていた肉じゃがだった
和奏は台所から大き目のタッパーを紙袋に入れて持って来た。中
﹁あ、待って﹂
﹁さて、それじゃ俺はもう帰るわ﹂
﹁うん、それは今日わかったかも⋮﹂
る。宮本の方はよくは知らんけど、悪い奴ではないぞ﹂
﹁とりあえず、紗羽はちゃんと話聞いてくれるし相談にも乗ってくれ
﹁そっか⋮﹂
誤魔化した
操一朗は自分が言ったこととやったことが急に恥ずかしくなって
た﹂
﹁あぁ、なんかこれ親父の口癖だったらしい。まひるちゃんが言って
﹁音⋮﹂
﹁あいつの本気の音楽、聴いてみな。耳じゃなく、ここでよ﹂
た
操一朗は和奏の胸を右の人差指と中指を立てた形でトンと小突い
されてたあいつの音楽はよぉ、だけどたしかに本気ではあるぞ。﹂
﹁音楽科の生徒や教頭からすりゃ〝お遊び〟って軽視されてる、てか、
﹁本当の気持ちってことだ﹂
﹁⋮本気﹂
﹁あいつが本気なのは、俺が見ていても分かる﹂
?
誕生日的には操一朗の方が上なのだが、敢えて口にはしなかった
25
!
♪♪♪
帰り道、バイクを走らせながらヘルメットの中で操一朗は呟いた
﹁⋮俺だってまひるちゃんから頼まれてんだよ、和奏を、守ってくれっ
てな﹂
♪♪♪
それから、合唱部はなんとか人数を集め新設の申請も受理された。
急場で集めたメンバーだが、取りあえずの体裁を保ち、発表会の日を
迎えた
こ の 日 は 雨 が 降 っ て い た の で 体 育 館 で バ ド ミ ン ト ン を し て い た。
﹂
張り切りまくる大智を眺めながら、操一朗は床に座っていた
﹁ん
女子のコートを見ると和奏が携帯片手に外に出て行くのが見えた。
操一朗⋮﹂
﹂
⋮⋮うん、うん⋮、わたし
⋮うん、⋮⋮でも⋮⋮⋮わかった﹂
水を飲みに行く体を装って操一朗も外へ出た
﹁⋮え
﹁
﹁今のは宮本か
!?
﹂
部長としてここで待つって。でもそれだと会場での音合わせができ
なくて⋮﹂
﹁もしかして教頭か⋮
﹁紗羽は
﹂
唱部は出場辞退させるって⋮﹂
﹁うん⋮、私が合唱部として会場で音合わせしなさいって、でなきゃ合
?
﹁⋮っし、だいたい分かった。ちょっと紗羽にかけろ﹂
携帯繋がらないんだって﹂
﹁沖田さんは産休中だけど副顧問の高橋先生呼びに行くって。だけど
?
26
?
﹁和奏﹂
?
﹁よくわかったわね⋮。顧問の校長先生が時間になっても来ないから
?
!?
操一朗は和奏の携帯を借りた
﹁⋮、あ、紗羽か俺だ。事情は和奏から聞いた。たぶん智子さん∼⋮、
高橋先生今日は定期検診で市立病院の産科に行ってるはずだ。そっ
ちに直接行け﹂
操一朗は携帯を切ると和奏に返した
﹁体育の綾部先生には俺から説明しとくから、お前は着替えて行って
こい﹂
﹁⋮うん、ありがと﹂
和奏の表情が心做︵ココロナ︶しか、こないだより良い意味で変わっ
ているように感じた
♪♪♪
弓道部顧問で体育担当の綾部先生に和奏の事情を説明した操一朗
﹂
﹁大智、スマン
﹂
﹂
和奏に忘れ物届けてくるから、体育とこの後の授業特
ちょ操一朗⋮
欠扱いにしてくれるように先生に説明しといてくれ
!
27
は体育の授業に戻った。大智相手にわりと善戦して、2人は火照った
﹂
身体を冷まそうと開けてある窓へ近付いた
﹁そろそろ合唱部の発表か
﹁たぶんな⋮﹂
﹁っ
操一朗の頭に直接氷の結晶が震える音が響いた
キィィィィィン
瞬間
小さく和奏を想い呟いた
﹁⋮しっかりな⋮、和奏﹂
大智の問いに応えた操一朗は、小雨が降る空を見上げ、
?
操一朗の表情が険しくなった
!
﹁はぁ
!
!
!
!?
言うと同時に操一朗はダッシュで体育館から出て行った
ジャージのまま駐輪場に行くと空からレイバットが降りて来た
﹁操一朗、こないだ逃がしたファンガイアだ﹂
﹁おう、どこだ﹂
﹁⋮どうやら、和奏嬢が今居る市民ホールらしい。玄牙︵ゲンガー︶が
﹂
先行しているから間違いない⋮﹂
﹁⋮っくそ
操一朗はヘルメット被るとバイクを発進させた
♪♪♪
町は平日の午前中だというのに休日以上に混雑していた
﹁どうなってんだ⋮、くそっ﹂
ヘルメットの中で舌打ちする操一朗
﹁どうやらあのファンガイア、ライフエナジーを獲り損ねた腹いせ、と
いうか手当たり次第に建物とかを破壊しながら移動しているらしい﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁操一朗、ここで奴を倒さねば被害はこれの何倍にもなるぞ﹂
﹁⋮あぁ﹂
﹂
﹁この街一つではすまないかもしれない﹂
﹁⋮あぁ﹂
﹁戦えるのか
!
﹁和奏︵あいつ︶を守る
﹂
操一朗は片手でベルトを装着した
﹁俺の中の戦う理由、そんなの、最初から一つだけだ﹂
﹁ほぅ﹂
う理由には足りなかった﹂
﹁この街は確かに気に入っている、が、はっきり言ってそれだけじゃ戦
レイバットの問いに、操一朗は応えた
?
28
!
﹁︵音夜、お前の息子はやはりお前の子だぞ⋮︶﹂
﹂
レイバットはバイクに噛み付いた
﹁ギャブリ
バイクは通常モードから白緑青︵ビャクロクショウ︶色のマシンレ
イダーへと覚醒した
一般人には不可視となった状態でさらに速度を上げた操一朗は、バ
スや車をあっという間に追い越して行った
ザシャッァ
﹁ゲン
﹂
﹂
﹁ぐ、貴様らは﹂
手で殴り飛ばした
けようとしていたスパイダーファンガイア目掛けバイクから跳躍、素
操一朗はバイクをドリフトさせ、今まさに市民ホールへ魔の手をか
!
結界を張った
﹂
﹁レイバット
﹁うむ
﹁ギャブリ
行くぞ﹂
﹂
操一朗はレイバットを右手で掴んだ
!
﹁変身っ
﹂
朗の姿を隠した
操一朗の周囲に氷の結晶が浮かび上がり六本の六角柱となり操一
ピキピキピキ
レイバットを垂直に構えた左前腕に噛ませた
!
﹁華激︵カゲキ︶に行こうか
﹂
レイバットをベルトの中央に逆さまに取り付けた
ガシャン
!
!!
29
!
!
市民ホールの影に潜んでいた玄牙︵ゲンガー︶が浮かび上がり幻術
﹁OっK∼
!
!
パキィィン
氷の六角柱を砕きながら仮面ライダーレイが突進し、スパイダー
ファンガイアを弾き飛ばした
♪♪♪
ホールでは街でスパイダーファンガイアが暴れまわった影響で交
通障害が発生したため、他の部員を乗せたバスが来られず、しかし、来
夏と紗羽は2人だけでもステージに立った。来夏は明らかに足が震
えているし、紗羽も頬に冷汗を浮かべていた
﹁⋮﹂
和奏は今まではただ勉強とかカリキュラムとかそういう音楽しか
してこなかった。それもある意味では正しい〝音学〟かもしれない
し、それを否定する気もない
﹁そうはさせん
ヒュゴォ
﹂
ベルトからレイバットが飛び出し、口から冷気を吐いて糸を凍らせ
!
30
ただ、自分が好きだった、大好きな母と操一朗と一緒に〝楽しんで
いた音〟は⋮
﹁操一朗⋮、私、やってみるね﹂
和奏は意を決してピアノの前に座り、鍵盤を叩いた
♪∼挿入歌∼♪
﹂
心の旋律︵♯2Ver.︶:宮本来夏・沖田紗羽
﹁おぉぉぉ
﹂
!
スパイダーファンガイアは口から糸を網のように吐き出した
バッ
﹁ぐぅ⋮、はぁっ
ける直突き︶をスパイダーファンガイアに喰らわせた
レイはダッシュから跳躍、全体重を乗せた右パンチ︵日本拳法にお
!
た
﹁サンキューレイバット
ゴッ、ゥン
﹁っ、らぁっ
﹂
﹂
前腕を、スパイダーファンガイアの頭上目掛け振り下ろした
レイは一足一刀の間合いから跳躍すると左拳を握り鎖が巻かれた
!
﹁うむ
﹂
﹁決めるぞ
﹂
ダーファンガイアを一撃でダウンさせるほどの威力だった
強 靭 な 握 力 と 堅 い 鎖 が 巻 か れ た 腕 を 鉄 槌 と 化 し た 攻 撃 は ス パ イ
!
﹂
!
た
﹁よぉ﹂
﹁あれ
操一朗﹂
♪♪♪
パイダーファンガイアの身体は氷の破片となって砕け散った
仮面ライダーレイの必殺技﹃アイスミストブレイク﹄を喰らい、ス
パキャァーン
放った
動エネルギーを右足一本に集中させ、スパイダーファンガイア目掛け
レイは前方へとダッシュ、跳躍し、全身を巡る人工魔皇力とその運
﹁はぁぁあ
﹂
周囲に冷気が立ち込め、スパイダーファンガイアは全身が凍り始め
﹁ウェイカップッ
エッスルを取り出し、ベルトに戻ったレイバットに咥えさせた
レイは右腰の色取り取りの笛の中から白い笛、ウェイクアップフ
!
!
和奏が市民ホールから出てくると操一朗がジャージ姿で立ってい
た
31
!
?
﹂
﹁⋮その顔、昔みたいになってきたな﹂
﹁⋮そうかな
操一朗の言葉に照れる和奏
﹁よし、今度の休み2人でどっか行くか。お前の好きなもん奢ってや
るぞ﹂
操一朗はもたれていた壁から背筋を使って反作用で勢いよく離れ
るとデート︵とは厳密には違うが︶に誘った
﹁ごめん。今回の報酬として沖田さんと宮本さんにケーキ3つ奢って
もらうから無理﹂
﹁⋮⋮⋮そうか﹂
そんな操一朗を雨も上がって日光が差し込んできた空でレイバッ
トと玄牙︵ゲンガー︶が2人して笑っていた
32
?
第2話 終わったり、負けたり
夏休みまであと一週間。
来夏、大智、そして操一朗は校長代理の教頭に呼び出された。
﹁合唱部、バドミントン部、剣道部は廃部とします。﹂
此見よがしに目の前で書類に判子を押した教頭に、来夏と大智は抗
議した。
﹁え⋮そんないきなり﹂
合唱部は発表会のゲストとして招かれた有名バイオリニスト目当
てや来夏の弟に誘われた一時入部者がほとんどで、発表会が終われば
即自然消滅。
﹁俺、もうすぐ県大会で⋮﹂
バドミントン部はそもそも校長が特例として認めていた。一年の
頃から1人で今まで活躍できたのは、ひとえに大智の全国大会ベスト
33
8という実績があればこそ。練習だけなら、たとえ体育館を間借りで
きなくても、大智の姉春香の大学で練習したりできるが、学校が認め
なえれば、そもそも大会にすら出られない。
﹂
﹁どの部活も自分達で部員を集め、限られた部費をやりくりして、規則
に則って活動しています。どうして自分達だけが特別だと
教頭の正論に大智も来夏も言い返せなかった。
そんな中、操一朗だけは平然としていた。
2話 終わったり、負けたり
﹁って、言ったの
﹂
楽譜書きたかったら、どうぞご自由に。﹂
本一の男を埋もれさせた汚点残してでもこの学校の規律に縛られた
﹁まぁ、この学校の経歴に運動部は重視されてねぇし、俺という剣道日
?
結局何も言わず・・・言ったところで取り合ってもらえない可能性
﹁いんや、心の中で思っただけ。﹂
?
大だったので・・・教室に戻ってきて事の顛末を紗羽に話したお気楽
﹂
な操一朗。一方来夏と大智は頭を抱えていた。
﹁来夏、どうするの
1、2⋮、﹂
入んない
﹂
﹁まだ辞めてねぇし
﹂
﹁⋮∼、うっせぇチビ
んでいた。
﹂
なら合唱部
濃紺の稽古着を着た操一朗は二十畳の板間の道場に1人、稽古に臨
♪♪♪
ちょうだい﹂
﹁ナ ン ダ ト。緒 川、身 長 1 0 c m よ こ せ。紗 羽 は お っ ぱ い 1 0 c m
操一朗と紗羽の声がハモった。
﹁﹁確かに。﹂﹂
﹁な⋮、﹂
来夏にからかわれた大智は捨て台詞と一緒に教室から出ていった。
!
﹁え、何
?
俺は大学入っても続けて⋮⋮いつか⋮﹂
﹁あ、ねぇ田中アンタもうどうせバドミ辞めたんでしょ
生徒手帳を隅々まで読んでいた大智が机に突っ伏した。
﹁あ∼、ダメだ、打つ手がねぇ⋮﹂
に吸ってパックを握り潰して飲み干した。
操一朗は和奏が飲んでいた野菜ジュースを受け取ると残りを一気
﹁ん、あと飲んで良いよ﹂
﹁和奏、一口くれ。﹂
来夏は和奏を指差した。
﹁3﹂
首を傾げた紗羽は来夏と自分を指を指して、
﹁3人
祭とか歌う機会はまだあるし。﹂
﹁ん∼、ウチはまだ3人いるから、これからちゃんと集めていく。文化
?
!
?
?
34
?
ただし、手にしているのはいつもの竹刀ではなく、真剣だった。長
さは高校生男子規定のサブハチ竹刀︵3尺8寸=約115.14c
m︶より若干短いが、重量は鉄そのもの。
操一朗は右膝だけを立てた割り膝で座している。左腰に帯びてい
る稽古刀は刀身だけで90cm近くもある。
臀部の下に折り敷いた左踵がずいと起き上がる。
遅滞無く右手は柄、左手は鍔元に。
シャッ
短い刃音と共に、90cmの刀身が鞘から奔り出て、胸の高さで横
一文字に空を斬った。刃引きはしていても刀は刀。その切先は鋭利
﹂
な光を反射していた。
﹁やっ
鞘に納めかけた稽古刀を気合と共に突き出した。
居合の稽古は仮想の敵を想定して行なう。
初太刀で倒れなかった敵への追撃を操一朗は見舞ったのだ。
操一朗は機敏に体を捌き左横に動く。
敵が死なば諸共と、咽目掛け突いてきたのを躱した動きだ。
ヒュッ ヒュッ
仮想敵の左右の首筋を斬り割った。
柄を握った右手を必要以上に動かさず、鯉口を握った左手を帯に添
えて十分に引き絞ることで90cmの稽古刀を納刀した。
﹁相変らず見事な腕前だな。﹂
﹁師匠︵センセイ︶。﹂
曲げ、挨拶した。
道場の入口に立って操一朗の1人稽古を見ていた初老の男が声を
かけた。
操一朗は立ち上がりきっちり腰を45
﹁うむ。﹂
°
技の冴えがいつもより劣っている
道場主、関谷透は一礼して道場に入った。
﹁し か し、何 を 悩 ん で い る ん だ
ぞ。﹂
﹁実は⋮﹂
?
35
!
操一朗は事情を説明した。
﹁なるほどな、確かに今まで1人なのに活動してこれたのはその校長
の配慮だったのか⋮﹂
﹁まぁ、俺はそこまで大会優勝の肩書きとか気にはしてないんですけ
﹂
ど、唯一心残りがあるとすればあの高校の剣道部と決着が付けれない
ことですかね⋮﹂
﹁そうか⋮﹂
﹁で、お前はいつまで影からこっそり見取り稽古してんだ
操一朗がわずかに開いていた道場の着替えの間に声をかけると戸
がガタンと揺れて、白い稽古着を着た少女が顔を覗かせた。
﹁なる、お前は何をこそこそと⋮﹂
関谷師匠は頭を掻いた。
﹁えっと、そうお兄ちゃん、なんだか稽古に集中してたし、なんか出ず
らくて⋮﹂
﹂
両脇でちょこんちょこんと結んだショートヘアを揺らしながら、道
場の一人娘、関谷なるは出てきた。
﹂
ならたまには遊びに行きなさい。﹂
﹁そうだ、なる。ちょっと操一朗とケーキでも食べに行かないか
﹁え
﹁今日は何も予定が無いんだろ
﹁居合のお稽古は⋮﹂
﹁今日はいいから、ほら。﹂
?
ぎ、青いジーンズに白いTシャツに赤いノースリーブジャケットを羽
織った。稽古着は定位置に畳んで置いておいた。師匠の好意で陰干
36
?
操一朗は溜息をつきながら着替えの間に入って稽古着を手早く脱
﹁はぁ⋮﹂
関谷師匠は笑顔で操一朗の肩をぽんぽん叩いた。
﹁あぁ、金は、私が出すから。﹂
﹁あの師匠︵センセイ︶⋮﹂
関谷師匠はなるの背中を押して道場から追い出した。
?
?!
しや手入れは関谷家に頼りきっていた。
着替え終り道場の外に停めていたバイクにもたれながら、なるを
待っていた。
関谷家には子供は娘のなるしかいない。関谷師匠は目に入れても
痛くないほど可愛がっているが、その一方で道場の後継ぎが悩みの種
だった。そんな時、当時中学1年の操一朗が入門して来た。
両親がおらず、叔母夫婦と後見人の大企業の社長に養われている男
子。しかも剣の筋も良い。当時から何かと自分の娘と操一朗を一緒
に稽古させたり夕飯に招いたりしていた。そして中3の時、関谷家の
養子話が持ち上がった。
しかし、その直後に操一朗の叔母、まひるが亡くなり、結局その話
は有耶無耶のままになっていた。
高校に入ってからも居合の稽古は続けていたが、関谷師匠は養子話
を持ち出さなくなった。なる自身もデリケートな年頃となったせい
もあったが、今このタイミング、操一朗が18になったこの時期にこ
んなデートを企てるととは⋮
﹁諦めてなかったんか、師匠︵センセイ︶⋮⋮﹂
今から養子として迎え入れ、なるがあと数年もしたら即結婚させよ
うという魂胆が見え見えだった。
﹁お、お待たせ、お兄ちゃん⋮﹂
白い膝丈ワンピースにうっすら化粧という、女子中学生なりの精一
杯のお洒落をしたなるがやっと来た。
﹁おぅ、なら行くぞ。﹂
操一朗はなるに予備のヘルメットを被せるとエンジンをかけた。
﹁しっかり掴まってろよ。﹂
﹁う⋮うん。﹂
小さな手で操一朗の腰にひっしと掴まったなるの顔は、ヘルメット
では見えないが真っ赤になっていた。
・・・・・・婿養子の件、迎える側は大歓迎らしい・・・・・・
♪♪♪
37
﹂
地元の若者に人気のケーキ店に着いて店に入ると、奥のテーブルに
見慣れた3人がいた。
﹂
﹂
﹁あ、操一朗。﹂
﹁ソウ
﹁げ、緒川
﹁なんだ、3人揃って休日ティータイムか
緒川君﹂
和奏、紗羽、来夏が座っているテーブルの隣に、操一朗となるは座っ
た。
﹁そちらはデートですかい
てるんですか
﹂
﹁そういえば、さっき発表会って言ってましたけど、皆さんは何かやっ
はキャロットケーキとミルクティーを頼んだ。
操一朗はメロンのショートケーキとメロンクリームソーダを、なる
﹁あぁ、そういえば⋮﹂
﹁うん、こないだの発表会のお礼。﹂
﹁てか、和奏1人で3つかよ⋮﹂
訂正した操一朗は和奏達のテーブルを見た。
﹁従・兄・妹、な。﹂
﹁坂井和奏。操一朗の従姉弟よ。﹂
よね。﹂
﹁沖田紗羽よ、お父さんに連れられて何回かうちの寺に来た事あった
﹁アタシ宮本来夏。よろしく、なるちゃん。﹂
﹁えっと、関谷なる⋮です⋮﹂
﹁居合の妹弟子とお茶しにきだけだよ。﹂
影に隠れてしまった。
来夏がなるに下種な視線を送る。なるは恥ずかしがって操一朗の
?
﹁ふ、2人だけで
緊張して失敗とかしなかったんですか
﹁あ∼、それなら来夏はもうきょね⋮んんん﹂
?!
﹂
﹁ま、アタシと来夏の2人だけだったけどね。ピアノ和奏で。﹂
﹁わたし達合唱部で、こないだ発表会あったの。﹂
?
?
38
?
?
!
居合の稽古、最近やってな
動画サイトにまで投稿された黒歴史を言いかけた紗羽の口を来夏
は押さえた。
﹁なる、今学校でなんか部活やってんのか
いみだいだけど。﹂
﹂
﹁あの、よさこいを⋮﹂
﹁よさこい
﹂
﹁あ、そだ緒川、アンタも剣道部無くなったんだし合唱やんない
﹂
驚きながら操一朗はメロンソーダのアイスを一口で飲み込んだ。
﹁へぇ∼⋮、お前がそんなアクティブな部活するとはなぁ⋮﹂
お姉ちゃんも一緒に⋮﹂
﹁はい、あのアメリカからの転校生に誘われて⋮、ヤヤちゃんや、たみ
来夏の問いになるが頷いた。
﹁って、あのちゃかちゃか鳴らしながら踊るアレ
?
もがな。
♪♪♪
最後聞こえなかった﹂
﹂
そんな休日の翌日、来夏は大智を体育館に呼び出した。
﹁本当に、いいんだな
﹁くどいよ、あんま女に恥かかせないでよ。﹂
大智と来夏は互いに見詰め合って・・・
﹁俺が勝ったら本当に沖田と一緒にバドミントン部に入るんだな
﹂
﹁ちゃん﹂付けなのは、年上のお姉さん、と呼ぶには・・・・・言わず
ち ゃ ん﹂﹁来 夏 ち ゃ ん﹂と 呼 び 合 う ま で に な っ た。ち な み に 来 夏 が
なるは和奏たちとも打ち解け、最後は﹁和奏おねえさん﹂
﹁紗羽お姉
た。
それから、5人は他愛もない会話をしながら休日の午後を過ごし
﹁他当たれよ。俺はパス﹂
﹁え、なに
てんなら入ってやってもいいけどよ⋮﹂
﹁俺、誰かと歌うのは苦手なんだよ⋮、⋮⋮ま、和奏が本格的に入るっ
?
?
?
39
?
?!
?
﹁入 っ た げ る よ、で も こ っ ち が 勝 っ た ら 合 唱 部 に 入 っ て も ら う か ら
ね。﹂
否、昼休みの体育館に張られたネットを挟んで、ユニフォーム姿の
大 智 と ジ ャ ー ジ 姿 の 来 夏 は 睨 み あ っ て い た。来 夏 の 隣 に は や は り
ジャージの紗羽が、そして、中央には制服の操一朗がいた。
何故こんな状況になっているかというと、喫茶店にて・・・
﹁あ、じゃあ田中誘おうよ。高橋先生の送別会の時、歌えてたじゃん﹂
﹁あぁ、大智意外といけるぞ。声量も体力もあるし、技術的な練習さえ
すればな。﹂
高1からの親友、操一朗の言葉に頷く来夏。
﹁よし。﹂
﹁お願い
﹂
昼休みの10分間だけ
﹂
!
﹁運動嫌い
﹂
紗羽の言葉に意外と負けず嫌いの和奏の闘志に火が付いた。
﹁ううん、⋮やるからには勝ちたい。﹂
﹁紗羽でいいよ。ちょっとした遊び程度でいいから﹂
﹁嫌いじゃないけど、沖田さん、私⋮﹂
?
﹂
40
﹁でも、大智だってバドミ諦めてねぇぞ。﹂
私も
?
﹁う∼ん、ならこうしよう。合唱部とバドミントン部、互いに勝負して
﹂
負けた方が勝ったほうに入る、ってことで﹂
﹁勝負内容はどうすんだ
﹁一応言っとくけど、大智は全国ベスト8だぞ去年。勝てるのか
操一朗は来夏のフェア精神に感心した。
﹁へぇ⋮﹂
﹁こっちから申し込むんだし、バトミントンでいいよ。﹂
?
﹁大丈夫、こっちは3人だし。﹂
﹁え
?
パンっと両手を合わせて懇願する来夏。
!
3つ目のケーキの最後の一口を食べ終えた和漢が自分を指差した。
?
﹂
﹁うし、なら審判は俺がやる﹂
﹁ソウが
﹁元剣道部。合唱部でもバドミントン部でもない俺がやるのが公平っ
てもんだろ。﹂
そして今に至る。
﹂
﹁じゃあ試合は2点先取。負けた方は勝った方の部活に入る、サーブ
は合唱部から。いいな
﹁ちょ、3人かよ
おい審判。﹂
えた和奏が入ってきた。
操一朗がルールを確認すると体育館の戸が開いて、ジャージに着替
?
﹂
自で部員集めをしていたようだ。
﹁こっちは2人だ、バドミントン部だし、いいよな審判
操一朗は来夏を見た。来夏は頷き返した。
﹁よし、バドミントン部は大智とウィーンの2人。﹂
﹁ぶつかると危ないから基本下がってて。﹂
﹁オッケー。﹂
﹂
和奏がウィーンを指差し、操一朗の方を向いて説明した。大智も独
﹁バドミントン部なんだって。﹂
﹁ひどいよタイチ、練習があるなら言ってくれないと。﹂
ウィーンが入ってきた。
大 智 は 頬 を 叩 い て 気 合 を 入 れ た。す る と、和 奏 の 後 に 続 い て、
﹁⋮うし
奏にだって参加する権利はあるぞ。﹂
べきだろ。それに、これはバドミントン部と合唱部の勝負なんだ。和
﹁全国クラスの大智が相手なんだ、それくらいのハンデはあって然る
!?
﹁⋮なんかあたしだけ妙な疎外感が⋮﹂
﹁頑張ろうね、和奏。﹂
﹁よし。﹂
﹁合唱部は、和奏、紗羽、宮本の3人。﹂
大智から予備のラケットを受け取ったウィーンは後衛に下がった。
?
41
?
!
﹂
操一朗は右手を挙げた。
﹁試合、開始
﹁3人同時かよ
∼∼⋮、⋮、ふっ、ふっ、はっ
﹂
操一朗が右手を下げると同時に、和奏達3人が一斉にサーブした。
!
!
ルを見極めて確実に一つひとつ返していった。ラスト1球はスマッ
通常のバドミントンではありえない状況だが、大智は冷静にシャト
!?
シュで相手の穴とも言える来夏目掛けて。
﹂
﹁おりゃ
!
﹁和奏
﹂
ていた。
﹁とぅっ
﹂
スパァン
カスッ
﹁﹁﹁﹁﹁あ⋮﹂﹂﹂﹂﹂
!
操一朗は和奏達を指して宣言した。
﹁勝負有り、合唱部。﹂
たが結果は・・・・
ネットの網目に挟まったシャトルをウィーンは嬉々として自慢し
﹁やった、大智見て、刺さったよ
﹂
ウィーンはまさにドンピシャなタイミングでジャンプした。
大 き な 弧 を 描 い て 後 方 に 落 ち て き た シ ャ ト ル。そ れ に あ わ せ、
﹁任せて
﹂
てしまった。これで1対1。勝負は和奏が返したシャトルにかかっ
3球同時に返球して体勢が崩れた大智は紗羽のシャトルを落とし
﹁やばっ⋮﹂
操一朗の声に励まされた和奏は飛び込んでシャトルを返球した。
﹁こんのっ
﹂
トルが離れた位置に今にも落ちそうに⋮
来夏は空振り、紗羽は鋭い打球を返したが、和奏の方に飛んだシャ
﹂
﹁えいっ
!
!
!
42
!
!
﹁やったね紗羽
﹂﹁ナイス和奏
﹁紗羽もすごかったね。﹂
﹁弓道で、鍛えてますから。﹂
﹂﹁坂井さんすご⋮え、和奏
﹁いや、ウィーンのせいじゃないって⋮﹂
﹁ゴメン、タイチ⋮﹂
♪♪♪
来夏は明確な疎外感を覚えた。
﹁あ⋮、うん⋮⋮﹂
﹁宮本さんも惜しかったね。﹂
シュッ、と気障な手の動きで応える紗羽。
!
﹂
?
﹂
体育館外の階段で項垂れている大智と申し訳なさそうにしている
﹂
ウィーンに、来夏が近付いた。
﹁泣いてんの
﹂
﹁もじもじしてキモいねぇ∼
﹁なん⋮、え
﹂
﹂
そんな大智を紗羽が茶化す。
?
﹂
俺もって⋮﹂
部長 宮本小夏
合唱時々バドミントン剣道部
部活新設申請
操一朗が大智の横から覗き込むと、紙には⋮
﹁は
⋮⋮緒川もね
﹁バ ト ミ ン ト ン、続 け な よ。そ の 代 わ り、合 唱 も ち ゃ ん と や っ て よ。
振り返った大智の目の前に来夏が1枚の紙を見せた。
?
!
43
!
﹁俺は大学でも続けて、大会でも成績残して⋮いずれは⋮⋮﹂
?
?
?
⋮⋮お前、歌でプロとか目指してんのか
﹁泣くか
!
ううん、田中は
﹁あたし
?
?
と書かれていた。
﹁あ、宮本、てめぇ負けても合唱止めるつもりなかったろ
操一朗の言葉に来夏は笑った。
どういうこと
髪を掻いた。
﹁え、え
来夏。﹂
﹂
操一朗は来夏の強かさに呆れ、セミロングショートポニーテールの
﹁ったく⋮、﹂
だったかもね。﹂
﹁当然じゃん、その時は、
﹃バトミントン時々合唱、ついでに剣道部﹄、
!?
ぎ澄ましていた。
という話を聞いて、いつにも増して眼鏡の奥の目を光らせ、五感を研
操一朗は和奏が2度も変な外国人に声をかけられ追いかけられた
よ。﹂
﹁マ ジ で ヤ バ イ 奴 が 和 奏 に ち ょ っ か い 出 さ な い よ う に 威 嚇 し て ん だ
女子トーーーークしていた来夏が操一朗に声をかける
∼。﹂
﹁ねぇ∼緒川∼、あんたそれ傍から見たらヤバイ奴にしかみえないよ
負って周囲に睨みを効かせていた。
木 刀 を 納 め た 竹 刀 袋 を 括 り 付 け た 円 柱 型 竹 刀 ケ ー ス を 右 肩 に 背
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
楽の本で発声練習、そして操一朗は・・・
を待っている間、大智はラケットを振ってリスト強化、ウィーンは声
た校長の下に挨拶も兼ねた見舞いに行く事になった。ホームで電車
翌日、合唱時々バドミントン剣道部の6人は引き続き顧問を願い出
♪♪♪
する事が尊ばれているのだよ、ウィーン君。﹂
﹁ふふん、日本では文武両道と言って文系の部活と運動部を掛け持ち
?
電車から降りてくる客にまで睨みながら、操一朗達は病院に向かっ
44
?
た。
♪♪♪
﹂
病床の校長は包帯やギプスをして見た目こそ痛々しそうだったが、
割かし元気そうだった。
﹁合唱時々バトミントン剣道部
﹁バ〝ド〟ミントンです。﹂
﹁まぁどっちでもいいが。﹂
﹁合唱部
﹂
﹁そうっすけど⋮﹂
﹁あ、はい。﹂
﹁君達が坂井さんと緒川君
﹂
疑問を口にした和奏と操一朗を、校長はじっと見た。
﹁声楽部、じゃないんっすか
﹂
といえばかつては全国大会常連校でもあったんだから。﹂
﹁あまり私に恥をかかせないでくれたまえよ、我が白浜坂高校合唱部
押すだけだ。
大智の訂正を受け流した校長は申請書にサインをした。後は判を
?
﹁失礼します、校長先生、目を通して頂きたい書類が⋮⋮、﹂
コンコン
緒川君のお父さんによって思い知らされたんだよ。﹂
押し付けていた。そんな自分が拘っていた音楽が如何に小さいかが
音楽を狭い視点でしか音楽を捉えておらず、生徒達にもそれを強要、
﹁まひる君によって音楽の持つ意味が変わった。当時の私という男は
校長は目を細めた。
んのお母さん、まひる君は私の教え子で、音夜君とも交流があった。﹂
﹁23年前、当時私は一介の音楽教師で合唱部の顧問だった。坂井さ
校長の言葉に顔を見合わせる和奏と操一朗。
てないね。どちらかといえば、まひる君に似ているかもしれない。﹂
﹁やはりお母さんの面影がある。緒川君は⋮、あまりお父さんには似
?
45
?
?
大量の書類を抱えた教頭が病室に入ってきた。来夏はあからさま
に嫌そうな顔をした。
﹁こちらをお願いします。﹂
﹂
教頭は来夏たちを一瞥すると、校長の目の前に大量の書類を置い
﹂
た。テーブルがその重さに少し軋んだ。
﹁え、こんなに⋮
校長は項垂れた。
﹁教頭先生、新しい部活の許可をお願いします
﹂
来夏は校長のサインが入った申請用紙を教頭に突きつけた。
﹁⋮⋮はぁ∼、こんなものが通るとでも
﹁⋮何のつもり
﹂
﹂
は刀のように鋭かった。
物を片手だけで素早く、かつ繊細に振った操一朗の眼鏡の奥の目付き
ゴミ箱に入りそうだった申請用紙を掬い上げた。総重量2kg弱の
操一朗は右手で竹刀ケースを握り下から振り上げ、右手首の捻りで
ヒュッ トン
しゃくしゃに丸めてゴミ箱に投げた。
そ れ に 反 論 す る 来 夏。し か し、教 頭 は 意 に 介 さ ず、申 請 用 紙 を く
﹁どうしてですか
教頭は溜息をつくと手で来夏の手を払った。
?
じゃ方向性が違うかもしんないけど、規則で縛りすぎ自由のない音楽
なんて、つまんないんだよ。﹂
操一朗も抗議した。そして・・・
﹁⋮和奏⋮﹂
﹂
普通科への転科を
和奏が操一朗の竹刀ケースの上からくしゃくしゃの用紙を拾い上
げ広げた。
﹁っ、坂井さん、貴女は一体何をしているんですか
認めたのはこんな事をするためではないんですよっ
!
?
46
!
?
!?
﹁納 得 で き な い っ す ね。あ ん た の 理 論 的 音 楽 と 俺 ら の ご っ た 煮 音 楽
?
教頭の矛先の収集がつかなくなりかけた時・・・
﹁あぁ、判子がまだだったね。﹂
校長は和奏の手から用紙を取ると引き出しから判を出し、サインの
横に押した。
合唱時々バドミントン剣道部が退出した後の病室では校長が書類
に目を通しながら昔を思い出していた。
君だって合唱⋮﹂
﹁やはり親子だね。緒川君も、坂井さんも。﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁何故そこまで頑ななんだね
﹁今は声楽部です。校長先生、一両日中には終わらせて下さい。失礼
します。﹂
教頭は病室から出ると廊下の窓ガラスに映る自分の顔を見た。
﹁⋮まひる⋮⋮⋮⋮⋮⋮音夜さん⋮⋮⋮﹂
♪♪♪
そして夏休み。午後に合唱部の練習を控えていた操一朗は、朝の自
主練を終えて、自宅で冷水シャワーを浴びようと浴室に入った。
﹁ぷはぁ﹂
すると水が満たされた浴槽から美路歌露洲︵ミロカロス︶が上がっ
てきた。
﹁ミ∼カ∼、入ってんなら・・・﹂
﹁あ∼、ごめんごめん。﹂
ミカは軽く謝ると出て行った。
風呂上りに操一朗がキッチンに行くとミカが炭酸水を傾けていた。
咽を鳴らしながら飲み込むたびにたゆんとゆれる両胸には貝殻のブ
ラに、ゆったりとしたクリーム色のローブを羽織って珊瑚色の帯を締
めている。まだ濡れているマリンブルーのロングヘアーがどこか艶
かしい。
47
?
﹁あ、操一朗∼、これあげる∼。﹂
﹂
ミカは飲みかけの炭酸水のビンを操一朗に放った。
﹁ねぇねぇ、今操一朗って合唱やってんだよね∼
﹁あぁ、剣道のついでにな。和奏もいるし。﹂
ねぇ∼。﹂
キィィィン
﹁⋮なぁ、その話ちょっと聞かせて⋮﹂
頃なんだよ∼。﹂
﹁あたしがまひると会ったのって、ちょうど今の和奏と同じくらいの
﹁そうなのか
﹂
﹁遠 目 に し か み て な い け ど、和 奏 っ て ば ま ひ る に ど ん ど ん 似 て く る
?
﹂
地下のバイオリンがファンガイアの出現を知らせる音を響かせた。
﹂
﹁悪りぃ、その話は帰ってきてからな
﹁激しく、いってらっしゃ∼い
♪♪♪
!
﹁ここか
﹂
少し外れた雑木林に着いた。
レイバットと共にマシンレイダーを走らせ向かうと、海水浴場から
!
操一朗はバイクに括り付けたアタッシュケースからベルトを取り
出し装着した。
﹂
ガサガサ
﹁そこか
操一朗が音のした方に飛び込むと、バイナップルのような図体をし
﹂
?
たファンガイアが陽気に踊っていた。
﹂
﹁パッパー、お前が噂の仮面ライダーKA
﹁⋮レイバット、何だこいつ
?
48
?
﹁うむ、反応は確かにここからだ。﹂
?
!
﹁十三魔族の1つ、マーマン族。その中でも日本土着の古来種、河童だ
﹂
!
﹂
﹁⋮あぁ、確かに頭のてっぺんに皿⋮というか草の受け皿みたいなの
があるな。﹂
﹁あのお方からの命令で、お前をKILL YOU
!
﹂
河童は周囲の葉っぱをカッターのようにして飛ばしてきた。
﹁おっと
﹂
!
殴った。
﹁アウチ
﹂
﹂
河童が怯んだ。
﹁レイバット
﹂
﹂
﹂
﹂
レイは手近にあった木を左手一本で握り、力任せに引っこ抜いた。
﹁なら
はまた草を結ばれる。操一朗、戦場を変えねば。﹂
くへ投げ飛ばす。おそらく防御力は低いはずだ。だが、今のこの場で
した攻撃は牽制、接近しようとした相手は草を結んで合気の要領で遠
﹁奴は近接戦刀が苦手な様だ。先ほどの葉っぱをカッターの様に飛ば
のまま自分へのダメージとなった。
い土と草が生い茂っていても、体重100kgの重さが仇となり、そ
数10m先の地面に背中から叩き付けられたレイ。いくら柔らか
﹁ぐあっ
えない方向に吹っ飛んだ。
河童が指を鳴らすと、周囲の草がレイの足に絡みつき、レイがあり
パチン
﹁ヘイ
突進した。
変身中に発生した六角氷柱を突き破り、仮面ライダーレイは河童に
﹁変身
操一朗は右手でレイバットを掴み、左前腕に噛ませた。
!
!
﹁うむ、華激︵カゲキ︶に行くぞ
﹂
操一朗はしゃがんだ状態から一気にダッシュして河童を一発ぶん
﹁挨拶代わりだ
操一朗は地面を転がり躱した。
!
!
!
49
!
!
!
﹁おらぁっ
﹂
﹂
とばかりに吹っ飛ばした。
﹁ぱっぱぁ∼∼
河童はその図体をごろごろ転がしながら体勢を立て直した。
﹁どうだ、ここなら草はないからカッターも結びも使えねぇぞ
﹂
レイは左拳を強く握り締め、河童目掛け振り下ろした。
﹁大樹鉄槌︵ウッド・ハンマー︶
河童は両手を前に突き出した。
﹂
ぶしゃーー
﹁あっぢ∼∼∼∼∼
﹂
河童の両手の平から熱湯が噴出した。
﹁パーー
しかしそれは防御の構えではなかった・・・
﹁そんなちゃちな防御で受けきれると⋮﹂
!
﹂
それをバットのようにフルスイングして河童を海岸の方へ、お返し
!!
﹁やば⋮﹂
﹁操一朗、離脱しろ
!!
物理的攻撃力は非常に高い、しかし、防御力、とくに特殊攻撃に対
ある強靭な腕力と巨体を活かした近接格闘を得意とする。
仮面ライダーレイ、ギガント族を元に開発された戦士はその特性で
﹁︵マズイ、操一朗は⋮︶﹂
﹁︵ぐ⋮⋮︶﹂
砂浜を横切り、レイは海に落ちた。
レイバットの叫び虚しく、河童が放ったビームがレイを直撃した。
ドォォォンッ
﹂
を受けて輝いていた。
レイが河童を睨む。すると、河童の頭頂部、葉っぱの受け皿に日光
﹁んなろぉ∼⋮﹂
いた。
もろに喰らったレイ。熱湯を浴びた装甲のあちこちが焼け爛れて
!!!!
!
!
!!!
50
!
する特防が低い。
熱湯による攻撃でぼろぼろになっていた鎧はビームによりほとん
どが大破。
海に放り出されレイは沈んでいった
仮面ライダーレイこと緒川操一朗は・・・・・
カナヅチである
51
第3話 怒ったり・たゆたったり
海中で変身が解けた操一朗はなんとか上がろうともがいたが、両手
は虚しく海水を掻くだけでどんどん身体は沈んでいった。
﹁あ⋮、やべ⋮、わ⋮か⋮⋮な⋮⋮﹂
︻現代︼
﹂
3話 怒ったり・たゆたったり
﹂
﹁操一朗∼、生きてる∼
﹁はっ
﹁助かったぜ⋮、ファンガイアは
﹂
ロカロス︶だと分かった。どうやらミカに膝枕されているらしい。
操一朗の視界は艶かしい双丘が遮っていたが、声で美路歌露洲︵ミ
﹁ミカ⋮﹂
た。
操一朗が意識を取り戻すと、そこは落ちた海岸の反対側の岩場だっ
?
﹂
?
は立ち上がって着ていた服を全部脱いだ。ミカも傍にいたが、ミカの
ヘアゴムが切れてセミロングの髪を顔に纏わり付いたまま操一朗
めよ。﹂
ガイアは今日中に本格的に動くことはないだろうから、今は回復に努
復機能がフル稼働中だ。ま、1日もあれば十分だろう。恐らくファン
﹁我は大丈夫だが、レイの鎧はかなり損傷していてな。今は自己修
﹁おう、サンキューレイバット。そっちは大丈夫か
家から飛び出してきた操一朗の私服はずぶ濡れだった。
﹁操一朗、目が覚めたか。着替えだ。﹂
風呂敷包みを持って飛んできた。
操一朗はファンガイアの目的について考えていると、レイバットが
﹁祭り⋮﹂
りの下見だ何だって言ってたらしいけど﹂
﹁レイバットが追ってったけど逃げられたみたい。なんか今日は祭
?
52
!?
全裸を見ても操一朗が何とも思わないように、ミカも気にすることな
く 指 を く る く る 回 し て 大 き な 水 の 輪 を 操 一 朗 の 頭 上 に 発 生 さ せ た。
マーメイド族であるミカは水を自在に操れるのだ。
﹁激しく、いくよ∼。﹂
パシャァン
水のリングが剣道と居合で鍛えた細身ながらかなり引き締まって
いる操一朗の身体の周りを上から回転しつつ降りてきた。ミカの水
﹂
には治癒の効果もあり、足元まで降りてきた時には、万全といかない
までも、6割方回復できた。
﹁あ∼、しまった、今何時だ
﹁合唱部の練習いかねぇと
﹂
﹁む、15時は回っているぞ。ずいぶんと寝ていたからな。﹂
?
かった。
﹁ん
﹂
♪♪♪
を被りバイクを走らせた。
操一朗は着替えると髪を束ね新しいヘアゴムを縛ってヘルメット
﹁透過自走モードでそっちに停めている。﹂
﹁マシンレイダーは
﹂
操一朗は慌てて着替えた。レイバットが持ってきたのが制服で助
!
﹂
をこいでいた。そしてその隣にはタクシーが平走して、ウィーンが
﹂
!?
乗っていた。
痴漢∼
﹁どうしたの、和奏
﹁痴漢
!
﹂
操一朗はバイクを一気に加速させ、そのままバイクから跳んで目の
﹁お前かぁぁぁ∼∼∼∼∼∼
!!!!!
るらしい。つまり最近和奏に付き纏っていたというのは・・・
ウィーンが窓から叫んだ。大男の影で見えないが、和奏を追ってい
!
53
?
操一朗の前方、筋骨逞しい男が全族力で自転車、それも折り畳みの
?
﹂
前の大男にジャンピングパンチを喰らわせた。
﹁Ah∼∼∼∼
和奏。﹂
﹂
?
何でお前の口から親父の名前が出てくんだ
もない名前を口にした。
﹁は
﹂
?
﹁親父とまひるちゃんの知り合いならそう言えよ
!
﹁あれ、大智合唱部の練習は
﹂
上の道路を見上げると、大智がいた。
﹁お∼い﹂
度もアプローチしていた、とのことだった。
コットを、まひるそっくりな和奏が持っていたので、話を聞こうと何
町でまひる達を探していた時、偶然自分達も持っている、海獣のマス
3年前にも湘南に来て、そこで音夜とまひるに出会っていたらしい。
冷静になった大男が片言の日本語で事情を説明した。どうやら2
﹁スミマセン、コウフンシテ、ツイ⋮﹂
﹂
日本の英語教育を受けている操一朗達は全く理解できなかった。
大男は急にスペイン語で喋りだした、が、アメリカですら通じない
﹁O∼∼∼
﹂
頭にできたタンコブをさすっていた大男は、こともあろうにとんで
﹁アイタタ⋮⋮、オトヤ
操一朗は拳をパキパキ鳴らしながら階段を下りた。
ずは俺が⋮、裁きを下す。﹂
﹁さぁ∼て、ウィーンなんかあったら和奏連れて警察に連絡しろ、ま
た。
疾走だったのだろう。そこにタクシーから降りたウィーンも合流し
和奏は息を切らせながら答えた。おそらく学校からここまで全力
﹁う⋮うん。﹂
﹁大丈夫か
大男は海岸へ続く階段を自転車ごと転がり落ちた。
!!
﹁なんか今日は中止だって。﹂
﹁エ∼﹂
?
54
!?
!!
?
ウィーンが不満そうな声をあげた。
﹂
﹁あ∼、なんとかってバンドと沖田ん家行くって。﹂
﹁なんとか
﹁ソレタブン、ワタシノナカマね﹂
♪♪♪
操一朗、和奏、大男の3人が紗羽の寺へと続く道の途中にある駐車
場に行くとキャンピングカーが停まっていた。そこには大男の仲間
と思しき小柄な老人と陽気な老人がいた。さらに、何やらそわそわし
ている来夏に、そんな来夏を呆れた目で見ている紗羽までいた。
﹁オ∼イ、ミツケタヨ∼、マヒルノムスメサンニ、オマケニオトヤノ
ムスコ∼﹂
﹁なんと本当に見つかるとは。﹂
﹁さぁさ、座って、お茶でも入れよう。﹂
﹁えっと⋮私すぐに帰り⋮﹂
音夜がそうだった。﹂
﹁まぁいいから、話くらい聞こうぜ。あ、俺は⋮﹂
﹁ブラックコーヒーだろ
3人は興奮していた。
﹁ソレに、オトヤヨリパンチが、トテモイタカッタヨ∼﹂
じだったが、君はそう、山猫だな。﹂
﹁君は、音夜より野生的だな。音夜は血統書付きの家猫といった感
﹁まひるは明るかった﹂
﹁音夜と違って髪は伸ばしてるんだな。﹂
﹁まひるはもっと髪が長かった。﹂
インズからの好奇の目で観察された。
妙だった。コーヒーとお茶を飲みながら操一朗と和奏はコンドルク
ネルでいれたコーヒーは操一朗好みの深みのある香りと苦味が絶
﹁昔、音夜にずいぶんとコーヒーのいれかたを教わってね。﹂
持ってきた。
陽気な老人はキャンピングカーから粉の入ったビンと用具一式を
?
55
?
﹁あぁ、今での昨日の事のように思い出すよ、音夜とまひると一緒に
音楽について語り合ったのを⋮﹂
﹁⋮⋮今でも信じられんよ、二人がもういないなんて⋮﹂
♪♪♪
夕暮れの墓地に、コンドルクインズが奏でる音色が淋しげに響い
た。
♪♪♪
翌朝、なんだか微妙な気持ちで目が覚めた操一朗は、朝練をいつも
通りやったが、予定の半分もやり終えないうちに切上げてしまった。
こういう時は決まってサブレに会いに行く。あの目を見て、乗って
﹂
﹂
陽気な老人を見送ると、紗羽はサブレから降りた。
﹁乗るんでしょ
﹁あぁ。﹂
﹁ソウ、ちょっと詰めて、よい、しょっと。﹂
﹁やっぱサブレに乗るといいわ⋮﹂
りしっかり感じていた。
一気に広がった、が、操一朗は大地から伝わる音を全身で、いつもよ
操一朗は鐙に足をかけると一気に跨った。視点が高くなり世界が
?
56
走ると悩みが吹っ飛ぶのだ。
乗った時の感動をより実感するために、マシンレイダーを使わず
走って紗羽の寺まで行くと、サブレに乗った紗羽と、散歩途中のコン
ドルクインズの陽気な老人が子豚と一緒に話していた。子豚はサブ
レに興味津々で近付いていた。
﹂﹁食べねぇよ
﹁おぉ、おはよう操一朗。おいこらポエム、あんまり近付くな、食わ
れるぞ。﹂
﹁食べません
!
紗羽と操一朗の声がハモった。
!
﹂
操一朗が馬の素晴らしさに感じ入っていると、紗羽が乗ってきた。
﹁ちょ⋮、サブレ大丈夫か
操一朗が話し掛けると、サブレは﹁なんともないよ﹂と言う風に見
つめ返してきた。
﹁う∼ん、昔は2人で乗っても広く感じてたけど、今はちょっと狭い
ね。﹂
﹁そりゃ俺らもう身体的には大人だしな。﹂
﹁⋮よっ、﹂
紗羽は寄り添う様に操一朗に密着して腰に手を回した。
ほょん
ここは紗羽の家の敷地内。
←
紗羽は先ほど欠伸を噛み殺していた。
←
つまり寝起き。
←
服装はラフなTシャツとジャージ。
←
イコール・・・・・・・
そんな紗羽の胸が操一朗の背中に押し付けられた。が、操一朗は特
に気にせずサブレの腹を軽く蹴った。
高校生の男女、それも平均以上の発育をした2人を乗せているので
﹂
流石に走るのは無理だが、サブレはゆっくりと歩き出した。
﹁なぁ、なんか近いうちに祭りってあるのか
﹁⋮
﹂
﹁うん、あるよ。﹂
いた。
操一朗はファンガイアの目的が〝祭り〟という事が引っ掛かって
?
に見立てたステージ設けて、そこで専属の歌い手さん呼んで歌っても
57
?
﹁なんかね、町内会で企画した夏祭りで、町内5∼6箇所に世界各地
ビンゴだった。
!
らうんだって。で、投票して一番を決めるんだって。﹂
﹁へぇ⋮﹂
どうやら昨日のファンガイア、河童の目的はその祭りに集まる多く
の人間達らしい。
﹁それで、海の家の長岡さんに頼んで海岸のステージで歌わせても
らおうとオーディションしたのに、あのお爺さんたちが勝手なアドリ
ブ入れて⋮﹂
紗羽は昨日の事を思い出して少しイライラしてきた。
﹁来夏も最初は抗議したのにコンドルクインズだってわかったら途
端手の平返してステージどうぞとか譲っちゃうし、自分からオーディ
それでもっと話聞きたいからってウチ
ションして下さいって言っといて、自分からどうせ勝てないモンとか
﹂
言って辞めちゃったんだよ
に泊まるし
﹁あ、ゴメン
サブレ⋮﹂
紗羽が怒鳴ると、サブレが立ち止まってしまった。
!
操一朗は話題を変えた。
﹁なぁ、お前針路ってどうすんだ
﹂
もないよ﹂と首を振って、サブレはまた歩き出した。
紗羽がサブレの背中を優しく撫でると、
﹁びっくりしただけ、なんで
!
?
借り物らしきシャツはだぶだぶだった。
﹂
﹂
木々の隙間から小動物・・・もとい、来夏が出てきた。紗羽からの
﹁ちょっと∼、何朝っぱらから不順異性交遊してんのさ∼﹂
﹁⋮なぁ、動物看護師⋮﹂
﹁今パンフレットと願書取り寄せてるんだ。﹂
﹁⋮⋮へぇ⋮﹂
言ってるじゃん。﹂
﹁ん∼、競馬の騎手の養成学校に入ろうと思ってるよ。てか昔から
?
58
!
﹁ねぇ紗羽、今日の部活、休んでいい
﹁はぁ
?!
紗羽は語気を強めた。
﹁なんかね、海の家のステージでリハやるんだって、それで⋮、見学
してもいいって言うから⋮﹂
﹂
昨日のオーディションだっ
﹁ねぇ来夏、私たちまだ何もしてないよ⋮﹂
紗羽はサブレから降りた。
﹁どうして何もしないで諦めちゃうの
て⋮﹂
﹁だってどうせ敵わないし⋮﹂
﹁やってもいないのにどうして勝手に決め付けるの
紗羽が怒鳴った。操一朗はサブレが暴れないように首筋を撫でて
やった。
﹁私、もしレースで憧れの騎手が相手でも絶対に手を抜かない。そ
の人の事憧れている以上に、馬で走るのが好きだから。来夏だって歌
うのが好きだから声楽部辞めてまで合唱部作って、あのステージで2
私はそんな来夏だから一緒にやってきたのに、来夏がそういうつ
﹁え
﹂
オタンコナツ
﹂
﹁お前の本気の音楽ってのに、俺はちょっと期待してたんだぞ。﹂
操一朗は馬上から話し掛けた。
﹁おい、オタンコナツ。﹂
紗羽は家の方に走り去ってしまった。
!!
﹁そんな⋮、あたしどうしたら⋮﹂
ドミントン剣道部崩壊への序曲しか奏でらんねぇぞ。﹂
﹁けど、今のお前の音楽じゃ和奏を楽しませるどころか、合唱時々バ
ま、昨日はちょっと沈んでたけどな⋮、と操一朗は心の中で呟いた。
んでやってるみたいだぞ。﹂
音の中に入れちまった。あいつ、自分じゃ気づいてねぇけどまた楽し
﹁普通科に転科した和奏をしつこいまでに勧誘して、またあいつを
?
59
?!
?
人だけで歌って、田中と勝負までして合唱部を存続させたんじゃない
の
バカッ
!
もりでこれからもやってくっていうなら、私もう合唱部辞めるからね
?
﹁⋮ぁ、﹂
!
﹁その紗羽のTシャツのすっかすかな胸に手ぇ当てて考えろ。﹂
操一朗は捨て台詞を吐くとサブレを走らせ紗羽を追った。
﹁はぁ⋮、はぁ⋮、ソウ⋮﹂
﹂
紗羽が馬小屋の中で胸を押さえて息を切らしていた。
﹁紗羽⋮、ノーブラで全力疾走なんかするか⋮ッ
ゴッ
紗羽のアッパーカットが操一朗の顎に決まった。
﹁操一朗
﹂
クインズのステージ目当ての観客達の間を縫うように歩いていた。
のアロハシャツという、一見したら不良風の格好で海水浴やコンドル
音楽フェスティバル当日、操一朗は七分丈パンツにやたらだぶだぶ
♪♪♪
いた。
﹁ばかだな、そういちろう﹂サブレはそんな風なじと目で2人を見て
!
って、来夏か、びっくりした⋮﹂
?
いた。
﹁おぅ、お前も聞きに来たのか
﹂
﹁うん⋮ちょっとね⋮﹂
﹁わっかな
﹂
としたボーダーのカラフルな水着、それにパーカーを羽織った和奏が
不意に声をかけられた。振り返ると、お団子ヘアにオレンジを基調
?
﹁いいんじゃね
﹂
?
にしても、よく見つけたな。﹂
紗羽はくるっと回った。
﹁うん、花屋さんのね。どうよ、この衣装
紗羽達は水着にハワイ風の装飾を身に付けていた。
﹁よぉ、その格好、ステージは確保できたみたいだな。﹂
来夏が後ろから和奏に抱きついた。
﹁ひゃあっ
!
!?
?
60
!
﹁ふふん、あたしが本気を出せばこんなもん⋮﹂
﹁私が口利いて来夏を紹介したの。﹂
﹁ちょっと和奏∼、そこは部長を立ててよぉ∼。﹂
﹂
いつの間にか和奏と来夏は名前で呼び合うくらい打ち解けていた。
﹁ちょっとコンドルクインズの楽屋に挨拶でも行くか
操一朗が誘うと、全員ついてきた。
﹁やぁ、どうぞ。﹂
﹂
﹁イマノハ、オトヤノウケウリヨ。﹂
﹁よし、じゃあ合唱部、ステージに戻るよ
﹁時々バドミントン﹂﹁それに剣道な﹂
大智と操一朗の突っ込みが続いた。
﹁あぁ、和奏、それに操一朗。﹂
﹂
コンドルクインズの小柄な老人が正論を言った。
﹁客がいるから歌うんじゃない、歌って客をあつめるんだろうが。﹂
余計なことを言った大智の脇腹を来夏が小突いた。
﹁海から離れてるから、客いなく⋮って、﹂
﹁君達のステージはいいのかい
コンドルクインズの陽気な老人が快く招きいれてくれた。
?
﹁親父の⋮弓⋮﹂
﹁お母さん⋮﹂
﹁君が生まれた時に送られてきたんだ。その弓と一緒にね。﹂
和奏には手紙、操一朗にはバイオリンの弓を手渡した。
﹁これを、君たちに。﹂
人を呼び止めた。
4人がテントから出て行くと、コンドルクインズの陽気な老人が2
!
緒川邸の地下室に保管されているバイオリンは、確かに弓がなかっ
た。
キィィィン
61
?
﹁っ
会場警備のバイトに戻る時間だから、俺はこれで
﹁おぅらぁっ
﹂
同じ方向に飛んでいった。
﹂
操一朗はテントから出ると、上空を見上げた。レイバットが昨日と
!
﹂
!
﹂
!
た。
﹁変身
﹂
﹂
!
﹂
﹂
﹁こっちだ
﹁ワッツ
﹂
河童が礫を振り払うと、レイの姿が消えていた。
﹁アウチチチ
童にぶつける仮面ライダーレイ。
変身時に出現した6本の六角氷柱を連続パンチで氷の礫にして河
!
操一朗は右手でレイバットを掴み、垂直に立てた左前腕に噛ませ
﹁うむ、ギャブリ
﹁当然だ、レイバット
ぶのアロハシャツはこれを隠すためのものだったのだ。
となり、その腰には既にレイバットベルトが装着されていた。だぶだ
操一朗はアロハシャツの前をバッと開いた。逞しい上半身が露わ
﹁ぱっぱ∼、性懲りも無くまたきたNA﹂
だ。
跳びよろしくジャンプして飛び掛り河童に挨拶一発、拳を叩き込ん
昨日と違い、既に海岸付近の岩場にいた河童目掛け、操一朗は八双
!
﹁華激︵カゲキ︶に行こうか
!
﹂
!
﹂
﹁HAHA∼N、学習能力のない奴だな。海の藻屑にしてやるYO
河童は海岸まで吹っ飛ばされた。
﹁Oh∼∼
氷の礫を目眩ましとしたレイは真横から前蹴りを喰らわせた。
!
?
﹁美路歌露洲︵ミロカロス︶
﹂
!
62
!
河童は巨大な波を発生させてレイを飲み込んだ。
!
緒川邸
﹁あ、呼ばれちゃった
﹁マーメイドパート
﹂
﹂
いて、レイバットに咥えさせた。
レイはレイバットベルトのスロットから珊瑚色のフエッスルを抜
人間態の美路歌露洲︵ミロカロス︶は青いボールに納まった。
!
を隠した。
﹁はぁっ
﹂
河童の乗った波を弾くほどの激しい水柱が仮面ライダーレイの姿
バシャァンッ
イダーレイと一体化した。
レイが上に投げると美路歌露洲︵ミロカロス︶が飛び出し、仮面ラ
移動してきた。
レイの手に美路歌露洲︵ミロカロス︶が納まった青いボールが瞬間
!!
となっていた。
両大腿部がクリーム色になり、脚部は珊瑚色になった。
さらに両足首に魚の鰭の様な装甲が付いた。
仮面ライダーレイマーメイドパート
﹂
マーメイド族の力をその身に憑依させた、たゆたう仮面ライダー。
﹁はぁっ
レイが右手を突き出すと、海水がその動きに応じて河童に激流と
﹂
なって襲い掛かった。
ゴォッ
﹁PA∼∼
﹁っしゃあ
﹂
河童は激流に飲み込まれ海まで吹っ飛んだ。
!
!
63
!
水柱を腕で薙ぎ払うと、海面に立った仮面ライダーレイは新たな姿
!!
!
!
﹂
レイはガッツポーズをとった。
﹁操一朗、まだだ
﹂
﹂
!
﹂
!
﹁レイバット
﹂
﹂
!
﹂
!!
♪♪♪
﹂
河童はステンドグラスの破片を撒き散らしながら爆散した。
﹁PA∼∼
河童に喰らわせた。
その速度を右足に集中させ、三日月のような弧を描いた回し蹴りを
﹁水龍尾脚︵アクア・テール︶
レイは海上を猛スピードで滑走し、河童に肉迫した。
﹁ウェイカップ
レイは白いフエッスルをレイバットに咥えさせた。
﹁うむ、決めるぞ
﹂
河童が海中から飛び出してきた。
﹁PAPPA∼∼﹂
ババババババ
発射した。
レイは会場を滑りながら右手で弦を引き絞ると弓を海中に連続で
﹁弓、か。おあつらえ向きだぜ
すると、左腕にボウガン、マーメイアローが装備された。
仮面ライダーレイマーメイドパートは頭上高く左腕を突き上げた。
﹁親父⋮、よし
その時、音夜の形見である弓がレイの左手に握られた。
段が無い⋮﹂
ドパートで水中戦が可能となってもこちらは基本近距離攻撃しか手
﹁マズイな、奴は海中からの遠距離攻撃に徹するようだ。マーメイ
レイは砂浜を転がって回避した。
﹁うぉっと
レイバットの叫び声が響くと、海中から太陽光線が放たれた。
!
!
!
64
!
!
﹁はぁ∼、パートチェンジはいつもより疲れんなぁ∼。﹂
﹂
操一朗は伸びをしながら夕暮れの海岸を歩いていた。
﹁ん⋮
操一朗は水平線の向こうを見つめている和奏を見つけた。
﹁和奏。﹂
﹁あ⋮、操一朗⋮﹂
和奏の手には先ほど渡された手紙が握られていた。
﹁なぁ、今度この弓であのバイオリン弾くからお前、ピアノを弾いて
⋮﹂
﹂
﹁お母さんが緒川の家から持って来たあのピアノ⋮、売ろうと思う
の。﹂
﹁は⋮
65
?
?
第4話 落ち込んだり、倒れたり
!
﹂
!?
白浜坂高校田中大智︼
!
﹂
﹁くっ、こんな時に眼前暗黒感が⋮、もうここまでだと言うのか
﹂
﹁諦めちゃダメだ、僕らにはまだ、これがある
﹂
⋮⋮私たちはまだ、終りじゃない
﹁はっ
︻優勝
!!
﹂
?
﹁弓道か
﹂
﹁いいなぁ、私も大きな舞台に立ちたい﹂
大智は上半身を起こすと冷静に応えた。
﹁いや、ずっとイメージしてきたから﹂
﹁緊張してる
智に話し掛けた。
紗羽はそんな歌を聞きながら、操一朗の手伝いで柔軟をしている大
﹁全国大会かぁ∼⋮﹂
歌い始めた。 そんなことが書かれたカラフルな横断幕を広げ、来夏とウィーンは
おめでとう
4話 落ち込んだり、倒れたり
︻現代︼
﹁今こそこの力を、解放する
﹂
﹁うん
!
﹂﹂
紗羽の真っ直ぐなその眼差しに、大智は見蕩れた。が、操一朗は表
ルを目指すの﹂
﹁私、騎手になりたい。全力で走る馬と一緒に、誰よりも早くゴー
操一朗と大智の疑問がハモった。
﹁﹁馬
﹁ううん、私は馬﹂
?
66
!
!
!!
?
情を曇らせた。
﹂
﹁へぇ∼⋮、カッコいいな﹂
﹁本当に
返った。
﹁おい
回戦だぞ﹂
﹂
﹂
﹁優勝するって気概が大事ってこと
﹁その通り
﹁ウィーンの努力を無駄にする気
﹁⋮んだよ、その斜め上の発想⋮﹂
操一朗は肩を竦めた。
まだ一
?
﹁⋮え
﹂
﹁わっかな
﹂
いっぱいだった。
和奏の頭の中は先日コンドルクインズから渡された手紙の事で
そんな操一朗達を、和奏は観客席の数段上から見ていた。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹂
あんまはしゃぐな、つーかおめでとうって何だよ
操一朗は大智の背中から手を放すと来夏とウィーンの方を振り
!?
﹂﹂
!
っと、大智スマン、キバっていけよ
!
ま会場の外へ出て行った。
﹂
﹁あ、おい和奏⋮
﹁おぅ
!
操一朗は大智と拳をぶつけ合わせると和奏を追った。
﹂
和奏はマラカスを来夏に返すとカバンを持って立ち上がり、そのま
﹁⋮⋮⋮ごめん、私今日ちょっと体調悪くて、先に帰るね﹂
和奏はマラカスを手に、歌を降られても呆然としていた。
﹁﹁今、巨大な、て∼きに、立向かうのさ∼∼、はい
きた来夏は、和奏の手にマラカスを握らせた。︵しかも2つ︶
わざわざ第三音楽室の片隅で埃を被っていたのを引っ張り出して
﹁一緒に応援しよ、はい、和奏のマラカス﹂
来夏の声で和奏は現実に戻った。
!
67
?
!
!
!
?
!
♪♪♪
操一朗は和奏をバイクの後ろに乗せて﹃こかげや﹄まで送った。
﹁お∼、おかえり、早かったな﹂
﹁うん、今日私が晩御飯作るね、操一朗も食べていきなよ﹂
﹁おぅ﹂
﹂
操一朗君、スマンがレジ頼めるか
﹂
店内の喫茶スペースも土産物スペースも、今日はずいぶんと忙しそ
うだった。
﹁ねぇ、お茶くださる
﹁あ∼、はいはい、ただいま
喫茶スペースの接客に追われていた圭介は操一朗に頼んだ。
﹁うぃ∼﹂
♪♪♪
﹁お、大智⋮、ベスト8か﹂
メールが着た。
夕方、その日の営業時間が終り、店内の掃除をしている時紗羽から
カップルの対応をした。
操一朗は制服の上からエプロンを付けると赤い錠前を持ってきた
?
翌日、操一朗は特に何をするでもなく、海岸沿いをぶらぶら歩いて
いた。
68
!
?
﹁ん⋮
﹂
すると前方に和奏と、足首に包帯を巻いて真っ二つに折れたサーフ
ボードを自転車の荷台に載せてよろよろ歩いている志保を見つけた。
﹁お∼い﹂
﹁あ、ソウ君、ちょうど良かった﹂
年甲斐もなく・・・・・・もとい、ちょっとしくじって怪我した志
﹂
保を操一朗が負ぶって、和奏が自転車を押しながら山の上の寺に到着
した時には汗だくだった。
﹁助かった∼、ありがとね、お風呂入ってく
﹁お言葉に甘えて﹂
﹂
﹁あれ、それは⋮
﹂
操一朗が浴衣を着て縁側に行くと、和奏と志保が何かを見ていた。
︵この母にしてあの娘か⋮︶
たかったのに﹂
﹁ちぇ∼、ソウ君の身体の発達具合とかじっくり舐るように確かめ
﹁あとで紗羽にどやされるの俺なんで全力で遠慮します﹂
てもいい
﹁あ∼にしてもあっついなぁ∼、ねぇソウ君、アタシも一緒に入っ
﹁うぃ∼、どもっす﹂
燥機かけてるから﹂
﹁ソウく∼ん、来客用の浴衣とタオルここ置いとくね∼、服は今乾
かなり広い。大柄な操一朗が入ってもかなり余裕がある
沖田家の風呂はまるで旅館のように木製でヒノキの浴槽完備して
がある、勝手知ったる沖田家の浴室でシャワーを浴びた。
服をびっしょり濡らした操一朗は小さい頃から何度か入ったこと
?
の真ん中には・・・
と書かれた横断幕をバックに、20人近くの生徒が写っていた。そ
︻祝 合唱部優勝おめでとう︼
﹁あぁ、これ昔の合唱部の写真よ﹂
?
69
?
?
﹁まひるちゃん⋮﹂
﹁そ、ソウ君の叔母さん。ちなみにこの写真撮ったのはお父さんの
音夜さんよ﹂
﹁親父が⋮﹂
﹁な ん か あ の 人 全 国 大 会 直 前 に 急 に 着 い て 行 く っ て 言 い 出 し て、
まぁ男手はあるにこしたことはなかったし女子部員達も反対どころ
か大賛成したんだけど、宿泊先とか学校への届出もあって、結局音夜
﹂
さん、審査員の1人が音楽会社の知り合いだったらしくて、それに同
行する形で着いてきたの﹂
﹁⋮これもしかして⋮﹂
﹂
操一朗はまひるが抱きついている隣の女子生徒を指差した。
﹂
﹁あぁ、それ高倉先輩。高倉直子って今教頭でしょ
﹁若⋮﹂
﹁みんな合唱部だったんですか
﹁そうよ、全国大会で優勝したの。お母さんから聞いてない
♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪
科受験だったことでピリピリしていた。
そんな2人を気遣ってか、まひるも圭介も何も言わなかった
昔から何度か倒れて入院していたので、二人ともそんなに心配はし
ていなかった
その日も倒れた一報を聞いて慌てて駆けつけた2人にまひるはい
70
?
3年前、2人とも受験を控え、特に和奏は実技や面接を伴なう音楽
?
?
つものように笑ってくれた
そ し て す ぐ に 退 院 し た が、だ る そ う に し て い る こ と が 多
く・・・・・・・・・
♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪
バイクを洋館のガレージに停めてポケットから家の鍵を取り出す
と、小さい頃まひるが和奏とお揃い作ってくれた、鯨のような金魚の
ようなシャチのマスコット︵和奏のはイルカ︶が揺れた。
71
操一朗は地下室へと入っていった。
﹁あ∼、操一朗∼、おっはよぉ∼⋮﹂
欠伸を噛み殺しながら学ランを着た少年が奥から出てきた。
﹁おう、玄牙︵ゲンガー︶、夏眠︵カミン︶から起きたか﹂
﹁まぁ∼なぁ∼﹂
玄牙︵人間態︶はくしゃくしゃの黒髪を掻きながら答えた。
ゴースト族は実態を持たない霊魂のみの存在だが、玄牙︵ゲンガー︶
は強力な幻術能力で人の姿に変化している。ただ、玄牙︵ゲンガー︶は
日本に居憑いて久しく︵幕末の頃にはもういたらしい︶、お盆の時期に
は力が極端に落ちてしまう体質︵霊質︶になってしまい、夏眠︵カミ
ン︶と称して一時的に完全休眠を取っているのだ。
﹂
﹁そうや、こないだ河童とやりあったらしいけど、幻術結界無しで
バレなかった
帯を監視してくれてたしな﹂
﹁あぁ、祭り会場からは結構離れていたし、五嶋さんがあの辺り一
?
操一朗は地下室の奥のガラスケースの前に立った。中には父音夜
が使っていたバイオリン、そして先日コンドルクインズから渡された
弓が収められていた。
﹂
﹁なぁ、あのバイオリン弓戻ってきたし、弾いても・・・・﹂
﹁駄目だ﹂
﹁うぉっ、ユノ
部屋の隅に佇んでいたモンスター形態の雪之王︵ユキノオー︶の声
が静かに響いた。
﹁お前はお前のバイオリンを創れ。練習なら五嶋から練習用にと買
い与えられたのがあるだろう﹂
﹁そうだけどよ⋮⋮⋮﹂
操一朗は幼少期からバイオリンに関する書物を読み漁り、五嶋に頼
んで知り合いの工房見学にも何度か行っていた。
ただそれだけなのに、操一朗は普段の素行や剣道、戦闘スタイルと
は真逆の繊細さと手先の器用さ、一種の天賦の才とも言える才覚を発
揮し、今では中の上程度のクオリティのバイオリンを作ることができ
た。ただ、雪之王︵ユキノオー︶、玄牙︵ゲンガー︶、美路歌露洲︵ミ
ロカロス︶の前で弾いてみても音夜が作り上げたバイオリンには及ば
ない、という評価だった。
﹁自分で言うのもなんだが、技術はもう足りてんだよ、あとは材料
だと思うんだよ⋮⋮⋮﹂
﹁そうか、ならばそれに専念しろ、そのバイオリンは我らの許可無
く使用することはならん﹂
ユノはその巨体から響く声で操一朗に言い聞かせた。それだけ言
うと雪之王︵ユキノオー︶は目を閉じまた眠りについた。
﹁んじゃ、俺は夜の散歩行って来るから、なんかあったら呼んでく
れ﹂
玄牙︵ゲンガー︶は足元の黒い影に溶け込む様に消えた。
﹁はぁ∼⋮﹂
72
!
操一朗は溜息を吐いた。
バキバキbeating now∼
g now∼
﹂
かっ飛ばしてkickin
いに行く事になってな、それでその間こっちに泊まってくれないか
のは⋮﹄
﹁ん、わかった、しばらくそっちに泊まる。どんくらい
操一朗は即答した。
﹂
﹁2∼3日くらい、それともう一つ頼みが⋮﹂
﹁⋮⋮⋮え
?
﹁⋮⋮⋮﹂
られていた。
その日は台風が直撃する予報がテレビの天気予報で繰り返し伝え
♪♪♪
﹂
もう子供じゃないって言ってるけど⋮やっぱり女の子独りだけって
?
﹃あぁ、操一朗君、圭介だけど。実は親戚が急病でそっちの畑手伝
﹁もしもし
スライド式携帯を取り出すと上部をスライドさせて電話に出た。
着メロが鳴り、操一朗はガラケーの中でもさらに希少種、白と緑の
!
空を見上げながら操一朗はまひるが倒れた日を思い出していた。
﹁操一朗﹂
73
!
?
?
操一朗の前に停まった軽トラから作業着姿の五嶋が声をかけた。
﹂
﹁おぅ、さっき叔父さんから和奏が補習行ったって連絡あったから、
さっさと済ませよう﹂
操一朗助手席に乗ると五嶋は車を出した。
﹁さっきは何ガラにもなく黄昏ていたんだ
﹁ん∼、いや、まひるちゃん、なんで病気の事行ってくれなかった
んだろうなぁ∼、ってさ﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
五嶋ハンドルを握る手を握り直した。
﹁まひるも、音夜もだが、あれで中々頑固でな⋮、お前も和奏ちゃ
んも受験を控えていたし、あいつなりに気を使ったんだ。お前達は納
得行かないかもしれんがな﹂
操一朗は窓の外を眺めながら先日コンドルクインズから渡された
手紙に書かれた内容を思い出していた。
♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪
﹁これからは、和奏と操一朗と一緒に歩きたいの。その健やかなる
時も、病める時も、喜びの時も、哀しみの時も、そんな歌が和奏と一
緒なら作れる気がする。私にとって歌は⋮、愛を伝える言葉だから。
そして兄さんは私に大切なことを教えて遺してくれた、それを操一朗
に伝えていきたいの。2人に伝えたい想いが、歌に、メロディになっ
てそれを一緒に奏でることができたら⋮⋮⋮⋮、そして、2人の歌を、
曲を聴くことができたら⋮⋮、私の人生は、百点満点です﹂
♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪
74
?
﹁よし、これで終わりか﹂
一仕事終えて緒川家まで戻り、額の汗を拭いながら五嶋は一息つい
た。
﹂
﹁つーか、陽子さんの予定日今日だろ、軽トラ頼んどいてあれだけ
ど、大丈夫なのか
の面倒もみなきゃいかんしな﹂
ブー ブー ブー
わかった
!!
五嶋の携帯が鳴った。
うむ、
!
﹁スマン
﹂
陣痛が、陣痛が⋮﹂
﹁あぁ、わぁ∼た、わぁ∼た。いいから行けって﹂
﹁そ、操一朗
珍しく動揺した五嶋は携帯を切ると操一朗の肩を掴んだ。
﹁私だ、はっ
﹂
﹁なに、子供も心配だが、その前にもっとの手のかかる長男︵お前︶
?
﹁五嶋さんとこに子供か⋮、男と女どっちだろ⋮⋮⋮﹂
♪目∼に見え∼る、不安を数えて∼∼⋮♪
今度は操一朗の携帯が鳴った。相手は紗羽だった。
﹃あ、ソウ。今から学校で田中のバドミの祝勝会するの、ケーキも
あるから来てよ﹄
﹁あ∼、悪ぃ、ちょっとやんなきゃならん事があってな﹂
﹃え∼、和奏も用事あるって言って欠席してんだよ∼、2人して何
してんだよ∼﹄
来夏の声が電話の向こうからした。
それってどういう⋮﹄
75
?!
!
五嶋は軽トラに乗ると急発進させた。
!
﹁別に何もしてねぇよ、しばらく和奏ん家に俺が泊まるだけだ﹂
﹃は
?
紗羽の言葉の途中で操一朗は電話を切った。
﹁さて、﹂
操一朗は頼まれ事をさっさと済ませてようと袖を捲くった。
♪♪♪
﹁ふぃ∼、﹂
用事を済ませた操一朗は空を見上げた。
﹁レイバット﹂
操一朗が呼びかけるとレイバットが洋館から飛んで来た。
76
﹁ちょっと和奏迎えに行ってくる﹂
﹁うむ、我のレーダーでもそろそろ台風が直撃すると算出されてい
る﹂
﹁いや、それ単に気象庁のデータベースにアクセスしただけだよな﹂
レイバットは高性能PCとしても活用できる。某都市の右側相棒
には及ばないまでも、大抵のことは検索できる。
バイクに跨り走り出した操一朗を見送りながら、レイバットは物思
いに深ける。
﹁⋮そういえば、まひる嬢が亡くなったのもこんな天気だったな
⋮⋮⋮﹂
♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪
出しといてって頼んだでしょ﹂
白浜坂高校の受験日、和奏はぴりぴりしていた。
﹁お母さん、合羽は∼
?
﹁⋮あ、ごめん⋮﹂
﹁自分のだろ、お母さんに頼まないで自分で用意しなさい﹂
他に忘れ物はない
﹂
圭介の言葉を無視して、和奏は傘を持って靴を履いた。
﹁受験票持った
﹁ん∼⋮、ない﹂
ガタンッ
﹂
﹁まひる嬢﹂
﹁あぁ、レイバット。なんだか久し振りだね。見てたの
先日倒れたと聞いたが﹂
?
﹁大丈夫だよ、みんな大げさなんだから⋮。それより操一朗は
﹁大丈夫なのか
﹂
まひるの言葉に、しかし和奏は振り返らないで歩いていった。
﹁ぁ⋮、和奏、いってらっしゃい、頑張ってね﹂
﹁⋮もう濡れるから早く戻って﹂
まひるが渡したのは合格祈願のお守りだった。
﹁ほら、これ﹂
﹁何
小雨降る中、まひるはそのまま和奏を追いかけた。
﹁あ、待って﹂
和奏は口調も荒く玄関の戸を閉めた。
?
本番には強い。合格は難くないだろう﹂
﹂
﹁そ っ か ⋮⋮⋮、高 校 に 入 っ た ら、ま た ⋮、3 人 で ⋮ 音 楽 を
﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁まひる嬢
バタンッ
?
77
?
?
﹁うむ、あいつも一般受験に向かった。何だかんだで音夜の息子だ、
?
?
﹂
まひるは濡れた路面に倒れた。
﹁まひる嬢
♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪
﹁うわ⋮、やっば合羽忘れちゃった⋮﹂
和奏はスーパーから出たところで傘を差していたが、雨風が強く、
意味が無かった。
﹂
がしゃん がしゃん
﹁え⋮⋮⋮
和奏が後ろを振り返ると、右目の無い、隻眼の鎧武者が歩み寄って
きた。
♪♪♪
﹁うゎ、結構ヤバイな⋮﹂
操一朗は視界がやや不良な状況でマシンレイダーを走らせていた。
キィィン
78
!!
?
﹁っ
こんな時に
﹂
﹂
﹂
!
んで来た。
﹁操一朗
﹁わぁ∼ってる
和奏嬢も心配だろうが今は、ギャブリッ
すぐにレイバットがベルトが入ったアタッシュケースを持って飛
?!
﹂
!
﹂
﹂
﹂
!
仮面ライダーレイは隻眼鎧武者に突っ込んでいった。
﹁変身ッ
﹁待て、音夜、奴は⋮
操一朗はベルトを装着するとレイバットを掴んだ。
﹁⋮∼っ
和奏が濡れたアスファルトに倒れていた
操一朗がファンガイアの出現地点に辿り着くと・・・・・・・
﹁おい⋮、あそこに倒れてるのって⋮﹂
操一朗とレイバットは結界に突っ込んだ
﹁あの結界⋮、まさか⋮⋮⋮﹂
﹁あそこか
た。玄牙︵ゲンガー︶の幻術結界とは似て非なる感じがした
すると、前方に異様な空間が周囲と隔離されたように広がってい
はスピードを上げた。
レイバットが噛み付き、バイクがマシンレイダーになると、操一朗
!
!
!!
!!
79
!
﹁今のレイか⋮、﹂
﹁大樹鉄槌︵ウッド・ハンマー︶
パシン
ピシィッ ビキビキビキビキ
﹂
左腕を鉄槌と化して振り下ろす仮面ライダーレイの得意技を鎧武
者は片手で受けとめた。ダメージはそのまましたのアスファルトに
伝わり、鎧武者を中心に10mにもおよぶ亀裂が入った。
﹁なるほど、完成されたレイの鎧の力に、装着者の身体能力も中々
高い﹂
﹂
鎧武者はレイの拳を掴むと軽く反対側に放り投げた。
﹁ぐはっ⋮﹂
レイは地面に叩き付けられた。
﹁おいレイバット、アイツんこと何か知ってんのか
﹁あぁ⋮、奴は⋮⋮⋮﹂
?
レイバットはベルトに装着された状態で静かに、衝撃の事実を口に
した。
﹁音夜を殺し、まひる嬢が病弱になった原因だ。﹂
﹁なん⋮、だと⋮⋮⋮﹂
貴様、今度は和奏嬢を⋮﹂
﹁キバット族の模造品が、未だに活動していたか﹂
﹁当たり前だ
80
!!
﹁いかにも、あの女の娘なれば、我の下に連れて行く﹂
!
﹁⋮⋮⋮けんな⋮、﹂
レイは拳を握り締めた。
﹂
﹁操一朗、ここは和奏嬢を連れて逃げ⋮﹂
﹁ざけんなッ
レイはアスファルトに拳を叩きつけると立ち上がった。
緒川家地下室
﹁む⋮、﹂
雪之王︵ユキノオー︶は瞑っていた目を見開いた。
美路歌露洲︵ミロカロス︶
﹂
ガラスケースに収められたバイオリンが異常な高周波を発してい
た。
﹁マズイ⋮、玄牙︵ゲンガー︶
ガシャァァン
♪♪♪
﹂
!
れは柄の無い、剥き身の大太刀となった。
レイが雄叫びを上げ、その手に音夜のバイオリンが握られると、そ
﹁ああああああああああああああ
!!!!!!!!
ガラスケースが割れ、中のバイオリンが外に飛び出した。
!
81
!!!
!
﹁馬鹿な
それは⋮、﹂
レイバットは驚いた。
﹁⋮む、やはりお前達が持っていたか⋮⋮⋮﹂
隻眼鎧武者もその大太刀に注意を払った。
﹁ぅぅぅぅぅぅ⋮⋮⋮﹂
大太刀を持った仮面ライダーレイは、白い全身がくすんだ灰色とな
り、両腕に巻かれた鎖、カテナは所々千切れて半ば解けかけた。
ジャラ ジャラ ジャラジャラジャラジャラジャラ
﹂
アスファルトに鎖を擦らせながら、レイは隻眼鎧武者に歩み寄り、
速度を上げ、疾走した。
﹁ぁぁぁぁぁぁぁあああ
その刀を離せ
﹂
これ以上は⋮﹂
﹁ゥわァぁァァぁァァッッッッ
しかし、レイバットの声も操一朗の耳には入らなかった。
!!
﹁操一朗
両腕を交差させ防いだが、鎧の一部が欠けた。
﹁ぐむぅ⋮﹂
ガキィ、ッイン
斬りかかった。
攻めの牽制も型も何も無い出鱈目な太刀筋でレイは隻眼鎧武者に
!!!
!
82
!?
!
♪♪♪
濡れたアスファルトの冷たさを感じながら、和奏の脳裏にはまひる
が亡くなった日のことが鮮明に甦っていた。
面接試験中に母が倒れたという急報が入り、同じく筆記試験中だっ
た操一朗共々病院に駆けつけた時には・・・・・・
父の圭介がいた。
五嶋がいた。
そして朝と同じ服装のまひるがいた。
ただ、違う点は・・・
身体にはチューブが繋がれ、顔色は蒼白、そして、息をしていなかっ
た
和奏は何度もまひるの身体を揺すった、何度も、何度も、
操一朗が止めても何度も何度も
死んだ母がだんだん冷たくなるのを感じて、和奏は病室を飛び出し
た。
83
﹁言えなかった、行ってきますももごめんなさいも、ありがとうも、
もう一緒に歌えない⋮﹂
廊下の椅子に突っ伏し、和奏は嗚咽を漏らした。
そんな和奏の側に座った操一朗も、拳を強く握り締めていた。爪が
喰い込んで血が滲むくらい
♪♪♪
﹁AAAAAAAAAAA
﹂
仮面ライダーレイ、操一朗は剥き身の大太刀の茎︵ナカゴ︶を強く
強く、握りしめていた。
父を、叔母を、そして今、最愛の家族を奪おうとする、
テ キ ヘ ノ 憎 し み ヲ コ メ テ
レイの右手からは、まるで涙の様に、赤い血が、滴り落ちていた。
84
!!!!!
第5話 振り返ったり、外してみたり
﹁弦︵緒︶を〝朗〟らかに〝操〟る唯〝一〟の男。人の中に流れる
音楽を守って、美しいものを守って、大切なものを守るため戦う、そ
正気に戻れ
﹂
んな兄さんみたいな、あなたのお父さん、みたいな男の子に育ってね、
操一朗﹂
︻現代︼
その刀を離せ
5話 振り返ったり、外してみたり
﹁操一朗
!
﹁氷礫
﹂
隻眼鎧武者が一歩前に踏み出すと・・・・・
﹁どうやら使いこなせていないようだな。今のうちに⋮⋮⋮﹂
らも眼前の隻眼鎧武者を睨みつけていた。
レイは肩と大太刀をだらりと下げて、しかし眼光だけは濁らせなが
﹁ぅぅぅ⋮⋮⋮﹂
かなかった。
レイバットの必死の静止も、今の操一朗、仮面ライダーレイには届
!
無数の氷塊が猛烈な勢いで隻眼鎧武者目掛け飛んで来た。
﹁ほぅ⋮、ずいぶんと懐かしい面々だ﹂
85
!
ヒュガガガガガ
!
立ちはだかったのは、雪之王︵ユキノオー︶、玄牙︵ゲンガー︶、美
路歌露洲︵ミロカロス︶の3人、否、モンスター形態となった3体だっ
た。
﹁玄牙︵ゲンガー︶、美路歌露洲︵ミロカロス︶、こやつは我が抑え
る﹂
﹁OK﹂
﹁操一朗は任せて﹂
玄牙︵ゲンガー︶と美路歌露洲︵ミロカロス︶は未だ某躁状態のレ
﹂
﹂
イの前に立つと、同時に仕掛けた。
﹁鬼火
﹁烈水波動
ボゥッ
バシャッン
黒紫色の炎がレイの全身を包み込んだ瞬間、波打つ水の輪がレイに
直撃した。
﹁guuuuuuuu・・・・・・・・﹂
﹂
鎧が焼け焦げたレイは足元がふらついていた。混乱状態にあるよ
うだ。
﹁催眠術
﹂
眼が点滅し、やがて消えた。
﹁レイバット
ら落ちた。
!
美路歌露洲︵ミロカロス︶は満身創痍の操一朗を水の輪で受け止め
﹁アクアリング
﹂
し、ベルトを外した。と同時に、変身が解け、剥き身の大太刀も手か
玄牙︵ゲンガー︶の言葉にレイバットがベルトの止り木から飛び出
﹁うむ、強制解除だ﹂
!
86
!
!
!
!
玄牙︵ゲンガー︶がレイの眼前に両手を突き出すと、レイの青い複
!
た。
﹁雪之王︵ユキノオー︶
こっちはOKだ
命を賭して守護する。覚えておけぃ﹂
﹂
﹁我ら、盟友音夜との戦慄︵けいやく︶の下、操一朗と和奏嬢は身
﹁まひるの宝物、和奏は絶対に守る﹂
した。
雪之王︵ユキノオー︶よりもさらに大きな身体で隻眼鎧武者を見下ろ
美路歌露洲︵ミロカロス︶も操一朗を尻尾で巻き込んで庇いながら、
﹁地獄の深淵に沈めるぞ、ガラクタ野郎﹂
それに玄牙︵ゲンガー︶も続いた。
ると知れ﹂
﹁我らが姫君にまで手を出そうというなら、我が真ナル進化で滅す
雪之王︵ユキノオー︶のドスの利いた声が響いた。
﹁巫山戯︵フザケ︶るな、下郎﹂
その女、今しばらくお前達の下に預けておこう﹂
るな、加えてゴースト族にマーメイド族、今の状態では分が悪いか⋮、
﹁ふむ、流石にギガント族歴代最強と云われていただけのことはあ
者の胴を深く抉ったのはほど同時だった。
玄牙︵ゲンガー︶の言葉と雪之王︵ユキノオー︶の豪爪が隻眼鎧武
!
レイバットの言葉に隻眼鎧武者は、くっくっく、と笑うと周囲を
囲っていた結界と共に消えた。
♪♪♪
﹁はっ⋮、はっ⋮、はっ⋮﹂
87
!
﹂
圭介は作業着のまま朝靄のかかる早朝の街を走っていた。
﹁和奏
家に着くと靴とカバンを放り、階段を駆け上がり2階の和奏の部屋
に入った。
﹁おぅ、叔父さん⋮、﹂
部屋には濡れた制服のまま顔を赤くして寝ている和奏と、その和奏
﹂
を膝枕している全身ぼろぼろの操一朗がいた。
﹁どうしたんだ
﹁俺は自分ん家帰るから⋮、﹂
!
﹁あ∼⋮、退屈だ⋮⋮⋮﹂
夏休みが明けたが、操一朗と和奏は体調不良で学校を休んでいた。
♪♪♪
操一朗は敷かれた布団に倒れ込んだ。
れ、そろそろ、俺も⋮⋮⋮﹂
﹁五嶋さんに連絡して俺ん家から着替え持ってくるように頼んでく
けれどすぐにあたふたとする圭介に、操一朗は携帯を放った。
﹁ああでも家に操一朗君の着替えって⋮﹂
有無を言わさぬ圭介に、操一朗も素直に従った。
﹁いいから、操一朗もここで寝なさい
﹂
を振り絞って和奏を抱き上げて階段を降りた。
圭介は下の茶の間に布団を二組並べて敷いた。操一朗は最後の力
﹁とにかく、下に布団敷くから、少し待ってなさい﹂
けてな⋮、和奏も土砂降りの中傘も無く歩いてたみたいで⋮⋮⋮﹂
﹁あ∼⋮、買い物に行った和奏迎えに雨ん中バイク走らせてたらこ
?!
操 一 朗 と 和 奏 は 並 べ て 敷 い た 布 団 か ら 起 き て テ レ ビ を 見 て い た。
88
!
お昼のバラエティ番組で女子アナが見事な食べっぷりで食リポをし
ていた。
﹁⋮⋮⋮﹂
学校は来週からでいいから﹂
和奏はぼーとしてテレビの情報も頭に入っていないようだった。
﹁起きていていいのか
2人分の着替えを畳んだ圭介が部屋に入ってきた。
﹁私、ちょっと着替えてくる﹂
﹁あ∼、俺もちょっと庭で身体動かしてくるわ﹂
﹁おいおい、操一朗君、君はバイクで転んでるんだぞ﹂
﹁これくらい日常茶飯だよ、全国大会も近いしあんま鈍らせたくな
いんだよ﹂
操一朗は濃紺の稽古着に着替えると庭に裸足で立ち、ゆっくりと筋
肉をほぐし、血流を促し、メガネを外すとその場に正座した。右手を
下にするように輪を作り、目を閉じて黙想した。鼻で静かに息を吸
い、わずかに開けた口から吐く。それを繰り返しながら前回の戦いを
振り返った。
︵⋮⋮⋮ あ の バ イ オ リ ン ⋮、ま さ か あ ん な 物 騒 な も ん だ っ た と は
⋮⋮⋮︶
﹁操一朗﹂
操一朗が1人きりになったの見計らって、レイバットが頭上に飛ん
で来た。
﹁レイバット、話、聞かせてもらうぞ﹂
操一朗は目を閉じたまま言った。
﹁うむ、奴は十三族の中でも別格の魔族、レジェンドルガだ﹂
89
?
﹁レジェンドルガ
﹂
﹁通常の魔族であれば、ゴースト族以外は何かしらの生物の形を
持っている。美路歌露洲︵ミロカロス︶なら魚、雪之王︵ユキノオー︶
なら大樹と熊﹂
﹁⋮⋮⋮ユノって木と熊のミックスなのか⋮、てかミカも魚には程
遠いような⋮⋮⋮﹂
﹁根本がその生物というだけだ、永きに渡る進化の過程だ、気にす
るな﹂
レイバットは構わず続けた。
﹁だがレジェンドルガは統一された姿形を持たぬ。かと言ってゴー
﹂
スト族と同様に実態が無いというわけでもない﹂
﹁どういうことだ
﹁その時代における適した姿形になれるのだ。奴を我らと五嶋は
﹃鎧武者レジェンドルガ﹄と呼称している﹂
﹁別格ってだけあって、俺の攻撃が全然効かなかったな⋮﹂
﹁うむ、その強さによって武力で他の魔族を支配、恐怖政治を敷き、
さらにそれに加えレジェンドルガには他の魔族を精神的に操作する
特殊能力が備わっている﹂
﹁マジで、チートの域だな⋮⋮⋮﹂
﹁ただ、そんな力を持つ者がそんなにいるわけもなく、太古の時代、
ファンガイア族のキングが圧倒的な軍勢で攻め込み、最後は︽闇のキ
﹂
バの鎧︾によって滅ぼしたのだ。ただそれでも生き残りがいたという
ことだ﹂
﹁︽闇のキバの鎧︾ってのは、俺のレイとは違うのか
﹁それでもレイの鎧も音夜の時代と比べたら負担を減らした上でか
﹁なるほど⋮﹂
に出力などは大きく下回る﹂
に至る。レイの鎧は大元の構造こそ似通っているが、装着者が人間故
上キックバックも半端無く、ファンガイアでも資質がないと瞬時に死
﹁まず装着者がファンガイアであるということが前提となる。その
?
90
?
?
なり出力は上がっている。が、それでもやはり奴は⋮⋮⋮﹂
﹂
レイバットは語尾を濁した。
﹁あのバイオリン⋮、刀は
﹁鎧武者レジェンドルガが使っていた武器だ。如何なる攻撃にも耐
え得る堅牢にしてあらゆるものを活断する神通無比の大太刀。その
﹂
正体は使用者のライフエナジーを吸い取る妖刀だ﹂
﹁そんな物騒なもんがなんで俺ん家の地下に
左足の爪先は前方ではなく横に向け、腰を落とし、重心を安定させ、
ところで、剣道から剣術の型へと切り替えた。
操一朗は木刀を持つと素振りを始めた。軽く100本を振るった
﹁なら、俺自身が強くなればいいだけだ﹂
ち上がった。
レイバットの絶望的とも言える結論、しかし、操一朗は目を開け、立
﹁あの刀はこちらにあっても、鎧武者レジェンドルガの力は絶大だ﹂
﹁あの隻眼は親父が⋮⋮⋮﹂
に結界を施し、監視していたのだ﹂
オー︶が凍らせたケースにて封印、雪之王︵ユキノオー︶が屋敷全体
モフラージュし、美路歌露洲︵ミロカロス︶の聖水を雪之王︵ユキノ
⋮⋮⋮、音夜の死後、玄牙︵ゲンガー︶の幻術でバイオリンとしてカ
い こ な し、鎧 武 者 レ ジ ェ ン ド ル ガ の 片 目 を 斬 っ た の だ。そ の 後
﹁物騒だからこそだ。かつて音夜はあの刀を人の身でありながら使
?
垂直に立てた木刀の鍔元を頬の辺りにまで上げ、一気に振り下ろし
た。
♪♪♪
91
?
操一朗は素振りを終えると諸肌を脱いで、庭のホースの水を頭から
浴びた。分厚い稽古着で吸い切れなかった汗が流水で流され、まだ厳
しい夏の陽射しが鍛えられた筋肉の溝に溜まった水滴を蒸発させた。
﹂
風が吹くと気化熱がなんとも心地良かった。
﹁⋮ん
﹂
屋の箱を手にした宮本小夏を見つけた。
﹂
﹁あにやってんだ、お前
﹁ひぎゃ
来夏はびくっと飛び跳ねた。
﹂
変
!
?
﹁ちょ⋮、緒川あんたなんて格好してんの
態
ここ和奏ん家だよ
返ると、裏庭からこそこそ坂井家に近付く小柄な人影⋮⋮⋮、ケーキ
手拭で全身を拭きながら操一朗が妙に小うるさい気配を感じ振り
?
差した。
﹁俺の親戚ん家でもあるし、第二の実家みてぇなもんだからノープ
ロブレムだっつーの﹂
同い年の女子に肌を見られても操一朗は慌てる事なく稽古着に袖
を通し襟を整えた。
﹁つーかお前も何裏口からこそこそ泥棒みたいな入り方してんじゃ
ねぇよ﹂
﹁和奏のお見舞いだよ、でもなんかお店から入るのもお仕事の邪魔
かと思って⋮⋮⋮﹂
﹁⋮驚いた、お前⋮、そんな気の使い方ができたんだな﹂
﹁なんだと﹂
92
!?
!?
堂々と上半身裸で自分の前に立つ操一朗を、来夏は震わせながら指
!!
♪♪♪
﹂
操一朗と来夏は坂井家から歩いて10分程度の海岸に来ていた。
﹁ここに和奏いるの
﹁あぁ、アイツ大抵気が塞ぎ込んだ時はここに来てんだ⋮﹂
﹂
操一朗が辺りを見回すと⋮⋮⋮
﹁あ、いた、わっか⋮な
﹁おいまさか⋮﹂
﹁あ⋮、﹂
和奏は海の水平線をじっと見ながら佇んでいた。
﹁⋮⋮⋮﹂
声をかけようとした来夏が途中で止めた。
?
﹂
﹂
奏が振り返るのと、走り寄って来た操一朗と来夏が岩場のわりと大き
い水溜りに転ぶのは同時だった。
93
?
何かを察した来夏は階段を駆け下り、操一朗は一気に飛び降りた。
﹁和奏∼
﹂
﹁ダメ∼∼
﹁え
バッシャーー
!!
!
別に自殺とかそういうつもりは一切なく、たんに海を眺めていた和
!!
?
♪♪♪
﹁部屋、何にも無いんだね﹂
﹁お前だと余計に広く感じるだろうな﹂
ずぶ濡れになってお風呂と和奏の服を借りた来夏と、稽古着と袴を
脱いで陰干しにしてジーンズと黒のノースリシャツに着替えた操一
朗は和奏の部屋に上がっていた。
以前ならピアノがあったので3人も入ればやや手狭だったが、ピア
ノが無い今の部屋はがらんとしていた。
﹁あ、これお見舞いのケーキ。紗羽も半分出してくれたの。あと一
応緒川の分もあるよ﹂
来夏が開けた箱の中身は⋮⋮⋮
94
﹁⋮潰れてるね﹂
﹁さっき派手にすっ転んだからな﹂
白いクリームと茶色のクリームがマーブル状に混じり合って混沌
としていた。イチゴのショートケーキとチョコレートケーキという
のだけはわかった。
ピロリン♪
来夏はそんな燦々たる状況を写メってメールを送信し、箱を丁寧に
畳んだ。
﹁あ∼、でもこれだけ広いと手足伸び伸びできていいね∼∼﹂
おじいちゃんコンドルクインズの大ファンでお酒入
自分の不手際を誤魔化すように来夏はごろんと横になった。
﹁言ったっけ
奏にはどんな話題も暗い方にしかならず、
話題を無理矢理変えようと来夏は話題を振った。けれども今の和
⋮⋮⋮、結局叶わなかったけどね﹂
る と い つ も ラ イ ブ の 話 を し て、い つ か 一 緒 に 行 こ う ね 約 束 し て
?
﹁約束は守らなきゃダメだよね。私もお母さんと約束していて、お
母さんは守ろうとしてくれたのに、私は自分のことばっかりで、なん
で病気のこと言ってくれなかったんだろう⋮、もし言ってくれたら﹂
﹂
約束があるからお祖父ちゃ
﹁でもね、わたし約束叶わなくて良かったって思ってるの﹂
﹁え
﹁約束って叶ったら終っちゃうでしょ
んのこと思い出せるの。これも大事な思い出だから﹂
﹁思い出⋮⋮⋮﹂
﹁お前って時々良い事を稀に良いタイミングで言うよな﹂
﹁なんだとこのやろう﹂
和奏は小さい頃、まだ操一朗と身長差がない頃を思い出した。
♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪
﹂
左に和奏、右に操一朗と手を繋いで歩きながら、まひるは鼻唄を
歌っていた。
﹁なんのうた
﹁お母さんの歌﹂
?
く。
﹂
﹁わかなのは
﹁おれのは
﹁ないよ﹂
﹂
髪を伸ばしているせいで女児に見間違えられる容姿の操一朗も訊
﹁まひるちゃんの
﹂
頭のてっぺんでちょこんと髪を結んだ和奏が訊いた。
?
?
﹁でもわかな、うたつくれないよ﹂
﹁自分の歌は自分で創らないと﹂
﹁﹁え∼∼﹂﹂
まひるはいたずらっぽくそっぽを向いた。
?
95
?
?
約束ね﹂
﹁おれもまだバイオリンひけない﹂
﹁じゃあいつか一緒に創ろっか
﹂
﹁うん
?
ていた。
?
﹃あ、和奏 来夏ってば何やってんだかもぅ∼、あとで来夏とっち
﹁もしもし﹂
来夏を見送ると和奏の携帯に紗羽から電話が掛かってきた。
挨拶無用のガトリング∼∼♪
い一言を言う。
借りた和奏の服の胸元を心配する来夏に、操一朗はデリカシーの無
﹁バレるほどねぇだろ、紗羽でもあるまいし﹂
﹁ノーブラなのバレちゃうかな
﹂
帰る来夏を見送るため、操一朗と和奏は﹃こかげや﹄の前に出て来
♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪
﹂
﹁あぁ
!
ら﹂
﹃は
﹄
?
操一朗が和奏に携帯を渡した。
﹃あ⋮、そう⋮、ってそうだった、ちょっと和奏に代わって﹄
たよ﹂
﹁おぅ紗羽、つぶれてもケーキはケーキだからな、全部食っちまっ
して和奏は携帯を渡した。
耳が良く会話の内容を聞いていた操一朗が手をくいくいとすると
食べたの
﹁ありがとうねわざわざ。ケーキなら操一朗が美味しく食べたか
めてやるんだから﹄
?
96
!
!?
﹄
﹃お母さんが例の物あるからいつでも取りに来てって、言ってたの。
何のことか分かる
﹁あ⋮﹂
♪♪♪
操一朗は和奏をバイクの後ろに乗せて紗羽の寺まで走らせた。途
中、スクーターに乗った住職の沖田正一とすれ違った。
﹁あ、ソウに和奏﹂
庭の植木の手入れをしていた志保の手伝いをしていた紗羽が2人
に気付いて声をかけた。
﹁はいこれ、写真ね。あと録音したテープ﹂
﹂
和奏は志保から昔の合唱部の写真を受け取り、ついでに歌を録音し
完全に足代わり
?
たテープを受け取った。
﹁てゆーか、ソウは何しに付いて来たの
﹁久々にサブレに乗ろうと思ってな﹂
﹁馬⋮﹂
﹂
﹁⋮⋮⋮あ、そうだ、和奏も乗ってみる
﹁⋮え
﹂
そんなやり取りをしている2人を見て和漢は呟いた。
﹁うっせ﹂
﹁バイクでこけたんだから気をつけなよ∼﹂
?
?
ヘルメットなど各種乗馬装備を付けられた。
﹁は⋮、初めてなんだけど﹂
﹁心配すんな、俺が手綱握っとくから﹂
操一朗もサブレに鞍や鐙の馬具一式を取り付けてスタンバってい
97
?
紗羽に引っ張られて馬場に連れてこられた和奏はされるがままに
!?
た。
﹂
﹁そこに足かけて﹂
﹁こう
﹁ちげーよ、それじゃ反対向きになっちまうぞ﹂
﹁あ、そっか⋮﹂
紗羽と操一朗に指導されながら何とかサブレに乗った和奏はその
まま馬場を一周した。
﹂
﹁そうや、さっきオヤジさんなんか不機嫌そうな顔してたけど、喧
嘩でもしたか
ちょ⋮﹂
?!
﹁結構くるでしょ
﹂
﹁はぁ∼⋮、足の筋肉が⋮⋮⋮﹂
乗馬を終えた和奏はその場にへたり込んでしまった。
♪♪♪
た。
速度が上がり途惑う和奏だったが、徐々に表情は柔らかくなっていっ
操一朗はサブレの首筋を叩くと駆け足で手綱を引いた。いきなり
﹁えっ⋮、えっ
﹁よし、そんじゃ少し走るぞ﹂
聞いている紗羽は口をつぐんだ。
和奏の母親が既に鬼籍に入っていることだけは操一朗や志保から
﹁⋮⋮⋮﹂
ままでお別れになっちゃうんだよ⋮﹂
﹁⋮⋮⋮でも、もし、もしもお父さんが死んじゃったら、喧嘩した
﹁あぁ、私の進路に文句つけてきたの。だから口きかないの﹂
?
﹁俺も紗羽も最初は結構痛んでよ、しかも続けていくと今度はケツ
?
98
?
の皮⋮﹂
シパァンッ
何すんだ
それかなり凶器なんだぞ
紗羽が鞭を振るって操一朗のケツ⋮、臀部を叩いた。
﹁イッ、テェ∼
﹂
!
﹁アンタこそ、女子2人もいるとこでなんてこと言い出すのよ
?!
﹂
を背後に向けた。
?
なかどうして⋮。まずは今のレイを倒すのが先決か﹂
﹂
ンギョウ︶の術が解けかかってしまったか。それに気付くとは、なか
﹁ふむ、隙あらば一気に勾引︵カドワ︶かすつもりで僅かに隠形︵オ
た。
サブレと操一朗の視線のはるか彼方、樹上に立つ異形の存在がい
﹁まさか⋮、な﹂
操一朗もサブレが振り向いた方向を凝視していた。
﹁わっ⋮、どうしたの
サブレ﹂
紗羽はサブレの鼻筋を撫でながら頷いた。すると、突然サブレが首
﹁そうなの
﹁サブレ、和奏のこと気に入ったみたいだからまた遊びにきてよ﹂
た。
そういちろうでりかしーないよ、とサブレも操一朗を見つめてい
!
!
異形の存在は木の葉を巻き上げながら消えた。
♪♪♪
99
?
翌朝、操一朗はいつもように早く起きて坂井家の庭で稽古をし終え
ると、久々の制服に袖を通した。
台所に行くと既に和奏が父親のコーヒーの用意をしていた。家猫
早いな﹂
のドラのご飯の用意もできていた。
﹁あれ
﹁うん、ちょっと昨日のテープ聴きたくて。音楽室寄るの﹂
父親への手紙をイラスト入りで書きながら和奏が答えた。
﹁そっか、なら行くか﹂
操一朗は食パンを咥えると和奏と2人で家を出た。
2人が出てから起きた圭介が台所でご飯と称してレンジに食パン
﹂
だけ入っていたのにがっかりしたのは、ドラのみぞ知る。
♪♪♪
﹁あれ、誰かいる
漏斗でピンポン玉を吹き上がらせながら閉じた両足を垂直に上下
頭に本を何冊も重ねて空気イスしながら発声してる大智と
和奏と操一朗が第三音楽室の戸を開けると・・・・・・・・
?
運動しているウィーンがいた。
﹁⋮⋮⋮﹂
100
?
﹁⋮⋮⋮﹂
操一朗と和奏は何も言わずに戸を閉めた。
﹁秘密の朝練バレちゃった、︻秘密の朝練で来夏たちを驚かせる作
戦︼失敗か⋮﹂
﹁私は驚いたけど⋮﹂
﹁俺はリアクションに困った﹂
﹂
︼とい
﹁み ん な の 役 に 立 ち た く て、上 手 く な り た ん だ。和 奏、ソ ー イ チ
﹂
﹂
ロー、僕たちにまず必要なのは何だと思う
﹁常識
﹁まともな本
ウィーンの必死の訴えを和奏と操一朗は軽く一蹴した。
﹁やっぱ本だけの独学じゃ無理だって﹂
帯が鳴った。
﹂
﹁もしもし
?
﹄
﹃あ、緒川
?
かっ飛ばしてkickin
101
?
︻ボイストレーニング初級編 あっという間に上手くなる
う本を捲りながら大智がぼやいた。
♪♪♪
バキバキbeating now∼
g now∼
!
放課後、和奏と並んでバイクを押しながら歩いていると操一朗の携
!
!
?
?
﹁っと、陽子さんか﹂
﹃アンタと坂井さん今日から学校行けるようになったんでしょ
ちょっと帰りに赤ん坊の顔見に来なさいよ。﹄
﹂
赤ちゃん、行きたい
ん見に行くか
﹁え
﹂
﹁あ∼、ちょい待ち。なぁ和奏、陽子さ⋮、高橋先生んとこに赤ちゃ
?
﹂
﹁そういえば、結婚して子供できたけど、このまま別姓で通すのか
を崩して赤ん坊をあやしていた。
五嶋はいつものきりっとした表情からは想像もできないほど表情
﹁ほ∼ら、操一朗おにいちゃんと和奏おねえちゃんだぞ∼﹂
実際に会うのはまひるの葬儀以来となる和奏は軽く会釈した。
﹁あ、はい⋮、こんにちは﹂
りだな﹂
﹁おう、操一朗。すっかり身体はいいようだな。和奏君も、久し振
て高橋家に行くと五島もいた。
行き掛けにオレンジ、パイン、イチゴ、レモンのジェラートを買っ
電話を切ると操一朗は和奏を後ろに乗せ、バイクを走らせた。
﹁はいはい⋮﹂
は任せるわ﹄
﹃あ、それじゃ手土産にジェラート買って来て。4つお願いね、味
﹁今から2人揃って行くわ﹂
!
?
いし﹂
﹁俺の仕事が忙しくてこうして別居結婚になってしまっているし
な﹂
﹁ふぅ∼ん、あ、これジェラート﹂
﹁お、サンキュー。2人も好きなのを選んでいいわよ﹂
操一朗はパイン、和奏はイチゴを選んだ。ジェラートを食べなが
ら、五嶋が抱いている赤ん坊にしばし見蕩れていた。
﹁わ∼、かわいい∼﹂
102
?!
﹁まぁね、学校でも今さら五嶋先生なんて呼ばれてもしっくりこな
?
﹂
﹁和奏君、抱いてみるかい
﹁え⋮
抱っこした。
﹁ぅわ⋮﹂
﹂
?
﹁マヤ
﹂
﹂
操一朗は、漢字は
と続けて訊いた。
﹁この子、女の子なんだが、﹃まや﹄と名付けようと思う﹂
赤ん坊を抱っこしたまま、和奏は首を傾げた。
﹁許可
の許可を貰おうと思ってな、今日は呼んだんだ。﹂
﹁操一朗、それに和奏君、この子の名前を付けるにあたって、2人
になって頷いた。
数口でジェラートを食べ終えた操一朗が訊くと、五嶋は真剣な表情
﹁そういえば、名前は決めたのか
﹂
陽子に手伝ってもらい、和奏はおっかなびっくりしながら赤ん坊を
﹁ほら、肘の辺りで首を支えるようにして⋮﹂
?
﹁⋮⋮⋮俺は別に、構わねぇけど⋮﹂
操一朗は和奏の方を振り向いた。
﹁五嶋さんは、2人と友だちだったんですよね
﹂
﹁もちろん、2人が承諾しかねるというなら、改めて⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁まひると、音夜から一字ずつもらったんだ﹂
和奏と操一朗が呟くと、五嶋は由来を言った。
﹁夜⋮﹂
﹁真⋮﹂
﹁真なる夜、と書いて真夜︵マヤ︶だ。﹂
?
そんな中で音夜とまひるに出会った。出会い方は⋮、まぁいいカタチ
﹁あぁ、自分で言うのもなんだが、私は友人がほとんどいなくてな。
?
103
?
?
?
とは言えないが、それでも2人は無二の親友となった﹂
和奏は無邪気に自分を見上げる笑顔を見て決めた。
﹁うん⋮、いい名前だと思います⋮⋮⋮。真夜︵マヤ︶ちゃん、お
母さんと音夜伯父さんも、きっと喜んでいると思います。﹂
﹁そうか⋮、ありがとう﹂
﹂
五嶋を目頭を抑えながら頭を下げた。
﹁つーか、陽子さんはいいのか
﹁いいわよ、ちゃんと2人で話し合ったし、私もいい名前だと思う
し﹂
﹁ほら、操一朗も⋮﹂
﹁ぉ、おぅ⋮﹂
和奏から赤ん坊を受け取ると、操一朗は少しおどおどしたが、すぐ
に腕の中にしっかりと新しい旋律︵いのち︶を抱きとめた。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮真夜︵マヤ︶﹂
操一朗の呼びかけに、真夜︵マヤ︶はきゃっきゃと無垢な声で応え
た。
キィィィィィン
﹁⋮⋮⋮悪ぃ、ちょっと野暮用思い出した。五嶋さん、和奏を家ま
で頼む﹂
﹁うむ、わかった﹂
五嶋は操一朗の表情から状況を理解し、頷いた。
﹁あ、操一朗⋮﹂
途惑う和奏の腕に真夜︵マヤ︶を預けると、操一朗は高橋家を飛び
出した。
104
?
♪♪♪
バイクを走らせていると、レイバットが追走してきた。
﹁レイバット、五嶋さんと陽子さんとこに赤ん坊が生まれた﹂
﹁うむ﹂
﹁まひるちゃんと親父から一文字ずつ取って、真夜︵マヤ︶だって
よ﹂
﹁そうか﹂
﹁すっげ小さくてよ、けどすっげぇ重くてさ⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁護るもんが増えたな⋮﹂
﹁そうだな﹂
﹁なぁレイバット﹂
﹁なんだ﹂
﹁さっきから視界がぼやけちまってんだよ⋮﹂
震える声の操一朗を、レイバットはいつもの口調で諭す。
﹁ならばいっそ眼鏡を外せばよかろう。今のお前なら、心の眼でし
かと敵を捕らえることができよう。護るべきもの、な﹂
レイバットは静かにバイクに噛み付き、マシンレイダーへ変化させ
た。
廃工場まで辿り着くと、操一朗はバイクを止め、ヘルメットを脱ぎ
105
捨てると、一気に駆け出した。
敵はこの上だ
﹂
挿入歌 ♪Belive♪
﹁操一朗
!
﹂
﹂
!!
﹁オラァッ
﹂
﹁来たな。我こそは太古より日の本に住まいしゴブリン族の天⋮﹂
操一朗は、眼鏡を外した。
﹁絶っ対ぇ⋮⋮⋮⋮、護る
の音︵いのち︶の重さを思い出していた。
駆け上がりながら、真夜︵マヤ︶の温もりと柔らかさと、そしてそ
操一朗はベルトを装着すると階段を二段飛ばしで駆け上がった。
﹁あぁ
地面から現れた玄牙︵ゲンガー︶が幻術結界を張る。
!
﹂
物⋮天狗の横っ面に直撃した。
﹁レイバット
﹁変身
﹂
変身した仮面ライダーレイは天狗の前に立ちはだかった。
﹁ギャブリ
﹂
操一朗は右手でレイバットを掴むと左前腕に噛みつかせた。
!
!!
﹁うむ、華激︵カゲキ︶に行こうか
﹂
右拳を強く強く握り締めた直突きが、屋上にいた全身茶色で鼻高怪
!
!
106
!
!
﹁おのれ
パンッ
我が妖術を見よ﹂
天狗が葉っぱのような手で拍手を打つと、天狗の姿が何体にも分身
した。影分身の術だ。
﹁フハハハ、どうだ、どれが本体か分かるまい﹂
ドッ、パキィン
前後左右、上空にまで浮いている天狗の分身を、しかしレイは迷う
ことなく冷気を纏った右拳を左後方の天狗のどてっ腹に叩き込んだ。
殴られた箇所は拳の跡が残り、さらに凍っていた。
﹁くっ⋮、何故本体が⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁何でだろうな、眼鏡外したからあんま見えねぇはずなのに、前よ
りお前らの気配︵音︶を感じられるようになったんだ⋮よ
﹁その鼻っ柱へし折ってやんよ、レイバット
﹂
﹁くっ⋮、人間風情が天狗様にここまで⋮⋮⋮﹂
激突した。
追撃のレイの冷凍鉄拳を天狗は両手で防ぐが、屋上の給水タンクに
!
えさせた。
﹁ウェイカップ、2
﹂
仮面ライダーレイはウェイクアップフエッスルをレイバットに咥
!
た。
!
果たして、知ったことかと言わんばかりに仮面ライダーレイはゆっ
巻がレイに向かって吹き荒れた。
天狗が両手を突き出すと、木の葉を巻き込みながら猛烈な勢いで竜
﹁我が究極奥義で抹殺してくれん
﹂
レイバットが二度フエッスルを吹くと、レイの両腕に冷気が集中し
!
107
!
くりと前進した。そして、両腕のカテナで封印している魔皇力を僅か
﹂
に解放し、両拳に集束させると、一気に前方に跳んで天狗の顔面目掛
け突き出した。
﹂
﹁双拳・大樹鉄槌︵ダブル・ウッド・ハンマー︶
﹁ぐぁぁぁぁぁ∼∼∼∼
それから3人は五嶋真夜︵マヤ︶のことなどを話しながら食事をし
﹁そっか、そうや今頃だったな﹂
和奏の言葉に操一朗も思い出した。
﹁あ、今日結婚記念日でしょ﹂
れただけのは飯とは言わん﹂
﹁いいか、こういうのを飯って言うんだ。今朝のパンをレンジに入
唐揚げ、サラダに五目ご飯、吸い物まであった。
よりもかなり豪華な夕飯が並んでいた。刺身や操一朗が好きな鶏の
その夜、操一朗が圭介に呼ばれて坂井家に行くと、食卓にはいつも
﹁うぉ、なんだよこのご馳走﹂
♪♪♪
に砕け散った。
長い鼻をぽっきりと折られた天狗は全身が凍り付き、そのまま粉々
!!
た。普段大食漢な操一朗も流石に今日の量は多かったようで、全部食
108
!!!
べ終えると茶の間にごろんと横になった。
﹂
﹁そういえば、聞いた事なかったけど、叔父さんってまひるちゃん
になんてプロポーズしたんだ
﹁俺じゃない、母さんがプロポーズしたんだ﹂
﹁うっそだ∼⋮﹂
﹂
食後のお茶をいれていた和奏が胡散臭そうな顔をした。
﹁本当だって⋮﹂
圭介は渋い顔をしながらお茶を啜った。
﹁じゃあまひるちゃんどうやってプロポーズしたの
﹁あぁ、ピアノを弾いて⋮﹂
ピアノという単語に和奏が敏感に反応した。
⋮﹂
⋮⋮⋮⋮。知っていたら私、ちゃんとお母さんと歌を創っていたのに
﹁⋮⋮⋮お母さん、なんで病気のこと言ってくれなかったんだろう
?
♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪
﹂
銀杏並木の中を、まひる、圭介、五嶋が歩いていた。
﹁わがまま言ってもいい
?
109
?
﹁あのな、病気の事は母さんが言わないでくれって頼んだんだ。俺
と、それに五嶋さんにも﹂
﹂
﹁え⋮
?
﹂
﹁は⋮
?
﹁和奏と操一朗にはまだ病気のこと言わないでほしいの。2人とも
しっかりしてても淋しがりだし、受験もあるし﹂
﹁けど、もう子供じゃないんだぞ﹂
圭介の言葉にまひるは俯いた。
﹂
﹁うん⋮、もしかしたらあの子達を傷付けてしまうかもしれない﹂
﹁じゃあどうして
五嶋は10年来の友人であるまひるに訊いた。
﹁約束しているから。私、和奏と操一朗と一緒に歌を創らなきゃ﹂
﹂
﹁わかってくれるよ、ちゃんと話し合って一緒に歌を⋮﹂
﹁哀しい別れの歌
まひるの言葉に圭介は言葉を詰まらせた。
﹁一緒に歌を創るとね、相手の心に自分を遺せる気がするの、⋮⋮⋮
兄さんみたいに﹂
五嶋も言いかけたが、何も言えなかった。
﹁だから、哀しみじゃなくて、母親として、和奏には優しさ慈しみ
の心、操一朗には兄さんから受け継いだ強さと信念を、もし私がいな
くなってもその歌が私の代わりにずっと一緒にいてくれる。それを
聴く度にあの子達が私を思い出すの﹂
﹁和奏も操一朗も音楽を好きになってくれて本当に良かった⋮、大
事な大事な宝物だから⋮、私、絶対にあの子達を独りにしない﹂
﹂
♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪
﹁⋮ッ∼
﹁私⋮、凄く愛されていたのに⋮⋮、勝手に思い込んで⋮⋮⋮、﹂
110
?
?
和奏は泣きながら家を飛び出した。
!
走りながら和奏は嗚咽を漏らした。
﹂
﹁捨てちゃった⋮⋮⋮、思いでも⋮⋮、ピアノも⋮、音楽もッ
﹁和奏
操一朗がバイクに乗って追いかけて来た。
﹁操一朗⋮、私⋮、わたし⋮⋮⋮﹂
和奏は目に涙を浮かべ操一朗の服を掴んだ。
﹁⋮ちょっと来い﹂
﹁これ⋮﹂
コットを和奏の手に乗せた。
﹂
操一朗はピアノの上に乗っていた一見何の生物か分からないマス
運ぶの。あとこれ⋮﹂
る時間が必要だからって。大変だったんだぞ、五嶋さんと2人でこれ
﹁叔父さんに頼まれて運んだんだよ、一旦お前の気持ちを整理させ
﹁ピアノ⋮﹂
楽の間に・・・・・
緒川家のリビングダイニング、かつてまひると音夜が奏でていた音
﹁あ⋮、﹂
連れ込んだ。
家まで走った。バイクから降りると操一朗は和奏の手を引いて中に
操一朗は和奏にヘルメットを被せるとバイクの後ろに乗せて緒川
!
﹂
﹁まひるちゃんが作ってくれたお揃いのマスコット、俺のシャチと
お前のイルカ。これまで処分するこたねぇだ⋮、っ
操一朗は和奏の髪を優しく梳いてやった。
﹁⋮ありがとう⋮⋮⋮、ありがとう、∼⋮、﹂
和奏はマスコットを抱き締めると操一朗の胸に飛び込んだ。
!
111
!
翌日
白浜坂高校第三音楽室から歌が響いた。
部長の宮本小夏の小気味良く元気な声
副部長沖田紗羽の爽やかで溌剌とした声
部員その1田中大智のしっかりと芯のある声
部員その2ウィーンの純粋なボーイソプラノボイス
そして、
坂井和奏の優しさに満ち溢れた声
緒川操一朗の朗らかなバイオリンの音色
合唱時々バドミントン剣道部の歌声は、湘南の青空にどこまでも響
いていった。
112
︻23 years ago︼
第1話 躓いたり、本気だったり
第1話 躓いたり、本気だったり
︻23 years ago︼
音夜とまひるの前に現れた白い戦士はバットファンガイアに立向
﹂
かって行った
﹁はあああ
白い戦士は連続パンチで攻めて攻めて攻めまくった
ガッゴッドグ
﹁む⋮、く⋮﹂
﹂
﹁人間、ここは退いてやる
﹂
突如、白い戦士の全身から白い煙が上がり火花が散った
シュゥゥゥ バチパチバチパチ
﹁はぁぁ⋮、ぐっ
と距離を取って力を溜めた
バットファンガイアは防戦一方、白い戦士は止めの一撃を入れよう
!
!
男は携帯を取り出すと音夜たちを無視してかけた
無い。とにかく逃げろ﹂
﹁⋮一般人か、ファンガイアに生身で立向かうとは無謀すぎるぞ、次は
音夜はまひるに支えられながら痛む身体を押さえながら近付いた
﹁おいアンタ﹂
﹁はぁ⋮はぁ⋮﹂
で現れ、その場に膝をついた
白い戦士はベルトを外すと鎧が解かれ、一人の男が満身創痍の状態
♪♪♪
バットファンガイアは翼を広げると飛んで逃げて行った
!
113
!
﹁なんだと⋮﹂
音夜はまひるの支えを振り払って男の肩を掴んだ
﹁そ う い う ア ン タ も ず い ぶ ん ボ ロ ボ ロ だ な。さ っ き の 鎧 が ど う や ら
﹂
ファンガイアとかいうあの化け物に有効らしいな。俺が有効活用し
﹂
てやる、貸せ﹂
﹁何
﹁俺ならもっと上手く使える、いや、お前が下手くそすぎるのか
﹁⋮﹂
男は携帯をしまうと音夜に向き合った
﹁言ってくれるな、このレイの鎧システムはその辺の一般人が簡単に
使いこなせるものではないぞ﹂
﹁ならば問題ない、俺はその辺の一般人とは一線を隔す男だ﹂
﹂﹂
﹁ファンガイアにあっさり吹っ飛ばされたくせに大言壮語も大概にし
ろ﹂
﹁﹁あぁん
﹁ちょ⋮、兄さん
﹂
2人は額をつき合せて睨みあった
?!
﹁⋮CEO⋮﹂
﹁いや、社長は父だ。俺は最高経営責任者だ﹂
﹁しゃ、社長さん
﹂
に案内された音夜とまひるは名刺を渡された
WMC︵ワールド・ミュージック・カンパニー︶ビル最上階社長室
﹁五島一彦、27歳だ。まずは敬語を使え﹂
♪♪♪
は最早隠し立てはできんな、あいつらについて説明しよう﹂
﹁⋮すまない、少々冷静さを欠いていた。ここまで目撃してしまって
まひるが2人の間に入って無理矢理引き離した
!
?
114
?
?
2人は目の前に悠然と座っている男、五嶋の正体に驚いた。
﹁さて、まずあいつらだが、やつらはファンガイア。世界各地に存在す
なら奴らは人間の生き血を啜るのか
﹂
る魔族、そのほとんどを全滅させて頂点に立った吸血鬼の最上位種
だ﹂
﹁は
あんな化け物と一緒にするな﹂
あんな化け物がその辺にうじゃうじゃいるのか﹂
﹁そんな昔から⋮﹂
﹁ほぅ﹂
安の頃から活動していた。有名なところだと、安倍清明だな﹂
ンキョウ︶〟は本来ファンガイア殲滅のための組織で前身の組織は平
ガイアの中にもそういう穏健派がいる。我々〝青空神教︵アオゾラシ
﹁いや、そのファンガイア達はライフエナジーを捕食しない。ファン
﹁ちょっと、怖い⋮﹂
﹁は
がいる﹂
﹁今も我々の社会に隠れて暮らしているファンガイアはそれなりの数
も退かなかった
年齢的にも社会的にも立場は上なのだが、音夜は五嶋に対して一歩
﹁おい五嶋﹂
﹁うむ、確かに﹂
﹁は
﹁なんか兄さんみたい﹂
間のそれと大差はないが、プライドが異様に高い﹂
﹁ファンガイアは普段は人間に化けて隠れている。思考や価値観は人
五嶋の言葉に音夜とまひるは息をのんだ
﹁⋮っ﹂
﹁⋮﹂
﹁あぁ、吸われた人間はガラスの欠片となって死ぬ﹂
﹁え、じゃあ⋮﹂
ギーそのものだ﹂
﹁いや、奴らのエネルギーー源はライフエナジー。人間の生命エネル
?
五嶋は小休止という感じで立ち上がると紅茶を入れて二人の前に
115
?
?
?
置いて自分でも一口含んだ
﹂
﹁人の捕食を止めないファンガイアと戦い、捕食しないと誓約を交わ
したファンガイアと共存を図る、とここまではいいか
﹁あぁ﹂
﹁はい﹂
音夜とまひるが頷くと五嶋は続けた
﹁最近一部のファンガイアが力を付けてきて、それに対抗するために
開発したのがシステム仮面ライダー・コードネーム:レイ﹂
五嶋は先ほどのベルトを机の上に置いた
﹁けど、あんまり有効な手段では無かったようだな﹂
音夜は鼻で笑った
﹁まだ開発中なんだ。これはプロトベルト。本来ならシステムのエネ
ルギーを制御する人工知能を搭載したロボットを装着することで完
成するのだが、それが⋮﹂
言いかけた五嶋の頭上からド迫力な声が響いた
﹁フンッ、ずいぶんと無様な姿で帰ってきたな、ゴシマよ﹂
白い機械蝙蝠がカッシャカッシャと羽ばたきながら降りてきた
﹁⋮これがそのロボット、〝レイバット〟だ﹂
五嶋は額に手を当てて呆れた様に息を吐いた
﹁キバット族というファンガイアの王の鎧を司り、魔皇力という魔族
のエネルギーや潜在能力を引き出す力を有している一族を基に創り
だした人造キバット族だ﹂
﹁フン、人間如き低種族に生み出されたとは、我が人生最大の汚点。し
かし、我という存在を生み出したことは、貴様ら人間の誇るべき最大
の功績だ﹂
﹁⋮なるほど﹂
﹁未完成⋮、というか完成していても一緒には戦えないねぇ∼﹂
音夜とまひるはレイバットを見上げて溜息をついた
﹁AI製作過程で協力魔族、キバット族の族長をベースにしてそこか
116
?
らシステムに合わせて調整したらこうなってしまったのだ⋮﹂
五嶋は懐からリモコンを出すとボタンを押した。するとレイバッ
トは大人しくなった
♪♪♪
﹁まだプロト段階だからこうしてリモコン1つで機能停止したりオー
トモードにできるんだ﹂
﹁なら最初からそうすればいいだろ﹂
﹁うんうん﹂
﹁いや、そうするとベルトの性能を100%出せないんだ。せいぜい
60%、とてもじゃないが倒すまでは至らないし、生半可な力は無意
味だ﹂
五嶋はレイバットとベルトをアタッシュケースに納めた
117
﹁人工知能の学習装置は機能しているから自立状態で可動させておけ
ば何らかの変化があってベルト機能を完全に引き出し、尚且つ共闘で
きる存在になると思うのだが⋮﹂
五嶋は紅茶を一気に飲み干した
﹁さて、話はここまでだ。今夜のことを一切他言しないという誓約書
にサインをしてもらおう。これはお前達の身を守る意味でも必要な
ことだ﹂
五嶋は2人の前に書類と羽ペンとインクを置いた
﹁あ、はいじゃあ⋮﹂
﹁待て﹂
﹂
まひるが書こうとするの音夜が止めた
﹁どうしたの、兄さん
﹂
﹁⋮何を言い出すかと思えば、どうやらお前は戯言を言う癖があるら
﹁そのベルトのテスターに、この俺がなってやる、という契約書だ﹂
五嶋は首を傾げた
﹁何を言っているんだ
﹁書くのは誓約書ではない、契約書だ﹂
?
?
しいな﹂
﹁そういうアンタは遠回りな物の言い方しかできんらしいな。誓約書
にサインさせるだけならベルトの件︵クダリ︶は必要ないだろう。し
かしベルトやさっきの白い機械蝙蝠のことまで、まるで愚痴のように
﹂
話たということは、お前の中に始めから俺にテスターをさせようとい
う腹積もりだったんだろう
と戦うってことな
?
﹂
んだよ、危険なんて言葉じゃ足りないくらい、危ないことなんだよ⋮
﹁でも兄さん⋮、つまり、あの怪物、ファンガイア
前くらいだと、ここに案内する前から思っていた﹂
てしいまでの性格、ある意味レイバットに対等の立場に立てるのはお
﹁ご名答。お前の身体能力や状況判断力、そして物怖じしないふてぶ
音夜の言葉に五嶋は肩を竦めた
?
まひるは音夜の制服の裾を引っ張った
﹁まひる、俺とお前はたった2人きりの兄妹で家族だ。これからの人
生、俺はお前を守るだけの力が欲しいんだ。物理的な力だけじゃな
く、社会的なものも含めてな﹂
音夜は言葉の最後だけは五嶋の向けて言った
﹁⋮無論、テスターになってくれるのならばそれ相応の報酬はもちろ
ん、社会的にも色々と援助ができる。これでも一企業の実質トップ
だ。各方面にもコネクションがある﹂
﹁⋮⋮﹂
まひるは手を放した
﹁では契約だ﹂
♪♪♪
契約金代わりにバイクを高性能にして返すという五嶋の提案を受
けて、会社の車で送迎されて洋館に帰ってきた音夜の手にはアタッ
シュケースがあった。中にはベルトが納められていた。レイバット
は最終調整を今夜中に終えて翌朝こちらに寄越すと五嶋が言ってい
118
?
た
今夜は2人とも心身ともに疲れていたので夕食も摂らず寝床につ
いた
﹁⋮﹂
音夜はドアの外に気配を感じた
﹂
開けるとそこには寝巻き姿で枕を抱きしめたまひるが立っていた
﹁あの⋮、兄さん⋮﹂
﹁⋮ふぅ、もう高3だろ﹂
﹂
音夜は呆れながらもまひるを中に入れた
﹁兄さん
まひるは枕を放って音夜に抱きついた
﹂
﹂
﹁⋮ファンガイアって化け物と戦うんだよね
﹁あぁ﹂
﹁危ないよね
手で顎を上に持上げた
﹁⋮っ﹂
﹁⋮﹂
そして唇を重ねた
唇を離すと音夜は口を開いた
﹁それは何があっても絶対にない。俺は死なない、お前も死なせない、
2人で生きていくんだ﹂
﹁⋮⋮⋮うん、﹂
まひるが頷くと、2人はベッドに入った。すぐに2人分の寝息が部
屋に、静かに、響いた
♪♪♪
119
﹁だろうな﹂
﹁⋮⋮死んじゃうかも、しれないよね⋮
﹁⋮まひる⋮⋮﹂
?
?
音夜はまひるの震える華奢な両肩を抱いて自分から引き離して、右
?
!
翌朝、まひるは音夜より先に起きた。隣では静かに兄が寝ていた
﹁おはよ、兄さん﹂
まひるは音夜の額にキスをするとベッドから抜けて浴室に向かっ
た
この家を建てた緒川家のご先祖がやたらこだわった浴室は広く、ま
ひるはやや冷えるタイル張りの床を踏みしめてシャワーの真下まで
歩いた
レトロな蛇口から出るぬるいシャワーを浴びながらまひるは今朝
の朝食メニューを考えていた。昨夜は2人とも何も食べていなかっ
たし、食の細い音夜も流石に今朝はしっかり食べたいはずだ
﹁あさごはん何にしよっかなぁ∼﹂
﹂
﹁我は氷を所望する﹂
﹁はっ
まひるが浴室の上を見上げると、レイバットがカッシャカッシャと
飛んでいた
﹁にしても、貴様は中々美しい体をしているな、特にうなじの曲線美が
﹂
いい。今すぐ噛み付きたいくらいだ﹂
﹁き、きゃぁぁぁ∼∼∼
﹁どうした
﹂
まひるの悲鳴が館中に響いた
!!
び込んできた
!
女のシャワーを覗くとはずいぶんと高尚な趣味を
!
﹁まひるの体が芸術品だという評価だけは俺も同感だ。からくりモド
環だ﹂
﹁フン、人間の裸体なぞ興味はないが、この女に関しては芸術鑑賞の一
持っているな﹂
﹁黙れエロバット
﹁レイバット様だ、無礼者め呼び捨てにするな﹂
﹁⋮っ、お前
﹂
すぐに音夜がパジャマにナイトキャップを被った状態で浴室に飛
!
120
!?
﹂
キの分際でよくわかっているじゃないか﹂
﹁とにかく2人とも出てってぇ∼∼∼∼
まひるの投げるシャンプーボトルと石けんが当たった音夜とレイ
バットは揃って浴室から飛び出した
♪♪♪
﹁ゴシマが言ってたが、お前が我と戦うらしいな、人間﹂
﹁緒川音夜、日本を越えて世界にすらその名を響かせる男の名だ。特
別にその名で呼ぶことを許してやる。俺直々に許しを得たのは大変
に名誉なことだ。まひる以外ではお前で2人目だ﹂
ま ひ る の 作 っ た コ ン ビ ー フ と 玉 ね ぎ を マ ヨ ネ ー ズ で 和 え た の を
トーストで挟んだサンドイッチとキャベツのウスターソース炒め、ミ
ルクの朝食、そして朝一の宅配で届いた天然氷︵差出人は五嶋︶を食
べながら〝2人〟は話していた
﹁というか、貴様ら兄妹は何故︵ナニユエ︶我を人として数える﹂
﹁それだけ口喧しいロボットや畜生もいないだろ、お前の数え方は〝
人︵ニン︶〟だ﹂
音夜の言葉にレイバットは黙った
﹁兄さ∼ん、そろそろ行かないと﹂
﹁あぁ﹂
朝食作りと平行して行なっていた洗濯物を干し終えた制服エプロ
ン姿のまひるが台所の勝手口から音夜を呼んだ
﹁レイバット、俺達は今から学校に行く。人間と言うのがどのような
生き物か興味があるなら勝手に尽きてきてもいいぞ。ただし、空から
覗くだけだぞ。一般人への説明がし辛いからな﹂
﹁フン、人間が如き低俗種族の営みなぞ、我は興味ないわ﹂
﹂
121
!!
レイバットは氷を食べ終えると開いていた窓から飛んでいった
﹁⋮なんて自分勝手な奴だ﹂
﹁兄さん、同属嫌悪って言葉知ってる
?
♪♪♪
﹁まひる先輩
﹂
﹂
﹁なんだ白いの、俺は今世界の雑音から離れて自らを研ぎ澄ませてい
屋上で音夜が昼寝をしていると、上からレイバットが飛んできた
﹁おい、人間﹂
♪♪♪
その足で屋上へ行った
﹁さて、さぼるか﹂
れを見送った音夜は⋮
まひると志保は音夜に手を振りながら駐車場の方へ向かった。そ
﹁じゃあ兄さん、私たち今日は市民ホールで全体練習の日だから﹂
﹁当然だ、俺の口からは二酸化炭素と女性への賛美が出ているのだ﹂
から﹂
﹁⋮相変らず歯の浮くような台詞がさらりと出てきますね、しかも朝
香りのようだ﹂
﹁あぁおはよう。今日も良い声をしているな。長閑な森林に響く春の
﹁あ、緒川先輩、おはようございます﹂
志保はまひるの隣に立つ音夜に気付いた
﹁はい
﹁音楽は頑張るんじゃなくて、楽しむものだよ∼﹂
たし頑張ります﹂
﹁コンクールのメンバーに推薦してくれてありがとうございます、あ
を下げた
やや癖のあるショートヘアの女子生徒、能登志保はまひるの前で頭
﹁あ、志保ちゃん。おはよ∼﹂
が駆け寄ってきた
朝、バイクを停めて校舎へ歩いていると、2人の後ろから女子生徒
!
る最中だ、邪魔をするな﹂
122
!
﹁貴様は何故ベルトのテスターを引き受けた
﹁⋮⋮﹂
﹂
自分の脅威となるものには近付かず、ただ傍観するだけ。我は
﹁けどな、﹂
﹁そうだろう
﹂
ら逃げる、どれもよくある高校生のことだな﹂
﹁宿題が面倒だからやらずに今日を迎える、負けるのが怖くて勝負か
音夜はゆっくり上体を起こした
﹁たしかにな﹂
者達を見てきたぞ﹂
ここにいるコウコウセイとかいう低俗種族の中でも一際愚行を犯す
のか
﹁ファンガイアと関わりたくない、これが普通の人間の反応ではない
?
﹁当然だ、それを嫌と言うほど分からせてやる。戦いの中でそれをお
レイバットの二人称が変わった
﹁どうやら、面白そうな奴だな、〝お前は〟﹂
⋮
レイバットはどこか人間という種族に飽きて呆れていた。しかし
しかし、この緒川音夜は違う
して、いずれは破棄してしまう
観や針路を決める。故に潜在能力があってもそれを埋もれたままに
人は誰しも生まれ育った環境にある程度妥協した上で自分の人生
レイバットは目の前の男に見えた潜在能力の旋律に思わず笑った
﹁フッ⋮﹂
うが﹂
﹁自己中心上等だ、それでこそ音楽︵じんせい︶ってのは面白いんだろ
﹁なんだその自己中心的な主張は﹂
で退︵ヒ︶くだろう﹂
︵おんがく︶は五線譜すら自分で引く、そして弾き語り、幕さえも自分
﹁俺は、俺の五線譜にはそんなマイナス事象は描かれない。俺の人生
音夜は立ち上がってレイバットに目線を合わせた
?
前に分からせてやる。それと、俺のことは名前で呼べ、音夜だ﹂
123
?
﹂
﹁では早速見せてもらおう、オトヤ﹂
﹁どういうことだ
﹂
﹂
﹂
!
﹁⋮
﹂
﹁あぁ、お前の妹が行くとか言っていた場所だな﹂
﹁おいそれって⋮、市民ホールじゃないか
﹁ウム、ここから東北東へ3kmほどだな﹂
﹁で、一体どこだ﹂
度を上げた。レイバットは音夜の肩にとまった
音夜は乗って来た五嶋からヘルメットを受け取り被ると、一気に速
﹁あぁ。それと、俺のことは音夜と呼べ、誇っていいぞ3人目だ﹂
﹁緒川、乗れ
それは昨日五嶋に預けた愛車だった
音夜とレイバットが校門から出ると、目の前にバイクが止まった。
♪♪♪
﹁それを早く言え
﹁昨夜のファンガイアがまた出現したぞ﹂
?
!
﹁お前はずいぶんと妹に執着しているな、そういうのをシスターズノ
イズ⋮、嫌違うな、シスターコンプレックスというのではなかったか
﹂
一部どころか俺そのものだ﹂
﹁そういえば、お前らの両親というのは⋮﹂
﹁いない。俺たちはお祖父ちゃんに育てられた。両親はすでに他界し
ている﹂
﹁そうか﹂
﹁お祖父ちゃんが言っていた、
﹃男なら女を守れ、兄なら妹を幸せにし
ろ﹄ってな﹂
レイバットは音夜の中の潜在能力が膨れ上がるのを感じた。レイ
124
!
音夜はスピードを上げた。しかし、既にメーターは振り切っていた
!!!
﹁まひるは俺にとって唯一の家族、文字通り血を分けた兄妹だ。俺の
?
﹂
バットは音夜の肩からバイクに飛び移った
﹁何をするつもりだ
﹂
!
言ったところか﹂
﹁はっ、最高だな、こいつの駆動音︵ビート︶は
♪♪♪
﹂
市民ホール上空には、黒い影が滞空していた
﹁来たな
﹂
﹁マ シ ン レ イ ダ ー。魔 獣 ケ ル ピ ー を 基 に 開 発 さ れ た 鋼 鉄 の 馬 と で も
﹁これは⋮﹂
緑青︵ビャクロクショウ︶色の外装になった
が巻きつき、次の瞬間には白を基調として緑と青のラインが走った白
レイバットの牙からバイクに魔皇力が流し込まれると、バイクに鎖
﹁ギャブリ
レイバットは口を開いてバイクに噛み付いた
﹁ゴシマから説明されたろう、我の力を。それを見せてやろう﹂
?
エナジーも頂くとしよう﹂
?
した
﹁行くぞ、レイバット
﹁変身
﹂
﹁ギャブリ
﹂
﹂
音夜は左手でレイバットを掴んで垂直に立てた右前腕を噛ませた
!
!
﹁行こうかオトヤ、華激︵カゲキ︶な
﹂
音夜はマシンレイダーから降りると、制服を翻し、ベルトを露わに
﹁それがお前のレクイエムのイントロでいいんだな
﹂
た傷の借り、ここで返させてもらう。そのついでに、あの女のライフ
﹁ここに居ればお前は必ず来ると分かっていた、昨夜貴様に付けられ
てきた
音夜とレイバットを確認すると黒い影、バットファンガイアは降り
!
125
!
!
レイバットをベルトの止り木に逆さまに装着すると、白い冷気が音
!
﹂
夜を包み、それが白い腕に振り払われると、白い戦士﹃仮面ライダー
人間如きがファンガイアに勝て⋮、っ
レイ・プロトタイプ﹄が立っていた
﹁来い
﹁ならば
﹂
クや雅楽すら彷彿とさせるものだった
しくメタルサウンドやロックの様で、しかしどこか華やかでクラッシ
レイ・プロトタイプはさらに攻めた。パンチやキックの連打は、激
﹁な、なんだこの力は⋮、昨夜はこれほどでは⋮﹂
殴った
レイ・プロトタイプは一気に間合いを詰めてバットファンガイアを
!
バットが飛び出した
﹁ぶるぅあぁゎぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ
﹁ウェイカップ
﹂
バットに咥えさせた
﹂
ターンを決めた。そして腰のホルスターに差された笛を取り、レイ
レイ・プロトタイプはバットファンガイアを思い切り殴り飛ばし、
﹁あぁ﹂
﹁さて、幕退きといこうか。オトヤ、白い笛を我に﹂
﹁なんつー声だ⋮﹂
した
レイバットが発した怒号がバットファンガイアの超音波を掻き消
!!!!!!!!
耳を塞いで身動きが取れないレイ・プロトタイプのベルトからレイ
﹁な、なんという不協和音⋮﹂
せた
バットファンガイアは口を大きく開けると、不快な超音波を発声さ
!
ガイアの動きに合わせ、素早くターン、左上段の回し蹴りを喰らわせ
足踏みでリズムを取りながら、レイ・プロトタイプはバットファン
目掛け突進してきた
バットファンガイアは自分に背中を向けているレイ・プロトタイプ
!
126
!
た
﹁ぐはぁ
﹂
﹂
?
﹂
﹁あ∼、うん別にいいよ∼﹂
﹁軽っ
﹁だってこれからは一緒にあの館で暮らすんでしょ
なら家族も同然
レイバットは目を閉じて身体を前に傾け謝罪の意を表した
﹁今朝は申し訳なかった許してくれ、まひる嬢﹂
音夜に促され、レイバットはまひるの目の前に飛んできた
﹁ウム﹂
﹁おい、レイバット﹂
﹁どうしたの
音夜とレイバットが待っていた
それから数時間後、練習を終えたまひるがホールから出てくると、
﹁あれ
兄さん、それに⋮﹂
♪♪♪
がらせて苦しみだし、次の瞬間、粉々に砕け散った
を喰らったバットファンガイアは、ステンドグラスを全身に浮かび上
昨夜音夜にヘルメットをぶつけられて傷ついていた部分にキック
!
族︶が増えたのであった
緒川音夜とまひるの兄妹2人きりの楽譜︵生活︶に、新しい音符︵家
﹁⋮承知した、まひる嬢﹂
げてね﹂
じゃん、いいよ、許してあげる。その代わり、兄さんの力になってあ
?
127
?
!
第2話 ヴィクトリーだったり、マーメイドだったり
レイバットが緒川家に住むようになって一ヶ月程経った夏休みの
ある日、館中に弩声が響いた。
﹁ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
た。
﹁なんという芳醇な香り
﹂
表皮の網目模様も良く見れ
﹂
これを我の持てるあらゆる
天・下・御・免
言語を駆使して表現するならば⋮、そう
﹂
﹁まひる、レイバットは何しているんだ
ば緻密に計算された自然界の芸術作品
!
!
ビクトリーーーーー
﹂
!!!
紅茶を飲んでいたに気付かなかった。
大量のメロンが遮っていたので、向こう側で五嶋がまひるの入れた
﹁なんだ、五嶋いたのか。﹂
ンをお裾分けに来たんだ。﹂
﹁懇意にしている世界樹製薬がどういう理由か知らんが、大量にメロ
だった。
テーブルにはメロンが大量に乗って、向こう側が見えないくらい
﹁にしても⋮、五嶋もずいぶんとメロンを貰ったもんだな。﹂
回っていた。
レ イ バ ッ ト は 叫 び な が ら V の 軌 跡 を 描 き な が ら キ ッ チ ン を 飛 び
﹁マイハート、キャッチッ
していたら、つまみ⋮というか齧り食いしちゃって、そしたら⋮⋮﹂
﹁えっとね、五嶋さんから貰ったお中元のメロンを切って食べようと
!!!
瑞々しい果肉
音夜が慌ててキッチンに入ると、レイバットが激しく感動してい
﹁な、何だ一体
﹂
2話 ヴィクトリーだったり、マーメイドだったり
︻23 years ago︼
!!!!!!!!!!!
?
!
!
!!!
128
?!
﹁あぁ、こないだのテスト結果と、報酬のついでにな。﹂
あれから音夜は週に2∼3回、五嶋の会社の研究室に通い、レイシ
ステムの調整や訓練、数体のファンガイアの討伐をしていた。
五嶋は結果をまとめたファイルと封筒を音夜に渡した。
﹁たしかに。﹂
﹂
﹁さて、しばらく俺はこの町を離れる。﹂
﹁なんだ、優雅に避暑か
だった。
♪♪♪
﹁喧しいっ
﹂
﹁ヴェリィ∼メロ⋮﹂
まひるは微笑んだ。
もはや日常の風景となった音夜とレイバットのコントを見ながら
﹁うふふ、もう慣れました。﹂
﹁ごちそうさま、まひるもこの2人の世話は大変だと思うが⋮﹂
五嶋は紅茶を飲み干すと立ち上がった。
観測班からの報告ではレイの活躍で活動を控えている様だからな。﹂
﹁まぁ、夏期休暇とでも思ってせいぜい羽を伸ばせ。ファンガイアも、
﹁なら、レイの調整は
﹂
猛、という組織には耳慣れないが、前2つは全国的にも有名な一族
拶回りだ。呉島家や園崎家、それに﹃猛﹄という組織にもな。﹂
﹁そうしたいのはやまやまだが、関係各所への暑中見舞いも兼ねた挨
?
ら少し離れた所にビーチパラソルとシート敷いて、兄妹水入らずでく
つろいでいた。音夜は漆黒のブーメランパンツを、まひるは白地にカ
ラフルな花柄のビキニに、薄緑色のパレオを腰に巻いていた。さらに
日焼け防止に薄手の白いパーカーと大きな麦藁帽子を被っていた。
ちなみにレイバットは館の今は使われていない花壇でメロンを育
てると言って植物図鑑や栽培方法の本を熟読していた。
129
?
五嶋の勧めもあり、音夜とまひるは近くの海岸に来た。海水浴場か
!
﹁いい波の音だな。﹂
﹁そうだね∼。﹂
陽射しが苦手な音夜をしっかりパラソルの影にして、まひるは正座
をくずして座り、その太腿に音夜は頭を乗せていた。
﹁兄さん、身体に傷増えたよね⋮﹂
まひるは細身ながら引き締まった音夜の上半身を撫でた。
﹁まぁ、レイも開発途中で何かと調整不足なことがあるし、ファンガイ
アからの攻撃も完全には防ぎきれていないからな。﹂
﹁無理⋮、しないでね⋮﹂
﹁ふっ、可愛い妹のために無理をするのが兄だが、妹に懇願されると聞
いてしまうのも兄だ。心配するな、お前を泣かせるようなことはしな
い。﹂
音夜は見上げるかたちのまひるの顔を撫でた。
てろ。﹂
音夜はサンダルを履くと海水浴場の方に歩いて行った。
♪♪♪
音夜が海の家に行くと、何やら騒ぎが起きていた。
﹁ちょ⋮、止めて下さい⋮、﹂
人込みの隙間から見ると、8人のガラの悪い男達が、女子店員に絡
んでいた。他の客や奥に隠れている店長らしき男性は人数とガラの
130
くぅ∼
﹁お腹⋮、空いたね⋮﹂
﹂
まひるのお腹が可愛らしい音を奏でた。まひるは赤くなった顔を
隠すように麦藁帽子を深く被った。
﹂
﹁よし、何か海の家で買ってこよう。何が食べたい
﹁ん∼、焼きそば
?
﹁よし、夏の海にはソースが焦げる音と匂いが最高に合うからな、待っ
!
悪さに近寄れずにいた。
﹁こんなとこでバイトしてないで、オレラトアソボーゼ。﹂
﹁おい、そこのテンプレ雑音。﹂
音夜は人込みを割って騒ぎの渦中に飛び込んだ。
﹁この真夏の湘南、眩しく輝く太陽、爽やかな風、軽快なメロディを奏
ナンダコノヤロウ
﹂
でる海にお前らの濁声は耳に障る、鬱陶しい、公害だ、早々に帰れ。﹂
﹁アン
けた。
﹁大丈夫か
﹂
昼食前の軽い運動を終えた音夜は絡まれていた女子店員に声をか
﹁オ、オボエテロ∼﹂
らあしらい、雑音を除去した。
発した台詞を聞き流しながら、音夜は優雅に8人をドレミを奏でなが
かつて多くのモブ、背景、その他大勢のキャラにもならない男達が
﹁ナメンジャネェゾ﹂
﹁ヤッチマエ﹂
﹁テメェ﹂
わせ、その場に倒した。
典型的な雑魚キャラの台詞を並べた雑魚Aを音夜は足払いを喰ら
!
﹁ん
﹂
﹁あ、はい⋮、ありがとうございました、緒川さん⋮﹂
?
たことがなかったが、今日は紺色の水着に眼鏡をかけていた。
﹁あぁ、こんな美人忘れるはずがないと思っていたが、ナオだったの
か。いつもより眩しいからきづかなかったぞ。﹂
﹁そ、そんな⋮。まひるなんかと比べたら私なんか⋮﹂
﹁まひるの美しさはもはや神域に達してるからな、だが、ナオの美しさ
もそう卑下したものではないぞ。﹂
﹁え⋮﹂
﹁お前の奏でる音楽同様、理路整然として整った顔立ちにすっとした
目元、それが今日の眼鏡でより際立っている。﹂
131
?
よくみると、まひるの親友の高倉直子だった。普段は制服姿しか見
?
﹁⋮∼﹂
直子は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
﹁と、そうだ。まひるを待たせていたんだ、焼きそばを2人前頼む。﹂
海の家の店主がサービスした特盛り焼きそばを、ついでだと休憩に
﹂
してもらった直子と一緒にまひるの所に戻ると、パラソルとシートだ
まひるの奴、どこ行ったんだ
けでまひるの姿はなかった。
﹁ん
﹁⋮
﹁歌声⋮
﹂
を聞いた。
直子が顔を真っ赤にしながら走って行った直後、音夜は不思議な音
﹂
♪♪♪
﹁それでいい。﹂
﹁お⋮、音夜⋮⋮さん﹂
﹁あぁ、頼む。それと、まひるも緒川だ、俺のことは単に名で呼べ。﹂
直子は夏場限定の仮設トイレが並んでいる方角を指した。
い。﹂
﹁あの、私向こうの方探してきます。緒川さんはここで待ってて下さ
?
滑らかなクリーム色の鱗
蛇のように長い胴体
果たして、そこにいたのは人間ではなかった
音夜はふらふらと歌声のする方へ歩いて行った。
﹁⋮⋮﹂
美で、もっと聞きたくなるような欲求に駆られるものだった。
それは今まで聞いたことのない、脳内に語りかけてくるような、甘
?
132
?
?
尻尾は海のように青い鱗で被われ、先端は扇の様になっていた
珊瑚色の眉が涼しげで暗い目つきの巨大なモンスターが、口元から
﹂
﹂
﹂
発している歌声に音夜は吸い込まれて・・・・・・・・・・
﹁ヴィィィィィィクトリィィィィィィ
﹂
﹁しっかりせんか、オトヤ
﹁レイバット⋮、って、あれは何だ
ファンガイアか
音夜は突然響いた弩声に正気を取り戻した。
﹁はっ
!!!!!!!!!!!!!!
まんま海蛇みたいな姿だぞ
?
音波を発生させることができるのだ。﹂
﹁マーメイド
﹂
ド族だ。その特性はあらゆる生物の雄を一種の快楽、洗脳状態にする
﹁あれはファンガイアやキバット族と同じ、十三魔族の一つマーメイ
!?
!!
来のモンスター形態だ。﹂
!?
﹁変身
﹂
﹁ギャブリ
﹂
右前腕に噛ませた。
ベルトを装着した音夜は左手にレイバットを持って、垂直に立てた
﹁うむ、華激︵カゲキ︶な﹂
﹁⋮まぁいい、行くぞ﹂
そう言いながらちゃんと持って来たベルトを音夜に渡した。
﹁うむ、来夏にはメロンが豊作だ。﹂
熊手とスコップを持ったレイバットに突っ込んだ。
音夜は、手ぬぐいでほっかむりをして両手︵両翼︶にやはり小さい
﹁なるほど⋮⋮、というか、なんだその格好はっ
﹂
有している。人間に知られている所謂〝人魚〟は中間形態、あれは本
﹁十三魔族は魔力が高い者になれば種族固有能力以外に、変態能力を
?
氷霧を振り払い仮面ライダーレイ・プロトタイプがマーメイドの前
!
133
?
!?
!
に立ちはだかった。
あれは⋮﹂
﹁音夜、すでに人が襲われているぞ。﹂
﹁ん
マーメイドの前に、先ほど音夜が追い払ったチンピラが倒れてい
た。
﹁1、2⋮1人足りないな﹂
﹁オトヤ、あそこだ。﹂
レイ・プロトタイプが砂浜の反対側を見ると、一人のチンピラが腰
を抜かしながら逃げていた。その前に、白い服を着た謎の男達が現れ
た。
﹁ひっ⋮﹂
白服の男の1人が試験官のような物を首筋に打ち込むと男は一瞬
悲鳴を挙げると、体の色が失われてガラスのように砕け散った。
﹁あれは⋮﹂
﹂
﹁ファンガイアは吸命牙という器官を召喚し生物のライフエナジーを
吸収するが、あやつらは紛れもなく人間⋮、一体どういうことだ
?
白服はレイ・プロトタイプに構わず他のチンピラ達に次々と試験管
﹂
を打ち込んでいった.
﹁おい待て⋮、くっ
ブォン
!
﹂
!
た。
!
レイ・プロトタイプはその水流に飲み込まれ、海に沈んだ。
﹁うわぁぁぁ
﹂
マーメイドは身体を大きく膨らませると、口から水流を吐き出し
あるらしいがな⋮、来るぞ
﹁と、言ってもレイ・プロトタイプには基本装備はないぞ。計画自体は
﹁ここまで巨大な相手、素手だと無理だぞ⋮﹂
尾でぶっ飛ばした。
レイ・プロトタイプが止め様とすると、マーメイドがその巨大な尻
!
134
?
﹂
第3話 一部だったり、キバったり
﹁はっ
音夜が目を覚ますと、そこは病院の一室だった。
﹁⋮む、そうだ、あのマーメイドに鉄砲水みたいなをくらって⋮﹂
﹂
音夜は気を失うまでのことを思い出した。
﹁兄さんっ
︻23 years ago︼
3話 一部だったり、キバったり
?
いって。﹂
﹁ほとんど、無傷
﹂
﹁先 生 が 言 う に は 怪 我 と か ほ と ん ど し て な い か ら も う 退 院 し て も い
はそのうちの1つだった。
各所に自分の名前で何でも都合がつく施設を備えていたのだ。ここ
五嶋はレイ・プロトタイプの音夜が不足の事態に陥った時のために
らったの。﹂
前に五嶋さんから教えてもらってた話の通ってる病院に運んでも
付いて浜まで運んでくれたの。ちょうどそこにナオと私が合流して、
﹁うん、志保ちゃんサーフィンやってたら兄さんが漂流してるのに気
﹁じゃあ海に落ちた俺を助けたのは能登志保なのか
﹂
音夜に指摘されてまひるは顔を真っ赤にして飛び退いた。
﹁まひる⋮、とりあえず、お前水着だってこと忘れるなよ﹂
﹁よかったぁ∼⋮﹂
病室の戸が開くと、まひるが飛び込んで、音夜に抱きついた。
!
色々と気にかかることが多い。一度レイバットと話し合う必要が
﹁⋮あのマーメイド⋮⋮﹂
にそこに偶然志保がいたのもできすぎている。
の攻撃を直撃したにも関わらず、ほぼ無傷。それに海に飛ばされたの
音夜は自分の身体に触れた。多少の打ち身などはあるが、あれだけ
?
135
!?
あった。
♪♪♪
﹂
﹁そういえばまひる、お前俺が買い物に行ってる時どこに行ってたん
だ
退院した音夜とまひるはとりあえず着替えるため緒川邸へ帰るこ
とにした。
﹂
﹁あ、そうそう。あのね、帽子が飛んできたの。﹂
﹁⋮は
﹂
!
﹁ア∼∼
﹂
音夜は走り出して大柄な男の背中にドロップキックを打ち込んだ。
﹁ナオに何してんだこの野郎∼∼
まひるが指差した方を見ると、大柄な男が直子に言い寄っていた。
そしてね⋮⋮、あ、あの人⋮﹂
探 し て い っ た ら 旅 の 音 楽 グ ル ー プ の 陽 気 な お じ い さ ん と 会 っ た の。
﹁この炎天下、帽子がなかったら困るだるな∼って思って、風上の方に
?
﹂
?
?
た。﹂
﹁おい、なんであいつあそこで伸びてるんだ
﹂
﹁やぁお嬢さん、お兄さんは怪我とかないようだね。よかったよかっ
そこに一台のキャンピングカーが徐行で近付いてきた。
﹁なん⋮だと⋮﹂
運んでくれたんだよ。﹂
﹁その人、さっき言った旅の音楽グループの1人で、兄さんを病院まで
まひるがサンダルをぱたぱたさせながら音夜を追いかけて来た。
﹁兄さ∼ん、その人悪い人じゃないよぉ∼。﹂
音夜は胸を張った。
﹁安心しろ、お前を誑かす雑音は俺が倒してやったぞ。﹂
﹁あ、いえ、音夜さんその人は⋮﹂
﹁ナオ、大丈夫か
大柄な男は数メートルも吹っ飛んだ。
!
136
?
♪♪♪
﹁はっはっは、暴漢と間違えたか。﹂
﹁まぁ、こいつの見た目だとそうなるか。﹂
音夜とまひるそれに直子は、彼らの湘南での拠点という海岸付近の
森に移動した。
コンドルクインズというバンドの陽気な老人と小柄な老人は音夜
から事情を説明させると笑い出した。
﹁まぁあれだ、スマン。﹂
﹁イヨイヨ、キニシテナイヨ。﹂
大男も気さくに許してくれた。
﹂
﹁ところで、旅しながら音楽をしていると聞いたが、一曲聴かせてもら
えないだろうか
﹁では、挨拶代わりに⋮﹂
3人は楽器を持つと演奏を始めた。
日本とは違う太陽、乾いた風を受けながら、情熱的に、愉快に、コ
ンドルクインズの曲はそんな感じだった。
﹁わ∼,すごいすごい。﹂
﹁学校じゃ聴いた事無い音楽ですね。﹂
まひると直子は拍手絶賛した。
﹁うむ、なかなかのものだな。﹂
上から目線評価だが、それでも音夜にしては珍しく他人を褒めた。
﹁しばらくはここでバカンスがてら作曲活動に専念するつもりだ。基
本的にここにいるからいつでも来なさい﹂
陽気な老人の言葉に、今度は俺のバイオリンを聞かせてやる、次は
セッションしましょうね∼、と音夜とまひるは約束した。
♪♪♪
﹁ねぇまひる、夏休みは合唱部の練習や受験勉強もあるのに、あんな約
137
?
束してもよかったの
﹂
3人での帰り道、直子はまひるに聞いた。
﹁だいじょ∼ぶ。合唱部はちゃんとやるよ∼。勉強はまぁ、兄さんに
教えてもらうし。﹂
﹁そうだな、あそこの教師たちよりはまひるにあった勉強方法を教え
ることが出来る。﹂
それからの夏休み、緒川兄妹にとってはとても充実したものになっ
た。
合唱部は秋の全国大会、まひるや直子にとっては最後の大舞台にむ
けて精力的に練習をし、空いた時間には音夜と連れ立ってコンドルク
インズのキャンピングカーまで行き一緒に音楽について語り演奏し、
その合い間合い間に勉強をしていた。まひるの第一志望は近くの音
大。
音夜の進路は本人曰く、
﹁俺の針路は俺の目線の先。俺の奏でる音が第一志望だ。﹂
などと言って進路相談室でバイオリンの演奏を始めた。普段の授
業態度はさぼってばかりなのに、成績はつねに学年2位︵ちなみに1
位は直子︶。
その一方で、音夜はマーメイドのことも気になっていた。
五嶋に連絡すると、観測班を動員して調査中、今は無茶をするなと
言われた。
あれから謎の失踪者等といった怪事件の噂は聞かない。自宅の屋
﹂
根の上でバイオリンを弾きながら音夜はレイバットに聞いた。
﹁レイバット、マーメイド族とはどんな種族だ
ジーを摂取し、それが子孫を残すたびに徐々に体内に蓄積されて、十
﹁長年海というこの惑星の根源ともいえる巨大なものからライフエナ
レイバットは言葉を濁した。
りたい、と彼女達は思っている。しかし⋮﹂
はなく済んでいる海から摂取している。そして人間とは友好的であ
﹁うむ、歌をこよなく愛し、争うを嫌う。ライフエナジーも人間からで
?
138
?
三魔族の中でも特に回復・生命力が強くなった。その涙は傷を癒し、
血は難病すら平癒させる。そしてその血肉を喰らえば⋮﹂
﹁不老不死、ということか。﹂
﹁人間界でも数多の伝説が残っているようにな。捕らえられるのを恐
れ、かといって、争うことはしたくない。彼女達はいつからかほとん
ちょっと待て、〝彼女たち〟
マーメイドは女しかいないのか
ど姿をみせることはなくなった、⋮と、我のデータベースにはある。﹂
﹁ん
﹂
?
﹂
?
れた。
?
﹁え⋮
﹂
﹁今すぐ交流を止めなさい。﹂
ちゃって、今度海岸でライブでもしよ⋮﹂
﹁あ、はい。とっても良い人たちであの人嫌いの兄さんまで気にいっ
﹁まひる君、君は最近校外で音楽グループと交流しているそうだね
﹂
そんなある日、まひるは合唱部顧問の池崎先生に進路相談室に呼ば
♪♪♪
﹁ふっ、お前らしいな。﹂
て、ほっとけるわけないだろ。﹂
歌、哀しかったんだ。悲哀、悲壮、絶望。そんな女の音楽を聴かされ
﹁違うわアホバット。あいつ、あのチンピラたちを誘惑していた時の
かったのか
﹁なんだ、マーメイド族の住処を見つけてハーレム楽園にでも行きた
﹁そうか⋮﹂
を残す。﹂
﹁そうだ。種族は全員が雌。同系種であるマーマン族との交配で子孫
?
に君はあまり成績がよくはない。赤点でないからいいという訳では
て練習に努めなければならない、模範となる立場だ。そしてそれ以前
高校3年生、部活である合唱部の全国大会に向けて部長として率先し
﹁校外活動には基本的に教師の許可がなければ認められない。今君は
?
139
?
ないよ。﹂
﹁はい⋮﹂
﹁ちょっと待て。﹂
進路相談室の外でまひるを待っていた音夜が中に入ってきた。
﹂
﹁兄さん⋮﹂
﹁音夜君
﹁規則規則、そりゃ学校や部活を円滑に進めるには必要だろうが、そん
今の合唱部、たしかに全国大会に行く実力は
なのに縛られすぎて音楽の本質を見失ったら本末転倒だろ。﹂
﹁む⋮﹂
﹁率先して部員の模範
じゃないか
﹂
文句はそれか
あと、まひるの成績は休み明けの実力テストで全科目で
あるが、どこか窮屈だぞ。お前の指導方法、少し改めたほうがいいん
?
そっちがぐうの音も出ない結果を、俺が出させてやる
らだ
!
?
たりで立ち止まった。
﹁ナオ、そこにいるんだろ。﹂
﹂
音夜が声をかけると、直子が出てきた。
﹁何ですか
音夜は溜息を付くと直子のぽんと手を乗せた。
﹁ハァ⋮﹂
楽やってたし⋮⋮﹂
﹁⋮だって、規則だし⋮まひる⋮合唱部よりあの人達と楽しそうに音
﹁ナオ⋮、どうして⋮﹂
﹁⋮はい⋮、そうです。﹂
を知ってるのはお前だけだ。﹂
﹁池崎にチクったのはお前だな。コンドルクインズと俺たちの関わり
?
140
?
まひるの手を引っ張って進路相談室から出た音夜は廊下の突き当
!
﹁ようするにまひるがあんまり合唱部、というか自分に構ってくれな
いから嫉妬してたのか。﹂
﹁なっ⋮、違い⋮﹂
直子は顔を真っ赤にした。
﹁ふっ、いつもはきっちり規則とか言って振舞ってても、可愛いとこも
あるんじゃないか。﹂
﹁そうだ、ねぇナオ一緒に曲作ろうよ。全国大会用の自由曲。﹂
﹁え、でも⋮﹂
﹁大丈夫、ナオと一緒ならすっごい曲できるから。﹂
﹁超力︵チョウリキ︶ながら、俺も手伝うぞ。﹂
微力と自分を遜って言わない音夜の横顔を、直子はじっと見つめて
いた。
♪♪♪
141
夕方、音夜とまひるはコンドルクインズと音楽活動を楽しんでい
た。
﹁そんなことがあったのか⋮﹂
﹁音夜、まひる、私達は2人とこうして音楽をやるのは楽しいしが⋮﹂
﹁ソレデフタリガ、ガッコデタイヘンナラ⋮﹂
﹁あ∼、いい皆まで言うな。﹂
音夜は3人の言葉を遮った。
﹁俺の音楽は学校の規則、法律、日本国憲法ですら縛ることは敵わない
ものだ。心配するな。﹂
﹁そうだよ、兄さんは糸の切れた凧みたいなんだから。﹂
微妙に使い方が違うまひるの言葉に音夜は微笑んだ。
﹁さて、名残惜しいが今日はここまでだ。﹂
﹁え、でもまだ⋮﹂
﹂
﹁池崎の前で啖呵を切った以上、これからはもう少しお前の勉強時間
を増やすぞ、いいな
﹁あぁ、そうしなさいまひる。﹂
?
﹁勉学は学生の本分だよ。﹂
﹁オンガクハ、イツデモデキルヨ。﹂
﹁と、言うことだ。﹂
音夜はまひるの頭にヘルメット被せた。
﹁は∼い、じゃあまた明日ね∼。﹂
バイクを走らせていると、レイバットが平走してきた。
﹂
﹁音夜、五嶋から連絡が入った。マーメイドと白服をこの近辺で目撃
したそうだ
くっ、けど今は⋮﹂
﹂
!
﹂
!
♪♪♪
﹁ここだ
﹂
ピードで飛んだ。
バイクに噛み付きマシンレイダーに覚醒させたレイバットは猛ス
﹁我が先導する、ギャブリ
音夜はバイクの速度を上げた。
﹁よし、わかった
ンズのみんなが心配だよ。﹂
﹁大丈夫、ちゃんと隠れてるから。それにこの近くならコンドルクイ
後ろのまひるが音夜の腰に回した手に力を込めた。
﹁何
!
﹂
!
﹂
!
!
前腕に噛ませた。
﹁華激︵カゲキ︶に、ギャブリ
﹂
﹂
レイバットベルトを装着した音夜は左手でレイバットを掴んで右
﹁レイバット
れていたのは⋮、コンドルクインズの3人だった。
の光を受けて輝かせて歌を歌っていた。そしてその歌に引き寄せら
まひるの指差した方にはマーメイドがその優美なボディを三日月
﹁兄さん、あそこ
そこは以前音夜がマーメイドと遭遇した所だった。
!
142
!?
﹁変身
!
氷霧を振り払い、仮面ライダーレイ・プロトタイプはマーメイドに
迫った。
まひるはコンドルクインズの3人を止めていた。
﹁待って⋮、みんな、目をさまして⋮﹂
しかし、まひるの細腕では3人の動きを止めることはできなかっ
た。そこに、白服達が現れた。全員まひるを見ても表情1つ変えず試
くっ⋮、﹂
験官を取り出した。
﹁まひる
レイ・プロトタイプはマーメイドが叩きつける尻尾を回避するので
精一杯だった。
そこに、青いスポーツカーが走ってきた。
﹂
﹁五嶋さん
﹂
﹁あぁ、任せた
﹂
﹁音夜、こっちは心配するな
﹂
尾に拳を叩き込んで気絶させた。
5人をあっという間に倒した五嶋は最後にコンドルクインズの鳩
﹁ふんっ
戦闘力なら、音夜以上だ。
プのテスターとして戦うはずだった。単純な
した。今でこそ音夜が使っているが、本来は五嶋がレイ・プロトタイ
オープンカーから白服達に飛び掛った五嶋は次々と白服たちを倒
﹂
﹁うおぉっ
!
!
されてるな。﹂
﹂
﹁今は戦いに集中しろ、レイバット
﹁うむ、オトヤ、右だ
!
﹁おい、マーメイド
お前、どうしてそんなに哀しい歌を歌う
﹂
?
うで、その実、ちゃんと人がいる方向を選んでいた。﹂
﹁こないだも、お前は攻撃を手加減していた。俺を遠くに飛ばしたよ
音夜の言葉にマーメイドは動きを止めた。
!
マーメイドの尻尾を躱したレイ・プロトタイプは距離を取った。
!
﹂
﹁ふっ、重度のシスコンのお前がまひる嬢を任せるとは、ゴシマも信頼
!
143
!
!
!
マーメイドは紺碧の海のような瞳でレイ・プロトタイプ、音夜を見
つめていた。
︻ 戦 え ︼
﹂
突如、周囲に謎の声が響いた。同時に、マーメイドが苦しみだした
﹁なんだ
﹂
に動きが鈍くなっていた。
﹂
本当か
﹂
﹁まひる嬢、そのまま歌い続けてくれ
もしれない
﹁なんだと
!
﹂
!
レイ・プロトタイプはキックや拳で叩き落していった。だが、如何
﹁くっ、まひるの邪魔はさせんぞ
周囲の海から何匹もの貧相な魚型ファンガイアが飛び出してきた。
⋮﹂
﹁うむ、ただ、操っている奴はそう簡単には歌わせてくれないらしぞ
?
マーメイドの洗脳が解けるか
まだ歌詞の無いメロディだけの歌だが、マーメイドはその歌で確か
﹁♪∼∼♪∼♪∼∼∼∼﹂
隣にいた五嶋も眉をひそめた。
﹁まひる
突然歌いだした。すると、マーメイドの動きが鈍くなった。
﹁∼♪♪∼∼﹂
き出した。そんな戦いを見ていたまひるが⋮
瞳の輝きを失ったマーメイドはレイ・プロトタイプ目掛け激流を吐
ザバァッ
我を失っているぞ⋮﹂
向を調整してオトヤを逃がしたのだろう⋮。しかし、あれは完全に自
た時も攻撃こそしてきたが、辛うじて残っていた自我で威力を抑え方
﹁どうやらあのマーメイドは何者かに操られているようだ。以前戦っ
!?
?
144
!
!? !
﹂
せん数が多い。素手では限界がある。
﹁音夜、新しい武器だ∼
﹁これは⋮﹂
!
﹁はぁぁ
﹂
節棍状に変形した。
た。すると、自在剣・機刃が開き、真ん中に持ち手と鎖で繋がった三
受け取ったレイ・プロトタイプは数多の敵を倒せる武器を想像し
﹁自在剣・機刃、お前が望んだ通りの武器になる
﹂
歯⋮牙のような物を取り明日とレイ・プロトタイプ目掛け投げた。
五嶋が車に乗せていたアタッシュケースからメカニカルな獣の犬
!
を決めた。
﹂
?
祈るように、
願うように、
癒すように、
あまねく悪しき感情を、
絶望、
マーメイドの哀しみ、
まひるは必死に歌った
﹁♪♪∼♪∼∼∼♪♪♪∼﹂
♪♪♪
﹁余韻というやつだ。﹂
﹁それ、必要か
﹂
ラスト一匹を倒したレイ・プロトタイプは脇に先端を挟んでポーズ
﹁はいぃぃ
ンガイアを自在剣・機刃の乱れ舞う攻撃で次々と倒していった。
レイ・プロトタイプは四方八方から飛び掛ってくる貧相な魚型ファ
!
歌い続けた。
145
!
﹂
﹁ あ り が と う ﹂
﹁っ
﹂
小さく響いた言葉を耳にしたまひるはマーメイドに駆け寄った。
﹁まひる、待て
身体を抱き締めた。
?
﹁死んだのか
﹂
﹁まひる嬢の歌が洗脳に勝ったのだ⋮、ただ、﹂
﹁レイバット、どうなってる
﹂
はまひると止めたが、まひるは聞かずに力尽きて倒れたマーメイドの
レイ・プロトタイプの活動限界時間が来て強制変身解除された音夜
!
日も変わらず音夜とまひると音楽に勤しんでいた。
﹁なぁ音夜、まひる。君たちにとって、音楽とはなんだ
コンドルクインズの陽気な老人が聞いた。
﹂
コンドルクインズの3人は歌に魅入られていた間の記憶が無く、翌
♪♪♪
歌い過ぎて咽を嗄らしたまひるが頭を下げた。
﹁お願い⋮します⋮、この子を⋮⋮、助けて下さい⋮﹂
ないが、医療施設に収容して対症療法でなんとかしてみる。﹂
﹁後の事は任せてくれ。そのマーメイドも、どこまでできるか分から
そこに五嶋が携帯片手に近付いてきた。
るようだ。﹂
﹁いや、酷く衰弱している。マーメイドの精神はそうとう疲弊してい
?
?
ものだ。﹂
﹁ん∼、酸素とか水とか、どこにでも在って当たり前なものかな
﹁はは、それで観客が来ればいいんだがな。﹂
小柄な老人が枯れたような発言をした。
﹂
﹁俺であり、まひるであり、世界でもある。イコール、世界とは俺その
?
146
!?
﹁はっ、そんな弱気で奏でる音楽なんか、例え一等地であっても聞きた
﹂
くはない。人がいるから歌うのがプロなんだるが、まずは歌って人を
集めるのもプロだろう
音夜の言葉に大男が頷いた。
﹁オトヤ、イイコトイッタネ。﹂
﹁だがまぁ、今作ってる曲ができたら知り合いの音楽会社の奴に口利
いてステージくらいは用意してやるぞ。﹂
﹁その健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみのときも、私が創
りたいのはそんな曲かな。﹂
﹁あぁ、そうだな。﹂
音夜はそれにあわせてバイオリンを弾いた。
♪♪♪
﹁何だ、もう行くのか。﹂
﹁あぁ、あのWMC︵ワールド・ミュージック・カンパニー︶とお近付
きになるチャンスはありがたいが、それは性にあわん。﹂
陽気な老人は帽子を被って、最後の荷造りを終えた。
﹁本当にいいのか、この曲をコンドルクインズの曲としてしまって﹂
﹁あぁ、構わんさ。﹂
﹁いいですよ。私はこれから別の曲創りますし。﹂
﹂
小柄な老人の言葉に音夜とまひるは笑顔で応えた。
﹁オ∼∼、オトヤッ、マヒルッ、アリガト∼∼∼
2人は大男の全力の抱擁を受けた。
!!!
147
?
そんな2人を監視する影があった
﹁あの男⋮人間にしてはなかなかの強者だな⋮⋮、それに⋮、あの女の
歌⋮⋮くっくっく⋮﹂
148
第4話 学んだり、焼いたり
﹂
﹁まひる、今五嶋から連絡があった、あのマーメイドが目を覚ました
らしい﹂
﹁本当
﹁だが、何やら状況的に問題があるらしい﹂
︻23 years ago︼
4話 学んだり、焼いたり
WMC︵ワールド・ミュージック・カンパニー︶管理下の倉庫
運びこまれたマーメイドはそこにいた。周囲には、五嶋に白衣姿の
研究員が数人いた。
その中心には体長6m近い巨大なモンスター、マーメイドがいた。
十三魔族の中でも一際美しいとされるマーメイド族だが、とぐろを巻
き上体を垂直に立て、五嶋達を見下ろす表情はかなり険しく、手負い
の獣の雰囲気を漂わせていた。
﹁五嶋﹂
﹁五嶋さん﹂
﹁おぉ、音夜にまひる﹂
﹁我もいるぞ﹂
音夜にまひる、レイバットが到着すると、マーメイドは幾分警戒心
を解いた。
﹁よかった⋮、元気になったんだね﹂
まひるが近付くとマーメイドは顔をまひるに寄せてほっぺすりす
りをした。
﹁ふぅ∼⋮、麻酔が切れてからずっと威嚇しっぱなしでな、まひる
ならあるいはと思って呼んだんだ。﹂
﹁よし、我の十三魔族言語翻訳装置を使い、奴とのコミュニケーショ
ンを⋮﹂
149
!?
﹁うるさい蝙蝠。わたしはこの人間しか信用しない。雄どもも出て
行け﹂
﹁⋮む﹂
﹁⋮ふぅ∼、どうやらまひるに任せるしかないな、レイバット、五
嶋、俺達は出よう﹂
﹂
男達とレイバットがいなくなると、まひるはメーメイドに話し掛け
た。
﹁もぉ∼、ダメだよ、女の子があんな口きいちゃ、めっ
まひるはマーメイドの鼻先を人差指で押した。
﹁だって⋮、人間達は⋮、特に男は信用できない⋮﹂
マーメイドは一族の顛末をまひるに話した。
人では辿り着けない島を転々としながら、時期が来ればマーマン族
と繁殖し、新たな家族と共にまた別の島に。
人間にはなるべく近付かないようにしながらも、世界各地の音楽だ
けはマーメイド族の唯一の娯楽となっていた。
﹁でも、人間達の航海技術が発達して⋮、コロッケとかいう人間が
アメリカ大陸を見つけてから私達も時々見つけられるようになって
⋮、﹂
︵それたぶんコロンブス⋮︶
﹁そしたら私達を捕まえようとする人間どもが海に出てきて⋮、仲
間がたくさん掴まって⋮⋮⋮、最後は私1人になって⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
マーメイドの目から涙が零れた。
﹂
﹁でもそんな時、アイツが現れたんだ⋮﹂
﹁アイツ
いてきて⋮⋮⋮﹂
メーメイドは身体を震わせた。
﹁そ れ か ら は 記 憶 が 曖 昧 な ん だ。ぼ や っ と し て い て、そ れ で も
150
!
﹁サガ│ク族という魔族の女戦士だ。わたしを助けると言って近付
?
⋮⋮⋮自分の歌が悪用されていたのは何と無くわかった⋮⋮⋮⋮﹂
﹁それであの時泣いていたんだね⋮⋮⋮﹂
﹁⋮ぅ、⋮ぅぅ⋮⋮⋮﹂
﹁辛かったよね、大好きな歌をそんなことに使われて⋮⋮⋮﹂
﹂
まひるはマーメイドの首に腕回してぎゅっと抱き締めた。
♪♪♪
﹁兄さん、この子うちに住まわせてもいいよね
﹂
音夜とレイバット、五嶋がまひるに呼ばれて中に入るといきないま
ひるが衝撃的なことを口にした。
﹁待て待て、マイシスター。どういう流れでそうなった
﹂
﹁おいまひる嬢、我は拾われた犬畜生か
﹂
﹂
﹂
﹁うちにはもうレイバットいるし、部屋も余ってるし、いいでしょ
音夜は愛妹の懇願に呆れていた。
﹁ペットを飼うのとは訳が違うんだぞ⋮﹂
し⋮⋮⋮うちに⋮﹂
﹁だってこの子もう一族いなくなっちゃって行くとこ無いみたいだ
?
﹁だいたいそんなデカイ図体をどうやって住まわせるんだ
﹁う∼ん、それはたしかに⋮⋮⋮、ねぇ小さくなれる
﹂
﹁いやそんな簡単に⋮﹂
﹁これでいいか
?
んどん小さくなっていった。
151
?
五嶋の言葉を遮るように、マーメイドの全身が光に包まれ、光がど
?
?
!?
?
﹁一応人化の術はある程度の魔力を持っていれば可能だ﹂
マリンブルーのロングヘアーを靡かせながらマーメイドは全身を
観察した。
﹁数百年ぶりだが、うまくいったな﹂
﹁⋮⋮⋮あ∼﹂
﹁⋮⋮⋮うむ、﹂
﹁これは⋮﹂
﹂
音夜、レイバット、五嶋は呆然としていた。
﹂
﹂
﹁ちょ、と⋮、ダメだって∼
﹁何がだ
﹁裸なんだよ
何だそれは
前が必要だな﹂
﹁名前
﹂
﹁まぁ⋮、そいつの躾はまひるに一任するとして、差し当たって名
かけた。
まひるは羽織っていたサマーカーディガンをマーメイドの裸体に
変身したマーメイドは、一糸纏わぬ裸体だった。
!
音夜が朝まひるを起こしに来ると・・・
人間の姿となったマーメイドが緒川家に来てから数日、
♪♪♪
﹁じゃあいい名前を考えておくから、ちょっと待っててね﹂
レイバットが頭上を飛びながら考察した。
﹁そうか、マーメイド族には個体を識別する名称がないのか﹂
?
﹁お∼い、まひる朝だ⋮﹂
152
!!!
?
﹁え、名前だよ﹂
?
﹂
1つのベットでまひるとマーメイドが抱き合って眠っていた。
どちらも裸で
﹁はぁ∼⋮、またか﹂
音夜は溜息を吐いた。
﹁ふぁ⋮、あ、兄さんおは⋮⋮⋮よ
まひるは自分の姿に声が裏返った。
﹁む、まひる、起きたか﹂
﹁もぉ∼、なんでまた服脱がせるの
しかも私のまで﹂
﹁このパジャマというのは窮屈だ、特に胸が﹂
﹁むぐ⋮﹂
マーメイド︵人間態︶はモデルのように長身で、さらにグラビアア
イドル並の豊満な巨乳の持ち主だった。同年代ではそれなりに背が
高く胸もあるまひるだが、そのまひるのサイズの服はマーメイドには
窮屈だったようだ。
﹁だ、だからって私のまで⋮﹂
﹁お前の人肌はちょうどいい冷たさだ。抱きつくのにいい﹂
またある時は
﹁ふんふんふ∼ん﹂
﹂
﹂
﹂
まひるが脱衣所で鼻唄交じりに浴室に入って湯船に入ると・・・・・・
﹁きゃあっぁぁぁぁぁ∼∼∼
﹂
浴室に駆け込むと、学習してバスタオルで身体を隠したまひるが震え
ていた。
﹁み⋮、み⋮、水
いた。
﹁うむ、摂氏18℃。かなりの冷水だ﹂
﹁冷たっ
﹂
まひるが指を指した湯船には、たしかにいっぱいの水で満たされて
!
153
!?!
?!
まひるの悲鳴を聞きつけ音夜と濡れ衣を着せられたレイバットが
!
!?
!!
どうした、またエロバットか
﹁まひる
!
我ならここだ
﹁愚か者
!
!
手と羽を突っ込んだ音夜とレイバットも確認した。
﹁む、風呂に入れというので入らせてもらった。ずいぶんと狭いん
だな、風呂というのは﹂
全身から水を滴らせながらマーメイドが廊下から3人を見ていた。
他にも食事の仕方や文字、現代社会︵マーメイドの知識は1900
年代で止まっていた︶などまひるは献身的に色々教えた。合唱部の部
活も毎日忙しいにも関わらずだ。
﹁おいお前﹂
﹂
ある日、まひるが部活の朝練に行った後、マーメイドが音夜に話し
掛けた。
屋から出てきて応えた。
﹁まひる嬢は学校という同年代の男女が集まる教育機関の中で音楽
を主にする学科で勉学に励んでいる。そして、集団で歌う合唱をする
少数集団の長を務めているのだ﹂
﹁蝙蝠の言い方はよくわからん﹂
﹁ようするに、まひるはこことは別の所で歌っているんだ﹂
﹁ふ∼ん⋮⋮⋮﹂
マーメイドは何かを考えていた。
﹂
154
﹁まひるはどこに行った
﹂
﹁部活だよ﹂
﹁ぶかつ
?
マーメイドの疑問にレイバットが部屋の中に最近作った止り木小
?
﹁よし、私も行くぞ。お前、案内しろ﹂
﹁は⋮
?
♪♪♪
﹂
音夜とレイバット、そしてまひるのワンピースを着たマーメイドは
白浜坂高校に着た。
﹁ここが勉強とかするところか
をするなよ﹂
﹂
﹁全国大会とはなんだ
﹂
﹁いいか、今まひる達は全国大会を控えて練習しているんだ、邪魔
﹁まひるはどこだ
﹁そうだ。ここに俺とまひるは通っているんだ﹂
?
じゃあお前、マーメイド族の長か
んだ。そしてわたしは一番上手かったぞ﹂
﹁⋮⋮⋮は
﹁うむ、苦しゅうない﹂
﹁何処で覚えたそんな言葉⋮⋮⋮﹂
レイバットは呆れた。
?
﹁音が団子になっているから発声しっかりして﹂
じに﹂
﹁テノール∼、音がごちゃ∼ってなってるから、はっはっはって感
3人は体育館の裏手からこっそり中を覗いた。
﹂
﹁そうか、マーメイド族でも歌が上手い奴が一番になって長になる
﹁歌で競い合う催し物だ﹂
?
まひるの出す大雑把な指示を直子が通訳しながら部員達は練習に
精を出していた。
﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁どうだ
155
?
音夜は表情を引きつらせながら訊ねた。
?
﹁あいつらは下手だ。わたしの方が上手く歌える﹂
?
マーメイドは頬を膨らませた。
﹁⋮あぁ、なんだ﹂
音夜は納得した。
﹂
﹁お前、まひるが盗られたと思って、焼きもち焼いていたのか﹂
﹁もちを焼くのは不輸じゃないのか
お前は何を言ってるんだ
があったんだな﹂
﹁
﹁よし、屋上に行くぞ﹂
﹂
﹁はっはっは、いや、何だかんだでお前もしっかり人間らしい感情
?
﹁なんだ
﹂
突如襲ってきたのは無数の針の雨だった。
その時・・・・・
音夜はケースからバイオリンを取り出した。
に合わせて好きに歌え﹂
﹁俺がお前からインスピレーションを受けた音楽を弾くから、それ
音夜はマーメイド族を伴なって屋上に上がった。
?
﹁レイバット
アだった。
﹂
?
﹁うむ、ゴブリン族、それも中南米土着の原住ファンガイアらしい﹂
﹁おいレイバット、あれはなんだ
﹂
レイ・プロトタイプの前に現れたのは、人型のサボテンファンガイ
﹁Oh、これが今回のターゲットか﹂
した。
音夜は右前腕にレイバットを噛ませるとレイ・プロトタイプに変身
!
!
﹁華激︵カゲキ︶に行くぞ、ギャブリ
﹂
レイバットがすぐさまバイクからベルトを持ってきた。
﹁音夜、ファンガイアだ﹂
?!
156
?
﹁どうやら、標的はお前らしい。下がっていろ﹂
﹁Oh、勘違いしてもらっちゃ困るぜベイビー﹂
サボテンファンガイアは指をチッチッチと気障に振った。
﹂
﹁俺の目的は、マヒル・オガワというレディーだ﹂
﹁何⋮
まひるは渡さない
﹂
レイ・プロトタイプは思わぬ事実に固まった。
﹁ふざけるな
!
﹁HA
た。
パチン
﹂
マーメイドはモンスター形態に変化すると、尻尾を勢いよく振るっ
!
た。
!!
﹁⋮
⋮⋮⋮っお前
﹂
マーメイドは目をつぶった。しかし、衝撃はこなかった。
﹁棘棘鉄拳︵ニードルアーム︶
﹂
サボテンファンガイアは右拳を握ると、極太の棘が鋭くとび出し
を裏切り人間に付いた裏切り者よ﹂
﹁ターゲットはマヒル・オガワだが、お前も始末しておこう。魔族
クリートの屋上に草が生え、マーメイドの身体を転ばせた。
サボテンファンガイアがフィンガースナップを鳴らすと、突如コン
!
﹁ぐっ⋮﹂
!
157
?
!
?
レイ・プロトタイプの腹部装甲に深々とめり込んだ拳
鎧を貫通し音夜の生身の肉体に刺さった棘
破壊された部分からは火花がばちばちと散っていた。
158
第5話 着いて行ったり、組んでみたり
﹂
﹁これが今回のターゲットだ﹂
﹁Oh、人間の女か
た。
﹁⋮∼っ
﹂
﹂
それでも衝撃は内臓まで達しており、音夜の口からは鮮血が垂れてい
レイの鎧が防いだおかげで音夜の肉体自体のダメージは少ないが、
﹁くっ⋮﹂
マーメイドは倒れて変身の解けた音夜の身体を起こした。
﹁おい、お前
5話 着いて行ったり、組んでみたり
︻23 years ago︼
﹁ただの人間ではない、この女は⋮⋮⋮﹂
?
﹁龍尾激震︵ドラゴンテール︶
﹂
!!
﹂
青白いオーラを纏った尻尾を振り上げると、サボテンファンガイア
に叩きつけた。
My God∼∼
バッシュッ
﹁Oh
!
!!
﹁音夜
しっかりしろ﹂
ベルトから離れたレイバットが音夜に声をかけるが、意識が朦朧と
159
!
マーメイドは怒りに身を任せてサボテンファンガイアの前に出た。
!
サボテンファンガイアは空の彼方へ飛ばされた。
!
!
﹂
しているらしく返事がない。
﹁蝙蝠、どけ
﹂
今の私でもあの程
?
レイバットにベルトを運ばせ、音夜は一旦まひるの様子を見に行っ
♪♪♪
マーメイドは胸を張って断言した。
﹁お前らに言われるまでもない。まひるは私独りでも護れる﹂
﹁ああ。おい、俺達は一旦五嶋の所に行く。まひるの事、頼むぞ﹂
ねばな。レイの鎧の修理も必要だ﹂
﹁それよりも、敵方がまひる嬢を狙うとは⋮、一度五嶋とも相談せ
レイバットの言葉にマーメイドはそっぽを向いた
﹁音夜とはこういう男なのだ、いずれ分かるようになるだろう﹂
﹁⋮⋮⋮ふん、変な奴だな﹂
俺ができるわけがないだろう﹂
﹁馬鹿か、女が狙われているのにそれを見過ごすような真似、この
度の敵、軽く⋮﹂
から生かしただけだ。それより、何故私を庇った
﹁お前のためじゃない、まひるを護るのにはお前と鎧の力が必要だ
﹁ふー、助かったぞ﹂
いう回復力⋮⋮⋮﹂
﹁なるほど、それがマーメイド族の血の効果か。たった一滴で何と
するとすぐに音夜は起き上がった。
﹁お
垂らした。
マーメイドは人間形態になると指を噛み切り、血を一滴音夜の口に
!
た。丁度休憩中だったようで、合唱部の部員達は談笑していた。
160
?
﹁まひる﹂
﹁あ、兄さん﹂
﹂
音夜が音楽室に入ると、女子部員達は歓喜の声を上げた。
﹁どうだ、調子は
音夜は2人の頭を撫でてやった。
移動日込みで明日から4日間﹂
﹁ところで、全国大会とはいつからだ
明日﹂
﹁え
言ってなかったっけ
﹂
?
﹁えぇ∼
﹂
﹁まひる、その全国大会、俺も着いて行く﹂
﹁何が
﹂
﹁ふっ、相変らずいい和音を奏でているな、お前ら2人は﹂
直子は音夜の顔を直視しないように俯きながら恐縮していた。
﹁そんな⋮、まひるが皆の士気を高めてくれてるから⋮﹂
﹁うん、いい感じだよ。ナオが上手くまとめてくれてる﹂
?
﹁⋮⋮⋮マズイな﹂
﹁あれ
﹂
﹁は
?
そもそも音夜さん部員じゃないし﹂
?
﹁むぅ⋮﹂
なに心配しないで﹂
﹁と、に、か、く、わたしももう高3なんだから大丈夫です。そん
などと、女子部員達は騒ぎ出した。
﹁どうせ制服でしょ﹂
﹁どうしよ、私お洒落な服持って行かないと﹂
﹁えー音夜先輩も来てくれるのー
﹂
出していますけど、今いきなり出してもたぶん許可されませんよ⋮、
﹁いやそっちじゃなくて届出とか⋮、合唱部は全員分一週間前に提
﹁心配するな、ナオ。俺の成績はお前が一番知っているじゃないか﹂
﹁でも、音夜さん⋮、学校の方は⋮⋮⋮﹂
?!
161
?
?
?
?
音夜はいっそ本当の事を言おうとしたが、最後の全国大会前に余計
な心配をさせたくはない。
﹁あの、一応全国大会についてまとめたプリントです⋮﹂
どうしたものかと思案しながら、直子から渡されたプリントを見て
いた音夜が急に音楽室を飛び出した。
♪♪♪
﹂
WMC︵ワールド・ミュージック・カンパニー︶の研究室
﹁五嶋
﹁なんだ音夜騒々しい。鎧の修復ならあと1日は⋮﹂
﹂
﹁俺も全国大会に連れて行け﹂
﹁は
名前があったぞ﹂
音夜は先ほどのプリントを五嶋の目の前に突き出した。
﹁あ、ああ⋮、たしかに明日からその予定があったが⋮﹂
﹁まひるが敵から狙われている﹂
﹁その話ならレイバットからさっき聞いた⋮、たしかにお前が側に
いた方がいいな⋮﹂
﹁そういうことなら私も着いて行くぞ﹂
﹂
マーメイドがいつの間にか研究室に来ていた。
﹁お前、まひるは
﹁家に帰った。結界貼ってきたからしばらくは大丈夫だ﹂
?
162
!
﹁WMC︵ここ︶が後援している合唱の全国大会、審査員にお前の
?
﹂
腕を組みながらマーメイドは五嶋の前に立った。
﹁おい人間﹂
﹁な⋮、なんだ⋮
﹁こいつと一緒に私も行くぞ。戦える奴は1人でも多い方がいいだ
ろ﹂
﹁まぁ⋮、それはそうだが⋮⋮⋮﹂
どうせ俺が行くならこいつが1人で留守番す
五嶋は音夜の方を向いた。
﹁いいんじゃないか
ることになるからな﹂
﹁はぁ∼⋮、わかった。俺の同伴者ということでお前達2人を連れ
て行こう。明日の6時に会社の前に集合だ﹂
♪♪♪
翌朝5時
﹁それじゃ、兄さん、いってきます﹂
﹁おぅ﹂
﹁帰ってきたら名前、一緒に考えようね﹂
﹁ああ、待っているぞ﹂
﹁レイバットも、2人のことお願いね﹂
﹁うむ、まひる嬢も道中の無事と大会での健闘を祈る﹂
音夜とマーメイド、レイバットに手を振りながら、まひるはキャ
リーケースをごろごろ転がしながら学校に向かった。
﹁さて、と﹂
音夜は手早く昨日五嶋から渡された荷物を用意してスーツを着た。
単純な黒スーツだが、音夜が着ると不思議と雑誌モデルのように決ま
163
?
?
る。
﹁おい、これはどうやって着るんだ
﹂
マーメイドがほぼ半裸状態で音夜の前に現れた。
﹁はぁ∼⋮、まったく﹂
音夜はなるべく直視しないように半眼でマーメイドにスーツを着
せた。しかし、マーメイドの白く透きとおるような肌は一部だけでも
十分すぎるくらい艶かしかった。
マーメイドの着替えが終ると最後にWMCの社章をつけサングラ
スをかけ、2人とレイバットはWMC本社に向かった。既に五嶋が車
に乗って待っていた。
﹁おう、来たか⋮って、マーメイドの服⋮⋮⋮一応うちの女性用の
中でも一番サイズ大きいのを選んだんだが⋮⋮⋮﹂
ジャケットの下のYシャツはボタンを3つも開けても胸が押し上
げていてまだきつそうだ。さらにタイトスカートも足が長すぎるせ
いでミニスカ状態になっていた。
﹁とりあえず乗れ、行くぞ﹂
五嶋の運転で車は全国大会の会場に向けて出発した。
﹁一応青空神教︵アオゾラシンキョウ︶の監視網でまひる達の動向
﹂
は把握している。レイバットの方でその情報は随時確認することが
できる﹂
﹁む、そうなのか
棚・・・・もとい、監視衛星からの映像、および各種監視データにア
クセスした。
﹁ふむ、今はPAで休憩中のようだ。このままの速度ならあと20
分で追いつける﹂
﹁一応、俺は審査員となっているから大会前に特定高校との関わり
は断っている。同伴者であるお前らも、極力接触は控えろ﹂
﹁わかった﹂
﹁⋮む∼⋮⋮⋮﹂
まひる成分足りていないマーメイドがむくれていた。
164
?
レイバットは車内の手すりに逆さまにぶら下がりながら、地球の本
?
五嶋達の車もPAに着き、こちらの休憩を取ることにした。
﹁音夜、すまんがスポーツドリンクを買って来てくれないか
達も分も好きなのを買ってきていいから。﹂
﹂
かせろ﹂
お前
﹁そうか、なら、俺の音楽を聴かせてやる。だからお前の音楽も聞
﹁⋮ふん、お前なんかに聞かせるつもりはない⋮﹂
れを俺は聴いてみたい﹂
く、澄んで、包み込むようなマリンブルーの音色が聴こえるんだ。そ
﹁お前の音楽というのを知りたいんだ。お前の中には海のように深
﹁
﹁言ったろ、女が襲われてるのに見過ごす事はできん。それにな、﹂
﹁⋮どうしてあの時助けた⋮⋮⋮﹂
音夜はマーメイドの手を握った。
﹁まったく、はぐれるなよ﹂
裾を掴んだ。
マーメイドは周囲の車や多くの人間に驚きながら音夜のスーツの
﹁おい人間、少し歩くのが早いぞ﹂
マーメイドは文句をいいながらも音夜について行った。
﹁命令するな﹂
﹁ああわかった。おい、お前も来い﹂
五嶋は500円玉を音夜に渡すと車を降りてスクワットを始めた。
?
﹂
音夜はそう言うとバイオリンケースから愛器を取り出そうと・・・・
﹂
﹁音夜先輩
﹁ん
?
﹁どうしてこんな所に
それにその格好⋮、あ、WMCの社章﹂
﹁あ∼⋮、知り合いが大会の審査員をしていてな、将来就職も考え
?
165
?
振り返るとそこには合唱部の能登志保がいた。
?
ていて、今日はまぁあれだ、研修的な
んですね
﹂
﹁何にする
﹂
﹂
音夜はスポドリとオロナミンCを買うとマーメイドに聞いた。
なくて良かった⋮﹂
﹁やれやれ、反対側の方に止めたのに、見つかるとは。まあ本人じゃ
志保は自販機でお茶を買うとバスに戻って行った。
﹁はいはい、分かりました﹂
保は肩をすくめた。
音夜は人差指を口に当てるないしょポーズでウィンクをすると、志
﹁お前は中々勘が鋭いな。まひるには黙っててくれないか
﹂
﹁ようするにコネ使ってまでまひる先輩が心配で着いてきたかった
?
﹁ん⋮
﹂
﹁どうした
異質な植物が生えていた。
音夜とマーメイドの視線の先、針葉樹が生えている中にただ一本、
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
いて行った。
音夜はPAの奥、森の方へと歩いて行った。マーメイドもそれにつ
﹁いや⋮﹂
﹂
音夜は三本のペットボトルを抱えると踵を反した。
﹁なら水でいいな﹂
自販機を隅々まで凝視していたマーメイドは素っ気無く答えた。
﹁⋮⋮⋮お前ら人間の飲み物はよく分からん。﹂
?
?
166
?
?
?
﹁おい﹂
﹁ああ﹂
バシャッ
﹂
マーメイドが人差指の先端から熱湯を噴射した。
﹁アウッチチ
﹁何故ミーの擬態だとわかった⋮
﹂
レイバット
﹂
﹁擬態するなら日本の植物くらい把握しろ
﹂
じゃ生えていないんだよ
﹁うむ
!
サボテンなんて野生
するとその異質な植物、サボテンは人型へと変貌した
!
た。
﹁行くぞ、変身
﹂
ングポーズを取った。
﹂
!
いく。
﹁く⋮、何故当たらない﹂
にヒットした。
レイ・プロトタイプのカウンターパンチがサボテンゴブリンの顔面
﹁お前のスタイルは古いんだ、よ
﹂
の拳を、しかし、レイ・プロトタイプは軽快なフットワークで躱して
先日の戦闘と違い、一発の威力はないが、連続して繰り出される棘
﹁棘棘鉄拳︵ニードルアーム︶ボクシング
﹂
サボテンゴブリンは両手に棘を生やしてボクシングのファイティ
﹁ヒュ∼、また返り討ちにしてやるさ﹂
イ・プロトタイプに変身した。
音夜は左手でレイバットを掴むと右前腕の噛ませ、仮面ライダーレ
﹁華激︵カゲキ︶にな、ギャブリ
!
察知したレイバットが修復の完了したベルトを持って飛んで来てい
音夜が上空に手を上げると、ベルトが降ってきた。監視網で状況を
!
!
?
!
!
167
!
﹁禁酒法時代のスタイルなんだよ、その頃に覚えてあとは魔族とし
ての能力を過信して鍛錬を怠ったな﹂
﹂
レイ・プロトタイプのステップはさらに加速した。
﹁人間舐めるな、化け物
た。
﹂
!
﹁何
﹂
﹁フッ﹂
た、レイ・プロトタイプは迎え撃つべく拳を構えた・・・が、
サボテンゴブリンが再びファイティングポーズのまま接近してき
認めよう⋮⋮⋮、だが、﹂
﹁オップ⋮、どうやらお前は中々のウォーリア│らしい⋮、それは
ブリンの顔面にさらに決まった。
コンビネーションジャブからの渾身の左ストレートがサボテンゴ
には分からんだろうが⋮、なっ
﹁それに、こいつの本音は、いい音色だ。お前のような下衆の極み
﹁人間⋮﹂
人間とかマーメイド族とか関係ないんだよ﹂
﹁アホか
こいつは確かに人間とは違う、だが、音楽を愛するのに
マーメイドはサボテンゴブリンの指摘に、しかし、反論できなかっ
﹁む⋮﹂
け物︶なんだぜ﹂
﹁フッ、言ってくれるね、けど、お前の隣に居るのだって、同類︵化
!
﹁どこだ⋮﹂
レ イ・プ ロ ト タ イ プ の 一 瞬 の 隙 を、サ ボ テ ン ゴ ブ リ ン は 背 後 か
﹂
ら・・・・・・
﹁熱水
!!
168
!
突如、サボテンゴブリンの姿が消えた。
?!
バッシャー
﹁ア∼ウチッチチチ
﹂
マーメイドが発射した熱水がサボテンゴブリンに直撃した。
﹁お前⋮﹂
﹁私も協力する、いくぞ、音夜﹂
﹁OK、それじゃ、いっちょデュエットと行きますか﹂
挿入歌 ♪ヒカリ♪
﹁くっ⋮、調子に⋮﹂
全身に火傷を負ったサボテンゴブリンは動きが緩慢になっていた。
﹂
そこをレイ・プロトタイプは怒涛のラッシュで攻めた。
﹂
﹁ラララララ∼
﹁烈水波動
?
状態だった。
﹂
﹁おい、お前氷の技は使えないのか
﹁まかせろ、音夜
﹂
火傷に加え†混乱状態にも陥ったサボテンゴブリンは、もはや瀕死
﹁⋮Oops、こんな⋮人間にマーメイドごときが⋮⋮⋮﹂
クステップで離れ、そこにマーメイドの水攻撃が直撃した。
攻めてサボテンゴブリンが怯んだ瞬間、レイ・プロトタイプはバッ
!
を集中させた。
﹁レイバット
﹂
﹁うむ、ウェイカップ2
﹂
マーメイドは右手でピストルの形を取ると人差指と中指に魔皇力
!
169
!
!!
!
レイバットがフエッスルを二度吹くと、レイ・プロトタイプの左拳
!
!
にも魔皇力が集束し始めた。
﹁まずい⋮、棘棘防御︵ニードルガード︶﹂
﹂
﹂
サボテンゴブリンは全身から棘を生やして、身を包み込み防御体勢
を取った。
﹁冷凍光線
﹁ア∼ンド、ライダーパ∼ンチ
マーメイドの放った冷気の光線に合わせて、レイ・プロトタイプの
拳がサボテンゴブリンに直撃した。
どんなに硬化しても、所詮は植物。冷気の前にはあっという間に
﹂
凍って、そこにレイ・プロトタイプのパンチが加われば・・・・・・・
﹁ぐはぁ∼∼∼∼∼
と、マーメイドはまひるに抱きついた。
﹁おかえり、まひる﹂
﹁うわっ⋮、もぅ∼、ただいま﹂
﹁帰ったか﹂
﹂
全国大会を終えて、見事ゴールド金賞を取ったまひるが帰ってくる
♪♪♪
サボテンゴブリンは凍って爆散した。
!
﹁うん、兄さんこそ、留守中何もなかった
?
170
!
!
﹁あぁ、何もなかったぞ﹂
﹁音夜の言うとおり、何もなかったぞ﹂
いつの間に兄さんのこと名前で⋮⋮⋮﹂
顔を見合わせて笑う音夜とマーメイドにまひるは首を傾げた。
﹁あれ
﹁本当か
﹂
﹁ちょ⋮、焦らないで、実はもう考えているの﹂
﹁そうだ、早く名前を考えよう﹂
?
﹂
まひる、音夜、レイバットに名前を呼ばれ、マーメイド・・・美路
﹁これからよろしくたのむぞ、美路歌露洲︵ミロカロス︶﹂
﹁いい名前だな、ミカ﹂
﹁うん、ミカ﹂
﹁ミ⋮カ⋮、それがわたしの名前⋮﹂
﹁ミロカロスって読むの。でも長いから、ミカって呼ぶね﹂
﹁∼
美路歌露洲
まひるは紙に書いて見せた
﹁うん、綺麗な貴女とその歌にぴったりな名前﹂
?
歌露洲︵ミロカロス︶は微笑んだ。
171
?
﹄﹂
声春ノベルMOVEI 暗黒夢城︵アクムジョウ︶の
女帝
予告
特報
声春∼Wake up∼
ついにノベルMOVEI
それは一夏の青春・・・・・
剣道に青春をかけた、高校生たちの真剣勝負・・・
﹂
高校三年、緒川操一朗が最後の剣道全国大会に臨む
操一朗﹁今年で最後、決着つけるぞ
対戦相手は一年の頃からのライバル︽アヴァロン学園︾
ボールス﹁望むところよん﹂
バリン﹁今年も勝たせてもらうべ﹂
ガラハド﹁来いよ、﹃馬の骨の﹄、﹃クソったれな﹄、﹃剣士
甘酸っぱい楽譜︵青春︶の一小節・・・
げんじゃねぇゾ
﹂
﹂
﹂
﹂
﹁その血⋮、今目覚めさせてやろう﹂
﹁⋮ガブ⋮﹂
│
?
レイバット﹁まさか⋮、ダークキバ⋮
モルガン﹁貴方は⋮いったい誰なの
そこに這い寄る陰謀の影・・・・・・・・
モルガン﹁ふふ♪楽しみにしてるわ﹂
!
172
!
ガラハド﹁﹃この大会で﹄、
﹃優勝したら﹄、
﹃話があるから﹄⋮⋮、逃
!
!!
!!
?
ガラハド﹁モルガン
!
!?
????????
﹂
﹂
﹂
﹂
﹂
無心﹁今こそ、小生は⋮、この力を⋮、運命の鎖を解き放つ
爽﹁行こう、無心
バリン﹁今度こそ、俺たちは⋮﹂
﹂
ボールス﹁あの子を守ってみせるわ⋮﹂
﹂
キバット﹁キバって行くぜ∼
操一朗・無心・爽﹁変身
バリン﹁来っぞ
ガラハド﹁ルォォォ∼∼
﹃緒川操一朗﹄/︽仮面ライダーレイ︾:︵保志総一朗︶
登場人物︵イメージcv︶
投稿公開︵予定︶
二〇一六年 二月五日
暗黒夢城︵アクムジョウ︶の女帝
ノベルMOVEI
声春∼Wake up∼
ダークキバ﹁女王の裁きを下す、死よ﹂
﹂
ボールス﹁アタシ達も、やるしかないみたいね﹂
仮面ライダーイクサ﹁その命、神に返してもらうか
仮面ライダーキバ﹁キバります
仮面ライダーレイ﹁華激︵カゲキ︶に行くぜ
!!
奈々︶
﹃雨原無心﹄/︽仮面ライダーキバ︾:︵悠木碧︶
﹃雨原爽﹄/︽仮面ライダーイクサ︾:︵井上麻里奈︶
﹃ガラハド・サンダー﹄:︵宮野真守︶
﹃バリン・フェニックス﹄:︵櫻井孝宏︶
﹃ボールス・マーンマス﹄:︵三木眞一郎︶
﹂
173
!
!
!
!
﹃モルガン・ウィンチェスター﹄/︽仮面ライダーダークキバ︾
:
︵水樹
!
!!!
!!!
!!
﹃坂井和奏﹄:︵高垣彩陽︶
﹃沖田紗羽﹄:︵早見沙織︶
﹃宮本小夏﹄:︵瀬戸麻沙美︶
﹃田中大智﹄:︵島崎信長︶
﹃ウィーン﹄:︵花江夏樹︶
﹃レイバット﹄:︵若本規夫︶
﹃美路歌露洲︵ミロカロス︶﹄:︵堀江由衣︶
﹃玄牙︵ゲンガー︶﹄:︵山口勝平︶
﹃雪之王︵ユキノオー︶﹄:杉田智和
﹃キバットバットⅩ世﹄:︵石田彰︶
﹃キバゴ﹄:︵津田美波︶
遊佐浩二
関智一 沢城みゆき 関俊彦 てらそままさき
鈴村健一
松田賢二
174
序
灼熱のマグマが噴出す火山
その洞穴の前に黒い毛並みの狐がいた
その黒狐はニヤリと狡賢い笑みを浮かべると、その姿が揺らめいた
♪♪♪
﹁む、どうしたキングドラ﹂
岩石のような身体に頭部と四足を覆う鋼がいかにも頑強そうなド
ラン族の中でも古強者の﹃ヒードラン﹄は突然現れた同族の﹃キング
ドラ﹄に問い掛けた。
﹂
﹁あ∼ぁ、やっぱ高位の魔族ともなるとバレちまうか﹂
攻撃を躱したキングドラの姿が一瞬、陽炎のように揺らめくと、そ
こには赤黒い毛並みの二足歩行の狐が現れた。
知ってた
﹂
﹁その魔皇力、イリュージョンか﹂
﹁あれ
?
てか、言うまでもないじゃ∼ん﹂
?
どうした﹂
﹁ええ∼
それ訊く∼
﹁それは化ける対象との接触を必要とする⋮、貴様、キングドラを
?
﹁なんと⋮、﹂
は、血塗られたドラン族の鱗だった。
狐は、ふっ、と指先からヒードランに向けて何かを飛ばした。それ
?
175
﹁⋮⋮⋮﹂
貴様、何者だ
キングドラは黙ったままだった。
﹁⋮
!
異変を感じたヒードランは口から強烈な熱風を吐き出した。
!
﹂
﹁ここの場所聞き出そうとしたら襲ってくるからさ∼、正当防衛っ
て奴だよ。ついでに槍も貰って来たけど﹂
狐は悪びれる様子も無くさらに続けた。
貴様、灰すら残ると思うな﹂
﹁でさ∼、ちょっと後ろの扉開けて城の封印、解いてくれない
﹁巫山戯︵フザケ︶るな
?
﹂
﹁ぁ∼あ、やっぱダメか⋮、なら⋮⋮⋮闇夜炸裂︵ナイトバースト︶
!
﹂
狐から暗闇色のオーラが発せられ、ヒードランに直撃した。
﹁そんな攻撃、効かぬ
目がけ突進した。
﹁鋼鉄頭突︵アイアンヘッド︶
!
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁サザンドラ
﹂
紫のドラン族が現れた。
狐の後ろから、両手が竜の頭部になっている六枚三対の翼を持つ黒
﹁あのさ∼、俺がどうやってここまで来たと思ってンのさ﹂
﹁馬鹿めその扉はドラン族でしか開けられない⋮﹂
﹁それじゃ、城の封印は勝手に解くから﹂
﹁ぐっ⋮⋮⋮、﹂
い、ヒードランは倒れてしまった。
に激突させた。自らの重量がそのまま自分にダメージを与えてしま
狐は突っ込んできたヒードランの足をけたぐりを入れ、洞穴の岩壁
よ﹂
﹁バ∼カ、さっきのはダメージじゃなくお前の命中率を下げたんだ
しかし、その攻撃は外れた。
﹂
ヒードランは頭部に魔皇力を集中させ鋼の強度を極限まで高め、狐
!
﹁ぁあ、そこさっき穴掘っといたから﹂
まった。
ヒードランが立ち上がろうとすると、地面が陥没し、足が嵌ってし
﹁おのれ⋮、﹂
サザンドラは黙ったままだった。
!?
176
!
狐はにやりと笑うと地面をトン、と踏んだ。
﹁お前ぇ、ボクに、やられちゃったね。あひゃひゃひゃ∼﹂
地中に沈んでいくヒードランを見下ろしながら、狐は笑った。
︵⋮く、無念⋮、あとはお前に任せるぞ⋮⋮⋮、キバゴ︶
♪♪♪
洞窟の外
そこにはイカ、さそり、猫、とかげの姿をしたファンガイアが居た。
﹁お∼、待たせたな﹂
﹂
そこに狐とサザンドラが洞窟から出てきた。
﹁目当ての城は手に入ったカイ
﹁ぉうよ﹂
狐は頷いた。
﹁カ∼ロロロ、これで存分に暴れられる﹂
アクアクラス・クトゥルフィッシュファンガイア、カラマネロはイ
カで悪魔な笑い声を上げた。
﹁ふむぅ、腕が鳴るでぇ﹂
インセクトクラス・スコーピオファンガイア、ドラピオンは両腕の
鋏をジャキンジャキン鳴らした。
﹁ひゃは、いい感じだぜ﹂
ビーストクラス・キャットファンガイア、マニューラは両手の鋭い
爪を擦り合わせ研いだ。
﹁最っ高潮だぜ⋮﹂
リザードクラス・リザードファンガイア、ズルズキンは拳を掌に打
ちつけた。
﹁さぁて、それじゃ行きますか﹂
ビーストクラスの中でも魔皇力と戦闘力が高く、それ以上に悪巧み
と狡賢さ、話術に長けたフォックスファンガイア、改め、ゾロアーク
は親指と人差指を擦り合わせる気障な仕草をした。
177
?
そんな6体のファンガイアの様子を岩場の影から覗いているドラ
ン族の子供がいた。
﹁どうしよう⋮、ヒードラン様が倒されるなんて⋮⋮⋮、﹂
ドラン族の仔︵と言っても数十年以上生きている︶キバゴは牙をカ
チカチ震わせながら立ち上がった。
﹁行かなきゃ、当代のキバの鎧の継承者のところに⋮、﹂
♪♪♪
湘南
紗羽の寺がある山の丁度反対側に、剣道の道場があった。
カッ
パァ∼ンッ
暑苦しい湿気が充満した道場内に、乾いた竹刀同士のぶつかる音と
胴を叩くが響いた。
﹁ふー﹂
面を取った操一朗は堪らず息を吐いた。その顔面はもとより、分厚
い稽古着もたっぷり汗を吸って全身汗だくだった。
﹁よし、本日はこれまで﹂
操一朗の相手をしていたのは壮年の男だった。面の下の凛とした
双眸は真夏の暑中稽古とは正反対に何処までも涼やか。栗色の髪の
毛を伸ばし一房に結って、面長で鼻筋も通っているが、顎の先がやや
丸みを帯びて愛嬌ある顔立ちをしている。
178
しかし、身の丈は180の操一朗と対峙していても見劣りしないく
らいあり、それでいて安定した立居振舞を自然とこなしている。
﹁日比野先生、ありがとうございました﹂
操一朗の剣術の師匠、日比野佐内。若く見られるが、これでも50
代目前。紗羽の実家の寺が保有している山の一部を間借りして剣道
道場を開いている地元でも有名な教育者だ。
まだ小学校に上がる前、
﹁強くなりたい﹂という単純な理由で五嶋に
連れられて門を叩いた操一朗を、しかし日比野は何も言わずに弟子に
した。
防具を取外し作法通りの礼をした操一朗に応じて日比野も礼をし
た。
﹁バイクで事故にあったと聞きましたが、何も問題もありませんね﹂
﹁来週にゃ全国大会がありますからね、おちおち怪我でヘタれてら
れませんよ﹂
179
肩まである茶髪の長髪をうなじの辺りで一房にまとめた操一朗は
顔面の汗を稽古着の袖で拭った。
﹁さて、と﹂
どうだそっちは﹂
操一朗は立ち上がると道場の隅の方で稽古をしている面子に声を
かけた。
﹁おう
﹁あんたでしょ﹂
﹁自分だろ﹂
﹁もぉ∼、誰さ剣道の練習しよー、なんて言ったの﹂
ウィーンも和奏もすっかりへばっていた。
﹁はぁ⋮はぁ⋮﹂
﹁これが⋮、ケンドー⋮﹂
辛うじて、紗羽と大智は立っていたが、肩で大きく息をしていた。
﹁バドミントンの夏合宿が涼しく思える⋮﹂
﹁あ∼⋮、やっぱ剣道の消耗って半端ないわ⋮⋮⋮﹂
と慣れぬ剣道にへばって床に座り込んでいた。
そこには、ジャージ姿の合唱時々バドミントン剣道部が道場の熱気
!
﹁宮本だろ﹂
﹁コナツじゃないか﹂
﹁来夏でしょ﹂
操一朗、紗羽、大智、ウィーン、そして和奏からの総突っこみを受
けて来夏のライフは0になった。
♪♪♪
﹁ほら、冷えた麦茶だ﹂
合唱時々バドミントン剣道部に盆に乗せた麦茶を配っているのは
180
天原爽︵あまはらさやか︶。日比野道場の門弟の一人で操一朗とは同
期の桜だ。長い黒髪に涼やかな目元、凛々しい顔付きでいかにも和風
の美剣士といった感じだ。
﹁ありがと、爽もあんなに稽古してるのに息一つ切らしてないなん
て⋮﹂
﹁鍛えているからな。それに、全国の個人戦ではあいつと決着を付
けるからな。これしきではへばらんさ﹂
紗羽とは時々交遊のある、学外の友人同士だ。
﹁さぁ、慣れぬ稽古で疲れただろう。どうぞ﹂
﹁あ、どうも⋮﹂
和奏に気安く話し掛け麦茶を渡したのは軟派な眼鏡優男。
土門海。同じく操一朗の同期で、小学生から高校生を主な門弟とし
ている日比野道場では3番目の腕前だ。ちなみに、2番は爽、1番は
操一朗だ。
﹂
﹁よければ携帯のアドレスでも交換⋮⋮⋮﹂
﹁てい
!
パァン
背後から海を竹刀で打ったのは、髪をツインテにした少女だった。
﹁海兄、何初対面の子口説いてんのさ。てか、操一朗君の従兄妹さ
んだよ﹂
土門千春。海の妹で中3。剣道の筋はよく、後輩の女子の面倒見も
良く、爽に継ぐ女剣士だ。千春は麦茶を来夏に渡した。
てか、
﹁ゴメンね∼、海兄ってば可愛い子なら見境無くて。昔紗羽ちゃん
あたしって声かけられた
にも初めて会った瞬間から口説くし、小学生だってのにさ﹂
﹂
﹁⋮あ∼、うん、ありがと。あれ
年上なんだけど⋮、ため口
?
途端、来夏がやる気を出した。
﹁よ∼し、やったるぞ∼﹂
た。
﹂
他の五人が休憩を終えるのを待っていた操一朗は、再び防具を着け
﹁さて、それじゃ、本日のメインイベント行こうか﹂
いが。
に体験入門として来ていた。と言っても、素振りくらいしかしていな
今日は合唱時々バドミントン剣道部の活動の一環で、操一朗の道場
大智は師範の日比野から直々に麦茶を渡された。
﹁あ、はい。バドミントンを一応全国ベスト8です﹂
ができているよ。何かスポーツを
﹁君は中々筋がいいね。竹刀を打った時手の内を締めるという基礎
的にするとなると疲れるね﹂
﹁ありがとう。剣を振るう真似事はよくやっていたけど、いざ本格
いような、とにかく普段は名前に反して雑念だらけの少年剣士だ。
天原無心。爽の義弟で非凡な剣道の才が・・・・・あるような、な
丈の変わらない男子だった。
ウィーンに麦茶を渡したのはツンツンした髪の千春とほとんど背
﹁はい、大変でしたね。﹂
来夏はぶつぶつ独り言を呟きながら麦茶を飲んだ。
?
?
181
?
﹁なぁ操一朗、本当にいいのか
﹁怪我しても知らないよ﹂
ぱん
﹂
﹁めん﹂
﹁緒川覚悟∼
﹂
﹂
摺り足もなにもできていないべた足だが。
審判を買って出た爽の合図と共に来夏が突っこんだ。と言っても、
﹁始め
試合をしようと言うのだ。
上段に構えた操一朗一人に合唱時々バドミントン剣道部の五人で
和奏、そしてそれと対峙する操一朗は一人。
真ん中に来夏、その来夏の左側に大智と紗羽、反対側にウィーンと
爽達に手伝ってもらい、五人はジャージの上から防具を着けた。
な﹂
﹁大智だって変則バドミントンやったんだ。俺だってこれくらいは
心配そうな大智、紗羽、ウィーン、和奏を操一朗は笑って一蹴する。
﹁あ∼、操一朗ってば言ったら聞かないから⋮﹂
と⋮﹂
﹁むむむ、これはヒーローでは定番だけど、いざ自分がやるとなる
?
﹁え
お、おぅ﹂
﹁おのれ、コナツの弔い合戦だ
大智、左右から挟み撃ちだよ﹂
爽が操一朗側の手を挙げて宣言した。
﹁操一朗、一本﹂
﹁あっいぃったぁ∼∼⋮⋮⋮﹂
膝を着いてしまった。
決まった。かなり手加減した面打ちだが、それでも来夏は頭を抑えて
左手一本でただ竹刀を振り下ろした面打ちは、来夏の頭上に見事に
!
!
ウィーンの竹刀を下から払い上げ、そのまま逆胴を打ち、その流れの
182
!
振 り 下 ろ し た 竹 刀 を 下 段 に 取 る と、操 一 朗 は 先 に 掛 か っ て 来 た
?
まま、今度は大智の竹刀を下から払い上げて胴を打った。ちょうど無
﹂
限大のマーク︵∞︶を描く軌跡だ。
パァンッ パァンッ
﹁逆胴、胴有り、操一朗三本﹂
最後に残ったのは紗羽と和奏。
﹁くっ、ソウ、外したらゴメン
紗羽は破れかぶれで竹刀を操一朗の小手に振り下ろした。
が、操一朗は正眼︵中段︶の構えで竹刀をほんの少しだけ紗羽の竹
刀の軌道上にずらした。すると、紗羽の竹刀は横に反れ、代わりに操
一朗の竹刀が紗羽の手元に伸び、そのまま小手に落とした。
ぱこ
﹁小手有り、操一朗四本﹂
そして、最後の和奏に向かい合った瞬間には、操一朗は竹刀を振り
上げていた。
﹁ひっ⋮﹂
無論、手加減はするし操一朗なら万が一にも反れて肩を強打すると
﹂
いう事はないが、和奏は咄嗟に目をつぶって身体を縮めた。
﹁⋮っ
﹁あ、えい
ぱこん
﹂
その隙に、和奏が振り下ろした竹刀が操一朗の面を打った。
!
183
!
しかし、そんな状態の和奏を前に、操一朗の竹刀が動きを止めた。
!
♪♪♪
﹁あ∼、抜かった⋮﹂
操一朗はがしがし髪を掻いていた。シャンプーの泡があっちこっ
ちに飛んでいる。
ここは剣道場から歩いて10分ほどの銭湯。負けた方は何か奢る
という約束の下、合唱時々バドミントン剣道部に爽、無心、海、千春
まで引き連れた大所帯で銭湯にやってきた。しかも入浴料全員分+
牛乳代は操一朗持ちで。
﹁はっはっは、うちの最強君の弱点見つけたよ﹂
﹁海てめぇ⋮、全国一回戦はお前となんだかんな、覚えとけよ⋮﹂
そんなやり取りをしている2人に挟まれた無心が操一朗に話し掛
﹁あ、そ﹂
﹂
操一朗はシャンプーを流すと湯船に入った。
﹁あ∼⋮、生き返る∼∼⋮⋮⋮﹂
﹁お前よくそんな熱湯に入れるな﹂
184
けた。
﹁でも意外ですね、普段なら爽さん相手に本気でかかって行ってる
のに﹂
﹁爽︵あいつ︶相手に手加減とかできるかっつーの、単に和奏だっ
たからちょっと油断しちまったんだよ﹂
﹁⋮和奏さんって従兄妹なんですよね﹂
﹁あ ぁ、俺 が 4 月 で 和 奏 は 3 月 生 ま れ だ か ら 俺 の が 一 応 年 上 だ。
まぁ、兄妹みたいなもんだ﹂
﹁でも従兄妹なら⋮、その⋮、できますよね、結婚⋮﹂
﹁まあ法律上はな﹂
なんか言ったか
﹁しょ、小生も⋮もし従兄妹同士だったら爽さんと⋮⋮⋮﹂
﹁ん
?
﹁い、いえいえいえ、何も﹂
?
﹂
隣のぬるめの湯船に入っていた大智が話し掛ける。
﹁で、ウィーンは大丈夫か∼
﹁ふぅ⋮、ふぅ⋮、余裕だね、大智⋮、江戸ではこれくらい入れな
いと江戸っ子じゃないんだよ﹂
顔を真っ赤にしながら操一朗と同じ熱湯湯船に浸かっている
ウィーンが答える。
﹁いや、ここ湘南だし﹂
♪♪♪
﹁ふぅ⋮、やはり稽古の後の風呂は格別だな﹂
﹁そうね∼、たまにはこういうおっきなお風呂もいいわね∼﹂
鍛えられたしなやかですらりとした手足に程好い膨らみの胸部、そ
れとは対照的な張りのある胸部と太腿、臀部、それでいて太っている
印象が微塵も無い健康体。
﹂
爽と紗羽は浴槽の縁に座ってガールズトークをしていた。
﹁それにしても、紗羽お前はまた育ったか
﹁え
爽気になる男子いるの﹂
のだろうか⋮⋮⋮﹂
﹁だがやはり男子というのはそういう女子の方が好みだったりする
溜まってそれがね⋮﹂
﹁そうなの、肩凝るし、服選びも悩むし、あと夏場だと谷間に汗が
﹁あいつといい、お前といい、それじゃ色々苦労するだろう﹂
﹁う⋮、実はカップが1個ほど上がっちゃって⋮⋮⋮﹂
?
心の事などではないからな⋮
﹂
2人の姿をぬるめのお湯に浸かりながら来夏、千春、和奏が見てい
!
185
?
﹁いや、クラスの女子がそういうことを言っててだな⋮、決して無
?
た。
﹁あ∼⋮、なんか直にあの2人の身体直視できなわ∼⋮﹂
﹁自分が惨めになる⋮﹂
﹁う∼ん⋮﹂
和奏は自分の胸を見下ろした。来夏よりはある、が、それでも紗羽
と比べると小さい部類に入ってしまう。母のまひるはそこそこ大き
かったのであるいは自分も将来的には・・・・・
﹁ぷはぁ﹂
突然、隣の水風呂から美女が出てきた。
﹁青春だね∼、命短し恋せよ乙女たち∼﹂
紗羽と爽を足したような抜群のスタイルにマリンブルーのロング
﹂
186
ヘアーの女性はそのまま裸体を隠さず浴場から出て行った。
﹁あの人⋮、いつから潜っていたの⋮
♪♪♪
アヴァロン学園
隣接している
中でも前進時代からのゴルフ部は強く18ホールが丸ごと校庭に
中高一環教育で各種スポーツエリート育成に力を入れている
学生
園は、その設立経緯から在校生はほとんどが帰国子女や海外からの留
日本の情緒もへったくれも無い中世の城塞のような外観のその学
合併した事で誕生したスーパーエリート校
ゴルフ事業で学校を運営していた﹃キャメロット﹄と﹃グラール﹄が
?
﹂
そのゴルフ部と双璧をなす全校生徒の一割が所属しているのが、剣
道部である
﹁突きィ
失ってしまった。
﹄﹂
﹁あァん ﹃何寝てんだ
てよ
﹄
﹃まだまだできんだろ
﹄
﹃さっさと立
?
いてあった。
東北弁で喋るバリン・フェニックスの左脇には大小2本の竹刀が置
までもたんぞ﹂
﹁今日の稽古でも十分相手したべさ、あんま根詰めっと来週の大会
吐いた。
道場の隅で黙想していた短髪の男は瞑っていた目を開くと溜息を
﹁んじゃバリンでいいよ﹂
﹁いゃよん、シャワー浴びたばっかりなんだから﹂
﹁ならボールス、ちょっと打ち込み付き合ってくれよ﹂
窘めた。
2m近い筋骨隆隆のオネエ口調のボールス・マーマンはガラハドを
﹁まったく⋮、稽古熱心なのはいいけどもう少し加減しなさいよ﹂
飢えた狼のような風貌の男、ガラハド・サンダースは舌打ちをした。
﹁チッ、﹂
突きを打った方は防具を着けず竹刀だけ握っていた。
?
喉元に突きを喰らった剣道部員が道場の壁際まで吹っ飛び、気を
ドォンッ
!!
!
?
﹁その辺にしときなさいよ﹂
187
!
道場に一人の女子が入ってきた。入り口で一礼する姿だけでもそ
の気品が溢れ出ている。
﹁ちょうどいいわ、生徒会の仕事でちょっと遅れちゃったし、私が
相手してあげる﹂
剣道部部長兼アヴァロン学園生徒会長のモルガン・ウィンチェス
ターは眩い金髪をポニーテルに結い、紗羽以上の巨乳の上から防具を
着けた。
必要ねェよ﹂
﹁ほら、ガラハドも﹂
﹁あァん
﹁そう、じゃあボールス、審判お願い﹂
﹁はいはい、じゃ、始め∼﹂
♪♪♪
﹁ん∼⋮、いい稽古ができたわ。これで個人戦、爽ともいい勝負で
きそうね﹂
﹁んだな。けど、向こおもそれなりに研鑚してるはずだべ。油断す
んなよ﹂
道場を後にしたモルガンとバリンの後ろを、ぼろぼろになったガラ
ハドを担いだボールスが歩いていた。
﹁ちょっと、いい加減起きなさいよ。大の男担ぐのって結構疲れる
のよ﹂
﹁⋮うるせぇ、﹂
﹁そんなんじゃまた操一朗ちゃんに負けて今度こそモルガン盗られ
ちゃうわよ﹂
ボールスがこっそり耳打ちするとガラハドはがばっと起きてボー
ルスから降りた。
188
?
﹁あの﹃馬の尻尾野郎にゃ﹄﹃絶ッ対ぇ﹄﹃負けねェ⋮﹄
﹂
﹁はぁ∼、操一朗ちゃんは一回戦で海きゅんとだから、そこで負け
てもらわないとアタシが海きゅんと試合できないのよね﹂
ボールスは筋肉をくねらせながら溜息をついた。
﹁まあ順当ぉに行げば、俺が準決勝で当だるな﹂
﹁ガラハドは反対側だから操一朗とは決勝戦まで行かないと試合で
きないわね﹂
前を歩いていたバリンとモルガンも話しに加わってきた。
﹁上等ォだよ、今度こそぶっ倒してやんよ﹂
﹁うふふ、頑張ってね。私、弱い男は嫌いよ﹂
﹁⋮ッけ﹂
夕陽に照らされ地面に映った4人の影は、王の威厳漂う蝙蝠、狼の
ような闘士、水棲生物のような戦士、影が不安定な土偶、そんな異形
の影だった。
そんな4人を見下ろす、黒い影
﹁奴が⋮⋮⋮、そうか、闇の鎧を受け継ぎし者か⋮⋮⋮﹂
黒い影は一瞬ゆらめくと、消えてしまった。
189
!
操一朗、無心、爽、そしてモルガンはまだ知らない
全国大会前のこの日常が、絶望の葬送曲の序章だということに
190
破ー①
剣道全国大会会場
操一朗達白浜坂高校合唱時々バドミントン剣道部は会場前でもめ
ていた。
﹁いいか、大智ん時みたいな応援は絶対すんなよ﹂
どこで覚えたそんなお約束﹂
﹁なるほど、ソーイチロー、それはやってくれという⋮﹂
﹁振りじゃねぇよ
﹂
ジャー﹂
﹁私達も手伝う
﹂
﹁いいけど、和奏、体育館の床で長時間正座できる
﹁う⋮﹂
♪声春∼Wake up∼♪
♪♪ノベルMOVEI♪♪
﹂
﹂
﹁会 場 で の ソ ウ の 付 き 添 い。一 応 こ う い う 時 だ け 限 定 の マ ネ ー
﹁てか沖田はなんで一人だけジャージ
﹂
﹁剣道とか武道大会でんな応援されたら注意されんのは俺なんだよ
﹁え∼、せっかく横断幕とマラカスとか色々用意してきたのに⋮﹂
!
♪♪♪暗黒夢城︵アクムジョウ︶の女帝♪♪♪
﹁操、一、朗
?
?
零れんばかりの紗羽以上の巨乳を操一朗の細いが筋肉質な腕に押し
金髪美少女剣士、モルガン・ウィンチェスターは剣道着の襟元から
﹁えぇ、春の出稽古以来ね﹂
﹁モルガン、久し振りだな﹂
て来た。
会場に入り受付を済ませると、一人の女子が操一朗の腕に抱き着い
!
191
?
!
付け︵というか挟み込み︶ながら微笑んだ。本来剣道など武道系は、汗
臭い・かび臭い・なんか臭い、が当たり前だが、モルガンからはいい
匂いがする。
﹁あ ら、今 年 は 随 分 お 仲 間 が 多 い の ね。去 年 や 一 昨 年 は サ ワ だ け
だったのに﹂
﹂
突 如 現 れ た 美 少 女 に 紗 羽 以 外 の 合 唱 時 々 バ ド ミ ン ト ン 剣 道 部 の
面々は唖然としていた。
﹁モルガン久し振り。あんまりくっつかない、で
紗羽は操一朗とモルガンを引き離した。
﹁あん⋮、もぅ、いいじゃない久し振りに会った友達とのスキンシッ
プくらい﹂
﹁やりすぎよ。てか、一応敵校同士なんだから、﹂
﹁それは男子の方でしょ、私女子部の個人戦だし﹂
モルガンは今度は操一朗の後ろに回りこんで首に腕を絡ませ背中
に胸を押し付けた。分厚い剣道着の上からでも大きさと柔らかさが
﹂
分かる。が、操一朗は特に反応するわけでもなく、うんざりしていた。
﹁モ∼∼ル∼∼ガ∼∼ン
メ
だ
﹄﹃いちゃついてんじゃねェ
﹂
モルガンは上目使いでガラハドを見つめた。
﹁ぐ⋮、ダ
!
﹄﹂
!!!
﹁﹃てめェモルガンに﹄、
﹃ちょっかい出してんじゃねェぞ﹄、
﹃今ここ
うだ。
つ馬、対するガラハドは目付きに口角を上げて凶悪に笑う様は狼のよ
象があるが、それは隙有らば肉食獣を蹴り飛ばさんばかりの迫力を放
操一朗とガラハドは互いを睨みつけた。ぱっと見、操一朗は馬の印
﹁よォ、操一朗﹂
﹁よぉ、ガラハド﹂
ガラハドはモルガンの襟首掴んで引き離した。
!
192
!
そこに狼の様に目付きの悪い男子、ガラハド・サンダーが猛ダッ
!!
!!
シュで近付いてきた。
﹄﹃敵と
﹁﹃試合前に
!
﹂
﹁え∼、ダメ
?
!
で叩き潰すぞ
﹄﹂
﹁やってみろよ、﹃目付きの悪い﹄﹃吠えるだけの﹄﹃駄犬が﹄﹂
一触触発かと思われたその時・・・
﹁はいはいは∼い、ガラハドも操一朗ちゃんもそ∼こ∼ま∼で∼﹂
180cm近くある2人の身体が浮いた。片手で掴んで持上げた
﹂
﹄﹂
のはさらに上背のある筋骨隆隆の男、ボールス・マーマンだった。
﹁おめえら会場の外でなぁにしでんだ
ボールスの影からバリンも出てきた。
﹁はっ、ただの挨拶だよ﹂
﹂
﹁﹃来いよ﹄、﹃馬の骨の﹄、﹃クソったれ剣士
﹁今年も勝たせてもらうべ﹂
﹁望むところよん﹂
﹁今年で最後、決着つけるぞ
操一朗は眼鏡を押し上げ三人を見据えた。
?
のかと傍観していた。
?
﹁そうなのつまり大智の仇
﹂
﹁アヴァロンって、俺が全国の準々決勝で対戦した学校じゃないか﹂
部長でエースのバリン﹂
ガラハド。あのおっきいのがボールス、で、東北弁で喋ってるのが副
会長も兼任してるモルガン。ソウと睨み合ってた目付きの悪いのは
﹁うん、そうだよ。あの金髪がアヴァロン学園剣道部の部長で生徒
状況理解に困惑している和奏が紗羽に訊いた。
﹁ねぇ紗羽⋮、あれって操一朗の知り合い
外人さんだけど﹂
に蚊帳の外となっている合唱時々バドミントン剣道部はどうしたも
ボールス、バリン、そしてガラハドと火花を散らす操一朗を、完全
!
!
操一朗は更衣室で上下真っ白い剣道着に着替えると男子トイレで
♪♪♪
さ、も∼﹂
﹁つーか緒川ってばあの金髪おっぱいさんといちゃついてなんなの
?
193
!!
防具の紐を湿らせた。こうすることできつく縛ることができ、試合中
激しく動いても防具がずれることがない。
さらに操一朗は頭から水を被り髪をオールバックにして額を出し、
一房に纏めた茶髪はヘアゴムではなく美路歌露洲︵ミロカロス︶がお
﹂
守り代わりに持たせてくれた髪結い紐で縛った。
﹁うし
濃紺の垂れ、エメラルドグリーンの胴を着け、面に小手を納め、面
手拭を被せ右手に持ち、反対側の左肩に竹刀ケースを担ぐと紗羽達と
合流した。
﹁お、気合全開モードだね﹂
﹁なんか⋮、そういう髪型の緒川って初めて見たかも﹂
﹁う∼ん、これがラスト侍⋮﹂
﹁しっかりな﹂
大智と拳を合わせると、不安げな表情の和奏と目が合った。
﹁あの⋮、操一朗⋮、頑張って﹂
﹂
和奏は小さなガッツポーズをした。
﹁おぅ、しっかり見てろ
て後を追う。
?
らないみたい。﹂
﹂
まさかソーイチローは心眼の使い手⋮
﹁それでよく剣道できんな
﹁はっ
﹂
ぼやけてしか見えなくて、誰かが側にいないとどこ行けばいいか分か
﹁うん、操一朗って小2くらいから視力落ち始めて、裸眼だと周囲が
﹁緒川って⋮目、相当悪いの
﹂
救急セットなどを収めたスポーツバッグを肩に担いだ紗羽が慌て
﹁ちょっと∼、ソウ。会場反対側だよ∼∼﹂
方向に歩き出した。
操一朗は眼鏡を外すと和奏に預け、踵を反し・・・・、全くの反対
!
♪♪♪
﹁一対一だし、先手必勝タイプだから相手が見えれば大丈夫みたい﹂
!?
?
194
!
?!
大会はお偉いさんの挨拶も早々に、居合の演舞が行なわれた。打太
刀︵組み太刀の際、先に打ち込む方︶は操一朗の居合の師匠関谷透、仕
太刀︵打太刀の攻めを受けて反撃する方︶は操一朗の剣道の師匠であ
る日比野左内だった。
観客席には妹弟子のなるの姿もあった。その近くには和奏、来夏、
大智、ウィーンの合唱時々バドミントン剣道部の面子に加え、女子部
の試合まで時間のある爽。それに千春、無心が座っていた。先週の内
﹂
に会場内での付き添いを爽達に頼んでいたのだ。
﹁ソウ、緊張してる
するかよ﹂
嵌めた。
﹁うし
♪♪♪
んじゃ、さくっと一勝だ﹂
操一朗は濡らして固く絞った面手拭を頭に巻くと面を被り、小手を
﹁は
きを結びつけた。
紗羽は正座している操一朗の背中、胴紐の交差した部分に赤いたす
?
試合会場では早くも二回戦で注目の対戦が始まろうとしていた。
﹁ソーイチローも大きいけど、あの人はそれ以上だね﹂
﹁うわ、でっかいな⋮﹂
見ていた。
倒れはしたものの、早々に気がついた海は観客席で操一朗の試合を
﹁海兄、カッコつけても遅いから﹂
﹁はっはっは、流石は我がライバル﹂
ストップ。二回戦に進んだ。
開始直後、操一朗の面打ちで海は脳震盪を起こしそのままドクター
一回戦、同門土門海との対戦
!
﹁んっふっふっふ、海きゅんの仇は取らせてもらうわよ、操一朗ちゃ
195
?
ん﹂
ボールスは面の下でウィンクした。が、操一朗の視力ではそこまで
見えていなかった。
構えは互いに上段。上段は火の構えとも言われる攻撃的な構えだ。
2m近いボールスのそれは、対峙した者を射竦める構え、
︽断頭台︵ギ
ロチン︶の構え︵スタンス︶︾
﹂
操一朗も長身ではあるが、ボールスとの差は大きかった。
﹁せぁっ
開始早々、操一朗は両手持ちの竹刀から右手を離し、左手一本で握
﹂
り全身を目一杯前へ伸ばし面を打とうとしたが・・・・
﹁ズりゃアッ
した。
ズバァッッン
﹂
!!
スパァッン
先ほどよりも強烈な一撃が振り下ろされた。
﹁ずぉえぁりゃ∼∼∼∼∼
の間合いと攻撃に移る拍子を取っていた。
操一朗は静に口で息を継ぎながら全身に気合を満たし、ボールスと
﹁⋮⋮⋮ふ∼⋮⋮⋮﹂
﹁んふふ∼、下がっちゃうなんてつれないわね∼﹂
段に構えた。が、操一朗だけは右足を一足分下げて上段に構えた。
中央に戻った操一朗とボールスは中段で竹刀を合わせると再び上
海は真剣な表情で試合状況を解説していた。
ち負けるんだ﹂
操一朗も同じく攻撃型。そうなると、リーチや筋力、パワーの差で打
﹁本来、上段からの面打ちにはカウンターを狙うのが上策だ。けど、
観客席の来夏は耳を塞いでいた。
﹁うっわ∼⋮、すごい音⋮﹂
場中に響いた。
ボールスの竹刀が面布団︵頭頂部の分厚く硬い部分︶を叩く音が会
!
ボールスの断頭台︵ギロチン︶が操一朗の竹刀ごと上から打ち落と
!
!
196
!
面の下で、ボールスは呆然としていた。確かに自分の方が先に打
ち、渾身の一撃だった。しかし、実際に打たれたのは自分の面。
﹂
﹁むぅ⋮、あれは柳生新陰流で言うところの︽合撃︵ガッシ︶打ち︾
﹂
﹁知っているのカイ
海はウィーンに頷いた。
︽合撃打ち︾
相手が頭上から打ち込んでくるのに合わせて自分も打ち被せる
一見単純な技だが、実際は相手の打ち込みを恐れない豪胆さ、相手
の竹刀に自分の竹刀を被せる絶妙な拍子、それに加え相手との絶妙な
間積りが要求される
柳生新陰流においては基本技とされているが、これを完全に会得
し、実際の試合で使いこなすのは難しい
参考 詳伝社文庫﹃覇剣﹄より
﹁んふふ∼、やるわね、操一朗ちゃん。まさか秘伝中の秘剣をこの身で
受けることになるなんて﹂
﹁今のはたまたまだよ、そんな何回も決めれる技じゃねぇよ﹂
﹂
ボールスと操一朗は三度中央で上段に構えた。
﹁てぁっ
去年まではこんな攻め方も動きもしていなかった。
﹁っ⋮、﹂
!
り下ろした。
前に流れた操一朗の面目がけ、ボールスは真横から悠然と竹刀を振
﹁バイバイ、操一朗ちゃん。あとで慰めて、ア・ゲ・ル
﹂
朗が打ったと思ったのはその滑らかな動きが生み出した残像だった。
今までの攻め方と打って変わって、ボールスは横に変化した。操一
﹁流水の歩︵ストリーム・スライド︶﹂
し、ボールスの面を打った、ように見えたが・・・
操一朗はボールスが打ち込むより速く、飛び込んで竹刀を振り下ろ
!
197
?
!
﹁⋮⋮⋮∼っ
﹁え
﹂
﹂
今何が⋮、爽﹂
パァン
手の小太刀で面を打った。
にそれを打ちつけ、さらに踏み込み、操一朗の竹刀を払い落とし、右
操一朗は真っ向から竹刀を振り下ろした。が、バリンは左手の竹刀
﹁たァッ
り下ろされる気配に満ちていた。
れ、左片手上段に構えられた竹刀は操一朗が飛び込んできた瞬間に振
中段に構えられた右手の小太刀は真っ直ぐ操一朗の喉元に向けら
操一朗は目の前のバリンを攻められずにいた。
﹁⋮くっ⋮﹂
右手に小刀を左手に大刀を持つ。
通常二刀流は右手に大刀、左手に小刀を持つが、バリンの二刀流は
使い手だ。
相手は去年負けているバリン・フェニックス。大会唯一の二刀流の
準決勝
♪♪♪
コンマ数瞬の差で、操一朗の胴が決まった。
パァッン
側に捻り、ボールスの巨躯の下から胴を打った。
操一朗は歯を食い縛ると、竹刀を握った左手と上半身を無理矢理右
!
﹁うむ、あれは彼の宮本武蔵の技、
︽石火の当たり︾と︽紅葉の打ち︾﹂
︽石火の当たり︾
相手が打突を起こそうとする機を見て間髪入れず打ち込む
石を打ち合わせた瞬間飛ぶ火花のように強く速い打ち込みをこう
呼ぶ
︽紅葉のうち︾
198
!
!
!
来夏は爽に状況説明を求めた。
?
相手の竹刀を強打し刀身が流れるところをさらに切先を押さえる
ように打つと相手の竹刀はまるで落ち葉のように落ちる
参考 詳伝社文庫﹃覇剣﹄より
バリンはこの離れ技を立て続けに繰り出したのだ。
﹁バリンは技巧派の剣士、万能型と言ってもいい。そして今は操一
朗の上段に対応した返し技中心の戦法を取っている﹂
﹁そんな⋮、ずるいよ、二本も竹刀持ってるし﹂
﹁来夏ちゃん、バリンはルール違反はしていなし、あの二刀流も万能
型スタイルも厳しい稽古を誰よりも積んできたからああして本番で
も使えるんだ。大丈夫、操一朗だって伊達や酔狂であの上段の構えと
いうスタイルを貫いているわけではないさ﹂
操一朗は中央に戻りバリンと対峙すると上段に構えた。
﹁ここまできて自分のスタイルさ貫くとは天晴れだげんど、おめえ
﹂
てがら空きになっているバリンの面に振り下ろした。
﹁っ⋮、たまげたな、フェイントなんて⋮﹂
バリンは冷汗を流した。
199
の上段じゃ俺には勝てね﹂
﹁そいつは⋮、去年までの俺の上段⋮⋮⋮だ
ッパァン
うとしたが・・・、
リンはカウンター狙いの竹刀が流れ、咄嗟に右手の小太刀で防御しよ
厚くなった足裏が床を擦り、操一朗の捨て身突進が突如止まった。バ
操一朗の何年も剣道をして画鋲が刺さっても痛みを感じない程分
キュッ
が・・・・
バ リ ン は 再 び カ ウ ン タ ー 狙 い で 左 手 の 竹 刀 を 合 わ せ よ う と し た
﹁そんなんじゃ二の舞だべ﹂
ず体だけが先走った捨て身のタックルのようだった。
操一朗は大きく前方のバリン目がけ跳んだ。しかし、気・剣が足り
!
操一朗は未だ振り下ろしていない竹刀を、カウンターの狙いが外れ
!
﹁性に合わねぇ技だけど、お前に勝つためだ﹂
勝負の三本目、操一朗は上段、そしてバリンは右半身になり小太刀
前に、竹刀を後ろにするように平行に突き出す構えを取った。そのま
ま飛び込み技も打てる、フェイントも、返し技も打てる、バリン流二
刀流の究極形態とも言える構えだった。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹂
二人はそのまま睨み合ったまま、その場から動かなかった。
﹁なぁ無心、なんで二人は動かないんだ
大智が無心に訊いた。
﹁たぶん、バリンさんは操一朗さんの攻撃パターンにフェイントが
加わった事で読みあぐねているんだと思います。そして操一朗さん
は警戒しているバリンさんの隙を窺って、一撃で決められる機を計っ
ているんです﹂
﹁なるほど⋮﹂
﹂
操一朗渾身の面打ちがバリンの面を襲い、バリンは交差した竹刀で
それを防ぎ鍔迫り合いに持ち込んだ。が、それは長くは続かなかっ
た。
ガッ
の反動で振り上げた竹刀で引き面を叩き込んだ。
パァッンッ
♪♪♪
!
200
?
互いに攻めない二人に警告をしようと主審が動いた時、決着がつい
た。
﹁すりゃぁっ
カッッ
!
﹁ぐっ⋮、重てぇな、操一朗⋮、これがおめぇの想いを込めた一撃か⋮﹂
!
操一朗は竹刀を握ったまま両拳でバリンの胴を殴るように押し、そ
!
決勝戦は昼を挟んで午後から。
今は会場外で昼食休憩を取っていた。
﹁はい﹂
昼食担当の和奏が重箱を開けると操一朗達はおぉ∼と声を上げた。
三段重ねの上にはオレンジ・バナナ・ブドウ・メロン︵五嶋の知り
合いの某コーポレーション重役からのお中元︶、真ん中には唐揚げと
﹂
卵焼きに緑黄色野菜のピクルス、一番下にはおにぎりがぎっしり詰め
られていた。
﹁いたただきま∼す
﹁あ、コナツそれは僕が目をつけていたのに﹂
ウィーンの手を掻い潜って来夏は真っ先に唐揚げにかぶりついた。
﹁お、この卵焼き甘いやつだ﹂
﹁ピクルス美味しいね。ミニトマトが特に﹂
﹁お母さんの卵焼きが甘いやつだったの。野菜はうちの家庭菜園の
やつなんだ。﹂
和奏は水筒からお茶を紙コップに注ぎ操一朗に渡した。
﹁はい、リクエスト通りのお弁当でしょ。あ、野菜は私の権限で入れ
ましたから﹂
﹁ちっ⋮﹂
操一朗はお茶で口を湿らせると三角に握られたおにぎりを一個手
﹂
に取り、普段と違い小さく齧るとゆっくり咀嚼した。
﹁あ、あたしにもちょうだ∼い
!
来夏が和奏が自分用に注いだ紙コップを横から奪い取って一気に
飲んだ。
﹂
﹁あ、来夏それ⋮﹂
﹁あっつ∼∼∼
﹁何これ
熱々じゃん
﹂
!
ましたぬるめの飲みたかったから﹂
﹁夏場は冷えた水より熱いもんの方がいいんだよ﹂
201
!
うら若きJK三年来夏は外で盛大にお茶を吹きだした。
!!
﹁うん、操一朗が淹れて来いって。あと私も冷えているのよりは冷
?!
﹂
操一朗は小ぶりなおにぎりを早々に平らげると、ずずっとお茶を
啜った。
﹁てか、操一朗おにぎり一個で足りんのか
﹁そうだよソーイチロー、腹が減っては武士も高楊枝八文目って言
うでしょ﹂
育ち盛り男子高校生の大智と色々ミックスされたことわざを覚え
てしまったウィーンは唐揚げとおにぎりを頬張っていた。
﹁この後まだ試合控えているしな、そういう時は、小ぶりな握り飯で
軽く腹満たして、梅干でミネラルと疲労回復、身体冷やさないように
熱い白湯か茶で水分、それにバナナで即効エネルギーチャージだ﹂
操 一 朗 は 半 分 に 切 ら れ た K n i g h t o f S p e a r︵バ ナ
ナ︶を一口で食べた。
♪♪♪
アヴァロン学園
レギュラーで唯一勝ち残ったガラハドは・・・
ガツ♪ガツガツ♪♪ガツガツ♪♪♪
猛烈な勢いで特大タッパーの中のおじやを掻っ込んでいた。
﹂
その傍らにはモルガンが散らばった空の特大タッパーを片付けな
がら呆れていた。その数すでに4個目。
問題ねェよ、すぐ消化しちまうから﹂
﹁あのねぇ⋮、午後から決勝なのにそんなに食べて大丈夫なの
﹁あァン
?
吐き出した。
﹁おい、あれ﹂
﹁はいはい﹂
モルガンは1.5Lコーラをボトルごとガラハドに渡した。
プシュー
ガラハドはボトルを振り炭酸を抜いたコーラ飲み始めた。
﹁モルガン⋮﹂
202
?
ガラハドはさらに梅干も4∼5個一口に頬張るとタッパ│に種を
?
ガラハドは口元のコーラを手で拭いながら隣でサンドイッチを上
﹂
品に食べているモルガンに話し掛けた。
﹁なに
﹁⋮⋮⋮∼、﹂
﹁なによ﹂
﹂
﹁﹃この大会で﹄、
﹃優勝したら﹄、
﹃話があるから﹄⋮⋮、逃げんじゃ
ねぇゾ
﹁ふふ♪楽しみにしてるわ﹂
モ ル ガ ン が 微 笑 む と ガ ラ ハ ド は 顔 を 真 っ 赤 に し て 走 り 去 っ て し
まった。
﹁もぅ⋮、﹂
モルガンは頬を膨らませながらも口元は緩んでいた。
♪♪♪
﹁はぁ⋮はぁ⋮﹂
ガラハドは会場の反対側まで全力疾走していたガラハドは曲がり
角から出てくる人影に気付かず、そのままぶつかってしまった。
﹁⋮っと、スマン﹂
﹁いえいえ、大丈夫ですよ﹂
狐目の男はガラハドに頭を下げるとニヤリと笑った。
♪♪♪
女子の部、午後の決勝戦はモルガンさんと
一方、無心、爽、海、千春も弁当を囲んでいた。
﹁爽さん、大丈夫ですか
ですよ﹂
ざっていた。
そんな中、何故かアヴァロン学園剣道部のボールスとバリンも混
てきたんだ、私は勝つさ﹂
﹁ふっ、無心は心配性だな。私だって操一朗との稽古以外でも鍛え
?
203
?
!
﹁はぁ∼⋮、ゴメンね海キュン、仇討てなくて﹂
﹁いや⋮、それにしても操一朗があそこまで強くなっていたとは⋮﹂
﹁今日のあいづの剣からは何か鬼気迫るもんを感じだぞ﹂
千春は負け組みを励ましていた。
﹂
﹁ほらほら、そんな顔しない。午後からはお互い同門が出るんだか
らしっかり応援しないと。てゆーかなんで2人はこっち来てんの
﹁んふふ、今頃あの子達、2人っきりでお弁当中よ﹂
﹂
そんな6人を覗く小さな影・・・・・・・
﹁キバの鎧の継承者⋮
6人は突然の闖入者に驚いた。
♪♪♪
モルガンは昼食の片付けをしながら鼻歌を歌っていた。
﹁今じゃなきゃダメなんだ⋮、お前が必要なんだ⋮﹂
﹁それは優勝したら、ってさっき自分で言ってたでしょ﹂
﹁話がある﹂
﹁あら、どうしたのよ﹂
それは先ほど走り去ったガラハドだった。
﹁⋮⋮⋮モルガン⋮⋮⋮﹂
た・・・・・
頬を染めながら機嫌が良いモルガンは背後の気配に気付かなかっ
に勝って優勝して言っちゃうぞ⋮⋮⋮﹂
﹁まったく⋮、優勝するなんて豪語しちゃって、負けたらこっちが爽
?
ガラハドは甘く呟くようにモルガンに近付く。いつもの粗暴さと
は違う雰囲気にモルガンは違和感を覚えた。
204
!!
﹁ガラハド⋮﹂
︶はモルガンの耳元に近付くと囁いた
モルガンはその声に気を取られ、上から近付く影に気付かなかっ
た。
ガラハド︵
﹁その血⋮、今目覚めさせてやろう﹂
﹁⋮ガブ⋮﹂
上空の影が降り立つと、モルガンの首筋に鋭い牙を突き立てた。
その時、世界が一変した
205
?
破ー②
﹂
突如、周囲の景色が薄緑色に染まった。
﹁んだこりゃ
う気配に似ていた・・・・・・
そして異変はそれだけではなかった。
おい、紗羽、宮本、大智、ウィーン、和奏
!!
﹂
!
﹂
!
﹂
﹁お前ら⋮、なんでこの状況で無事なんだ
﹂
無心、爽、それにボールスにバリンがこちらに走って来た。
不意に呼び止められた操一朗は驚いた。
﹁操一朗さん
トと共に走り出した。
れたここ一番でしか使わないそれを和奏の手に握らせるとレイバッ
操一朗は首に巻いていた面手拭を、初段合格祝いにまひるから贈ら
﹁ちっ⋮﹂
﹁向こうに強大な魔皇力を感知した。おそらく⋮﹂
ぐったりとした和奏を抱きかかえながら操一朗は絶句した。
﹁なっ⋮﹂
ジーが奪われている
﹁マズイぞ操一朗、この周囲にいる人間から徐々にだがライフエナ
操一朗が叫ぶとレイバットが飛んで来た。
﹁⋮∼っ、レイバット
操一朗以外の全員が糸が切れたようにその場に倒れた。
﹁っ
﹂
かべたが、それとは違う。むしろ、あの鎧武者レジェンドルガから漂
操一朗は玄牙︵ゲンガー︶が戦闘時に展開させる幻術結界を思い浮
!?
!
?
206
!?
﹂
﹁それは⋮こっちの台詞だ。操一朗君、そのキバット族モドキはな
んなんだ
走って来た。
モルガン見なかったか
﹂
2人でご飯食べていたんじゃないの
﹁おいお前ら
﹁え
?
﹂
!
﹁モルガン
﹂
﹂
その目は虚ろで生気が全く感じられなかった。
バリンが指差す方向、前方にモルガンが佇んでいた。
﹁⋮2人ども
﹁ちょっと離れた間にいなくなってたんだ﹂
?
!
レイバットが応えに迷っているとそこにガラハドが血相変えて
﹁む⋮、﹂
爽はレイバットを指差し問い質す。
?
いた。
﹂
!?
るとその場の全員が凍りついたように動かなくなった。
レイバットが辛うじてデータベースの片隅にあった単語を口にす
﹁まさか⋮、ダークキバ
ルガンは赤と黒の鎧を纏った闇の王へと変貌した。
ガラハド、ボールス、バリンが見ているだけしかできない状況で、モ
﹁あいづの力が⋮﹂
﹁マズイわ⋮﹂
﹁まさか⋮
﹂
モルガンが呟くと黒いキバット族が飛んできてモルガンに噛み付
﹁⋮⋮⋮ダークキバット⋮⋮⋮﹂
ガラハドが叫ぶがその声は届いていなかった。
!
!
207
?
ゴゴゴゴゴゴゴ
﹂
しかし、その沈黙は地中から現れた物で打ち砕かれた。
﹁城⋮
操一朗達の視線の先、突如現れ聳え立った禍々しい西洋城の中へと
モルガン、ダークキバはその城へと消えていった。
﹁あれは暗黒夢城︵アクムジョウ︶です﹂
無心の背中からドラン族のキバゴが現れた。キバゴは操一朗とレ
イバット、無心、爽、ガラハド、ボールス、バリンに懇願した。
﹁お願いします、あの城を止めてください﹂
♪♪♪
﹁さて⋮と﹂
操一朗、無心、爽は暗黒夢城︵アクムジョウ︶を見据えていた。
﹁キバゴの話をまとめっと、ドラン族首長のヒードランが管理して
いた暗黒夢城︵アクムジョウ︶の封印が黒い狐一派に解かれた﹂
﹁はい⋮﹂
キバゴは小さい身体をさらに縮こませて頷いた。
﹁そしてモルガン嬢は闇の牙の鎧の継承者で先祖返りによりその身
に宿していた膨大な魔皇力をあの城の動力として利用するため勾引
かされた。このエナジードレインは覚醒直後で力が制御ができてい
ないための副作用といったところだろうな﹂
208
?
レイバットの現場解説に無心と爽は途惑ってはいなかった。
﹁まさか本当にこんな時が来るなんて﹂
﹂
﹁私の親友を勾引かした罪は贖ってもらうぞ﹂
﹁じゃあ⋮、行こうか
﹁レイバット
﹂
﹁うむ華激︵カゲキ︶に行こうか
﹂
操一朗は剣道着の上からベルトを装着すると右手を高く掲げた。
!
﹁変身
﹂
﹁ギャブリ
﹂
操一朗はレイバットを掴むと左前腕に噛ませた。
!
!
﹂
﹂
で密かに継承されていた鎧。
闇のキバの鎧の抑止力、万が一の暴走を止めるために創られ、今ま
仮面ライダーキバ
身長が一気に2m近くまで伸び、赤い鎧がその身に装着された。
キバットをそのベルトに取り付けると、操一朗の胸より低い無心の
﹁変身
ルトが装着された。
に鎖が巻きつき、それが弾けるとレイベルトと同じ止り木のようなベ
無心はキバットを右手で持つと左手に噛ませた。すると無心の腰
﹁ガブッとな﹂
ている、金色のキバット族キバットバットⅩ世が飛んで来た。
無心が呼ぶとレイバットとよく似た、厳密にはレイバットの方が似
﹁おぅさ﹂
﹁キバット
レイの登場を奏でる音を響かせた。
砕けた氷の破片が薄緑色の世界に煌めき、白き戦士、仮面ライダー
から打ち砕かれた。
操一朗の周囲に六本の六角氷柱が現れ、その姿を隠すと同時に、中
!
!
無心はその当代だった。
209
!
!
爽はイクサベルトを装着し、右手に握ったナックルウェポン、イク
サナックルを身体の前で左掌に合わせた。その姿はまるで神に祈る
ような姿だった。
﹂
レ・ディ・ー
﹁変身
フィ・ス・ト・オ・ン
聖職者を思わせる高貴な白い鎧が展開し、爽が装着すると同時に頭
部の十字架、クロスシールドが開いて突風が巻き起こった。
仮面ライダーイクサ
操一朗の協力者五嶋の青空神教︵アオゾラシンキョウ︶と同じ人間
とファンガイアとの共存を時には武力を持って図る組織、﹃素晴らし
き青空の会﹄が開発した対ファンガイア用パワードスーツで、爽はそ
の適合者だった。
﹁凄い、キバだけじゃなくファンガイアバスターのイクサ、それに
⋮仮面ライダーレイまで﹂
キバゴは並び立つ三人の仮面ライダーに感動した。3ライダーは
マシンレイダー、マシンキバー、イクサリオンに跨ると城へ一直線に
走り出した。
﹁五嶋さん所以外にも組織があるってのは聞いてたけど⋮﹂
﹁世間は狭いですね、こんな近くにいたなんて﹂
﹁これも神のお導きだろう﹂
﹂
キバのベルトから逆さまの状態でキバットバットⅩ世が聞いてき
た。
﹁てかさぁ、あの城どうやって攻略すんの
レイバットがそれに答える。
界は解けるはずだ﹂
﹁四方に結界の拠点となる敵がいるはずだ。それらを倒せばこの結
に現れると同時に強力な結界を展開していた。
キバットバットⅩ世の言う通り、暗黒夢城︵アクムジョウ︶は地上
?
210
!
﹁でも⋮、他の三箇所は一人だけで大丈夫でしょうか
キバの背中からキバゴが心配そうに顔を覗かせた。
﹁大丈夫だろ、助っ人は送っといた﹂
﹂
レイは珊瑚色、赤と黒の斑模様、薄緑色のフエッスルを指の間に挟
んでキバに向けて振って見せた。
♪♪♪
レイ達の反対側、城の北側。
ボールス・マーマンは周囲を見回した。
﹁さて、操一朗ちゃんは助っ人って言ってたけど⋮﹂
﹁我だ﹂
ボールスの目の前に雪風と共に緑色の髪をオールバックに固めた
白スーツの男が現れた。
﹁あらん、いい男﹂
﹁仮面ライダーレイが契約モンスター、ギガント族の雪之王︵ユキ
ノオー︶だ﹂
白い霧が雪之王︵ユキノオー︶を包み込むと、次の瞬間にはモンス
ター形態となっていた。
﹁ご丁寧にど∼も、じゃ、アタシも自己紹介を﹂
ボールスが全身の筋肉に力を込めるとその身体どんどん膨れ上が
り、土偶のような姿になった。
﹁そうか、お前は⋮﹂
﹁ご明察、フランケン族よん。真名は吾郎愚︵ゴルーグ︶﹂
二人から二体のモンスターとなった雪之王︵ユキノオー︶と吾郎愚
211
?
︵ゴルーグ︶の前に、インセクトクラス・スコーピオファンガイア、ド
ラピオンが現れた。
﹁ふぅむ、ギガント族にフランケン族か⋮、腕が鳴るでぇ﹂
ドラピオンは尻尾から発射したミサイルの様な針を身体のあちこ
ちに刺した。つぼをおすことで能力を上昇をさせたのだ。
﹁早々に片を付けるぞ﹂
﹁オッケ∼﹂
雪之王︵ユキノオー︶は襲い掛かってきたドラピオンとがっちり掴
み合った。
﹁雪之王︵ユキノオー︶ちゃん、そのまま﹂
﹂
吾郎愚︵ゴルーグ︶は紫色のオーラを纏った拳でスコルピオに殴り
かかった。
﹁甘いでぇ
スコルピオは片手で吾郎愚︵ゴルーグ︶渾身の拳を受け止めた。
﹁む⋮﹂
﹁ぐむぅ∼﹂
ギ ガ ン ト 族 と フ ラ ン ケ ン 族。パ ワ ー だ け な ら 十 三 魔 族 の 中 で も
﹂
トップクラスの二体と、ドラピオンは一体で張り合っていた。
﹁クロスポイズン
﹁あぐ⋮﹂
部分を噛み砕いた。
ドラピオンは巨大な顎を大きく開けると、吾郎愚︵ゴルーグ︶の肩
﹁ふぅむ、やはり流石やな。が、﹂
吾郎愚︵ゴルーグ︶は徐々に押し返した。
﹁力だけは⋮、負けないわよぉ∼﹂
庇うように両手でスコルピオと両手で組み合った。
︵ゴルーグ︶はある程度耐性があったようで、雪之王︵ユキノオー︶を
毒属性攻撃に雪之王︵ユキノオー︶は膝を着いてしまった。吾郎愚
﹁ぐぁ⋮﹂
字に切り裂いた。
毒を滴らせた爪が雪之王︵ユキノオー︶と吾郎愚︵ゴルーグ︶を十
!
212
!
ぼろぼろと吾郎愚︵ゴルーグ︶の身体が土塊となって崩れ落ちて
いった。
♪♪♪
城の西方
うわ∼、暗いな∼﹂
そこにはバリンが目を閉じ瞑想していた。
﹁あ∼、もしかしてあんた
黒いくしゃくしゃの髪を掻きながら詰襟の学ランを着た少年、玄牙
︵ゲンガー︶がポンというマジシャンのような登場をした。
﹁おめえが助っ人か﹂
﹁そそ、ゴースト族の玄牙︵ゲンガー︶。そっちは⋮﹂
﹁マーマン族、真名は護流打駆︵ゴルダック︶﹂
バリンの姿が足元から上がった水柱で隠されると、水色の肌の半魚
人のモンスターに変化していた。
﹁んじゃ俺も⋮﹂
玄牙︵ゲンガー︶は学ランを大仰に脱ぎ捨てるとずんぐりむっくり
おもしれぇじゃん、ゴーストの方はともかく、半魚人
のモンスター形態に変わった。
﹁ひゃはっ
結 界 城 塞 の 前 に は、ビ ー ス ト ク ラ ス・キ ャ ッ ト フ ァ ン ガ イ ア、マ
ニューラがけたけた笑いながら爪を研いでいた。
﹁さっさと決めっぞ﹂
早くモルガンを助け出さないと彼女自身、闇の鎧の力でどうなるか
分からない。周囲へのライフエナジードレインを止めなければなら
213
?
方は切り応えがありそうじゃん﹂
!
ない。
護流打駆︵ゴルダック︶は激流を身に纏い突っこんだ。
﹁おっと﹂
マニューラはひらりと躱すとすれ違い様、護流打駆︵ゴルダック︶を
﹂
鋭い爪で切った。
﹁隙あり
攻撃直後、玄牙︵ゲンガー︶はマニューラの頭上に現れ黒紫色のエ
ネルギー球を撃とうとした。
﹁ところがどっこい﹂
しかしマニューラはそれすら躱して玄牙︵ゲンガー︶の不意をつい
﹂
て蹴り飛ばした。
﹁凍える風
﹁っち、操一朗の野郎、こんな女寄越しやがって﹂
そこに美路歌露洲︵ミロカロス︶が現れた。
﹁あ∼、ごめんごめん﹂
﹁遅ぇ⋮﹂
城の東方ではガラハドがイライラと歯軋りしていた。
♪♪♪
﹁動きが⋮、﹂
﹁やっべ⋮﹂
︵ゴルダック︶を襲った。
マニューラが発生させた冷気の突風が玄牙︵ゲンガー︶と護流打駆
!
﹁む∼、あんまり雄雌で人を差別しない方がいいよ∼、わんちゃん﹂
214
!
﹁誰が犬だ
﹂
ガラハドが叫ぶと同時にその姿が蒼い毛並みの狼人間へと変貌し
た。
﹁ウルフェンの瑠狩璃雄︵ルカリオ︶だ﹂
﹁マーメイド族の美路歌露洲︵ミロカロス︶よ﹂
美路歌露洲︵ミロカロス︶もモンスター形態へと変化した。
﹁おぉ、こいつぁいいな。女の方はともかく、絶滅したと思ってい
たウルフェンがいるとは﹂
リザードクラス・リザードファンガイア、ずるずきんは嬉しそうに
﹂
大きく裂けている口を歪めて笑った。
﹁最っ高潮だぜ
﹂
﹂
﹂
蹴りを繰り出した。
瑠狩璃雄︵ルカリオ︶目掛け大きくジャンプし、その勢いのまま膝
!
﹂
﹂
!
!!
﹁グロウパンチ
バシィッ
﹁気合鉄拳
﹁グロウパンチ
バチィンッ
﹁火炎鉄拳
﹁グロウパンチ
ズガァンッッ
の外だった。
215
!
!
!!
!
雄同士の壮絶な格闘戦に、美路歌露洲︵ミロカロス︶は完全に蚊帳
!!!
!!!
!
♪♪♪
そしてバイクで疾走していたレイ達の目の前に、突如、不可視の障
﹂
壁が現れた。
﹁跳ぶぞ
レイの合図でキバとイクサはバイクから飛び降りた。キバゴはそ
の弾みでキバの背中から落ちてしまった。
﹁むぎゅ⋮﹂
﹁キバゴは隠れていて﹂
三人の仮面ライダーの前には、イカを逆さまにしたようなアクアク
ラス・クトゥルフィッシュファンガイア、カラマネロが浮かんでいた。
﹂
﹁カ∼ロロロロ、これは光栄だね。音に聞こえし仮面ライダーが相
手とは﹂
﹁行くぞ
﹂
レイは真っ向からカラマネロに突進した。
﹂
﹁大樹鉄槌︵ウッド・ハンマー︶
﹁リフレクター
!
﹁操一朗君
どくんだ﹂
その障壁にレイの拳は弾かれた。
﹁くっ⋮﹂
カラマネロは先ほどと同じ薄青色の障壁を展開した。
ドッ グゥンッ
!
ガガガガガガ
イクサはイクサカリバーガンモードでシルバーバレットを撃った。
!
216
!
!
﹁光の壁﹂
今度は薄紫色の障壁でファンガイアが苦手な純銀物質の弾丸を防
いだ。
﹁僕が行きます﹂
﹁カロロロ﹂
シュパパパパ
﹂
キバは素早い徒手空拳で攻撃を繰り出したが、全て触手でいなされ
てしまった。
﹁三人同時に行くぞ
﹂
レイを中心に、イクサ、キバが三方からカラマネロに飛び掛った。
﹁イカサマ
ドンッ
まの勢いで自分に跳ね返ってきて吹っ飛ばされた。
﹁あわわわ⋮﹂
キバゴは建物の影からただ怯えて見ていることしかできていな
かった。
﹂
﹁おや、誰かと思えばドラン族の小僧じゃなイカ。お前、ヒードラ
﹂
誇り高きドラン族のくせしてずいぶんな臆病者
ンがやられて俺たちが城奪った時もそうして怯えて隠れていたナ
﹁⋮っ
﹁カ∼ロロッロ
じゃなイカ﹂
?
217
!
3ライダーの攻撃はカラマネロに届く寸前、力のベクトルがそのま
﹁うゎっ⋮﹂
﹁くっ⋮﹂
﹁ぐわぁっ⋮﹂
!
カラマネロは笑いながら触手から赤紫色の波動光線をキバゴに
!
!
放った。
﹁ぁ⋮﹂
ビビビビビ
恐怖で動けないキバゴを、キバが庇った。鎧をぼろぼろに焦しなが
らキバは仮面の下で微笑んだ。
﹁大丈夫、君は守るから﹂
﹁なんで⋮﹂
キバは仮面、キバペルソナの下で微笑んだ。
﹁僕もね、昔は弱虫でいつも爽さんに守られていたんだ。でも、きっ
かけ1つで誰でも強くはなれるんだ。だからそれまでは、僕が守る
⋮⋮⋮それが仮面ライダーだから﹂
218
﹁⋮キバ﹂
﹁はっ、言うじゃねぇか、あの雑念だらけの弱無心が﹂
レイは首を捻りながら起き上がった。
﹁それでこそ私の義弟だ﹂
イクサも立ち上がった。
﹂
﹁カ∼ロロッロロ、そんなザマで強がりとは見苦しいじゃなイカ。
他のお仲間もそろそろやられているんじゃなイカ
﹁はっ、あいつらをなめんな﹂
﹁カラバコ達もな﹂
﹁さぁ、気張って行きますよ﹂
♪♪♪
?
﹁なんや
﹂
突如、ドラピオンの足元の影から吾郎愚︵ゴルーグ︶の巨体が現れ
た。
﹁さっきのは、み・が・わ・り、雪之王︵ユキノオー︶ちゃん﹂
﹁うむ、回復完了だ﹂
雪之王︵ユキノオー︶は足元から地面に根を張って地中からライフ
﹂
﹂
エナジーを吸収して毒ダメージを回復していたのだ。
﹁鉄腕鉄拳︵アームハンマー︶
!
!
﹁大樹鉄槌︵ウッド・ハンマー︶
ドッッ グゥン ﹁がはぁ⋮﹂
!
♪♪♪
﹁鬼火
﹂
ドラピオンの胴体に大きく凹んで吹っ飛んだ。
!
﹂
﹁あっち⋮、アチチチ⋮
﹁シグナルビーム
﹂
!
護流打駆︵ゴルダック︶の額から赤青黄の三色の光線が発射され、マ
!
ニューラに直撃した。
﹁ぎニャ⋮﹂
﹂
﹁決めっぞ
!
﹂
﹁OっK∼
!
219
!?
玄牙︵ゲンガー︶が灯した炎でマニューラの風は打ち消された。
!
護流打駆︵ゴルダック︶は魔皇力を込めた手刀を、玄牙︵ゲンガー︶
﹂
は光球をマニューラに繰り出した。
﹁瓦割
﹂
﹂
!!
力をかなり消耗していた。
グロウ⋮パンチ
!
﹁諸刃頭突
﹂
の拳を繰り出した。
瑠狩璃雄︵ルカリオ︶は何度も打ち込んで魔皇力を溜め込んだ全力
﹁これで決める
﹂
瑠狩璃雄︵ルカリオ︶とズルズキンは肩で息をしていた。お互い、体
﹁はは⋮、やるな⋮﹂
﹁ぜい⋮ぜい⋮⋮﹂
♪♪♪
﹁にゃ∼∼∼
﹁気合玉
!
﹂
﹂
!
瑠狩璃雄︵ルカリオ︶は拳を振り上げたまま呆然としていた。
﹁⋮⋮⋮﹂
ンを直撃した。
美路歌露洲︵ミロカロス︶が魔皇力を込めて発した音波がズルズキ
﹁ぐはぁっ
﹁魅惑の声︵チャームボイス︶
ズルズキンも鶏冠頭を玉砕覚悟で打ち込んだ。
!
!
220
!!!
!
だったらその力は温存しとかないと﹂
﹁あのさ∼、目的はダークキバになっちゃったモルガンって女の子
を助け出すんでしょ
美路歌露洲︵ミロカロス︶はアクアリングを瑠狩璃雄︵ルカリオ︶に
纏わせて体力を回復させた。
﹁⋮スマン﹂
♪♪♪
﹁⋮ぼくは⋮⋮⋮﹂
カラマネロと激戦を繰り広げているレイ、イクサ、キバを見て、キ
﹂
バゴの中で何かが目覚めた。
﹁うわ∼
﹂
﹁⋮カロ⋮、﹂
﹁やぁ∼
﹂
さらにキバゴは二連続チョップをカラマネロに喰らわせた。
﹁⋮おのれ、小虫の分際で⋮⋮⋮、いイカ減にしろ
飛ばした。
た。
﹁キバゴ⋮⋮⋮進ッ化∼∼∼
﹂
キバが叫ぶと同時に、キバゴの体が光り輝き出し、攻撃を打ち消し
﹁キバゴ
﹂
カラマネロは念力を込めた触手から三日月型の刃をキバゴ目掛け
!!
進化した。
牙と身体が一回り大きくなり、深い緑色のドラン族、オノドンへと
!!!
221
?
キバゴはカラマネロに突っ込むと両手の爪で引っ掻いた。
!
!
!
﹁ム⋮﹂
﹂
﹂
カラマネロは障壁を二重に展開した。そこにレイが飛び込む⋮
﹁ウェイカップ2
﹁双拳・大樹鉄槌︵ダブル・ウッド・ハンマー︶
ドッ パキャァァン
レイの双拳が一枚目の障壁を破壊した。
さらにイクサがナックルフエッスルを装填する。
﹂
イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ
﹁イクサ⋮、爆発
バンッ パッキィィン
﹁はい
﹂
﹁ウェイク、アップ
﹂
﹁オノドン、一緒に行くよ﹂
た。
イクサナックルから撃たれたエネルギー弾が二枚目の障壁を砕い
!
﹁シザ∼⋮、クロス
﹂
﹁ダークネスムーンインパクト
﹂
四方の結界とファンガイア達がステンドグラスの欠片となって砕
の紋章が浮かび上がった。
カラマネロは十字に切り裂かれ、さらに拳が打ち込まれ中央にキバ
!
!!
222
!!
!
!
キバの拳とオノドンの爪がカラマネロに迫る。
!
!
け散った。
﹁では我等は戻る﹂
﹁ありがとね、雪之王︵ユキノオー︶ちゃん﹂
﹁そんじゃ、あとはそっちでなんとかしなね∼﹂
﹁この借りは必ず返ず﹂
223
﹁スマン、助かった﹂
﹂
﹁いいよ、じゃ、諸々頑張りなね∼。彼女、待ってるみたいだから﹂
﹁は
!?
急
城に突入した仮面ライダーレイ、仮面ライダーイクサ、仮面ライ
﹂
ダーキバ、そしてオノドンは一気に城の最上階へ駆け上がった。
﹁おらぁっ
﹂
レイが大きな扉を蹴り開けると、中は玉座が据えられていた。そこ
には・・・・
﹁モルガン
イクサが駆け寄ろうとすると、黒いオーラがその行く手を遮った。
︶が現れた。
﹁はいはいはぁ∼い、お疲れ∼仮面ライダァ∼﹂
﹂
玉座の裏側からガラハド︵
﹁ガラハドさん
?
﹁あれ
﹂
︶の姿が揺らめくと、イリュージョンを解いたゾロアー
すぐに分かっちゃった
﹁お前⋮、ガラハドじゃねぇな﹂
キバは驚いた。しかし、レイはすぐに気付いた。
!?
手がさせない。
ゾロアークはモルガンの周りを歩いているので、イクサ達は下手に
キツイかなぁ∼﹂
族モチーフの人工物の鎧⋮、流石にこのままの状態で相手をするのは
﹁さて⋮、キバの鎧、ファンガイアバスターの鎧、それにギガント
イクサはクロスシールドの下で怒りの表情を露わにした。
﹁貴様⋮﹂
舐めた。
ゾロアークは長い舌で玉座でぐったりとしているモルガンの顔を
かったよぉ∼﹂
﹁こいつの姿で近付いたらこの女ころっと釣られてさぁ∼、ちょろ
クが姿を現した。
ガラハド︵
?
224
!
!
?
?
﹁でも、この城って実は城じゃないんだよねぇ∼。この城全体があ
オノドン﹂
る物を封印するための入れ物﹂
﹁⋮そうなの
﹂
﹁⋮いえ、僕はこの城が太古の昔にレジェンドルガが造り上げたと
いうことしか⋮﹂
﹁見せてやるよ、︽惡の鎧︾を
﹂
!
レイとレイバットはアークからの威圧感をひしひしと感じていた。
﹁むぅ⋮あの鎧武者レジェンドルガにも匹敵するぞ⋮﹂
﹁なんつープレッシャーだ⋮﹂
ダークキバの子孫であるモルガンとは浅からぬ因縁があったのだ
その裏切り者のファンガイアの子孫がゾロアーク
の脅威を知らせ、それがダークキバの一斉蜂起の契機となった
魔皇力不足と大戦の傾城が不利と見るとファンガイア側に︽惡の鎧︾
その製法を持ってレジェンドルガ側に寝返った裏切り者は、しかし
の鎧の製法が基になっていた
しれない強大な鎧は、実はファンガイア側からもたらされた闇のキバ
起動のための膨大な魔皇力さえ込めれば歴史が変わっていたかも
鎧︾
レジェンドルガとファンガイアの大戦真っ只中に造られた︽惡の
﹁これぞ、アーク⋮⋮⋮、仮面ライダーアークだ
トに装着するとバフォメットのような戦士になった。
ゾロアークが悲壮感漂う表情のキバット族、アークキバットをベル
!
﹁まさか城を突付いてこんな化け物が出てくるなんて⋮、無心、ど
225
?
うする
﹂
﹁戦うよ、キバット。こんな奴を野放しにはできない﹂
﹁僕も⋮、戦います﹂
その時、イクサが前に出た。
﹂
﹁操一朗君、無心、それにオノドン。ここは私に任せてくれないか﹂
﹁爽
﹂
﹁爽さん
?
﹂
?
﹂
!
﹂
!
﹂
﹂
﹁ガハァッ⋮
﹂
向から斬り下ろした。
次の瞬間、アークの眼前に迫ったイクサは、イクサカリバーを真っ
﹁成敗
イ・ク・サ・カ・リ・バ・ー・ラ・イ・ズ・アッ・プ
しかし、イクサの姿は霞の様に揺れて消えた。
﹁⋮は
た・・・・様に見えた、
通常の槍より殺傷範囲が広い三叉槍を突き出し、イクサは貫かれ
﹁ひゃっはぁ∼
を手にすると構えた。
アークは玉座の後ろに掛けられていた三叉槍、アークトライデント
いねぇ∼﹂
﹁はっ、いいねぇ∼、そういう強気な女を屈服させるのはたまらな
かした罪、その命を神の下で贖うことすら許さん
﹁いいからさっさと来い、口先だけの二枚舌外道狐。私の親友を誑
﹁はっ、三人がかりでもいいんだぜ
モードにした剣を、爽、仮面ライダーイクサは正眼に構えた。
イクサカリバーから赤い刃、ブラッディエッジを伸ばしカリバー
﹁この外道だけは⋮、私が倒す﹂
﹂
﹁イクサ
?
?
!!
!
226
?
?
秘剣﹃朧月ノ太刀︵オボロヅキノタチ︶﹄で切り伏せられ変身が解け
たゾロアークは床を転がった。
﹁⋮え∼﹂
﹁なんと⋮﹂
﹁爽さん⋮﹂
﹁怖い⋮﹂
レイ、レイバット、キバ、オノドンはイクサの壮絶な一刀両断にド
ン引きだった。
﹁ぐ⋮馬鹿な⋮、これは︽惡の鎧︾⋮⋮⋮﹂
﹁ふむ⋮、ようやく安定したな﹂
﹁貴様⋮、何者だ﹂
イクサカリバーの切先を向けてイクサは訊いた。
227
﹂
﹁調子に乗るなよ、ファンガイアの狐風情が﹂
﹁っ
﹂
!?
黒い闇はゾロアークを取り込むと上半身だけ人型を取った。
﹁お前は⋮
ゾロアークの背後に、突如黒い闇が現れた。
!
﹂
﹁ダークライ、
︽惡の鎧︾を造らせたレジェンドルガ、と言えば理解
が早いか﹂
﹁生きていたのか⋮
﹁誰
﹂
﹁サザンドラ⋮
﹂
ダークライの背後にサザンドラが現れた。
鎧の継承者であるこの女も、少し前から観察させてもらっていた﹂
それがこの狐のおかげでこうして復活できた。当代のダークキバの
それでも鎧に寄生することで辛うじて生き長らえていた状態だった。
﹁当時のダークキバにやられ、ほとんど死んでいるも同然の状態で
?!
﹁モルガン
﹂
ルーグ︶が駆けつけた。
そこに、瑠狩璃雄︵ルカリオ︶、護流打駆︵ゴルダック︶、吾郎愚︵ゴ
﹁仮面ライダー⋮クライシス、とでも名乗っておこうか﹂
生えていた。
先ほどのアークとフォルムは同じだが背中からサザンドラの翼が
付くとダークライは一気に3m以上の巨大な戦士に変身した。
そのサザンドラが頭部と両手の顎でダークライの首と両肩に噛み
﹁⋮ガブリ⋮﹂
アークバットの仮面が外れサザンドラに取り憑いた。
﹁GO TO HELL﹂
を﹂
﹁︽惡の鎧︾のためには、ドラン族が必要でな。見せよう、本来の姿
﹁随分昔に一族を裏切ったとされている奴です﹂
驚くキバゴにキバは訊いた。
?!
﹁モルガン
﹂
クライシスは3体を見下ろし、モルガンの座る玉座を蹴飛ばした。
﹁ダークキバの契約モンスターか﹂
!
!
228
?
瑠狩璃雄︵ルカリオ︶の目の前でモルガンは床に叩きつけられた。
なった。
﹁ジャァ
﹂
﹂
や尻尾が伸び、手足が赤くなり鋼の棘が生え、獰猛な狼人間の姿に
瑠狩璃雄︵ルカリオ︶は雄叫びを上げるとどす黒い光に包まれ、鬣
﹁⋮⋮⋮あ⋮⋮⋮、ルォォォォォォ
!!!!!!!!
ばした。
﹂
!
﹂
?
唯一生き残ったものの、まだ子供だった瑠狩璃雄︵ルカリオ︶はス
が、ある時、何者かの襲撃を受けて一族は全滅。
瑠狩璃雄︵ルカリオ︶はウルフェンの生き残りと静に暮らしていた
⋮﹂
﹁モルガンに拾われてなかったら⋮、俺は野良犬みたいに死んでた
﹁今のお前の魔皇力を全部使っちまって⋮⋮⋮﹂
﹁ちょっと、それやったら﹂
波動を送り込んだ。
瑠狩璃雄︵ルカリオ︶はモルガンの胸の上に手を置いて、薄桃色の
﹁くっそ⋮、俺は⋮⋮⋮﹂
瑠狩璃雄︵ルカリオ︶は元の姿に戻ってしまった。
﹁くっそ⋮、モルガン⋮⋮⋮﹂
雄︵ルカリオ︶の下に駆け寄った。
吾郎愚︵ゴルーグ︶と護流打駆︵ゴルダック︶はモルガンと瑠狩璃
﹁しっかりしろ﹂
﹁ちょっと大丈夫
それに触発され、レイ、イクサ、キバ、オノドンが飛び掛った。
﹁くっそがぁ∼∼
﹂
しかしクライシスは蝿でも掃う様に瑠狩璃雄︵ルカリオ︶を吹っ飛
﹁ふん
神速のスピードでクライシスに迫った瑠狩璃雄︵ルカリオ︶・・・
!
ラムに住み着いて魔族としての能力を使って盗みや悪さをして生き
ていた。
229
!
そんな時、モルガンと出会い、襲って、返り討ちにあってコテンパ
ンにされて何故かモルガンの家の援助で生活することができた。
護流打駆︵ゴルダック︶と吾郎愚︵ゴルーグ︶も人間社会に隠れて
住んでいる時にモルガンと出会い、その器に惹かれて、モルガン自身
にその自覚は無くても三人は忠誠を誓うようになった。
﹁やる事は一つね﹂
﹁あぁ⋮﹂
吾郎愚︵ゴルーグ︶と護流打駆︵ゴルダック︶も手を重ねて、自分
達の魔皇力をモルガンに注いだ。
﹁天原無心⋮、おめえとも剣を交えてみだっがったけんど⋮、どお
やら無理そうだ⋮⋮⋮﹂
護流打駆︵ゴルダック︶=バリンは天井に逆さまになってクライシ
スにパンチを浴びせるキバ・・・無心を見ながら倒れた。
﹁サヤカちゃん⋮、モルガンとずっと仲良くしてあげてね⋮﹂
吾郎愚︵ゴルーグ︶=ボールスはクライシスの身体を切り裂くイク
サ・・・爽にモルガンを託し、土塊の身体をぼろぼろにして崩れ落ち
た。
﹁操一朗⋮⋮⋮、決着、つけれなく⋮⋮⋮すまねェ⋮﹂
瑠狩璃雄︵ルカリオ︶=ガラハドは巨大なクライシスにも真っ向か
ら攻めていく親友︵ライバル︶
・・・、操一朗に一言詫びるとそのまま
モルガンの上に倒れた。
230
﹁⋮⋮⋮ん⋮⋮⋮﹂
﹁ぐあ⋮っ﹂
﹁う⋮﹂
﹁くっそ⋮﹂
キバ、イクサ、レイはクライシスが起こした怪しい風で反対側の壁
﹂
まで吹っ飛ばされた。
﹁キバ⋮、皆さん
オノドンもボロボロの身体を引きずりなら懸命に立とうとしてい
る。
﹁ふん、後々邪魔されても厄介だ、今ここで城もろとも葬って⋮﹂
クライシスが巨大化した三叉槍を手にした、その時・・・・・・
﹂
﹁控えよ、女帝の御前であるぞ﹂
﹁何者だ⋮
!
231
!
クライシスが振り返ると、そこには黒いキバット族、ダークキバッ
?
トがクライシスを睨みつけていた。その傍らには・・・
﹁モルガン⋮﹂
﹁爽⋮、無心⋮⋮⋮、操一朗、ずいぶんと迷惑かけちゃったわね﹂
﹁いえ⋮、大丈夫です﹂
﹁お前が謝るなんて、らしくねぇよ⋮﹂
イクサ、キバ、レイは立ち上がった。
﹁ふん、死にぞこないが﹂
﹁黙りなさい﹂
モルガンの一言でクライシスは金縛りにあったように固まった。
﹁ダークキバット、行くわよ﹂
﹁承知﹂
モルガンは左手でダークキバットを掴むと右手に噛ませた。
﹁ガブッ﹂
ダークキバットの牙から魔皇力が注がれると、モルガンにダークキ
バットベルトが装着された
﹁変身﹂
ダークキバットをベルトに装着すると、モルガンはかつてレジェン
ドルガを滅ぼした、闇の王、ダークキバへと変身した。鮮血を思わせ
る紅玉色の鎧、その仮面、キバペルソナにも鮮やかな緑の光が宿って
いた。
﹁仮面ライダーダークキバ、女王の裁きを下すわ、死よ﹂
左手で優雅に指差すその仕草、姿は、クライシスの記憶を揺さ振っ
た。
﹁おのれ⋮、忌々しい鎧にファンガイアの王の血族め⋮⋮⋮﹂
﹁三人共、後は私がやるわ。特にサヤカ、私との決勝に変なケチつ
けられたくないから、ゆっくり休みなさい﹂
﹁ふっ⋮、馬鹿な﹂
232
イクサはクロスシールド口部のマスカーレギュレーターから携帯
﹂
型強化変身武器、イクサライザーを取外した。
﹁まだまだ⋮やれますよ﹂
﹁僕だって﹂
キバもオノドンも構えた。
﹁そんじゃ、最終楽章と行きますか
レイが薄緑のフエッスルを構えた。
仮面ライダーイクサはイクサライザーにキーを入力した。
1⇒9⇒3
ラ・イ・ジ・ン・グ
﹂
イクサは装甲が展開され、青い装甲の最強形態ライジングイクサと
なった。
﹁オノドン⋮⋮⋮進ッ化∼∼
﹂
ドラン族、オノノクスへと最終進化した。
﹁行こう
﹁テンション∼⋮、フォルテッシモ∼∼∼
﹂
変化し、キバをそれを摑むと、キバの鎧の鎖が解き放たれ、黄金の鎧、
オノノクスが巨大な諸刃斧頭の両手斧﹃ザンバットアックス﹄へと
!!
﹂
仮面ライダーキバエンペラーフォームへとなった。
﹂
﹁二連続だけど、雪之王︵ユキノオー︶
﹁ギガントパート
!
!
233
!
オノドンは進化の光に包まれ、より強固な斧のような牙を持つ最強
!
キバが手を差し伸べると、オノノクスは頷いた。
!
レイバットがフエッスルを吹くと、雪之王︵ユキノオー︶が収めら
れたボールが現れ、そこから雪之王︵ユキノオー︶が飛び出すとレイ
と一体化した。
両腕の鎖、強大な魔皇力を抑えていたカテナが解かれ、人造魔皇石
が埋め込まれた鉤爪、ギガンティック・クローが出現した。
﹂
仮面ライダーレイ真の姿、ギガントパートとなったのだ。
﹁調子に乗るな∼∼
﹂
﹂
!
﹁がぁ⋮﹂
!
﹁はぁぁぁ
﹂
﹁ウェイクアップ、フィ∼バ∼∼
﹂
フエッスルを取るとキバットに咥えさせた。
エンペラーキバはザンバットアックスから金色のウェイクアップ
﹁キバット、オノノクス、気張るよ
﹂
通常の数十倍の威力を誇るエネルギー波がクライシスを直撃した。
ゴォォォォォォ
﹁ファイナルライジングブラスト
イザーのブリップ部分に装填し、エネルギーをチャージした。
イクサはライザーフエッスルをガンモードに変形させたイクサラ
その隙をまずはイクサが攻める。
て動きを封じた。
緑色の波動結界をクライシスの背後に展開すると、それに貼り付け
﹁はぁっ
最初に仕掛けたのはダークキバだった。
散して躱した。
クライシスの﹃怒号音波︵ハイパーボイス︶﹄を4人のライダーは四
!
!!
頭上でザンバットアックスを旋回させ、魔皇力を高め、エンペラー
!!!
234
!
キバは振り下ろした。
ズガガガガガガガガ
玉座の間の床を引き裂きながら放たれた﹃マックスザンバットク
﹂
ラッシュ﹄を真正面から直撃したクライシスの鎧には亀裂が入った。
﹁バ⋮馬鹿な⋮
﹁ウェイカップ
﹂
仮面ライダーレイのギガンティック・クローに魔皇力が溜まると、
レイバットは強力な冷気を噴射し、クライシスの全身を完全に凍りつ
かせた。
﹄
!!!
に壊れていた。
﹂
!
﹂
変身の解けたダークライ、サザンドラは倒れ、アークバットは完全
六爪の猛攻により、クライシスの鎧は完全に砕け散った。
﹃凍爪乱舞︵ギガンティック・エクスキューション︶
!!!!!!
﹁我は⋮、俺こそが⋮⋮⋮、レジェンドルガ∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹂
﹂
﹂
は頷き、ウェイクアップフエッスルを手にした。
﹁ウェイカップ
﹁ウェイク、アップッ
﹂
ウェ・イ・ク・アッ・プ
!
!
﹁ウェイクアップ
!
235
!?
!
﹁最後は四重奏︵カルテット︶と洒落込もうか
﹂
﹁はい
﹁行くわよ
﹂
﹁あぁ
!
レイの掛け声に、エンペラーキバ、ライジングイクサ、ダークキバ
!
!
﹂
4人の仮面ライダーはジャンプし、暗黒夢城︵アクムジョウ︶の天
井を突き破った。
﹁らぁぁぁ∼∼∼
﹁やぁぁぁ∼∼∼
﹁せぁぁぁ∼∼∼
﹁はぁぁぁ∼∼∼
﹂
﹂
﹂
﹁チョーーシに乗るなーーーーーーーーーーーーー
﹂
ライダーカルテットキックは、ダークライの断末魔を掻き消し、長
き因縁と、その象徴たる暗黒夢城︵アクムジョウ︶を木っ端微塵に粉
砕した。
♪♪♪
剣道全国大会
決勝
試合場の中央
操一朗と、ガラハドは上段と中段の構えで向き合っていた。
二人は面の下で互いに笑った。
236
!!!!!!
!!! !!! !!! !!!
観客席には、和奏、来夏、大智、ウィーン、爽、無心︵とその足元
にキバゴ︶、海、千春、ボールスにバリンの姿もあった。
そして、操一朗の後ろには紗羽、ガラハドの後ろには・・・・・
﹁⋮⋮⋮勝っても負けても⋮⋮⋮、ちゃんと言いなさいよ、ガラハ
ド⋮﹂
モルガンがガラハドの背中を見つめて頬を染めていた。
237
Fly UP