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長岡都市ホテル資産保有株式会社との間で締結された土地売買契約
長岡市監査公表第12号 地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第1項の規定に基づき、長岡市 職員措置請求書の提出があり、同条第4項の規定により監査を行ったので、その結果 を公表します。 平成24年9月11日 長岡市監査委員 和 田 同 北 村 敏 雄 同 反 町 和 夫 同 矢 野 一 夫 1 隆 住民監査請求に係る監査結果報告書 第1 1 監査の請求 請求人 住所・氏名 2 (省略) 請求の要旨 請求人の措置請求及び陳述の趣旨から、請求の要旨を次のように理解した。 平 成 24年 3 月 14日 に 長 岡 市 と 長 岡 都 市 ホ テ ル 資 産 保 有 株 式 会 社 と の 間 で 締 結 された土地売買契約は、次の理由から財産の不当な処分に当たる。 (1) 長 岡 都 市 ホ テ ル 資 産 保 有 株 式 会 社 か ら 、 同 社 が 経 営 す る 「 長 岡 グ ラ ン ド ホ テル」の敷地(長岡市貸付地)を譲り受けたい旨の申し出があったため、長 岡市は更地価格(正常価格)の鑑定を不動産鑑定士に依頼した。 鑑 定 評 価 額 は 237,615,614円 ( 95,800円 / ㎡ ) で あ る と こ ろ 、 借 地 権 割 合 50 % を 乗 じ た 売 却 金 額 118,807,807円 で 契 約 を 締 結 し た も の で あ る 。 長 岡 市 が 借 地 権 割 合 を 一 律 50% と し て い る の は 、 事 務 を 効 率 的 に 進 め る た めのものであり、必ずしも個々の土地の経済価値を表しているものではない。 当該売却金額は、到底納得できるものではない。 (2) 土 地 売 買 契 約 は 平 成 24年 3 月 14日 に 締 結 さ れ 、 同 日 付 け で 所 有 権 移 転 登 記 が行われ、契約締結と同時に所有権が移転している。売却代金については、 延 納 の 特 約 が な さ れ 、 延 納 利 息 が 付 さ れ た 上 で 10年 間 の 割 賦 払 い と な っ て い る。 当 該 売 却 金 額 と 延 納 利 息 の 合 計 額 131,388,743円 は 、 平 成 23年 度 の 賃 貸 借 料 13,711,702円 の 10年 間 分 の 額 137,117,020円 を 下 回 っ て い る 。 言 う な ら ば 賃 借 人 は 、 10年 間 分 の 賃 貸 借 料 相 当 額 を 10年 間 か け て 支 払 う こ と で 、 土 地 の 所 有 権を得たことになる。 また、契約締結と同時に所有権が移転したことにより、賃貸料請求権が消 滅し、賃貸借料相当額の損害を受けた。 (3) 土 地 の 売 却 を 最 終 的 に 決 定 し た 決 裁 責 任 者 は 山 崎 和 夫 副 市 長 で あ り 、 買 受 人である長岡都市ホテル資産保有株式会社の代表取締役と同一人物である。 以上の理由から、当該土地売買契約は市有財産の不当な処分に当たるため、 ① 底地を借地人が併合する際の限定価格の鑑定を改めて求めるか、若しくは 更地価格の鑑定評価額をそのまま売却金額とし当該契約を見直しすること。 ② 平成23年 度 の 賃 貸 借 料 を 基 に 10年 間 分 の 賃 貸 借 料 相 当 額 137,117,020円 に 契 約 締 結 日 で あ る 平 成 24年 3 月 14日 か ら 同 月 31日 ま で ( 18日 間 ) の 分 を 日 割 計 算 し 減 額 さ れ た 額 676,194円 を 加 え た 額 137,793,214円 を 損 害 額 と し 、 そ の 損 害を賠償すること。 1 ③ それらがいずれも実現しない場合には当該契約を破棄すること。 を長岡市長に対し求める。 3 請求の受理 地 方 自 治 法 ( 昭 和 22年 法 律 第 67号 。 以 下 「 法 」 と い う 。 ) 第 242条 に 規 定 す る 要 件 を 具 備 し て い る も の と 認 め ら れ た の で 、 請 求 書 が 提 出 さ れ た 平 成 24年 7 月 25日 を も っ て こ れ を 受 理 し た 。 第2 監査の実施 1 監査の対象 平 成 24年 3 月 14日 に 長 岡 市 と 長 岡 都 市 ホ テ ル 資 産 保 有 株 式 会 社 と の 間 で 締 結 された土地売買契約が財産の不当な処分に当たるかどうかを監査の対象にした。 2 監査の対象機関 財務部用地管財課及び商工部観光課 3 監査の方法 関係書類の監査を行うとともに、関係職員から事情を聴取した。 4 請求人の証拠の提出及び陳述の機会 法 第 242条 第 6 項 の 規 定 に 基 づ き 、 平 成 24年 8 月 10日 、 請 求 人 か ら 証 拠 の 提 出 及び陳述を受ける機会を設けたところ、請求人が出席し、陳述を行った。その 際、用地管財課、観光課、庶務課及び行政管理課の職員が立ち会った。 第3 1 監査の結果 事実関係の確認 監査の結果、次の事項を確認した。 (1) 土 地 売 買 契 約 の 概 要 長 岡 グ ラ ン ド ホ テ ル の 敷 地 ( 長 岡 市 貸 付 地 ) に つ い て 、 平 成 2 4 年 3 月 1 4日 に長岡市と長岡都市ホテル資産保有株式会社との間で土地売買契約が締結さ れ た 。 売 却 代 金 は 118,807,807円 で あ り 、 当 該 契 約 の 締 結 と 同 時 に 土 地 の 所 有 権が移転するものとされ、同日登記が行われた。 売 却 代 金 に つ い て は 、 分 割 払 と さ れ 、 年 1.5% の 割 合 に よ る 利 息 が 付 さ れ 、 延納の特約がなされている。割賦払元金については、第1回から第3回まで ( 3 年 間 ) 支 払 い を 据 え 置 き 、 第 4 回 目 ( 納 入 期 日 平 成 28年 3 月 14日 ) か ら 納入するものとされている。 なお、割賦払元金、延納利息及び遅延利息を担保するため、当該土地及び 土地の上に存する建物に抵当権が設定されている。 2 (2) 土 地 売 買 契 約 締 結 に 至 る 経 緯 土地売買契約締結に至る経緯は、次のとおりである。 ア 昭 和 55年 1 月 8 日 に 長 岡 市 と 長 岡 都 市 ホ テ ル 資 産 保 有 株 式 会 社 と の 間 で 、 長岡グランドホテルの敷地について土地賃貸借契約が締結された。原契約 の 貸 付 期 間 は 、 昭 和 55年 3 月 17日 か ら 昭 和 85年 ( 平 成 22年 ) 3 月 16日 ま で の 30年 間 で あ り 、 双 方 の 意 思 表 示 が な い と き は 自 動 延 長 す る 旨 の 規 定 に よ り、同一の期間、延長されている。 イ 昭 和 56年 7 月 19日 、 長 岡 市 と 地 元 金 融 機 関 な ど の 出 資 に よ る 第 3 セ ク ター方式のホテルとして、長岡グランドホテルが開業した。 ウ 平 成 23年 12月 1 日 付 け で 、 長 岡 都 市 ホ テ ル 資 産 保 有 株 式 会 社 か ら 、 長 岡 グランドホテルの敷地を譲り受けたい旨の申し出があった。 エ 平 成 23年 12月 5 日 に 長 岡 グ ラ ン ド ホ テ ル の 敷 地 の 資 産 評 価 の た め 、 有 限 会 社 水 野 不 動 産 鑑 定 士 事 務 所 に 不 動 産 鑑 定 評 価 を 依 頼 し 、 平 成 23年 12月 26 日 に 提 出 さ れ た 不 動 産 鑑 定 評 価 書 に よ り 、 鑑 定 評 価 額 は 総 額 237,615,614円 とされた。 オ 平 成 23年 12月 26日 付 け 決 裁 の 起 案 「 市 有 地 の 売 却 単 価 に つ い て 」 に よ れ ば、「土地処分・取得等調整会議」において、長岡グランドホテルの敷地 の 売 却 に 当 た り 、 更 地 の 売 却 単 価 ( 上 限 ) を 95,800円 / ㎡ と 決 定 し た ( 大 野副市長、山崎副市長決裁)。 カ 平 成 24年 1 月 11日 付 け 決 裁 の 起 案 「 長 岡 グ ラ ン ド ホ テ ル の 敷 地 で あ る 土 地の譲り渡しについて(方針伺)」において、長岡都市ホテル資産保有株 式会社からの申し出を受け、当該ホテルの敷地である土地を売却すること を方針決定した。 キ 平 成 24年 3 月 5 日 付 け で 、 長 岡 都 市 ホ テ ル 資 産 保 有 株 式 会 社 か ら 、 市 有 財産売払申請書が提出された。 ク 平 成 24年 3 月 8 日 付 け 決 裁 の 起 案 「 市 有 地 の 売 却 に つ い て 」 に お い て 、 長岡都市ホテル資産保有株式会社からの売払申請に基づき当該土地の売却 を決定するとともに、賃貸している市有地を売却する場合の借地権割合を 全 市 一 律 50% と す る こ と を 決 定 し た 平 成 20年 12月 11日 付 け 決 裁 の 起 案 「 借 地権割合について(方針伺)」により、売却単価は更地価格に借地権割合 50% を 乗 じ た 47,900円 / ㎡ と 決 定 し た 。 ま た 、 賃 貸 借 料 に つ い て は 、 所 有 権移転の日までの分を日割計算により請求することとされた(山崎副市長 決裁)。 ケ 平 成 24年 3 月 14日 土 地 売 買 契 約 締 結 。 同 日 、 売 買 を 原 因 と す る 所 有 権 移 転登記及び土地売買契約に基づく売買割賦金債務設定を原因とする抵当権 が設定された。 コ 平 成 24年 4 月 1 日 シ テ ィ ホ ー ル プ ラ ザ 「 ア オ ー レ 長 岡 」 オ ー プ ン (3) 売 却 単 価 に つ い て 長岡市が土地の処分や取得価格を決定するについては、各部局間の調整と 3 その円滑化を図るため、「土地処分・取得等調整会議」を設置している。本 件 に つ い て は 、 更 地 の 売 却 単 価 ( 上 限 ) を 95,800円 / ㎡ と す る 旨 、 決 定 し て い る ( 平成23年12月26日 付 け 決 裁 ) 。 そ の 際 、 鑑 定 評 価 額 が 参 考 に さ れ て い る 。 (4) 借 地 権 割 合 に つ い て 長岡市では、賃貸している市有地を売却する場合、従来から土地の更地価 格 に 借 地 権 割 合 50 % を 乗 じ て 得 た 額 を 売 却 価 格 と し て き た 。 借 地 権 割 合 に つ い て は 、 平 成 20年 12月 11日 付 け 決 裁 の 方 針 伺 で 改 め て 全 市 一 律 50% と 定 め て お り 、 当 該 土 地 売 買 契 約 に つ い て も 借 地 権 割 合 を 50% と し た も の で あ る 。 な お 、 国 税 庁 の 路 線 価 図 に よ れ ば 、 当 該 土 地 の 借 地 権 割 合 は 60% と な っ て いる。 (5) 延 納 の 特 約 に つ い て 法 施 行 令 第 169条 の 7 第 2 項 の 規 定 に よ り 延 納 の 特 約 が 結 ば れ て い る 。 延 納 利 息 は 長 岡 市 財 務 規 則 ( 平 成 3 年 長 岡 市 規 則 第 15号 。 以 下 「 規 則 」 と い う 。 ) 第 224条 第 1 項 の 規 定 に 基 づ き 年 1.5% と し 、 売 却 代 金 の 納 入 方 法 は 年 1 回 で 、 10回 払 い の 元 利 均 等 割 賦 払 ( 元 金 に つ い て は 3 年 据 置 き ) と し た 。 (6) 抵 当 権 に つ い て 割賦払元金、延納利息及び遅延利息を担保するため、当該土地及び土地の 上 に 存 す る 建 物 に 抵 当 権 が 設 定 さ れ 、 平 成 24年 3 月 14日 付 け で 登 記 が 行 わ れ ている。 (7) 賃 貸 借 料 に つ い て 平 成 23年 度 の 賃 貸 借 料 に つ い て は 、 土 地 賃 貸 借 契 約 書 第 4 条 の 規 定 に 基 づ き 、 所 有 権 移 転 の 日 で あ る 平 成 24年 3 月 14日 か ら 同 月 31日 ま で ( 18日 間 ) の 分を日割計算して割り落とした額で納入されている。 (8) 決 裁 責 任 者 に つ い て 当 該 貨 付 地 の 売 却 を 決 定 し た 平 成 24年 3 月 8 日 付 け 決 裁 の 起 案 は 、 長 岡 市 事 務 決 裁 規 則 ( 平 成 10年 長 岡 市 規 則 第 11号 ) に 基 づ き 、 山 崎 副 市 長 が 決 裁 し ている。 2 判断 事実関係の確認に基づき、以下のとおり判断する。 (1) 借 地 権 割 合 及 び 売 却 代 金 に つ い て 請 求 人 は 、 借 地 権 割 合 を 50% と し て 売 却 代 金 を 決 定 し た の は 不 当 で あ り 、 改めて限定価格の鑑定を求めるか、あ る い は更 地 価 格の 鑑 定 評価 額 で ある 237,615,614円 を 売 却 代 金 と し て 契 約 を 見 直 す べ き と 主 張 し て い る 。 しかし、長岡市では合併以前から、賃貸している市有地を売却する場合の 借 地 権 割 合 は 、 賃 貸 料 率 に 関 わ ら ず 5 0% と し て き て お り 、 合 併 後 、 地 域 間 の 取 扱 い を 統 一 す る た め 、 平 成 20年 12月 11日 付 け 決 裁 に お い て 、 借 地 権 割 合 を 全 市 一 律 50% と す る 旨 、 明 確 な 方 針 を 決 定 し た も の で あ る 。 したがって、当該貸付地を売却するに当たり、更地価格の不動産鑑定評価 4 を 求 め 、 そ の 鑑 定 評 価 額 を 参 考 に 売 却 単 価 を 定 め 、 最 終 的 に 借 地 権 割 合 を 50 %とし売却代金を決定したことには合理性があり、この点について請求人の 主張には理由がない。 (2) 延 納 の 特 約 及 び 抵 当 権 に つ い て 請求人は、売却する必要のない土地を借受人に売却し、延納の特約をした 上で、契約締結と同時に所有権を移転したことは不当であり、これにより賃 貸 料 請 求 権 を 失 っ た と す る 。 し か も 当 該 売 却 代 金 は 10 年 間 の 賃 貸 借 料 の 合 計 とほぼ同じであることから、その間の賃貸借料相当額の損害が生じていると 主張している。 し か し 、 法 施 行 令 第 169条 の 7 に よ っ て 、 相 手 方 が 売 却 代 金 を 一 時 に 支 払 う ことが困難であると認められるときは、確実な担保を徴し、かつ、利息を付 して、延納の特約を結ぶことが認められている。この場合、売却代金等の完 納前に財産の引渡しが行われるとともに、所有権も相手方に移転し、売却代 金等の支払いに関する債権債務関係のみが残存することになる。また、相手 方はこれにより、完全な使用、収益、処分権を得るものとされている。 し た が っ て 、 従 前 の 土 地 賃 貸 借 契 約 に よ る 賃 貸 料 請 求 権 は 、 民 法 第 520条 の 規定により、所有権移転の日をもって混同により消滅したものであり、それ が継続した場合を前提とする請求人の主張には理由がない。 (3) 決 裁 責 任 者 に つ い て 請求人は、当該土地売買契約の締結において、山崎和夫副市長と長岡都市 ホテル資産保有株式会社の代表取締役が同一人物であることから、恣意的な 契約であり、不当であると主張している。 しかし、当該土地売買契約の当事者は、長岡市長森民夫と長岡都市ホテル 資産保有株式会社代表取締役山崎和夫であり、そもそも双方代理には当たら な い 。 ま た 、 長 岡 市 事 務 決 裁 規 則 別 表 第 1 に よ れ ば 財 産 の 売 払 い ( 1 件 5,000 ㎡ 未 満 で 3,000万 円 以 上 の 土 地 ) の 決 裁 責 任 者 は 副 市 長 で あ り 、 長 岡 市 副 市 長 の 事 務 分 担 を 定 め る 規 則 ( 平 成 19年 長 岡 市 規 則 第 21号 ) 第 3 条 に よ れ ば 財 務 部の担当する事務は山崎副市長、商工部の担当する事務は大野副市長(当 時)の所管となっているもので、不当とは言えず、請求人の主張には理由が ない。 (4) 公 益 性 に つ い て 地方公共団体の財産は、市民の税金により形成されているものであること か ら 、 法 第 237条 第 2 項 は 「 適 正 な 対 価 な く し て こ れ を 譲 渡 し 、 若 し く は 貸 し 付けてはならない」と定めている。したがって、契約の締結においては、不 公平で恣意的な取扱いは許されず、事務を遂行するに当たっては、公益性が 求められている。 ところで、長岡グランドホテルは、長岡市に不可欠な都市施設として、長 岡 市 と 地 元 金 融 機 関 等 の 出 資 に よ る 第 3 セ ク タ ー 方 式 の ホ テ ル と し て 昭 和 56 年7月に開業した。長岡市としては、これまでも経営改善に向け、増資や減 5 資を受け入れ、民間ホテルとして自立させるべく支援してきたところである。 今回の土地の売却は、長岡グランドホテルの施設・設備のリニューアルに 合わせ、長岡市が筆頭株主として、長岡都市ホテル資産保有株式会社の経営 体質と財務基盤を強化するために行ったものである。 これら一連の動きは、今年4月にオープンしたシティホールプラザ「ア オーレ長岡」との一体的なサービスの提供による相乗効果を狙いとするもの で、長岡市の長年の政策課題であった中心市街地の活性化への寄与や地域経 済への波及効果が期待できることから、公益性も高いことが認められる。 したがって、当該土地売買契約は、一定の公共的政策の実現を図ったもの と評価できる。 3 結論 当該土地売買契約は、不動産鑑定に基づく鑑定評価額を参考に、適正な手続 きによって行われており、不当な財産の処分に当たらず、市に損害が生じてい るとは認められない。 したがって、請求人の主張については、いずれも理由がないものと判断し、 請求を棄却する。 6