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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅

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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅
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非晶質半導体の欠陥状態と伝導の型
清水, 立生
物性研究 (1977), 28(1): 1-10
1977-04-20
http://hdl.handle.net/2433/89345
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
非晶質半導体 の欠陥状態 と伝導 の型
非 晶質 半導体 の欠陥状態 と伝導 の型
金沢大学工学部
清
水
立
生
§1
.は じ め に
非晶質半導体 の電子的性 質は一般 には結晶半導体 に較 べて不純物 に敏感 ではな く,棉
造 的欠 陥に もとず くバ ン ド・ギャ ップ中の局在状態 が重要な役割 を演 じてい ることが多
い 。本論文 の 目的 は化学結合論 の立場 か ら,種 々の非晶質半導体 の価電子帯 の性質 ,棉
造 的欠陥 の性質 と電気伝導 の型 (n型 か p型か )の関連 について考察 を行 うことにある。
§2.本研究 の背景 の概観 1)
非晶質半導体 は大 き く分 けて S,Se,Te (カルコゲン元素 )を含 む カル コゲナ イ ド
系 とGeや Siのよ うな 4面体配位構造 をす るテ トラ- ドラル系 に分類 され ,両者 でかな
り異 なる性 質 を示す こ とが知 られ てい る 。 そのよ うな差異 の原因 は最上 の価電子帯が前
者 ではカル コゲ ン元素 の p電子 の l
onepa
i
rか ら成 り立 っているのに対 して ,後者 では結
合軌道か ら成 り立 ってい ることに起 因す ると考 え られ ている。
st
r
e
etと Mot
t2)はカルコゲナイ ド非晶質半導体 の構造的欠陥 と して ,化学結合 の手 が
切れた da
ng
l
i
ngbond (D と記す )を考 え ,l
onepa
i
r p電子 の存 在のために da
ng
l
i
ng
bondは中性状態 にあるよ りも電子 の移行 によってプラス とマイナスに 荷 電 した もの に
分れ た方 がェネルギーが低 く,安 定な状態 である とい うモデル を提 唱 した 。 す なわ ち次
の反応 が発熱的 である と考 える。
2DO → D+ + D
(
1
)
ここで肩 の添字 O,十,-は荷電状感 を示す 。 D十の近 くに存在す る l
onepa
i
r P電子 壮
D' との相互作用 に よってエネル ギーが下 るために D-でのクー ロン反発 エネルギー に打
ち勝 って (1)式 は発熱的 となるのであ る。このよ うなモデルによって ギャ ップ中に多 く
の局在状態 が存在す るに もかかわ らず , E
S
Rが観測 されず ,lそ の よ うな局在状態 にお
i
a
bl
er
a
ngehoppi
ngも観測 され ない こ とが説 明 され る 。
ける var
これ に対 して Ka
s
t
ner
,Adl
er
,Fr
i
t
zs
c
he3)は da
ng
li
ngbo
nd よ 。もェ ネ ル ギー的 に出
ー 1-
清水立生
来 易 い と考 え られ る 3配位 のカルコゲン元素 (普通 は 2配位 )を出発 点 に して , S
t
r
e
e
t
Mot
tモデル と同様 に電子 が移行 して次 のよ うな荷 電 欠陥 になるとい うモデル を提 唱 して
い る。
2
C
… C+Cll
-
(
2)
:
ここで C はカ /
レコゲ ン元素 を表 し,添字 の数字 は配位 数 ,肩 の +,-,0 は荷 電状態 を
o
n
ep
a
i
rとの相互作用 に よ って , それ らの間 に
表 す 。 (1)式 で D+が近 くに存 在す る l
完 全 な化学結合 を した とすれ ば D'は
C
;とな り (D-は定義 に よって Ciと同 じもの ),
(
1
)式 と (2
)式 の右辺 の状態 は同 じものになる なお , Bi
s
ho
p らに よってカ/
レコゲナ
。
イ ド非晶質半導体 にお いて観測 され てい る光誘起
ESRは光 照射 に よって作 られ た不対
0に よる もの と考 え られ る4
0
)
電子 を持 つ DOぁ るいは C3
さて この よ うに電子 が移 行 した方 がェ ネ ルギー が低 くな る とい うこ とは このよ うな欠
陥 にお ける実効的 電子相 関エ ネル ギーが負 である とい うこ とであ る 。 このよ うな場合 に
l
e
rとYof
f
a5
)は次 のよ うな簡単 なノ、ミル トニ ア ンを用 いて ,大分配 関数 を計
っ いて Ad
算 して フ ェル ミ準位
H
-
EFを求 めた
Toi
fo ni
O
+
。
(
3)
1 niT ni
U∑
↓
α は i とい う位 置 にある欠 陥 に局在 したス ピン αの電子 に対 す る数 オペ レー タ
ここで ni
ーであ り, T。は欠陥 に電子 が 1個存 在す る時 のエネル ギー , U は負 の実効的電子相 関
エネ ル ギー を表 す
EF三
(
U<0)0kTく
く I
UIの時 ,
T. ・
与
U
一与 kTBn(
2n 1-1)
(
4
)
とな る 。 ここで nは 1つ の欠 陥 に存 在す る平均電子数 (0≦n≦ 2)であ る 。
∩ -1
の時 ,
EF
-
T.
・
与
U
(
5
)
とな り, Uは負 で あるか ら EFは T。 よ りも下 に位 置 す るこ とにな る 。
Ad
l
e
r
-Yof
f
aに
よれ ば ,カル コゲナイ ド系 では U が負 のた めに EF は T。の下 に位 置 し, p 型伝 導 にな
り易 いのに対 して ,テ トラ- ドラ′
レ系 では U が正 のた めに EF は Toよ り上 に位 置 し,
n 型 にな
り易 い とい う。 しか し T。が ギャップのどこに位 置す るか を考 察 しなけれ ば ,こ
- 2-
非晶質半導体の欠陥状態と伝導の型
の よ うな議論 は無意味 である 。
実験的 には熱起電能 の符号 の正負 に よって p型 か n 型か を決 める と,カルコゲナイ ド
系 では p型 を示 し冒)テ トラへ ドラル系 では 。型 を示す .
7
)但 し,テ トラへ ドラル系 では
普通 はギャップ中の局在状態 にお ける v
a
r
i
a
bl
er
a
ng
ehop
pi
ngによる伝導 がみ られ ,熱起
電能 の符号 は試料 の作製条件 に よって正 に も負 に もな る
。
したが って ここではグロー放
電法で作 られ た ギャップ中の局在状態 が少 く,バ ン ドに励起 され たキャ リヤによる哲性化
型 の伝導 がみ られ る試料 だけ を対象 にす る 。 また 5族 に属 し,カル コゲナイ ド系 とテ ト
ラへ ドラル系 の中間 に位 置す る非晶質 Asでは負 の熱起電能 が観 測 され てい㌔ (但 しホ
ー ル係数 は正 であ り,最近 グロー放 電法 で作 った非晶質 Asでは熱起電能 が正 であ った
とい う報告 もある9
.
))。また非晶質 Ge-Asでは熱起電能 は負 ,
1
0)非晶質 Ge
-A
sL
ll) で
eの組成 の多い所 では正 の熱起電能 が観測 され ている
は Geの組成 が多い所 では負 , s
。
§3.フェルミ準位 の位 置
フ ェル ミ準位 の位 置 を正確 に求 めることは困塵 であ り,ここでは大 まかな傾 向 のみ を
論 じ,伝導 の型 に関す る実験結果 の説 明 を試み るこ とにす る . Ad
l
e
r
-Yof
f
aの考察 では
T。が ギャ ップの どこに位置す るかに全 くふれ ていないが,これ か ら述べ るよ うに T.の
位 置 はバ ン ド構造 に大 き く依存 し,それが EF を決 め る重要 な要因 となる 。
テ トラへ ドラ/
レ系 では sp3混成軌道 による結合軌道 が価電子帯 を形成 し,反結合軌道
が伝導帯 を形成 している
。
これ に対 してカル コゲナイ ド系 ではカル コゲン元素 の l
one
pa
i
r p 状感 が最上 の価電子帯 を形成 してい る (伝導帯 はや は り反結合軌道 )0 Asや
Ge
-A
s .では最上 の価電子帯 と伝導帯 はそれ ぞれ結合軌道 と反結合軌道 か ら形成 され る
onepa
i
r s状態 か ら形成 され るバ ン ドが よ りエネル ギーの低い所 に存在す
が , Asの l
a
ng
li
ngbond を電子 が 1個
るこ とがテ トラ- ドラ/
レ系 と相違 す る所 である . ところで d
占めている時 のエネルギーは bondを作 っていないのだか ら, l
o
nepa
i
r電 子 のエ ネ /
レ
ギーに近 い と考 え られ るo したが って もし欠陥が d
a
ng
l
i
ngbond によるものならば , To
はテ トラ- ドラル系 , Asや Ge-Asでは ギャ ップの中心付近 に位 置す るのに対 して ,
カル コゲナイ ド系 では価電子帯 の近 くに位置す る と考 えられ る 。 しか しカル コゲナイ ド
系 や Asでは l
onepa
i
r電子 の存 在 のために U が負 にな ってい る もの と思 われ る 。 Asの
onepa
i
r
は
場合 には l
S 電子 であ ってエネ/
レギー の低い所 に位 置す るので,果
してカル
コゲナイ ド系 と同様 な ことが起 ってい るのか疑 問であるが ,フォ トル ミネ ッセ ンスの大
- 3-
清水立生
きなス トー クス ・シ フ トや光誘起 ES
R等 がカ/レコゲナイ ド系 と同様 に 観 測 され るこ と
0
)このよ うに Uが負 になってい る時 には Toとし
か ら U が負 にな ってい る と推測 され る4
a
ng
l
i
ngbo
ndに電子 が 1個 ある時 のエネルギー を用 いるのは妥 当ではな く, U が負
てd
にな った メカニズムにまで立 ち入 る必要 がある。た とえば Ka
s
t
ne
rらのモデルによれば ,
C
;が一番 エネルギーが低 いので,欠陥状態 と しては C
;
,
C;
,
ciのみ を考 えれば T.は d
a
n
g
li
n
gbo
ndではな くC
…
にあ る一番高 いエネル ギー の電子
中性 の欠陥状態 としては
す なわ ち反結合軌道 にある電子 のエネルギ- とな り,伝導帯 の近 くに位 置す ることにな
る 。 したが って U が負 であ って も EF は ギャ ップの中央 よ り上 に位 置す る と考 えられ る。
この辺の事情 を Ad
l
e
r
-Yo
f
f
aと同様 に大分配 関数 を用 いて も う少 しくわ しく考察 してみ
よ うO 今 ,欠陥状態 と して
C
I
O
,c
l
+
,C
1,C
3
0
,C
3
+
,C
3
1を考 え ると,それ らの電子数 と
エネル ギーは表 1のよ うにな る。
表 1
Ka
s
t
ne
r らのモデ′
レによる種 々の欠陥状態 にある
カル コゲン元素 の p電子 の数 niとエネルギー Ei
欠 陥状 態
∩1
.
Ei
C1
0
4
(Eo- Eb) + 3Eo
C1+
3
(Eo- Eb) + 2Eo
Cr
5
(Eo- Eb) + 4Eo+Ul
C㌔
4
3(Eo - Eb)+(
Eo+ Eb+△ )
cJ
3
3(Eo- Eb)
ここで Eoは n
o
nb
o
nd
i
n
g(
l
o
nepa
i
r
), Eo-Ebは結 合状態 , Eo+Eb+△ は反結合状
態 にある p電子 のエネルギーである 。 反結合状態 は原子軌道 間 の重 な りの効果 で △ だ
o
nepa
i
r
け結合軌道 のエネルギー の下 り Ebよ りも高 くな るo また Ul と U2 はそれ ぞれ l
と反 結合軌道 にあ る電子 間 の クー ロン反 発エネ′
レギーで正の量 である。大分配 関数 Z は
次式 で与 え られ る 。
-
4
-
非晶質半導体の欠陥状態 と伝導の型
Z
-
〔∑e (Ei-n EF)/kT No
-
(
6)
〕
i
ここで N。は欠陥 の数 である 。 欠陥 1個 あた りの平均電子数 n は次 のよ うになる
。
-(
Ei
-n薄 )
V'
kT
e
∑
日.
1
(
7)
n- 苧 (
禦 誓 )No\∂ kT J
T- ∑ e
-(
E!
-ni
EF)/kT
1
他 か らの電荷供給 がない とすれば ,電気的中性条件 よ り n- 4であ るか ら, (
7) 式 で
CC
;
の状態
n-4 とお いて ,表 1の ni
,Eiを代入すれば EFが求 まるoただ し, ごと
7)式 の和 の中で 2倍 して
はス ピンの向 きによって 2重 に縮退 してい るこ とを考慮 して (
C
…
がC
言よ りもエネルギーが低い (
Eb>△ ) の
で , kT が小 さい時 には表 1の状態 の中で C
;
,
C
;
,C
言のみが効 いて, EF は近 似 的
お く。 _
Ka
s
t
ne
rらのモデルによれば
に次のよ うにな る。
EF ≡ E。 + Eb 十 を Ul
(
8)
反結合軌道 (伝導帯 )と l
onepa
i
r (価電子帯 )のエネルギーはそれぞれ Eo+Eb+△
>△ ,Ul
>0
/2 とな り, Bb
と Eoであるか ら,ギャ ップの中心 は Eo+ (Eb+△)
であるか ら (
8)式 で与 え られ る EF はこれ よ りも上 に位置す る。 ここでの議論 ではバ ン
ド幅 を無視 してい るが ,幅 を考慮 に入れ て も EF が ギャップの中心 よ りも上 に位 置す る
こ とには変 りはない と考 え られ る。 EF が ギャップの中心 よ り上 にあれ ば n 型 になるこ
とが期待 され るが ,実験的 にはカル コゲナイ ド系 は p型 である。 そ こで次 に欠陥 の状
態 として Ka
s
t
ne
rらのモデル を用 いず に ,St
r
e
e
トMot
tのモデル を用 いて, D+
は近 くの
l
o
nepa
i
r電子 と相互作用 はす るが ,完全 な結合 は作 らない と仮 定す る。 そ の結合 のみ
に注 目すれば ,完全 な結合 を作 った方がェネルギーは低 くな るが ,そ のよ うな こ とが起
るためには原子 の位 置 の大 きな変位 が必要 であ り,そ のために他 の原子 に無理 が生 じる
可能性 は充分 にあ り得 ることである
。
このよ うなモデル を用 いれ ば , D+と近 くの l
one
pa
i
rp・
電子 との弱 い結合 による結合状感並びに反結合状態 のエネルギーはそれぞれ ,
占
E.-E と Eo+E占+A'
(
E占<Eb,A'<△)とな るo この場合 には表 2のよ うな 2
原子 か らなる欠陥状態 を考 える必 要 がある 。 表 の中の (
C2-Cl)の点線 は弱 い結合 を
表 す 。また U;は弱 い結合 による反結合軌道 にある電子間 のクー ロン反発 エネル ギー を
- 5 -
清水立生
表2
St
r
e
e
t
-Mot
tモデ ルに よる種 々の欠 陥状態 にあ る 2つ の
1
カル コゲ ン元素 の p 電子 の数 niとエ ネル ギー E・
欠 陥状 態
Ei
ni t
C
2O
+C
に対
I
(
D
ご応 )
8
7
3(
Eo-Eb)+4
+5E.
C
(
D
I
C
C2
2
)
+
0に対
2
+C
-C
に対
-C
;1
1
1
応
)
)
+
0)
9
8
7
3(
(Eo
.-Eb)
)+6
)+2
+2
+2
E
E
E
o
o
.
.
+2
+(
+U
2
(
E
1
E
(
o
E
.
+
o
+E
EL
E
;
+
も
+
A'
)
A'
)+2(
E.-E占)
E
o
b
+
b
表す o (
8)式 を導 いた の と同様 な計算 に よって, E'> △ ′な らば C2
+C;, (
C2-Cl
)
0
,
(
C2・
・
・
Cl)
' のみ が効 いて , EF は次 の よ うにな る。
(
9)
EF 三 Eo・ 鞘 +÷ Ul
バ ン ド幅 を無視 すれ ば ,
・
与(
E。+△) > Ei ÷Ul
(
10)
の時 には, EFは ギ ャ ップの中心 よ り下 に位 置 し, p型 が期待 され る 。St
r
e
e
t
-Mot
tのモ
デ′
レが成立す るた めには 2DOよ り D'+D-の方 がェネルギーが低 くな ければ な らず ,そ
のた めには
2△
′
>U
l
(
-6-
l
l)
非晶質半導体の欠陥状態と伝導の型
が成立 しなければ な らない。 (1
0)式 と (
ll)式 が共 に成立することは充分 にあ り得 るこ
とで ある
o
この時 の負 の実効的電子相 関エネル ギーは -(2A'-Ul) である O も
LE
b
'
く
△′な らば (
C2・
・
・
C.
)
0よ りも C2
+C;の方がェわ レギーが低 くな り, I
)
0としては C
2+
c
l
Oを用 い るこ とになる。そ の場合 は (
ll)式 の
△
′の代 りに E占を用 い ることにな り,
負 の実効的電子相 関エネルギーは -(
2E占IUl)とな る
で与 え られ , (1
0)式 の条件 は変 りない
。
o
そ の場合
EFはや は り (9
)式
なお結合 の強 さが正常 な結合 の強 さ に等 し く
現
て も ( -Eb,△′-△ ),Ebく△ の場合 には △>Eb+Ul であれば EFはギャップ の
中心 よ り下 に位 置す る 。
テ トラ- ドラ′
レ系 に対 しては電子相 関エネル ギーUは正であ り, Toはギャ ップの中
l
e
-Yo
f
T
aの議論 がそ のまま適用 され , EF はギャ ッ
心付近 にある と思 われ るので,Ad
プの中心 よ り上 に位 置す る可能性 が大 き く,n型 になるこ とが期待 され る。 Asや Ge
Asでは Uが負 にな ってい る可能性 があるが,そ の場合 にはカル コゲナイ ド系 につ いて
の上述 の考察 と同様 に して EF は n
o
nb
o
n
d
i
n
g状態 (
l
o
nep
a
i
r
)と反 結 合状態 の間 に位 置
す るこ とが期待 され る 。 Asや Ge
-Asでは最上 の価 電子帯 は l
o
n
ep
a
i
rで は な く癌 合 状
態 であるか ら, EFはギャ ップの中心 よ り上 に位 置 し, n型 にな るこ とが予想 され る 。
Ge
-S
e系 では Geの多い組成 の時 にはテ トラ- ドラ/
レ系 で期待 され る n型 とな り, S
e
の組 成 の多い時 にはカル コゲナイ ド系 で期待 され る p型 となるこ とが予想 され ,実験結
果 と合致す る 。
§4. 欠陥 と光誘起 ESR
例えば As2 S
e
3 のよ うな A
sカル コゲナイ ドでは Ka
s
t
n
e
rらのモデルによれば ,表 1
の欠陥 の他 に Asが関与 した 4配位 As(
S電子 を利用 す る )(
P4 と記すoPは As
(
p
n
i
c
t
i
d
e
)
を表 し,添字 は配位 数 を表 す 。)が存在 し, (
2)式 の代 りに次 の反応
+
0-p
4
++C
1
2
P
4
(
1
2)
が発熱的である とす る。同様 に して非晶質 Asに対 しては,
2
P
4
0-
p
4+P
+
(
1
3)
2
が期待 され る 。 As2 S
e3 において光照射 によって観測 され る光誘起 ESR シ グ ナ ル は
Bi
s
ho
pらによれば ,非晶質 Asに対す る光誘起 ESRシグナル と非晶質 Seに対 す る光
-7-
清水立生
4
.
)
K
a
s
t
ne
rらのモデルによれば ,これ らは
誘記 ESR シ グナ ルの重ね合 せであ らわ され る
C
3
やC
3
0にある不対電子 は As2
0と 0に よる もののはず であるo ところが P4
0
それ ぞれ P4
Se3 において は,いずれ も Asと Se を結 ぶ反結合軌道 にあるはず で (As
-Asや Se
-Se
結合 は考 えない ), Asと Seの両方 の原子 の上 に拡 が ってお り, Asの核 との超微細相
互作用 による ESR シ グナルの幅 の拡 が り (実際 ,非晶質 Asの光誘起 ESR シ グナルは
非晶質 Seに対す る もの と異 り,幅 の大 きな拡 が りが見 られ る。 Seでは大部分 の核 が ス
ピンを持 たないので,このよ うな相 互作用 に よる幅 の拡 が りはない 。)が観測 され るは
ず で ある。 しか し, Bi
s
ho
pらによれ ば ,幅 のせ まい シ グナル (Se)と幅 の広 い シグナル
(
As)を重ね合せ た ものが観測 され てお り,このよ うな Ka
s
t
ne
rらのモ デ ル と矛 盾 す る
よ うに思 われ る。また , Bi
s
hopらに よれ ば非晶質 Asの光誘起 ESR の幅 よ り不対 電 子
o軽度 と見積 られてい る 。 しか るに 4配 位 の
は主 として p 電子 で , S軌道 の湿 りは 5%
p4
0 の反結合軌道 には もっと大 きな S軌道 の混 りが期待 され る (
P4は s
p3混成 に よっ
て 4配位 とな ってい る )0
o
nepa
i
rと弱い結合 を してい る としたSt
r
e
e
t
これ に対 して前節で述 べた D'が近 くの l
C
(
Asの da
ng
li
ngbo
nd)となるoこのよ うな欠陥 C
1
0や
P
2
0はそれ ぞれ Seや As原子 V
,
)
2
0の不対 電子 - の 軌道 の混 りも小 さい As
2Se において
上 にのみ局在す るoまた P
Mot
tモ デルで Eム
<△′̀とすれば ,中性状態 にある欠陥 は 3
0や P4
0ではな く C1
0とP2
0
S
o
3
は 中性状態 の欠陥 と LSeの da
ng
l
i
ngbo
nd CI
Oと Asの d
a
ng
l
ngbo
i
ndp2
0が存在す る と
すれば ,上述 の Bi
s
hopらの実験結果 と一致す る 。 そ して通常 はそれ ぞれ表 2の記法 を
用 いれば次 のよ うな よ り安定 な荷電状態 になってい る。
2(
P3
0+cl
Oh
(
p3・・・
Cl
)
'+ (P3
0
+C;)
(
1
4)
(
C20+cl
-)
(
1
5)
又 は,
2(
C2
0+C:
)- (
C2・
・
・
Cl)I+
並 びに,
2(
C2
0+p2
0)- (C2・
・
・
P2)
I+(
C2
O+p2
-)
(
1
6)
また非晶質 Asにおいては次 のよ うにな る 。
2(
P3
0+p
2
0)- (
p3・
・
・
P2)
++ (
P3
0+ p2
-)
(
1
7)
(1
4),(
1
5),(1
6),(1
7)式 中の弱 い結合 (-・
・
・) が 正常な結合 の時 にはそれ らはそれ
- 8 -
非晶質半導体の欠陥状態 と伝導の型
ぞれ 次 のよ うにな る
。
p4
++ C1
(
1
8)
2C1
O - C3
+ +C 1
(
1
9)
2P2
0 -
C3
++P2
1
(
2
0)
2P2
0 -
p4
+ + P2
(
21)
2C1
O-
§5. お
わ りに
以上 の結果 に よ り,カ/
レコゲナイ ド非晶質半導体 にお ける欠 陥 は, 中性 状 態 で は
da
ng
l
i
ngbondではな く Seでは 3配位 , Asでは 4配位 とな ってい る とい う Ka
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のモデル は実験 と矛盾 す るこ とが分 る 。 中性状態 では欠 陥はそれ ぞれ 1配位 と 2配位 の
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tのモデル (かれ らは結合 の強 さについてはあま りは
い結合 を してい る と した St
っき りした こ とを述 べ ていない )が妥 当 である と考 え られ る.そ してそ の癖合 , EF は
ギャ ップの中心 よ り下 に位 置 し, p型 になるこ とが期待 され実験 店巣 と合致す る 。
本論文 で の議論 は大変 あ らっぽ い ものであ り,伝導 の型 が種 々 の組成 で どのよ うに変
るかは理 論的 に も実験 的 に も今後 もっ と くわ しい研究 が必要 である と思 われ るcLか し
大約 の傾 向 と しては最上 の価電子帯 が結合状態 か l
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rか に よって n型 か p 型 かが
決 ってい るよ うに思 われ る。
参
考
文
献
1
) 清水立生 :日本物理学会誌 32 (
1
977)No.
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