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欧州委員会及び欧州各国の動向 - 環境省 生物多様性センター
欧州委員会及び欧州各国の動向 2010 年以降、ビジネスと生物多様性の分野、すなわち生物多様性への民間参画に関しては、欧 州委員会を中心とし、イギリス、オランダ、ドイツ、フランス等の欧州各国で大きな進展があり ました。本報告ではこれらの国等の動向について整理しています。 目 次 1) 欧州委員会(European Commission, EC)の動向 .............................................. 2 2) イギリスの動向 ................................................................................................ 6 3) オランダの動向 ................................................................................................ 9 4) ドイツの動向 .................................................................................................. 12 5) フランスの動向 .............................................................................................. 14 1 1) 欧州委員会(European Commission, EC)の動向 欧州委員会は 2020 年までに生物多様性と生態系サービスの損失をゼロにするという野心的な 生物多様性戦略を発表しており、これに向けてできるかぎり生態系の回復に向けての取組を進め ることとしている。これに関連して現在、欧州委員会において、ノーネットロス・イニシアティ ブの策定、生物多様性のオフセットの制度設計、欧州開発銀行の投融資における生物多様性保全 のためのリスク評価、グリーン調達指令の検討、グリーン・インフラストラクチャー政策等、生 物多様性分野における民間参画に関する様々な政策の検討が進んできている。欧州委員会におけ る指令・政策は、欧州各国の法律に直接的な影響を及ぼし、欧州で事業を展開する日本企業にも 直接的な影響を及ぼすことになる。 以下では主な取組の動向や内容について示した。 ① 生物多様性とビジネスプラットフォームの取組 欧州委員会環境総局の生物多様性とビジネスプラットフォーム(The EU Business and Biodiversity Platform, B@B)は、事業者における生物多様性の取組に関するベストプラクティ ス等をまとめるためのイニシアティブであり、2010 年に IUCN 等と協力して事業者における 生物多様性の取組を進めるために設置された。この欧州連合のビジネスと生物多様性のプラッ トフォームの活動は 2012 年 10 月に 3 年間の活動を終了し、現在今後の活動方針を作成中であ る。 プラットフォームでは、これまでの 3 年間は、農業、食品、森林、鉱山開発、金融、観光の 6つの産業に焦点を当てて、ベストプラクティスの共有、啓発活動等が行われてきた。今後は 欧州委員会の 2020 年に向けた生物多様性戦略のもと、3 年間の活動計画を策定予定である。 詳細は決まっていないが、アイディアとしてはプーマ社が行ったような事業者による環境影響 評価の促進、主要な消費財(例えばパーム油や牛肉、エビ、花等)の地球規模での生物多様性 や生態系サービスへの影響の把握、The Business and Biodiversity Offsets Programme (BBOP)の基 準等を活用した、ノー・ネット・ロスを達成するための生物多様性のオフセットの支援、欧州 投資銀行(European Investment Bank , EIB)と協力した欧州における金融機関の生物多様性に 関する投資基準の策定等が検討されている。 これらの情報の詳細については、下記のウェブサイトに参考になる情報が掲載されている。 ・EU Business and Biodiversity platform http://ec.europa.eu/environment/biodiversity/business/index_en.html ・EU Business and Biodiversity campaign (欧州委員会におけるビジネスと生物多様性に関 するキャンペーンについての情報) 2 http://www.business-biodiversity.eu/default.asp?Menue=12 ② グリーン調達 世界の毎年の国民総生産(GNP)の 15~25%は政府調達によるものであり、公共調達は世 界経済において重要な牽引力を持っている。公共グリーン調達(Public Green Procurement)は、 生物多様性に配慮した製品やサービスの市場を拡大し、生物多様性に配慮した製品やサービス を提供する事業者を支援し、事業者・消費者の行動の変化を促すことができる。 欧州委員会では、商品の生産、利用、廃棄のすべてのライフサイクルにわたる評価をもとに したグリーン調達の指令案の議論が進んできているが、中小企業による反対が大きく、今のと ころこの指令が議会を通過するめどはたっていない。欧州委員会の公共グリーン調達において は、下記のウェブサイトに掲載されている環境フットプリントガイド(Product Environmental Footprint Guide)の活用も検討されている。 ・Public Green Procurement ついてのコンサルテーション資料(2012)が掲載されているウェブ サイト http://ec.europa.eu/environment/consultations/pdf/background_sustainable.pdf ③ ノーネットロス・イニシアティブ 現在、欧州委員会は、2020 年までに欧州レベルでの生物多様性のノーネットロス(No Net Loss)を達成することを目標として挙げており、サプライチェーンを通じて取組を進めること が奨励されている。ノーネットロス・イニシアティブでは、適切な生物多様性のオフセットを 進めていくために、より精度の高い生物多様性の影響を測るための手法の模索、必要に応じて 生物多様性のオフセットに関する欧州委員会の指令の策定、BBOP 等既存のメカニズムを活か してノーネットロスについての考え方をより進めていくことを検討している。これまでに欧州 レベルの保護地区である Natura2000 以外での生物多様性保全の取組が十分に進んでこなかっ たために、これらの取組を通じて Natura2000 以外での生物多様性保全を積極的に進めていく狙 いがある。 ④ 環境フットプリントガイド(Environmental Footprint Guide) 欧州委員会では、ミクロレベルの製品に関するガイドである、製品の環境フットプリントガ イド(Product Environmental Footprint Guide)と、マクロレベルの国や企業、組織等を対象とし た、組織の環境フットプリントガイド(Organisation Environmental Footprint Guide)を開発中であ り、2012 年の中旬のパブリックコンサルテーションのプロセスを経て、2013 年 3 月には最終 版が欧州議会で承認される予定となっている。現在、ガイドのドラフト版が下記のウェブサイ トで公開されている。 3 ・Product Environmental Footprint Guide (製品の環境フットプリントガイド) http://ec.europa.eu/environment/eussd/pdf/footprint/PEF%20methodology%20final%20draft.pdf ・Organisation Environmental Footprint Guide (組織の環境フットプリントガイド) http://ec.europa.eu/environment/eussd/pdf/footprint/OEF%20Guide_final_July%202012_clean%20v ersion.pdf これらのガイドは、欧州議会で承認された後、欧州各国や事業者へ提言され、今後 3 年間の 試験的な運用を経て、最終的なガイドとして完成される予定となっている。 フットプリントの考え方は、ライフサイクルアセスメント(LCA)をシンプルにしたもので、 試用期間中は、14 分野の生態系への影響(気候変動、オゾン層破壊、淡水への影響、人体への 発がん性物質、人体への非発がん性物質、呼吸器系に影響のある粒子、人体に影響のある放射 性物質の残留、光化学物質のオゾン層、酸性雨、陸上の富栄養化、水の富栄養化、水の枯渇、 資源や化石燃料の枯渇、土地の改変)のうち、事業によりもっとも大きな影響受けるものを 3 ~4 つ選び、これらにおける生態系への影響を測定するような形となっている。例えば、農業 関連事業であれば土地の利用が最も大きな影響となり、工業製品に関しては資源の利用が最も 大きな影響となるものと思われる。 2012 年 12 月現在、欧州委員会によりこの新しい製品の環境フットプリントガイドを実践す る事業者の募集が行われている。実践する事業者には、製品ごとの環境フットプリントカテゴ リールール(Product Environmental Footprint Category Rules)、すなわち、どのように製品の環境 フットプリントを調査するかについての特定の製品カテゴリーごとの詳細な技術的ガイダン スを、それぞれの分野で検討することが期待されている。また、組織の環境フットプリントガ イドにおける業種ごとのルール(Organization Footprint Sector Rules)、すなわち、手法の適用を簡 素化し、業種ごとの特徴を考慮し、業種ごとのベンチマークを可能にするものも、特に中小企 業向けに策定される予定になっている。 実践する事業者は、欧州委員会から直接的な金銭的支援を受けられるわけではないが、ガイ ドを実施する上でのトレーニング、技術的なヘルプデスクへのアクセス、ガイドの活用状況に ついての評価(欧州委員会で、第三者によるガイドラインの的確な利用に関する評価のための 予算を申請中)等の支援を受けることができる。 テレビ等の電気製品は試用期間の運用の対象となっているが、コンピューターと携帯電話に ついては、この分野における技術革新が非常に速いこと、企業機密のため十分なデータが得ら れないことによってガイドが正確に策定されない可能性が高いことの 2 つの理由から、今回は 4 カテゴリールール(Product Category Rule)は策定されないことになっている。 環境フットプリントガイドの策定にあたっては、2012 年 9 月に各国政府や関連するステーク ホルダーを招いてのワークショップが開催され、日本政府(環境省と経済産業省等)も招待さ れている。 これらのガイドの試験運用には、下記の 4 つの大きな目的がある。なお、企業ごとの試験期 間は 18 ヶ月となっている。 ア)業種ごとのガイドラインの作成 イ)適切な評価システムの確立 ウ)ビジネスとビジネス、ビジネスから消費者へのコミュニケーションのシステムの確立 エ)製品の環境フットプリントガイドを、金融機関や格付け機関等が事業者の製品の環境フ ットプリントを評価するためのツールとして活用できるようにすること 3 年間の試験的な利用後の欧州委員会の政策的なアプローチとしては、製品の環境フットプ リントガイドがエコデザインに関する指令(エコデザイン指令) 、環境報告書の要求事項、公 共調達に関する指令、エコラベル等に組み込まれていくことが考えられる。例えば、これまで の欧州委員会での環境政策の成功例としては、エコデザイン指令に、テレビの待機電力を「○ ○年までに○○%削減」する設計を目指すという内容を含めることによって、欧州でのテレビ の待機電力を大幅に下げることに成功した、という事例がある。また、例えば水銀が非常に有 毒であるということになれば、 「○○年までに製品における水銀の利用をゼロにする」という 内容をエコデザイン指令の中に盛り込むこと等も考えられる。また、このガイドラインをもと にラベル化も検討されている。さらに、欧州委員会の公共グリーン調達(Public Green Procurement)において、ガイドが活用されることもありうる(前記の Public Green Procurement についてのコンサルテーション資料参照)。 これらの欧州委員会でのエコロジカルフットプリント全体の動きについては、下記のウェブ サイトに参考になる情報が掲載されている。 ・Product Environmental Footprint PEF http://ec.europa.eu/environment/eussd/product_footprint.htm ⑤ グリーン・インフラストラクチャー政策等 グリーン・インフラストラクチャー政策は、農地や高速道路等で生態系が分断されている個 所に対し、民間投資や農業への補助金等と連動して、緑の回廊の形成を進めようという取組で ある。現在欧州委員会(EC)では政策案を作成中だが、これが EU 指令となるかどうかは未定 5 である。また、投融資における生物多様性への配慮を進めていくために、欧州委員会は欧州開 発銀行と協議を始め、欧州開発銀行による投融資においてさらに厳格な生物多様性へのリスク 評価を適用することも検討している。 欧州委員会では、民間資金が生物多様性の保全のための重要な資金源となると考えている。 生物多様性からは公的な便益が得られるため公的資金の動員は当然だが、必要となる額が大き すぎて、民間投資なしでは賄えない。そのため民間投資に向けた奨励措置の導入が重要だと考 えている。 2) イギリスの動向 イギリスの環境・食糧・地域省(Department for Environment, Food and Rural Affairs, DEFRA) では、ビジネスと生物多様性や生態系サービスの観点から、事業者と以下の取組を行なっている。 ① 自然資本委員会(Natural Capital Committee)の設置 DEFRA は、政府において自然資本の価値評価に対する理解を進め、英国の自然資本の保全 と行動計画の優先順位を明確にするために自然資本委員会(Natural Capital Committee)を設置 した。環境委員会と議会に報告することで、この委員会は自然環境に関連してイギリスの経済 政策に影響力を与えている。この委員会は、財務省が座長を務め、国家会計に自然資本(Natural Capital)を統合することが検討対象となっている。自然資本が国家会計に統合されるまでには 時間を要するだろうが、財務省が座長を務めることになったことで、DEFRA ではこの動きを 前向きに捉えている。 これらの DEFRA の動きについては、下記のウェブサイトに参考になる情報が掲載されてい る。 ・Natural Capital Committee (自然資本委員会) http://www.defra.gov.uk/naturalcapitalcommittee/ ② Ecosystem Market Taskforce の活動 DEFRA では生物多様性における事業者の取組を進めていくために、Ecosystem Market Taskforce という委員会を設置している。これには、ユニリーバ(Uniliver)や Kingfisher 等生物 多様の取組に熱心な 10 の事業者が参加している。 2013 年 3 月には、委員会として今後の取組についての提案をまとめる予定であり、議題の中 には、生物多様性のオフセット等も含まれている。事業者によってリードされたこのタスクフ 6 ォースは、様々なセクターの事業者におけるリーダーと専門家によって構成されており、生物 多様性のバンキングや事業者の環境における取組の方法について議論を行っている。 このタスクフォースは、2012 年 11 月 6 日に中間報告書をまとめており、この中で、なぜ自 然資本がビジネスにとって重要なのか、また自然資本の価値を適切に把握することでどのよう な新しいビジネスの機会となりうるのかを検討している。中間報告書では、自然資本が事業者 にとって重要な理由として、以下の 3 つを挙げている。 ア)事業者は自然資本に頼って事業活動を行っていること イ)自然が提供するサービスはこれまで政府の意思決定において過小評価されてきたが、今 後政府は自然の価値を適切に評価しようとし始めておりこれは事業者にとって新しい ビジネスの機会でもありリスクでもあること ウ)先進的な考えを持って取り組む事業者が最終的に勝者となりうること また、中間報告書は、新しいビジネスの機会として、以下の 4 つの分野における取組を挙げ ている。 ア)水資源(量と質)の確保や排水、洪水に対する対応等を含む水の循環 イ)農業や漁業における食物の循環 ウ)自然をベースにしたカーボンオフセット市場や生物多様性のオフセット等新しい自然資 本に関する市場を含む炭素と自然資本に関する市場 エ)再生可能な資材の利用や自然資源の持続可能な利用等、資源の安全保障や枯渇と弾力性 (レジリエンス) 今後、このタスクフォースは、新しいビジネスの機会として挙げられた上記の 4 つの分野に おけるさらに具体的な取組について最終報告書の中でまとめる予定であり、2013 年に前述の自 然資本委員会に報告を提出することになっている。 これらのタスクフォースの動きについては、下記のウェブサイトに参考になる情報が掲載さ れている。 ・Ecosystems Market Taskforce http://www.defra.gov.uk/ecosystem-markets/ ③ 生態系サービスへの影響評価についてのガイダンスの作成 DEFRA では、2011 年に政府の事業における生態系サービスへの影響評価についてのガイダ 7 ンスを作成し、政府の事業についてのガイダンスを定める“Green Book”に追加した。“Green Book”は財務省が策定しているガイダンスで、すべての政府の政策やプログラムに適応される。 このガイダンスを有効活用するために、いくつかの事例をビジネスケースとして紹介してい る。1つは、鉄道計画に関するもので、新たな鉄道の建設に伴う生態系サービスへの影響評価 を行っている。また、水関連事業の事例として飲料水に関わる事業が、水の浄化作用、保水作 用等の生態系サービスに深く依存している点に着目したケースを紹介している。 これらの“Green Book”については、下記のウェブサイトに参考になる情報が掲載されてい る。 ・Treasury Green Book guidance http://www.hm-treasury.gov.uk/green_book_guidance_environment.htm ④ 消費による生態系への影響についての調査 DEFRA では、海外にその原材料の供給を頼っている製品も含めて、製品のサプライチェー ンの英国国内での消費による生態系への影響についての調査を行なっており、2013 年中には調 査がまとまる予定となっている。 ⑤ パーム油に関する宣言 DEFRA は、2012 年 10 月に事業者や、業界団体、NGO 等と共に、2015 年までに英国におけ るパーム油の利用をすべて持続可能なプロセスで生産されたものに切り替えるとの宣言を行 なった。この宣言では、英国でサプライチェーンを通じてパーム油を利用している事業者の関 連団体による持続可能なパーム油の利用を進めていくための取組をまとめている。 パーム油を利用している事業者の関連団体には、英国化学薬品協会、英国食品飲料連合、英 国レストラン協会、英国サービス協会、英国小売業界、英国石油産業協会等が含まれている。 宣言はまた、持続可能なパーム油についての政府の調達方針、政府の調達先やパーム油を利用 している事業者へのアドバイス、持続可能なパーム油の利用 100%に向けての進捗状況、食品 におけるパーム油のラベリング情報等についてもまとめている。DEFRA は今後、バイオ燃料 に関しても同様の宣言を行なう予定となっている。 これらの宣言やそのほかの DEFRA の取組等については、下記のウェブサイトに参考になる 情報が掲載されている。 ・The Natural Environment White Paper – イギリス政府の自然の価値を強調した環境戦略 http://www.defra.gov.uk/environment/natural/whitepaper/ ・パーム油に関する宣言 8 http://www.defra.gov.uk/publications/2012/10/30/palm-oil-uk-statement/ ・The National Ecosystem Assessment – イギリスにおける幅広い生態系サービスの認識・価値 評価と評価における条件 http://uknea.unep-wcmc.org/Resources/tabid/82/Default.aspx ・Ecosystem Services – 生態系サービスへの支払いにおける課題と機会を含む生態系サービ スについての情報 http://www.defra.gov.uk/environment/natural/ecosystems-services/ ・Green Infrastructure: -緑地や街路樹や庭園、屋上緑化、地域の森林、公園、河川、水路、湿 地等他の自然資源の計画的なネットワークの促進に関する情報 http://www.defra.gov.uk/environment/natural/green-infrastructure/ http://www.naturalengland.org.uk/ourwork/planningdevelopment/greeninfrastructure/default.aspx 3) オランダの動向 ① 生物多様性と自然資源に関するタスクフォースの提言を受けた動き オランダでは、インフラストラクチャー・環境省のもとに設置された生物多様性と自然資源 に関するタスクフォース(2009~2011 年の 3 年間で検討を進め、2011 年 12 月に最終的な提言 をとりまとめた。 )の提言を受けて、生物多様性のノーネットロスに関する取組、持続可能な 土地利用を進める Global Development Initiative、持続可能な消費パターンを考える取組、生態 系サービスの価値評価等を進めてきている。タスクフォースの提言は、基本的には事業者に取 組を強制する方法よりも、事業者自身に目標を設定させ、事業者の自主性を引き出す方法が最 も効果的であるとまとめており、オランダ政府もこうした方針で進める必要があると考えてい る。 ノーネットロスの考え方は BBOP や国際金融公社(International Finance Corporation, IFC)で 定義づけられており、オランダ政府は緩和策における回避、低減、代償の優先順位を明確にし て取組を進めることが重要であると考えている。また、ノーネットロスはすべてのライフサイ クルを通じて、生産・消費・廃棄のすべて段階を通じて達成されるべきとされており、現在鉱 業や農業セクター等でパイロット事業が進められている。オランダ政府は中小企業を取り残さ ない取組を検討することが肝要であると考えており、取組は事業者ごとに異なり、一つの手法 をすべてのセクターに適用することはできないと考えている。 9 ② OECD における生物多様性と生態系サービス関するワーキングパーティの設置 オランダ政府は、2012 年に OECD に生物多様性と生態系サービスに関するワーキングパー ティを設置し、生物多様性のオフセットやバンキングについての政策研究、比較、その課題等 を検討予定である。 ワーキングパーティでは、特に中小企業向けの生物多様性オフセットやバンキング制度につ いてのガイドラインづくりを行い、2013 年 10 月には事業者や政府等を交えた生物多様性オフ セットとバンキングに関するワークショップを実施する予定である。オランダ政府は現在、生 物多様性のオフセットバンキング制度の設計を検討中であり、この OECD のワーキングパーテ ィでの研究や議論の成果を踏まえて行っていく予定となっている。 ③ 生物多様性・生態系サービスと経済(BEE)プラットフォームの設置 生物多様性・生態系サービスと経済(BEE)プラットフォームは、タスクフォースの提言を 受けて IUCN オランダとオランダビジネス協会(BNO)によって 2011 年に設置され、オラン ダ政府が年間 200 万ユーロの予算をつけている。プラットフォームでの具体的な活動内容は今 後決定されるが、様々なビジネスグループがプロジェクトのアイディアを提案し、それに対す る支援を行う仕組みになっている。 ④ 事業者の生態系サービスへの依存度等の評価のためのツールの開発 Natural Value Initiative は、Flora and Fauna International や UNEP-Financial Initiative、アセット マネジメント会社の Robeco や KPMG(オランダのコンサルティング会社)等と協力して、自 然の価値を評価するツールを開発した。このツールは事業者の生態系サービスへの依存度を明 確にするためのものであり、特に投資家や格付け会社向けに、投資先の事業者の生物多様性に 関するパフォーマンスを評価することを目的に、既往の World Resource Institution (WRI)や World Business Council for Sustainable Development (WBCSD:持続可能な開発のための経済人会 議)等が開発したツールを参考にして開発された。 Natural Value Initiative では、このツールを使って公表されている情報をもとに、医薬品メー カーの生態系サービスへの依存度のランキングを行った。オランダ政府は、このツールは事業 者が生物多様性や生態系サービスに関するリスクを把握する上で役立つのではないかと考え ている。 Natural Value Initiative が開発した Toolkit に関する情報は、下記のウェブサイトにある。 ・Natural Value Initiative Toolkit http://www.naturalvalueinitiative.org/content/003/303.php ⑤ ノーネットロスを達成するための企業のサプライチェーンを通じた取組 欧州委員会は 2020 年までに欧州レベルでのノーネットロスを達成することを目標として挙 10 げており、事業者のサプライチェーンを通じての取組が奨励されている。オランダ政府は、サ プライチェーンを通じた企業の自主的なグローバルなレベルでの生物多様性オフセットの取 組を支援している。 Biodiversity Compensation Program (BioCom)は、3 社の企業と2つの省庁(経済・農業・革新省 およびインフラストラクチャー・環境省)、2つのNGOによって実施された、生物多様性へ の影響を緩和する企業の自主的な取組を促進するための事業である。事業は 2008 年 3 月に始 まり、2009 年 2 月に終了した。この事業では、サプライチェーンの定義が試みられた。プログ ラムに参加した企業は、ガーナで森林伐採を行う企業と、エネルギー源としてパーム油を輸入 している企業、そしてオランダで食品の提供を行う食品産業であった。 本プログラムでは、森林伐採を行っている企業について、どのようにオフセットを設計する のかについての提案が行われた。また、パーム油を輸入している企業について、パームやしの プランテーションによる歴史的な地域社会への影響を定量化し、オフセットすることを試みた が、オフセットが適切に行われているかどうかの検証は困難であった。食品産業では、生物多 様性への主な影響の中で、肉牛をオーストリアから輸入するための輸送に関わる環境コストの オフセットが試みられた。その結果、当該企業では、オランダ国内の有機飼育の肉牛の利用へ の転換、湿地帯で飼育できる伝統的な種の牛の導入が実施された。この伝統的な種の牛は、質 の高い肉とミルクを提供し、これまでの牛と同様の経済的利益をもたらした。この事業は 3 つ の事業の中で最も成功をおさめたものとなった。 このプログラムによって、企業活動による生態系への影響をどのように緩和するかを検討す ることができた。 これらに関する情報については、一部は下記のウェブサイトで入手できる。 ・COMPENSATING BIODIVERSITY LOSS: Dutch companies’ experience with biodiversity compensation, including their supply chain, The ‘BioCom’ Project http://www.gemeynt.nl/files/Pb2011-001.pdf ⑥ 事業者の生物多様性に関わる取組における政策の役割 オランダ政府は、事業者の生物多様性に関わる取組に関して、以下の4つが重要であると考 えている。 ア)国際レベルでの取組の推進 イ)様々な取組の中で重要な取組を把握すること ウ)先進的な事業者を積極的に支援すること 11 エ)欧州委員会レベルでの革新的な調査や技術を積極的に取り入れていくこと オランダ政府は、事業者の生物多様性・生態系サービスに関わる取組を進めていくために、 政策の枠組みを設定する政府の役割は重要であると考えている。オランダ政府はこれまでに Innovative Fund を設置し、業種ごとに企業の生物多様性と生態系サービスについての革新的な 取組を積極的に支援してきている。これまで国際的に様々な生物多様性や生態系サービスに関 する認証制度や基準が策定されてきているが、オランダ政府としては、これ以上新しい認証制 度や基準を策定するよりも、乱立する基準の中でどれが事業者にとって使いやすいよい基準な のかを整理して示していく必要があると考えている。また、オランダ政府は、政府がこれらを 整理して適切なツールや基準を示していくことは、中小企業の取組を進めていくうえでも重要 であると考えている。 ⑦ Sustainable Trade Initiative オランダ政府は、今後、政府や事業者、NGO が共同で生物多様性・生態系サービスに関わ る取組を進めていくことが重要であると考えているが、その一つの取組として Sustainable Trade Initiative がある。これは、WWF-US が進めている取組で 15~20 の商品作物に絞って、商品 作物の持続可能な貿易に関する認証制度を策定しようという試みである。商品作物は主に農産 物であるが、大理石等の資源も含まれている。このイニシアティブに企業や WWF、オランダ 政府等が合わせて 1 億ドルの資金を拠出している(うち 4~5,000 万ドルがオランダ政府の出資)。 Sustainable Trade Initiative に関する情報については、下記のウェブサイトで入手できる。 ・The Sustainable Trade Initiative http://www.idhsustainabletrade.com/ 4) ドイツの動向 ① 政府による製品の生態系への影響を評価するためのモデルの開発 現在、ドイツ連邦自然保護庁(Federal Agency for Nature Conservation)では、生物多様性につい て先進的な行動をとっている企業の集合体であるイニシアティブ(Biodiversity in Good Company Initiative)等と協力して、事業者が自社の製品のライフサイクルでの生態系への影響 を把握するためのコンピューターモデル(GABI)の作成を行っている。これはドイツのコン サルタント会社 Fraunohofer Institute が中心となって作成しているモデルで、すべてのセクター に活用できるモデルである。 モデルでは、製品の資源の確保から生産プロセス、製品が完成するまでをライフサイクルと とらえており、製品が完成後の消費、廃棄、リサイクルのプロセスは非常に複雑なため、この 12 モデルの中には含まれていない。このモデルは、資源の確保から生産プロセス、製品までのす べてのプロセスにおける生態系へのインパクトを統合して把握する必要がある、という事業者 のニーズにこたえる形で設計された。 2012 年 10 月にパイロット事業を行うためのモデルのドラフトが完成した。今後 2013 年半ば から後半にかけて、これらのモデルを 5 つの事業に具体的に活用してみて、モデルの有効性に ついての検討を加え、最終的なモデルとして完成させる予定となっている。 モデルは、ドイツにおける生態系へのインパクトをもとに設計されたが、実際に行うケース スタディでは事業者が海外から資源を調達する際の生物多様性と生態系サービスへの影響も 把握するため、下記の 5 つの事例でケーススタディを行う予定となっている。 ア)アフリカの綿花を利用した衣料関連事業 イ)スカンジナビア地域からの木材を利用した事業 ウ)ドイツ国内での採掘事業 エ)ドイツ国内での牛肉や野菜に関する産業(2事例) ケーススタディを行う事業は、直接的に生態系サービスに依存した業種を中心に選んでいる が、モデルはすべての業種に活用できるように設計されている。 ② ビジネスと生物多様性についての新たなプラットフォームの構築 2007 年の国家戦略とその実現に向け、ドイツではビジネスセクターへの働きかけを主要な課 題の一つに据えている。既に多くの企業が生物多様性の保全活動に着手しているが、その中で も先進的な行動を行っている企業の集合体である“Biodiversity in Good Company Initiative”に は多くの著名な企業(フォルクスワーゲン社やリッタースポーツ社等)が含まれている。ドイ ツでは、これまでこうした活動に参加できなかった企業を広く取り込むための新しいダイナミ ックなプラットフォームの設置を政府が主導して準備している。これは企業と行政と自然保護 団体が協力を行うものである。行政には環境省だけではなく、経済省やその下部の政府系組織 や連邦政府機関も含まれている。 新しいプラットフォームには、行動のプラットフォームと対話のプラットフォームがあり、 それぞれ複数の分野の場に分かれている。具体的には行動プラットフォームは、 「企業のため の生物多様性保全関連情報」、 「ビジネスと協力して行われる自然保全のための融資」、 「信頼性 のあるコミュニケーションと公共的関係」 、 「生物多様性の持続可能な管理」 、 「ネットワーク」、 「市場と機会」の6種類の分野に分かれている。また、対話プラットフォームには、 「調整事 務局」、 「ウェブサイト」、 「先導グループ」 、 「コンタクトパーソンのネットワーク」、 「対話イベ ント」の5つの分野がある。現在、未決定で検討中となっている課題を克服し、2013 年 5 月の 13 正式な発足を目指している。 適切なガバナンスのために、誰でも参加できることに加え、パートナー間で競合する場合が あっても排他的でないこと、共通目標を見える化することが重要としている。このため、参加 する企業に対しては、活動内容は各社が自身の判断で選択できること、活動に対して各社個別 の予算で実施できること、行動の多様化は認めつつある程度はターゲットが絞れること(行動 プラットフォームのなかから 2,3 個を選ぶことになっている) 、構造的にオープンで新しいパー トナーシップが作れること、等を保証している。 ③ 生物多様性の定量化の動き ドイツ政府は、欧州委員会の 2020 年までの生物多様性戦略に合わせて、生物多様性の価値 を国家会計に組み込むプロジェクトを進めている。これは単なる経済評価ではなく、包括的な 国家生態系サービスの評価であり、市場原理を用いた解決方法ではなく、生物多様性・生態系 サービスの保全と持続可能な利用を促進するものとされている。これにより、ドイツ国家会計 は、社会的・経済的な重要性のある生物多様性・生態系サービスの証拠を集め、異なる分野間 でのトレードオフを特定し分析し、優良事例、成功事例を促進し、政策立案者、統治者、ビジ ネス界に対して統合的な教訓を与えることを目指している。2015 年 7 月までのプロジェクトと して検討されており、2013 年 3 月にはパンフレットが発行される予定となっている。このよう な定量化は国レベルのものでもあるが、企業の事業活動にも一部活用できるのではないかと考 えられている。なお、ドイツの事業者における TEEB については、2013 年春に報告書が完成す る予定である。 ④ ISO14001 への生物多様性に関する基準の提案 ドイツでは ISO14001 の見直しの際に、 「生物多様性」という言葉を Annex ではなく本文の中 に入れることを提案し、2012 年 6 月にドイツ代表団として提案の具体的内容をまとめている。 なお、現在の提案では、生物多様性についての詳細な内容を ISO14001 に入れることは検討さ れていない。 生物多様性に関する ISO の何らかの基準が必要だという議論は、大きく分けて二つの背景か ら出てきている。一つの背景は、インドや中国等新興国の企業が ISO に参入してくる中で ISO の基準に関する質の管理が難しくなってきているということ、2 つ目の背景は、現在見直しが 検討されている既存の ISO14001 は非常に古いものであり改定が必要であるということである。 5) フランスの動向 ① フランスの新しいエコラベル制度 フランスでは、ライフサイクル全体での生物多様性や生態系サービスへのインパクトを含め 14 た新しいエコラベルの策定が進められているが、このラベル制度を今後欧州委員会にも持ち込 むことが検討されている。 フランスでは、サルコジ政権の時にすべての商品に共通のエコラべルをつけるための取組が 始まっている。これはフランスの環境エネルギー管理省(ADEME)が進めている取組で、こ れまでに電気製品やスポーツ用品、食品、革製品、靴、婦人服、シャンプー、化粧品、ホテル、 洗剤、ワイン、時計や宝石、玩具等を含む 30~40 の商品ごとにどのような表示を行うのか (Product Category Rule)についての議論が進められている。 これまでに、16 の商品の表示のルールが決まり、政府の委員会で公式に認証されている。商 品ごとに 3 つのラベルを付けることが求められており、3 つの項目のうち温室効果ガスに関し ては表示が義務づけられており、それ以外の2つの基準を何にするかはライフサイクルアセス メントを通じた分析をもとに、20 項目のうちから2つの項目を選ぶことになる。例えば、シャ ンプーに関しては a)温室効果ガス、b)水の消費、c)環境への毒性、の 3 つの基準が表示されな ければならない。 2011 年 7 月から 2012 年 7 月までに、実験的にこの新しいエコラベル制度が導入され、現在 消費者からのフィードバック等をもとに、最終的な制度設計が 2013 年初めを目指して行われ ている。この新しいエコラベルについて、これまで 1 年間のパイロット期間の消費者の反応は おおむね良好で、継続してほしいという消費者の意向が明らかになってきている。 エコラベルに関する情報をどのような形で表示するか(商品に添付するのか販売店で表示を するのか等)がまだ決まっていないため、エコラベルに関する情報は各社のウェブサイト上で 公開されている。このラベルが義務化されるのかボランタリーのものになるのか、対象はすべ ての商品か、一部の商品だけか、等は今後検討が進められ、2013 年の初めには方針が明らかに される予定となっている。この制度はまずフランスで導入されるが、その後欧州委員会でも同 様のラベルが導入されることが検討されている。 ② フランス規格協会(Association Française de Normalisation , AFNOR)による生態系 サービスに関する基準化の動き AFNOR ではフランスの商工会議所の要請を受けて、2012 年 10 月に河川や湿地、湖等の水 域への生態系への影響がある場合に、事業者が取るべき手続きについての基準を策定した (Norme, NF X10-900, Oct 2012, Genie ecologique)。この基準は AFNOR のウェブサイトでフラン ス語のみで公開されている。AFNOR はこの基準を”Ecological Engineering”に関する水域の基 準と呼んでおり、事業によって水域への影響がある場合、事業者がどのように水域の生態系サ ービスへの影響に対応すべきかについて定めている。 この基準は法的拘束力を持つものではないが、ISO の基準のように多くの自治体や政府関係 機関等が事業の実施要件として利用するようになると、事実上事業者が水域で事業を行う際に 15 求められる要件となる可能性が高い。 すでに多くの事業者がこの基準を利用しており、AFNOR に基準の具体的な実施方法等につ いての多くの問い合わせが寄せられている。今後一年間のうちに、基準を利用した事業者から の質問やコメント等を受けて基準の実施における課題を洗い出し、より使い勝手の良い基準に していくための改定を行う予定。また、基準は改定後 ISO 等の国際的な基準あるいは欧州レベ ルの基準として提案することも検討中である。 16