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2014 年度アイルランド研究年次大会 〈シンポジウム②
2014 年度アイルランド研究年次大会 〈シンポジウム②〉アイルランド・ナショナリズムが構想したもの 1830 年代リピール運動とカトリック住民のための大学建設要求 崎山直樹(千葉大) 1. 19 世紀中葉のカトリック・ナショナリズム オコンネルのリピール運動は合併法撤回すなわちアイルランドの議会の復活を目指すもので、その上でのイギリ スとの連合を彼は望んでいた。カトリック解放を基盤としたオコンネルのナショナリズムが、ケルト・ナショナ リズムにも、セパラティズムにも向かわなかったのは、彼の個人的資質もあろうが、カトリック・ナショナリズ ムの限界を示すものとして留意されるべきだろう。(堀越智「アイルランド・ナショナリズムの諸相」 『アイルラ ンドナショナリズムの歴史的研究』p. 199 カトリック・ナショナリズムの限界とは? 2. 1830 年代リピール運動 カトリック解放令以降の政治課題:合併法撤回を掲げるリピールの要求 組織化されるのは 1840 年以降 1830 年代からオコンネルによって主張される(年表1) とりわけ都市法人法導入を巡る議論の中で(1835 年以降) 連合王国内での「対等」な関係性: 1840 年代の主張を準備 3. アイルランド教育問題と地方カレッジ建設計画 トマス・ワイズ(1791−1862)(資料 1) 1830:アイルランド教育制度の提案[国民教育制度【National Education System】と地方カレッジ【Provincial Colleges】 ] 1835: 「国民教育学校建設」委員会委員長 1836: Education Reform 出版 1838: 「国民教育学校建設」委員会報告書作成 1839:メルボルン内閣大蔵 委員【Junior Lord of the Treasury】 ! 様々な宗派の人に向けた教育制度の充実(マンスターのカトリック、 アルスターの長老派を意識) ! 初等、中等、専門教育(土木・農学・工芸)、高等教育の体系化 ! 中産階級のために、各地方にカレッジを建設し、それに学位を与える 大学【National University】(学位授与機構)の設立 4. コーク市の反応 ジェイムス・ロチェ(1770−1853)(資料 2) 1835:ナショナル・バンク、コーク地区支店長に就任 様々な文化団体に参画:カトリック中産階級の政治文化 1838:マンスター地方カレッジ委員会の委員長に就任。請願活動を開始 ワイズとの交流 (17, Nov. 1838, “Provincial College”, The Cork Constitution or Cork Advertiser. 集会にワイズが参加) 2014 年度アイルランド研究年次大会 〈シンポジウム②〉アイルランド・ナショナリズムが構想したもの 5. リピール運動と地方都市、ブリテン政府の対応 1840:アイルランド都市法人法とリピール協会設立 1841:ダブリン市議会選挙とオコンネルのダブリン市長就任 1842:都市法人法が適用された都市でリピール協会支持者が勢力を拡大 1843:リピール・イヤーの宣言 ブリテン政府の対応: 「 と 」リピール運動の弾圧とアイルランドの懐柔 1843:庶民院、ワイズがアイルランドに地方カレッジ設立について発言 1844:庶民院、ピールがアイルランドにおける大学・カレッジについて発言 マンスター地方カレッジ委員会から総督府へ陳情(10 月) ワイズ、コークにて地方大学建設についての集会か開催(11 月) 1845:ピールによる法案提出 リピール協会内部での対立( 「大学問題」 ) メイヌース・カレッジ法(6 月)成立 クィーンズ・カレッジ法(7 月)成立 6. 19 世紀中葉におけるカトリック・ナショナリズムの限界 リピールの要求:連合王国内での「対等」な関係性を求める イングランド−アイルランド / 国教徒−カトリック 「対等」になるための手段としての教育 用いられる国民(National)の意味:一体としてのアイルランド 階級間での分断:下層階級=国民教育 / 中産階級=高等教育 変容の契機としての「大学問題」 : 「臣民」としてのアイルランド人 アイリッシュネスとカトリックとの結びつき 階級横断的な主題はこの段階では見つかっていない 【資料 1】Thomas Wyse (1791-1892) ウォーターフォード出身。1808 年 TCD 卒業。 その後、 ヨーロッパ諸国を遊学。1821 年ナポレオンの姪と結婚し、アイルランド へ帰国。1830 年ティペラリーより出馬し、 庶民院へ当選。1830 年代よりアイルラン ド教育制度の整備に尽力し、国民教育制 度、クィーンズ大学の原案を作成。1839 年に大蔵卿委員、1849 年には枢密院のメ ンバーとなる。1850 年代以降はギリシャ などとの外交問題に尽力する。 【資料 2】James Roche (1770-1853) コーク出身。1785 年よりフランスに教育 を受け、その後、ワイン商を営む。1789 年フランス革命の際には「イギリス臣民」 ということを理由に六ヶ月抑留される。 1800 年アイルランドに戻り銀行を設立す るも、1820 年に破産。その後、ロンドン へ移住。1832 年コークに戻り、1835 年よ りナショナル・バンクのコーク支店長を務 める。コーク図書館協会、ロイヤル・コー ク・インスティチュートの会長などを歴 任。 2014 年度アイルランド研究年次大会 〈シンポジウム②〉アイルランド・ナショナリズムが構想したもの 【年表】 Britain Ireland/O'Conne Wyse ll オコンネル当選。リ 当選。アイルランドの ピールの可能性につい 教育制度についての意 て言及 見書提出 国民教育委員会設立 Roche 国民教育委員会参加 落選。 コークに戻る 当選。National ナショナル・バンク、 Educational Board法 コーク支店長に就任 都市法人法委員会設立 議会にてリピールに言 及 都市法人法制定 を提出。国民教育学校 オコンネル、都市法人 法協会を設立。 建設委員会委員長に。 Education Reform 出 版 ロチェ、オコンネルへ カレッジ設立に誓願(11 月) ロチェの誓願を政府に 国民教育学校建設委員 マンスター地方カレッ 取り次ぐことを約束(10 会報告書提出(10月)。 ジ委員会設立。集会の 月) マンスター地方カレッ 実施(11月) ジ委員会主催の集会に 参加 アイルランド都市法人 法を巡り議論 アイルランド都市法人 オコンネル、リピール 法制定 協会設立 ダブリン市議会選挙 オコンネル、ダブリン 市長へ 新聞『ネイション』創 刊 ピール、リピールへの オコンネル、ダブリン 庶民院にてアイルラン 対抗を宣言 市議会でリピール・イ ドへの大学設立計画に ヤーを宣言 ついて言及 クロンターフの敗北 コークにて大学設立に 総督府に宛て、大学設 関する集会を実施(11 立の陳情(10月) 月) メイヌース・カレッジ リピール協会にて「大 法(6月) 学問題」を巡り路線対 クィーンズ・カレッジ 立 法(7月) 2014 年度アイルランド研究年次大会 〈シンポジウム②〉アイルランド・ナショナリズムが構想したもの 【一次史料】 The National Archives HO 45/860 (Education; Ireland: Statement of the Mayor, Aldermen and Burgesses of the City of Cork, concerning the possible extension of colleges, and the establishment of provincial colleges, in Ireland.) 【政府刊行物】 Provincial Colleges, Ireland. Copy of Letter to the Right Honorable Lord Viscount Morpeth from Thomas Wyse, Esq., Relative to the Establishment and Support of Provincial College in Ireland, 1843. 【新聞資料】 The Cork Constitution, or Cork Advertiser 【同時代文献】 Wyse, Thomas, Education (Ireland), (London: Ridgway and Son, 1835). Wyse, Thomas, Education Reform; or, The Necessity of a National System of Education, (London: Longman, Rees, Orme, Brown, Green, & Longman, 1836). Wyse, Thomas, Speech of Thomas Wyse, Esq., M.P., on the Extension and Improvement of Academical, Collegiate, and University Education in Ireland, (London: Simpkin, Marshall, and Company, 1845). 【参考文献】 Auchmuty, James Johnston, Sir Thomas Wyse, 1791-1862, (London: P. S. King & sons, 1939). Gwynn, Denis, “The Origins of Queen’s College, Cork”, Cork University Record, No. 10, Summer, 1947. Gwynn, Denis, “The Munster College Petition in 1838”, Cork University Record, No. 11, Christmas, 1947. Gwynn, Denis, “’Father’ of Queen’s College od Cork”, Cork University Record, No. 13, Summer, 1948. Gwynn, Denis, “Sir. Thomas Wyse and the Cork College”, Cork University Record, No. 16, Summer 1949. Foley, Tadhg (ed.), From Queen’s College to National University, (Dublin: Four Courts Press, 1999). 崎山直樹「リピール運動の勝利者たち —『アイルランド都市法人法』とダブリン商工 業者」法政大学比較経済学研究所/後藤浩子編『アイルランドの経験』法政大学出版局、 2009 年。 崎山直樹「十九世紀アイルランドにおける国民意識 —アセンダンシーとヘゲモニーの 観点から」久留島浩、趙景達編『国民国家の比較史』有志舎、2010 年。 堀越智「アイルランド・ナショナリズムの諸相」堀越智ら『アイルランドナショナリズ ムの歴史的研究』論創社、1981 年。