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旧国立公衆衛生院跡地再生計画

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旧国立公衆衛生院跡地再生計画
旧国立公衆衛生院跡地再生計画
− 新しい医療行為に対応した地域ホスピタルパークの計画 −
指導教員 教授 高宮眞介
0.はじめに
本計画では旧国立公衆衛生院跡地に新しい医療行
為に対応した地域ホスピタルパークを計画し、都市
に対して内向きだった医療環境に社会との接点をつ
くり、自然や交流の場を提供していく。
M4012・大前多恵子
る。特に小児の難病治療を行う専門病院で、面会終
了後の介助家族への長期滞在の負担は大きい。これ
らを医療機関と連携して支援できる環境が求められ
ている(*4)。
(*2)医療行為:インフォームド・コンセントをとり医学的正当性を持ち診療目的で治
療効果があるもの(読書、絵画、音楽、園芸、演劇、料理など)の表現行為からの治療
を行うものとして、全てを総称し芸術療法ともよばれる行為。
(*3)地域医療支援病院:医療提供・医療機器などの共同化を図り、スタッフやボラン
ティアの派遣・育成を通し病院同士や地域とのコミュニケーションをとっている。
事例:日本生活協同組合医療部:一般の組合員によるスタッフ養成
事例:医療生協埼玉川口共同病院:病院敷地内に福祉作業所や農園を誘致
(*4)NPO法人患者家族滞在型施設全国ネットワーク
1991年設立。都内の空きオフィスやマンションなどに8施設56部屋を開設。
2.計画の目的と可能性
2.1 医療環境のプログラム
以上の背景より、医療環境のプログラムは分野や
病院同士の垣根を越えて医療施設から独立しながら
運営され、人材の育成や活動拠点など地域支援のネ
ットワークを拡大させることを目的とする。
1.計画の背景
1.1 都市の中で求められる医療環境
海外の医療環境は、都市の中で最も良好な環境に
計画され、建物単体としてではなく外部空間も積極
的に利用しながら、それを地域住民と患者が共有す
るものとして認識されている。
一方日本では古くから研究機関ということから、
地域に対し建物を囲い、隔離するものとして認識さ
れている。そのため、特に開発におされる地域では、
医療環境悪化とともに外部空間との連携がなされな
いまま、そのプログラムも弱体化している。1998年
の医療法改正による新たな動きの中で、開かれた医
療環境への見直しが求められている(*1)。
(*1)厚生労働省:病院・診療所における技術と環境への要望5項目:1998年4月
1)入院・外来の機能分化の促進 2)適正な病床数と医療従事者の確保 3)患者が安心
して医療機関を選択できる環境整備 4)新規の医療技術への対応 5)効率的な医療機
関運営、医療制度運営
1.2 医療環境プログラムの変化
■ 様々な医療行為
新たな医療行為(*2)の発達により、患者の自主性と
行動範囲を広げ、医療環境を取り巻く外部空間の改
善が求められている。
■ 身近な医療環境へ
医療法改正によって新たに誕生した地域医療支援
型病院(*3)は、市民がスタッフとして社会に貢献して
いる。そのためこれまでの隔離されたな医療環境か
ら学習・体験の目的含み、患者はもとより地域社会
にとって、より身近な医療環境であることが望まれ
る。
■ 医療機関の連携
東京都港区では再開発が進み、医療環境は悪化し
つつあるため、病院同士の連携を図りプログラムの
共有とオープンスペースの確保に努めている(図1)。
■ 不足する支援施設
日本では、地方や海外から大都市の病院に来る患
者と、その家族の負担を支援する施設が不十分であ
さまざまな垣根を越え支援活動を行い少ないスペースを共有する
オープンスペース
医療系の大学・教育機関
各種ボランティア・NPO団体
地域内の換地された
オープンスペース
緑道や公園を提供
図書館などを提供
医療ホテルスペースの確保
連携支援の
ネットワーク
学習を通した
治療
体験を通した
治療
新しい医療環境1
地域に対し景観を整え
環境体験の場を提供する
病院・診療所
病院・診療所
新たな医療環境2
独自の医療教育の
プログラムを組み立てる
図1:新たなシステムにより共有できる空間
2.2 医療環境における地域ホスピタルパーク
2.1 のプログラムの設定により地域の換地公園を
利用した医療環境は、これまでの超効率化を図るも
のから、患者と地域住民のアメニティを考慮した外
部空間の共有と提供が可能となる。こうした一部パ
ブリックな空間は、地域に対する相互配慮および理
解を深め、より充実したものとなる。
ホスピタルパークのネットワーク化
Landscape
病 院
多様化する
医療のプログラム
環境改善のオープンスペース
Landscape
既存の建築
新しい医療プログラム
これまでの
地域のつながり
周辺地域 地域のオープンスペース
図2:公園空間を介した医療環境と地域とのつながり
(例1)病院換地公園:付近の公園を換地公園として利用し開放していた。これらは病
院自体が保有するのではなく、地域社会が、児童公園・近隣公園・緑歩道などを換地
設定しまた、既存の公共緑地・植物園・社寺林・墓地などの周辺の土地を、地域社会
が優先して病院敷地として提供するようなシステムが求められている。
(例2)ALLINA Hospital & Clinics:HIV患者Park House
レクリエーションを通じた感情のサポートや精神ケアを医学的栄養学的側面からのサ
ポートが行われる。専門医のほかにボランティア、学生インターンシップ制度によっ
て構成されている。
(例3)West Park Hospital:病院に隣接し、患者と家族の宿泊施設を有する。
(例4)Children's HOSPITAL.ST.LOUIS:子供の治療にあたり充実した環境を持つ他、
ワシントン大学Medical centerと連携し、図書館の提供をしている。
(例5)Naval Hospital Park:YMCAスタッフの活動拠点を有し、病院に隣接する公
園、道、ガゼーボを含む一連の開発事業。
(例6)Auckland Obstetric Centre:病院がHospital Public mapを作成し、交通動線
を整理することで、病院の公園化を図っている。
(例7)Royal Hospital:敷地をフェニックスパークの一部に属し、アイルランド博物
館を収容し、ロイヤル・ホスピタル条例に基づいて管理されている。
(例8)群馬リハビリ・パーク:運動療法を行う群馬県立心臓血管センター付属公園。
(例9)関西労災病院:尼崎市の周囲を工場などに囲まれた下町の病院に付属する公園
園芸療法士による専門的治療を行う外部空間。
3.計画の敷地
東京大学
医科学研究所附属病院
外
古い様式建築
■ファミリーハウス機能
患者家族宿泊室、ホール、リネン室、管理室
㈰家族との交流を促し、滞在を目的とした場所
(*1)インターンシップ制度:医療福祉専門学校の各種医療行為の分野で実習カリキュ
ラムが組まれている。
(*2)ギャラリー事例:筑波記念病院:ピンクハウス芸術療法
苑
西
国立自然教育園
東京メトロ
白金台駅
通
り
通
計画敷地
(旧国立公衆衛生院跡地)
り
黒
目
JR目黒駅
図3:計画敷地と周辺地図
4.計画の概要
本計画では、白金台開発地域に含まれる旧国立公
衆衛生院跡地を敷地とする。医科研附属病院と共有
できるプログラムを設定し、自然と景観の保存や地
域への環境提供、敷地内道路動線計画の改善、外部
空間プログラムの設定するなどをとおして、患者と
地域のための公園として再生する(*1)(図4)。
6.設計の概要(地域ホスピタルパーク)
6.1 デザインのテーマ
㈰地域に向ける新しい医療のオープンスペース
㈪医療環境の保存と地域への提供
6.2 デザインプロセス 6.2.1 敷地全体の流れと動線計画
現状は建物のみの利用で車優先の道路が通ってい
る(図9)。また外部空間に明確な機能がないので、既
存建築物からの軸線を受け、軸線沿いに外部空間の
プログラム(トレール)を設定する。
敷地面積:(庁舎と東大医科研病院敷地一部含む)15420□
所在地:東京都港区白金台4-6-1 用途地域:第一種中高層住居専用地域
各面積:建蔽率60、容積率400%(最大建築面積15420、最大延べ床面積6168□)
(*1)旧国立公衆衛生院は2002年4月に国立保健医療科学院と改名し埼玉県和光市に移
転後、活用未定のまま厚生労働省→財務省へ移管。旧衛生院が建物保存と博物館を計
画している。2005年6月3日、日本建築学会によって庁舎の保存活用に関する要望書
が厚生労働省を通じ財務省に通達される。
図5:既存建築物(衛生院正面)
図6:樹齢百年を越す既存樹木
5.プログラム
■アプローチ機能
アプローチトレール、ステージ、駐車場、バス停
㈰車動線、人の動線の分離
㈪病院へのアプローチ、地域境界の改善
㈫駐車場拡張と車動線の整備
■スクール機能 実習トレール、教室、図書館
㈰疾病患者のスクール
(院内学級やSTT
(Social Skill Training:社会
生活技能訓練)
など)
㈪インターンシップ制の実習場所
かつての衛生院の図書室を拡幅し、医療系の情報
提供の場所とする(*1)。
■リハビリ機能
リハビリトレール、ステージ、浴室
食堂、ボランティア控え室、ギャラリー
㈰医療行為に伴う屋内外での活動の場所
㈪ボランティアスタッフによる活動の場所(*2)。
1)現状況
移転後の利用計画
がなされないまま
の状態で、学生・
患者・市民のオー
プンスペースとな
っている
3)step02
公園化し、新たな
医療プログラムを
導入し、隣接する
病院との接点をつ
くる。
2)step01
地 域
患者
オープンスペース
利用されつつある
東京大学医科学研究所
附属病院
研修生
地 域
移転後の跡地を公
園として整備し、
これまで同様に利
用してもらう
患者
公園化する
東京大学医科学研究所
附属病院
患者
地 域
新たな医療系機関
プログラム
公園化する
患者
東京大学医科学研究所
附属病院
研修生
6)step03
独立した機能をも
って運営れ、各々
情報のやり取りを
行うことができ
る。
地 新たな医療系機関
プログラム
患者
域
東京大学医科学研究所
附属病院
研修生
図4:計画後のプログラムと周辺との関係
図7:表門から西門へ通り抜ける町の人
図8:病院と公園の境界にある駐車場
道路を延長した様な
自由度の高い公園
N
建物を結ぶ道路
一般車両
患者
地域住民
スタッフ
緊急車両
図9:車両動線と歩行者動線が重なっている現状の動線図
6.2.2 既存の自然環境と平面計画
既存の樹木によってできている環境を活かしなが
ら平面計画を行い、2つのエリアを設定する(図10)。
パーク → 病院と地域と学生のための場所
オープンコモン → 患者の屋外リハビリの場所
6.2.3 既存建築物の機能と断面計画
既存地形の高低差と様式建築の強い特徴を、外部
空間にも対応させる。建物は庭園としての魅力を残
しながら既存建築に対しては存在感を出さないよう
にする(図10)。
2階 → メイン機能
1階 → サービス機能
平面計画
既存の樹木
回遊性のある
緩やかな境界
医科学研究所
附属病院
まちの中へ抜ける道
パーク
オープン
コモン
国立公衆衛生院
N
■アプローチ(D−C)
正門から既存樹木の回遊性をもった森林空間およ
び集う広場に分離する(図15)。
図書館は、旧衛生院の機能と配置を保存活用し、
地下部には増設の書庫を設ける。正面アプローチと
することで受付事務室やEVの確立した管理動線を
経て利用動線にむかう(図18)。
正門から
既存の森を残して地域環境を共有する
断面計画
既 存
public zone
open
common
park
患者・学生・ボランティアの集まる場所を共有する
境界マウンド
park
Eへつづく擁壁
さんぽトレール
アプローチトレール
アプローチトレール
private zone
新 築
図14:トレールD−C
図10:既存の建築が持つ特徴と自然環境を生かした平面・断面計画
6.2.4 建築の配置計画
2つのオープンスペースとフロアーレベルを考慮
し全体の軸の流れに沿って建築の配置を行う(図11)。
ファミリーハウス棟
図15:トレールで集う人
リハビリ
スクール
1F平面図
西門バス停
アプローチ
エントランス
C
建物アプローチ
図16:図書館のようす
食堂
N
図書館
図書室
院内ギャラリー
図11:建築の配置計画
6.2.5 各プログラムを結ぶトレール
トレールは人の流れによってできる軸を活かしな
がら、外部空間に明確な目的を持たせる。ここでは
3つの段階を経て構成され、最も強い直線の軸とな
って、各門から建物をつなぐ役目を持つ(図12)。
緊急一般
車両動線
港区病院バス
ロータリー
A
白金台地域の
自然を残すエリア
既存樹木の
回遊性
E
周辺で最も低い土地
敷地内レベルを
つなげる
リハビリトレール
病棟からの
アクセス
B
C
アプローチトレール
患者を補佐する
屋外実習の場所と道
公園からの
抜け道
地域の抜け道
N
トレールの軸
アプローチトレール
学生と患者の屋外活動の場所
D
図12:外部空間プログラムを結ぶトレールの軸
■アプローチ(A−B)
西門から徐々に実習風景を見ながら、既存の森林
の中の病院正面へ入っていく(図14)。
患者スタッフ動線
博物館利用動線
図書館利用動線
図17:旧国立公衆衛生院のプログラムと動線の流れ
■リハビリ(E)
リハビリトレールはループ状に構成され、ファミ
リーハウスとスクールを連結している。既存の起伏
を生かしながら、10mごとにポイントを置き、約30
mごとに休憩ができるようにする(4頁平面図B)。
ファミリーハウスは、この敷地の既存地形の起伏
と、既存の樹木配置によって作られていた境界の緩
やかなカーブを活用し、床レベルをオープンコモン
に、屋上レベルをパークに視線を連続させる(図18)。
既存樹木の保護
ファミリーハウス棟
浅根性高木
30メートル
2000
4500
2200
5000
さんぽトレール
既存樹木保護マウンド
地階駐車場
敷地内に入る
境界マウンド
タマリュウ
人工軽量土壌工法
排水マット @24
潅水用パイプ
軽量土
ヒンカ・ミノール
トレール
タマリュウ
ゴム舗装
シバ
排水設備
光庭
入口
中庭
2000
トレール
ゴム舗装
太陽光発電
▼28.00
水周りコア
リビング
3800
900
2000
病院テラス
実習トレール
受付案内
図書室
地下部となる (書庫)
駐車スペース
深根性高木
30メートル
町の中
隣接する住宅も見える
実習トレール
スクール
西門・バス停から
病院テラス
機械室
B1F平面図
さんぽトレール
病院正面
境界マウンド
実習トレール
敷地より低い
場所から見え
る既存の樹木
さんぽトレール
4000
地階駐車場
既存樹木を境界とし共有する場所へ
地下駐車スペース
▼23.00
デッキ
▼21.00
フローリング
遮音シート
ベースパネル
6000
図18 :ファミリーハウス棟断面計画(4頁C−C断面図)
地階駐車場
図13:トレールA−B
合同ラボ棟
4号館
SNP棟
臨床研究B棟
ヒトゲノム
解析センター
カメラ室
3号館
試験動物
実験センター
1階平面図 1:2500
北門
解剖室
臨床研究A棟
MRI棟
新設病棟
リアニック室
高等変電室
新設病棟
外来診療棟
アムジェン
ホール
2号館
西門
テラス
微気象空間
ゆっくり病棟へ
試験動物
飼育庭園
港区病院バス
ロータリー
テラス
隣接する敷地に
合わせてGPCレベルを上げる
東大医科研附属病院
1号館
A
屋上トレール
ナンテン
病棟へ
瓦礫
病院へ
A
ヒンカミノール
玉砂利
ファミリーハウス棟平面図 1:1000
実習
トレール
擁壁
000
0 6
0
600
微気象空間
休憩
病棟へ
12000
2000
リハビリトレール
スクール
シュンラン
A
トレール
境界マウンド
受付
セキショウ
セキショウ
微気象空間
隣地によい空気
屋内
リハビリ室
EV
スクールへいく
ループ
シバザクラ
B
C
250
受付
管理室
ギボウシ
C
ファミリーハウスへいく
ループ
エントランス
公園から続く
屋外ギャラリー
リビング
芝生広場
受付
境界マウンド
0
650
2000
緩やかなGLレベルに沿って
緩やかな境界をつくる
6500
院内
ギャラリー
B
トレール
演奏会など
スクールへ
図書館
受付
微気象空間
さんぽ
A
境界マウンド
さんぽトレール
正門
B1階平面図 1:2500
B
スクール、リハビリトレール平面図 1:1000
B
ファミリーハウスへ
休憩室
スタッフ
GPC
3000
〃
〃
〃
EVホール
3000
救急室
2000
2500
EV
ベンチ
ール
リトレ
0
1000
0
1000
0
1000
機械室
2500
リハビ
00
3000 30
GPC
作業室
休憩室
教室
C
図書館平面図 1:1000
EV
EV
受付
自動
販売機
6000
6000
実習トレール断面図(A-A) 1:200
300
2200
5000
▼GL30.00
地下駐車スペースへ
トレール
弾性ゴム舗装
600
▼GL28.00
既存病院テラス
土断熱
1100
浅根性高木
15メートル
根鉢900×1000
▼GL27.00
酸素吸機
収納庫
地下貯水槽
▼GL26.00
ボランティア演奏会をひらく芝生広場
地下部駐車スペース
1500
500
500
1500
2700
2200
2700
1500
500
雨水処理溝
▼GL27.00
トレール
レンガ舗装
浅根性高木
15メートル
根鉢900×1000
太陽光発電
トレール
レンガ舗装
▼GL29.00
衛生院アプローチ
300
人工軽量土壌工法
排水マット @24
潅水用パイプ
軽量土
2400
GL23.0
GL22.0
6000
テラス
6000
リ
ネ
ン
室
へ
浴室
ファミリーハウスへ
荷捌室へ
図書館
(書庫)
太陽光発電
植物を利用する
▼GL26.00
石や素材を利用した色彩を利用する
リハビリ作業壁面
ジャカゴ格子登はん2段組
▼GL25.00
▼GL23.00
機械室
1200
4000
作業室
▼GL24.00
1200
C
機械室
トレール
弾性ゴム舗装
▼GL22.00
6000
植物を育てる
ナスタチウム
水周り
コア
休憩室
リハビリ観察台
瓦礫にすむ小動物
貯水槽
地下排水溝
トレール
弾性ゴム舗装
トレール
弾性ゴム舗装
貯水槽
地下排水溝
Fly UP