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観察者と行為者との関係性が観察者羞恥に与える影響

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観察者と行為者との関係性が観察者羞恥に与える影響
観察者と行為者との関係性が観察者羞恥に与える影響
原奈津子
(就実大学教育学部)
キーワード:観察者羞恥,共感的羞恥,羞恥
The Effects of Interpersonal Relationships to Observer Embarrassmen
Natsuko HARA
(Faculty of Education, Shujitsu Univ.)
Key Words: observer embarrassment, empathic embarrassment, embarrassment
目的
「恥ずかしさ」は,自分の欠点や過失について他人の目を
気にする際などに生じ,主として,自分の行動を原因とする。
しかし,自分の行動以外の原因で恥ずかしさを感じることが
ある。典型的な例としては,羞恥行為をした行為者の行動を
みて,行為者以外の人物が恥ずかしさを感じるような場合で
ある。Miller(1987)は、このような羞恥感情を共感性を媒介
とする羞恥感情として位置づけ,共感的羞恥と呼んだ。しか
し,桑村(2010)によれば,人の行為を見て喚起される羞恥
感情とは,必ずしも行為者の感情に共感して喚起するもので
はないとし,
「観察者羞恥」と名付けている。
桑村(2010)は,観察者羞恥の喚起理由には「同類と思わ
れる」
「イメージ低下」
「見てはいけないものを見てしまった」
等,複数の理由があることを示したが,羞恥場面との関係は
不明確であった。また,桑村(2009)は,観察者羞恥場面に
おける観察者と行為者との心理的距離が近くなるほど,羞恥
が喚起されやすいことを示した。
そこで本研究では,観察者と行為者との関係性と,観察者
羞恥の喚起理由や感情内容との関連を検討することを目的と
する。また,羞恥場面の種類による喚起理由や感情内容の差
異も合わせて検討を行う。
方法
調査対象者 私立大学の大学生 166 名(男性 31 名,女性 135
名)
。大学の講義の時間中に質問紙を配布し集団実施した。
調査時期 2012 年 10 月下旬~11 月上旬
質問紙の構成
1. 観察者羞恥場面についての記述(自由記述)
2. 観察者羞恥場面の行為者との関係 観察者羞恥場面の
行為者との関係について回答を求めた。
3. 観察者羞恥場面行為者との心理的距離(5 件法)
4. 観察者羞恥の行為者自身の羞恥の程度の推測(6件法)
5. 観察者羞恥場面における喚起理由 桑村(2010)が用い
た,「自分も同類と思われるから」
「見てはいけないもの
を見しまったと思うから」
「その人の姿を自分に置き換
えると恥ずかしいから」
「姿を置きかえる」
「今まで築き
上げたイメージが下がるから」に,
「その人の気持ちを
考えると恥ずかしいから」を加えた 5 つの喚起理由を設
定した(6件法)
。
6. 観察者羞恥場面での観察者の感情(20 項目,4 件法) 大
学生 4 名と著者により,さまざまな羞恥場面で喚起され
る感情について 20 項目選定した。
7. フェイスシート
結果と考察
観察者羞恥場面の分類と喚起感情の整理 観察者羞恥場面に
ついての自由記述を KJ 法によって分類した結果,
「マナー違
反」
「失敗」温度差行動」
「服装」等の 13 場面に分類された。
また,喚起される感情項目を因子分析した結果,
「羞恥」
「怒
り」の 2 因子を抽出した。
行為者との関係による喚起理由および喚起感情の違い 羞恥
場面の行為者が「家族」
「友人」「見知らぬ人」である場合に
喚起理由がどのように異なるかを検討するために,喚起理由
項目を従属変数とする 1 要因分散分析を行った。
「同類と思わ
れる」の得点について,
「家族」「友人」群の得点は「見知ら
ぬ人」群の得点より,有意水準 0.1%で有意に高いことが明ら
かになった。また,
「姿を置きかえる」の得点について,5%
水準で有意差がみられた。
同様に羞恥場面の行為者が「家族」
「友人」
「見知らぬ人」
である場合に喚起感情がどのように異なるかを検討するため
に,喚起感情の 2 因子「羞恥」
「怒り」の得点を算出し,これ
らを従属変数とする 1 要因分散分析を行った。その結果,
「羞
恥」における「家族」群の得点は「見知らぬ人」群の得点よ
り,有意水準 1%で有意に高いことが明らかになった。また,
「怒り」における「見知らぬ人」群の得点は「友人」群の得
点より,有意水準 1%で有意に高いことが明らかとなった。
観察者羞恥場面による喚起理由および喚起感情の違い 観察
者羞恥場面の種類によって喚起理由や感情がどのように異な
るかを検討するために,関連項目の平均値の差の検定を行っ
た。その結果,
「失敗」や「服装」場面においては「マナー違
反」よりも「見てはいけない」と感じやすく,「マナー違反」
や「温度差行動」では,
「気持ちを考える」という喚起理由が
喚起することが明らかとなった。また,
「マナー違反」や「温
度差行動」では,
「失敗」や「服装」よりも「羞恥」と同時に
「怒り」を喚起しやすいことが明らかとなった。
行為者の関係性と場面との交互作用 行為者の関係性と場面
との交互作用を検討するため,
「マナー違反」
「失敗」場面に
おける行為者が「友人」である場合と「見知らぬ人」である
場合との喚起理由の平均の差の検定を行った。その結果,
「友
人」の「マナー違反」や「失敗」場面のほうが「見知らぬ人」
の時よりも,
「同類と思われる」と感じやすことが明らかとな
った。また,喚起感情についても同様の分析を行った。その
結果,
「マナー違反」場面では,「見知らぬ人」のほうが「怒
り」を喚起しやすいことが明らかとなった。
本研究から,観察者羞恥は,心理的距離の近い行為者では,
周りを気にするような喚起理由により生じ,心理的距離の遠
い行為者では共感的な喚起理由により生じることが明らかと
なった。また,観察者羞恥場面においては、行為者が行為を
コントロールできるものか,偶発的なものかによって喚起理
由や喚起感情が異なることが明らかとなった。また,心理的
距離や羞恥場面などの関連要因の相互作用についても検討す
る必要性が示された。
引用文献 桑村幸恵,日本パーソナリティ心理学会,17(2009)
,
311-313/桑村幸恵,総合政策研究,13(2010)
,53-60./
Miller,R.S(1987).J PSP,53,1061-1069.
謝辞 本研究のデータは,就実大学卒業生・向井健人さんの
卒業研究のデータの一部である。ここに謝意を表します。
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