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ICTを活用した体育科におけるコミュニケーシ ョン能力の育成
実践研究助成 小学校 研究課題 ICTを活用した体育科におけるコミュニケーシ ョン能力の育成 副題 学校名 「体育コミュニケーション向上」 研究グループ 所在地 〒702-8006 職員数/会員数 7名 研究代表者 後藤 岡山県岡山市藤崎721-3 岡山市立操明小学校内 和重 1.はじめに 小学校の各教科においてICT活用がさかんに行われてきて いる。平成17年5月に本研究グループが、岡山県情報教育セ ンターの協力のもと実施した、県内の小学校教員(体育主 3.研究の方法 研究全体の流れを図1に示す。 チームの話し合い時におけるコミュニケーション能力を高 めるために「ディジタルさくせん板」を使用する。 任)対象のアンケート調査(回答231名)によると、体育科 「One Note(マイクロソフト社)」で作成した「ディジタ の授業においては約3割の教員しかICTを活用した経験がな ルさくせん板」(図2)は、ペン入力が簡単にできる、履歴 かった。また、活用事例のうち約7割は、器械運動や陸上運 が残せる、自動的に保存される、動画を貼り付けられるとい 動の授業の中で、運動をビデオ撮影し見本と比較して課題を 見つけ、記録向上に役立てるといったものであった。しかし、 チームのコミュニケーションを高めようとする授業の実践は なかった。 「小学校学習指導要領体育編(文部省平成11年5月)」1) によると、コミュニケーション能力を必要とする協力の態度 を育てることが述べられている。さらに、「情報教育の実践 と学校の情報化(文部科学省平成14年6月)」2)によると、 体育科の授業と情報活用能力との関係においてコミュニケー ションを図る能力の必要性が述べられている。 そこで本研究では、チームで作戦を話し合うボールゲーム の学習に焦点を当て、ICTを活用することで、コミュニケー ション能力を高めることができるという新たな体育科での ICT活用の有効性を実証したいと考えた。 2.研究の目的 チームの話し合いの中でディジタル化した作戦板(以下、 「ディジタルさくせん板」)を活用することが、作戦を考え ていく時のチームの話し合いを活発化させ、共通理解を図り やすくし、チーム内のコミュニケーション能力を高めるため に有効であるかどうか授業実践し検証する。 84───第32回 実践研究助成 図1 研究計画 図3 図2 ハンドボール単元計画 「ディジタルさくせん板」の各モード 小学校 った特長があり「お手本モード」「さくせん板モード」「しあ いモード」「練習モード」「結果モード」が入力されている。 この「ディジタルさくせん板」を次のような方法で活用する。 ・「お手本モード」から情報を収集・選択・判断することで、 どのようなパスやシュート、アタックができるようにな ればチームの勝利に貢献できるのかとらえやすくする。 ・自分たちで考え履歴として残った作戦が入力された「さく せん板モード」から情報を収集・選択・判断・表現・処 図4 ソフトバレーボール単元計画 (3) 授業の実際 理・創造することで、チームが勝つためにはどのような作 ハンドボールでは全時間、ソフトバレーボールでは単元の 戦を使ったり立てたりしたらよいか話し合いやすくする。 第5時から第7時までの時間に「ディジタルさくせん板」を ・教師がビデオ撮影し「ディジタルさくせん板」に取り込ん 活用した。1単位時間において、図5に示すような流れの学 だ「しあいモード」や「練習モード」から情報を収集・選 習活動を行った。 択・判断することで、作戦立案や練習の仕方について話し 合いやすくする。 ・「結果モード」から過去の対戦の様子を振り返ることがで きるようにすることで、作戦について話し合いをしやすく する。 4.研究の内容と経過 「ディジタルさくせん板」を活用することで、チームの話 し合い時における三つのコミュニケーション能力(発信内容 の明確化、発信・受信内容の理解、発信・受信内容の相互理 解)を向上させることができるかどうか二つの授業を実践し 検証を行った。 (1) 対象 小学校第5学年1クラス(ハンドボール)、小学校第4学 年1クラス(ソフトバレーボール) (2) 単元計画 ハンドボールでは、「ディジタルさくせん板」活用1時間 目と3時間目の比較、ソフトバレーボールでは、活用無しを 3時間、活用有りを3時間実施したものの比較で、ICT活用 図5 1単位時間の学習活動の流れ 写真1、写真2はソフトバレーボールの実践であり、「デ ィジタルさくせん板」を用いて話し合いをし、試合で作戦を 実行している様子である。 尚、ハンドボールではタブレットPCを、ソフトバレーボ ールではノートPCを使用した。 (4) 事前・事後意識調査及び考察 「作戦を考えられたか。」「チームの友だちに自分の作戦を がコミュニケーション能力向上に有効かどうか検証を行う。 伝えようとしたか。」「チームの友だちの作戦をしっかり聞い (図3、図4) たか。」「友だちの作戦をよく聞いて自分の考えを言った か。」という質問項目で事前・事後の意識調査をした結果が 図6、図7である。 第32回 実践研究助成───85 ハンドボール、ソフトバレーボール共に、四つの質問項目 すべてで、「はい」と「少しはい」を合わせた肯定的な回答 が、事後調査で8割を超えている。チームの話し合いの時、 伝えたい内容を持ち、伝えようとする意識、友だちの話をし っかり聞こうという意識、友だちの意見をよく聞いて自分の 考えを持ち答えようとする意識が高まったと考えられる。 (5) 「ディジタルさくせん板」活用と抽出チームの逐 語記録との関係 図8、図9は、抽出チームの作戦話し合い時の逐語記録 写真1 ソフトバレーボール話し合い風景 (一部抜粋)である。ハンドボールでの「ディジタルさくせ ん板」活用1時間目では「C5、ちゃんととれよ。」に対し てC5は「反応無し」、ソフトバレーボールでの活用無し時 では「C4ちゃんが後ろ。」に対してC4は「反応無し」など 話し合いの視点をチームのメンバー同士で持てていない様子 が見られる。また、ハンドボールでの活用3時間目では「じ ゃあこいつにパスされたら。」に対して「そしたらこの近く にいるやつがマークする。」、ソフトバレーボールでの活用有 り時では「でもそしたらこのへんねらわれるよ。」に対して 「そしたらわたし、このへんにいく。」などチームのメンバ ーそれぞれが具体的な動き方についての視点で話し合いがで 写真2 ソフトバレーボール試合風景 きるようになっている。これは、「ディジタルさくせん板」 から作戦立案に必要な情報を収集・選択・判断したことで、 発言内容を明確に持ち、発言し合えるようになったためと考 える。 5.研究の成果と今後の課題 ハンドボールでの「ディジタルさくせん板」活用1時間目 及びソフトバレーボールでの活用無しの時には、必要な情報 が不足していたために話し合いは活性化していなかった。し かし、「ディジタルさくせん板」で情報を収集・選択・判断 し作戦を立て、作戦の成否を振り返る活動を重ねていくと、 作戦立案のポイントをとらえることができるようになった。 つまり発信内容を明確に持ち、聞くポイントを理解できるよ 図6 ハンドボール意識調査 うになった。そして、作戦を成功させ試合に勝つためにはメ ンバーのチームワークをよくしなければいけないという意識 が生まれ、発言する者も聞く者も、相互に理解し合おうとし た。このように、発信内容の明確化、発信・受信内容の理解、 発信・受信内容の相互理解が向上していくと、話し合いが活 性化し、作戦数も増え作戦の質も高まった。 つまり、ディジタル化した作戦板を活用し必要な情報を収 集・選択・活用することは、コミュニケーション能力を高め るのに有効であることが分かった。 今回ハンドボールの実践でしかタブレットPCを使用する ことができなかった。直感的に操作できるタブレットPCを 使用することは、さらにコミュニケーション能力向上に有効 ではないだろうか。今後の体育科でのコミュニケーション能 力向上に向けたICT活用として探っていきたい。 図7 ソフトバレーボール意識調査 86───第32回 実践研究助成 小学校 図9 図8 ソフトバレーボール抽出チーム逐語記録 ハンドボール抽出チーム逐語記録 6.おわりに はないだろうか。今後、体育科においてこの作戦板などの ICTを活用した児童のコミュニケーション能力向上に向けた 本研究において学校体育における多くのボールゲームの運 実践が広くなされていくことを期待したい。 動領域ですぐに活用できるように、「ハンドボール」 「バスケ ットボール」「ソフトバレーボール」 「サッカー」の四つの運 参考文献 動領域についてのディジタル化した作戦板を開発し、授業公 1)文部省:小学校学習指導要領体育編、1999 開や実践発表、Web配信などで普及活動を行った。本研究を 2)文部科学省:情報教育の実践と学校の情報化~新「情 通してコミュニケーション能力を高めることができるという 報教育に関する手引き」~、2002 新たな体育科でのICT活用の有効性を示すことができたので 第32回 実践研究助成───87