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中唐の骸然 『詩式』 の通行本には、 一 巻本と五巻本の一 一種類があ る
つ、検討を加えてみたい。 大 立 智砂子 主として陶淵明の別集・﹃文選﹄・﹃重文類衆﹄等の記載と比較しっ 現行の別集とは題名を異にするものが数首ある。これら十四首を、 陶淵明詩を考察の対象とした。﹃詩式﹄所引の陶淵明詩は十四首あ-' 五巻本瞭然﹃詩式﹄所引陶淵明詩について 一㌧ はじめに 中唐の瞭然﹃諸式﹄ の通行本には'一巻本と五巻本の二種類があ る。そして五巻本には'何文喚﹃歴代詩話﹄ に収められた一巻本に を用い'李壮鷹﹃詩式校注﹄(人民文学出版社'二〇〇三年)を参照 ﹃詩式﹄ の底本には、清・陸心源の十寓巻楼叢書の五巻本﹃詩式﹄ る。引用された詩は、瞭然が自らの試論を展開するのに用いた先例 した。本稿では'まず﹃詩式﹄所引の陶淵明詩を示した。全部で十 は掲載されていない'数多-の詩句およびタイトルが収められてい の数々に他ならないが'引用された詩人数は、三百人を超えてお-、 四首である。次に、別集および﹃文選﹄、﹃重文類緊﹄等、校合に用 o 引用された詩句もまた膨大である。輿膳宏「唐代詩論における映然 いた書物の巻数、題名等を示した。ここに示す別集の題名・順序は' 汲古間本に拠る。次に、﹃詩式﹄との異同を'別集等と比較して示し (3) 詩式」 (﹃中国文学報﹄第五十五冊、一九九七年十一月) に指摘され ているように、既存の別集・総集類に未収の侠詩も含まれてお-' た。( )内は諸本に引かれた注釈である。各項目の末尾には、異同 (2) 資料価値のある一書といえるだろう。また'侠詩でな-とも、引用 についての簡単な注記を附した。 に注記を加えないこととした。 五五 た、意味の近似する互換性の高い文字については'繁雑を避け特別 なお、詩句中にしばしば見られる、「採」「宋」や「遊」「瀞」といっ された詩のなかには、通行の別集に所収の作品と校合すると、文字 やタイ-ルに異同のあるものがあり、校本としての価値もあるとみ なされる。 そこで本稿では、もっぱら五巻本﹃詩式﹄ に見ることのできる、 五巻本瞭然﹃詩式﹄所引陶淵明詩について 二'﹃詩式﹄所引の陶淵明詩の異同 (AV 飲酒詩 ﹃詩式﹄に引用された「飲酒」と題される陶淵明の詩は'計四首あ ‖ ‖ ‖ = ‖ = 川 = 刀 I る。しかし、四首のなかで巻一に引かれる「山気日夕佳」詩は'﹃文 = 選﹄では「難詩」に作っている。 け ①﹃詩式﹄巻一陶漕「飲酒」︰山気日夕任,飛鳥相輿還。地利有翼 意.欲排己忘言。 別集巻三 飲酒二十首其五/﹃文選﹄難詩下 難詰二首其一 五六 ※﹃重文類宋﹄巻六十五は'「宋陶潜兼寿日」として'「結庭在 人境ー而無車馬喧。問君何能爾,心遠地自偏。採菊東証下, 悠然望南山。」句を引-。﹃詩式﹄引用句は、現行の陶淵明別 集における、「悠然望南山」に続-四句である。 抑「任」 ﹃詩式﹄/胡刻本・集注本・陳八郎本/蘇写本・李公換 本・何孟春本・黄文換本・呉塘春本・陶樹本 1「嘉」 汲古閣本・湯漠本 例「中」 ﹃詩式﹄/湯漠本(l作還)・蘇写本(1作還)・李公喚 本・何孟春本・黄文換本・呉暗泰本・陶樹本 1「還」 胡刻本・集注本・陳八郎本/汲古閣本(一作中)/ ﹃韻語陽秋﹄巻十二 「飲酒」と「薙詩」というタイ-ルは、別集と、﹃文選﹄・﹃重文類緊﹄ ∽「飲酒」 ﹃詩式﹄/汲古間本・湯漠本・蘇写本・李公換本・何孟 春本・黄文喚本・呉曙泰本・陶樹本/※﹃韻語陽秋﹄巻十二、 ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ 伺「其」 ﹃詩式﹄/汲古閣本〓作寄)・湯漠本・蘇写本・呉暗泰本 別集巻三 飲酒二十首其八 異類,卓然見高校。 ②﹃詩式﹄巻二 陶潜「飲酒」︰青松在東園.衆草没其姿。凝霜珍 「飲酒」 二十首の第五首である。 とでしばしば異なっており、この詩もその一つである。別集では、 ヽ J- (※東城題蚊) ヽ ヽ 1「薙詩」 胡刻本・集注本・陳八郎本 (* ﹃重文類宋﹄巻六 十五) ヽ ※﹃韻語陽秋﹄巻十二 其作飲酒詩、則日︰「宋菊束寵下ー悠然 ヽ ヽ 見南山。此中有最意.欲耕巳忘言.」 ※東坂題抜「題淵明飲酒後」に「採菊東証下,悠然見南山。」を 引く。 (1作者)・陶樹本(1作寄)/﹃容斎随筆﹄巻十二 1「寄」 李公換本・何孟春本・黄文換本 ↓= ③﹃詩式﹄巻二 又ー「飲酒」︰義農去巳久,翠世少復賞。汲汲魯中 R 里,弼縫便其清。云云o若復不快飲.V恐負頭上巾。但恨多謬誤ー 君営恕酔人。 別集巻三 飲酒二十首其二十 帥「己」 ﹃詩式﹄/黄文換本 1「我」 汲古閣本・湯漠本・蘇写本・李公換本・何孟春本・ 呉轄泰本・陶樹本 ヽ ※束妓題蚊に「書淵明義農去我久詩」とある。 ㈲「恐」 ﹃詩式﹄ のみ 1「空」 汲古間本・湯漠本・蘇写本・李公換本・何孟春本・ 黄文換本・呉暗春本・陶樹本 ヽ と久し-」となる。ともに'意味は通じる。 ヽ 「恐負頭上巾」と「恐」に作っているのは、﹃詩式﹄ のみである。 別集は'「空負頭上巾」に作ってお-、「恐」に作ったという注も見 当たらない。「恐」に作った場合「頭上の巾に負-を恐る」と読み、 (もし侠欽しなければ、) 頭上の巾に負-ことになってしまう、とな る。 十- ④﹃詩式﹄巻三 陶潜「飲酒」︰清展開叩門ー倒裳往自閉。云云。濫 績節箸下,未足矧幽樹。一世皆尚同ー願君泊其泥。 別集巻≡ 飲酒二十首其九 ㈲「幽棲」 ﹃詩式﹄ のみ 1「高栖」 汲古閣本・湯漠本・蘇写本・李公換本・何孟春 本・呉幅泰本・陶樹本 1「高楼」 黄文換本/東披選抜 は、「巳」字が'伝写の過程で「己」とな-、意味の通じる「我」と る.これについては'少なくとも二つの可能性が考えられる。一つ 棲」または「高栖」としている。また「濫」「節」は、別集では「鑑」 集類および、別集に附されている注釈にもみられない。どれも「高 にも未収録である。「未足鵠幽棲」と「幽棲」に作るテキスーは、別 ヽヽ この詩は、﹃文選﹄に収められておらず、﹃重文類衆﹄・﹃初学記﹄ なったこと。または元来「我」 であったのが、筆写の過程で「己」 「茅」に作っている。東城選抜「録陶淵明詩」にこの詩全句を引-が' 「義農去己久」 について。﹃詩式﹄と黄文換本は 「己」 に作ってい とな-'字画の似た「己」となったこと、である。「己」の場合「義 やは-「高棲」「鑑」「茅」に作る。 五七 農 去ること巳に久し-」とな-、「我」の場合「義農 我を去るこ 五巻本瞭然﹃詩式﹄所引陶淵明詩について (BV 擬古 J- ①﹃詩式﹄巻二 陶潜「擬古」︰誰言行瀞近,張液至幽州。飢食首陽 ∼ ‖ ︰ 夜,渇飲易水流。--路達南高填,伯牙輿荘周。此士難重(一作 再) 得,君行欲何求。 別集巻四 擬古九首其八 例「重」 ﹃詩式﹄ のみ 1「再」 汲古閣本・湯浜本・蘇写本・李公換本・何孟春本・ 黄文換本・呉轄泰本・陶樹本 桝「君」 ﹃詩式﹄ のみ -「吾」 汲古閣本(I作雷)・湯漠本・蘇写本・李公換本・何 孟春本・黄文換本・呉曙春本・陶樹本 ヽ b= 五八 ②﹃詩式﹄巻一二 陶潜「擬古」︰種桑長江達.三年望普乗。枝候始欲 茂,忽植山河改。云云。本不柏高原,今日復何悔。 別集巻四 擬古九首其九 伺「植」 ﹃詩式﹄ のみ 1「値」 汲古閣本・湯漠本・蘇写本・李公換本・何孟春本・ 黄文換本・呉鱈泰本・陶樹本 タイール、詩句ともに、ほとんど異同はない。「植」 については、 「値」字と似ているため誤ったのであろうか。「宋」は、﹃詩式﹄以外 ヽ ヽ は「採」に作る。「山河」については'汲古間本・蘇写本が、「一作 川」と注している。 (cV 詠剃珂 ﹃詩式﹄巻二 又,「詠別封」︰燕丹善養士,志在報弱義。--君子死 ヽ である。﹃文選﹄はこの詩を採っていない。別集では、どれも「吾行 知己,提創出燕京・・・-飲鰻易水上! 四座列華英.漸離悲撃筑,宋意 最終句を「君行欲何求」と「君」に作っているのは、﹃詩式﹄のみ 欲何求」と「吾」に作る。ただ、汲古閣本の注に「一作君」とあ-、 唱高聾。粛斎京風逝ー淡淡寒波生。商音更流沸,羽奏壮士驚Q云云。 佃「悲撃筑」 ﹃詩式﹄ のみ 別集巻四 詠別封/﹃重文類衆﹄巻五十五・雑文部・史伝 叶= ﹃詩式﹄が「君行欲何求」に作るのを、単に﹃詩式﹄の誤-とするこ 惜哉剣術疎ー奇功遂不成。其人久己没.千載有徐情。 ヽ とはできないであろうO「此士難重得」 について、﹃詩式﹄ に「l作 再」とわざわざ注してあるのも、興味深い。「重」字と「再」字、二 種類が通行していたのであろうか。しかし、別集は全て「再」に作っ てお-、注にも「重」字に言及するものは見られない。 1「撃悲筑」 汲古閣本・湯漠本・蘇写本・李公換本・何孟春 本・黄文換本・呉曙春本・陶樹本 国「其人久巳没,千載有鎗情」 ﹃詩式﹄/﹃重文類衆﹄ (DV 挽歌・擬挽歌静 ネ = L = = レ = = ①﹃詩式﹄巻二 陶潜「挽歌」︰向乗相送入.各巳還其家ー親戚或 徐悲,他人亦巳歌。 別集巻四 擬挽歌鮮≡首其三/﹃文選﹄挽歌詩/﹃楽府詩集﹄ 1「其人雄巳没ー千載有鎗情」 汲古間本(一作斯人久己没,千 載有深情)・湯漠本・蘇写本(一作斯人久巳没ー千載有深 巻二十七・相和歌鮮 挽歌三首其一/﹃初学記﹄巻十四・挽 春本・陶樹本/﹃初学記﹄・﹃楽府詩集﹄ 伺「挽歌」 ﹃詩式﹄/胡刻本・集注本・陳八郎本/何孟春本・呉轄 歌/﹃太平御覧﹄巻五五二・挽歌 情)・李公換本・何孟春本・黄文換本・陶樹本 -「其人雄巳毅,千載有鎗情」 呉曙泰本(其一作斯,維一作久! 徐1作深) 「君子死知己」の「君」字について。汲古閣本・湯漠本・蘇写本は 集﹄・﹃太平御覧﹄ 1「韓」 胡刻本・集注本・陳八郎本/﹃初学記﹄・﹃楽府詩 本・呉暗春本・黄文換本・陶樹本 研「還」 ﹃詩式﹄/汲古間本・湯漠本・蘇写本・李公換本・何孟春 1「亦」 ﹃初学記﹄・﹃太平御覧﹄ 1「以」 ﹃楽府詩集﹄ 〓作巳) 換本・何孟春本(一作己)・黄文換本・呉塘泰本・陶樹本 -「自」 汲古間本(一作巳)・湯漠本・蘇写本(一作巳)・李公 国「巳」 ﹃詩式﹄/胡刻本・集注本・陳八郎本 換本 1「挽歌鮮」 ﹃太平御覧﹄ ヽヽ ヽ 「一作之」とする。陶樹本は、「湯本云,一作之」とする。また、「粛 ヽ -「擬挽歌鮮」 汲古間本・湯漠本・蘇写本・李公換本・黄文 ヽ ヽ 粛京風逝」 の「逝」字について、汲古閣本・湯漠本・蘇写本は「1 ヽ ヽ ヽ 作起」とする。陶樹本は'「湯漠云! 1作起」とする.「淡淡寒波生」 ヽ の 「淡淡」 について'呉轄泰本は 「涯涯」とする. ヽ 「悲撃筑」としているのは、﹃詩式﹄のみである。別集は「撃悲筑」 ヽヽ に作る。別集の注にも、「悲撃筑」 に関する言及はみられない。 ヽ 「其人久己没,千載有飴情」は、現行の別集は「其人雄巳没,千載 ヽ 有飴情」に作っている。﹃詩式﹄と同様「久」 に作っているのは、 ヽヽ ﹃重文類衆﹄だけである。また'別集注の「一作斯人久己没,千載有 ヽ 珠情」もまた'﹃詩式﹄・﹃聾文類衆﹄と同じ-「久」に作っており、 「斯」もまた「其」に字形が似ている点を指摘できよう。「千載有徐 情」を「深」 に作っているものは、管見では見られなかった。 五巻本絞然﹃詩式﹄所引陶淵明詩について サ = ^ = ^ ^ = * 蝣 ②﹃詩式﹄巻三叉,「擬挽歌」︰在昔無酒飲,今旦湛空鯵。春酵生浮 桝= 蟻.何時復能嘗。 別集巻四 擬挽歌辞三首其二/﹃楽府詩集﹄巻二十七・相和 歌鮮 挽歌三首其≡ 例「擬挽歌」 詩式のみ 1「擬挽歌辞」 ﹃詩式﹄/汲古閣本・湯漠本・蘇写本・李公換 本・何孟春本・黄文換本・呉塘泰本・陶樹本 ヽヽ ヽヽ 六〇 春本には、「今旦二作但)港(一作恨)空腸」とある。「但」字お よび「恨」字に従えば、「今但恨空腸」 (今は但だ空腸を恨むのみ) となる。 「何時復能嘗」について。別集に「復」字作るテキス-は見られな ヽ い。汲古間本・湯漠本・蘇写本の注によ-、﹃詩式﹄のように「何時 復能嘗」に作ったものが存在したことが分かる。上述「旦」ととも に、こうした文字異同は'単なる伝写の誤-でな-'現行の別集と は些か異なるテキスーに拠っていた可能性も考えられよう。 陶淵明の所謂挽歌は'三首連作とされ、別集では三首が並べられ 倒「今旦」 ﹃詩式﹄/呉轄春本(l作但) 1「今但」 汲古閣本(I作且)・湯漠本(l作旦)・蘇写本・李 ている。陶樹の指摘のように'別集はほぼすべて「擬挽歌鮮」とす 挽歌詩 三首 呉曙泰、陶樹 挽歌静 三首 何孟春 換注' 擬挽歌鮮 三首 汲古間本、蘇写本'湯漠注、李公換注'黄文 :Cサ'J 公換本・何孟春本(今但一作但恨ー非)・黄文換本・陶樹本 (湯本云,1作旦) /﹃楽府詩集﹄ (1作但恨) 佃「復」 ﹃詩式﹄ のみ 1「更」 汲古間本(一作復)・湯漠本(一作復)・蘇写本(一作 復)・李公換本・何孟春本・黄文換本・呉曙春本・陶樹本 (湯本云ー一作復) /﹃楽府詩集﹄ ヽ 「今旦湛空腸」 について。﹃詩式﹄と呉曙春本は「今旦湛空腸」 に 「擬挽歌辞」につ-らない何孟春・呉暗泰・陶樹は、すべて旧来の別 ヽ 作る。その他の別集は、「但」 に作る。汲古閤本と湯漠本は、「1作 集本が「擬挽歌鮮」に作ることに言及したうえで、「挽歌」に改めて ヽ 旦」とあ-'﹃諸式﹄および呉轄春本のように「今旦湛空腸」に作る いる。何孟春注には、「集奮作擬挽歌辞,非。」(集、奮擬挽歌節に作 I-J・・rI テキストの存在を示している。また、﹃楽府詩集﹄の注および何孟春 る、非な-) とある。また陶樹は「諸本作擬挽歌辞。文選作挽歌詩, ヽヽ 注によ-、「但恨湛空賜」に作るものがあったと分かる。また、呉曙 輿之倶。 別集巻四 讃山海経十三首其1/﹃文選﹄雑詩下 請山海経 無擬字。今仇之。李本有三首字。」 (諸本擬挽歌辞に作る。文選挽歌 詩に作-、擬字無し.今之に払う。李本三首の字有-) と述べてい 詩 ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ -「樋」 胡刻本・集注本/何孟春本 本・黄文換本・呉曙泰本・陶樹本(文選作樋) 旧「摘」 ﹃詩式﹄/陳八郎本/汲古閣本・湯漠本・蘇写本・李公換 樹本 (各本作然。文選作言) -「言」 胡刻本・集注本・陳八郎本/呉轄泰本(一作然)・陶 本(然一作言)・黄文換本 倒「然」 ﹃詩式﹄/汲古閣本・湯漠本・蘇写本・李公換本・何孟春 る。何孟春・呉暗泰・陶樹は、もともと 「擬挽歌辞」となっていた のを改め、「挽歌」としているのである。つま-、もと別集は全て 「擬挽歌節」 であったことがわかる。 一方、﹃文選﹄ では、別集の其三「荒草何荘荘」詩が、「詩」戊の 楽府下と雑歌の間の「挽歌」に収められている。﹃文選﹄所収の陶淵 明挽歌は一首のみである。﹃文選﹄ では、集注本・胡刻本・陳八郎 ヽ 本・足利本・茶陵本'すべてが「挽歌詩」としている。また、六臣 ヽ 注および陸善経注ともに陶淵明の 「挽歌」というタイ-ルに対する コメンーは、見られない。 文選集注の陶淵明「讃山海経」題下注に「陸善経日,集有十首, 此第一,序其讃之意也」とあ-、陸善経の見た別集では、「讃山海経」 と題する詩が十首であり、この詩が'その第一首であったことがう ﹃文選﹄所引の「荒草何荘荘」詩は、「挽歌」という題名で、﹃文 選﹄﹃初学記﹄﹃楽府詩集﹄に見られるoしかし、陶淵明詩を指して かがわれる。現行の別集は十三首となっている。 ヽ ことはできない。 ヽ ヽ ヽ ヽ 六一 宋・周紫芝﹃竹攻詩話﹄には、「-淵明諌山海経詩有﹃形天舞千歳, ヽ れる。その他の詩については、当時いかなる形であったのかを知る 三十に引かれてお-、一首の形を比較的完全に残していると考えら 「讃山海経」十三首のうち'其一「孟夏草木長」詩は'﹃文選﹄巻 「擬挽歌」 の名称を使用しているのは、﹃詩式﹄が最も早いようであ る。一方、別集第二首目の「在昔無酒飲」詩は'﹃文選﹄や'﹃聾文 類衆﹄ ﹃初学記﹄等の類書にも引用されていない。 (EV 謹山海経 ﹃詩式﹄巻二 又,「讃山海経」︰孟夏草木長,達屋樹扶疎。衆鳥欣有 託,吾亦愛吾庭。 歓矧酌春酒. U矧我園中読。微雨従東来.好風 五巻本瞭然﹃詩式﹄所引陶淵明詩について ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ ヽ 猛志固常在﹄之句-」とあ-、現行別集の第十首への言及がみられ ヽ ヽ る。また宋・周必大﹃二老堂詩話﹄陶淵明山海経詩には、「然靖節此 ヽ 題十三篇,大概篇指一事。如前篇終始記奪父,則此篇恐専説精衛衝 木填海,無千歳之毒.而猛志常在,化去不悔。」とあ-、周必大の見 回「迩」 ﹃詩式﹄/胡刻本/呉曙春本・陶樹本 六二 -「蹟」 陳八郎本/汲古間本(一作迩)・湯漠本・蘇写本・李 公換本・何孟春本・黄文換本 いることは、陶樹によっても指摘されているが、最初の 「始」字を ﹃詩式﹄では、「姶」 1字を欠-。﹃文選﹄が題末「作」字を欠いて 前篇終始記李父」ということから'「刑天」について書かれた詩の前 欠-ものは見られない。﹃詩式﹄では、題名が長い場合、短-省略す ていた 「謹山海経」詩が、十三首であったことがわかる。また「如 に、「李父」についての詩があったとがわかる。現行別集では第九首 ることがしばしばあるので'あるいは、「始」「作」 二字を省略した -「汎」 胡刻本・集注本/汲古閣本・湯漠本・蘇写本・李公 側「迂」 ﹃詩式﹄/陳八郎本/東坂選抜 ※東披選抜 「題淵明詩」とし、十句全てを引-。 本・黄文旗本・呉暗泰本・陶樹本 1「飲酒」 汲古閣本・湯漠本・蘇写本・李公換本・何孟春 伺「雑詩」 ﹃詩式﹄/胡刻本・集注本・陳八郎本/﹃重文類衆﹄ /﹃蛮文類衆﹄巻六十五・産業部上・園 別集巻四 飲酒二十首其七/﹃文選﹄難詩下 難詩二首其二 遠我遺世情。 S= ﹃詩式﹄巻二 又ー「矧謝」︰秋菊有佳色,真露援其英o (矧此忘憂物, (G) 雑詩 のかもしれない。 目である。 蘇写本は'「謹山海経十二首」に作っている。しかし、実際に載せ ている詩は十三首である。 (FV 作銭軍参軍経曲阿 ﹃詩式﹄巻二 又,「作鋸軍容軍産曲阿」︰望雲漸高鳥ー臨水塊鮮魚. ﹃ 星想初在襟,誰謂形迩拘。 別集巻三 始作鍍軍参軍経曲阿/﹃文選﹄行旅上 始作鏡軍 容革経曲阿作 研「作銭軍参軍経曲阿」 ﹃詩式﹄ のみ 1「始作鋸軍容軍産曲阿作」 胡刻本・集注本・陳八郎本/陶 樹本(文選曲阿下有作字。各本無。) -「始作鏡軍参軍経曲阿」 汲古間本・湯漠本・蘇写本・李公 換本・何孟春本・黄文換本・呉暗春本 換本・何孟春本・呉轄泰本(一作況)・陶樹本/﹃重文類衆﹄ 1「況」 黄文換本 S「遺」 汲古閣本(一作達)・湯漠本・蘇写本・李公換本・何孟春 本(遺一作違。非是)・黄文換本・呉轄春本(一作違)・陶樹 本(文選作達。一作違)/東披題版 1「達」 胡刻本・集注本・陳八郎本 別集では'この詩は'すべて「飲酒」にしている。「難詩」に作って いるのは、﹃文選﹄ ﹃重文類衆﹄﹃詩式﹄ である。しかし、「遺」字に ついては、﹃文選﹄が「達」字に作っているのに従っていない。 ㈲「展興」 汲古閣本(一作侵農)・湯漠本(一作侵農)・李公換本・ 何孟春本(一作侵農)・黄文換本・呉暗泰本・陶樹本(湯本云! 一作侵農)/﹃蛮文類衆﹄ -「侵農」 蘇写本 ヽ 「帯月荷鋤韓」 の 「帯」字について、汲古閤本・湯漠本は注して ヽヽ ヽヽ 「l作載」とするo陶樹本は「湯本云,l作載」とする。 ヽヽ 陶樹本をはじめ、現行の諸注本は「蹄園田居」に作る。﹃詩式﹄で は、「田園」としている。李公換本は、第六首末尾に韓駒(子蒼)の 言葉を引-0 ヽヽ 淵明「田園」六首!未篇乃序行役ー輿前五首不類。今俗本乃取 (HV 田園 ﹃詩式﹄巻三 陶潜「田園」︰種豆南山下,草盛豆苗稀。農興理荒税, 江掩〟種苗在東皐″馬末篇,東坂亦因其誤和之o陳述古本止有 五首.予以馬皆非也,菖如張相国本題烏「雑詠」六首。江掩 帯月荷鋤蹄。 別集巻二 蹄園田居六首其三/﹃重文類衆﹄巻六十五・産業 「雑擬詩」亦願似之,但「開径望三益」此一句不類。 俗本乃ち江掩「種苗在東皐」を取-て末篇と為し'東被も亦た 淵明「田園」 六首、末篇乃ち行役を序し、前五首と類せず。今 部上・田 H「田園」 ﹃詩式﹄ 1「蹄園田屠」 汲古閣本・湯漠本・蘇写本・李公換本・何孟 其の誤に因-て之に和せ-。陳述古本止だ五首有るのみ、予以 て皆非と為すなり、雷に張相国本の如-題して 「薙詠」六首と 春本・呉轄泰本・陶樹本 -「韓園田」 黄文換本 烏すべし。江掩「雑擬詩」亦た頗る之に似'但だ「開径望三益」 六三 1「薙詩」 ﹃嚢文類衆﹄ 五巻本瞭然﹃詩式﹄所引陶淵明詩について -'「田園」を使用している。あるいは'何か理由があるのかも知れ ない。しかし﹃詩式﹄及び韓駒の言葉では、どちらも「園田」でな 上記の 「田園」というのは'あるいは「韓園田居」 の省略かもしれ 間君亦何番, 椎子候糖隙。 蹄人望煙火, 路閣光己夕。 日暮巾柴草. 濁酒聯自適。 維有荷鋤倦, 甫生満陣隔。 百年 曾ず役有-。 君に問う 亦た何をか為すと、 椎子 櫓隙に候つ。 婦人 煙火を望み、 路閤-して光己に夕べな-。 日暮 柴草を巾い、 濁酒 柳か自ら適す。 鋤を荷うに倦むこと有りと雄も、 苗生じて陣階に満つ。 此一句額せず。 ない。黄文換﹃陶詩析義﹄は「蹄園田」としており'「居」字を欠- 百年含有役。 但だ願う 桑麻成-て、 ヽヽ 韓駒はまた、第六首に関する指摘と、タイトルに関する指摘をし おお が、「園田」 である。 但願桑麻成, 慧月 紡績するを得んことを。 IS四 : c x ている。韓駒のいう「末篇乃叙行役,輿前五首不類」が指している 慧月得紡績。 素心 正に此の如し' ヽヽ 詩については'不明である。陶樹は、「文通此詩.載在文選,其不普 素心正如此I 蓮を開きて三益を望む。 ヽヽ 入陶集甚明。惟子蒼以田園六首I末首乃叙行役.不知所指何篇。張 聞達望三益。 韓駒の言葉から、次の四つのことが分かる。①陶淵明「田園」六首 BXSX5 相囲本ー今亦未見。識以侯考。((江) 文通の此詩、載せて文選に在 子蒼の田園六首、末首乃ち行役を叙するを以てするは、指す所何れ は、末篇は行役を詠じ、他の五首とは異質の作品である。②俗本は' り、其れ昔に陶集に入るべからざるは甚だ明らかなり。惟だ (韓) の篇なるかを知らず。張相囲本、今亦た未だ見えず。識して以て考 江掩「雄健詩」を其六として採っている。③張相国本では、「雑詠」 首と異なっていた上、両者が似ていたが為に'江掩の 「難鰭詩」が によ-似ていたことがうかがえる。「田園」末篇が行役を詠じ他の五 ①④から、行役を詠じた淵明の「田園」末篇が、江滝の「雄健詩」 -似てお-'末尾の句「開逗望三益」 のみが異なっている。 六首としている。④江滝の 「難題詩」は、また淵明の詩に非常によ を侯つ。)」としている。 江文通の「種苗在来皐」とは、﹃文選﹄薙擬所収の江掩「薙腰詩」を 指している。江掩「雑鰹詩」を以下に挙げる。 種苗在東泉, 苗を種えて東泉に在-、 現行の陶淵明集諸本はすべて「和郭主簿」 に作る。一般に、主簿 の官職にある 「郭」氏の詩に唱和した詩、と解釈されている。しか 陶淵明集に入れられた、と考えることもできるQまた、そもそも韓 駒の見ていた「田園」末篇が、既に陶淵明集に入れられた'江掩「難 とするのは、諸本にみられない記載である。これに拠れば 「謝・郭 し、「郭主簿」については、未詳である。﹃詩式﹄が「和謝郭二主簿」 張相国本は、現在見ることができない。また、現行の別集で 「薙 二主簿に和す」と解釈され、主簿の職にある謝氏・郭氏という二人 膿詩」 の異文であった可能性もあるだろう。 詠六首」にしているものもないので、確認することができない。﹃重 の詩に唱和したことになる。しかし、やは-謝主簿・郭主簿につい ヽ 文類緊﹄は、其三を引き「難詩」と題している。あるいは、張相国 ての手がか-は見つからない。陶淵明詩に、「示周績之・租企・謝景 ヽ 本が「雑詠」としている事と、何らかの関係があるのかもしれない。 夷三郎」詩に「謝景夷」なる人物が見えるが'謝景夷がいかなる人 らない。汲古閣本・湯浜本等に、「和郭主簿」下に「二首」の二文字 物であったか分からず'彼が主簿の職にあったかどうかなども分か を載せる。末尾の注に「或云,此篇江掩薙擬,非淵明所作」とある。 があるので、字句が混同している可能性がある。別集には見られな 汲古閣本では、「蹄園田居六首」とし、六首目に所謂江掩「雑膿詩」 湯漠本では、「蹄園田居六首」としているが、実際には五首のみ収載 い異同である。 フ 六五 えられる。また'「雑詩」「飲酒」「田園」のタイールについては'別 によ-、「君」としていたものがあ-'﹃詩式﹄はそれに従ったと考 お-、ただ汲古間本のみが「一作君」と注している。汲古間本の注 ヽ に引-「君行欲何求」 の「君」字は'別集はすべて 「吾」 に作って ヽ 淵明集を反映したものである可能性があった。例えば'巻二「擬古」 た結果、1見、﹃詩式﹄の誤-にみえる字句の異同が、実は当時の陶 このたび、﹃詩式﹄所引の陶淵明詩と、陶淵明の別集等とを比較し 三㌧ おわりに Lt 江掩「菓題詩」とされる第六首日を収載しない。 (IV 和謝郭二主簿 ﹃詩式﹄巻三 叉,「 和謝郭二主簿」︰春椛作美酒,酒熱雷日掛。弱 子戯我側.撃語末成音O此事鼻復興,御用忘華管o 別集巻二 和郭主簿二首其二 伺「和謝郭二主簿」 ﹃詩式﹄ のみ 1「和郭主簿」 汲古閣本・湯漠注本・蘇写本・李公換注本・ 何孟春注本・黄文換注本・呉轄泰注本・陶樹本 五巻本瞭然﹃詩式﹄所引陶淵明詩について は、長谷川滋成﹃﹃文選﹄陶淵明詩詳解﹄ (渓水社、二〇〇〇年) の「掃去 けること。「巾柴草」は粗末な車におおいをかけること。「巾車」 について 六六 集や﹃重文類衆﹄等の文献との異同が多-、﹃詩式﹄はこうした複雑 論語の三友のような友を待つ、という意。 諒を友とLt多聞を友とす)」を踏まえている。薄謝のように小径を作-、 また論語に「益者三友!友直ー友諒ー友多聞(益者三友あ-、直を友とし、 (5) 漢の薄謝が'庭に三径を作-'高士羊仲・求仲と遊んだことを踏まえ、 来一首」に詳しい考察がある。 な■問題を解-一つの手がかりといえよう。また、「和謝郭二主簿」と 題するものは'別集にみられず、さらなる検討が必要である。 ﹃詩式﹄には、膨大な詩人の作品が収められており'今後継続して 研究すれば、﹃詩式﹄の研究にとどまらず、魂晋六朝から唐にかけて のさまざまな詩の、新たな一側面を見つけ出せると考える。考察に 当たっては、常に﹃詩式﹄そのものの誤字ではないかという注意が 必要であるが、しかし「擬古詩」に見られる「吾」「君」のような異 同は'古い時期の文献を反映したと考えられ'今後もさらなる研究 が必要であろうQ 注 (-) 中森健二「唐唆然﹃詩式﹄考」 (﹃立命館文学﹄第五六三号、二〇〇〇年 二月) によれば'詩句の引用は二四項目、詩人の数は延べ三〇三人'引用 た引用詩例の時代、その数をまとめた表が附されてお-、分布が一目で分 句例は延べ五七九例に及ぶという。論文中には、﹃詩式﹄の項目と引用され かるようになっている。 り、﹃古詩紀﹄、蓮欽立﹃先秦漠観音南北朝詩﹄'﹃仝唐詩﹄等に収録されて (2) 「唐代詩論における攻然詩式」の注四に、既存の別集・総集に未収録であ いない作品が列挙されている。こうした侠詩は、﹃歴代詩話﹄所収の一巻本 ﹃詩式﹄には見られず、五巻本﹃詩式﹄ のなかにのみ見られるものである。 (3) 毛氏扱古閣旧蔵﹃陶淵明集﹄十巻宋刻通修本。現在ー北京図書館所蔵。 本稿では﹃中華再造善本﹄ (北京図書館出版社、二〇〇三年)を使用した。 以後、「汲古閣本」と略す。 (4) 巾柴草は、李善注に「韓去来日,或巾柴草」とある。「巾」はおおいをか