...

PDF/2MB - 地質調査総合センター

by user

on
Category: Documents
6

views

Report

Comments

Transcript

PDF/2MB - 地質調査総合センター
地質調査総合センター速報 No.49,平成 20 年度沿岸域の地質・活断層調査研究報告,p.169-207,2009
海陸地質情報システム構築のための
技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
Geological knowledge resources organization and
information distribution on the Web
– technical trends survey, consideration and prototyping –
伏島祐一郎 1・中野 司 1・阪口圭一 1
Yuichiro Fusejima1, Tsukasa Nakano1 and Keiichi Sakaguchi1
keywords:geo-information, knowledge sharing, common data, spatial contents, GeoWeb, institution repository, content
management system, knowledge resources, location based service, technical trends survey, prototyping
開始直前に,研究目的を以下のように定め,ウェブ
要旨
サイトに示している:「外部に公開するための海陸
基本用語の定義・分類・議論,技術情報の収集,
統合データベースの構築を検討する.沿岸域調査で
取得データ・作成コンテンツ・既存データベースの
取得したデータだけでなく,既存のデータベース資
具体的洗い出しと分類,システム比較検討にもとづ
源の活用を図る」(地質調査総合センター,online).
いて,海陸地質情報システムのあるべき姿を検討し
本年度は,この目的を明確化・具体化するための基
た.その結果(1)著作権対応と部品利用のための,
本的検討をおこなうとともに,技術動向の把握とプ
データとコンテンツの峻別;(2)空間情報技術の革
ロトタイプ試作をおこなった.
新と GIS 技術の停滞傾向への対応;(3)データ取得
から研究成果公開までの一貫したデジタル駆動;
(4)
2 基本用語の定義と分類にもとづく対象の明確化
小規模複数システムの逐次開発と相互運用,等の基
本研究項目の主要対象は,「沿岸域調査で取得し
本方針を固めた.このためにまず概念知・会議議事
たデータ」と「既存のデータベース資源」,および
録などの共有や,議論・質疑応答・連絡通知など,
それらから構築される「外部に公開するための海陸
研究の初期段階で活用できるブログシステムのプロ
統合データベース」である(地質調査総合センター,
トタイプを作成した.次に研究のさまざまな途中段
online).この三つの対象を明確化し,議論の足場を
階で生み出される,多様な形式のデータの共有を目
固めるために,それぞれに関係する基本用語の,情
指して,機関リポジトリの構築を開始した.さらに
報技術分野・一般分野・地球科学分野における利用
多様な研究成果を柔軟・簡便に外部へ公表できる
状況を調査した.そしてその結果をもとに,各用語
CMS や,野外での空間情報入出力を自動化する LBS
を再定義・再分類した.さらに情報技術・哲学・経
システムの構築準備も開始している.
営学・政治経済などのさまざまな視点から,各用語
と研究項目との関連性・重要性・問題点を,理論的
1 はじめに
かつ応用的に検討した.その結果を一覧表として示
本稿では,沿岸域地質・活断層調査,研究項目「資
料整備と公開」の,今年度の成果を報告する.この
す( 第 1 表 ). 以 下 で は, こ の 表 を 参 照 し な が ら,
順に記述する.
研究項目を担当する地質情報統合化推進室は,研究
1 産業技術総合研究所 地質調査総合センター地質情報統合化推進室 (AIST, Geological Survey of Japan, Geoinformation Integration Office)
― 169 ―
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
2.1 データ・コンテンツ・情報
場によって,この定義は付加修正されることになっ
2.1.1 データ・コンテンツ・情報の定義
た:「 伝 達 さ れ た 知 識. 事 実・ 事 物・ 事 件・ 概 念・
「データ」という用語の定義はほぼ固まってお
アイディア・プロセスなどを含む.コミュニケーシ
り,定義者の違いによるゆらぎは小さい.本研究項
ョン(信号の伝達による意味の伝達)の過程におい
目では,情報技術の基本用語に関する国家標準 JIS
て,事実又は概念を表現するために使われるメッセ
X0001(工業標準調査会,1994)の定義を採用した:
ージ」(JIS X0701:工業標準調査会,2005).すな
「客観的な事実・事象・事物を観察・計測し,その
わち情報は,データとコンテンツを包含する上位概
結果を伝達・解釈・判断・推論・考察などの処理に
念として,再定義された.情報は,客観的な事実で
適するように形式化した情報」.また,理解を深め
あるデータと,概念やアイディアを含むコンテンツ
るために,この定義を概念図として図式化した(第
という 2 種類に分類されたのである(第 1 表・第 3
1 図).
図).
とは言え,明治初期の情報という用語に,事実と
デ ー タ に 関 連 す る 用 語 と し て,「 コ ン テ ン ツ 」
(contents)という用語が,情報技術に限らぬ様々
概念の違いの認識がまったく欠如していたわけでは
な学問分野や,政治・経済・マスコミなどあらゆる
ない.情報という訳語を作った酒井忠恕が,改名後,
方面で,昨今頻繁に使われるようになってきた.コ
新たに訳出した軍事演習書(酒井清訳,1882)では,
ンテンツの定義は現状では定まっていないが,概念
「情報を三分して,実際に見たこと,伝聞したこと,
の有無によって,データと対比的に用いられること
想像されることを区別して報告するように」記され
が多い.すなわち,コンテンツは概念を含み,デー
ている(小野厚夫,1991).観察事実・引用・考察
タは概念を含まない,という文脈で用いられる.ま
の峻別が,軍事演習の重要課題となっていたのは,
たデータとコンテンツとの間には,処理の対象と結
当然のことであろう.またこれらの峻別は,言うま
果という関係も含まれていることが多い.さらにこ
でも無く科学の基本でもあり,本研究課題の構築対
の用語は,従来使われてきた「著作物」という用語
象「海陸統合データベース」の設計にとっても,重
の,情報技術の進展を踏まえた上での言い換えとい
要課題である.
う側面も持つ.これらの検討をもとに複数の定義を
2.1.2 著作権とデータ・コンテンツ・情報
総合して,コンテンツを以下のように定義した:
「デ
概念が含まれるか否かによって情報を峻別するこ
ータを対象に,それに判断・推論・考察・創作・創
との重要性は,著作権と密接に関連して,昨今高ま
造・発想などの処理を施した結果」(JISX0701:工
りつつある.データは概念を含まないが,コンテン
業標準調査会,2005;JISX0001:工業標準調査会,
ツは概念を含んでいる.そして概念が含まれない情
1994;コンテンツ促進法:日本国会,2004).さ
報に著作権を主張することはできず,概念が含まれ
らにこの定義の図式化もおこなった(第 2 図).
る情報にのみ著作権を主張することできる.すなわ
「情報」という用語は,1876(明治 9)年フラン
ちデータには著作権を主張できないが,コンテンツ
スの軍事演習書の翻訳のために作られた訳語(酒井
には著作権を主張できるのである.このことがコン
忠恕訳,1876)で,漢語ほどの歴史は無いものの,
テンツの販売・貸与による様々なビジネスの展開を
130 年以上使われてきた,こなれた言葉である.当
導き出し.それがコンテンツの重要性を増大させつ
初の定義は,
「敵情(状)の様子または知らせ」で,
「情
つある.この重要性は,コンテンツ関連産業振興に
状の報告あるいは報知」を短縮した言葉であったと
関わる「コンテンツ促進法」(日本国会,2004)が,
解釈されている(小野厚夫,1991).この定義の骨
新たに制定されたほどのものであり,公的研究機関
子は,その後 100 年以上受け入れられ続けている.
にとっても重要課題として受け止める必要がある.
たとえば,情報とドキュメンテーション(保管・共
また昨今の情報技術の進展により,ちょうど資源
有・分類・検索)に関する国家標準 JIS X0701(工
や材料や部品を組み立てて工業製品を製造するよう
業標準調査会,2005)における定義の基本部分「伝
に,著作権を持たない既存データを資源・材料・部
達された知識」と,酒井(1876)の定義との間に,
品として組み合わせたり組み立てたりして,多様な
さほどの違いは無い.
コンテンツが生み出されるようになってきた.さら
しかしデータとコンテンツという二つの用語の登
にこのデータ資源・材料・部品の組み立ては,機械
― 170 ―
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
的に自動化され,人間が介在しないことが多くなっ
して,非空間情報を,「位置情報を持たない情報全
てきている.これらのことも,データとコンテンツ
般の総称」と定義する.そして有川(2002)を参考に,
「位置情報を付与したデータ」を「空間データ」,
「位
の峻別の必要性を高めつつある.
一方コンテンツは著作権を持つため,資源・材料・
部品として自由に利用することはできない.利用の
置情報を付与したコンテンツ」を「空間コンテンツ」
と,それぞれ定義する.
ためには申請コスト(手間・利用代金・時間)が必
ここで,位置情報は,有川(2002)を参考に,
「位
要であり,安易な資源・素材・部品利用には,法令
置を表現するデータ」として定義する.なお,有川
違反にともなうコストが,事後に待ち受けている.
(2002)は同じ概念に「位置データ」および「位置
逆に情報提供者の立場には,コンテンツをデータと
情報データ」という用語も利用している.ここでは,
誤解させてしまうことによる,不要な混乱と停滞を
有川(2002)での利用のみならず一般的にも最も
招かぬための努力が求められる.
利用頻度が高い,「位置情報」を採用する.
位置情報は,「直接位置情報」と「間接位置情報」
データの資源・材料・部品利用の促進は,それら
を用いた新たな理学・工学研究を生み出すきっかけ
の二つに区分される(有川,2002).直接位置情報
となるのはもちろんのこと,さらにコンテンツ関連
は,有川(2002)を参考に,「3 次元空間内の位置
産業の振興をも促すことになる.逆にコンテンツを
を数値座標で表現し,解析幾何学的・力学的分析な
データと誤解させるような情報提供は,事実に基づ
どに利用できるように形式化したデータ」と定義す
かない誤った科学的推論を導かせてしまうだけでな
る.直接位置情報には,緯度・経度・標高(深度)
く,それを利用したビジネスの失敗やコスト増,さ
のすべてまたは一部や,方位・仰角(伏角)・速度・
らにはコンテンツ関連産業全体の衰退を招くことに
加速度までもが含まれる.
「間接位置情報」は,有川(2002)を参考に,
「位
もなりかねない.
組織が著作権を持つコンテンツについてはどうで
置を間接的に表現するデータ」と定義する.郵便番
あろうか.その組織の構成員が,それらを組み合わ
号や地点番号などの ID 番号,地名や住所などの文
せて資源・材料・部品利用することは,法令違反と
字列,地図上に示された図形などを含んでいる.
ならないだけでなく,新たな生産活動として,組織
また有川(2002)を参考に,
「地理情報」を,
「専
内で奨励されるべきものである.本研究課題の対象
門家の取捨選択・総描・編纂によって,空間データ
として,「外部に公開するための海陸統合データベ
を面的な地図として体系化した空間情報」と定義す
ース」の構築が目標とされている.これを実現する
る.地理情報は,古典的な紙印刷地図および GIS の
ためには,当然その前提条件として,内部でのコン
対象となってきた.さらに有川(2002)に従い,位
テンツ資源・材料・部品の組み立て生産の促進と,
置情報・空間データ・空間コンテンツ・地理情報を
その為のシステム整備が求められる.それら無しに
包含する上位概念として,「空間情報」を「位置情
は,外部への公開は,ごく小規模・限定的かつ即時
報を付与した情報全般の総称」と定義する.
本研究項目の主対象である「沿岸域調査で取得す
性を欠いたものに留まってしまうだろう.
以上に述べた検討によって,データとコンテンツ
る / したデータ」に,多くの空間情報が含まれる事
の峻別は,著作権および情報の部品利用促進に関わ
は想像に難く無い.その具体例は,下の 4.1 で示す
る重要な課題であり,「海陸統合データベース」設
こととする.また下の 5.1 で記述するように,非空
計の重要な基本条件として認識しなければならない
間情報と空間情報は,従来それぞれ別種のコンピュ
ことが明らかとなった.
ータシステムで扱われてきた.このため,二つの情
報の峻別は,「海陸統合データベース」設計の重要
2.2 位置情報・空間データ・空間コンテンツ・地理
情報・空間情報
な基本条件として認識しなければならない.
2.2.2 空間情報の面指向から点指向への技術革新
2.2.1 位置情報・空間データ・空間コンテンツの定義
情報技術の高度化と一般化にともなって,空間情
情報はまた,別の視点によって,
「非空間情報」と
報も高度化しつつある.先史時代からずっと,空間
「空間情報」に二分される(第 1 表).上の 2.1 で定
情報はすなわち地理情報であった.壁画や紙印刷に
義した,データとコンテンツを包含する上位概念と
よる地図から,地理情報システム(GIS)で取り扱
― 171 ―
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
うデジタル地図への技術的高度化が,ここ数十年で
また地理情報は,他の情報とは単純な重ね合わせ
生じはしたものの,空間情報は一貫して面的な地図
ができるに過ぎず,総合的・機械的・即時的に組み
としての形態を変えることはなかった.しかし情報
合わせて,新たな空間情報を多様かつ低コストで生
技術が単体のコンピュータから,インターネットを
み出す高度利用は困難である.さらに面的に作られ
介したコンピュータネットワークへと技術革新を遂
た地理情報は,丁寧に作り込むほど情報量が肥大化
げ,一般市民の利用の爆発的増大にともなって,空
し,インターネットを経由して軽快に流通させるこ
間データや空間コンテンツが登場した.そして現在,
とが困難になる.情報転送や表示の速度低下などの
地理情報とそれを利用する GIS は,空間データや空
問題を解決するためには,ハードウェア増強に多額
間コンテンツに押し退けられつつある.空間データ
の資金を投入せざるを得ない.
や空間コンテンツは,Google Maps や Google Earth
一方空間データや空間コンテンツは,ポスト印象
な ど の GeoWeb や, 位 置 情 報 サ ー ビ ス(LBS)・ 拡
派絵画やインクジェットプリンタなどによる点描画
張現実(AR)などの新しい情報技術の対象として,
にたとえる事ができる.点描画は個別の点の色を変
日々爆発的に増大しつつある.これらの技術革新を,
えるだけで,迅速簡便に修正・変更をおこなうこと
有川(2002)を参考に以下に検討・評価する.
ができる.複数の点を取捨選択してそれらの色を変
地理情報を,多彩な色糸で風景・人物・模様など
更することによって,全く違った印象の絵に描きか
を織り込む,タペストリーにたとえることができる.
えることもできる.また簡単迅速に複製できるため,
横糸は大量の非空間情報,縦糸は大量の空間情報の
価格も低く抑えることができる.これらの利点は,
イメージで,これらを順に整然と織り込んで作り上
すべての情報が元素・細胞のように小さなサイズで,
げるには,高度な職人的技術と大きなコスト(時間・
近接する地点の情報との関係を持たずに,独立して
労力・賃金)が必要になる.このためタペストリー
いることによって得られている.
有川(2002)が強調しているように,GIS では位
も地理情報も高価であり,完成すると簡単には修正・
置情報は主データであったが,空間データや空間コ
変更できない.
あるいは地理情報とくにベクトル形式による GIS
ンテンツでは,位置情報は,時間情報と同じく付属
データを,複数の小さな端切れを隙間無くつなぎ合
情報であることを忘れてはいけない.特に空間コン
わせて大きな布地を作り上げる,パッチワークにた
テンツでは,決して位置情報が主では無く,コンテ
とえることもできる.隣り合う端切れの間に隙間を
ンツが主であり,位置情報は,便利に検索するため
生じたり,ちぐはぐな継ぎ合わせで布面が引き攣れ
の検索キーであり,またコンテンツとコンテンツを
たり波打ったりしないようにするために,パッチワ
繋ぐ,バリューチェーンを実現するものでもある.
ークにも高度な職人的技術と大きなコストが必要に
位置情報・空間データ・空間コンテンツは,機械
なる.同様に地理情報作成者は,地図に隙間や重な
処理とインターネットを経由した軽快・迅速な流通
りを生じさせず,図幅面全体を塗りつぶし,かつ調
に適している.空間データも空間コンテンツも,地
和を保つ為に,高度な職人芸と多大な労力をつぎ込
点かごく狭い領域の位置情報が付与された,サイ
んできた.この高度な技術を機械的に実現する為に,
ズの小さい情報であるため,転送速度・表示速度・
GIS では位相幾何学を援用し,高度な計算処理とそ
解析速度を軽快に保つことができる.位置情報は,
の為の膨大なデータを利用し,さらにコストを増大
GPS や携帯端末を組み合わせた LBS によって自動取
させてきた.
得され,人手による入力コストを削減する.また間
このように地理情報には価格と更新頻度に難があ
接位置情報と直接位置情報の対応関係を構造化した
るため,公的機関が利益を追求せずに生産する事も
データベースに,自然言語処理を適用したジオコー
多かった.それでも一般市民の広範な利用や多様な
ディングサービスを利用することによって,間接位
商業利用にはなかなか発展できず,トップダウンで
置情報は機械的に直接位置情報に変換できる.さら
画一的に,主に専門家向けに提供されてきた.特に
に例えば写真に対する撮影場ベクトル(撮影地点・
GIS とそのための地理情報については,業者囲い込
方 位・ 仰 角( 伏 角 )・ 撮 影 対 象 ま で の 距 離: 有 川,
みの弊害や資金の無駄遣いが,昨今指摘されるよう
2002)のように,目的に応じて多様なパラメータを
になってきた.
追加定義でき,高度な解析処理へと発展できる.こ
― 172 ―
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
れらによって,多様な空間情報や,多様な非空間情
なプロトタイプシステムを構築し,その試験運用結
報までをも総合的・機械的・即時的に組み合わせて,
果をもとに設計を練り直し,小さなシステムを順次
新たな空間情報を多様かつ低コストで生み出す高度
継ぎ足しながら,逐次方向修正を続けていく開発方
利用が可能である.
針をとることにした.これらの方針については,さ
位置情報・空間データ・空間コンテンツとそれを
らに下の第 5 章において再び言及する.
扱う GeoWeb や LBS などの新しい情報技術の隆盛を
受けて,情報消費者から情報生産者へと変容した一
2.3 知識
般市民によって,昨今,画一的でない多様な空間コ
2.3.1 知識の定義
ンテンツが大量に生み出されるようになってきた.
上 の 2.1.1 に お い て, 情 報 の 定 義 と し て,「 伝 達
これらは,従来の公的資金や大資本による,画一的・
された知識」(JIS X0701:工業標準調査会,2005)
トップダウン・更新頻度の低い地理情報とは対照的
を採用した.しかしこの定義の前提である,「知識」
に,ボトムアップで大量かつ迅速に生産・共有され,
の定義については検討していなかった.人工知能の
個別に迅速に更新されるため,極めて有用な情報に
分野では知識を,「系統だって使用することができ
なる可能性がある(有川,2002).様々な品質の空
るように整理された,事実,事象,信念及び規則の
間コンテンツがカオスのように流通するようになる
集合」と定義している(JIS X0028:工業標準調査会,
が,社会というフィルタにより自然淘汰され,自立
1999).しかしこの定義を要約すれば「知識は伝達
的に段階的に内容が充実し,現在の地図の一部に置
される情報」となってしまい,2.1.1 における定義「情
き換わるものになるだろう.有川(2002)は,イン
報は伝達された知識」との間で,循環定義の嫌いを
ターネット上に公開された空間情報を,検索サイト
拭い去れない.
のクローラ(crawler)やディレクトリサービスを使
幸いにも 2.1.1 で採用した標準 JIS X0701(工業
って集めたものが,
「未来の地図」あるいは未来の「サ
標準調査会,2005)には,知識の定義も示されてい
イバー地図」になると予測していたが,この予測は
るので,本研究項目ではこれを採用することとした:
「推論に基づき立証を経た認識」.これは,西洋認識
既に現実のものとなっている.
このような空間情報とそれに関わる技術動向の劇
論哲学において,紀元前 4 世紀から現在まで受け入
的な変化を,「空間情報の面指向から点指向への技
れられ続けている,古典的定義を下敷きにしている
術革新」と要約することができる.本研究項目では,
と思われる.すなわちプラトン(1966,BC4 世紀)
このような技術革新に,積極的に対応してゆくべき
に記された,ソクラテスよる,「正当化された真な
であると判断している.情報技術の進歩は急速で,
る信念」という定義である.戸田山(2002,p.3-4)
陳腐化しつつある技術を適用した情報は,利用され
は,これを以下のように書き下している:
「ある人が,
ずに埋もれてしまい,一般利用者に届かない可能性
しかじかであるということを知っている,と言える
が高いだけでなく,更新頻度の低さから鮮度の急速
のは,次の三つの条件を満たすときである:(1)そ
な低下を招き,すぐに見捨てられてしまう可能性も
の人は,しかじかと強く思っている.(2)実際にし
高いからである.さらに新たな技術の導入によって,
かじかである.(3)その人には,しかじかと思うに
地理情報の作成コストや,サイズが肥大化した情報
たる理由がある」.
ただしこの古典的定義は,常に論争にさらされて
を処理するためのシステムコストを,削減すること
きた不完全な定義でもあり,特に昨今の科学や情報
も目的としている.
これらへの対応のために,安直・性急にシステム
技術の高度化による,知識を獲得・処理・利用する
構築を始めるのではなく,その前にまずは技術動向
仕方の大きな変化によって見直しが要請されるよう
と利用者要求に関する最新の情報を積極的に収集す
になってきている(戸田山,2002,p.4-5).とは言
ることにした.そして正確・最新・十分な情報をも
え,本研究項目にとって,この見直しによる益は多
とに,冷静かつ総合的な判断を積み上げたシステム
くは無いと判断し,これ以上の深入りは避けること
設計をおこなうこととした.また今後の急速な技術
にした.
なお,コンテンツという語が登場する以前には,
革新に柔軟に対応するために,大きなシステムをま
とめて時間をかけて作りこむのではなく,まず簡便
ほ ぼ 同 じ 意 味 と し て, 知 識(intelligence) と い う
― 173 ―
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
用語が使われていた(小野厚夫,1994).一方,人
を示した.また形式知を,コンピュータ処理が簡単で,
工知能の分野では,intelligence は知能と翻訳され,
電子的に伝達でき,データベースに蓄積できると評価
人工知能を「人間の知性と結び付けて考えられる,
している(野中・竹内,1996 p.8-9)
.
本研究項目では,概念設計の道具立てとして,こ
推 論, 学 習 な ど の 機 能 を 遂 行 す る, 機 能 単 位 の 能
力」と定義している(JIS X0028:工業標準調査会,
れらの定義と分類を採用した.そして第 6 図に示し
1999). ま た 一 般 的 に は,intelligence は 知 恵 と 翻
た図式を拡張して,第 8 図のように図式化した.こ
訳されることも多い.
の図式から,循環定義の嫌いはあるが,伝達され得
2.3.2 情報伝達による知識間の相互作用
ない知識を,暗黙知と呼ぶこともできよう.
上 の 2.3.1 で 示 し た,「 伝 達 さ れ た 知 識 」(JIS
上の 2.3.1 で示した,人工知能の分野での知識の
X0701:工業標準調査会,2005)という情報の定
定義「系統だって使用することができるように整
義は,第 4 図のように図式化できる.しかしこの図
理された,事実,事象,信念及び規則の集合」(JIS
式は単純すぎる嫌いがあり,それが循環定義を思わ
X0028:工業標準調査会,1999)は,形式知の定義「形
せる原因ともなっている.これまでの議論に基づけ
式言語で表すことができ,それによって容易に伝達
ば,第 5 図のように,情報は,知識の一部が他の知
可能な知識」(野中・竹内,1996,p.8-9)とほぼ同
識へ伝達される過程として図式化したほうが良い.
じであるとみなすことができる.これら二つの定義
さらにこの図式は,知識間の相互作用を担うものと
と,上の 2.1.1 に述べた情報の定義「伝達された知
して,第 6 図のように発展させることもできる.ま
識」を総合することによって,第 4 図を,より厳密
たこの知識間の相互作用を,上の 2.1.2 で検討した
化した第 9 図に描き換えることができる.すなわち
組織の内側と外側という枠組みにあてはめれば,第
伝達という操作の入力側に形式知が,出力側に情報
7 図の図式へと拡張する事もできる.これらの図式
が位置し,伝達に誤り・変質・損失・付加が無ければ,
は,「外部に公開するための海陸統合データベース」
形式知と情報は同一と考えることができる.
また,立場の違いという観点から,この第 9 図を
の基本的な概念設計要素として,以下の検討と議論
見直すこともできる.すなわち,提供者にとって形
に活用すべきものである.
式知であるものが,利用者にとっては情報として扱
2.4 形式知・暗黙知
われるのである.
2.4.1 形式知・暗黙知の定義
以上の図式化と議論も,「外部に公開するための
野 中・ 竹 内(1996,p.8-9) は, 知 識 経 営
海陸統合データベース」の基本的な概念設計要素と
(knowledge management) の視点から,知識を二分し
して,以下の検討と議論に活用すべきものである.
た(第 1 表)
.そしてそれらの一方を「暗黙知」と呼
2.4.2 形式知・暗黙知の変換と伝達
び,「形式言語で言い表すことが難しく,伝達して共
野 中・ 竹 内(1996,p.90-109) は, 上 記 2.4.1
有したり,体系的・論理的に処理したりすることが難
の定義と分類にもとづいて,暗黙知と形式知の相互
しい,人間一人ひとりの体験に根ざす個人的な知識」
変換の重要性を論じ,それぞれをさらに二分し,各々
と定義した.暗黙知には,ノウハウ・職人的コツ・直
の定義を示した(第1表).これらについても,概
感・イメージ・信念・ものの見方・主観に基づく洞察・
念設計の基本要素として,本研究項目で採用した.
価値システム・未来へのビジョンといった無形の要素
野中・竹内(1996,p.106-107)によると,暗黙
が含まれ,個人の行動・経験・理想・価値観・信念な
知は,共感知と操作知に二分される.共感知は,
「弟
どに深く根ざしていると述べた(野中・竹内,1996,
子入りや合宿訓練などの経験の共有・共同体験によ
p.8-9)
.
って,暗黙知から暗黙知のまま伝達された暗黙知」
二分したもう一方の知識を,野中・竹内(1996,
と 定 義 さ れ て い る ( 野 中・ 竹 内,1996,p.92-95,
p.8-9)は「形式知」と名付け,
「形式言語で表すこと
p.106).操作知は,「形式知から暗黙知へと変換さ
ができ,それによって容易に伝達可能な知識」と定義
れた暗黙知.書類,マニュアル,図式などの形式で
した.そしてそれらの例として,文法にのっとった文
伝達された形式知が,練習,追体験などの行動を伴
章・厳密なデータ・数学的表現・科学方程式・明示化
う学習によって,体や心の奥底にまで内面化された
された手続き・技術仕様・マニュアル・普遍的原則等
暗黙知」と定義され,強い印象を伴う疑似体験や濃
― 174 ―
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
密な対話によって,実体験を伴わずに促されること
さらに,研究終了後におこなわざるを得ない体系
も あ る と 述 べ て い る ( 野 中・ 竹 内,1996,p.102-
知のシステム化には,アナログ情報として構築され
105,p.106-107).
た体系知の,デジタル化に伴う膨大なコスト(形式
一方形式知は,体系知と概念知に二分される.体
化・規格化に必要なコスト・入力オペレータ要員・
系知の定義は,「異なった形式知を組み合わせて新
経費・時間)が必要になる.しかし一般的に,研究
たに創り出された形式知」であり,書類・会議・電話・
終了後まで研究資金を温存したり,研究終了後に新
コンピュータネットワークなどを通じて,知識を交
たに資金を調達したりすることは難しい.また,研
換しながら組み合わせたり,コンピュータ・データ
究開始時にあらかじめ,研究終了後のデジタル化に
ベースなどのように既存の形式知を整理・分類して
必要な作業時間を計画・確保することも難しい.そ
組み替えたりすることによって,創造的に新しい知
れだけでなく,事後の手作業によるデジタル変換に
識を生み出すことができる,と評価している ( 野中・
ともなう,誤入力などの品質低下を免れ得ず,品質
竹 内,1996,p.100-102,p.106). こ の 評 価 は,
の向上には,さらなるコストを投入せざるを得ない.
上の 2.1.2 で議論した,データとコンテンツの資源・
何よりもアナログ情報のデジタル化の欠点は,デジ
材料・部品利用への寄与として理解できよう.
タル情報の利点と有用性のごく一部しか利用できな
野 中・ 竹 内(1996,p.95-100,p.106) は, 概
念知を,「暗黙知から形式知へと変換された形式知」
いことにあり,限定的な効果に大きなコストを投入
する意義を見出し難い.
このような問題に対処するためには,体系知を段
と定義し,形式言語で言い表すことが難しいため,
形式知への変換には,メタファー・アナロジー・コ
階的に作り上げる複雑な過程を,データ取得から体
ンセプト・仮説・モデル・概念図・絵画・写真・動
系知公開まで,一貫してデジタル情報によって進め
画などの,非分析的な方法を使わざるを得ないと述
なければならない.そのために,データ・コンテン
べている.
ツ資源・材料・部品の共有とそれによる組み立て生
以上に記した四つの知識を,第 10 図のように図
産を促進するシステムを,整備することが求められ
式化した.
る.特に研究の初期段階においては,概念知の生産・
2.4.3 体系知のみを対象としたシステム構築の問題点
共有・部品利用の促進や,概念知を体系知としてま
地球科学とくに地質学の分野では,従来一般的に,
とめ上げるシステムを利用することが望ましい.こ
体系知を対象としたコンピュータシステム作りが目
れらのためには,データ・コンテンツ入力時の品質
指され,その結果をデータベースと呼ぶことが多か
低下を招かぬように,その内容を最も理解している
った.野中・竹内(1996 p.100-102)が体系知を
データ取得者・生産者が,彼らの理解と記憶が薄れ
評価しているように,体系知を主に取り扱うシステ
てしまう前すなわち取得・生産と同時に,セルフサ
ムとして,「海陸統合データベース」を運用するこ
ービスでデジタル入力しなければならない.この入
とは,比較的容易である.ただしシステム構築とく
力を支援し,可能な限り自動化・省力化・高品質化
にデータ・コンテンツの入力あるいは登録は,容易
するためのシステムの構築が,まず必要となる.
それら無しには,外部への公開は,ごく小規模の
におこなえるとは言い難い.
なぜなら体系知は,研究過程の最終段階に至って
限定的かつ即時性を欠いたものに留まってしまう可
ようやく作りあげられるものだからである.このた
能性が高いだろう.このような公開に留まるのであ
め,これらを対象としたシステムは,研究終了後に
れば,インターネットなどの開かれた大きなメディ
設計を開始し,時間が経過した後に公開するという
アを選択し,大きなコストを投入するよりも.紙や
経過を辿らざるを得ない.体系化は新たな創造活動
CD 等のメディアとその配布を選択し,規模に見合
であるため,その結果を予め織り込んだ設計を,研
った小さなコストを投入するほうが賢明であると,
究の初期段階から開始することはできようもないの
費用対効果の観点からは言わざるをえない.
である.無理な設計は,システム構築の失敗を招い
2.4.4 共感知・操作知を対象とするための方策
てしまう.あるいは,十分予測可能な,ありきたり
共感知と操作知は,ともに暗黙知であり,コンピ
の価値の低い研究成果が,生み出される道を開いて
ュータ処理やデータベースへの蓄積が困難である.
しまうかもしれない.
これらを本研究課題の対象として選定することは難
― 175 ―
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
しい.暗黙知は,まずは概念知へと変換し,コンピ
2.5 知識資源・知識の組織化・地質情報
ュータ処理をおこなえるようにする事が求められ
以上に述べた,情報と知識を階層的に構成する概
る.さらに段階的に形式化を進め,概念知を体系知
念要素を包含する概念として,「知識資源」という
としてまとめ上げることの重要性は,上の 2.4.3 で
用語を採用し,これを用いて,本研究項目の対象を
述べた.
再定義する.谷口・緑川 (2007,p1) は,知識資源
共感知と操作知は,共同体験や追体験を伴う学習・
を,「 人 間 の 知 的 活 動 に よ っ て 生 産 さ れ た 知 識 を,
練習によって伝達される.これらは,アウトリーチ
何らかのメディア上に体現したもの」と定義してい
活動や教育研修活動の対象となるべきものである.
る.そして,「知識をメディア上に体現するために
さらに多くのコストを投入すれば,このような共同
おこなう整理と表現」を,「知識の組織化」と呼び,
体験や追体験を,疑似体験させる,仮想現実システ
知識資源の定義を,「組織化された知識」と要約し
ムを構築したり,エキスパートシステムや学習支援
た.これらに従えば,本研究項目の対象は,電子媒
システム(e-learning)を構築したりする事もでき
体とくにウェブなどのインターネットをメディアと
よう.しかし本研究項目に投入できるコストと比較
した,
「地質学・地球科学に関する知識資源」であり,
検討した結果,アウトリーチ活動や教育研修活動に
そのための知識の組織化が,すなわち本研究の内容
までは踏み込まないことにした.そのかわり,研究
であると言える.
成果をアウトリーチ活動や教育研修活動に容易に
資源という言葉は,上の複数の節で議論した,知
利用できるようにするための,出口側の接続性すな
識と情報の資源・材料・部品利用の促進にも呼応す
わちアクセシビリティーとユーザビリティーを重視
るため,本研究項目の対象として選択する意義は
し,設計に盛り込むことにした.
大きい.また資源という言葉はすでに,本研究課題
2.4.5 整理分類の程度による形式知の分類
の目標のなかで用いられている:「既存のデータベ
みずほ情報総研・吉川編(2007,p.4-8)は,形
式知をデジタル情報として限定的にとらえなおした
ース資源の活用を図る」(地質調査総合センター,
online).
うえで,分類・整理の程度という別の観点から,形
ただし知識資源という言葉は,現在広く一般的に
式知を二分した.すなわち,「きちんと整理・分類
流通しているとは言い難い.そこで一般利用者向け
された形式知」と,
「整理・分類されていない形式知」
には,「地質学・地球科学に関する知識資源」を「地
である.デジタル化が一部の専門家によっておこな
質情報」と通称することとした.上の 2.4.1 で議論
われていた時代には,デジタル化の作業と整理・分
したように,提供側にとっての知識は,利用者にと
類の作業は同時におこなわれていた.このため,デ
ってはすなわち情報であるので,この通称は,これ
ジタル情報のかなりの割合を,「きちんと整理・分
までの定義と議論に対して,論理的にも無理の無い
類された形式知」が占めていた.
ものと言えよう.
と ころが昨今のデジタル情報の爆 発 的 増 大 を 担
なお,知識資源に類似する用語として,ほぼ同じ
う,情報技術に疎い一般市民によって,形式知は,
文 脈 で,「 デ ジ タ ル 資 産 」 お よ び「 メ デ ィ ア 資 産 」
とりあえずデジタル化されて生み出され,「整理・
といった用語が使われることがある.これらの用語
分類されていない形式知」が増殖し続けている.こ
の採用も検討したが,それぞれの定義を明確に示し
れらは検索・閲覧しにくいため,再利用されずに埋
た文献を見出すことができなかった.このことから
もれてしまうことが多い.また他の情報との関係が
判断すれば,これらの用語は,知識資源よりもさら
捕らえにくいため,再利用の効果が一過性で限定的
に一般的な用語ではなさそうである.また,これら
なものになってしまう(みずほ情報総研・吉川編,
の用語は,データよりもコンテンツに重きを置くと
2007,p.6-7).
ともに,コンテンツによる営業戦略の文脈で語られ
これらの分類あるいは対比は,
システム構築の程度,
る傾向が認められ,特許権や著作権などの「知的財
とくに構造化の程度を示すものである.この点につい
産」に近い言葉と判断できる.これらのことから,
ては,下の 2.7.1 および 2.7.2 において,データベー
本研究項目の対象としてこれら二つの用語の採用は
スの定義の比較とともに,さらに検討をおこなう.
控え,代わりに知識資源および地質情報を採用する
こととした.
― 176 ―
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
2.6 メタデータ
トデータベースなどの他のデータベースが台頭しつ
知識資源を記述する情報として,
「メタデータ」も
つあることも記されている(インセプト,online).
本研究の対象と定める.上の 2.4.5 における議論に
一方,国語辞典や WikiPedia などに示された,一
よって必要性が明らかとなった,データ・コンテン
般向けの定義はまさに様々で,共有電子ファイル群
ツの検索・閲覧と再利用のためには,メタデータが
や,電子情報以外の紙などに記された情報の集合体
有用であるからである.
を,データベースとする定義まで存在している.ま
谷口・緑川 (2007,p.2) は,メタデータを「デー
た,RDB への言及は極端に少ない.つまり,情報技
タに関するデータ.それぞれの知識資源から収集・
術分野で作られたデータベースという用語は,一般
蓄積された,複数の特徴(属性)を表現するデータ(属
化・通俗化に伴い,本来の定義から大きく拡大解釈
性値)の組」と定義した.そしてメタデータを,
「知
されてしまったといえる.さらにこのことは,上の
識資源を効率よく検索し,検索結果を見るだけで知
2.4.5 で議論した,整理分類されていない形式知の
識資源自体を手に取ったり入手したりしなくても内
増大とも関連しているだろう.
容が確認でき,必要な知識資源の存在を知ることが
この一般化・通俗化は,地質学・地球科学の分野
できるようにするために利用される」と記述してい
においても著しい.たとえば「数値地質図そのもの
る.本研究項目は,これらの定義を採用するととも
が一つのデータベースである」(脇田,2006)とす
に,メタデータを,地質情報システムの基本的な構
る拡大解釈や,「地質データの整理,保存について
成要素として重視し,設計を進めることとした.
はこれといった方法はなく,利用目的に合わせて各
自工夫するほかない」(鹿野,2001)といった,逆
2.7 データベース
説的定義まで見受けられるほどである.さらに下の
2.7.1 データベースの定義
4.2 において,地質調査総合センターの既存のデー
基本用語の検討の最後に,データベースの定義の
比較検討をおこなった.その結果を第 2 表に示し,
タベースの具体的例を検討し,拡大解釈について議
論する.
地質学・地球科学の分野では,コンピュータ技術
これを参照しながら,以下の議論を進める.
国家技術標準 JIS には,データベースの定義が複
の登場以前から,膨大な既存の研究成果を網羅的に
数示されているが,どれも共通して「構造化された
集積・体系化した著作物の編集が,重要な研究活動
データの集合」という概念を基本としている.また,
として,特に老練な研究者によって続けられてきた.
どれも「関係」・「実体」・「構造」などの,リレーシ
この事も,データベースの拡大解釈に影響している
ョナルデータベース(RDB)の基本用語で構成され
と思われるが,明確な原因はつかめていない.
ており,これらを RDB の定義として読むこともでき
2.7.2 データベースに代わる新しく厳密な用語の選択
る.つまり情報技術の分野では,データベースはす
以上に述べたたように,データベースという用語
は,広く一般や地質学・地球科学分野への浸透にと
なわち RDB であると,標準的に認識されている.
とは言え情報技術分野で,この標準が遍く永続的
もない,情報技術分野における本来の定義から一般
に受け入れられているというわけではない.改定を
化・通俗化されてしまっている.その結果,データ
比較的容易におこなえ,そのため最新の認識が反映
ベースという用語によって,厳密な議論・設計をお
されやすいウェブ上の情報技術用語辞典には,たと
こなうことが困難となっている.
えば「大量のデータを一定の規則に従って蓄積し,
またデータベースはその名称のとおり,本来デー
一元的に管理できるようにしたもの」(ウェブリオ,
タを収録するシステムであったが,コンテンツや地
online)のように,RDB に限定しない定義が示され
理情報などを集録したシステムが,データベースと
ている.さらには,
「何らかの情報を網羅的に収集し,
名乗ることも多くなっている.このことは,2.1.2
蓄積したもの.またはそうした目的にそって蓄積さ
で議論した著作権に関わる問題や,データの資源・
れつつある情報」(アイティメディア・デジタルア
材料・部品利用の促進に関わる問題に直接関係した
ドバンテージ,online)のように,整理や構造化を
トラブルや,損益を引き起こす可能性を秘めており,
求めない,より広い定義までもが存在する.RDB が
それらへの対応が要求される.
主流であると述べた事典が多いものの,オブジェク
― 177 ―
さらにデータベースは 1950 年代に登場した,情
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
報技術の分野では古参の技術であり(NRI ラーニン
構築すべきなのであろうか.この検討のためにま
グネットワーク,2003,p.2-3),現在ではこなれた
ず,多様な情報システムに関する技術情報を広く渉
基礎技術となってしまっている.データベースは,
猟し,候補となるシステムを洗い出した.その結果,
ウェブアプリケーションなどの多様なシステムの裏
多様な情報システムを選定候補として見出し,それ
側で,常時データのやり取りと更新をおこない続け
ぞれの定義や説明・来歴・構成要素・対象情報の種
る,縁の下の力持ちとしての目立たない存在になっ
別・機能・コストなどの情報を収集することができ
ている.そしてデータそのものの量や質を誇るより
た.これらの情報は,膨大で多岐に亘るため,ここ
も,データを利用したサービスの提供やコンテンツ
に詳述することは避け,要約して一覧表にまとめた
(第 3 表).また情報の収集元は,数百を超えるウェ
の販売が目指されるようになってきている.
このような変化に伴い,データベースという用語
ブページや情報技術書・技術論文など,膨大で多岐
の先進性は薄れ,逆に技術的に遅れた今更感や,情
に亘るため,個別の文章の引用は避けて総合的な要
報技術に疎いイメージを与えるようにすらなってい
約と評価をおこない,個々の出典を記すことはしな
る.この負のイメージは,本来の定義を離れた広義
い.
のデータベースほど強くなる.特に「データベース
4 対象の具体化と分類
化」という言葉には,「今になってやっと電子化す
るのか」といった印象や,「電子化に伴う資金の無
次に対象の明確化のために,その具体例を洗い出
駄遣い」といった否定的なイメージまでもが染み付
し,分類をおこない,重要な論点を炙り出した.こ
いてしまっている.つまりデータベースという用語
れらの結果を,以下に順に示す.
によって,効果のある説明・宣伝をおこなうことが
困難となった.すなわち,「外部に公開するための
4.1 沿岸域調査で取得・生産する情報
沿岸域地質・活断層調査研究の各段階で,取得・
海陸統合データベース」を,この名称で公開しても,
外部からは魅力や研究の進展を感じられなくなって
生産されると想定される情報の,具体例を検討した.
しまっている.
まず地質調査総合センター(online)ウェブサイト
このような検討から,データベースに代わる新し
に示された,各研究項目の解説文を対象に具体例の
く厳密な用語を選択し直すことにした.そのために,
抽出をおこない,さらに本報告書の複数の原稿を,
上の 2 章に記した一連の用語の定義と議論を活用し
抽出対象に追加した.そして,抽出した具体例を第
た.そして研究情報の集積としての「海陸統合デー
1 表に示した情報の分類にあてはめた(第 4 表).
煩雑化を避けるため,ここでは個々の具体例につ
タベース」を,内部向けには「海陸地球科学知識資源」
と呼びかえるとともに,一般向けには「海陸地質情
いては言及しないが,多種多様な情報が,容易に抽
報」と呼ぶことにした.さらにそれらを扱うコンピ
出できたことを明記する.実際の調査後には,さら
ュータ管理システムを,内部向けには「海陸地球科
に多様な情報が取得・生産される事は,想像に難く
学知識資源管理システム」と呼び,一般向けには「海
ない.また,すべての研究項目から,すべての種類
陸地質情報システム」と呼ぶことにした.
の情報が抽出されたことも重要である.さらにこれ
らの情報は,粗稿・原稿の段階から,順を言って精
3 海陸地質情報システムを構成する
度と品質を上げられていくだけでなく,さらに複数
情報システムの洗い出しと技術動向調査
の情報間の形式化の程度もが,順に高められていく.
上に記した一連の検討にもとづき,本研究項目で
構築を目指している「海陸統合データベース」を,
「海
これらの途中段階に生み出される,たくさんの途中
経過版の扱いも検討課題である.
陸地質情報システム」と呼びかえることとした.こ
海陸地質情報システムは,これらすべての情報を
れは単なる改名のみの意味を持つだけでなく,海陸
対象にすることができるか;対象にする必要がある
地質情報システムを,RDB などの純粋なデータベー
のか;あるいは取捨選択が必要なのか;またこれら
スシステムとして実現することができない,という
の情報を対象にできる最適な情報システムは,具体
新たな認識への対応でもあった.
的にどのようなものであるか;最適な情報システム
それでは,どのような種類の情報システムとして
はどのように選定したらよいか;以上を具体的に検
― 178 ―
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
討する必要性が浮き彫りになった.これらを,下の
データベースを根本的に作り変え,データを入力し
第 5 章で詳述する.
なおす必要があり,コストの問題から,当面それは
不可能であると判断した.
4.2.3 位置情報・空間情報を集録するデータベース
4.2 既存のデータベース資源
次に,
「既存のデータベース資源の活用を図る」と
次に,これらのデータベースの大部分が,位置情
する本研究項目の目的を具体化するために,それら
報を集録していることが注目される.地質学・地球
を洗い出した.そしてそれらに含まれている情報の
科学に関わる情報のかなりの割合が,位置情報に関
種類を,上の 2 章に詳述した分類(第 1 表)にあて
係していることは,詳しい説明を待たずとも頷ける
はめた.また情報を管理・運用するシステムの種類
ことであろう.ただしこれらのデータベースに収録
を,3 章で洗い出した選定候補となる情報システム
された位置情報の大部分は,位置情報を単独に形式
(第 3 表)のどれにあたるのか検討した.そしてそ
化したものであり,データやコンテンツに位置情報
れらの結果を第 5 表にまとめた.以下ではこの表を
を直接付与し,空間情報として高度に再利用できる
参照しながら,議論を進める.
ものは少ない.
4.2.1 データ以外の情報を集録するデータベース
このためこの 10 年来,位置情報と他のデータや
これらの既存のデータベース資源は,データベー
コンテンツを地理情報として編集しなおし,GIS と
スという名称を名乗っているにもかかわらず,デー
くに WebGIS で利用可能にする事が目指されてきた
タ以外の,コンテンツや地理情報を集録しているも
ようであるが,コストなどの問題のためか,これが
のが半数以上を占めていることが,まず注目される.
実現されたのは僅かで,また表示速度などに問題を
これは,データベースという用語の拡大解釈という
残したままである.そして,地理情報を扱う GIS 技
問題だけに留まらず,上の 2.1.2 で議論した著作権
術や WebGIS 技術が停滞し,空間データや空間コン
に関わる問題でもある.これらの「データベース」
テンツを扱うシステムが台頭する時代を迎えてしま
の知識資源としての活用には,法的な注意が必要で
った.既存データベース資源に含まれる空間情報の
あるだけでなく,具体的なシステム設計に関わる問
活用には,これらの点を踏まえて,空間データ・空
題としての注意も要求される.特に地理情報のみを
間コンテンツとそれらを扱う軽快かつコストの低
対象としている WebGIS やデジタル地質図をデータ
い,GeoWeb などのシステム・サービスを媒介とし
ベースと呼称することは,著作権に関わる問題に直
た,相互運用などの方策を検討すべきであろう.
接関係したトラブルや,損益を引き起こす可能性を
4.2.4 メタデータを集録するデータベース
これらの「データベース」のかなりのものが,メ
秘めており,対応が要求される.
4.2.2 データが個別に収録されていないデータベース
タデータを収録していることも注目に値する.メタ
とはいえこれらの「データベース」の大半は,大
データは,情報の検索のみならず,情報の関連付け
量のデータを形式化・整理・構造化して収録してお
や情報システムの相互運用を媒介する重要な存在で
り,この点から見れば純粋なデータベースであり,
ある.「既存のデータベース資源の活用」のために
上記の 4.2.1 の問題とは無縁である.ただし複数の
は,なによりもこの既存メタデータの活用が求めら
データを,データシートなどの形式で,まとめて収
れる.
録しているものが多く,画像でデータを提供してい
ただし既存のデータベースに収録されたメタデー
るものも多い点に問題が残っている.データシート
タの活用のためには,二つの問題を解決しなければ
や画像に対する著作権の法的解釈は,現在確定して
ならない.まず一つめは,同じメタデータが複数の
おらず,自由に利用する事にはリスクが伴う.また
データベースに重複収録されており,さらにそれら
データシートや画像は,利用者への閲覧性は高いも
が異なるメタデータ項目名をつけられて形式化され
のの,機械にはその内容を理解できない.これらの
ている問題である.この問題を解決しないことに
理由から,データシートや画像は,自動的な材料・
は,意味のある相互運用を実現する事は難しい.そ
部品組み立てや相互運用による高度活用へと発展で
の為には,メタデータの標準化や,それにもとづく
きず,残念ながら人間による閲覧・再構成に利用で
データベース間のメタデータの名寄せと統一化が求
きるに過ぎないと言える.高度利用のためには,各
められるが,これらには多くのコストが要求され
― 179 ―
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
る.そこで本研究課題では,(1)既存メタデータ標
トが準拠すべき,新たな技術標準が要求される.ウ
準の見直し,(2)メタデータの思い切った簡略化,
ェブ標準と総称される,アクセシビリティーの向上
(3)メタデータの自動変換,(4)最も充実化が進ん
基準への準拠や,検索エンジンへの対応強化が求め
だ既存メタデータ資源である,地質文献データベー
られるようになったのである.しかし既存のデータ
ス(GEOLIS)のシステム間相互運用の機軸として活
ベース資源の大部分は,これらの新しいウェブ技術
用の四つの方策を目標に掲げた.これらについては,
標準への対応がおこなわれていない.また,既存の
次年度に具体的検討を開始する予定である.さらに
データベース資源には,データの追加・更新が滞っ
将来的には,(5)用語辞書とくに同義語辞書構築と
ているものも多く,この点の改善も,インターネッ
その活用や,(6)それらの発展形であるオントロジ
ト全体としての構造化のためには要請される.
これらの問題への対応は,単に相互運用強化を導
やセマンティックウェブなどの新技術の活用も視野
くのみならず,検索サイトから流入する一般利用者
に入れている.
二つめの問題は,メタデータ収録そのものにかか
の劇的な増加などの,様々な利益をも見込める大き
るコストである.さらに,コストが要求されるにも
な課題である.また最近利用が増えつつあるコンテ
関わらず,上に示したように,複数のデータベース
ンツ管理システム(CMS)によって,比較的簡便か
に同じメタデータが重複登録されている.この問題
つ低コストで,これらの問題が解決できるようにな
に対しても,上の六つを方策としてメタデータの重
ってきた.これらの一連の検討にもとづいて,本研
複入力の削減を目指していく.さらに(7)メタデ
究課題では CMS の採用を目指し,その準備を開始
ータの自動抽出や,
(8)ソーシャルタギングなどの,
している.
一般利用者によるメタデータ後付入力等々の,新し
5 情報システムの比較検討とそれに基づく選定
い技術の検討も進めていく予定である.
4.2.5 単 純なウェブサイトとして運用されている
5.1 情報システムの比較検討
データベース
以上の検討と技術動向調査の結果を受け,各種シ
既存データベース検討の最後に,システムの種類
ステム・メディアの比較検討をおこなった.比較し
について議論する.既存データベースのなかには,
た対象は,上の第 3 章で広く情報収集をおこない,
単純なウェブサイトとして運用されているものも多
第 3 表にまとめた,多様な情報システムである.比
い.上の 2.7.1 に記したように,情報技術の分野で
較検討した内容は,上の第 2 章で定義と議論をおこ
はデータベースをすなわち RDB とする認識が主流で
ない,第 1 表にその結果をまとめた多様な情報への,
あり,誤用や拡大解釈には様々な問題が生じてくる
適用・対応の程度である.比較検討は,(1)各種技
可能性がある.
術情報の収集,
(2)過去に利用した経験情報の収集,
とは言え昨今のウェブ関連の情報技術革新によっ
(3)実際のシステム試用,の三つの方法でおこない,
て,インターネット上の膨大なウェブサイトの集合
それらを総合判断し,5 段階の評点を与えた.この
体を,大規模なひとつのデータベースとして認識・
検討結果を第 6 表にまとめて示す.ここでは煩雑化
利用することが多くなり,インターネット全体とし
をさけるために,個々のシステムの評価を詳述する
ての構造化が目指されるようになってきた.この現
ことはせず,全体の傾向についてのみ記述すること
状から見れば,単純なウェブサイトとして運用され
にする.
ているデータベースが多いことは,問題点ではなく
もっとも大きな論点は,すべての種類の情報に包
逆に利点となる.ウェブサイト間の相互運用は,単
括的に対応するシステムは無かった,という点であ
純ではあるが,HTML リンクという簡便な方法です
る.この点からも,上の各章で記述した.複数のシ
でに実現できており,大きなコストを要求されるこ
ステムを構築し,相互運用していくという方針の重
ともない.この点を生かし,既存のデータベース資
要性が確認できた.
もちろん,沿岸域地質・活断層調査の結果得られ
源の活用は,主に HTML リンクによって段階的に実
るすべての情報に対応するシステムをまとめて開発
現していくという方針を採用することにした.
とはいえ,インターネット全体としての構造化と,
それによる相互運用のためには,個々のウェブサイ
することもできる.しかし上の 4.1 で検討したよう
に,これらの情報は多岐に渡り,これらのすべてに
― 180 ―
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
対応するシステムは非常に大規模になり,資金的・
み出される,多様な形式のデータの共有を目指して,
時間的なコストが膨大になってしまうことが容易に
機関リポジトリの構築準備を始めている.さらに引
予想される.また全ての情報が出揃うまでは,それ
き続いて,多様な研究成果を柔軟に外部へ公表でき
らのすべてに最適なシステムを設計し始めることが
る CMS の構築を目指しているが,ブログは CMS の
できず,上の 2.4.3 での議論と同様の問題を生じ,
一種であるため,その成果を活用できると考えてい
即時性を欠いたシステムとなってしまう.
る.以上の三つに平行して,地質情報統合化推進室
10 年以上前までは,すべての情報に対応する大規
では,LBS の構築・運用のための準備も開始してい
模な「統合システム」の構築が喧伝され,システム
る.これについては,川畑・齋藤(2009)によって,
インテグレータを名乗る企業によって,その構築が
本報告書に詳述されている.
一括請負されていた.しかし今世紀に入り,コスト
来年度中を目処にこれらの実用化をおこなうとと
の増大や硬直化・画一化・迅速柔軟変更不能などの
もに,さらに順次平行して,他のシステムの検討と
欠点が目立ち始め「統合システム」の夢から目覚め
設計を進めていく予定である.
ざるを得なくなった.そして複数システムの相互運
6 プロトタイプ作成
用を円滑化する,XML ウェブサービス・RESTful ウ
ェブサービス・サービス指向アーキテクチャ (SOA)
具体的なシステムの選定と設計には,さらに機能
などの技術が一般化してきた.これらの技術動向を
や性能などを比較検討することも重要である.これ
踏まえ,より柔軟な相互運用を目指すことにした.
らについても,上の 5.1 で述べた三つの方法で検討
またこの 10 年来,全ての種類の情報を統合的に
することもできるが,実際にシステムを構築・運用
扱うシステムとして,WebGIS が喧伝されてきた.
してみることが,最も効果的と判断し,プロトタイ
それを受けて,産総研・地質調査総合センターにお
プの作成を開始した.その概要を第8表にまとめた.
いてもその導入がおこなわれ,本研究項目に対して
現在,試験運用や構築準備を進めている途中である
も,当初その利用が求められたこともあった.しか
ため,それらの詳細は,来年度の報告書に記す.試
し第 6 表に明らかに示されているように,WebGIS
験運用の結果得られるさまざまな情報をもとに,本
は非空間情報への対応が著しく悪く,また空間情報
格システムの設計・構築を進めていく予定である.
に限っても,最適な対象は地理情報のみである.最
7 まとめ
近激増している空間データや空間コンテンツへの対
応がようやく始められたものの,これらの軽薄短小
沿岸域地質・活断層調査,研究項目「資料整備と
な情報に対して,WebGIS は重厚長大過ぎ,費用対
公開」の目的を明確化・具体化するための基本的検
効果が著しく低いと言わざるをえない.
討をおこなうとともに,技術動向の把握とプロトタ
イプ試作をおこなった.
5.2 情報システムの選定
まず基本用語の,情報技術分野・一般分野・地球
以上の比較検討と,第 3 表に示した利点・欠点
科学分野における利用状況を調査した.そしてその
やコストの比較にもとづいて,情報の種類ごとに複
結果をもとに,各用語を再定義・再分類した(第 1 表・
数の情報システムを選定した.ただし個別の製品ま
第 2 表・第 1 図~第 10 図).さらに情報技術・哲学・
でを選定したわけではない.選定結果を第 7 表にま
経営学・政治経済などのさまざまな視点から,各用
とめた.この表に掲げた複数のシステムを順次構築
語と研究項目との関連性・重要性・問題点を,理論
しながら,さらにそれらの相互運用性を順次向上さ
的かつ応用的に検討した.これらの対象とした基本
せていく予定である(第 11 図).もちろんこれらの
用語を,以下に列記する:データ・コンテンツ・情報・
構築は,沿岸域地質・活断層調査全体の進展に,順
位置情報・空間データ・空間コンテンツ・地理情報・
次対応しながら進めていく.
空間情報・知識・形式知・暗黙知・共感知・操作知・
このために,まずは概念知・会議議事録などの共
体系知・概念知・整理分類された形式知・整理分類
有や,議論・質疑応答・連絡通知など,研究の初期
されていない形式知・知識資源・知識の組織化・地
段階で活用できるブログの構築を最初に開始した
質情報・メタデータ・データベース.
(第 11 図).次に,研究のさまざまな途中段階で生
― 181 ―
これらの基本用語の検討の結果,以下の問題点・
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
注意点が明らかとなった:(1)著作権に適切に対処
機能・コストなどの情報を収集することができた(第
するために,データとコンテンツを峻別しなければ
3 表).
ならない.(2)データとコンテンツの峻別は,デー
さらに,対象とする情報の明確化のために,調査
タ・コンテンツを資源・材料・部品として利用した
研究の各段階での取得・生産が想定される情報の,
コンテンツ生産を促進し,科学と社会経済の発展を
具 体 例 を 洗 い 出 し, 分 類 を お こ な っ た ( 第 4 表 ).
導く.(3)空間情報の面指向から点指向への技術革
その結果,多種多様な情報が容易に抽出され,(1)
新にともなう,GIS 技術の停滞傾向と空間情報技術
これらすべての情報を対象にすることができるか,
の勃興に対応する必要がある.(4)安直・性急にシ
対象にする必要があるのか,あるいは取捨選択が必
ステム構築を始めるのではなく,その前にまずは技
要なのか;(2)これらの情報を対象にできる最適な
術動向と利用者要求に関する最新の情報を積極的に
情報システムは,具体的にどのようなものであるか;
収集するべきである.(5)大きなシステムをまとめ
(3)最適な情報システムはどのように選定したらよ
て時間をかけて作りこむのではなく,今後の急速な
いか;以上を具体的に検討する必要性が浮き彫りに
技術革新に柔軟に対応するために,まず簡便なプロ
なった.
トタイプシステムを構築し,その試験運用結果をも
その上で,「既存のデータベース資源の活用を図
とに設計を練り上げ,小さなシステムを順次継ぎ足
る」とする本研究の目的を具体化するために,それ
しながら,逐次方向修正を続けていく開発方針をと
らを洗い出し,分類をおこない,検討を加えた(第
る必要がある.(6)体系知を段階的に作り上げる複
5 表).その結果,以下の問題点とその対応方針が明
雑な過程を,データ取得から体系知公開まで一貫し
らかとなった:(1)データベースという名称を名乗
てデジタル情報によって進めなければならない.
(7)
っているにもかかわらず,データ以外の,コンテン
特に研究の初期段階においては,概念知の生産・共
ツや地理情報を集録しているものが,半数以上を占
有・部品利用の促進や,概念知を体系知としてまと
めている;(2)とは言え大半は,大量のデータを形
め上げるシステムを利用することが望ましい.(8)
式化・整理・構造化して収録しており,この点から
デ ー タ・ コ ン テ ン ツ は, そ れ ら の 取 得・ 生 産 と 同
見れば純粋なデータベースであり,上記の問題とは
時にセルフサービスでデジタル入力されるべきであ
無縁である;(3)複数のデータをデータシートなど
り,この入力を支援し,可能な限り自動化・省力化・
の形式で,まとめて収録しているものや,画像でデ
高品質化するためのシステムの構築が必要となる.
ータを提供しているものが多く,機械による自動的
(9)高度な考察の結果得られる体系知は,研究の最
な材料・部品組み立てへと発展できないだけでなく,
終成果であり,これのみの外部公開は,ごく小規模
著作権上の問題も生じかねない.(4)大部分が位置
で限定的かつ即時性を欠いたものに留まってしまう
情報を集録しているが,データやコンテンツに位置
可能性が高い.
情報を直接付与し,空間情報として高度に再利用で
以上の検討の結果,本研究項目の対象である,研
きるものは少ない.(5)空間データ・空間コンテン
究情報の集積としての「海陸統合データベース」を,
ツとそれらを扱う軽快かつコストの低い GeoWeb な
内部向けには「海陸地球科学知識資源」と呼びかえ
どのシステム・サービスを媒介とした,相互運用な
るとともに,一般向けには「海陸地質情報」と呼ぶ
どの方策を検討すべきである.(6)かなりのものが
ことにした.さらにそれらを運用するコンピュータ
メタデータを収録しており,この活用が求められる.
システムを,内部向けには「海陸地球科学知識資源
(7)同じメタデータが,複数のデータベースに重複
管理システム」と呼び,一般向けには「海陸地質情
収録され,それらが異なるメタデータ項目名をつけ
報システム」と呼ぶことにした.
られて形式化されてしまっており,標準化やそれに
次に「海陸地質情報システム」をどのような種類
もとづく名寄せと統一化が求められる.(8)メタデ
の情報システムとして構築すべきかを検討のため
ータ収録そのものに大きなコストが要求される.
(9)
に,多様な情報システムに関する技術情報を広く渉
これらのメタデータに関する問題に対して,以下の
猟し,候補となるシステムを洗い出した.その結果,
方針で対応を進める:(a) 既存メタデータ標準の見直
多様な情報システムを選定候補として見出し,それ
し,(b) メタデータの思い切った簡略化,(c) メタデ
ぞれの定義や説明・来歴・構成要素・対象情報の種別・
ータの自動変換,(d) 最も充実した既存メタデータ
― 182 ―
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
資源である,地質文献データベース(GEOLIS)のシ
を目指している . 以上の三つに平行して,野外調査
ステム間相互運用の機軸として活用.(10)さらに
時のデジタルデータ直接取得を目指した,LBS の構
将来的には,以下の新技術の活用も視野に入れる:
築・運用のための準備も開始している ( 川畑・齋藤,
(e) 用語辞書とくに同義語辞書構築とその活用,(f )
2009).
それらの発展形であるオントロジやセマンティック
具体的なシステムの選定と設計には,さらに機能
ウェブ,(g) メタデータの自動抽出,(h) ソーシャル
や性能などを比較検討することも重要である.この
タギングなどの一般利用者によるメタデータ後付入
ためには,実際にシステムを構築・運用してみるこ
力.(11)既存のデータベースのなかには,単純な
とが最も効果的と判断し,プロトタイプの作成を開
ウェブサイトとして運用しているものも多い.情報
始した(第8表).試験運用の結果得られるさまざ
技術の分野では,データベースはすなわち RDB で
まな情報をもとに,来年度は本格システムの設計・
あるという認識も多くあり,誤用や曲解にまつわる
構築を進めていく予定である.
様々な問題が生じかねない.(12)昨今のウェブ関
連の情報技術革新によって,インターネット上の膨
謝辞:合資会社キューブワークスの北尾 馨氏には,
大なウェブサイトの集合体を,ひとつのデータベー
最新のウェブ関連技術についてご教示いただきまし
スとして認識・利用することが多くなり,インター
た.株式会社シーエムエスの河邊雅夫氏と伊沢斎氏に
ネット全体としての構造化が目指されるようになっ
は,機関リポジトリシステムのプロトタイプ構築にご
てきた.この現状から見れば,単純なウェブサイト
協力いただきました.有限会社アルファサードの野田
として運用されているデータベースが多いことは,
純生氏と住田理恵氏には,CMS の構築準備にご協力
問題点ではなく逆に利点となる.この点を生かし,
いただいています.産総研地質情報研究部門の宮城磯
既存のデータベース資源の活用を,主に HTML リン
治氏・西岡芳晴氏・原 英俊氏には,折に触れて議論
クによって段階的に実現していくという方針を採用
とご協力をいただきました.産総研地質調査情報セン
する.(13)この方針を実現するためには,まずウ
ターの川畑 晶氏・渡辺和明氏・百目鬼洋平氏には,
ェブ標準への準拠や,検索エンジンへの対応強化が
所内の各種システムについて,ご教示いただくととも
求められる.これらを比較的簡便かつ低コストに支
に,議論をしていただきました.この報告書に記した
援することができる,CMS の採用を目指す.
成果は,地質情報統合化推進室の室員全員による,日
以上の検討と技術動向調査の結果を受け,各種シ
常業務と日々の濃密な議論を積み上げた結果です.し
ステム・メディアの比較検討をおこなった(第 6 表).
かし責任の所在を明らかにするために,以下の室員諸
その結果上に記した様々な問題点が再確認できると
兄を,著者に含めませんでした(あいうえお順)
:川
ともに,以下の2点が明らかとなった:(1)すべて
畑大作(現地質情報研究部門・地質情報統合化推進室
の種類の情報に包括的に対応するシステムは無い.
兼務)・川頭信之(現物質・材料研究機構)
・齋藤英二
(2)複数のシステムを構築し,相互運用していくと
(現地質資料管理室・地質情報統合化推進室兼務)
・角
井朝昭・宝田晋治(現地質情報研究部門)
・野々垣進・
いう基本方針が重要である.
以 上 の 比 較 検 討 と, 第 3 表 に 示 し た 利 点・ 欠 点
宮崎純一 ( 現地質情報整備室 )・村田泰章(現地質情
やコストの比較にもとづいて,情報の種類ごとに複
報研究部門・地質調査情報センター兼務).以上の皆
数の情報システムを選定した(第 7 表).選定した
さんをここに記して,深く感謝いたします.
複数のシステムを順次構築しながら,さらにそれら
の相互運用性を順次向上させていく予定である(第
11 図).まずは概念知・会議議事録などの共有や,
議論・質疑応答・連絡通知など,研究の初期段階か
ら活用できるブログの構築を最初に開始した.次に,
研究のさまざまな途中段階で生み出される,多様
な形式のデータの共有を目指して,機関リポジトリ
の構築準備を始めている.さらに引き続いて,多様
な研究成果を柔軟に外部へ公表できる CMS の構築
― 183 ―
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
野 中 郁 次 郎・ 竹 内 弘 高(1996) 知 識 創 造 企 業. 梅
文献
本 勝 博 ( 訳 ), 東 洋 経 済 新 報 社 , 401p.
アイティメディア・デジタルアドバンテージ(online)
Ikujiro Nonaka and Hirotaka Takeuchi (1995)
データベース.Insider's Computer Dictionary,
The Knowledge – Creating Company: How
2009.4.9 確
Japanese Companies Create the Dynamics of
認,http://www.atmarkit.co.jp/
Innovation. Oxford University Press,Ink.
icd/root/92/5787392.html
有川正俊(2002)持続可能な空間コンテンツ流通の
NRI ラーニングネットワーク(2003)IDG 基礎から
枠組みに関して.G コンテンツ流通促進協議会,
学ぶデータベース.IDG ジャパン,243p.
35p,2009.4.9 確 認.http://www.g-contents.
NTT コミュニケーションズ(online)データベース.
jp/filedown.php?item1=5&item2=13&page=5
IT 用 語 辞 典,2009.4.9 確 認,http://www.ntt.
1&type=1&mode=disp
com/bizit/dictionary/word/000271.html
地質調査総合センター(online)調査研究項目.沿岸
小野厚夫(1991)明治期における「情報」と「状報」
.
神戸大学教養部紀要,論集,No.47,81-98.
域地質・活断層調査,2009.4.9 確認,http://
www.gsj.jp/Gtop/coastalgeology/subjects.htm
小野厚夫(1994)情報小論.神戸大学国際文化学部
紀要,国際文化学研究,No.1,1-16.
イ ン セ プ ト(online) デ ー タ ベ ー ス.IT 用 語 辞 典
e-Words,2009.4.9 確 認,http://e-words.jp/
プラトン(1966,BC4 世紀)テアイテトス.田中美
知太郎(訳),岩波文庫,317p.
w/E38387E383BCE382BFE38399E383BCE3
酒井清訳(1882)佛國歩兵陣中要務實地演習軌典抄.
82B9.html
内外兵事新聞局,原著不明,ともに未読,(小
鹿野和彦(2001)地質図と地質調査.加藤碵一・脇
野厚夫,1991)からの孫引き.
田浩二総編集,地質学ハンドブック,朝倉書店,
酒井忠恕訳(1876)佛國歩兵陣中要務實地演習軌典.
4-27.
内外兵事新聞局,原著不明,ともに未読,(小
川畑大作・齋藤英二(2009)調査データ収集手法の検
野厚夫,1994)からの孫引き.
討 -主に位置情報取得に関する基本的考察- .
平成 20 年度沿岸域の地質・活断層調査研究報
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(online)石油・
天 然 ガ ス 用 語 辞 典.2009.4.9 確 認,http://
告,本報告書,151-159
北原保雄(2002)明鏡国語辞典デジタル.大修館書店.
oilgas-info.jogmec.go.jp/dicsearch.pl?sort=K
工業標準調査会(1994)JIS X0001 情報処理用語-
ANA&sortidx=1&target=KEYEQ&freeword=%E3%83%87%E
3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%
基本用語.日本規格協会,22p.
BC%E3%82%B9&tdummy=KEY&yougofield=%E6%B2%B9%
工業標準調査会(1997)JIS X0017 情報処理用語-
E3%83%BB%E3%82%AC%E3%82%B9%E7%94
データベース.日本規格協会,11p.
工業標準調査会(1999)JIS X0028 情報処理用語-
%B0&yougofield=%E8%A3%BD%E5%93%81&yougofield=%E4%BC%
人工知能-基本概念及びエキスパートシステ
81%E6%A5%AD&yougofield=%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%9
ム.日本規格協会,11p.
7% E3% 83% A9% E3% 82% A4% E3% 83% B3&you
工業標準調査会(2005)JIS X0701 情報およびドキ
gofield=%E5%8D%98%E4%BD%8D&yougofield=%E7%B5%8
ュメンテーション-用語.日本規格協会,69p.
4%E7%B9%94&yougofield=%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%
BB% 96&refcount=100
松村明編(1988)大辞林.第三版,三省堂,2976p.
柴田 武・山田明雄・山田忠雄 編(1992)新明解
松村明監修(1998)大辞泉.小学館,2958p.
国語辞典第 4 版,三省堂,1431p.
みずほ情報総研・吉川日出行編(2007)サーチアー
キテクチャ「さがす」の情報科学.ソフトバ
新村出編(2008)広辞苑.第 6 版,岩波書店,1911 p.
ンク クリエイティブ,271p.
谷口祥一・緑川信之(2007)知識資源のメタデータ.
勁草書房,248p.
日本国会(2004)コンテンツの創造,保護及び活用
の促進に関する法律.平成 16 年 6 月 4 日法律
戸田山和久(2002)知識の哲学.産業図書,272 p.
第 81 号.
ウェブリオ(online)データベース.IT 用語辞典バ
― 184 ―
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
イナリ,2009.4.9 確認,http://www.sophia-it.
com/content/% E3% 83% 87% E3% 83% BC% E3%
82%BF%E3%83%99%E3%83% BC% E3% 82% B9
脇田浩二(2006)地質図の基礎知識.脇田浩二・井
上誠編,実務に役立つ地質図の知識,オーム社,
2-19.
Wiki Media 財団(online)データベース.Wikipedia
日本語版,2009.4.9 確認,http://ja.wikipedia.
org/wiki/% E3% 83% 87% E3% 83% BC% E3% 82%
BF% E3% 83% 99% E3% 83% BC% E3% 82% B9
― 185 ―
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
第 1 図 データの概念図.
第 2 図 データとコンテンツの概念図.
― 186 ―
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
第 3 図 知識・情報・データ・コンテンツの概念図.
第 4 図 知識・伝達・情報の概念図.
― 187 ―
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
第 5 図 概念図:知識の一部が伝達されたものが情報.
第 6 図 知識間情報相互伝達の概念図.
― 188 ―
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
第 7 図 組織内外における知識間相互伝達の概念図.
第 8 図 形式知間の情報相互伝達と暗黙知の概念図.
― 189 ―
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
第 9 図 形式知・伝達・情報の概念図.
第 10 図 暗黙知と形式知の相互変換と伝達の概念図.
― 190 ―
ᒻᑼ⍮
ᒻᑼ⍮
― 191 ―
᭎ᔨ⍮
ᖱႎ
㕖ⓨ㑆
૕♽⍮
᭎ᔨ⍮
ⓨ㑆ᖱႎ
૕♽⍮
9GD)+5
)'1.+5
)25
ᣢೀ಴ ‛
⎇ⓥ㐿ᆎ
ࡉࡠࠣ
ᄙ᭽ߥࡈࠔࠗ࡞
ᣢೀ಴ ‛
4&$
⼏⺰࡮⼏੐㍳࡮⾰⇼ᔕ╵
࠹ࠠࠬ࠻࡮↹௝
ࡔ࠲࠺࡯࠲
಴ ਠೝߒᬌ⚝
㔺㗡⸥タ࡮⸘᷹୯
-/.㨯:/.
)GQ%/5
⵾࿑
࿑⴫
⚻ㆊႎ๔
⻠Ṷ
⸃⺑
ಽᨆ⸥タ࠺࡯࠲
⛔วᬌ⚝ၮ⋚
ⷰኤታ㛎࠺࡯࠲
%/5
಴ ‛ࠞ࠲ࡠࠣ
✲ᐲ⚻ᐲ╬
ⷰኤ࿾ὐ
ᯏ㑐࡝ࡐࠫ࠻࡝
*6/. ࠹ࠠࠬ࠻࡮↹௝
⎇ⓥ⸘↹
ⓨ㑆⸃ᨆ
)GQ9GD
࿾ℂᖱႎ㑛ⷩ
ࡈࠖ࡯࡞࠼
ࡁ࡯࠻
.$5
૕♽ൻ࠺࡯࠲ࠦࡦ࠹ࡦ࠷
⎇ⓥᚑᨐ
ᢥ₂ᦠ⹹
࿾ᒻ࿑
㔺㗡౮⌀
࿾ℂᖱႎ૞ᚑ㨯⺞ᢛ
࿾⾰࿑᏷
第 11 図 システム構築 ・ 利用 ・ データ取得・コンテンツ生産・相互運用の工程計画概要図.
╙ ࿑ࠪࠬ࠹ࡓ᭴▽㨯೑↪㨯࠺࡯࠲ขᓧ࡮ࠦࡦ࠹ࡦ࠷↢↥࡮⋧੕ㆇ↪ߩᎿ⒟⸘↹᭎ⷐ
࠺࡯࠲ ࡈࠔࠗ࡞ࠨ࡯ࡃ
ࠦࡦ࠹ࡦ࠷ 9GD ࠨࠗ࠻
ᣢሽ࠺࡯࠲ࡌ࡯ࠬ
ࡔ࠲࠺࡯࠲
૏⟎ᖱႎ
ⓨ㑆࠺࡯࠲
ⓨ㑆ࠦࡦ࠹ࡦ࠷
)+5
ථ਄࡮ࠗࡦ࠻࡜㧕
࿾ℂᖱႎ
⎇ⓥ⚳ੌ
⺰ᢥ
ේⓂ ⺑᣿ᦠ
ࠕ࠙࠻࡝࡯࠴
᭴ㅧൻ࠺࡯࠲
౒↪࠺࡯࠲
ផ⮈
⥄േ࡝ࡦࠢ
౒↪ࡔ࠲
࠺࡯࠲
౒↪ⓨ㑆ᖱႎ
౒↪ⓨ㑆
࠺࡯࠲
⸃㉼⸃ᨆ
࿾⾰࿑᏷
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
情報=形式知
空間情報
非空間情報
― 192 ―
×
○
○
空間コンテンツ
地理情報
×
×
×
空間データ
間接位置情報
( データ)
直接位置情報
( データ)
○
コンテンツ
データに解釈・判断・推論・考察・創作・創造・発想などの処理を施した,概念やアイディアを
含む知的創造物
客観的な事実・事象・事物を観察・計測し,その結果を伝達・解釈・判断・推論・考察などの処
理に適するように形式化した情報
位置情報を持たない情報全般の総称.データとコンテンツを含む上位概念
専門家の取捨選択・総描・編纂によって,空間データを面的な地図として体系化した,古典的な
空間情報.紙印刷および GIS の対象となってきた.作成に多大なコストと技能が必要なため,価
格と更新頻度に難がある.このため一般市民の利用や多様な商業利用に発展できず,トップダウ
ンで画一的に,主に専門家向けに提供され,囲い込みの弊害が指摘されてきた.他の情報とは,
単純な重ね合わせができるに過ぎず,総合的・機械的・即時的に組み合わせて,新たな空間情報
を多様かつ低コストで生み出す高度利用は困難
位置情報を付与したコンテンツ.LBS(位置情報サービス)や拡張現実などの新しい情報技術の
対象.決して位置情報が主では無く,コンテンツが主であり,位置情報は,便利に検索するため
の検索キーであり,また,バリューチェーンを実現するものでもある.情報消費者から情報生産
者へと変容した一般市民によって,画一的でない多様な空間コンテンツが,ボトムアップで大量
かつ迅速に生産・共有され,個別に迅速に更新されるため,極めて有用な情報になる可能性があ
る.さらに総合的・機械的・即時的に組み合わせて,新たな空間情報を多様かつ低コストで生み
出す高度利用が可能.様々な品質の空間コンテンツがカオスのように流通するようになるが,社
会というフィルタにより自然淘汰され,自立的に段階的に内容が充実し,現在の地図の一部に置
き換わるものになるだろう.
位置情報を付与したデータ.LBS(位置情報サービス)や拡張現実などの新しい情報技術の対象.
観察・観測者が,携帯端末によって現場で即時的にセルフサービスで作成できるだけでなく,観
測機器や携帯端末から自動的に収集することもできるため,低コストで容易に大量に蓄積し,共
有できる.総合的・機械的・即時的に組み合わせて,新たな空間情報を多様かつ低コストで生み
出す高度利用が可能
位置を間接的に表現するデータ.郵便番号や地点番号などの ID 番号,地名や住所などの文字列,
地図上に示された図形など.直接位置情報との対応関係を構造化したデータベースに自然言語処
理を適用したジオコーディングサービスによって,機械的に直接位置情報に変換できる.
3 次元空間内の位置を数値座標で表現し,解析幾何学的・力学的分析などに利用できるように形
式化したデータ.緯度・経度・標高(深度)のすべてまたは一部や,方位・仰角(伏角)
・速度・
加速度までをも含む.さらに例えば写真に対する撮影場ベクトル(撮影地点・方位・仰角(伏角)
・
撮影対象までの距離)のように,目的に応じて多様なパラメータを追加定義できる
位置を表現するデータ.GIS では位置情報は主データであったが,IT 一般では,位置情報は,時
間情報と同じく付属情報であることを忘れてはいけない
× ○ 位置情報を付与した情報全般の総称.位置情報・空間データ・空間コンテンツ・地理情報を含む
上位概念.インターネット上に公開された空間情報をクローラ(crawler)やディレクトリサー
ビスを使って集めたものが「未来の地図」あるいは未来の「サイバー地図」になると考えられる.
×
データ
位置情報
( データ)
定義と解説
× ○ 伝達された知識.事実・事物・事件・概念・アイディア・プロセスなどを含む.コミュニケーショ
ン(信号の伝達による意味の伝達)の過程において,事実又は概念を表現するために使われるメッ
セージ
著作権
第 1 表 情報と知識の階層分類・定義・解説.
出典・参考情報
有川(2002)を編集
有川(2002)を編集
有川(2002)を編集
有川(2002)を編集
有川(2002)を編集
有川(2002)を編集
有川(2002)を編集
JISX0701・JISX0001・コン
テンツ促進法を編集
JISX0001
著者らの独自定義
JISX0701
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
― 193 ―
知識資源
(知識)
形式知=情報
暗黙知
メタデータ
知識
△
操作知
△
○
○
概念知
整理・分類済み形式知
整理・分類されていない形式知
×
○
○
体系知
△
△
×
共感知
×
データに関するデータ.それぞれの知識資源から収集・蓄積された,複数の特徴(属性)を表現
するデータ(属性値)の組.知識資源を効率よく検索し,検索結果を見るだけで知識資源自体を
手に取ったり入手しなくても内容が確認でき,必要な知識資源の存在を知ることができるように
するために利用される.
人間の知的活動によって生産された知識を何らかのメディア上に体現したもの.知識をメディア
上に体現するためにおこなう整理と表現を知識の組織化と呼ぶ.知識資源は,組織化された知識
である.
きちんと整理・分類されていない形式知,特にデジタル情報.昨今のデジタル情報の爆発的増大
を担う,情報技術に疎い一般人によって,とりあえずデジタル化されて生み出され,増殖し続け
ている.検索・閲覧しにくいため,再利用されずに埋もれてしまうことが多い.また他の情報と
の関係が捕らえにくいため,再利用の効果が一過性で限定的なものになってしまう.
きちんと整理・分類された形式知,特にデジタル情報.デジタル化が一部の専門家によっておこ
なわれていた時代には,デジタル化の作業と整理・分類の作業は同時におこなわれていた.この
ため,デジタル情報のかなりの割合をこの情報が占めていた.
形式知に変換された暗黙知.暗黙知は,形式言語で言い表すことが難しいため,形式知への変換
には,メタファー.アナロジー,コンセプト,仮説,モデル,概念図,絵画,写真,動画などの,
非分析的な方法を使わざるを得ない.
異なった形式知を組み合わせて新たに創り出された形式知.書類・会議・電話・コンピュータネッ
トワークなどを通じて,知識を交換しながら組み合わせたり,コンピュータ・データベースなど
のように既存の形式知を整理・分類して組み替えることによって,創造的に新しい知識を生み出
すことができる.
系統だって使用することができるように整理された,事実,事象,信念及び規則の集合
形式言語で表すことができ,それによって容易に伝達可能な知識.文法にのっとった文章,厳密
なデータ,数学的表現,科学方程式,明示化された手続き,技術仕様,マニュアル,普遍的原則
等を含む.コンピュータ処理が簡単で,電子的に伝達でき,データベースに蓄積できる.
暗黙知に変換された形式知.書類,マニュアル,図式などの形式で伝達された形式知が,練習,
追体験などの行動を伴う学習によって,体や心の奥底にまで内面化された暗黙知.強い印象を伴
う疑似体験や濃密な対話によって,実体験を伴わずに促されることもある.
形式言語で言い表すことが難しく,伝達して共有したり,体系的・論理的に処理したりすること
が難しい,人間一人ひとりの体験に根ざす個人的な知識.ノウハウ,職人的コツ,直感,イメー
ジ,信念,ものの見方,主観に基づく洞察,価値システム,未来へのビジョンといった無形の要
素を含む.個人の行動,経験,理想,価値観,信念などに深く根ざしている.
弟子入りや合宿訓練などの経験の共有・共同体験によって,暗黙知から暗黙知のまま伝達された
暗黙知.
谷口・緑川(2007)
谷口・緑川(2007)
みずほ情報総研・吉川編
(2007)を編集
みずほ情報総研・吉川編
(2007)を編集
野中・竹内(1996)を編集
野中・竹内(1996)を編集
JIS X0028
野中・竹内(1996)を編集
野中・竹内(1996)を編集
野中・竹内(1996)を編集
野中・竹内(1996)を編集
戸田山(2002)
×
正当化された真なる信念 ( 西洋認識論哲学において,紀元前 4 世紀から現在まで受け入れられ続
けている,プラトンの古典的定義).ある人が,しかじかであるということを知っている,と言
えるのは,次の三つの条件を満たすときである:(1) その人は,しかじかと強く思っている.(2)
実際にしかじかである.(3) その人には,しかじかと思うにたる理由がある.
JISX0701
× ○ 推論に基づき立証を経た認識
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
一般
情報通信技術分野
技術標準
― 194 ―
本格的なデータベースは,情報の追加や削除,更新,検索を確実/高速に処理するための構造を持っており,
データベースの管理用ソフトウェアによっ て管理される
しかし広義には、何らかの主旨に沿って情報が蓄積されたものなら,テキストファイルのようなものを指し
てデータベースと呼ぶこともある
狭義
広義
(電子計算機で)ある特定の領域において,相互に関連ある大量のデータを整理した形で補助記憶装置に蓄
積しておき,必要に応じて直ちに取り出せるようにした仕組み
何らかの情報を網羅的に収集し,蓄積したもの.またはそうした目的にそって蓄積されつつある情報
定義
定義
Oracle 社の Oracle や IBM 社の DB2,Microsoft 社の SQLServer など が有名である
製品
情報の基地の意.系統的に整理・管理された情報の集まり.特にコンピューターで,さまざまな情報検索に
高速に対応できるように大量のデータを統一的に管理したファイル.また,そのファイルを管理するシステ
ム
現在ではリレーショナルデータベースシステム(RDBMS)というデータベースが多く用いられている.こ
れは、管理される情報をすべて 2 次元 の表としてあらわし管理しているシステムのことである
種類
定義
データを体系的に整理して管理しているソフトウェアあるいは情報そのもののこと
定義
大量のデータを一定の規則に従って蓄積し,一元的に管理できるようにしたもの
定義
簡単な住所録のようなものから,ファイルシステムまで,様々なものがデータベースに該当する.データベー
スの中でも,一つのデータをカラム(列)とレコード(行)によって整理し,テーブル(表)の中に配置し
た形式のデータベースはリレーショナルデータベース(RDB)と呼ばれ,近年で主流のデータベース形式と
なっている
大規模システムでは Oracle 社の Oracle が,小規模システムでは Microsoft 社の Access が,それぞれ市場の
過半を占めている
製品
種類
データの集まりを表の形で表現するリレーショナルデータベースが主流だが,近年では,データの集合を、
手続きとデータを一体化したオブジェクトの集合として扱うオブジェクトデータベースが大規模システムな
どで利用され始めている
種類
関係データの集合であって,所定の目的又は所定のデータ処理に適合したもの
定義
複数のアプリケーションソフトまたはユーザによって共有されるデータの集合のこと。また、その管理シス
テムを含める場合もある
適用業務分野で使用するデータの集まりであって,データの特性とそれに対応する実体の間の関係とを記述
した概念的な構造によって編成されたもの
定義
定義
複数の適用業務分野を支援するデータの集まりであって,データの特性とそれに対応する実体との間の関係
を記述した概念的な構造に従って編成されたもの
定義
定義(狭義・広義)・説明・解説・種類・実例・製品
第 2 表 データベースの定義と関連する解説.
柴田武・山田明雄・山田忠雄 編(1992)
新村出編(2008)
アイティメディア・デジタルアドバン
テージ(online)
NTT コミュニケーションズ(online)
ウェブリオ(online)
インセプト(online)
JIS X0701
JIS X0017
JIS X0001
出典
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
通信ネットワークなどを介した商業用データベース - サービスが行われている
コンピューターで、関連し合うデータを収集・整理して,検索や更新を効率化したファイル
特定のテーマに沿ったデータを集めて管理し,容易に検索・抽出などの再利用をできるようにしたもの.
狭義には、コンピュータによって実現されたものを言う.OS が提供するファイルシステム上に直接構築さ
れるものや,後述するデータベース管理システム (DBMS) を用いて構築されるものを含む
広義には電子化されたもの以外も含まれるので,電話帳、辞書、特許公報、Biological Abstract Service など
は電子化されていなくてもデータベースの範疇に入ると言える
単純なファイルシステムには,ファイルシステム自体に「データ」を統一的手法で操作する機能はない.ファ
イルシステムでデータ管理をするためには.データの操作機能を「応用プログラム側」に持つしかない.デー
タベースは,それを自ら持つことにより,応用プログラム側でデータの物理的格納状態を知らずとも操作で
き,かつ,データの物理的格納状態に変更があった場合にも応用プログラム側の処理に影響が及ばないこと
を保障することがデータベースの前提条件となっている(プログラムとデータの独立性)
種類
定義
定義
狭義 広義 実例
解説
― 195 ―
調査で得られたデータや,このようにして集められた地質図や文献は,後日報告書や論文をまとめるうえで
効率よく利用できるように,整理して保存しておく必要がある.
地質データの整理,保存についてはこれといった方法はなく,利用目的に合わせて各自工夫するほかない.
最近ではパソコンでデータ管理を行い.図表や写真,分析結果もパソコンに取り込んで加工することが容易
になっている.
ベクタ形式で数値化された地質図の場合,地質図上に描かれた点や線や面に対して,その意味(属性)のデー
タがリンクしている.その属性データは,しばしば複数の情報から構成される.例えば,地層名,地質年代,
構成岩石,産出化石などである.構成岩石の情報も,さらに細分することができる.変成岩ならば,源岩・
変成年代・変成度・変成タイプ・構造などである.それらのデータはリレーショナルデータベースとして構
築され,数値地質図上に描かれた一つひとつの地質体のデータに結びついている.
このように数値地質図そのものが一つのデータベースであるので,それに対応したデータモデルが必要とな
る.
地質図に描かれた線や面の意味がどのファイルとどのような関係でリンクするのか?岩石名は,岩石区分
DB とリンクし,地質年代は,地質年代 DB とリンクする.それぞれのデータに階層構造があれば,それも
示されなくてはならない
いろいろなデータ相互の関連付けを行い,コンピューターの記憶装置に蓄積してあるデータを効率良く検索
することにより,引き続き実行されるデータ処理プログラムへデータを円滑に受け渡すために設計されたシ
ステムをデータ・ベースと呼ぶ.したがってデータ・ベースは,データの単なる体系的な蓄積のみを目的と
するデータ・バンク・システムとは区別して考えなければならない
整理保存
逆 説 的 定 義( 各 自 工
夫するほかない)
地質図データベース
数値地質図
岩石区分データベー
ス 地 質 年 代 デ ー タ
ベース など
定義
地質調査にあたっては,事前に地質図や層序に関する資料,トンネルや坑道,ボーリングの記録,物理探査
記録,などの地質に関連したデータがあるかどうか調べておくとよい.データがあれば,それらを参考にす
ることによって調査に費やす時間を節約できるだけでなく,調査をより精度の高いものにできる.ただし,
既存のデータに誤りがある場合には,それにひきずられて誤った調査結果を生むことにもなりかねないので
注意を要する.データをどのように読み,生かすかは個人の経験と力量によるところが大きいので,初心者
は,経験を積んだ人に指導を仰ぐことを勧める.
コンピューターで、相互に関連するデータを整理・統合し,検索しやすくしたファイル.また,このような
ファイルの共用を可能にするシステム
定義
地質学・地球科学分野 既存データ
コンピューターで、すぐ利用できるようにデータをある決まった形で蓄積したもの
定義
石 油 天 然 ガ ス・ 金 属 鉱 物 資 源 機 構
(online)
脇田浩二(2006)
鹿野和彦(2001)
Wiki Media 財団(online)
松村明監修(1998)
松村明編(1988)
北原保雄(2002)
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
第 3 表 海陸地質システムの候補として検討した各システムの概要.
略称
ワープロ
システム名称
ワードプロセッサ ソフト
Word Processing Software
システムの特徴
・文章の入力
・入力者によって見かけを修飾・調整
・欠点:製品ごとの互換性低く別システムへの移植にはコストがかかる
表計算
・対象:長文・画像・表など
表計算ソフト
Spreadsheet Software
・表の行と列方向の順番で個々のデータを管理
・縦横方向の積算・統計などの多様な計算やグラフ描画
・入力者によって見かけを修飾・調整
・欠点:製品ごとの互換性低く別システムへの移植にはコストがかかる
・欠点:共同利用が困難,個人利用でも時間の経過につれ,内容理解が困難になる
・構築コストは低いが,時間の経過とともに維持管理コストが増大
・対象:数値・短文・画像など
RDB
リレーショナル データベース
Relational Database
・データを関連付けられた複数の集合で管理
・集合は表として扱うが,行・列方向の順番に意味を持たせない
・強固に規格化・構造化
・見かけやシステムから完全に独立した純粋なデータ
・論理集合演算を SQL 言語によって実行し,部品としてデータを自動組み立て(検索・
表の切り貼り・並べ替えなど)
・見かけを多様に自動変更
・利点:同じデータを多目的に利用可
・利点:複数入力者による日常的なデータ更新を実現
・利点:データを別システムに自動移植可能
・構築コストはやや高いが,維持管理コストは小
・対象:短文・数値・画像・動画など
XMLDB
XML データベース
XML Database
・XML タグ:個々のデータにデータ項目ラベルやメタデータを逐一貼り付けてデータ
に付加情報を付与
・XML ドキュメント:複数のデータから構成される情報を構成要素に分解し XML タグ
を埋め込む
・ネイティブ XML データベース:XML ドキュメントをそのまま格納.SQL を XML 向
けに拡張した Xquery 言語で操作
・ハイブリッド XML データベース:XML ドキュメントを分解して RDB に格納.SQL
言語で操作
・個々のデータに入れ子状に複数の XML タグを付与
・半構造化:タグとその入れ子構造を緩やかに規格化・構造化
・利点:構造拡張性:タグの追加変更と入れ子構造の拡張が,利用者すべてに自由自在
・欠点:構造拡張性があだとなり,構造が野放図に混乱する可能性高く,管理にコスト
・構造拡張を管理し予め互いに周知してあれば,複数のシステム間で情報自動交換な
どの相互運用可能
・XML ボキャブラリ:相互運用する複数のシステム管理機関の合議によって,予め取
り決めたタグとその入れ子構造
・各種 XML 標準:XML ボキャブラリや機能・操作指示情報までも XML で流通させる
ためのタグ・構造の規格を,多くの利用の為に標準化
― 196 ―
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
略称
システム名称
システムの特徴
・利点:タグと入れ子構造は人間と機械の両方に理解可能
・利点:切り貼り組み立て再利用が,人力でも自動でも可能
・利点:見かけを多様に自動変更可能
・利点:情報を別システム(XMLDB 以外の多様なシステム)に自動移植可能
・欠点:情報が肥大化し,転送・表示速度などのパフォーマンスを低下させがち
・構築コスト中程度,維持管理コスト増大
・対象:どんな種類の情報にも対応可能
ウェブ
ウェブサイト
World Wide Web
・網の目状に関連付けた複数のコンテンツ
・コンテンツを構成要素ごとに区切り,それぞれにメタデータを付与
・緩やかな構造化
・利点:構成要素を部品として自動切り貼り可能
・利点:見かけを構成要素ごとに自動変更可能
・欠点:時間の経過とともにサイト構造・見かけデザインなどが野放図に混乱
・欠点:検索エンジンへの対応に技能とコストが必要
・構築コストは低いが時間の経過とともに維持管理コストが増大
・対象:長文・画像・動画・ファイルなど
CMS
コンテンツ管理システム
Content Management System
・ウェブサイトを構成要素ごとに分解し,リレーショナルデータベースとして管理
・利点:構成要素の部品利用を高度に実現
・利点:見かけデザインの定義ファイルを複数用意し,それに従って部品組み立てと
見掛け調整を自動化
・利点:アクセス変化に応じた記事の自動並べ替え・関連記事の自動推薦・自動リン
ク管理など多機能
・利点:ウェブサイトのみならず,同じデータを紙出版物など多様な媒体に自動再構成
・利点:規格化した入力画面の利用で,複数入力者の協働を簡便化
・利点:ワ ークフロー管理・相互リンク・コメント・質疑応答によって,複数入力者
の協働関係をも規格化・管理
・利点:検索エンジンへの対応をも自動化しているため,技能とコストが不要
・構築コストはやや高いが,維持管理コストは小
・対象:長文・画像・動画・ファイルなど
ブログ
ブログ
Web Log
・簡易 CMS
・ブログ:コメント・質疑応答に特化
Wiki :ウィキ:複数入力者の共同執筆に特化.
SNS :social networking services:特定会員グループ内の内輪の歓談に特化
FS
ファイル サーバ
File Server
・複数の利用者による登録・ダウンロードを開放した,共同利用ファイル保管庫
・フォルダーの入れ子式階層により,ファイルを分類
・入れ子式階層の構造化無し,階層を複数の利用者が自由に追加・変更
・欠点:検索機能無し
・欠点:サイト構造・見かけデザインなどが野放図に混乱し,ファイルの登録階層が
すぐに分からなくなる
・検索エンジン未対応のため,ファイルの格納場所を知らないかぎりダウンロードで
きない
― 197 ―
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
略称
システム名称
システムの特徴
・構築コストは低いが,維持管理コストは大
・対象:ファイルであれば全てを登録可能
DMS
文書管理システム
・メタデータのリレーショナルデータベースとファイルサーバを融合
Document Management System
・利点:ファイル構成テキストの機械的解析などにより,メタデータの半自動入力を
実現
・利点:メタデータの多様な検索や推薦・利用者個別自動対応など,高度かつ多様な
機能
・利点:主要なフォーマットのファイルであれば,作成した元のソフトを起動せずと
も表示可能
・イントラ内の閉じた利用に特化し,組織内での文書・データ共有保管と有効利用を
促進
・構築コストは高いが,維持管理コストは小
・対象:ファイルであれば全てを登録可能
IRS
学術機関リポジトリ システム
Institute Repository System
・学術機関での利用に特化した簡易文書管理システム
・内外の多数の大学・研究機関ですでに運用中
・外部公開を主要な目的としているが,イントラ内での文書・データ共有保管にも転
用可能
・利点:すでに用意されているメタデータの自動加工・一括登録や,他のシステムか
らの自動収集可能
・文献書誌を主対象とした簡易メタデータ標準(ダブリンコア)により,規格化を簡
便に実現
・欠点:文書管理システムの高度な機能は無し
・利点:検索エンジンへの対応をも自動化しているため,技能とコストが不要
・構築コストはやや高いが,維持管理コストは小
・対象:論文 PDF ファイルを筆頭に,データファイル・講義録・動画など,ほぼすべ
てを登録可能
ESP
統合検索基盤
Enterprise Search Platform
・ウェブ検索エンジン技術をイントラシステム群に応用
・複数のファイルサーバなどに登録されたファイルに含まれるテキストを自動収集
・収集したテキストを統計的に解析し,キーワードを自動抽出,インデックス作成
・抽出したキーワードの統計や位置関係などを自動解析し,ファイル同士の関連付け
や順位付け
・そのほか多様な自動解析により,メタデータを自動付与
・利点:高速・高度・柔軟なキーワード検索とメタデータ検索を実現
・利点:関連ファイルの自動推薦や利用者個別自動対応なども実現
・イントラ内の閉じた利用に特化し,組織内での文書・データ共有保管と有効利用を
促進
・構築コストは高いが,維持管理コストは小
・対象:フェイルのみならず,RDB・XML DB などのデータベース内のデータや ,CAD・
GIS 内の個別データにも対応
GIS
地理情報システム
・紙地図をコンピュータで扱うことを目的として開発されたシステム
Geographic Information System
・紙地図のデジタル化・位置情報の面的付与(ジオリファレンス)
・多様な地図投影法・
測地系対応が開発当初の基本機能
― 198 ―
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
略称
システム名称
システムの特徴
・ラスター地図:地図画像に面的位置情報を付与したもの
・ベクトル地図:数式で定義した点・線・多角形などの単純な図形を隙間無くパッチワー
ク状に敷き詰めた地図に面的位置情報を付与したもの
・デジタル地図編集機能により,デジタル地図の紙印刷へと発展
・レイヤー機能によりデジタル地図編集機能を高度化
・欠点:レイヤー機能を複数地図の重ね合わせ機能に転用するも,情報量増大・複雑化・
コスト増などにより不首尾な成果
・デジタル地図中心のシステムとして発展するも,紙地図と同様のパッチワーク状の
面的一括情報であることは維持
・パッチワーク状の面的一括情報として維持するために,位相幾何学を応用
・各ポリゴンに非空間情報(属性情報)を付与し,単純なテキスト検索機能を実現
・空間検索・空間解析機能を付与し,分析ツールとして発展
・欠点:度重なる機能追加によって,システム自体が複雑化・肥大化
・欠点:システム肥大化に伴い,販売価格高騰と製品囲い込みが顕著化
・欠点:高機能化にともない,情報肥大化・ファイル内構造複雑化
・欠点:システム間のデータ相互利用の為には,複雑なファイル変換が必要で利便性
低い
・欠点:特にデジタル地図作成 / 登録に熟練とコストが必要な為,入力機能の利用価値
低く,専ら見るシステムに留まる
・構築コストやや大・維持コスト大
・対象:地理情報のみ.位置情報を持たない / 付与されていない非空間情報は対象外
空間 DB
空間データベース
Spatial database
・地理情報システム用デジタル地図を構成する各ベクトルデータを,リレーショナル
データベースで管理
・デジタル地図の面的パッチワーク構成を維持する位相幾何学情報も,リレーショナ
ルデータベースで管理
・各ポリゴンに付与する非空間情報も,リレーショナルデータベースで管理
・位置情報を持たない / 付与されていない非空間情報やシステム基本情報も,
リレーショ
ナルデータベースで管理
・欠点:SQL 言語や空間検索機能によって検索機能を高度化するも,システム間の相
互検索は困難
・欠点:度重なる機能追加によって,システム自体の複雑化・肥大化が進み,価格も
高騰
・システム肥大化に伴い,販売価格高騰と製品囲い込みが激化し,フリー・オープンソー
ス GIS/ 簡易低価格 GIS が台頭
・欠点:度重なる高機能化にともない,情報肥大顕著化
・欠点:度重なるシステム肥大化・高機能化・情報肥大化にともない,速度低下とそ
の解消のためのハード増強コスト増大
・欠点:システム間のデータ相互利用の為には,複雑なファイル変換が必要で利便性
低い
・欠点:システム相互運用のために,XML ドキュメントの書き出し・読み込みを付加
するも,XML ボキャブラリ標準規格の制定に多大のコスト必要
・欠点:強固に規格化・構造化しなければならないため,デジタル地図作成 / 登録に高
度な熟練と巨大なコストが必要
・欠点:デジタル地図作成 / 登録に熟練とコストが必要なため,入力機能の利用価値低
く,専ら見るシステムに留まる
― 199 ―
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
略称
システム名称
システムの特徴
・欠点:リレーショナルデータベースの利点である,複数入力者による日常的データ
更新や多目的利用を生かしきれていない
・構築コスト大・維持コスト大
・対象:地理情報が主対象.位置情報を持たない / 付与されていない非空間情報や地理
情報以外の空間情報に対応するも,実用性を伴えぬまま
Web GIS
Web GIS
・空間データベースにウェブ対応機能を追加
・欠点:機能の大半をサーバ側でおこなうため,大規模なハード投資をしないかぎり
軽快な操作は実現できない
・欠点:度重なる高機能化にともない,情報肥大化顕著に
・欠点:度重なるシステム肥大化・高機能化・情報肥大化顕著にともない,高価格化・
速度低下・ハード増強コスト増大
・欠点:ウェブブラウザでの利用を謳うも,各種ブラウザ・OS とその改訂に迅速に対
応しきれていない
・欠点:多 機能・高機能と伝統的 GIS インターフェイスの継承のため,一般ウェブ利
用者の使い勝手を損ね,利用が伸びない
・欠点:登場後 10 年程度たつものの,ウェブ上でのシェアは下がる一方
・欠点:伝統的に面的パッチワーク構成を維持している事も情報量肥大化と実用性低
下を助長
・欠点:検索エンジン対応不全のため,インターネットの隅に埋もれがち
・欠点:ウェブの最大の機能である相互リンクの不全などにより,システム間相互運
用性低い
・欠点:システム間相互運用のために XML データ交換機能を付与するも,面的パッチ
ワーク構成を主要因とする情報肥大化により低速化
・GIS ファイルをダウンロードに供し,各自の GIS で利用する方が軽快・低コストで実
用的
・構築コスト巨大・維持コスト巨大
・対象:高度に作りこんだ地理情報
CH
地理情報クリアリングハウス
・GIS デジタル地図ごとに,高度に規格化された大量のメタデータを作成
Geographic Information clearing
・イントラ / ウェブでの検索・リンク
House
・欠点:メタデータの作成はもっぱら専門オペレータに依存,熟練と大きなコストが
必要
・欠点:もっぱら人間の検索に対応,システム間相互運用には寄与せず
・欠点:セルフサービス メタデータ入力を提供するも,複雑なため入力者が敬遠
・欠点:検索エンジン対応不全のため,インターネットの隅に埋もれがち
・欠点:ウェブの最大の機能である相互リンクの不全などにより,システム間相互運
用性低い
・構築コスト大・維持コスト大
・伝統的な面的パッチワーク構成を維持したデジタル地図の情報粒度への対応が主
・対象:個別のポリゴンを対象とするためには,多大なコストが必要
GeoWeb
GeoWeb
・ウェブで軽快に空間情報を流通させるシステム・サービス
・Google Maps・Google Earth・Yahoo! 地図・電子国土ウェブなど
・XML ドキュメントで空間情報を交換し,自動組み立てにより多様な表現を実現
― 200 ―
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
略称
システム名称
システムの特徴
・利点:地点位置情報を付与した各種空間情報を主要対象とする事により,データ肥
大化を抑え,軽快な操作を実現
・利点:地名・住所・電話番号などの間接位置情報を自動的にジオコーディングする
機能により,専門的技能を要する地図登録(ジオリファレンス)オペレータ
が不要に
・利点:線やポリゴンなどのベクトルデータにも対応するものの,個別データとして
処理する事により,データ肥大化を抑え,軽快な操作を実現
・利点:GIS が伝統的に対象としてきた,面的パッチワークポリゴンデータへの対応も
始めたが,データ肥大化と速度低下を招くため,重視していない
・非空間情報と空間情報をともに有効活用
・ウェブの最大の機能である相互リンクなどにより,システム間相互運用性高い
・検索エンジンへの対応強固.半自動化しているため簡便.インターネット上での流
通が促進され,アクセス増大.
・Google Maps:ウェブサイトに,軽快にスクロール・拡大縮小できる地図を付加(マッ
シュアップ)し,各種ウェブブラウザで表示
・Google Earth:専用地図ブラウザをインストールし,各自のパソコンで操作すること
により,大きなデータの利用と高機能化を軽快に実現
・まだ登場後数年にも関わらずウェブでのシェア激増し,WebGIS の 3 ~ 4 桁上を行く
・Google Maps と Google Earth のための XML ボキャブラリ= KML は最大シェアを持ち,
事実上のスタンダード
・構築コスト小・維持コスト小
・対象:長文や画像などのウェブ向き空間情報が主対象.
位置情報は付与されるだけの,
時間情報と似たような付加情報
LBS
位置情報サービス
Location Based Service
・携帯電話・携帯端末・カーナビなどを対象とした,軽快な空間情報流通サービス
・GPS(Global Positioning System) や LPS(Local Positioning System) などにより,端末
の位置情報を自動取得し自動検索
・携帯端末で扱える簡潔な情報をサーバ側で検索し,軽快に流通させ,ピンポイントで表示
・利点:データと処理の大半をサーバ側で捌くウェブサービスだが,簡潔な情報を対
象とするため,軽快な操作を実現
・下地となる地図情報提供サービスに,他の情報を付加するサービス間相互運用も可能
・端末側のコスト僅少・付加サービス側のコスト小
・地図サーバ側の構築コスト中・維持コスト大
・対象:空間データ・空間コンテンツ
GeoCMS
GeoCMS
空間コンテンツ管理システム
空間文書管理システム
・CMS に GeoCMS を継ぎ足した融合システム.両者の特徴を兼ね備える(要参照)
・両者の良いとこ取りで,ウェブに柔軟に対応
・位置情報・キーワード(メタデータ)を組み合わせた,キーワード空間木インデッ
クスで検索・管理
・構築コストはやや高いが,維持管理コストは小
・対象:空間データ・空間コンテンツ
CAD
コンピュータ支援設計システム
Computer Aided Design
・コンピュータで設計製図をおこなうことを目的として開発されたシステム
・欠点:度重なる機能追加によって,システム自体が複雑化・肥大化
・3 次元製図機能を高度化
・ワイヤフレームでデータを管理
― 201 ―
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
略称
システム名称
システムの特徴
・ワイヤフレームは 3 次元 TIN 形式(不規則三角形網・三角測量)データと同等
・GIS のさまざまな機能を取り込みつつある
・GIS より 2 桁程度シェア大
・一般的にはウェブ未対応だが,Google が GoogleEarth 対応の無料製品 Sketch Up を
投入したため,今後の勢力再編が予想される
・構築コスト中・維持コスト中
・対象:多様な設計図
3D GMS
3 次元地質モデルシステム
3D Geologic Modeling System
・地下の地質構造を解析・表示することを目的として開発されたシステム
・開発途上で定まった特徴が出るまでに至っていない
・シェア僅少
・高価格
・ウェブ未対応
・構築コスト高・維持コスト高
― 202 ―
― 203 ―
総合柱状図
地質編年表
サンプル分析値
フィールドノート
上記の全コンテンツ
既存コンテンツ
上記の全データ
既存データ
地下水流動考察結果
地下水位観測値
資料整備と公開
地下水流動解析
地下温度計測値
水文環境調査
地下地質層序
柱状図
断層解釈
ボーリングコア対比
土質試験値
反射法地震探査メタデータ
ボーリングコア解釈
ボーリング記載
柱状図
柱状図対比図
データ処理法説明図
ボーリング記載表
重力探査一次データ
探査パラメータ一覧
反射法地震探査ショット記録
堆積速度解釈
古地震履歴解釈
海底堆積物分析値
海底堆積物年代測定値
模式柱状図
津波履歴
津波堆積物記載
堆積構造解釈
地形編年表
離水海岸地形記載
柱状図
古地震履歴解釈
隆起生物遺骸年代測定値
海底堆積物記載
隆起生物遺骸鑑定
隆起生物遺骸記載
反射強度
海底地形解釈・判読
反射断面解釈図
層序・構造解釈
コンテンツ例
地質調査データ情報の
統合化
沿岸大都市圏
地下調査手法開発
陸域の地質調査
陸海接合の物理探査
沿岸域の堆積物調査
海溝型地震の履歴の研究
音波探査一次データ
沿岸海域の地質構造調査
水深
データ例
調査研究項目
既存調査地点位置データ
上記の全位置データ
地下温度測定深度
地下温度測定地点
反射法地震探査地点
サンプル採取深度
ボーリング掘削地点
サンプル採取位置
露頭観察地点
サンプル採取深度
ボーリング掘削地点
重力調査地点
反射法地震探査地点
サンプル採取深度
海底堆積物採取地点
津波堆積物採取地点
離水海岸地形記載地点
隆起生物遺骸採取地点
測深地点
音波探査地点
位置データ例
既存空間データ
上記の全空間データ
地下水データベース
地下温度測定地点分布
反射法地震探査側線
地下水同位体組成分布
ボーリング掘削地点分布
テフラ等層厚線図
深度分布図
ルートマップ
ボーリング掘削地点分布図
重力図
反射断面図
反射法地震探査側線図
海底堆積物採取地点分布図
津波堆積物採取地点分布図
年代測定値分布図
隆起生物遺骸分布図
海底反射強度マップ
海底地形図
音波探査反射断面図
音波探査側線図
空間データ例
第 4 表 沿岸域地質・活断層調査の調査研究項目と想定される多様な情報例.
既存空間コンテンツ
上記の全空間コンテンツ
水理地質構造
海域反射断面
ボーリング解釈
地質分布
活構造
地形解析図
沿岸域岩相分布
地質断面図
断層構造解釈図
解釈断面図
海底堆積速度分布
海底堆積物分布
津波による浸水域
離水海岸地形分布
古地震隆起域
海底活断層
海底変動地形解釈
地質構造解釈
海域岩相分布
空間コンテンツ例
既存地理情報
上記の全地理情報
地下水 GIS
3 次元水理地質構造モデ
ル
海域反射断面 GIS
地下水シミュレーション
ボーリング GIS
3 次元地質モデル
活構造図
地形学図
沿岸域地質図
地質パネル断面図
断層構造解釈図
解釈断面図
海洋地質図
海底堆積速度分布図
海底堆積物分布図
津波ハザードマップ
古地理図
古地震隆起域分布図
海底活断層図
海底変動地形判読図
構造地質図
海域地質図
地理情報例
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
○
○
○
○
○
北太平洋の炭素循環に関するデータベース
高分解能音波探査断面データベース
地震に関する地下水観測データベース
地盤データベース
地殻応力場データベース
― 204 ―
○
○
○
○
○
地層名検索データベース
地熱ボーリング・コアデータベース
○
○
○
日本の付加体
日本の変成岩
日本列島基盤岩類物性データベース
○
○
北西太平洋海底堆積物データベース
有害元素を含む全国元素分布(地球化学図)データベース
○
○
○
○
北西太平洋(日本周辺海域)海底鉱物資源データベース
○
○
○
○
○
○
○
○
物理探査調査研究活動データベース
東・東南アジアの地質ハザードマップ
○
日本の第四紀火山
○
○
○
○
○
日本シームレス地質図データベース(20 万分の1)
日本の火成岩
○
○
○
○
統合地質図データベース
○
○
地質文献データベース
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
地質情報総合メタデータ
○
○
○
○
○
○
○
○
メタデータ
地質標本データベース
○
○
地質情報インデックス検索システム
○
岩石物性値データベース
○
岩石標準試料データベース
○
○
○
関東平野の地下地質・地盤データベース
○
○
○
○
地理情報
○
○
空間コンテンツ
○
○
空間データ
活断層データベース
○
○
位置情報
活火山データベース
○
コンテンツ
○
○
データ
含まれる情報の種類
火山防災マップデータベース
火山衛星画像データベース(プロトタイプ)
海洋地球物理データベース
海域地質構造データベース
データベース名
第 5 表 沿岸域地質・活断層調査に関係する地質調査総合センターの既存のデータベース資源.
ウェブサイト・RDB
ウェブサイト・RDB
ウェブサイト・RDB
RDB
ウェブサイト
RDB
RDB
RDB
ウェブサイト・RDB
RDB
ウェブサイト・WebGIS
WebGIS
RDB
ウェブサイト・RDB
RDB
ウェブサイト・RDB
クリアリングハウス
WebGIS
RDB
ウェブサイト
ウェブサイト・RDB
ウェブサイト
RDB
ウェブサイト
RDB
ウェブサイト・RDB
RDB・GeoWeb
ウェブサイト・Wiki・RDB
ウェブサイト
ウェブサイト・GeoWeb
ウェブサイト
ウェブサイト
システムの種類
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
― 205 ―
メタデータ
空間情報
非空間情報
種類
形式
種類
形式
△
地理情報
空間コンテンツ
△
××
××
地理情報粗稿・原稿
地理情報 (解釈・編集を含む地質図等・著作権有)
××
××
空間コンテンツ粗稿・原稿
空間コンテンツ ×
×
空間データ(各種数値地図・著作権無)
空間的分析・集約・解析結果
(解釈含まない分布図等著作権無)
○
△
位置データ(位置のみ)
位置付き非空間データ(位置+非空間データ)
位置データ
××
△
××
3 次元 TIN
(不規則三角形網・三角測量・ワイヤフレーム)
3 次元データ:立体・グリッド
△
△
△
××
××
××
××
×
×
○
○
××
××
××
2 次元ベクタデータ:面・ポリゴン
3 次元データ:立体・画像
○
△
××
2 次元ラスタデータ:面・画像・グリッド
△
×
◎
◎
コンテンツ粗稿・原稿
コンテンツ(説明書・論文等・著作権有)
1 次元データ:地点(緯度・経度・標高 / 深度)
○
△
△
△
設計図・概念図・模式図
プレゼンテーション・講義録・録音・録画動画
×
○
○
△
△
△
○
○
文献リスト・書評・リンク集・ウェブログ
論説・総論・展望
△
○
コメント・質疑応答
説明書・ReadMe
○
△
メモ(長文・画像)
△
◎
◎
◎
議事録
事務処理書類
ノウハウ・概念知・経験談
○
○
共用情報:用語・数式・法則・リスト・カタログ・
パラメータ(物性値・地質年代等)
○
○
分析・集約・解析・シミュレーション結果
(図・表・数値・テキスト・アニメーション・柱状図)
△
○
△
○
××
◎
出張報告書・実験ノート
(長文・数値・簡易図表)
△
△
観察・分析・実験データ(テキスト・数値)
写真・動画・スケッチ画像
△
○
△
画像
動画・アニメーション
空間データ
コンテンツ
データ
◎
△
△
数値
表
○
××
○
◎
テキスト(短文)
○
××
××
××
××
○
×
◎
◎
○
△
△
△
△
○
△
△
△
△
△
△
△
×
△
△
△
△
◎
◎
△
△
○
○
○
◎
◎
○
◎
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
○
○
××
○
××
○
×
××
××
××
××
××
××
××
××
××
×
△
○
○
○
△
○
○
△
△
△
○
△
△
○
△
○
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
×
◎
××
×
×
××
×
×
○
○
××
××
○
××
××
○
△
○
△
○
○
◎
◎
◎
◎
◎
△
◎
△
△
◎
◎
○
○
◎
◎
◎
◎
××
×
××
×
×
○
○
××
××
○
××
××
○
△
○
△
◎
◎
○
◎
○
○
◎
△
◎
○
○
◎
◎
○
○
◎
◎
◎
◎
◎
ワープロ 表計算 RDB XMLDB ウェブ CMS ブログ
テキスト(長文)
(最適 > 適 > 可能 > 困難 > 不可 = ◎ > ○ > △ > × > ××)
××
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
××
×
×
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
FS
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
○
○
◎
◎
◎
○
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
△
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
○
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
×
×
○
×
◎
△
△
△
△
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
◎
○
○
○
○
○
△
△
○
○ ××
○
○
○
○
◎ ××
◎
◎
◎
○
○
○
○
△
○
○
◎
◎
○
○
○
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
△
DMS IRS ESP
第 6 表 各種情報への各種システム・メディアの対応状況調査・評価結果比較.
××
◎
○
◎
○
◎
◎
△
△
○
△
△
◎
◎
△
××
×
××
×
××
××
××
××
××
××
××
××
××
×
××
××
×
×
△
△
△
×
△
△
◎
△
◎
△
◎
◎
○
○
△
△
△
◎
◎
○
××
××
××
×
××
××
××
××
××
××
××
××
××
××
××
××
×
△
○
○
○
×
○
△
○
△
××
△
◎
◎
○
△
△
△
△
◎
◎
△
××
××
××
×
××
××
××
××
××
××
××
××
××
××
××
××
×
△
○
○
○
×
○
◎
◎
△
△
△
◎
◎
△
×
◎
◎
×
◎
◎
×
××
××
××
×
××
××
××
××
××
××
××
××
××
××
××
××
××
××
××
××
××
×
△
○
○
△
◎
◎
○
○
◎
◎
○
△
○
○
○
◎
◎
◎
◎
○
○
○
◎
○
◎
◎
◎
◎
○
◎
◎
◎
◎
○
◎
◎
◎
◎
◎
○
○
△
◎
◎
○
○
◎
◎
○
△
○
○
○
◎
○
○
○
△
△
○
◎
◎
◎
◎
○
○
○
◎
◎
◎
◎
○
◎
◎
◎
△
◎
○
○
○
◎
◎
○
○
◎
◎
○
△
○
○
○
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
◎
○
◎
◎
◎
◎
○
◎
◎
◎
◎
◎
△
○
○
○
○
○
○
○
○
◎
○
△
△
△
○
××
××
××
◎
××
××
××
××
××
××
××
××
××
△
××
××
△
××
××
△
○
×
△
△
◎
○
◎
○
○
○
○
○
◎
◎
△
△
△
○
××
××
××
×
××
××
××
××
××
××
××
××
△
△
××
××
△
××
××
△
○
×
△
GIS 空間 DB WebGIS CH GeoWeb LBS GeoCMS CAD 3DGMS
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
― 206 ―
メタデータ
知識
形式知=情報
暗黙知
情報=形式知
GIS・機関リポジトリ・CMS・紙出版
地理情報
システム化困難
操作知
ブログ
リレーショナルデータベース・GIS・機関リポジトリ・紙出版・XML データベース
機関リポジトリ・CMS・統合検索基盤
概念知
整理・分類済み形式知
整理・分類されていない形式知
書誌データベース・統合検索基盤・機関リポジトリ・ソーシャルタギング・メタデータ自動抽出
システム
複数システムの相互運用
体系知
複数システムの相互運用
システム化困難
システム化困難
複数システムの相互運用
GeoWeb・GeoCMS・LBS
空間コンテンツ
ジオコーディングシステム
間接位置情報
GeoWeb・LBS・空間データベース・XML データベース
LBS・GeoWeb
直接位置情報
複数システムの相互運用
空間データ
位置情報
機関リポジトリ・CMS・統合検索基盤
コンテンツ
複数システムの相互運用
機関リポジトリ・CMS・統合検索基盤・リレーショナルデータベース・XML データベース
データ
複数システムの相互運用
共感知
空間情報
非空間情報
複数システムの相互運用
選定システム・メディア
第 7 表 各情報・知識ごとに選定候補としたメディア・システム.
平成 20 年度 沿岸域の地質・活断層調査 研究報告
XooNIps
DSpace
Movable Type
ブログと機関リポジトリの融合システム
機関リポジトリ
ブログ
Power CMS for Movable Type
Xoops
ブログ
CMS
システムの製品名
システムの種類
2009.3
2009.3
2009.3
2008.3
2008.2
構築開始
2010 春の予定
2010 秋の予定
2010 春の予定
2008.4
2008.3
試験運用開始
第 8 表 プロトタイプの構築と試験運用.
上記の Movable Type の機能増強販売版をもとに,アルファサード
が機能を追加した販売ソフト.
シックスアパートが作成したオープンソースソフト.機能増強版を
低価格で販売している
ヒューレットパッカードが構築したオープンソースソフト
Xoops をもとに理化学研究所が追加作成したオープンソースソフト
オープンソースソフト
注記
海陸地質情報システム構築のための技術動向調査・基本的検討・プロトタイプ試作
― 207 ―
Fly UP