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ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成(2) : 中学校経済未学習

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ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成(2) : 中学校経済未学習
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成(2) : 中学校経済未学習
生徒のゲームパフォーマンス(松永 淳一教授退職記念)
Author(s)
福田, 正弘
Citation
長崎大学教育学部紀要. 教科教育学 v.46, p.17-25; 2006
Issue Date
2006-03-01
URL
http://hdl.handle.net/10069/7230
Right
This document is downloaded at: 2017-03-29T21:35:10Z
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
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ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成 (
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一中学校経済未学習生徒のゲームパ フォーマンスー
福田 正弘*
(
2005年 1
0月 31日受理)
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2005)
1 研究 目的
ビジネスゲーム遂行時の意思決定では どんな知識 ・能力が決定的な働 きを演 じてい るの
か。社会科 で習 う経済の知識か,それ とも別 な能力 か。本研究 は, 中学生が ビジネスゲー
ムを遂行す る上で,現行の社会科の学習が どのような意味を持 ってい るか を明 らかにす る0
我々は,中学 3年生 に,大学教育で用い られているビジネスゲーム (
YBG -横浜国立大
学 ビジネスゲームシステムのベーカ リーゲーム) をプ レイ させ る とい う実験授業 を行い,
中学生のゲームパ フォーマ ンス を探 ったOその結果,実験 に参加 した中学 3年生 は大学生
と同等 レベル のゲームパ フォーマ ンスを示 し,彼 らは満足で きる水準で ビジネスゲームを
遂行 できることが明 らかになった (
福田,
2
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5
b)
。そ して,我 々は, 中学校公民的分野の
経済の学習 を終 えた程度の経済初学者 でもビジネスゲームを充分 に理解 し,遂行す ること
がで きる と結論 した。
現在,わが国では,中学校社会科公民的分野の経済学習 を対象 にしたもの として,内閣
府 (日本経済教育セ ンター)の 「
牛井屋経営 シ ミュレーシ ョン」 (
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),起業家教育 .
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アン トル ビー ンズ)の 「
や ってみ店長」 をはじめ と
す る一連 の教材 ソフ トウェア (
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) な ど,官民 をあげて,数多
くのゲー ミング ・シ ミュレーシ ョン教材 が開発 され供給 され てい る。我 々の研究成果 は,
こ うしたゲー ミング ・シ ミュレーシ ョン教材導入の動 きに客観的な実践的根拠 を与 えるも
のである。
ところで,我々が研究 を遂行す る中でい くつかの課題 が発生 し,その解決 が求め られて
いた。その一つが, ビジネスゲームを うま く遂行できるのは経済 を学習 した者 だけか,つ
*
長崎大学教育学部初等教育講座 (
社会科教育)
1
8
長崎大学教育学部紀要 教科教育学 No.46 (
2006年)
ま り中学 3年生でない とビジネスゲームはできないのか とい う問題 であった。それ は,経
済の学習 を終 えた生徒でない と,ゲームで放 り組 む店舗経営の ビジネスモデル を理解す る
ことができず, ビジネスモデル を理解 できない生徒 はゲーム を上手 くで きないであろ うと
い う仮説が実験授業 で必ず しも支持 されなかった ことによる。つ ま り,生徒 のゲームの成
績と 「
理解 」 の間に相関が見 られ なかったのである。社会科 での経済学習-ゲームでの ビ
ジネスモデル の理解- ゲームの成功 とい う形成関係仮説 を考 えていた我々に とって,それ
は大 きな反証 ともい えるイ ンパ ク トのある事実であった。
そ こで,今回我々は, この仮説 を再検討す るために実験授業 を計画 した。検証すべ き課
題 は次の 3つである。す なわち,
①
経済未習者 がゲーム を満足 に遂行 で きるか どうか
②
経済未習者 がゲー ムのモデル を理解 で きるか どうか
③
ゲームのモデル理解 はゲーム成績 に関係 があるか
の 3つ である。以下,実験授業 の概 要 とその結果 について報 告す る。
2 研究方法
2
.
1仮 説
本研究 に臨む我 々の仮説 は,先述 したもの を修正 し,次の よ うにした。
ベーカ リーゲームを遂行す るのに必要な知識 は,ゲームのモデル に対す る体系的機能的
知識である。それ は,ゲームに登場す るベーカ リー (
パ ン屋) の経営 を支配 してい るビジ
ネスモデル と,ベーカ リー経営 に伴 って産出 され る損益 を支配す る損益モデル についての
理解 である。 この 2つのモデル を理解す るには,ゲームシナ リオ を丹念 に読み,そこに記
述 されてい る内容 をゲームで求 め られ る行動 に変換 して出力 できるよ うに,チャー ト図や
数式 として記述 できることが必 要 になる。 しか し,そ こでは,例 えば会社の種類 について
の定義的知識 の よ うに,今 日の社会科 で一般的に教 え られてい る経済一般 の知識 は必ず し
も必要 とは されていない と思われ る。それ ゆえ,ベーカ リーゲームの よ うな ビジネスゲー
ムの遂行 には,経済制度 についての定義的知識の学習 を主 とす る社会科 の学習 は必ず しも
前提 とされ ないのではないか と考 えた。
従 って,本研究 では,
①社会科 で経済の学習 を終 えていない生徒 でも, ビジネスゲームを満足 できるレベル で
遂行 で きる
②社会科 で経済の学習 を終 えていない生徒でも, ビジネスゲームのモデル (ビジネスモ
デル,損益モデル) を理解 で きる
③生徒 の ビジネスゲームのモデル理解 は,ゲームパ フォーマ ンス と関係 があ り,理解 の
優れ た生徒 (
チーム) はゲームパ フォーマ ンスにも優れてお り, よいゲーム成績 を修
める
の 3つ の仮説 を立てた。
2
.
2被験者
本研究では,社会科で経済の学習 を終 えていない生徒 として, 中学 2年生 を被験者 とし
た。被験者 の生徒 は,諸般 の事情で, 中学校 3年生の実験授業 を実施 した学校 の生徒 では
な く,異なった学校の生徒である。被験者は 3
8名,1つのクラスの生徒全員である。また,
福田正弘 :ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成 (
2
)-中学校経済未学習生徒のゲームパフォーマンス- 1
9
このクラスの生徒 は全員ベーカ リーゲーム をプ レイす るのは初 めてである。原則 として 3
人 1チームで グルー プ分 けし,合計 1
3チームでゲーム を実施 した。
2
.
3 実験授業
実験授業 は 2005年 3月 に,YBG のベーカ リーゲーム を用 いて実施 した。実施環境 は,
可能 な限 り中学 3年生の実験授業 と同 じになるよ うに配慮 した。す なわち,授業時数 を 2
時間の連続授業 (
事前説明 20分,事前 アンケー ト 1
5分,ゲーム 60分,事後 アンケー ト ・
解説 20分) にし,ゲームシナ リオ を事前 に配布 してお き,生徒 が事前 に学習 で きるよ う
にした。 さらに,生徒 にゲーム中の電卓使用 を促 し,入力 内容 を熟慮 して意思決定す るよ
う励 ま した。
授業 の模様 を写真 1- 4に示す。
写真 4
写真 3
2
.
4デー タ収集 と検証方法
2
.
4.
1デー タの収集方法
本研究 でのデー タの収集方法 は次の通 りである
。
まず,生徒 のゲームパ フォーマ ンスについては,YBG のシステムに保存 されてい るデー
タを用いた。具体的 には,各チームのゲームの成績 デー タ と,各チームの ラウン ドごとの
入力 デー タ と経営デー タである 特 に,後者 に関 しては,生徒 の表面的なゲーム成績 だけ
。
でな く,ゲームに込 め られ た経営学概念 に対す る生徒 の理解状況 を見 るために,生徒 の意
20
長崎大学教育学部紀要 教科教育学 No.46 (
2006年)
思決定の結果か らp比 とDs比 (
福田 ,2005
b) の 2つの指標を算定 し,データとして用いた。
ここで,P比 とは,各チームのラウン ドごとに一意的に決まる損益分岐価格 peと実際に
決定 した価格 Pとの遊離比率 (1- Pe/
P) である。 この値 が大 きいほ ど利益 が出ているこ
とにな り, またマイナスである限 り利益 は生 まれない。一方,Ds比 とは,受注数 D と供
S) である。 この値 がプラスだ と供給過剰 で売れ残 りが生 じ
給数 Sとの遊離比率 (1- D/
廃棄損失が発生 してい ることになる 逆 にマイナスだ と供給不足で販売の機会損失が発生
。
してい るこ とになる。 この値 をゼ ロに近づ けることが よい経営の条件 とな る
。
次 に,生徒のモデル理解 に関す るデータは,事前のアンケー トか ら得た。事前ア ンケー
トでは,モデル理解 (ビジネスモデル と損益モデル) についての生徒 の理解 を見 る設問を
設 けた。前 回の中学 3年生 を対象 とした実験授業の際 にも問題 となった (
福 田 ,2005
b) よ
うに, この設問には正 しく生徒 の理解 を測 っているのか とい う技術的な疑 問があったため,
今 回は次の よ うに改 良を施 した。
す なわち, ビジネスモデル の理解 を問 う設問では,以前行 った よ うに生徒が ビジネスモ
デル の図 を全 く最初 か ら描 くとい うのではな く,部分が描 かれた図にビジネス要素 (5要
秦) を加 え,図を完成す るとい う方法 をとった。生徒 が描いた要素数 をカ ウン トし,得点
とした (5点満点)。
また,損益モデル の理解 を問 う設問では,売上 げや変動費用,固定費用 を含 めた総費用
とい う損益 にかかわ る 4項 目の式 を書かせ,最後 に利益式 を書かせ るとい う方法 をとった。
正 しい式 の記述数 をカ ウン トし,得点 とした (
4点満点)。
本研究では, これ ら 2つの設問に対す る生徒 の得点 をゲームのチーム ごとに集計 し,そ
の平均値 を とってデー タ とした (9点満点)。
2.
4.
2 検証方法
仮説 の検証方法 は次の方法で行 った。
① について
まず,生徒のゲーム成績 グラフを,前回の中学 3年生のそれ と単純比較す る。次 に,ゲー
ム成績 の高位 (1位)
,中位 (
7位),低位 (
最下位)のチームの Ds比 とp比のグラフを,
前 回の中学 3年生 のそれ と比較す る。
② について
比較対象 とな る中学 3年生 のデー タがないので,モデル理解 の得点 か ら評価 す る。
③ について
② のデー タをゲーム成績順 に並べ,各チームのモデル理解 の得点 とゲーム順位の相関関
係 を見 ることによって判定す る。 この作業 は② の作業 と同時的 に行 う。
3 結 果
3
.
1 ゲームパ フォーマ ンス
今回実験授業 を行 った中学 2年生のゲーム成績 は,図 1の通 りである
。
中学 3年生のゲー
ム成績 (
図 2) と比較す ると,同等かそれ以上の成績 であること,そ して各チームの利益
の伸び具合が同様であることが窺 える
。
よって,本実験授業の被験者である中学 2年生は,
ベーカ リーゲーム をプ レイでき,満足 できる レベルのゲームパ フォーマ ンス を示 した とい
える。
福田正弘 :ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成 (
2
)-中学校経済未学習生徒のゲームパフォーマンス- 21
図 1 中学校 2年生のゲーム成績 (
2005年 3月実施)
ラ ウ ン ドご との 剰 余 金 の 変 化
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図 2 中学校 3年生のゲーム成績 (
B校 2005年 1月実施)
次 に,ゲーム成績 の高位 (1位), 中位 (7位)低位 (
最下位)のチームが示 した p比
と Ds比 の グラフを, 中学 3年のそれ と並べて掲示す る (
図 3)0
わずか 3チームの比較 であるが,図 3か ら, 中学 2年生 も中学 3年生 と同じよ うに,そ
れぞれのゲーム成績 に対応 した p比,Ds比 の動 きを示 してい る。す なわち,高位 のチー
ムは p比 がゼ ロよ り大 き く,Ds比 もゼ ロに近 い とい う利益条件 を満 た しなが ら, その変
動幅 も小 さく安定 してい る。中位 のチームは,最初利益条件 を満足で きず にい るが,徐 々
に条件 を満 た し,変動幅 も小 さくなって安定 してい く。それ に対 し,低位 のチームは利益
条件 を満足す ることはな く,変動幅 も大 きいままで安定す ることはない。 この よ うに,経
営上の正 しい意思決定ができるとい う観点か ら経営学概念 の理解 を捉 えた場合, 中学 2年
生 も中学 3年生 と同様 の理解傾 向を示 してい るとい える。つ ま り,ゲームの成績 とい う外
面的な一致 だけか らでな く,意思決定の内実 とい う内面的な一致か らも, 中学 2年生が中
長崎大学教育学部紀要 教科教育学
Nd.46 (
2006年)
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中 2 - 13 位
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中 3 - 12 位
図 3 P比 (
◆右 目盛) と Ds比 (
{左 目盛)
学 3年生 と同様 のゲー ム遂行能 力 を持 ってい る とい え るので あ る。
3
.
2モ デル 理解 とゲーム成績 の関係
で は, ビジネ スゲーム を遂行す る際 の前提 とな るモデル の理解 は ど うで あったか。 ここ
では,作業 の遂行上,仮説② と仮説③ の検討作業 を同時進行 させ,生徒 のモデル理解 とゲー
ムパ フォー マ ンスの関係 を示 した表 1と図 4を掲 示す る。
福田正弘 :ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成 (
2
)一中学校経済未学習生徒のゲームパフォーマンス- 23
表 1 モ デル理解 とゲーム成績
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0 11 1
21
図 4 ゲーム順位 とモデル理解
.1点 (
満点 5点),損益 モデル理解
生徒 のモデル理解 は, ビジネ スモデル理解 は平均 4
.1点 (
満点 4点),両者 の合計 7
.
2点 (
満 点 9点) でか な り高い得点 を示 してい
は平均 3
る。 中学 3年生 との比較 デー タはないが, この数字 か ら中学 2年生 も充分 にモデル を理解
してい る と判 断 して よい と思われ る。
表 1と図 4か ら,生徒 のモデル理解 はゲームの成績 (ここではゲー ムの順位) と相 関関
.
7
2
3であった.
係 を持つ ことが直感 され る。ちなみ に両者 間の相関係数 を算 出す ると, -0
これ は両者 間 にかな りの相 関が あるこ とを示唆す る値 である。 ただ順位 との相 関は,順位
が高い ほ どモデル理解 の得点が高い傾 向があ るとい うことを示す だ けで,両者 間の因果 関
係や形成 関係 を示す わ けではない。
4 考
察
4
.
1結 論
以上 の実験授業 の結果 か ら,本研究 で設定 した仮説 について次 の よ うに判 断す ることが
で きる。
仮説① について
仮説(
彰は, 「
社会科 で経済 の学習 を終 えてい ない生徒 で も, ビジネ スゲーム を満足 で き
2
4
長崎大学教育学部紀要 教科教育学 N
o
,
4
6(
2
0
0
6年)
るレベル で遂行できる」 とい うものであったが,実験授業の結果,経済未習 の中学 2年生
で もビジネスゲームを十分満足できるレベルで遂行 で きると判断 を下せ る。 しかも,それ
は,ゲームの結果 としての成績 だけではな く,ゲーム中の意思決定のプ ロセスにおいて も
い える。
仮説② について
仮説② は 「
社会科 で経済の学習 を終 えていない生徒 で も, ビジネスゲームのモデル (ビ
ジネスモデル,損益モデル) を理解 で きる」 とい うものであったが,本研究で採用 した測
定方法 で採取 できたデー タか ら, 中学 2年生 はゲームのモデル を十分 に高い レベル で理解
で きてい る と判 断で きる。
仮説③ について
仮説③ は 「
生徒の ビジネスゲームのモデル理解 は,ゲームパ フォーマンス と関係があ り,
理解 の優れた生徒 (
チーム) はゲームパ フォーマ ンスにも優れてお り, よいゲーム成績 を
修 める」 とい うものであったが,本研究では両者 間の相 関関係 は認 め られたものの, どち
らが原 因で どち らが結果 か とい う両者 の因果的な関係 ない しは形成的な関係 を確認す るま
でには至 らなかった。
4
.
2含 意
以上 の結論か ら, 冒頭 に述べた経済制度 に関す る一般的定義的知識 を教授す る今 日の中
学校 での経済学習 は,経済的な意思決定 を行 うビジネスゲームを遂行す るための必須要件
ではない ことが明 らかになった。
これ は,現行 の社会科 の経済学習 に対 して批判 的な意味 を持つ ことになる。それ は, ビ
ジネスゲームで必要 とされ る能力が社会科 の学習 とは関わ りない ところで育 ってい ること
である。 ビジネスゲームで培 うスキルが社会科で育てるべ き学力の全てではないにしても,
ビジネスゲームの よ うな意思決定 を必要 とす る場面で生 か され る知識や能力 を社会科が与
えるべ きである と考 えるのは 自然 な ことであるし,正 当な考 えで もある。
こ うした考 えか ら,内閣府 (
2005)の報告 が,生徒 の合理的意思決定能力 を育成す るよ
うに体系的な経済教育の整備 を提言 し,モデル教材 としてシ ミュレーシ ョン教材 を開発す
るに至ったのである。ま さに現状 の社会科-の批判 を,代案 と教材 の提示 とい う緩やかな
形 で示 したもの と解釈 で きる。
本研究の結論 は,現在 の中学校社会科 に対 して,合理 的な意思決定 の必要要件 となる能
力 の育成 に注力すべ きであることを示 してい る。直哉 にいえば,社会科 を学んだ生徒 と学
んでいない生徒が, ビジネスゲームで同じパ フォーマ ンス を示す よ うな ことでは社会科の
意義がない とい うこ とである。
4.
3課
題
では,その場合,果 た して,育て るべ き意思決定の必要要件 となる能力 とは何であろ う
か。本研究では,それ をゲームのモデル理解,つ ま りビジネスモデル の理解 と損益モデル
の理解 とし, ビジネス を構成す る諸要素の関係づ けや利益算 出の数式 の定立 をその具体的
内容 と考えてきた。ベーカ リーゲームでは,壁徒 は,ゲームシナ リオを読んで,ベーカ リー
店 の経営要素 を機能的 に関係づ け,経済行為 とお金 の流れ を頭 の中に描いてい く。 さらに
このゲームでは,材料仕入れ,生産,販売 に時間差 があるため,意思決定の時間的落差 も
考慮 に入れなけれ ばな らない。 こ うして生産 を維持 しなが ら,利益 を極大化す るために,
福田正弘 :ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成 (
2
)一中学校経済未学習生徒のゲームパフォーマンス- 2
5
売 り上 げ と費用 の関係 を常 に考慮 してい く必要がある。 こ うした思考 は, システムの構成
要素間の論理 的関係 を兄いだ し, もの とお金 の流れ を推測 した り,意思決定 の結果 をコス
トや利 益 の関係 で見 る とい った数理 的 な思考 に他 な らない。
一般 に, ビジネスゲームにお ける意思決定 は経済的概念 に基づいた合理 的意思決定 とい
われ るが, ビジネスゲームにおいて意思決定が合理 的であるためには,思考 が数理 的でな
けれ ばな らないであろ う。 そ うだ とすれ ば,経済 にお ける合理 的意思決定 の基盤 とな る経
済的概念 は数理 的思考 の発達 をまって形成 され る とい うことにな るのではないだろ うか。
そ して,数理 的な思考 は社会科 の体系 とは別 の ところで発達す るわ けだか ら,子 どもの経
済的概念 は社会科 とは別 な ところで形成 され てい る とい うこ とにもな るのではないか。
本研究 では,生徒 のモデル理解 をキー に据 え生徒 のゲームパ フォーマ ンスの規定要因 を
探 る とい う課題 に挑戦 したが, ゲームでの意思決定 にそれ らが ど う関わってい るのか とい
う形成 関係 の導 出まで には至 らなかった。 この課題 について, さらな る探求 を続 けたい。
文
献
福 田正弘 (
20
0
5
a)
. 社会科 にお ける数理 的モデル認識 , 長崎大学教 育学部紀要教科教育学
4
4
,1
5
2
4.
福 田正弘 (
2
0
0
5
b)
. ビジネ スゲー ム による数理 的社会認識 の育成 , 長 崎大学教育学部紀
要教科教 育学 4
5
, ト1
3.
内閣府経 済社会総合研究所 (
2
0
05)
. 経 済教 育 に関す る研究会 中間報 告 .
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