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第2 話完全版 - 凸版印刷株式会社
﹃うたたね﹄ 日は全部花火を撮ると決めて、あちこちの花火大 会に出かけてとにかく撮りました。でも、それは なんとなく自分で納得がいかないところがありま ていたら、スプーンを持った手にすごくいい光が んです。これはひとつにまとまるかもしれないと 上がっていたこともあって、すごく新鮮に見えた そ れ か ら 2 年 後 に ふ と 思 い 立 っ て、 す べ て プ リントし直してみたら、自分のプリントの技術が した。 当たっていて﹁ああ、 きれいだな﹂と思ってシャッ 思って、その年の夏もできるだけたくさんの花火 いったような映像を見たことがあって、それが強 らに普通の花火の写真だけでなく、人が写ってい 2シーズン目ということで、しかも自覚を持っ て撮っていたので、作品としてとても締まり、さ 大会に足を運んで撮影しました。 烈に印象に残っていて、そういうものを作れたら るもの、部屋越しに見えるものなど、いろいろな アイディアも出てきて、1冊にまとまるボリュー 花火というモチーフは私が見たいものの象徴の ようなところがあります。とても美しくて、でも ムになりました。 の世とこの世の中間とか、そういうものに興味が 一瞬で消えてしまって、そこにいろいろなものが と い っ て も い い と 思 う の で す が、 そ の 頃 は、 あ あったんですね。そんな曖昧なものの中に世界の ところが、急に﹃花子﹄︵* ︶の依頼をいただ い て、 ど う せ な ら 3 冊 同 時 に 出 し た ら お も し ろ れで行こうということになりました。 ます﹂と見せたらとても好評で、次回作はぜひこ ちょうどその頃は﹃うたたね﹄を作っていた時 で、作業の合間に編集者に﹁こういう作品もあり 凝縮されているという気がします。 けでできた写真集が﹃花火﹄︵* ︶です。 2000年頃の夏、すごく汗をかきたくなって、 ﹁今年は花火を撮ろう﹂と思い立ったのがきっか ﹃花火﹄と﹃花子﹄ を込めたタイトルです。 写 真 を 撮 る と い う こ と も、 自 分 と 社 会 の 接 点、 〝中間点〟でもあるわけですし、さまざまな意味 秘密があるんじゃないかと考えたりして。 うたたねをしている状態って意識と無意識の狭 間を漂っているというか、 その意味では〝中間点〟 と思ってつけました。 ある時うとうとしていたら、フラッ タイトルは、 シュバックのように、写真をパラパラとめくって 1冊を象徴すると思い、表紙に使いました。 ターを切りました。この距離感、世界観が、この ︵* ︶の 表 紙 は 自 分 の 手 を 撮 っ た ﹃うたたね﹄ ものです。ある日、自分の部屋でタピオカを食べ 1 自分の行ける範囲でスケジュールの空いている すが、それとは別に﹁彼女をテーマにした写真集 ﹃花子﹄はもともと花子ちゃんという自閉症の 女の子のドキュメンタリー映画が先にあったので と同時進行で作ることになりました。 いということになり、 ﹃うたたね﹄ ﹃花火﹄﹃花子﹄ 3 クリエーターズファイル vol.41 Dec.10, 2007 No. © 2 0 0 7 T O P PA N / G A C G A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 4 1 D e c . 1 0 , 2 0 0 7 6 2 「本能で撮り、理性で編み上げる」 第2話 R I N K O K A W A U C H I 川内倫子 biz.toppan.co.jp/gainfo 20 C R E ATO R ' S F I L E 〝今〟を切り撮る作家、 川内倫子の視線 写真集の構成にこだわってきたという川内倫子氏。編集者的な視点で写真を構成していくことで、自分の 見たいものを具現化していくプロセスが、写真集制作の醍醐味と語る。 第 2 話ではこれまでに発表した個々の写真集について、さらにブラジルをテーマにした最新作『種を蒔く / Semear(セメアール) 』とこれからについてお聞きした。 * 1 第 1 話 P.2 に掲載 * 2 第 1 話 P.3 に掲載 * 3 第 1 話 P.4 に掲載 を出しませんか﹂という依頼をいただいた仕事で した。 映 画 を 見 た ら と て も お も し ろ か っ た し、 一 度、 花子ちゃんに会ってみようと思って、お会いして みたら、﹁この人、かっこいいな﹂と素直に思え る人だったので、スムーズに仕事に入ることがで きました。 初めて会った時に、彼女の仕草から修行僧とい うか、お坊さんがお経を唱えているような印象を 感じたんです。それが、なんかかっこよかった。 これなら大丈夫と思って、2日間で撮りきりま した。 個の体験を普遍化した﹃Cui Cui﹄ 昔からプライベートで家族の写真を撮り続けて いて、それはごく普通に、思い出に残しておくス ナップ写真として撮っていたものでした。 でも、大好きだった祖父が亡くなって、それは 私にとっては初めての身近な人の死で、とても衝 撃的な体験だったのですが、さらにそれからすぐ に甥が生まれて、これは1冊になるかもしれない と思ってできたのが﹃Cui Cui﹄です。 ちょうどカルティエ財団の招待で、パリで個展 をする準備をしていた頃で、新作を出して欲しい と言われていたタイミングでのことでした。 最初は他人の家族の写真なんて見たがる人がい るのかなとも思ったのですが、甥が生まれた時に、 被写体こそ私の家族だけれども、﹁生命のサイク ル﹂ということがテーマになりうると思いました。 © 2 0 0 7 T O P PA N / G A C G A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 4 1 D e c . 1 0 , 2 0 0 7 7 第2話 川内倫子 no.20 『Cui Cui』 フォイル 2005 年 © Rinko Kawauchi / FOIL 写真集を作る時、いつもは自分で構成したファ イルを作るのですが、この時はあまりに濃密過ぎ て、自分ではやりたくなかったんですね。 それで500枚以上のプリントをデザイナーさ んに見せて、構成もお願いしようと思ったら、 ﹁自 分でやったほうがいいよ﹂とあっさり言われてし ていると、生物や生のモノに触れる機会がないか ら、本能的に﹁これはヤバい﹂と感じていて、そ んな危機感が出産というモチーフに結びついたの かもしれないですね。 当時は衝動に動かされるように、人や動物の出 産シーンを撮影していました。 最初の頃はどの写真にも思い入れがあるからな かなか捨てられないし、写真を並べ替えながら祖 の写真を入れたら、すごくしっくりきたんです。 ました。そこで構成を変えて、最後に自分の部屋 ある程度写真がたまってから、出産の決定的瞬 間の写真集が作りたかったわけじゃないと気づき 父を思い出して泣いてしまったりしていました。 遠い国で起きている出来事と自分の日常をリン クさせたかったというか、世界中のあちこちで生 まって︵笑︶。 そ の う ち に 、 自 分 の 気 持 ち も 落 ち 着 い て き て、 たとえばお盆やお正月の写真は毎年撮っているか まれたり死んだりしている、ただ単純にそういう でも、そんな時間がずっと続くと、なんだか疲 れてしまって。 ば引き受けるようにしていました。 フリーになったばかりの頃は、とにかく仕事し たいモードの時期で、スケジュールが空いていれ メラマンとしての仕事を並行して続けてきました。 意図したわけではなく、自然な形でキャリアの 当初から作家としての活動と、コマーシャルのカ 作家として、カメラマンとして 持ちでつけたタイトルです。 タイトルはトルコ語で大家族という意味。地球 をひとつの家族にたとえるなら⋮というような気 その意味で、私としてはとてもシンプルな写真 集に仕上がったと思っています。 らものすごく量があるし、祖父の闘病中の写真も © Rinko Kawauchi / FOIL ものが見たかったんですね。 『AILA』 フォイル 2005 年 たくさんあったけれど、一番象徴的な1カットだ けでいいとか、冷静に、客観的な判断ができるよ うになってきました。 みっちりと1ヶ月くらいかけて構成して、デザ イナーさんに見せたら、﹁いいね﹂って︵笑︶。結 局、私が並べた順番のまま本になりました。 タイトルの﹃Cui Cui﹄はフランス語で スズメの鳴き声を表す言葉です。スズメは世界の どこにでもいる鳥で、まさに日常を象徴していま す。どこにでもある、ありふれた家族の日常にも いろいろなドラマがある⋮そんな意味を込めてい ます。 生のモノに触れようとした﹃AILA﹄ この作品の最初の出発点は出産が見たいという ことでした。後から思うと、現代の都市で暮らし © 2 0 0 7 T O P PA N / G A C G A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 4 1 D e c . 1 0 , 2 0 0 7 8 第2話 川内倫子 no.20 コマーシャルの仕事は商品を売るという目的が 明確だし、チームでものを作り上げていく楽しさ が あ る の で す が、 そ れ ば か り に な っ て し ま う と、 作品に向かう際に必要なストイックさが薄れてし まうので仕事の量を減らしました。 ﹃りんこ日記﹄を書いていたのはそんな時期で す。一日にひとつ、何か決めたことをやり続ける ことで、バランスを取り戻そうとしていたのかも しれないですね。 1冊にまとまったものを見かえしてみると、や はり作品制作が自分の軸なんだなとあらためて思 います。 幸いなことに、少し作品に集中しようと思って いたら、海外からの個展のオファーがすごく増え てきて、準備のために海外に出かけて、帰ってき たらひたすらプリント、というような期間が続き ました。 最新作﹃種を蒔く/Semear︵セメアール︶ ﹄ について サ ン パ ウ ロ 近 代 美 術 館 か ら、 日 系 移 民 1 0 0 周 年 記 念 事 業 の 一 環 と し て、 ブ ラ ジ ル の 日 系 社 会 を 撮 ら な い か と 依 頼 さ れ、 撮 影 し た 写 真 を ま と め た も の が﹃ 種 を 蒔 く / S e m e a r ﹄ で す。 2006年2月から3回、撮影旅行に行きました。 最初は依頼どおりに日系移民の街を撮っていた んですが、自分の中で物足りない感じがしたので、 もっと撮らせて欲しいとお願いして、アマゾンや いろいろな地方まで行ってきました。日系社会と © 2 0 0 7 T O P PA N / G A C G A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 4 1 D e c . 1 0 , 2 0 0 7 9 第2話 川内倫子 no.20 『種を蒔く/ Semear』 フォイル 2007 年 © Rinko Kawauchi / FOIL いうよりブラジルという国が見たくなったんです。 特にイグアスの滝が良かった。もともと滝は好 きな被写体で、今までにもいろいろ撮ってきまし たが、イグアスは一番すごかったですね。あの圧 倒的な量感が、自分の中ではブラジルという国そ のもののパワー感とつながりました。 こ の 写 真 集 で は、 珍 し く ミ リ を 多 用 し て い ま す。 ロ ー ラ イ で じ っ く り 粘 っ て 撮 る と い う よ り、 ミリの機動性を生かして撮っていく感じが 35 どね。 フも探しています。いくつか候補はあるんですけ ﹁花火﹂ 一方で、まだ見つかっていないけれど、 のように長い期間をかけて撮り続けられるモチー うかなと。毎回、毎回、その繰り返しですね。 あえず撮ってから、後でプリントしながら考えよ ただ、どうしても撮りたいと思うのは、自分の 無意識が何かをキャッチしているのだから、とり 単に次の写真集に必要かなと思ったから。 なぜ渦潮なのか⋮。動いているもの、予測不可 能なものが好きということもあるんですが、ただ て、鳴門の渦潮を撮りに行ってきました。 ﹃種を蒔く/Semear﹄の次の作品も撮り ためています。先日、どうしても撮りたいと思っ 無意識がキャッチする 〝次〟 どいろいろなカメラも使っています。 が合うとも思ったので、コンパクトやパノラマな ろいろなフォーマットの写真をミックスするほう フィットすると思って。それにこの写真集にはい 35 © 2 0 0 7 T O P PA N / G A C G A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 4 1 D e c . 1 0 , 2 0 0 7 10 第2話 川内倫子 no.20 『種を蒔く/ Semear』より C R E AT O R ' S F I L E vol.41 2007年12月10日発行 発行・企画・編集 凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 グラフィック・アーツ・センター 〒112-8531 東京都文京区水道1-3-3 TEL.03-5840-4058 http://biz.toppan.co.jp/gainfo 取材:福田 大 足立典子 野崎優彦 撮影:西村 広 文:野崎優彦 編集:福田 大 足立典子 野崎優彦 デザイン:福田 大