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環境セミナー「気候変動と人間社会」2016.10.3
気候変動と人間社会
ーー 人間が気候をも変える時代 ーー
地球の歴史を振り返ると、気候は大きく変動してきました。そ
の気候変動に人間の歴史は影響を受けてきましたが、20世紀に入
ると、人間の活動が気候に与える影響が無視できなくなってきて
います。
今回は、日本気象予報士会東京支部長の田家康氏(写真)をお
迎えして「気候変動と人間社会∼人間が気候をも変える時代∼」
と題して、気候変動と人間の関係についてお話をいただきまし
た。
以下 その要旨です。
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‣
日 時:2016年10月3日(月)14時∼16時
場 所:東京ウィメンズプラザ
講 師:田家 康 氏/日本気象予報士会東京支部長
参加者:56名
第1章 気候変動の推移
1.南極の氷床コア(氷の層)に含まれる酸素同位体からの分析で、およそ
10万年毎の「氷期―間氷期サイクル」が確認された。
2.8000年∼6000年前に「完新世の気候最適期」という温暖期があった。
3.以後、長期トレンドとしてはゆっくりと寒冷化していったが、過去
2000年間の北半球の平均気温は9世紀∼13世紀にかけての「中世の温
暖期」があり、14世紀∼19世紀は「小氷期」の期間であった。
第2章 気候変動の原因は何か
1.気候変動を起こす原因は次の3つが複雑に絡み合っている。
(1)
•
•
•
•
(2)
内部要因(物理学でいう「ゆらぎ」、長期的には平均回帰)
偏西風の蛇行 エルニーニョ現象
太平洋の海面水温の変動(10年∼20年の周期性)
北極での高気圧・低気圧(北極振動:日本の冬の寒暖に関係)
自然由来による外部要因
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•
•
•
(3)
•
•
•
地球軌道の変化(3つのパラメータ)
太陽活動の変化
巨大火山噴火による「火山の冬」
人間活動による外部要因
自然破壊、森林伐採
公害:硫黄酸化物、窒素酸化物など
温室効果ガス(二酸化炭素など):地球温暖化
2.自然由来による外部要因
• およそ10万年周期で繰り返している「氷期―間氷期」の周期性を解
析すると、ミランコヴィッチ・サイクルの3要素が現れた。
(注)ミランコヴィッチ・サイクルの3要素とは
• 公転軌道の変化9.5万年・地軸の傾き4,1万年・歳差運動1.8∼2.3万
年
• 太陽活動の強弱、火山活動も気候変動の大きな要因。
3.人間活動による外部要因
• 温室効果ガス(赤外線を吸収する二酸化炭素)要因
• 公害要因
• 自然破壊、森林伐採など
第3章 気候変動と人間社会(19世紀まで)
1.気候変動と人間活動
• 類人猿から人類が生まれたの
が、およそ700万年前。
• 現生人類が東アフリカで誕生し
たは、およそ20万前。
• 人類は、激しい気候変動の中で
生き抜いてきた。
• 18万年前∼13万年前のリス氷
期に、エチオピア∼ケニアにか
けて生き残ったのは、現生人類
だけだった。
2.農耕の始まり
• 農耕は、ヤンガードリアス期(1万2900年前∼1万1600年前)での
寒冷化と、ヤンガードリアス期前の温暖期に人口増加したことがき
っかけで、定住地に住む人類がやむなく始めたものだった。
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環境セミナー「気候変動と人間社会」2016.10.3
3.8000∼6000年前「完新世の気候最適期」が訪れる
• 歳差運動により、夏日射量が多い時代になり、 北半球の年平均気温
は、20 世紀平均よりも 2∼3℃ 高かった。
• 日本列島も温暖な気候が続き、縄文時代は人口が増加している。
4.紀元前後の温暖期(ローマ温暖期)
• 地中海性気団と大陸性気団の境界が仏ブルゴーニュ地方まで北上
し、西欧に乾燥した夏と湿潤な冬という一時的な温暖期が到来し
た。
• 小麦・キビ等の生産に適した地中海性気候の地域の拡大により、こ
れらの食物をベースにしたローマ帝国の植民地経営が続いた。
5.ブドウの栽培
• プリニウス(23∼79年)「博物誌」第14巻で、ブドウの栽培はイ
タリア本土が最適地と記述されている。
• ローマ帝国の領土拡大と歩調を合わせブドウの産地が広がり、アル
プス以北の南仏でも適した寒冷品種が生まれるようになった。
• そして、ワイン畑はキリスト教の普及とともに、中世までに北海ま
で北上していった。
6.14世紀に入ると、小氷期が到来
• マウンダー極小期(1645年∼1730年)の間は、太陽の黒点が減少
し、火山噴火も活発化した。
• 寒冷化で、19世紀まで飢饉、疫病、戦争の悲劇の時代が続いた。
7.ヴァイオリンの名器「ストラディバリ」の音色は何故美しいのか
• アントニオ・ストラディバリの円熟期は1700年∼1720年で名器が
製作された。「マウンダー極小期」で、寒冷化によって年輪の間隔
が狭く原材料の「トウヒ材」を強くて密度の高いものにした。自然
環境が名器を生んだとも言える。
8.フランス革命のきっかけは異常気象であった
• 1788年の夏は干ばつに、同年暮れから1789年の冬は厳冬となっ
た。
• フランス全土での暴動は、食糧不足・食糧価格が原因で、暴動と啓
蒙運動がリンクして、革命へと発展していった。
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第4章 気候変動と人間社会(20世紀以降)∼環境破壊と地球温暖化論∼
20世紀になり、気候変動の原因として、これまでの内部要因と自然由来
の外部要因に、人間活動による外部要因が加わった。
1.1930年代のダストボウルを招いたもの
• アメリカ中西部を襲った砂塵嵐。黒いブリザードと称された。
• 原因は人間の自然観で、「草原を耕せば、降水量が増加する」とい
う神話。
• 土壌保全の父ヒュー・ベネットはダストボウルの起きた地域での土
壌保全政策を行った。
• 大平原の農業はオガララ帯水層に依存している。ロッキー山脈から
の地下水を利用することで、「天候に左右されない農業」という幻
想が生まれた。しかし、年々水位低下してきていて、オガララ帯水
層の水源が尽きる時、ダストボウルが再来するのかもしれない。
2.19世紀から20世紀の初めにかけ、温室効果ガスによる地球温暖化論の
正否について激しい論争が行われてきた。
そして、1970年代前半、「温室効果ガスによる温暖化か」「公害由来
のエアロゾルによる寒冷化か」が議論となった。1950年代後半からの
地球の平均気温の低下傾向を受けて当初の旗色は後者が強く、マスコミ
も「もうすぐ氷河期が来る」と報道した。
転換点は、1970年代後半に実際に気温が上昇を開始してからだった。
3.フィラッハ会議(1985年)で地球温暖化が科学的コンセンサスとな
り、「気候変動に関する政府間パ ネル(IPCC)が創設され、昨年まで
の気候変動枠組条約締結国会議(COP1∼20)を経て、温室効果ガス削
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減に向けた流れとなっていった。
第5章 人新世の時代気候変動 ∼人間が気候をも変える時代∼
1.更新世、完新世、人新世
• 258万年前∼1万1700年前の更新世、 1万1700年前∼19世紀の完
新世を経て、20世紀以降に人新世の時代に入った。
人新世とは地質学の時代区分ではなく、人間が地球環境を変える時
代になったという思想である。
まとめ
• 気候は、はるか太古から大きく変動してきた。
• その要因としては、内部変動と自然由来の外部要因(地球軌道の変
化、太陽活動、巨大火山噴火など)があった。
• 人類の歴史とは、こうした気候変動に対し、いかに適応していくか
という努力であったといえる。
• しかし、20世紀に入ると人間活動は大きく広範囲なものとなり、地
球の環境をも大きく動かす要因となった。これに伴い、環境破壊に
よる災害の発生が現れた。
• そして、人間活動由来により大気中の二酸化炭素濃度は上昇し、人
類史が始まって以来の水準になっている。「人新世」という人間が
気候をも変える時代の象徴といえるのではないか。
Q&A
Q:天気予報、短期は当たるようになったが長期予報はなかなか当たらな
い。地球温暖化では、50年先100年先のことが何故95%の確率で予
測できるのか?
A:1ヶ月以上の長期の天気予報がなかなか当たらないのは、内部要因
(ゆらぎ)が作用するため。
50年、100年という期間になれば、内部要因はプラスマイナスゼロ
となる。IPCCの予測は、これまでの気温の変化がどういう要因で起
きているのか、観測データからシミュレーションを行っている。そ
れも、1つではなく、何百というシナリオを作っている。そして、
ほとんどの場合で人為的要因を考慮しないと気温の変化が説明でき
ないことから、95%の確率で人間活動が影響していると結論づけて
いる。
Q:温暖化した方が良いのか?しない方が良いのか?
二酸化炭素があった方が農業のためには良いのでは?
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A:確かに過去温暖化の時代(例えばローマ時代)は人間活動が活発化し
て繁栄の時代だった。IPCCは、現在はかつてとは異なるとしてい
る。昔は人間が少なった時代であり、耕地や水といった自然資源も
余裕があった。そう考えると、温暖化が良いとは言い難いかも知れ
ない。正しいかどうかの判断は難しいが。ハウス栽培では、二酸化
炭素が増えれば農産物の収量が増えるという実験データはあり、ボ
イラーの排気をハウス内に留めて800ppmまでの濃度を上げている
農家もある。20世紀後半以降の農業生産性の向上には、肥料や品種
改良といった技術革新だけでなく、大気中の二酸化炭素の濃度上昇
による「堆肥効果」もあると思うのだが、それを示す研究論文は見
当たらない。
そして、IPCCの第2作業部会の報告書では小麦やお米の収量は増え
るかも知れないが、雑草が増えるので生産性が下がるとしている。
Q:IPCCでは地球温暖化反対者は排除されているのでは?
ガバナンスという点をどう考えているか?
A:IPCCには約3000人の科学者が集結していると言うが、著名な科学
者の中には「結論ありき」と批判し中途で脱退した者もいる。ガバ
ナンスという点では、反対論者が抜けて均質な意見の者ばかりが集
まっているのは問題だが、議論の透明性を確保しているとして乗り
切っている。
Q:IPCCは政治的になっていないか?
もっと広範囲の科学者が集まって議論すべきではないか?
A:IPCCには科学者だけでなく各国の環境政策を担当する事務官も多数
参加している。役人の発想により、一度始めたら止まらなくなって
いるかも知れない。科学なのでIPCCの気温予測は、今後の観測値で
検証していくことになる。将来、予測が外れて気温上昇がさほどで
もなかった場合は、余計な対策費による損失は少なくない。とはい
え、対策を講じる現時点で95%の確率で気温が上昇すると合意して
いたのだから、仕方がないのだろう。
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