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東京ディズニーランドとポストモダン〜脱ディズニー化する TDL〜
東京ディズニーランドとポストモダン〜脱ディズニー化する TDL〜 ○ 栃木県立さくら清修高校 青木香保里 ○関東学院大学 新井 克弥 本報告は、東京ディズニーランド(以下 TDL)が脱ディズニー化する現状を明らかにしようとする 試みである。 これまで TDL が語られる際には、他のディズニーランド(現在、ディズニーランドは日本を含め五 カ所に存在する)と同質のものとして、あるいはその延長上で語られてきた。しかし J.トムリンソン が指摘するように、グローバル化に伴って文化が異文化に受容される際には、それら文化はダイレク トに輸入されるのではなく、その地域にあわせて雑種化、すなわちクレオール化する。そうであると すれば TDL においても同様な状況が発生しているとみなすのが妥当であろう。本報告の問題の所在 もここに立脚している。つまり、東京ディズニーランドという空間は 83 年のオープン以来、二十五 年間の間に雑種性を帯び、本家のディズニーランドとは異なった独自の性質を含み、それによって新 たな文化を日本文化に与えているのではないか、あるいはまた TDL の変容は日本社会の変容を象徴 するのではないかと考えるのである。 その際、本報告が注目する対象が A.ブライマンのディズニー化(Disneyization)という概念である。 ブライマンはディズニー化を「ディズニー・テーマパークの諸原理がアメリカ社会及び世界の様々な 分野に波及するようになってきているプロセス」と定義し、これがマクドナルド化(J.リッツァ)の次 にやってくる現象と位置づける。 ブライマンはディズニー化の中心をテーマ化であるとしている。これは「対象となる施設や物体を それとはほとんど無縁のナラティブで表現すること」、すなわちレストランなどの商業施設などが恣意 的なテーマ設定によって彩られることを意味する。そしてこのような物語に彩られた空間が均質的な マクドナルド化した空間の次に、多様性を帯びた存在として環境を覆い尽くすようになるというので ある。このようなブライマンの議論はディズニーランド的空間が近未来のわれわれの生活空間を先取 りしている、あるいは象徴しているという前提に基づいている。つまり、現在、ディズニーランドで 起こっていることが、そう遠くない将来において日常空間に出現すると捉えるのである。 だが、この議論は前述のクレオール化の視点が抜け落ちており、すべてのディズニーランドを全く 同質の存在としてしか見なしていない。実際、TDL もまたわが国の空間の変容を先取りしてきたこと は事実である。だが、報告者はブライマンの指摘するようなディズニー化が TDL という非日常の空 間、そして日本という日常空間に出現していることに疑義を挟む。むしろ TDL は独自の発展を遂げ て本家のものとは異なる性質を帯び、そしてその文化を国内に向けて発信しているのではないか。 このような前提の下、本報告ではモダンの極致であるテーマパークというコンセプトが、次第にポ ストモダン的状況を帯びているという事態を考察する。換言すれば、送り手側(=ディズニーとオリ エンタルランド社)は膨大な数のディズニーに関する情報をまき散らし、その一方で受け手(ゲスト) は、それらの中から自らの嗜好に見合ったものを任意に選択してこれを享受するという、TDL のデー タベース化と受け手=ゲストによるデータベース消費が発生していることを指摘する。報告者はこれ を「脱ディズニー化」と呼ぶことにしているが、本報告では、その症例として送り手側、すなわち TDL が実施しているパレードの分析を手がかりに、その変容について実証的に検証する。