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ジェットエンジン燃焼試験設備排気消音塔の 低周波音低減技術

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ジェットエンジン燃焼試験設備排気消音塔の 低周波音低減技術
ジェットエンジン燃焼試験設備排気消音塔の
低周波音低減技術
Reduction Technology of the Low Frequency Sound from an Exhaust Stack
of the Jet Engine Combustor Test Facility
東 川 孝
株式会社アイ・エヌ・シー・エンジニアリング 技術本部環境技術部
齋 藤 崇 洋
株式会社アイ・エヌ・シー・エンジニアリング 技術本部環境技術部 課長
横 山 晴 雄
株式会社アイ・エヌ・シー・エンジニアリング 技術本部環境技術部 部長
井 上 保 雄
株式会社アイ・エヌ・シー・エンジニアリング 技術本部環境技術部 部長
ジェットエンジン燃焼試験設備の排気消音塔から放射される低周波音を低減するため,排気消音塔の音響モード
解析およびスピーカ試験,圧力調整弁の数値流体解析を実施し,低周波音の発生原因を究明した.また,解析結果
に基づき,消音効果改善のため排気消音塔の構造を膨張型サイレンサ構造に変更し,さらに音源対策として圧力調
整弁に多段ディフューザを取り付けた.この結果,40 Hz 成分の音圧レベルは 109 dB から 63 dB に低減し,設計ど
おりの結果が得られた.
To reduce low frequency noise emanating from the exhaust stack of a jet engine combustor test facility, the cause of the
noise’s generation was investigated by means of acoustic mode analysis of the exhaust stack, a speaker test and CFD of the
pressure control valve. Based on the results of the analysis, the structure of the exhaust stack was changed to an expansion-type
silencer structure for a noise reduction effect improvement, and, in addition, a multistage diffuser was installed in the pressure
control valve as a countermeasure for the source of the noise. As a result, the sound pressure level at 40 Hz has been reduced
from 109 dB to 63 dB, in accordance with the intentions behind the acoustic design.
1. 緒 言
一般に,低周波音対策は騒音対策に比べ技術的に難し
く,対策も大掛かりとなる.
今回,ジェットエンジン燃焼試験設備の排気消音塔から
放射される 20 ∼ 60 Hz に卓越成分をもつ低周波音が,近
行い,対策を実施した.この結果,良好な結果が得られた
ので概要を紹介する.
31 000
隣地域で影響が見られた.そこで,原因究明および検討を
迷路型消音構造
( 吸音処理 )
2. ジェットエンジン燃焼試験設備および排気
消音塔の概要 燃焼系統
調査対象となったジェットエンジン燃焼試験設備はコン
プレッサから吐出される高温高圧空気を使用する.
排気消音塔には燃焼器排ガスが流れる燃焼系統と,余剰
空気を流すためのバイパス系統の 2 系統がある.燃焼系
統に流す流量はバイパス系統に設けられた圧力調整弁で制
圧力調整弁
f 3 000
燃焼器
コンプレッサ
バイパス系統
( 注 ) コンプレッサ仕様
・圧 力:20 気圧
・流 量:20 kg/s
・温 度:400℃
御している.排気消音塔( 対策前 )の概略構造を第 1 図
に示す.排気消音塔は,高さ 31 m,底部直径 3 m( 上部
直径 2 m )で,内部は迷路型消音構造になっている.
78
第 1 図 排気消音塔の概略構造( 対策前 )( 単位:mm )
Fig. 1 Structure of exhaust stack ( before application of
countermeasures ) ( unit : mm ) IHI 技報 Vol.50 No.3 ( 2010 )
成 )の変化を示す.第 3 図の結果から,発生する音圧レ
3. 低周波音発生原因の調査
ベルとバイパス系統の空気流量に相関関係が見られた.ま
3. 1 対策前測定結果
た,バイパス経路の音圧を調査した結果,排気消音塔直
第 2 図に各地点の 1/3 オクターブバンド音圧スペクト
近に設けられた圧力調整弁近傍のレベルが大きいことが分
ルを示す.排気消音塔出口で 16 Hz と 40 Hz のバンドレ
かった.圧力調整弁は燃焼系統の流量を調整するために設
ベルが卓越している.100 m 地点でも排気消音塔出口と
けられており,弁部で 20 気圧から大気圧近くまで急激に
類似のスペクトルになっており,排気消音塔からの影響で
減圧される.弁下流では衝撃波を伴う超音速流れとなって
あることが明確である.
いると想定され,音の発生源はバイパス系統に設けられた
また,100 m 地点で 40 Hz 付近のバンドレベルが「 心
身に係る苦情に関する参照値 」
圧力調整弁の噴流音の可能性が大きいと判断した.
を大きく上回っていた
さらに,排気消音塔出口で特定の周波数( 特に 40 Hz
ため,40 Hz 付近で卓越した原因と対策について検討を行
付近 )が卓越していることから,排気消音塔の構造が原
うこととした.
因で共鳴が起こり,低周波音領域の消音性能が見掛け上,
(1)
小さくなっていると推察した.
3. 2 低周波音発生原因の推定
燃焼系統とバイパス系統の流量分配を変化させて排気消
これらの仮定を確認するため,圧力調整弁に関する数値
音塔出口の音圧レベルを測定した.
流体解析,排気消音塔の音響モード解析および実機スピー
第 3 図に空気流量の変化に対する排気消音塔出口の音
カ試験を実施した.
圧レベル( 1/3 オクターブバンド,31.5,40,50 Hz の合
圧力調整弁近傍の流れを把握するため,数値流体解析
:排気消音塔出口
:100 m 地点
:100 m 地点( 設備停止時 )
120
110
心身に係る苦情に
関する参照値
100
( CFD:Computational Fluid Dynamics ) を実施した.解
析ソフトは STAR-CD を用いた.第 4 図に CFD 結果
( マッハ数分布 )を示す.解析の結果,圧力調整弁の下流
参照値を
大きく上回る
90
で最大マッハ数約 3.0 の衝撃波を伴う超音速流れとなっ
80
ていることが分かった.一般にジェット騒音( 噴流音 )
70
は流速の約 8 乗に比例して増加することが知られてお
り ( 2 ),音の発生源はバイパス系統に設けられた圧力調整
60
弁の噴流音であると分かった.
50
3. 4 排気消音塔の音響解析
40
共鳴の影響の有無を確認するため,排気消音塔の音響解
G 特性 1
OA
2
4
8
16
31.5
63
125
250
析を実施した.音響解析条件を次に示す.
500
ソフトウェア SYSNOISE ver 5.6
オクターブバンド中心周波数 ( Hz )
流体条件
第 2 図 音圧スペクトル( 対策前 )
Fig. 2 Sound pressure spectrum ( before application of countermeasures )
15
:排気消音塔出口の音圧レベル
( 1/3 オクターブバンド 31.5,40,50 Hz の合成 )
:バイパス系統空気流量
:燃焼系統空気流量
120
110
12
9
暗騒音
⑨-1D
⑨-1C
⑨-1A
⑧-6
⑧-4b
停止前
運転パターン
⑧-3
⑧-2
⑧-1b
⑤-1
④-1
③-1
②-6
②-3
②-4b
②-2
②-1
70
①-5
0
①-4
80
①-3
3
①-2
90
①-1
6
始動後
100
暗騒音
低周波音圧レベル ( dB )
130
空気( 温度 20℃)
空気流量 ( kg/s )
30
⑧-1
音圧レベル ( dB )
3. 3 圧力調整弁に関する数値流体解析
第 3 図 空気流量に対する音圧レベルの変化
Fig. 3 Sound pressure levels by air mass flow
IHI 技報 Vol.50 No.3 ( 2010 )
79
( 境界条件 )
大気開放
流 れ
圧力調整弁
解析モデル
解析結果
( 境界条件 )
高温高圧空気
・圧 力:20 気圧
・流 量:20 kg/s
・温 度:400℃
マッハ数
拡 大
( レンジ変更 )
最大マッハ数 2.9
2.850
2.700
2.550
2.400
2.250
2.100
1.950
1.800
1.650
1.500
1.350
1.200
1.050
0.900
0.750
0.600
0.450
0.300
0.150
0.000
第 4 図 CFD 結果
Fig. 4 CFD result
音
源
ホワイトノイズ( 排気消音塔底部 )
音響パワー:10-12 W( 音響パワーレ
( a ) 迷路型消音
構造なし
( b ) 迷路型消音
構造あり
音響モード
ベル:0 dB )
周波数範囲
5.000E+01
1 ∼ 90 Hz( 1 Hz 刻み )
4.375E+01
また,迷路型消音構造の影響を確認するために,迷路型
消音構造があるモデルとないモデルの両方に関して音響解
3.750E+01
析を実施した.
3.125E+01
ここで,音源の音響パワーレベルは,排気消音塔の減音
2.500E+01
量として考えやすくするため,0 dB とした.
排気消音塔( 迷路型消音器があるモデル )の周波数応
1.875E+01
答解析値を第 5 図に示す.50 Hz 以下で共鳴とみられる
1.250E+01
ピークが見られ,減音量が得られていないことが分かっ
た.また,第 6 図に迷路型消音構造がないモデルと迷路
6.250E+00
型消音構造があるモデルの 27.7 Hz における音響モード
を示す.この音響モードは実機運転時( 温度 250℃)では
減音量( 排気消音塔出口 PWL − 音源 PWL )
( dB )
37.4 Hz の音響モードに相当する.第 6 図から迷路型消
( 注 ) 実機運転時 37.4 Hz( 温度 250℃ )
第 6 図 27.7 Hz の音響モード
Fig. 6 Acoustic mode at 27.7 Hz
40
音構造の有無にかかわらず音響モードを確認できた.
30
20
これらのことから,今回問題となっている 40 Hz の卓
10
越周波数は,排気消音塔全体の構造に起因する共鳴である
ことが音響解析によって確認できた.
0
3. 5 スピーカ試験による検討
−10
音響解析によって得られた結果を検証するためスピーカ
−20
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
周波数 ( Hz )
( 注 ) PWL:音響パワーレベル
第 5 図 排気消音塔の周波数応答解析結果
Fig. 5 Frequency response of exhaust stack
80
0.000E+00
試験を行った.スピーカとしてウーハー 3 台を排気消音
塔底部に設置し,ピンクノイズ( パワーが周波数に反比
例する雑音 )を放射した.また,排気消音塔内の音圧分
布を観測するため,低周波音圧レベル計のマイクロホンを
IHI 技報 Vol.50 No.3 ( 2010 )
60 cm 間隔で排気消音塔内に設置し,各点において測定を
音圧レベル
35
2.300E+01
行った.スピーカの設置状況およびマイクロホン設置位
置を第 7 図に示す.得られた結果をパワーレベルに換算
30
1.675E+01
の比をとることで,各点でのパワーレベル差をグラフ化し
た.第 8 図にパワーレベル分布( 1/3 オクターブバンド,
25 Hz )を示す.スピーカ試験でも音響解析と同様な音響
モードが確認でき,両者で良く一致した.
以上のことから,圧力調整弁直後に発生した衝撃波が基
になり,排気消音塔の共鳴の影響によって 40 Hz 付近の
低周波音が低減されないまま,排気消音塔から放射された
と考えられる.
排気消音塔底部からの距離 ( m )
し,あらかじめ測定しておいたスピーカのパワーレベルと
1.050E+01
25
4.250E+00
20
−2.000E+00
15
−8.250E+00
10
−1.450E+01
5
−2.075E+01
4. 低周波音対策
4. 1 多段ディフューザの追加( 発生源対策 )
発生源対策として圧力調整弁から発生する噴流音の低減
を検討した.噴流音を低減するには,流れを拡散,減速
させることが重要である.第 9 図上段に多段ディフュー
ザを設置した場合の CFD 結果( マッハ数分布 )を示す.
多段ディフューザは弁の流量特性が変化しないように流路
0
−10
−2.700E+01
0
10
20
1/3 オクターブバンド
PWL 分布 ( dB )
( スピーカパワー基準 )
音響解析による
音圧分布解析結果
第 8 図 パワーレベルの分布 ( 25 Hz )
Fig. 8 Power level distribution ( 25 Hz )
多段ディフューザ
面積を確保し,かつ多段にすることで急激な圧力勾配を緩
マッハ数
対策後
和して出口で亜音速まで減速させる性能をもっている.多
段ディフューザによって小スペースで効率良い拡散減速
が可能である.多段ディフューザ設置によって,圧力調
排気消音塔底部
スピーカ
対策前
1.900
1.800
1.700
1.600
1.500
1.400
1.300
1.200
1.100
1.000
0.900
0.800
0.700
0.600
0.500
0.400
0.300
0.200
0.100
0.000
第 9 図 CFD 結果( 対策後 )
Fig. 9 CFD results ( after application of countermeasures )
整弁直後は亜音速( マッハ数 < 1 )
,ディフューザ出口の
最大マッハ数は 1.5 と,設置前に比べ大幅に改善( 減速 )
され,噴流音の減音効果は約 15 dB と予測された ( 2 ).第
10 図に多段ディフューザの効果予測を示す.
4. 2 排気消音塔の構造変更
既設の迷路型消音構造は,音響解析およびスピーカ試験
によって,低周波音に対しては消音性能をもたないことが
実証された.したがって,低周波音対策としては一般的で
ある膨張型サイレンサを排気消音塔内部に設けることとし
スピーカ設置状況
マイクロホン
設置位置
第 7 図 スピーカおよびマイクロホン設置状況
Fig. 7 Setting of speaker and microphone
た.第 11 図に概念図を示す.膨張型サイレンサは 4 段
型とし,40 Hz において最も高い低減効果を得られるよう
に設計した.四つの膨張室の長さが異なるのは,試験状態
IHI 技報 Vol.50 No.3 ( 2010 )
81
によって流体の温度が異なり,幅広い温度に対応するため
5. 対策後低周波音測定結果
である.膨張型サイレンサ構造に変更したときの低周波音
低減効果を第 12 図に示す.40 Hz で 20 dB 程度の低減
スペクトルを第 13 図に示す.40 Hz 成分の音圧レベルは
効果向上が図れる.
109 dB から 63 dB に低減した.また,対策後の 100 m 地
160
150
140
130
120
110
100
90
80
70
60
音響パワーレベル ( dB )
対策後の排気消音塔出口の 1/3 オクターブバンド音圧
:対策前
:対策後( 多段ディフューザ )
点の 1/3 オクターブバンド音圧スペクトルを第 14 図に示
す.問題となっていた 40 Hz 付近の周波数成分が参照値以
下( もしくは暗騒音と同等 )となり,効果を確認できた.
第 13 図の測定結果は膨張型サイレンサと多段ディ
フューザの二つの対策の効果が足し合されている.多段
ディフューザはバイパス系統に取り付けられていることか
1
2
4
8
16
31.5
63
125
250
500 1 000
周波数 ( Hz )
ら,ほぼ全量燃焼系統にガスが流れる試験状態において
対策前後の低周波音を評価することで,膨張型サイレン
第 10 図 多段ディフューザの効果予測
Fig. 10 Effect prediction of multistage diffuser
サのみの対策効果を求め,それぞれの対策効果を分離し
( a ) 対策前
( b ) 対策後
120
迷路型構造
膨張型サイレンサ構造
110
:排気消音塔出口( 対策前 )
:排気消音塔出口( 対策後 )
音圧レベル ( dB )
100
90
80
70
60
50
40
30
G 特性 1
2
4
8 16 31.5 63 125 250 500
OA
オクターブバンド中心周波数 ( Hz )
第 13 図 排気消音塔出口音圧スペクトル( 対策後 )
Fig. 13 Sound pressure spectrum at exhaust stack exit
( after application of countermeasures ) 110
音圧レベル ( dB )
100
40
減音量 ( dB )
30
20
心身に係る苦情に
関する参照値
90
80
70
60
10
50
0
40
:対策前
:対策後
−10
−20
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
周波数 ( Hz )
第 12 図 膨張型サイレンサ構造による低周波音低減効果
Fig. 12 Low frequency noise reduction using expansion-type silencer
82
:100 m 地点( 対策前 )
:100 m 地点( 対策後 )
:100 m 地点( 設備停止時 )
120
第 11 図 排気消音塔の構造変更概念図
Fig. 11 Changed structure conception diagram of exhaust stack
30
G 特性 1
2
4
8 16 31.5 63 125 250 500
OA
オクターブバンド中心周波数 ( Hz )
第 14 図 100 m 地点音圧スペクトル( 対策後 )
Fig. 14 Sound pressure spectrum at 100 m point
( after application of countermeasures )
IHI 技報 Vol.50 No.3 ( 2010 )
60
6. 結 言
トータル
50
減音量 ( dB )
40
30
低周波音の主たる発生原因は,圧力調整弁直後において
多段ディフューザ
発生した噴流音であり,排気消音塔の共鳴とも相まって問
題が発生した.今回,弁直後に多段ディフューザを設置す
膨張型サイレンサ
ることで弁直後の流れを減速し,発生源( 噴流音 )を低
減するとともに排気消音塔を対象周波数に的を絞った膨張
20
型サイレンサ構造にすることで,問題を解決できた.
10
今後の課題としては,膨張型消音器はほぼ設計どおりの
0
1
2
4
8
16
31.5 63
125 250 500
オクターブバンド中心周波数 ( Hz )
第 15 図 低周波音低減効果内訳
Fig. 15 Breakdown of low frequency noise reduction effect
減音が得られたが,多段ディフューザについては設計値を
上回る低減効果が得られており,予測手法の修正,ディ
フューザ形状の最適化など検討を進める予定である.
参 考 文 献
た.この結果を第 15 図に示す.膨張型サイレンサにおい
( 1 ) 環境省環境管理局大気生活環境室:低周波音問題
ては 40 Hz で 20 dB の低減効果が見られ,設計どおりの
対応のための「 評価指針 」
2004 年 6 月 p. 1
結果になった.また,多段ディフューザに関しては 8 ∼
( 2 ) LEO L. BERANEK : NOISE AND VIBRATION
100 Hz と比較的広い周波数範囲で 20 dB 程度の低減効果
CONTROL Capter 16 Noise of Gas Flows ( 1971 ) が得られた.
pp. 514 − 515
IHI 技報 Vol.50 No.3 ( 2010 )
83
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