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o 窯業系廃棄物の再資源化による 多孔質材料の創製に関する研究 平成12年11月 古田祥知子 次 目 第1章 緒論 第1節 緒言--- 第2節 一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一 4 陶磁器産業における廃棄物問題一一一 第3節 廃棄物を原料とした多孔質セラミックスの創製一一一一一一一一一一一 8 本論文の概要一一一一一一……一一一…一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一9 第4節 第2章 肥前地区における窯業系廃棄物の性状 第1節 緒言一一一一一一……一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一11 第2節 粗粒石英残澄 一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一 11 旦同小 じ 2・1 2-2 排出状況 2 ・3 粗粒石英残澄の特性 2・4 本節のまとめ 第3節 石膏廃棄物…一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一18 3-1 背反 3-2 排出状況 3・3 石膏廃棄物の特性 3-4 本節のまとめ 第4節 第3章 本章のまとめ……一一一一一一一一一一一一一一一一一一一………----24 粗粒石英残澄を用いた多孔質シリカの創製 第1 節 緒言一一一一一一一……………一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一25 第2節 一一一一一一一一一一一26 プレス成形法による多孔質シリカの作製と特性 2-1 序 2-2 実験方法 2-3 結果と考察 2-4 本節のまとめ 1 第3節 押出し成形法による多孔質シリカの作製と特性一一一一…一一一一一一35 3-1 序 3 -2 実験方法 3- 3 結果と考察 3・4 本節のまとめ 本章のまとめ一一一一一一一一一一一 一一一一一…一一………一一一-38 第4節 第4章 石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 第1節 緒言一一一一一一一一一一一一…一一一一一一一一一 一一一一一一一一一一一一一一40 第2節 石膏廃棄物を原料とした水酸アパタイト多孔体の合成一一一一一一一 一41 2-1 序 2 -2 実験方法 2-3 結果と考察 2・4 本節のまとめ 石膏の水酸アパタイト化に及ぼすマイクロ波照射の効果一一一一一一一一 52 第3節 3・1 序 3 -2 実験方法 3-3 結果と考察 3・4 本節のまとめ 本章のまとめ一一一一………ー……一一 一一一一……一一一一一一一一一一60 第4節 第5章 粗粒石英残透から作製した多孔質シリカの食品工業への応用 第1節 緒言一一------------------------------ ----------------------------------------------------62 第2節 セラミックスパイオリアクターによる超淡口醤油の製造-一一一一一一一 65 2-1 序 2-2 実験方法 2-3 結果と考察 2・4 本節のまとめ 第3節 3-1 活性炭によるシリカ多孔体の表面改質と酵母固定化能の検討一一一一一72 序 11 3-2 実験方法 3・3 結果と考察 3-4 本節のまとめ 本章のまとめ一一一…一一一一一一一一一一一一………一一一…一一-80 第4節 第6章 石膏廃棄物から合成した水酸アパタイト多孔体の応用 第1 節 緒言一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一8 2 第2節 石膏廃棄物から合成した水酸アパタイトによるPb2+イオンの除去一一 -83 2-1 序 2-2 実験方法 2-3 結果と考察 2-4 本節のまとめ 第3節 Pb2+イオンを回収したアパタイトからのPb2+イオンの再溶出…………-93 3-1 序 3-2 実験方法 3・3 結果と考察 3-4 本節のまとめ 第4節 第7章 本章のまとめ…一一一一一……………一一一一一…………一一一一一一101 総括一一一一一一一………………一一一一一一一一一一一一一一一一一103 参考文献一一一一……………一一一一一一一…………一一一一一一一一一一一一一一一一105 謝辞...................... 参考論文一一一一............................................................................................................................................・-------------- 112 111 第1章緒論 第1 章 第1節 緒 論 緒言 近年、 環境問題への関心が世界的に高まっている。 新聞やテレビ等のメディアにおいて も環境のことが語られない日はほとんどない。 産業革命以降の技術進歩により人間の生活 水準が世界的に向上するにつれて経済活動も拡大し、 自然界に存在する資源及びエネルギ ーの消費量が急激に増加してきた。 地球の長い歴史の中で蓄積されてきた鉱物資源や化 燃料がわずか100年足らずで急激に減少している。 そして産業の多様化・使い捨て文化の 蔓延により、 発生する廃棄物の種類・量も加速度的に増加するという結果となった。 人間 は生きていく上で、 地球から必ず何らかの資源を採取し、 使用した後に廃棄する。 文明が 発達する以前は、 社会生活の中から発生する廃棄物はさほど多くはなく、 自然生態系の中 での物質循環で十分に処理されていた。 しかし現代の複雑化かつ巨大化した人間社会から 発生する廃棄物はもはや自然生態系の循環だけでは処理しきれなくなり、 二酸化炭素の放 出による地球温暖化、 都市部での大気汚染、 水質汚染、 埋め立て処分場の飽和など数多く の深刻な社会問題を引き起こしている。 現代は、 地球資源の採取から廃棄に至るあらゆる 段階で、 環境への負荷が高まっている時代であるといえる。 人類が今後も豊かな文明を維持していくためには物質循環を自然の力に委ねるだけで はなく、 鉱物資源や化石燃料など限りある地球の資源を少しでも長持ちさせるために廃棄 物を再利用し、 物質循環(リサイクル)型の社会システムを構築することが求められてい る1,2)。 このような観点から、 平成3年には「再生資源の利用の促進に関する法律J (略称・ リサイクル法)が制定された3)。 この法律では再生資源の利用目標が掲げられ、 国や地方 公共団体は、 再生資源利用を促進するための施策を実施し、 地域の実情に即して再生資源 の利用を促進するよう努めることとされている。 また、 関係事業者の責務として、 製造業 者は自ら発生した副産物の利用に努めるとともに、 用途に応じた規格・仕様に加工するな ど、 副産物を再生資源として利用することが挙げられている。 さらに再生資源の利用を推 進するために、 平成12年5月には「循環型社会基本法」が成立した4)。 この法律は国 ・ 地方行政 ・事業者・消費者が役割を分担して資源リサイクル・省エネルギー ・排出物最少 化を行うことで持続的発展可能な社会の形成を目指すものである。 平成13 年4月より実 施に移される予定となっている。 日本国内で発生する廃棄物は一般廃棄物と産業廃棄物に分類される。 そのうち産業廃棄 1 第1章緒論 物は表1-1に示すように19種類が法律と政令で定められている5)。 表1-1 1去 律 燃えがら 石炭がら、焼却炉の残灰、炉清掃排出物、その他の焼却残澄 2 汚でい 活性汚泥法による余剰汚泥、パノレプ廃液汚泥、動植物性原料使用工業 の廃水処理汚泥、ヒ。ルヒ。ット汚泥、カーバイトかす、赤泥、炭酸カノレシウム かすなど工場排水などの処理後に残る泥状のもの及び各種製造業の製 造工程ででる泥状のもの 3 廃油 潤滑油系、絶縁油系、洗浄油系および切削油系の廃油類、廃溶剤および | ターノレヒ。ッチ類など、鉱物性油及び動植物性油脂に係るすべての廃油 4 廃酸 廃硫酸、廃塩酸、各種の有機廃酸類など、すべての酸性廃液 5 廃アノレカリ 廃ソーダ液、金属せっけん液など、すべてのアルカリ性廃液 6 廃プラスチック類 合成樹脂くず、合成繊維くず、合成ゴムくずなど、合成高分子系化合物に 係る固形状液状すべての廃プラスチック類 紙くず パノレプ製造業、紙製造業、紙加工品製造業、新開業、出版業、製本業、 印刷物加工業から生ずる紙くずおよびPCBが塗布された紙くず 2 木くず 建設業に係るもの並びに木材または木材木製品製造業(家具製造業を含 む)、パノレプ製造業、輸入木材卸売業から生ずる木材片、おがくず、パー ク類など 3 繊維くず 衣服その他の繊維製品製造業以外の繊維工業から生ずる木綿くず、羊 毛くず等の天然繊維くず 4 動植物性残澄 食料品製造業、医薬品製造業、香料製造業、あめかす、のりかす、醸造力 す、発酵かす、魚及び獣のあらなど 5 ゴムくず 天然ゴムくず 6 金属くず 鉄鋼、非鉄金属の研磨くず、切削くずなど 7 ガラスくずおよび 陶磁器くず ガラスくず、耐火れんがくず、陶磁器くずなど 8 鉱さし\ 高炉・平炉・電気炉などの残さい、キューポラのノ口、ボ夕、不良鉱石、不 良石炭、粉炭かすなど 9 建設廃材 工作物の除去にともなって生ずるコンクリートの破片、レンガの破片その他 これに類する不要物 10 動物のふん尿 畜産農業から排出される牛・馬・豚・めん羊・にわとりなどのふん尿 11 動物の死体 畜産農業から排出される牛・馬・豚・めん羊・にわとりなどの死体 12 ばいじん 大気汚染防止法に定めるばし1煙発生施設又は汚泥、廃油、廃酸、廃アノレ カリ、廃プラスチック類、上記1に掲げるものでPCBが塗布された紙くずもし くは上記6に掲げるもので、PCB が付着し又は封入された金属くずの焼却 施設において発生するばいじんで、あって、集じん施設によって集められた もの 13 その他 燃えがら、汚でい、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類又は上記l '"'-'12に掲げる産業廃棄物を処分するために処理したもので、あって、これら の産業廃棄物に該当しなしも の 政 メ 寸b 1、 産業廃棄物の種類一覧 2 | 第1章緒論 厚生省の調査によると、 図1-1 に示すように平成2年以降産業廃棄物の総排出量はほぼ 横ばい傾向にあり、 平成8年度のデータでは全国で約4億500万トンとなっているG)。 こ のうち全体の37%にあたる1億5000万トンが再生利用され、 46%の1 億8 7 00万トンは 中間処理などで減量化されている。 最終的に処分されている量は平成6 年度より減少傾向 にあるが、 平成8年度の時点でも17%にあたる6800万トンが最終処分に回されている。 最終処分される廃棄物はその化学的安定性に応じて、 安定型処分場、 管理型処分場、 遮断 型処分場に分けて廃棄される。 いずれの処分場も、 残存容量と残余年数は非常に厳しい状 況にあり、 廃棄物そのものの発生を抑制するための根本的な解決が望まれる。 45000 ロ再生使用量 圃減量化量 ロ最終処分量 40000 � 35000 咽30000 E 拡25000 S 20000 監 15000 諸問。 5000 0 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 年度 図1-1 圏内の産業廃棄物の総排出量 (厚生省資料) このような背景を受けて、 資源の再利用を促進し環境に配慮した製造フロセスを構築す るための取り組みは各産業において増えてきている。 18014 000シリーズの取得 を目指す 企業もここ数年急激に増加しており、 日本の産業界全体での取得件数は平成8年9月から 平成11 年9月までの3 年間で8 9件から25 31件と約3 0倍に伸びている7)。 今後、 モノ 作りの立場から環境への負荷低減を考える上で重要なポイントとしては、 ①できるだけ少 ない材料とエネルギーで製品を製造すること(省資源化製造技術)、 ②耐久性が高く、 寿命 の長い製品を設計すること(製品の長寿命化技術)、 ③再利用を前提とし、 分解や分別の容 3 第1章緒論 易な製品を設計すること(環境に優しい材料設計)、④生産工程で発生する廃棄物を資源と して再利用するフロセス (再資源化技術、 再生資源利用技術) の4つを確立することであ るが。 このうち①、 ②は企業において生産性向上や製品のコストパフォーマンス向上とい う面を強化していくことの延長線上にある。 最近では③についても、 家電品メーカーなど を中心として、 解体の容易な製品設計を行うなどの取り組みが進んでいる。④については 発生する廃棄物の量や性状によっては再資源化が容易でないものも多いが、 企業・ 大学・ 公設試験研究機関等で種々の廃棄物を再利用するための基礎研究や応用研究が行われてい る9� 13)。 第2節 陶磁器産業における廃棄物問題 表1-1に示すように政令で指定されている産業廃棄物中、 陶磁器は第7番目の「ガラス および陶磁器くずJとして分類されている8)。 産業別にまとめられた平成8年度の産業廃 棄物の排出量を見てみると、 製造業が全体の 33.8%を占めている。 また業種別に見ると、 陶磁器産業単独では分類されていないが、 表12 - に見られるように窯業・ 土石製品関連廃 棄物の総量は1579万トンであり、 産業廃棄物全体の3.9%を占める。 この3.9%という数 値は、 産業廃棄物全体に占める割合としては決して大きな数値ではない。 しかし陶磁器を 含む窯業系廃棄物の問題点は、 再生利用や減量化処理の割合が少なく、 最終処分に回され る割合が高いということにある。 平成8年度の主な産業廃棄物の種類別処理状況では、 図 1-2に示されるように「ガラスおよび陶磁器くず」の最終処分の割合は60%と、 ゴムくず の次に高い。 中でもガラスと比べ、 陶磁器は再資源化される割合が低いといわれている。 この理由としては、 溶融しなおすことで合成原料として再使用することが可能な金属材料 やプラスチック材料と違い、 構成元素が複雑で鉱物組成が多種多様なために原料としての 再生が極めて困難なことが考えられる14)。しかし陶磁器製品というのはもともと粘土や を原料として製造された無機物であるから、 特殊な場合を除いて有害な重金属や分別困難 な有機系ポリマーをほとんど含んでいない。 よって最終処分された場合に環境に与える悪 影響はプラスチックや金属と比較すれば小さく、「ガラスおよび陶磁器くずJは、「安定型 産業廃棄物」に分類され、 最終処分時には「安定型埋立処分場Jに埋めることができると されている。 しかしながら今後の産業の有り方として、 地球環境に対する負荷を低減させ るという観点から、 陶磁器の製造工程においてもまた排出される物質をできるだけ少なく し、 また生じた排出物を再資源化し、 有効利用の可能性を探っていくことは重要である。 4 第1章緒論 表1・2 平成8年度の各産業廃棄物の排出量 業 平成8年度排出量と割合 種 排出量(千t) 割合(%) 農業 72,517 17.9 林業 。 0.0 漁業 58 0.0 鉱業 27,999 6.9 建設業 77,138 19.1 製造業 136,563 33.8 11,696 2.9 飲料・飼料・たばこ 5,331 1.3 繊維工業 2,550 0.6 食料品 衣服・その他の繊維製品 198 0.0 木材・木製品 4,071 1.0 家具・ 装備 品 464 0.1 28,296 7.0 1,083 0.3 17,840 4.4 808 0.2 1,421 0.4 ゴム製品 314 0.1 なめし革・同製品・毛皮 157 0.0 窯業・土石製品 15,791 3.9 鉄鋼業 28,033 6.9 パルプ・紙・紙加工品 出版 ・ 印刷 ・同 関連 化学工業 製 1丑r=l二 業 内 訳 石油製品・石炭製品 プラスチック製品 非鉄金属 3,794 0.9 金属製品 3,470 0.9 一般機械器具 1,721 0.4 電気機械器具 4,092 1.0 輸送用機械器具 4,163 1.0 228 0.1 1,043 0.3 79,970 19.8 運輸・通信業 1,102 0.3 卸売り・小売業 5,689 1.4 サービス業 精密機械器具 その他 電気・ガス・熱供給・水道業 3,546 0.9 ノ0�告カ 予E 21 0.0 合計 404,602 100.0 5 第1章緒論 100% Aw-仰のが 設 け一 酬 坦恭 ロ再生使用量 ・減量化量 ロ最終処分量 80% 圃 60% 40% 国圃 20% 汚泥 ゴムく ず 繊維 く ず 木く ず 廃 プ ラ ス チ ック 類 廃油 ガラ ス 及び陶 磁 器 屑 紙く ず ばいじん 建設廃 材 金属 く ず 鉱さ い 0% 苅1-2 圃 - 巾成8年度の主な産業廃棄物の種類別処理状況(厚生省資料) 大まかな陶磁器の製造 程を図1・3に示す。 図中に示すような各工程で廃棄物が発 す る。 国内の陶磁器産業は、 いくつかの産地に集積しているという特徴がある。 その中で最 も生産規模の大きいのが瀬戸や美濃を中心とした中京地区であり、 二番 が九州西北部の 佐賀県・長崎県にまたがる肥前地区である。 同じ陶磁器の産地でありながら、 中京地区と肥 前地区では大企業を中心とした大量生産と中小零細企業による多品種少量生産という企業 形態の違いがある。 また、 使用されている原料の種類や量も異なるため、 製造プロセス内 で発生する廃棄物の 資源化を議論する時に 者を同列に扱うことはできず、 それぞれの 産地に適した廃棄物の有効利用法を見出す必要がある。 また、 廃棄物の再利用の際には運 搬コストの低減という観点からも、 地域の廃棄物はできるだけその地域内で再資源化する こと、 さらに地域産業がすでに有している能力で十分対応可能な技術を提案するのが望ま しい。 これは窯業のみならず他の産業においても共通しており、 特定の地域に産業が集積 している場合には、 その産業で発生する廃棄物の再利用はそれぞれの地域内での研究課題 とされ、 各県の公設研究機関で地域特有の産業廃棄物の利用研究が近年活発に行われてい 6 第1章緒論 陶磁器製造工程 発生する廃棄物 原料採取 中京地区:粘土+珪石+長石 肥前地区:天草陶石 一令| 一 原料中の不要部分 川 不良品・破損品石膏廃材 | 不良品・破損品 不良品・破損品 不良品・破損品 破損品・返品分 図1-3一般的な陶磁器の製造工程と各工程で発生する廃棄物 る15�18)。 陶磁器産業について見てみると、 中京地区の場合は自動化された大規模な工場が中心で あるため、 発生する廃棄物の量がまとまっており、 スケールメリットの点から再資源化に おけるコストを抑えるのに有利である。 また大企業ほど自社グルーフの工場開で不要物を 循環・再利用することが容易で、 大手メーカーを中心としてゼロ・エミッションへの取り組 みが進んでいる 19�21)。 一方の肥前地区では佐賀県 ・ 長崎県合わせると陶磁器関連企業の 数は500社を超えるが、 その大半が従業員20人以下の中小零細企業である。 そのため製 造の各工程で生じる廃棄物の品質や量にばらつきがあり、 一括処理も困難で、 中京地区と 比べると廃棄物再資源化への地域全体での取り組みが進んでいないのが現状である。 廃棄物を再利用するための方法には、 廃棄物を何らかの形で加工し原料中に混合して再 7 第1章緒論 利用する方法と、 全く新しい別の製品を製造するための原料として廃棄物を用いるβ法の 二つがある。 廃棄物を原料中に混合して再利用することの利点は、 製造プロセスの中で物 質循環を完結させることができることにあるが、 その一方で製品の性能を低下させる恐れ がある。 一方、 廃棄物を用いて新しい素材の開発を行う場合には、 廃棄物のもつ特性を十 分に生かし、 できるだけ新たなエネルギーを使わずに新しい素材を合成することが重要で ある。 どちらの方法であっても、 地域が抱える窯業系廃棄物の再資源化を促進するには、 地域内で有している設備と技術ポテンシャルで十分対応可能な方法を提案することが望ま れる。 第3節 廃棄物を原料とした多孔質セラミックスの創製 多孔質セラミックスは物質内に無数の気孔をもっ無機材料である。気孔のサイズ、 分布、 組織形態の違いによって多孔質セラミックスには図1・4に示すように分離22,23)、吸着24)、 分散25)、 担持26)、 軽量化27)、 断熱28)など様々な機能があり、 各機能に対応した多くの産 業分野で応用されている。 多孔質セラミックスの主な製造方法には、 粒子同士の焼結が完 全に進行する前の状態、で保持し、 粒子と粒子の隙間を気孔として利用する焼結法29,30)、 金 属アルコキシドの加水分解を利用したゾル・ゲル法31,32)、 ガラスの分相現象を利用した分 1nm 10nm 100nm 触媒担体 a-・ � 10nm 限外ろ過 1nm 10μm lμm 1nm: 1cm -ー 4 -- 酵母担体 惨 10μm 精密ろ過 唱・ 2μm 吸着斉日 400μm : 惨 20nm 分子ふSい 1mm 40μm 100nm � 100μm ガスろ過 ・ー � 100μm 4 散気盤 : 2nm 10μm 透J性タイノレF材 600μm -・ ・ ・ 図1-4 各種多孔質素材の気孔サイズと用途 8 ー_.... 第1章緒論 相法33,34)、 またゼオライトの分子構造やシリカゲルのネットワーク構造からなるミクロポ アやメソポアを生成させる合成法 35�37)、 など様々な方法があり、 目的の気孔サイズをも っ多孔質セラミックスを合成するのに適した原料とフロセスが用いられる。 近年ではファ インな原料だけでなく、 窯業系廃棄物をはじめとする建材、 ガラス廃棄物、 石炭灰など各 種無機系廃棄物、 火山灰のような未利用資源を有効利用した多孔質セラミックスの試作研 究と用途開発が、 それらの廃棄物の発生する各地域で活発に行われるようになった。 例え ば火山灰のシラスを用いた多孔質ガラス38)、石炭灰や都市ゴミ焼却灰を用いたゼオライト 39, 40)、 汚泥焼却灰や窯業系廃材をを用いた舗装用ブロック 41)、 など様々な開発が行われ ている。 図1-4で示した多孔質セラミックスの用途の中で、 精密ろ過、 限外ろ過、 ガスろ 過、 分子ふるいなど、 気孔サイズの均一性によって性能が左右されるような材料では、 厳 密な材料設計とフロセス管理が必要不可欠である42�5 4 )。 しかし、 散気盤、 透水性タイル、 微生物担体など、 比較的気孔サイズに幅がある場合、 天然原料や廃棄物原料から製造した 製品でも十分利用価値がある。 また使用目的によっては従来の陶磁器と同程度またはそれ より低い焼成温度で創製することができるので、 製造にかかるエネルギーコスト及び新た な設備投資を少なくできるという利点がある。 九州西北部に位置する窯業の集積地である肥前地区は、 中小零細企業が多いこともあっ て環境対策、 廃棄物の再資源化利用が遅れている。 本論文においては、 肥前地区で発生す る窯業系廃棄物の現状を調査し、 廃棄物の特性を生かした新規な多孔質セラミックス素材 の創製を目指すことにした。 第4節 本論文の概要 本論文は、 九州西北部にある肥前地区で発生する窯業系廃棄物を原料とした多孔質セラ ミックスの創製とその活用に関して述べたものである。 陶磁器製造フロセスでは各段階で 廃棄物が発生するが、 本論文ではその中で陶土製造工程で生じる粗粒石英質廃棄残澄と、 陶磁器の成形工程で発生する使用済み石膏型の2種類に着目し、 本来持っている材料特性 を生かした多孔質セラミックスを創製するとともに、 その応用について研究を行った。 第1章では、 現在の社会における環境問題の重要性について延べ、 その中での窯業系廃 棄物の位置付け、 陶磁器業界における廃棄物の再資源化の方向性について概要を述べた。 第2章では、 九州西北部を中心とする肥前地区の陶磁器産地の現場で、 陶磁器製造の各 工程から生じている廃棄物の現状を調査し、 概要を述べた。 その中で特に、 陶土製造工程 9 � 第1章緒論 で生じる粗粒石英残澄と陶磁器の成形工程で発生する石膏廃棄物の二つを取り上げ、 これ らが発生する背景について述べるとともに、 現在の排出量、 原料としての特性について議 諭した。 第3章では陶土製造工程で生じる粗粒石英残澄を原料として焼結法により多孔質セラミ ックスを合成し、 その特性について述べた。 第4章では石膏廃棄物を原料として水熱処理法により水酸アパタイト多孔体を合成し、 そのキャラクタリゼーションを行った。 また近年省エネルギープロセスとして注目されて いるマイクロ波水熱処理を用い、 石膏の水酸アパタイト化に及ぼすマイクロ波導入の効果 を論じた。 第5章では、 粗粒石英残澄から合成した多孔質シリカのもつ気孔が、 食品工業に利用さ れている酵母類の固定化に適した孔径であることに着目し、 多孔質シリカに醤油製造用の 主発酵酵母を固定化させ、 超淡口醤油製造用バイオリアクター担体として用いた実用例を 紹介した。 さらに、 微生物との親和性が注目されている炭素材で多孔質シリカを修飾する ことによる酵母固定化能の向上を図った。 第6章では、 石膏廃棄物から合成した水酸アパタイト多孔体の水質浄化用部材としての 活用を図るため、 重金属に対するイオン回収能を利用して、 水溶液中からの鉛イオンの除 去試験を行った。 また、 鉛イオンを回収した後のアパタイトからの鉛イオンの再溶出試験 を行い、 実用上の問題を検討した。 第7章では本論文の総括を行った。 10 第2章肥前地区における窯業系廃棄物の性状 第2章 第1節 肥前地区における窯業系廃棄物の性状 緒言 第1章で述べたように、 佐賀・長崎両県にまたがる肥前地区は、 中京地区に次ぐ日本第2 の陶磁器産地である。 いずれの産地においても、 主力製品は磁器である4G)。 大量生 産を とする大企業の多い中京地区に対し、 肥前地区は中小零細企業の集合体で、あるという特徴 がある。 また原料の面では、 可塑性粘土と珪砂と長石を配合した陶土を磁器の主原料に使 用している中京地区に対し、 肥前地区は主に陶石単味から精製した陶土原料を使用してい るという違いがある47)。 これは中京地区が世界でも有数の良質な可塑性粘土を豊富に産出 する東濃地区を抱えているのに対し、 肥前地区では熊本県天草郡で良質な陶石が産出する という地域的な理由による。 さらに肥前地区では製造の分業化が進み、 製土を専門に行う 陶土業、 成形と素焼き専門の企業、 上絵付けを専門に行う上絵業など、 各工程を専門に行 う業者が存在する48)。 したがって、 原料の調製から製品製造の各工程における廃棄物の排 出状況は中京地区のそれと比較して複雑である。 肥前地区における磁器製造工程を図2-1に示す。 この工程の中で発生する主な廃棄物に は(1)陶土を製造する際、 水簸残澄として分離される粗粒石英残澄、(2)製造の各工程 で発生する不良品や破損品などの陶磁器屑、(3)鋳込み成形等の型材として使用したあと の石膏廃棄物がある48)。 これらの中で、 本論文では( 1 )の陶石から陶土を製造する過程 で生じる粗粒石英残澄と、 陶磁器製品の成形過程で発生する(3)の石膏廃棄物について 有用な多孔質素材への転換を試みた。 廃棄物から新しい材料を合成する際に考慮しなけれ ばならないのは、 素材の持つ本来の特性を生かし、 できるだけ少ないエネルギーで新しい 素材への転換を行うことである。 そのためにはまず廃棄物の素性と特性を明らかにする必 要がある。 本章ではこれら2種類の廃棄物が陶磁器製造工程で生じる背景、 排出量につい て明らかにするとともに、 材料としての特性を調べた。 第2節 粗粒石英残澄 2-1 背示 磁器の原料として必要な鉱物組成は、 主に骨格としての石英(α - Quarz t )、 成形時の 可塑性を付与するカオリナイト(Kaoi l nie t )等の粘土成分、 焼成時に素地中にガラス相を 形成するための長石(Fed l sper)の3つである。 肥前地区で磁器の主原料に用いられてい 11 ------ 第2章肥前地区における窯業系廃棄物の性状 発生する廃棄物 陶磁器製造工程 川 粗粒石英残溢 � 不良品破損品石膏廃材 川 不良品破損品 � 不良品破損品 .{ 不良品破損品 叫 破損品返品分 一一一一一 一 一一- 一一一 ー-- -- - 一一一 図2-1 肥前地区における陶磁器の製造工程と発生する廃棄物 る熊本県天草郡産の天草陶石はこれらの必要成分をすべて内包しており、 陶石単独で磁器 用陶土を生成することが可能な原料である49)。 天草陶石のX線回折パターンを図2・2に、 化学分析値を表21 - に示す。 鉱物的には石英(α - Quartz)を主成分とし、 粘土成分とし てカオリナイトCKaolinite) 、 セリサイトCSericite)を含有している。 図の X 線回折パ ターンではほとんど確認されないが、 少量の長石CFeldsper)を含む。 また、 褐鉄鉱や菱 鉄鉱由来のFe203を僅かに含有している50)。 草陶石の場合、 原石中に含まれる石英分は磁器の製造には過剰であり、 これを除去し ないと陶土の成形性や可塑性の低下、 成形体の不均質などの不具合が生じる。 また石英分 が粗粒のまま存在すると、 以下のような理由で焼成時に問題が生じる。 12 J固』 第2章肥前地区における窯業系廃棄物の性状 9000 8000 7000 。 0 石英 企 セリサイト - カオリナイト I 令υ 0 6000 --=-- 性1RH 5000 4000 要3000 2000 1000 。 I 4・ あ 。I 。 .... 10 2 e 刈2-2 表2・1 30 20 /0 (Cu-K α) 40 50 天草陶石原鉱のX線回折パターン 天草陶石原鉱の化学分析値(単位:wt%) 強熱減量 Si02 Al203 Fe203 Ti02 CaO MgO Na20 K20 2.75 78.50 14.77 0.47 0.02 0.09 0.06 0.10 2.75 図2-3に磁器素地の焼成に伴う組成の変化を示す51)。素地中において長石成分が融液化 したガラス相は高温になるに従って伸展し、 素地の紋密化を促進する。 カオリナイトはメ タカオリン→スピネルを経て、 ムライト[3Alz03.2Si02]の針状結品となり焼結体の機械的 強度を高めるはたらきをする。一方素地中に存在する微細な石英粒子は12000C付近からガ ラス相に熔融し始めるが、 完全には熔化せず、 ガラス相の中に石英の形で残存する。 最終 的に焼成体を構成するのは、 図2・4に示すように残存した石英、 析出した針状ムライト、 そしてガラス相で、 僅かな気泡を除いてはほとんど気孔は存在しない。 ここで素地中に粗 粒の石英が存在すると、 焼成の最終段階でß-クリストバライトに変化することがある。 13 � 第2章肥前地区における窯業系廃棄物の性状 14000C 石英- のクリストノくライト化 完了 12000C斗焼結 長石の融液化 ト 10000C斗粘土のムライ 化 珪酸の遊離 8000C斗 6000C斗 石英のα→8転移 水の揮発 の 4000C斗粘土 結晶 ↓ 石英の3→臼転移 クリストパライトの3→α転移 水の蒸発 室温」付着 週日 図2・3 磁器素地の焼成に伴う変化 。 l々 そミ 。 ガラス相 0 イ\ 口 図2・4 二三 。 磁器焼成体中の成分の分布モデル 14 -回』 第2章肥前地区における窯業系廃棄物の性状 冷却過程に入ると5730Cで石英結晶の3→α転移があり、 石英の密度が2.51 g/cm3から 2.65g/cm3へと変化するので6%程度の体積収縮が起きる。さらに焼成体中にクリストバラ イトが生成している場合には2200Cにおいても3型(2.18 g/cm3)からα型(2.34 g/cm3)への 転移に伴う体積収縮が起きる。 焼成体中の石英粒子の粒径が小さい場合にはこれらの体積 収縮は大きな問題にはならないが、 成形体素地中に粗粒の石英粒子が過剰に存在している と、 石英粒子が粗粒のまま焼成体中に残ったりクリストパライト化が起こる可能性が高く なるので、 冷却時の相転移に伴う体積変化が大きくなり、 割れの原因となる。 したがって、 このような問題を解消するために、 天草陶石から陶土を製造する工程では、 陶石中に含まれる過剰な石英分が取り除かれることになる。 通常、 磁器原料の陶土は 60 μm以上の粗粒石英を含まない状態に調製されている。 本節では陶土製造工程で除かれる 過剰の石英分について排出状況を述べるとともに原料としての特性を調べた。 2-2 排出状況 天草陶土の製造工程を図2-5に示す。 原石 は粗砕後、 スタンプミル(図2・6)による衝 撃粉砕工程で微粉砕される。 この工程では粘 土を多く含む軟質部分だけが微粉砕され石英 を多く含む硬質部分は粗粒のまま残る。 次に 薄い懸濁液中での粒子の沈降速度の差を利用 した水簸工程と呼ばれる分離法で粗粒子の石 粗粒石英残澄 英質部分と微粒子の粘土部分を分離する。 こ のようにして約 60μm 以上の粗粒の石英分 を取り除き、粘土分を多く含む約60μm以下 の粒子を濃縮し、 脱水、 土練り工程を経て陶 土を調製する。 水簸工程で取り除かれた粗粒 の石英分が、 肥前地区で「珪」と呼ばれる残 澄である。本論文においては「粗粒石英残澄」 図2・5 天草陶石からの陶土の製造工程 と表記する。 15 - �・ーー 第2章肥前地区における窯業系廃棄物の性状 天草陶土の化学分析値 の例を表 2-2に示す。 表2-1 の天草陶石原鉱 の分析値と比較して調製された陶 中の Si02は減少し、 石英分が除去 されていることがわかる。 天草陶石 を原料として肥前地区全体で製造さ れている陶土は年間約27 ,OOOtであ るが、 これに伴って排出されている 粗粒の石英残澄は約 4,OOO'"'-'5,500t で、 原石の約15'"'-'20wt%を占めて いる48)。排出された 石英残澄のうち 図 2・6 陶石の微粉砕に使用されている スタンプミjレ 約4分の1は工業用陶磁器の石英源 や外装用タイルの紬薬用 原料として再利用されているが、 残り は野積み状態、のまま放置さ れており再資源化技術に関する研究が望まれている。 表2・2 天草陶土の化学分析値(単位: wt%) 強熱減量 Si02 Al203 Fe203 Ti02 CaO MgO Na20 K20 3.95 75.83 16.17 0.44 0.05 0.04 0.17 0.47 2.93 23 粗粒石英残澄の特性 粗粒石英残澄は湿った状態で野積みされている。 これを採取し乾燥した後に、 微量含ま れている 1mm 以上の粗大粒子を飾で取り除き、 原料としてのキャラクタリゼーションを 行った。 まず図2・7に粗粒石英残澄のX線回折パターンを示す。 図に示されるようにほぼ α一石英からなり、 図2-2のX線回折パターンにあるようなカオリナイトやセリサイトな どの粘土成分は水簸によって取り除かれているためほとんどみられな い。 化学分析値を表 23 - に示す。 化学組成の93%以上はSi02からなるが、 Ab03、 Fe203、 K20などを少量含 む。Si02以外のこれら の成分は、 粗粒石英粒子表面に僅かに付着している粘土の微粒子と 微量の褐鉄鉱や菱鉄鉱に由来すると考えられる。 昆J 2-8は粗粒石英残澄のSEM写真であ る。 スタンプミル粉砕で粒子同士が擦れ合うことにより、 粒子の形状は全体的に角が少な 16 �・ーー 第2章肥前地区における窯業系廃棄物の性状 ハU ハU ハU ハU ハUハUハUハUハU ハU ハU ハU ハU ハU ハU ハU ハU ハU ハU ハU ハu nU ハU ハU ハU 06 ヴi ハhUFhυλ斗AnJ nL 1i ( 凶 ♂) MmM恕 礎× 。 0 石英 。 JJ 。 20 10 2 e 図2-7 表2・3 ?i3?�? JL 30 52 50 40 /0 (Cu-K α) 粗粒石英残澄のX線回折パターン 粗粒石英残澄の化学分析値(単位: wt%) 強熱減量 Si02 Al203 Fe203 Na20 K20 1.16 93.31 4.28 0.29 0.05 0.87 く丸みを帯びているのが特徴である。 直径約 20'""100μm程度の粒子が観察される。 粒子 表面には凹凸があり、 この隙聞に微量の粘土 成分が付着していると考えられる。 X線透過 法で測定した粗粒石英残澄の粒度分布を図 2-9に示す。 中心粒径は約45μmで、 粒子の 大半が20'"" 120μmの範囲に存在する。 特に 20μm以下の粒子はほとんど存在しない、 廃 棄物としては非常に粒度の整った材料といえ 図2-8 粗粒石英残澄のSEM写宍 る。粉末の集合体は図2-10の写真に示すよう に流動性が非常に高く、 成形性は乏しい。 17 �・ー- 第2章肥前地区における窯業系廃棄物の性状 120 100 品m 捌 … 40 20 。 10 100 1000 粒径(μm) ・ 図29 珂2-1 0 粗粒石英残澄外観 粗粒石英残澄の粒度分布 2-4 本節のまとめ 本節では天草陶石から陶土を製造する工程で発生する粗粒石英残澄の排出状況と特性に ついて述べた。 粗粒石英残澄とは、 原石に含まれる過剰の石英部分を陶土精製工程で分離 したものである。 排出される粗粒石英残澄は原石の約15""20%にあたり、 年間約4000"" 5000t排出されている。 粗粒石英残澄の化学組成は93wt%以上がSi02からなり、 鉱物組 成のほとんどがα一石英である。 Si02以外の成分は陶石中の粘土成分に由来するもので、 石英粒子の表面に付着している。粗粒石英質残澄の粒径はほぼ20μmから120μmの聞に 分布しており、 廃棄物としては比較的揃った粒度分布を持っていることがわかった。 また 粒子の形状は丸みを帯びており、 粉体の流動性は高く、 成形性は乏しい。 第3節 3-1 石膏廃棄物 背景 石膏は硫酸カルシウムの一般名として知られる物質で、 古代エジプト時代から工芸品や 天然の石材、 積石の白地等として使用されてきた52,53)。 硫酸カルシウムの形態としては表 2・4に示すように2水石膏、 半水石膏、 無水石膏(I""ill型) がある。 このうち工業的に I H20)を水と 多く利用されているのが半水石膏である。 室温で半水石膏(CaS04・12 18 � 第2章肥前地区における窯業系廃棄物の性状 比約1:1で混合、撹持すると水和し、約30分で完全に硬化して結晶水 を含むCaS04.2H20 の化学式を持つ2水石膏となる。 この水和による優れた凝結硬化性は他の単塩にはほとん ど見られない性質であり、 完全に硬化するまでの時間が短いので、 建築材料、 金属精密鋳 造用型材など多くの分野で利用されている。 また硬化した 2水石膏は高い気孔率を有する ので陶磁器成形用の多孔質型材としても古くから利用されてきた52)。石膏型が使用される 陶磁器の主な成形方法には鋳込み成形(排泥鋳込み、 圧力鋳込み)および塑性成形(機械 ロク口、 ローラーマシン)がある。 図2-11に石膏型のモデル図を、 図2・12に異なる3種 類の成形法に用いられる石膏型の写真 を示す。 鋳込み成形というのは原料の陶土粉末を水 表2・4 硫酸カルシウムの形態 名称 2水石膏 半水石膏 I型無水石膏 E型無水石膏 E型無水石膏 別称 石膏 焼石膏 α型無水石膏 3型無水石膏 γ型無水石膏 (高温型無水石膏) (低温型無水石膏) (可溶性無水石膏) 硬石膏 務目 苅2-11 陶磁器の成形に使用される石膏型のモデル図 茎12・12 陶磁器の成形に使用される石膏型の写真(左から常圧鋳込用、 圧力鋳 込用、 ローラーマシン用) 19 -- 第2章肥前地区における窯業系廃棄物の性状 および解惨材と混合して泥しょうを作製し、 十分に乾燥した石膏型の中に流し込んで吸水 させ、 着肉後、 型から取り外す成形法で、 主に複雑形状品の製造に用いられる。 このうち 排泥鋳込みは着肉後、 余分の泥しょうを排出して脱型する方法であり、 圧力鋳込みは圧力 をかけて泥しょうを石膏型に流し込んで、吸水させ、 排泥せずに成形体を得る方法である。 排泥鋳込みは花瓶やポットのような 袋型の製品の製造に、 圧力鋳込は肉厚製品の製造に適 している。 機械ロクロ、 ローラーマシンなどの塑性成形は、 石膏型に杯土を置き、 こてや ローラーごてで回転により陶土を圧延しながら成形する方法で、 平皿や碗など単純な 円形状製品の成形に多用されている。 石膏型は安価で複雑形状の鋳型が簡単に作製でき、 成形時の離型性が良好であるなど型材として優れた機能を有するが、 吸水すると軟質化し 耐磨耗性が著しく低下するという欠 点がある。 石膏の室温付近での水に 対する溶解度は図 2-13 のよう に ( 渓 ).0∞MW ハ) 重ねると表面が目減りしてくる。 こ のため使用回数が増えるにしたがっ nO Fhd泊uI nυ AU nu . wt%で54)、使用を CaS04比で約 02 0.3 て成形体の寸法が大型化するという 0.2 問題が生じ、 寸法の合わなくなった 0.1 石膏型は順次廃棄されている。 本節 50 75 100 125 150 175 2∞ 混 では、 陶磁器の成形工程で生じる使 用済み石膏型の排出状況と特性 につ 度("C) 図2・13 石膏の溶解度曲線 いて述べる。 32 排出状況 肥前地区における石膏型の使用量は3000'"'"'5000 t /年である。 石膏型を利用した成形法 のうち、 鋳込み成形では水分量の多い粘土泥しょうを使用するため石膏型の磨耗が早く、 高精度品で約50回程度、 一般品でも1 00'"'"'150回程度の使用後に廃棄されている。特に圧 力鋳込み成形では型の磨耗が早い。 また機械ロクロやローラーマシンなど塑性成形用の 膏型の場合は鋳込み成形より寿命が長いがそれでも使用回数が増えてくると成形体表面が 荒れてくるため約300回程度の使用後に廃棄されている。 大型で厳しい寸法精度が要求さ れる衛生陶器の製造現場においては石膏の消耗の問題が深刻であるため、 製品精度の向上 20 __A・・ー 第2章肥前地区における窯業系廃棄物の性状 と排出物削減を目指し最近では耐磨耗性に優れた多孔質樹脂型が右膏に代わって主流の型 材となりつつある。 しかし製品デザインの変化が少ない衛生陶器と異なり、 日常食器や割 烹食器を主力製品とする肥前地区では製品のライフサイクルが短いため高価な樹脂型はか えってコスト高になるという理由から全く使用されていない。 石膏廃棄物のリサイクル法 のひとつにセメント骨材としての再利用がある。 例えば中京地区の大手陶磁器メーカーで 生じる大量の石膏廃材はセメント会社が引き取り原料の一部として用いるなど、 業種を超 えた資源の循環が形成されている。 しかしながら肥前地区では石膏の廃棄物はセメント用 の原料としてはほとんど利用されていない。 この理由としては、 少ない品種の大量生産を 行っている大手メーカーの場合排出される石膏の性状がほぼ一定でまとまった排出量が見 込めるのに対し、 中小零細企業の集合体からなる肥前地区の窯業産地では使用されている 石膏の特性および排出量が安定しないので、 セメントの原料として安定的に供給すること が困難であることがあげられる。 石膏型はひとたび廃棄物として排出された場合には焼却 処分ができないので埋め立て処分されることになるが、 水に僅かに溶けて硫酸根が流出し たり、 周囲の環境によっては硫化水素ガスが発生する恐れがあるため、 管理型処分場に埋 め立てることが義務付けられている。 平成11年5月に発表された佐賀県産業廃棄物処理 基本計画によれば、 佐賀県内の産業廃棄物最終処分場の残存容量は非常に厳しい状態で、 特に管理型処分場の残余年数が平成10年4月時点であと2.5年と逼迫している状況にあ る55)。 これ以降のデータはまだ示されていないが、 非常に厳しい状況であることに変わり はない。 このような中、 中小の窯元では処分に苦慮し、 使用済み石膏を処理業者に出さず 工場の敷地内に野積み状態で放置しているところも多い。 このため肥前地区全体での正確 な排出量の把握は困難であるが、 基本的に石膏型は消耗品であるから使用量に準じた量が 廃棄されていると見積もることができる。 3・3 石膏廃棄物の特性 廃棄されている多孔質の石膏型は図2・14 に示されるようにCaS04・2H20で表される 2 水石膏である。 2 水石膏は結晶学的には単斜品系に属し、 針状または板状の結晶形態を7 す。 図2-15 は硬化した石膏の組織写真である。 長さ数"-'10μm程度の針状結晶が絡まり あって多孔質組織を形成していることが観察される。 石膏はモース硬度が2 で、 滑石(タ ルク)の次に軟らかい鉱物として位置付けられている。 従って再資源化の際には粉砕は比 較的容易に行うことができ、 また研削も容易にできる材料である。 21 _6i・・ー 第2章肥前地区における窯業系廃棄物の性状 図2-14 文12-15 硬化した 2水石膏の組織写真 2水石膏の結品構造 陶磁器用石膏型は成形方法に応じて排泥鋳込み用、 圧力鋳込み用、 機械ロクロ用、 など 使い分けられている。 例として表2・5にノリタケカンパニーで販売されている石膏型を数 種類示す。 水との配合量、 硬化時間がそれぞれ異なり、 作成される型材の気孔特性も異な ることが予測できる。 表2・6と図2-16に実際に肥前地区で使用された 5 種類の使用済み 石膏型の気孔特性を示す。 サンプリングした5種類の石膏型は廃棄石膏の中から任意に選 んだもので、 石膏型作製の際の水の配合量や硬化時間などは不明であるが、 表25 ・ の例と 同様一般的に圧力鋳込み用石膏は常圧鋳込み用より水の配合量は少ないと思われる。 いず れの石膏型も気孔分布曲線はシャープであった。 今回調べた5つの廃石膏では気孔直径は 概ね1"-'3μmの範囲にあり、 大きな違いはなかった。 こ れは、 石膏の気孔直径は主に針状 結晶のサイズに依存すると考えられるが、 水和硬化による半水石膏から2水石膏への変化 表 2・5 市販されている型材用半水石膏粉末と石膏型作製条件の例(ノリタケ カンパニー) 種類 水分配合量 流し込み時間 一般用 73% 8分 圧力鋳込み用 68% 8分 ロクロ成形用 5 8% 8分 硬質ローラーマシン用 53% 8分 22 �圃』 第2章肥前地区における窯業系廃棄物の性状 が常に常温常圧で行われるために、 半水石膏と水の混合比率が多少異なったとしても生成 する石膏の針状結品のサイズにはさほど大きな差が生じなかったためではないか考えられ る。 これに対して気孔率のばらつきは大きくなり25'"'-'60%という広い範囲にわたった。特 に圧力鋳込み用2の石膏型は高圧鋳込み用の型材であり、 他の石膏型と比べて極端に低い 気孔率を示している。 これは配合する水分量の違いにより水和硬化時に2水石膏の結晶中 に取り込まれない余分の水の量が異なるため、 生成した2水石膏の針状結品同士の隙間の 容積に差が生じるからである。 表2・6 石膏廃棄物の気孔特性(肥前地区使用) 常圧鋳込用 常圧鋳込用 常庄鋳込用 圧力鋳込用 圧力鋳込用 気孔率(%) 57.97 54.73 55.50 53.05 26.94 気孔直径(μm) 2.26 2.13 1.65 1.97 2.68 1 2 3 1 2 0.7 常圧鋳込用1 4子一 常圧鋳込用2 -← 常圧鋳込用3 -←圧力鋳込用l 一←圧力鋳込用2 一← 0.6 0.5 b.O '-...... M 5 0.4 梅 雪 0. 3 F判「 ぽ 0.2 0.1 0.001 0.01 0.1 1 10 100 気孔直径(μm) 文12・16 石膏廃棄物の気孔分布曲線 23 ハU ハU ハU 1i 0 _.・・ー 第2章肥前地区における窯業系廃棄物の性状 3-4 本節のまとめ 本節では陶磁器の成形工程で用いられる石膏型の使用後の排出状況と特性について述べ た。 石膏型は肥前地区で年間約3000""'5000t 使用され、 使用後、 磨耗したものはJI[貢に廃棄 されている。 石膏は最終処分時には管理型処分場への埋め立てが義務付けられているが、 処分容量の残余年数 が逼迫していることから、多くの中小の窯元では処分に苦慮している。 石膏型は長さ数""'10μm程度の針状結品が絡まりあった多孔質組織を形成している。 廃 石膏は使用目的によって気孔特性に差があり、特に気孔率のばらつきは25""'60%と大きい が、 気孔直径は概ね1""'3μmの範囲にあり大きな違いはないことがわかった。 また気孔分 布はシャープであった。 第4節 本章のまとめ 本論文で機能性材料を創製するための原料として取上げた陶磁器系産業廃棄物は、(1) 陶土製造工程で排出される粗粒石英残澄と(2) 陶磁器の成形に用いられる石膏型の使用 済み廃棄物の2つである。 本章ではこれらの廃棄物が発生する背景を明らかにするととも に現在の排出状況を調べ、 材料としてのキャラクタリゼーションを行った。 ( 1)粗粒石英残澄の化学組成は93wt% 以上がSi02からなり、 鉱物組成のほとんどが α一石英である。 Si02以外の成分は陶石中の粘土成分に由来するもので、 石英粒子の表面 に付着している。 粗粒石英質残澄の粒径はほぼ20""'120μmの聞に分布しており、 廃棄物 としては比較的揃った粒度分布を持っていることがわかった。 また粒子の形状は丸みを帯 びており、 粉体の流動性は高く、 成形性は乏しい。 (2)石膏廃棄物は気孔率25""'60%、 気孔直径1""'3μm程度の多孔体である。 2水石膏 の針状結晶が絡まりあって多孔質組織を形成している。 常圧鋳込み用、 圧力鋳込み用、 ロ ーラーマシン用、 など様々な種類の石膏型が使用されており、 種類の違いによって異なる 気孔特性を示す。 24 � 第3章粗粒石英残澄を用いた多孔質シリカの創製 第3章 第1 節 粗粒石英残澄を用いた多孔質シリカの創製 緒言 第 2 章で述べたように、 天草陶石を原料とした陶土製造工程で生じる粗粒石英残澄はSi02 の含有量が93wt%以上、 表面には微量の粘土成分が付着し、 平均粒径が約45μmの丸みを帯 びた粒子である。粒子径分布は20'"'"'120μmの聞に存在し、 廃棄物としては粒度が均一に揃っ ていることが特徴である。 したがって、 この特性を生かせば、 多孔質セラミックスの製造法の ひとつである焼結法で、粗粒石英残澄から気孔径分布がシャープな多孔体が簡単に製造できる と期待される。粗粒石英残澄の粒子サイズが20'"'"'120μmであるから、 これを原料として作製 した多孔質セラミックスの気孔は数~数十μm 付近にシャープな分布をもつことが予想され る。 表1-3で示したように、 この範囲の気孔サイズは触媒や酵母の担体、 ガスろ過、 散気盤な ど様々な用途に応用でき、 汎用性が高い 56�58)。 陶土製造工程で生じる粗粒石英残澄を利用す れば、 このような汎用性のある多孔質セラミックスを簡単なフ。ロセスで創製することが可能で ある。 焼結法による多孔質セラミックスの作 - に示すように充填され 製法には、 図31 た原料粒子の表面同士が相互に結合する ことを利用する 方法29,30,59)と、図3-2の ように骨材粒子にガラス質のフラックス や粘土質などの結合材を混合し、 骨材粒 子同士を融着させる方法とがある60�62)。 図3-1 セラミックス骨材粒子同士の結合 例えば工業的に広く使われている砥石な どは、 セラミックスの粒子を有機物、 金 属、 ガラス質などの各種結合材で融着し て製造されている63)。結合材を使用すれ ば骨材粒子のみの焼結による場合より多 孔体の焼成温度を低くすることができる。 前章第2節で述べたように、 磁器の焼成 過程は原料素地中にガラス成分が生成し、 図32 結合材を用いたセラミックス骨材 同士の融着 英が熔化していく過程である。 これと 25 _A・ー- 第3章粗粒石英残澄を用いた多孔質シリ力の創製 同じように、粗粒石英粒子の表面がガラ ス質の結合相の中に熔化する条件を作 り出せば、陶磁器と同程度の焼成温度で ・3のモデル図のように気孔径の揃 図3 った多孔質セラミックスが形成される。 本章では粗粒石英残澄の粒度が均ー であるという特性を生かし、焼結法によ って陶磁器と同程度の温度で汎用性の 高い多孔質シリカを 合成することを目 的とし、いくつかの結合材を用いてシャ 図3・3 粗粒石英残澄を骨材とした多孔質 ープな気孔分布を持つ 多孔質セラミッ シリカのモデル灰 クスを作製し、基礎的な特性を調べるこ とにした。 第2節 21 プレス成形法による多孔質シリカの作製と特性 序 粗粒石英残澄を骨材とし、 焼結法で多孔質セラミックスを作製するためには、 骨材粒子の表 面同士をガラス質の結合相で融着させる必要がある。粗粒石英粒子の表面には微量の粘土分が 付着しているが、 粗粒石英表面同士をガラス化して融着させるためには不十分である。 また石 英粒子は流動性が高く成形性がほとんどないので、 成形助材を加える必要がある。 陶磁器と同 C)で多孔質セラミックスを焼成することを目標におき、 結 0 程度の焼成温度帯(1300'""1400 合助材と成形助材を兼ねた材料として(1)炭酸カルシウム、(2)珪灰石利、(3)べントナイトの 3種類の原料粉末を選定した。 いずれの結合材も焼成時に石英粒子表面の微量の粘土成分とb ざり合い、ガラス相を形成させうる原料である。珪灰石粕とベントナイトの化学分析値を友3-1 に示す。 珪灰石利は陶磁器用の粕薬として用いられている材料の一つでNa20、 K20、 CaOな どを含み、 通常の陶磁器の製造工程においては焼成時にガラス化して陶磁器表面にガラス層を 形成する役割を担う。ベントナイトは層状粘土鉱物の一種で、組成中にMgOやNa20 を含み、 0 付近では完全に熔融する。 C 陶磁器の焼成温度で、ある1300 本節ではまずプレス成形法を用い、 粗粒石英残澄に上記結合助材を加えて焼結法で多孔質セ 26 J'・ーー 第3章粗粒石英残澄を用いた多孔質シリ力の創製 ラミックスを作製し、 得られた多孔体の基礎的な特性を評価した。 さらに粗粒石英残澄を分級 することによる気孔径制御、 有機気孔形成材を添加することによる気孔率の制御についても基 礎的な検討を行った。 表3-1 結合助材に用いた材料の化学分析値(単位: wt%) 強熱減量 2・2 Si02 Al203 Fe203 Ti02 CaO MgO Na20 K20 珪灰石粕 4.58 68.99 1l.63 0.14 0.03 8.40 0.02 2.25 2.88 ベントナイト 6.23 6l.50 2.10 0.16 0.50 3.26 3.83 0.09 2l.40 実験方法 粗粒石英残澄を原料とした多 孔質シリカの作製 プロセスを図 結合助材 3・4に示す。 まず粗粒石英残澄 炭酸カノレシウム を53μm の節で分級し、 20""' ベントナイト 53μmと53""'120μmの2つに 珪灰石紬 気孔形成材 結晶セノレロース 6wt% lO'"'-'25wt% 分離した。 次に石英残澄に炭酸 カルシウム、 珪灰石利、 ベント a pa M 「hu 唱lム ナイトの3種類の助材を原料粉 プレス成形 末に対して6wt%加え、 乾式で 振とう混合し、 直径6cmφの金 I 型で15Ma P の圧力でプレス成 1300'"'-' 15000C てJ 形した。 焼成は大気中で 1300 多孔質シリカ ""'15000Cの範囲で、行い、 得られ たサンプルについて水銀圧入法 で細孔分布を調べるとともに 送13・4 粗粒石英残澄を原料とした多孔質シリカの 製造プロセス SEMによる多孔体の組織観察 27 J・・』 第3章組粒石英残澄を用いた多孔質シリカの創製 を行った。 またサンプルを5X5X50 mmの柱状に切り出し、3点曲げ法による強度測定を行っ た。 有機気孔形成材としては粒径約15μmの結晶セルロース粉末を10'"'-'25wt%添加して 、 気 孔特性 に及ぼす影響を調べた。 2-3 結果と考察 ( 1)原料の分級による気孔特性の制御 は分離していないが 、 中心粒径が33.2μ mと58.4μmのシャープな分布を もっ粉 ゆ 目 100 3-5 に示す。 53μm 以上と以下に完全に 80 活ミ 間 60 40 末が得られた。 これらの原料粉末を用い 20 炭酸 カ ル シ ウ ム を 結 合助材 と し た 。 13000C焼成体の気孔分布曲線を図3-6 に • 10 53μm の粒子を原料としたサンプルは分 100 1000 粒径(μm) 示す。 いずれも非常にシャープな気孔分 布を有していることがわかる。 特に20'"'-' ナ 級した粗粒石英残澄の粒度分布曲線を図 m m μ μ 120 上 下 以 以 円、U 円ぺU FhU 「「U -a 20'"'-'53μm、 および53'"'-'100μmに分 図3-5 分級した粗粒石英残澄の粒度分布 布がシャープであった。 それぞれの中心 粒径と気孔直径の関係は33.2μmのとき 17.4μm、 58.4μmのとき29.6μmと 、 原料粒子の中心粒子径の約半分程度の気 孔径を有する多孔質シリカが得られた。 このように 、 原料粉体を分級することで ある程度気孔径を変化させることが可能 である。 すなわち原料の粒度分布が20'"'-' 120μm の範囲にあるので 、 この範囲内 での気孔径のコントロールが可能である。 図3-6 20'"'-'53μmの石英残澄を原料とし、 炭 異なる粒径の粗粒石英残澄か ら 作製した多孔質シリカ(13000C焼成体) の気孔分布曲線 酸カルシウムを結合材に用い て 13000C で焼成して得られたサンプルのSEM写 28 第3章粗粒石英残澄を用いた多孔質シリカの創製 真を関3-7に示す。 骨材となる粗粒石英 粒子がガラス質の結合部分で結合して いる保子が観察される。このサンプルの 気孔直径は17.4μm、 気孔率は 46.0% である。このサンプルの粒子内部の元素 の分布をEDXによって調べた結果を図 3・8に示す。 骨材粒子の中心部に近い部 位(PointA)にはほとんどSiしか検出 されないのに対し、粒子同士の結合部分 図3-7 (Point B) ではSiととも にAlおよび した多孔質シリカ Caが存在していることがわかる。 いず 53μm 以下の粗粒石英残澄から作製 (焼成温度:13000C、 結合助材: CaCÛ3) れの部位にもAuが検出されているのは 図38 ・ 粗粒石英残澄から合成した多孔質シリカの粒子内部の元素の分布 観察のためにAuを蒸着したことによる。 以上のように、 図3-3のモデルで示すような結合部 分が骨材粒子聞に存在していることが確認できる。 骨材粒子部分とガラス相部分の境がほとん ど観察されないのは、 骨材粒子がガラス相に熔化しているからであると思われる。 文13-9に示すX線回折の結果 から、石英粒子は焼成温度が高くなるにつれクリストパライト に変化し、 15000Cではクリストパライトの単一相となっていることがわかる。1300'"'"'1500C 0 の温度範聞では石英とクリストパライト以外の結晶相は観察されないので、粒子間の結合部分 29 -.-・ー . 第3章粗粒石英残澄を用いた多孔質シリカの創製 -hl イ 一 フ 守 、 / 曹hl 英以 石列 0・ 14000 • 12000 ハU ハU ハU ハU 噌a aA ( ω 3) 凶器感情 × • 15000C 8000 6000 JL I 13000C 4000 2000 。 ハU 1i ハU 粗粒石英残澄 20 30 2 送J 3-9 B /0 40 (Cu-K α) 粗粒石英残澄および粗粒石英残澄を原料として作製した多孔質シリカの X線回折パターン(結合助材: CaC03) には他の結晶相は存在せずガラス相であると判断できる。 しかしながら石英およびクリストパ ライトのピーク強度と比較し、ガラス相の存在を示すブロードな山はほとんど確認できないの で、 ガラス相は骨材粒子のごく表面に存在し、 体積分率は小さいといえる。 (2)結合助材の違いによる特性の変化 20'""53μmの粒径の粗粒石英を原料にし、 異なる結合助材を用いて作製したシリカ多孔体 の気孔径および気孔率の焼成温度による変化を図3-10、 3-11 に示す。 いずれのサンプルにお いても焼成温度の上昇に伴い気孔率はやや低下しているが気孔径が大きくなっていることが わかる。 焼結法で多孔質セラミックスを製造する場合、 焼成温度の上昇に伴う気孔径の拡大は しばしば見られる現象である30)。 この理由としては、焼成温度が高くなるにしたがって粒子同 士の焼結が部分進行し、 そのために試料内部で比較的小さな気孔部分が消失し、 大きな隙聞が 拡張して気孔径が増大することが考えられる。 本実験の場合は粒 聞に存在するガラス相の溶 融が進行することにより、 粒子同士の結合が進み隙間の拡張が起こったと考えられる。 結合材 の中ではベントナイトを用いた場合が最も気孔径の変化が小さく、 炭酸カルシウムを用いた場 合の変化が最も大きい。 図3・12 に、 異なる結合材を用いたときの14000C焼成体の組織写真を 示す。 結合材の違いによる組織の きな差異はないが、 珪灰 30 来由や炭酸カルシウムを結合材と �・・』 r-- 第3章組粒石英残澄を用いた多孔質シリカの創製 して用いたときの焼成体ではガラス層 が偏析し骨材粒子の部分的な融着がみ 50 45 ,. 40 � 0、 -=- 0ニー---ðァ 6 られるのに対し、 ベントナイトを結合 材として用いた焼成体では部分的な融 時35 __J ト← �医30 - ロ . 25 20 1250 1300 ベントナイト 着は少なく、 多孔質組織が最も均一で 珪灰石紬 炭酸カノレシウム 1350 1400 1450 焼成温度(OC) 1500 骨材粒子の一つ一つがガラス質の結ム 1550 部分で、繋がっていることが観察される。 このように3種類の結合材で気孔組 図3-10粗粒石英残;査を原料とし、異なる結合材を 織に差が生じた理由としては次のこと 用いて作製した多孔質シリカの気孔率 が考えられる。 各結合材と粗粒石英残 澄の粒度分布を図3-13 に示すが、主原 24 22 (5 20 合 -.3 18 S lぽ = 16 _.ーや ー. 4・ n f,';8 � 料に用いた粗粒石英と各結合材の粒径 �・ の差は炭酸カルシウムが最も小さく、 • 次に珪灰石紬、 ベントナイトの順にな 14 - 口 12 10 1250 & 1300 ベントナイト 珪灰石紬 っている。 0.1μm以下の粒径まで測 炭酸カノレシウム 1400 1350 1450 焼成温度(OC) 1500 1550 定できなかったのでベントナイトの正 確な中心粒径は算出できないが、 少な 図3-11粗粒石英残j査を原料とし、異なる結合材を 用いて作製した多孔質シリカの気孔径 くとも粗粒石英残澄の100分の1以下 の粒径である。 さらにベントナイトは 粘土鉱物に特有な層状の結品構造が特 図3・12 結合材 粗粒石英残澄を原料とし13000Cで焼成して作製した多孔質シリカの組織7穴 A:炭酸カルシウム B:珪灰石粕 C:べントナイト 31 F句白F 第3章粗粒石英残,査を用いた多孔質シリ力の創製 徴であるため、 図3-14の模式 図に示すように成形時、骨材 100 英粒子の周囲に張り付いた状 80 態であると考えられる。 一方、 粒子の大きな炭酸カルシウム は成形体中で骨材粒子聞に分 散した状態で存在し ていると 考えられる。珪灰石利はその中 間の粒子径であるが、成形体中 での分散の状態は炭酸カルシ ヌ 咽| 1岡| 60 ___.ーベントナイト 40 --0ー珪灰石軸 -・-炭酸カノレシウム 20 一合一組粒石英残澄 。 0.1 10 1000 10000 粒子径(μm) ウムに近いと思われる。したが って、ベントナイトを結合材に 100 図3-13 粗粒石英残澄(53μm以下)と各結合材の 粒度分布 用いたサンプルでは石英粒子 表面一つ一つの表面でガラス 相が生成し粒子の表面同士が結合して多孔質組織が形成されるが、 珪灰石粕および、炭酸カルシ ウムを使用したときは成形体中に結合材の偏析部分が存在し、 焼成時に形成されるガラス相中 に付近の石英粒子が熔け込み、 骨材粒子の部分的な融着が起こるので空隙のサイズが大きく 粗粒石英残澄+ベントナイト 粗粒石英残澄+CaC03 苅3-14 成形体中における粗粒石英残澄と結合材の分布モデル 32 『岡田F .J1I・F 第3章粗粒石英残澄を用いた多孔質シリカの創製 なったと推察される。ガラス相の偏析は焼成温度が高いほど顕著になった。曲げ強度は|対3-15 に示すように焼成温度の上昇と共に増加しているが、 その値は14.4'"'"'22.2MPaの範囲であっ た。 これは一般的な陶磁器の強度と比較すると、 磁器の強度の約5 分の1から4 分の1で、 陶 器と同程度の強度である。結合材の中ではベントナイトを使用したサンプルが他の2つと比較 して最も高い強度を示した。 これは先に示した、 結合材の違いによる結合状態の差に起因する ものと考えられる。 (3)気孔形成材の効果 20'"'"'53μmに分級した石英残澄に炭酸カ 25 ルシウムを結合材として加え 13000Cで作 20 6 ι 製したシリカ多孔体の気孔特性に及ぼすセ �__; � 三15 制 ルロース粉末の添加の影響を図3-16 、 3-17 表 哩 に示す。 セルロース粉末は焼成の際に焼失 するので多孔質セラミックスの製造の際に .- -�_. . --� • ー 10 . ロ 5 . 。 �砂ず� 〆合 . f副 ベントナイト 珪灰石粕 炭酸カノレシウム 1250 1300 1350 1400 1450 1500 1550 焼成温度(OC) 気孔率の増加を目的として用いられること がある。 セルロース無添加の焼成体では気 図 3 - 15 粗 粒 石 英 残 j査を原料とし異な 孔率は46%であるが、 セルロース添加に伴 る結合材を用いて作 製 し た 多 孔質シリカの い気孔率は上昇し、 25wt%添加した場合に 曲げ強度 は約60%となった。 また同時に気孔直径も 大きくなっている。 一方、 曲げ強度はセル 70 40 __ nU Fhu ポ) 時 」内販 60 � . . 百=1 30 ..- H正 日目t F 40 30 砂. •• 一__ . 20 10 o 10 20 セルロース添加率(wt.%) 30 o 10 20 セルロース添加率(wt.%) 30 図3-16粗粒石英残j査から作製した多孔質 円13-17粗粒石英残澄から作製した多孔質 シリカの気孔率に及ぼす気孔形成材の影響 シリカの気孔径に及ぼす気孔形成材の影響 33 マ『ーー← �ー 第3章粗粒石英残漬を用いた多孔質シリカの創製 ロース添加量が増えると小さくなり、 図3-18に示されるように25wt%のセルロース添加では 無添加の場合の約3分の1の値となった。 セルロースを25wt%添加したサンプルで焼成温度 を変化させたときの各物性を図31 - 9'""3-21に示す。 焼成温度を15000Cまで上げることで強度 は5.0から11.2MPaまで増加した。一方1300'"" 15000C の温度範囲では気孔率はほとんど変化 せず、 焼成に伴うサンプルの収縮はほとんどみられなかった。 気孔率を維持したまま強度が上 昇した理由としては、 粒子同士を結合するガラス相への石英粒子の熔化が進行し 、 粒子の 結合 が強化されたためと考え られる。 焼成温度の上昇に伴い気孔径は29.12μm から35.39μmま で増加した。 16 12 四本 哩 12 10 -. 日6 • 4 10 • • / • • 2 2 。 • n6 phvA吐 三 03 d ( ♂ 豆) Mm想世 間祖 14 。 10 20 セルロース添加率(wt. %) 0 1250 30 1350 1450 1550 焼成温度(OC) 図3-18多孔質シリカの曲げ強度に及ぼす 図3-19多孔質シリカ の曲げ強度の焼成 気孔形成材の影響 温度変化(気孔形成材を25wt%添加) 80 40 35 70 さ 髄 � ぽ 60 I ←一。- ・- -. E ・ ::l. 早」 ト理世主ト 50 1250 25 I .- • • • • --- 20 15 10 40 30 30 5 1350 1450 。 1250 1550 1350 1450 1550 焼成温度(OC) 焼成温度(OC) 図3-20多孔質シリカの気孔率の焼成温 図3-21多孔質シリカの気孔径の焼成温 度変化(気孔形成材を25wt%添加) 度変化(気孔形成材を25wt%添加) 34 可『・F � 第3章粗粒石英残澄を用いた多孔質シリ力の創製 2・4 本節のまとめ 廃棄物としてはまれなほと、粒子径分布の揃った粗粒石英残澄は、 焼結法で多孔質セラミック スを合成するにはまたとない材料である。本節では20'"120μmの粒径分布をもっ粗粒石英残 澄を骨材とし、 炭酸カルシウム、 珪灰石利、 ベントナイトの3種類の結合材を用いてプレス成 形により多孔質シリカを作製して特性を調べ、 次の結果を得た。 (1)粗粒石英粒子を20"'53μm、 53'"120μmの2つに分級し、 それぞれを原料として作製 した多孔質シリカの気孔径の違いを調べた。 分級したそれぞれのサンプルで作製した多孔質シ リカの気孔直径は、 原料粒子の中心粒径の約50%程度となった。 (2)3種類の結合材の中ではベントナイトを用いたときが最も 骨材粒子同士の結合組織が均 ーになり、 珪灰石利、 炭酸カルシウムを用いた系ではガラス相の偏析により骨材粒子同士が部 分的に融着している様子が観察された。 いずれのサンプルでも焼成温度の上昇とともに、 気孔 率は低下し気孔直径は大きくなったが、 特に炭酸カルシウム系で、気孔直径の増加が大きかった。 (3)結晶セルロース粉末を気孔形成材として添加することにより、 多孔質シリカの気孔率は 46%から60%まで上昇した。 一方向時に曲げ強度は低下し、 25wt%のセルロース添加では無 添加のときの約3 分の1 の値となった。焼成温度を上げると気孔率をほとんど低下させずに強 度は改善されることが確認された。 第3節 3-1 押出し成形法による多孔質シリカの作製と特性 序 前節では粗粒石英残澄を用い、 プレス成形法で多孔質シリカを作製して基礎的な特性を調べ た。 プレス成形法は板状サンプルの成形には適しているが、 各種フィルターや担体として多孔 質セラミックスを利用する場合、 パイプ状やぺレット状など様々な形状に多孔体を成形する必 要がある。 本節では、 円筒状やぺレット状の成形体を得るために、 押出し成形法を用いて粗粒 石英残澄から多孔質シリカの作製を行った。 3-2 実験方法 本節では分級していない粗粒石英残澄を原料として用いた。 多孔質シリカの製造プロセスを 図3-22 に示す。 粗粒石英残澄は可塑性が全くないので、 ファインセラミックスの成形同様、 有機パインダーが必要である。バインダーにはメチルセルロース系のセランダーYB-113C (ユ 35 『陣日F 第3章組粒石英残澄を用いた多孔質シリ力の創製 ケン工業製 )を、 結 合材には ベントナイトを用いた。原料 及び添加材の 調合割合を表 結合助材 l{.1'./,y� 粗粒石英残澄 ベントナイト 3・2 に示す。ベントナイトの 3wt% 5r-..-lOwt% 割合は一定にし、 パインダー の割合を変化させた。バイン J田 A f=口 ダーは 焼成時に消失する の 混練 す。バインダー量の 変化にと J 形 一V蹴ナ守 成一 し 下 出 一 押一 で、気孔形成材の役割も果 た もない、 水の割合 も 変化させ た。まず表3・2の 原料をバッ チ式 の専用ミキサーで混合 し、 混練機で杯土を調製した。 11ルl肌 多孔質、ンリカ 次に直径 10 mmの 口金を取 り付けた2段式押出し成形機 で50kg/cm2の押出し圧でロ 図3・22 粗粒石英残澄を原料とした多孔質シリカの 作製プロセス(押出し成形法 ) ッド状の成形体を作成した。 成形体を5""' 6mmの長さに 表3-2 杯土の配合割合(粗粒石英残澄 100に対して) 切断し、室温で乾燥後、1300 調合l 調合2 調合3 ""'14500Cの各温度で 2 時間 バインダー 5 8 10 焼成した。パインダーの脱脂 ベントナイト 3 3 3 水 20 30 38 条件 は5000Cで3時間とした。 各条件で作製した多孔質シ リカについて、 水銀圧入法で 多孔 体の細孔特性を調べるとと もに 、 SEMで組 、 織観察を行った。 また口金の形状を変えるこ とによって、 異なる形状の 多孔質シリカを作製した。 3-3 結果と考察 それぞれの調合条件で1300""'14500Cで焼成したシリカ質多孔体の気孔率 変化を凶3・23に 、 気孔径変化を図3-24 に示す。いずれのサンフルにおいても 焼成温度が高くなると気孔率は低 36 r-- ,・ー- 第3章組粒石英残澄を用いた多孔質シリ力の創製 60 50 "::' 40 三手 30 J -時 卜+ �民20 10 I 。 1250 35 --...._ ト亡寸と 、 30 (E 25 1 :t 20 ご以ド3剖紙 1 5 一+ー調合l -0-ー調合2 F 10 ー令ー調合1 5 一合一調合3 一合一調合3 1300 1350 1400 1450 。 1250 1500 焼成温度(OC) --0ー調合2 1300 1350 1400 焼成温度(OC) 1450 1500 図3-23押出し成形で作製したシリカ多孔体 図 3-24押出し成形で作製したシリカ多孔体 の気孔率と焼成温度の関係 の気孔径と焼成温度の関係 下し、 気孔径は大きくなる傾向が見られた。 この結果はプレス成形で作成した多孔体の焼成温 度と気孔特性の関係と同じ傾向を示したが、 押出し成形で作製したサンプルの方が焼成温度の 上昇にともなう気孔径の変化が大きくなる傾向があった。 調合1、 2、 3とバインダーの配合 割合が増えると焼成時に焼失する体積が増すために、 気孔率、 気孔径ともに大きくなった。 サ ンプルの気孔分布曲線は図3-25に見られるように非常にシャープであることが確認された。 、 • -av • 、• 1i nu nu -aA ハu nU Aせ「ひ円JRU円ノ臼Fhu--Runu nU ペ u n ノ 白ハ l A , ,ハ ‘ H U , . ハ け U 円 U ハ バ U 1 ・ハ U ハU nu nu nU ( ∞\円 Eυ) 梗 駒 」仲版 句、ω・・ ・"“ 0.1 1 気孔直径(μm) 10 • ー金4・ 図3-25調合3で作製したシリカ多孔体の気孔分布(l3000C焼成) 37 司r- 第3章組粒石英残澄を用いた多孔質シリカの創製 表3・2の調合3で作製した多孔 0 焼成体)の内部組織 1 00C 体(3 を図3-26に示す。 プレス成形の 場合と同様、 骨材粒子同士がガ ラス質の結合部分で結合し、 多 孔質組織を形成していることが 観察された。 押出し成形機の口金を変える ことで、 図3・27に示すようにパ 図3-26調合3の条件で作製したシリカ多孔体 イプ状、 ぺレット状など、 様々 (l3000C焼成体) な形状のサンプルを作製するこ とができた。 本節のまとめ 34 本節では粗粒石英残澄を用い て、 押出し成形法で多孔質シリ カを作製し、 気孔特性を調べた。 プレス成形での結果と同様、 ,@ 材粒子同士がガラス質の結合相 で結合し、 シャープな気孔分布 を持つ多孔質シリカが得られた。 図3-27粗粒石英残j査を押出し成形した各種 形状の多孔質シリカ 焼成温度が高くなると気孔率は 低下し、 気孔径は大きくなった。 また、 バインダーの添加量が増えると気孔径・気孔率とも に大きくなった。 第4節 本章のまとめ 多くの窯業産地で、 陶磁器屑などを原料として安価な多孔質セラミックス製造の試みがなさ れている66�68)。本章では、天草陶石から陶土を精製するときに排出される、原鉱の約15�20% 程度にあたる粗粒の石英残澄を原料として、 多孔質シリカの創製を行った。 粗粒石英残澄は粒 径が均一であり、 多孔質セラミックスの原料としては非常に優れたものといえる。 得られた結 38 ‘守- 第3章組粒石英残澄を用いた多孔質シリ力の創製 果を以下に示す。 (1)粗粒石英残澄に結合助剤を加え、 焼成時に骨材粒子同士の聞にガ、ラス質の結合相を形成 させることによって、 陶磁器と同程度の焼成温度で約15""'30μmの気孔直径を有し気孔径分 布のシャープな多孔質シリカを作製することができた。曲げ強度は14.4""'22.2MPaであった。 (2)得られた多孔質シリカの気孔直径は、 各種担体、 ガスろ過、 散気盤など、 様々な分野に 応用可能な気孔サイズである。 気孔径は、 原料粒子の分級により粒径分布の範囲内である程度 コントロールできる。 また気孔形成材の添加により気孔率を増加させることができたが、 強度 の低下を招くので注意が必要である。 39 司守ーー 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 第4章 第1節 緒言 アパタイトとは、 MlO (Z04)6X2の組成を持つ化合物の総称である。Mの位置にはCa2+、Cd2+、 Zn2+、 Ba2+などの陽イオンが、 た X の位置には OH一、 Cl-、 Z04の位置には P043一、 C03 2一、 Cr043ーなどの陰イオンが、 ま Fーなどの陰イオンが入り得るのでその組合せにより理論上数多 くのアパタイト化合物が存在する 69,70)。しかしながら天然に存在するアパタイト化合物の種類 は少ない。 そのうちのひとつが骨や歯の構成物質として知られているカルシウム水酸アパタイ [ a10 (P04)6 (0H)2]である。 MlO (Z04)6X2の構造式をもっアパタイト化合物の中で、 最も一般 トC 的な CalO (P04)6 (OH)z のことを狭い意味でアパタイトと呼ぶことが多い。 本論文においては CalO (P04)6 (OH)zを「水酸アパタイト」と表記する。 水酸アパタイトは、 生体親和性はもとより重金属イオンに対するイオン交換能 71)や蛋白質 の吸着作用72,7 3) など様々な特性を持っていることが知られている。 中でも骨充填材や人工歯 根など図4-1に見られるような医療用の材料としての実用化が進んでいる74�78) 。 またタンパ ク質吸着能を利用し、 クロマトグラフィー担体としての実用化も行われている79)。 最近では水 酸アパタイトの有機物吸着能と酸化チタンの光触媒作用を複合した環境浄化材料も開発され るなど、 今後もさまざまな分野での利用法が期待されている。 水酸アパタイトには様々な合成法がある。 Ca2+、 及び水熱処理法8 48� 7)などの湿式合成法が最も CaHP04、 Ca3 (P04)z等からの加水分解法8 3)、 一般的である。 工業的には、 P043ー を含む溶液からの沈殿法 80 �82)、 例えば宇部マテリアルズで、 純粋なCa (N 03)2 と (NH4) 3P04を原 料にし、時間をかけて高純度の水酸アパタイト微結品が生産されている88)。 しかしこれらの多 くは水酸アパタイトを粉末合成する方法であ り、 実際に成形体として使用するためには目的 の形状に合わせて成形・焼成の工程が必要であ る8 9守90)。 一方、 水酸アパタイト成形体の直接 \) <T 合成法としてα-TCP の水和硬化による水酸 アパタイトのバルク体合成法も報告されてい る91,92)が、 強度が小さいため薬剤の徐放剤な 3 。 ど一部の分野で使用されているにすぎない 9) 近年では、 京都大学の小久保らにより、擬似体 40 図4-1 生体材料として商品化されている 水酸アパタイト 司r- S固- 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 液にガラスや金属などの母材をを浸潰し、 体液と同じ温度で数日間保持し、母材上に水酸アパ タイトの膜を生成する方法が報告され94,95)、 多くの研究者がこれに倣っている96�98)。 また牛 骨・魚、鱗・魚骨なと、の生体起源の水酸アパタイトを出発原料とし、 洗浄・酵素処理・焼成工程 を経て有機質部分を取り除き天然アパタイトを製造する研究 99�101)、貝殻なと、の水産加工業に おける炭酸カルシウム質廃棄物や、水の硬度を下げる軟水化装置から生成する球状カルサイト のような産業廃棄物から水酸アパタイトを合成するなどの試みも最近では盛んになってきて いる102,103)。 本章では石膏が難溶性カルシウム塩であることに着目し、石膏廃棄物の水酸アパタイトへの 転化を試みた。 従来のアパタイト合成法の多くは可溶性のカルシウム塩を原料としており、こ れまで難溶性塩である石膏が水酸アパタイトを合成する原料に用いられたことはほとんどな い。 しかしながら石膏の多孔質構造を生かし、 多孔質の水酸アパタイトを直接合成する原料と して有効利用できる可能性がある。 水酸アパタイト応用分野のひとつとして、 重金属イオンや ハロゲンイオンとの交換反応に着目した水質浄化への利用法が研究されているが、研究室レベ ルでは成果が得られているもののコスト面からまだ実用化には至っていない。 廃石膏から多孔 質の水酸アパタイトが安価に合成できれば、大量に資材を必要とする水処理のような分野での 利用価値は非常に大きい。 本章ではカルシウム源に廃石膏を、リン源にリン酸水素二アンモニ ウムを用いて水熱処理法により水酸アパタイト多孔体を合成し、その基礎的な特性を解析した。 また近年、省エネルギープロセスとして注目されているマイクロ波水熱処理104.105)を用い、通 常の水熱処理と比較して石膏のアパタイト化速度がどのように変化するかを検討した。 第2節 2-1 石膏廃棄物を原料とした水酸アパタイト多孔体の合成 序 陶磁器用型材として使用された石膏の廃棄物は図2-15に示すように針状または板状結晶の 集合体からなる多孔質構造を特徴とする。 廃石膏を直接アパタイト化することにより、多孔質 構造をそのまま生かした水酸アパタイト多孔体が合成可能である。しかしながら第2章で示し たように廃石膏には使用目的によって様々な種類があり、その気孔特性も様々である。 したが って廃石膏から直接水酸アパタイト多孔体を合成する場合には、石膏のもつ特性が合成したサ ンプルの性状に影響を及ぼすことを考慮しなければならない。 本節では、多孔質の石膏廃棄物 を用いて種々の反応条件のもと水酸アパタイト多孔体を合成し、反応条件や原料石膏の気孔特 41 司ro- a固・h 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 性が石膏のアパタイト化速度および得られた水酸アパタイト多孔体の特性にどのような影響 を及ぼすかを検討した。 2- 2 実験方法 石膏廃棄物を原料とした水酸アパタイト多孔体の合成プロセスを図4- 2に示す。 本実験で使 用した石膏は表41 - に示す 4種類である。 概ね気孔径が1.5'""3μm、 気孔率が 25'"" 60%の範 囲にある。 ただし、 廃石膏は陶磁器の成形に使用 されたものであり、 成形面に粘土泥しょうが 僅かに付着している可能性がある。 そこ でこれらの影響をなくす ため、 成形面と なった表層部 分はあらかじめ取り除いた。 リン源には 、和光純薬製リン酸水素二アンモニウム[(NH4)2HP04] を用いた。 まず、 5X 10X20mmのブロック状または10X 10X 1mmの板状に調製した石膏と 0.2'""1.0Mの(NHJzHP04水溶液50cm3を、 テフロンで内張りされた 図43 - のようなステンレ ス製水熱処理容器に入れ、 50'""1000Cに保った乾燥器内で1'""15日間静置した。 廃石膏片(CaS04・2H20) (NH4)2HP04 0.2"'-' 1.0M 気孔径1.97 "'-'2.68μm 気孔率26.94"'-'60.00% 図4-2廃石膏を原料とした水酸アパタイト 多孔体の合成プロセス 図4-3実験に使用した水熱 処理容器(テフロン内張り) 表4-1 実験に使用した廃石膏の気孔特性 石膏2 気孔率(0/0) 60.00 57.97 気孔直径(μm) 2.40 2.26 42 円 台 U Fヘ リ 7 1 清 一ω 川 4 4 5 4 勺 石膏1 石膏4 26.94 2.68 ""T・F 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 石膏から水酸アパタイトへの反応は次式で表される。 10CaSO'1・2H2 0 + 6(NH.J2HP04 → CalO(P04)G( OH )z + 6(NH4)zS04 + 4H2S04 + 18H20・ー [1] 水酸アパタイトの理論CaIPモル比が1.67であるから、 石膏が100%水酸アパタイト化するに . 7 に相当するだ、けの(NH4)2HP04 が溶液内に存在すればよい。 しかし、 は計算上は CalP=16 Ca/P 理論比で石膏と(NHJ2HP04 を調合した場合、 反応が進むにしたがって液中の P043ーが 消費されてP043-濃度が希薄になり、水酸アパタイト形成のための十分なP043ーの供給が困難 になる。 石膏と(NHJ2HP04との反応は固体-液体反応なので、 この場合石膏から水酸アパタ イトへ100%転化するのに著しく時間を費やすことが予測される。 上記反応系内で実際に使用 ) HP04 量は理論調合量の約7倍程度であるが、 これは以上の理由による反応速度 した (NH4z の低下を防ぐためである。 また大過剰の(NH4)2HP04 を使用することによって、反応にともな って生成する硫酸がpH を低下させるのを抑えることもできる。 水熱処理後、 サンプルは十分 に水洗し、 石膏が残存していたとしても分解しない 500C以下で乾燥を行った。 水酸アパタイ ト化の同定はX線回折で行い、石膏の水酸アパタイト化速度に及ぼす反応温度、原料石膏の安 孔特性、 (NH.J2HP04濃度の影響を調べた。 得られた水酸アパタイトの組織観察は SEMで行 い、 結晶形態の変化を調べた。 水銀ポロシメータで水酸アパタイト多孔体の気孔特性を、 BET 法で比表面積を調べた。 また、 ICP発光分析法によりCa/P比を算出した。 2-3 結果と考察 (1 ) 石膏のアパタイト化速度に及ぼす反応温度の影響 ) HP04 図4-4 に、5X10X20 mmの石膏片(気孔率:60%、気孔径: 2.4μm)を 0.5Mの(NH4z 50cm3中1000Cで1""'3日間水熱処理したサンプル、 及び処理前の石膏のX線回折図を示す。 水熱処理後のピークはすべて水酸アパタイトに帰属された。 この反応条件では石膏に由来する ピークは 2日間で消失し、 ブロックの内部まで水酸アパタイト単一相となった。 石膏から水酸 アパタイトへ転換することによる試料サイズ等外観上の変化はなく、原料に用いた石膏の形状 及びサイズがそのまま生成物である水酸アパタイトでも保持された。 また溶液内には白い沈殿 物も生成していたが、 同じくX線回折により水酸アパタイトであることが同定された。 合成し た水酸アパタイトのCalPモル比は、 いずれのサンプルにおいても1.60'""1.62 の範囲にあり、 43 守守-- a・匝ー 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 5000 4500 4000 0 令に」 Q 350 3000 2500 〈 2000 同 〉R 1業 1500 1000 500 に�� 石膏 I 1日 」一一一)l_;叫ザ ; 2日 。 10 15 20 35 30 25 2 e /0 (Cu-K α) 45 40 50 図4-4石膏片(気孔率60%、気孔径2.4μm)を0.5Mの(NH4)2HP04中で1000Cにて 水熱処理したときのX線回折ノξターンの変化 非化学量論組成の水酸アパタイトであることがわかった。 石膏から水酸アパタイトへの転化時間に及ぼす反応温度の影響を、 X線回折における石膏と 水酸アパタイトの最強ピーク(石膏[IGyp] :2 e =11.620 、hkl=020 、 水酸アパタイト[IHAp] : 2 e =31.770 、 hkl=211)の強度比から算出し図4・5 に示す。 X線強度比は必ずしも石膏と水 酸アパタイトの組成比を表す ものではないが、 本研究では便宜的に転化率の目安とした。 水酸 アパタイト化はサンフル片の外側から 進行し最終的には中心部分にまで達す る。 図4-6 は、 1000Cでの反応1日目の サンプル内部のSEM写真である。写穴 右側はサンプルの中心に近い部分で石 膏の針状結晶がそのまま残存している が、 写真左側のサンプル表面に近い部 分では結晶の状態が変化し、 水酸アパ タイト化が進行している様子が観察さ 0.9 0.8 � 0.7 工 τ0.6 且 6 0.5 そ0.4 Q 主 0.3 0.2 0.1 0 1/. .500C ・750C .1000C 。 れる。 石膏が完全に水酸アパタイト化 5 10 15 反応時間(日) 20 するのに1000Cの場合は2 日間要した が、 750Cでは約1週間、 500Cでは約2 週間を要することがわかった。 図4-5石膏片(気孔率60%)、気孔径2.4μm) の0.5Mの(NH4)2HP04中で、の水酸アパタイトイヒ 速度に及ぼす水熱処理温度の影響 44 � -・ー-ー 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 図4-6石膏片を0.5Mの(NH4) H 2 P04中で1000Cにて1日水熱処理したサンプル内部のSEM写真 (2)水酸アパタイトの生成機構と結晶形態 民�4・7は500C、 1000Cで合成した水酸アパタイトのX線回折パターンである。 通常、 生体内 の骨や歯の象牙質に含まれるアパタイトは0.2μm以下の微細な結品で、 図4・8に示すように X線回折図は31 ""'34。 付近の4本の回折ピークがブロードな一本のピークとして観測される 106)。 唯一エナメル質のアパタイトだけが例外で結品性が高く、 配向性が強いため300面のピ ーク強度が大きい。石膏から水熱処理で、合成した水酸アパタイトは、 いずれの温度条件でも31 ""'34 0 の回折ピークが分離し、 生体内の水酸アパタイトより結品性が高いことがわかる。 特に 1400 1200 (υ m EL1000 ) 800 〈9事H 性君4〉国 400 200 500C 。 10 20 30 40 50 2 e /0 (Cu-K α) 図4-7石膏片(気孔率600/0、気孔径2.4μm)を0.5Mの(NH�)2HP04中で 500Cおよび1000Cにて水熱処理して合成した水酸アパタイトのX線回折パターン 45 �ーー -・ 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 1000Cで合成したサンプルの場合は500Cのものよりピークがはっきりと分離し、 水酸アパタイ トの結品が成長している。 刈4・9に未処理の石膏片、 500Cで15日間、 及び1000Cで3日間水熱処理して合成した水酸 アパタイト多孔体のSEM写真を示す。 500Cで合成したサンプルでは反応前の石膏の結品形状 が保持され、 非常に微細な水酸アパタイト結品が生成している。 ただし図4・8のX線回折から わかるように、 石膏の粒子形状は残っている が結晶相としては完全に水酸アパタイトに転 化している。1000Cの水熱処理では石膏に由来 する結晶形態は消失し、 水酸アパタイトの針 状結晶が放射状に伸びた組織が観察された。 この結品サイズの違いは X線回折図から示唆 される結果と一致している。 生体内で生成する水酸アパタイトには様々 な生成機構があるが、 多くの場合前駆体を経 由するといわれており、 その中でも8リン酸 カルシウム[Ca8H2(P04)6・5H20]を経由して生 成する水酸アパタイトはよく知られている96)。 象牙質 --.Jv人一一 エナメル質 ーム人んよ 月、 同 2 e r (CuKα) 図4-9 (A)石膏片および石膏片(気孔率600/0 気孔径2.4μm)を0.5Mの(NH'I)2HP04中で (B)500Cおよび(C)lOOOCにて水熱処理して合成 図4-8生体組織中に存在する水酸 アパタイトのX線回折ノξターン した水酸アパタイトの組織写真 46 a・・・b 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 合成水酸アパタイトにおいても、 反応条件によっては同様に8リン酸カルシウムを経由する場 合がある。 このようにして生成した水酸アパタイトは、 8リン酸カルシウムの結品形態を保持 し、 板状に成長することが多い。 一方、 本実験において合成された水酸アパタイトは針状に伸 びた結品形態を示し、 水酸アパタイトの結晶系である六方品系から生成されやすい品癖である 柱状を基本としている。 このことから、本研究で廃石膏から合成された水酸アパタイトの場合、 前駆体を経由することなく直接水酸アパタイト核が形成されたと推察される。 本実験系での、 石膏から水酸アパタイト多孔体への転化機構は次のように考えられる。 50'"'"' 1000Cの温度範囲では水に対する石膏の溶解度は図4-10 のように0.16'"'"'0.21%である54)。 水 酸アパタイトは、 リン酸カルシウム系化合物の中では溶解度が最も小さく、 溶解度積は10-110 -120のオーダーである10)7 。 したがって水熱処理容器内で、は、 石膏表面から僅かに溶け出した Ca2+が溶液中のP043-、 及びOHーとともに[1]式にしたがって水酸アパタイトの結晶核を形成 して石膏表面に吸着し、 水酸アパタイトの微結品が石膏の棒状結晶の表面に生成する。 溶液中 のCa2+が水酸アパタイト生成のために消費されると、 さらに石膏からCa2+が溶け出し、 水酸 アパタイト結晶の生成と成長が進行する。 そして最終的に石膏の結晶相は完全に消失し、 水酸 アパタイトへの転化が完了する。 水酸アパタイト結晶核のうち一部は石膏表面に吸着せず、 反 4 S04は可溶性の塩なので、 反 応溶液中で結品が成長し沈殿物となった。 なお副生成物の(NHh 応終了後も溶液中に存在する。 実験を行った50'"'"'1000Cの温度範囲では石膏の溶解度の差はほとんどないので、Ca2+の溶出 量の差が水酸アパタイト化速度の差の原因とは考えにくい。 反応温度の上昇に伴い、 溶液中の 各イオンからの水酸アパタイト核の生成と 縮されたと推察される。 また 500Cでは核生 ( 渓 ).0∞符ハ) 成が優先的に進行するため、石膏の針状粒子 の表面に微細な水酸アパタイトが生成した 粒子形状が残存しているが、1000Cでは核生 nRU可t cU Fhu必喧 nυ nu nυ nu nu 成長が促進され、水酸アパタイト化時間が短 0.3 0.2 成よりも結晶成長が支配的になるために、石 0.1 膏本来の形態は完全に消失して水酸アパタ イトの針状結品が発達したと考えられる。 水酸アパタイトの合成プロセスにおいて、 図4-10石膏の溶解度 反応系内の化学種の違いやpHなどの諸条 47 -・・ー 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 件 によってアパタイト以外のリン酸カルシウム系化合物 が副産物として生成することは よく 知られて いる。 例えば湿式法 や加水分解法での水酸アパタイトの 合成プロセスにお いて、 中性 よりアルカリ側の領域では水酸アパタイトが安定して生成する が、 pH が 酸性側に傾くとブル ツシャイト(CaHP0・2 4 H 2 0)やモネタイト(CaHP04) が生成することが報告されている108 109)。本研究での石膏と (NHJ2HP04を原料にした実験系では、生成物として水酸アパタイトの みを得ることができた。石膏から水酸アパタイトへの反応は[1]式で表され、水酸アパタイト 生成に伴って(NH 4 hS0 4 とH2S0 4 が生成する。(NH4hS04の水に対する 溶解度は 50""' 1000C の範囲では 45.76""'50.42wt%な のでほとんど溶解して おり中性を示す が、 H2S04 の生成によ りpHは 低下する。本実験の条件では反応前の(NH ) 4 2H0 P 4溶液のpHは約8. 0、反応後の最終 的な pH は約 7.5と弱アルカリから中性の領域で変化した。 本実験系では反応速度の 低下と H2S04の生成によるpH低下を防ぐため、 理論量の7倍過剰の(NH4hHP04を使用した。 結果 的にこ の条件では未反応の(NH4hHP04が大量に残存し、 反応に伴うpH低下は小さく 、 反応 終了時でもpH7 = 5 . であったため、 安定な水酸アパタイトを得ることができた。実用上、 でき るだけ理論比に近し)(NH ) 4 H 2 0 P 4の 使用量 で 水酸アパタイトを合成する には、 反応の進行とと も にNH3水などのアルカリ を加え、pHの 低下を防ぐ措置が必要になろう。 (3)水酸アパタイト多孔体の気孔特性 凋4・11は500C及び1000Cでの水熱処理による石膏から水酸アパタイトへの転化に伴う気孔 分布の 変化である。気孔直径2μm付近の 分布は 原料に用いた石膏 の気孔に由来するピークで 0.4 0.5 0.35 b � 0.3 m、、、c 02 5 LE J 梗偽 0.15 ぽ 0.1 b 0.4 、) 、E 、 0.3 n 7日 0.2 」F十 (b) 1000C 15日 02 3日 官 除F駆 lt 0. 05 。 0.01 10 0.1 0.1 。 100 0.01 気孔径(μm) 10 0.1 100 気孔径(μm) 図4-11石膏片(気孔率60010、気孔径2.4μm)を0.5Mの(NH'1)2HPO"中で、(a) 500Cおよび (b) 100oC'こて水熱処理したときの水酸アパタイト化に伴う気孔分布の変化 48 �・- - 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 ある。 水酸アパタイト化が進行するに従って石膏由来の気孔は減少し、 0.1�1. 0μmの広い範 0 では15日 囲に分布している水酸アパタイト多孔体由来のピークへと変化する。 反応温度50C 反応後も2μm付近の気孔が残存しているが、 図4・5で示したように結晶相はすべて水酸アパ タイトに変化している。 また、 1000Cの場合と比べて非常に広い範囲に気孔が分布しているこ 0 では2日で単一気孔を持つ水酸アパタイト多孔体が生成した。 とがわかる。 一方100C 水酸アパタイトに完全に転化した後の気孔率は 75� 78%と、 原料として用いた石膏の気孔 . 1g/cm3と3 .17 率60%より増加している。2水石膏と水酸アパタイトの結晶密度はそれぞれ23 g/cm3であるから、 2水石膏が100%水酸アパタイト化に転化すれば体積が27 %縮小すること になる。 しかしながら、 本実験では水熱処理前後で使用した石膏のサイズに変化は認められな かった。 したがって、 内部での空隙率が大きくなる。 すなわち60%の気孔率を持つ 2 水石膏 7 %の多孔体になる。 実際に得られたサ は、 水酸アパタイト化することで、 計算上は気孔率 1 ンプルでは計算値よりやや大きな気孔率を示した。 ] また、 2 水石膏の分子量=172.172、 水酸アパタイトの分子量=1004 . 78 であるから、[1式 7 . 2 に基いて2水石膏が100%水酸アパタイトに転化すればサンプル重量は1004 . 78---:- (1721 x10) 8%に減少する。 本実験で合成した水酸 8となり、 反応前と比べサンプル重量が 5 = 0.5 アパタイトの重量は、 いずれも反応前の石膏の 60%程度となり、 分子量の変化にほぼ見合っ た重量変化が観察された。 500C、 750C、1000Cで処理した試 50 料の BET比 表 面 積 の 変 化 を図 45 2に示す。 図4-5の結果と照合 4・1 40 0 では水酸ア すれば、 反応温度 50C E \2 \ 、..__; パタイト化に 2週間を要し、 アパ タイト化とともに比表面積が増加 しているが、 750C、1000Cの反応で は、 石膏が水酸アパタイトに完全 に転化した後は比表面積は減少し 35 30 海阻 25 制起 20 15 .500C • 10 5 。 750C 企1000C 。 5 10 15 20 反応時間(日) 0 では最 ていることがわかる。 50C 2 gまで増加 終的な比表面積は 45m/ したが反応温度が高いほど得られ 図4-12石膏片(気孔率60010、気孔径2.4μm)を0.5M の(NH�)2HPO�中で500C、750C、1000Cにて水熱処理し たときの水酸アパタイト化に伴う比表面積の変化 た試料の比表面積は小さくなった。 49 ?守- -ー一一一 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 この結果はSEMで観察された水酸アパタイト結晶の大きさの違い(図4・8)から予測される結果 と同じ傾向を示しており、反応温度が低い方が微細な結晶が生成し、高 比表面積の水酸アパタ イトが得られた。 (4)アパタイト化速度に及ぼす石膏の気孔特性の影響 異なる気孔特性をもった3種 類の廃石膏(表41 - の石膏 2----4 - ) を用い、5X10X2 0mmに切り出 処 パ 熱 ア 水 酸 間 水 日 ら ω か ~ - 膏 1 石 で U い 九 き 収 と た し 理 を 化 変 時 経 の 率 化 転 の ヘ ト イ タ て し 〈 工 6 0.. + 0.. 0.5 、 り よ 果 崎 江 こ 。 サ ひ リ 引 4 図 " 口 〈 工 に い 料 違 原 の も 性 て 特 つ 孔 あ 気 で の 度 膏 温 石 応 廃 反 る じ い 同 用 。 す 要 に 化 ト ィ げ / 断 k J り よ に 。 2 4 6 8 10 12 反応時間(日) わ が と こ る な 異 く し 著 が 間 時 る 水 に 全 完 で 日 は い じ れ 寄 芳 J る か 対 仁 の る い て し 化 H イ タ パ ア 酸 図4-13石膏をO.5Mの(NHIj)2HPOIj中で500C にて水熱処理したときの水酸アパタイトへの転化 時間に及ぼす石膏の気孔特性の影響 ・石膏3 �石膏4 て し レμ Faq-卜 ィ タ ゆ\ P/ ア カ し 加以 外 の 膏 石 れソ ま ど と % ハU 9“ 刈 J h 汀 # ψ 斗Ja 率 理 化 川 沿 ト 熱 Ml 水 ザ 間 行/ 日 む 日 同 t ν 引 引 4 後 膏 た 石 っ ー 行 し を ・石膏2 いない。 石膏 4は高圧鋳込み 用に使用された石膏で、気孔率が約27 %と他のサンプルに比べ て非常に小さいことが特徴である。 このように気孔率の小さな石膏では、10日間では水溶液中のP043一イオンが石膏内部まで 十分に拡散せず、完全に水酸アパタイト化することが困難であった。実際に陶磁器の製造現場 で排出されている使用済み石膏は、圧力鋳込用、排泥鋳込用、ローラーマシン 用、など種類に よって異なる気孔特性を有するため、水酸アパタイト化のために要する時間 もそれぞれ異なる ことに注意する必要がある。 (5 )石膏のアパタイト化速度に及ぼす(NH4hHP04濃度の影響 10X10X1mm の石膏片(気孔率: 555 . %、 気孔径: 1.65μm )を用いて(NH4)2HP04濃度 の違いによる水酸アパタイト化に要する時間の変化を調べた。(NHJ2HP04 濃度を0.2、 05 . 、 1. 0M として水熱処理を行った。 処理温度 50C 0 で1-----7日水熱処理したときの石膏 から水酸ア 50 ""!'T'干F a・・・h 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 パ タ イ ト へ の転化率 の変化 を図 ・ 4に示す。 この結果より、0.2'"'"' 41 2 P04濃度 1.0Mの範囲では(NH4)H .1.0M ・0.5M .0.2M 0.8 が高いほうが石膏のアパタイト化 。‘ が速いことがわかる。 一方、この石 膏片ではいずれの(NHJ2HP04濃 度条件においても1000Cでは1 で、完全に水酸アパタイト化した。 〈 . /. 5 06 且 〉、 Lコ ミ 0.4 〈 工 0.2 以上のように、難溶性のカルシウ 仏 カ p ル mア H ω ら M か 性 町内 吋 一 け 制 を 体 仕 多 ト に イ じ と 夕 げ こ て き 吋 る 打 、 す 酸 以 理 水 こ 処 ハ 町一 札 儲 わ 納 件 溺 条 M M の て 側 つ リ よ 慨 Y MA で 中 液 溶 水 日 付 廃 る ぁ で 塩 ム 。 。 6 4 2 8 反応時間(日) 図4-14石膏片(気孔率: 55.50/0、気孔径: l.65μm)を (NH4)2HP04中で500Cにて水熱処理したときの水酸ア パタイトへの転化時間に及ぼす(NHゐHP04濃度の 影響 イ タ P/ ア 酸 レ ム 『, / て つ よ 却 と 前 回 N 制 で 温 室 る す 漬 浸 を 膏 石 d 』 寸 コ 作 凶 日 期 長 の 上 以 口μ が m い J な に 川 線 て 同 っ U U 一市 川 撤 以 開 出 た ま トが生成することが確認された。原料として用いる石膏の気孔特性にはばらつきがあるものの、 水酸アパタイトの結晶形態や気孔特性は反応温度等の条件によってある程度コントロールで きるといえる。 2・4 本節のまとめ 本節では、石膏廃棄物をリン酸水素二アンモニウム溶液中で、水熱処理することによって水酸 アパタイト化を行い、 反応に要する時間、 生成したアパタイト多孔体の気孔特性を調べ、 以 の結果を得た。 リン酸水素二 ( 1)石膏から水酸アパタイトへの転化に要する時間は、原料石膏の気孔特性、 アンモニウム濃度、 および反応温度に影響されることが確認された。 (2)水酸アパタイトは針状結晶で、 反応温度が低いときは石膏の針状結晶の形状を保持しな がらその表面に水酸アパタイトの微結品が生成した組織となった。 一方、 反応温度が高くなる と水酸アパタイトの針状結晶が成長し、 放射状に伸びた組織形態となった。 (3)石膏から水酸アパタイトへ転化することにより、 多孔体の気孔率は大きくなった。 これ 51 a・・h 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 は石膏と水酸アパタイトの結晶密度の違いに由来する。 また気孔径分布は、 小さい万へシフト した。 (4)石膏から水酸アパタイトへの転化にともない比表面積は大きくなった。 しかし、 反応温 度が高い場合には、 結品成長が進行するとともに比表面積は小さくなった。 これはSEM観察 による結品サイズの違いとも一致している。 以上のように、 廃石膏を原料として水熱処理法によりバルク状の水酸アパタイト多孔体をー 接合成することができた。 実際に排出されている廃石膏は、 使用目的によってさまざまな気孔 特性を有するので、 水酸アパタイトに転換する場合には、 それぞれの石膏の気孔特性に適した 反応条件を見い出す必要がある。 第3節 3-1 石膏のアパタイト化に及ぼすマイクロ波照射の効果 序 マイクロ波による加熱法は、 一般的には電子レンジでよく知られている。 この加熱原理は、 分子内で分極している水分子が電磁波により回転または振動し、 摩擦熱で被加熱体内部から加 熱されることによる110)。近年、鉱物や生物試料の成分分析における試料の前処理方法として、 サンプルの迅速分解・溶液化が可能なマイクロ波処理が多く利用されるようになったlll)。 ま た最近ではマイクロ波を用いた水熱処理が、 通常の水熱処理と比べて反応速度が数倍~数百倍 のオーダーで向上するためエネルギーの節約に繋がるとして、 省エネルギープロセスとしての 有用性も注目されている112)。特にアメリカを中心としてマイクロ波水熱処理を用いた微粉体、 ゲル、 多孔体の迅速合成に関する研究が盛んになっている104, 105, 113)。 水酸アパタイトの粉末 合成に関してはLernerら 114) が塩化カルシウムとリン酸二水素ナトリウムを原料として、 沈 殿法による合成においてマイクロ波照射の利点を報告している事例がある。 ただし、 生成物の 性状に関する詳細な検討はなされていない。 石膏廃棄物のような廃材を利用した物質合成にお いては、 できるだけ少ないエネルギーで新しい物質に転換できることが求められている。 本節 では反応速度の向上と省エネルギープロセスの導入という観点から、 廃石膏から水酸アパタイ トを合成する際にマイクロ波を照射することを試みた。 すなわち、 通常の水熱処理と比較して 石膏のアパタイト化速度がどのように変化するかを検討した。 また、 生成した水酸アパタイト の結晶の性状についても調査した。 52 可� - 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 3- 2 実験方法 石膏を原料とした水熱処理 とマイクロ波 水熱処理による 水酸アパタイトの合成プロセ スを図4・15に示す。 石膏の気 孔特性が水酸アパタイト化速 度に及ぼす影響を除外し、 ア パタイトの生成速度を比較す るために、 出発原料には廃石 膏を微粉砕して得た粉末状石 膏を用いた。 装 置 ( マイクロ波照射 MARS5. Model XP-1500, CEM Corp.,)内に取 り付けるサンプルセル (コン トロール容器) の構造を、 図 4-16に示す。 テフロン製セル の内容積は50cm3で、 内部に 図4-15水熱処理およびマ 、 イクロ波水熱処理法に よる石膏からの水酸アパタイト粉末の合成フ。ロセス 差し込まれた温度センサで系 内の 温度を検知し、 出力をコ ントロールする。 セル内の圧 力が急激に上昇した場合には 左側のシール部分から圧力が 開放される仕組みになってい る。 まずサンプルセルに0.5M の(NH4)zHP0440 cm3と0.5g の石膏 粉末を入れた。 セルを マイクロ波照射装置に取り付 け、 周波数2.45GHz、 最大出 図4-16マイクロ波水熱処理装置用セルのモデル図 力 (1200W)の1----1 - 00%の問 でマイクロ波の出力条件を変 53 可守- -ー-ー 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 化させ、 50""1000Cにて 1""120 分間処理を行った。 また従来の水熱処理でも同様の原料を用 い、1""15時間処理を行った。以下、 マイクロ波水熱処理をM- H ( Microwave-Hydrothermal) 法、 通常の水熱処理をC-H(Conventional-Hydrothermal)法と略記する。 得られたサンフルは洗浄後、 X線回折で結晶相の同定を行い水酸アパタイトへの転化率の径 時変化を調べた。 またX線回折パターンから求めた転化率の結果を用いて、 M-H法、 C-H 法での各温度における速度定数を求め、 アレニウスの式Clnk=lnA -EIRT)に基いて反応初期 の活性化エネルギーを算出した。 またTEMで水酸アパタイト結品の大きさ、 形状の観察を行 い、 さらにBET法で、比表面積の測定を行った。 33 結果と考察 ( 1) 石膏から水酸アパタイトへの反応速度に及ぼすマイクロ波の効果 図 4-17、 41 - 8 に 1000Cで通常の水熱処理及び、マイクロ波水熱処理を行った石膏粉末結晶相 のX線回折図の径時変化を示す。 図41 - 7 に見られるように、 C-H法で合成したサンプルで は、 1時間の処理では僅かに水酸アパタイトのピークが確認されるものの、 ほとんどが石膏の ままである。 8 時間後には石膏の結晶相は消失しているが、 一時的にモネタイト(CaHP04) が生成し、 15 時間後に水酸アパタイトのみのピークになった。 一方、 図41 - 8に示されるM H法を用いた反応系では、 僅か1分後に石膏のピークはほとんど消失し、 極めて短時間で水酸 アパタイトが生成した。 ただし1分というのは1000Cに到達後の時間を意味し、 反応開始から 1000Cまで到達するのには90秒を要している。900Cでは30分処理後でもまだ石膏の結晶相が 1500 0水際アパタイト .2水石管 ×モネタイト 15時間 8時間 ハU ハU FhU Mm器 援 × 8' 1000 2時間 1時間 。 10 20 30 40 50 2 e /0 (Cu-K α) 図4-17石膏粉末をO.5Mの(NH4)2HP04中で1000Cにて1 '"'"'15時間水熱処理(C-H) したときのX線回折ノ々ターンの変化 54 � -ー 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 ( 包υ) Mm 沼纂× 1000 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 30分 5�ヤ 2分 l分 10 20 2 e /0 40 30 50 (Cu-K α) 図4-18石膏粉末を0.5Mの(NH�)2HP04中で1000Cにて1'"'"'30分間マイクロ波 水熱処理(M-H)したときのX線回折ノξターンの変化 かなり多く残っており、 1時間後にアパタイトの単一相となった。 しかしこの場合でもモネタ イトのピークは検出されていない。 マイクロ波を用いた反応系でモネタイトが生成しなかった 理由としては、次のことが考えられる。石膏から水酸アパタイトへ転化するとき、前出の[1]式 に従って反応が進行するため、 C-H法では反応点の近傍で水酸アパタイトの生成に伴って一 時的にpH値の低下が起こる。 このため低pH領域で生成しやすいモネタイトが一時的に生成 するが、 容器内のpHが均 の単 になるにしたがい、 やがては高pH領域で安定な水酸アパタイト 相へと変化したものと考えられる。 一方、 M-H法では溶液内で、水分子の運動が活発に 起こっているのでそれぞれの化学種の拡散が迅速に起こり、 短時間でpHが安定したためモネ タイトの一時的な生成を経由せず、に水酸アパタイトの単一相が得られたものと推察される。 石 膏と水酸アパタイトのX線強度比から求め た 100C 0 における水酸アパタイトへの転化 <( 0.8 率を図4・19に示す。 M-H法の場合、 水酸 主0.6 〉、 工 • r ' J J • / // 304 "-.己 主0.2 アパタイトへ転化するのに要する時間が C -H法と比べて11100程度に短縮されてい 。 る。 M-H法ではC-H法と比較して系内 。 4・ M-H法 • C-H法 500 1000 反応時間(分) の温度が極めて短時間で上昇し、 水酸アパ タイトの核形成が促進されるので、 微細な 図4-19 1000Cでの水熱処理による石膏粉末 水酸アパタイト結晶が迅速に生成するので から水酸アパタイトへのの転化時間に及ぼす マイクロ波照射の効果 はないかと推測される。 55 � a・・h 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 石膏から水酸アパタイトが生成する初期段階では、 2次反応が進行すると仮定すると反応速度 Vは次式で与えられる。 V= dxd / t = k(a-5x( ) b-3x) ・・・・・[2] これを解くと次式が得られる。 1 ln 5b -3a 3a(5b -15x) = k t . . . [3] 5b(3a -15x) したがって、左辺を時間 tに対してプロットして得られるグラフの傾きが反応速度定数となる。 ただし、 各記号の意味は次のようである。 a :CaS04・2H20の初期投入量(mol) x:水酸アパタイト の 生成量(mol) b :(NH4hHP04の初濃度(moldm-3) k :反応速度定数(mol-1 dm-3min-1) t :反応時間(min) [3]式 の左辺をYとおき 、 C-H法とM-H法それぞれについて原系と生成系 の値をを代入 し、 反応時間を横軸にとってプロットしたものが図4-20、 4-21である。 ただし水酸アパタイ 〉 11nynHUウt 円。 「D A斗Aqd 円4 1inU ハUハUハunUハunu nu nu nu .1000C ロ900C A800C ・700C o600C ・500C 。 200 400 600 t 800 1000 1200 (min) 図4-20 C-H法で、の石膏から水酸アパタイトへの変化における反応速度定数の決定 56 � 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 トの生成量には、 X線回折ピーク強度の比と系内の原料の使用量から求めた値を使用した。 l苅 4-20に見られるようにC-H法ではほぼ直線関係が得られ、この傾きから反応速度定数を求め た。 一方、 M-H法では図4-21 のように反応の初期と後半で傾きが変化し曲線となったが、 初期の傾きから同様に反応速度定数を求めた。 これらの結果を表4・2に示す。 これより、 反応 温度が50-----900Cの範囲ではM-H法の反応速度定数はC-H法の約50----6- 0倍の値になって いる。 一方1000Cでは265倍と非常に大きくなっている。 水の沸点である 1000Cにおいては容 器内の水分子の運動が活発になり、 それ以下の温度と比べてマイクロ波による反応速度増加の 効果がより大きくなったものと思われる。 マイクロ波照射による化学反応速度への影響は、 そ の反応系によって1桁 から2桁反応速度を向上させるとの報告がある。 本実験で行った、 から水酸アパタイトへの転化反応においては、 1000Cにおいて2桁のオーダーで反応速度の向 上がみとめられた。 0.9 0.8 .1000Cロ900C .80oC 0.7 ・700C o60oC ・500C 0.6 〉 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 。 10 20 30 40 、、,ノ n m r, 、 ,‘、 +L 。 50 70 60 図4-21 M-H法での石膏から水酸アパタイトへの変化における反応速度定数の決定 表4-2 C-H法およびM-H法による石膏から水酸アパタイトへの反応速度定数 温度COC ) C-H法 M-H法 50 1.49 x 10-4 7.60X10-3 51.01 60 3.4 7X10-4 1.67X10-2 48.13 70 4.01X 10-4 2.17X10-2 54.11 80 8.73X10-4 5.01X10-2 57.38 90 1.23X10-3 6.05X10-2 49.18 100 2.27X10-3 6.02X10-1 265.2 57 k(M-H) / k(C-H) -・ー酔 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 次にアレニウスの式Clnk二lnA -EIRT )にそれぞれの反応速度定数を代入し、 図4・22の傾 きより50'"'-'1000Cにおける活性化エネルギーを求めた。 用いた。 気体定数 の値にはR=8.3 1Jぽmolを ただしM-H法では50'"'-'900Cのデータを用いた。 その結果、 M-H法での合成時に はE=51.3 0KJ/mol、C-H法ではE=51.59KJ/mol と、 活性化エネルギー の値に大きな変化は 見られなかった。 したがって、 マイクロ波導入の有無に関係なく反応初期の水酸アパタイトの 生成機構は同じであると考えることができる。 マイクロ波照射下では通常の水熱処理 と比べて 反応容器中の温度が極めて短い時間で上昇したことによって、 水酸アパタイトの生成速度が向 上したと考えられる。 マイクロ波を 導入した場合、900C以下では図4-2 1 。 .C-H法 にみられるように反応の初期と後半 ・M-H法 -2 でアパタイト化速度が大きく変化し -3 た。 これは反応初期に水酸アパタイ トの核が石膏粒子表面に迅速に形成 -4 ピ ロ -5 6 して石膏の表面を被うため、 粒子内 部から溶液内へのCa2+イオンの供 -7 -8 給量が一時的に低下することによる と推察される。 一方1000Cでは水分 -9 -1 0 0.0026 子の運動が極めて活発になるために、 0.0028 水酸アパタイトの核は石膏粒子表面 から離されて溶液内に浮遊し、 石膏 からのCa2+イオンの溶解が迅速に 0.003 0.0032 I/T 図4-22 C-H法およびM-H法での石膏から 水酸アパタイトへの転化反応のアレニウスプロット 行われ、 極めて短い時間で 100%水 酸アパタイトへ到達したと考えられ る。 (2)水酸アパタイトの結晶形態に及ぼすマイクロ波 の効果 !文14・23はM-H法で1000Cにて1分および2時間処理を行って合成した水酸アパタイトの TEM写真である。 長さ50�600 nmに伸びた針状の水酸アパタイト結品が観察される。 1000C においてC-H法とM-H法で得られた水酸アパタイト結晶のサイズを表4-3 にまとめた。C -H法の場合、 2時間以下の反応では石膏の結晶相が残存しているため、 水酸アパタイト結 58 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 、?で惨 -lT1事1.11: 十長1.,.'....'0 ー・・・・・・・・・・・・・圃 -. , .‘�IJ_��J・l J:-':ーー..1 図4-23石膏粉末を0.5Mの(NH4)2HP04中で1000Cにて(A)l分および (8)2時間マイクロ波水熱処理して合成した水酸アパタイト結晶 表4-3石膏粉末と0.5Mの(NHんHP04から1000Cで、合成した水酸アパタイト結晶の性状 処理方法 M-H法 反応時間 結晶サイズ(nm) 転化率 比表面積 (%) 長さ 中高 ( m2/ g ) l分 80 30-300 5-50 76.5 5分 100 30-300 5-50 96.2 30分 100 30-400 5-100 70.9 60分 100 50-500 10-100 60.8 120分 100 50-600 10-100 58.8 一 C-H法 1時間 23 19.3 2時間 41 30.1 8時間 100 100-15000 50-2000 40.1 24時間 100 100-20000 50-2000 36.6 の形状を特定することは困難であった。C-H法とM-H法では石膏が完全に水酸アパタイト 化するまでに要する時間が異なるため、 結品の大きさについて定量的に比較することはできな い。 しかしM-H法では、 短時間で長さ30""'300nmの針状の水酸アパタイト結晶が生成して いるが、 2時間反応後でも長さ50""'600nmとそれほど大きな結品成長は起こっていないこと がわかる。 59 -・ー- 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 方、 C-H法では、 石膏の結品相が消失した時点で、 生成した水酸アパタイト結晶のサイ ズは既に長さが100'"'"'15000nmにまで成長している。 これは、 M-H法の場合には、 極めて 短い時間で微細なアパタイトの結晶が生成するため、溶液中のP043一イオン濃度が急激に減少 して結晶成長が抑制されるが、 C-H法では核生成速度が遅いために大きなサイズの結晶が成 長しやすかったと考えられる。 得られた水酸アパタイトの比表面積は石膏からの転化率が 100%に到達するまでは増加したが、M-H法、C-H法いずれの場合も結品の成長にしたがっ て比表面積は減少した。 M-H法では1000C-5分間の処理で、 約96m2/gの水酸アパタイト 粉末が得られた。 以上のように、 マイクロ波照射による水熱処理は、 石膏粉末からの水酸アパタイトの生成に おいて、 反応時間の短縮だけではなく、 得られる水酸アパタイト結晶の性状にも影響を及ぼす という知見が得られた。 結晶サイズの差については100%水酸アパタイト化するまでの時間が 異なるため定量的に議論することはできないが、C-H法と比べるとM-H法の場合には微細 な水酸アパタイト結品が得られることが明らかとなった。 3-4 本節のまとめ 省エネルギープロセスとして注目されているマイクロ波照射による水熱処理により廃石膏 粉末から水酸アパタイト結晶を合成し、 水酸アパタイト化の速度、 結晶の性状の違いなどを通 常の水熱処理と比較した。 得られた結果を以下に示す。 (1)マイクロ波の導入により、 50'"'"'900Cの範囲では反応速度は約50'"'"'60倍、 1000Cにおいて は250倍以上となり、 1000Cではわずか1分間で微細な水酸アパタイトの結晶が得られた。 石 膏から水酸アパタイトへの転化反応における初期の活性化エネルギーは、 マイクロ波導入の有 無に関わらず大きな変化はなかった。 (2) 生成する水酸アパタイト結品のサイズは、 C-H法とM-H法で反応に要する時間が異 なるために定量的な比較はできないが、 マイクロ波を用いた場合の方が微細な結晶が得られる 傾向にあった。 これはマイクロ波照射下では、 極めて短時間で水酸アパタイトの結晶核が多量 に生成するためであると推察される。 第4節 本章のまとめ 本章では、 機能性材料のひとつである水酸アパタイト多孔体を石膏廃棄物から直接合成する ことを試みた。 また省エネルギーフロセスとして注目されているマイクロ波を導入し、 石膏か 60 -ーー � 第4章石膏廃棄物を用いた水酸アパタイトの合成 らの水酸アパタイト化の高効率化を目指した。 (1)石膏廃棄物をリン酸水素二アンモニウム中で50""1000Cにて水熱処理することにより、 直接水酸アパタイト多孔体を合成することができた。アパタイト化に要する時間は、反応温度、 リン酸水素二アンモニウム濃度だけではなく、 原料石膏の気孔特性にも大きく影響された。 (2)マイクロ波の導入により、 水熱条件下での水酸アパタイト化速度は通常の水熱処理と比 較し、 1000Cにおいて250倍以上、 50""900Cにおいて50""60倍に増加した。 またマイクロ波 照射下では、 通常の水熱処理と比べて非常に微細な結品が生成することが明らかとなった。 61