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偏光解析による逐次2軸延伸PETフィルムの配向評価
2013.05 王子計測機器株式会社 酒井 偏光解析による逐次2軸延伸PETフィルムの配向評価 ● はじめに 2009年7月に「PETフィルムの光学特性に関する新たな知見」として、PETフィルムのP 偏光透過率の特異現象に関する測定結果を報告して以来、PETフィルムの偏光特性に着目し、いく つかの実験を行ってその結果を報告してきました。それらの結果から、逐次2軸延伸PETフィルム は旋光性を持つという解釈に至りました。今回は、全幅4800mmの逐次2軸延伸PETフィルム を用いて、主に旋光角の幅方向プロファイルを測定し、その結果から得られた新しい知見について報 告します。 ● 結論 逐次2軸延伸PETフィルムの幅方向試料を用いて、直線偏光を入射したときの楕円偏光測定から 得られる旋光角の幅方向プロファイルの測定結果から、以下のことが分かりました。 ① 旋光角は幅方向でほぼ直線的に変化し、全幅の中央でゼロになり両端部では8°近くに なる場合もある(すなわち、全幅中央に対して左右で旋光角の符号は逆になる) ② ①のような偏光現象を説明するには、分子がらせん構造をしていると解釈するよりも、 配向が2層構造をしていると解釈した方がよい ③ 2層の内、位相差が小さい層の位相差は270~290nm程度である ④ 位相差が小さい層の遅相軸は位相差が大きい層の遅相軸(配向角)からMD方向に数度 ずれている ⑤ TD方向基準で表した配向角の符号と旋光角の符号とから、試料の上側の層の位相差の 大小(すなわち製造工程での表裏)が判別できる ● 使用した装置と試料 装置:楕円偏光測定装置 KOBRA-WPR 使用ソフト:楕円偏光測定PRソフト(テストモード) 超高位相差測定装置 PAM-UHR100 試料:A社製PETフィルム、t250μm、全幅4800mm B社製PETフィルム、t100μm、幅1500mm ● 測定結果 1)幅方向プロファイル PAM-UHR100でA社製PETフィルムの、全幅4800mmから100mmごとに 切り出した試料47点の位相差と配向角を測定してグラフにすると、図1のようになり典型的 なボーイング現象を示していることが分かります。 1 50 40 ※ 角度基準はTD 30 配向角 (°) 位相差 (nm) 13000 12000 11000 10000 9000 8000 7000 6000 5000 4000 3000 20 10 0 -10 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 -20 -30 -40 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 -50 幅方向位置 (mm) 幅方向位置 (mm) (a)位相差 (b)配向角 図1 A 社製PETフィルムの位相差と配向角の幅方向プロファイル 次に、KOBRA-WPRを用いて同じ試料に直線偏光を入射したときの、6波長の透過光 の楕円率と楕円方位角を測定し、その結果を図2のようにポアンカレ球赤道面に表示し、6つ の点を直線近似して旋光角を求めました。旋光角の幅方向プロファイルは図3のようになり、 配向角と同じように幅方向でほぼ直線的に変化することが分かります。旋光角と配向角との関 係を調べると図4のようになり、R=0.983と強い相関関係が認められました。なお、旋 光角と位相差の相関は配向角ほど強くなくR=0.782でした。 図2 偏光状態のポアンカレ球赤道面への図示による旋光角の求め方 2 8 6 旋光角 (°) 4 2 0 -2 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 幅方向位置 (mm) -4 -6 -8 図3 A 社製PETフィルムの旋光角の幅方向プロファイル 8 旋光角 (°) y = 0.151x - 0.369 R2 = 0.9667 6 4 2 0 -50 -40 -30 -20 -10 -2 0 10 20 30 40 50 配向角 (°) -4 -6 -8 図4 A 社製PETフィルムの配向角と旋光角の相関 図4より配向角と旋光角との間には相関関係があることを確認できましたが、他のPETフ ィルムについても同様かどうかを調べるために、B社製のPETフィルム(t100μm、幅 1500mm)について同様の測定をしました。その結果は図5のようになり、全幅寸法は不 明ですが幅方向位置500mmが全幅の中央に相当し、この試料がほぼ中央部の取り位置であ ることが分かります。また、旋光角の幅方向プロファイルは図6のようになり、配向角と旋光 30 3800 3600 3400 3200 3000 2800 2600 2400 2200 2000 1800 ※ 角度基準はTD 20 10 配向角 (°) 位相差 (nm) 角の関係は図7のようになります。 0 -10 0 200 400 600 800 1000 -20 -30 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 -40 幅方向位置 (mm) 幅方向位置 (mm) (a)位相差 (b)配向角 図5 B社製PETフィルムの位相差と配向角の幅方向プロファイル 3 1200 1400 1600 8 6 旋光角 (°) 4 2 0 -2 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 幅方向位置 (mm) -4 -6 -8 旋光角 (°) 図6 B社製PETフィルムの旋光角の幅方向プロファイル 10 8 6 y = -0.2555x - 0.8545 2 R = 0.9069 4 2 -40 -30 0 -20 -10 -2 0 配向角 (°) -4 10 20 30 -6 -8 -10 図7 B社製PETフィルムの配向角と旋光角の相関 2)旋光角の特徴 旋光角の特徴を調べるために、A社製PETフィルムの幅方向位置500mmの試料を用い て、方位0°の直線偏光を入射したときの透過光の偏光状態を試料方位および表裏を変えて測 定すると図8のようになります。図8を見ると各直線は赤道の一点に集まっており、試料方位 と表裏を変えても旋光角は同じであることが分かります。配向角は表裏で符号が変わりますが、 旋光角は表裏を変えても同じ値であるのは大きな特徴です。 4 POL POL Nx=15° 裏側 Nx=60° 表側 Nx=30° Nx=45° (a)試料方位の影響 (b)表裏の違い 図8 PETフィルム透過光の偏光状態の試料方位および表裏の影響 (実測) 一方、1軸延伸PETフィルム(R≒8500nm)を測定したときの旋光角は-0.94° と小さい値であることを確認しました。 図6を見ると、幅方向位置900mm以上では旋光角の変化はなく飽和状態と考えられます。 そこで配向角と旋光角を対比して比例関係が保たれる範囲を調べると、図9のようにTD基準 で見た配向角の絶対値が20°以下となります。A社製PETフィルムについても同様に対比 すると、図10のようになり同じようにも見えます。 図9 B社製PETフィルムの配向角と旋光角の対比 5 図10 A社製PETフィルムの配向角と旋光角の対比 ● 考察 分子がらせん構造をとるポリ乳酸フィルムでは旋光性があることが知られていますが、逐次2軸延 伸PETフィルムの旋光性については報告されていません。上述の測定結果のように逐次2軸延伸P ETフィルムに直線偏光を入射したときの透過光は、確かに旋光性と複屈折性の両方の特性を併せ持 つような現象を示しています。今までおよび今回の測定から得られた特徴をまとめると、以下のよう になります。 ⅰ)旋光角は逐次2軸延伸PETフィルムには表れるが、1軸延伸PETフィルムでは現れ ない ⅱ)逐次2軸延伸PETフィルムでも厚さが38μm以下では旋光角はほぼゼロで、厚い試 料ほど旋光角が大きくなる傾向がある(※一般的にPETフィルムの厚さは 12、25、 38、50、75、100、125、188、250μm) ⅲ)試料方位を変えても旋光角は同じである ⅳ)試料の表裏を変えても旋光角は同じである ⅴ)全幅の中央の旋光角はゼロで、端部になるほど大きく8°近くになる場合もある ⅵ)全幅の中央に対して、左半分と右半分では旋光角の符号が逆になる ⅶ)旋光角は幅方向でほぼ直線的に変化するが、TD基準の配向角の絶対値が20°を超え ると、旋光角は飽和するかあるいは乱れが大きくなる 分子がらせん構造であるとするとⅲ)とⅳ)を満足できますが、横延伸によってらせん構造が発 生しかつ幅方向でその割合が異なるとは考えにくく、その他の特徴を説明するのは困難です。そこ で、考え方を変えて層構造の配向を仮定します。金型を使用する射出成型品では、その断面をスキ 6 ン層/中間層/コア層/中間層/スキン層と5層に区別して、各層で結晶化度や配向状態が異なる と考えるのが一般的です。しかし、今回のPETフィルムの場合は5層あるいは3層の構造と仮定 すると、透過光の偏光状態は対称性が維持されて表裏で旋光角の符号が逆になりⅳ)の特徴を説明 できません。したがって、単純に2層構造を仮定することにします。このとき、図2や図8のよう に6波長の点はほぼ一直線上に並び、かつその直線が旋光角の2倍に相当する角度で赤道と交わる ためには、次の条件が必要と考えられます。以後、2層の位相差をR1、R2とし、入射直線偏光 の方位に対する2層の遅相軸方位をφ1、φ2と表します。 ① R1とR2の内、小さい方の位相差はほぼ波長の1/2である ② R1とR2の内、大きい方の遅相軸は平行ニコル回転法(または平行ニコル分光 法)で得られる配向角と同じである ③ R1とR2の内、小さい方の遅相軸は大きい方の遅相軸に対して旋光角の1/2 程度MD方向にずれている 例:R1>R2で全体の配向角が60°、旋光角が4°のときφ1=60°、 φ2≒58°の意味 ④ R1とR2の波長分散特性はPETの分散特性とする ⑤ R1とR2の内、大きい方の位相差は全位相差から位相差が小さい層の位相差を 差し引いた残りとする 例:R1>R2で全体の位相差が7000nm、R2=270nmのとき R1=6730nmの意味 以上のことを踏まえて、逐次2軸延伸PETフィルムに直線偏光を入射したときの透過光の偏 光状態を6波長で測定した場合のシミュレーションを行い、その結果をポアンカレ球赤道面に図 示するようにしました。例えば、図8(b)に相当する表裏の違いを次の条件を設定して計算す ると図11のようになり、6波長に対する点の位置は異なるものの近似直線は実測とよく合って おり、旋光角の値もよい一致と言えます。 図11 図8(b)の試料のシミュレーション結果 7 図11は実際のPETフィルムの表裏のシミュレーション結果ですが、疑似的にこの現象を再現 するために次のフィルム2枚を積層したものについて、PETフィルムと同様に表裏の実測をする とともにその状態をシミュレーションして両者を比較しました。 pc4900・・・1軸延伸PCフィルム、R=4918nm、配向角=57.9° R200・・・・・位相差フィルム、R=200nm、配向角=55.56° 比較結果は図12のようになり、pc4900単体では旋光角は発生しませんが、積層品では旋 光角が現れ、かつその値は表裏でほぼ同じになって、実測とシミュレーション結果もよく一致して いることが分かります。このとき、表とはpc4900を上側にR200を下側にしたときです。 (a)pc4900単体 (b)pc4900+R200 図12 pc4900単体およびpc4900とR200の積層品の実測とシミュレーション結果の比較 以上の結果から、逐次2軸延伸PETフィルムの旋光角の発現は配向の2層構造によると考えら れます。今回測定した2種のPETフィルムの場合、幅方向全体の実測値とシミュレーションとを 比較した結果、位相差が小さい層の位相差は一定値として扱うことができ、かつTD基準の配向角 の符号と旋光角の符号より測定時の上側の層の位相差の大小を区別可能なことが分かり、表1のよ うな構成と判断できました。 表1 今回測定した試料の2層の構成の判断 (※配向角はTD基準) 中央より左側 中央より右側 値が小さい層の フィルム上側の 位相差(nm) 層の位相差 配向角 旋光角 配向角 旋光角 A社 270 大 - - + + B社 290 小 + - - + 試料 8 ● おわりに 今回、逐次2軸延伸PETフィルムの旋光角の幅方向プロファイルの測定結果から、観測される 偏光現象はこれまで仮定していた分子のらせん構造に起因するものではなく、配向の2層構造と考 えた方が実測に合うことが分かりました。ただし、2層構造としたとき厚さが100μmと250 μmと異なっていても、位相差が小さい層の位相差がそれぞれ290nmと270nmとほぼ同じ である点には疑問が残りますが、以下のようにも考えられます。 逐次2軸延伸は、溶融状態の樹脂がダイから押し出され冷却ロールに抱かれて製膜されるキャス ティング工程が最初にあります。このとき、ロールに接触側の冷却速度が速いために、一定深さまで の結晶化度が異なると仮定するのは妥当でしょう。縦延伸時は2層の配向は同じようになりますが、 横延伸時にはそれぞれの層の配向が僅かにずれると考えてもおかしくないでしょう。また、横延伸後 の仕上がり厚さが異なる場合でも、キャスティング時は十分に厚く結晶化度が異なる層の状態は似た 条件であるとも考えられます。 以上 9