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すでにシェール革命の恩恵は始まっている

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すでにシェール革命の恩恵は始まっている
米国経済
2014 年 2 月 4 日
全4頁
すでにシェール革命の恩恵は始まっている
関連する設備投資や雇用者数は速いペースで増加
ニューヨークリサーチセンター
エコノミスト 笠原 滝平
[要約]

シェール革命とは、新たな採掘技術の確立により、従来資源が取り出せなかった岩盤か
ら天然ガスや原油などが取り出せるようになったことである。米国内における資源の生
産拡大が見込まれる。

シェールガス・オイルの採掘増によって、燃料の輸出増、輸入減が生じ、すでに貿易赤
字額の縮小圧力が強まっている。また、シェール関連とみられる設備投資、雇用者数の
増加が始まっており、シェール革命の影響は貿易収支や生産段階に表れている。

ただし、資源の生産は計画通りに行われるとは限らないうえ、シェール関連の設備投資
や雇用者数の規模は大きくないため、米国経済に直接的に与える影響は限定的である。
シェール革命の本格化には、エネルギー価格の低下などシェールガス・オイルの利用が
広範に亘る必要があると考えられる。
株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー
このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません。このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性、完全性を保証する
ものではありません。また、記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります。㈱大和総研の親会社である㈱大和総研ホールディングスと大和
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2/4
エネルギー生産量の増加が期待されるシェール革命
シェールガスとは、ガス田などから採掘される在来型の天然ガスと異なり、非経済的だとさ
れていたシェール層から採掘される非在来型の天然ガスである1。これまで難しいとされてきた
岩盤に水圧で亀裂を入れ、天然ガスを採掘する水圧破砕や水平掘削などの技術が実用化された
ことから、採掘量の増加と採掘コストの低下が実現された。天然ガスと同様に原油もシェール
層から採掘される。シェール層は米国内の様々な地域に存在しており、ペンシルベニア州やノ
ースダコタ州、テキサス州などが埋蔵量の多い地域として挙げられる。
技術の商業的実用化により、2000 年代中ごろから米国内でのシェールガス採掘量が増加傾向
にあり、2011 年の時点で米国内の天然ガス採掘量のうち、約 30%を占めるほどになっている
(2007 年は 8%程度)。シェールガスの採掘量増加によって、米国内の天然ガス採掘量も増加が
続いている。従来は単なる岩盤だったものが、技術革新によって資源の採掘源へと変化し、米
国内のエネルギー生産の増加(が期待されること)が「シェール革命」と呼ばれている。EIA(米
エネルギー情報局)の 2013 年見通し2によれば、2011 年の約 23 兆立方フィートから 2040 年に
は約 33 兆立方フィートへ、40%超の天然ガスの生産量拡大が見込まれている(図表 1)。
また、減少傾向にあった原油の採掘は、シェール層などから採れるタイトオイルの増産によ
って、大幅に増加する見込みである。2014 年見通しの速報によれば、2011 年の日量 566 万バレ
ルから 2019 年にはピークの日量 961 万バレル、2040 年にも日量 748 万バレルと、2011 年より
30%以上原油の採掘量拡大が見込まれている。
図表1
天然ガス、原油の採掘量拡大が見込まれる
原油採掘に占めるタイトオイル
天然ガス採掘に占めるシェールガス
(100万バレル/日)
(兆立方フィート)
35
12
30
10
シェールガス
その他
25
タイトオイル
タイトオイルを除く原油
8
20
6
15
4
10
2
5
0
0
90
95
00
05
10
15
20
25
30
35 40
(年)
90
95
00
05
10
15
20
25
30
35
40
(年)
(注 1)左図は EIA2013 年見通しで 2011 年まで実績、右図は EIA2014 年見通し(速報)で 2012 年まで実績。
(注 2)タイトオイルはシェール層などから採れるオイル。
(出所)EIA より大和総研作成
1
2
http://www.eia.gov/energy_in_brief/article/about_shale_gas.cfm
http://www.eia.gov/forecasts/archive/aeo13/index.cfm
3/4
貿易収支の赤字は縮小する見込み3
米国のエネルギー生産量の大幅な増加が見込まれるシェール革命だが、その影響はすでに出
始めている。まず、米国は長らく貿易収支の赤字が続いてきたが、シェール革命によってその
構造が変わりつつある。財の貿易収支赤字(名目値)のうち、2008 年以降では、原油や天然ガ
スを含む燃料の貿易赤字が 40%を上回っていた。しかし、燃料の輸出増加、輸入減少によって、
足下では 20%台になっている(図表 2)。国内における天然ガスや原油の採掘量の増加により、
エネルギー関連の輸入需要が低下したと考えられる。燃料の貿易赤字が縮小した結果、燃料以
外の貿易収支赤字は拡大傾向にあるにもかかわらず、財全体の貿易収支赤字は横ばいにとどま
っている。
また、EIA の 2013 年見通しによれば、現在は LNG(液化天然ガス)の純輸入国である米国は、
引き続き輸出の増加、輸入の減少によって、2016 年までに純輸出国に転じる可能性が指摘され
ている。原油に比べて安価である天然ガスの採掘量が増加することで国内のエネルギー需要が
天然ガスにシフトしつつあることもあり、引き続き米国におけるエネルギーの輸入需要は低下
し、米国の貿易収支の赤字額が縮小し続けることになるだろう。
図表2
シェール革命により貿易収支赤字が縮小へ
燃料が貿易収支に与える影響
燃料の輸出入
(億ドル)
800
燃料の貿易収支
600
燃料輸出
燃料輸入
(億ドル)
0
財の貿易収支に占める燃料の割合(右軸)
財の貿易収支
燃料の貿易収支
(%)
60
-100
400
-200
-300
200
50
40
-400
0
-500
30
-600
-200
-700
-800
-400
20
10
-900
-600
-1,000
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
(年)
0
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
(年)
(出所)Census, Haver Analytics より大和総研作成
3
大和総研ニューヨークリサーチセンター 笠原滝平、土屋貴裕「これからは純輸出も GDP の押し上げ要因」
(2014 年 1 月 16 日)参照。 http://www.dir.co.jp/research/report/overseas/usa/20140116_008106.html
4/4
シェール関連の設備投資や雇用者数は増加
シェール革命によって、米国内では新たな設備投資や雇用が生み出されている。リーマン・
ショックによる景気後退期で構築物の設備投資が大幅に縮小し、2011 年以降回復傾向にあるも
のの依然として水準は低い。ピークとなった 2006 年第 1 四半期に比べれば、2013 年第 3 四半期
においても 30%程度投資額の水準は低い。一方で、構築物の設備投資のうち、シェール革命の
影響を受けているとみられる石油・天然ガス関連の設備投資はすでにリーマン・ショック前の
水準を上回っている(図表 3・左)。
雇用に目を転じれば、設備投資と同様に米国全体では回復過程にあるものの、いまだにピー
ク時(2008 年 1 月)を下回っている。しかし、オイルやガスのパイプラインの建設に従事する
雇用者数は急増しており、2000 年時点に比べて 2 倍近くまで拡大している(図表 3・右)。
設備投資、雇用者数ともにシェール革命関連とみられる事業は米国全体の回復ペースを上回
っているが、その規模自体が小さいため、米国経済全体に与える直接的なインパクトは小さい。
しかし、波及効果も含めてシェール革命の進捗と併せて今後の成長に期待したい。シェール関
連企業だけでなく、製造業の国内回帰などが進めば、間接的にさらなる設備投資、雇用の増加
が生じるだろう。特に、雇用環境が改善すれば、個人消費や住宅市場の押し上げに寄与すると
みられる。
このように、シェール革命によってガス・オイルの採掘量が増加し、貿易や設備投資、雇用
など生産段階において恩恵が出始めている。ただし、生産が計画通りに行われるとは限らない
うえ、シェール革命の生産段階における設備投資、雇用の規模は大きくないため、今後は、採
掘されたエネルギーの利用段階に及ぶかどうかが次の課題となる。
図表3
設備投資、雇用への影響
シェール関連の設備投資
非農業雇用者数とオイル・ガスのパイプライン建設従事者
(2000年=100)
160
(2000年=100)
200
非農業雇用者数
実質構築物投資
150
うち石油・天然ガス関連
140
130
180
2000年の水準
オイル・ガスのパイプライン建設従事者
160
120
140
110
2000年の水準
100
120
90
80
100
70
60
80
90
93
96
99
02
05
08
11
14
(年)
(出所)BEA, BLS, Haver Analytics より大和総研作成
90
93
96
99
02
05
08
11
14
(年)
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