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411 Ⅵ-5.新たな金融規制を踏まえた本邦企業の資金

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411 Ⅵ-5.新たな金融規制を踏まえた本邦企業の資金
Ⅵ-5.新たな金融規制を踏まえた本邦企業の資金調達戦略
Ⅵ-5.新たな金融規制を踏まえた本邦企業の資金調達戦略
【要約】
‹
バーゼル、ソルベンシー規制強化の流れを受け、本邦企業においても、取引金融機関
のリスク許容度に基づく財務運営を課題認識する必要が生じている。
‹
金融機関は、従来以上に「格付」に依拠し、また株式保有に対する高いキャピタルチャ
ージを意識したリスク管理を行うことが求められる。その中でも、銀行は株式のポジション
低下に伴う再配分の観点からより長期のリスク・テイクに、生保は ALM 高度化の観点か
ら長期債投資に焦点があたるものと予測される。
‹
本邦企業の資金調達戦略は、格付の維持・向上を基点とし、Debt 市場において拡大が
期待される長期資金へのアクセス権を確保することが重要と考える。
‹
金融機関の過度なリスク回避意識を背景に、本邦企業の投資意欲が削がれるような「リ
スク回避の罠」に陥らないため、資金の貸し手・借り手の双方がリスク・リターンの適正化
を目指すべく、取るべきリスクをプロアクティブに検討し、資金供給・投資判断を戦略的・
合理的に行うことが、「リスク・テイクの好循環」をもたらすために必要となろう。
1.本邦企業を取り巻く Debt 調達市場の概観
国内調達市場においては、1980 年代後半以降、適債基準の緩和等の規制
緩和により、資金調達の多様化が進んだものの、間接金融(民間金融機関)
が約 650 兆円と、直接金融(普通社債のみ)の約 10 倍の規模である。(【図表
Ⅵ-5-1】)。背景としては、戦後日本経済を支えるために、分野別に金融機関
を設立し(専門金融機関主義)、官民一体となって事業資金を産業界に供給
する体制を構築した点が主因であるが、リスクを許容せず資産構成の大部分
を預金等で保有する家計の行動(【図表Ⅵ-5-2】)、外部信用格付制度整備の
遅れなども要因として考えられる。
国内は間接市場
が圧倒的位置付
け
【図表Ⅵ-5-1】 国内 Debt 調達市場の概観
- 間接金融 -
【図表Ⅵ-5-2】 家計の資産構成
100%
90%
Total
717兆円
80%
その他
70%
約10倍
保険&年金準備金
60%
民間金融機関
650兆円
- 直接金融 -
政府系
政府系
67兆円
67兆円
投資信託
40%
30%
Total
90兆円
株式&出資金
50%
債券
現金&預金
55%
20%
普通社債
普通社債
62兆円
62兆円
35%
10%
14%
0%
日本
米国
EU
(出所)【図表Ⅵ-5-1、2】ともに、全国銀行協会、日本証券業協会他、各種統計資料、
日本銀行「資金循環統計」(2011 年 6 月)よりみずほコーポレート銀行産業調査部作成
(注)基準日 2011 年 3 月末
みずほコーポレート銀行 産業調査部
411
Ⅵ-5.新たな金融規制を踏まえた本邦企業の資金調達戦略
一方、米国においては、格付機関による信用リスク評価が早期から定着1、日
本のような適債基準がなく社債発行が原則自由であることに加え、リスクを許
容する家計、投資家層の厚さ2から、社債市場の比重が大きく、間接市場は約
43%となっている(【図表Ⅵ-5-3】)。尚、EU 主要国の家計は、日本と同様、相
対的にリスクを許容せず、伝統的にユニバーサルバンク制度も発達している
ため、間接市場が約 80%と、銀行セクターが圧倒的な割合を占める。
【図表Ⅵ-5-3】 日米欧における間接市場の割合
100%
80%
83%
80%
81%
75%
80%
オランダ
92%
40%
イタリア
60%
社債
Loan
64%
43%
20%
英国
フランス
ドイツ
EU(主要国)
米国
日本
0%
(出所)各国中央銀行統計資料等よりみずほコーポレート銀行産業調査部作成
(注)基準日 2010 年 12 月~2011 年 9 月
間接市場にお け
るメイン Player は
銀行と生保
民間金融機関の間接市場における、銀行の貸出割合は約 70%(約 450 兆
円)。事業者数が相対的に少ない生保の貸出残高(約 40 兆円)は、信用金庫
/農林漁業関連金融機関に劣るものの、1 社当りの平均貸出残高は銀行の次
に高い(【図表Ⅵ-5-4】)。この間接市場における 2 大セクターを取巻く規制環
境が、今大きく変化しようとしており、その新たな規制となる「バーゼルⅢ」、「ソ
ルベンシー基準の厳格化」を踏まえ、本邦企業の調達戦略を考察したい。
【図表Ⅵ-5-4】 民間金融機関の貸出残高
451兆円
(兆円)
(兆円)
4.0
貸出金残高
3.8
3.5
1社当り貸出残高平均(右軸)
2.5
約650兆円
1.5
信用組合関連
労金連関連
0.0
0.1
損害保険
1.0
0.1
生命保険
2.0
0.8
0.1
農林漁業関連
信用金庫関連
0.3
3.0
民間金融機関
貸出残高(2011/3)
貸金業者
0.9
銀行
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0.5
0.0
(出所)全国銀行協会他、各種統計資料よりみずほコーポレート銀行産業調査部作成
(注)基準日 2011 年 3 月末
1
2
S&P は 1860 年、Moody’s も 1900 年に活動開始。
例えば、代表的な年金基金である CalPERS は社債投資額約 USD180 億のうち BBB 格以下および無格付に約 39%を投資。
みずほコーポレート銀行 産業調査部
412
Ⅵ-5.新たな金融規制を踏まえた本邦企業の資金調達戦略
2.バーゼルⅢと銀行経営への影響
問われる「質」と
銀行経営に与え
る主な影響
「資産の質」で
は、引続き貸出
先の外部格付が
重視される
バーゼルⅢ導入の背景は、バーゼルⅡ環境下においても金融機関の過度な
リスク・テイクを防ぐことが出来ず、結果的に世界的な金融危機を引き起こした
ことの反省によるものである。バーゼルⅢについての詳細は、本稿では割愛
するが、問われるものは「3 つの質(資産・調達・資本)」と考える。
第一に「資産の質」は、原則バーゼルⅡの枠組みを踏襲する。貸出に対する
リスク・アセットを算出する際、標準的手法の銀行(全体の約 80%3)は、外部
格付に依拠しているが、その大宗は今後も外部格付に依拠する見込みである
(【図表Ⅵ-5-5】)。但し、バーゼルⅢが導入される過程で、バーゼルⅡ導入時
の持合株に対する激変緩和措置(グランドファザリング)が 2014 年に消滅する
ことから、株式エクスポージャーが内部格付採用行で増加する可能性があり、
影響が懸念される。
【図表Ⅵ-5-5】 外部格付採用行におけるリスク・アセット算出掛け
手法
主たる
金融機関
内部格付手法
(内部格付採用)
都銀+α
標準的手法
(外部格付採用)
地銀
第二地銀
ゆうちょBK
Risk-Asset算出時のRisk掛け目
行内格付等を基準にRisk掛け目を採用
複数格付がある場合
格付が1つの場合
リスクアセットは倍
参照格付
AAA~AA-
A+~A-
Risk掛け目
20%
50%
上から2つ目の格付に基づきRisk掛け目を採用
当該格付に基づきRisk掛け目を採用
BBB+~BBB- BB+~BB-
100%
100%
B+~B-
B-未満
無格付
150%
150%
100%
(出所)金融庁バーゼルⅡ関連資料よりみずほコーポレート銀行産業調査部作成
第二に「調達の質」は、新たに加わる規制であり、安定的な資金調達構造、リ
スクアセットに依存しない財務レバレッジを要求する流動性規制4とレバレッジ
規制5からなる。最後に「資本の質」は、コア TierⅠ創設などにより、真水の資
本が重視されることとなり、優先株・優先出資証券の他、金融機関の相互保有
株式、繰延税金資産等、資本戦略の練り直しが必要となろう。
長期貸出に対し
てプラスの影響を
もたらす側面も
欧米勢に比べ、全般的にバーゼルⅢは邦銀勢にとって比較的影響軽微とな
る可能性が高い。一方、「資産の質」にて言及した持合株は、その評価損益が
「資本の質」にも影響を及ぼすところであり、銀行が規制上の不確実性を解消
する可能性は否めない。但し、持合解消が進む場合には、経営資源の再配
分から、貸出スタンスにプラスの影響をもたらす可能性が示唆される。尚、持
合構造を政策的に解消してきたドイツ国内においては、主要銀行であるドイツ
銀行が、貸出残高とともに長期(5 年超)貸出比率を大幅に増加させている点
は示唆に富む事象といえよう6(【図表Ⅵ-5-6、7】)。
3
本邦金融機関の中で、国内最大の総資産(11 年 3 月期末時点で 193 兆円)を誇るゆうちょ銀行も含まれる。
主に安定調達(リテール調達)なかりせば、貸出等の資産積み上げが出来ないという枠組みである。
5
財務レバレッジを TireⅠ資本規模に応じた水準に抑制するものであり、TireⅠ資本÷(ノンリスクアセットベース総資産+オフバ
ランス項目等)が最低 3%と規定される
6
米バンカース・トラスト買収、ドイツ金融史上最大のライツイシューによる独ポストバンク買収等、様々な要因が重なった結果でも
あることは触れておきたい。
4
みずほコーポレート銀行 産業調査部
413
Ⅵ-5.新たな金融規制を踏まえた本邦企業の資金調達戦略
【図表Ⅵ-5-6】 ドイツ銀行の政策保有株式残高
(億€)
233億€
250
233億€
160%
TierⅠ対比
ほぼ0%
200
140%
【図表Ⅵ-5-7】 ドイツ銀行の貸出残高推移
5,000
120%
100%
150
80%
100
4,000
40%
2億€
2億€
0
3,000
98
99
00
01
02
05
08
10
40%
+205
+205
+360
+360
30%
20%
2,000
20%
0%
50%
米バンカース
米バンカース
トラスト買収
トラスト買収
60%
50
独ポストバンク
独ポストバンク
買収
買収
大きなM&A
大きなM&A
なし
なし
(億€)
10年間
10年間
(00~10年)
(00~10年)
1,000
(cy)
貸出額
貸出額
+1,331億€
+1,331億€
5年超比率
5年超比率
+23%
+23%
10%
0
Daimler AG
Linde AG
Other
Allianz SE
98
ミュンヘン再保険
政策保有株/TierⅠ(右軸)
99
貸出金(純額)
0%
10 (cy)
00
5年超比率(右軸)
(出所)【図表Ⅵ-5-6、7】ともに、Deutsche Bank Annual Review 等よりみずほコーポレート銀行産業調査部作成
(注)12 月決算基準、政策保有株式残高は時価ベース
3.ソルベンシー規制と生保投資行動への影響
本邦生保を取り
巻く二つの規制
変更
生保については、投資行動に変化をもたらすことが予想されるソルベンシー
規制の変更が二つ予定されている。一つ目は、我が国の保険業法施行規則
改正であり、本邦生保は 2012 年 3 月期より、これまで以上に厳格且つ精緻な
計算規則に基づくソルベンシー・マージン比率7を適用し、健全性を測定して
いくことになる。新基準では、邦貨建債券、国内株式保有に対する価格変動リ
スク掛目が 2 倍になる等、全体として計算上のリスク量も大幅に増加する。生
保各社の開示によれば、ソルベンシー・マージン比率は各社共に現行基準対
比で概ね半減する見通し8であり、投資行動にも相応の影響を及ぼすものと予
想される。しかし、大手中心に新基準適用後も 200%を大きく上回ることが見
込まれるため、本改正規則は、生保の投資戦略に甚大な影響を与える程では
ないと考えられる。
本邦生保はソル
ベンシーⅡと同
様の枠組み適用
を想定
他方、二つ目の EU ソルベンシーⅡは、生保の投資戦略をより大きく左右する。
本規制は EU 内の保険会社に対する統一された監督規制の枠組みであり、現
時点では 2014 年から段階的な適用が予定されている。本規制は、まず、B/S
を経済価値ベースで評価することを前提としている。また、規制上のソルベン
シー必要資本(SCR9)も、VaR99.5%という極めて厳格な測定基準に基づくリ
スク量に見合う資本水準が要求される見通しである10。これらの規制骨子は保
険会社のビジネスモデルや投資戦略に大きな影響を及ぼすことが予想される。
経済価値ベースを前提とした枠組みについては、我が国でも金融庁が本邦
7
ソルベンシー・マージン比率とは、支払余力(マージン:資本金、基金等内閣府で定めるものの合計額)÷通常の予測を超える
ようなリスク(VaR95%の測定基準に基づくリスク量)の 1/2 で計測され、200%を下回ると金融庁による早期是正措置がとられる。
8
例えば、日本生命は、11/3 期の当社ソルベンシー比率を新基準で測定した場合、現行基準の 966%から 529%まで低下、第一
生命は 984%から 548%に低下するとの結果を年次報告書に参考表示している。
9
Solvency Capital Requirement
10
2010 年末に欧州保険年金機構(EIOPA)が保険会社 2,520 社を対象に実施した第5回導入前影響度調査結果(QIS5)では、
対象会社の SCR に対するソルベンシー比率平均は 165%であった。
みずほコーポレート銀行 産業調査部
414
Ⅵ-5.新たな金融規制を踏まえた本邦企業の資金調達戦略
全生保を対象としたフィールドテスト11を行う等、重大な関心が寄せられている。
本邦大手生保の経営戦略を見ても、ソルベンシーⅡと同様の枠組みが適用さ
れることを見据えた戦略が展開され始めており、本邦生保においても EU 規制
の動きに合わせた戦略展開が本格化しつつある(【図表Ⅵ-5-8】)。
【図表Ⅵ-5-8】 ソルベンシーⅡの枠組概念図
経済価値ベース
資産
(時価)
負債
(時価)
純資産
本邦生保は適用を
見据えた戦略を展開
規制上
必要資本
SCR
毎期負債が変動
⇒純資産も毎期
大きく変動する
可能性
200年に一度の
リスクに対応する
資本水準を要求
(出所)みずほコーポレート銀行産業調査部作成
社債保有に対し
てキャピタルチャ
ージが課される
ソルベンシーⅡにおけるソルベンシー必要資本は、市場リスク、事業リスク等、
様々なリスク量を統合して算出される12。市場リスクの内訳において、本規制で
は社債保有に対して、新たにキャピタルチャージを課すという、ソルベンシー
Ⅰには無い概念が導入される予定である。当該資本要件は、外部格付に対
応するリスクウェイトに、社債のデュレーションを掛け合わせて計算される。例
えば、デュレーション 10 年の BBB 格社債(リスクウェイト 2.5%)の保有は、分
散効果考慮前で、当該社債の市場価額(MVi)の 25%に相当するエクイティ
キャピタルが要求されることになる(【図表Ⅵ-5-9】)。リスクウェイトの勾配も急で
あり、生保からすれば、低格付債への投資は、高いエクイティキャピタルが新
たに必要となる。
【図表Ⅵ-5-9】 社債に対するキャピタルチャージ概念
F up
Σ i MV i ・ duration i ・ F up (rating i )
where:
F up (rating i ) = a function of the rating class of the credit risk exposure which
is calibrated to deliver a shock consistent with VaR 99.5%
following a widening of credit spreads
AAA
AA
A
BBB
BB
B or lower
Unrated
0,9%
1,1%
1,4%
2,5%
4,5%
7,5%
3,0%
Duration
Floor
1
1
1
1
1
1
1
Duration
Cap
36
29
23
13
10
8
12
(出所)EIOPA “Technical specifications for QIS 5”より抜粋
株 式 か ら 債 券等
へ投資シフトの流
れが加速
長期債への戦略
的シフト
11
12
以上、規制の要点から導き出される生保の投資行動の変化は大きく三つある
と見ている。一つ目は、株式から債券等への投資シフトである。EU における
規制導入の影響度調査結果においても、高いリスクであることが改めて確認さ
れた株式保有を継続するためには、更なる資本の充実が必要となる可能性が
出てくる。このため、本邦生保資産構成からも既に顕著にあらわれている株式
から債券への投資シフトの流れは、今後更に加速していくものと予想される
(【図表Ⅵ-5-10】)。
また、長期債投資への戦略的シフトも予想される。毎期の経済価値ベースの
金融庁「経済価値ベースのソルベンシー規制導入に係るフィールドテスト」(2011 年 5 月結果公表)
市場リスクは、保有株式価値の下落リスク等から構成される。QIS5 では、この市場リスクが全 SCR の 2/3 を占めた。
みずほコーポレート銀行 産業調査部
415
Ⅵ-5.新たな金融規制を踏まえた本邦企業の資金調達戦略
B/S 評価において、安定的に資本を確保していくためには、これまで以上に
ALM を高度化させ、デュレーション・マッチングを図る必要がある(【図表Ⅵ
-5-11】)。現状でも、生保が長期債の代表格である国債の保有を積み増す傾
向は明らかだが、加えて、社債についても従来以上に長期をテイクしていく可
能性がある(【図表Ⅵ-5-12】)。
三つ目は、利回り確保に向けた高格付債中心のアセットアロケーションである。
ALM の観点からの長期債保有積み増しは、足許では国債中心に行われてい
るが、国債のみでは、生保各社の予定利率を達成することは困難である(【図
表Ⅵ-5-13】)。このため、利回りが相対的に高い金利資産へ戦略的シフトする
ことが予想されるが、ソルベンシーⅡにおけるキャピタルチャージも意識し、必
然的に高格付債中心になることが予想される。因みに、日本生命は内外債券
で国債を除くものの格付分布を開示しているが、11/3 期ベースで既に高格付
中心の債券ポートフォリオを構築している13。今後、我が国でもソルベンシー
Ⅱと同様の枠組みが導入されることを睨み、こうした債券ポートフォリオ構築に
向けた投資行動は本格化するものと考えられる。
利回り確保にむ
け た 債 券 投 資で
は、高格付中心
に
【図表Ⅵ-5-10】 生保 9 社の有価証券別構成比率
【図表Ⅵ-5-11】 経済価値ベース B/S 概念
100%
社債
資産
(全て債券
の場合)
その他
80%
外株
資本
負債
60%
金利低下
外債
資産DuR=負債DuRの場合
40%
資産DuR<負債DuRの場合
株式
資本(減少)
公社・公団債
20%
資本
地方債
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
0%
資産
国債
資産
負債
負債
(fy)
(出所)【図表Ⅵ-5-10、11】ともに、みずほコーポレート銀行産業調査部作成
(注)【図表Ⅵ-5-10】は主要 9 社(日本、第一、明治安田、住友、富国、太陽、三井、朝日生命)の一般勘定有価証券が対象
【図表Ⅵ-5-12】 各社の保有社債推定残存年限
日本
3.5%
明安
3.0%
住友
富国
太陽
大同
1.0%
三井
朝日
0.5%
朝日
9社平均
0.0%
9社平均
(出所)【図表Ⅵ-5-12、13】ともに、主要 9 社の一般勘定有価証券明細よりみずほコーポレート銀行産業調査部作成
13
一般勘定における債券投資(除く日本国債、公社・公団債)約 11 兆円の中で、AAA 格が 56%、AA 格が 26%、A 格が 12%と
いう構成になっている。
みずほコーポレート銀行 産業調査部
416
2011
(fy)
大同
三井
2010
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
0
太陽
1.5%
2009
2
富国
2002
4
住友
2.0%
2008
6
明安
2.5%
2007
8
第一
各社の予定利率
平均ゾーン
2006
10
第一
2005
12
日本
2004
14
【図表Ⅵ-5-13】各社の公社債運用利回り
4.0%
2003
(年)
(fy)
Ⅵ-5.新たな金融規制を踏まえた本邦企業の資金調達戦略
4.新たな金融規制を踏まえた本邦企業の調達戦略と方向性
金融環境の不透明さが増大する中、本邦企業における Debt 調達は、長期化
による財務安定性向上を重視するスタンスが鮮明となっている(【図表Ⅵ
-5-14】)。ユーティリティセクターのような事業サイクルが長い業種では、調達
年限の長期化戦略が特に重要となろう(【図表Ⅵ-5-15】)。但し、過度な調達
年限の長期化は、金利負担の増加を招くものであり、事業サイクルに適した負
債の長期化が肝要である。
本邦企業の有利
子負債は長期化
傾向
【図表Ⅵ-5-14】 日経 225 企業の長短比率
【図表Ⅵ-5-15】 日経 225 業種別の Debt 残存年限
(年)
(%)
7.1
7.0
5.0
5
5.0
4.6
3.0
2
2.0
2.3
2.0
2.1 2.1
2.1
1.7
3.3
3.3
3.2
2.4 2.3
2.1
1.9
Total
サービス業
小売業
不動産業
卸売業
情報・通信業
空運業
倉庫・運輸関連業
海運業
陸運業
電気・ガス業
精密機器
その他製品
輸送用機器
機械
電気機器
金属製品
鉄鋼
非鉄金属
ゴム製品
ガラス・土石製品
化学
医薬品
石油・石炭製品
鉱業
建設業
水産・農林業
11 年
09 年
07 年
05 年
03 年
01 年
99 年
97 年
95 年
93 年
91 年
89 年
2.9
2.6
2.6
-
0.0
87 年
2.1
1.9
3.0
2.8 2.7
1
1.0
85 年
4.0
3.6
3
3.0
20%
4.1
3.9 4.1
4
4.0
40%
2011年
6
6.0
60%
2010年
7
パルプ・紙
10yJGB:右軸
長期比率:左軸
食料品
短期比率:左軸
8
8.0
繊維製品
80%
(出所)【図表Ⅵ-5-14、15】ともに、Pacific data、日経 225 各社の有価証券報告書よりみずほコーポレート銀行産業調査部作成
事業サイクルに適した調達年限の長期化を図る上で、重要なのは優位な格付
の維持であり、格付の高い企業は、発行年限が長く、負債の長期化を実現し
ている(【図表Ⅵ-5-16】)。尚、過去 5 年において超長期社債(発行年限 20 年
以上)による調達は、実質 AA 格に限定されている(【図表Ⅵ-5-17】)。
良好な外部格付
は調達年限の長
期化を可能に
【図表Ⅵ-5-17】 超長期債の発行状況
【図表Ⅵ-5-16】 格付別の社債発行実績
(年)
(件)
14
300
10
40
36
発行年限(平均)
発行年限(中央値)
発行件数:右軸
12
(件)
(億円)
10,000
250
組成金額総額
8,000
26
組成件数:右軸
200
8
150
6,000
100
4,000
35
30
25
6
20
4
15
10
50
2
10
2,000
0
2
0
AA+
AA
AA-
A+
A
A-
BBB+ BBB
BBB-
0
0
AA+
AA
AA-
A+
(出所)【図表Ⅵ-5-16、17】ともに、Reuter よりみずほコーポレート銀行産業調査部作成
(注)格付は R&I 基準であり、SB 発行実績の集計期間は 2006/10-2011/12(発行条件決定日ベース)
長期調達市場へ
のアクセス権確
保がより重要
金融機関への更なる規制強化が目前に迫る中、本邦企業の調達戦略上、
「外部格付の維持・向上」を目指す財務運営がより一層重要となろう。格付の
維持・向上は、長期の期限の利益を確保し、戦略的かつ大胆な投資を継続
的に可能とする。特に、長期の事業サイクルを有するユーティリティセクターに
おいては、生保の運用スタンスの変化を睨み、超長期調達(社債)市場への
アクセス権確保を目指した財務戦略アプローチ(AA 格確保)も考えられよう。
みずほコーポレート銀行 産業調査部
417
5
Ⅵ-5.新たな金融規制を踏まえた本邦企業の資金調達戦略
5.本邦企業および規制強化を控える金融機関の方向性
金融規制がもたらす懸念の一つとして、金融機関のリスク回避意識が過度に
増幅、預貸率低下を補う形で増加する国債投資が更に加速され、本邦企業
へのリスク・テイクに慎重になりすぎる可能性が指摘される(【図表Ⅵ-5-18】)。
日銀金融システムレポート(2011 年 10 月)には、企業及び銀行のリスク・テイク
指標が低位に留まる状況が示されているが、本邦企業におけるキャッシュフロ
ー対比での設備投資額、銀行の貸出利鞘の推移を見ても同様の動きが見て
取れる(【図表Ⅵ-5-19】)。
より長期のリス
ク・テイクが金融・
企業の競争力を
好循環させる
【図表Ⅵ-5-18】 増加する国債投資
【図表Ⅵ-5-19】 企業及び銀行のリスク・テイク
(兆円)
リスク・テイク指標
リスク・テイク指標
200
150
100
預貸GAP
90%
国債+地方債
80%
預証率(右軸)
70%
預貸率(右軸)
60%
50%
50
40%
30%
0
20%
企業 (
設備投資/キャッシュフロー)
100%
10%
97
98
100%
(fy)
95
08
93年BaselⅠ
93年BaselⅠ
00
99
01
90%
09
07
06
80%
02
03
05
70%
94
96
110%
10
60%
1.0%
0%
94
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
-50
120%
04
1.5%
07年BaselⅡ
07年BaselⅡ
13年BaselⅢ
13年BaselⅢ
2.0%
2.5%
3.0%
3.5%
銀行 (貸出利鞘)
(出所)【図表Ⅵ-5-18、19】ともに、日銀統計資料、政投銀「設備投資計画調査」(2011 年 7 月)より
みずほコーポレート銀行産業調査部作成
(注)預証率:(国債+地方債)÷預金、政投銀調査対象:資本金 10 億円以上の民間法人 2,137 社
リスク回避意識が強まることによる「リスク回避の罠」(【図表Ⅵ-5-20】)に陥らな
いため、金融機関と本邦企業の双方が、内需低迷・資本規制により強まるデ
フレ経済の長期化を跳ね返すべく、低収益・低成長体質からの脱却を図る必
要がある。そのためには、今まで以上にリスク・リターンの適正化を意識し、成
長戦略の議論を双方で循環させながら、企業の持続的成長をもたらす、より
長期のリスク・マネー供給を積み上げていくことが「リスク・テイクの好循環」をも
たらすためには必要となろう(【図表Ⅵ-5-21】)。
【図表Ⅵ-5-20】 リスク回避の罠
企業
事業投資は
事業投資は
保守的かつ減少
保守的かつ減少
cash蓄積
cash蓄積
成長に必要な
成長に必要な
長期リスク・マネー
長期リスク・マネー
が供給不足
が供給不足
国内経済
デフレ経済長期化
デフレ経済長期化
低収益・低成長
低収益・低成長
金融規制
金融規制
強化
強化
リスク回避の罠
リスク・テイク期間
リスク・テイク期間
短期化
短期化
【図表Ⅵ-5-21】 リスク・テイクの好循環
企業
事業投資は
事業投資は
積極的かつ増加
積極的かつ増加
旺盛なDebt活用
旺盛なDebt活用
成長に必要な
成長に必要な
長期リスク・マネー
長期リスク・マネー
の最適供給
の最適供給
資本毀損への
資本毀損への
保守的運営
保守的運営
過度な
過度な
リスク回避意識
リスク回避意識
国内経済
デフレ経済脱却
デフレ経済脱却
収益力・成長回復
収益力・成長回復
金融規制
金融規制
強化
強化
リスク・テイクの
好循環
リスク・テイク期間
リスク・テイク期間
長期化
長期化
適正利潤確保への
適正利潤確保への
プロアクティブ運営
プロアクティブ運営
戦略的・合理的な
戦略的・合理的な
リスク・リターン管理
リスク・リターン管理
金融機関
金融機関
(出所)みずほコーポレート銀行産業調査部作成
(出所)みずほコーポレート銀行産業調査部作成
(事業金融開発チーム 佐藤 勝/中川 大輔/柿澤 健一朗)
[email protected]
みずほコーポレート銀行 産業調査部
418
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