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プロジェクト型 地域おこし人材 (地域活性市民プロデューサー) 育成
「地方発の地域経済建て直し」政策コンペに関する連絡調整等実施業務 プロジェクト型 地域おこし人材 (地域活性市民プロデューサー) 育成システム導入に関する研究レポート 平成20年3月 はじめに...................................................................................................................................... 1 第1章.地域リーダー育成に関する自治体の取り組み現状と課題 .............................2 (1)地域リーダー育成に関する自治体の課題認識 ..............................................................................2 (2)地域リーダー育成事業のカリキュラム特性......................................................................................4 (3)地域リーダー育成の方向性に関する国の報告事例 ....................................................................5 (4)国及び公益法人等による地域リーダー育成支援・地域づくり支援策....................................6 (5)長崎県の地域リーダー人材育成の取り組み状況把握 ...............................................................8 (6)地域リーダー育成に関する先進事例調査........................................................................................9 (7)地域づくり・人材育成等に関する市民ニーズ調査...................................................................... 27 (8)地域リーダー育成に関する課題整理 .............................................................................................. 45 第2章.プロジェクト型人材育成システムのスキーム検討..........................................49 (1)プロジェクト型人材育成システムの基本概念 ............................................................................... 49 (2)「プロジェクト型人材育成システム」の基本方針 .......................................................................... 50 (3)「プロジェクト型人材育成システム」の対象セグメント ................................................................ 54 第3章.モデルプロジェクトの検討(ケーススタディ) .....................................................59 (1)壱岐市(国特別史跡原の辻遺跡を活かした島づくり)............................................................... 60 (2)諫早市(諫早湾干拓を活かした地域おこし) ................................................................................. 64 第4章.プロジェクト型 地域おこし人材育成システム実現に向けて ........................69 (1)地域における推進方策.......................................................................................................................... 69 (2)国への政策提言(地域づくりの現場からの声) ............................................................................ 71 <参考資料>...................................................................................................................................... 74 (1)インターネットアンケート調査票.......................................................................................................... 75 (2)全国自治体の地域リーダー等育成事業事例............................................................................... 79 (3)長崎県内の人材育成事業事例....................................................................................................... 90 (4)政策コンペプレゼンテーション資料 .................................................................. 95 1 はじめに 平成 19 年度年次経済財政報告によると、2002 年初めから始まった今回の景気回復は、 2007 年に入ってからも持続するものとされているが、一方では、国民が景気の長期回復を 実感できないとの指摘や都市と地方との格差拡大が問題となっている。長崎県(以下、 「本 県」と略)でも、人口減少、高齢化、地域コミュニティの衰退、地域産業の低迷、所得水 準の低迷、行政の財政不足などの地方部特有の課題を抱えているとともに、それらが負の 連鎖として重なりあい低迷状態から脱せない状況が続いている。 こうした中、自治体は、従来型の包括的施策展開を行うには財政的・費用対効果的にも 限界があることから、効率的且つ効果的な都市経営を行うためには、 集中 と 選択 を 基本理念に、明確なビジョンを持った「戦略的プロジェクト」を展開していくことが必要 であり、また、この戦略的プロジェクトが持続的且つ効果的に地域活性化に寄与するため には、企画段階から実施段階に至る全ての過程における市民協働のプロセスを導入しつつ、 地域づくりの旗振り役となる このような 地域リーダー 戦略的プロジェクトの推進 を育成することが不可欠となっている。 と 地域リーダー育成 は、先進的な企業経 営においては、企業の経営戦略と人材マネジメントを一体的に捉えた「戦略的人材マネジ メント(SHRM=Strategic Human Resource Management)」として定着する傾向にある が、都市経営に至っては、プロジェクトの推進とリーダー育成が独立的に位置づけられ、 連携が十分でははい。都市経営のビジョン達成のために必要な人材像を描かず、単に リ ーダーを育成する といった人材育成事業そのものが目的化している傾向が強い。加えて、 人材育成事業に至っては、リアリティのない従来型の座学を中心としたカリキュラムが大 部分で、戦略的に人材を育成するという観点が欠如している。 本研究は、全国的な事例研究や市民意向調査等を通じ、今後の地方再生のキーポイント が戦略的プロジェクトの実施であり、それの実現を持続的に支える地域リーダーが従来型 の研修・講座等ではなく、企業の戦略的人材マネジメントのようにプロジェクトの実現過 程を通じて育成されるという「プロジェクト型人材育成システム」の効果や導入方策につ いての一定の方向性を示すものである。 1 第 1 章.地域リーダー育成に関する自治体の取り組み現状と課題 (1)地域リーダー育成に関する自治体の課題認識 平成 16 年 4 月 27 日に国土交通省国土計画局から発表された「多様な主体による地域づくり戦 略に関するアンケート調査結果1(対象:全国 3,204 市区町村長 回収率 65.8%))」によると、多様 な主体による地域づくりを推進するために必要な取り組みとして「熱心なリーダーやキーパーソンを 育成する」が 9 割(重要+やや重要)を超えて最も多いが、一方で現状の取り組みをみると、リーダ ー育成等に寄与する「まちづくり研修」の実施・検討を考える自治体は15%前後と少ない。また、 「平成 15 年度 地方都市再生のための人材基盤等地域力整備のための調査研究報告書2(文部 科学省)」においても、「まちづくりリーダーの育成・養成講座」を開催する自治体は全体の 7.1%に すぎず、80%程度が今後も 実施予定はない と回答している。こうしたことから、自治体では、リー ダー育成の必要性を感じながらも取り組み自体は遅れている状況にあることが考えられる。 ■多様な主体による地域づくりを推進するために必要な取り組み 出所)多様な主体による地域づくり戦略に関するアンケート調査結果 1 地域で暮らし活動している一般市民、NPO、自治会・町内会、企業、行政など多様な人々が関わり、ビジョンを共有 しながら、豊かでかつ個性的な、住民が住み続けたいと思う地域づくりがどの程度現場で実践されているか、今後のど のように発展すると考えられているかを把握することを目的としたアンケート調査。調査はH15 年 10 月 12 日∼11 月 30 日。全国 3,204 市町村長に郵送し有効回答数は 2,108(65.8%) 。 2 全国の地方中小都市における生涯学習と参加型まちづくりに関する実態を把握するとともに、生涯学習によるまちづ くりの先進的事例について調査し、住民参加のまちづくりを進める上での問題点や課題、さらには生涯学習を通じたま ちづくりリーダーの育成方策等を検討することにより、住民主体のまちづくり活動の振興を通じた地方都市再生・活性 化を図ることを目的として実施したもの。平成 15 年度策定。アンケートは平成 12 年国勢調査において人口 1 万人以上 30 万人未満の市町村から抽出した 1,215 の市町村教育委員会と 1,079 の市町村によるもの。 2 ■地域づくりへの多様な主体の参加を促進するために実施または検討している施策 出所)多様な主体による地域づくり戦略に関するアンケート調査結果 ■まちづくりリーダーの育成・養成講座の実施状況 出所)平成 15 年度 地方都市再生のための人材基盤等地域力整備のための調査研究報告書 ■まちづくりリーダーの育成・養成講座の今後の実施予定 出所)平成 15 年度 地方都市再生のための人材基盤等地域力整備のための調査研究報告書 3 (2)地域リーダー育成事業のカリキュラム特性 平成 15 年度 地方都市再生のための人材基盤等地域力整備のための調査研究報告書では、 市町村長部局におけるまちづくりリーダー育成の取組事例として、全国59の事例が整理されてい るが、この事例を、公開資料等を元に、「プロジェクト型」(実現可能なプロジェクト又は実行中のプ ロジェクトの実現を支える人材をそのプロジェクトの準備段階に巻き込み戦略的に育成する取り組 み)と、「育成先行型」(地域リーダー育成などの広義な目的を定め、座学研修を中心とした取り組 み)をに分類した。 分類の結果、プロジェクト型は 20%にとどまり、育成先行型が全体の 80%と大部分を占めること がわかる。また、カリキュラムをみると、プロジェクト型では、実際のプロジェクトの企画・運営に直接 的に関わるのに対し、育成先行型では、座学を中心としたカリキュラムが多数を占める。 ■地域リーダー育成事業の類型化 出所)「平成 15 年度 地方都市再生のための人材基盤等地域力整備のための調査研究報告書」をもとに シンクながさきで分類・集計 □代表的なリーダー育成事業プログラムの例 分 類 事 例 概 要 第 1 回 開講式、基調講演 第 2 回 先進地視察 地域リーダー研修 第 3 回 グループ学習 会(茨城県水戸市) 第 4 回 グループ学習 第 5 回 閉講式 グループ発表 育成先行型 ・「まちづくり市民ファシリテーター」概論の講義 ・KJ 法を用いたワークショップの講義と実技 まちづくり市民ファ ・ファシリテーショングラフィック(まちづくり新聞) シリテーター養成講 の講義と実技 座(岐阜県大垣市) ・パソコンを活用したファシリテーションの講義と 実技 支援団体が各種イベントを計画し実行する <内 地域づくりリーダー 容> 地域活性化交流キャンプ、エコロジーin み 育成事業 また(沿道美化事業)、カヌー教室、年末カウント (宮崎県三股町) プロジェクト型 ダウン大会 まいはらまちづくり 自治会ごとに、地域の将来計画(ほっとプラン)を 「ほっとプラン」事業 策定してもらい、その計画に基づく事業に対し、 (滋賀県米原町) 1,000 万円を上限に補助する事業。 出所)平成 15 年度 地方都市再生のための人材基盤等地域力整備のための調査研究報告書 4 (3)地域リーダー育成の方向性に関する国の報告事例 平成 16 年 3 月、「地域づくり支援アドバイザー会議(座長 大宮登 高崎経済大学地域政策学 部教授)」の提言書によると、リーダー等の人材育成システムの方向性について以下のようにまとめ られている。 □地域づくりを担う人材の発掘と育成 ・ 地域づくりのリーダー等の人材の発掘と育成のためのシステムの構築 ・ 地域づくりを担う各主体を協働させるコーディネート能力を持った人材の育成 □人材育成システムの構築の際の留意点 ・ 地域づくりを担う人材育成は、活動を計画的且つ継続的に行うことのできる「経営的」な視点 を持つことを意識した実践的なものとすること ・ ワークショップ等の参加者主体の学習スタイルや学んだことを実践できるインターンシップな ど実践的な学習方法を取り入れる ・ 諸外国の先進的な取り組みなどの調査研究や効果的なカリキュラムの開催 □国、市町村、NPO、大学等の役割分担 ・ 国等は、大学等の高等教育機関に対する委託研究等によって、地域づくりに関する組織運 営の事例収集や事業の評価方法等についての調査を通じて、「経営的」な視点を持つ人材 の育成のための教育カリキュラムの研究開発を行い、その成果の普及を行う。 ・ 市町村、都道府県等は、上記の委託研究等の成果を踏まえて研修等を行い、経営的でコ ーディネート能力を持つ人材の育成に努める。 ・ NPO、大学等の高等教育機関、市町村、都道府県等の地域づくりの学習機会を提供する 主体は、ワークショップやインターンシップなど、地域づくりを意識した実践的な講座を開催 する。 ・ NPO や企業等は、大学等の高等教育機関の公開講座等への専門的な人材の派遣やイン ターンシップの受入などにより、経営のノウハウ等の提供に努める。 出所)地域づくり支援アドバイザー会議提言書(平成 16 年 8 月 23 日) 5 (4)国及び公益法人等による地域リーダー育成支援・地域づくり支援策 1. 地域再生総合プログラムにおける支援策 地域再生総合プログラム(平成 19 年 2 月 28 日)における人材育成支援策は、産業振興、雇用 促進、情報化、環境分野など多岐に渡っているが、その中でも直接的・間接的に地域リーダー育 成・人材育成に関連するものとしては、地域雇用創造推進事業や観光ルネサンス事業等が該当す る。本県では、平成 19 年度現在、五島市・壱岐市・対馬市・新上五島町(4地域合同)、長崎市、平 戸市・松浦市(2 地域合同)、佐世保市、雲仙市において、厚生労働省の地域雇用創造推進事業 (旧パッケージ事業)の適用を受けて雇用創出のための人材育成事業が実施されている。 ■地域再生総合プログラムにおける総合的な人材育成関連事業 事業名称 事業概要 所管 地域雇用創造推進事 地域再生計画や各府省の支援メニュー、地方自治体におけ 厚生労 業(仮称) る産業振興施策との連携の下に、自発雇用創造地域(仮称) 働省 による自主性・創意工夫ある地域の雇用創造にかかる取組 を促進するため、自発雇用創造地域(仮称)内の市町村、 経済団体等から構成される協議会の提案により、求職者の 雇用機会の創出に資する能力開発や就職促進等を内容と する事業を、国が当該協議会等に委託して実施するもので ある。地域再生計画の認定を支援の要件とする。 観光ルネサンス事業 地域ブランド商品開発や人材育成など、地域の民間組織が 国土交 (観光ルネサンス補 行う観光振興事業等に対して補助を行う。事業の選定に当 通省 助制度) たっては地域再生計画に位置付けられたものについては 一定程度配慮する。【平成20年度より実施】 観光ルネサンス事業 地域の取り組みを企画、演出し、必要な調整、合意形成を 国土交 (観光地域プロデュ 図り、具体的な集客効果を地域に還元する「観光地域プロ 通省 ーサー事業) デューサー」の育成と普及促進を支援する。 エコツーリズム総合 自然環境の保全を確保しつつ、自然や文化を生かした観光 環境省 推進事業 と地域振興を両立させ、来訪者の環境教育にも役立つエコ ツーリズムを普及・定着させる。これまでの施策を整理・ 統合し、エコツーリズムへの関心をさらに高めるとともに 広く国民への普及・啓発事業を行う。再チャレンジの場と して、エコインストラクターの人材育成事業、国立公園に おけるエコツーリズムの仕組みづくりなどの新たな施策 に取り組む。 里地里山・里親プラ 地域の自然環境(里地里山等)保全のため、地域活動に参 環境省 ン事業 加したい団塊の世代等の人材・活動場所の登録と専門家に よる研修を組み合わせ、活動の担い手を求める実施民間団 体(NPO等)へ紹介する。 出所)内閣府地域再生総合プログラム(別表) 6 2. 国及び公益法人等の支援策 ア)ボランティア Web (内閣府) インターネットを通じてボランティア活動の情報を提供することにより、国民一人一人がボラ ンティア活動情報を入手しやすくし、ボランティアをしたい人と受け入れたい人のマッチングの 促進を図ることを目的に設置されたサイト。 イ)担い手ネットワーク(都市再生本部) 都市再生本部では、地域の底力を高める活動の一つとして、全国の担い手同士の苦労や 知恵、ノウハウ、人材などの情報共有を図るとともに、担い手と担い手支援等を行う機関とを結 び付けることを目的とした担い手のネットワークづくりを推進。担い手ネットワーク・ポータルサイ トは、ネットワークづくりの一助として、担い手が情報を発信できる場、悩みを相談できる場を提 供しているサイト、全国の生の活動状況を発信しているサイト、国・財団などの支援情報が掲載 されているサイトなどを集めたもの。 ウ)街元気プロジェクト (独立行政法人 中小企業基盤整備機構) 中心市街地活性化を実現するための人材育成や地域活動を支援するためのプロジェクト。 「基本コース」と「実践コース」で構成されており、E-ラーニングや現地研修、現地実習、スクリ ーニング等を通じ地域リーダーの育成を図る。 エ)全国地域リーダー養成塾 (財団法人地域活性化センター) 地域づくりのリーダーを育成するため、集合研修、合宿研修、国内外の先駆地の調査など 計画的かつ効果的なカリキュラムによる研修。広い視野と深い見識、卓越した想像力と豊かな 人間性を備え、常に問題意識と確固たる使命感を持ち、積極的・主体的に行動のできる地域 のリーダーを養成するもの。 オ)地域リーダー育成研修会 ((財)漁港漁場漁村技術研究所) 漁村の地域振興を担うリーダーを育成するため、漁村地域のリーダーとして必要とされる資 質の向上および知識、技術の習得、更にはそれらの実践力、応用力の養成を目的としていま す。 カ)人づくりによる農村活性化支援事業 ((財)都市農村漁村交流活性化機構) 農村資源発見・活用のための教育プログラム開発及び人材育成事業。教育プログラム開発 のための検討会の開催や地域産業マネージャー研修セミナー等を実施している。 【教育プログラムの要素】 (1) 単発のイベントとは異なる、「時系列・連続的(継続的)」に行う活動。 (2) 子供達が地域資源を活用したものづくりや知識等を学び経験することにより将来、地域 で生活していく為の基礎づくりに寄与する活動。 (3) 子供達の「地域を愛する心」を涵養するための活動 7 (5)長崎県の地域リーダー人材育成の取り組み状況把握 1. 長崎県主催の地域リーダー人材育成事業 本県でも、地域リーダー育成が重要な課題として位置づけられており、各部署で様々な事業が 展開されている。内容をみると、分野は総合的な地域づくりから観光、文化と多岐に渡るものが多 いが、講座内容は座学を中心としたものが多い。しかし、近年では、「学生さんのまちづくり・地域づ くり事業」や「観光人材育成事業」など、具体的なプロジェクトを意識した育成プログラムがみられる ようになった。 事業名 部 署 概 要 長崎県学生さんのま 域振興部 学生の持つ斬新な発想と行動力をまちおこしや地域づくり ちづくり・地域づくり 地域政策 に活用し、若者の社会参画と地域の活性化につなげる事 事業 課 業(H19 年度より 3 ヵ年)。まちおこしや地域づくり等の活動 (平成 19 年度) 計画を県内の大学、短大等に在籍する学生のグループか ら公募し、優れた計画については、その活動費を助成。 次世代リーダーステ 地域振興 地域づくりを担う次世代リーダーの育成と地域づくり、農 ップアップ事業 部地域政 林、水産、商工などの異業種間にネットワークを構築するた (平成 19 年度) 策課 めの事業。懇談会(年 2 回 1 泊2日)、先進地視察研修(1 泊 2 日、年 1 回)のプログラム。 観光人材育成事業 観光推進 地域のリーダー・コーディネイターとして観光まちづくり先導 (平成 19 年度) 本部 していく人材を育成するとともに、各地域や人材のネットワ ークを構築する。平成 18 年度までは座学中心であり、今年 度からは具体的なプロジェクト企画等を中心に個別指導を 中心としたプログラムを実施中。 まちづくりリーダー養 まちづくり 協働によるまちづくりを進めるために必要なワークショップ 成講座(平成 19 年 推進局景 手法やファシリテーター能力を育成する「まちづくりリーダ 度) 観まちづく ー養成講座」を開催。 り室 地域の文化リーダー 文化・スポ 地域文化を担う人材を対象に「地域文化リーダー」養成講 養成・ネットワーク化 ーツ振興 座を開催し、地域文化の核となる人材の育成及びネットワ 事業 部文化振 ーク化を推進する。 興課 出所)長崎県 HP「部局別事業一覧」 8 (6)地域リーダー育成に関する先進事例調査 本項では、特徴的な地域リーダー育成事業として下記5事例を選定し、当事者へのヒアリングや 文献調査を通じ、事業の特徴や人材育成・市民参加に対する効果及び課題を整理する。 主催者 1. 長崎さるく博06 長崎市 特 徴 平成 18 年度に実施された日本で初めてのまち歩き博覧 会。95 名の市民プロデューサーと 400 人近くの市民ガイ ドが企画から運営を一挙に担った市民協働型プロジェク ト。博覧会終了後も長崎観光の新しい文化として定着し ている。 2. 平戸・松浦観光 平戸・松浦地 第4回オーライ!ニッポン大賞グランプリ(内閣総理大臣 人材育成プロジ 区観光人材育 賞)に選定された「松浦党の里ほんなもん体験」。民間主 ェクト 成協議会(平 導のコーディネート組織と 13 地区の受入組織のネットワ ( 松 浦 党 の里 ほ ん 戸 市 、 松 浦市 ークにより 1 日最大 2000 名の受入体制が構築。現在、 なもん体験) 他) 更なる推進体制づくりのために、厚生労働省パッケージ 事業を活用し、リーダーやガイド、インストラクターの育成 が進められている。 3. 愛知万博 国、愛知県等 2005 年日本国際博覧会(テーマ 自然の叡智 )。入場 者数は 2200 万人と目標の 1500 万人を大きく上回る。開 催中、約 3 万人の市民ボランティアが運営をサポートする など数多くの市民参加事業が展開。市民活動の中核と なる「愛・地球博ボランティアセンター」は現在もボランテ ィア育成事業を実施中。 4. 長崎観光大学 長崎県 地域の観光振興の中核リーダーを育成するための事 業。平成 18 年度から 19 年度の二ヵ年事業で、平成 18 年度は基礎知識を学ぶ座学を中心展開。今年度は実現 可能な地域固有のプロジェクトの企画・立案から推進方 策を検討するプログラムを実施中。 5. 長崎しま自慢 カレッジ ながさきしま 厚生労働省パッケージ事業による観光人材育成事業。 自慢観光人材 離島4島が協働で島の魅力を高めるために、観光ガイド 育成協議会 やインストラクター、クリエーター、観光リーダーの育成を (五島市、対 展開中。 馬市、壱岐市、 新上五島町) 9 1. 長崎さるく博06 (長崎市) 市民が直接的に企画・運営に携わった一大プロジェクト 実現過程を通じ結果的に 600 名近くの人材を育成。ボランティアの 壁 が課題に ア)事業概要 ■長崎通さるくの様子 平成 18 年 4 月 1 日から同年 10 月 29 日ま での半年間にかけて行われた日本で初めて のまち歩き博覧会。平成 16 年度に策定され た「長崎市観光2006アクションプラン」を基本 方針に 3 年間の準備期間を経て実施され、期 間中の延参加者は推計で約 1,000 千万人と 集客面でも一定の成功を収めた。 さるく博は、長崎市観光2006アクションプ ■さるくマップ ランの基本理念である「まち活かし・ひと活か し」を具体化するプロジェクトであり、自由参加 型の 42 コースからなる「長崎遊さるく」、ガイド 付き 31 コースからなる「長崎通さるく」、体験 型 74 テーマからなる「長崎学さるく」、専門家 とともに体験する 9 テーマからなる「長崎体 験」で構成されており、参加者は嗜好に応じ てルート・プログラムを選択するものである。 出所)長崎さるく博ホームページ http://www.sarukuhaku.com/ さるく博は、博覧会終了後の現在も同様の街歩きシステムが継続されていることから、単なる博 覧会ではなく、新しい長崎の文化を創造した取り組み、新しい長崎観光を創造した実験の舞台で あったともいわれている。さるく博は、2006年度のグッドデザイン賞(新領域デザイン部門)を受賞 したが、「エクスペリエンスデザイン。新しい観光の発掘方法として有効。都市を多層的な経験の総 体として捉え、楽しめるようにし、都市をデザインの対象としている考え方、市民参加型の観光プロ グラムとして徹底したデザインマネジメントが計られている点、経験をデザイン化している点」と評価 されている。 本プロジェクトで注目すべき点は、博覧会でありがちな 箱物 を一切整備せず、全てを既存の 資源を活用したことと、プロジェクトの企画、運営を 市民 が主体的に担っている点にある。博覧会 の全体企画及びまち歩きルート・マップは 95 名の 市民プロデューサー の手で制作され、基幹プ ログラムとなるガイド付きまち歩きである「長崎通さるく」の運営には約 400 名の市民ガイドが携わっ た。総合プロデューサー茶谷幸治氏の著書「まち歩きが観光を変える」によると、第一次実施計画 における博覧会の実施方針は次のとおりである。 10 すべてのイベントを市民が企画し、市民が実施し、その成果を市民が得るという市 民主体の十方針を貫く。観光都市・長崎の根底的な実力を高めるために、市民と行 政が一体となってあえて取り組む。これを長崎方式として観光による都市活性化の日 本の新しいモデルとしたい。 □すべてのイベントを市民が企画し、市民が実施する。 「2006年イベント(当時の名称)」の意思決定機関である推進委員会は市民で構 成され、さらにイベント実施に市民が広く参加し支援する実行委員会を設け、さらに、 市民を代表する市民プロデューサーがワーキングチームを構成してイベントのプロデ ュースを行い、広報活動を展開する。 □実施されるイベントの大半は継続されることを前提にする。 実施されるイベントは、2006年を記念する単発的なイベントもあるが、大半は長崎 に定着して継続されることを前提に企画され実施されなければならない。そのことによ り長崎の日常的な都市活力を向上させ、市民生活をより充実させ、結果として観光客 を誘引する都市魅力を高める。 出所)まち歩きが観光を変える(学芸出版社:茶谷幸治) 11 イ)人材育成への取り組みと成果 さるく博の企画・運営にあたっては、統括プロデューサー、市民プロデューサー、市民ガイド・サ ポーターの三階層の推進主体が形成され、それぞれを行政サイドである長崎さるく博06推進委員 会事務局(現、長崎市さるく観光推進室)が側面的に支援する体制が構築された。なお、広報部門 は事務局が担っている。 95 名の市民プロデューサーは、主としてさるく博の基盤となるまち歩きルート及びマップ作成や、 ガイド研修等の講師役等として活躍した。プロデューサーの職業は様々であり、雑誌編集やコピー ライトなどに携わるものもいれば、物販店経営者、学生、主婦、退職など多様である。市民プロデュ ーサーのスキルやノウハウを高めるための研修は特に行っておらず、全てが実践課程でノウハウを 習得し高めていった。街歩きルート及びマップは、市民プロデューサーが素案を作成し、現地の住 民とともに実際にコースを歩き修正しとりまとめる作業により完成した。 一方のさるく博の主役でもあるガイド育成にあたっては事務局が研修を実施している。この研修 は、最低でも 300 名という大量のガイドを育成する必要があったことから、研修の敷居(抵抗感)を 極力低くするために 3 日という短期間の研修プログラムを展開し、結果的にこの点が功を奏した。1 日目は座学による長崎の歴史についての研修、2 日目はマップを使った現地研修、3 日目は自ら がガイドを行う発表会というシンプルなものであった。なお、さるく博開催中も、まち歩きに参加した 市民のガイド志願者も多く、随時ガイド研修が実施された。 この結果、さるく博自体の効果としては、延参加人数 1,023.3 万人、経済効果(3次波及まで)865 億円を達成し、これだけでも一定の成功を収めたといえるが、約 100 名の市民プロデューサーと約 400 名(現在 470 名)のガイドは博覧会終了後の現在も長崎の財産として継承されている。また、 さ るく =街歩きが長崎の新しい文化として定着し、長崎市のみならず長崎県、更には九州観光の施 策として発展しつつあるなど、広がりを持った効果がみられる。 【推進体制】 【市民プロデューサー(95 名)】 コアメンバーを中心に マップ作成などを担う。 【市民ガイド・サポーター(約 400 名)】 統括プロデューサー 茶谷幸治 (株式会社経営企画センター代表) 連携・支援 長崎さるく博06推進委員会事務局 12 広報等 また、さるく博の街歩きシステムや市民参加手法の導入を望む自治体も多く、展開は県下に広 がっている。具体的には、平成 19 年度、さるく博で活躍された市民プロデューサーが、長崎県の離 島4島が展開する「しま自慢カレッジ」の講師として参加協力し、地元の市民・市民団体と連携し街 歩きルートやマップ制作を進めるなど、人材の流動化とネットワーク化が進んでいる。 ■長崎さるく博の発展版として九州観光推進機構が展開する 九州さるく 出所)九州観光推進機構ホームページ http://www.welcomekyushu.jp/saruku/ ウ)人材育成・市民参加に関する課題 これまでを総合すると、長崎さるく博は、単なるイベントや従来型の博覧会とは完全に異なる 市 民協働 、 資源活用 、 文化創出 、 観光振興 、 人材育成 を同時に達成した戦略的なプロジ ェクトであり、本研究のテーマである人材育成の観点でみても、企画・運営をコーディネートする市 民プロデューサーと地域の街歩きガイドを、準備期間を含めた 3 年間で 600 名近くを生み出してい るだけでなく、人材育成方法についても、市民プロデューサーや熟練ガイドが講師を担うなど、まさ に市民協働の体制が構築された点は大きく評価できる。 但し、持続可能性という観点に目を向けると課題もみられた。例えば、現在もガイドは基本的に 無償のボランティアとして活動を行っており、事務局から経費として支給されるのは、1 日あたり上 限 1000 円までの交通費のみである。ガイドは自宅から公共交通や自家用車でガイドステーション (現在は出島)まで出向きガイドを行う地域へ移動するが、遠方からガイドステーションに訪れる場 合や、駐車場利用時間が長引いた場合は上限交通費の 1000 円を超えることもあり、超過分は自ら 負担しなければならない。また、準備段階は、例えば専門的な能力を必要な準備作業(脚本作りな ど)に、同分野を本職とする市民プロデューサーが関わる場合、どこまでがボランティアで、どこから 13 を有償扱いにするべきか否かについては、その明確な線引きが出来なかった点が課題であると指 摘されている。 持続可能なシステムを形成する場合は、明確なコンセプトと共有された枠組みを整理しておくこ とが重要である。現時点では、無償ボランティアを基本としたスキームで形成されているが、仮に本 システムをコミュニティ・ビジネスとして発展させ、ガイドの更なるモチベーションの維持やスキルアッ プを図る場合は、ガイド組織の独立と一定の報酬制(有償化)のルールを定めることも必要である。 14 2. 平戸・松浦観光人材育成プロジェクト (平戸・松浦地区観光人材育成協議会) 全国屈指の体験型観光の先進都市 コミュニティビジネス化が成功の鍵。後継者育成や推進組織の自立が課題に ア)事業概要 本プロジェクトは、第 4 回オーライ!ニッポン大賞グランプリに選定された 松浦党の里ほんなも ん 体験の更なる拡大・発展のために実施している人材育成事業である。 松浦党の里ほんなもん 体験の概要及び仕組みは以下のとおりである。 ・ 90 種類の農林漁業体験プログラム ・ 1 日最大 2000 名の受入が可能な民泊体制(500 件の民家が登録) ・ 民間主導の推進体制(推進母体として 松浦体験型旅行協議会 と NPO 法人体験観光ネ ットワーク松浦党 が位置し、具体的な受入を担う 13 地区の受入組織と、総勢 800 名の受入 民家やインストラクターが連携) ・ 年間延べ60回を超えるインストラクター講習会の実施や、事故に備えた賠償責任保険へ の加入といった、安全・安心に対する万全の備えを構築。 ■「松浦党の里ほんなもん体験」の仕組み 出所)体験活動事例集(平成 17・18 度豊かな体験活動推進事業より)平成 20 年 1 月文部科学省 15 イ)人材育成への取り組みと成果 松浦党の里ほんなもん体験への参加者(主に修学旅行生)は年々増加しているが、体験者の増 加に対し地域の受入体制が追いつかない問題が生じていることから、松浦市では平戸市とともに 平戸・松浦地区観光人材育成協議会を組織し厚生労働省 地域提案型雇用創造促進事業(旧パ ッケージ事業)の認定を受け、本プロジェクトの推進を支える人材育成に取り組んでいる。 松浦党のほんなもん体験の推進体制は、NPO法人 体験観光ネットワーク松浦党を中核組織 に、14地区の現地受入基盤で構成されている。14 地区にはそれぞれ「指導主任者」と呼ばれる中 心人物が存在し、中核組織や地区のガイドやインストラクターとの連絡調整及び指導にあたってい る。パッケージ事業では、中核組織の人材となる中核組織リーダー育成コースと、体験インストラク ターコース、指導主任者コースで構成されており、座学だけでなく、実践トレーニングを中心とした カリキュラムを導入している。 13地区の受入組織 【中核組織】 指導主任者 体験インストラクター 指導主任者 体験インストラクター 指導主任者 体験インストラクター 指導主任者 体験インストラクター 指導主任者 体験インストラクター 指導主任者 体験インストラクター NPO法人体験観光 ネットワーク松浦党 旅行代理店 学校 観光客 ■研修コース・内容 コース 体験インストラクター 育成コース 内 容 ■基礎知識編(2回) 体験型観光受入の目的など基礎知識として必要な事項を学ぶ研修。 ■実践訓練編(2回) 基礎知識で受けた講習内容を体験型観光受入時と同じ状況を想定し、 様々な体験インストラクターとしての役割を実践で身につける。また、現場 での対応方法等を学ぶ。 指導主任者コース 体験インストラクター育成コースを終了し、体験型観光の受入を実施する 地区のリーダーとなる人を育成するコース。講習内容は体験プログラムの 作成など地区組織のリーダーとしての必要な能力の習得を図る。(全3回) 中核組織リーダー 体験インストラクター育成コースと指導主任者育成コースを終了した人で、 育成コース 将来の体験型観光の振興を担う人を育成するコース。講習内容は体験型 コーディネート組織等において旅行社営業など日常業務の実地研修を実 施する。 16 各講座には、多くの市民が参加しているが、特に中心的な講座 インストラクター認定証 となる体験インストラクター育成コース新規には、毎回40名近くの 市民が参加しており、他地区でみられるような参加者は少ないとい った問題点はみられない。参加者は、既に市の認定インストラクタ ー資格を有している人や新規登録希望者で構成されており、所定 の回数に全て参加した人には、市が認定証を発行している。(認 定期間は 2 年のため更新のために取得者も参加する仕組み) 体験民泊認定証 講習への参加者が多い最大の要因は、春を中心に実際に修 学旅行生が大勢訪れるという現実的な目標が常に存在するこ とにある。本講習を受けていない場合、受入した際にインス トラクターとして参加できないことが大きなモチベーション となっている。また、その間接的なモチベーションとなって いるのが、体験活動への参加・受入の際に発生する報酬にも ある。 インストラクターとして参加した場合、体験者一人あたり約 1,000 円、民泊受入の場合、 一人当たり 4000 円程度の報酬が得られる。これらの報酬はインストラクターの場合は交通 費や材料代など、民泊受入世帯に至っては食材費などの必要経費も含めるため実質的な収 入ではないが、受入側のモチベーションとなっているのは確かである。無論、報酬だけで はなく、体験者と感動を共に共有できることが受入側の最大のモチベーションとなってい るのは言うまでもないが、地域づくりを無償ボランティアではなく、 コミュニティビジネ ス として展開している点が大きな成功の鍵といえよう。 ウ)人材育成・市民参加に関する課題 ◇後継者の育成 現在の指導主任者やインストラクターは主に高年者で構成されており、今後は若手・中堅の後 継者を育成していくことが必要となる。対象となる人は農水産業以外の職業に就いている人も多い ことから、参加へのメリットをどのように伝えるかがポイントとなる。 ◇推進組織の自立 現在の推進組織である NPO 法人体験観光ネットワーク松浦党の運営は、体験観光の受入手数 料収入等に加え、行政からの補助金により賄われており、経営的に完全に自立しているとはいえな い。活動そのものが公共的な側面を有していることから行政支援は適当とも考えられるが、同 NPO は将来的には完全な自立を目指している。そのためには、受入者数の更なる拡大とともに、株式会 社化などの検討が必要である。 17