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公開 - 高知工科大学

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公開 - 高知工科大学
卒業研究報告書
題目
DLC薄膜の作製と
水素ガスバリア性評価
指導教員
八田 章光 教授
報告者
学籍番号:1070275
氏名:金子 史幸
平成 19 年 3 月 20 日
高知工科大学 電子・光システム工学科
目次
第1章
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
1.6
序論······················································································································· 3
注目される水素エネルギー·············································································3
次世代エコカー水素燃料電池車·····································································3
脆化現象による安全性への懸念·····································································3
実験に至るまでの経緯 ····················································································4
DLC(Diamond-Like Carbon)のガスバリア特性 ··············································5
研究目的 ············································································································5
第 2 章 物質の拡散現象··································································································· 6
2.1 拡散現象について ····························································································6
2.2 拡散方程式からみた飽和流量と時定数の関係 ·············································7
第 3 章 高周波プラズマ CVD 法 ···················································································· 8
3.1 物質の第 4 の状態「プラズマ」·····································································8
3.2 高周波プラズマ放電 ························································································9
3.3 セルフバイアス電圧 ························································································12
3.4 DLC 薄膜の成膜原理 ·······················································································13
第4章
4.1
4.2
4.3
4.4
DLC 薄膜の作製 ································································································· 14
高周波プラズマ CVD 装置 ··············································································14
DLC 薄膜の作製 ·······························································································16
サンプル作製条件 ····························································································17
SEM によるシリコン基板上の DLC 薄膜の膜厚測定 ··································19
第 5 章 DLC 薄膜の水素ガスバリア測定 ····································································· 20
5.1 測定原理 ············································································································20
5.2 水素ガスバリア測定装置·················································································21
5.2.1 立ち上げ手順 ·························································································23
5.2.2 PET シート交換手順 ·············································································24
5.3 水素透過量の定量化 ························································································24
5.3.1 測定方法と測定結果··············································································24
5.3.2 流量変換係数の算出··············································································26
5.4 測定方法と測定条件 ························································································28
5.5 測定結果 ············································································································30
-1-
第 6 章 考察 ····················································································································· 32
6.1 実験結果の信頼性 ····························································································32
6.1.1 水素透過時定数の算出··········································································32
6.1.2 水素飽和流量と時定数の相関 ······························································35
6.2 気体透過係数の算出 ························································································37
第7章
結論······················································································································· 39
研究実績······························································································································· 40
謝辞······································································································································· 40
参考文献······························································································································· 41
使用装置一覧······················································································································· 42
-2-
第1章
序論
水素エネルギーの現状と、環境に優しい水素燃料電池車及びその問題点について簡
潔に説明する。
1.1
注目される水素エネルギー
水素は 1766 年、H.Cavendish により発見された最小最軽量の分子である。200 年以
上前から認知されていた水素が、近年深刻化する環境問題を背景に注目を集めている。
地球温暖化の主な原因として温室効果ガスの増加が挙げられる。温室効果ガスには
二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などがあるが、地球温暖化に影響する割合として
二酸化炭素が 60%を占め、そのうち約 20%がガソリン車及びディーゼル車の排気ガス
が原因とされており、排気ガス抑制のために次世代エコカーの開発が必要である1.1)。
水素エネルギーの大きな魅力は、使用過程において二酸化炭素が発生しないことで
ある。燃料電池や燃焼反応が起こった場合も水が生じるのみである。しかし現在、世
界の水素生産の約 97%は天然ガス(メタン)やナフサなどの化石資源からの製造であ
り、水素製造時に二酸化炭素が発生する1.2)。
化石燃料を利用せず、風力発電や太陽光発電など自然エネルギーを用いて水の電気
分解を行うことで、二酸化炭素を発生させずに水素を製造することが将来は期待され
る。水素をエネルギーとして使用し、使用後に生じた水を再度電気分解して水素を製
造することで、環境にやさしいエネルギーサイクルが完成する。
1.2
次世代エコカー水素燃料電池車
今日、自動車は人間が生活するために必要不可欠になった。世界自動車保有台数は
2004 年末時点で 8 億 5478 万台、2010 年には 10 億台を超えると予想され、中国やイ
ンドを中心とした国の成長とともに著しく増える傾向にある。
現在の自動車の大半が化石燃料を燃焼して走行している。走行時に発生する二酸化
炭素が地球温暖化に大きく悪影響を及ぼすため、少しでも早い段階で次世代のエコカ
ーを世に出す必要がある。さらに石油枯渇問題もあり、これから自動車は大きな転換
期を迎える。
化石燃料を必要とせず、走行時に二酸化炭素を排出しない水素燃料電池車の研究開
発が加速している。水素燃料電池車の走行メカニズムは水の電気分解の逆の反応を利
用する。水素と空気中の酸素から電気を作り出しモーターで走行するため、走行時に
-3-
生じるのは水のみで二酸化炭素は発生しない。水素から走行エネルギーへの変換効率
は 60%まで引き上げられるとされており、ガソリン車の約 25%、ディーゼル車の約
38%に比べて効率的である1.3)。
水素燃料電池車は環境問題を解決する手段として、大きな可能性を持った次世代エ
コカーである。
1.3
脆化現象による安全性への懸念
水素燃料電池車が世界に普及するためには、安全であることが必須の条件となる。
水素は分子が小さいため漏洩しやすい性質があり、漏洩時は無味無臭であるため人間
は気付きにくい。自然に水素が漏れてしまい空気中の酸素と反応して爆発するなどの
危険性も考えられるため、いかに水素を閉じ込めるか水素貯蔵技術の課題がひとつ挙
げられる。
さらに重要な問題として水素脆化現象がある。脆化現象とは、水素が金属中に拡散
浸透すると、金属中に数多く存在する炭素と結合してメタンガスとなり、内部から圧
力がかかることで金属を脆くし破壊する現象である。水素の燃料タンク周辺や燃料電
池までの配管には金属が使用されるため、見逃せない大きな問題である。
安全性をふまえて水素を燃料として扱うためには、水素の製造、輸送、貯蔵技術開
発及び、インフラ整備が必要である。現在、日本にある水素ステーションの大半は実
験段階のものであるが、経済産業省が示すエネルギー基本計画には、「燃料電池自体
の技術開発と並んで、水素の生産、貯蔵及び輸送を含め、利用プロセス全体を通じた
効率を向上させるための技術開発、インフラ整備及び規制の見直しを含む総合戦略を
強力に推進する」と記されており、普及に向けた動きが加速する。
水素を扱う者すべての安全性を確保するために、脆化現象の防止は必須課題であり、
本研究室では炭素系材料を作製し、水素ガスバリア性を正確に評価してきた。
本研究は、水素を安全に扱うための材料技術に貢献しようとするものである。
1.4
実験に至るまでの経緯
2004 年、当時高知工科大学大学院生であった松久治可氏が、DLC 薄膜の水素遮断
性評価を目的として、水素ガスバリア測定装置を作製した。DLC 薄膜の水素ガスバリ
ア性を測定できる装置は全国的にも珍しく、注目される水素エネルギーを安全に取り
扱う研究も盛んに進められている。
松久氏は DLC 薄膜が水素ガスバリア性に優れていることを実験より確認している
が、水素ガスバリア性評価に重点をおいているため、DLC 薄膜の作製に関して詳細な
データがない。DLC 薄膜をどのようにして作れば優れた水素ガスバリア性を有するの
-4-
かを知るために、松久氏の作製した水素ガスバリア測定装置を利用して、DLC 薄膜の
作製に重点をおいて実験開始に至った。
DLC 薄膜の測定では、装置の構造上 DLC 薄膜にクラックが生じて測定結果の信頼
性に問題があった。したがって、本実験では水素ガスバリア測定結果を、理論値と見
比べることで信頼性の確立を目指した。
1.5
DLC(Diamond-Like Carbon)のガスバリア特性
優れたガスバリア性をもつ炭素系材料にDLCがある。DLCとはDiamond-Like Carbon
の略であり、アモルファス炭素の不規則構造からなる準安定な硬質アモルファス炭素
である1.4)。言い換えれば、ダイヤモンドに似た性質を持つ炭素であり、広義に解釈さ
れている。正称そのままに、DLCの性質はダイヤモンドと類似しており、ガスバリア
性をはじめ、高硬度、低摩擦、低摩耗などがある。
DLCは体積当たりの原子数密度が非常に高いため原子間距離が 0.124[nm]と短く、
原子のすき間が狭いため優れたガスバリア性を有する1.5)。DLCのガスバリア性は既に
実用化されている用途があり、飲料用ペットボトルの内側にDLCコーティングするこ
とで外部から酸素の透過を遮断し、酸化を防いで飲料の品質を長時間保つ技術が一例
である。
しかし、DLC は高硬度であるがゆえにフレキシブル性には欠ける。DLC 薄膜を成
膜する PET シートはやわらかく容易に曲げられるため、DLC にクラック(亀裂)が
発生している可能性があり、評価方法に不安要素があった。
本研究では、拡散方程式から導き出した理論と実験結果を比較することで、水素ガ
スバリア性評価の信頼性を確立し、DLC 本来の水素ガスバリア性評価を行った。
1.6
研究目的
本研究は、水素ガスバリア性 DLC を作製し水素ガスバリア性を正確に測定するこ
とを目的とする。水素透過量(漏洩量)と拡散の時定数を比較し、拡散方程式の理論
値と測定値の関係を考察して、水素ガスバリア性評価の信頼性を確立する。
-5-
第2章
物質の拡散現象
水素ガスバリア性を評価するために、物質の拡散現象の考え方が密接に関わる。水
素を含め、物質が拡散現象を起こすメカニズムについて説明する。
2.1
拡散現象について
拡散現象とは、熱、濃度、粒子などの「もの」にある境界を隔てて温度差や濃度差
が生じたとき、状態が均等になるよう自発的に移動する現象を指す。
拡散現象は自然界に広く見られる現象であり、我々人間が生活するなかで身近なも
のでもある。例えば、空気よりも軽いヘリウムガスが詰まった風船は、数日置けばし
ぼんで浮かなくなる。風船中のヘリウムガスの濃度を 100 と考えると、空気中での濃
度は 0 とみなすことができ、風船の壁を挟んで濃度差が生じたことになる。拡散現象
により、ヘリウムガス濃度は均等な状態になろうとするため、風船の壁を通り抜け空
気中に抜けて風船はしぼむのである。水中に落としたインクが広がる過程や、満員電
車の扉が開くと車内外の人口密度が均等になるよう人が車外に押し出されることも
拡散現象である。
高圧水素(濃度: c )
高圧水素(濃度: c )
DLC
浸透
l :シート厚
脆化
基材 PET
漏洩
図 2.1
l :シート厚
脆化
基材 PET
漏洩
真空
真空
PET と DLC コートした DLC-PET における水素の拡散
図 2.1 に水素の拡散モデル図を示した2.1)。PETの片側に水素を供給しもう片方を真
空引き(水素濃度がほぼ 0 の状態)することで、PETを境界とした濃度差が生じる。
濃度差が均等になるように水素は移動する。水素ガスバリア性を測定するために、PET
とDLC-PETとで水素がどのように拡散しているか理解する必要がある。
-6-
2.2
拡散方程式からみた飽和流量と時定数の関係
前節で述べた拡散現象は、1855 年に A.Fick により提唱された拡散方程式で表すこ
とができる。
J = −D
dc
dz
(2.1)
dc
d 2c
=D 2
dt
dz
(2.2)
(2.1)
(2.2)式はそれぞれ Fick の第 1 法則、第 2 法則である。 J は単位面積を通し
て単位時間に流れる量であり、 D は拡散係数である。 c は濃度を示すため、濃度差が
大きくなればなるほど流量 J が増加する。
拡散方程式を用いて、PET シートを透過する水素の飽和流量と流量変化の時定数に
ついて考える。図 2.1 に示したように、PET シートの片側に水素圧力を与えた後、時
刻 t においてシートの反対側へ漏洩する水素量は、1 次元の拡散方程式から解析的に
J (l , t ) =
∞
Dc ⎡
nπ
⎤
+
1
2
(−1) n exp(− D( ) 2 t )⎥
∑
⎢
l ⎣
l
n =1
⎦
(2.3)
と求められる2.2)。ここで J :流量、c :水素濃度、 D :拡散係数、l :PETシート厚である。
十分に時間が経過し指数関数の項がすべて収束すると、水素の漏洩量は飽和値、
J (l , ∞) =
Dc
l
(2.4)
となる。指数関数の項のうち、 n = 1 の項は最も時定数が長く、これは漏洩量が最終
的に飽和値に収束する時定数を与える。時定数は、式(2.3)より
τ1 =
l2
Dπ 2
(2.5)
となるため、厚さ l が一定のとき飽和流量は時定数の逆数に比例することがわかる。
DLC のコーティングは拡散係数 D が小さくなる、またはシートの厚さ l が大きくなる
ことと等価であり、コーティングにより飽和流量とともに時定数の逆数は小さくなる
はずである。
拡散方程式から理論的に、飽和流量と時定数は反比例の関係にあることを導き出す
ことができる。
-7-
第3章
高周波プラズマ CVD 法
高周波プラズマ CVD(Chemical Vapor Deposition)法は、薄膜材料を作製するため
のひとつの手法として広く用いられている。DLC 薄膜がどのようにして作製されるの
か、プラズマの基礎から順に説明する。
3.1
物質の第 4 の状態「プラズマ」
1928 年、アメリカの I.Langmuir が電離気体に対してプラズマと呼んだことが語源で
ある。物質の 3 態である固体、液体、気体の次の状態であるため、第 4 の状態とも呼
ばれ、正と負の荷電粒子が共存し電気的に中性になっている状態である。
中性原子
電子
イオン
(A)
(B)
図 3.1
気体とプラズマのモデル図
氷を加熱すると水、水蒸気といったように物質の状態が変化する。水蒸気をさらに
加熱しエネルギーを与えると、気体を構成する原子や分子の運動が激しくなる。原子
は図 3.1(A)3.1)に示すように、原子核の周りに電子が存在して形成されているが、外
部からエネルギーを与えられると電子が飛び出すため、一般的に原子から負の電荷を
持つ電子と、正の電荷を持つイオンに分かれて電離する。
(B)のように、全体からみ
て電気的に中性を保っている状態をプラズマと呼ぶ。
電離させるためのエネルギー源として、高周波、マイクロ波、熱など挙げられる。
既に、プラズマ技術は PDP(Plasma Display Panel)
、蛍光灯、薄膜材料の作製などに
実用化されている。
プラズマの高エネルギー状態における化学反応を利用すれば DLC 薄膜の作製が可
能である。
-8-
3.2
高周波プラズマ放電
気体放電とは、与えられたエネルギーにより気体中の原子や分子が電離し、気体中
に電流が流れる現象である。もともと、気体中にはわずかな初期電子が存在しており、
エネルギーを得た初期電子が気体中の原子や分子に衝突し、電離を繰り返すことで電
流が流れる。自然現象で見られる雷が一例である。
陰極
初期電子
電離
電界影響力
電子と 2 次電子(緑)
原子・分子
イオン
陽極
図 3.2
直流電圧下による放電
高周波プラズマ放電は交流電源であるため、電極の正負が変化し放電原理がやや複
雑である。まず、放電原理が単純な直流電圧下によるプラズマ放電を説明する。図 3.2
は、陰極と陽極の 2 つの電極間に直流電圧を印加した放電モデル図である。もともと
電極内には、わずかに初期電子が存在する。初期電子は負の電荷を持っているため、
直流電圧により陽極に引き寄せられて運動エネルギーを得る。電極内にある気体原子
-9-
と分子は電気的に中性であるため電界に影響されないが、運動エネルギーを得た初期
電子が衝突することで電離が起こり、気体原子や分子から新たに電子とイオンが生ま
れる。同時に、イオンが陰極へ衝突したときに、電極から 2 次電子が発生する。前者
をα作用、後者をγ作用と呼ぶ。
電子は負、イオンは正の電荷を持つため、それぞれ陽極と陰極へ引き寄せられ運動
エネルギーを得る。同様にして、原子や分子と衝突が起こりなだれ方式に電子が増加
し陽極へ引き寄せられて放電が起こる。直流電源の特徴は、α作用とγ作用の 2 つの
作用によって電子が生まれて放電が維持されることである。
高周波電源
コンデンサ
電極
移動距離
電子: l
イオン
電子
電極間距離
d
イオン: h
接地電極
図 3.3
高周波プラズマ放電の概念図
次に、高周波プラズマ放電について説明する。電離を引き起こすためのエネルギー
源に高周波を用いて放電させる手法を、高周波プラズマ放電と呼ぶ。電波法により工
業周波数と定められている 13.56[MHz]の高周波を使用するのが一般的である。
高周波による電子の振る舞いを考えるために、平行平板型高周波放電の概念図を図
- 10 -
3.3 に示す。高周波電源と電極とを接続し、平行になるように接地電極を設置する。
電極間距離を d とし、高周波交流電界により電子は移動するため、電子が半周期に移
動する最大距離を l 、イオンを h と示した。
直流電圧源と異なる点は、高周波を用いているため陽極と陰極が交互に入れ替わる
点である。13.56[MHz]の高周波を用いた場合、1 秒間に 1356 万回電極の正負が入
れ替わるため、理論的に電子やイオンは図 3.3 の上下方向に振動するように移動する。
ここで、電子とイオンの質量が重要になる。電子の質量は 9.109×10-31[kg]、陽子
の質量は 1.673×10-27[kg]で電子が圧倒的に軽く、3 桁ほどの差がある。電界により
電子とイオンが同じエネルギーを得た場合、軽い電子は速く移動できるがイオンは電
子に比べて格段に遅くなるため、電極間で速度差が生じる。
高周波による電界の変化では、電子は瞬時に電極まで達するが、イオンは移動速度
が遅いため陰極にたどり着くまでに電極が入れ替わる。よって、陰極まで達すること
なく電極間の往復を繰り返し、捕捉されるため l > d 、 h < d の状態である。
電子は電極間を活発に動き回るためα作用が活発に行われるが、イオンは捕捉される
ためγ作用はわずかである。高周波放電の特徴は、γ作用の助けを借りずともα作用
のみで放電が維持できることである。また、α作用が活発になることで、比較的安定
した均一な放電が実現できる3.2)。
- 11 -
3.3
セルフバイアス電圧
高周波プラズマCVD法に欠かせない要素となるのがセルフバイアス電圧である。セ
ルフバイアス電圧とは、高周波プラズマ放電時に電極に発生する負の直流電圧であり、
接地電極の面積が高周波電極の面積よりも大きく非対称放電になった場合に高周波
電極に発生する3.3) 3.4)。
(A)
高
自己バイアス電圧
周
波
t
電
極
電
圧
(B)
放
電
電
Ⅰ
t
流
Ⅱ
図 3.4
高周波電極電圧と放流電流の時間変化
平行平板型高周波放電には、図 3.3 に示すように通常電源側にコンデンサを接続す
る。高周波電極が接地電極の面積に比べて小さいとき、高周波電極に図 3.4(A)に示
す負の直流電圧、すなわちセルフバイアス電圧がかかる。
図 3.3 の回路において、高周波電源からコンデンサに蓄えられる電荷を、電圧の一
周期で平均すれば 0 である。したがって、高周波電極に流れる電荷の平均は 0 である
から、図 3.4(B)のように電子電流Ⅰの面積とイオン電流Ⅱの面積が等しくなければ
ならない。
注目すべき点は、ⅠとⅡの面積が等しくなるまでに時間差が生じることである。イ
オンは電子に比べ移動速度が遅いため、電子電流Ⅰと同じ面積を得るまでに長時間必
要になる。ⅠとⅡの面積が等しくなるようにセルフバイアス電圧が自発的に生じる。
- 12 -
3.4
DLC 薄膜の成膜原理
前節で説明したセルフバイアス電圧は DLC 薄膜を作製する上で重要な役割を果た
す。
セルフバイアス電圧は負の直流電圧であるため、イオンは高周波電極に向かってひ
きつけられる。DLC薄膜を作製する場合、原料となる炭素を含む気体であるアセチレ
ン(C2H2)やメタン(CH4)を高周波により電離させる。電離した炭素イオンと水素
イオンはセルフバイアス電圧により高周波電極にひきつけられるため、高周波電極に
DLC薄膜を得ることができる。
高周波放電の特徴として、電極を絶縁物で覆った場合でも放電は維持できるため、
高周波電極に DLC 薄膜を作製したい基材を設置することで任意の基材に DLC 薄膜を
得ることが可能である。
また高周波プラズマ CVD 法は、同時にラジカルによる成膜も行われるが、セルフ
バイアス電圧とα作用により、不純物が少なく緻密な DLC 薄膜が作製できる。
- 13 -
第4章
DLC 薄膜の作製
DLC 薄膜作製装置の構造説明、サンプルの作製条件と順を追って説明する。
4.1
高周波プラズマ CVD 装置
DLC 薄膜の成膜手法は CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング法、
イオンビーム法などがある。本研究では、基材に対して均等かつ密着性が高い DLC
成膜が可能である高周波プラズマ CVD 法を用いて成膜を行った。図 4.1 に高周波プ
ラズマ CVD 装置の外観図、図 4.2 に系統図を示す。
図 4.1
高周波プラズマ CVD 装置の外観
- 14 -
リークバルブ
保護抵抗
8M
A
マスフロー
ローパス
フィルタ
ピラニゲージ
B
D
T.M.P.
高周波電源
シュルツ真空計
E
マルチメータ
F
C
R.P.
レギュレータ付アセチレンボンベ
図 4.2
成膜装置の構造図と系統図
真空装置としてロータリーポンプと水冷式ターボ分子ポンプが備え付けられてお
り、シュルツ真空計とピラニゲージとを用いて真空度を確認する。DLC 薄膜の原料と
なる気体ガスはアセチレンを用いており、配管に接続されたマスフローコントローラ
で流量を制御する。また、アセチレン以外にメタンやアルゴンをチャンバー内に供給
できる構造になっており、アセチレンとメタンは配管を共有している。マスフローコ
ントローラはメタン用に構成されているため、アセチレンの流量に換算して制御を行
った。
基材となる PET シートは、銅製の円盤状のサンプル設置台に取り付ける。サンプル
設置台には水冷機構により PET シートの温度上昇を抑えて、変形を防いでいる。
入射電力は、高周波電源装置の POWER ADJUST のつまみで 0~1400[W]まで調節
できる。プラズマ生成時に高周波の反射電力が生じるため、マッチングボックスで反
射電力を極力抑える。
セルフバイアス電圧の測定は、サンプル設置台からローパスフィルタを通してマル
チメータで測定を行う。本研究以前のローパスフィルタの設計が不適切で正確なセル
- 15 -
フバイアス電圧測定が行えなかったため、図 4.3 のローパスフィルタを新設した。
図 4.3
4.2
ローパスフィルタとセルフバイアス電圧測定用のマルチメータ
DLC 薄膜作製方法
まず、ロータリーポンプとターボ分子ポンプを用いて装置のチャンバー内及びアセ
チレンボンベまでの配管内を約 6×10-3[Pa]まで真空引きする。マスフローとプラ
グバルブB両方が閉じていることを確認し、アセチレンボンベのメインバルブを開き、
レギュレータを調節して 0.04[MPa]まで開く。配管中に設置したマスフローコント
ローラでアセチレン流量を 70[sccm]に制御し、真空引きされたチャンバー内に供
給する。なお、マスフローコントローラはメタン用に校正されているため 100[sccm]
と入力することで、実際にはアセチレンの流量は 70[sccm]となる。成膜中は排気
及びアセチレンの供給は連続的に行われる。
次に、高周波電源装置の電源を入れ POWER ADJUST で電力調節をする。RF POWER
のスイッチを ON にすると 13.56[MHz]の高周波がチャンバーへ照射されプラズマ
が発生する。本実験前にあらかじめ反射電力のマッチングを調節することで、成膜条
件を揃える。成膜時間はストップウォッチを用いて測定し、RF POWER を OFF にす
- 16 -
れば、高周波の照射が途切れてプラズマも消滅する。
最後に、アセチレンボンベのメインバルブを閉じて、チャンバー内及び配管内を約
6×10-3[Pa]まで真空引きした後に成膜サンプルを取り出す。
4.3
サンプル作製条件
DLC 薄膜作製にはアセチレンガスを用いた。入射電力は反射電力の調節が行いやす
いことや、発熱による PET シートの変形、DLC 成膜速度などを考慮して 200[W]と
し、成膜時間を変化させた。高周波照射前と照射時のチャンバー内の各気圧をシュル
ツ真空計で測定し、成膜前と成膜中の気圧として表 4.1、4.2 に示す。また、PET シー
トは直径 75[mm]、厚さ 0.5[mm]のものを用いている。
表 4.1
DLC 薄膜の成膜条件
原料気体
C2H2
供給流量[sccm]
70
電力[W]
200
周波数[MHz]
13.56
セルフバイアス電圧[V]
-594~ -595
成膜時間[sec]
30,60,90,120,600
表 4.2
DLC 薄膜の成膜時間の詳細と気圧変化
成膜時間[sec]
成膜前気圧[Pa] 成膜中気圧[Pa]
30
30s×1
4.9
4
60
20s×3
5.1
4.2
90
20s×4+10s
5~5.2
4.2~4.3
120
20s×6
5.2~5.4
4.3~4.4
600
10s×60
5.8
4.4
表 4.1 の成膜条件で作製した DLC 薄膜は、成膜時間別に 5 種類に分かれる。各 DLC
薄膜の成膜手法の詳細を表 4.2 に示した。60s の DLC 薄膜を作製するとき、プラズマ
を 60 秒間連続で発生させると温度上昇のため、PET シートが変形した。したがって、
30s よりも長時間成膜を行う場合は、高周波の照射の ON、OFF を切り替えて PET シ
ートの冷却時間を設けた。
- 17 -
(A)DLC-PET 30s
(B)DLC-PET 60s
(C)DLC-PET 90s
(D)DLC-PET 120s
(E)DLC-PET 600s
図 4.3
(F)DLC-PET 600G
DLC-PET サンプル図
図 4.3 に作製した DLC-PET を示した。
(A)から順に成膜時間が長い DLC-PET であ
る。外観上、成膜時間が長くなれば膜厚が増加するため茶色から黒色へと変化した。
600 秒成膜した DLC-PET については表面に光沢も見られた。また、DLC 薄膜を成膜
し高周波プラズマ CVD 装置から取り出す際に、温度変化が生じるために PET シート
は伸縮するが、DLC 薄膜は高硬度の特性をもち伸縮しないため DLC-PET が湾曲して
いる。
- 18 -
(F)は 600 秒成膜した DLC-PET に、銅ガスケットをトールシールで接着したサン
プル(以下 600G)である。水素ガスバリア測定装置に設置するときに、O-ring が直
接 DLC-PET に触れないように工夫し、クラック発生を防止するものである。トール
シールの乾燥時間は約 1 日で、充分に乾燥させてから測定へと移った。
4.4
SEM によるシリコン基板上の DLC 薄膜の膜厚測定
DLC 薄膜の膜厚を調べるために、シリコン基板上に成膜した DLC 薄膜の観察を行
った。PET シートは帯電するため DLC 薄膜の詳細が分からず、シリコン基板を代用
として用いた。
PET シートとシリコン基板上に積もる DLC 薄膜は同じであるが、膜厚は基板の材
質により変化する可能性があるため、あくまでも DLC 薄膜の膜厚は目安として考え
る。
約 1.67µm
図 4.4
シリコン基板上の DLC 薄膜(600s 成膜)
図 4.4 にシリコン基板上に成膜した DLC 薄膜を SEM で観察した。図 4.4 の左側が
シリコン、中央が DLC 薄膜である。シリコン基板の断面を真上から観察したが、多
少像が揺らいでいる。600 秒間成膜した DLC の膜厚は約 1.67[µm]であった。
- 19 -
第5章
定
DLC 薄膜の水素ガスバリア測
2004 年、当時修士課程在学の松久治可氏が設計した水素ガスバリア測定装置を用い
て測定を行った。しかし、2006 年 10 月、動作不良によりターボ分子ポンプ一台を交
換し、新たに OSAKA VACUUM 社の TG220F を用いた。排気速度が変化したため、
従来の流量校正値を使用できず、改めて水素流量の校正を行った。
5.1
測定原理
水素は最小・最軽量の分子であるため、物質に対して透過しやすい性質がある。第
2 章で拡散現象について述べたが、本章で紹介する水素ガスバリア測定装置は PET シ
ートを境界として、水素の濃度差を生じさせるため PET シートで水素の拡散が起こる。
僅かながら PET シートを透過した水素は、四重極型質量分析装置(QMS)で検出
されイオン電流値として測定される。水素の透過量が多ければ QMS のイオン電流値
も増加する。
PET シートを DLC-PET に変更することで、DLC 薄膜自体の水素ガスバリア性を測
定することが可能である。
水素ガスバリア測定装置は拡散現象をうまく利用した測定装置である。
- 20 -
5.2
水素ガスバリア測定装置
水素ガスバリア測定装置の外観図と構造図とを、それぞれ図 5.1、5.2 に示す。
図 5.1
水素ガスバリア測定装置の外観図
図 5.1 は水素ガスバリア測定装置の外観図である。装置を支えるステージ台の上部
には、水素供給ライン、水素供給チャンバー、PET シート設置台、真空チャンバーが
順に設置されている。真空チャンバーにはゲートバルブあり、QMS、直列 2 段ターボ
分子ポンプへと接続されている。
水素ガスバリア測定装置の手前には、マルチメータと PC があり、それぞれ水素供
給圧力と QMS によるイオン電流値が表示される。真空計として、真空チャンバーに
クリスタルゲージと B-A 真空計が設けられている。
- 21 -
低圧水素レギュレータ
C
D
A
I
E
レギュレータ付水素ボンベ
水素供給チャンバー
隔膜真空計
B
リークバルブ
低圧水素保持室
上段チャンバー
F
G
クリスタル真空計
H
R.P.1
ゲートバルブ
下段チャンバー
質量分析装置
B-A真空計
T.M.P.1
J
T.M.P.2
図 5.2
R.P.2
水素ガスバリア測定装置の構造図と系統図
- 22 -
図 5.2 に水素ガスバリア測定装置の構造図と系統図をまとめた。真空排気装置とし
て 2 台のロータリーポンプ R.P.1、R.P.2 と 2 台のターボ分子ポンプ T.M.P.1(新設)
、
T.M.P.2 がある。チャンバー全体の真空度は下段チャンバーに接続されている B-A 真
空計で測定した。また、DLC-PET は水素供給チャンバーと上段チャンバーの間に、
O-ring で挟みこむように設置した。DLC-PET 交換時にはゲートバルブを閉めて、下段
チャンバーの真空引きを行いながら試料交換が可能である。
水素供給ラインについて、レギュレータ付水素ガスボンベから、低圧水素レギュレ
ータ、バルブ B を通して水素供給チャンバーに水素を供給した。水素供給圧力は水素
供給チャンバーに備わっている隔膜真空計を使用して制御した。
水素供給チャンバーに水素を供給し、DLC-PET を透過した水素を下段チャンバー
の質量分析装置で検出する仕組みである。
5.2.1
立ち上げ手順
水素ガスバリア測定装置がすべて停止した状態からの立ち上げ手順を説明する。な
お、装置が停止してチャンバー内が長時間高真空でない場合、チャンバー内の不純物
により正確な測定が行えない可能性があるため、PET シートを設置せずに、装置の立
ち上げを完了し PET シートの交換手順へ移る。
はじめに、チャンバー内をすべて真空引きする必要がある。真空引きポンプは、ロ
ータリーポンプが 2 台、ターボ分子ポンプが 2 台である。まず、ロータリーポンプを
使用して、ゲートバルブを開いた状態でチャンバー全体の真空度をクリスタルゲージ
表示で約 0.8[Pa]以下まで真空引きする。あらかじめクリスタルゲージは真空度が 1×
10−5[Pa]以下の圧力でゼロ点補正している。また、十分に真空引きを行った後、B-A
真空計を用いて真空度を測定することも可能である。
次に、R.P.2 を作動させた状態で、T.M.P.1、T.M.P.2 を作動させる。T.M.P.1、T.M.P.2
のコントロールパネルは、水素ガスバリア測定装置の正面下部に設置している。
T.M.P.1、T.M.P.2 により圧縮された気体は、R.P.2 を通して排気管へと送られる。した
がって、T.M.P.1、T.M.P.2 を作動させているときは、常に R.P.2 が作動している状態で
ある。
T.M.P.1、T.M.P.2 を作動させ、B-A真空計でチャンバー全体の圧力が 1×10−4[Pa]以
下になっていることを確認し、QMSの電源を入れる。QMSにはフィラメントが取り
付けられており、印加電圧を変えることでQMS感度を調節できる。QMSの操作はPC
上ソフトのQuad Visionから行うことができる。Quad Vision起動し、画面左上部のSEM
をクリックし、エミッションを 30[μA]、SEMを 800[V]に設定し、測定開始する。
イオン電流値が棒グラフで表示され、保存開始をクリックすることで排気中のイオン
電流値測定データが保存される。T.M.P.1、T.M.P.2 を作動させて、水素ガスバリア測
定ができるまでに焼く 12 時間以上の真空引きが必要である。
- 23 -
最後に、12 時間以上真空引き後、B-A真空計は約 4×10−6[Pa]に達し、PC上の各
分子量のイオン電流値の減少量が飽和すれば、十分に排気されたと判断する。
次節では、サンプルの取り付け及び交換の手順を説明する。
5.2.2
PET シート交換手順
水素ガスバリア測定装置の立ち上げが完了すると、次にPETシートの取り付けに入
る。現段階で、R.P.2 と直結するT.M.P.1、T.M.P.2 が作動し、ゲートバルブが開いてチ
ャンバー全体の真空度が約 4×10−6[Pa]と仮定する。
はじめに、PET シートの設置箇所は水素供給チャンバーと上段チャンバーの間であ
る。ゲートバルブを閉めて、水素供給チャンバーのリークバルブで大気開放する。ゲ
ートバルブを閉めることで、T.M.P.1、T.M.P.2 と R.P.2 は作動したまま PET シートが
取り付けられる。
次に大気開放すると、両チャンバーの接合部に 8 本のナットがあり、外せば PET
シートの設置台が見える。PET シートは両側から O ring で圧迫されることで真空を保
つため、PET シートから O ring がはみ出ないように取り付ける。
取り付けが終わると、
逆の手順でチャンバーを固定し、バルブ A,H を開き R.P.1 を用いて真空引きする。
最後に、クリスタルゲージの真空表示が約 0.8[Pa]以下になると、R.P.2 を停止しバ
ルブ H を閉じる。圧力の急激な変化による QMS フィラメント破損を防ぐため、QMS
の電源が切れていることを確認して、ゲートバルブを慎重に開き、チャンバー全体の
排気ラインをターボ分子ポンプ通過ラインへと変更する。
以上がサンプル設置及び交換の手順である。前節同様に、真空引きには約半日を要
する。
5.3
水素透過流量の定量化
QMS による質量分析により、下段チャンバー内の水素分圧はイオン電流値として
測定される。イオン電流値を一般的な流量単位に変換するために、上段チャンバーに
微量水素をリークさせ、蓄積法により水素透過流量の定量化(校正)を行った。測定
方法から順に説明する。
5.3.1
測定方法と測定結果
水素透過量の定量化を行うために、水素ガスバリア測定装置を用いて測定を行った。
図 5.2 を参考に測定の手順を説明する。
- 24 -
水素ガスバリア測定装置にPETシートを設置せず、バルブA,B,C,G,Hを閉じた状態で
チャンバー全体を 5.3 と同じ状態まで真空引きする。PETシートを設置していないた
め、水素が供給されるチャンバーは、水素供給チャンバーと上段チャンバーとの体積
の和となる。本研究ではチャンバー体積を 2.5×10-3[m3]と見積もった。
チャンバー全体の充分な真空排気が終わると、低圧水素レギュレータで水素気圧を
約 2.86[kPa]に調節しバルブ C を開く。次にニードルバルブ E を 1 回転ほど開けて
微量な水素を低圧水素保持室へ流し、同時に R.P1 で水素排気も行う。QMS の電源を
切った状態でバルブ G を開き、ニードルバルブ F を 5 目盛程度開くことで、水素低圧
保持室からチャンバー全体に微量の水素が流れる。
B-A真空計で、チャンバー全体の真空度が 10-5[Pa]台であることを確認して、QMS
の電源を入れ質量分析を開始する。測定条件はエミッション 30[µA]、SEM[800V]
とした。水素流量の調節は基本的にニードルバルブFのみを用いて行ったが、より多
くの水素流量が必要な場合は、ニードルバルブEも調節した。
チャンバー全体に微量な水素が流れているため、QMS が示す水素イオン電流値が
通常よりも高くなる。ニードルバルブ F を調節すると、水素イオン電流値が変化する
事を確認しておく。流量調節し水素イオン電流値が安定すれば、ソフト PC-LINK を
立ち上げ、水素用に設定変更したクリスタル真空計に接続した PC5000 から、測定デ
ータを PC に取り込む。測定保存間隔は 30[s]とした。
上記の準備が整えば、クリスタル真空計を水素測定モードにしたうえでゼロ点補正
を行い、ゲートバルブを閉めて PC-LINK で測定開始する。
表 5.1
測定番号
測定条件(QMS エミッション 30µA、SEM800[V])
水素イオン電流設定値[A] 測定後の水素イオン電流値[A]
①
1.0×10-10
1.1×10-10
②
2.4×10-10
2.5×10-10
③
4.0×10-10
4.2×10-10
④
7.3×10-10
7.5×10-10
⑤
9.4×10-10
9.5×10-10
Close
1.2×10-12
−
表 5.1 に示した水素イオン電流設定値の状態で、ゲートバルブを閉めて測定を開始
した。測定後は、ゲートバルブを開き測定前と測定後でチャンバー内の水素イオン電
流値に大幅なずれがないかを確かめた。水素以外のリークなどによる気圧の上昇も考
えられるため、バルブ G を閉じ水素供給ラインを絶った状態でも同様に測定を行った。
PC-LINK で得られた測定データは、PC5000 表示の電圧値を保存しているため、気
圧に変換する必要がある。クリスタルゲージのマニュアルをもとにして、5.1 式で気
- 25 -
圧変換した。
気圧 = exp((電圧値 − 3) × ln(10))
(5.1)
5.1 式の電圧値に、PC5000 より得られた測定データを代入して、気圧換算した測定
結果を図 5.3 に示す。
0.8
⑤
④
③
気圧[Pa]
0.6
②
0.4
①
0.2
close
0
0
0.1
0.2
時間[h]
図 5.3
0.3
水素気圧の測定結果
水素イオン電流が増えれば、気圧の上昇も早い結果となり、いずれもほぼ直線にな
った。また、バルブ G を閉じた状態で測定を行った「close」では、他の条件の測定に
必要な時間では気圧の変化は見られなかったため、リークやアウトガスは考慮せずに
圧力上昇はすべて水素によるものとして流量変換係数を算出した。
5.3.2
流量変換係数の算出
流量変換係数の算出を行うために、まず、イオン電流値の更正を行う。5.5.1 の水素
イオン電流値の測定条件は QMS 検出器(SEM)の電圧を 800[V]としたが、DLC
薄膜の水素ガスバリア測定時には 1000[V]としている。したがって、前節で述べた
- 26 -
水素イオン電流値[A]
水素イオン電流値を SEM 電圧 1000[V]の値に換算して、変換係数を求める。
10-8
10-9
10-10
10-11
700
図 5.4
800
900 1000 1100 1200 1300
QMS電圧値[V]
水素イオン電流値の QMS 電圧依存性
図 5.4 に水素イオン電流値の SEM 電圧依存性を片対数グラフで示した。測定条件
として 4 日の充分な排気が行われた後で水素イオン電流値の測定を行った。図 5.4 を
もとにして、SEM800[V]を 1000[V]の値に換算するためには、16.6 倍すればよい
ことが分かった。
圧力上昇差分から流量を算出するために、崎元聡一氏の卒業論文である「水素リー
ク量定量化」を参考に流量換算を行った。換算方法として 5.2 式で示す蓄積法を使用
する5.1)。
圧力上昇差分A[Pa]× 体積B[m3]÷ 時間C[s]は、
=
AB
[ Pa ⋅ m 3 / s ]
C
(5.2)
と表され、5.2 式を 5.3 式に代入することで流量換算することができる。また、5.2 式
に必要なチャンバー体積は、2.5×10-3[m3]とした。
[ Pa ⋅ m 3 ]
10 6 × 60
1 ⋅ [ Pa ⋅ m / s ] = 1
≒ 592[ sccm]
×
[s]
1.01325 × 10 5
3
(5.3)
以上より、気圧[Pa]上昇速度から流量[sccm]に換算した。流量とイオン電流値
の関係を図 5.5 に示す。
- 27 -
水素流量[sccm]
0.004
0.003
0.002
0.001
0
0
1
水素イオン電流[A]
2
[×10 ]
-8
図 5.5 水素イオン電流値と水素流量の相関
(エミッション 30[μA]、SEM1000[V])
図 5.5 は、QMS の水素イオン電流値と、蓄積法より求めた水素流量の相関を示すも
のである。赤プロットが表 5.2 の測定条件より得られた結果であり近似線を加えた。
またバルブ G を閉じた状態での測定結果も原点付近に示した。
原点からの近似直線に測定結果が沿い、イオン電流値と流量は比例する結果となっ
た。したがって、イオン電流値を流量に変換するために、5.4 式を用いた。
流量[sccm] = 2.21×105[sccm/A]×イオン電流値[A]
(5.4)
以上より、流量変換係数は 2.21×105[sccm/A]として考える。
5.4
測定方法と測定条件
水素ガスバリア測定装置に PET シートの取り付けが終わり、十分に排気すれば測定
が可能である。
水素を供給する前にバルブ A を閉じておく。水素供給ラインは、水素ボンベから低
圧水素レギュレータを通して水素供給チャンバーへつながっている。したがって、供
給する水素の圧力は低圧水素レギュレータと隔膜真空計に接続したマルチメータを
用いて行う。本実験では、水素圧力は 25[kPa]で統一しているため、電圧換算して
- 28 -
マルチメータ表示で 179[mV]に調節した。また、水素ガスバリア測定には 2 時間以
上かかるため、最初の設定圧力よりも徐々に圧力が高くなる。よって、179[mV]に
合わすために初期設定値を 175[mV]に調節した。
水素供給後に QMS の電源を入れて、5.2.1 の手順と同様にしてイオン電流値の測定
と保存を行う。測定中に B-A 真空計を作動させると、フィラメントに吸着していた水
素ガスが放出され、測定に支障をきたすため作動させない。
水素のイオン電流値が徐々に増加しはじめ、増加量が飽和する。飽和すれば、バル
ブ D を閉じて水素の供給を遮断し、バルブ C、I を開いて R.P.1 で水素供給ラインか
ら排気する。水素イオン電流値は、供給時と同様にして減少し減少量が飽和すれば測
定終了である。
最後に、Quad Vision のデータを CSV ファイルに変換して PC 上に保存する。DLC
薄膜の水素ガスバリア性を評価するために、QMS 感度は表 5.2 に示すように設定し統
一した。
表 5.2 測定条件
質量分析装置
ANELVA M-200QA
使用ソフト
Quad Vision Version 3.2
QMS エミッション[μA]
30
QMS SEM[V]
1000
水素圧力[kPa]
25
実験前真空引き時間[h]
12 以上
測定保存間隔[s]
60
QMSエミッション、SEM、測定保存間隔はQuad Visionで設定し、水素圧力はマルチ
メータで制御した。また、実験前の真空引きについては、ターボ分子ポンプ 2 台を用
いて 12 時間以上真空引きを行うと同時に、排気の様子をエミッション 30[µA]、SEM
800[V]QMSで測定し、リークの確認と水素供給前のチャンバー内の状況を実験毎
に確認した。参考として、水素供給前の水素イオン電流値はエミッション 30[µA]、
SEM 1000[V]条件で約 2×10-12[A]である。
- 29 -
5.5
測定結果
DLC 薄膜の水素ガスバリア性の測定結果を述べる。
-5
水素流量[sccm]
[×10 ]
PETシート
1
DLC-PET
30s
60s 90s
120s
0.5
600s
0
0
5000
Time[sec]
10000
図 5.6 水素透過流量の時間変化
(QMS エミッション 30µA、SEM1000V)
図 5.6 に QMS を用いて水素供給チャンバーから PET シートを透過して下段チャン
バーに抜け出した水素流量の測定結果を示した。QMS で検出した水素イオン電流値
を、水素定量化測定の流量変換係数により流量変換した。
各測定前、水素供給前の真空チャンバーには、約 1×10-5[sccm]相当の水素が検
出されている。これは真空容器壁からのアウトガスと考えられる。測定前の真空引き
を 12 時間以上行うことで条件を揃えた。水素が供給されると、水素流量は増加し最
終的にある時定数で飽和した。飽和を確認すれば、バルブDを閉じて水素の供給を中
断し、バルブCとIを開いてR.P.1 で水素の排気を行ったため、水素流量が減少してい
る。
測定に用いたサンプルは、DLC 薄膜なしの PET シートと、表 4.2 に示した 5 種類の
DLC-PET であり DLC 薄膜の成膜時間を図 5.6 に示した。
- 30 -
図 5.6 から分かるように、
DLC 薄膜は水素ガスバリア性が優れていることが分かる。
また、成膜時間が多くなれば水素流量も減少し、600 秒間(10 分間)成膜した DLC-PET
にいたっては、流量の増加量はわずかであった。したがって、DLC 薄膜の成膜時間が
長く膜厚が厚くなれば、水素ガスバリア性が向上することが分かる。
- 31 -
第6章
考察
5 章で述べた測定結果をもとに、時定数の算出と測定結果の信頼性について考察し、
気体透過係数の算出を行った。
実験結果の信頼性
6.1
第 5 章で示した実験結果の信頼性について考察する。DLC 薄膜の水素ガスバリア性
を測定するためには、DLC-PET を水素透過量測定装置に設置する必要がある。設置
には DLC-PET の両側から O-ring によって挟みこむことで真空を保っている。しかし、
DLC 薄膜の性質のひとつに高硬度があり、O-ring によって圧力がかかることで DLC
薄膜にクラックが発生する可能性がある。
本章では、拡散方程式から導いた理論値と測定値を照らし合わせて考察し、実験デ
ータの信頼性を検討する。
6.1.1
水素拡散透過時定数の算出
図 5.6 の実験結果より、水素を供給すれば水素イオン電流値はある時定数によって
増加と減少をしていることが分かった。実験結果をもとに、水素拡散透過時定数を導
き出す。
CSV ファイルとして保存された実験データを、表計算ソフトでフィッティング解析
し時定数を求めた。
表 6.1 表計算ソフトを用いたフィッティング解析ワークシート
A
B
C
D
E
F
G
H
I
測定
イオン
イオン電
F-B
B-C
イオン電
ディレイ
時定数
フィッ
時間
電流測
流最小値
流最大値
[s]
定値[A]
[A]
[A]
ティン
グ
0
2.16E-12
2.16E-12
1.66E-11
0.00E+0
1.88E-11
5.90E+03
1050
5.18E-09
61.84
2.22E-12
2.16E-12
1.66E-11
6.00E-14
1.88E-11
5.90E+03
1.05E+03
4.89E-09
123.23
2.00E-12
2.16E-12
1.68E-11
-1.60E-13
1.88E-11
5.90E+03
1.05E+03
4.61E-09
184.62
2.00E-12
2.16E-12
1.68E-11
-1.60E-13
1.88E-11
5.90E+03
1.05E+03
4.35E-09
246.01
2.08E-12
2.16E-12
1.67E-11
-8.00E-14
1.88E-11
5.90E+03
1.05E+03
4.10E-09
307.39
2.19E-12
2.16E-12
1.66E-11
3.00E-14
1.88E-11
5.90E+03
1.05E+03
3.87E-09
368.78
2.48E-12
2.16E-12
1.63E-11
3.20E-13
1.88E-11
5.90E+03
1.05E+03
3.65E-09
430.17
2.80E-12
2.16E-12
1.60E-11
6.40E-13
1.88E-11
5.90E+03
1.05E+03
3.44E-09
- 32 -
表 6.1 は時定数フィッティング解析の一例である。A 列は測定時間、B 列は測定し
た水素イオン電流値、C 列は水素排気後の水素イオン電流値、F 列は水素注入後の水
素イオン電流値である。D、E 列で水素イオン電流値の差分を求め、G 列はフィッテ
ィングのグラフを時間調節するために設けている。I 列の計算式は以下のようになる。
I 列 = F 列×EXP(−(A 列−G 列)/ H 列)
(6.1)
A 列と G 列の差でフィッティングのグラフを任意の時間に調節できるため、ディレ
イを調節することでフィッティンググラフが時間移動する。フィッティンググラフの
傾きは時定数を任意の値にすることで調節できる。
水素イオン電流[A]
10-10
10-11
10-12
10-13
0
5000
時間[sec]
10000
図 6.1 水素排気時定数のフィッティング解析
実験結果は水素供給、排気時ともにある時定数で増加と減少をする。図 6.1 は片対
数グラフで実験結果を直線にしてフィッティングさた一例を示す。直線がフィッティ
ンググラフで、ドットが測定結果である。図 6.1 から分かるように、実験結果がほぼ
直線となり、時定数を明確に判断することができた。水素供給時も同様にして時定数
を導き出した。
- 33 -
表 6.2 フィッティング解析から求めた時定数
サンプル成膜時間
[sec]
水素供給時の時定数
[sec]
水素排気時の時定数
[sec]
0(PET シート)
460
470
30
930
800
60
1100
1100
90
1150
1050
120
1350
1350
600
1800
2000
600G(ガスケット付)
3000
3000
3500
1.2E-05
排気時定数
水素飽和流量
1.0E-05
時定数[sec]
2500
8.0E-06
2000
6.0E-06
1500
4.0E-06
1000
水素飽和流量[sccm]
3000
2.0E-06
500
0
0.0E+00
PET
30
60
90
120
サンプル名
600
600G
図 6.2 各サンプルの水素透過時定数と水素飽和流量との相関
表 6.2、図 6.2 はフィッティング解析から求めた各サンプルの時定数と水素飽和流量
である。サンプル名「PET」は DLC 薄膜なしの PET シートで、PET シートに 30~600
秒成膜した DLC-PET のサンプルを比較している。
「600G」は 600 秒成膜した DLC-PET に、クラック防止策として銅ガスケットをト
ールシールで接着したサンプルである。銅ガスケットが O-ring と DLC-PET との間に
挟むことでクッションの役割を果たし、クラックを防ぐ目的で作製した。
表 6.2、図 6.2 から、供給と排気の時定数はほぼ一致することが分かる。DLC 薄膜
- 34 -
の成膜時間が増えて膜厚が厚くなれば、時定数は増加する傾向となった。時定数の観
点からも DLC 薄膜の水素ガスバリア性は優れていることが分かった。また、水素供
給時と排気時の時定数はほぼ一致し、時定数が増加すれば水素飽和流量が減少した。
次節では、実験結果の信頼性について考え、サンプル「600G」の有効性についても
説明する。
6.1.2
水素飽和流量と時定数の相関
2.2 で飽和流量と時定数の関係を、拡散方程式から導き出した。(2.3)式より PET
シート厚: l が一定であれば、時定数: τ 1 と流量: J は反比例の関係であることが分かっ
ている。PET シート厚は 500[μm]で、DLC 薄膜の厚さは約 1[μm]以下である
ため、ほぼ同じと考えてよい。したがって、理論的に飽和流量と時定数は、ほぼ反比
例する。
PET シート
[×10 ] 1
水素飽和流量[sccm]
-5
0.8
0.6
供給
0.4
排気
0.2
600G
0
0
理論値
600s
0.001
1/τ
0.002
図 6.3 水素飽和流量と水素透過時定数の逆数の相関
(QMS エミッション 30µA、SEM1000V)
図 6.3 に実験結果から縦軸に水素飽和流量、横軸に水素透過時定数の逆数を設定し
た。拡散方程式から導き出した、飽和流量と時定数は反比例するという関係から、横
軸に時定数の逆数を取ることで比例関係になるはずである。図 6.3 のようにそれぞれ
の実験結果を並べると、DLC 薄膜なしの PET シートから理論値に沿ってプロットが
乗っているため理論に沿った結果であると言える。
しかし、600 秒間成膜した DLC 薄膜は、理論値よりもイオン電流値が低い、もしく
は時定数が小さい結果となった。原因としては、DLC 薄膜の成膜時に高周波プラズマ
- 35 -
CVD 装置のチャンバー内の温度が変化したため PET シートの変形により DLC 薄膜の
クラックが生じた可能性がある。DLC 薄膜は、200[W]で 60[s]連続で成膜を行
うと耐熱温度 65℃の PET シートが変形した。したがって、20[s]成膜と 40[s]冷
却を繰り返し 600 秒間成膜した DLC-PET の場合も、耐熱温度付近まで温度上昇して
いると考えられ、PET シートの収縮により DLC 薄膜にクラックが発生したと考えら
れる。また、水素ガスバリア測定装置に設置する際、DLC-PET を両側から O-ring で
挟みこむためクラックが発生している可能性もある。
O-ring によるクラック発生の影響を確かめるため、次のような測定方法を試みた。
DLC-PET と O-ring との接触点に銅ガスケットをトールシールで接着させ、銅ガスケ
ットが O-ring から受ける圧力を DLC-PET に分散させることでクラック発生を防ぐ測
定方法である。600 秒成膜した DLC-PET に銅ガスケットを接着した測定結果が図 6.3
の赤チェックの「600G」である。測定結果は理論に沿ったが銅ガスケット無しのサン
プル「600」では、時定数が短くなり飽和流量も増加したため理論値から外れる結果
となった。したがって、600 秒以上成膜した DLC 薄膜の水素ガスバリア測定において
は、銅ガスケットを用いることで正確な測定ができることが分かった。銅ガスケット
を用いた測定はクラック防止策として有効であるといえる。
測定結果が理論値から外れる原因を考える。DLC 薄膜に無数のクラックが生じると、
水素は DLC 薄膜のクラックをすり抜けて直接 PET シートに到達するため、時定数は
PET シートと同等になる。しかし、DLC 薄膜が PET シート表面を覆っているため PET
シートと比べて飽和流量は減少するため、理論と異なる測定結果はクラックが大きく
影響する。
次に考えられる問題として、O-ring の水素ガスバリア性の影響も考えられる。O-ring
が水素を透過しているかを確かめるために、DLC-PET の代わりに水素ガスバリア性
が良いとされるアルミ板を用いて同条件で水素透過測定を行った。結果は 5 時間以上
水素を供給し続けたが、イオン電流値に変化は見られなかった。DLC-PET の水素ガ
スバリア測定時間は 4 時間程度であるため、O-ring の水素ガスバリア性は測定に影響
しないと考えた。
さらに、DLC 薄膜の成膜中に生じる温度変化により PET シートの変形が原因でわ
ずかにクラックが生じた可能性もある。DLC 薄膜作製時には十分な PET シートの冷
却時間を設けたものの、成膜中は少なからず温度上昇するため、わずかな PET シート
の変形はやむを得ない。
以上より、理論値と測定結果を照らし合わせることで、測定が正確に行われている
ことが分かった。
- 36 -
気体透過係数の算出
6.2
膜のガスバリア性を比較する際に、気体の透過係数を用いることが一般的である。
実験結果をもとに DLC-PET の気体透過係数を算出する。気体透過係数の単位として、
⎡ cm 3 ( STP ) ⋅ cm ⎤
広く文献で使用されている、 ⎢ 2
⎥ を用いた。なお、DLC 薄膜なしの PET
⎣ cm ⋅ sec⋅ cmHg ⎦
シートと最も水素ガスバリア性が優れたサンプル「600G」の 2 つに絞って比較をする。
気体の透過量は、圧力差、面積、時間に比例し膜厚に反比例するため、
{
}× 面積 × 時間
(高圧側の圧力)
(低圧側の圧力)
気体透過量 = 気体透過係数 ×
膜厚
(6.2)
となる6.1)。したがって、気体透過量を Q [ cm3 ( STP ) ]、高圧側及び低圧側の圧力をそ
れぞれ p1 , p 2 [ cmHg ]、膜の面積を A [ cm 2 ]、時間を t [ sec ]、膜厚を l [ cm ]とす
ると、
⎡ cm 3 ( STP ) ⋅ cm ⎤
Q×l
P ⎢ 2
⎥=
⎣ cm ⋅ sec⋅ cmHg ⎦ ( p1 − p 2 ) × A × t
(6.3)
気体透過係数 P は(6.3)式と表されるため、実験条件を代入する。
まず、気体透過係数 P を求めるために、
[
]
Q cm 3 ( STP )
に相当する流量 R を導く。電
t[sec]
流値を流量に変換する流量変換係数は 5.3.2 で求めた、2.21×105[sccm/A]とする。
z
PETシートのみ・・・水素飽和流量 4.42×10-11[A]
R=
z
⎡ cm 3 ( STP ) ⎤
(4.42 × 10 -11 [ A]) × (2.21 × 10 5 [ sccm / A])
≒ 1.63 × 10 -7 ⎢
⎥
60[sec]
sec
⎣
⎦
サンプル「600G」・・・水素飽和流量 9.10×10-13[A]
R=
⎡ cm 3 ( STP ) ⎤
(9.10 × 10 -13 [ A]) × (2.21 × 10 5 [ sccm / A])
≒ 3.35 × 10 -9 ⎢
⎥
60[sec]
sec
⎣
⎦
次に、(6.3)式をもとに残りの条件となる、
係数を求めた。
- 37 -
l[cm]
を代入し、気体透過
A[cm ] ⋅ p[cmHg ]
2
z
PET シートのみ
⎛
⎡ cm 3 ( STP ) ⎤ ⎞
⎜1.63 × 10 -7 ⎢
⎥ ⎟⎟ × (0.05[cm])
⎜
3
sec
⎣
⎦⎠
−11 ⎡ cm ( STP ) ⋅ cm ⎤
≒
P=⎝
1
.
53
10
×
⎥
⎢ 2
(19[cmHg ]) × (28[cm 2 ])
⎣ cm ⋅ sec⋅ cmHg ⎦
z
サンプル「600G」
(DLC 薄膜の膜厚は 1.67[µm]とする)
⎛
⎡ 3
⎤⎞
⎜ 3.35 × 10 -9 ⎢ cm ( STP ) ⎥ ⎟ × (0.050167[cm])
⎜
⎟
3
sec
⎣
⎦⎠
−13 ⎡ cm ( STP ) ⋅ cm ⎤
≒
×
P=⎝
3
.
16
10
⎢ 2
⎥
(19[cmHg ]) × (28[cm 2 ])
⎣ cm ⋅ sec⋅ cmHg ⎦
- 38 -
第7章
結論
DLC 薄膜を作製し、水素ガスバリア性を評価した。また、拡散方程式から導いた理
論と測定結果を照らし合わせ、水素ガスバリア測定が正確に行われたことを確認した。
本研究で得られた結論を示す。
QMS感度の校正について、SEM800[V]から 1000[V]への変換係数は 16.6 であ
った。蓄積法によるガス流量校正について、水素イオン電流値を流量に換算するため
の流量変換係数は 2.21×105[sccm/A]であった。
次に、測定の信頼性について述べる。DLC 薄膜の成膜時間が 120 秒までの DLC-PET
は正確な水素ガスバリア測定と考えられるが、
600 秒成膜した約 1.67[µm]
の DLC-PET
においては、銅ガスケットを用いたクラック防止策で測定することで、より正確な測
定ができた。
⎡ cm 3 ( STP ) ⋅ cm ⎤
600 秒成膜したDLC薄膜は、気体透過係数 3.16×10-13 ⎢ 2
⎥ となり、PET
⎣ cm ⋅ sec⋅ cmHg ⎦
シートのみのサンプルと比べて約 98%減少し、透過時定数は 3000[sec]と優れた水
素ガスバリア性を示した。
- 39 -
研究実績
DLC 薄膜の水素ガスバリア性評価
金子史幸、Md.k.hassan、八田章光
第 20 回ダイヤモンドシンポジウム(2006 年 11 月、東京大学)
謝辞
本研究を進めるにあたり、最後までご丁寧な指導をしていただきました八田章光教
授に深くお礼申し上げます。八田教授には 3 年次から実験装置の使い方や説明を教わ
り、プラズマの面白さに惹かれて新しい発見を数多く見つけられました。私にとって
たいへん重みのある楽しい 2 年間となりました。本当にありがとうございました。
本研究を進めるにあたり、SEM の使い方をはじめたくさんの知識を教えていただ
きました、八田研究室修士 2 年の鐵艸浩彰氏に感謝の意を述べさせていただきます。
ありがとうございました。
本研究を進めるにあたり、高周波プラズマ CVD 装置の使用手順を一から教えてい
ただきました、八田研究室博士課程の K.Hassan 氏に感謝の意を述べさせていただき
ます。アセチレンガスの扱い方や、DLC 薄膜の作製時に何度もご指導いただき安全に
実験を行うことができました。ありがとうございました。
本研究を進めるにあたり、高周波プラズマ CVD 装置を共同で使用した、八田研究
室の同期である高木宏和氏に感謝の意を述べさせていただきます。お互いに知識を共
用して議論することで、たくさんのことを学びました。ありがとうございました。
本研究を進めるにあたり、真空蒸着装置の使用手順を教えていただきました、吉村
紘明氏に感謝の意を述べさせていただきます。ありがとうございました。
本研究を進めるにあたり、2005 年当時、共同研究として DLC-PET ボトルの水素ガ
スバリア測定にご一緒させていただきました、長崎大学大学院修士 2 年であった島田
英信氏に感謝の意を述べさせていただきます。ありがとうございました。
本研究を進めるにあたり、様々な試料を提供していただきました、株式会社島津製
作所の岡田繁信氏、小西善之氏に感謝の意を述べさせていただきます。ありがとうご
ざいました。
本研究を行うにあたり、様々な試料を提供していただきました、日本ポリウレタン
工業株式会社の守屋清志氏に感謝の意を述べさせていただきます。ありがとうござい
ました。
八田研究室の修士 2 年である、矢内啓資氏に感謝の意を述べさせていただきます。
研究分野は異なるものでしたが、セミナーなど様々な面でお世話になりました。あり
- 40 -
がとうございました。
八田研究室の同期である、石橋宇宙氏、大澤一恭氏、岡林拓哉氏、瀧本雄司氏、中
澤一貴氏、溝渕祐介氏に感謝の意を述べさせていただきます。楽しい大学生活が送ら
れたこともたくさんの友人のおかげでした。ありがとうございました。
最後になりましたが、大学入学から卒業まで毎日支えていただきました両親に深く
感謝いたします。4 年間健康に過ごすことができ、大学にも通うことができました。
本当にありがとうございました。
参考文献
1.1)経済産業省(2006)
『エネルギー白書 2006 年版』ぎょうせい
1.2)文部科学省 科学技術政策研究所 科学技術動向研究センター(2003)
『水素エネルギー最前線』工業調査会
1.3)桂井 誠(2005)
『基礎エネルギー工学』数理工学社
1.4)斉藤 秀俊(2006)
『DLC 膜ハンドブック』NTS
1.5)松久 治可(2004)
『DLC 薄膜の水素遮断性評価』高知工科大学特別研究報告書
2.1)深井 有(1998)
『水素と金属』内田老鶴圃
2.2)深井 有(1996)
『拡散現象の物理』朝倉書店
3.1)飯島 徹穂、近藤 信一、青山 隆司(1999)
『はじめてのプラズマ技術』工業調査会
3.2)堤井 信力(1997)
『プラズマ基礎工学 増補版』内田老鶴圃
3.3)河合 良信(1991)
『最新プラズマ発生技術』アイピーシー
3.4)プラズマ・核融合学会(2004)
『プラズマの生成と診断』コロナ社
5.1)崎元 聡一(2005)
『水素リーク量定量化』高知工科大学卒業論文
6.1)仲川 勤(1985)
『化学 One Point 11 膜のはたらき 気体透過膜を中心に』
共立出版株式会社
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使用装置一覧
RF プラズマ CVD 装置
メーカー
型番
PIRANI GAUGE
ANELVA
MPG-OII
SCHULZ 真空計
ANELVA
NI-IOD
MASS FLOW CONTROLLER
STEC
SEC-400MK2
MASS FLOW CONTROLLER
STEC
PAC-D2
SANWA
CD721
ENI
OEM-12A
TURBO MOLECULAR PUMP
SEIKO-SEIKI
STP-H200C
STP CONTROL UNIT
SEIKO-SEIKI
SCU-H200C
ULVAC
GCD-051X
メーカー
型番
Tokyo Aircraft
TP-618B
MT
MT-4501
R.P.1
ULVAC
GCD-051X
R.P.2
ALCATEL
PASCAL 2010SD
QUADRUPOLE MASS SPECTROMETER
ANELVA
M-200QA
CRYSTAL GAUG
ANELVA
M-320XG
B-A 真空計
ANELVA
NI-10D
OSAKA VACUUM
TG220F
OSAKA VACUUM
TC223
SHIMADZU
TMP-51G
SHIMADZU
EI-51G
SANWA
pc20
DIGITAL MULTIMETER
SOLID STATE POWER GENERATOR
R.P.
水素ガスバリア測定装置
膜圧真空計
DIGITAL MULTIMETER
TURBO MOLECULAR PUMP
POWER SUPPLY
TURBO MOLECULAR PUMP
POWER SUPPLY
DIGITAL MULTIMETER
使用ソフト
Quad Vision Version 3.20 for Windows
PC Link Plus Version 2.10
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