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サービス産業の革新に向けて
サービス産業の革新に向けて 中間とりまとめ(案) 目 はじめに 次 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.サービス産業の現状と認識 ・・・・・・・・・・・・・・3 (1)サービス産業の重要性・・・・・・・・・・・・・・・3 (2)サービス産業の生産性・・・・・・・・・・・・・・・4 (3)サービス産業の発展の社会的意義 ・・・・・・・・5 (4)今後有望とされる重点サービス分野 ・・・・・・・・6 2.サービス産業横断政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・8 (1)目標 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 (2)需要の創出・拡大 ・・・・・・・・・・・・・・9 (3)競争力・生産性の向上・・・・・・・・・・・・・・12 (4)政策インフラの整備 ・・・・・・・・・・・・・17 3.サービス分野別対応 ・・・・・・・・・・・・・・23 a.健康・福祉関連サービス ・・・・・・・・・・・・・23 b.育児支援サービス ・・・・・・・・・・・・・・33 c.観光・集客サービス ・・・・・・・・・・・・・43 d.コンテンツ(製作・流通・配信) ・・・・・・・51 e.ビジネス支援サービス ・・・・・・・・・・・・・・57 f.流通・物流サービス ・・・・・・・・・・・・・・67 はじめに 少子高齢化やサービス経済化が急速に進展する中で、近年、日本経済におけ るサービス分野の重要性が趨勢的に増大している。一昨年 5 月にとりまとめた 「新産業創造戦略」においても、コンテンツ、健康・福祉・機器・サービス、 ビジネス支援サービスを戦略 7 分野に、また、集客交流を地域再生の産業群の 一つとして、それぞれ位置付けたところであり、我が国経済に占めるサービス 産業の重要性が高まっている。 一方、サービス産業は極めて多様であり、近年は経済のグローバル化や IT 化 により、サービス産業それ自身が大きく変化しつつある。また、サービス産業 については、金融、医療などのように、各主要分野ごとに各府省に分掌され、 各々異なる規制体系の下で行政が行われてきた。このため、サービス産業全体 を横断的にとらえ、分析するといった努力は残念ながらほとんどなされてこな かった。 しかしながら、少子高齢化の急速な進展など、サービス産業を取り巻く経済 社会環境変化の中で、サービス産業が製造業とともに 21 世紀の我が国経済の持 続的発展を担っていくために、これを全体としてとらえ、政策課題等を抽出す る努力が必要であると考えられる。 こうした状況を踏まえ、平成 18 年 2 月産業構造審議会において、新たにサー ビス政策部会を設置し、今後重要性が増すと考えられる重要分野とともに、こ れらの分野を含むサービス全体について鳥瞰し、同時性、消滅性、無形性及び 変動性といったサービスに共通する特徴に着目し、取り組むべき分野横断的な 施策について検討を行った。 また、今回の検討は、時期を同じくして開催された産業構造審議会新成長部 会においてとりまとめられる「新経済成長戦略」の重要な一部となるものであ る。これは、サービス産業が雇用・GDP の 70%近くを占め、今後も更なる伸びが 期待され、サービス産業が製造業とともに、我が国経済成長の「双発エンジン」 をなすとの認識によるものである。 サービス産業は、需要者の多様なニーズに対応し、その市場が拡大するとと もに、供給サイドに新たなビジネスモデルが創出されるところに大きな特徴が ある。また、我が国には、目の肥えた消費者が存在するとともに、元来「もて なしの心」や「きめ細やかさ」を重視する伝統がある。このような我が国の特 徴を踏まえれば、顧客とのコミュニケーションにビジネスモデルの鍵があるサ ービス産業分野においては、潜在的な競争力を有していると考えられる。 今回の中間報告は、我が国のサービス産業をとりまく環境につき、最新の動 向を踏まえ必要かつ効果的な施策を検討した結果である。しかしながら、時間 やデータ等の制約などもあり、残された課題は少なくない。また、サービス産 業も市場ニーズの変化とともに将来的な課題が変化していくことは当然であり、 その観点で、本報告は我が国のサービス産業政策について「一里塚」をなすも のである。将来近い時期にも包括的なフォローアップを行うこととする。 1 また、今回の検討の結果が、我が国のサービス産業にかかわる多岐に亘る分 野の方々の将来あるべき姿、官民の役割等につき議論を活性化するきっかけと なり、我が国のサービス産業の更なる競争力強化の第一歩となれば幸いである。 2 1.サービス産業の現状と認識 (1)サービス産業の重要性 イ.サービス産業のシェア 先進国経済においては、サービス産業のウェイトが、実質 GDP、雇用の両面で 着実に拡大を続けており、我が国も例外ではない。 具体的には、2003 年時点で、我が国では実質 GDP の 7 割弱(69.6%)、雇用の 約 3 分の 2(66.8%)をサービス産業が担っている。また、最近 10 年間(1993 年∼2003 年)を見ると、実質 GDP の伸びの約 93%をサービス産業が担うととも に、雇用についても、製造業で約 390 万人減少したのに対しサービス産業で約 357 万人増加し製造業における減少を吸収するなど、重要な役割を果たしている。 図 1-1 サービス産業のシェア 日米の実質GDPの伸びへの各産業の寄与度(1993年から2003年) 40.0% 36.8%の伸び 35.0% 30.0% 25.0% 29.6% 80.6%の伸び 20.0% 3次産業 2次産業 1次産業 14.5%の伸び 15.0% 10.0% 13.5% 93.1%の伸び 1.4% -0.4% 9.7%の伸び 5.0% 18.2%の伸び 6.7% 0.0% 0.4% 日本 アメリカ -5.0% (出典):日本 国民経済計算 アメリカの実質GDPの推移(1993-2003) 兆円(1ドル120円) 日本の実質GDPの推移(1993-2003) 兆円 1200 1200 1000 1000 800 600 400 +67兆円 +7兆円 −2兆円 アメリカ Bureau of Economic Analysis 1993 1998 2003 1次産業 +4兆円 2次産業 +3.5百万人 −1百万人 1次産業 −3.9百万人 2次産業 3次産業 1993 1998 2003 3次産業 (出典)国民経済計算 +0.5兆円 1次産業 +19百万人 1993 1998 2003 −0.4百万人 +0.2百万人 1次産業 2次産業 2次産業 3次産業 (出典)グローニンゲン大学データベース EU-15の就業者数変化(1993-2003) 百万人 アメリカの就業者数変化(1993-2003) 百万人 140 120 100 80 60 40 20 0 400 1993 1998 2003 +47兆円 0 2次産業 (出典)Bureau of Economic Analysis 日本の就業者数変化(1993-2003) 百万人 800 600 200 1次産業 3次産業 (出典)国民経済計算 140 120 100 80 60 40 20 0 1993 1998 2003 +60兆円 0 0 +177兆円 1000 600 400 1200 +268兆円 800 200 200 EU-15の実質GDPの推移(1993-2003) 兆円(1ユーロ135円) 3次産業 (出典)グローニンゲン大学データベース 140 120 100 80 −1.6百万人 60 40 −1.8百万人 20 0 1次産業 2次産業 +19百万人 1993 1998 2003 3次産業 (出典)グローニンゲン大学データベース 注)サービス産業 サービス産業とは第三次産業のことであり、旧産業分類 L サービス業に加え、エネルギー、 運輸業、通信業、卸・小売業、飲食店、金融保険業、不動産業を含む。 3 ロ.経済成長のエンジン 以上のような我が国サービス産業の現状を踏まえると、今後とも我が国経済 が引き続き活力を維持していくためには、サービス産業が製造業とともに我が 国経済成長の「双発のエンジン」としての役割を果たしていくことができるよ う、その発展基盤を整備していく必要がある。具体的には、潜在的な顧客ニー ズに対応した新たな需要の創出・拡大とともに、サービス産業の生産性向上を 図ることが不可欠である。 (2)サービス産業の生産性 サービス産業は生産・雇用の両面で大きな役割を担っているが、その生産性 を日米欧で比較すると、製造業では日本が欧米を上回っている一方、サービス 産業については、ほとんどの分野で下回っている。 図 1-2 サービス産業の生産性 日欧生産性比較(2002 年マン・アワー・ベース) 日米生産性比較(2002 年マン・アワー・ベース) 140.0 医 療 120.0 政 府 サ 120.0 対 個 人 サ 100.0 ビ ス 運 輸 政 府 サ ビ ス コ ン ピ 80.0 ー ホ テ ル ・ 外 食 法 金 務 融 ・ 保 通 技 険 信 術 ・ コ 広 不ン 告 動ピ 産 ュー 医 療 法 務 ・ 技 術 ・ 広 告 ビ ス ー 金 融 ・ 保 険 ュー 60.0 卸 ・ 小 売 ー 80.0 通 信 ー ー ビ ス 100.0 対 個 人 サ タ タ 60.0 ホ テ ル ・ 外 食 卸 ・ 小 売 運 輸 研 究 開 発 不 動 産 40.0 40.0 20.0 研 究 開 20.0 発 0.0 0.0 これまで我が国経済の生産性上昇を担ってきた製造業のシェアが縮小し、代 わりにサービス産業が拡大する中で、サービス産業の労働生産性がこのまま低 位で推移すると、マクロ経済全体の生産性が伸び悩み、ひいては我が国経済の 競争力が低下し、活力が失われる恐れがある。 しかしながら、我が国のサービス産業の労働生産性が欧米に比べて低いとい うことは、今後の生産性向上の余地が大きいということでもあり、産官学を挙 げてサービス産業の生産性向上に取り組んでいくことが重要である。 なお、ここでいう生産性向上とは、提供されるサービスの質注の向上を通じた 生産性向上を念頭においたものであり、単純な労働投入量の削減によってもた らされる一時的な労働生産性向上を意図したものではない。 注)サービスの(品)質の定義 「製品またはサービスに本来備わっている特性の集まりが、 (顧客の)要求事項を満たす程 度。」 (ISO9000:2000)に拠る。この場合、サービスの質は、顧客満足度の程度によって評価 できる。 4 (3)サービス産業の発展の社会的意義 サービス産業の発展は、健康や安全、娯楽といった国民の新しいニーズに応 えるものであるだけでなく、国際競争に晒されている製造業の競争力強化にも 資するものであり、その経済的・社会的意義は大きい。 また、地域における雇用機会という観点からも、少なからぬ地域が既に製造 業にのみ依存することが難しくなってきており、地域の活力ある発展のために は、観光・集客サービスや健康・福祉サービスといった地域サービス産業の発 展が期待されている。 更に、我が国は既に人口減少社会に突入しており、労働力減少の影響を可能 な限り小さくするためには、これまで以上に女性・高齢者の活用を促進してい くことが必要となっているところであるが、労働力率の向上という観点からも、 就業者に占める女性・高齢者の割合が高いサービス産業の役割は大きい。 図 1-3 サービス産業の意義 5 (4)今後有望とされる重点サービス産業 今後の発展が期待されるサービス産業は、業種毎の所得弾力性の相違、少子 高齢化の進展、製造業とサービス産業の融合の進展、サービス経済化注に先んじ ている米国の産業構造等を踏まえると、以下のように整理することができる。 一つは、対人サービスを中心とする生活充実型サービスであり、一人当たり 所得の増加や高齢化の進展により、今後とも、生活充実型サービスへの需要は 拡大していくと考えられる。もう一つは、事業充実型サービスであり、製造業 におけるサービス職種の割合や中間投入に占めるサービスの割合が増大するな ど、製造業とサービス産業の戦略的なアライアンスが進展する中で、製造業の 競争力強化の観点から、事業充実型サービスの発展が期待される。 注)サービス経済化 サービス業の拡大だけでなく、すべての産業でサービス化が進むということ。 図 1-4 サービスの所得弾力性 サービス支出の所得弾力性(1988-2004) 2.518 工事その他サービ ス 2.006 1.847 パック旅行費 宿泊料 1.346 1.229 1.173 1.001 0.862 0.774 0.705 0.641 0.562 0.477 0.442 補習教育 他の教養娯楽サービ ス 家事サービ ス 授業料等 理美容サー ビ ス 一般外食 保健医療サービ ス 交通 通信 被服関連サービ ス 月謝額 0 0.5 1 1.5 (出典)平成16年度家計調査から推計 (出典):OECD 2 2.5 図 1-5 米国サービス産業の動向 6 3 図 1-6 製造業におけるサービスのウェイト 製造業におけるサービス部門からの中間投入の構成比 製造業の中間投入に占めるサービス部門の割合 100% 100% 90% 19.6 21.8 26.0 29.3 20.4 29.8% 31.3% 0.2.0 2.8 0.2.02 1.7 17.8 80% 80% 70% 14.3 50% 70.6 30.1 63.7 64.0 40% 62.0 64.5% 30% 20% 20% 10.5 10% 12.8 7.5 9.1 7.6 1990 1995 0% 1980 1985 16.0 4.3% 4.4% 2000 2004 0% 3.9 16.2 15.6 14.2% 10.1 9.3 8.3% 26.6 28.4 11.0 10.0 20.6 19.0 14.8 15.6 1990 1995 11.6 6.5 1980 1985 棒グラフ項目: 下から順に教育、対事業所サービス、電力ガス水道、 商業、金融保険不動産、運輸、通信、保健その他公 共サービス、対個人サービスの順 第一次産業 第二次産業 第三次産業(サービス部門) 0.1.249%% 0.1.257%% 11.5% 8.6% 教育・研究 25.7% 26.4% 26.8 40% 65.8% 0.1.25 17.2 60% 60% 0.1.253 14.8 10.6% 10.6% 21.9% 21.0% 19.3% 17.0% 2000 対事業所サービス 2004 電力・ガス・水道 商業 金融・保険・不動産 運輸 通信 保健その他の公共サービス 対個人サービス (出典)2002年通商白書のデータを産業連関表(延長表)を用いて延長 ① 生活充実型サービス ・ 健康・福祉関連サービス (医療サービス、医療機器・医薬品、スポーツ・健康維持増進サービス、介護サービス、 エステサービス等) ・ 育児支援サービス (幼児支援サービス(保育サービス、安全提供サービス、就学前教育サービスなど)、 家庭支援サービス(送迎サービス、献立作成サービスなど)等) ・ 観光・集客サービス (旅行業、宿泊業、運輸業、飲食業、娯楽サービス業等) ・ コンテンツ(製作・流通・配信) (映像(映画、テレビ、アニメなど) 、音楽、ゲーム、出版・新聞等を扱う産業等) ② 事業充実型サービス ・ ビジネス支援サービス (情報サービス、労働者派遣サービス、リース、レンタル、デザイン等のサービス業等) ・ 流通・物流サービス (卸売業、小売業、運輸業) 7 2.サービス産業横断政策 (1)目標 従来サービス産業は、金融、医療のように、各府省に分掌され、各々異なる 規制体系の下で行政対象となってきたこともあり、これらを全体として横断的 に捕捉し、政策課題等を抽出する努力がほとんど行われてこなかった。しかし ながら、サービス産業を取り巻く環境変化の中で、各サービス分野は、生産性 向上といった共通の課題に直面しているため、サービス分野横断的な政策体系 を構築していく必要がある。 こうした取組により、新しいサービスに対する需要の創出・拡大とともに生 産性の向上を図り、もって我が国経済の持続的な成長と地域経済の活性化を実 現する。 イ.サービス産業の特性 サービスは、同時性、消滅性、無形性、変動性といった、工業製品とは異な る特性を有する。 ・同時性(Simultaneous)−生産と消費が同時に起こる ・消滅性(Perishable)−蓄えておくことができない ・無形性(Intangible)−見えない、触れられない ・変動性(Heterogeneous)−誰が誰にいつどこで提供するかに左右される こうしたサービスの特性のため、サービス産業は、総じて、1)労働集約的で あり、2)需要の変動に対してピーク時に対応した体制を採る必要がある。更に、 3)情報の非対称性注等に起因する市場の失敗を補完するため、公的規制下の産 業も少なくない。 ロ.環境変化の中での対応 以上のようなサービス産業の特性から、サービス分野におけるビジネスモデ ルの革新は、これまで必ずしも活発ではなかったが、近年、①需要面の環境変 化(所得向上、ニーズの多様化、少子高齢化)、②供給面の環境変化(IT 利活用 の浸透、サービス関連技術の進展) 、③グローバリゼーションと国際競争の激化、 ④財政制約の強まりといった環境変化の中で、サービス分野におけるビジネス モデルの革新を活発化させていくことが重要となっている。 こうした環境変化は、特定の分野に限定的に起こっているものではなく、多 くのサービス分野が共通して直面している課題であり、需要の創出・拡大と生 産性の向上という 2 つの観点からサービス分野横断的対策を講じることにより、 サービス産業の発展基盤を整備していくことが必要である。 注)情報の非対称性 買い手と売り手の間に存在する情報格差。例えば、サービスの売り手は事前に十分な情報 を持っているが、買い手はサービスを受けるまで内容について情報を知ることは困難であ ること。 8 (2)需要の創出・拡大 人口減少社会においては、既存の財・サービスへの需要は飽和していかざる を得ない面がある。そうした中で、我が国経済の活力を引き続き維持していく ためには、我が国経済の 7 割を占めるサービス分野で、常に新たな需要を創出 し拡大していくことが求められる。 具体的には、国民所得の向上や少子高齢化の進展等に伴い多様化・個別化す るニーズに積極的に対応し、新しいサービスへの需要を創出・拡大していくこ とが必要であり、①新ビジネスモデルの展開の促進、②高齢者向けサービス・ ニーズの顕在化、③国際的需要の拡大、④規制改革(官民パートナーシップに おける役割分担の明確化)を推進する。 〔具体的施策〕 1)新ビジネスモデルの展開の促進 ① サービスの差別化とそのビジネスモデル化 工業製品の差別化が新しい需要を生み出すように、サービス産業においても 新しいニーズに対応しつつサービスの差別化を図っていくことが、新しい需要 を顕在化させる。 例えば、観光・集客分野におけるサービス形態が団体型から個人型に変化す る中で、顧客参加型の差別化されたプログラムへのニーズが拡大している。ま た、健康サービス分野において、フィットネスクラブが病院と連携して、個人 の健康状態に応じた運動プログラムを提供することも差別化である。 顧客ニーズに対応したサービスの差別化は、潜在需要を引き出すことに繋が るが、重要なことは、そうした差別化したサービスをシステムとして持続的に 提供できるよう、安定性の高いビジネスモデルを確立していくことである。 こうした観点から、ベストプラクティス(成功事例集)を提供していくとと もに、予算事業(「サービス産業創出支援事業」)などにより先導的なビジネス モデルの構築を支援する。 ② 高齢者向けサービス・ニーズの顕在化 現在、60 歳以上の人口のシェアは 26.7%(2005 年)であるが、今後 10 年間で 32.6%に拡大する。しかもその大半を占める団塊世代は、活動的であり、IT 等の テクノロジーにもリテラシーが高い。こうした高齢者向けサービスへのニーズ は着実に増大すると考えられるが、従来型サービスと質的に異なる場合には、 普及に向けた新たな基盤整備が必要となる。 例えば、健康サービス分野では、財政制約が強まる中で、健康保険組合等保 険者の良質な健康増進プログラムへのニーズが強まっていくと予想されるが、 一方で、国民が安心してサービスを利用できる環境が必ずしも十分には整備さ れていない。 9 このため、健康サービスの普及を促進する観点から、有識者からなる評価委員 会が一定の要件に基づき「良質なプログラム」と認めるものについては、 「特定 健康増進サービス」(仮称)として認証し、その普及を支援する。 ③ IT 利活用による新サービス提供の実現 IT を利活用することにより、これまで人手と時間をかけていたサービスを瞬 時に提供するようなビジネスモデルの創出も可能となっている。 例えば、観光・集客サービスにおいては、携帯電話による個人への情報提供 等を通じたマーケティングや通訳サービス、地理案内情報の提供等が新たな需 要を開拓している。コンテンツ産業におけるインターネット配信サービスも同 様である。サービス分野における新たなビジネスモデルの構築に当たって、IT が果たす役割は極めて重要である。 サービス産業における IT の利活用は、単なるコストダウンを通じた生産性向 上に留まらず、顧客の多様なニーズに応えるための商品の企画・構想、マーケ ティング、サービス提供後のフォローアップ、技術的サポート等顧客とのコミ ュニケーション手段として有用である。 そうした取組を促進するため、産業競争力のための情報基盤強化税制を創設 するとともに中小企業投資促進税制を拡充してきたところであるが、加えて、 上述の「サービス産業創出支援事業」などを通じ、IT を活用した先導的なビジ ネスモデルの構築を支援する。 2)国際的需要の拡大 ① WTO や EPA 交渉を通じた投資・サービスの自由化 サービス産業においてもグローバリゼーションが次第に進展しつつあり、サ ービス産業の国際展開を図るため、諸外国の投資・ビジネス環境の整備に向け た取組を強化していく必要がある。 このために、WTO サービス交渉や、二国間又は地域における経済連携協定(EPA) の交渉を通じて、我が国サービス産業の国際展開の障壁の除去に積極的に取り 組み、国際的な事業展開を行おうとしている事業者の、ビジネス上の予見性を 高めていく。また、国際的なビジネス展開の円滑化を図るため、投資に係る法 制度、物流や資金に関する法制度、知的財産に関する法制度等について、大使 館や JETRO を通じて十分な情報収集に務めるとともに、これを周知していく。 ② 外国人観光客の誘致 我が国のサービス収支の赤字の大部分は、観光分野における赤字(2.8 兆円、 2005 年)に起因している。こうした状況を鑑み、2003 年には観光立国関係閣僚 会議において「観光立国行動計画」がとりまとめられ、観光立国に向けた取組 が強化・実施されている。 10 元来、我が国は四季折々の美しい自然、歴史・文化、リゾート、温泉・癒しな どの観光資源が豊富であり、これらを有機的に結びつけ、観光メニューとして 適時的確に、外国人にも優しい形態で情報発信することにより、外国人旅行者 の拡大につなげることが可能と考えられる。 また、2008 年に北京オリンピックが開催され、2010 年に上海万博が催される 中、合間となる 2009 年や前後の年に、 同じアジア地域である我が国においても、 これらと比較して遜色のない国際的に魅力のあるイベントの実施について検討 する。その際には、イベントの開催される地域とその他地域との有機的な連携 等により、外国人が我が国を訪れた際に、より高い満足度が得られる機会を提 供することとする。 3)規制改革(官民パートナーシップにおける役割分担の明確化) これまで公共セクターが一定の責任を担ってきたサービス分野は、医療、教 育から観光まで広範な分野に及んでいるが、少子高齢化等を背景にニーズが多 様化する一方、国、地方の財政制約は一層強まっており、民間資金やノウハウ 等の一層の活用が求められている。 そうした観点から、PFI 注や指定管理者制度注、更には、市場化テストといっ た制度を積極的に活用していくことが重要であるが、その前提として、次の 3 つの対応が徹底されるよう、ガイドラインの整備等を検討する。 注)PFI Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ。公共施設 等の建設、維持管理等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用し行う手法。 注)指定管理者制度 地方公共団体やその外郭団体に限定していた公の施設の管理を、株式会社・民間業者な どの団体に委託すること。 イ.サービスの内容・目的に応じた民間活用の推進 民間活用には、公的業務のアウトソーシングから運営委託、PFI、更には完全 民営化まで様々な形態が存在するが、サービスの質を維持する必要性とサービ スの革新の必要性を比較衡量し、事業の性格に応じてそれぞれ適切な手法を採 用する。 注)アウトソーシング 企業や行政の業務のうち専門的なものについて、それをより得意とする外部の企業等に 委託すること。 11 ロ.曖昧さを極力排除した契約の締結 我が国の契約文化等を背景に、官民の契約が曖昧なケースが多いが、豊富な 経験を有する海外事業者の参入を促すためにも、契約の範囲やリスク・リター ンの分担、事業破綻後の処理等について、契約により明確化していく。 ハ.合理的で簡略化した入札制度の導入 官民連携事業における入札制度は、事務作業が繁雑で、特に民間事業者に過 度な手間と費用がかかる。新規参入を促すためにも、官民双方にとって合理的 で簡略化した制度とすべきである。 ニ.関連諸規制の見直し 民間が事業目的やニーズに応じたサービスを提供していくためには、施設の 設置者要件や補助金要件を緩和する一方で、地域の景観を維持するために規制 の強化が必要となることもある。こうした課題について、事業の遂行上必要と 認められる場合には、国・地方公共団体が柔軟に対応していく。 (3)競争力・生産性の向上 サービス産業においても、製造業と同じように、1)モジュール化(サービス のマニュアル化)と、2)差別化(顧客接点の改善)とを適切に組み合わせてい くことにより、生産性向上を図っていくことが重要であるが、サービス分野に おいては製造業以上に経営理念の果たす役割が大きいこと等に留意する必要が ある。 具体的には、サービス分野では、①経営理念と人材育成、②IT の利活用、③ サービス品質の標準化、④対日直接投資の増大、⑤規制改革(市場ルールの導 入を通じた公的サービスの効率化)を推進していく。 12 図 2-1 日本経済成長の要因分析 図 2-2 日米小売業の等量曲線 13 〔具体的施策〕 1)経営理念と人材の育成 ① 経営理念とベストプラクティスの提供 サービスは工業製品と違って、目に見えず、かつ在庫がきかないため、これ を提供する人材によって、そのサービスの質が規定される。そうした理由から、 人材の育成が重要な取組となるが、完璧なマニュアルは存在しないため、それ を補うものとして、経営理念が重要となる。こうした観点から、ベストプラク ティス(成功事例集)を提供していく。 ② 専門職大学院の充実・活用支援 サービスは人を介して提供されることから、サービス産業の最も重要な経営 資源は人材である。提供するサービスの質を高め、イノベーションを生み出し、 新たなビジネスモデルを提供していく源泉も、サービス産業の担い手である人 材にある。 このため、個々のサービス分野毎の特徴を踏まえた経営戦略や財務分析を含 めた管理手法に係るノウハウの伝授を目的とした分野毎の専門教育システムの 整備が必要であり、サービス産業分野毎に専門職大学院の充実・活用を支援し ていく。 具体的には、既に、コンテンツ分野、観光・集客分野、医療経営分野におい て人材育成に必要となるモデル・プログラムとテキストの策定等を支援してき ているが、今後、これらの教育プログラムを活用した取組及びその結果を踏ま えた当該プログラムの改善等を支援していく。 ③ サービス人材育成に資する社会的仕組み整備 サービス分野で活躍するプロデューサー等の人材を、専門職大学院等を通じ て育成していくのみならず、そこで育成された専門職を、産業界が適切に処遇 し、継続的に教育していく社会的仕組みがあって、はじめてその専門職は個人 のキャリアパスとして認知され、社会に展開していくことができる。 そうした観点から、民間教育事業者等のビジネス展開の一環として、そうし た職業能力を高めていくための社会的仕組みが整っていくことが期待される。 平成 15 年に事業再生分野の実務者が「事業再生実務家協会」を設立し、相互の 意見交換等を通じた知識水準の向上を図っているように、継続教育等を担える ような専門職ネットワークを構築していく。 14 2)IT の利活用 ① IT 投資の量的充実 IT によって、これまで不可能であった個人レベルでのきめ細かなマーケティ ングを可能とすることは、新たなサービス需要を創出するが、更に、少人数の 営業活動で大きな成果を上げることができるという意味で生産性の向上にも貢 献する。これは、サービスの質の向上を実現する一例であるが、同レベルの質 のサービスの提供を、より少人数で提供することが可能になれば、労働生産性 が高まることとなる。 図 2-3 IT 化と TFP 上昇率 %ポイント 18 16 ︵ ︵ 米国 1 9 I 9 T 0 資 年 本 と 比 2 率 0 の 0 差 0 年 精密機械 12 10 サービス 8 通信 運輸 6 一般機械 石油・石炭製品 ︶ ︶ 1 9 9 I 0 T 年 資 と 本 2 比 0 率 0 の 0 差 年 の 差 金融・保険 14 %ポイント 12 製造業 非製造業 卸売業 製造業 非製造業 小売業 4 10 運輸・通信 8 金融・保険 6 サービス 4 建設 2 商業 電力・ガス・水道 0 電気機械 2 日本 不動産 -2 0 -10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 TFP上昇率の差(1991-95年平均と96-2000年平均、%ポイント) 8 10 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 TFP上昇率の差(1995/1990と2000/1995、%ポイント) (出典):JCERデータベース 米商務省:Fixed Asset Tables, GDP by industry data こうした観点から、本年度より産業競争力のための情報基盤強化税制を創設 するとともに、中小企業投資促進税制を拡充している。 ② IT 投資に伴う雇用・組織見直しの円滑化 IT 資本の量的な充実と並んで、IT 投資の質を高めていくことが重要である。 米国では、製造業、非製造業の区別なく、IT 化が生産性向上に寄与しているの に対し(相関係数 0.41)、日本のサービス産業では、ほとんど寄与が認められな い(相関係数 0.03)。 我が国サービス産業の生産性を向上していくためには、米国のように IT 投資 が生産性向上に寄与するよう、広い意味でのビジネスモデルの革新を促進する ために雇用・組織・業務プロセスの見直し等を円滑化していくことが必要であ る。 例えば、従業員の創造性を高めるため、ホワイトカラー・エグゼンプション注 等労働時間管理の一層の弾力化を図ることが重要となる。そうした中で、多様 な短時間就業モデルが実現していけば、女性や高齢者をはじめ能力と意欲のあ る者の就業を通じ、労働投入の側面からも経済成長に寄与すると考えられる。 15 10 3)サービス品質の標準化 ① 認証制度注の整備 情報の非対称性が存在するサービス分野においては、品質の保証がなされな いために購買意欲が縮小している場合がある。こうしたサービス分野において、 購買意欲を高め、かつ、付加価値に応じた高価格取引を可能とするよう、提供 されているサービスの質が一定の基準を満たしていることを第三者機関等が認 証する仕組みづくりを行う。 注)ホワイトカラー・エグゼンプション ホワイトカラー労働者に対する労働時間規制を適用除外(エグゼンプト)するこ と。 注)認証制度の対象となるサービスの品質は、サービスの生産・供給段階で満たすこ とが求められている基準が達成されているか否かについてが中心となる。 ② 標準約款の策定・普及 ビジネス支援サービスの分野においては、契約の形態や内容が十分に明確で ない場合や、契約者間における利益の配分が必ずしも適当ではない場合が見受 けられる。この結果、サービス提供者にサービスの品質の改善動機が生じない ことに加え、良い人材が集まらないという問題が生じている。 そこで、契約書や標準約款の内容を検討し、その内容を公表するとともに、 普及に向けた取組を行う。 なお、アニメーション産業分野においては、著作権に係る問題意識を背景に、 プロダクション側にとって理想的なモデル契約書の検討を行い、アニメーショ ン産業研究会報告書(平成 14 年 6 月)の中で公表することで、その普及と、交 渉時における活用を促す取組を行っている。 4)対日直接投資の拡大 対日直接投資は、単なる資金の移動だけでなく、競争の促進、新しい技術や ビジネスモデルの移転、革新的な商品・サービスの供給やリスクマネーの供給 等を通じて、投資受入れ国における産業活性化につながる。 我が国サービス産業においても、金融、通信、飲食・流通分野等で、外資の 参入が活発化しており、競争の促進等を通じ、生産性の向上に寄与していると 考えられる。 サービス分野は、公的規制下の産業も少なくないため、そのことが外資導入 の制約となっている場合がある。そのような場合には、特区制度の活用や公共 サービスにおける民間活力の一層の活用等についても積極的に検討していく。 5)規制改革(市場ルールの導入を通じた公的サービスの効率化) 医療サービスや介護等の福祉サービスに代表される公的サービス分野におい ては、財政面では公的保険に依存しつつ、民間経営主体のサービスの提供は、 16 いわゆる「準市場(疑似市場)」において提供されている。 しかしながら、こうした公的サービス分野においては、これまで、組織、金 融、会計、税制、事業再編といった市場ルールが十分に整備されておらず、経 営面での非効率性が指摘されてきた。 今後は、財政制約と高まる国民ニーズという、相反する要請に同時に応えて いく必要があり、効率的で質の高いサービスの提供体制を構築していく必要が ある。 例えば、医療サービス分野では、昨年末の医療制度改革大綱において、医療 法人会計基準の検討が明記されたところであるが、こうした市場ルールの導入 等を通じた公的サービスの効率化を図っていく。 (4)政策インフラの整備 サービス産業は、その重要性にもかかわらず、日本ではこれまでは十分な評 価がなされてこなかったため、サービス政策の企画立案に係るインフラ自体が 十分に整備されていない。製造業など他産業のサービス部門も視野に入れ、政 府全体でサービス政策インフラを整備することが重要である。 図 2-4 サービス政策の対象の拡がり 全産業に占める2次産業と3次産業の粗付加価値の比率 3次産業(71.7%) 2次産業(26.8%) 3次産業付加価値の内訳 (職種別就業者数で代替) 2次産業付加価値の内訳 (職種別就業者数で代替) 65% 25% 10% 7% 64% 2次産業中間投入の内訳 (製品とサービスの割合) 3次産業の付加価値と中間投入の割合 サービス 70% 中間投入 製品 サービス 30% 付加価値 サービス職種 管理・ 事務・ 技術・農林漁業 製品 中間投入 30% 製造職種 サービス職種 管理・ 事務・ 技術・農林漁業 製造職種 付加価値 2次産業の付加価値と中間投入の割合 70% 29% 3次産業中間投入の内訳 (製品とサービスの割合) 出典:産業連関表 2004、労働力調査 2005 17 〔具体的施策〕 1)サービス統計の充実・整備 ① サービス産業を対象とした構造統計・動態統計の充実 これまで、我が国のサービス統計は、十分に整備されてきているとは言えな いが、その背景には、サービス産業は対象業種が多様であり、製造業等とは異 なり需要サイドに牽引される形で新しいビジネスモデルが随時生まれてくるた めに捕捉が難しいということもあると考えられる。 しかしながら、経済におけるサービス産業のウェイトとその重要性が趨勢的 に増大する中で、必要な施策を適時的確に講じていくためには、当該産業の最 新の動向について十分把握していくことが不可欠である。このため、特定サー ビス産業動態統計調査等において培った知見やノウハウを十分に活用し、サー ビス統計の整備・充実を図っていく。 なお、サービス産業は、運輸業や医療業など多くの府省にまたがる産業であ り、統計の整備に際して、調査方法や調査項目の整合性の確保が大きな課題と なるため、関係府省の緊密な連携が不可欠である。 ② 全産業を対象にした e コマース注の把握 近年、インターネットの普及に伴い、金融、小売をはじめとして、広範な産 業分野において e コマースの活用が進んでいる。銀行・証券等の金融サービス では既に 16.8%がネットを介して取引されており、書籍・音楽の売り上げについ ても 6.7%、旅行業でも 4.7%を占めるようになってきている(2004 年) 。米国で は 2002 年の経済センサスから全産業で e コマースの把握がなされており、我が 国においても、速やかに取引の実態を把握していくよう検討を進める。 図 2-5 サービス分野における e コマースの拡大 注)e コマース インターネットなどを使った電子商取引。 18 ③ 日本版 NAPCS(北米生産物分類システム)の検討 サービス産業の動向を正確に把握するためには、需要サイドに着目したデー タの収集が重要となる。例えば、広告一つをとっても、イ)郵便により配達さ れるもの、ロ)サンプルが届くもの、ハ)公共の掲示によるもの、というよう に、きめ細かく分類することが求められる。こうした観点から、米国、カナダ 及びメキシコでは、1999 年より、需要サイドの視点に立った生産物の分類 (NAPCS:North American Product Classification System)を行うための取組 が進められており、2007 年経済センサスに反映させる計画となっている。 こうした米国等の取組は、サービス産業の重要性を踏まえた動きであり、我が 国においても、こうした諸外国のサービス統計に関する取組について、調査を 行う必要がある。 2)サービス政策の体系的整備 ① 営利・非営利間のイコールフッティング注 サービス分野においては、介護等福祉分野を中心に、民間営利事業者と NPO 等民間非営利事業者がサービス提供者として競争を展開している。こうした実 態にもかかわらず、中小企業対策をはじめとする国の施策は、民間営利事業者 のみを対象とするものが多い。このため、支援対象を NPO 等非営利法人に拡大 していくことを検討する。 3)サービスの生産性向上運動の推進 ① 「サービス産業生産性協議会(仮称) 」の設置と生産性向上運動 我が国の高度成長期には、良好な労使関係の下、主として製造現場の生産性 向上運動が推進され、経済成長に大きな貢献をした。一方、サービス分野の生 産性は、欧米と比較して、低い水準に留まっている。 サービス分野において生産性向上運動を展開していくためには、製品とサー ビスの特性の違いや労使関係の変化等を十分に踏まえ、新しい時代の生産性向 上運動を推進していく必要がある。 具体的には、産官学コンソーシアム注(「サービス産業生産性協議会(仮称)」) を立ち上げ、業種レベル、企業レベルという2つのレベルで運動を展開してい く。 a)業種毎の生産性向上目標の設定と定期的公表 サービス分野の生産性(効率性)を捕捉するためのミクロ統計の整備は極め て不十分であり、広範なサービス産業をカバーする生産性分析は、ほとんど行 われてこなかった。 一方、デフォルトリスク分析を目的として中小企業庁が整備してきた CRD(信 用リスク・データベース)は、200 万社を超える事業者の財務情報を含んでおり、 ミクロ分析に有用なため、これを活用し、初めての包括的なサービス産業の効 率性分析を行った。 この結果、業種毎に生産性格差が大きく異なることが明らかとなってきてお 19 り、こうした分析手法等を積極的に活用し、業種毎の生産性向上目標を設定す るとともに、その成果を定期的に公表すること等により、業種内の経営非効率 性の解消に向けたベンチマークとすることを検討する。 図 2-6 CRD を用いた生産性向上余地の計測(ベストプラクティスからの乖離) 効率性指標 医療業・保健衛生業 効率性指標 1.0 1.0 0.8 0.8 0.6 0.6 運送業 効率性の改善 0.4 0.4 0.2 0.2 0.0 効率的な事業者 企業構成比 0.0 企業構成比 非効率的な事業者 効率的な事業者 非効率的な事業者 (出典)CRD協会のデータ(2004年)に基づいて経済産業省作成 注)イコールフッティング 対等の立場・条件の下におくこと。 注)コンソーシアム 企業連合など。 b)「日本サービス品質賞(仮称)」の創設 生産性向上運動の有力な「手段」として機能している米国マルコム・ボルド リッジ賞(MB 賞)は、連邦法により制定され、 「米国の競争力強化」を主要目的 として創設された大統領表彰制度である。 こうした取組等を参考に、「日本サービス品質賞(仮称)」を創設し、健康・ 福祉、観光・集客、ビジネス支援といったサービス分野の企業が取り組みやす い表彰制度を創設する。MB 賞と同様、賞を受けた企業に受賞理由となったビジ ネス手法を公開する義務を課すことにより、一つの企業の成功が他の企業にも 連鎖的に成功をもたらす効果が期待される。 こうした表彰制度を、地方公共団体が地元企業の活性化手法として活用する ことについても、積極的に支援していく。 ② 「サービス研究センター(仮称)」の設置 サービス分野の生産性研究は、製造業に比べて困難でもあり、これまでは、 必ずしも十分な蓄積があるとはいえない。ミクロデータを活用した生産フロン 20 ティアの計測などサービスの生産性に係る実証分析等は次第に増えてきている が、サービスの品質の計測は、大変な困難を伴う。 特に、サービス業にとって最も重要な資産である無形資産(インタンジブル・ アセット)には、経営理念、経営者のリーダーシップ、戦略、組織文化、ブラ ンド、労使関係といった組織資産、顧客資産、サプライヤー資産、従業員資産 といった直接的には計量できないものまで含んでいるため、様々な角度からア プローチしていく必要がある。 そこで、サービスの品質の計測手法を含めたサービス生産性研究、サービス の標準化やビジネスモデルの類型化等に関する研究、更にはサービスに対する 市場の潜在的ニーズの可視化等を推進するための研究拠点( 「サービス研究セン ター(仮称)」)を整備するとともに、サービス研究で先行する米国等海外の研 究者の招聘等も積極的に行う。 21