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統合失調症における「心の理論」と精神症状との関連
日心第71回大会 (2007) 統合失調症における「心の理論」と精神症状との関連 ○元久祉依 1・石垣琢麿 2・井村修 3 (1 横浜国立大学大学院教育学研究科・2 東京大学大学院総合文化研究科・3 大阪大学大学院人間科学研究科) key word:統合失調症,心の理論,精神症状 【目的】 を探す場所はどこか、②今、X のある場所はどこか、③一番 統合失調症の症状は多彩であるが、今日の研究を概観する 最初に X のあった場所はどこか。 と、陰性症状、陽性症状、認知機能障害という大きく分けて 絵画配列課題 4 枚1組で一つの物語になるカードを用い、 3つの観点から検討されている。これらに加え、寛解後も持 実験者が提示する一枚目のカード以外はランダム順に配置し 続する障害として、社会機能障害に関する研究が注目されて た。調査協力者に残りの 3 枚のカードを並び替え、その物語 いる。統合失調症の社会機能障害には①“心の理論”の障害、 の内容を話すよう求めた。物語カードは、物理的ストーリー1、 ②他人の気持ちの理解の障害③人付き合いの障害など、対人 物理的ストーリー2、 行動的ストーリー1、 行動的ストーリー2、 関係を中心とする障害が挙げられる。 心理的ストーリーの 5 つの要素で各 3 種類ずつ 15 セットから 昼田(1989)は統合失調症の対人関係の問題は、自己中心 構成されていた。なお統合失調症群では、15 ストーリーすべ 的な状況認識の問題に関連すると述べている。井村(2000) てを一度に試行することが難しい場合は、2 日に分けて試行 は、統合失調症患者のそういった自己中心的な状況認識の問 した。 題を、陽性症状および「心の理論」と関連づけて検討した。 【結果】 幻覚や妄想などの陽性症状をもつ患者は、自己の体験や信念 サリー&アン課題 χ2 検定の結果、PANSS 高群と健常群と を相対化し、自己視点からの転換が困難であるという仮説の 2 の間に有意な差が認められた(χ〔1, N=30〕=7.778,p<.05) 。 もとに、 「心の理論」の課題を実施した。その結果、陽性症状 2 陰性群と健常群に有意傾向がみられた(χ〔1, N=28〕=6.462, のある患者群において統合失調症の「心の理論」の障害が確 p<.07)。絵画配列課題 認された。また、この障害は症状とともに変化する一時的機 績が他の 2 群よりも 5%水準で有意に低く、陰性群の成績が 多重比較の結果、PANSS 高群の成 能不全であろうと考えられた。しかし、 「心の理論」障害と関 健常群より 1%水準で有意に低くいことが示された。各課題 連する症状の詳細は分かっていない。そこで、本研究では半 と症状の相関分析 構造化面接に基づいて症状を詳しく調査し、 「心の理論」との PANSS 項目との相関係数を表 1 に示した。 関連を検討した。 各課題の成績と有意な相関がみられた 【考察】 【方法】 二つの「心の理論」の課題に関して PANSS 高群と健常群 調査協力者 A 県内の B 精神科病院に通院/入院中の統合失調 の間にのみ有意な差が認められた。この結果は、 「心の理論」 症患者 21 名(男性 17 名:女性 4 名:平均年齢 44.2 歳:SD=10.4)。 の障害の程度は症状と共変動するという井村(2000)の見解を 健常成人 21 名(男性 10 名:女性 11 名:平均年齢 42.5 歳: 支持していた。 SD=8.38) 。 また、両課題で陰性群と健常群に有意な差がみられた。 症状評価 Positive And Negative Syndrome Scale(PANSS) PANSS の陰性症状は陽性症状や総合精神病理尺度に比べて を用いて主治医が行った。 絵画配列課題と相関する項目が多かった。これらの結果から、 PANSS 高 群 ・ PANSS 低 群 統合失調症における「心の理論」の障害は、陽性症状よりも PANSS の総合得点の中央値から高得点群(以下、PANSS 高 むしろ、 陰性症状との関連する可能性が示唆された。 さらに、 群)と低得点群(以下、PANSS 低群)に群分けを行なった。 PANSS 項目の「抽象的思考の困難」、「失見当識」と両課題 PANSS の症状評価により、陰性型を陰 との間に有意な相関がみられた。これらのことから、統合失 統合失調症群の群分け 陰性群・その他群 性群、陽性群と混合群をその他群に分けた。 調症患者の「心の理論」の障害には、陰性症状に関連するい 手続き サリー&アン課題 「登場人物 A と B がいて、A が くつかの問題、たとえば問題解決におけるかたくなさや自己 所有物 X を隠して外出する。その間に B がやってきて、A の 中心的な考え方、あるいは環境(人や場所)と自分との関係 所有物 X の場所を変える。その後 A が再度やってきた」とい に対する認識の欠如もしくは関心の薄さ、などが関連すると う内容に関して以下の3点について質問した。①A が最初に X 考えられた。 (MOTOHISA Shie, ISHIGAKI Takuma, IMURA Osamu) 表1 PANSS項目と各課題の成績との相関係数 陰性尺度 総合精神病理尺度 陽性 概念の統 情動の平 情動的引 社会的引 抽象的思 衒奇症と不 失見当識 合障害 板化 きこもり きこもり 考の困難 自然な姿勢 サリー&アン 絵画配列 ― -.554* ― -.524* ― -.494* ― -.462+ ― -.734*** -.616** -.647** -.651* -.817*** ***p <.001,**p <.01,*<.05,+p <.10