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小林 剛士さんの作品
大東文化大学 文学部 英米文学科主催 第 7 回 高校生翻訳コンテスト 最優秀作品 イングランド南西部のコーンウォール州、ここにフォーレーンズという小さな町がある。町は大きな丘 の上にあって、大西洋から流れ込む冷たい風が年中吹いている。丘の天辺には数マイル先からでもよく見 える電波塔がたっていて、夜になると塔の赤い信号灯が真っ暗闇の中でちらちらと点滅する。 私の祖母はかつて、この電波塔から畑 2 区画分離れた丘の上のテラスハウスに住んでいた。家は車のよ く通る幹線道路に面していたが祖母はお構い無しに後ろ向きに車を出して車の流れを双方向とも遮ってい た。祖母が一度も事故を起こさなかったのは奇跡だ。 祖母の車は古いモーリスマイナーだった。兄と私を車に押し込み、荒々しくドアを閉めて出かける祖母 が思い出に残っている。自転車に乗っている人も祖母の車が近づくと、しばしば垣根に飛び退けざるをえ なかった。だから母には、祖母の車に乗せてもらう時は後ろの席に座りなさいと言われていた。 毎朝祖母は新聞で競馬の記事を読んで、勝ちそうだと思った馬の名前に丸をつけていた。一日の内でこ の時間だけは祖母も一人静かにしておいてほしいようだった。祖母は馬とともに大人になり、それからも 人生の大半を農場で過ごしてきたのだ。それに祖母が若い頃は町の人が利用できる移動手段は馬だけだっ た。祖母は馬に乗るだけではなく、馬に絵を描くのも好きだった。祖母の子どもである親たちは、祖母は 世界で何よりも馬を愛しているのだとよく言っていた。 歳をとって馬に乗れなくなっても、祖母はテレビで競馬を見ていた。祖母は馬のことに詳しかったが、 馬にお金を賭けることはなかった。祖母が競馬を見ていたのはただ馬を愛していたからであった。だから 祖母の予想はたいてい当たっていたし、でもお金儲けには興味がなかった。私はよく祖母が読み終えた新 聞を借りて馬券売り場に持って行って少し賭けをしたいと思った。もちろん私は子どもだったのでできな かった。 今ではもう私は馬券を買える歳である。しかし祖母はもうこの世にいない。祖母は素晴らしい人だった。 私たち祖母の孫はみんな、祖母がとても恋しい。 NAME (ローマ字):KOBAYASHI TSUYOSHI 氏名:小林剛士 所属高校名:渋谷教育学園幕張高等学校 学年:3 年