...

まちづくり実践レポート ~北から南から~ 大分県 別府市

by user

on
Category: Documents
27

views

Report

Comments

Transcript

まちづくり実践レポート ~北から南から~ 大分県 別府市
くり
づ
ち
ま
ート
ポ
レ ∼北から南から∼
実践
広報担当職員が
「撮影戦隊 撮るンジャー」
の企画で別府を国内外に発信
大分県別府市
海と山の景観に恵まれた別府市。日本有数の源泉数を誇る観光地だ。
日本一の源泉数・湧出量を誇る温泉のま
れる写真は、ホームページから自由にダウ
ち・別府市。
「住んでよし 訪れてよし ア
ンロードできる。旅行会社のパンフレット
ジアをむすぶ ONSEN都市」を将来都市
や雑誌などを通じて、その写真は広く使わ
像に掲げ、ONSENツーリズムのまちづくり
れており、別府のイメージ戦略に一役買っ
を推進するこのまちで、ご当地ヒーローが
ている。また、市内の企業が販促ツールと
活躍している。その名も「撮影戦隊 撮るン
して活用する例も増えており、同課では
ジャー」
。秘書広報課職員が、
「写真を通じ
「市民の方はもちろん、全国、そして全世界
て別府のいいところをもっと広めたい」と
に別府を広報していきたい」と、撮るン
結成した。彼らが撮影した別府の魅力あふ
ジャーの活動をさらに強化していく考えだ。
市のホームページ
ONSENツーリズムのまちづくりによる
観光振興・地域振興を推進
フォトギャラリーを通じて官民協働でイメージアップ
である。これらを通じて観光振興と地域振興を一体的に進
め、
「住んでよし、訪れてよし」のまちをつくろうとしている。
別府市が行っている「泉都別府ツーリズム支援事業」は、
大分県東海岸の中央部に位置する別府市は、国際観光
市民団体から地域活性化事業や市が設定したテーマに関
温泉文化都市の名にふさわしく年間800万人の観光客が訪
する協働事業の提案を受け付け、公開プレゼンテーション
れる。市内至るところに湧く温泉は、日本の総源泉数の1
を通じて採択された団体に補助金を交付する仕組みである。
割を占めると言われる約2,300の源泉を有し、1日当たり12
このような市民と行政が一体となったONSENツーリズム
万5,000キロリットルの湧出量も日本一である。東部は別府
の推進に一役買っているのが、平成24年に誕生した「撮影
湾に面し、西部は阿蘇くじゅう国立公園の指定域が広がる
戦隊 撮るンジャー」である。別府市秘書広報課の職員が
など、海と山の自然景観に恵まれている。
メンバーとなり、市内各地の写真スポットに出没し、別府の
昭和43年に制定された市民憲章は、
「美しい町をつくりま
しょう/温泉を大切にしましょう/お客さまをあたたかく迎
えましょう」と謳っている。半世紀近く前に、今でいう「お
もてなしの心」をまちづくりの最も大切な理念として掲げて
いたということになる。現在はこれをベースに別府ならでは
のおもてなしの心をより広く発信していこうと、ONSEN
ツーリズムのまちづくりを推進している。
素晴らしい景色を写真に収めて全国・全世界に発信するこ
とを使命としている。
カレンダーの掲載写真募集で
ポスターを作成したのが発端
結成のきっかけとなったのは、毎年別府市が作成してい
る「べっぷ四季のカレンダー」であった。市民が撮影した、
もともと、市長の思いであった「総 合産業としての
別府の風景や行事などに関する写真を募集し、その中から
ONSENツーリズムの推進」を諮問機関の「別府観光推進
選ばれた作品を使用してカレンダーを作成し、市民などに
戦略会議」が、平成16年に行った答申で「ONSENツーリ
配布している。担当の秘書広報課では、写真募集のポス
ズムの観光戦略」として提言し、翌平成17年度にはその推
ターをつくるに当たって、できるだけ多くの市民に気軽に応
進主体として、市にONSENツーリズム局(後にONSEN
募してもらおうと頭をひねった。その中から生まれたアイデ
ツーリズム部)を新設した。ONSENとアルファベット表記
アが、
「市民の皆さんもこんな感じで写真を撮りに行きませ
にしたのは、この言葉を世界共通語にしたいという思いと、
んか」と、同課の職員がカメラマン役のモデルとしてポス
「温泉」だけでなく「音泉」の意味も持たせ、音楽があふ
ターに登場するというものである。
れるまちにしようという狙いからである。平成19年∼平成22
秘書広報課の広報担当職員は日頃から広報誌「市報
年度には、総務省の「頑張る地方応援プログラム」の採
べっぷ」の取材も担当しているので、カメラはお手の物で
択を受けて、既存の観光振興事業やまちづくり事業を「別
ある。また男性陣は、みんな体格がいいので、
「いっそ戦
府市ONSENツーリズム推進プロジェクト」としてまとめる
隊ヒーローのイメージでやってみたら」
「撮影がミッション
形で取り組みを行った。
だから名前は『撮るンジャー』なんてどう?」と、職員間で
その中心となるのは、各地域での住民主体のまちづくり
や、市民と行政の協働による国内外の観光客との交流促進
話が盛り上がっていった。
そして平成24年6月にできあがった「平成25年べっぷ四
写真を公募するポスターに登場する
﹁撮影戦隊 撮るンジャー﹂
ラジオ出演する「撮影戦隊 撮るンジャー」のメンバー
季のカレンダー写真募集」のポスターでは、おそろいの
バー5人のプロフィール紹介や手作り感あふれるテーマソ
シャツとズボンに色違いのスカーフを身にまとった5人が、
ングが楽しめる「イントロダクション」もお奨めだが、メイ
一眼レフカメラやコンパクトカメラを手にしてポーズを決め
ンとなるのは「フォトギャラリー」である。ここからは、撮
た写真が、ドーンとメインを飾った。その傍らには、
「撮影
るンジャーたちによって撮影された別府市内の観光スポッ
戦隊 撮るンジャー」の大きな文字が躍ることとなった。
トやイベントの写真を、自由にダウンロードすることができ
インパクトのあるこのポスターが話題になり、7月8日に
る。
は地元紙・大分合同新聞に「撮るンジャー」結成の記事が
世界的に有名な温泉地だけに、別府市には国内外の旅
掲載された。同紙は「カレンダーの被写体となる風景やイ
行会社などの観光関連企業や出版・印刷関連企業などか
ベントなどを探し出して変身し、力を合わせて最高の瞬間
ら写真の貸し出し依頼がひっきりなしにある。しかし従来
を追い求めるという設定」と、撮るンジャーを解説した。
は、各課が個別に申請者に対応し、手続きも煩雑だった。
地元ケーブルテレビの広報番組で写真募集を呼びかける
利用者は申請書に利用目的などを細かく記入して提出し、
だけの予定だったのが、反響が大きいため活動を継続する
市がその内容を確認したうえで許可を出してから、該当す
ことになったと伝えている。こうした“撮るンジャー効果”
る写真を選択して貸し出してもらうという具合で、お互いに
もあってか、平成24年の写真の応募者数および応募点数
時間も手間もかかっていた。
は過去最多を記録した。
フォトギャラリーでは、画面を見ながら使用したい写真
ポスター写真で堂々の“センター”を務めた「撮るン
を選んでダウンロードボタンを押すだけで、誰でも自由に写
レッド」こと玉井文紀さんは、
「撮るンジャーの活動を始め
真データを取得し使うことができる。申請は不要で、どん
てから、メディアに取り上げられたりラジオに出演したりと、
な媒体にどう使用したかについても、できれば報告してほ
市職員としてはふだん考えられないようなさまざまな体験を
しいというスタンスで報告義務はない。使用者にとって格
させてもらい、毎日が楽しい」と笑う。取材に行った先で
段に便利になっただけでなく、行政にとっても貸し出し手
も、初めて会った市民から「頑張れよ」などと声をかけら
続きの効率化が図れるという大きなメリットがある。
れることが多くなったそうだ。
「撮るンブラック」こと後藤
使用にあたっては留意事項をよく読んで理解することが
寛和さんは、
「まわりの環境に恵まれてこのような活動をさ
求められている。留意事項には、写真を使用できない場合
せてもらっているので、ありがたいと思っています」と感謝
として次のような例が列挙されている。
の気持ちを忘れない。
フォトギャラリーから
写真を自由にダウンロード
平成24年10月には、撮るンジャーの公式ホームページが
市のホームページ内に開設された。
「イントロダクション」
「フォトギャラリー」
「ベストショット」
「おすすめスポット・
イベント」
「撮影日誌」という5つのコンテンツがある。メン
①法令若しくは公序良俗に反し、又は反するおそれのあ
る使用、②市の信用やイメージを傷つける使用、③第三者
の利益を害するものと認められる使用、④特定の個人や政
党、宗教団体を支援又は公認するような誤解を与え、又は
与えるおそれのある使用、⑤風俗営業等の規制及び業務
の適正化等に関する法律第2条に定める営業のための使用、
⑥著しい加工をしての使用、⑦写真の二次配布
このほか、著作権は別府市に帰属すること、使用に起因
フォトギャラリーの写真を使った印刷物、商品。民間が使用す
ることで別府をPR
する問題が起きた場合は使用者が速やかに対応する責任
ます。同じ写真は二度と撮れないので、後でこうしておけ
を負うことなどが記されている。
ばよかったと後悔することがないように、いろんなアングル、
フォトギャラリー開設当時の掲載写真点数は100点であっ
たが、それが平成26年6月現在では210点にまで増えた。
単純に新しい写真を追加していくのではなく、ダウンロード
いろんな絞りやシャッタースピードで撮影して、その中から
ベストの1枚を選ぶようにしています」
玉井さんは、撮るンジャーの活動を始めてから「いつも
状況なども見ながら常に掲載写真の分析を行っている。別
どこにいても、いい写真が撮れないか考えるようになった」
府市秘書広報課課長補佐兼広報係長の山内弘美さんが
という。
「撮るンジャーのメンバーが納得した写真だけを選んで掲
「それまでは全然意識していなかったこと、例えば『今日
載している」と話すとおり、
「自分もここに行ってみたい!」
は空が霞んでるなあ』といったことを考えるようになりまし
と思わせるショットばかりである。また、別府を隅から隅ま
た。いい場所だと思ったら、何回も足を運んでいちばんい
で知り尽くしたメンバーの手になるだけに、湯けむりの景観
い写真が撮れるようにしています。また、ホームページに
といった有名な風景だけでなく、まちの新たな魅力を発見
掲載され不特定多数の方の目に触れる写真を撮影するので、
させてくれる写真も多い。
車のナンバーや洗濯物などの写り込みがないように気をつ
210点の写真を分野別に分けると、温泉49点、湯けむり
17点、展望17点、花・自然55点、夜景11点、オブジェ6点、
けています」
玉井さんが今年4月の別府八湯温泉まつりで撮影した
イベント31点、その他24点である。ほとんどの写真が高画
「扇山火まつり」の写真は、撮るンジャー HPの「ベスト
質で、大判のカラーグラビアなどの使用にも十分耐えられ
ショット」コーナーにも掲載された。野焼きの炎が夜空に
るという。
浮かび上がる壮大かつ荘厳な行事で、春の風物詩として
撮るンジャーのホームページを開設してから、昨年10月
市民に親しまれている。これを多重露光で美しく捉えた1
までの13か月間におけるトップページのアクセス数は、合
枚は、
「3年越しでやっと撮れた」という本人も満足の作品
計8万4,284件で1か月平均6,483件である。フォトギャラ
である。
リーのダウンロード数は、合計3万9,440件で1か月平均
3,034件に上るという。
自由な発想で広く紹介
したいと思う写真を追求
撮るンジャーの指揮官役・山内さんは、任務に当たって
の心得を次のように語っている。
「技術うんぬんでなく、自由な発想で自分自身がいいと
思ったものを撮るように話しています。撮影場所について
も、有名なスポットばかりでなく、
『ここにこんな雰囲気のい
もともと写真が好きだったという後藤さんは、フォトギャ
い場所がある。ぜひ多くの人に紹介したい』と思うようなと
ラリーに写真を掲載することがさらなるレベルアップへのモ
ころを探したりもする。市報の取材で訪れた際に気にか
チベーションになっている。
かった場所があれば、後から再訪して違う季節や時間帯で
「同じ湯けむりでも、天気や場所によって色目が違ったり
するし、同じ場所でも季節や時間によって違う景色に見え
撮影してみたりと、みんなそれぞれに工夫しています」
別府市では今年、市制施行90周年を迎え、4月に記念
パソコン用の壁紙
別府市秘書広報課の玉井文紀さん、山内弘美さん、後藤寛和さ
ん(左から)
式典を催した。その際に配布する冊子の制作も秘書広報
こと。/食品メーカーが自社のホームページに、商品写真と
課が任され、表紙には海側と山側の町並みをいずれも超広
組み合わせて使用し、相乗効果を図ること、などである。
角で撮影したパノラマ写真を使用することになった。別府
また庁内でもイメージ戦略の一環としてさまざまに活用さ
といえば温泉の湯けむりだが、天気のいいときにはあまり
れている。例えば、県内外から視察に来た自治体関係者等
湯けむりが上がらないのだという。かといって、曇天ではき
との会議の場に写真を掲示するとともに、受付窓口の看板
れいな写真にならない。何回も日と時間を変えて撮影を繰
に写真を添えている。各課が制作するパンフレット類につ
り返し、やっと納得のいくものが撮れたという作品が、晴れ
いても、フォトギャラリーの写真を使うことで経費削減や作
て冊子の表紙を飾った。
業効率アップにつながっている。
市内の企業なども
積極的に写真を活用
ダウンロードされた写真活用について、山内さんは
撮るンジャーが注目を集めたことで、もともとチームワー
クの良かった秘書広報課の結束はいっそう強まるとともに、
HPや市報での情報発信など本来の業務にも良い効果をも
たらしている。地元のテレビ局では、大分県内の自治体が
「フォトギャラリーの写真がどんどん一人歩きしていってほ
手作りのCMでふるさと自慢を競う「大分ふるさとCM大賞」
しい。知らないうちに雑誌で写真が使われているのを発見
を毎年実施しており、広報担当職員たちが制作を手がけた
すると、
『やっぱりこの写真はニーズがあったんだな』と再
別府市はここ3年間で2度も大賞に輝いた。山内さんの
認識できるし、励みになります」と話す。
活用事例として、全国規模の雑誌や旅行会社のパンフ
レットなどにさまざまな写真が使われており、大きな宣伝効
「広報は普通にしていてはだめ。世界をターゲットにするく
らいの気持ちで、持っている素材を最大限に生かさないと」
という思いを、職員みんなが共有している。
果を上げていることがわかる。
「企業にとっては、種類が豊
今後の課題としては、
「フォトギャラリー」のさらなる充
富で選択肢が多いこと、画質がきれいなことなど多くのメ
実が挙げられる。
「ダウンロード数の分析や撮影スポット等
リットがあります」と山内さんは語る。同時に、特筆される
の研究によりPR効果の向上を目指すとともに、掲載写真を
のが市内の企業による使用例である。例えば次のような
分類して検索機能を持たせることで、利用者の利便性を高
ケースの波及効果が見られ、撮るンジャーの活動が地域の
めたい。また、同じ場所で季節や角度を変えた写真を掲載
活性化にも結びつくことが期待される。
するなど、より多様なニーズに応えていきたい」
(山内さん)
。
百貨店のふるさとお土産コーナーに写真が展示され、お
広報は、行政のあらゆる分野を対象とする業務である。
土産品の販促に貢献したこと。/お土産品・贈答品などの
別府市ではこの4月に、
「障害のある人もない人も安心して
化粧箱を製造するメーカーが、箱の前面に写真を印刷して
安全に暮らせる条例」
(通称「ともに生きる条例」
)を施行
別府をアピールしたこと。/コーヒーのメーカーがドリップ
した。また、誘客プロモーション事業や大型客船の寄港な
コーヒーのパッケージに写真を使用したこと。/工事現場の
ど、国内外からの観光客誘致に力を入れている。こうした
囲いの部分に、イメージアップのために写真が掲示された
別府の価値をより高める施策の「広報」にも、撮るン
こと。/印刷業者がオリジナル年賀状のデザインに写真を
ジャーの活動で培った発信力や結束力が生かされることを
使用し、使用料がかからず経費が安く済んだと感謝された
期待したい。
Fly UP