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付加価値税制の基本的構造と その企業会計的側面
付加価値税制の基本的構造と その企業会計的側面 斎 藤 昭 雄 一 序 付加価値税制がわが国で検討され始めてからすでに久しい年月が流れている。古くは、シャウプ税制勧告に基 づく法制化も成って、むしろ世界に先がけて、付加価値税がわが国の税制の一端を担うところまでこぎつけたこ ともある。しかし事業税に代る一種の企業税としての当時の付加価値税は、ついに実施されないまま姿を消すこ とになった。翻って、改良売上高税という性格を帯びた一般消費税としての付加価値税が、ECの共通税制とし て脚光を浴びるに至って、近年、わが国でもこのEC型付加価値税の導入が真剣に検討されるようになった。そ して、それをめぐる議論が日本で活発化してからもすでにかなりの年月を経ている。その間、EC型の付加価値 税を紹介する書物のほか、学術的な著書もいくつか公にされている。そして最近では会計学者もこの税制に注目 する兆しを見せている。 一47− しかしながら、これまでのところ、付加価値税制を会計学的立場から取上げている著書、論文の類は、わが国 ではほとんど見られない。かつてシャウプ税制勧告時にいくつかの会計学的考察がなされたほかには、新しい一 般消費税としての付加価値税については、フランスの会計制度の検討の中で、わずかに部分的にフランス流の会 計処理の方法が紹介されているにすぎない。 そのような現状にかんがみて、新しい付加価値税の会計処理の問題を含めて、この辺で付加価値税の技術構造 を総合的に考えてみることも必要なのではないかと考え、われわれなりにまとめてみるに至った。 付加価値税制の仕組については、主として本節の末尾に注記した邦文献を参照し、会計処理については、主と してフランスの諸文献を手がかりにした。従って、会計処理の問題を考える時には、ひとまず、EC型付加価値 税制のひとつの典型としての、フランスの付加価値税制を前提にしてみた。しかし、われわれは、フランスの制 度を紹介しあるいは検討することに主眼を置いているのではなく、議論をできる限り一般化し、わが国における 現時点の問題として考慮することを意識的に試みたつもりである。以下、かつての企業税としての付加価値税で はなしに、近年注目を集めている消費税としての付加価値税を企業会計との関連において検討してみることにす る。ただし、紙幅の関係で、本稿では付加価値税制の基本構造をめぐる会計学的な考察に限定し、税制の細部に わたる会計技術的な側面については稿を改めて考えてみたいと思う。 −48− 二 付加価値税制の基礎的考察 新しい付加価値税がどのような内容を有しその特徴はなにかといった一般的な考察は、すでに多くの人によっ て試みられており、ここでわれわれが改めて検討するまでもないことかもしれない。しかしながら、この税制を 実際に運用するに際しては、それを支える、企業における一定の会計実践が前提になるから、付加価値税制はそ の細部にわたって、会計処理の仕方に直接影響を及ぼすことになる。そこで本稿でも、付加価値税制の基本構造 がどういうものであるかということを、企業会計と直接的なかかわりを持つ範囲に限って、まずもってひととお −49− り検討してみることにしたい。付加価値税制の細部にわたる問題は、別稿において会計技術的側面を中心テーマ にする際に吟味することにして、ここでは、そのような立ち入った考察を進める基盤を作るという意図も含め て、付加価値税制の最も基本的ないくつかの柱に焦点を合わせてみたいと思う。 印 控除方式 新しい付加価値税制は、いわゆる﹁控除方式﹂を採っている点に、その技術構造上の最も基本的な特質を有し ているということができる。そして、現在施行されているEC型の付加価値税制の、控除のメカニズムの大きな 特徴は、前段階税額控除方式を採っていることである。しかし、この点に関しては、前段階売上高控除方式との 対比においてその長短が問われ、結局は付加価値税に消費税の性格をもたせようとしたこと、更には運用上の技 術的容易さを重んじたことなどのために税額控除方式の採用に踏み切ることになったように見える。 かくして、EC型の付加価値税制は、前段階税額控除方式を採用することになったが、この制度のもとでは、 各企業は、売上に伴って徴収した税額から、前段階の購入時に支払った税額を控除した金額を計算して、それを 国庫に払い込むことになる。従って付加価値税に関する限り、企業は政府の徴税代行者であると看做すこともで きるわけであり、この点が、付加価値税の会計処理の仕方を根本的に規定することになることは、後に見る通り である。 ㈲ 控除時期 −50− 前 段 階 つ ま り 購 入 の 時 点 で 負 担 し た 税 額 は 、 売 上 げ に 際 し て 受 入 れ た 税 額 か ら 、 原 則 と し て 全 額 控 除 し て 、 そ ㈹ の差額分を国庫に納めることになる。しかし控除の時期に関しては、EC内に制度上の若干の差が見られ、たと えばブランスのような仕組みを採る時には、かなりの議論を呼ぶ問題を宿しているように思える。 フランスにおいては、投資財の購入とその他の財貨・用役の購入とに分けて、控除時期が定められている。ま regiedu decalag de 'unmois︶jによって、通常はひと月遅れの課税期間︵﹁課税期間﹂ ず、投資財を除く財貨・用役、従って棚卸資産や諸費用に対する支出に伴って負担した付加価値税であるが、こ れは﹁一か月遅延の規則︵la については後段参照︶の納税額計算に際して初めて考慮される。その理由は、J・シュネイデルによれ添、理論と 実践の両面において考えられる。まず理論的には、一か月のタイム・ラグは、企業の棚卸資産の平均的回転期間 に対応するものであって、たとえば商品に関する控除は、その商品が販売される時すなわち次の月に行なわれる ということは妥当なところとなる。つまりこれは、支払った税額と受取った税額との対応を考慮して、そのタイ ム・ラグをひと月と看做そうとするものである。 しかしながら、もし回収税額と支払税額との対応を重視するのであれば、業種別に異なる回転率の相違をなん らかのかたちで考慮すべきであるし、そうでなければ、むしろその売上額に対応する売上原価を算定して、それ に含まれる税額を控除することにした方が、﹁一か月遅延﹂というような妥協的なかたちをとるよりは、論理的 には更に純化されることになるのではないか、という発想が生まれる。 ところが、この後者の考えに立てば、今度は、原価性が認められない異常な棚卸減純分や商品評価損などに含 まれる支払税額が回収できないことになりかねず、もし意識的にその分を回収しようとして、原価性のないもの 一51− まで売上原価に混入するようなことになると、会計固有の論理に反することになってしまう。もっとも、そのよ うな原価性のない費用に対応する税額もその他の諸費用と同様の方式で控除されるということになれば、回収上 の問題は起らないことになる。従って、もしそういう方式が採られるものとすれば、支払税額と回収税額との対 応をはかるという意図は、売上原価に対応する税額を控除するとこによってより生かされるようにも思える。特 に課税期間を会計期間に合わせることが可能であるか、あるいは予定納税の方法が整備されれば、そういった、 理論的な立場に沿った制度化がより一層可能な気もしないではない。 しかし、現行のEC型付加価税制のもとにあっては、そのような立場は採られていない。そればかりか、棚卸 資産等について﹁遅延﹂ではなしに﹁即時﹂控除を採る方が普通であって、フランスの方式自体がやや特殊なも のであると言わなければならない。そこで一般的に考えてみれば、第一に、如上のわれわれの提案には、運用上 技術的にやや複雑さを持つという難点があるほか、いわゆる﹁消費型﹂の付加価値税の場合、売上高と売上原価 との対応は自家撞着に陥りかねないこと、第二に、後に見るように、投資財が﹁即時控除方式﹂に依っているこ と、第三に、企業を付加価値税の徴税代行者と見るなら、前段階で支払った税額は︵前段階の企業によって即時納 付されるわけであるから︶即時控除する方が首尾一貫しているように見える、などの観点から、棚卸資産等につい ても﹁即時控除方式﹂を採るべきではないかという結論が導かれる。 一方、固定資産に関しては、現行のEC型付加価値税制のもとにあっては、全額即時控除方式が採られている が、これは、もうひとつの﹁減価償却控除方式﹂との対比において、かなり問題になる点である。 EC諸国特にフランスやドイツで全額即時控除方式が採用されるに至ったのは、付加価値税がとって代った旧 −52− 来の取引︵ないし売上︶高税が、投資財には課税され労働力には課税されていなかった結果、設備投資が阻害さ れていたことにかんがみ、新税には投資促進効果をもたせようとしたことが、ひとつの大きな根拠になっていた ようである。 しかし、現時点でわれわれが問題にする場合、そのような特殊要因は除外して考えねばならないから、固定資 産の全額即時控除方式を認めるとすれば、根拠は別のところに求めなければならない。それはなにか。たとえば ノイマルグ報告では、この方式は﹁課税上の見地からみて、資本の投下から生じる収益を減らさないし、さらに ⋮⋮成長を促進するという見地からみて利点をもっている﹂という根拠を指摘しているという。この表現はかな らずしも明解とは言いがたいが、この前段の意味するところは、﹁減価償却に応じた控除方式をとる場合には、 投資財の購入にかかる税額の控除が繰延べられるので、企業がその繰延べ税額分を製品価格に上乗せすることと なろう。この場合、上乗せされた税額を含んだ価格に対して付加価値税が課税されるから、取引高税の場合と同 様に、税に税がかかるという結果となり、しかもこの税額分は請求書に明記されないため購入者において控除で きないので、付加価値税のもつ中立性がそこなわれることになる﹂ということであろうか。そしてまた、ノイマ ルク報告の引用文の後半は、投資財の税額はただちに控除対象となって回収される結果企業が負担する税額は投 資財について零であるということが、投資財購入をためらわせないという点を言っているのであろう。 しかし、結局のところ、先に売上高控除と税額控除について触れた際に注記で論及したように、付加価値税を 所得型ないしは企業税型とするか消費型ないしは一般消費税型とするかによって、いずれの控除方式が妥当かが 決まることであるように思える。かくして、EC型の付加価値税は一般消費税としての性格を持つことが最初か −53− ら企図された結果、﹁課税されるのは、付加価値と純投資の差額、すなわち純消費だけ﹂ということになり、投 資財の購入に際して負担した税額は、全額即時控除されることになった。 ㈲ 課税期間 納税義務者が納付すべき付加価値税の額を算定する際、一定の計算期間を定め、その期間に次段階の購入者か ら集めた税額から、その期間分として控除可能な税額を控除することになる。この一定の計算期間のことを﹁課 税期間﹂と呼ぶのであるが、現在EC諸国では、通常一か月ないし三か月をその期間として選んでいる。そし て、その一か月とか三か月の末日毎に、それまでに受取った付加価値税と支払った付加価値税に関する諸勘定を 整理し、要納税額に関する会計処理を行なうという点において、課税期間は企業会計に影響を及ぼすことにな る。 ㈲ 税率 付加価値税は、その運用の事務的能率から言っても、あるいは租税制度の明解さという点から言っても、全段 階に単一税率が適用されることが望ましい・しかしながら実際には、種種の政策的な配慮などのために税率を二 定にすることはむずかしいことが多い。従ってたとえば西ドイツは標準税率のほかに軽減税率をもっているし、 フランスなどに至っては四つの税率を有している。しかし単一税率か複数税率かは、会計固有の領域においては 余り問題にならない。 −54− それよりは、税率が、スエーデンや一九六九年までのフランスのように、付加価値税込みの売価に対する率と して示された場合、会計処理の方式も税込みの価格で行なわれる傾向を有し、そのことが会計技術の面において 問題を投げかけていることは、後に見る通りである。フランスでは一九七〇年以降、付加価値税抜きの売価を課 税標準として、それに対する率を税率として定めるようになり、そのこととも微妙に関連して、会計処理の面で も大いに改善されるようになったことは見逃せない︵次節を参照されたい︶。 以上、私見を混じえつつ、付加価値税の技術的なメカニズムが直接会計の大枠を規定する四つの点に限定し て、検討を加えてみた。 −55− −56− 三 会計処理の基本的局面 一般消費税としての性格をもつEC型付加価値税のひとつの典型としてのフランスの付加価値税は、叙上のよ うに若干の問題を宿しつつも、前段階税額控除方式により、しかも固定資産に関しては全額即時控除方式、棚卸 資産及び諸費用に関しては一か月遅れて控除が認められるというかたちで、納税されることとなっている。従っ て、われわれはさしあたりこれらの点だけは所与の前提と考えて筆を進め、前節で述べたような、われわれなり に望ましいと考えるシステムないしは西ドイツその他の方式のもとでの会計のあり方については、必要に応じて その都度言及したいと思う。 Nationaleda{ヨ 吋}の教授グル さて、付加価値税の会計処理方法としては、三つの可能性を考えてみることによって、その基本的なかたちを 求めることができよう。すなわち、 印仕入・売上・棚卸高とも付加価値税込み、 ㈲仕入・棚卸高は付加価値税抜き、売上げは付加価値税込み、 ㈲仕入・売上・棚卸高とも付加価値税抜き、 の三つの形態である。前二者については、フランスの﹁国立租税学校﹂︵ficole l プ が 行 な っ た 、 具 体 的 な 提 案 9が、われわれに恰好の手がかりを与えてくれている。そこで、それを参考にしな −57− デ ー タ 一 如 期首商品棚卸高 ( 450,000十TVA 90,000)……… 540,000 似 前年12月の仕入に関するTVA……………………………… 65,000 《C)備品購入(小切手払い)(140,000十TVA 28,000)……… 168,000 (d)当年度の仕入(掛) (2,600,000十TVA520,000)………3,120,000 そのうち(d)'ll月分の仕入に関するTVA………………… 50,000 (d)〃12月の仕入(270,000十TVA 54,000)……… 324,000 (e)当年度の売上(掛) (3,000,000十TVA6oo,ooo)………3,600,000 そのうち(ey 12月の売上(290,000十TVA 58,000)……… 348,000 (f)期末商品棚卸高 (5oo,ooo十TVA100,000)……… 600,000 ㈲ 当年末までに納付した(現金払い)税額 11月までの売上に関するTVA……………542,000 11月までの控除可能TVA 前年12月の仕入に関するTVA………65,000 備品購入に関するTVA………………28,000 当年10月までの仕入に関するTVA…416,000 509,000 33,000 -(h)12月の課税期間に関する要納付額 12月の売上に関するTVA……………………………58,000 がら、われわれもまず 具体例を設定して、そ れに沿ってこれら三者 の方法を検討してみた いと思う。なお会計期 間は暦年、課税期間は 一か月、付加価値税率 ― 58 ― は二〇%とする。︵以下 ﹁付加価値税﹂は﹁TV A﹂と略記する。︶ このデータに基づい て、前述の教授グルー・プ の意図を尊重して処理し てみれば、先の三つの可 能性のうちの前二者につ いては、次のようになろ n月の仕入に関するTVA……………………………50,000 8,000 - (1)仕入・売上・棚卸高とも付加価値税込み 損益計算書 (2)仕入・棚卸商は付加価値税抜き,売上は付加価値税込み 損益計算書 (2−A)「TVAJa/cは政府への納付分のみを収客することし,取引時点での TVAは「控除可能TVAJa/cで処理する −59− 損益計算書 第田の方法は、固定資産購入に際しては、 先に注田で言及した理由によって、TVAを ︵当初は費用として︶最初から分離し、そのほ かには、すでに納付しあるいは決算日に納付 すべき債務として確定している金額を﹁TV A﹂吟で処理しようとするものである。この 場合の﹁TVA﹂吟は、通常の﹁租税公課﹂ 吟と同様の意味を持つものであって、要する に当期に企業が︵固定資産の購入と共に︶支払 い、当期中に政府に納付すべき︵すでに納付し たものを含む︶TVAを、当期の費用と考える のである。 しかしながら、企業が当期において支払っ たという点においては、商品仕入に際して負 担した税額も同様であって、売上げの際の税 額から回収されるという点は、㈲の計算でも 明らかな通り、固定資産の場合と商品の場合 −60− とで異なることがないのであるから、固定資産の購入の場合だけ税額を別途処理することは首尾一貫しない。そ こで第②の方法が考えられるわけである。 第②の方法では、購入面を同一の基準で処理するという点で、旧の方法よりは確かに前進している。しかしな がら、前段階企業への支払税額は、結局次段階への売上げにおいて回収されるものであるから、企業の負担に属 さないこの種の支出を費用と考えることは妥当ではない。そこで︵2−A︶のように、その性格を明らかにすべ く﹁控除可能TVA﹂として、将来、国庫に納付すべき税額の計算に際して控除しうるという、言わば債務のマ イナス分という意味で、貸借対照表借方項目と見る方法が考えられる。この﹁控除可能TVA﹂φの出現は、T VAの会計処理の方法を質的に変える契機を与えるものである。すなわち、それまで費用としてのみ考えられて いたTVAが、︵少なくとも一部︶費用ではないのではないかという見方を反映するものであり、その見方に沿っ て会計処理方式を統一するきっかけを与えているからである。そして︵21A︶の方法では、納付税額のみが費 用としてのTVAであると考えられているのである。しかし、これはなお、TVA制の基本的性格、すなわちT VAに関しては企業は単なる納税者であって担税者ではないという、TVAの基本的性格を十分に反映するもの ではない。 そのような認識の不充分さは、たとえばフランスの一九六四年一一月二八日の参事院判決に如実にうかがえ る。すなわち、同判決によれば、TVAは控除可能という言わば負債のマイナスという範囲内においてかろうじ て借方要素たりうるとしても、TVAとして独立して債権を構成するものとは看做しえないから、期末に存在す るTVAの未回収額は、繰越商品原価に含めるべきであるということになるのである。ここでもまた﹁一か月遅 −61− 延の規則﹂が災いしているように見える。 更に、一九六九年まで、フランスでは税込みの価格に対する税率が定められるという形式を採っており、その ことが、現実に商品売買を税込み価格で考えるという方向に導いていたことも否定しえないように思う。そして 売上げについて、上記のようになかなかTVA抜きでは考えられなかったのは、租税公課は企業にとって借方要 素でこそあれ貸方要素には成り得ないという根強い認識が存在していたことや、TVAに関する企業の徴税代行 者的性格が国民の間に容易に浸透しなかったことを反映しているのではあるまいか。 TVAの会計処理の方法を考えるためには、やはり、TVAのもつ会計的な意味を、まずもって見定める必要 があろう。 −62− 四 付加価値税の会計学的性格 企業が財貨および用役の購入に際して支払ったTVAは、結果的には売上に伴って受取るTVAによってカバ ーされるものであるから、従来の租税に比べて極めて特異な性格を有していると見なければならない。しかしな がら、 印 租税公課は、企業税としての法人税などを除いて、原則として費用として考えられていること、 ㈲ フランスでは一九六九年まで税込み価格を課税標準としていた結果、売上も仕入も税込みの価格で考えら れ、その結果、︵TVA分を中和化するという意味においても︶損益計算書上で︵通常は︶費用側にTVA額を記載せ ざるをえなかったこと、 ㈲ 固定資産以外の資産、ならびに用役に関して、フランスのように、控除が一か月遅れにしかできない場合 には、決算日現在において控除されないTVAの支払い分が存在し、これは所得計算上損金と考えたい心理が働 などの理由のために、支払ったTVAを、従来の租税公課と同様に費用と考える考え方が存在していた。しか し、そのように考えると、売上げに際して受取ったTVAを収益と考えなければ首尾一貫しなくなり、受取った TVAは企業が政府に代って徴収するものであるという性格に合致しないことになってしまう。従って、会計学 的に言って、受取ったTVAは、預り金という形で、政府に対する債務と考えざるをえず、また、支払ったTV Aは、政府に対する債務額のマイナス分という意味で、一種の資産要素と看做す考え方を採らざるをえないこと 一一 −63 になろう。 一九七二年二月まで、フランスでは、︽Butoir︶︶と言って、万一、控除可能な税額が課税期間の受取税額を上 回るときは、その差額は政府から還付されずに、次期以降に繰越して控除されることになっていた。従って、支 払った税額が必ずしもただちに有効な債権とはならなかったわけである。しかし、その時以降、︽Butoir︶︶の制 度は廃止され、その差額はただちに支払われるようになったから、現在では、支払ったTVAの債権としての認 識つまりその資産性が一層明確になったと言えよう。 田 CI. Jacquessch ;n oe pi . cd ie t p r . .4 。 81。 五 む す び 以上のように考察を進めてみると、支払ったTVAは、資産として、たとえば﹁控除可能TVA﹂勘定によっ て、顧客から受取ったTVAは、負債として、たとえば﹁預りTVA﹂勘定でよって、そして、課税期末現在 の、政府に対する納税債務は、たとえば﹁未納付TVA﹂勘定によって処理することが、最も自然ではないかと 思う。この場合、第三節の三つの可能性の中では、当然第㈲の﹁すべて税抜き﹂で処理する方法を採らざるをえ ない。フランスでも、最近では、そういう考え方にほぼ統一されており、先の教授グループの試みの水準からは 一歩抜け出ていると言える。 かくしてわれわれは、TVA制の会計技術的構造の細部に立ち入る準備を終えたので、稿を改めてその問題を 採り上げてみたいと思う。 −64−