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「人工視覚システム」 事業原簿 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構

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「人工視覚システム」 事業原簿 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構
第 1 回「人工視覚システム」(中間評
価)分科会
資料 4-2
「人工視覚システム」
事業原簿
作成者
新エネルギー・産業技術総合開発機構
健康福祉技術開発室
―目次―
0.概要……………………………………………………………………………………………………… 2
Ⅰ.事業の目的・政策的位置付けについて
1.NEDOの関与の必要性・制度への適合性……………………………………………………… 4
1.1 NEDOが関与することの意義………………………………………………………… 4
1.2 実施の効果(費用対効果)……………………………………………………………… 5
2.事業の背景・目的・位置づけ……………………………………………………………………… 5
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
1.事業の目標…………………………………………………………………………………………… 9
2.事業の計画内容………………………………………………………………………………………11
2.1 研究開発の内容……………………………………………………………………………11
2.2 研究開発の実施体制………………………………………………………………………22
2.3 研究の運営管理……………………………………………………………………………26
3.情勢変化への対応……………………………………………………………………………………26
4.今後の事業の方向性…………………………………………………………………………………26
5.中間・事後評価の評価項目・評価基準、評価手法及び実施時期………………………………26
Ⅲ.研究開発成果について
1.事業全体の成果………………………………………………………………………………………27
2.研究開発項目毎の成果………………………………………………………………………………28
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
1.実用化、事業化の見通し……………………………………………………………………………63
2.今後の展開……………………………………………………………………………………………63
補足 特許申請、論文発表…………………………………………………………………………………65
-1-
0.概要
作成日 平成 14 年 3 月 28 日
健康寿命延伸のための医療福祉機器高度化プログラム
人工視覚システム
プロジェクト番号 51102421-0
網膜神経節細胞の機能が保存されている失明患者に対し、網膜を電気刺激し
て視覚を再建する人工臓器「人工視覚システム」の研究開発を目指す。網膜
色素変性症を対象とした体外撮像型人工視覚システムと、加齢性黄斑変性症
を対象とした体内撮像型人工視覚システムの 2 方式の開発を行なう。
事業担当推進部室
新エネルギー・産業技術総合開発機構 健康福祉技術開発室
・担当者
藤嶋 陽
1.事業の目的・政策的 国内には 10 万人もの失明患者が存在するが、未だ視覚を回復させる現実的な
位置付けについて
治療方法は皆無である。失明疾患には一部の網膜細胞が残存している場合が
【 N E D O が 関 与 す る 意 義 】 多く、画像情報に基づいて残存細胞を電気刺激することで、再び視覚が甦る
【実施の効果(費用対効果)】
と考えられる。その適切な人工手段となる「人工視覚システム」の開発が急
【事業の背景・目的・位置付け】
務である。しかしその研究開発には、長期間を要しリスクも高いため、企業
が単独で開発するのは困難であり、企業に代わって国がリスクを負い開発の
フォローアップを行なう必要がある。また本研究開発は、開発する装置の製
品化だけを目指したものではなく、むしろ失明患者の治療法の確立と失明患
者の生活の質(Quality of Life: QOL)を大きく改善することを通じ、従来
にない市場の喚起を狙ったものである。失明患者にとって本システムの効果
は費用では表せないものであり、効果を単純算定することは困難である。
2.研究開発マネジメン 眼疾患のうち網膜機能の損傷に伴う重度視覚障害(失明)を対象とし、機能
トについて
損傷部を人工的手段への置き換えにより視覚機能の回復を図る。これを可能
【事業の目標】
にするシステムの開発を目的とする。
主な実施事項
H13fy
H14fy
H15fy
H16fy
H17fy
【事業の計画内容】
制度・プログラム名
事業(プロジェクト名)
事業の概要
システム開発
要素技術開発
試作機
一次
二次
総合評価
成果とりまとめ
【開発予算】
(単位:百万円)
一般会計
特会
特会
特会
総予算額
【開発体制】
H13fy
H14fy
(当初)
300
300
(実績)
274
235
(当初)
300
300
(実績)
274
235
H15fy
H16fy
H17fy
総額
300
300
300
1,500
300
300
300
1,500
(当初)
(実績)
(当初)
(実績)
(当初)
(実績)
経済省担当原課
商務情報政策局サービス産業課医療・福祉機器産業室
運営機関
新エネルギー・産業技術総合開発機構
プロジェクトリーダー 大阪大学大学院医学系研究科教授 田野 保雄
委託先
株式会社ニデック
再委託先
奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科
大阪大学大学院工学研究科
連携先
大阪大学大学院医学系研究科
杏林大学医学部
-2-
【情勢変化への対応】
各要素技術開発が順調に進み、一部の要素技術開発については既に完了した
ものもあるため、一次試作機の完成が当初の見込みより 3 ヶ月∼6 ヶ月早ま
る見通しとなった。しかし平成 15 年度から赤外線通信に加えて、RF 通信に
ついての要素技術開発および二次コイルを眼外に固定する場合のシステム開
発も開始する。また刺激位置として、上脈絡膜から網膜を電気刺激する方法
も検討課題に加えることにした。
【今後の事業の方向性】 中間評価に基づき事業の方向性の検討を行なう。
3.研究開発成果
(1)トータルシステム開発、要素技術開発の研究開発成果
これまでに中間目標通り、トータルシステム開発の基本設計とシステム化
(写真、図、表の使用可) の準備を完了した。要素技術開発の成果について以下に記す。
① 電力送受信部:中間目標通り、試作コイルによる実験を実施し、一次試作
(要素技術含む)
機用コイルの仕様を確定した。
② 信号送受信部:中間目標通り、通信プロトコル仕様に基づいて送信部の回
路設計・製作、受信部の TEG(Test Element Group)設計・製作・評価を
実施し、IC 設計を完了した。
③ 画像処理部:中間目標よりも半年早く進行している。一次試作機用のもの
を製作完了した。
④ 体外撮像型の IC:中間目標通り、設計を完了し、製作工程へ移行した。
⑤ 体内撮像型の IC:中間目標通り、評価と改良設計を完了した。
⑥ 電極アレイとフレキシブル基板:中間目標通り、50μm厚の電極アレイを
設計・製作した。あとは動物実験の結果に基づいて改良を継続する。なら
びに 50μm厚のフレキシブル基板への IC 実装準備を完了した。
⑦ 包埋材料:中間目標通り、家兎ならびにミニブタでの生体適合性実験と
in vitro 化学的安全性試験による試験片の評価を実施した。
(2)その他の目標に対する研究開発成果
13 年度は、家兎での生体適合性実験による試験片の評価を実施した。また
in vivo ラット電気生理実験を完了した。そして in vitro カエル遊離網膜実
験の準備を実施した。14 年度は中間目標通り、家兎ならびにミニブタでの生
体適合性実験による試験片の評価を実施した。また in vivo ネコ電気生理実
験の準備を完了した。
そして in vitro カエル遊離網膜実験の準備を完了した。
特許出願数 10 件
学会発表数 25 件(国際会議も含)
論文発表数
6件
広報発表数 23 件(新聞・雑誌等)
4.実用化、事業化の見 プロジェクト終了後に臨床試験へ移行可能と考えられ、他国に先駆けて人工
通し
眼を開発できる可能性がきわめて高く、他国のシステムと比べて十分な競争
力を有すると考えられ、海外輸出も可能となる。
5.評価に関する事項
評価予定
実施時期
15 年度 中間評価実施予定
【評価実施時期】
評価項目・評価基準
標準的評価項目・評価基準
【評価項目・評価基準】
評価予定
実施時期
18 年度 事後評価実施予定
(特許・論文等について
件数を記載)
評価項目・評価基準
-3-
標準的評価項目・評価基準
Ⅰ.事業の目的・政策的位置付けについて
1.NEDOの関与の必要性・制度への適合性
1.1 NEDOが関与することの意義
国内には 10 万人もの失明患者が存在するが、未だ視覚を回復させる現実的な治療方法は皆無であ
る。視覚は物を見るためだけではなく、明暗情報で体内時計を正常に動かすためにも重要である。
したがって失明は自律神経失調などの原因にもなることが知られている。また後天的な失明の場合
は、徐々に光が失われていく恐怖のためにノイローゼなどの精神障害を伴うことも多い。また盲に
なった患者さんに対しては、介護やリハビリが必要でこのために必要な社会福祉の負担は、高齢化
社会を迎えて今後ますます増大する可能性がある。したがって失明治療法の開発は急務で、社会的
要請がきわめて高い。これまでにも移植や遺伝子治療などの医学生物学的手法を用いて失明治療の
試みが動物実験レベルでは行われている。しかし拒絶反応やベクターの安全性の問題、ヒトで実施
する場合の倫理的問題など解決すべき大きな課題が山積しているため、依然として治療法確立の目
処がたっていない。
ところが近年、視覚系の神経を電気的に刺激して視覚を再生しようとする視覚の人工臓器「人工
眼」の研究開発が欧米で始まっている。これは、既に広く臨床応用されている聴覚の人工臓器であ
る「人工内耳(Cochlear Implant)」を視覚用に発展させたものである。今後約 10 年くらいの開発
期間を経て実現できる可能性があると考えられ、米国では健康保健省の国立衛生院(NIH)、国立科
学技術財団(NSF)、エネルギー省(DOE)、教育省、軍人復員省などの組織から当該分野の研究機関
に対して多額の資金援助が行なわれている。またドイツでも Federal Ministry of Education,
Science, Research and Technology(BMBF)が国家プロジェクトとして人工眼の開発を後押しして
いる。しかし海外の研究グループの装置開発は大学の研究室レベルに留まっているのが現状である。
これに対して我が国は、機械やエレクトロニクス分野における小型化・集積化・システム化の優
れた技術を有している。そのため他国に先駆けて人工眼を開発できる可能性がきわめて高い。また機
械やエレクトロニクス分野における小型化・集積化の技術を人工視覚のような医療機器分野に向け
ることは、技術資源の有効活用となるだけでなく、我が国の製造業の新たな国家戦略として重要で
ある。今後も我が国が科学技術立国として繁栄しつづけるには、医療機器に代表されるような高付加
価値かつ差別化・特殊化された技術分野を発展させていく以外に道は無い。
さらに人工視覚システムは、たとえば他の神経インタフェース、DNA 診断、血糖値測定を埋め込
みデバイスで行うような体内モニタリングシステムなど、機械・エレクトロニクス技術とバイオテ
クノロジとが融合した新産業創出に結びつく可能性がある。しかし、この開発を私企業が単独で行
うのはリスクが高すぎ、困難であると考えられ、企業に代わって国がリスクを負い、開発のフォロ
ーアップを行なう必要がある。
以上のように人工視覚システムの開発は、その社会的意義の理由から進展に特別の配慮を必要と
する研究領域であるだけでなく、新産業の創出にも結びつく可能性がある。そこで経済産業省と厚
生労働省が連携し、工学的研究と医学的研究を協力して行い、実用化に向けて総合的な研究開発を
推進する。
-4-
1.2 実施の効果(費用対効果)
本研究開発は、開発する装置の製品化だけを目指したものではなく、むしろ失明患者の治療法の
確立と失明患者の生活の質(Quality of Life: QOL)を大きく改善することを通じ、従来にない市
場の喚起を狙った長期的なビジョンの一部である。その長期ビジョンとしては、網膜刺激型から始
まり、神経細胞移植の技術を組み合わせたハイブリッド型へと移り、更なる将来には網膜再生治療
となる。その移行過程により治療対象患者数の増加および治療患者への寄与は、費用ではあらわせ
ない社会貢献となる。従って、効果を単純算定することは困難であるが、長期に渡り広い波及効果
を生ずることは疑いない。
平成 13 年度予算
: 274,287,300 円(消費税含)
平成 14 年度予算 : 235,319,700 円( 〃 )
事業の実施期間
: 平成 13 年度∼平成 17 年度
2.事業の背景・目的・位置づけ
【背景】
我が国の視覚障害者は 30 万人を超え、その内 59%にあたる約 17 万人もの人が重度の障害をもっ
ている。(*1 級;約 10 万人、**2 級:約 7 万人)また、病気や不慮の事故によって年間約 16,000 人
もの人々が失明(***)している。このような状況にもかかわらず、有効な治療方法はなく、いった
ん失明すると殆どの場合、視覚の回復は不可能となっている。更に、高齢者の増加に伴い視覚障害
者全体数も増加の傾向を示している。(64%にあたる約 19 万人が高齢者である。)以上から視覚機能
の回復をもたらす医療機器技術開発が早急に必要となっている。
−注記−
*1級;両眼の視力の和が 0.01 以下のもの
(屈折異常のある者については、矯正視力について測ったものをいう。以下同じ)
**2級;①両眼の視力の和が 0.02 以上 0.04 以下のもの
②両眼の視野がそれぞれ 10 度以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が 95%以上のもの
***失明;矯正視力が 0.05 未満あるいは視野が喪失した状態をいう。
【目的】
本研究開発は、代表的な失明疾患である網膜色素変性症(*)や高齢者の患者数増加が予測される
加齢性黄斑変性症(**)等の網膜視細胞の損傷による視覚障害者を対象とし、失われた網膜機能を
人工的に回復し視覚を取り戻す。この失明疾患では、一部の網膜細胞が残存している場合が多く、
画像情報に基づいて残存細胞を電気刺激する適切な人工手段を開発することで、再び視覚が甦ると
考えられる。
したがって網膜機能を人工的手段に置き換えた「人工視覚システム」の開発は、多くの失明患者
ならびに眼科医に切望されていて、社会的要請が極めて高い。そこで本事業では、網膜色素変性症
を対象とした「体外撮像型人工視覚システム」と、加齢性黄斑変性症を対象とした「体内撮像型人
工視覚システム」2 方式について研究開発を実施する。
-5-
−注記−
*網膜色素変性症;視細胞の機能低下による夜盲と視野狭窄を主症状とする遺伝性疾患
**加齢黄斑変性症;脈絡膜毛細血管板が萎縮し、視細胞への代謝が行なわれなくなることで視細胞が消滅する疾患
【位置づけ】
現在、表1に示すように様々な種類の人工視覚が各国の研究グループによって研究開発されてい
る。海外の研究グループは研究開発の開始こそ先行しているが、眼科医療機器開発・製造を行って
いる企業とコンソーシアムを形成しているグループは現時点で存在しない。どのグループも大学の
研究室あるいは大学からスピンアウトした研究者が設立したベンチャー企業が研究開発を行ってい
るため、人工視覚システムの開発状況は大学の研究室レベルに留まっている。最も先行しているグ
ループでもいまだ装置の小型化・集積化・システム化が実現できず、製品化の目処が立っていない。
表1 人工視覚の種類と研究グループ(2002 年 12 月現在)
分類
脳刺激型
研究機関
ドーベル研究所(米国)
ユタ大学(米国)
イリノイ工科大学(米国)
MIGUEL HERNANDEZ 大学 (スペイン)
視神経刺激型 ルーベンカトリック大学(ベルギー)
網 膜 刺 激 型 南カリフォルニア大学&セカンドサイト社(米国)
(Epi)
ハーバード大学&マサチューセッツ工科大学(米国)
ボン大学&その他(ドイツ)
インテリジェントインプランツ社(ドイツ)
ニューキャッスル大学&ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)
ソウル国立大学(韓国)
網 膜 刺 激 型 チュービンゲン大学&その他(ドイツ)
(Sub)
オプトバイオニクス社(米国)
ヒューストン大学(米国)
その他
ウェインステイト大学(米国)
スタンフォード大学(米国)
これに対し本事業では、30 年以上にわたって眼科医療機器の開発・製造を行っている企業が中心
となって研究開発を推進している。眼科手術装置・検査装置の小型化・集積化・システム化の技術
とノウハウ、眼内レンズ開発で培った生体適合性材料の研究開発や眼内レンズ固定化技術を有し、
また自社内に動物実験施設、臨床検査実施施設を保有していることは、本事業を進めるにあたって
極めて有利である。事実、本事業が始まって2年という短期間で主要な要素技術開発を終え、一次
試作機の完成が平成 15 年度中には実現できることから、より充実した研究開発の場を提供すること
で、装置のシステム化の段階で追いつき、世界に先駆けて安全性の高い高性能な製品を提供できる
可能性が十分にある。
以下では他研究グループの進捗状況について分類別に記す。
-6-
・脳刺激型(Cortical implant)
これまでにドーベル研究所は、テフロンコートされた白金製の刺激電極アレイをボランティアの
失明患者の視覚野に埋植している。ある患者では術後 20 年が経過しているが、炎症や感染症などの
影響は報告されていない。また埋植された刺激電極アレイを通じて多局所の電気刺激を行ったとこ
ろ、患者は「夜空に瞬く星のような複数の光の点」を感じることができたと報告されている。しか
し皿型電極を用いて脳表面を電気刺激しているため、数ミリアンペアもの電流が必要であることが
問題となっている。一方、NIH のグループは針型電極アレイを用いることで、数十から数百マイク
ロアンペアの小さな電流刺激で光覚の再建に成功している。その後、このグループの研究開発は中
断しているが、代わってユタ大学やイリノイ大学のグループが針型電極アレイを用いて生体適合性
や刺激パラメータ同定の動物実験を実施したり、埋植する電子回路の設計・製作を進めている
(MIGUEL HERNANDEZ 大学についてはプロジェクトが立ち上がっている以外、動向については不明)
。
・視神経刺激型(Optic nerve implant)
この人工視覚は、ベルギーのルーベンカトリック大学が研究開発している。これまでにボランテ
ィアの失明患者を対象に視神経を電気刺激する急性実験を行い、光覚の再建に成功している。この
人工視覚が機能するためには、網膜神経節細胞と視神経が正常でなければならないため、適用でき
る失明疾患は網膜色素変性と加齢性黄斑変性に限られる。また視神経は網膜神経節細胞から伸びて
いる軸索の束であるため、視神経の外側からの電気刺激ではレチノトピ(網膜上での空間座標系が
脳内でも保たれていること)の再建は困難と考えられる。また空間分解能を向上させることも原理
的に難しい。刺激パルスのパルス数とパルス振幅を適度に組み合わせることで、軸索の束の中から
特定の軸索を刺激できると同グループは提案している。しかし実現可能かは今後の研究成果を待つ
必要がある。
・Epi-網膜刺激型(Epi-retinal implant)
いずれのグループも装置は構想段階、あるいは開発途上である。現在、刺激電極アレイと電気生
理実験用の市販装置を用いて、実験動物やボランティア失明患者への in vivo 電気刺激実験(急性
実験)が行われている。南カリフォルニア大学やハーバード大学のグループは、これまでに網膜色
素変性患者の眼内に刺激電極アレイを埋植して多局所で電気刺激を行い、光覚や簡単な形態視の再
建に成功している。一方、ボン大学のグループに属しているケルン大学では、in vivo 電気刺激実
験(急性実験)において電気刺激パラメータの評価を実施している。インテリジェントインプラン
ツ社はボン大学のグループが設立したベンチャー企業であるが、これまでにコンセプトモデルを発
表したのみで、埋植して機能するような製品をまだ発表していない。最近、電極アレイをボランテ
ィア患者に埋植して電気刺激を行う急性実験を実施したが、期待されたような結果が得られなかっ
たことが報告されている。ニューキャッスル大学のグループは、無線データ受信・100ch 刺激パル
ス生成が可能なセラミックスパッケージされた ASIC を開発し、人工視覚のプロトタイプを製作した。
実験動物にヒツジを用いて in vivo 電気刺激実験を実施し、中枢から神経応答を記録することに成
功している。ソウル国立大学は、フレキシブル基板上にフォトダイオードアレイを形成して、眼外
-7-
からレーザ光を用いて画像情報を転送する方式の人工視覚を計画しているが、まだ概念設計の段階
で、電極アレイの開発が発表されているのみである。
・Sub-網膜刺激型(Sub-retinal implant)
これまでにオプトバイオニクス社やチュービンゲン大学のグループは、直径数ミリのシリコン基
板上に微小フォトダイオードが数千個並べられた埋植素子を製作した。このうちオプトバイオニク
ス社は、最近 6 名のボランティア患者の眼内に電子デバイスを埋植し、数ヶ月にわたって経過観察
を行った。その結果、電子デバイスによる眼組織への影響は何もないこと、そして患者の視力が経
過時間とともに回復していることを発表した。しかしこの電子デバイスからの光起電力は神経興奮
には不十分と思われ、また患者の視力検査方法に問題があるのではという指摘もあり、他グループ
による追試が待たれている。一方、チュービンゲン大学のグループは実験動物を用いた評価実験を
実施している。しかしフォトダイオードアレイの受光面積が小さいために、神経細胞を興奮させる
ための十分な光起電力が得られないことを報告している。そこで同グループは、電力に関する問題
点を解決するために、電子デバイスに電力用の太陽電池を取り付け、体外から赤外線を照射してデ
バイスの駆動電力を確保するシステムを開発している。電力供給を受けないものに比べて実現性・
実用性が高く、今後の展開が期待される。ヒューストン大学のグループは、光強誘電体効果を用い
たセラミック型光デバイスを人工視覚に応用することを検討しているが、安全性の面で問題がある
のではという指摘が出ている。
・その他の人工視覚
神経伝達物質を用いて化学的に細胞を刺激する未来型の人工視覚の研究開発が、ウェインステイ
ト大学とスタンフォード大学で進められている。実用性/実現性の面で課題は多いが、化学・生化
学マイクロシステムの一応用例として興味深い。いずれのグループもマイクロ流路とマイクロポン
プを組み合わせて、グルタミン酸などの神経伝達物質を用いて培養神経細胞を刺激する実験を実施
している。
-8-
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
1.事業の目標
【事業の全体目標】
・本事業では、次について研究開発を行う。
眼疾患のうち網膜神経節細胞の損傷に伴う重度視覚障害(失明)を対象とし、機能損傷部を人工
的手段への置き換えにより視覚機能の回復を図る。これを可能にするシステムの開発を目的とする。
そこで視覚形成に必要な網膜刺激電極仕様、刺激発生条件及び電極の埋植位置について、これらの
組み合わせを各種実験(動物実験を含む)を通じて定量的に解明する。これに基づき、次に掲げる
2方式について検討を行い、網膜機能を人工的手段に置き換えた人工視覚システムの開発を行う。
(1)体外撮像型人工視覚システムの開発
視野周辺部が広範囲に障害を受けている疾患(例:網膜色素変性症)を対象した人工視覚システ
ム。体外に設けた撮像部により画像を電気信号に変換し、体内に埋め込む網膜刺激電極部に伝送す
る。体外機器は容易に人体に装着でき、患者行動の自由が束縛されないものとする。
(2)体内撮像型人工視覚システムの開発
視野中心部が障害を受けている疾患(例:加齢性黄斑変性症)を対象とした人工視覚システム。
撮像部はフォトダイオード等を用いて画像を電気信号に変換し、得られた信号により適切な神経細
胞を刺激する網膜刺激電極部等、大半の機器を体内に埋め込む方式。
・最終目標(平成 17 年度末)
眼内あるいは体外に設けた撮像部からの信号により、体内の網膜刺激電極を通じて、網膜細胞(た
とえば双極細胞)を電気刺激することにより、視覚機能を得ることが可能な人工視覚システムの開
発を目標とする。刺激電極を含む体内埋め込み機器は、生体内で安定して機能できるものとし、視
覚性能は、30cm 指数弁(30cm 離れた距離で指の数が認識できる)が可能なレベルを目標とする。
(1)視覚性能目標(上記の2方式に共通の目標とする。以下同じ。
)
①30cm 指数弁を可能とする網膜刺激電極仕様(電極数、電極密度、電極寸法等)、刺激発生条件
(パルス数、電圧、電流等)、刺激を与える網膜神経節細胞位置等の基本仕様を確定する。
②動物実験による代用特性で、30cm 指数弁に相当するレベルの評価法を確立する。
(2)システム性能目標
①網膜刺激電極部は体内埋め込みに適した形状・寸法・材料が考慮されており、生体内で長期間
安定して使用できるものとする。
②体内機器の作動中表面温度上昇は、生体に対して悪影響を生じないものとする。
【最終目標に至るまでのマイルストーンとしての戦略的な中間目標】
平成 14 年度末までに主要素技術の確立を行い、平成 15 年度末までに一次試作機を完成させる。
その後、一次試作機の評価を行い、性能評価実験・動物実験などを通じて、重要な問題点の抽出を行
う。工学・医学・市場性のそれぞれの観点から、方式・製品化イメージ・目標仕様を見直し、二次
試作の研究方針を修正する。
-9-
・平成 14 年度末までの中間目標を以下のように設定する。
(1)トータルシステム開発、要素技術開発の目標
一次試作機開発のために、システム化の仕様策定、基本設計、システム化準備を行う。また一次
試作機に必要な各要素技術開発について以下を実施する。
①電力送受信部:電力伝送ユニットにおけるコイルを試作し、実験によりコイル仕様を確定する。
②信号送受信部:赤外線通信ユニットにおける通信プロトコルの仕様策定、ならびに送受信部の回
路設計を行う。
③画像処理部:仕様策定、設計を行う。
④体外撮像型の IC:仕様策定、設計を行う。
⑤体内撮像型の IC:仕様策定、設計、製造、評価、改良設計を行う。
⑥電極アレイとフレキシブル基板:刺激電極アレイの設計・製作を行う。またフレキシブル基板へ
の IC 実装の準備を行う。
⑦包埋材料:埋植材料の安全性を評価する実験動物を用いた生体適合性実験ならびに in vitro 化
学的安全性試験を行う。
(2)その他の目標
開発したプロトタイプの性能を定量的・客観的に評価するための動物実験系構築の準備を行う。
【事業の全体目標の設定根拠】
(1)基本方針
本事業は、「人工視覚システムの技術の確立、普及、および失明患者の視覚の早期回復に資するこ
と」を目的としている。したがって個々の開発項目がそれぞれ臨床に適用可能なレベルに到達する
ことを目標とすべきであることは言うまでもない。しかし製品の販売には医療用具承認が必要であ
るという理由から、本事業終了と同時にただちに製品を市場に出すことは事実上不可能である。ま
た一つの事業の中で多様な要素技術を開発するという予算上の制約からも、開発内容を絞らざるを
得ない。そこでむしろ個々の装置における最も本質的な技術に絞って、それを厳しく評価して深耕
し、完成度を十分に高めることで、本事業の途中であっても民間企業が製品開発に取りかかれる状
態にすることが重要である。
(2)最終目標の設定理由
5 年間という事業期間を考えた場合、本事業で設定した最終目標は失明者の QOL を大幅に改善す
ることができる最高レベルの目標であり、技術的に製品開発が可能である。30cm 指数弁は日常動作
の大きな補助となるだけでなく、移動の際に白杖が必要なくなる可能性があり、市場に受け入れら
れる見込みが極めて高い。したがって上記基本方針に従って、革新性と実用性の両面で目標を設定
した。
(3)中間目標の設定理由
最終的に実用化に結びつく成果を上げるためには、企業あるいは工学的観点と、臨床医の観点と
のずれを常時監視し、できるだけ早い段階で修正していく必要がある。このため、開発委員会で毎
回チェックを行うが、系統的・全般的な性能試験と見直しを行う機会として、中間目標を設定した。
- 10 -
2.事業の計画内容
2.1 研究開発の内容
【事業全体の計画】
・技術的実現性
本事業ではその技術的実現性を担保するため、開始に先立って以下の施策を行った。まず各開発
項目について、それぞれあらかじめ具体的な実現方式を想定して、必要な基本技術の機能と性能レ
ベルを見極めた。これらの基本技術は、現在の技術を深耕・展開することによって実現可能と推測
される方式とした。また試作に必要となる周辺的な技術に関しては、なるべく現状市販されている
部品や旧知の技術等を流用・活用し、あるいは実施企業が提供することによって、無駄な開発を行
わずに計画を遂行する方針とした。
・社会的ニーズとの対応
本事業で扱うのは、エレクトロニクス技術と脳神経科学・眼科学の観点から発案されたコンセプ
トである。そして患者側の切実な要望に基づいて、失明を本質的なレベルで解決しようとするもの
である。また、これらの機器を臨床医が受け入れる心理的素地も固まりつつある。従って、完成す
れば社会的ニーズ・市場性が十分に見込まれる。また本事業では、我が国が得意とし、諸外国が不
得意している装置のシステム化・小型集積化を世界に先駆けて行おうというものである。
・スケジュール
特に技術的実現性のリスクや臨床的実用性の不透明度が大きい部分について、早期に集中的に資
源を投入することによって、着実にかつ無駄が出ないように研究を進めている。
表1 スケジュール
- 11 -
・予算推移
平成 14 年度予算までを含めて、当初計画に比べて、累計で約 85%となっている。現時点におい
て、スケジュールはほぼ当初計画通り消化できている。予算の不足を機能試作・要素試作の単純化、
試作回数の削減、シミュレーションによる代替、開発項目間での部品の融通や共同実験の実施、企
業内研究成果の流用、労務費の削減等の工夫でカバーしてきた成果であるが、技術的リスクを積み
残す危険性が増大していることは否定できない。
平成 15 年度以降、もし同程度以上の減額幅で推移するならば、基本計画の一部を削除するか、目
標を切り下げるなどの見直し処置が必要にならざるを得ない。また平成 14 年度までの成果が開発委
員会等に高く評価され、また報道等で紹介された結果、基本計画よりもいっそう高度な機能を盛り
込むことが強く望まれている。したがって予算の減額が実施された場合は、これら新規の要望を含
めて改めて優先度を付け直すと共に、コンセプトの整合性やトータルシステムのバランスを勘案し
て、目標を縮小方向で再設定せざるを得ない。
表2 予算実績推移と当初予算計画
単位:百万円
株式会社ニデック
13
H14fy
174
30
20
11
契約金額
274
235
累計
274
509
当初予算計画時
300
300
300
300
300
累計
300
600
900
1,200
1,500
奈良先端科学技術大学院大学
大阪大学
消費税
H13fy
211
50
H15fy
H16fy
H17fy
注記)H13fy の契約金額は、節約後の金額
【研究開発項目間の有機的関係】
本事業では、撮像素子が体外に設置される「体外撮像型」と、体内に設置される「体内撮像型」
の 2 方式について開発を進める。前者は視野周辺部が広範囲に障害を受けている疾患(例:網膜色
素変性症)を、後者は視野中心部が障害を受けている疾患(例:加齢性黄斑変性症)を主な対象と
している。対象疾患が異なるためシステムも異なるが、IC 開発や電力送受信部、信号送受信部、各
種安全性試験、動物実験など、共通する開発項目が数多くある。そこで同時並行的に 2 方式につい
て開発を進めることで、より多くの失明疾患を対象にした人工視覚システムの実用化が可能となり、
国際的に優位な位置に立つことができる。なお本事業の再委託先である奈良先端科学技術大学院大
学は体内撮像型の IC について、また大阪大学大学院工学研究科は in vitro 動物実験について、ニ
デックと共同で開発を進める。
- 12 -
図 2.1.1 研究開発項目間の有機的関係
- 13 -
2.1.1 研究開発項目毎の内容の詳細
2.1.1.1 人工視覚トータルシステム開発
【事業内における位置づけ】
人工視覚トータルシステムは、眼疾患のうち網膜機能の損傷に伴う重度視覚障害(失明)を対象
とし、機能損傷部を人工的手段への置き換えにより視覚機能の回復を図ることができる。次に掲げ
る2方式について検討を行い、網膜機能を人工的手段に置き換えた人工視覚システムの開発を行う。
①体外撮像型人工視覚システム
視野周辺部が広範囲に障害を受けている疾患(例:網膜色素変性症)を対象した人工視覚シス
テム。体外に設けた撮像部により画像を電気信号に変換し、体内に埋め込む網膜刺激電極部に伝
送する。体外機器は容易に人体に装着でき、患者行動の自由が束縛されないものとする。
②体内撮像型人工視覚システム
視野中心部が障害を受けている疾患(例:加齢性黄斑変性症)を対象とした人工視覚システム。
撮像部はフォトダイオード等を用いて画像を電気信号に変換し、得られた信号により適切な神経
細胞を刺激する網膜刺激電極部等大半の機器を体内に埋め込む方式。
【目標とその設定根拠】
目標1:眼内あるいは体外に設けた撮像部からの信号により、体内の網膜刺激電極を通じて、網膜
細胞(たとえば双極細胞)を電気刺激することにより、視覚機能を得ることが可能な人工視覚シス
テムの開発を目標とする。
設定根拠:人工視覚システムの目的そのものである。
目標2:刺激電極を含む体内埋め込み機器は、生体内で安定して機能できるものとし、視覚性能は、
30cm 指数弁(30cm 離れた距離で指の数が認識できる)が可能なレベルを目標とする。
設定根拠:30cm 指数弁があれば、患者は目の前に物があるか否かを判断したり、大きな文字を読む
ことができる。したがって失明者の生活の質(QOL)を大きく向上させることができる。
目標3:30cm 指数弁を可能とする網膜刺激電極仕様(電極数、電極密度、電極寸法等)、刺激発生
条件(パルス数、電圧、電流等)、刺激を与える網膜神経節細胞位置等の基本仕様を確定する。
設定根拠:神経への電気刺激パラメータは依然として不明な点が多いため、その仕様を確定するこ
とで、人工視覚システムを実現することが可能となる。
目標4:網膜刺激電極部は体内埋め込みに適した形状・寸法・材料が考慮されており、生体内で長
期間安定して使用できるものとする。
設定根拠:電気刺激によって機能再建を図るという埋植医療機器であるため、電気刺激による生体
への影響ならびに生体から装置への影響を最小限に留める必要がある。また埋植に適した仕様にす
ることは、埋植型の医療機器に求められる必須要件である。
- 14 -
目標5:体内機器の作動中表面温度上昇は、生体に対して悪影響を生じないものとする。
設定根拠:二次コイルや眼内装置の IC など発熱が避けられない電気部品を埋植しなければならない。
そのため安全性の確保のためにこの目標を設定した。
【中間目標】
平成 14 年度末までの中間目標を以下のように設定する。
・一次試作機開発のために、システム化の仕様策定、基本設計、システム化準備を行う。
【計画内容・研究手法】
体外撮像型は、視野周辺部が広範囲に障害を受けている疾患(例:網膜色素変性症)を対象した
人工視覚システムであり、撮像素子が体外に設置されることが特徴である。眼外に設置する装置(眼
外装置)と眼内に設置する装置(眼内装置)の2つから構成され、眼外装置で撮像・画像処理・刺激
パルス生成を行う。刺激パルスデータと電力は無線で眼内装置へ供給され、網膜上あるいは網膜下
に置かれた電極アレイで神経組織を電気的に刺激する。失明症状に合わせた調整・設定が容易であ
り、網膜上、網膜下のいずれも刺激できる。体内撮像型に比べると再建できる空間分解能は劣るが
広い視野を得やすいことから、視野周辺部が広範囲に障害を受けている場合の視覚再建に適してい
る。主な技術的課題は、刺激点数を 100 以上にする場合に生じる。また二次コイルの小型軽量化は
今後の開発の中で解決すべき重要な課題である。
一方、体内撮像型は、視野中心部が障害を受けている疾患(例:加齢性黄斑変性症)を対象とし
た人工視覚システムであり、撮像素子が体内に設置されることが特徴である。眼外に設置する装置
(眼外装置)と眼内に設置する装置(眼内装置)の2つから構成されるが、撮像・画像処理・刺激パ
ルス生成を行うのは眼内装置の大規模集積回路(LSI)であり、眼外装置は電力供給と眼内装置の初
期設定データの送信のみを行う。電極アレイは LSI 上に形成されていて、網膜下に LSI を置いて神
経組織を電気的に刺激する。刺激点の高密度化が容易であり、視野中心部に必要とされる高い空間
分解能の実現が可能である。また眼球運動への対応も容易で、大半の装置が眼内に埋植されるため、
眼外装置を小型化でき、QOL の向上が期待できる。ただし体外撮像型のように広い視野を得ようと
すると大きなサイズの LSI を網膜下に埋植するか、複数の LSI を広範囲に分散して埋植する必要が
ある。また LSI の薄膜化は必須である。したがって半導体素子製造の後工程や実装上の技術的課題
を解決しなければならない。また体外撮像型と同様に二次コイルの小型軽量化は、今後の開発の中
で解決すべき重要な課題である。
このように体外撮像型と体内撮像型それぞれに固有な解決すべき技術的課題がある一方で、IC 開
発や電力送受信部、信号送受信部、各種安全性試験、動物実験など共通する開発項目が数多くある。
そこで平成 14 年度末までに共通する主要素技術の確立を行い、それと並行して体外撮像型・体内撮
像型に固有の要素技術の開発も進める。そして平成 15 年度末までに一次試作機を完成させる。その
後、一次試作機の評価を行い性能評価実験・動物実験などを通じて、重要な問題点の抽出を行う。
工学・医学・市場性のそれぞれの観点から、方式・製品化イメージ・目標仕様を見直し、二次試作
の研究方針を修正する。
- 15 -
2.1.1.2 要素技術開発
【事業内における位置づけ】
要素技術開発は、前述した人工視覚トータルシステムの各構成要素であり、システム化の基礎と
なる開発項目である。各要素技術とも、既存の関連技術を深耕・展開することによって実現できる
ものを目指している。大きく分けて次の 7 項目から要素技術は構成される。
①電力送受信部
②信号送受信部
③画像処理部
④体外撮像型の IC
⑤体内撮像型の IC
⑥電極アレイとフレキシブル基板
⑦包埋材料
①電力送受信部
眼内に埋植される眼内装置を駆動するために電力送受信部が必要である。電磁誘導方式によって
無線で電力を供給することで、光で電力供給を行なうよりも供給電力量を大きく設定できる。電力
送受信部は眼外に設けた一次コイルと電源回路、そして眼内に埋植した二次コイルと整流・安定化
回路から構成される。整流回路は二次コイルで受電した交流を直流に変換する役割を、そして安定
化回路は眼球運動などによる電力の変動を補償することができる。またできるだけ小型軽量化した
二次コイルを開発することで生体組織への影響を最小限にとどめることが可能となる。
②信号送受信部
体外撮像型の場合、眼内装置へ刺激データを無線で転送する必要がある。また体内撮像型の場合
は、眼内の LSI の初期設定データを無線で転送する必要がある。信号の送受信は赤外線通信方式と
RF 通信方式が考えられるが、まずは前者の開発を目指す。赤外線通信方式は、RF 通信方式よりも信
号の送受信を行なう際の S/N 比が大きく、回路設計も容易であるため、開発を短期間に終えること
ができる。また目を閉じたときに信号路が遮断されることにより映像が見えなくなるため、患者に
とってより自然な人工視覚システムとなる。
③画像処理部
画像処理部は、画像データから電気刺激パルスを生成して、眼内へ無線でデータを転送する。撮
像装置、画像処理装置、画像表示装置、パラメータ入力装置、電源装置、赤外線信号出力装置から
構成され、主な処理を高性能なマイクロコンピュータで行う。そのため階調変換、圧縮処理などの
画像処理を高速に行うことができる。そしてソフトウェアの書き換えにより、将来のシステム改良
にも容易に対応できる。
④体外撮像型の IC
- 16 -
体外撮像型の眼内装置に必要な電子回路を集積回路(IC)で構成することで、眼内装置を小型化
することが可能となる。IC は、整流・安定化ブロック、受光ブロック、信号再生ブロック、刺激パ
ルス生成ブロックの4つから構成される。このうち整流・安定化ブロック、刺激パルス生成ブロッ
ク各ブロックは体内撮像型でも利用することができる。
⑤体内撮像型の IC
体内撮像型では、撮像・画像処理・刺激パルス生成を行うのは眼内装置の大規模集積回路(LSI)
である。電極アレイは LSI 上に形成されていて、網膜下に LSI を置いて神経組織を電気的に刺激す
る。刺激点の高密度化が容易であり、高い空間分解能の実現が可能である。また眼球運動への対応
も容易で、大半の装置が眼内に埋植されるため、眼外装置を小型化でき、生活の質(Quality of Life:
QOL)の向上が期待できる。
⑥電極アレイとフレキシブル基板
人工視覚システムでは、網膜を電気刺激することで視覚を再生させる。そのため網膜へ電気刺激
を伝送する主要な部品である電極アレイは、重要な構成要素である。電極アレイの絶縁材料には生
体適合性が比較的高いといわれるポリイミドフィルムやシリコン樹脂を、そして刺激電極部には体
内環境下でも比較的に安定して存在できる金属(例えば白金)を採用することで、長期埋植性を高
めることができる。なお体内撮像型の電極アレイは、ポリイミド基板先端部に電極アレイが形成さ
れた LSI を実装する必要がある。そこで薄膜化した LSI を実装することで、生体へのダメージを抑
えることが可能となる。
⑦包埋材料
眼内装置を生体適合性の高いエポキシ樹脂やシリコン樹脂などの高分子材料で包埋することで、
長期埋植性を高めることが可能となる。また各種安全性試験を実施することで、材料の生体適合性
だけでなく、眼内装置の形状・重量が生体に及ぼす影響を評価することが可能となる。
【目標とその設定根拠】
要素技術開発の目標は、前述した人工視覚トータルシステムの目標に準じる必要がある。そこで
各要素技術について以下のような目標を設定する。
目標1:電力送受信部のうち眼内に埋植される部分については、体内埋め込みに適した形状・寸法・
材料が考慮されており、生体内で長期間安定して使用できるものとする。また体内機器作動中の表
面温度上昇は、生体に対して悪影響を生じないものとする。
設定根拠:埋植に適した仕様にすることは、埋植型の医療機器に求められる必須要件である。また
二次コイルや眼内装置の IC など発熱が避けられない電気部品を埋植しなければならないため、温度
に関する目標は安全性の確保のために必要である。
- 17 -
目標2:信号送受信部は、眼外からの信号を眼内に安定して送信できるものとする。また受信部は、
体内埋め込みに適した形状・寸法・材料が考慮されており、生体内で長期間安定して使用できるも
のとする。
設定根拠:埋植に適した仕様にすることは、埋植型の医療機器に求められる必須要件である。
目標3:画像処理部は、30cm 指数弁を可能とする網膜刺激電極仕様(電極数、電極密度、電極寸法
等)や刺激発生条件(パルス数、電圧、電流等)に対応できる仕様とする。
設定根拠:神経への電気刺激パラメータは依然として不明な点が多いため、動物実験の結果に応じ
て設定を変更する必要があるが、変更が容易な仕様にすることは開発期間を短縮するために重要で
ある。
目標4:体外撮像型の眼内装置の IC は、30cm 指数弁を可能とする刺激発生条件(パルス数、電圧、
電流等)に対応できる仕様とし、体内埋め込みに適した形状・寸法・材料が考慮されており、生体
内で長期間安定して使用できるものとする。
設定根拠:刺激に必要とされるパルスを出力できることは、人工視覚システムの必須条件である。
また埋植に適した仕様にすることは、埋植型の医療機器に不可欠である。
目標5:体内撮像型の眼内装置の IC は、30cm 指数弁を可能とする刺激発生条件(パルス数、電圧、
電流等)に対応できる仕様とし、体内埋め込みに適した形状・寸法・材料が考慮されており、生体
内で長期間安定して使用できるものとする。
設定根拠:刺激に必要とされるパルスを出力できることは、人工視覚システムの必須条件である。
また埋植に適した仕様にすることは、埋植型の医療機器に不可欠である。
目標6:電極アレイは体内埋め込みに適した形状・寸法・材料が考慮されており、生体内で長期間
安定して使用できるものとする。
設定根拠:埋植に適した仕様にすることは、埋植型の医療機器に求められる必須要件である。
目標7:包埋材料は、生体内で長期間安定しているものとする。また十分な封止性を有することで
眼内装置を体液から保護するものとする。
設定根拠:埋植に適した仕様にすることは、埋植型の医療機器に求められる必須要件である。また
装置が生体へ与える影響ならびに生体が装置へ与える影響を最小限に留める必要がある。
【中間目標】
平成 14 年度末までの中間目標を以下のように設定する。
・一次試作機に必要な各要素技術開発について以下を実施する。
①電力送受信部:電力伝送ユニットにおけるコイルを試作し、実験によりコイル仕様を確定する。
②信号送受信部:赤外線通信ユニットにおける通信プロトコルの仕様策定ならびに送受信部の回路
- 18 -
設計を行う。
③画像処理部:仕様策定、設計を行う。
④体外撮像型の IC:仕様策定、設計を行う。
⑤体内撮像型の IC:仕様策定、設計、製造、評価、改良設計を行う。
⑥電極アレイとフレキシブル基板:刺激電極アレイの設計・製作を行う。またフレキシブル基板へ
の IC 実装の準備を行う。
⑦包埋材料:埋植材料の安全性を評価する実験動物を用いた生体適合性実験ならびに in vitro 化
学的安全性試験を行う。
【計画内容・研究手法】
①電力送受信部
電磁誘導による電力の供給効率は、コイルの面積や巻数、二次コイルを貫く磁束数、一次・二次
コイル間の距離などに影響される。そこで計算機シミュレーションによって発生電圧や負荷電流を
予測する。また実際に一次コイル・二次コイルを試作し、どの程度の電力が伝送できるかを実験的
に確かめる。同実験では、送信側の磁界発生のための回路、受信側の交流から直流に変換する回路、
蓄電するための回路が必要となるため、その設計製作を実施する。また鉄損によってコイルコアが
発熱すると思われるので、それについても評価する。
②信号送受信部
信号の送信に電波、光のどちらを利用するか検討する。また、通信エラー等が起きても誤動作し
ない完全な通信プロトコルも検討し仕様書を作成する。この結果を基に、体外装置から体内装置へ
信号を送信するための装置の設計を実施する。体外側の送信回路、体内側の受信回路の設計を実施
する。信号伝送部については、IC 設計者と協議のもと、動物実験データを参考にして伝送すべき電
気刺激パラメータを決め、そのデータ量を伝送するのに最適なプロトコルを採用し設計を行う。
③画像処理部
外界の画像を授受し、その画像に基づいて電気刺激パルスを生成して、眼内へ無線でデータを転
送するハードウェアならびにソフトウェアの開発を行う。ハードウェアは、撮像装置、画像処理装
置、画像表示装置、パラメータ入力装置、電源装置、赤外線信号出力装置から構成され、主な処理
を高性能なマイクロコンピュータで行う。なお当面の画像処理は、2 値化、エッジ検出、階調変換、
圧縮処理など基本的なアルゴリズムに限定するが、将来に追加変更が必要になった場合にはソフト
ウェアの改良で対応する。
④体外撮像型の IC
システム全体の仕様に基づき、IC のコア回路の設計/試作及び基本機能の確認を行い、回路技術
を確立する。具体的には、体外撮像型に必要な受光回路、光によるデータ受信回路、電磁誘導によ
る電力受信および電源供給回路、神経刺激信号の生成/パルス波形整形と制御/増幅回路、眼内埋
- 19 -
め込み後の機能モニター回路等である。これらを各ブロックレベルおよび IC 全体で動作させる一次
試作機の開発を目標とする。
⑤体内撮像型の IC
埋植状態で必要な受光感度を実現する回路構成を検討する。またパルス周期などのパルスパラメ
ータが制御可能な回路や、低消費電力化を目指して1V程度の低電圧駆可能な回路構成も検討する。
これらの結果を基に TEG (Test Element Group)回路を試作し、その機能実証を図る。この結果を基
に、パルス周波数変調型回路を 0.6μmCMOS のデザインルールにより設計し、製作する。その後、
試作した回路の動作確認を行う。
⑥電極アレイとフレキシブル基板
電極アレイの絶縁材料に生体適合性が比較的高いといわれるポリイミドフィルムやシリコン樹脂
を、そして刺激電極部には体内環境下でも比較的に安定して存在できる金属(例えば白金)を採用
して、電極アレイを設計・製作する。また体内撮像型の電極アレイは、ポリイミド基板先端部に電
極アレイが形成された LSI を実装する必要がある。そこで薄膜化した LSI を実装する技術を確立す
る。なお動物実験の結果をフィードバックして、電極数・サイズ・電極間距離等を網膜刺激に適切
な仕様に改良する。また眼内装置の基板形状・配線パターン・IC の接合方法などの実装技術につい
ても技術を確立する。
⑦包埋材料
眼内装置の基板材料ならびに包埋材料に高分子材料を使用するが、それらの材料には長期的生体
適合性と絶縁性/シール能力の維持性能が求められる。そこで材料候補を選定したのち、溶出評価・
劣化評価を行う。またパッケージング材料による包埋方法の開発を行う。加えて眼内装置の基板試
作品で、通電しながらの劣化評価・物理特性評価・熱評価を行う。そして模擬評価系を構築し、そ
の系での評価を行う。また実験動物の眼内に眼内装置の一部やパッケージ候補材料を埋植し、網膜
に炎症等の疾患が惹起されていないかを眼底カメラ等で経時的に観察する。埋植一定期間後、埋植
物を動物眼から摘出し、光学顕微鏡や電子顕微鏡等で観察することによって、材料の浸食の有無や
浸食のされ方等を観察する。そして in vitro での実験と同じように、ガスクロマトグラフィー等の
分析機器を用いて埋植材料の分析も行う。また眼内に埋め込む装置の低侵襲的な形状の調査も合わ
せて実施する。
2.1.1.3 その他
【事業内における位置づけ】
in vivo 動物実験ならびに in vitro 動物実験の実験系構築を行うことにより、各要素技術の評価
ならびに人工視覚トータルシステムの評価を行うことができる。また動物実験を実施することで、
将来に実施する臨床実験に必要な基礎データを蓄積することができる。
- 20 -
【目標とその設定根拠】
目標:動物実験による代用特性で、30cm 指数弁に相当するレベルの評価法を確立する。
設定根拠: in vivo 動物実験では、実際に動物の神経系を電気刺激して神経応答を記録することに
より、刺激発生条件(パルス数、電圧、電流等)や刺激を与える網膜神経節細胞位置等の基本仕様
を設定することができる。また in vitro 動物実験は実験結果が手術手技に依存しないため、in vivo
動物実験よりも電極仕様(電極数、電極密度、電極寸法等)をより迅速に容易に決定することがで
きる。
【中間目標】
平成 14 年度末までの中間目標を以下のように設定する。
・開発したプロトタイプを埋植して、その性能を定量的・客観的に評価するための動物実験系を構
築する。
【計画内容・研究手法】
・in vivo 動物実験
網膜に対しどのような電気刺激を行えば、視覚の知覚を実現できるか現時点では不明な点が多い。
そこで実験動物(ラット、家兎、ネコ、ミニブタ)の眼球に電極アレイを埋植し、任意の網膜の神
経細胞を電気刺激して、細胞の興奮を視覚中枢から検出する。この結果をもとに、刺激に最適なパ
ルスパラメータ(パルス形状、パルス幅、振幅、周波数)および刺激電極の形状や電極の固定位置
等の仕様を知ることができ、また網膜電気刺激による二点弁別能を評価することができる。
なお最適なパルスパラメータを同定するためには、これらを自由に変更できる装置が必要である。
人工視覚システムの開発に即した多点で刺激が行え、これらのパラメーターを自由に変更できる装
置は市販では存在しない。そのため、これらの仕様を満たす電気刺激装置を開発し、視覚の再建を
実現できる電気刺激パラメーターの同定を行う。この装置を用いて得た所見は、IC 開発にフィード
バックし設計仕様の検討を行うことが可能となる。
・in vitro 動物実験
実験動物から摘出した網膜切片をディッシュ上に固定し、そこに開発した電極アレイを配置する。
次に任意の神経細胞を電気刺激して、細胞の興奮を生体信号アンプやメモリーオシロスコープを通
じて記録する。この実験により、電極アレイの各種パラメータ(電極の大きさ、電極間距離など)
や電気刺激パラメータ(刺激パルスの大きさ、幅、周波数など)と神経応答との関係を評価するこ
とができ、人工視覚システムにおける眼内装置設計の参考データを得ることができる。また IC 開発
ならびにシステム全体の仕様を設定するにあたり、網膜あるいは眼球全体の電気的特性を知ること
が不可欠であるが、この実験によって電気的な受動特性、ならびに網膜の電気刺激に対する能動特
性の同定を行うことが可能となる。
- 21 -
2.2 研究開発の実施体制
(1)実施体制
【全体】
経済産業省
補助
新エネルギー・産業技術総合開発機構
委託
プロジェクトリーダー
大阪大学大学院医学系研究科教授
開発委員会
「人工視覚システム」
再委託
①株式会社
②奈良先端科学技術大学院大学
物質創成科学研究科
ニデック
連連連連 携携携携
再委託
③大阪大学大学院工学研究科
(電子工学)
厚生労働科学研究費補助金
「感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業」
共同研究
④大阪大学大学院医学系研究科
(感覚器外科学・応用医工学・情報生理学)
⑤杏林大学
医学部眼科学
【法人内】
①株式会社ニデック
社 長
技
術 部
視覚研究所
眼内レンズ技術部
化学的安全性試験実施と
評価担当
生物学的安全性試験実施と
評価担当
生物工学研究所
財
電気機械設計・製作および
システム開発の統括
経理管理
務 部
- 22 -
法
務 部
知的財産管理
プロジェクト管理
東京研究センター
【再委託先】
②奈良先端科学技術大学院大学(国立)
学 長
物質創成科学研究科
物質創成科学専攻
光機能素子科学講座
事務局
研究協力部 研究協力課
研究企画係
大学院工学研究科
電子工学専攻
事務局
経理課 経理掛
眼内装置IC開発
網膜電気特性同定
契約・検査
支払担当
③大阪大学(国立)
総 長
参考
連携先の学内体制
④大阪大学(国立)
総 長
大学院医学系研究科
臓器制御医学専攻
感覚器外科学講座
事務局
経理部 経理課
医学部
眼科学
事務局
経理部 経理課
⑤杏林大学(私立)
学 長
- 23 -
in vitro
電気生理実験
契約・検査
支払担当
(2)研究員及び人員
【法人内】
①株式会社ニデック
氏
名
八木 透
鐘堂 健三
田代 洋行
神田 寛行
寺澤 靖雄
上原 昭宏
砂田 力
後藤 鋼星
中谷 正義
瀧 千智
松浦 孝至
所 属 ・ 役 職
技術部 ニデック視覚研究所 所長
技術部 ニデック視覚研究所 副主席技師
技術部 ニデック視覚研究所
技術部 ニデック視覚研究所
技術部 ニデック視覚研究所
技術部 ニデック視覚研究所
技術部 眼内レンズ技術部 課長
生物工学研究所 副主席技師
生物工学研究所 主任
生物工学研究所
法務部 法務課 主任
【再委託先】
②奈良先端科学技術大学院大学(国立)
氏
名
太田 淳
香川景一郎
徳田 崇
朝野 由記
物質創成科学研究科
物質創成科学研究科
物質創成科学研究科
物質創成科学研究科
所 属 ・ 役
物質創成科学専攻
物質創成科学専攻
物質創成科学専攻
物質創成科学専攻
職
光機能素子科学講座 助教授
光機能素子科学講座 助手
光機能素子科学講座 助手
光機能素子科学講座
③大阪大学(国立)
氏
名
八木 哲也
小山内 実
服部 訓子
参考
所 属 ・ 役 職
工学研究科 電子工学専攻 教授
工学研究科 電子工学専攻 助手
工学研究科 電子工学専攻
連携先の学内体制
④大阪大学(国立)
氏
名
田野 保雄
不二門 尚
福田 淳
所
属 ・ 役 職
所
属 ・ 役 職
医学系研究科 教授
医学系研究科 教授
医学系研究科 教授
⑤杏林大学(私立)
氏
名
平形 明人
医学部眼科学 助教授
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(3)委員会等における外部からの指導及び協力
開発委員会における登録委員
氏
名
田野 保雄
伊藤 良一
一岡 芳樹
木下 茂
樋田 哲夫
石橋 達朗
所 属 ・ 役 職
大阪大学大学院医学系研究科臓器制御医学専攻感覚器外科学・教授
明治大学理工学部物理学科・教授
奈良工業高等専門学校・校長/大阪大学・名誉教授
京都府立医科大学眼科学教室・教授
杏林大学医学部眼科学・教授
九州大学大学院医学研究院眼科学・教授
(4)株式会社ニデックの事業体制の妥当性
人工視覚システムの開発は、ニデックの創業当初からの目標の 1 つであったが、当時は網膜およ
び中枢神経系に関する解剖・生理学的な知見が十分ではなく、開発を具体化できる環境が整ってい
なかった。しかし現在では、網膜・中枢神経系に関しても当時に比べかなりのことが解明されてお
り、同社も創業以来ほぼ 30 年、先端技術を駆使した眼科用医療機器(検査・測定装置、治療装置等)
の開発・製造・販売を続け、「目」に関する専門的・学術的な知識を主軸とした事業を展開してきた。
さらに、平成 8 年には、従来の事業領域である「目」に新たに「身体」を加え、組織工学的手法に
よるヒト皮膚、軟骨および骨の提供を目的とした関連会社・株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングを設
立し、体内埋植物質の生体適合性研究を推進する等、人工視覚システムの研究開発をするための環
境を整えてきた。
前述のように、人工視覚システムそのものの研究開発の開始こそ先行する海外の諸グループに遅
れを取っているものの、最も先行しているグループでもいまだ装置のシステム化・製品化までには
至っていない。さらに、先行グループにも眼科医療機器開発・製造を行っている企業とコンソーシ
アムを形成しているグループは現時点で存在しないことから、充実した研究開発を早急に開始する
ことで、装置のシステム化の段階で追いつき、安全性の高い高性能な製品を提供できる可能性は十
分にあるとニデックでは考えている。これを実現するため同社は、日本の得意とする半導体素子に
おけるビジョンチップの研究者(奈良先端科学技術大学院大学)
、先端の埋植手術技術を有する臨床
医学者(大阪大学)らとより実行力のある研究体を組織した。さらに徹底調査により蓄積した人工
視覚システムに関する技術情報を利用することで、先行する海外のグループに追いつく時間をより
短縮できると考え、平成 12 年度より社内プロジェクトチームを発足させ、さらに研究開発を開始・
実行するための強力な戦力として、国内における人工視覚システム開発の先端技術者である名古屋
大学の研究者を技術開発責任者として平成 13 年 8 月 1 日より同社に迎えた。
ニデックの技術開発力について言及すると、同社が開発・製造・販売する眼科用医療機器・用具
には、エキシマレーザー屈折矯正手術装置・レーザー光凝固装置等の手術装置、超音波診断装置・
前眼部診断装置等の診断装置、自動検眼システム・動体視力計等の検査装置、また眼内レンズ等が
あるが、これらは先端技術を駆使した製品であるのみならず、医療機器・用具に必須の安全性・有
効性も保証されるものである。また、同社の最先端技術を取り入れた技術開発を象徴する製品とし
て、国内ではニデックのみが開発しているエキシマレーザー屈折矯正手術装置を挙げることができ
る。さらに眼内レンズ開発で培った生体適合性材料の研究開発や眼内レンズ固定化技術は、本研究
- 25 -
開発に不可欠な分野であり、加えて自社内(生物工学研究所)に動物実験施設、臨床検査実施施設
を保有していることは、本研究開発を進めるにあたって非常に有利である。
2.3 研究の運営管理
本事業の推進に当たり、プロジェクトリーダー(以下 PL)を設置し、PL の監督・指導の下で研究
開発を実施している。さらに PL を委員長とする学識経験者からなる開発委員会を組織し、研究開発
の開発推進に関する事項を審議及び効率的な研究開発を推進している。この開発委員会を1年間に
3回の割合で開催することにより、研究開発の進め方に関する指導・助言及び臨床評価の実施に関
する事項を審議している。またこの開発委員会とは別に、研究者相互の情報・意見交換の場として、
連携先の大阪大学と臨床面・工学面の合同ミーティングを適宜開催し、両面の擦り合せ調整を行っ
ている。
また、平成 14 年 3 月 28 日付制定の基本計画に対し、平成 15 年 3 月 13 日付改定にて中間目標を
設定した。そして、複数の学識経験者からなるプロジェクト技術検討会議を平成 13 年 3 月、ならび
に平成 14 年 2 月に開催し、事業の進捗状況を審査している。
3.情勢変化への対応
(1)in vitro動物実験をより早期に立ち上げるために、平成14年度から同分野の専門家である大
阪大学大学院工学研究科の八木哲也教授を再委託先に加え、事業の実施体制を強化した。
(2)人工視覚トータルシステムの開発において、各要素技術開発が順調に進み、一部の要素技術
開発については既に完了したものあるため、一次試作機の完成が当初の見込みより3ヶ月∼6
ヶ月早まる見通しとなった。
(3)しかし一方で、開発委員会などにおいて、より機能を盛り込むことも指摘されているため、
平成15年度から赤外線通信に加えて、RF通信についても要素技術開発を開始する。また二次
コイルを眼外に固定する場合のシステムについても開発を開始する。
(4)また刺激位置として、網膜上および網膜下を想定して現在は開発を進めているが、上脈絡
膜から網膜を電気刺激する方法も有効で実用性が高いことが判明しつつある。そこで、これ
についても検討課題に加えることにした。
4.今後の事業の方向性
中間評価に基づき事業の方向性の検討を行なう。
5.中間・事後評価の評価項目・評価基準、評価手法及び実施時期
評価項目 事業目標
評価基準 事業目標に対する達成状況
評価手法 専門の委員会から構成される技術評価委員会を設置し評価する。
実施時期 中間評価:平成 14 年度終了時点
事後評価:平成 17 年度終了時点
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Ⅲ.研究開発成果について
1.事業全体の成果
【成果の概要】
(1)人工視覚トータルシステム開発:体外撮像型、体内撮像型それぞれについて概念設計、検討
課題抽出を終えた。平成 15 年度末に完成予定の一次試作機は、眼球(直径約 25mmの球)
に完全に収まるように眼内装置が小型集積化され、眼内への埋め込みが可能な寸法・形状を
有するが、その仕様策定、基本設計、システム化準備を完了した。
(2)要素技術開発:要素技術は、①電力送受信部、②信号送受信部、③画像処理部、④体外撮像
型のIC、⑤体内撮像型のIC、⑥電極アレイとフレキシブル基板、⑦ 包埋材料、の7項目から
なる。全ての項目について、予定通りもしくは予定より3ヶ月∼6ヶ月早期に進捗していて、
すでに評価実験を完了した要素技術もある。
(3)その他:大阪大学と協力して in vivo 動物実験ならびに in vitro 動物実験の実験系構築を
予定通りに進めている。前者では神経組織を任意のパルスパラメータで刺激できる電気刺激
装置が必要であるため、その設計・製作を行い完成させた。またラットを用いた in vivo 電
気生理実験において、電気刺激時の神経応答記録を実施した。現在は、ネコ電気生理実験を
準備している。in vitro 動物実験については、カエル遊離網膜を用いた基礎実験を完了し、
現在は次の評価実験の準備を行っている段階である。
【計画と比較した目標の達成度】
主要素技術の検討・機能試作を実施していて、すでに一次試作機のシステム設計・製作に取りか
かっている。重大な技術的・政策的問題はなく、一部の開発テーマについては予定より 3 ヶ月∼6
ヶ月早期に進捗しているなど、5 ヵ年計画中の 2 年目として順調に進捗している。今後、一次試作
機の完成へ向けて開発を加速し、システム評価の後に、平成 15 年度末までに一次試作機の完成を目
指す。その後、動物実験による一次試作機の評価ならびに二次試作機に向けた改良を開始する。
【成果の普及、広報】
どの開発項目も、上位概念や細かい工夫に関する特許をもれなく取得することが優先されるべき
である。しかし、一次試作機の完成(平成 15 年度末)以降、幅広く広報・論文発表が順次行える段
階に入る。なおこれまでに出願した特許と論文発表リストを末尾の補足に記す。
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2.研究開発項目毎の成果
2.1 人工視覚トータルシステム開発の成果
【目標に照らした達成状況】
中間目標(平成 14 年度末)
現在の達成レベル
一次試作機開発のために、システム化の仕様策 体外撮像型、体内撮像型それぞれについて概
定、基本設計、システム化準備を行う。
念設計、検討課題抽出を行い仕様策定、基本
設計、システム化準備を完了した。
体外撮像型、体内撮像型それぞれについて概念設計、検討課題抽出を終えた。平成 15 年度末に完
成予定の一次試作機は、眼球(直径約 25mmの球)に完全に収まるように眼内装置が小型集積化さ
れ、眼内への埋め込みが可能な寸法・形状を有するが、その仕様策定、基本設計、システム化準備を
完了した。
【成果の意義】
平成 14 年末の段階で、諸外国の人工視覚の研究開発グループは、いまだに小型集積化されたシス
テムの試作機さえも開発できていない。開発がこのまま順調に進めば、本プロジェクトの一次試作
機は世界初の人工視覚システムとなる。
【成果の概要】
平成 13 年度と 14 年度は、体外撮像型と体内撮像型のそれぞれについてトータルシステムの仕様
策定、概念設計、検討課題抽出を実施した。
・体外撮像型
体外撮像型は、撮像素子が体外に設置されることが特徴である。眼外に設置する装置(眼外装置)
と眼内に設置する装置(眼内装置)の 2 つから構成され、眼外装置で撮像・画像処理・刺激パルス
生成を行う。刺激パルスデータと電力は無線で眼内装置へ供給され、網膜上あるいは網膜下に置か
れた電極アレイで神経組織を電気的に刺激する(図 2.1.1)。失明症状に合わせた調整・設定が容易
であり、網膜上、網膜下のいずれも刺激でき、広い視野を得やすいことが特徴である。しかし、刺
激点数を 100 以上にする場合には技術的課題を解決しなければならないと思われる。また二次コイ
ルの小型軽量化は、今後の開発の中で解決すべき重要な課題である。
体外撮像型の眼外装置は、撮像素子のほか、撮像した画像を処理して刺激パルスを生成する画像
処理部、眼内装置へ刺激パルスのデータを無線転送する信号送信部(赤外線 LED とデータ送信回路
から構成)
、眼内装置へ電力を電磁誘導で無線供給する電力送電部(一次コイルならびに電源回路か
ら構成)
、バッテリーから構成される。一方、眼内装置は集積回路(IC)、電力を受電する二次コイ
ル、電極アレイ及び回路基板から構成される。このうち IC は、データを受信する信号受信ブロック、
受信信号からデータを再生する信号再生ブロック、パルスを生成する刺激パルス生成ブロック、電
源ブロックから構成される(図 2.1.2)
。
これまでに眼外装置のバイザー部分については機械ならびに電気の設計・製作を終え,システム化
を完了している(図 2.1.3)。バイザー部分には一次コイルならびに通信用の赤外線 LED が搭載され
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ていて,後述する電力伝送・通信の仕様にしたがって眼内装置へ電力とデータを伝送することがで
きる。今後、電源周りを含めて画像処理装置についてシステム化を進める。また眼内装置について
は、平成 15 年 6 月に完成する眼内装置 IC の評価を実施した後、他の電子部品とともに基板へ実装
し,システム化を行う。
図 2.1.1 体外撮像型人工視覚システムの全体のイメージ
- 29 -
図 2.1.2 体外撮像型人工視覚システムの構成(図右は眼内装置)
電力伝送用一次コイル
通信用赤外線LED
CCDカメラの
制御回路
ピンホールレンズ
電力伝送用
一次コイル
赤外線フィルタ
図 2.1.3 体外撮像型眼外装置のバイザー部
- 30 -
・体内撮像型
体内撮像型は、撮像素子が体内に設置されることが特徴である。眼外に設置する装置(眼外装置)
と眼内に設置する装置(眼内装置)の 2 つから構成されるが、撮像・画像処理・刺激パルス生成を
行うのは眼内装置の大規模集積回路(LSI)であり、眼外装置は電力供給と眼内装置の初期設定デ
ータの送信のみを行う。電極アレイは LSI 上に形成されていて、網膜下に LSI を置いて神経組織を
電気的に刺激する。刺激点の高密度化が容易であり、高い空間分解能の実現が可能である。また眼
球運動への対応も容易で、大半の装置が眼内に埋植されるため、眼外装置を小型化でき、生活の質
(Quality of Life: QOL)の向上が期待できる。しかし、大きなサイズの LSI を網膜下に埋植しなけ
ればならないため LSI の薄膜化が必要で、実装上の技術的課題を解決しなければならない。また体
外撮像型と同様に二次コイルの小型軽量化は、今後の開発の中で解決すべき重要な課題である。
体内撮像型の眼外装置は、眼内装置へ電力を電磁誘導で無線供給する電力送電部(一次コイルな
らびに電源回路から構成)とバッテリーから構成される。眼内装置の初期設定データの送信を行う
信号送信部については一次試作機では有線で行い、平成 15 年度に実施する RF 通信の要素技術開発
の成果を二次試作機までに盛り込む予定である。一方、眼内装置は LSI、電力を受電する二次コイ
ル、回路基板から構成される。このうち LSI は、撮像・画像処理・刺激パルス生成の機能を有し、
電極アレイが LSI 上に形成されている(図 2.1.4、2.1.5)。
これまでに眼外装置のバイザー部分については機械ならびに電気の設計・製作を終え,システム化
を完了している(図 2.1.6)。外観は体外撮像型のバイザー部とほぼ同じだが、眼へ光が届くように
スルーホールが空いていること、そしてバイザー内部には一次コイルのみが搭載されていることが
異なり、後述する電力伝送の仕様にしたがって眼内装置へ電力を伝送することができる。また眼内
装置については、これまでに LSI 実装の準備段階として,図 2.1.7 のような実装試作機を作成し,
必要な電子部品が限られた面積の基板上に配置できることを確認している。平成 15 年 6 月に完成す
る眼内装置 LSI の評価を実施した後、他の電子部品とともに基板へ実装し,システム化を行う。
- 31 -
図 2.1.4 体内撮像型人工視覚システムの全体のイメージ
図 2.1.5 体内撮像型人工視覚システムの構成(図右は眼内装置)
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電力伝送用一次コイル(筐体内部)
採光用スルーホール
図 2.1.6 体内撮像型眼外装置のバイザー部
二次コイル
マイコン
16x16刺激電極アレイチップ
電源制御IC
図 2.1.7 体内撮像型 LSI 実装サンプル
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2.2 電力送受信部
【目標に照らした達成状況】
中間目標(平成 14 年度末)
現在の達成レベル
電力伝送ユニットにおけるコイルを試作し、実 机上での理論設計、一次コイルによる発生磁
験によりコイル仕様を確定する。
界の計算機シミュレーション、試作した一次
コイル・二次コイルを用いた実験を実施し、
一次試作機に必要なコイルセットの仕様を確
定した。
机上での理論設計、計算機シミュレーション、実機を用いた実験によって、一次試作機に搭載す
る電力伝送部の仕様を確定した。電力伝送部は、眼外に設置する一次コイルと電源回路、眼内に設
置する二次コイルから構成されていて、電磁誘導で電力を眼外から眼内へ無線で伝送できる。実験
の結果、一次コイルが直径 50mm、二次コイルが直径 6mm のフェライトをコアとするコイルを一次試
作機で採用するコイルセットにした。また電力の伝送周波数は、20∼40kHz の中間周波数帯を採用
することにした。
【成果の意義】
眼外から眼内へ電力を無線で供給する方法はいくつかあるが、そのうち最も現実的な方法として
電磁誘導が挙げられる。電磁誘導で電力を伝送する場合、一次コイルと二次コイルのコイルセット
が必要になる。人工心臓や人工内耳のようにコイルの埋植先に十分な空間が確保できる場合、コイ
ルの設計自由度は高い。しかし、本事業の場合は数多くの制約があり容易ではない。例えば、二次
コイルを眼内に埋植するため、二次コイル面積を大きくすることができず、十分な電力を供給する
には一次コイルで大きな磁界を発生させる必要がある。また一次コイルを角膜から少し離れたとこ
ろに設置する必要があるが、伝送できる電力は一次コイルと二次コイルの距離の 2 乗に反比例する
ため、ここでも電力伝送効率の向上が困難になる。また諸外国のグループは電力伝送周波数をギガ
Hz 帯に設定しているが、この場合、一次コイルの発生磁界が生体に及ぼす影響を無視することはで
きず、また二次コイルでの大きな発熱の問題も避けられない。これらの理由から諸外国のグループ
も電力送受信部の開発に苦慮しており、どの研究グループも現実的な電力伝送部の開発にはいたっ
ていない。
そこで本事業では、諸外国のように空芯コイルを採用するのではなく、フェライトのように透磁
率の高いコア材を使ったコイルを採用し、20∼40kHz の中間周波数帯の伝送周波数を用いる。これ
により一次コイルに大きな磁界を発生させることなく、眼内装置の駆動に必要な 5V、数十mW の電
力を無線伝送することができた。
【成果の概要】
平成 13 年度は、机上での理論設計ならびに実験環境の構築を行った。電磁誘導で電力を伝送する
場合、二次コイルでの発生電圧は、外部磁界の強さ、二次コイル線の巻数、透磁率、伝送周波数、
二次コイル面積に比例する。また二次コイルでの負荷電流は、二次コイルの長さ、周波数、二次コ
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イルを鎖交する磁束数に比例し、負荷、二次コイル面積、二次コイル線の巻数に反比例する。人工
心臓や人工内耳では、一次コイルと二次コイルの距離は皮膚を介してほぼ密着した状態であり、ま
た二次コイル埋植先に十分な空間が確保できるためコイル面積の大きな二次コイルを用いることが
できる。そのため空芯コイルでも埋植装置を機能させるのに十分な電力を伝送することが可能であ
る。しかし、人工視覚システムの場合、二次コイルの埋植先は直径約 25mm の眼球であるが、二次コ
イルを埋植できそうな前眼部の毛様体溝(虹彩の裏)では直径約 10mm、水晶体は直径約 6mm であり、
二次コイルのコイル面積を大きくすることは物理的に不可能である。また諸外国のグループが検討
している、空芯コイル(プレーナコイル)で電力伝送を行おうとすると、コイル面積が十分に取れ
ないために、一次コイルでギガ Hz 帯の伝送周波数を有する数千 A/m 以上の非常に強力な磁界を発生
させる必要があり、二次コイルでの発熱や発生する電磁場が生体へ及ぼす影響は避けられず、現実
的ではない。そこで本事業ではより現実的かつ実用的な選択として、透磁率の高いコイルコアを用
いたコイルセットを採用することにした。また磁界発生装置、磁界計測装置、非接触温度計などか
ら構成される実験装置の構築を実施した。
平成 14 年度は、コイルの磁界シミュレーション、コイルの設計・製作、そして製作したコイルを
用いた電力伝送実験を実施した。まず第一に、電力伝送用の一次コイルの設計方針を得るため、磁
界シミュレーションによる設計検証を実施した。コイルを眼鏡のようにかけることを想定し、一次
コイルを眼鏡レンズの角膜頂点距離(日本人の場合 12mm)と同じ位置に置いたと仮定する。受信コ
イルを水晶体の位置に置いたとすると、一次コイルと二次コイルの距離は 19mm である。生体の透磁
率は、真空中の透磁率とほぼ等しいので自由空間に一次コイルを設置したとする。コア材としてパ
ーマロイを使用したとき、一次コイル中心から 19mm 離れた点の磁界強度を 50mm×50mm の平面での
磁界分布を求めた。なおシミュレーションは ELF/MAGIC を使用した。シミュレーションの結果、発
生磁界と供給電流の間には線形の関係が見られた。またコイルの厚みによる影響は、コイルのサイ
ズに比して十分近い点の磁界強度を計算したため無かった。コイル径を小さくすると強磁界の範囲
はそれに伴い小さくなる。コイル中心に穴をあけた場合も、発生磁界に影響しているのがコイル巻
き線周辺のコアのみであるので、ほとんど変化はないことが判明した。この実験から一次コイルの
設計は、1)二次コイルに印可する磁界強度を決め、それを発生させることが出来るアンペアターン
を決める。2)既製電源の電流容量から巻線数を決め、そのコイルの自己インダクタンスを求める。
3)出力可能電圧範囲と動作負荷抵抗に合わせてインピーダンス変換回路を挿入する。この際、共振
回路を組んで無効電力を減らすという設計指針が得られた。
次に、仕様の異なる数種類の一次コイルと二次コイルを設計・製作し、電力送受信について評価
した。なお二次コイルについては、空芯コイル(プレーナコイル)と透磁率の異なる 3 種類のコア
材(ケイ素鋼、フェライト、パーマアロイ)のコイルについて実験を実施した。その結果、プレー
ナコイルでは眼球内に埋植できるコイル面積では電力受信はまず不可能であること(図 2.2.1)
、フ
ェライトコアを用いた場合に眼内装置に必要な電力を一次コイルが現実的に設計を行える範囲で電
力受信を行えること(図 2.2.2)が確認できた。そして眼内装置の消費電力が数 mW の範囲に押さえ
られれば、安全指針を満たした範囲での電力送受信も可能であることが判明した。フェライトコア
コイルの自己インダクタンスは mH のオーダーであったため、既成のチップコンデンサあるいはオン
- 35 -
チップで実現可能な容量の範囲で共振器が組め、より大きな電力を得ることができる。しかし、受
信回路の入力インピーダンスとのマッチング、供給電力に対する電圧・電流の動作点を考慮するな
ど、電源回路の入力特性と電力受信部の出力特性を考慮して設計を進めて行かなくてはいけない。
フェライトコアの場合、他の素材に比べてコアロスがほとんど無く、印可する磁界の強さと周波数
が同じであれば、コイルの巻線数によらず、同程度の電力が受信できた。コイルの巻線数は共振器、
マッチング回路を組みやすいインダクタンスになるように決定するのがよい。インダクタンスは小
さいと共振回路に大きな容量のコンデンサが必要になる。インダクタンスが大きいと容量は小さく
すむが、精度が必要で若干の容量のずれで、共振周波数が大きく変わってしまう。今回実験した限
りでは、1mH∼10mH の範囲ぐらいが一番使いやすい範囲と思われる。なおフェライトコアの二次コ
イルの重量は約 300mg であった。眼内装置の重量の 95%以上が二次コイルの重量に支配される。現
在市販されている眼内レンズの重量が数十 mg であることを考慮すると、長期埋植性を向上させるた
めにはコイルの軽量化は必須であり、今後の開発の中で検討していく必要があることも判明した。
- 36 -
図 2.2.1 プレーナコイルの特性
図 2.2.2 40kHz 磁界に対する負荷特性の一例
(上:ケイ素鋼コア、下:フェライトコア)
- 37 -
2.3 信号送受信部
【目標に照らした達成状況】
中間目標(平成 14 年度末)
現在の達成レベル
赤外線通信ユニットにおける通信プロトコルの 非同期通信のプロトコルとして簡素ではある
仕様策定ならびに送受信部の回路設計を行う。 が信頼性の高い CMI を採用することにした。
また製作したフォトダイオード TEG と市販の
赤外線 LED を用いた実機の実験で、115.2kbps
の赤外線通信が可能であることを示し、送受
信部の回路設計・製作を完了した。
信号送受信部は、信号送信部分に赤外線 LED ならびに送信回路、信号受信部分にフォトダイオー
ドと受信回路を小型集積化した IC から構成される。通信は非同期で行われるため、信頼性が高く実
用性の高い CMI を採用することにし、回路の設計・製作を実施した。汎用性の高い 0.6μmCMOS テク
ノロジを用いてフォトダイオードを設計・製作したところ、115.2kbps の速度で 10ch 程度のパルス
データを受信できることが実験で得られた。また送信側には、市販の赤外線 LED で十分な光量と照
射角度を得られることがわかり、眼球運動が生じても眼内へ十分にデータ転送ができることが判明
した。
【成果の意義】
諸外国のグループが眼外装置と眼内装置の間の通信に RF 通信を採用することを検討しているが、
本事業では赤外線通信を採用する点が特徴である。シリアルデータ通信の場合は RF 通信のほうが転
送速度を上げることが容易であるが、RFID などの開発に見られるように、アンテナ設計や回路設計
に数多くのノウハウを必要とし、長期の開発期間を要する。ところが赤外線通信の場合は、送受信
回路が単純で開発を短期間に完了できる利点がある。また当初の人工視覚システムで必要なデータ
転送量はせいぜい数十 kbps 程度であるため、赤外線通信でも十分に対応でき、開発資源を有効に利
用できる。また RF 通信に比べて赤外線通信は、信号の送受信を行なう際の S/N 比が大きいことも利
点である。そして目を閉じたときに信号路が遮断されて映像が見えなくなるため、患者にとってよ
り自然な人工視覚システムとなる点も RF 通信にはない優れた点である。事実、本事業では着手から
短期間で送受信回路の開発を完了することができ、また一次試作機に必要な 115.2kbps のデータ転
送速度を実現することができた。また実機を用いた実験で、30 度程度の眼球運動であっても通信が
妨げられないことが判明した。これはシステムの汎用性の向上に寄与する。信号受信に用いるフォ
トダイオードとしてディスクリート品も考えられるが、汎用性の高い 0.6μmCMOS テクノロジを用い
て製作したフォトダイオードであっても、一般のフォトダイードの 50%程度の起電力を得ることが
できた。このことは IC 製造委託先の選択の幅が広がる利点がある。
【成果の概要】
平成 13 年度は、通信プロトコルの仕様策定を実施した。一次試作機では、通信は非同期となるた
め冗長性・信頼性の高い通信プロトコルが必要である。そこで CMI を採用することにした。一次試
作機は機能を絞り込んだものとするため、刺激チャンネル数は 9ch と少なく、画像処理のフレーム
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スピードは 7.5 フレーム/秒としている。そこでデータ転送レートは 115.2kbps、データキャリア
のパルス速度は 230.4kHz に設定した。そして IR 信号出力は1つ前のフレーム画像に対する信号を
出力するようにして、IR 信号出力中またはその後に、フレーム時間内にそのフレームに対する画像
処理を終了することにした。
平成 14 年度は、送受信に必要なハードウェアの設計・製作を行った。送信側は眼外に位置するた
め、十分な輝度と照射角度を有する市販の赤外線 LED(850nm 帯赤外線)でも十分と思われる。一方、
受信側のフォトダイオードは眼内に埋植されるため、市販のディスクリート品の場合はサイズや実
装方法などの観点から十分に注意して選択する必要がある。しかし、ディスクリート品ではなく眼
内装置の IC にフォトダイオードを一体化することができれば、実装の問題は解決しやすくなると思
われる。そこで汎用性の高い 0.6μmCMOS テクノロジを用いて、どの程度の性能のフォトダイオード
を製作できるかを検討し、IC に一体化できるかどうかを調べた。図 2.3.1 は製作したフォトダイオ
ード TEG の拡大写真である。この TEG を用いた実験の結果、受光面積 1mm2 で 0.24A/W の出力を得た
(一般的なフォトダイオードでは 0.5A/W)。次にこのフォトダイードの応答特性を評価した。図
2.3.2 は 115.2kHz の赤外線入射光に対するフォトダイオードの応答を示していて、製作したフォト
ダイオード TEG が十分な応答速度を有していることが判明した。次に送信部についての検討結果を
示す。図 2.3.3 に示すように、赤外線 LED を眼球正面に置いた場合(同図左)、正面から 55 度斜め
の角度に LED を置いた場合(同図右)について、光パワーの角度依存性を調べたところ、赤外線 LED
を適切に選択すれば、市販の赤外線 LED で十分な光量が得られることが判明した。
- 39 -
図 2.3.1 製作したフォトダイオード TEG
図 2.3.2 フォトダイオードの応答(矢印部分)
図 2.3.3 データ送信用赤外線 LED の照射角度
- 40 -
2.4 画像処理部
【目標に照らした達成状況】
中間目標(平成 14 年度末)
仕様策定、設計を行う。
現在の達成レベル
仕様策定、設計を行った。大半のハードウェ
アはすでに完成し、ソフトウェアについても
すでに一部が完成した。
大半のハードウェアと一部のソフトウェア開発を終えた。装置は、撮像装置、画像処理部、画像
表示部、パラメータ入力部、電源部、赤外線信号出力部から構成される。撮像には市販の 35 万画素
程度の CCD カメラ、画像処理にはマイクロコンピュータを使用した。
【成果の意義】
モノカラー画像を取得して、階調変換・圧縮処理を行い、特定の解像度の画像へ変換することが
可能である。また撮像した画像と画像処理後の画像を液晶画面上で確認することができる。画像入
力以外に、任意の刺激パルスパターンを出力することができるので、画像入力以外に簡単な図形パ
ターンで刺激したいときなどの動物実験に有用である。
【成果の概要】
画像処理部は、撮像した画像データに階調変換・圧縮処理を施し、電気刺激パルスを生成して、
眼内へ光通信で無線データ送信する。装置は、撮像装置、画像処理部、画像表示部、パラメータ入
力部、電源部、赤外線信号出力部から構成され、主な処理をマイクロコンピュータで行う。図 2.4.1
は、開発した画像処理部のブロック図とハードウェア、ならびに画像処理の例である。まだ筐体が
完成してないため、各基板が剥き出しの状態であるが、既に一部のソフトウェア開発を終えており、
同図が示すようにモノカラー画像を取得して特定の解像度の画像へ変換することができる。撮像し
た画像と画像処理後の画像を液晶画面上で確認することができるように設計されていてる。また画
像入力以外に、任意の刺激パルスパターンを出力することが可能である。例えば縦一列、横一列の
刺激電極からパルスを出力して「L」の文字を出力するように神経組織を刺激することも可能であり、
画像入力以外に簡単な図形パターンで刺激したいときなどの動物実験に有用である。現在は一次試
作機用に、カメラで取得した画像データから 9ch 分の刺激データを生成するようプログラミングさ
れている。1 画像フレームあたりの処理スピードは 7.5 フレーム/秒程度を見込んでいる。より多チ
ャンネルの刺激データを生成することは可能であるが、その場合、1 画像フレームあたりの処理ス
ピードに時間がかかるようになるため、どの程度のフレームレートまで下げることができるかは、
今後の動物実験や臨床実験の結果をフィードバックして決定する必要がある。
- 41 -
図 2.4.1 画像処理部
(上:構成ブロック図、中:製作したハードウェア、下:画像処理例)
- 42 -
2.5 体外撮像型の IC
【目標に照らした達成状況】
中間目標(平成 14 年度末)
仕様策定、設計を行う。
現在の達成レベル
各回路ブロックの TEG(Test Element Group)
を設計・製作・評価を行い、その結果に基づ
いて仕様策定を行い IC を設計した。
体外撮像型の眼内装置に必要な電子回路は、眼内スペースに収まるよう IC 化する必要がある。IC
は、整流・安定化ブロック、受光ブロック、信号再生ブロック、信号出力ブロックの 4 ブロックか
ら構成される。整流・安定化ブロックは、二次コイルによって得られた交流電圧を整流し、眼球運
動などによる電力変動があっても安定した電力を確保する。受光ブロックは、眼外装置の赤外線 LED
から送信されるデータ信号を受信するフォトダイオードと周辺回路から構成される。信号再生ブロ
ックは、通信プロトコルに基づいて CMI 符号化されたデータをもとのデータに再生する部分である。
そして信号出力ブロックは、神経組織を刺激する電流パルスを出力する。
【成果の意義】
整流・安定化ブロック TEG に関して、外付けのコンデンサを用いて、600A/m の磁界強度中に置い
た二次コイルより 5V、20mW 程度の電力を安定的に取り出すことができることを確認した。受光ブロ
ックについては、115.2kHz の赤外線入射光に対して製作した受光ブロック TEG が十分なスピードで
応答することを確認した。信号再生ブロックについては、PLL(Phase Locked Loop)回路に付ける
コンデンサや抵抗などの定数を調整することで、所望のクロックを再生することを確認した。信号
出力ブロック TEG は、神経組織のインピーダンスを 10kΩと仮定した場合、最大で 1mA の出力が得
られる仕様であるため、動物実験において適切に神経組織を電気刺激できると思われる。
【成果の概要】
平成 13 年度は、再委託先の奈良先端科学技術大学院大学と協力して、IC 開発に必要な環境の整
備を実施した。その結果、アナログ、デジタル混載の IC 開発に必要な設計環境が整った。また IC
の製造先として、試作を専門に引き受けるマルチチップサービスを選択し、設計した IC の製作ルー
トを確立した。
体外撮像型の眼内装置に必要な電子回路は、眼内スペースに収まるよう IC 化する必要がある。IC
は、整流・安定化ブロック、受光ブロック、信号再生ブロック、信号出力ブロックの 4 ブロックか
ら構成される(図 2.5.1)
。平成 14 年度は、こらら各ブロック TEG(Test Element Group)を設計・
製作し、評価を行った。IC は 5V 駆動を想定しているため、整流・安定化ブロック(図 2.5.2)では、
二次コイルから安定して 5V 電源を取り出す必要がある。二次コイルの特性データを分析して、10
mH の二次コイルを採用することにし、共振回路を組み、仕様を満たす回路を実現した。また眼球
運動などにより電圧が変動する可能性がある。特に過大な電圧が供給されると回路が破損する可能
性があるため、過電圧は必ず回避する必要がある。そこで安定化回路を設けて、過電圧に対する対
策を施した。受光ブロックは信号送受信部の項にてすでに述べたとおりであるが、フォトダイオー
- 43 -
ド TEG を設計・製作し、実験の結果、受光面積 1mm2 で 0.24A/W の出力を得た。また 115.2kHz の赤
外線入射光(850nm)に対して、十分な応答速度を有していることが判明した。信号再生ブロックな
らびに信号出力ブロックについては、シミュレーション上で仕様どおりに動作することが確認でき
た。これらの結果に基づいて、IC の仕様を策定し、設計を行った(図 2.5.3)
。現在、設計した IC
を製作中で,6 月に完成する予定である。その後、IC 単体レベルでの評価ならびにシステムレベル
での評価を実施し,基板実装を行う。そして一次試作機のシステム化へと作業を進める。
- 44 -
図 2.5.1 眼内装置 IC の構成
図 2.5.2 製作した整流・安定化ブロック TEG
図 2.5.3 設計した IC のレイアウト図面
- 45 -
2.6 体内撮像型の IC
【目標に照らした達成状況】
中間目標(平成 14 年度末)
現在の達成レベル
仕様策定、設計、製造、評価、改良設計を行う。 体内撮像型刺激 IC に適したパルス周波数変
調方式の改良を検討し、IC 設計・試作・評価
により基本機能の実証を行った。
体内撮像方式は、目の持つピント調整機構・眼球運動・絞り機構などが、眼内にデバイスを埋植
した後でも有効であるため、自然な視覚再生が可能であると考えられる。これまでの報告例は、マ
イクロフォトダイオードアレイ(MPDA)を用いて入射光を直接光電流に変換し刺激電流とする方式
である。この方式は電源供給が不要という利点があるものの、光感度が充分でないため網膜細胞刺
激に必要な注入電荷量が得られないこと、パルス出力ではないため有効な細胞刺激がそのままでは
難しいなどの欠点があった。
これに対して本事業では体内撮像型刺激 IC としてパルス変調方式(PFM: Pulse Frequency
Modulation)フォトセンサを適用することを提案している。本方式は、電源供給を前提とすること
で、フォトダイオードの蓄積モード動作による高感度化と細胞への十分な電荷注入を可能とし、し
かも入射光を直接パルス列として出力できる等、網膜細胞刺激にとって適したものである。更に出
力信号がディジタル(パルス)であるため、回路の大部分をディジタル化し、電源電圧が不安定な
埋植環境下でも安定動作が期待できることも重要である。アナログ方式に比べ、微細プロセスを利
用することで、低消費電力化、回路面積の縮小が確実に行えることも利点である。この PFM 方式を
体内撮像型 IC として適用するため、機能面での改良と実装面での検討を行った。
【成果の意義】
光強度を出力パルス頻度に変換するパルス周波数変調方式イメージセンサをベースとし、体内撮
像型人工視覚に適した双極電流パルスを発生できる回路を実現した。また、光感度および刺激電流
振幅をディジタル的に制御可能とした。更に実装面での検討を行い、IC チップを 50µm 厚程度に薄
くし、眼球に沿って曲がることを想定したデバイス特性評価を行った結果、PFM 回路特性には実用
上問題がないとの結論を得た。これらの結果より、従来の報告例と比較して、埋め込み下で必要な
有効な刺激機能を備えている体内撮像型刺激 IC 実現への目処を得ることができた。
【成果の概要】
平成 13 年度ならびに 14 年度は、PFM 方式体内撮像型 IC の機能面の改良と実装面の検討を実施し
た。
・機能面の改良
PFM フォトセンサを人工視覚に適用するために、以下の①から④の特徴をもつ PFM フォトセンサ
画素を 0.6µm CMOS プロセスを用いて試作し、動作を実験的に検証した。図 2.6.1 は画素回路ブロッ
ク、図 2.6.2 は試作チップ画素の顕微鏡写真である。
- 46 -
①出力パルス周波数上限の制限(数 100Hz 以下)
PFM 自体は 1MHz 以上のパルス周波数を出力するが、このような高い周波数は生体刺激に適して
いないため、周波数上限を制限する必要がある。ローパスフィルタ回路を導入することで周波
数制限を実現した。図 2.6.3 は、入射光照度に対する出力パルス周波数をプロットしたもので
ある。オリジナルの出力パルス周波数を 250Hz に制限できている。
②被写体照度に応じた光感度可変機能
出力パルス周波数を制限すると入射光照度範囲(ダイナミックレンジ)が制限される。オリジ
ナルの場合約 60dB あったダイナミックレンジが上限制限することで 20dB 程度に減少する。こ
れを回避するために、PFM 出力パルスを分周器に通し周波数を分周することにより可変感度を
実現した。これは生体視覚系における平均光量に対して感度曲線シフトさせる機構と類似した
ものである。図 2.6.3 に示すように、出力パルス周波数を 250Hz に制限した場合、光感度を 1/1
∼1/128 の間で 1/2 刻みで変化でき、トータルの入力光ダイナミックレンジとして約 50d が実
現できた。
③双極電流パルス出力
細胞刺激には、電荷蓄積や細胞疲労を避けるために双極パルスが望ましい。また接触抵抗によ
らずに一定の電荷注入を行うために定電流出力が望ましい。PFM 出力パルスは単極電圧パルス
であるため、双極電流パルス出力に変換する回路を導入した。図 2.6.4 は、出力パルス結果で
ある。双極パルスへの変換が実証できた。
④可変刺激強度機能
電極と網膜の密着度などの埋植状況に応じて刺激強度を制御できることが望ましい。画素内に
DA 変換回路を実装し外部制御信号によりパルスの波高値を、0∼約 1mA の間で 64 段階に設定で
きることを確認した。
また、PFM イメージセンサの人工視覚への適用性をデモンストレーションするため、特徴①と③の
機能をもつ 32x32 画素の人工視覚 PFM ビジョンチップを試作した。図 2.6.5 に画素回路、レイアウ
ト及びチップ顕微鏡写真を示す。また表 2.6.1 に仕様を示す。更に PFM ビジョンチップのパルス出
力を LED パネルに直接表示し、電気刺激の様子を LED の点滅として可視化するデモ機を試作した(図
2.6.6)
。
・実装面の検討
本方式の PFM フォトセンサ IC を埋植するためには、以下の点を検討した。
(1)埋植のため IC の
厚さを 50µm 程度に薄くするため、眼球に沿ったたわみが IC に生じる。その場合のデバイス特性へ
の影響、(2) IC 全体を生体適合材料で包埋しかつ電極(Pt)部分は網膜刺激が可能なように外部
に露出させる実装技術、(2)に関しては新たにスタッドバンプ方式を開発した。その結果について
は電極アレイの項に記載している。以下(1)について述べる。
PFM 方式人工視覚デバイスの体内埋め込みを想定して PFM を搭載したテスト IC を 50µm 厚に研磨
し、湾曲状態での動作検証と素子特性評価を行った。PFM 画素の湾曲(最大曲率 0.4 cm-1:成人眼
球曲率の半分)状態での周波数変化は最大 5%であり、撮像機能上許容される変化であることを確認
- 47 -
した(図 2.6.7)。また曲率による MOSFET の相互コンダクタンス変化を考慮したシミュレーション
を行い、実験で得られた PFM の周波数変化と定性的な一致を得た。これにより曲げによる PFM 出力
周波数変化は、MOSFET の移動度の歪み依存性によることが分かった。現在曲げ方向に依存性の少な
いトランジスタ構造を考案し、試作中である。
・ まとめと今後の課題
PFM 方式を体内撮像型 IC に適合させるために、機能面と実装面での改良を行った。その結果、
埋植実験に適用可能な装置としての検証を行うことができた。16×16 画素程度の次期チップは完全
埋植を目指して、感度可変機能・可変刺激強度機能を実装するとともに、低解像度でも有効なパタ
ーン刺激ができるようにエッジ強調などの簡単な画像処理機能の実装も検討する。また電力供給系
やデータ伝送系と組み合わせた総合的なシステム動作を検証するとともに、動物への埋込実験を通
じてより完成度を高めたデバイス実現を目指す。
- 48 -
画素回路
パルス波形
メモリ
電気刺激
刺
激
電
極
分周回路
入射光
光→パルス変換
D/A変換
変換
定電流出力
受光部
刺激部
網膜細胞
図 2.6.1 PFM フォトセンサ回路ブロック
分周回路
パルス波形メモリ 定電流出力回路
PFM受光回路
受光回路
受光回路
850µ
µm
D/A変換回路
変換回路
図 2.6.2 PFM フォトセンサ顕微鏡写真
100000
Frequency [Hz]
10000
Original
1000
f =250Hz
100
n= 0
10
n= 7
n= 4
1
0.1
0.01
1
100
Illumination [lux]
10000
図 2.6.3 試作 PFM フォトセンサにおける出力パルス周波数の入力光照度依存性、図中
n は分周比(1/2)n を表す。
Output from
PFM photosensor
Output from
frequency divider
Biphasic waveform
from stimulator
図 2.6.4 試作 PFM フォトセンサ出力波形 上段:PFM 出力、中段:1/2 分周出力、
下段:Biphasic 電流出力
- 49 -
14
Pulse Frequensy[KHz}
Pulse Frequensy[KHz}
図 2.6.6 PFM 出力の LED アレイディスプレイによる可視化
2000lux
12
10
1000lux
8
500lux
6
-0.4
-0.2
0
0.2
-1
0.4
5.3
5.2
5.1
500lux
5
4.9
4.8
4.7
-0.4
Curvature ( cm )
-0.2
0
Curvature ( cm
(a)
0.2
-1
)
(b)
図 2.6.7 PFM 出力パルスの曲率依存性 (a)、(b) 500lux における拡大図
表 2.6.1
32x32 画素人工視覚 PFM ビジョンチップ仕様
Technology
Pixel number
Array size
Pixel size
PD size
Electrode size
Max. output current
Photosensitivity
0.6µm CMOS (2-poly, 3-metal)
32x32
4.8 x 4.8 mm2
150 x 150 µm2
15 x 15 µm 2
15 x 15 µm 2
30µA@10kΩload
1.91 Hz/lux
- 50 -
0.4
2.7 電極アレイとフレキシブル基板の成果
【目標に照らした達成状況】
中間目標(平成 14 年度末)
現在の達成レベル
電極アレイの設計・製作を行う。またフレキシ 電極アレイの設計・製作を行った。またフレ
ブル基板への IC 実装の準備を行う。
キシブル基板への電極アレイチップの実装を
実施し、今後の IC 実装の目処をつけた。
体外撮像型用ならびに体内撮像型用の電極アレイを試作した。電極アレイは電気ケーブルである
導電層を絶縁層で挟み込んだ構造になっていて、片端から電気刺激を生体組織へ送ることができる。
体外撮像型として仕様が異なる 2 種類のものを試作した。一つは 8ch のもので、ポリイミドフィル
ム基板上に金電極が縦横 2x4 に配置されている。他方は絶縁コートを施した白金線を束ねてシリコ
ン樹脂で包埋したもので、36ch(縦横 6x6)を有する。また体内撮像型の電極アレイとして、ポリ
イミド基板先端部に 16ch(縦横 4x4)の白金電極が形成されたシリコンチップを実装したものを
製作した。
【成果の意義】
人工視覚システムでは、網膜を電気刺激することで視覚を再生させる。そのため網膜へ電気刺激
を伝送する主要な部品である電極アレイは重要な構成要素である。電極は、電気ケーブルである導
電層を絶縁層で挟み込んだ構造になっていて、先端部の被覆が剥がれた箇所から電気刺激を生体組
織へ送ることができる。電極アレイは眼球内に埋植して使用されるため、高い柔軟性と生体適合性
が求められる。市販の電極アレイは、眼内に埋植するには形状やサイズが適さない。
そこで電極アレイの絶縁材料に、生体適合性が比較的高くて柔軟性があるポリイミドフィルムや
シリコン樹脂を用いることで、眼球曲面に沿って密着して神経組織を多局所で電気刺激できる厚さ
100 マイクロメートル以下の柔軟性のある電極アレイを開発できた。また刺激電極部には体内環境
下でも比較的に安定して存在できる金属(例えば白金)を採用することで、長期埋植性を高めるこ
とができた。
ところでフォトリソグラフィ技術で製作する電極アレイは利点が多いが、刺激チャンネル数の増
大とともに外形寸法が大きくなる欠点がある。そこで将来の多チャンネル化を考えて、白金線を束
ねて電極アレイを試作し、100 チャンネル程度であれば数ミリの外形幅の電極アレイで実現できる
ことが判明した。
次に体内撮像型では、ポリイミド基板先端部に電極アレイが形成された LSI を実装する必要があ
る。実装方法にいくつかの技術的課題があるが、今回の試作でスタッドバンプを用いる新しい手法
によって刺激電極部の課題を解決した。
【成果の概要】
平成 13 年度には、ポリイミドフィルムを用いた電極アレイの加工法についての検討を行った。電
極アレイは、導体を絶縁層で挟み込んだ構造になっていて、電気刺激を送る部分のみ絶縁層の被覆
が剥がれている。基板材料(絶縁層)にポリイミドフィルム、導体には白金を選択した。電極を製作
- 51 -
する際、ポリイミドフィルムを眼球内に挿入しやすい形状に切り取る必要があるが、切り取ったフィ
ルムの端面が鋭利であると、埋植時に網膜やその他の生体組織を傷つける可能性がある。そこでエ
ンドミルを用いた機械的な切削加工、エキシマレーザ加工機を用いた加工の 2 つを比較して、後者
の加工方法でより適した端面が得られることが判った。しかし、加工にエキシマレーザを用いるとス
ループットが悪く、輪郭線が数センチにも及ぶような加工には適さない。そこで打ち抜き加工等と組
み合わせて用いることがよいと思われる。次に白金をポリイミドフィルム上にパターニングする方
法として、蒸着法とスパッタ法を比較した。実験の結果、事前に表面処理を施した後にスパッタ法
で白金を堆積させることがよいことがわかった。なお白金のパターニングについては、白金を十分
な厚みを持って堆積させることがスパッタ法ではできない。電極アレイには大きな電流が流れるこ
とがあり、白金が薄いままの電極アレイでは電流値が大きいと線が切れてしまう可能性がある。ま
た白金で配線をする技術はいまだ十分に確立できていないため、実用性・実現性の点から課題も多
いことが判明した。
これら実験結果を踏まえて、平成 14 年度は動物実験で用いる体外撮像型用の電極アレイを製作し
た。平成 13 年度に製作した電極アレイと同様、基板材料とカバーレイにポリイミドフィルムを用い
ている。導体に白金を用いた場合の問題を解決するために、今回は銅を用いた。なお銅は酸化しや
すいため、銅が生体組織に直接接触しないように、銅の表面に金メッキを施した。電極は縦横 2x4
に配置されていて、全部で 8 チャンネルの刺激が可能である。今回、電極部分が直径 100 マイクロ
メートルの凹型電極が配置されたものと、直径 200 マイクロメートル・高さ 100 マイクロメートル
の凸型電極が配置されたものの 2 タイプを製作した。また網膜タック用の穴を追加したタイプも製
作した。図 2.7.1 は製作した凸型 8ch 電極アレイである。図 1 上が刺激電極部の全体図(上面から
の観察)、図左下が刺激電極部の拡大写真、図右下が刺激電極部の側面からの観察写真である。刺激
電極部に相当するカバーレイの開口部は、直径 100 マイクロメートルである。この部分に電解メッ
キを施すことで、電極部分をカバーレイ面よりも高く盛り上げている。しかし、盛り上がり部分の
高さならびに広がりの制御が難しく、今回製作したものは、高さが 100 マイクロメートル、広がり
が直径 200 マイクロメートルになった。また最終工程で銅表面を金メッキしているが、生理食塩水
中に浸して刺激 AC パルスを流すと、数時間後には金メッキ部分にクラックが発生して、下地の銅
が析出することも判明した。1∼2 時間程度の急性実験で本電極アレイを用いる場合には問題ないが、
より長期の実験が将来は実施されるので、今後はメッキをスパッタに変更することで改良する。
フォトリソグラフィ技術で製作する電極アレイは、大量生産が可能である点が利点だが、刺激チ
ャンネル数の増大とともに外形寸法が大きくなる欠点がある。そこで将来の多チャンネル化を考え
て、白金線を束ねて電極アレイを試作した。この電極アレイでは、約 5μm の厚みで絶縁コートを
施した直径 80 マイクロメートルの白金線を束ねたものである。なお絶縁コートはポリウレタンを用
いている。先端部には、幅 2.5mm の電極アレイ部分に 6x6 の刺激電極が形成されている。図 2.2.2
は製作した電極アレイを示す。図 2.7.2 上は全体写真、下は刺激電極部の拡大写真である。回路基
板にはハンダで接合し、絶縁のために接合部を樹脂で包埋した。ケーブル部分は直径 2mm のシリ
コンチューブに 36 本の被覆された白金線を入れてまとめて収めてある。電極先端部は 2 枚のシリコ
ンシートの間に白金線を挟み込み、片方のシートの縦横 6x6(36)箇所から白金線を貫通させて、
- 52 -
シート表面上で切断し、白金を露出させている。36 本もの白金線を外形幅 2.5mm に収めようとす
ると、線が互いに重なるため、シートの厚み(100 マイクロメートル)と合わせて総厚が 600 マイ
クロメートルにもなる。さらに薄いシートを採用し、そして外形幅を 2.5mm 以上にすれば、厚みを
減らすことは可能であるので、今後の試作で改良する。今のところ外観検査のみを実施しただけで
あるため、今後生理食塩水中に浸して通電するなどして電機特性を評価する予定である。
体内撮像型用の電極アレイでは、ポリイミド基板先端部にシリコンチップを実装したもので、縦
横 4x4(16 チャンネル)の電極アレイである。通常の状態ではシリコンチップの表面はパッシベ
ーション膜に覆われていて、電極部分に相当するボンディングパッドは膜の厚さ分だけ表面から凹
んだ位置にある。この状態では細胞との接触が良好に保てないと考えられるため、電極面を何らか
の方法で盛り上げる必要がある。そこでスタッドバンプを利用することを考えた。まずシリコンチ
ップにスタッドバンプを形成し、その後、バンプ保護フィルムを貼り、チップ背面から研磨してチ
ップを薄膜化する。次にチップをフィルムにダイボンディングした後、ワイヤーボンディングでチ
ップとポリイミド基板を接続する。ポリイミド基板先端部全体をエポキシ樹脂で包埋した後、スタ
ッドバンプを立てた側からバンプ金属が露出するまで研磨を施し、その後、露出した露出したバン
プ金属の上にスパッタで白金膜を付着させて電極とした(図 2.7.3)
。
図 2.7.1 8ch ポリイミドフィルム電極アレイ
- 53 -
図 2.7.2 36ch 白金線電極アレイ
図 2.7.3 体内撮像型電極アレイ
- 54 -
2.8 包埋材料
【目標に照らした達成状況】
中間目標(平成 14 年度末)
埋植材料の安全性を評価する実験動物を用
いた生体適合性実験ならびに in vitro 化学
的安全性試験を行う。
現在の達成レベル
基板材料に用いるポリイミドの in vivo/in
vitro 実験を実施し、毒性作用がないこと
が示した。またポリイミドのコーティング
材料としてパリレンを選び、その効果を in
vitro 実験で示した。
眼内装置の電子部品を実装する基板材料にポリイミドを検討している。その細胞毒性作用を調べ
るため、「医療用具及び医用材料の基礎的な生物学的試験のガイドライン」
(平成 7 年 6 月 27 日、薬
機第 99 号)に準拠した in vitro における生体適合性試験を実施した。また大阪大学大学院医学系
研究科と連携して、
ミニブタにポリイミドフィルムを埋植して in vivo での生体適合性を評価した。
ポリイミドフィルムは体内で含水してカーリングするが、フィルム表面をパリレンでコーティング
することでこの問題の解決を試みた。
【成果の意義】
生体適合性試験の結果、ポリイミドフィルムにはV79 細胞のコロニー形成を阻害する細胞毒性作
用がないことが示された。またミニブタに埋植したポリイミド試験片を眼底カメラで撮影し、摘出
した網膜標本を観察したところ、埋植物によって網膜に炎症などが生じることなく、良好な生体適
合性が示された。これらの実験から、ポリイミドは眼内装置の基板材料の候補になることが明らか
になった。またフィルム表面をパリレンでコーティングしたポリイミドフィルムは生理食塩水中で
カーリングすることがなく、防水効果があることが示されたことから、パリレンが有望なコーティ
ング材料であることが明らかになった。
【成果の概要】
平成 13 年度は、人工視覚システムの眼内装置に用いる材料の候補である「ポリイミドフィルム」
の細胞毒性作用を調べるため、「医療用具及び医用材料の基礎的な生物学的試験のガイドライン」
(平成 7 年 6 月 27 日、薬機第 99 号)に準拠した in vitro における生体適合性試験を実施した。こ
の試験は、チャイニーズ・ハムスター肺由来のV79 細胞を用いて、培地抽出法、直接接触法および TC
インサート法によるコロニー形成試験である。コロニー形成試験は、細胞を用いる他の方法と比較
して感受性が高く、弱い細胞毒性作用を検出できるため広く用いられている。また我が国の医用材
料などの安全性試験の分野においても、その感度の高さから本法が推奨されている。直径 35mmの
ウェルに 100∼200 個の細胞を播種して培養すると、1 個の細胞が次々に分裂を繰り返し、6∼10 日
間の後にはコロニーを形成する。このコロニーは、メタノールで固定した後にギムザ染色すると、
肉眼または低倍率の顕微鏡下で容易にその数を数えることができる。そこで細胞を播種して被験物
質で処理すると、物質によっては細胞分裂が抑制されてコロニー数が減少する。したがってウェル
あたりのコロニー数を数え、陰性対照と比較しコロニー形成率を算出することにより、被験物質の
- 55 -
細胞毒性の指標とすることができる。24 時間および 72 時間培地抽出法において、ポリイミドフィ
ルムの抽出液は、陰性材料である高密度ポリエチレンフィルムの抽出液と同様、いずれの濃度にお
いても V79 細胞のコロニー形成を阻害しなかった。
また直接接触法及び TC インサート法においても、
ポリイミドフィルムには、陰性材料である組織培養用プラスチックシート及び陰性対照と同程度の
コロニーが形成された。対照材料及び標準物質を用いた試験で得られた IC50 値および相対コロニー
形成率は、それぞれ毒性の強さに依存し、基準を満たすものであったことから、本実験は被験物質
の細胞毒性作用を適正に評価していると考えられた。以上の結果から、今回行った試験条件下にお
いて、ポリイミドフィルムにはV79 細胞のコロニー形成を阻害する細胞毒性作用がないことが示さ
れた(図 2.8.1)。
平成 14 年度は、大阪大学大学院医学系研究科の協力を得て、ポリイミド試験片をミニブタ眼底に
埋植し、その生体適合性を in vivo で評価した。硝子体手術の要領で眼球内の硝子体を除去し、眼
底に生理食塩水を注入して網膜剥離を起こさせた後、網膜に切開創を設けてポケットを作り、そこ
にポリイミド試験片を静置した。埋植後 1 ヶ月、3 ヶ月、6 ヶ月に経過観察を実施し、眼球を摘出し
て網膜標本を観察したところ、埋植物によって網膜に炎症などが生じることなく、良好な生体適合
性が示された(図 2.8.2)
。しかし、ポリイミド試験片の上に形成した白金パターンが、眼内に静置
している間に剥がれてしまう現象が観察された。この試験片を in vitro の状態で生理食塩水に付け
て静置する実験を実施したが、白金パターンの剥離は観察されなかった。生体内特有の反応と思わ
れる。
さてポリイミドフィルムは吸湿性が他の高分子材料に比べて高いため、ポリイミドフィルムを用
いて製作したフレキシブル基板の高湿環境での使用は避けることが推奨されている。そこで生理食
塩水中でどの程度の絶縁特性が得られるかを調べる実験を実施した。2 週間にわたって基板を液中
に浸しておいても、絶縁性能に変化はなかったが、フィルムがカーリングすることが判明した。フ
ィルムはロールされた状態で供給されるが、熱をかけてプレスすることで平面状態を得ている。し
かし、フィルム表面がわずかに含水したために、供給されたときのロール形状が戻ってしまったた
めと考えられる。そこでフィルム表面をパリレンでコーティングして、この問題の解決を試みた。
パリレンは、防水特性を付加する目的でプリント基板の表面を数μm 程度の薄膜でコーティングす
る際に用いられる高分子材料で、生体適合性も高いことが知られている。フィルム表面をパリレン
でコーティングしたポリイミドフィルムを生理食塩水に浸したところカーリングがなくなり、良好
な効果を得たことから、パリレンが有望なコーティング材料であることが明らかになった。
- 56 -
図 2.8.1 直接接触法におけるコロニー形成
A:陰性対照(未処理ウェル)
B:ポリイミドフィルム
C:組織培養用プラスチックシート(陰性材料)
D:20.5%ZDBC 含有ポリウレタンフィルム(標準材料)
図 2.8.2 ミニブタを用いた in vivo 試験片埋植実験
- 57 -
2.9 その他の目標
【目標に照らした達成状況】
中間目標(平成 14 年度末)
開発した一次試作機の性能を定量的・客観的
に評価するための動物実験系構築の準備を
行う。
現在の達成レベル
in vivo 動物実験ならびに in vitro 動物実
験の実験系構築の準備を実施した。その一
環として、神経組織を任意のパルスパラメ
ータで刺激できる電気刺激装置の設計・製
作を行い、完成させた。
大阪大学大学院医学系研究科と連携して、ラットならびに家兎の脈絡膜の外側(強膜の内側)に
電極アレイを埋植して、電気刺激する in vivo 動物実験を実施した。またパルス振幅、幅、周波数
などのパルスパラメータを 36ch 独立に設定して、双極型電流パルスを出力できる電気刺激装置の設
計・製作を行い、完成させた。また in vitro 動物実験については、カエル遊離網膜を用いた基礎実
験を完了した。
【成果の意義】
ラットならびに家兎の網膜を電気刺激して、その神経応答を中枢から記録する in vivo ならびに
in vitro 実験系を構築できた。どのような電気刺激が視覚を誘発させるかは未だ解明されていない
ため、これらの実験系は今後の評価に重要である。特に刺激電極による電気刺激の有効性および安
全性を精査するためには、in vivo 実験のみでは不可能である。そこで比較的実験がコントロール
しやすい剥離網膜を用いた実験により、これを調べなければならない。具体的な課題は移植する電
極を用いて、どのような電気刺激(強度、刺激パターンなど)で、どの範囲のどの種類の細胞が、
どう応答するかを精査することである。平成 14 年度においては、電気刺激に対する応答を多点基板
電極により複数の細胞から同時記録するための計測装置および計測法の確立、試作電極アレイのイ
ンピーダンス計測、さらに細胞内 Ca2+濃度([Ca2+]i)の画像計測装置の実験の立ち上げを行った。
また市販の電気的網膜刺激装置では、利用できるチャンネル数が少ない。またパルスパラメータを
自在に設定することができず、電気刺激に関する詳細データを得る実験には不向きである。しかし、
今回開発した電気刺激装置によって、それが可能になった。
【成果の概要】
平成 13 年度は、大阪大学大学院医学系研究科の協力を得て、in vivo 動物実験系の構築を実施し
た。また実験に必要な電気刺激装置の開発を行った。人工視覚システムは、外界の画像データを基
に網膜を多点で電気刺激することで視覚情報を中枢に伝えるシステムである。刺激方法として、1)
シート状の刺激電極を網膜・脈絡膜間に挿入して網膜を刺激する subretinal stimulation (網膜下
刺激)法、2)同様の電極を内側網膜に接触させて行う epiretinal stimulation (網膜上刺激)法、
が提案されている。今回予備実験として、一対の刺激電極をそれぞれ強膜側と硝子体側に設置して
網膜を電気刺激する実験を行った。強膜剥離部分へ局所的に刺激を加えたとき、視覚中枢である中
脳上丘において誘発反応が惹起されうるかを、健常有色ラットと網膜色素変性症モデルである RCS
- 58 -
ラットを用いて in vivo 電気生理学的急性実験で検討した。さらに、この刺激方法で得られる空間
分解能を評価するため、上丘における誘発反応の局在を検討した。健常ラットに対して、強膜電極
を陽極、硝子体電極を陰極として刺激を行ったところ、対側上丘表面から誘発電位が記録された。
刺激の極性を反転させて、強膜電極を陰極、硝子体電極を陽極として刺激すると誘発電位は消失し
た。次に色素変性疾患モデル動物である RCS ラットにおいて、強膜インプラント刺激に対する誘発
電位を対側上丘から記録した。健常ラットと同様に、誘発電位は陰性−陽性の二相性の波形からな
り、それぞれの頂点潜時は 7ms と 14ms であった。以上のことから、網膜色素変性症疾患において、
視覚情報を強膜インプラント刺激によって視覚中枢に伝えうることが示唆された(図 2.9.1)
。
次に、所望のパルスパラメータを有した電気刺激パルスを生成する電気的網膜刺激装置を開発し
た。この電気的網膜刺激装置は、制御部、電圧/電流変換部、タッチパネル部、ターミナルボック
ス、から構成される(図 2.9.2)
。電源仕様は、電源電圧が AC100V±10%、周波数が 49∼61Hz であ
る。実験者が使いやすいようにカラー液晶を採用し、各設定パラメーターはどのような設定・出力
をされているかを常に表示するようにして視認性を高めた。またタッチパネルを採用することによ
り操作性を向上させている。どの電極からパルス出力するかをタッチパネルからの入力で制御でき
る。また多数ある刺激電極のうち、どの電極で刺激するか、グランドに落とすか、回路に接続しな
いか(フローティング)を、ターミナルボックスを介して自由に変更できるようになっている。刺
激は電流源出力で、刺激電流が正規の出力で出力されるよう校正できる機構を有している。刺激出
力は多点同時刺激が可能で、刺激チャンネルの数は 9、16、25、36 の 4 段階に設定ができる。各電
極から出力される刺激パルスの各パラメーターは、以下のように電極毎に設定できる。この電気刺
激装置によって、任意の振幅やパルス幅を有した双極型電流パルスを出力することが可能となり、
今後のパルスパラメータの最適化の実験に有効である。
平成 14 年度は、前述の in vivo 実験の継続ならびに in vitro 実験系を構築した。後者は、1)
多点電極を用いた電気刺激応答の計測装置および計測法の確立、2)試作電極のインピーダンス計
測について実施した。
1)多点電極を用いた電気刺激応答の計測装置および計測法の確立
多点基板電極を用いた実験装置を組み立てた。この装置を用いて、カエルの剥離網膜を試料とし、
神経節細胞の光刺激応答が複数の電極から同時記録できることを確認した。図 2.9.3 に計測された
光応答を示す。上段と中段の記録は、基板電極がとらえた神経節細胞の光応答であり、下段は光刺
激のタイミングを表す。これらの細胞は、光の ON 時と OFF 時に一過性に応答する典型的な、ON-OFF
型神経節細胞であることが確認できる。今後は、本事業で用いられる刺激電極で剥離網膜を刺激し、
その応答の時空間的な特性を精査する。
2)試作電極のインピーダンス計測
使用する電極を用いて所望の電流刺激を行うためには、電極のインピーダンスを計測する必要があ
る。計測は組織との接触部が凸形状をしたものと、凹形状をしたものについて行った。凸型の電極
は、入力電圧1V から 10V の範囲で、高周波数帯域電流通過型の安定した特性を示した(図 2.9.4)。
一方、凹型の電極は入力電圧を上げると高周波帯域でインダクタンス成分が観測された。また繰り
- 59 -
返し刺激によって凹型電極は凸型に比べ破損しやすい傾向があった。今後は、体内撮像型用の in
vivo 埋植用電極アレイについて同様の条件および剥離網膜を介した条件での特性解析実験を行い、
刺激電極の基礎データを収集する。
3)細胞内 Ca2+濃度([Ca2+]i)の画像計測装置の実験の立ち上げ
1)の方法において、電気刺激による神経節細胞の反応を電気的に記録することができるが、その
記録効率は大変低い。また電気刺激が細胞の化学的な面でどのような影響を及ぼすかを調べること
は、安全性の観点からも重要な指針になる。そこで個々の細胞の生理活性の指標となる細胞内 Ca2+
濃度([Ca2+]i)を画像により定量的に計測するための装置を構築した。
ウシガエルの網膜を剥離し、その剥離網膜を Ca2+ 感受性蛍光色素
Fura-PE3-AM を用いて染色し
た。Fura-PE3 を用いることにより、波長 340 nm と 380 nm の光で励起したときの蛍光強度の比(R)
を用いて、以下の式で [Ca2+]i を算出できる。
[Ca2+] = Kd’
Kd’(R – Rmin) /(
/(Rmax – R)
R)
ここで Kd’ は見かけの解離定数、Rmax, Rmin はぞれぞれその実験系での R の最大値と最小値である。
人工視覚システムの刺激電極の性能を評価するため、標準データが必要になることから、刺激には
既存の多点電極基盤を用い、視細胞側より刺激を行った。図 2.9.5 に剥離網膜標本の透過光像(微
分干渉像)を示す。これは、神経節細胞側から観察した像であり、神経節細胞や神経軸索が観測さ
れている。
図 2.9.6 には、実際に電気刺激を行った際の [Ca2+]i 変化を観測した例である。これにより、今回
構築した装置を用いることにより、個々の細胞の活動を計測できることが明らかになり、人工視覚
システム用埋植刺激電極のより詳細な評価が可能となった。
- 60 -
図 2.9.1 ラット網膜電気刺激の実験データ
図 2.9.2 電気刺激装置
(上:外観、下:電気刺激パルスの出力結果例)
- 61 -
図 2.9.3 ウシガエル網膜神経節細胞の光応答。上段、中段は多点電極記録装置で観
測された神経節細胞の電気応答。下段は光刺激のタイミングを示す。
80
impedance [kΩ]
70
60
50
40
30
20
10
0
10
100
1k
10k
frequency [Hz]
図 2.9.4 凸型刺激電極のインピーダンスの周波数特性
図 2.9.5 ウシガエル剥離網膜の透過
光顕微鏡像。対物レンズには 20 倍を
用いている。
図 2.9.6 電気刺激時の[Ca2+]i 濃度
変化。矢印のところで、200μA, 200
μs の刺激を 20Hz で 10 回与えて
いる。
- 62 -
Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて
1.実用化、事業化の見通し
本研究開発の「人工視覚システム」は失明疾患の内、主に加齢性黄斑変性症や網膜色素変性症等
の網膜視細胞の損傷による中途視覚障害者に使用される。一般的に五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、
触覚)を通じて得られる情報のうち 80%以上を視覚が占めるといわれ、視覚による情報の欠如を聴
覚と触覚で補っている。通常のコミュニケーションは会話でこと足りるが、一般の人が視覚に頼っ
ている情報は、音声や点字の形で情報提供される機器やサービスが充実しなければ、安全で自立し
た生活を送ることは出来ない。本装置によって、対象失明患者の生活上のバリアを開放出来る。
また、わが国の機械やエレクトロニクス分野における小型化・集積化技術により、他国に先駆けて
人工眼を開発できる可能性がきわめて高く、他国のシステムと比べて十分な競争力を有すると考え
られ、海外輸出も可能となる。更に、埋め込みデバイスで行うような体内モニタリングシステムな
ど、機械・エレクトロニクス技術とバイオテクノロジとが融合した新産業創出に結びつく可能性が
ある。
2.今後の展開
現状、以下のように見通しを立てている。
本研究開発により、事業化のために必要な要素技術は大方達成されるが、実用化に向けてヒトへの
長期埋植の安全性及び安定性確保を解決し、臨床医の協力を得て実用性を実証していく必要がある。
そして本研究開発終了時より、実際の臨床評価に向けた開発を開始し、臨床医の評価を受け、製品
設計を行ない医療用具としての承認取得後、製品化を行なう。例えば本事業終了後、実用化までに
は次のような技術的課題を解決する必要がある。
1.
2.
3.
4.
5.
省電力化
小型軽量化
安全性、生体適合性向上
関連規格や法令への適合
製造(方法、コスト)
これらの課題は、臨床試験用試作機、本作機開発の過程で平成 20 年度末までに解決を目指す。また
その他の課題として、
1.
2.
部材の入手経路確保
治験、承認に関する手続き
が挙げられる。前者については国内メーカからの入手ルートが確立できなければ、海外メーカから
の供給を受けることができるような体制を構築する。そして後者については、国内、国外の双方を
視野に入れ、まずは国内で解決を目指す。
- 63 -
2005年 動物実験等により光覚、2点弁別能、形態視機能の実現ならびに生体内での安全性
及び安定性を確認後、並行してヒトでの臨床試験を進める。
2010 年 埋植手術及び外部装着によって、失明者が本システムを装着した後の視力が、30cm
指数弁以上を目指す。
2015 年 再手術を必要としない術後約 10 年以上の安定した本システムの開発を目指す。(国内
で数万人、海外で百万人以上が対象となる見込み)
2050 年 角膜再生、水晶体再生、網膜再生なども順次開発を行ない、眼疾患の治療分野で本シ
ステムを含め 5,000 億円の売上の見込み。
05
06
07
08
動物実験
臨床試験用装置開発
臨床試験
医療用具承認
製品化
- 64 -
09
10
11
12
13
14
15
補足 特許申請、論文発表
<特許申請>
平成13年度;3件
1.特願:2002-9250(出願日 H14.1.17)
発明の名称:実験動物を用いた電気刺激による光感覚の評価方法
発明者:神田寛行、八木透
内容:実験動物にオペラント行動実験を取得させた後、実験動物の網膜に電極を設置し、電極
より所定の電気刺激パルスを発生させて行動実験を行うことにより、光感覚を生じさせ
るための電気刺激パルス条件を求めることができる。
2.特願:2002-31421(出願日:H14.2.7)
発明の名称:眼内埋埴装置
発明者:八木透
内容:眼内埋埴装置において、網膜を電気刺激させるための電極と、不関電極とを設け、電極
を網膜下に置いたときに、網膜を挟んで前眼部側に不関電極を位置させることにより、
網膜に対して効率よく電気刺激を行うことができる。
3.特願:2002-31422(出願日:H14.2.7)
発明の名称:眼内埋埴装置
発明者:伊藤雄一郎、八木透、砂田力
内容:眼内埋埴装置において、受信手段、信号変換手段、電極等を載せる基板上に受信手段、
信号変換手段等の電子部品を前眼部に固定保持させるための固定手段を設けることによ
り、眼内埋埴装置を安定して固定保持させることができる。
平成 14 年度;7 件
1.特願:2002-181920(出願日 H14.6.21)
発明の名称:視覚再生補助装置
発明者:香川景一郎、太田淳、上原昭宏、八木透、鐘堂健三
内容:網膜下に設置する LSI に電力蓄積手段や刺激パルス調整手段等を設けることにより、体
内撮像型でありながら種々の機能を持たせることができる。
2.特願 2002-253943(出願日
H14.8.30)
発明の名称:眼内埋殖装置
発明者:田代洋行
内容:タックを参照電極として用いることにより、効率よく網膜を電気刺激する。
3.特願 2002-253944(出願日
H14.8.30)
発明の名称:眼内埋殖装置
発明者:田代洋行
内容:電力伝送に用いる二次コイルの磁芯として中空の磁芯を用いる。
- 65 -
4.特願 2002-349582(出願日
H14.12.2)
発明の名称:生体組織刺激用電極の製造方法及び該方法にて得られる生体組織刺激用電極
発明者:徳田崇、太田淳、香川景一郎、八木透
内容:基板上のリード線先端にスタッドバンプを形成し、基板を被膜する。その後、被膜面を
研磨してスタッドバンプを露出させることにより刺激電極を形成する。
5.特願 2003-23976(出願日 H15.1.31)
発明の名称:視覚再生補助装置
発明者:上原昭宏、香川景一郎、太田淳
内容:体内装置の基板に透明部材を用いることによって、基板の受光面と反対側の面に受光素
子、電極等を形成させることができるため、3次元的な電気回路を設計する必要がなく、
電気回路の設計が容易になる。
6.特許 2003-93084(出願日 H15.3.31)
発明の名称:視覚再生補助装置
発明者:八木透、田代洋行、寺澤靖雄
内容:高密度に電極が配置された電極アレイであっても、隣り合う電極同士から同時に刺激パ
ルス信号を出力させないように制御することにより、刺激パルス信号同士の干渉を抑制
し、効率よく視覚の再生を行う。
7.特許 2003-93085(出願日 H15.3.31)
発明の名称:視覚再生補助装置
発明者:八木透
内容:電極が形成される基板先端部の形状を渦巻き型やケーブル状とすることにより、網膜の
曲面に電極を密着させることができるため、網膜の広い範囲を刺激することができると
ともに、広い視野を確保することができる。
<論文発表>
平成13年度;2件
1.
J. Ohta, N. Yoshida, K. Kagawa, and M. Nunoshita, "Proposal of Application of Pulsed Vision
Chip for Retinal Prosthesis", Jpn. J. Appl. Phys. Vol.41, No.4B, pp.2322-2325, 2002.
2.
K. Kagawa, N. Yoshida, T. Furumiya, J. Ohta, M, Nunoshita, "An application of pulse
frequency modulation photosensors to subretinal artificial retina implantation", Proc.
SPIE Vol. 4596, pp.314-319, 2001.
平成14年度;4件
1.
J. Ohta, N. Yoshida, T. Furumiya, K. Kagawa, and M. Nunoshita, "An image sensor based
on pulse frequency modulation for retinal prosthesis", Proc. SPIE, Vol. 4669, pp.37-42,
2002.
2.
T. Furumiya, A. Uehara, K. Isakari, N. Yoshida, K. Kagawa, J. Ohta, and M. Nunoshita,
- 66 -
"Pulse-frequency-modulation vision chip with frequency range control as a retinal
prosthesis device", Proc. SPIE, Vol. 4829, pp.969-970, 2002.
3.
太田 淳,飯盛 慶一,中山 裕勝,香川 景一郎,徳田 崇,布下 正宏, "BiCMOSプロセスを用い
た発光素子集積型イメージセンサの基礎検討", 映情学会誌, Vol.57, No.3, pp.378-383, 2003.
4.
K. Kagawa, K. Isakari, T. Furumiya, A. Uehara, T. Tokuda, J. Ohta, M. Nunoshita, "Pixel
design of a pulsed CMOS image sensor for retinal prosthesis with digital photosensitivity
control", Electron. Lett., Vol.39, No.5, pp.419-421, 2003.
<公報発表>
平成13年度;15件
1.
2001.10.01 薬事日報
人工眼
2.
2001.10.03 日本経済新聞 ニデック人工眼開発に着手
3.
2001.10.04 東海日々新聞 人工眼「蒲郡市のニデック」
4.
2001.10.04 東愛知新聞 ニデックが人工眼開発
5.
2001.10.04 日経産業新聞 ニデック「人工眼」開発へ
6.
2001.10.04 中日新聞
7.
2001.10.04 日刊工業新聞 ニデック人工眼の開発に着手
8.
2001.10.10 日本工業新聞 “人工眼”を本格開発へ
9.
2001.10.22 中部経済新聞 ニデック人工眼の開発に着手
愛知・蒲郡市のニデック 人工眼の開発着手
10. 2001.10.22 茨城新聞
「人工眼」の開発に着手
11. 2001.10.22 産経新聞
人工眼開発に着手
12. 2001.10.22 山形新聞
10年後めざし人工眼開発へ
13. 2001.12.21 日刊工業新聞 夢を現実に 新世紀の先端技術
14. 2002.03.20 読売新聞全国版 新世紀の科学者たち LSI人工網膜視覚障害者に光
15. 2002.02.22 日本工業新聞 奈良先端大、パルス周波数変調方式の基本特性を確認
平成14年度;8件
1. 2002.05.16 日経産業新聞 21世紀の気鋭(人工視覚実用化へ4年で動物実験めざす)
2. 2002.06.25 読売新聞 知を創る(視力を支える画像素子開発)
3. 2002.07.30 朝日新聞 「先端科学リレーエッセー」№47
(企業での経験 改良重ねやっと製品化)
4. 2002.08.05 朝日新聞 「先端科学リレーエッセー」№48
(医療用人工視覚 技術集約へ医と工連携)
5. 2002.08.13 朝日新聞 「先端科学リレーエッセー」№46
(ビジョンチップ 人間の目の機能を再現)
6. 2002.10.14 日本経済新聞 神経に電流流し体の機能を回復
7. 2003.03.09 日本経済新聞 半導体の目で視力再生
8. 2003.03.31 日経ビジネス 網膜チップで視覚を再生
- 67 -
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