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中小企業における 安全運転管理と企業責任
交通事故対策事例 中小企業における 安 全 運 転 管 理と企 業 責 任 ∼トラック運転者の健康管理に関わるコンプライアンス∼ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ この ト ラ ッ ク事故の急激な増加要因は、 トラック輸送は、国内貨物輸送の大半 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 平成 2 年 12 月に、 通常「物流二法」と呼 を占め経済活動や家庭生活の活力を支 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ばれる貨物自動車運送事業法と貨物運 ・ ・ える主役と位置づけられ「明」としての存 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 送取扱事業法が施行された以降の当該 在を示しているが、 その裏には深刻な問 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 事業の規制緩和措置と無関係と言い切 題を抱えている。昨今、 トラックにより引き ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ れない。 この規制緩和措置は、 貨物自動 起こされる事故が多発しており、 それも重 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 車運送事業を免許制から許可制に、 運 大事故が頻発している。これがトラック輸 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 賃の認可制を事前届出制に変え る もので ・ 送の「暗」の部分である。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あった。 更に、 平成 1 2 年 2 月の改正は ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「運賃の事前届出制廃止」 「最低保有車 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 両台数の規制緩和」 「営業区域の規制 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 廃止」 を内容とする もので、 規制緩和策を ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 一層進展させた。 この結果、 新規参入が 国土交通省の統計によると、 事業用の ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 相次ぎ、 競争激化を招き、 荷主と運送事 自動車でトラックが第1当事者となった事 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 業者における需給バラ ンスに変化が生じ 故件数ならびに死者数の推移は【表1】 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ た。 また、 貨物自動車運送事業者 (以下 ・ の通りである。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「 ト ラ ッ ク事業者」 と呼ぶ。 ) は労働集約産 死者数は減少傾向にあるものの、事故 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 業であ り、 総経費における人件費の割合 件数の推移をみると、平成 17 年(2005 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ が約 50%を占めている。 これは、 運賃の 年)中の事故件数は36,782件で、平成7 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 引き下げから人件費の抑制をはかる こ と ・ 年(1995 年) ( 30,392 件)の1.21 倍であ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ によ り、 運転者の賃金減少或いは労働時 ・ る。 また、平成12年(2000年) に前年に比 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 間の増大等の労働条件の低下を招く要 ・ べ 4 千件近く増加し、 その後、事故件数 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 【表2 参照】 は高止まり状態にある。 ・ ・ 因となった。 ・ ・ トラック輸送の 「明」と「暗」 規制緩和による リスクの増大 トラック事故の現状 出典:国土交通省 【表1】 事故件数 事 故 件 数 【表2】 死者数 サン労務コンサルツ 交通安全総合コンサルタント 特定社会保険労務士 交通心理士 松下 三千男 その結果、 トラック運転者の健康を考慮 する場合、 次のような見過ごせない、 今後 改善すべき労働実態が一部にはある。 ○荷主とトラック事業者との力関係によ り、運賃だけでなく、 「荷」の到着時刻 の指定など厳しい条件を求められて いる。 ○荷主とトラック事業者との力関係に より、過積載を余儀なくされることが ある。 ○事業者とトラック運転者との力関係 で、 過積載や過重労働を余儀なくされ ることがある。 ○トラック運転者の所定賃金の上昇が 期待できないため、運転者自身生活 防衛等のため長時間労働を受け入れ ている。 ○トラック輸送の効率化を目指し、復路 の「空荷」を避けるため、荷主探しの 時間、荷の積み込み・積み替え時間、 荷待ち時間などが増加し、所定の労 働時間・拘束時間を超える運行、休 憩時間の不取得若しくは圧縮を余儀 なくされることがある。 出典:全日本トラック協会「日本のトラック運送産業」 道路貨物運送業賃金(円) 死 者 数 7 全産業平均賃金(円) ・ ・ ・ ・ 【表3】国土交通省資料から知る2・9告示*の遵守状況 ・ ・ ・ ・ ・ 2 ・ 9告示の遵守適否の件数は、 適15 不適17 不十分7 不明等4 合計43というのが厳密な件数 ・ ・ ・ であるが、限りなく違法に近いものを改めて推計しなおしたものが下の件数である。複数該当あり。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 事故要因或いは誘引となる問題点 件数 事故要因の属性 ・ ・ 国土交通省の、平成 17 年に発生した ・ ・ ・ 家庭内の悩みや家族の病気等による疲労 2 運転者の ・ ・ ・ 人的要因 事業用自動車の事故についての調査分 ・ 2 連続勤務が続くなか十分な休憩時間を取らず運転 ・ ・ ・ ・ 1 経験不足で休憩、 休息、 睡眠のとり方不慣れ ・ その調査対象となった43の ・ 析※によると、 ・ ・ ・ 1 前日深夜まで飲酒、 翌日事故時測定で反応あり ・ ・ 事故事例から【表 3 】のような事故要因 ・ ・ ・ 1 深夜にテレビ等を見て時間管理ができていない ・ ・ ・ ・ 1 の実態が明らかになった。 休憩時間に仮眠ができず飲酒 ・ ・ ・ ・ ・ 2 眠気を覚知していたが無理に運転継続 2・9 告示の遵守の問題であるが、 24例 ・ ・ ・ ・ 1 運行管理者の高速道走行の指示(連続運転時間の遵守等)を遵守せず疲労を蓄積 ・ ・ において不適若しくは不十分となってお ・ ・ ・ 2 過労からの漫然運転、 いねむり ・ ・ ・ 2 健康診断を受診せず。 持病の治療を中断 ・ り、要因不明の4件を除き全体(39件) に・ ・ ・ ・ ・ 9 最大拘束時間の超過 ・ 運行管理上の 占めるウエイトは6 割を超える。また、2・9 ・ ・ ・ 要因 ・ 5 連続運転時間の超過 ・ ・ 告示の眼目である 「最大拘束時間・連続 ・ ・ 運転時間、休憩期間、休息時間等の遵守並びに指示の不適切 5 ・ ・ ・ 労働時間に関し多数の2・9告示違反あり ・ 3 運転時間・運転時間、 休憩期間、 休息時 ・ ・ ・ ・ ・ 8 点呼を実施せず又は不十分 ・ ・ 間・労働時間」の遵守について22件(表 ・ ・ 2 点呼時に体調不良(飲酒含む)、 持病の有無等の見過ごし ・ ・ ・ 中の太字)の違反の存在が、 過労運転を ・ ・ 2 日常の健康把握、 定期健康診断の不備 ・ ・ ・ ・ 運行計画の無理、 不徹底 4 ・ 誘引することは疑いのないことである。 ま・ ・ ・ 長距離運行の運行指示書の不備・不徹底 ・ 2 ・ ・ た、点呼に係る問題点も10 件と目立つ ・ ・ 実質的に一切の運行管理を実施せず 1 ・ ・ ・ 運行管理者が荷主の無理な注文に応じたため運行経路の変更等による心身の疲労 ・ 1 が、点呼は事業者が運転者と唯一接点 ・ ・ ・ ・ ・ 特別監査の改善報告どおりの管理がなされていない 1 ・ が取れる行為である。点呼時点における ・ ・ ・ ・ ( *) 2 ・ 9 告示と は、 平成元年2月9日に制定さ れた労働省 (現厚生労働省) の 「自動車運転者の労働時間等の改善 ・ ・ 運転者の健康状態の把握は、2・9 告示 ・ ・ のための基準」 (平成元年労働省告示第7号) をいう。国土交通省においては、事業用自動車の運転者の勤務 ・ ・ ・ 割(勤務時間)及び乗務割(乗務時間) に係る基準として「貨物自動車運送事業の事業用自動車の勤務時間 ・ の遵守観点からも重要な対策である。 ・ ・ ・ ・ 及び乗務時間に係る基準」 (平成13年8月20日付国土交通省告示第1365号) を2・9告示に添う形で定め、 平成 ・ ・ (※)平成18年度版「自動車運送事業に係る交通事故 ・ ・ 13年9月1日から施行している。この基準は、 一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業の許可基 ・ ・ 要因分析報告書」 ・ ・ 準における判断対象となる。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 現に、荷主が安全性の高いトラック事業 ・ 理化対策や、 トラック事業者の競争激化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 者を選択できるようにするため、 全国貨物 ・ から発生する過積載や過労運転からの ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 自動車運送適正化事業実施機関 (全日 事故発生という負の連鎖を断ち切るため ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 本トラック協会) は「安全性優良事業所」 ・ に、 「自動車運転者の労働時間等の改 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ (Gマーク)の認定を行っている。当然そ ・ 善のための基準」の実効を確保し、 「運 トラック運転者の過労を防止するため ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ の認定について、 ト ラ ッ ク運転者の健康に 輸安全マネ ジメ ン ト 」 の円滑な導入を可能 には、「法」と「規則」を遵守することが何 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 関する評価要素のウエイ ト も高い。 にさせることによって、 「トラック輸送の安 に増しても重要となる。その中で最も重要 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ また、 「運輸安全一括法」 (運輸の安 全対策」 の強化を推進する ことである。 な規定は、 「事業者によって定められた ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 全性の向上のための鉄道事業法等の ・ トラック事業をめぐる動向は、 安全確保 勤務時間及び乗務時間の範囲内におい ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 一部を改正する法律―いわゆる運輸安 についての努力が荷主側に も求め られる て、乗務割を作成し、 それに従って運転 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 全マネジメント) が平成 18 年 10 月 1 日に ・ ことになり、 トラック事業者ならびに荷主の 者を乗務させる。」 (貨物自動車運送事 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 施行され、 トラック事業者についても経営 ・ 双方が、 いっそう厳しくなってくる諸法令 業輸送安全規則第 20 条第 1 項 3 号、規 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ト ッ プによる安全確保義務が明確に され 等を積極的に遵守していかなければ、 社 ・ 則第3条第4項) ことである。その作成の ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ た。 これに伴い国土交通省は、 安全管理 ・ 会的責任を果たせず、 経営がたちいかな 基準となるものが2・9告示に他ならず、適 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 規程に記載された安全管理体制の実施 く なる時代に突入 している といえるだろう。 正な乗務割りを作成するには、2・9 告示 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 状況等を確認するため、平成19年1月よ ・ に示される自動車運転者の拘束時間や ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ り 「運輸安全マネジメ ン ト評価」 を実施し 休息期間、運転時間等の遵守が絶対欠 ・ P R O F I L E ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ている。 かせないと言える。 ・ ・ (まつした みちお) ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 更に、国土交通省は、平成19年5月に ・ ・ 1964年 明治学院大学卒業 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 損害保険会社に入社後、 リスクマネジメントや ・ ・ 「安全運行パー ト ナーシ ッ プ ・ ガ イ ド ラ イ ン」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 安全運転管理の研究に従事 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ を策定・発表している。 「安全運行パート ・ ・ ・ ・ ・ 【現在】 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ナーシップ」 とは、 ト ラ ッ ク事業者と荷主 ・ 特定社会保険労務士、 交通心理士 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 神奈川県及び千葉県安全運転管理者講習講師 ・ ・ が、 安全運行確保という共通認識の下、 これから、荷主のトラック事業者を選択 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 著者「企業の自動車事故対策と労務管理」 ・ ・ ・ ・ ・ 信頼関係を軸とする相互の協業体制を ・ する基準は、従来よりも安全という付加 ・ ・ ・ 日本法令出版 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 築くことをいう。その目的は、荷主側の合 ・ 価値を要求してくることが予測できる。・ ・ ・ ・ ・ ・ トラック事故の要因 運転者の健康確保の ために何が重要か 松下 三千男 明日の活力のための 適正化事業 8