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北米における省エネルギー法
■海外報告 北米における省エネルギー法 -カナダを中心として- 横尾昇剛 NORIYOSHIYOKOO (宇都宮大学工学部建設学科助手) プログラムとCBIPプログラムがある。 はじめに C2000は カナダの建築物の総合的な性能を向上させるため 北米における建築物に対する省エネルギー法は, のパイロットプログラムであり,省エネルギー化 アメリカ,カナダそれぞれの連邦政府により提案 のほかに環境への負荷,室内環境などの面につい されている法律があるが,その導入や実施は各州 に委ねられており,各州ごとに状況は異なる。 在アメリカでは,ASHRAEより厳しい独自の省 現 て建物を総合的に評価するプログラムである。 CBIPプログラムは建築物の省エネルギー化を推 進するもので,省エネルギー化に関する設計に対 エネルギー法をカリフォルニアなど8つの州が実 してインセンティブを与えるものである。 施しており,25の州がASHRAEを基準としてい の目標は現在の建築物のエネルギー消費に比べ, その他の州はASHRAEの基準以下もしくは る。 省エネルギー法がない状況である(表一日。 15%のエネルギー消費の削減を目指している。 CBIPは40%の削減,パイロットプログラムであ ASHRAE/IES90. 1-1989は2000年の前半には るC2000プログラムでは,現在に比べて55%の削 ASHRAE/IES90. 1-1999として大幅に改訂され, 世界各地に対応し 一般に公評される予定である。 た気象データの追加,新しい機械システムへの対 応,既存の建物の増改築への適用など,そして特 に建物外皮と照明に関して大幅に改訂される模様 MNEC 減を目指している。 本稿では,主にカナダにおけるMNECおよび CBIPの概要を紹介する。 1. MNECの概要 である。 カナダにおける建築分野での省エネルギーに関 1995年1996年にカナダ建物・火災委員会は する取り組みはやや遅れているが,現在カナダ連 とMNECH(住宅版)とがある。 邦政府から省エネルギー法としてModelNational NationalBuildingCodeを補足するものであり, EnergyCode(MNEC)が各州に提案されている。 これは建築物の省エネルギー化を推進するための カナダの建築物の省エネルギー化を推進する法律 初めての法律であり,今後各州に導入される予定 /IES90.1を参考にしているが,各種基準値は既 である。またMNECとは別にパイロットプログ に存在するカナダの空調機器,照明機器,給湯機 ラム,インセンティブプログラムとしてカナダ天 然資源省(NRCan)によって推進されているC2000 表-1北米で適用されている建築物に関する省エネルギー法 および基準(アメリカ,カナダ) ア メリカ M E C (住 宅 版 省 エ ネ ル ギ ー 法) カナ ダ M N ECH 住宅 版省エ ネル ギー法 ) MNECを発表した。 MNECはMNECB(建物版) これは1995年の であるMNECは基本的にアメリカのASHRAE 券などに関する省エネルギー基準を参照している。 今後,MNECが各州に受け入れられた場合,こ の法律はカナダにおける全ての新しい建物に適用 MNECは され,エネルギー消費の基準となる。 各州に導入されるに当たって,各州ごとにカスタ マイズされた基準を提供することになる。 IE C C (住 宅 版 省 エ ネ ルギ ー法 ) M N ECB I住宅以外に対する省エネルギー法) カナダの国土は広大であり,気候条件および社会 A S H R A E / IE S 90 . 1 - 1 98 9 A S H R A E / IE S 90 . 1 - 1 98 9 的条件が各地域で大幅に異なるためである。 その他各州, 市独 自の法律 そ の 他 各 州 , 市 独 自の 法 律 点ではMNECの導入に関しては,オンタリオ州 52 建築設備士 2000 - 4 これは 現時 秦-3建物外皮部材の熟損失係数の仕様規定 (地域Aブリティッシュ・コロンビア) T y p e I attic ty p e roo fs 0 . 14 0 . 18 0 0. 18 0 T y p e II p a rallel c h or d tru sse s a n d joist 0 . 23 0 0 . 23 0 0. 23 0 T y p e II all oth e r roo fs 0 .4 1 0 0 .4 70 0. 4 70 T y p e I p a ralle lc h or d tru sse s a n d jois t 0. 22 0 0 .22 0 0. 22 0 0 . 41 0 0 .4 7 0 0. 47 0 F en es tration to W allra tio(F W R ) U p to 0.4 3. 40 3 .40 3 .40 > 0 .4 to 0 ー 5 3. 00 3. 00 3. 00 ty p e ro o fs ty p e fl o o rs T yp e H all oth e r fl o o rs Operable or Fixed Glazing with Sash 秦-2各都市ごとに要求される建物外皮の断熱 (MNECEBとAHRAE90. 1の比較) 都市 W all(W / m z ℃) R o ofs W / m * MNECには日本におけるPALやCECのような基 準はなく,仕様規定に沿った場合のエネルギー消 ℃) 費量が基準値となり,性能規定では,その債より M N E C B A S H R A E 90.1 M N E CB A SH E A E 90.1 ハリファックス 0.27 to 0.48 0.38 to 0.74 0 .12 to 0.41 0.19 to 0.40 モントリオ- ル 0一 33 ).38 to 0.74 0.14 to 0.29 0.15 to 0.40 も下回ることが要求される。EE4と呼ばれるエ ネルギー使用シミュレーションプログラムが性能 規定を支援する。これらのプログラムはNRCan トロ ン ト ).33 to 0.55 0.38 to 0.74 0 .14 to 0 .47 0.15 to 0.40 カ ル ガ リー 0.33 to 0.55 0.38 to 0.74 0 .14 to 0 .47 0.15 to 0.40 によって開発され提供されている。 バ ンクーバー 0.45 to 0.81 0 .53 to 0.74 0.14 to 0.47 0.19 to 0.40 MNECBは下記の内容から成り立っている。 ①概要&定義,②一般要求事項,@建物外皮, ④照明,⑤HVAC,⑥給湯,⑦電気,⑧建物エネ とブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバー 付録A:地域別要求,B:一般的な建 ルギー。 市で導入することが決まっている。 物部材の熟特性,C:建物部材の熱特性の計算方 MNECはASHRAEと同様に,設計者に対して 法,D:エネルギー源修正ファクター,E:注釈, 仕様規定と性能親定の選択肢を用意している。 仕 F:地域別要求の範囲,G:換算率。 様裁定とトレードオフを盛り込んだ仕様規定,そ 1. 1MNECBの適用対象建物 してよりフレキシブルな選択として性能規定があ MNECBは,戸建て住宅,3階建て以下で600m2 トレードオフに関しては,BILDTRADと呼 る。 以下の複合住宅10m2以下の建物,農業関連の ばれるコンピュータプログラムが壁,窓の種類に 性能規定は最も よる違いなどの計算を支援する。 建物を除く,新しい10m2以上の建物すべてに適 用される。住宅には住宅版MNECH(Model 自由度が高いが,建物全体に関する細かなコンピ NationalEnegyCodeforHouse)が適用されるo ュータによるエネルギー消費分析が要求される。 MNECBは照明,HVAC,電力消費などに関して 2000・4・建築設備士53 秦-5 CBIPにおけるオフィスビルに対する省エネルギー基準(気候区分5) 基準番号 内 容 気 候区分 5 (ハ ンタ ー バ 】 ) 省 エネルギー基準 セ ッ ト E E E E E E E E E E E EM EM EM EM EM EM EN EM EM EM EM -1 -2 -3 -4 ー4a -5 -6 -7 -8 -9 -10 In teri o r L P D < 11 .5 W /m 2 In teri o r L P D < 10. 8W / m ! A u tom atic lig h tin g C on tro ls △R ー V a lu e 0 .9 In W a lls △R -V a lu e 1- 7 In W a lls △R -V alu e 2 .8 In W a lls W in dow U -V alue < 1.48 W /m *蝣 ℃ W in dow U 一 V alue < 1.37 W /m !-℃ A u to m atic S ola r S h a din g V en tila tio n A ir h ea t R e cov ery U se o f E x ces s H e at G ro u n d So u r ce h e a t P um p (C O P = 3 .4 ,E E R = 15 . 5 R ad ia nt P an el H e atin g / C oo lin g H y d ron ic H ea tin g H ig h-E ;瓜c ien c y H P R o ofto p (C O P = 3 .1 ,E E R = 10 H ig h -E fficien cy B o ile r, 9 2% H ig h-E fi c ien c y C h iller R o oft o p H V A C Im p rov e m e n t E E M -l l E E M ー12 E E M -13 E E M -14 E E M -15 E E M -16 E E M -17 年間削減 費用 C S /m 2 A B C ○ 〇 ○ E ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 〇 .〇 〇 ○ ○ ○ ○ 〇 ○ 〇 2 .1 5 秦- 4 MNECBとASHRAE90. 1におけるnPAの比較 D ○ ○ 2 . 15 2. 15 2. 26 2 .4 7 クルコスト分析は,主要な建物外皮部材に対して, カナダ全土にわたって34の地域において行われたo M NECB IL P A (W ) A S H R A E 9 0 .1 IL P A (W ) Of i ce 18 14 R e sta u ra n t 15 19 R etai 30 20 S ch o ol 16 16 一般的にMNECBの低い値は,電気によって暖房 W are h o u se 22 13 を行う建物に適用され,高い値は比較的安いコス H o te l 15 18 トの天然ガスを燃料として暖房している建物に通 9 ll また表-3に,ブリティッシュ・コロ 用される。 建 物 タイプ M u ltifam ily R e sid en tial MNECBにおいては,最も低いライフサイクルコ ストが選択されている。秦-2に各都市ごとの熱 損失係数をASHRAE90.1と比較したものを示す。 ILpa:InteriorLightingPowerAllowanceH. PA=LPDbtGLA ンビア州におけるエネルギー源と部材別に規定さ LPDbt:lightingpowerdensityforthebuildingtype(W/m! ), GLA蝣grosslightedarea(m2) れている熟損失係数を示す。MNECBによって要 求される建物外皮の断熱レベルは,建物の主要な MNECHより詳細である。 エネルギー源に基づいて変化するため,エネルギ 1.2建物外皮 MNECBはASHRAE90. ー源の選定と主要なエネルギー源の定義のされ方 1Rと同様に気候区分に 基づいて基準を定めているが,MNECBでは気候 が重要となる。 1.3照明 とともに地域のエネルギーや建設コストなど社会 照明については,建物用途別と居室別にnPA 的状況についても考慮してある。建物外皮の熟損 (InteriorLightingPowerAllowance)が定めら 失係数の基準決定に際して,ライフサイクルアセ ただし,現在一般的なオフィスで使用 れている。 スメントが用いられている。建設コストと暖房コ されている照明は13W/m2もしくはそれ以下で ストを最小化するように地域,部材,開口部,エ あり,MNECBのnPAは時代遅れの部分もある ネルギー源に基づいての熱損失係数が定められて MNECBの開発過程で,個々の規定が,そ いる。 (秦-4)c れらが節約するエネルギーコストを上回るべきで 1. 4HVAC HVACに関しては下記に関することが必須規定 はないということが考慮されている。ライフサイ として定められているが,詳細に関しては,AS- 54建築設備士2000・4 HRAE,ARI(AirConditioning&RefrigeratorIn 関しては,研究者,技術者から基準のレベルが低 stitute),CSA(CanadianStandardAssociation) いことや,既にいくつかの改善点が指摘されてい などを参照することになっている。 ・機器容量と効率 るようであり,今後の施行後,順次改訂されてい ・空調エリア カナダは日本に比べ国土が26倍,人口が5分の ・ダクトの断熱とシーリング ・ダンパーの種類と設置場所 1であり,またエネルギー資源が豊富でコストが こうした背景の 安く,居住環境は恵まれている。 ため-人当たりのトータルなエネルギー消費量は ・配管の断熱 世界で最も多く,また一般レベルにおける省エネ ・室内の温度調整とサーモスタットの特性と設 ルギー化に関する意識は,比較的低い状況にある。 しかしながら2008年-2012年にむけて,温室効果 くことが予想されるo 置場所 ガス削減の公約実現を目指して国をあげでのさま ・湿度調整 ざまな技術,教育面でのプログラムが実施されて ・冷房と暖房の同時発生の防止 おり,今後の動向が注目される。 ・外気冷房の義務づけ 参考文献/ウェッブサイト ・時間外での運転の方法 l)ModelNationalEnergyCodeofCanadafor CBIP(CommercialIncentiveProgram) ・システムデザインと運転方法に関する書類の 2. Buildings,NationalReserchCouncilCanada, 提出 1998年-2001年の期間にカナダ天然資源省によ 1997 って実施されているプログラムである。 CBIPは建物オーナーおよびデベロッパーに対 ModelNationalEnergyCodeforBuildings, 2)AllenCarpenter,Earlyexperiencewiththe グラムである。 CBIPはMNECBの基準を参照と AdvancedBuildings,RoyalArchitectual 1No. 23/24 InstituteofCanada,Vol. 3)CommercialBuildingIncentiveProgram, しており,MNECBに比べて最低限25%のエネル TechnicalGuideOfficeBuilding,Natural ギー消費を削減することを要求する。 ResourceCanada,1999 し%80,000までのインセンティブを与えるプロ CBIPはオ フィスビル,ホテル,小売り店舗,医療施設,学 校,集合住宅を対象としている。 4)OfficeofEnergyEfficiency,NaturalRe CBIPには,MNE nrcan. gc. ca/ sourceCanada,http://oee. cfm oeee. 5)OfficeofBuildingTechnology,USDe CBと同様に仕様規定コースと性能規定コースが 用意されている4,650m2(50,OOOsqft)以上の 建物に対しては,仕様規定ではな(性能規定を適 eren. doe. 用することが義務づけられており,建物全体に対 partmentofEnergy,http://www. gov/buiidings/ する詳細なエネルギー消費シミュレーションが要 6)BuildingStandards&GuidelinesProgram, 求され,MNECBに沿って参照建物に比べて25% http://www. エネルギー消費が少ないことを要求される。 の仕様裁定ではカナダ全土を6つの気候区分にわ CBIP energycodes. org/ (平成11年12月30日原稿受理) け,それぞれの区分ごとにいくつかの省エネルギ 秦-5に,バン ー基準のセットが示されている。 クーバーにおいてオフィスビルに適用される省エ ネルギー基準を示す。 ◇ ◇ ◇ おわりに MNECは現時点では実際にどの州においても 適用されておらず,実際の施行にはまだしばらく 時間がかかるようである。 またMNECの内容に 2000蝣4蝣建築設備士 55