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反射電子顕微鏡法とミクロ 4 端子プローブによる表面・電気 伝導その場

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反射電子顕微鏡法とミクロ 4 端子プローブによる表面・電気 伝導その場
速
報
第回真空に関する連合講演会プロシーディングス
反射電子顕微鏡法とミクロ 4 端子プローブによる表面・電気
伝導その場計測
籏野
慶佑1・矢澤
博之1・箕田
弘喜1,2
In-situ Surface Conductivity Measurement by REMM4PP Method
Keisuke HATANO1, Hiroyuki YAZAWA1 and Hiroki MINODA1,2
1Department of Applied Physic, Tokyo University of Agriculture and Technology,
Nakamachi 2
24
16, Koganei city, Tokyo 184
8588, Japan
18, Kawaguch city, Saitama prefecture, 332
0012, Japan
2CREST, Japan Science and Technology Agency, Hon-cho, 4
(Received November 15, 2007, Accepted February 9, 2008)
We have developed a surface conductivity measurement system for a UHV electron microscope (UHV
EM). The sample surfaces
were prepared in the UHVEM and their structures were observed in situ by re‰ection electron microscopy and diŠraction (REM
RHEED). After the sample preparation, the samples were cooled down to RT and the conductance measurement was carried out. The
Si(111)
7×7 and Si(111) 3 × 3 
Ag structures were used as sample surfaces which were prepared on the Si(111) vicinal surface
inclined toward the [1̃1̃2] direction by 1°
. The resistance of the 7×7 structure is much larger than that of the 3 × 3 
Ag structure
and this is consistent with the previous report. This indicates that we can measure the surface conductivity by using our system.
.
背
景
近年,表面超構造由来の表面電子状態バンドを流れる電気
伝導の研究が行われるようになっており,表面固有の物性研
究の観点から注目されている.表面状態バンドを流れる電気
伝導は,プローブ間隔を数 mm 程度にしたミクロ 4 端子プ
ローブ(M4PP )や,4 本の探針を独立に動かすことが可能
な 4 探針 STM を用いて直接測定されており,現在様々な表
面超構造の電気伝導について議論されている16).
我々は,表面の局所的な構造をその場で観察しながら,表
面電気伝導度を調べてその関連を研究することを目的とし
て,超高真空電子顕微鏡用に M4PP を利用した表面電気伝
導度測定装置の開発を行った.本稿では開発した装置の概要
と,実際に Si(111)微傾斜基板に対して測定を行った結果に
ついて報告する.
.
Fig. 1 The experimental setup of our system. The sample
preparation, the observation of the surface structure and the
surface conductivity measurement can be performed in situ
in the imaging chamber of the microscope.
開発した装置の概要
我々の目的を実現するためには,試料表面の局所的な構造
が電子線方向にほぼ平行になるように配置すれば良いので,
をその場で観察しながら電気伝導度計測を行う必要がある.
電子顕微鏡の試料室内で基板結晶表面の正面に M4PP を配
実験の概念図を Fig. 1 に示す.
することが比較的容易であり,電気計測と表面観察を同時に
電気伝導度測定は M4PP を用いて行う.電気伝導度測定
行うことが出来る.加えて,既存の電子顕微鏡では試料室で
において,プローブから試料に流れる電流はプローブ間隔程
試料加熱が可能であり,蒸着装置やガス導入機構も備えてい
度に分布する.従ってプローブ間隔が数 mm の M4PP を用
る.従って,試料準備に加えて,表面観察と電気計測が全て
いることによって表面に敏感な測定が可能となる. M4PP
その場で行うことが出来るようになる.そこで,既存の超高
は CAPRES A/S 社製のものを使用した7).
真空電子顕微鏡用に M4PP ユニットを開発した.
試料表面の局所構造は反射電子顕微鏡( REM )法を用い
表面電気伝導度を研究するためには,表面の局所構造を観
て観察する.REM 法は TEM 法と異なり,試料を薄膜化す
察しながら表面の任意の場所に,局所電気伝導計測用のプ
る必要が無いため,電気計測によって薄膜を破ってしまうな
ローブ M4PP を接触させて, I V 測定を電子顕微鏡鏡筒内
ど,試料を著しく損なう心配がない.また,試料の結晶表面
で行う必要がある.また,試料加熱による清浄化や,真空蒸
平成19年11月15日 第48回真空に関する連合講演会で発表
1 東京農工大学工学府物理システム工学専攻(東京都小金井市中
町 2
24
16)
2 JST CREST ,埼玉県川口市本町 418
汚染を防ぐ構造になっていることも必要で, M4PP を試料
着やガス吸着等によって試料表面を準備する際の M4PP の
Vol. 51, No. 3, 2008
面から十分遠くまで退避する必要がある.これらの条件を満
たすために,開発した装置では, M4PP の位置の制御の為
―( 41 )―
149
Table 1
Driving area of the M4PP
In plane
Maximum [mm]
Normal
±7
9
Minimum [ mm]
10
11
Maximum [ mm]
±8.9
12.9
Minimum [nm]
±0.6
0.9
Micirometer (coarse)
Piezo(ˆne)
にマイクロメーターを用いた粗動機構と,ピエゾを用いた微
動機構を採用した.
粗動機構,微動機構による面内方向と面直方向最大駆動範
Fig. 2 REM image of the M4PP and the Si(111) 3 × 3 
Ag surface formed on the 1°oŠ wafer. Bright area is sample
surface. Upper dark images are the M4PP and lower dark images are their shadows formed on the surface. Since two dark
images are connected, we can conˆrm that the M4PP contacts with the sample surface.
囲をそれぞれ Table 1 に示した.マイクロメーターによる
最大変位量は,試料面内方向に± 7 mm ,面直方向に 9 mm
であった.また,マイクロメーターによって制御できる最小
変位は,面内方向および面直方向ともおよそ10 mm であるこ
とを確認した.一方,ピエゾ駆動による位置制御について
は,電子顕微鏡により,プローブ先端の移動量を観察するこ
とで確認した.その結果,最大駆動範囲は,ピエゾを用いた
微動機構の最大変位は面内方向に±8.9 mm,面直方向に12.9
mm であった.ピエゾでの最大駆動範囲が,マイクロメー
ターでの最小駆動距離より大きいことから, M4PP を試料
上の任意の場所に移動させて試料表面に接触させることが十
分に可能であることがわかる.ピエゾには,最大150 V まで
印加可能であり,電源自身の電圧ノイズは 2 mV 程度である
Fig. 3 REM images of (a) the Si(111)7×7 surface on the
1°oŠ wafer and (b) the Si(111) 3 × 3 Ag surface on the
1°oŠ wafer. Steps were bunching on the both surfaces.
ことから, 10 mV 精度で電圧を制御すれば,プローブ先端
を面内約 0.6 nm ,面直方向に 0.9 nm の精度で制御すること
間の電位差を測定することで,試料の I V 計測を行った.
が可能である.
.
IV 計測は 1 つの試料に対し場所を変えて複数回行い平均を
実験方法
求めた.試料観察時の電子線照射量は10 nA 程度であった.
試料作製用基板としては, Si ( 111 )面から[1̃1̃2 ]方向に 1 °
± 10 mA の範囲で I V 測定した結果から試料の抵抗を求め
傾斜した微傾斜基板で,n-type で約 5 Q・cm のものを使用し
ており,試料観察(電子線照射)による I V 計測への影響
た.電気伝導度を測定する表面の構造として,Si(111 )7×
は無視できることを実験的に確認した.
7 清浄表面(以下 7 × 7 と表記)と, Si ( 111 ) 3 × 3 Ag
構造表面(以下
3 Ag と表記)の 2 種類を準備した.試料
.
結果と考察
は電子顕微鏡試料室内で 10 時間 500 ~ 600 °
C に通電加熱して
IV 測定をした表面の REM 像を Fig. 3 に示す.REM 法
脱ガスを行い,その後数回 1200 °
C でフラッシュ加熱を行っ
は電子を試料表面すれすれの入射角で試料表面に入射させる
て,7×7 清浄表面を作製した.また,この清浄表面を550°
C
ので,電子の入射方向に寸詰まりがあるため図の縦方向と横
に加熱し, Ag を 1 ML 蒸着し
3 Ag を作製した. I V 計
方向の縮尺が異なる.図の明るく見える所がテラスで暗く見
測は,プローブが微傾斜基板の傾斜方向と平行な方向に直線
える所がステップである.傾斜した表面のステップは,等間
上に 4 本が並ぶ配置で行い,計測時の試料温度は室温であ
隔に並んでいるわけではなく,幾つかのステップが 1 箇所
る.
に集まるバンチングが起きていることがわかる.これは,通
実際に試料表面にプローブを接触させたときの電子顕微鏡
電効果によるものではなく,表面自由エネルギーを低下させ
像を Fig. 2 に示す. 4 本のプローブが黒い像として見えて
るために自己組織的に起こる現象である.たとえば, 7 × 7
いる.プローブのサイズは,幅が約 2 mm で,プローブ中心
構造表面を例に説明する. 1200 °
C で加熱清浄化する際に,
間の間隔は約 5 mm である.上側に見える黒い像は実際のプ
ステップが等間隔に配列していても,試料温度を下げる過程
ローブで,下側に見えているのが試料表面にできたプローブ
で 1 × 1 から 7 × 7 構造への構造変化が起きる.この際に,
の影で,中間のくびれたところがプローブの先端に対応して
構造変化が表面上で一様に起きるわけではなく,あるテラス
いる.プローブの実像と表面に出来た影がつながっているこ
上で 7×7 構造の核形成が起きて,その後成長して表面全面
とから, 4 本のプローブは表面と接触していることがわか
が 7×7 構造で覆われるようになる.この過程で,7×7 構造
る.このようにして 4 本のプローブを接触させた状態で,
の核形成が初期に起きたテラスでは,その後 7 ×7 構造領域
外側 2 本のプローブ間に電流を流し,内側 2 本のプローブ
が成長してテラス全面に 7×7 構造領域が広がる.転移温度
150
―( 42 )―
J. Vac. Soc. Jpn.
以下では 7 ×7 構造の領域が広がった方がエネルギー的に得
× 103 Q-1m-1 と報告している5) .しかしながら, 7 × 7 構造
であるが,構造変化には原子が移動できることが必要であ
のステップについては報告がないので,上記の数値をそのま
る.相転移温度近傍ではシリコン原子の移動は十分に起こる
ま用いて,議論することは出来ない.現在,同じインゴット
ので,テラスをさらに増大させるように 7 × 7 領域が拡大
から切り出した異なるステップ密度の基板について同様の計
し,結果として早い段階で 7×7 構造の核生成が起きたテラ
測を進めており,その結果との比較からステップの影響を見
スは広がり,同時にその周りのステップ位置が移動してバン
積もり,その結果を踏まえて,基板の電気伝導度の影響につ
チングが起きることになる.同様の議論は異原子が吸着する
いて,より定量的な議論を行う予定である.
ことによる表面構造変化でも起きるので, 3 Ag 構造につ
いても同じようにステップのバンチングが起きている8,9).
.
ま
と
め
このようにして,準備した表面の電気伝導度を計測した.
超高真空電子顕微鏡用に M4PP を利用した表面電気伝導
その結果,7×7 構造表面の抵抗は16±4 kQ, 3 Ag の抵抗
度測定装置の開発を行った.開発した装置を用いて 7 ×7 構
は 1.2 ±0.9 kQ と求まった.誤差は測定の場所による差,ま
造と, 3 Ag 構造の IV 測定を行い,表面構造による電気
たはプローブと試料表面との接触状態の差によると考えられ
抵抗の差を検出した. 3 Ag 構造の抵抗は 7 × 7 構造の抵
3 Ag の抵抗は 7 × 7 の 1 / 10 以下であっ
抗より小さいという従来の結果と定性的に一致しており,開
た.よって得られた結果は, 3 Ag の抵抗が 7 × 7 の抵抗
発した装置を用いて表面構造に由来する電気的な性質を測定
より小さいという従来の結果1,2) と定性的に一致しており,
することが可能と考えられる.今後,ステップ密度の異なる
開発した装置を用いて表面構造に由来する電気的な性質を測
表面を用いた電気伝導度計測の結果との比較から,我々が見
定することができたと考えられる.しかしながら,その差
積もった値と従来の報告の間の差について検討する予定であ
は,従来の報告が 2 桁程度の差があることと比べると小さ
る.
る.測定結果は
くなっている.この原因として考えられることは,基板の電
〔文
気伝導度の影響とステップの影響とである.
この実験で得られる電気抵抗は,表面状態バンドの抵抗と
空間電荷層の抵抗とバルクの抵抗の 3 つの抵抗の並列回路
の抵抗である.プローブ間隔を小さくすることで,後者の 2
つの影響を小さく抑制してはいるが,表面状態バンドの電気
抵抗が小さい
3 Ag 構造に比べて 7 × 7 構造においては,
後者 2 つの影響がより大きく,結果として測定される 3 つ
の並列抵抗は小さい値として得られるはずである.今回我々
が用いた基板の比抵抗は,過去の報告で用いられたものと比
べて 1 桁程度小さいことから,その差が 7×7 構造の測定結
果に現れたと考えられる.
ステップの 影響につい て考慮する ことも重要 である.
Matsuda らが, 3 Ag のステップの電気伝導度について,
4T STM と M4PP を用いて,それぞれ 3 × 103 Q-1m-1 , 4
Vol. 51, No. 3, 2008
献〕
1) C. L. Petersen. F. Gre, I. Shiraki and S. Hasegawa. Appl. Phys.
Lett. 77 (2000) 23.
2) S. Hasegawa, I. Shiraki, F. Tanabe and R. Hobara. Current
471.
Appl. Phys. 2 (2002) 465
3) S. Yamazaki, I. Matsuda, H. Okino, H. Morikawa and S.
J. Surf. Sci. Nanotech. 3 (2005) 497
502.
Hasegawae
4) H. Okino, I. Matsuda, S. Yamazaki, R. Hobara and S. Hasegawa
Phys. Rev. B 76 (2007), 035424.
5) I. Matuda, M. Ueno, R. Hobara, H. Morikawa, C. Liu and S.
Hasegawa Phys. Rev. Lett. 93 (2004) 236801.
6) T. Kanagawa, R. Hobara, I. Matsuda, T. Tanikawa, A. Natori
and S. Hasegawa Phys. Rev. Lett. 91 (2003) 036805.
7) http://www.capres.com/
8) H. Minoda, K. Yagi, F.J. Meyer zu Heringdorf, D. Koeler and
M. Horn von Hoegen, Phys. Rev. B59 (1999) 2363.
9) K. Yagi, H. Minoda and M. Degawa: Surf. Sici. Rep. 43 (2001)
45
126.
―( 43 )―
151
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