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「アットホームウェディング」の研究 ∼女性の結婚観・家族観に着目して∼
「アットホームウェディング」の研究 ∼女性の結婚観・家族観に着目して∼ A study of homely wedding ceremonies ∼aimed at women’s expectation of marriage and home∼ 00-1300-8 諏訪部 久美 指導教官 土場 学 矢野 眞和 ① 戦後∼1970 年代:挙式は人前式から神前式へ。会場は自宅から自宅 外の施設へ。 ② 1980 年代:挙式は神前式が主流で、披露宴は結婚式場やホテルが主 流。結婚式全体にかける金額や招待者数が多い派手婚へ。 ③ 1990 年代以降:挙式はキリスト教式が主流。披露宴の形態が夫婦の 個人的嗜好により選択され、形式ばらない雰囲気の増加へ。 すなわち大まかな傾向としては、①と②の時代の主な結婚式は画一 的に形式化された結婚式であったが、③の時代からは、決まった形がな く多数の選択肢のなかから夫婦が選ぶ結婚式になった。またそれに伴 い、比較的カジュアルな形態のものが多くなってきた。 以前の結婚式イメージ 1 はじめに 1-1 問題の所在 長らく儀式として同じ形式を踏襲してきた結婚式(挙式・披露宴)は、 特に 1990 年代以降多様な形態をとるようになった。現在では結婚式の 形態は数年毎に新しい流行が生まれては廃れていくような状態になっ ている。とはいえ、依然として結婚式を挙げる夫婦は多く、表面的な流 行はともかく、近年の傾向として、親しい友人たちを中心とした比較的 小規模の形態が増加してきており、そうした結婚式は「アットホームウ ェディング」と呼ばれている。 従来の結婚式の形態は、家 (イエ) 同士の結合の儀式として、夫婦と りわけ夫の家の格や社会的地位などを象徴的に表象するものであっ た。他方、現在増加しつつある結婚式の形態については、表面的な趨勢 を記述したものは多いが、そうした形態の意味するものについて厳密に 実証的に明らかにしようとした研究はほとんどない。しかし、結婚式の 形態を通じて象徴的に表出されているであろう「結婚」や「家族」につ いての現代的理念を明らかにすることは、現在の非婚化・晩婚化の趨勢 の背景的要因を探る上でも重要な意味をもつと考えられる。 1-2 本研究の目的と枠組み 本研究では、上述のような問題意識のもと、「アットホームウェディ ング」を志向する現在の傾向の社会的要因について、夫婦(とりわけ妻) の結婚観・家族観に着目して分析、考察する。ただし、結婚式の形態に は地域により独特な傾向があるので、本研究ではさしあたり首都圏の結 婚式を対象とする。 本研究の構成は以下のように進める。まず第2章で、各種資料やブラ イダル産業の事業者に対するヒアリング調査に基づいて、戦後の結婚式 の変遷と、現在主流である結婚式の特徴を分析する。第3章で、横浜市 での調査票調査に基づいて、結婚式の形態と夫婦の社会経済的状況や結 婚観・家族観との関連を計量的に明らかにする。第4章で、夫婦に対す るヒアリング調査に基づいて、結婚式の形態の決定プロセスを明らかに する。そして第5章で、以上の結果について考察し結論を述べる。 1-3 調査データの概要 本研究で行った調査は3種類ある。 1) ブライダル産業事業者調査(ヒアリング調査) 調査対象:結婚情報雑誌編集1名、ブライダルプロデュース会社2社 (2名)/調査方法:調査員1名による対面調査(30 分から 60 分前後) 2) 横浜市民調査(調査票調査) 調査主体:東京工業大学社会福祉政策研究会/調査対象:横浜市に住 む 20 歳から 39 歳(2003 年 12 月1日現在)の既婚女性/標本数:1300 人/抽出方法:層化二段抽出法/調査方法:郵送法/調査期間:2003 年 11 月/有効票:回収数 387(回収率 32.3%)の内 384 3) 夫婦調査(ヒアリング調査) 調査対象:3年以内(2003 年8月1日現在)に結婚式を挙げ結婚した女 性2名、夫婦7組(東京都在住1名と6組、神奈川県在住1名と1組) /調査方法:調査員1名による対面調査(30 分から 60 分前後)/調 査期間:2003 年7月∼11 月 現在の結婚式イメージ 2-2 現在の結婚式事情 ブライダル産業事業者へのヒアリングや資料から明らかになった現 在の結婚式の特徴とそれが表れている具体的な現象をまとめると表1 のようになる。 表1 現在の結婚式の4つの特徴とそれを表す現象 脱伝統性 コスト削減性 親密性 ・結婚式にかける金 ・結婚式の演出でアッ ・キリスト教式 トホームを求める ・仲人(媒酌人)を立てな 額の減少 ・憧れよりもお金を ・少人数の招待客 具 い ・形式上の招待客の排 体 ・招待状・当日の表記を 重視 ・お金をかける部分 除 的 本人の名前で な ・親の関わり方の希薄化 かけない部分の差別 ・お色直しの回数の減 少 現 ・結婚式までの日数の短 化 ・流しテーブルでな 象 縮 く、ちらしテーブル ・金屏風・高砂の除去 ファッション性 ・めまぐるしい流行 の変化 ・本格(本物)志向(教 会・神社・ケーキ・花) ・衣装・メイク・写真 へのこだわりの増加 ゼクシィのアンケート調査(2003)によると、結婚式をあげた人の 73.1%が「アットホームなムードになること」を心がけたとしている。 このことからも、これらの特徴の土台には「アットホームなムード」へ の志向があると考えられる。ただしより詳しくみるとそれは、結婚式の 規模と招待者の種類という二つの要因で構成されており、比較的小規模 かつ安上がりで(以下「地味志向」と呼ぶ)、気の知れた親しい友人を 多く呼ぶ(以下「プライベート志向」と呼ぶ)ことで「アットホームウ ェディング」が成立すると考えられる。 3 アットホームウェディングの構造 本章では、横浜市民意識調査のデータに基づき、「アットホームウェ ディング」ととくに妻の結婚観・家族観との関連に焦点をあてて分析を 試みる。そのさい、「アットホーム」の構成要素としての地味志向とプ ライベート志向の測定指標として、それぞれ結婚式の費用と全招待者に おける友人比率を設定する。 3-1 調査結果の概要 図2 招待者の種類(%) 図1 結婚式の費用(%) [%] [%] 80.0 35.0 70.0 30.0 60.0 25.0 50.0 20.0 40.0 30.0 15.0 20.0 10.0 10.0 5.0 0.0 0 0.0 ∼100 100∼200 200∼300 300∼400 400∼500 結婚式費用[万円] 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 内訳比率[%] 500∼ 親族 友人 仕事関係 その他 まず、結婚式の費用については、200∼300 万円台の人が最も多く、 また当然のことながらそれは招待人数に比例する。また、招待者に占め る友人の比率は 30%台の人が最も多いが、招待人数と招待者の種類の 2 現代までの結婚式の状況 2-1 結婚式の歴史的変遷 まず、日本の結婚式の歴史的変遷を辿ってみる。戦後以降の日本の結 婚式の流れを見てみると、次のように大きく分けられる。 関係をみると、最優先される招待者は親族であり、その次に 50∼100 人程度の結婚式では友人が多くなり、大人数になると仕事関係の割合が 多くなることがわかる。また、近年になるほど規模が縮小し、仕事関係 者の比率が減少し、友人の比率が多くなっていることが分かった。 それでは実際のところ、妻はどのようなところに特にこだわるのだ 3-2 結婚式の形態と社会経済的要因、結婚観・家族観要因の関連 配偶者の選択要因から主成分分析を行うと、女性の結婚観因子には ろうか。ヒアリングの結果、「雰囲気にこだわって建物はゲストハウス 「地位志向」「平等志向」「親志向」「性格志向」の4つの因子がある にした。花や音楽にもこだわった」(B さん)、「自分たちを紹介するパ ことがわかった。また、配偶者との関係と結婚や子育てのあり方に対す ンフレットを手作りした」(A さん)、「招待客全員と話すことにこだわ る考え方から、家族観因子には「夫婦関係性志向」と「性役割志向」が った」(E さん)というように、多くの女性たちのこだわるポイントは、 あることがわかった。またこれらの結婚観と家族観には表2のような相 伝統的な結婚式のような家の格や社会的地位に直接的に関わるものは 関があった。 次に、地味志向とプライベート志向を 規定する構造的要因について分析した。 表2 結婚観・家族観の関連(相関係数) 夫婦関係性 性役割志向 地位志向 0.026 0.226 平等志向 0.157 -0.108 親志向 0.173 0.159 性格志向 0.481 -0.015 まったくなく、むしろいかにそれを排除して「アットホームな雰囲気」 表3 結婚式形態に関する 重回帰分析(標準偏回帰係数) プライベー 地味志向 (−[結婚式 ト志向 (+ [友人比率]) 費用]) 社会的属性 妻学歴 0.002 0.159 夫学歴 -0.152 0.109 夫収入 -0.187 0.076 挙式要因 結婚式費用 -------0.097 友人比率 -0.064 -------妻の配偶者選択要因 地位志向 -0.137 0.108 平等志向 0.092 0.069 親志向 -0.282 -0.014 性格志向 -0.020 0.141 Adj. R2 0.192 0.045 ベート志向という二つのベクトルで構成されているが、前者は主として 向や親志向が「派手志向」(地味志向の 反対)を強めること、妻の学歴が高いこ とおよび妻の夫に対する性格志向が「プ ライベート志向」を強めることが分かっ た。さらに表4に示した分析により、夫 が高学歴・高収入である妻は夫に対する 地位志向が強く、また高学歴の妻は夫に 対する性格志向が強くかつ結婚式の友人 網掛けはステップワイズ法で選択された変数 5%有意 から、結婚式が 地味であるか どうかは、主と して夫の社会 的地位とそれ に対する妻の 志向によって 決まり、高学 表4 妻の結婚観・家族観に関する重回帰分析(標準偏回帰係数) 地位志向 平等志向 親志向 性格志向 夫婦関係性 性役割志向 社会的属性 妻年齢 -0.040 0.000 -0.135 -0.139 -0.066 -0.039 -0.071 -0.006 0.018 -0.060 -0.202 -0.152 夫年齢 結婚年齢 -0.054 -0.014 0.002 0.044 0.109 -0.048 妻学歴 0.058 0.183 -0.082 0.126 0.069 -0.116 夫学歴 0.254 -0.142 -0.051 0.038 -0.010 0.042 夫職業威信 -0.017 0.054 -0.081 0.037 0.010 -0.071 夫収入 0.197 0.059 -0.020 -0.063 0.011 0.011 妻常勤 -0.099 -0.093 -0.054 0.070 0.111 -0.146 0.001 -0.001 0.019 -0.039 -0.081 -0.112 妻パート 妻無職 -0.082 0.066 -0.071 0.009 -0.041 0.134 結婚式要因 結婚式費用 0.105 -0.103 0.291 -0.004 0.159 0.171 0.095 0.096 -0.068 0.126 0.131 0.042 友人比率 Adj. R2 0.132 0.043 0.090 0.049 0.073 網掛けはステップワイズ法で選択された変数 5%有意 歴・高収入(志向)であると派手 になる傾向がある。また、結婚式 がプライベート志向となるかど うかは主として妻の要因で決ま 夫側の属性に左右され、後者は主として妻側の属性に左右される。それ らは、それぞれ結婚式の「地位」の表象機能と「家庭生活」の表象機能 と関連していると考えられる。しかし実際には、現在の結婚式のあり方 は妻の意向が強く反映されており、その妻の意向はアットホームな雰囲 気の演出に集中しており、その結果として地位に直接関連する表象は表 面的に排除されている。 ところが、そうしたアットホームな雰囲気の演出にこだわるのは高 学歴な女性であり、ゆえにむしろ比較的社会経済的地位の高い夫婦であ る。したがってそこには、(彼女たちが必ずしも自覚せずに)「地位を 比率も高いことが分かった。 以上のこと 4-2 高学歴女性の潜在的ステータスとしての「アットホーム」 「アットホームウェディング」は地味(小規模)志向およびプライ 表3に示した分析より、夫の学歴や収入 が高いことおよび妻の夫に対する地位志 にするか、ということであった。 図3 派手志向の要因 ・夫の学歴や収入 ・妻の学歴 ・夫に対する性格志向 ・夫の属性 ームウェディング」は高学歴女性の望む理想的な結婚観・家族観を反映 しているが、それを結婚式で強調して演出することでそれを実現しうる 自負を表象しているといえるかもしれない。 プライベート志向の要因 ・夫に対する地位志向 り、高学歴で、配偶者の性格や家 表象しないがゆえに表象する」という逆説的な構図がある。「アットホ 図 4 アットホームウェディングの構造 や家族関係の重視 ・妻の属性 族関係性を重視する妻ほどプラ イベート志向が強いようである。 5 結論 5-1 結論 本研究をまとめると以下のようになる。 ・ 現在の結婚式で増加している形態は「アットホームウェディング」 4 アットホームウェディングと意志決定過程 本章は、結婚式の決定に関する過程などを夫婦のヒアリング調査から 分析し、誰の意見がどのように反映されているのかを明らかにする。 4-1 結婚式についての夫婦のイニシアティブ ヒアリング調査を行ったのは、夫婦7組(A さん∼G さん)と女性2 人(H,I さん)である。 まず、結婚式に関わる様々な決定段階において、ほとんどの夫婦は自 分たちがイニシアティブをとっており、かつてのように親の意向が支配 するようなことはない。また、夫婦は全体として話しあいで結婚式の形 態を決めているが、大まかに、以下のように分類できた。 ①夫の方がイニシアティブをもつタイプ(E さん) 全般的に夫が決定する(ただし妻は拒否権をもっていた) であり、その特徴は大まかに地味(小規模・安価)であること、親 しい友人を中心としたプライベートな雰囲気であること、の2つの 要因から構成される。 ・ 結婚式が地味か派手かは、主として夫の社会経済的要因(収入・学 歴)およびそれに対する妻の地位志向的な結婚観により規定される 傾向がある。また結婚式がプライベート志向になるかどうかは、主 として妻の社会経済的要因(学歴)と夫婦の親密性を重視する妻の 結婚観・家族観に規定される傾向がある。 ・ 結婚式の形態を決める意志決定過程では、全体として妻の意向が反 映されやすくなっている。 ・ 結果として現在の結婚式の形態は、妻が高学歴である場合妻のプラ イベート志向やアットホームな演出が強調される構図になっている。 ②妻の方がイニシアティブをもつタイプ(C さん) 全般的に妻が決定する ③夫婦で相談して決定するタイプ a 主に妻が選択肢を持ち出してきて、それについて二人で相談の うえ決定するするタイプ(A,D,F,G,H さん) なお本論文では、首都圏の結婚式を対象にしたが、他の地方との比 較・考察をしていく必要がある。 【参考文献】 1)リクルート(2003)「ゼクシィ 結婚トレンド調査 2003 ブライダルマーケット編 首都圏」 b それぞれ選択肢を持ち出すが決定権は妻にあるタイプ(B,I さん) 2)片岡千恵子(1990)「社会的交換の観点からみた日本の結婚披露宴のメカニズム」家政学研究 ③のタイプでも夫に「結婚式は新婦のためのもの」という意識があっ 3)志田基与師(1991)「平成結婚式縁起 いまどきウェディングじじょう」日本経済新聞社 他 たりするなど、全体として妻の意向が反映されやすい構造がある。