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九州の製造業における海外各地域への依存度について
2016 年 4 月 14 日 日本銀行福岡支店 Bank of Japan Fukuoka Branch 金融経済トピックス 九州の製造業における海外各地域への依存度について 本資料は当店ホームページに掲載しています <内容に関するお問い合わせ先> http://www3.boj.or.jp/fukuoka/ 日本銀行福岡支店営業課 Tel:092-725-5513 本稿における九州とは、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県の 8 県を基本的に指すが、本稿中で使用している「鉱工業生産指数」及び「地域間産業連関表」における九 州には沖縄県は含まれていない。 本稿の作成にあたっては、日本銀行九州・沖縄各支店及び調査統計局経済調査課経済分析グループの 協力を頂戴した。 (概要) ○ 2015 年の九州の生産は、全国に比べ高い水準を維持した(1. )。一方、貿易統計など によれば、九州は全国の中でも輸出への依存度が高く、アジア向け輸出が多い(2.) 。2015 年は米国の景気回復とアジア経済の減速が目立った年であり、こうした中で九州の生産が なぜ好調だったのかを整理した1。 ○ 九州で生産された製品が他の地域から輸出されるケースや、アジア向け部品輸出が米 国・欧州向け製品輸出に回るケースもあり、九州の製造業は、貿易統計の計数以上に米国・ 欧州への依存度が大きい(それでもアジアへの依存度は全国より大きい)との整理が可能 (3.、4. )。 1.2015 年における九州の生産動向 ○ 2015 年における九州の鉱工業生産(以下、生産)をみると、年前半は輸出の増加に支 えられる形で持ち直しの動きが続き、夏場以降は中国等の新興国経済減速の影響等がみら れたものの、比較的高めの水準を維持しつつ横ばい圏内で推移した。鉱工業生産指数(以 下、IIP)の動向を全国と比べると、2014 年秋頃から九州 IIP は全国 IIP を上回る改善を 示しており、2015 年中は一貫して九州 IIP が全国 IIP を上回って推移した(図表 1)。 ○ 業種別にみると、輸送機械工業、電子部品・デバイス工業、はん用・生産用・業務用機 械工業といった当地主力の加工業種の生産増加がプラスに寄与している(図表 2)。 〇 これらの主力業種が好調であった要因としては、輸送機械工業では米国自動車市場の活 況や新型車投入効果(主に米国・欧州向け車種)、電子部品・デバイス工業やはん用・生 産用・業務用機械工業では世界的に高水準の半導体需要が続いていることなどが挙げられ、 主として「海外需要」が 2015 年中の堅調な生産を支えた。 ―― 新興国経済の減速の影響は、夏場以降に電子部品・デバイス工業、化学・石油石炭 製品工業、鉄鋼業等の複数の業種でみられたが、生産全体を大きく押し下げるほどの 影響はみられなかった。 ―― 国内需要は、春先に軽自動車等で落ち込みがみられた後、秋口以降持ち直しに転じ て海外需要の鈍化を下支えしたが、前年比では大きな動きはなかった。 1 本稿は九州全体の輸出・生産動向を分析対象にしており、九州内でも各地域によって状況は異なる。例 えば、大分県における最近の輸出・生産が新興国経済の減速により大きく落ち込んだ背景については、 日本銀行大分支店「アジア新興国経済の動向が大分県経済に及ぼす影響~現状と今後の展望・課題~」 (2016 年 4 月 12 日公表)参照。 1 2.九州製造業の海外依存度 (1)九州製造業の輸出比率の高さとアジア向け輸出の多さ 〇 上述のとおり 2015 年の九州生産を牽引したのは海外需要であるが、もともと九州の製 造業にとって海外需要(輸出)は大きなウエイトを占める。地域間産業連関表(2005 年) から九州製造業の各需要項目への依存度を推計すると、輸出2(40%)への依存度は全国 (34%)よりも大きい。業種別には、主力である電気機械3(73%)や輸送機械(65%) で特に大きくなっている(図表 3)。 〇 貿易統計を用いて九州からの輸出(2015 年)を国・地域別にみると、アジアに近いだ けに、米国向け(11.3%)やユーロエリア向け(6.6%)に比べてアジア向け(57.5%) がかなり大きく、全国のアジア向け(50.6%)を上回る(図表 4)。 (2)海外経済動向と地域別輸出動向 〇 2015 年は、米国等の先進国経済では緩やかな成長・回復が続いた一方、中国や ASEAN5 といったアジアの経済は減速感がみられた(図表 5)。 〇 アジア向け輸出が多いにもかかわらず、米国等の経済堅調、アジア経済減速の中で、九 州の生産が海外向けを中心に高水準で推移したのは、①統計以上に米国等向け輸出が多い、 ②アジアに輸出する製品の最終需要地は米国等、といった事情があるためと思われる。こ うした点につき、以下のとおり企業への聞き取り調査と統計学的手法の両面から整理した。 3.生産地と輸出地、輸出先と最終需要地の相違 (1)「生産地」と「輸出地」の違い 〇 まず、統計上の問題として、貿易統計は、「九州 8 県から輸出された財」が計上されて おり、「九州 8 県の製造業が生産して輸出に回った財」との間にズレが生じる(図表 6)。 ―― 当店が毎月公表している「九州・沖縄の金融経済概況」では、需要動向としての輸 出について判断しているが、参考計表には貿易統計における「九州経済圏(=九州 8 県+山口県)からの輸出額」を掲載している。両者の相違点については BOX1参照。 〇 具体的には、輸送機械工業やはん用・生産用・業務用機械工業等では、①米国・欧州向 けの製品を九州外に集約して輸出したり、②アジア向けの製品については全国の生産分を 2 地域間産業連関表における輸出には、九州から直接あるいは国内他地域を経由して輸出される財に加え、 輸出される財に投入される中間財も含むため、輸出への間接的な依存度も含まれている。 3 地域間産業連関表における電気機械には、電子部品・デバイスのほか産業用電気機械等が含まれる。 2 九州に集約して輸出している例が見受けられる(図表 7)。 ── ②に該当する企業では、九州を、アジアとの物理的距離の近さ・交通の便の良さ(例 えば福岡空港からアジア諸国への便数が多くて便利という声がある)からアジア向け 輸出拠点と位置付けているものと思われる。 〇 上記①、②の動きは、貿易統計における輸出のアジア向け割合を押し上げ、米国・欧州 向け割合を押し下げるため、九州の生産のアジア経済への依存度は貿易統計ほど大きくは ないと考えられる。 (2)製品の「輸出先」と「最終需要地」の違い 〇 アジアが「世界の工場」の役割を果たす中で、アジア向け部品輸出が米国・欧州向け製 品輸出に回れば、九州の製造業は間接的に米国・欧州経済の影響を受けることとなる。 〇 当地輸出製造業のうち、電子部品・デバイス工業やはん用・生産用・業務用機械工業の いくつかの企業・製品については、「製品の輸出先はアジアだが、その製品がアジアで加 工(またはその製品を使用して最終製品が製造)された後、米国・欧州を最終需要地とし て輸出される」 (図表 8)。例えば、2015 年のアジア向け輸出をみても、高価格スマートフ ォン関連の生産は先進国での需要に支えられて比較的好調に推移した。このような企業・ 製品では、アジア経済の先にある先進国経済への潜在的な依存度が大きいと考えられる4。 (3)ヒアリング情報を踏まえた九州製造業と海外経済との関係 〇 このように、従来みている九州から海外各地に直接輸出するケースに加えて、 (1)九州 で生産し九州外を経由して輸出するケース、 (2)九州からの輸出先とは別の最終需要地が あるケース、を勘案すると、九州の主力産業である輸送機械工業、電子部品・デバイス工 業、はん用・生産用・業務用機械工業は、米国・欧州経済の影響を受けやすいといえる。 4.海外各地域への依存度 〇 このように、九州の製造業は貿易統計の計数よりもアジア依存度が低く、米国・欧州依 存度が高いが、その点に関し、時系列分析の手法を用いて試算を行った。具体的には、米 国、アジア、ユーロエリアの IIP の変動に対して九州 IIP が過去にどのような動きをして きたのかを分析した(詳細な説明は BOX2 参照)。その結果、(a)短期的には米国の影響が、 中長期的には米国に加えユーロエリアの影響も相応に大きい、(b)アジアの影響は、全国 より早く九州に及び、最終的な影響も全国より大きい、ということが分かった。 4 全国におけるアジア向け輸出と最終需要地の関係は、日本銀行調査統計局経済点描「東アジア向け輸出はな ぜ伸びる」(2004 年 2 月)等で詳しく検証されている。 3 短期的な影響として、九州の生産と海外各地域経済(IIP)の先行・遅行関係5をみると、 ① 「米国、アジア、ユーロエリアの全てが九州に先行」 、 「米国がアジアに先行、アジアが九 州に先行」という関係が看取でき、海外経済からの影響を推測できる(図表 9)。 ② 短期的な影響として、海外各地域の IIP にショックを与えてから 1 年以内の九州 IIP の反応を推定6したところ、当初はアジアのショックの影響が大きくみられるものの、4 か月を境に米国の影響がアジアを上回るという結果が得られた(図表 10)。 ―― 全国と比較すると、アジアのショックに対して九州は全国より短期に強く反応する。 ③ 中長期的な影響として、海外各地域の IIP が 5 年間に九州の IIP へ与える影響7の大き さを推計したところ、米国:19.4%、ユーロエリア:16.3%、アジア:15.9%となり、貿 易統計における輸出額の国・地域別シェア(前掲図表 4)が示す以上に、米国およびユー ロエリアの九州の生産に与える影響が大きい可能性が示唆される(図表 11)。 ―― 全国(米国:19.0%、アジア:14.2%、ユーロエリア:14.1%)と比較すると、九 州はアジア、ユーロエリアへの依存度が全国を大きく上回っている。 5.まとめ ○ 九州の生産は、生産地と輸出地のズレにより貿易統計以上に米国・欧州向け輸出が多い ほか、 「九州→アジア→米国」という財の流れから、米国経済の影響を大きく受ける。但 し、アジアへの依存度が全国よりも高いことに変わりはない。 ○ 2015 年の九州の生産は、九州外の地域を経由したケースを含めた輸送機械工業やはん 用・生産用・業務用機械工業各社の米国向け輸出や、最終需要地を米国・欧州とする電子 部品・デバイス工業やはん用・生産用・業務用機械工業各社のアジア向け輸出に支えられ て、全国を上回る水準で推移したものと考えられる。 ○ 海外各地域の経済動向が九州の生産に与える影響は常に変化すると考えられ、今後とも 様々な手法を活用して分析していく所存である。 以 上 5 ここで、「A 国 IIP が B 国 IIP に先行する」というのは、「A 国 IIP の変動により B 国 IIP の変動を予測 することができる」ことを意味する。厳密な説明は BOX2「①Granger 因果性テスト」を参照。 6 7 厳密な説明は BOX2「②インパルス応答推定」を参照。 ここでいう影響とは、直接的な影響のほか、海外他地域を経由する影響も含む。すなわち、当該値は、 影響が「米国→アジア→九州」と伝搬した場合でも、全て「米国の影響」としてカウントされる。また、 国内他地域経由の影響、インバウンド消費の動向や、海外経済の動向が国内の消費者や企業のマインド 面に影響を与え、国内消費や国内投資が活発化・抑制化される影響等、その他全ての間接的な影響を含 む。厳密な説明は BOX2「③予測誤差の分散分解」を参照。 4 (図表 1)九州・全国の鉱工業生産指数(季節調整済、2010 年=100) 108 104 100 96 九州 全国 92 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 (月) 2013 2014 2015 (資料)九州経済産業局「鉱工業指数」 、経済産業省「鉱工業指数」 (図表 2)九州の鉱工業生産指数の推移(業種別寄与度分解、前年比) 6% 4% 2% 0% 輸送機械工業 電子部品・デバイス工業 はん用・生産用・業務用機械工業 食料品工業 素材業種 その他 鉱工業 ▲2% ▲4% ▲6% 11 12 13 14 15 (年) (参考)業種別構成比 その他, 18.8% 輸送機械工業, 24.5% 素材業種, 23.6% 食料品工業, 9.6% 電子部品・デバ イス工業, 12.3% はん用・生産 用・業務用機械 工業, 11.2% (注) 「素材業種」は、鉄鋼業、非鉄金属工業、 窯業・土石製品工業、化学・石油石炭製品工業、 パルプ・紙・紙加工品工業、繊維工業の合計。 (資料)九州経済産業局「鉱工業指数」 5 (図表 3)九州製造業の各需要項目への依存度(2005 年) (参考:全国) 100% 100% 80% 80% 60% 60% 40% 40% 73 65 58 56 43 20% 35 31 28 40 23 23 23 18 15 製造業計 公的総固定資本形成 (公共投資) 34 製造業計 2 飲食料品 8 製材・ 木製品・ 家具 金属製品 民間総固定資本形成 (設備投資、住宅投資) パルプ・ 紙・ 板紙・ 加工 紙 繊維製品 窯業・ 土石製品 精密機械 石油・ 石炭製品 その他の製造工業製品 民間消費支出 (個人消費) プラスチック製品 化学製品 一般機械 輸出 鉄鋼製品 非鉄金属製品 輸送機械 電気機械 0% 41 20% 0% その他 (注)産業連関表における最終需要項目別生産誘発依存度と同義。ここでいう輸出には、九州から直接あるい は国内他地域を経由して輸出される財に加え、輸出される財に投入される中間財も含む。 (資料)経済産業省「平成 17 年 地域間産業連関表」 (図表 4)九州・沖縄からの輸出額に占める地域別のシェア(2015 年) (九州・沖縄) (参考:全国) その他 21.5% その他 24.5% ユーロエ リア 6.6% ユーロエ リア 7.8% アジア 57.5% 米国 11.3% アジア 50.6% 米国 20.1% (注) 「貿易統計」より当店独自に計算。後掲図表 9~11 と比較を行うため、アジアに含まれる国は次のとお りとした。 中華人民共和国、香港、インド、インドネシア、大韓民国、マレーシア、パキスタン、フィリピン、 シンガポール、台湾、タイ (資料)財務省「貿易統計」 6 (図表 5)海外各地域の実質 GDP 成長率の推移 (米国) 4% (ユーロエリア) 4% 成長率 3% 過去10年の平均成長率 3% 成長率 過去10年の平均成長率 2% 2% 1% 1% 0% 0% ▲1% ▲2% ▲1% ▲3% ▲2% ▲4% ▲5% ▲3% 06 07 08 09 10 11 12 13 14 06 15 07 08 09 10 11 12 13 14 (年) (年) (中国) (ASEAN5) 8% 15% 成長率 成長率 14% 15 過去10年の平均成長率 過去10年の平均成長率 7% 13% 12% 6% 11% 5% 10% 4% 9% 8% 3% 7% 6% 2% 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 06 07 08 09 10 11 12 (年) 13 14 15 (年) (注)ASEAN5 は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムの5国を指す。 (資料)IMF「World Economic Outlook Database, April 2016」 7 (図表 6)需要動向としての輸出と貿易統計上の輸出の違い 九州8県の製造業が生産 して輸出に回った財 九州8県から輸出された財 (貿易統計上の九州8県からの輸出) 全国 他地域 九州8県の 製造業 全国 他地域 の製造業 九州8県 (図表 7)生産地と輸出地が異なる事例 企業 ヒアリング情報 (業種) 企業 A (輸送機械工業) 企業 B (はん用・生産用 ・業務用機械工業) 米国・欧州向けの製品は国内他拠点を通じて輸出している一方、中国向け については国内他拠点での生産分も含めて全て九州から輸出している。 アジアなど近隣国については九州から、米国向けなどについては関東から まとめて出荷している。九州はアジアへの便数が多く、関東は米国への便 数が多いことからこのような措置をとっている。 生産物は、北米や南米、アジア諸国など世界各国へ出荷されるが、北米や 企業 C 南米向けは主に関西から、アジア諸国向けは主に九州から出荷している。 (化学・石油石炭工業) これは、当地の港から諸外国への直行の船便が少ないため。 主に欧米の半導体関連メーカーが主要な取引先であるが、取引先からの短 企業 D 納期要求に応えるため、大半の製品は関東、一部は九州から空路で輸出を (窯業・土石製品工業) 行っている。 企業 E (食料品工業) 企業 F (食料品工業) 生産した製品は、九州の冷凍保管施設に運搬されたのち、海路の場合は関 西から、空路の場合は関東から、主に米国向けに輸出される。 海外向け製品の多くは、販売網を確立している九州圏外の業者を経由して 米国・欧州に輸出される。 (資料)日本銀行九州・沖縄各支店によるヒアリング情報 8 (図表 8)輸出先と最終需要地が異なる事例 業種 主な輸出先 関連製品の主な最終需要地 輸送機械工業 各社 北米 欧州 アジア 中東 電子部品・デバイス工業 各社 アジア 南米 北米 アジア 南米 北米 欧州 アジア 中東 北米 欧州 アジア ・その他新興国 北米 欧州 北米 欧州 アジア ・その他新興国 北米 北米 欧州 アジア 南米 北米 アジア 南米 アジア アジア 北米 欧州 はん用・生産用 ・業務用機械工業 各社 アジア ・その他新興国 北米 化学・石油石炭工業 各社 鉄鋼業 各社 窯業土石工業 各社 アジア (資料)日本銀行九州・沖縄各支店によるヒアリング情報 (図表 9)時系列分析から推定された、九州 IIP と海外各地域 IIP の先行・遅行関係8 ユーロエリアIIP 九州IIP 米国IIP アジアIIP (注)上図は 10%水準で有意との結果が得られた先行・遅行関係を図示したもの。例えば、米国 IIP から九 州 IIP への矢印は、米国 IIP が九州 IIP に先行して変動することを表し、「米国 IIP の変動により九州 IIP の 変動を予測することができる」ことを意味する。なお、米国 IIP とアジア IIP で双方向に矢印が存在するのは、 ある時期の米国 IIP の変化がその後のアジア IIP の変化を予測し、そのアジア IIP の変化がさらにその後の米 国 IIP の変化を予測することを意味する。厳密な説明は BOX2「①Granger 因果性テスト」を参照。 8 時系列分析に用いた九州、全国、海外各地域の IIP のデータ元は、九州経済産業局「鉱工業指数」 、経済産 業省「鉱工業指数」、CPB「CPB World Trade Monitor December 2015」 。アジアに含まれる国は、図表 4 と同じ。 以下、図表 10、図表 11 についても同様。 9 (図表10)時系列分析から推定された、海外各地域のIIP にショックを与えた場合の九州IIP の反応 104 米国IIPにショックを与えた場合 アジアIIPにショックを与えた場合 ユーロエリアIIPにショックを与えた場合 103 102 101 100 99 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 (ショックを与えてからの経過月数) (参考 1:全国 IIP の反応) 104 米国IIPにショックを与えた場合 アジアIIPにショックを与えた場合 103 ユーロエリアIIPにショックを与えた場合 102 101 100 99 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 (ショックを与えてからの経過月数) (参考 2:アジア IIP にショックを与えた場合の九州 IIP と全国 IIP の反応の比較<前月比>) 1.0% 九州IIPの反応 全国IIPの反応 0.5% 0.0% ▲0.5% 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 (ショックを与えてからの経過月数) (注)初期に 100 であった九州の IIP が、海外各地域の IIP にそれぞれ同程度(一標準偏差、正規分布での発 生確率約 32%)の頻度で発生すると想定されるショックを与えた場合に、どのように変動するのかをシミュ レーションしたもの。厳密な説明は BOX2「②インパルス応答推定」を参照。 各ショックの大きさは次の通り(一標準偏差を基準に決定) 。米国のショック:単月の変化率+0.60%、ア ジアのショック:同+0.82%、ユーロエリアのショック:同+0.77%。 10 (図表 11)時系列分析から推定された、海外各地域の IIP が 5 年間に九州の IIP へ与える影響 (九州) 九州の生産 19.4% 米国 16.3% ユーロエリア 15.9% アジア 48.5% 国内やその他の国・地域 (全国) 全国の生産 19.0% 米国 14.1% ユーロエリア 14.2% アジア 52.7% 国内やその他の国・地域 (注)矢印に付してある数字(%)は、海外各地域が九州、全国の生産に与える影響の割合を示す。ここでい う影響とは、直接的な影響のほか、他地域を経由する影響や輸出以外を経由する影響も含む。すなわち、当該 値は、影響が「米国→アジア→九州」と伝搬した場合でも、全て「米国の影響」としてカウントされる。また、 インバウンド消費の動向や、海外経済の動向が国内の消費者や企業のマインド面に影響を与え、国内消費や国 内投資が活発化・抑制化される影響など、その他の全ての間接的な影響を含む。厳密な説明は BOX2「③予測 誤差の分散分解」を参照。 四捨五入の関係で各割合の合計は 100%になっていない。 11 BOX1:需要動向としての輸出と貿易統計上の輸出 福岡支店公表の「九州・沖縄の金融経済概況」では、需要動向の一つとして輸出動向をコ メントしているが、その参考計表として、門司税関の公表している「九州経済圏からの輸出 額」を掲載している。同統計は「需要動向としての輸出」と以下のようなズレがあるため、 参照にあたっては留意が必要である(なお、本文では、財務省の公表している各港別データ をもとに「九州 8 県」の輸出計数を算出し直して利用している)。 ▽ イメージ図 九州経済圏からの輸出額:7.9兆円(2015年) (九州8県の港からの輸出額:6.0兆円、山口県の港からの輸出額:1.9兆円) ① 九州8県の港 九州経済圏 山口の港 ③ 山口県の 製造業 九州8県の 製造業 全国 他地域の港 ② 全国 他地域 の製造業 (資料)門司税関「九州経済圏の貿易(確定値)平成 27 年分」 (カバーする地域の相違) …上記イメージ図① 貿易統計の「九州経済圏」とは、九州 8 県に山口県を加えた 9 県。2015 年の九州経済圏 の輸出額 7.9 兆円のうち、山口県からの輸出額は 1.9 兆円と約 24%を占めている。 ―― 輸出額に占める地域別のシェアは、山口県を含む九州経済圏と九州 8 県(本文図表 4 参照)でほとんど変わらない。 (生産地と輸出地の相違) …上記イメージ図②③ 本文3. (1)で述べたとおり、 「九州で生産されて他地域から輸出される財(上記イメー ジ図②)」と「他地域で生産されて九州から輸出される財(同③)」の部分にズレが生じる。 ―― 両者のズレを統計的に捕捉するのは困難であり、本文でも製造業各社へのヒアリング 情報に基づく個別事例を紹介するのにとどめている。 12 BOX2:使用した時系列分析モデルと分析手法の解説 (モデルの説明) 本稿では、米国 IIP、ユーロエリア IIP、アジア IIP の動向に対して、九州 IIP がどのよ うに反応するのか(過去にどのような反応をしてきたのか)、ベクトル自己回帰(VAR)モデ ルを推定することで調べた。VAR モデルとは、複数の変数をそれらの過去の値で説明する回 帰分析モデルであり、変数間の時系列的な相互依存関係を、理論的な制約を課さずに分析し ようとするものである。 ―― n 個の変数の t 期における値を , ,…, , とすると、ラグ次数 p の VAR(p)モデ ルは、定数項と、変数セットに含まれるすべての変数の t-1 期から t-p 期までの値に回 帰したモデルであり、以下の式で表される。 , . . Σ ここで、 は n×1 定数ベクトルであり、Φ は n×n 係数行列である。また、 は平均ゼ ロ、分散共分散行列Σの撹乱項である。 (各種設定) 使用した変数は、本文記載の通り「九州 IIP、米国 IIP、アジア IIP、ユーロエリア IIP <月次、季節調整済データ>」である。また、九州と全国の比較を行う目的から、九州 IIP を全国 IIP に置き換えたモデルも推定した。 推計期間は、2003 年以降に九州の主力産業である自動車産業が大きく発展したことを踏 まえて、2003/1 月~2015/12 月とした。 ▽ 北部九州における自動車生産台数と全国シェアの推移 (出典)福岡県自動車産業振興室「北部九州自動車産業アジア先進拠点プロジェクト」資料 13 その他の諸条件は次のように設定した。過去どのくらい前までの変数を考慮すべきかを定 めるラグ次数については、「九州 IIP、全国 IIP は過去 1 年間の海外国・地域経済の影響を 受ける」という仮定の下、九州 IIP、全国 IIP の両モデルで一意に 12 とした。また、定数 項は有、トレンド項は無としたほか、使用データについては、変数の定常性の観点から、各 データについて自然対数の一階差をとったものを使用した(すなわち、2003/2 月~2015/12 月における各 IIP の前月比を使用した)。 (分析手法) VAR モデルの推計によって、様々な分析が可能になるが、本稿では①Granger 因果性テス ト、②インパルス応答推定、③予測誤差の分散分解と呼ばれる 3 つの分析を行った。 ①Granger 因果性テスト Granger 因果性テストは、理論に依らずデータのみから各変数間の時系列的な因果関係 (先行・遅行関係)を判定するもので、明確な理論モデルが存在しない変数間の関係を調べ たいときに便利である。具体的には、現在と過去の「米国 IIP を含む全変数」に基づいた九 州 IIP の将来予測と、 「米国 IIP を除いた変数」に基づいた九州 IIP の将来予測を比較して、 前者の誤差の方が十分に小さくなった場合、米国 IIP から九州 IIP への Granger 因果性が存 在する(米国 IIP は九州 IIP に先行する)とした。もっとも、Granger 因果性はあくまで先 行・遅行関係に過ぎず、一般の意味の因果性とは異なることに注意する必要がある。また、 Granger 因果性は定性的概念であるため、関係の大きさや影響が伝播する速度が測れないと いう問題がある。 「(図表 9)時系列分析から推定された、九州 IIP と海外各地域 IIP の先行・遅行関係」 は、この Granger 因果性テストの結果を示したものである。 ②インパルス応答推定 インパルス応答推定では、ある変数に発生したショック(インパルス)が、その変数やそ の他の変数に与える影響(応答)を分析する。具体的には、推定された VAR モデルにおいて、 米国 IIP、ユーロエリア IIP、アジア IIP の各変数にそれぞれ同程度(本稿では一標準偏差 分)の頻度で発生すると想定されるショックを与えた場合に、九州 IIP や全国 IIP がどのよ うに変動するのかをシミュレーションし、各地域におけるショックが九州 IIP や全国 IIP に与える影響の大きさなどを調べる。ここで、撹乱項はコレスキー分解によって分解し、要 求される変数の順序(再帰的構造の仮定)については、企業からのヒアリング情報及び Granger 因果性テストの結果を参考に、「米国 IIP→アジア IIP→ユーロエリア IIP→九州 IIP・全国 IIP」とした。 14 「 (図表 10)時系列分析から推定された、海外各地域の IIP にショックを与えた場合の九 州 IIP の反応」は、このインパルス応答推定におけるショックを与えてから 12 か月後まで のシミュレーション結果を示したものである。 ③予測誤差の分散分解 予測誤差の分散分解では、ある変数の予測誤差に対して、モデルに含まれる各ショックが どの程度寄与している(説明力をもつ)のかを割合として知ることができる。具体的には、 九州 IIP・全国 IIP に関するモデルの予測の平均 2 乗誤差のうち、各変数固有の撹乱項が寄 与している割合を計算した。ここでも再帰的構造の仮定が要求されるが、インパルス応答推 定と同様の順序を仮定した。 「 (図表 11)時系列分析から推定された、海外各地域の IIP が 5 年間に九州 IIP へ与える 影響」は、海外各地域が九州 IIP に与える長期的な影響度をみるため、この分散分解の 60 期先(5 年後)の結果を示したものである(分散分解の結果は再帰的構造の仮定の期間を除 いてほぼ一定だった)。 15