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蛋白質核酸酵素

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蛋白質核酸酵素
性域への多核NMRの応用三浦 洌・藤井
ラ ビ茂フ
ン酵 素 の 研 究は1932年,
Warburg
で に 半 世 紀 以 上 た って い る 。 以 来,
に よ る 旧 黄 色酵 素 の 発 見 に 始 ま るか ら, す
膨 大 な 数 の フ ラ ビ ン酵 素 が 知 られ る よ うに な ったが,
同 時 に, そ の 分 布 が 生 物 界 に 普 遍 で あ る こ と, 基 質 や 反 応 が き わ め て 広 範 囲 に及 ぶ こ と も
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わ か って き た 。フ ラ ビ ン とい う1つ の 分 子 種 が これ ほ ど 広 範 囲 の 反 応 を 触 媒 で き る の は 驚
異 で あ る 。 筆 者 らは, この 驚 異 の 中 味 を 探 ろ う と して き た 。 本 稿 で は,
て 多 核NMRを
は じめ に
安 定 同位 体 を 用 い
利 用 した 筆 者 ら の 最 近 の 研 究 を 紹 介 した い。
フ ラ ビン酵 素 群 は 生 物 界 に あ ま ね く 分 布
の 生物 が, 酸 化還 元過 程 に よ っ て エ ネ ル ギ ー を得 て生 命
し, 生 命 を 維 持す るた め の 中枢 的 な 役 割 を担 っ て い る。
を 維 持 して い る こ とを 考 え る と, フ ラ ピン酵 素 群 の 中枢
そ の機 能 は, 非 常 に 広 範 囲 に 及 び, ア ミノ酸, 糖 質, 脂
的 な 役 割 が 理 解 で き る。 ち な み に, フ ラビン とい うの は
質, 核 酸 の代 謝,
図1の
P450に
ミ トコ ン ド リア の 呼 吸鎖 電 子伝 達 系,
つ らな る電 子 伝 達 系, 光 合 成 電 子 伝 達 系 な どに
リボ フ ラ ビン の リビチ ル基 を除 い た縮 合 環 (7, 8-
ジ メチ ル イ ソア ロキ サ ジ ン) を もつ 分 子 の 総 称 名 で あ
る。
関 与 して い る こ とか ら も, 容 易 に そ の 広範 な 役割 を理 解
す る こ とが で き る。 ま た, 生 物発 光
や, 損 傷DNAの
光依存的修復の よ
うな光 に まつ わ る特 異 な 過 程 に ま で
フ ラビ ン酵 素 が か か わ って い る。 い
うま で も な く, フ ラ ビ ン酵 素 は, フ
ラ ビン分 子 種 を 補 酵 素 とす る酵 素 群
であ るが, フ ラ ビ ンに は, 酸 化 型,
還 元 型 が あ っ て (図1),
フ ラ ビン酵
素 は電 子 の授 受 を 伴 う酸 化 還 元 反 応
を触 媒 す る。 上 にあ げ た 反 応 過 程 か
ら判 断 す れ ば, フ ラ ビン 酵 素 群 は 生
体 内 のほ とん どす べ て の 酸 化 還 元 過
程 に, 直 接 的 また は 間 接 的 に 関 与 し
て い る とい って もけ っ して い いす ぎ
図1.
リボ フ ラ ビ ン, FMN,
FADの
構造
FADはAMP部
分 ま で 含 ん だ 全 体 の構 造 。
で は な い 。 高 等 動 物 を 含 め, す べ て
Retsu
Miura,
Shigeru
Fujii,
関西 医科 大 学 化 学 教 窒
The Application of Multinuclear NMR to the
Key【フ
word
ラ ビ ン酵 素 】 【多核NMR】
Active
【安 定 同 位 体】
(〒573
Sites
枚 方 市 宇 山 東 町18-89)
of Flavoenzymes
[Laboratory
of
Chemistry,
Kansai
22
蛋 白 質
核 酸
酵 素
フ ラ ビン酵 素 群 の 広範 な 役 割 の別 の 見方 をす れ ば, フ
5
No. 5
(1990)
て い る^<2,3)>。
ニ ワ ト リの 輸卵 管RNAか
ら 得 られ たc-
ラ ビン酵 素 に よっ て 触 媒 さ れ る酸 化 還 元 反応 の様 式 は,
DNAの
塩 基配 列 も 最 近 明 らか に され て い る^<4)>。
同様 の
基 質 ・反 応 の型 の い ず れ に お い て も他 の どの補 酵 素 よ り
RBPは
妊 娠 中 の哺 乳 動 物 の 血 漿 中 に も 見 い だ さ れ て い
も多 岐 ・多様 に わ た って い る とい うこ とが で き る。 こ の
る^<5)>。
これ ら のRBPの
うち, ニ ワ ト リ卵 白 のRBPは
物
こ とは, フ ラ ビ ン補 酵 素 が 並 は ず れ た潜 在 的 触媒 能 力 を
理 化 学 的 研 究 の も っ とも 進 ん でい る も ので あ る。 卵 白
備 え て い る こ と にほ か な らず, フ ラ ビ ン分 子 は補 酵 素 と
RBPに
お け る リボ フ ラ ビン の 結 合 は 強 く, フ ラビン-蛋
して のす ぐれ た 必 要 条 件 を 満 た して い る。 この 並 はず れ
白 質 相互 作 用 の モ デ ル系 と して しば しば 扱 わ れ て きた 。
た 潜 在 的 触 媒 能 力 は, フ ラ ビ ン分 子 そ の も のの 複 雑 な構
RBPは
造 (図1)
蛋 白 質 と よぶ べ き で あ る。 す なわ ち, RBP中
に 由来 す るわ け であ るが, フ ラ ピ ンに は 図1
に示 す 酸 化 状 態,
2電 子 還 元 状 態 以 外 に, 1電 子 還 元 状
態 (セ ミキ ノン 型 フ ラ ビン) も可 能 であ るた め,
1電 子
酸 化 還 元 過 程 に も 参 加 す る こ と が で き る。 ま た,
型,
1電 子 還 元 型,
い電 荷 移 動 (charge
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Vol.
酸化
2電 子 還 元 型 の いず れ に も 属 さな
transfer) 状 態 が フ ラ ビ ン酵 素 反 応
フ ラ ビン酵 素 と して の 役 割 を もたず,
フ ラ ビン
のフラビ
ンに は触 媒 活 性 が な く, フ ラビ ンの触 媒 能 力 はす べ て 抑
え られ て い る とい う 意 味 で, RBPは
フ ラビ ン酵 素 の い
わ ば, “対 照” とみ なす こ とも で き る。
8-フ ル オ ロ-8-デ メチ ル リボ フ ラ ビン (8F-リ
ビ ン) は, Kasai
ボ フ ラ
らに よっ て台 成 され た リボ フ ラ ビ ン の
に しぼ しば み られ る。 こ の よ うな複 雑 な酸 化 還 元 系 も フ
フ ッ素 化 誘 導 体 で,
ラ ビン 補 酵 素 の広 範 な潜 在 的 触 媒 能 力 の一 因 とな って い
ッ素 に お きか え た もの で あ る^<6)>。
こ の化 合 物 は,
リボ フ ラ ビン の8位 の メ チ ル基 を フ
る。 個 々 の フ ラ ビ ン酵 素 で は, こ の潜 在 的 触 媒 能 力 が 巧
ン酵 素 (蛋 白質) の 活 性 域 ア ミノ酸 残 基 を検 索 す るた め
フ ラビ
妙 に制 御 され た り, 促 進 され た り して調 節 を受 け, そ れ
の試 薬 と して の 性 質 を も って い るが^<6)>,
こ こ で は, ^<19>F-
ぞ れ の基 質 特 異 性, 反 応 特 異 性 が発 現 され て い る。 筆 者
NMRを
ら は, フ ラビ ン分 子 の潜 在 的 触 媒 能 力 (反応 性) が, フ
した 例^<7)>を
紹 介す る。
ラ ビン 分 子 種 を め ぐる分 子 間 相 互 作 用 を介 して調 節 され
ア ポ卵 白RBP-8F-リ
ボ フ ラ ビ ン複 台 体 に適 応
8F-リ ボ フ ラ ビン-ア ポRBP複
合 体 の^<19>F-NMRで
る と い う観 点 に た っ て, 機 能 を異 にす る い くつ か の フ ラ
は, 8F-リ ボ フ ラビ ン 由来 の信 号 は中 性pHで
ビ ン酵 素 (蛋 白質) につ い て研 究 を進 め て きた 。
もの に 比 べ て 低 磁 場 側 に シ フ トした 幅 広 い ピー ク と して
生 体 内 にお け る フ ラ ビ ン分 子 種 の存 在 様 式 は,
ラ ビ ン, FMN
は遊 離 の
リボ フ
(フ ラ ビン モ ノヌ ク レオ チ ド), FAD
(フ
ラ ビン ア デ ニン ジ ヌ ク レオ チ ド) で あ る (図1)。 この う
ち, 補 酵 素 とな るの はFMN,
FADだ
け であ り, リボ フ
ラ ビン は 補 酵 素 とは な ら な い。 本 稿 で は,
, FMN,
FADを
リボ フ ラビン
そ れ ぞ れ 補 酵 素 (また は補 因子) と
す る, リボ フ ラ ビン結 合 蛋 白質, 旧 黄 色 酵 素, D-ア ミノ
酸 酸 化 酵 素 を と りあ げ, フ ラ ビンを め ぐる分 子 間 相 互 作
用 につ いて, 多 核NMR分
光 法 を 利 用 した 筆 者 ら の最
近 の研 究 を 紹 介 した い。
1.
リボ フ ラ ビ ン結 合 蛋 白 質
リボ フ ラ ビ ン 結 合 蛋 白 質
in ;RBP)
は,
(riboflavin
リ ボ フ ラビン
り, 貯 蔵 した り す る 役 割 を も ち,
白,
卵 黄,
れ ら3種
11ま
826
Prote
を 輸 送 した
ニ ワ ト リRBPは
卵
卵 を 産 む ニ ワ ト リ の 血 漿 中 に み ら れ る^<1)>。
こ
類 のRBPの
血 漿RBPは
一方 ,
binding
(ビ タ ミ ンB_2)
ア ミ ノ酸 配 列 か ら, 卵 白RBPと
同 一 蛋 白 質 で219個
の ア ミ ノ酸 か ら な り,
図2.
卵 黄RBPは
た は13残
卵 白RBPの
カル ボ キ シル 末端 の
基 が 欠落 した蛋 白質 で あ る こ とがわ か っ
8F-リ
(a) 遊 離8F-リ
ラ ビン。
ボ フ ラ ビ ンの^<19>F信号 のpH滴
ボ フ ラ ビン, (b)
RBP結
定 曲 線^<7)>
合8F-リ
ボフ
フラビン酵素活性域へ の多核NMRの
図3.
8F-リ
ボ フ ラ ビン-RBPの
観 測 され る。 こ の信 号 のpH依
結 合 定 数 のpH依
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こ のPKaは8F-リ
23
存 性^<7)>
存 性 調 べ た と ころ, 図2
に示 す 結 果 が 得 られ た 。 遊 離 の8F-リ
定 曲線 は, 9.6付 近 にpKaを
応用
ボ フ ラビン の 滴
示 す 単 純 な 曲線 で あ る。
ボ フ ラ ビ ンのN
(3)-Hに
よるもの
で あ る が, 8位 の^<19>Fの信号 が, 遠 く離 れ た3位 の イ オ
ン化 状 態 に こ の よ うに敏 感 であ る こ とは注 目に値 す る。
フ ラ ビン の ウ ラ シ ル部 分 は, フ ラ ビ ン酵 素 にお いて, 蛋
白 質,
リガ ン ドと水 素 結 合 を介 して 相 互 作 用 す る部 位 で
あ る。 こ の部 位 の電 子 的 な変 化 が8位
の電 子 的 変 化 と し
て伝 え られ る事 実 は, フ ラ ビン 酵 素 中 の8位 の重 要 性 を
示 唆 して い る。 図2に 明 らか な よ うに, RBP結
図4.
(a)
[2-^<13>C]
コ リ ボ フ ラ ビ ン の^<13>C-NMRス
遊 離
[2-^<13>C] リ ボ フ ラ ビン,
リボ フ ラ ビ ン,
(c)
RBPに
(b)
ペ ク トル^<9)>
RBP結
比 べ て 小 過剰
の
合[2-^<13>C]
[2-^<13>C] リボ フ
ラ ビ ン存 在 下 。
合状態
の 信号 は, 酸 性 域 か ら 中性 域 にか け て緩 や か な変 化 が み
ラ ビンは 文 献 記 載 の方 法^<10)>に
従 って^<13>C標識 出 発 原 料 を
られ るが, N (3)-Hに
用 い て, 化 学 合 成 に よっ て調 製 した 。 これ ら の^<13>C標
識
よ るpKaが
ア ル カ リ側 にず れ て
い る こ とが わ か っ た 。8F-リ ボ フ ラ ビ ンがRBPに
結合
す る と, そ の蛍 光 が完 全 に消 光 され る こ とを利 用 して,
8F-リ ボ フ ラ ビ ン-PBR複
合 体 の結 合 定 数 を求 め る こ と
が で き る。 この 方法 は, リボ フ ラ ビン-RBP結
られ た Nishikimi
ン-RBP複
3),
ら の 方 法 で あ る^<8)>。8F-リ
ボ フラビ
合 体 の結 合 定 数 のpH依
5.5, 9.5付 近 にpKaを
存 性 をみ る と (図
もつ 典型 的 な ベ ル型 曲線
を 示 して い る。 この プ ロ ッ トは, 蛋 白 質
離 状 態 のpKaを
ラ ビ ン のN
合 に用 い
リガ ン ドの遊
反 映 す るの で, pKa9.5は8F-リ
(3)-Hに
ボフ
相 当す る と思 わ れ る。pKa5.5は
蛋 白質 の ア ミノ酸 残 基 に よ る ので あ ろ う。 これ らの 確 認
と, よ り詳 しい 解 析 の た め に, 以 下 に 述 べ る よ う に
^<13>C-NMRを
適 用 した^<9)>
。
測 定 す る方 法 で あ る。^<13>C標
ビン に よ る^<13>C-NMRス
ペ ク トル を 図4に 示 す 。これ ら
て, 標 識^<13>Cの化 学 シフ トのpH依
に, 2-^<13>C信
号 のpH-化
遊 離 型 のpHプ
存 性 を調 べ た (図5
ロフ ィー ル は いず れ も,N (3)-Hの
イ
もつ 単 純 な滴 定 曲線 を与 え
る。 中 で も, N (3) に近 接 した2-, 4-^<13>C信
号 の 滴 定 曲線
は, N (3)-Hの
イオン 化 状 態 に敏 感 で あ る。一 方, RBP
結 合 型 のpHプ
ロ フ ィー ル で は, い ず れ も, N (3)-Hの
pKaが
ア ル カ リ側 に シフ トして い る こ とが わ か り, 8F-
リボ フ ラ ビ ンのpKaの
N (3)-Hの
結 果 が 確 認 で きた 。RBP結
(3)-HのpKa値
合
の 上昇は
近 傍 の環 境 に起 因 す る はず で あ る 。 す な わ
ち,
リガ ン ドとの相 互 作 用 を 考 慮 して, 2, 4, 4a, 10a位
合, ま た は, N (3)-H近
選 んだ (位置 番 号 に つ い て は 図1参 照)。^<13>C標
識 リボフ
合 型 につ い
学 シ フ トプ ロフ ィー ル を示 す)。
オン 化 を 反 映 して, pKa10を
識 位 置 は, フ ラ ビ ン酸 化 還 元部 位, フ ラビ ン と蛋 白 質,
を
合 型 状 態 の^<13>C-NMR
の^<13>C標識 リボ フ ラ ビン の遊 離 型, RBP結
に よ る リ ボ フ ラ ビ ン のN
こ の方 法 は^<13>Cで標 識 した リボ フ ラ ビ ンを ア ポRBP
に結 合 させ, ^<13>C-NMRを
リボ フ ラ ビ ンの遊 離 状 態, RBP結
ス ペ ク トル を測 定 した 。そ れ ら の うち, [2-^<13>C]
リボ フ ラ
可 能 性 と して, N (3)-Hと
蛋 白質 部 分 と の 水 素 結
傍 の 疎 水 的 環 境 に よ るN (3)-ア
ニ オン の不 安 定 化 が 考 え られ る。 そ こで, N (3) 位 の 水
827
24
蛋 白 質
核 酸
酵 素
Vol. 35
No. 5
(1990)
ろ, い ず れ もpH依
存 性 を 示 さな か った。 こ の こ と, お
よび, 3-メ チ ル リボ フ ラ ビン のRBPと
の結 合 が, リボ
フ ラビン の それ と同等 の強 さ であ る (図6)
RBP結
合 に よ るN (3)-HのpKa値
こ とか ら,
の 上 昇 は, 疎 水 性
環 境 に よ るN (3) 位 の プ ロ トン化 型 安 定化 に 起 因す る と
結 論 され た 。
リボ フ ラ ビ ン, 3-メ チ ル リボ フ ラ ビ ン とRBPと
合 定 数 のpH依
ン (図3),
存 性 を み る と (図6),
リボ フ ラ ビン (図6A)
側 のpKaが3-メ
8F-リ
の結
ボフラ ビ
にみ られ る ア ル カ リ
チ ル リボ フ ラビン の場 合 に消 失 して い
る (図6B)。
した が っ て,
れ るpKa10,
8F-リ ボ フ ラ ビ ンの結 合 に み られ るpKa
9.5は,
N (3)-Hに
リボ フ ラビ ン の結 合 にみ ら
由来 す る と結 論 で きた 。 リボ フ ラ ビン
, 3-メ チ ル リボ フラ ビン, 8F-リ ボ フ ラ ビン に は5付
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近 にpKaを
もつ 解 離 基 は な く, リボ フ ラビン,
3-メ チ
ル リボ フ ラ ビ ン, 8F-リ ボ フ ラ ビン の結 合 定 数-pHプ
ロ
ッ トにみ られ る, pKα 約5の 解離 基 は蛋 白質 側 に 由来 す
る。 この こ とに 基 づ き, 3-メ チ ル リボ フ ラ ビン とRBP
の結 合 は式 (1)
図5.
[2-^<13>C]リボ フ ラ ビン の^<13>C信 号 のpH滴
遊 離 型 (○) お よびRBP結
の 理 論 曲線 。
の平 衡 式 で表 わ され る。
定 曲 線^<9)>
合 型 (●)。 実 線 はpKa9.90
こ こで, PH,
(pKa約5)
Pは
結 合 に関 与 す る蛋 白 質 中 の解 離 基
のそ れ ぞ れ プ ロ トン化, 脱 プロ トン化 状 態
を表 わ し, そ の解 離 の平 衡 定 数 はK_1で
メ チ ル リボ フ ラ ビン, Ka_1, Ka_2は,
とMの
P
結 合 定 数 であ る。
実 測 され る結 合 定数 は 式
Ka_1,
あ る。Mは3-
そ れ ぞ れ, PH,
Ka_2を
(2)
で 与 え ら れ る 。K_1,
パ ラ メ ー タ と し て 図6Bの
観測点を非線型
最 小 二 乗 法 に よ っ て フ ィ ッテ ィン グ す る と, pK_1=5.04,
Ka_1=1.01×10^9M^<-1>と
フ ラ ビン とRBPの
求 め る こ と が で き た 。 ま た,リ
こ こ で,
図6.
リボ フ ラ ビン-RBP結
合 定 数 のpH依
お よ び3-メ チ ル リボ フ ラ ビン-RBP結
pH依
存性
存 性 (A)
合定数 の
(B)^9)
実 線 は い ず れ も 非 線 型 最 小 二 乗 法 の 最 適理 論 曲 線 (本 文 参
照) で あ る。
ン化,
828
合 型 のpH依
存性 を 調べ た と こ
結 合 は式
のFH,
FはN
(3)
の よ うに 表 わ せ る 。
(3) が そ れ ぞ れ プ ロ ト
脱 プ ロ トン 化 した リ ボ フ ラビ ン を 表 わ し,
る 。K_3は,
る。
号 の遊 離 型, RBP結
(4)
そ の 解 離 の 平 衡 定 数,
数,
素 を^<13>C標識 メ チ ル化 し, こ の^<13>C-メ
チ ル のNMR信
式
Ka_3,
RBP結
Ka_4, Ka_5は
PH,
P,
合 型FHの
式
(3)
ボ
K_1は 式
(1)
K_2は
と共 通 で あ
プ ロ トン 解 離 の 平 衡 定
中 に 示 した 結 合 定 数 で あ
フラ ビン酵 素活性域へ の多核NMRの
応用
酸 配 列 やcDNAの
25
配列 は 明 らか に な って い な い。 ア ミ
ノ酸 配 列 に関 して は ご く一 部 が わ か っ て い る に す ぎ な
い^<15)>。
生 理 的 意 義 は ともか く と して, OYEは
種 々 の物
理 化 学 的 研 究 の対 象 に な っ て き た が, それ は, OYEが
フ ェ ノー ル化 合 物 と強 固 な複 合 体 を形 成 し, 可 視部 の 長
波 長 領 域 に 特 徴 的 な 吸 収 帯 を 示 す^<14,16)>こ
とに 注 目さ れ
た か らで あ る。 こ の吸 収 帯 は フ ェ ノー ル 化 合物 と フ ラ ビ
ンの間 の電 荷 移 動 (charge
観 測 さ れ るみか け の 結 合 定 数 は 式 (5)
で与 え られ
る。
さ れ た が^<16)>,
Eweg
transfer) 相互 作用 に よ る と
らに よっ て電 荷 移 動 相 互 作 用 とす る
こ とに 異論 が 提 出 さ れ た^<17)>。
しか し, Kitagawa,
naら
Nishi
に よ る共 鳴 ラマン 分 光 法 に よ る研 究^<18,19)>,
Beinert
らの^<13>C-, ^<15>N-NMR法 に よ る研 究^<20)>,
筆 者 らの^<13>CK_2に
は^<13>C標 識 リ ボ フ ラ ビン のNMR信
滴 定 曲 線 か ら 求 め ら れ たpKa値
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用 い,
K_1, Ka_3,
Ka_4,
の平 均 値
Ka_5を
NMR法
号 のpH
(9.95)
を
に よ る 研 究^<21)>に
よ っ て,
O YE複
フ ェ ノ ール 化 合 物-
合 体 に は フ ェ ノー ル-フ ラ ビ ン電 荷 移 動 相 互 作 用
が 介 在 す る こ とが 支 持 され て い る。 こ の フ ェノ ー ル化 合
パ ラ メ ー タ と し て 図6A
の 観 測 点 を 非 線 型 最 小 二 乗 法 に よ っ て フ ィ ッテ ィ ン グ す
物-OYE複
る と, PK_1=4.89,
は, フ ラ ビ ン酵 素 反 応 中 に しば しば み られ る こ とか ら,
pK_3=12.15,
Ka_4=1.42×10^9M^<-1>,
た 。 す な わ ち,リ
RBP結
Ka_3=2.31×10^7M^<-1>,
Ka_5=9.01×10^6M^<-1>と
ボ フ ラ ビ ン のN
台 に よ っ て10.0か
確 認 さ れ た 。 ま た,
5付
ら12.2に
ま で 上 が る こ とが
近 にpKaを
リ ボ フ ラ ビ ン はN
う がRBP結
電 荷 移 動 相 互 作 用 の重 要 性 が指 摘 さ れ て い た^<22)>。
以下
に, 筆 者 ら の^<13>C-NMRを
(3)-HのpKaは
も つRBP側
基 の 脱 プ ロ トン 化 状 態 が リ ボ フ ラビン
る こ と,
求 め られ
合 体 の 電 荷 移 動 吸 収 帯 と同 様 の幅 広 い吸 収 帯
の解 離
の結 合 に 有 利 で あ
利 用 したOYEの
研 究^<21)>を
紹
介 す る。
前 節 のRBPの^<13>C-NMRの
したFMNを
アポOYEに
応 用 と同 じ く, ^<13>C標
識
再 構 成 させ, 種 々 の 条 件 下 に
(3) 位 が プ ロ トン 化 状 態 の ほ
合 に有 利 で あ る こ とが 確 認 さ れ た 。
以 上 の よ う に^<19>F標 識 リボ フ ラ ビン, ^<13>C標 識 リ ボ フ
ラ ビ ン を 用 い た^<19>F-NMR, ^<13>C-NMRに
よ っ て, RBP-
リボ フ ラ ビ ン 複 合 体 の フ ラ ビン 域 の 環 境 や,
結 合 にか か
わ る イ オン 化 状 態 の 詳 細 を 知 る こ と が で き た 。
II.
旧 黄 色酵 素
(old
旧 黄
yellow
色 酵 素
enzyme
; OYE)
は, Warburg
ら に よ っ て ビ ー ル 酵 母 か ら 初 め て の フ ラビ ン 酵 素 と し
て 発 見 さ れ^<11)>,
彼 ら は こ の 酵 素 を, “Gelbes
と名 づ け た^<12)>。
彼 ら に よ っ て,
Ferment”
そ れ ま で に 栄 養学 上
のビ タ ミン と し て 知 ら れ て い た ビ タ ミンB_2と
が 初 め て 関 連 づ け ら れ た 。 ま た,
OYEは
酵素
フ ラ ビン 酵
素 と して は 初 め て 結 晶 化 さ れ た 酵 素 で あ る^<13)>。
旧黄 色 酵
素
(old yellow
enzyme)
と い う奇 妙 な 名 称 が 生 き 残 っ て
い る の は こ のOYEの
が,
も う1つ
由緒 あ る 歴 史 と 無 関 係 で は な い
の 理 由 は,
そ の 生 理 的 基 質,
生理的意義 が
今 に至 るま で は っ き りしな いか らで も あ ろ う。
OYEは,
FMNを
分 子 量49,000の
サ ブ ユ ニッ
トあ た り1個
補 酵 素 と し て も っ て い る^<14)>。OYEの
の
全 ア ミノ
図7.
(a)
[4a-^<13>C] FMNの^<13>C-NMRス
遊 離 型,
(b)
OYE結
合 型,
(c)
ペ ク トル^<21)>
OYE-PBP複
合 体 型 。
829
26
蛋
表1. ^<13>C標
白 質
識FMNの^<13>C化
核 酸
酵 素
Vol. 35
No.
5
(1990)
大 き さ と置 換 基 の ハ メ ッ ト σ_p値の関 係 を プ ロ ッ トす る
学 シ フ ト^<21)>
と図8の
よ うに近 似 的 直 線 関 係 が 得 られ た 。
と ころ で, フ ェ ノー ル化 合 物 とOYEの
複 合 体 では フ
ェ ノー ル の 水酸 基 が 脱 プ ロ トン化 した フ ェ ノ ラ ー トイオ
ン 型 に な っ て い るこ とがわ か っ て い る^<16,20)>。p置
換 フェ
ノ ラー トイ オン の ハ メ ッ ト σ_p値は フ ェ ノ ラ ー ト酸 素 に
a)
PBPはp-プ
ロモ フ ェ ノ ール 。
お け る電 子密 度 の指 標 と考 え る こ とが で き る。 した が っ
^<
13>C-NMRス
ペ ク トル を 測 定 し, 標 識^<13>Cの信 号 を観 測
した 。FMNの^<13>C標
識 位 置 は, 前 節 と同 じ く, フ ラ
酸 素 の電 子密 度 が 高 い ほ ど 複 合 体 の4a炭
ビン 部 分 の2,
10a位
フ トが高 い, す なわ ち, 電 子 密 度 が 高 くな って い る こ と
4, 4a,
で あ る。 化 学 合 成 し た
素 の化 学 シ
^<
13>C標 識 リボ フ ラ ビン を オ キ シ塩 化 リンに よ って リン酸
を示 して い る。筆 者 らは, こ の こ とか ら, OYE-フ
化 し, 逆 相HPLCに
ー ル化 合 物 複 合 体 で は, フ ェノ ラ ー ト酸 素 か ら フ ラビ ン
て精 製 して^<13>C標識FMNを
こ とが で き る^<23)>。^<13>C-FMN再
構 成OYEの
p-プ ロモ フ ェ ノ ール (PBP)
NMRを
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て, 図8の 近 似 的 直 線 性 は, イオン 化 した フ ェ ノ ラー ト
遊 離 状 態,
との 複 合 体 に つ い て^<13>C-
測 定 し, そ れ ぞ れ の^<13>C信
号 を観 測 す る こ とが
で き た 。 図7は
型,
得る
OYE-PBP複
る。表1に,
[4a-^<13>C]FMNの
遊 離 型, OYE結
合 体 型 の^<13>C-NMRス
合
ペ ク トル で あ
結 果 を ま とめ るOYEとOYE-PBP複
合
へ の電 荷 移 動 が起 こ り, そ の結 果, フ ラビン の4a炭
素
の電 子密 度 が高 くな っ て い る と解 釈 して い る。
OYEの^<31>P-NMRス
ペ ク トル に は, FMNの
リン酸
基 に よ る^<31>P信号 が み られ る。 この^<31>P化 学 シ フ トは
pH 8に お い て, 遊離FMNの
そ れ よ り3.4ppm低
シ フ ト して い る。 遊 離FMNの^<31>P信
体 を比 較 す る と, 4a-^<13>Cの化 学 シ フ トが 他 に 比 べ て と
を 示 し, pKa6.5を
くに差 が大 き く, 複 合 体 で3.7ppm高
OYE結
磁 場 シ フ トして
ェノ
合FMNの
磁場
号 はpH依
存性
もつ 単 純 な 滴 定 曲線 を 与 え る が,
そ れ は, pH
5∼9の 範 囲 でpHに
依
い る。sp^2炭 素 の化 学 シ フ トは, 電 子 密 度 に もっ と も敏
存 しな い (図9)^<21)>。
遊 離FMNのpKa6.5は
感 で あ る こ とか ら, PBPと
の モ ノア ニオン ージ ア ニ オン 平 衡 に よる も の で あ る 。 し
ラ ビン の4a炭
複 合 体 を 作 る こ とに よ り, フ
素 の電 子 密 度 が 高 くな って い る こ とが示
た が っ て, OYE結
合 のFMNリン
リン酸 基
酸 基 は 広 いpH領
唆 され た。
フ ェ ノー ル 化 合 物 と フ ラ ビ ン の間 の相 互 作用 を よ り詳
し く知 るた め に, 他 のp置
換 フ ェ ノー ル誘 導 体 とOYE
の 複合 体 につ い て 同様 の測 定 を 行 な い, 4a炭
素 の化 学
シフ トが どれ だ け 変 化す るか を 調 べ た 。用 い た フ ェノ ー
ル誘 導 体 のp置
換 基 は, F, Cl, Br, CHO,
た が, す べ て の誘 導 体 につ い て, 4a炭
NO_2で あ っ
素 の信 号 は複 合
体 形 成 に よっ て 高磁 場 シフ トした 。 この高 磁 場 シ フ トの
図8. p置
換 フ ェ ノー ル-OYE複
合 体 形 成 に よる4a-^<13>C
化 学 シ フ ト変 化 の置 換 基 効 果^<21)>
図9.
遊 離型
FMNの^<31>P信
号 のpH依
(○) お よ びOYE結
存 性^<21)>
合 型 (●)。
域
フラ ビン酵 素活性域へ の多核NMRの
27
応用
にわ た って ジア ニオ ン型 に 固 定 され て い る とい え る。 同
じ よ うなpH非
FMN蛋
依 存 性 と ジア ニオン 型 へ の 固 定 が 他 の
白質 フ ラボ ドキ シ ンに もみ られ る^<24)>。
しか し,
蛋 白質 結 合FMNの^<31>P信
号 が遊 離FMNに
き く低 磁 場 シ フ トして い る のはOYEに
フ ラ ボ ドキ シン の場 合, 0.1ppmシ
あ る^<24)>。
同 じFMN蛋
比 べ て大
特 徴的 で あ る 。
フ トして い るだ け で
白質 であ っ て も両 者 で, リ ン酸 部
分 の結 合 様 式 が大 き く異 な って い る と考 え られ る。 フ ラ
ボ ドキ シ ンのFMNの
リン酸 結 合 部 位 に は 陽 電 荷 を も
つ 残 基 は な い が^<25,26)>,
OYEのFMNの
リン酸 結 合部 位
に は陽 電荷 を もつ 残 基 があ って, そ の静 電 相 互 作 用 のた
め に 低磁 場 シフ トす る こ とが考 え られ る。 こ の よ うな 静
電 相 互 作用 に よ る低 磁 場 シ フ トはNADPH-ア
キ シ ン還 元酵 素 とNADPと
ド レノ ド
の複 合 体 に お け るNADP
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の2'-リン 酸 基 の^<31>P信号 に も観 察 され て い る^<27)>。
III.
D-ア
ミ ノ酸 酸 化 酵 素
図10.
D-ア
は,
ミノ酸 酸 化酵 素
1935年,
Krebs
(D-amino
acid
oxidase
; DAO)
(a)
DAOお
^<13>C-NMRス
DAO,
FAD-DAO,
に よ っ て 発 見 さ れ^<28,29)>,
Kubo,
よ び^<13>C-FAD再
ペ ク トル^<37)>
(b)
(d)
構 成DAOの
[2-^<13>C] FAD-DAO,
(c)
[4, 10a-^<13>C_2] FAD-DAO。
[4a-^<13>C]
図 中 に は そ
れ ぞれ の信 号 を示 して い る。
Yamano
ら に よ っ て ブ タ 腎 臓 のDAOが
動物 の フ ラ ビ ン
酵 素 と し て 初 め て 結 晶 化 さ れ た^<30,31)>,
歴 史の古い由緒あ
る酵 素 で あ る 。 生 体 に と っ て,
と くに 高 等 動 物 に と っ
てD-ア
ミ ノ酸 は,
DAOは
生 物 界 に 広 く分 布 し, 高 等 動 物 で は,
臓 を は じ め,
DAOの
い わ ば 異 物 で あ る に も か か わ ら ず,
種 々 の 臓 器,
組 織,
Hamilton
息 香 酸, o-, m-, p-ア
ミノ安 息 香 酸 はDAOと
強 く結 合
して 複 合 体 を 作 り, 可 視 吸 収 スペ ク トル^<41)>,
CDス
ペク
腎
トル^<42)>,
共 鳴 ラマン ス ペ ク トル^<43)>な
どの分 光 学 的 方 法 に
細 胞 に見 い だ され る。
よ って これ ら の複 合 体 の性 質 が 調 べ られ て き た 。 安 息 香
肝 臓,
生 理 学 的 意 義 に 関 して は 現 在 の と こ ろ,
た 説 は な い が,
は い くつ か の 拮 抗 阻 害 剤 が 知 られ て い る が, 中 で も, 安
ら に よ っ て,
DAOの
確立 し
生理的基
酸 は, 基 質D-ア
つ が,
ミ ノ酸 と 共 通 して カル ボ キ シル 基 を も
ア ミノ安 息 香 酸 はD-ア
ミノ酸 と 共 通 して カル ボ
シ ス テ ア ミン と グ リ オ キ シ ル 酸 の 環 状 付 加 物 で あ
キ シル 基 とア ミノ基 の両 方 を もつ の で, 安 息香 酸 よ りも
る と い う 仮 説 が 提 出 さ れ て い る が^<32,33)>,
確定 して い な
基 質 に近 い 基 質 類 似 体 であ る。 ま た, ア ミノ安 息 香 酸 の
質 は,
3つ の異 性 体 (o-, m-, p-異
い。
本 節 で 扱 うDAOは
そ の 発 見 以 来,
非 常 に広 い範 囲 の
研 究 の 対 象 と な っ て き た ブ タ 腎 臓 皮 質DAOで
のDAOは
あ る。こ
分 子 量39,000^<34,35)>の サ ブ ユ ニ ッ トあ た り1
分 子 のFADを
識FADで
そ れ ぞ れ の 標 識^<13>C信 号 を 観
測 す る こ と が で き る (図10)^<37)>。 こ の と き の,
^<13>C標 識 位 置 は , 第 工節,
と 同 じ く,
フ ラ ビ ン 環 の2,
^<13>C標 識FADは
4,
のRBP,
4a,
10a炭
FADの
OYEの
揚合
素 で あ る。
, 化 学 合 成 し た^<13>C標 識 リボ フ ラ ビ ン
を Brevibacterium ammoniagenes
よ っ てFADレ
第II節
っ とも基 質 に近 い。
こ の こ とか ら, 上 記 基 質 類 似 体 の う ちo-ア
ミノ安 息
o-ア ミノ安 息 香 酸 よ り も さ ら に 基 質 に 近 い 構 造 の 基
再 構 成 し て, ^<13>C-NMRス
ペ ク ト ル を 測 定 す る と,
性体が も
香 酸 が基 質 に も っ とも近 い構 造 を もっ て い る。 しか し,
も っ て お り, ア ミ ノ酸 配 列^<34)>,
cDNAの
塩 基 配 列^<36)>も
明 らか に さ れ て い る 。
DAOを^<13>C標
性体) の うち, ア ミノ基 と
カ ル ボ キ シ ル基 の互 い の幾 何 学 的 配 置 はo-異
のFAD合
成酵素に
ベ ル に 誘 導 して 得 ら れ る^<38∼40)>。DAOに
質 類 似 体 は α-ア ミノ-β-シ ア ノ ア ク リル 酸 (NC-CH=
C (NH_2) COOH)
であ る。 こ の 化 合 物 はDAOと
ア
ノ-D-ア ラニン
(D-BCNA)
β-シ
の 反応 に よっ て生 成 す
る^<44)>。DAO-o-ア ミノ安 息香 酸 複 合 体 は 可 視 部 長 波 長 領
域 に 幅 広 い 典 型 的 な 電 荷 移 動 吸 収 帯 を示 し, こ の 吸収 帯
はDAO-m-ア
ミノ安 息 香 酸 複 合 体,
DAO-p-ア
ミノ安
息 香 酸 複 合 体 と な る に した が って 小 さ く な る^<41>。
さ ら
に, DAO-α-ア
ミ ノ-β-シア ノ ア ク リル酸 複 合 体 もま た
831
28
蛋 白 質
核 酸
酵 素
Vol. 35
No. 5
(1990)
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図11.
DAOお
よびDAO拮
抗 阻害 剤 複 合 体 に お け る2, 4, 4a, 10a-^<13>C信号 の 化 学 シ フ トの 相 関 図^<48)>
OAB,
MAB,
PABは
そ れ ぞ れ, o-, m-, p-ア ミノ安 息 香 酸 の略, BZは 安 息 香 酸 の略, DAO-D-BCNAは
DAO-α-ア
ミノ-β-シ ア ノ ア ク リル 酸 複 合 体, DAO-D-ProはDAO-⊿^1-ピ
ロ リ ジ ン-2-カ ル ボン 酸 複 合 体 で あ
る (本 文 参 照)。
長 波 長 部 に 電荷 移 動 吸 収帯 を示 す^<44,45)>。
また, Shiga
は, DAO-ア
ミノ安 息 香 酸 複 合 体 のCDス
ら
ペ ク トル の解
析 か ら, これ らの 電 荷 移 動 は ア ミノ基 か ら フ ラ ビ ンへ と
起 こ る こ とを示 唆 して い る^<42)>。
これ らの こ とを 総合 して, 筆 者 らは, DAO-基
質 複合
体 に お い て, ア ミノ基 か らフ ラ ビン へ の 電 荷 移 動 が 触媒
過 程 で 重 要 な 役 割 を 果 たす と考 え て い る^<46,47)>。^<13>C標
識
FADで
再 構 成 したDAOと
体 の^<13>C-NMRス
上 述 の基 質類 似 体 との 複合
ペ ク トル を 測 定 し, 遊 離 のDAOと
比
図12.
DAO-o-ア
ミノ安 息 香 酸 複 合 体 の モ デ ル
較 した 。結 果 を グ ラ フ に ま と め る (図11)^<48)>。
図中の
DAO-D-BCNAはDAOと
BCNA)
β-シア ノ-D-ア ラ ニ ン (D-
の反 応 に よ って 生 成 す るDAO-α-ア
ミノ-β-シ
ア ノア ク リル酸 複 合体 で あ り^<44)>,
図 中 のDAO-D-Proは
DAOとD-プロ
リン の反 応 でみ られ るDAO-⊿^1-ピ
る。 す な わ ち, カル ボ キ シル基 結 合 部 位 はC
(4)=Oの
水 素 結 合 部 位 と共通 (た とえ ば, リ シン の ε-アミノ基)
(ま た は, 接 近) して お り, こ の位 置 に カ ル ボ キ シ ル基 が
ロリ
結 合す る とC (4)=Oで
の 水 素 結 合 が 切 断 され (また は,
ジン-2-カ ル ボ ン酸 複合 体 で^<41)>,
こ の 場 合 の リガ ン ドは
弱 め られ), そ の た め に4-^<13>C信号 が 高磁 場 シ フ トす る。
生 成 物 の イ ミノ酸 で あ る。 図か ら明 らか な よ うに, 4a-,
ま た,
10a-^<13>Cは 複合 体 形 成 に対 して それ ほ ど敏 感 で は な い
微 小 変 化 の た め に, C (2)=Oで
が, 2-^<13>C,
4-^<13>Cは
敏 感 に 変 化 して い る。興 味深 い の は,
2-^<13>C信
号 が 低 磁 場 シ フ トす る。 一 方, ア ミノ基 は,
2-^<13>C信
号 の 複 合 体 形 成 に よ る 変 化 の しか た が 同 程 度 の
ラビ ンの近 くに位 置 し, ア ミ ノ窒 素 とフ ラ ビン π電 子 系
低 磁 場 シ フ トであ るの に対 し, 4-^<13>C信号 は,
との 間 に電 荷 移 動 相 互 作 用 が可 能 とな る。o-位 が フ ラ ビ
リガン ド
リガ ン ド結 合 に よ るフ ラ ビ ン周 りの蛋 白質 構 造 の
の水 素 結 合 が 強 め られ,
フ
の種 類 に よっ て変 化 の様 相 が異 な っ て い る。 フ ラ ビ ンの
ンの 近 くに 位 置 す る こ と は, DAO-フ
2, 4炭 素 は カ ル ボ ニ ル炭 素 で, こ れ ら の カル ボ ニル 基
(o-, m-, p-異
は, 蛋 白 質 や,
フ ル オ ロ安 息香 酸 の^<19>Fがフ ラ ビ ン に も っ と も近 い こ と
リガ ン ド, 溶 媒 と の 水 素 結 合 部 位 で あ
る。 ま た, これ らの位 置 で の水 素 結 合 は2-^<13>C,4-^<13>Cの
化 学 シ フ トに影 響 を与 え る こ とが Moonen
ら に よっ て
明 らか に され て い る^<40)>。
複 合 体 の活 性部 位 で の配 置 を 図12の
832
性 体) 複 合 体 の^<19>F-NMRに
ミノ安 息 香 酸
よ うに推 定 して い
お い てo-
を示 唆 す る結 果^<50)>か
ら も支 持 され る。
筆 者 らは, 図12の
合 体 と して 図13の
筆 者 らは, 以 上 の こ とか ら, DAO-o-ア
ル オ ロ安 息 香 酸
モ デ ルを 拡 張 して, DAO-基
質複
モ デル を 考 え て い る。 基 質 の カル ボ
キ シ ル基 は フ ラ ビン のC
(4)=Oと
水 素 結 合 して い る残
基 (ま た は, そ れ に接 近 した 残 基) と結 合 す る こ とに よ
フラビン酵素活性域へ のNMR多
核 の応用
29
(た とえば, 総 説54)。
しか し, 筆 者 ら は, DAOの
応 の 解 析^<55,56)>,
基 質 α-プロ トン のpKaに
逆反
付 随 す るエ ネ
ル ギ ー論 な どか ら協 奏 反 応 説 を主 張 して い る^<46,47)。
基 質 か らフ ラ ビ ンへ と電 子 移 動 が 起 こ る と, 基 質 は生
成 物 イ ミノ酸 に な りフ ラ ビ ンは 還 元 型 に な る。 こ の と
き, イ ミノ酸-還 元 型 酵 素 複 合 体 が 生 成 す る。 こ の 複 合
体 は, 最 初, 長 波 長 可 視 領 域 に幅 広 い吸 収 帯 を もつ 紫 色
中 間 体 とよば れ る反 応 中 間 体 と して観 察 され た^<57∼59)>。
こ
図13.
DAO-基
質複合体のモデル
の紫 色 中 間 体 は,
イ ミノ酸-還 元 型 酵 素 複 合 体 で あ る と
され た が^<58,60)>,
共 鳴 ラマ ン法 に よ って, 還 元 型 酵 素 と カ
りC (4)=Oで
の 蛋 白質 との 水 素結 合 が 切 断 さ れ る (ま
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た は, 弱 め られ る)。一 方, C (2)=Oで
の蛋 白 質 との 水素
チ オン 型 イ ミ ノ酸 との電 荷 移 動 複合 体 で あ る こ とが 証 明
され た^<61∼64)>。^<13>C標
識FADで
再 構 成 したDAOを
て, こ の 紫 色 中 間体 の^<13>C-NMRを
る。 ア ミノ基 は, カチ オン 型 で結 合 し, プ ロ トンが 蛋 白
と比 較 した^<48)>。
そ れ ぞ れ の^<13>C化学 シ フ トを 図14に
質 塩基 に よっ て 引 き抜 か れ, 中 性 型 ア ミノ基 とな って 非
とめ た 。
用い
結 合 は基 質 結 合 に よ る蛋 白 質 の微 小 変 化 に よ り強 め られ
共 有 電 子対 (lone pair) か ら フ ラ ビン へ 電 荷 移 動 相 互 作
用 す る。 こ の 相 互 作 用 に よっ て 基 質 の α-プ ロ トン の
pKa値
は い くぶ ん 低下 す る 。 次 に, こ の α-プ ロ トン 引
還 元 型DAOお
測 定 し, 還 元 型 酵 素
ま
よび, 紫 色 中 間 体 の それ ぞれ の^<13>C化
学 シ フ ト と還 元 型FMN
(中 性型, お よび, N (1)-ア ニ ナ
ン型) の化 学 シ フ ト^<65)>と
の比 較 か ら, 還 元 型DAOお
よ
き抜 き と, ア ミノ基 の 電 子対 の フ ラビ ンへ の電 子移 動 が
び 紫 色 中間 体 の フ ラビ ン部 分 は いず れ も, N (1)-ア ニナ
協 奏 的 に起 こ り, 基 質 の酸 化 が 完 了す る。 この とき, α-
ン型 還 元 型 で あ る こ とが わか っ た 。紫 色 中 間 体 と還 元 型
プロ トン引 き抜 き と電 子 移 動 は 協 奏 的 に進 む の で, α-カ
DAOと
ル ボ ア ニ オン 生 成 は 起 こ らな い と考 え て い る^<46,47>。
して お り, 紫 色 中 間体 で, 4a炭
フ ラ ビン を め ぐる蛋 白質,
リガン ド, 溶 媒 との 水 素 結
合 ネ ッ トワー クは フ ラ ビン の反 応 性 を 制 御 ・調 節 す る重
を比 べ る と, 4a-^<13>C信号 が 顕 著 に 高 磁 場 シ フ ト
素 の電 子 密 度 が高 くな
って い る こ とが 示 唆 され る。 こ の こ と と, 還 元 型 フ ラ ビ
ンの4a炭
素が再酸化過程 で 分子状酸素 と反応す る 部
要 な 因 子 で あ るこ とが分 子 軌 道 計 算 に よ っ て示 され て い
位 であ る こ とを考 慮 す る と, 紫 色 中 間 体 で, 4a炭
る^<51∼53)>。
した が って, 基 質結 合 の結 果, C (2)=O,
C (4)=
酸 素 に対 す る求 核 的 反 応 性 が 高 くな っ て い る とい え る。
Oで の 水 素結 合 が変 動 を受 け る こ と に よ って, フ ラ ビ ン
す なわ ち, 生 成 物 (イ ミノ酸) が 還 元 型 酵 素 の ア ニ オン
部 分 の 反 応 性 が 調節 を受 け, 電 子移 動 が容 易 に な る と推
型 フ ラビン と電 荷 移 動 相 互 作 用す る こ とに よ っ て, 還 元
定 す る こ とが で き る。DAOに
よる基質酸化 に つ い て
型 フ ラ ビ ンの分 子 状 酸 素 に 対 す る反 応 が 促 進 され る。 こ
は, 基 質 の α-プロ トン引 き抜 き とフ ラ ビンへ の 電 子 移
の こ とは, 遊 離 の還 元 型 酵 素 の 酸 素 に 対 す る反 応 性 よ り
動 が段 階 的 に進 み, した が っ て, 電 子 移 動 の前 に, α-カ
も紫 色 中 間 体 の そ れ のほ うが 高 く, DAOの
ル ボ ア ニ オン が 生 成 す る とい う機 構 が 提 唱 さ れ て い る
ル にお いて 分 子 状 酸 素 は生 成 物 イ ミ ノ酸 が 遊 離 す る 前
図14.
紫 色 (D-Ala),
ア ニ オン 型 還 元 型FMN
(FMNH^-),
還 元 型DAO,
2, 4, 4a, 10a-^<13>C信号 の 化 学 シ フ トの相 関 図^<48)>
紫 色 (D-Pro)
は そ れ ぞ れ 基 質 にD-ア
素の
触媒 サイ ク
紫色中間体におけ る
ラ ニ ン, D-プ ロ リン を 用 い た と きの 紫 色 中 間 体 で あ る。
833
30
に,
蛋 白 質
核 酸
酵 素
紫 色 中 間 体 に 反 応 す る とい う 反 応 動 力 学 か らの 結
Vol. 35
No. 5
(1990)
を 目指 して い る。
論^<58,60,66,67)>の
化 学 的 な根 拠 を与 え て い る。
以 上 の よ う に,
DAO,
DAO-基
文
質 類 似 体 複 合 体, 還 元 型
紫 色 中 間体 に^<13>C-NMRを
クル の 各過 程 で, フ ラ ビ ン部 分 の反 応 が どの よ うに調 節
を受 け るか の い くつ か の 重 要 な 知 見 を 得 る こ とが で き
1)
2)
た。
3)
4)
お わ りに
フ ラ ビ ン酵 素 (蛋 白質) へ の多 核NMRの
応 用 につ い て筆 者 らの研 究 を紹 介 した が, ^<13>C, ^<15>N標
識
フ ラ ビン を用 い たNMR法
先 駆 的 研 究^<10,68,69)>,
Muller
につ いて は, Yagi
らによる
5)
らに よ る系 統 的 研 究 (本 文 中
に い くつ か 引 用 した) な どがあ る が, 限 られ た 誌 面 のた
6)
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め 割 愛 した 。
こ こ で 紹 介 した ブ ラ ビン を 安 定 同位 体 (^<13>C, ^<15>N,
^<19>F) で標 識 してNMRに
7)
利 用す る方 法 は , フ ラ ビ ン酵
素 の 反 応 中 心 そ の も の の情 報 を 純 粋 に取 り出せ る こ と,
NMR信
号 が一 般 に 電 子 状 態 に 敏 感 で あ る こ とな ど か
ら, フ ラ ビ ン酵 素 反 応 機 構 を理 解 す る のに と くに 有 効 で
8)
9)
あ る。 した が って, こ の よ うな 方 法 は 他 の補 酵 素 (ま た
は 補 因 子) を もつ 酵 素 や 蛋 白質 に適 用 され て しか るべ き
10)
で あ るが, 現 在 の ところ, こ の方 法 が 系統 的 に 適 用 さ れ
て い る のは フ ラ ビン 酵 素 だ け で あ る と い って も よ い 。
NMRを
酵 素 や 蛋 白 質 の よ うな 巨 大分 子 に応 用 す る場 合
は, ^1H-NMRで
あ れ, 自然 存 在 比^<13>C-NMRで
あれ,
得 られ る情報 が 多 す ぎて, 活 性 中 心 に 関す る情 報 を 抽 出
す るの は一 般 に 困 難 を きわ め る。 そ の た め, それ ぞれ の
11)
12)
13)
14)
酵 素や 蛋 白 質 の 性 質 を利 用 した巧 妙 な 「
工 夫 」 が な され
る。蛋 白 質 の ア ミノ酸 残 基 を標 識 す る の もひ とつ の 「
工
15)
夫 」 で あ るが, 活 性 部 位 の残 基 の み を特 異 的 に標 識 す る
の は, そ れ ほ ど容 易 で は な い 。本 稿 で紹 介 した方 法 は,
手 法 と して は比 較 的 容 易 で あ り, 少 な く とも信 号 の帰 属
16)
17)
に 関 して は曖 昧 さか ら免 れ る。
補 酵 素 にか ぎ らず, 生 理活 性物 質 が本 来 の生 理 的 機 能
18)
を 発 現 す る の は, 蛋 白 質や 他 の生 体 分 子 種 との相 互 作 用
を 介 して であ る こ とを 考 え る と, こ の方 法 が よ り広 く,
19)
も っ と一 般 的 に応 用 す る こ とが可 能 で, 実 際, いろ い ろ
な 安 定 同位 体 標 識 生 理 活 性分 子 に 多核NMRが
応用 さ
れ て い る。
現 在, 筆 者 らは, 機 能 の異 な る い くつ か の フ ラ ビン酵
素 に本 方 法 を 用 い て, そ れ ぞ れ の酵 素 にお い て, フ ラ ビ
ンの潜 在 的 触 媒 能 力が ど の よ うに調 節 され るか を 調 べ,
こ の観 点 か ら フ ラ ビン酵 素 反 応 を統 一 的 に 理 解 す る こ と
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