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2013年 VOL.37 NO.1
ISSN 0911-940X 技術情報 VOL.37 No.1 2013 食品におけるアレルギー物質表示と検査法について 1.はじめに されにくいことがほぼ共通した性質であ 日本で食物アレルギー体質を有する人 る。この特性により、食品中のアレルゲ の 数 は 、全 人 口 の 1 ~ 2 % (乳 児 に 限 定 す ンは加熱調理や消化酵素によってもアレ る と 約 10% )に 達 す る と さ れ る 1 ),2 ) が、 ルギー反応を誘発する能力を失わず、腸 管 か ら 吸 収 さ れ る 3 )。 食物アレルギーの根本的治療手段は未だ なく、原因となるアレルギー物質を摂取 アレルギーは、反応メカニズムの違い しないことが最も重要な対策となってい に よ り I 型 か ら IV 型 に 分 類 さ れ る が 、食 る 1 ) ,2 ) 。 物 ア レ ル ギ ー の 多 く は 、 IgE(免 疫 グ ロ ブ 食物アレルギーとは、食物を摂取した リ ン E)を 介 し た Ⅰ 型 ア レ ル ギ ー (即 時 型 際、身体が食物に含まれるタンパク質を ア レ ル ギ ー )で あ る 。腸 管 か ら 吸 収 さ れ た 異物と認識し、自分の身体を防御するた 食品中のアレルゲンは、まずマクロファ めに起こる過敏な反応で、「食物によっ ージなどの抗原提示細胞に取り込まれ、 て引き起こされる抗原特異的な免疫学的 ペプチドに分解されて細胞表面に提示さ 機序を介して生体にとって不利益な症状 れる。次に、アレルゲンを特異的に認識 が 惹 起 さ れ る 現 象 」と 定 義 さ れ て い る 2 ) 。 す る T 細 胞 が 活 性 化 さ れ 、 B 細 胞 に IgE かゆみ・じんま疹・湿疹等の皮膚症状、 の 産 生 を 促 す 。 産 生 さ れ た IgE は 、 マ ス 下痢・嘔吐・腹痛等の消化器症状、鼻・ ト 細 胞 (肥 満 細 胞 )の 表 面 の レ セ プ タ ー に 眼粘膜症状、咳・喘鳴等の呼吸器症状な 結 合 し 、ア レ ル ゲ ン へ の 準 備 体 制 が 整 う 。 ど 様 々 な 症 状 (ア レ ル ギ ー 反 応 )が 引 き 起 摂取した食物中のアレルゲンが再び腸管 こされ、ときにはアナフィラキシーショ から吸収され、血液を介して皮膚・腸粘 ックとよばれる全身発赤、呼吸困難、血 膜・気管支粘膜・鼻粘膜・結膜などに到 圧低下、意識消失などの重篤な症状を呈 達 し 、 IgE 抗 体 を 結 合 し た マ ス ト 細 胞 に し 、 死 亡 す る こ と も あ る 2 )。 出会うと、マスト細胞から化学伝達物質 食品中の多種多様なタンパク質のうち、 で あ る ヒ ス タ ミ ン (痒 み を 起 こ し た り 、く ア レ ル ゲ ン (ア レ ル ギ ー 誘 発 物 質 )と な る し ゃ み 、鼻 水 を 出 さ せ る 物 質 )や ロ イ コ ト ものは一部である。アレルゲンはおおむ リ エ ン (気 管 支 を 収 縮 さ せ た り 、鼻 づ ま り ね 分 子 量 10,000~ 100,000 程 度 の タ ン パ を 起 こ す 物 質 )な ど が 放 出 さ れ 、ア レ ル ギ ク質で、熱や消化酵素により比較的分解 ー 反 応 が 誘 発 さ れ る 3 ) ,4 ) 。 1 くるみ, 0.8 バナナ, 0.7 かに, 0.9 キウイ, 1.3 大豆, 1.5 その他, 8.7 そば, 2.4 えび, 3.0 いくら, 4.0 アレルギーの 原因食品 落花生, 4.8 鶏卵, 38.8 n=2,501 小麦, 12.1 乳, 21.0 図 1 日 本 における食 物 アレルギーの原 因 食 品 別 割 合 (%) (出 典 :平 成 20 年 度 厚 生 労 働 科 学 研 究 報 告 書 「食 物 アレルギーの発 症 ・重 症 化 予 防 に関 する研 究 」より 5) ) 2.食 品 のアレルギー物 質 表 示 について 品 目 (え び 、か に 、あ わ び 、い か 、い く ら 、 日本における食物アレルギーを引き起 オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、くる こ す 原 因 食 品 の 内 訳 を 図 1 5 )に 示 す 。 三 み 、さ け 、さ ば 、大 豆 、鶏 肉 、バ ナ ナ (平 大 主 要 原 因 食 品 (鶏 卵 、 牛 乳 、 小 麦 )で 全 成 16 年 12 月 追 加 )、豚 肉 、ま つ た け 、も 体 の 約 70% を 占 め 、ま た「 か に 」ま で の も 、や ま い も 、り ん ご 、ゼ ラ チ ン )を「 特 上 位 10 食 品 で 全 体 の 約 90% を 占 め て お 定原材料に準ずるもの」とし、通知によ り、特定の限られた種類の食品で食物ア り表示を奨励した。その後2度の省令改 レルギーのほとんどの原因が説明できる 正 が あ り 、平 成 20(2008)年 6 月 3 日 に え 5) 。 び 、か に の 2 品 目 が 新 た に「 特 定 原 材 料 」 特定のアレルギー体質を有する者の健 と な り 、 平 成 25(2013)年 9 月 20 日 に カ 康危害を防止するため、食物アレルギー シ ュ ー ナ ッ ツ 、ご ま の 2 品 目 が 新 た に「 特 の原因となる物質を含まない食品を選択 定原材料に準ずる食品」となった。現在 できるよう、食品中のアレルギー物質を 「特定原材料」が7品目、「特定原材料 表示することへの必要性が高まり、平成 に 準 ず る 食 品 」が 20 品 目 指 定 さ れ て い る 13(2001)年 3 月 15 日 に 食 品 衛 生 関 連 法 (表 1 ) 7 ) 。 令が改正され、「アレルギー物質を含む * 食 品表 示に 関す る 業務 は平 成 食 品 に 係 る 表 示 制 度 」 が 定 め ら れ た 6 )。 21(2009)年 9 月 1 日 よ り 厚 生 労 働 省 か ら * 厚生労働省 はまず、食物アレルギー 消費者庁に移管された。 を引き起こすことが明らかになった食品 のうち、発症数、重篤度から表示する必 3.食 品 のア レル ギー物 質 表 示 における監 要 性 が 高 い 25 品 目 の 食 品 を「 特 定 原 材 料 視 制 度 について 等」と指定した。さらにこの中で、重篤 「 特 定 原 材 料 」の 表 示 の 義 務 化 に 伴 い 、 度 や 症 例 数 が 特 に 高 い 5 品 目 (卵 、乳 、小 特定原材料が食品に正しく表示されてい 麦 、そ ば 、落 花 生 )を「 特 定 原 材 料 」と し る か を 監 視 す る 制 度 が 、平 成 13(2001)年 て 法 令 に よ り 表 示 を 義 務 付 け 、残 り の 20 に設けられた。正しく表示されているこ 2 表 1.特 定 原 材 料 と特 定 原 材 料 に準 ずるもの 7 ) 規定 表示義務 (特定原材料) 表示を推奨 (任意表示) (特定原材料に準ずるもの) 特定原材料等の名称 品目数 卵、乳、小麦、そば、落花生、えび、かに 7 あ わ び 、 いか 、 い くら、 オ レン ジ、 カ シ ュ ー ナッ ツ 、 キ ウ イ フ ル ーツ 、牛 肉、 く るみ 、 ごま 、 さ け、 さ ば、 大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、 20 りんご、ゼラチン 図 2 通 知 検 査 法 の判 断 樹 8 ) とを検証するためには「特定原材料」が 4.食 品 のアレルギー物 質 の検 査 方 法 と判 食品中に表示通り含まれているかを確認 断 することが必要で、次の2つの方法で行 上 記 (2 )の 試 験 検 査 は 、 消 費 者 庁 に よ う。 り示された公定検査法に基づいて行って ( 1 ) 原 材 料 や 製 品 の 仕 入 れ 時 に 、販 売 い る 8 )。 検 査 は ス ク リ ー ニ ン グ 検 査 、 確 元の事業者から特定原材料の有無 認検査の2段階で実施する。まずスクリ についての情報提供を受けている ーニング検査として、検査特性の異なる か な ど を 、製 造・販 売 に 係 る 関 係 書 2 種 の 定 量 検 査 法 (ELISA 法 )を 実 施 し 、 類から確認する。 両 検 査 法 で 得 ら れ た 結 果 と 上 記 (1 )の 製 (2) 加 工 食 品 中 に 特 定 原 材 料 が 含 ま 造記録の確認により通知検査法に示され れているかどうかを試験検査する。 て い る 判 断 樹 (図 2 )に 従 い 表 示 が 適 正 で 愛 知 県 で は 、 (1 )を 保 健 所 が 、 (2 )を あるかどうかを判断する。表示がありス 衛生研究所生物学部医動物研究室が担当 クリーニング検査陽性の場合は、表示と している。 検査結果が一致するので適正表示と考え ら れ 、 行 政 措 置 不 要 と 判 断 さ れ る (図 2 ① )(た だ し 、 え び ・ か に で は ELISA 法 で 3 えびとかにが区別できないため、表示が ナル抗体を利用したもの、の3種類があ ありスクリーニング検査が陽性の場合で る。スクリーニング検査では、検査特性 も 、 製 造 記 録 の 確 認 が 必 要 と な る (図 2 - の 異 な る 2 種 の ELISA 法 を 実 施 し 、 両 方 ② , ③ , ④ )) 8 ) 。 またはいずれか一方で食品採取重量1g あたり特定原材料由来の検出対象タンパ 表示がなく、スクリーニング検査で陽 性となり、製造記録に記載がない場合に ク 質 含 量 (例 卵:卵白アルブミン、牛 は 確 認 検 査 が 必 要 と な る (図 2 -⑧ ,⑨ ) 8 ) 。 乳:β -ラ ク ト グ ロ ブ リ ン 、カ ゼ イ ン 、小 確 認 検 査 は 、 ELISA 法 よ り 特 異 性 の 高 い 麦 : グ リ ア シ ン 等 ) が 10μ g * * 以 上 の 場 PCR 法 (小 麦 、そ ば 、落 花 生 、え び 、か に )、 合 ス ク リ ー ニ ン グ 検 査 陽 性 と す る 8 ) ,10)。 **表示を必要とする含量については、 ま た は ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 法 (卵 、 乳 )で 実施する。次に、それぞれの検査につい 平 成 13 年 10 月 29 日 に 取 り ま と め ら れ た て概説する。 厚生労働科学研究「食品表示が与える社 会的影響とその対策及び国際比較に関す A .ス ク リ ー ニ ン グ 検 査;ELISA (enzyme- る研究班」のアレルギー表示検討会中間 linked immunosorbent assay)法 報 告 書 に お い て「 数 μ g/mL 濃 度 レ ベ ル 又 ELISA 法 と は 抗 原 抗 体 反 応 を 利 用 し た は 数 μ g/g 含 有 レ ベ ル 以 上 の 特 定 原 材 料 検査法の1つで、食品中の特定原材料由 等の総タンパク質を含有する食品につい 来タンパク質の定量的検出にはサンドイ ては表示が必要と考えられる」とされた ッ チ ELISA 法 が 用 い ら れ る (図 3 ) 9 ) 。 本 ことに基づき、スクリーニング検査で食 法では、プレートに固相化、及び酵素標 品採取重量1g あたり特定原材料由来の 識した2種類の抗体を用い、抗原である タ ン パ ク 質 含 量 が 10μ g 以 上 (10 ppm 以 目的物質を検出する。 上 )の 場 合 陽 性 と 判 断 し て い る 10) 。 現在、アレルギー物質含有食品の検査 た だ し 、 ELISA 法 は 交 差 反 応 性 が あ る に 用 い ら れ て い る ELISA 法 は 、 検 査 特 性 場合、偽陽性が生じる可能性がある。ま の違いにより①複合抗原を認識するポリ た偽陰性を示す食品が存在するので、そ クローナル抗体を利用したもの、②単一 の判断には十分な注意が必要であり、検 あるいは精製抗原を認識するポリクロー 査にあたっては毎回偽陽性または偽陰性 ナル抗体を利用したもの、③モノクロー を示す食品リストを参照し、必ず偽陽性 抗体固相化プレート 抗体 アレルギー物質 酵素標識抗体 一次反応 二次反応 酵素反応 <一次反応>:プレートに固相化された抗体にアレルギー物質が結合する。 <二次反応>:プレートの抗体と結合したアレルギー物質に酵素標識した抗体 がサンドイッチのように結合する。 <酵素反応>:酵素基質を加えると、酵素分解により発色する。 酵素基質反応物 この発色の程度を測定する。 図3 ELISA 法の測定原理9) 4 た だ し 、 PCR 法 は 食 品 の 加 工 過 程 で の または偽陰性の確認を実施する必要があ る 。ま た 、え び・か に の 検 査 で は「 え び 」 加 熱 等 に よ る DNA の 変 性 な ど の 影 響 で 、 と「かに」を区別せず「甲殻類」として アレルゲンタンパク質を含む試料におい 検 出 す る 8 )。 て も 試 験 対 象 DNA の 増 幅 バ ン ド が 得 ら れ ない場合が報告されていることから 1 1 )~ B - 1 .確 認 検 査;PCR(Polymerase Chain 13) Reaction)法 (小 麦 、そ ば 、落 花 生 、え び 、 あ る 。判 断 樹 に つ い て の 解 説 に は 、 「確認 かに) 検査の陰性結果がスクリーニング検査の ELISA 法 陽 性 、 か つ 当 該 食 品 中 に 含 有 、陰性の結果の判断には注意が必要で 陽性結果を完全に否定するものではな い 」 と あ る 8 )。 す る 旨 の 表 示 が な い 場 合 (図 2 -⑧ , ⑨ )、 PCR 法 に よ り 確 認 検 査 を 行 う 8 ) , 10 ) 。 タ ン パ ク 質 を 測 定 す る ELISA 法 や ウ エ B-2.確認検査;ウエスタンブロット スタンブロット法は、近縁種原材料との 法 (卵 、 乳 ) 交差反応が起きる。そのため特定原材料 確 認 検 査 は 上 記 の B- 1 .PCR 法 で 行 う のうち、小麦、そば、落花生、えび、か のが基本であるが、卵および乳に関して に に つ い て は 、 そ れ ぞ れ に 特 異 的 な DNA は、鶏卵と鶏肉の遺伝子、牛乳と牛肉の 領 域 を PCR に よ っ て 増 幅 し 検 出 す る 。PCR 遺 伝 子 は 同 一 で あ る た め PCR 法 で は そ れ 法は特異性を高めることが可能で、例え ぞれを区別できない。そのため卵、乳の ば 小 麦 検 知 の た め の ELISA 法 で は ラ イ 麦 、 確認検査はウエスタンブロット法により オ ー ツ 麦 は 偽 陽 性 と な る が 、 PCR 法 で は 行 う 3 ) ,8 ), 1 0) 。 陰性となる。また、タンパク質測定法に ウエスタンブロット法は試料から抽出 比 べ PCR 法 は 加 工 品 へ の 適 用 範 囲 が 広 い したタンパク質を、ポリアクリルアミド ため、最終製品の検査に有効な手段であ ゲル電気泳動で分離した後にナイロン等 る。 の膜に転写し、その膜上で抗原抗体反応 PCR 法 に お い て は 試 料 か ら 抽 出 し た を 行 い 試 験 対 象 の タ ン パ ク 質 (卵:卵 白 ア DNA を 鋳 型 と し て 、 特 定 原 材 料 に 特 異 性 ルブミン、オボムコイド、牛乳:カゼイ の 高 い DNA 領 域 を 認 識 す る プ ラ イ マ ー 対 ン 、 β -ラ ク ト グ ロ ブ リ ン )の 分 子 量 の 位 と酵素反応によって増幅した後、増幅産 置に明瞭なバンドを確認することで、目 物を電気泳動により分離してバンドとし 的とするタンパク質の有無を検知する。 て検出する。検査手順は、まず陽性対照 この方法は分子量の情報が得られる点で 用プライマー対として葉緑体をターゲッ ELISA 法 よ り 特 異 性 に 優 れ て い る 3 ) 。 ト と し た 植 物 DNA 検 出 用 プ ラ イ マ ー 対 ま たはミトコンドリアをターゲットとした 5.当 所 におけるアレル ギー物 質 含 有 食 品 動 物 検 出 用 プ ラ イ マ ー 対 を 用 い た PCR 増 検 査 について 幅 を 行 い 、 そ の 結 果 か ら PCR 増 幅 に 必 要 愛知県ではアレルギー物質表示が義務 と さ れ る 品 質 を 備 え た DNA が 抽 出 さ れ て 化 さ れ た 平 成 13 年 度 当 初 か ら ア レ ル ギ いることを確認する。次いで検査対象に ー物質含有食品検査を実施してきた。平 特 異 性 の 高 い プ ラ イ マ ー を 用 い た PCR 増 成 19 年 度 ま で は 食 品 衛 生 検 査 所 (現 : 衛 幅 を 行 い 試 験 対 象 DNA の 有 無 を 検 知 す る 生研究所食品衛生監視・検査センター) 3) で 、平 成 20 年 度 か ら は 当 所 医 動 物 研 究 室 。 5 表 2.当 所 が実 施 したアレルギー物 質 含 有 食 品 検 査 結 果 卵 陽性数 平成20年度 平成21年度 平成22年度 平成23年度 平成24年度 合計 陽性率 検体数 0 20 0 20 0 20 0 20 0 20 0 100 0.0 % 牛乳 陽性数 検体数 0 20 0 20 0 20 0 20 0 20 0 100 0.0 % 小麦 陽性数 検体数 0 20 2 20 0 20 1 20 1 20 4 100 4.0 % そば 陽性数 検体数 落花生 陽性数 3 20 0 20 2 20 2 20 3 20 10 100 10.0 % 検体数 0 20 0 20 0 10 0 10 0 10 0 70 0.0 % えび・かに 陽性数 検体数 0 10 1 10 4 10 5 30 16.7 % 陽性数 総検体数 3 2 2 4 8 19 3.8 % 100 100 100 100 100 500 * 陽性数は検体の原材料表示欄に検査対象物質の記載がなく、スクリーニング検査陽性となったもの。 ** えび・かには平成20年6月に「特定原材料」に追加され、平成22年度より検査実施。すべて「えび」陽性、「かに」陰性であった。 で 実 施 し て い る 。平 成 20~ 24 年 度 に 当 所 入する可能性が高い。例として、原材料 で実施したアレルギー物質含有食品の検 である魚介類がえび・かにを捕食してい 査結果を表2に示す。5年間の検査での る 場 合 (魚 肉 ね り 製 品 等 )、 魚 介 類 を 網 で 陽 性 率 は 3.8 % ( 原 材 料 表 示 欄 に 検 査 対 採 取 す る 際 え び・か に も 混 獲 す る 場 合 (し 象物質の表示がなく、スクリーニング検 ら す 、ち り め ん じ ゃ こ 等 )、え び・か に が 査 結 果 が 陽 性 と な っ た 検 体 数:19/総 検 体 海 藻 類 に 付 着 す る 場 合 (海 苔 製 品 等 )、 え 数 : 500)で あ っ た 。 陽 性 と な っ た 項 目 と び・か に が 貝 類 に 寄 生 す る 場 合 (ア サ リ 等 そ の 陽 性 率 は 小 麦 4.0% (4 /100)、 そ ば 二 枚 貝 )等 が あ る 。水 産 加 工 品 に つ い て は 10.0% (10/100)、 え び 16.7% (5 /30)で 使用原材料についての実態把握が重要で あった。陽性となった製造施設の調査で ある は、原材料としてアレルギー物質を使用 率 (16.7% )で あ っ た 。 な お 、 陽 性 と な っ しない食品を製造する際に、製造過程で た検体にはすべて注意喚起表示があった。 アレルギー物質が意図せず最終加工食品 アレルギー物質の注意喚起表示は、消 に 混 入 (コ ン タ ミ ネ ー シ ョ ン )し た 事 例 が 費者に注意を促す点で有用であるが、過 多かった。当所の検査で小麦とそばが高 剰な表示はアレルギー患者の食品選択の い陽性率であったのは、この二つの原材 幅 を 過 度 に 狭 め て し ま う 恐 れ が あ る 7 )。 料は多くが粉末状であることから製造過 特定原材料の表示制度とそれに伴う検 程で空中へ飛散しやすく、コンタミネー 査 が 始 ま っ て 約 12 年 に な る 。そ の 間 、検 ションが発生しやすいためと推測された。 査と食品衛生監視員による製造施設等の また、アレルギー物質表示の不備が原 監視・指導によって表示の適正化が進め 因 で あ る 食 品 の 自 主 回 収 情 報 (消 費 者 庁 られ、健康被害防止に効果があったと考 HP: 食 品 表 示 、 ア レ ル ギ ー 表 示 に 関 す る えられている。また、この間に食物アレ 情 報 、ア レ ル ギ ー 表 示 違 反 事 例 ) 1 4 ) 等 を み ルギーの現状に即した制度となるよう数 ると、アレルギー物質の混入やアレルギ 度の検査制度等の改正がなされたが、公 ー物質表示の不備は、多くの場合人為的 定 検 査 法 に つ い て は ELISA 法 (ス ク リ ー ミスにより発生していることが読み取れ ニ ン グ 検 査 ) で 陽 性 と な っ た 検 体 が PCR る。製造施設での従業員の教育訓練、原 法 (確 認 検 査 )で 陰 性 と な る 事 例 が 報 告 さ 材料受け入れの際のアレルギー物質含有 れる等の問題点があり の有無の確認等が重要となる。 物アレルギーの実態に対応したアレルギ さらに、えび・かには、生態や原材料 15) 。当 所 の 検 査 で は え び が 高 い 陽 性 1 1 )~ 1 3 ) 、今後も食 ー患者の健康危害防止に役立つ表示、検 の採取方法により加工食品に意図せず混 査となることが求められる。 6 6.参 考 文 献 10) 食 品 衛 生 検 査 指 針 理 化 学 編 2005 : 1)消 費 者 庁 : ア レ ル ギ ー 物 質 を 含 む 加 工 240-276,2005、(社 )日 本 食 品 衛 生 協 会 、 食 品 の 表 示 ハ ン ド ブ ッ ク (事 業 者 向 東京. け ); http://www.caa.go.jp/foods/ 11)橋 本 博 之 、眞 壁 祐 樹 、長 谷 川 康 行 、佐 pdf/syokuhin560.pdf 二 木 順 子 、 宮 本 文 夫 : ネ ス テ ッ ド PCR 2) 日 本 小 児 ア レ ル ギ ー 学 会 ホ ー ム ペ ー 法 を 用 い た 食 品 中 の 特 定 原 材 料 (小 麦 ) ジ:食物アレルギー診療ガイドライン の検出,食品衛生学雑誌 2012 ダ イ ジ ェ ス ト 版 ; 2008. http://www.jspaci.jp/jpgfa2012/ 3)日 本 食 品 衛 生 学 会 編 集 49: 23-30, 12)橋 本 博 之 、伊 藤 歌 奈 子 、田 中 裕 之 、穐 食品安全の辞 山浩、手島玲子、眞壁祐樹、中西希代 典 : 262-268, 2009、 朝 倉 書 店 、 東 京 . 子、宮本文夫:モデル加工食品を用い 4)海 老 澤 元 宏:食 物 ア レ ル ギ ー に つ い て , た 特 定 原 材 料 (小 麦 )検 査 に お け る ネ ス 食品衛生研究 59 (1): 17-25, 2009. テ ッ ド PCR 法 の 検 討 , 食 品 衛 生 学 雑 誌 5)今 井 孝 成 、 海 老 澤 元 宏 、 板 橋 家 頭 夫 、 50: 178-183, 2009. 伊藤浩明:食物アレルギーの発症・重 13)荻 野 賀 世 、松 本 ひ ろ 子 、牛 山 博 文:加 症化予防に関する研究,厚生労働科学 工 食 品 中 の 特 定 原 材 料 検 査 (小 麦 )に お 研究、免疫アレルギー疾患等予防・治 け る PCR 法 の 検 討 , 東 京 都 健 康 安 全 研 療 研 究 事 業 、平 成 20 年 度 統 括・分 担 研 究センター研究年報 究 報 告 書 , 2009. 2008. 59 : 149-153 , 6)食 品 衛 生 法 施 行 規 則 及 び 乳 及 び 乳 製 品 14)消 費 者 庁:食 品 表 示 、ア レ ル ギ ー 表 示 の成分規格等に関する省令の一部を改 に関する情報、アレルギー表示違反事 正 す る 省 令 、平 成 13 年 厚 生 労 働 省 令 第 例 ; http://www.caa.go.jp/foods/ 23 号 、 平 成 13 年 3 月 15 日 index8.html 7)ア レ ル ギ ー 物 質 を 含 む 食 品 に 関 す る 表 15)安 達 玲 子 、酒 井 信 夫 、穐 山 浩 、手 島 玲 示 に つ い て 、消 食 表 第 257 号 、平 成 25 子:特定原材料えび・かにの表示と検 年 9 月 20 日 査 法 に つ い て ,食 品 衛 生 研 究 59 (4): 8)ア レ ル ギ ー 物 質 を 含 む 食 品 の 検 査 方 法 7-14, 2009. に つ い て 、 消 食 表 第 286 号 、 平 成 22 (文責:生物学部医動物研究室 長谷川晶子) 年 9 月 10 日 9)プ リ マ ハ ム (株 ): 食 物 ア レ ル ギ ー 物 質 検 査 キ ッ ト ア レ ル ゲ ン ア イ ELISA. 取 扱 説 明 書 , 平 成 22 年 8 月 初 版 7 愛知衛研技術情報 第37巻第1号 平成26(2014)年 1 月 21 日 照会・連絡先 愛知県衛生研究所 〒462-8576 名古屋市北区辻町字流7番6号 愛知県衛生研究所のホームページ【http://www.pref.aichi.jp/eiseiken】 所 長 室: 次 長: 研 究 監: 総 務 課: 企画情報部長: 健康科学情報室: 052-910-5604 052-910-5683 052-910-5684 052-910-5618 052-910-5619 052-910-5619 生物学部長: ウイルス研究室: 細菌研究室: 医動物研究室: 衛生化学部長: 医薬食品研究室 生活科学研究室 代表 FAX: 052-913-3641 8 052-910-5654 052-910-5674 052-910-5669 052-910-5654 052-910-5638 052-910-5639 052-910-5643