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Spanish Dolphins∼スペインのイルカ∼ (2007 年 9 月1日∼9 月 12 日) Alboran 海におけるクジラ目とウミガメの 生態観察及び保護 東京大学大学院 佐々木正憲 (C)Ana Canadas プロジェクトの概要 目的・方法 大西洋と地中海の唯一の水の交換場所で ある Alboran 海でかつて普通に見られた イルカなどのクジラ目は、今日それらを 見ることは稀になるほどにその数が減少 している。研究者たちはその謎を解明す ると同時に、クジラ目の保護を目的とし た海洋保護区 MPA(Marine Protected Area)の Alboran 海における効果的な設 Spain Atlantic ocean 定に向け、クジラ目やウミガメの生態調 Alboran sea 査とその個体数の長期的な推移、また食 物連鎖の上位にあるそれらの動物を指標 とした当該海域の健康度の調査を行うことが、本プロジェクトの目標である。具体的には以下の 4 点を目標とする。 ¾ クジラ目の個体群観測 個体数推定とその変化傾向、居住選好、社会組織の調査 ¾ 動的環境における効果的な MPA の設定 クジラ目、海鳥、ウミガメの頻出地域の調査 ¾ ウミガメの個体群観測 個体数推定とその変化傾向、居住選好の調査 ¾ 漁業のクジラ目への影響の軽減 効果的な ADD のテスト、コントロールシステムの開発 重点的に海洋環境を保護する MPA の設定がうまくいけば、多種多様の海の恵みを持続的に享 受できる仕組みができるため、消費者・地元の漁師・環境保護団体などのさまざまな利害関係者 にとって良い形で解決できるという点でとても重要な試みである。 メンバー メンバーは最大 13 人、9 ヵ国と国際色豊かであった。 途中の 3 日間、BBC のスタッフの方 2 名が取材を兼ねてボランティアとして参加した。 AnaCanadas(スペイン) Ricardo“Ric”Sagarminaga(オランダ系スペイン) Jeppe(デンマーク) Carol(ドイツ) David(スペイン) Assia(アルジェリア) Dann(南アフリカ)…ボランティア Celine(フランス)…ボランティア Brenda(イギリス)…ボランティア Samantha(オランダ)…ボランティア 調査船 Toftevaag 号 Simon(イギリス)…BBC Tom(イギリス)…BBC 私(日本)…ボランティア Jeppe&Carol BBC スタッフ Simon&Tom Ana Canadas&Noah Ricardo Sagarminaga ボランティアの役割 調査船 Toftevaag 号での調査(effort)には、通常(watching)の仕事と、イルカやクジラを発 見した時(sighting)の仕事がある。通常(watching)の仕事は、1 時間毎にそれぞれの役割を 交代していく。 【Watching】 ¾ Port/Starboard side 双眼鏡を用いて、左舷(Portside)と右舷(Starboard side)に分かれてクジラ目とウミガメを探す。ずっ と双眼鏡をのぞいていると酔いやすいので、5 分に 1 度程度、船首から後方へゆっくり水平線を見てい くと良いと教えられた。 ¾ 海の彼方までくまなく探す Wheel 操船を行う。船長 Ric に言われた方向へ、次の指示 があるまで船の針路を保つ。波や風の影響ですぐ船 の方向が変わってしまうので、それらが強い時は方 向を保つだけでも苦労した。指示は北を 0 度、東を 90 度とした角度で伝えられることが多い。 ¾ Environmental/Shipsdata GPS とコンパスで進路をチェック 20 分毎に GPS と音響測深器(echo-sounder)を用 いて以下の項目についてデータブックに記入する。 記入したデータは研究者が PC に入力する。 Position(緯度・経度) Depth Scattering layer(水深・密度) Fish(水深・密度) Search condition(1-4) Wind(強さ・向き) 船の周囲の環境を記入 Sea state(1-4) Swell(波の高さ・向き) Ships(cargo ship、tanker or gas、military、ferry、motorboat、sailing boat、 whale-watching boat、trawler、long-liner、gill neter、sport fishing boat、purse seiner、 trapnets boat、clamb fishing boat、unidentified boat) 【Sighting】 ¾ Behaviors 行動について観察・記録を行う。 ¾ Photo identification 後の固体識別のために、イルカやクジラ の背びれ・尾びれの写真を撮る。 ¾ Environmental / Ships data 上記 Environmental / Ships data と同じ。 発見した時点でのデータを記入する。 ¾ イルカを発見!スタッフは Photoidentification を行う Wheel 操船。スタッフが Photo identification などの作業を行いやすいように、船をクジラ目の集 団にゆっくりと近づける。 事前の話だと以上 4 つの仕事があるはずだったが、スタッフがたくさんいたせいか、実際は Wheel 以外の仕事は行われなかった。ボランティアは必要があればその都度研究者の手伝いをした。 また、ボランティアには日常の仕事として、以下の 3 つの仕事がある。それぞれ 2 人で行い、2 日ごとに交代していく。 【Daily duties】 ¾ Wash up 食後、使った食器類を洗って片付ける。 ¾ Galley 朝、昼は船のキッチンからパンやシリアル等の食糧を甲板に運び出し食事の準備をする。夜 は船にある材料と、もし必要ならスーパーで買った材料で船員全員分の夕食を用意する。み んな自分の得意料理を披露。 ¾ Cleaning 食後、パンやシリアル等の食糧を片付け、トイレやキッチンの掃除、ゴミ捨て等、船を清潔 に保つ。 一日の流れ 7:00-7:30am:起床。船長 Ric のかける船のエンジン音でみんな飛び起きる。マリーナのシャワー・ トイレで朝支度を済ませる。 8:00am :出港。船の staff と galley の人が用意した朝食(パン、シリアル、クラッカー、コ ーヒー、ジュース、フルーツ)を食べつつマリーナを出る。朝食が終わったらさ っそく effort 開始。 1:00pm :昼食。海の上なので、朝食同様簡単に済ませる。パン、サラダ、ジュース、フルー ツ。 3:00-8:00pm:帰港。マリーナに着くと 9:00pm の夕食まで自由時間。みんな日記を書いたり、街 に散歩にでたり、音楽を聴いたり、本を読んだり思い思いの時間を過ごす。galley の人は 6:00pm 頃から夕食の準備を始める。 9:00pm :夕食。その日あった出来事などの話題で盛り上がる。食後は Ric が天気や風の予 報から、おおまかに次の日の予定をみんなに伝える。風が明らかに強いと分かって いる時は、この時出港中止が伝えられる。 プロジェクト期間中は風が強い日が多く、結局海に出 られた日は 12 日間中 6 日間であった。海の上では、平 均すれば 2 時間に 1 度はイルカやクジラを発見していた ように思う。Toftevaag 号では海の上でもゆったりと時 間が流れており、一時間同じ watching の仕事をしてい るとウトウトしかけてしまう時もあったが、そんな時で も、クジラ目発見の合図である「Sighting!!」の掛け声が 飛ぶといっきに目が覚め、Sighting 中は操船の役割があ った僕は、デッキ後部の舵に急いで向かい、 「なんの種類 だろう」「何頭くらいいるのだろう」とドキドキしながら 船を近づけていった。ゆっくりと走る船の舳先まで近づいて 船と一緒に泳ぐイルカ きて一緒に泳ぐイルカやクジラを見た時は本当に感動した。 また期間中 2 頭のウミガメを捕獲することができた。1 頭はまだ小さく、サイズ等の一通りの データを取った後すぐ海に返してしまったが、もう1頭は十分に大きかったので、データと共に 皮膚のサンプルを取り、甲羅の部分に発信機をつけて海に返した。つけた発信機で、海に放した 後のウミガメの進路の追跡調査を行い、生態調査に役立てる。 気候条件が悪く、海に出られない日は、研究者の方のプレゼンテーションを聞くことが多かっ た。学術的にしっかりと裏づけされた方法・手段で目標に向かっていることを教えられたと同時 に、研究者の方のその研究にかける情熱を感じた瞬間で もあった。 他の海に出られない日は、リクリエーションの日と して、Costa del Almeria といわれる San Jose という ビーチに泳ぎに行ったり、サッカーをしたりしたことも あった。普段は研究に対してひたむきなスタッフの方々 も遊ぶときは思い切り遊ぶといった様子で、ビーチを走 り回っていた。 ウミガメのデータを取る プロジェクトの体験から学んだこと このプロジェクト期間中は、自分の身の回りの自 然や人など全てが非日常で、自分のそれまでの小さ な世界にとどまっていては感じることのできなかっ たことを感じることができたように思う。せっかく スペインまで来たのだから、研究者に対して何かし ら有意義なお手伝いがしたいと意気込んで始まった ボランティアであったが、初日をはじめ期間中の何 日かは風などの条件が悪く海にでることはできなか った。僕としてはもう少し積極的に海にでてもいい のではないかと感じることもあったが、研究者の方々の「今日がだめでも明日があるよ」という、 決して焦ることのない姿勢を見て、きっとこれが自然のペースなのであろう思い、自分を含め都 市に生きている人々のあくせくとしたペースとのギャップというものを感じた。太古の昔から変 わっていない自然のペースと、益々速くなっている人間の生きるペースとのギャップが環境問題 を加速度的に進行させている一因とも思える。 また、海の経験も豊富にある研究者の方々は、海の恐さや優しさと同時に奥深さを知っており、 彼らはそんな自然に対して敬意を払っていることも感じた。長年 Alboran 海で調査を行い、多く のステークホルダーとの関係もあり誰よりも Alboran 海のクジラ目について知っていると言って もいい研究者の方々が、プレゼンテーションで Very little was known about cetaceans and seaturtles in Alboran という表現を用いて僕らに説明してくれたことは、人間が知っているこ となんて自然の中のほんの一部でしかないのだということを教えてくれた。この事実を忘れて、 人間は自然の全てまたは大部分が分かっていると思い込み、自分たちが本当は知らないことに対 しても「こうやったらこうなる」と考える傲慢な人 間中心の考え方とは大きく異なる考え方だと思う。 まずは自分が「知らない」という事実を謙虚に受け 止め、それでも少しでも真理に近づこうと、自然に 教えを乞おうとする姿勢に研究者としての理想の 姿を感じた。自然から教えられたたくさんのことを、 イルカやクジラを発見するたびに僕らに嬉しそう に説明してくれる時の、Ana のキラキラとした眼 がとても印象に残っている。 今回僕が参加したクジラ目などの保護に関する問題 では、日本人をはじめとしたマグロ漁の影響が大きい といったように、自分たちの日常生活やそのスタイル に環境問題の根が潜んでいることを改めて思った。も っと自分たちが環境の汚染や劣化に関与していること に敏感にならなければいけないと同時に、そうしたこ とを発信することの重要性を感じた。人のエゴや不平・不満などのマイナスの感情は他人や他国 といった、自分以外の「他」のものに対して起こる。自分たちが地球という星に住む同じ人間な んだということを本当に認識し、地球とそこに住む人間が「他」のものでなくなり、地球が上げ ている悲鳴がより聞こえるようになった時、環境問題の解決は大きく前進するように思う。その ために僕らができることは、もっと自然・地球に対して謙虚になり、僕らが地球という星の一員 なのだということを認識する、またはより深く認識できるように努力し続けることだと思う。 謝辞 今回のプロジェクトは、ありのままの自然・地球を見、肌で感じたい、環境問題に取り組む研 究者の方の情熱を感じたいという当初の願い以上のものを僕に与え、地球という星で生きる「自 分」というものを再認識させてくれました。また、自分がもしこのボランティアに参加しなかっ たら一生出会うことのなかったかもしれない人たち、国籍・年齢・立場・考え方が異なる人たち とひとつの船で、ひとつの目標を持ってある期間を一緒に過ごすという貴重な経験をさせていた だきました。 このような機会を与えてくださった Earthwatch 並びに日本郵船の皆様、Ana や Ricardo をは じめとした Toftevaag 号の乗組員の皆様、関係者の皆様に感謝の意を表します。ありがとうござ いました。