...

小児肺炎の現況-第2報 - 感染症学雑誌 ONLINE JOURNAL

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

小児肺炎の現況-第2報 - 感染症学雑誌 ONLINE JOURNAL
284
小児 肺 炎 の現 況-第2報炎症 反 応,臨 床 症状,理
学 的所 見 か らの検 討
千葉 市 立 海浜 病 院 小 児科1),千 葉 大 学 医学 部 小児 科2),千 葉 県 こ ど も病 院3)
石 和 田 稔 彦1)2)黒
Key words:
崎
知 道1)島
羽
剛1)3)新
(平 成6年10月31日
受 付)
(平 成6年12月13日
受 理)
pneumonia
in children,
要
美
仁 男2)
Mycoplasma pneumoniae
旨
小 児 入 院 肺 炎596例 の 病 原 体 検 索 を行 い,抗 生 剤 前 投 与 の な され る こ とが 多 い2次 病 院 に お い て,入 院
時,臨
床 的 に細 菌 性,ウ
イ ル ス 性,マ
イ コ プ ラ ズ マ性 肺 炎 の鑑 別 が 可 能 か ど う か の 検 討 を 行 っ た .起 炎
病 原 体 の判 明 した 症 例 は384例(64.4%)で
II群:洗
あ っ た.こ
浄 喀 痰 培 養 に て 優 位 細 菌 分 離 例,III群:マ
例,V群:細
菌+ウ
イ ル ス例,VI群:細
理 学 的 所 見 を比 較 検 討 した.そ
に比 べ,CRP高
値,赤
菌+マ
の 結 果,マ
れ ら を,1群:血
液 培 養,尿
イ コ プ ラ ズ マ 肺 炎 例,IV群:ウ
中 細 菌 抗 原 陽 性 例,
イル スの み診 断可能
イ コ プ ラ ズ マ 例 に分 類 し,入 院 時 炎 症 反 応,臨
床 症 状,
イ コ プ ラ ズ マ 性 肺 炎 は,末 梢 血 白 血 球 数 は 正 常 で,他
沈 値 の 充 進 を認 め,臨 床 症 状,理
の肺 炎
学 的 所 見 に 乏 し い とい う特 徴 が み られ た .し か
し,細 菌 性 肺 炎 とウ イ ル ス性 肺 炎 を鑑 別 す る こ と は 困 難 で あ っ た.
序
文
性 の細 菌 性 肺 炎 と ウイ ル ス性 肺 炎 は,鑑 別 可 能 か
小 児 肺 炎 の 入 院 症 例 の 診 療 に際 し,現 在 の病 診
連 携 を考 えた 場 合,わ
ど うか とい う疑 問 が あ る.こ の 点 を踏 ま え,肺 炎
れ わ れ2次 病 院 で は,抗 生
の病 原 体 検 索 を積 極 的 に行 い,入 院 時 の 炎 症 反 応,
剤 が 前 もっ て 投 与 さ れ て か ら紹 介 さ れ 入 院 す る症
理 学 的所 見,臨 床 症 状 か ら細 菌 性 か ウ イ ル ス 性 か
例 が 多 く,ま た 抗 生 剤 前 投 与 の 有 無 す ら は っ き り
マ イ コプ ラズ マ性 か鑑 別 可 能 か ど うか 検 討 す る こ
し な い症 例 も多 い.わ
とは,治 療 面 か ら も,日 常 診 療 上 重 要 な こ と と思
れ わ れ は,こ の よ う な状 況
下 で,入 院 時 に細 菌 性 肺 炎 か ウ イ ル ス性 か マ イ コ
わ れ る.そ
プ ラズ マ性 か を鑑 別 し適 切 な 治 療 を行 わ な けれ ば
とし て,抗 生 剤 前 投 与 の な され る こ との多 い2次
な ら な い.従 来,細 菌 性 肺 炎 とウ イ ル ス性 肺 炎 と
病 院 に お け る小 児 肺 炎 の 実 態 を検 討 した.
は,炎 症 反 応 の 強 弱 に よ り鑑 別 可 能 で あ る とい わ
れ て きた.
こで,当
科 に入 院 した肺 炎 症 例 を対 象
材 料 と方 法
1990年1月
か ら1991年12月 ま で の2年 間 に千 葉
しか し,そ の場 合 細 菌 性 肺 炎 の 診 断 は,血 液 培
市 立 海 浜 病 院 小 児 科 に入 院 した 肺 炎596例 の うち
養 陽性 も し くは胸 水 よ り細 菌 培 養 陽 性 で な され て
起 炎 病 原 体 の 判 明 し た384例 を対 象 と した.そ の 内
い る.と
訳 は,細 菌 感 染167例,マ
ころ が,肺 穿 刺 培 養 にて 細 菌 性 肺 炎 と診
断 さ れ た 症 例 で の 血 培 陽 性 率 は,わ ず か13%と
わ れ て い る1)こと を考 え た 場 合,他
別刷 請 求 先:(〒260)千
-1
言
の血液 培養 陰
葉 県 千葉 市 中央 区玄 鼻1-8
千 葉 大 学 医学 部 小児 科
ク ラ ミジ ア感 染6例,ウ
2種 類 以 上 の細 菌,ウ
イルス及 びマイ コプラズマ
の重 感 染 例 を含 め る と,起 炎 病 原 体 判 明 例 は384例
で あ った(Table1).調
石 和 田稔 彦
イ コプ ラズ マ感 染89例,
イ ル ス 感 染178例 で あ り,
査 方 法 と して,著 者 らが,
そ れ ぞ れ の カ ル テ を調 べ 後 方 視 的 に検 査 デ ー タ,
感染症学雑誌
第69巻 第3号
小児肺炎の現況 第2報
Table
1
Etiologic
patients
with
diagnoses
in 596 pediatric
285
取 を原 則 と した.
in-
pneumonia
病 原 体 の判 明 した 症 例 を,1群:血
(1990-1991)
中 細 菌 抗 原 陽性 例,II群:洗
液 培 養,尿
浄 喀 痰 培 養 にて 有 意
細 菌 分 離 例,III群:マ イ コ プ ラ ズ マ 肺 炎 例,IV群:
ウ イル ス の み 診 断 可 能 例,V群:細
の 重 感 染 例,VI群:細
染 例 の6群
菌+ウ
イル ス
菌 十マ イ コ プ ラ ズ マ の重 感
に分 類 し(Table2),各
白血 球 数,CRP値,赤
群 間で入院時
沈 値,臨 床 症 状,理 学 的所
見 に つ い て比 較 し,入 院 時 に細 菌 性 か ど うか 鑑 別
可 能 か を検 討 し た.有 意 差 の検 定 に は,t検 定 を 用
い た.
成
績
1)抗 生 剤 入 院 前 投 与 の有 無 に つ い て
病 原体 判 明 例 中,当 院 入 院 前 の抗 生 剤 投 与 の 有
無 に つ い て 調 べ た と こ ろ,明
らか に抗 生 剤 投 与 を
受 けて い た 症 例 は182例(47.4%),受
Reference
た症 例 は135例(35.2%),不
2)
と,明
Table
2
Etiological
classification
of
明 例 は67例(17.4%)
らか に抗 生 剤 の 前 投 与 を受 けて い な か った
症 例 は,わ ず か35.2%に
inpatients
けていなか っ
す ぎず,残
る64.8%の
with pneumonia
Group I:
Pneumonia
pneumonia
urine
Group II:
Pneumonia
with blood
with bacterial
with
or
Fig. 1
antigen positive in
See Table
culture
dominant
positive
bacterial
White
blood
cell count
with 6 groups
2
path-
ogens in washed sputum
Group III: Mycoplasma pneumonia
Group IV:
Viral pneumonia
Group V:
Group VI:
Bacterial (I, II) + Viral pneumonia
Bacterial (I, II) +mycoplasma
pneumonia
臨 床 症 状,理
学 的 所 見 な ど の記 録 を 集 計 し た.原
因検 索 は,入 院 時 臨 床 症 状,胸 部X線
像 か ら肺 炎
と診 断 した症 例 に対 し血 液 培 養,洗
浄 喀 痰 培 養,
Staphylococcal
に よ る尿 中細
Coagglutination法
菌 抗 原 検 出 の 有 無 に よ っ て,細 菌 性 肺 炎 の診 断 を
行 っ た.さ らにRSウ
イ ル ス,ア デ ノ ウイ ル ス,パ
ラ イ ン フル エ ン ザ ウイ ル ス に 関 して は,急 性 期 と
回 復 期 血 清 を用 い て 抗 体 価 を測 定 し,4倍
上 昇 を有 意 の抗 体 上 昇 と判 定 した.ま
以上の
た,冬 期 に
限 っ て イ ン フ ル エ ンザ ウ イ ル ス の 抗 体 価 を,ま た
臨 床 上 疑 わ れ る症 例 に対 し'麻 疹 ウ イ ル ス,百
日
*:
咳 菌,ク
ラ ミジ ア ・ トラ コマ ー チ ス の抗 体 価 を測
定 した2).抗 生 剤 前 投 与 の有 無 に つ い て は,病 歴 聴
平 成7年3月20日
P≦0,05
症
石和田稔彦 他
286
Fig.
2
C-reactive
groups
See Table
*:
protein
concentration
with
6
Fig.
3
Erythrocyte
groups
See Table
2
sedimentation
rate
with
6
2
P≦0.05
*:
Table
3
- with
Comparison
or without
of inflammatory
antibiotic
findings
administration
in bacterial
before
pneumonia
P≦0.05
patients
admission-
(): Standardization
*: p<0 .05
例 は何 らか の 抗 生 剤 の 前 投 与 を受 けて い た 可 能 性
各 群 の 平 均 値 は,I群:1.4mg/dl,
が あ る と思 わ れ た.抗 生 剤 の 種 類 と し て は,amox.
mg/dl,
icillin(AMPC),
1.5mg/dl,
VI群:2.1mg/dlで
群 とIII群,
II群 とVI群,
cefaclor(CCL)な
どの経 口 β
ラ ク タ ム 剤 が 多 か っ た.
2)入
院 時 炎 症 反 応 につ い て
(1)入
院 時 白 血 球 数(Fig.1)
I群:
12,300±6,700,
III群: 7,200±2,800,
10,700±5,500,
VI群:
定 に てIII群 は,他
く1群
とVI群,
(2)入
11,900±5,200,
9,300±5,200,
9,300±2,900で
V群:
あ り,t検
の全 て の群 に比 較 して 有 意 に低
II群 とVI群,
有 意 差 を 認 め た.
院 時CRP値(Fig.2)
II群:1.2
IV群:1.0mg/dl,
V群:
あ り, t検 定 に てII
III群 とIV群,
IV群 とVI群
の 間 に有 意 差 を認 め た 。
(3)入
II群:
IV群:
III群:1.9mg/dl,
II群 とIV群 の 間 に も
院 時 赤 沈 値(Fig.3)
各 群 の 平 均 値 は,I群:16.2mm/h,
mm/h,
III群:29.6mm/h,
群:24.3mm/h,
I群,
VI群:30.6mm/hで
III群 とII群,
II群:19.9
IV群:19.4mm/h,
V
あ り, III群 と
III群 とIV群 で, VI群
とI,II,
IV群 で I群 とII群 で 有 意 差 を 認 め た.
3)細
菌 性 肺 炎 症 例 の抗 生 剤 入 院 前 投 与 の 有 無
に よ る 入 院 時 炎 症 反 応 の 比 較(Table3)
感染症学雑誌 第69巻
第3号
小児肺炎の現況
Fig. 4
See Table
Clinical
symptoms
第2報
and physical
examination
について入院前
VI群 に比 べ有 意 に多 か っ た.
考
抗 生 剤 投 与 の 有 無 に よ り入 院 時 白 血 球 数,CRP
沈 値 を比 較 した.そ
は,白 血 球 数,CRPの
with 6 groups
2
細 菌 性 肺 炎 と診 断 し たI,II群
値,赤
287
の 結 果,1群
にお い て
平 均 値 は抗 生 剤 前 投 薬 で
察
小 児 の 日常 診 療 の 中 で,感 染 症 の 占 め る割 合 は
多 く,と
りわ け気 道 感 染 症'特
に肺 炎 は,そ の 中
あ っ た 症 例 が,な か っ た 症 例 に比 較 し低 値 を 示 し,
で 重 要 な疾 患 で あ り,当 科 に お い て も,1990年,
赤 沈 値 は高 値 を示 し た が,症 例 数 が 少 な か っ た こ
入 院 総 数1,233名 中,315名(25.5%),1991年,入
と も あ り,有 意 差 は認 め な か った.ま
院 総 数1,165名 中,281名(24.1%)で
お い て は,や
た,II群
に
は り抗 生 剤 前 投 薬 の あ った 症 例 が,
な か っ た症 例 に比 べ,白 血 球 数,CRPの
平均値 は
Fig.4に
で は,抗 生 剤 投 与 の対 象 とは な り えな い.し か し,
効 性 が 確 立 さ れ て お り,ウ イ ル ス 性 か 細 菌 性 か,
学 的所見 について
示 す.全 有 熱 期 間(1日
の段 階
これ に続 発 す る細 菌 性 肺 炎 で は,抗 生 剤 投 与 の 有
低 値 を示 し,赤 沈 値 は 有 意 に高 値 を示 した.
4)入 院 時 臨 床 症 状,理
あ っ た.急
性 肺 炎 は ウ イル ス性 の も のが 大 部 分 で,こ
の う ち38.5℃
マ イ コ プ ラ ズ マ性 か を鑑 別 し,さ ら に起 炎 菌 の 頻
以 上 の発 熱 を認 め た期 間)に 関 して は各 群 に差 は
度 を知 り,そ れ に対 す る抗 生 剤 の 選 択 を行 う こ と
認 め な か った.咳 嗽 に関 して は どの群 に お い て も,
は,日 常 診 療 上 大 切 な こ と と思 わ れ る.と ころ で,
湿 性 咳 嗽 が 多 く認 め られ た が'特 に,II,V群
現 在 の 病 診 連 携 を考 え た場 合,わ
III,IV,VI群
に比 べ 有 意 に多 か った.ま
で,
た,III群
れ わ れ2次 病 院
で は'抗 生 剤 が 前 も っ て投 与 され て か ら紹 介 さ れ
とVI群 にお い て はII群 とV群 と比 較 し,乾 性 咳 漱
入 院 す る症 例 が 多 く,ま た 抗 生 剤 前 投 与 の 有 無 す
を認 め る症 例 が 有 意 に多 か っ た.努 力 性 呼 吸 の 有
ら は っ き り しな い 症 例 も多 い.そ
無 に 関 して は,III群 とVI群 とで 努 力 性 呼 吸 の な い
症 例 は臨 床 経 過 上,何
症 例 がII群 とV群 に比 べ 有 意 に多 か っ た.聴 診 所
能 性 が あ る.し か し,わ れ わ れ は この よ う な状 況
見 上,各
下 で,入
群 と も不 連 続 性 ラ音 が 主 体 で あ った が,
III群で は,聴 診 所 見 を認 め な い もの がI,II,V,
平 成7年3月20日
して,こ れ らの
らか の 修 飾 を受 けて い る可
院 時 に細 菌 性 肺 炎 か ウ イ ル ス性 か マ イ コ
プ ラ ズ マ性 か を鑑 別 し,適 切 な治 療 を行 わ な け れ
石和田稔彦 他
288
ば な らな い の が 実 情 で あ る.そ
こで,当 科 に入 院
した 肺 炎症 例 に つ い て,抗 生 剤 前 投 与 の な され て
報 告 は皆 無 で あ っ た.
わ れ わ れ は,細 菌 性 肺 炎 を,血 液 培 養,尿
中細
い な い症 例 ばか りで な く,全 て の 症 例 を含 め て 実
菌 抗 原,洗 浄 喀 痰 培 養 を用 い て診 断 し,病 原 体 検
際 の臨 床 の 場 で,入 院 時 に 白血 球 数,CRP値,赤
索 を行 い,起 炎 病 原 体 の判 明 した症 例 をI∼VI群
沈 値,及
に分 け て比 較 した.入 院 時 の 白血 球 数,CRP値,
び 臨 床 症 状,理
学 的所 見 か ら鑑 別 可 能 か
ど うか を検 討 した.こ れ ま で,細 菌 性 とウ イ ル ス
赤 沈 値 に つ い て は,マ イ コ プ ラ ズ マ 単 独 感 染 群 及
性 肺 炎 の 鑑 別 に つ い て は,白 血 球 増 多,CRP強
び マ イ コ プ ラ ズ マ+細 菌 の 重 感 染 群 と も にCRP
陽
性,赤 沈 値 高 度 亢 進 は細 菌 性 肺 炎 で あ り,白 血 球
値,赤
増 多 を認 めず,炎 症 反 応 も軽 微 な もの は,ウ イ ル
が 強 い と予 想 され た 細 菌 性 肺 炎 及 び細 菌 性+ウ
ス 性 も し くは マ イ コプ ラ ズ マ性 肺 炎 で あ る と され
ル ス 性 の重 感 染 群 の炎 症 反 応 は,マ イ コ プ ラ ズ マ
て い た3)4).し か し,こ れ らの報 告 の 細 菌 性 肺 炎 の
関与 群 と比 較 す る と有 意 に弱 か っ た.ま た,1,
診 断 は,血 液 培 養 陽性 あ る い は,胸 水 よ り細 菌 培
II群 とIV群 の 炎 症 反 応 で差 が な く,細 菌 性 とウ イ
養 陽 性 に よ っ て な され て い る.し か し,Silverman
ル ス 性 肺 炎 を 炎 症 反 応 の み で 鑑 別 す る こ とは,困
ら は,肺 炎 の 診 断 を肺 穿 刺 培 養 と血 液 培 養 で比 較
難 で あ る と思 わ れ た.こ れ は,1つ
し,血 液 培 養 陽 性 率 は13%に
先 ほ ど述 べ た よ う に,細 菌性 肺 炎 の診 断 に洗 浄 喀
て お り,あ
との80数%の
す ぎ な い1)と報 告 し
細 菌 性 肺 炎 は どの よ うな
沈 値 と も比 較 的 高値 を示 した が,炎 症 反 応
疾 培 養 を加 え た 点 で あ ろ う.そ
イ
の 理 由 と し て,
して,も
う一 つ の
臨 床 経 過 を呈 す る の か と い う疑 問 が あ る.ま た,
理 由 と し て は,わ れ わ れ の よ う な2次 病 院 で は,
Ponkaら
病 原 体 の 確 定 が な され ぬ ま ま抗 生 剤 の投 与 を受 け
は,成 人 を含 めた 肺 炎 患 者 の 検 討 で,肺
炎 球 菌 性 肺 炎,ウ
イ ル ス 性 肺 炎,マ
イ コプラズマ
性 肺 炎 で炎 症 反 応,理 学 的 所 見,臨 床 症 状,エ
ッ
紹 介 入 院 とな る症 例 が 多 々 あ り,臨 床 経 過 が 修 飾
さ れ て い る可 能 性 が あ る た め で あ ろ う.こ の 点 に
ク ス 線 か ら鑑 別 可 能 か ど うか 検 討 して い るが,彼
関 して入院 前 の抗生 剤 投 与 に つ いて調 べ た と こ
ら に よ る と,肺 炎 球 菌 性 肺 炎 は他 の肺 炎 に比 べ,
ろ,65%の
発 症 が 急 で,聴 診 上 異 常 所 見 を認 め る もの が 多 く,
る可 能 性 が あ る こ とが わ か っ た.投 与 薬 剤 につ い
か つ発 熱 の 程 度 も高 く炎 症 反 応 も強 い 傾 向 が あ
て調 べ て み る と,や は り β ラ ク タム 剤 が第1選
る.一 方,ウ
イ ル ス性 とマ イ コ プ ラ ズ マ 性 の鑑 別
と して使 用 され て い た.細 菌 性 肺 炎 の 多 くが β ラ
は 困 難 で あ る とし て い る.し か し,彼 ら は,以 上
ク タ ム 剤 に対 し,感 受 性 が あ る こ とか ら も,こ の
の 結 果 が 細 菌 性 肺 炎 を血 液 培 養 陽 性 の み か ら診 断
抗 生 剤 初 期 投 与 が 臨 床 症 状 を修 飾 し,ウ イ ル ス 単
して い るた め で あ り,敗 血 症 を伴 わ な い 細 菌 性 肺
独 感 染 群,マ
炎 を含 めた 場 合 に は結 果 が 異 な っ て くる可 能 性 が
た 症 例 や起 炎 病 原 体 不 明 例 の 中 で,抗 生 剤 前 投 与
あ る こ とを示 唆 して い る5).そ こで,わ れ わ れ は,
に よ り診 断 し得 な か っ た 細 菌 性 肺 炎 が 混 在 して い
洗 浄 す る こ とに よ り,そ の診 断 的 価 値 が あ る と言
る こ と,ま た,細 菌 性 肺 炎 と診 断 した 症 例 の 中 に
症 例 が 何 らか の抗 生 剤 投 与 を 受 け て い
択
イ コ プ ラズ マ 単 独 感 染 群 と診 断 され
わ れ て い る洗 浄 喀 痰 培 養 を 用 い る こ とに よ り,細
も,部 分 的 な 治 療 を受 けて い た た め,炎 症 反 応 が
菌 性 肺 炎 に洗 浄 喀痰 培 養 で優 位 に細 菌 が分 離 され
軽 度 に な っ た 症 例 が 存 在 して い る こ と も一 因 で は
た 症 例 を加 え て,臨 床 的 検 討 を行 っ た.
な い か と考 え られ る.そ
以 前 に,わ れ わ れ は,少 数 例 で の 検 討6)で は あ る
が,細
菌 性 肺 炎 と ウイ ル ス性 肺 炎 の 鑑 別 を 試 み,
こで,細 菌 性 肺 炎 と診 断
した 症 例 に つ い て,抗 生 剤 入 院 前 投 与 の有 無 別 に,
入 院 時 白血 球 数,CRP値,赤
沈 値 を比 較 し た と こ
鑑 別 し難 い との結 果 を得 て お り,今 回 は症 例 を増
ろ,症 例 数 は 少 な い もの の,抗 生 剤 前 投 与 が あ っ
や し て検 討 した.調
た症 例 は な か っ た 症 例 に比 べ,白 血 球 数,CRPの
べ た 範 囲 で は,洗 浄 喀 痰 培 養
に て診 断 した 細 菌 性 肺 炎 とウ イ ル ス 性 肺 炎 で鑑 別
平 均 値 は低 く,赤 沈 の平 均 値 は高 く,抗 生 剤 前 投
を試 み た報 告 は これ以 外 に は見 あ た ら な か っ た.
薬 の 影 響 を示 唆 す る結 果 で あ る と思 わ れ た.
一方
,マ イ コ プ ラズ マ 性 肺 炎 に関 して は,入 院
さ ら に,マ イ コ プ ラ ズ マ 性 肺 炎 も加 え て検 討 した
感染症学雑誌
第69巻 第3号
小児肺 炎の現況 第2報
289
症 例 に 限 った た め,軽 症 で経 過 した 症 例 が 含 まれ
性 か マ イ コ プ ラズ マ 性 か鑑 別 可 能 か ど うか 検 討 し
ず,1次
た が,従 来 言 わ れ て い た よ う に,明 確 に鑑 別 す る
病 院 に て 第1選 択 と して 経 口 β ラ ク タム
剤 が 使 用 され,症 状 が 持 続 し紹 介 され 入 院 と な る
こ とは不 可 能 で あ る と思 わ れ た.し
か し,マ イ コ
症 例 が 多 く,病 日か ら考 え る と炎 症 反 応 が極 期 の
プ ラ ズ マ性 肺 炎 に関 して は,特 徴 的 な検 査 所 見,
時 点 で 入 院 し て く る た め に 他 の 群 と比 較 し て
症 状 を認 め た よ う に,入 院 時 病 歴 を正 確 に聴 取 し,
CRP値,赤
病 日,前 投 薬 の 有 無,種 類 を知 り,年 齢,季 節 性,
沈 値 が 高値 を示 した の で は な い か と考
え られ た.マ
イ コ プ ラズ マ 性 肺 炎 に関 して,入 院
流行 状 況 を認 識 しつ つ,慎 重 な 身 体 所 見 の 診 察 を
病 日 に よ り炎 症 反 応 に違 いが あ るか ど うか調 べ た
行 う こ とで,あ
が,そ
思 わ れ た.い
の 多 くが5,6病
日 に集 中 し て お り,病 日
に よ る炎 症 反 応 の差 は認 め な か っ た.
る程 度 絞 っ た 治 療 も可 能 で あ る と
ず れ に し て も,鑑 別 が 難 しい こ とよ
り き め細 か い診 療 が 必 要 で あ る と考 え られ る.今
学 的所 見 の比 較 で は,有 熱 期 間 に
後 は,抗 生 剤 前 投 与 を受 け て い る症 例 と受 けて い
関 し て は,各 群 に有 意 差 を認 め な か っ た.咳 嗽 に
な い 症 例 で病 原体 に よ り炎 症 反 応,臨 床 症 状 に違
関 し て は,各 群 と も湿 性 咳 嗽 が 主体 で あ っ た が,
い が あ る か ど うか も検 討 して い きた い.
臨 床 症 状,理
マ イ コ プ ラズ マ 関 与 群 で は乾 性 咳 嗽 も多 く認 め ら
れ た.マ
イ コ プ ラ ズ マ 性 肺 炎 は病 初 期 に は乾 性 咳
嗽 を伴 い や が て 湿 性 咳 嗽 に変 化 す る とい わ れ て い
る7)が,病 日 の 早 い もの に乾 性 咳 嗽 が 多 い とい う
なお,本論文の要旨は第131回日本小児科学会千葉地方会
(1992年2月,千 葉)お よび第66回 日本感染症学会(1992年
4月,東 京)に おいて発表 した.
文
1) Silverman,
特 徴 は認 め なか っ た.努 力 性 呼 吸 の 有 無 に つ い て
L. J.:
は,マ イ コ プ ラ ズ マ 関 与 群 で 認 め る もの が 少 な く,
in Nigerian
Diagnosis
-931
聴 診 所 見 上 も,マ イ コ プ ラ ズ マ 関 与 群 で異 常 を認
め る もの が 少 な か っ た.ま
た,臨 床 症 状,理
2)
学的
は認 め られ なか っ た.以 上 か ら,マ イ コ プ ラズ マ
性 肺 炎 は,白 血 球 数 が 比 較 的 少 な く,炎 症 反 応 が
今 回,わ れ わ れ は,細 菌 性 肺 炎 の診 断 に洗 浄 喀
痰 培 養 を含 め る とい っ た背 景 を も とに,抗 生 剤 が
前 もっ て 投 与 さ れ て か ら紹 介 され 入 院 す る症 例 が
多 い2次 病 院 で,入 院 時 に ウイ ル ス性 肺 炎 か 細 菌
平 成7年3月20日
第1報.
642-647,
Egler,
pneumonia
Dis. Child., 52: 925
鳥羽
剛,
新 美 仁 男:
小
病 原 体 検 出 状 況.
感 染症
中村
膿 胸.
1993.
臨 床 と細 菌,
3: 190-198,
周,
Treatment
and children.
297-321,
明:
肺 炎,
1976.
of acute
Pediatr.
pneumonia
in
Clin. N. Am., 30:
1983.
A. & Sarna,
viral,
S.:
Differential
mycoplasmal
and
diagnosis
bacteremic
pneumococcal
pneumonias
on admission
to
hospital. Eur. J. Respir. Dis., 64: 360-368, 1983.
で は,マ イ コ プ ラズ マ 単 独 感 染 群 と同様 の 特 徴 が
関 して は,他 の群 との 鑑 別 は困 難 と思 わ れ た.
黒 崎 知 道,
寺嶋
of
認 め られ る もの の,細 菌 十 ウイ ル ス の重 感 染 群 に
67:
5) Ponka,
重 感 染 群 に関 して もマ イ コプ ラズ マ の 関与 した 群
Arch.
上 原 す ゴ子,
infants
の細 菌 性 肺 炎 と
ウ イ ル ス 性 肺 炎 群 で は鑑 別 が 困 難 で あ っ た.ま た,
石 和 田 稔 彦,
4) Long, S. S.:
強 く,理 学 的 所 見 に乏 し い とい う特 徴 が あ り,あ
る程 度 鑑 別 可 能 で あ る もの の,他
children.
A.&
bacterial
,1977.
誌,
3)
D., Diallo,
of acute
児 肺 炎 の 現 況.
所 見 の比 較 か ら重 感 染 群 と単 独 感 染 群 との 問 に差
献
M., Stratton,
6)
黒 崎 知 道,
文 夫:
鳥羽
剛,
斉 藤 能 厚,
最 近 の 小 児 肺 炎.
小 児 科,
池上
宏,
太田
29: 1361-1369,
1988.
7) Broughton,
R. A.:
ma pneumoniae
Dis. J., 5: 71-85,
Infections
in childhood.
1986.
due to mycoplasPediatr.
Infect.
石和田稔彦 他
290
Etiology
of Pediatric
Physical
Naruhiko
Inpatients
with Pneumonia -Analysis
Examination
and Simple Laboratory
ISHIWADA1)2),
Tomomichi
& Hiroo
2)Department
KUROSAKI1),
Chiba
Tsuyoshi
Symptoms,
TOBA1)3)
NIIMI2)
1) Chiba Municipal
Kaihin
Hospital
of Pediatrics
, Chiba University
School
3)
of Clinical
Findings
Children's
of Medicine
Hospital
In pediatric patients with community-acquired
pneumonia,
most of the patients have
received antibiotics before admission. In this study, we tried to determine whether we could
identify the etiology of pneumonia by clinical and laboratory findings on admission.
The etiology of acute pneumonia was studied in 596 pediatric inpatients. A pathogen was
identified in 384 (64.4%) episodes of pneumonia. These 384 episodes were divided into six groups
as follows; I: pneumonia with blood culture positive or pneumonia with bacterial antigen positive
in urine, II: pneumonia with dominant bacterial pathogens in washed sputum. III: Mycoplasma
pneumonia, IV: viral pneumonia, V: bacterial (I, II) + viral pneumonia, VI: bacterial (I, II)+
Mycoplasma pneumonia. These groups were analyzed by clinical symptoms, physical examination
and simple laboratory findings on admission.
Patients with Mycoplasma pneumonia have increased blood sedimentation rate, high value of
positive C-reactive protein and normal white blood cell count. It was difficult to distinguish
bacterial pneumonia from viral pneumonia only based upon clinical symptoms, physical examination and simple laboratory findings.
感染症学雑誌
第69巻 第3号
Fly UP