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分科会 コンセプト - 国家ビジョン研究会

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分科会 コンセプト - 国家ビジョン研究会
分科会
産業政策分科会
航空機関連産業小委員会
技術と市場の波及効果が極めて大きい航空機関連産業の振
コンセプト
興を図り、わが国経済を牽引する産業に成長させる。
提
言
骨
子
①航空機関連産業(利用、製造、空港関連)の振興のための統一的な政策を確立する。
この中で航空機産業振興のロードマップを明確化する。
②わが国で未成熟な小型機、ビジネスジェット機の普及に必要な政策を確立する。
③現行の関連法規の見直しを早急に行なう。
④航空機製造業の強化と裾野拡大を図るため、航空機開発および中小企業に対する
支援策を強化する。
⑤航空機産業クラスターの産業組織をオープン化し、他産業とのリンケージを深める。
費
用
概
算
①わが国の航空機製造高を 10 年後に世界の 5%に、20 年後には 10%引き上げる。
②小型航空機の普及を 20 年後には現行の約 10 倍(GDP比で現在の欧州並み)に拡大さ
せる。
③空港関連ビジネス、エアラインビジネスなどは今後 20 年間に亘り世界の成長率である 5%
程度の成長で推移すると予測。
航空機の製造開発に対する当初 10 年間の助成総額
3,000 億円、
爾後 10 年間総額 4,000 億円。
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航空機関連産業各論
第1部
航空機産業について
1.航空機産業政策の必要性
航空機産業は、航空機一機の部品点数が、自動車の約 100 倍(300 万点)
、その部品単
価も技術的信頼性と品質保証が完全になされるため約 100 倍といわれる裾野の広い、高付
加価値産業である。さらに、航空機部品開発による技術イノベーション促進および経済波
及効果は自動車産業の約 3 倍といわれており、航空機関連産業では、産業政策上、雇用の
創出効果は自動車産業に比べて非常に大きい。
一方、ICAO(International Civil Aviation Organization/国際民間航空機関)の統
計によれば、人口一人当たりの航空機利用距離数で見ると我が国は米、英、仏、独に次い
で世界第 5 位であり、国土面積当たりの空港数では、英、独、仏に次いで世界第 4 位(第
5 位以下は、伊、米、加)とほぼ欧米並みの水準にあると言える。しかし、GDP 当たりの
自家用機の保有数で比較すると、我が国は米国の約 60 分の1、欧州の約8分の1と非常
に大きな差がある。我が国の自家用飛行機の所有数が少ないのは経済的理由ではなく、空
航法などのこれまでの法制度上の想定外にあったことなどが大きな原因であると言える。
このため、我が国の航空機製造額は世界の僅か 3%に過ぎず、世界シェアの約 50%を
占める米国、1970 年からこれを追い上げ、いまや 40%台に迫る欧州との間に大きな差が
開いている。しかも、これら先行諸国は、いずれも航空機の生産・販売を行っているが、
我が国は、海外の航空機メーカとの国際共同開発や下請受注生産が全てであった。民生
用航空機のすべての部品には国家認証が必要であり、これまでの我が国は他国政府が認
証した部品やモジュールを単純に下請け加工する産業しか存在しなかったと言って過言
ではない。このような状況にあっては航空機産業に対する国家ビジョンが描けるはずも
無く、また事実我が国には航空機産業全体に対する国家ビジョンは YS-11 の終了以来形
成されてこなかった。
2008 年にスタートした三菱航空機(MRJ)は約半世紀の空白を破って開始される国産航
空機製造プロジェクトであり、これまでの単純下請けから脱皮し、国際競争力を持つ航
空機産業を復活させるための国家的重要プロジェクトであるとともに、将来の我が国航
空機産業発展の基盤となるプロジェクトとして期待されている。この機会に、航空機産
業の立ち上げと発展を期した長期的な航空機産業政策のビジョンを持ち、国を挙げた体
制整備を行うことが必要である。我が国の YS-11 の失敗の反省においても、このような
産業育成の仕組みの必要性が指摘されている。
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2.航空機産業の重要性と特徴
①製造業としての航空機産業の重要性
我が国は就業人口の 17%が製造業に従事し、これが GDP の 30%を生み出し、法人税の
50%を納税する、世界でも稀な「ものつくり」大国である。資源のない我が国の将来を
支えるためには、今後一層この方向で国力を強化しなければならないとされ、科学技術
基本法などの関係諸施策がすでに講じられている。
上述したように、航空機産業は、中型航空機一機の部品点数が、普通自動車の約 100
倍(300 万点)、その部品単価も信頼性と品質保証が完全になされるため約 100 倍といわ
れる裾野の広い、高付加価値産業である。また、航空機産業の経済波及効果は自動車産
業の約 3 倍といわれており、関連する産業と雇用の創出効果は自動車産業に比べて非常
に大きい。ものつくり産業の牽引力としては、航空機産業は製造業の中にあって非常に
大きいといわれる所以である。今後の自動車は急速に電気駆動に転換する方向にあるが、
全電気駆動の場合、部品点数は従来の 10 分の1程度に減少するとも言われており、自動
車産業全体の規模の縮小は不可避の方向にある。必然的にものつくり産業の牽引力とし
ての地位が低下せざるを得ず、ますます航空機産業に対する期待が高まると思われる。
これまでの我が国航空機産業は、海外からの下請けのみであり、事業所数もわずかに
400 程度と自動車産業の 40 分の1程度である。また我が国の航空機産業は圧倒的に輸入
過多であり、世界第2位の航空機産業集積地でかつ輸出大国である欧州全体と比べ、事
業所数は 20 分の1とあまりにも我が国の現状は未成熟である。
②航空機産業の特徴
航空機は、人命の安全を至上命令とすることから、その製造や使用に関しては極めて
広範囲かつ細部にわたって、国の認可や規制が掛けられている。たとえば、民生用航空
機に使用する部品は、ネジ1本、ビス1個に至るまで、その素材、加工方法、検査方法
など、細部にわたり国の認可(型式認定や耐空証明)が必要であるし、航空機を製造する
企業は国の認可を受けなければならない(防衛用の航空機にはこのような許認可制度は
無い)。また、一旦認可を受けて製造する部品は、航空機のライフサイクルである 20 年
以上にわたって継続して供給を行わなければならない言わば独占的製品である。すなわ
ち、航空機の製造認定を受けた企業の下には、長期にわたって下請けの産業構造が形成
される仕組みになっている。このことが、新規参入に対する一つの大きな障壁を形成す
ることとなるが、それだけに国や第三者による支援の仕組みが他産業以上に必要な産業
であり、欧州を始め、カナダ、アメリカ等先行する諸外国においては、航空機産業の構
造を強化するための産業支援政策が中小企業を巻き込んで様々に講じられている。規制
が強い業界だけに規制のあり方が大きく産業の発展に影響する。
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3.総合的な政策と現行制度整備の必要性
航空機産業は人命の安全を至上とすることから優れた規制産業であり、市場や製造業
の発展には、国の法規制や支援策の与える影響が極めて大きい。したがって、今後の我
が国の航空機市場と産業の発展のためには、国家が目標を定め、仕組みを整備する必要
がある。四半世紀に亘る民間航空機製造の空白期間のために、航空機産業全体の仕組み
を見直す機会が無かったこともあって、我が国の航空機産業の成長と育成の仕組みが整
備されていない。早急に仕組みを整備し、国際競争力をもった産業としての再出発を図
るべきである。
●基本法の策定
航空機の利用の促進、製造業の振興と国際競争力の強化など、航空機産業全般を見
据えた国の基本政策を定めることにより、YS-11 の製造開始に先立って決められ、今日
に至る二重行政の齟齬を来さないようにするため、また、現行の航空法、航空機工業
振興法など、各種規制法下での行政執行に当たって指針とするための基本的な枠組み
が必要である。この基本法を「航空産業基本法」(仮称)と呼ぶ。
同法では、航空産業を国が育成すべき最重要産業分野の一つと位置づけ、航空産業
全体を振興するための基本方針を定める。
この様な仕組みの必要性は、旧くは YS-11 の事業終了時点にも議論されたが、実現
に至っておらず、一方我が国の機械産業、電気電子産業の振興において大きく寄与し
た嘗ての特定機械情報産業振興臨時措置法があり、最近では、科学技術基本法、昨年
7月に施行された宇宙基本法などの事例がある。
(法に盛り込むべき内容)
z 航空産業の位置づけ
z 5 ヵ年毎の航空産業振興計画の策定
z 必要財源の確保(空港整備特別会計などの見直しを含む)
z 国の産業支援策の策定(技術開発支援、助成金による支援、中小企業育成など)
z MRO(Maintenance, Repair and Overhaul/整備・点検・修理)支援策の策定
z 振興計画策定のための委員会の設置
●現行の法規制の改正
①航空機工業振興法(経済産業省)
1958 年に YS-11 の終了時に、それまでの日本航空機製造会社を支援するための内容
から国際共同開発の支援を行うために改定し現在に至っている法律。
政策投資銀行などから国が指定する機関(財団)を通じ、認められた国際共同開発実施
企業などに資金提供や、指定された国の研究機関を格安で利用できる制度を定めたも
の。
支援対象機関は一般助成金並みに門戸を広げ、中小企業などが国際共同開発を行う
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場合にも利用し易いように整備し直す必要がある。21 世紀に入り航空機産業界は国際
的なリスクシェアリング(国際共同開発)による分業体制が一般化してきており、海
外とのビジネスチャンスは中小企業などにも広がってきている。航空機産業の輸入超
過を減少させるための施策としても、より重要性が高まってきたことを念頭に法改正
を行うべきである。
②航空法(国土交通省)
1952 年のサンフランシスコ講和条約の発効と同時に制定された航空機の安全を規
制する法律で、機体や部品などの国家認定のほか、運航や保守、空港などに係る基本
的な法律。
法律の基本概念が専ら旅客機を念頭に置いており、近年世界的に市場が拡大してい
る自家用機や小型機、ULP(Ultra Light Plane/超軽量動力機)など個人市場分野に
おける概念が盛り込まれていない。
「安全規制はより厳しく」
「経済規制はより緩やか
に」を原則として、大型機から、小型機、ULP に至る概念の導入を行い、産業拡大と
利用の拡大を図る概念を盛り込むべきである。
③航空機製造事業法(経済産業省)
航空と同時に制定された法律であり、その目的は、同法第一条に謳われるように「航
空機及び航空機用機器の製造及び修理事業の事業活動の調整」を行うことが主眼であ
る。
法の対象は、無人飛行機(100kg 以上)、グライダーから ULP、旅客機に至る広範囲
な「航空機」を対象としており、その施行規則においても、これら対象は区別なく規
制は一律に適用されている。本法律は、半世紀以上前の法律制定時点の姿をほぼ完全
に残している法律であり、産業振興の時代の要請に合わせて、航空法と平仄を保って
改定すべきである。産業の活性化のメルクマールの一つは、新規開業率であるが、こ
のためにも現行の「事業活動の調整」という考えから、「事業活動の振興」へと目的
を切替え、航空法と相俟って「安全規制はより厳しく」「経済規制はより緩やかに」
の原則で改定すべきである。
④空港法
2008 年に大幅な改正がなされ、従来の空港整備法が名称変更し空港法となった。
従来の法律は、空港の建設と既存空港の設備保全を主眼としていたが、改正により
建設は目的から削除され、新たに広範囲な利用と保全を主眼とすることとなった。
その第一条には、従来法の目的であった旅客の利用のほか、新たに産業や観光、地
域振興のための利用が謳われている。また、新たに設けられた同法第3条では、国
土交通大臣は、地域産業や観光などの地域活性化を盛り込んだ、地域特性に密着し
た「基本方針」を定める事になっている。従来は限られた特区でしか認められなか
ったビジネスジェットの利用が一般化され、地域活性化のための利活用が謳われた
ことは大きな進歩であるが、同時に本法律と密接な関係にある空港整備特別会計法
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が、旧法の時代のまま残っており、新空港法との整合が取れていない。本特別会計
の枠組みは、道路特定財源の一般会計組み込みという流れの中でのみ議論されてい
るが、本来は、この会計法の準拠するところは、空港整備法(特別会計法第2条)
であることから、改正された空港法に準拠した議論で整理されるべきものであり、
建設ではなく、空港を利用した地域活性化の財源としても位置づけることが必要で
ある。
第2部
空港ビジネスについて
航空機製造は、我が国の産業の再生に不可欠の分野である。航空機製造をナショナルプ
ロジェクトとして成功させるためには、航空産業を構成する航空機産業、空港ビジネス、
臨空産業の 3 つを総合して進めることが必要である。この 3 つが揃わなければ、我が国の
航空産業は不完全燃焼に終わってしまう。
本提言書では、空港ビジネスを構成するものとして、空港整備事業、空港運営、空港経
営、航空関連事業に限定してとりまとめる。
1.航空機産業成功の条件
航空機産業を確実な産業とするためには、航空機の利用需要を国内に十分確保すること
が必要である。
我が国が進める定期旅客輸送用の航空機の販売を海外市場に求めることは、ボーイング、
エアバス、ボンバルディア、エンブラエルなど先発競合企業が市場を押さえているため、
ほとんど不可能である。しかし、性能等で、これらの企業に対し競争力を有する航空機が
市場に提供可能であれば、我が国国内の市場への充足を通して海外へ進出を図ることは産
業の確実な成長において必然の手順である。
我が国の航空輸送を充実させ、国内の航空機需要を高めることが国内での航空機産業を
確固たる産業とするために不可欠である。この手順を誤れば、YS-11 のときのように、海
外市場の獲得を夢見ては MRJ も同じ轍を踏むこととなる。製造業が内需を根底に海外に差
別化可能な技術で打って出る形を作り上げなければ、航空機産業の成立は困難である。
2.空港ビジネスを取り巻く現状と課題
①
航空機市場からみた空港の必要性
航空機市場は定期航空会社だけでなく、プライベートジェット、遊覧、物資輸送、チャ
ーター、エアタクシーなど多目的に利用する航空機使用事業会社での需要も見込まれる。
受け入れ側の空港さえ充実すれば、航空機需要は欧米並み急増するものと見込まれる。
わが国で、航空機市場を増大させるためには、空港の充実が必要であり、そのためには、
航空法の規定を改定、規制の緩和など航空機の利用が容易な社会を実現しなければならな
い。航空機の旅客輸送需要の面から見ても、JAL、ANA のような定期航空事業だけではな
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く、航空機をタクシーのように利用するエアタクシーや、団体旅行の貸切バスのようなチ
ャーターが需要に応じて自由に飛ぶようにならなければならない。現在でも、そうしたサ
ービスは存在するが、利用できる空港が限定され、しかも、仮に利用できても制約が多い
ことから需要に十分応えられないのが実態である。
②
空港整備の必要性
我が国で航空機の運航を促進するためには、その受け皿である公共用飛行場すなわち空
港を完全なものとして整備しなければならない。つまり、航空機利用の需要を拡大するた
めには、空港の充実が必要である。一般的には、空港は多すぎると酷評されているが、完
全な空港が我が国には存在しないという実態はあまり理解されていない。特にエプロン、
ハンガーの整備の必要性は各方面から強く要望が出されているが、国土交通省はこの要望
に応じきれていない。その結果、小型航空機の駐機場に支障が出ている。航空産業振興の
ためには、ハンガー、エプロンの充実などの公共事業も必要となる。
③
空港の役割
空港は多くの機能を有している。しかし、そのことは広く国民に理解されていない。空
港では、災害時に道路、鉄道が寸断された場合の唯一の輸送機関となる。そのため、多く
の国では、空港に緊急救難のための備蓄基地、医療機関を設置するなどしている。さらに、
VIP の移動においても航空が利用される。これは、鉄道、道路を利用する場合には、警備
体制を線的、面的に配置しなければならないなど、多大な経費が必要となる。これに対し、
航空を利用する場合には、航空機の離着陸を行う空港とそこと目的地とを結ぶアクセス交
通部分のみを警備すればよいことになる。しかも、航空の場合には、小型ジェットから大
型ジェットまで利用者数に応じて適切な航空機を利用することが可能であり、エネルギー
の適正利用も実現できる。
また、空港本来の機能である航空輸送のサポートを実現することにより、国、地域の経
済発展、生活、文化の交流など、特に我が国では他国と隣接しないことから幅広い効用が
実現する。
我が国は海越え、山越えの移動が多い。こうした我が国の地勢条件から全国をくまなく
高規格道路、鉄道を整備することは社会的な効率から見ると好ましいものではない。小ロ
ットの移動では、航空輸送がもっとも効率的な交通サービスである。現在でも、離島では
空港を利用して航空サービスが生活の足として提供されている。
すなわち、空港は単に空港を利用する旅客や貨物のみが恩恵を受けているという「狭義
の受益者のために存在する」という考え方を改め、国民全体の利益のためにある「国のイ
ンフラ」であるという考え方に改めるべきである。
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④
空港ビジネスがもたらす航空関連産業
航空機が利用される場合、空港、およびその周辺には、航行を支援する無線施設、照明
施設などの航空保安施設、航空機の運航をサポートする各種車両(給油車、タラップ車、
旅客を搬送するランプバス、貨物搬送のドーリー、高所洗浄車、航空機牽引車)、機器(ボ
ーディングブリッジ、リフト等)が必要であり、これらはいずれも、高度に安全性と精密・
正確性が要求される。近年は衛星による航空機の捕捉が可能となり、新航空管制システム
が導入されようとしている。このように、空港ビジネスでは各種の機器、機材が広範な用
途で必要となり、空港を充実させることは既往の製造業への波及効果も大きい。
たとえば、航空機の運航において最も危険の高い着陸では、我が国においても、視界0
メートルでも完全自動着陸が可能な CATⅢが成田、熊本、釧路空港などに導入されている。
このシステムは、地上側で無線施設、照明施設、電波高度計用地などが必要となるだけで
なく、航空機側でも、コレスポンダー(電波の発信受信機および測定器)が必要である。
このように航空産業の技術は航空機だけにとどまらず、照明、無線、計器類など幅広い品
目の製造業がかかわることとなる。これは自動車の道路整備と比較するとはるかに多種の
製造業に需要をもたらすことになる。これらの周辺機器製品も含めて、製造業としての航
空産業と位置付けなければならない。
空港では、航空機の運航だけではない。航空サービスを充実させるためには、空港にお
ける地上の各種のビジネスを同時に充実させなければならない。そのため、航空機の地上
運航を支援する無線施設、照明施設、GSE、管制システム、グランドコントロール、エプ
ロン、誘導路の充実、さらに、航空機の整備にかかわる格納庫、航空機整備体制、部品庫
の充実を図らなければならない。これらの分野では、わが国のメーカが多くの製品、部品
を提供している。これらを充実させ、より安全で快適な航空輸送を実現しなければならな
い。諸外国では、GSE の改善が積極的に進められている。しかし、我が国の国土交通省で
は、新規の機器については、その導入について極めて消極的であり、改善のスピードはほ
ぼゼロに等しい。我が国においても、積極的な機器の改善提案を受け、世界に先駆け、最
新鋭機器を導入すべきである。当然、最新鋭機器を導入する場合には、これまでのやり方、
手続きを大幅に変更することも必要となる。こうした大手術を適切に行うことにより、我
が国のものづくりの能力をさまざまな生活、社会で生かさなければならない。
⑤
空港経営の実態
我が国の空港ビジネスは、世界でも例を見ない最悪の形態をとっている。世界の一般的
な空港では、その最大の収入源は駐車場である。次いでターミナルビルとなっている。我
が国では、多くの空港では、駐車場をある特殊法人が、ターミナルビルを地方自治体など
の参加する第3セクターが運営している。つまり、わが国では、空港の採算性について議
論する場合、空港全体で見ることはない。採算性の悪い、滑走路、誘導路、エプロンおよ
び航空保安施設だけを指している。採算性の見込めない施設を空港として位置づけ、その
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他の収益施設は役人の天下り事業者がすべて運営している。
すなわち、本来は国民のインフラであるべき空港及びその関連施設を、採算の良い部門
は特定の民間に開放し利益を出させる一方、不採算の部門は国や行政に持たせて、なお且
つその維持運用経費を、専ら空港利用者だけとういう「狭義の受益者」だけにその負担を
押し付けている実態がある。この実態は国土交通省も地方自治体も明言しない。天下り役
人の給与と退職金を捻出する機関となっている。
3.空港整備およびビジネスのあり方と施策案
そもそも、空港は国、あるいは地域の玄関である。家を建てることを考えれば、すぐに
理解できることであるが、玄関だけを計画し、建設することはない。家全体を考え、その
家にふさわしい玄関を計画する。空港も国、地域の姿を明確に描かなければ計画できない。
首都圏の空港は首都の生活、経済、社会だけでなく、我が国のあるべき姿などまったく考
えていない計画といわざるを得ない。仮に考えていたとするなら、考える能力のない人間
が計画に関与していたかそれとも、仕事にまじめに取り組んでいなかったかのいずれかで
ある。首都圏だけではない、関西、中部においても、空港計画のみ独り歩きしてしまい、
地域社会との調和もなく、衰退の一途をたどっている。以下では、わが国における基幹空
港のあり方を国際競争力強化の面から整理する。
国際競争力の強化
現在の我が国の空港の競争力では、我が国を極東の1つの小国に引き下げている。この
ままでは、中国など周辺国の空港の台頭により、我が国の影響力は弱いものになってくる。
空港の国際競争力を高め、我が国の経済、外交面で国際的優位を保つためには以下の施策
が必要である。
①
成田空港の規模拡大
一部の反対派によって多大な国益を損なうだけでなく、多くの国費を投入して来た実
態を明らかにし、速やかに完全空港化を目指す。そのためには、成田空港の完全型を策
定しなければならない。策定された長期構想整備案に従い、順次、拡充を進めることが
必要である。その中には、近年世界中でシェアを拡大している LCC のための施設整備、
あるいは、ビジネスジェットの受け入れ施設が必要である。
②
羽田空港の施設配置計画の見直し
第4滑走路の供用に合わせ、国内、国際、航空会社の再配置を検討し、もっとも合理
的な運用を目指す。羽田空港においても、LCC、ビジネスジェットの就航を積極的に受
け入れ、関連する施設を含めて整備する。
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③
空港アクセスの改善
近年整備された空港や都市圏の空港では、空港と都市間の距離が長くなり、アクセス
に無駄に時間を費やすことになっている。これにより、地方都市、地方空港から国内の
拠点空港へのアクセスが不十分であり、拠点空港における海外との太いパイプとつなぐ
ハブアンドスポークの路線形成とハブ機能を阻害している。そのため、空港アクセスの
ハード、ソフト両面の大幅な改善が必要である。
④
関西3空港の一体運営
騒音問題の伊丹、利用しづらい関西、便数の制限をかけられた神戸の3空港がひしめ
く関西圏では、無駄な競争をやめ、これら 3 空港を一体運営することが妥当である。こ
れら3空港の利用構造を明確にし、3 空港にアクセス可能な都心部のシティエアターミ
ナルを充実させ、3 空港の利便性を高めることが必要である。
⑤
地方空港の機能拡充
無駄な投資をやめ、合理的な施設整備を行う。アメリカでは、搭乗橋を撤去し、簡便
なエプロンルーフに切り替えるなど、合理化と簡素化を進めている。我が国でも、地方
空港では簡便な施設、機器を使用することで、経費を抑えつつ、必要な機能の拡充を進
めることが必要である。拡充が必要な機能として、LCC 専用施設、ビジネスジェット受
け入れ施設などが挙げられる。
⑥
空港の運営組織の改編
現行のような、国が基本施設、第 3 セクターがターミナルビル、空港環境整備機構が
駐車場を運営する形態をやめ、一体的な組織で運営に当たる。また、国家および地方公
務員の天下りを排除する。これにより、空港運営の主体も明確になり、民間の活力ある
空港間の競争も可能となる。
以上
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