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公開資料 - RISTEX 社会技術研究開発センター

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公開資料 - RISTEX 社会技術研究開発センター
(様式・終了-1)
公開資料
社会技術研究開発事業・公募型プログラム
「社会システム/社会技術論」
「油流出事故の危機管理システムに関する研究」
研究実施終了報告書
研究期間 平成 15 年 10 月 ~ 平成 18 年 9 月
後藤 真太郎
(立正大学地球環境科学部・教授)
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【180401】
1.研究テーマ
(1)研究領域
:社会システム/社会技術論
(2)研究総括
:村上陽一郎
(3)研究代表者
:後藤真太郎
(4)研究課題名
:油流出事故の危機管理システムに関する研究
(5)研究期間
:平成15年10月~平成18年9月
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2.研究実施の概要
1997 年、日本海で発生したナホトカ号重油流出事故(以下、ナホトカ号事故とする)は、漁業
と観光及び地域社会に甚大な影響を及ぼしたにもかかわらず、流出油防除体制の抜本的改善はな
されなかった。一方、サハリンでは、世界的にも巨大な油ガス田が開発され、日本への輸入が数
年のうちに本格化されるが、その油流出事故・環境対策は開発企業にゆだねられていて、日本政
府と NGO の関与はほとんどない。
このような現状に対して、世界と日本の油流出事故とその対応・対策を分析し、日本の流出油
防除に関する社会・政治・危機管理システムの不備を明らかにする。縦割り行政のみならず、時
宜を得た改善を阻害している要因を明らかにし、法律改正を含め適切な流出油防除体制を提案し、
この防除体制を実現するための社会システムを提案する。
先ず、先進事例調査では、海外の油防除体制をどの組織にも属さない立場で行い、それらとナ
ホトカ号事故の教訓を生かし、日本において現状の油防除体制でなされていない項目を先進事例
から抽出し、その具体化について検討した。
日本の油防除体制は、先進事例で見られるような現場指揮官を中心としてトップダウンのもの
でなく、調整型のものである。この実施については法改正が必要となり、北海道網走市流出油防
除計画立案研究会の準備の過程で政府機関とのコンフリクトが発生した。それは事前に予測でき
たものであり、その解消方策を検討する事が本研究の存在理由でもある。
次に、基礎研究では、日本において現状の油防除体制で実施できていない項目を先進事例から
表 4.1-4 のように整理し、4.1.7.1 のように検討した。検討項目を再掲すると以下の通りである。油
流出事故そのものが、沿岸域という場所で発生する環境災害であるため、これは正に、環境破壊
を伴う開発案件の時に生じる「環境か開発か」で議論すべき課題であり、全体をコントロールす
る組織がないため、公共圏で扱わなくてはならない内容である。類似した事例と比較するならば、
阪神淡路大震災後、検討が進められてきた NPO の介在した災害普及支援に瞬時に発生する環境災
害と併せた側面を持っており、共に現代の抱える課題を同時に扱わなければならないのが油流出
事故である。
1) 事故時のステークホルダー間に発生するコンフリクトに対する合意形成手法
①利害関係を図上で調整するための社会情報を考慮したESIマップとその利用方法
②油分散処理剤(以下、分散剤とする) 使用の調整事項
③漁業・観光業・環境・地方公共団体における被害額の損害請求方法
2) 自己変革能力を有する社会システムとしての市民と行政の協働のあり方
3) 網走湾流域居住者による油流出事故の環境災害リスク認知構造を考慮した地域別対策の
あり方
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【180401】
こういった課題に対して、サハリン石油天然ガスプロジェクトの進展で、油流出事故の危険に
さらされるオホーツク沿岸都市に限定し、油流出事故という個別事象に対しての対応策を検討し
た。
その結果、油流出事故対策の実証として油流出事故に対応できる市民協議会に相当するものと
してオホーツクの環境を守る地域ネットの設立支援を行った。さらに、北海道網走市流出油防除
計画立案研究会を組織化し、市民と行政の協働により、各々が行うべき役割について実証的に検
討し、北海道網走市流出油防除計画案として取りまとめを行った。本研究会の内容は、現在、北
海道庁とオホーツク沿岸都市全体を対象とし、政府機関を含むほとんどの関係機関によって構成
される流出油対応専門家会合で、北海道北岸における流出油事故への準備及び対応に関する地域
緊急時計画としてオホーツク沿岸都市全体の議論に貴重な資料となるものと考えられる。
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3.研究構想
① 具体的な背景
(1) 研究構想に至る経緯
海上で油流出事故対応の基本は、まず事故現場において油のさらなる流出を「防止」し、流出
した油をできる限りその場から速やかに「除去」することである。防止と除去をまとめて「流出
油防除」と呼び、この活動・作業を行うための法的枠組みと組織および体制を「流出油防除体制」
と呼ぶ。世界のいずれの国においても現実の事故に直面し、その被害の大きさと対応の難しさを
経験したのち防除体制が構築されている。
最初に現代的な流出油防除体制を構築した国は英国である。英国では、汚染者負担原則(Polluter
Pay Principle)により、汚染者が防除活動を行うと同時にその費用も負担することになっていたが、
1967 年に発生したトリー・キャニオン号事故では、船主とサルベージ業者との間の契約金額交渉
が長引くうちに油流出が拡大し、結果的に「船主の事故対策を待つ」間に被害をより拡大させた。
そこで 69 年、政府自らが防除作業の責任を負うことを明確に定め、79 年には MPCU(Marine
Pollution Control Unit)を創設し、そこに防除作業に関する責任と大きな権限を与える体制を構築
した。
米国でもトリー・キャニオン号事故を契機に、大規模な油流出事故を「国家的緊急事態」と位
置づけ、これに対応するための「National Contingency Plan:国家緊急時計画」を 1968 年に制定し
た。その後もしばしば関連法令等を改正するなど流出油防除体制の整備を進め、89 年にエクソン・
バルディーズ号の事故が発生した時点では、
「完璧な防除システム」を持つと信じられていた。し
かし、この事故は人為的原因で発生し、被害が深刻かつ極めて広範囲に及んだことにより、10 年
間ほとんど進展を見なかった油濁防止法(Oil Pollution Act 1990:OPA90)が翌 90 年に一気に議会
を通過した。ここに、重大事故には USCG(United States Coast Guard:連邦沿岸警備隊)が指揮権
を持つ一元的な防除システムが成立した。
韓国は、1995 年のシープリンス号事故を契機に法改正を含む抜本的な改革に着手し、国家的プ
ロジェクト G7 の一環として流出油防除体制の整備・構築が進められた。回収能力目標を 2 万キ
ロリットルと定め、1 万キロリットルを海洋警察庁(日本の海上保安庁に相当)
、5,000 キロリッ
トルを海洋汚染防除組合(日本の海上災害防止センターに相当)、残りの 5,000 キロリットルを民
間事業者にそれぞれ割り当て、その能力の向上を進められている。
日本では、1974 年に岡山県倉敷市で発生した水島コンビナート重油流出事故をきっかけに、76
年従来の「海洋汚染防止法」を全面的に改正し、
「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(海
防法)」が制定された。同時に、流出油防除を専門とする公益法人「海上災害防止センター」が設
立され、原油の大量取り扱い基地を対象に「石油コンビナート等災害防止法」が制定された。そ
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の後の大事故は、97 年に日本海沖で発生したナホトカ号事故で、10 府県を巻き込み延べ 200 万人
のボランティアの応援を受けた重大災害であったにもかかわらず、この時の改善は万全な国家シ
ステムを構築するものではなかった。
すなわち、ナホトカ号事故は、最初の船体破断が領海外で発生したため、海防法の規定上、海
上保安庁は海上災害防止センターに対して防除費用を一時的に国が負担する「一号業務」による
対応を指示できなかった。結局、対応プロセスが曖昧なまま防除作業が進められ、大きな混乱が
生ずる中、非効率的あるいは 2 次災害的な防除も少なからず行われた。このような汚染者自己負
担原則を骨子とする防除体制の欠陥は、事故直後からいくたび指摘されたが、98 年の海防法の改
正では、領海外で発生した事故に対して海上保安庁は海上災害防止センターに対して「一号業務」
を発令することを制度的に可能としたのみであった。どのような規模の流出事故が発生した場合
に「一号業務」が発令されるのか、また、それを誰がどこでどのように決定するのか等のプロセ
スは全く定められておらず、緊急を要する事態に対応できるシステムとは言い難い。
特に日本の場合、汀線から沖合数百メートル程度の範囲は沿岸漁業の中心となっていて、大規
模な流出油はこの部分を直撃する恐れがある。実際にナホトカ号事故では流出油の約 80%が海岸
に漂着したにもかかわらず、流出油の 80%を海上で回収すると想定している海防法の海岸部防除
体制は全く見直されず、未だにどこが主体となって対応するのか定かでない。さらに、防除能力
整備全般に対する「国家的不熱心さ」は、韓国と比較した場合、例えば日本の海上災害防止セン
ターの職員定員が 34 名であるのに対し、韓国海洋汚染防除組合の現在の職員数が 400 名弱である
こともからも明らかである。
また、2003 年 4 月に総務省が公表した『海上災害対策に関する行政評価・監視結果に基づく勧
告』にも多くの問題点が具体的に指摘されている。例えば、米国の「地域緊急時計画」に相当す
る「排出油防除計画」は、調査対象の沿岸部 55 市町村の 3/4 に当たる 42 市町村が「承知してい
ない」と回答している。また、沿岸域を有する市町村全体の 41%が、その災害対策計画の中に海
上災害にかかる規定そのものを持たないことが明らかにされ、事故が発生した時迅速に対応がで
きない可能性が指摘されている。さらに、都道府県で作成されている防災基本計画を見ても、流
出油の漂着について管区海上保安本部等との連携を明確に規定している県は 6 都道府県しかなく、
防除資機材の備蓄が極めて不十分であることなどが指摘されている。
本研究提案者のグループが実施した JST 計算科学活用型特定研究開発推進事業「リモートセン
シングとシミュレーションの複合利用による重油回収支援システムの構築と運用に関する研究」
(H10-H13)においては、日本における流出油防除体制の問題点把握のみならず、改善に必要な
知識と技術の開発、さらに実現へ向けた人脈の形成が行われた。しかしながら、社会システムの
改変の議論までには至らなかった。本提案研究は、これをさらに進めて、現在閉塞状況にある流
出油防除体制の進展を図るための新しい社会システムを検討するものである。
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(2) これまでの研究との関連
JST 計算科学活用型特定研究開発推進事業「リモートセンシングとシミュレーションの複合利
用による重油回収支援システムの構築と運用に関する研究」
(H10-H13)では、重油流出事故発生
時に広域的な油流出情報を取得し、被災情報等を一元化して複数の機関に提供できるシステムの
構築を目指した。さらに、地図情報等を利用した環境災害監視手法、環境被害額の算定手法、環
境被害額を請求できるための社会システムのあり方を検討した。この研究は、システム構築とそ
の運用方策の検討が中心であり、サハリン島沖油ガス田開発対策を構築するためには、市民が行
政パートナーとして行政と共同する新しい構造が必要である。里山や河川敷の広域生態系の保
全・流域保全の取り組みにおいて、市民と行政との協議により環境保全のあり方が議論され始め
ているように、既存の資源管理・社会システムの枠組みの改変が必要とされている。
本研究は、これまでの研究成果で得られた要素技術を有機的に連携させ、油汚染事故の危機管
理を市民と行政が共同して行えるような社会システム技術の確立を目指すものである。
(3) 研究の独創性・新規性および類似研究との比較
日本の油流出事故に関する本格的な研究は、1974 年の水島コンビナート事故を契機とする地元
岡山大学の研究グループに始まる。事故後の環境影響等の詳細な研究が行われ、大きな成果を上
げた。すなわち、沿岸域の油汚染は恒常的に発生するため、単に環境中に残留する「油分」の残
留を検出しただけでは事故以外の発生源由来の油分を検出してしまう可能性が高いため、油分中
の炭化水素を成分分析し、指標成分との比率から発生源を同定する方法を確立し、油分の残留は
生物の成長にマイナスに作用するだけでなく、ヨツネガサなどには促進作用があることを確認す
るなどの成果を上げた。このような成果は、世界的にも先端的で高水準の研究であったが、事故
後 3 年程度で終了し、その後の継続調査は行われていない。
1980 年代以降は、石油連盟によりまとまった研究が行われている。分散剤の海水中での分解速
度や、海岸線に漂着した油を地中に埋め立てた場合の残留状況等が明らかにされたが、これらの
成果が広く関係機関で共有されることはなかった。また、1989 年に米国で発生したエクソン・バ
ルディーズ号の被害額の算定・評価に代替評価法(CVM)が使われたため、日本においては主と
して経済学者の間に油流出問題に対する関心が高まり、この手法の研究が活発に行われた時期が
存在する。
このように、日本における油流出の研究は、事故後一定期間は多数の研究が行われ、その時点
ではそれなりに高水準の成果を上げるが、研究を継続させ成果を「次の事故に生かす」という発
想を決定的に欠く。これが、日本と他国との油防除体制の差を生み出す根本原因の一つであると
も考えられる。
今回、本研究に参加を予定している研究者は、いずれもナホトカ号事故の際、実際にこの事故
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を現場で経験し、その後も流出油防除の研究を継続し地域との連携を維持してきた。現時点で、
油流出問題に対し学術的社会的アプローチを行っている研究者集団は、日本では本研究グループ
以外に存在しない。
今回の研究は、ナホトカ号事故を契機に開始され、その後も継続されている研究成果をベース
にそれをさらに発展させ、いかなる社会システムを導入すれば必要な改善が図られるようになる
のかについて、諸外国の事例等を比較し、その考察に基づき新しい社会システムを提案するもの
である。このような研究は、流出油防除に関する限りこれまで皆無であり、本研究提案は大きな
独創性・新規性を有するものと考える。
(4) 研究の必要性
本研究の必要性は、万が一の巨大事故に対応する体制を構築することなしには、再びナホトカ
号あるいはそれ以上の大規模事故に有効に対処できないことにある。また、解決が困難な事態に
直面した場合、事態の改善が必然的になされるような政治・社会構造を構築することは、社会が
ますます地球規模の共同関係に組み込まれつつある中で、経済的先進国日本が果たすべき役割と
考えられる。
本研究の緊急性は、急速に進展しつつあるサハリン島沖の油ガス田開発を見れば明らかである。
サハリン島沖には膨大な石油・天然ガス資源が埋蔵されており、その開発事業の全貌は定まって
いないが、既に事業として進められているサハリンⅠとⅡの合計開発投資額は約 2 兆 2 千億円と
巨大な開発である。この開発の進展とともに、日本沿岸をタンカー航行による原油輸送が本格化
することになる。油流出事故の統計によれば、タンカー航行の頻度上昇に伴い事故発生割合も上
昇し、日本近海の油流出事故発生の危険度はサハリン島沖の開発により格段に上昇する。
油流出事故による被害として最も懸念されるのは、北海道のオホーツク海に面した漁業である。
平成 13 年の北海道の漁業生産量は 158 万トンで全国の 26%を占め、漁業生産額は 2,872 億円で全
国の 17%を占め、ともに全国一で北海道経済において極めて重要な役割を果たしている。特に、
収益性の高いホタテの地撒き(稚貝の移植)、コンブ、エビ等の漁獲はいずれも海岸の汀線から
500m~1km 程度沖合の範囲で行われており、流出した油は風や潮にのってこの範囲に押し寄せる
ため、最も強く被害を受けることになる。北海道が直接受ける被害のみでなく、サハリン島は寒
冷・流氷域にあるため、その周辺の漁業・自然・生態・観光などの被害は甚大かつ長期的となる
ことが予想され、サハリン島沖油ガス田開発の環境破壊・事故リスクの軽減とともに、事故によ
る汚染が日本に及んだ場合を想定した油防除体制の整備を早急に進める必要がある。
日本のエネルギー輸入の中東依存度はほぼ 90%に達し、サハリン島沖の原油開発・輸入はエネ
ルギー安全保障の観点から必要な措置であるが、油流出事故に対するリスクが格段に上昇し、同
時にその被害は甚大なものとなる可能性を認識し、リスクと被害を軽減させる対策が必要である。
現時点で、サハリン沖油田開発で想定される油流出事故の対応については、日本は単なる「通報
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先」の一つの国としてしか扱われていない。事故発生による日本への直接的な被害・影響を考慮
すれば、緊急時対応計画の作成段階から日本が積極的に関与して環境と国益を守ることは、事業
融資を行う国としての義務でもある。
(5) 研究の目的
世界と日本の重大な油流出事故とそれを契機とする法律的・技術的・社会的改善を調査分析し、
流出油防除体制を構築できる社会システムを提案することを本研究の主目的とし、そのために次
の目標を設定する。
1) 世界と日本の油流出事故の分析
2) 英国・米国・韓国・日本の油流出事故対策の分析
3) 日本の流出油防除体制の提案
4) 流出油防除体制を実現するために必要な社会的・政治的要因の分析
5) 日本が構築すべき自己変革型社会システムの提案
6) 北海道オホーツク海沿岸部の流出油防除体制の構築
(6) 具体的な研究項目とその進め方
本研究は、次の 3 サブテーマから構成される。
1) 世界と日本の油流出事故および対策を比較分析し、日本の流出油防除体制の問題点を明ら
かにし、法改正を含む流出油防除体制を提案する(上記(5)の 1)と 2)および 3))。
2) 必要な改善が必然的に実現されるための社会システム、あるいは対立する関係を克服調和
して前進できる社会システム(自己変革能力を有する社会システム)を提案する(上記(5)
の 4)と 5))
。
3) この成果を北海道オホーツク海沿岸部に応用し、その地域に必要な流出油防除体制の構築
手順を示し、この手順に基づいて流出油防除体制を構築する(上記(5)の 6))
。
第 1 サブテーマは、これまで各国で進められてきた体制整備の現状を「防除作業者と費用負担
者の分離」の観点から分析し、必要な流出油防除体制改革案を提示する。これは、日本の体制が
未だに汚染を起こした原因者による防除の費用と作業を行わせる「汚染者負担原則」を引きずり、
米国・韓国等と比較した「後進性」の主因と考えられるためである。具体的なアウトプットとし
ては、
「海防法」の改正案、油流出にかかる国家緊急時対応計画を策定する上で最低限必要とされ
る流出油回収能力等に関する具体的な数値目標、GIS を活用した排出油防除計画のデータベース
化、地域緊急時計画の構築法およびその「ひな形」を作成する。
第 2 サブテーマは、上記第 1 サブテーマの分析を通じて、米国と韓国でどの様な経緯を経て法
改正及び油防除システム構築が実現したかを調査し、日本でナホトカ号事故などの経験や先端的
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研究がありながら、なお改善が実現しない原因を明らかにする。そして、今後日本において油防
除体制改善して行くために、この問題に限らず、技術的に解決し得る問題でありながら政治的に
解決できない問題に応用可能な社会システム、即ち自己変革型社会システムについて提案する。
現実の社会・経済状況についてみると、日本のごく近傍のサハリン島沖では、世界的にも巨大
な油ガス田開発が進められ、本格的なタンカー輸送も開始されようとしている。現代社会におい
て化石エネルギーは不可欠であり、この安定供給が最も基礎的な命題であることは言うまでもな
い。しかし、サハリン島沖開発に関して、日本では安定供給の利点が強調され、現時点で抱える
事故対応の問題や地球環境問題として開発計画を総合的に評価する論調は少ない。
一般に、開発と環境保全は相反する面を持つことが多い。このような問題に対して、日本はこ
れまで有効に対処する社会システムを持っていなかった。様々な公害問題、医薬品問題、ダム開
発、空港建設、道路建設、干潟の埋め立てなど大きな社会問題はこのような二律相反の面を有し、
十年以上の歳月と多くの犠牲の上に解決される場合もあるが、数十年を経て未だに解決されない
問題も少なくない。このような対立的問題を解決するためには、対立する要素を現代社会の車の
両輪と見なし、対立関係を調整するシステム、即ち自己解決型の社会システムを構築してゆくこ
とが必要である。
この社会システムの例として、地震防災を扱う NPO があり、そこでは市民が行政パートナーと
なり、協働で活動するシステムが検討されている。このようなシステムを参考として本研究を進
める。
第 3 サブテーマは、サハリンⅡの開発主体サハリンエナジーインベストメント社が公表した油
流出事故対応計画書(Oil Spill Contingency Plan)の有効性を分析し、流出油汚染が日本に及ぶ影
響をリモートセンシング、数値シミュレーション、GIS 等の技術を活用して明らかにし、対応に
必要な体制とその規模等を具体的に明らかにする。さらに、この分析結果を反映させ、北海道庁、
漁協、NGO、海上災害防止センターなどと協力して、上記第 2 サブテーマの成果に基づき、地域
緊急時対応計画を作成する。
また、日本では特に資源・観光面で重要な海岸域における油防除活動のマニュアルが存在せず、
ナホトカ号事故時の対応が混乱した。そこで、自治体向けに沿岸域管理マニュアルを作成し、そ
れと連動した地域住民およびボランティア向けの流出油防除活動マニュアルを作成する。
(7) 研究を進める上で予想される問題点とその解決策
研究は技術、法律、社会など多岐にわたる。これまでの流出油防除は主として技術系の科学者
を中心に議論されてきた。本研究の推進には法律と社会に関する知見が必要である。また、サハ
リン島沖の石油ガス開発も研究対象であるので、海洋石油ガス開発技術とロシアの法律・社会情
勢に関する知見が必要である。さらに、実効ある流出油防除計画を立案するためには、地方自治
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体及び NGO の参加・協力が不可欠である。そして、米国や韓国の油防除体制を調査分析するため
には、それぞれの国で油防除の中心的役割を果たしている専門家の協力も不可欠である。
これら、研究を進めるに必要な知見と人脈は、ACT-JST による研究・開発事業を進めた際に培
われた人脈、研究者や地元とのネットワークを活用することができるので、既にその多くが研究
グループ内に存在している。ACT-JST による研究事業実施時には流出油防除活動を専門とするア
メリカの国家機関 NOAA や韓国 KORDI 等との研究交流を積極的に進めた結果、これらとの機関
に属する研究者や政府機関に所属する専門家との間には現在でも太いパイプが存在する。また、
サハリン島沖開発関連については、サハリンを含むロシア、スラブ語圏全域の研究を中心となっ
ている北海道大学スラブ研究所との関係が構築され、本研究に参加する研究者個別のレベルでは
既にいくつかの協同研究が実施されている。
さらに、オホーツク海沿岸の宗谷支庁、稚内市、紋別市、網走市等の地方行政機関、地元漁業
協同組合、NGO 団体等々の関係も十分に構築され、日常的に情報交換が行われている。サハリン
島沖開発に対し積極的に関与している日本国内に拠点を置く国際 NGO やサハリン州内に拠点を
置くロシアの地元 NGO などとの関係も構築されており、これらの関係を有機的に活用することで、
研究を有効に実施できるものと考える。
加えて、流出油防除の日本唯一の専門機関である海上災害防止センターとも、ナホトカ号事故
以来情報交換と共同調査などを通じ協力関係が有り、サブテーマ 3 の地域防災計画作成を有効に
実施できると考える。
②
期待される研究成果とそのインパクト
本研究は、流出油の防除を対象とするが、提案する社会システムは、すべての経済・技術・社
会問題に応用可能であり、日本が今後国際社会の中で貢献して行くために必要な社会問題解決の
重要な手段を提供すると確信する。
すなわち、資本主義社会の経済競争の中では、社会システムの充実より技術開発が先行し、そ
の環境への影響、社会的影響、人間の精神への影響などは深く検討されることが少ない。また、
そのような検討を義務づける法律も整備されていない。そのため、多くの問題が現実に大きな弊
害や被害となって全国的に明らかになるまで有効な対策と改善がおこなわれず、事態が悪化する
ことが少なくない。特に、少数の犠牲者や先駆的啓蒙者が長年努力するにも拘わらず、彼らの生
前に改善された例は少ない。
この原因として、日本の政策決定・意志決定過程にいわゆる「利害関係者(ステークホルダ)」
の概念が希薄で、特に決定を「受け入れる側」にこの傾向が強くみられることをあげることがで
きる。そのため、現実の問題が発生して初めてその問題が認識され対応が図られることになるが、
それらは往々にして「場当たり的」である。これは、現段階におけるサハリン島沖エネルギー開
-11-
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発にあてはまり、日本は事業に対する最大規模の融資国であると同時に受益国であり、さらに事
故発生時には大きな被害が波及し得る国、すなわちロシアと並ぶ最大の「利害関係国」である。
しかし、その関与は現時点では、ロシアすなわち「当事国」任せで、
「利害関係国」としての関与
は国・北海道ともに極めて希薄である。
翻って、利害関係者として事業への積極的関与は、何らの動機付けなしに促進されるものでも
ない。まずは、問題に関心を寄せる者が核となって一般市民・地域住民に対し情報を積極的に伝
達し、その理解を促進して初めて達成されるものである。ACT-JST による研究が一つのきっかけ
となり、地元漁協や NGO 等との連携の下、稚内市や猿払村等のオホーツク沿岸の漁業関係者や住
民を対象にした学習会等が数回実施されたものの、現在は休止状態にある。要するに「種」は蒔
かれているが、これを「育てる」手だてが決定的に不足しているといえる。積極的に蒔かれた種
を育てない限り利害関係国として、この事業への積極的関与は促進されないと考える。本研究は
その促進に大きく寄与できると確信する。
さらに、研究成果をより広く社会に応用し、権力者(政府)と非権力者(NGO)、多数(一般国
民)と少数(被害者・啓蒙者)、開発と環境保全、技術開発と安全性確保という対立する要素を同
じテーブルの上にのせて議論し、合理的な解決策を見いだすことが可能となり、日本が 21 世紀を
健全に進めてゆくシステムを提供できると考える。
また、サハリン島沖開発への NGO の関与の機会が閉ざされていて、開発の環境保全対策と油流
出事故対策の公開性が極めて乏しく、対策の欠如も指摘されている。さらに、日本の資金が海外
に投資されて、その国の環境や伝統的生活を破壊する事実は ODA でも多く指摘されている。この
ような国際社会における日本の経済活動のマイナス面を克服するためには、様々な対立関係を調
和させてゆくためのシステムが必要で、そのようなシステムを国内で実現し、さらに国際関係の
中で実現してゆくことができれば、ますます連携の強くなる国際社会に真に有効な貢献ができる
と考える。
このような社会システムなくしては、技術と環境とのバランス、人間と自然とのバランス、生
態系の保全、生き甲斐を見いだせる社会などを構築することは難しく、現代社会が抱える大きな
矛盾と問題を解決するために、今まさに求められている研究課題である。
-12-
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4.研究成果
本報告書は、別冊報告書-1、別冊報告書-2、別冊報告書-3、付録から構成される。本報告書には
ページ数制限があるので、研究成果の概要をまとめる。詳細は別冊報告書-1「流出油防除に関す
る自己変革社会システムの提案と実験」に記述されている。
主たる研究成果を 4.1「研究実施内容及び成果」にまとめ、社会技術の視点から 4.2「研究成果
の今後期待される効果」をまとめる。なお、研究成果はテーマごとに記述した。また、研究目的
や方法およびスケジュールなどは他の章と一部重複するが、全体を把握できるよう簡単に記述し
た。
4.1
研究実施内容及び成果
4.1.1
研究目的と研究方法
(1) 研究目的
世界と日本の重大な油流出事故とそれを契機とする法律的・技術的・社会的改善を調査分析し、
流出油防除体制を構築できる社会システムを提案し検証(実施)することを本研究の主目的とす
る。さらに、得られた社会技術をより広い問題に応用し日本社会を改善するための方策を提案し
た。
(2) 研究方法
本研究は、次の 3 サブテーマから構成される。
1) 流出油防除体制の提案
世界と日本の油流出事故および対策を比較分析し、日本の流出油防除体制の問題点を明
らかにし、法改正を含む流出油防除体制を提案する。
2) 自己変革能力を有する社会システムの提案
必要な改善が必然的に実現されるための社会システム、あるいは対立する関係を克服調
和して前進できる社会システム(自己変革能力を有する社会システム)を提案する。
3) 流出油防除体制の構築
この成果をサハリンの開発による流出油汚染の危機に直面している北海道オホーツク海
沿岸部の網走市に応用し、その地域に必要な流出油防除体制の構築手順を示し、この手
順に基づいて流出油防除体制を構築する。
-13-
【180401】
4.1.2
研究実施スケジュールと主要な成果
研究は平成 15 年度下半期より、平成 18 年度上半期の合計 3 年間にわたり継続して実施された。
そのスケジュールと主要な成果リストを示す(表 4.1-1)。
表 4.1-1
研究スケジュールと成果リスト
2003年度
項目
平成15年度
(6ヶ月)
2004年度
平成16年度
2005年度
2006年度
平成17年度
平成18年度
(6ヶ月)
報告書
記載
世界と日本の油流出事故の分析
4.1.3
世界の油流出事故対策の分析
4.1.4
日本の流出油防除体制の提案
研
究 流出油防除体制を実現するために
目 必要な社会的・政治的要因の分析
標
4.1.5
自己変革社会システムの提案
4.1.7
網走市流出油防除計画案の作成
4.1.8
結論と展望
4.1.9
4.2
シンポジウム・ワークショップ
4.1.6
紋別
紋別・金沢
北海道網走市流出油防除計画
立案研究会
出張・ヒアリング調査
(10ヶ国10回)
論文発表(39編、うち海外5編)
成
果 口頭発表(46編、うち海外9編)
な ポスター発表(3編)
ど
翻訳
紋別・網走
東京(予定)
第1回
第2回 第3回 6. 研究期間
第4回
中の主な活動
台湾
米国
米国、スイス
英国、カナダ
ロシア、韓国
米国
台湾
英国、フィンランド
ミャンマー、タイタイ
2編
4編
6編
6編
2編
7編
2編
1編
11件
9件
出版(3編、うち海外2編)
新聞報道(21件)
テレビ報道(3件)
紋別・網走
6件
NOWPAP
Region al Oil
韓国防除計画
Spill
Sakahlin-1 EIA
Contingency
他、1編
Plan & MOU
他、3編
-14-
7. 主な研究
成果物、発表
等
Field Guide for
Oil Spill
海洋汚染防除
Response in
ハンドブック
Arctic Waters
他、2編
【180401】
この研究を実施する過程で得られた研究遂行に関する考察は次のようなものである。
1)
3 年間という研究期間及び約 6000 万円の予算は、研究実施に適当であった。特に、この
予算により、海外を含め多くの研究者を招聘することができ、また、サハリン開発の危
機にさらされている北海道オホーツク沿岸部とナホトカ号事故を経験した能登半島の調
査および ESI マップ作成の基礎調査を行うことができた。
2)
共同研究者(機関)が北海道、関東、関西に分散していたことは、研究対象が全国的な
(日本全体の)問題であるため、機動性を発揮するベースとなった。
3)
数多くのシンポジウム開催と論文発表及び海外ヒアリング調査を通じて、世界的な動向
把握と研究協力者の人脈を得ることが出来た。さらに、これらの研究者との交流は、更
なる課題発掘と問題解明へ向けての情報交換の場となった。
4.1.3
世界と日本の油流出事故の分析
(1) 世界の油汚染
国際タンカー船主汚染防止連盟 ITOPF(The International Tanker Owners Pollution Federation Ltd.)
によれば、海洋に流入する石油の総量は、年間 320 万トンと推定されている(図 4.1-1)。産業排
水と都市生活排水として陸上から流入する量が 37%で最も多く、タンカーなどの運航に併って排
出される量が 33%、タンカーの事故によるものが 12%、大気から雨などによって流入する量が 9%、
残り 9%は天然資源の開発や生産に伴う排出である。タンカーの運航に伴うものは、油タンクの
洗浄水や燃料油のかすとして排出されるもので、現在の海洋汚染防止法では排出を禁じているが、
古い形式のタンカーや故意の排出などにより生じている。陸上の排出と船舶の運航時の排出は、
各々全体の 1/3 を占めており、人目に付きにくく少量でも広範囲に流れ出す油が海をじわじわと
汚染していることがうかがえる。
図 4.1-1
海洋汚染の原因
(出典:「海洋流出油対応」(ITOPF 作成、石油連盟訳))
-15-
【180401】
次に、1974 年から 85 年までの 12 年間に於けるタンカーの油流出事故を原因別に調べてみると、
85%は荷役中や燃料補給中に生じており、数は多いが規模は小さい。これに対して、衝突や座礁
などによる流出は、回数は少なくても規模が大きいため、総流出量は大きい。また、別の統計に
よれば、1978 年から 2000 年までの 23 年間に於ける 38kl 以上の流出の総数は約 4400 件、総流出
量は約 800 万 kl である(表 4.1-2、図 4.1-2)。そのうち、37,875kl を超える巨大な流出は、39 回で、
流出量は約 520 万 kl と約 2/3 を占める。大事故をなくさないかぎり流出災害は防止できない。
表 4.1-2
世界の油流出統計(38kl 以上)
流出量区分(kl)
年
38~379
回数
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
(合計)
出典:
注:
74
102
150
116
102
120
132
109
105
141
120
168
274
205
224
228
192
136
100
119
125
169
145
3,356
量
(千kl)
13
16
20
15
10
13
15
13
11
15
14
18
32
20
24
24
21
15
13
13
13
17
16
322
379~3,786
回数
42
47
43
35
32
31
48
50
31
30
36
43
56
29
37
27
42
30
27
35
36
35
20
842
量
(千kl)
49
54
44
38
33
42
42
55
46
39
42
52
68
32
32
25
45
38
29
32
33
33
20
806
3,786~37,857
回数
18
20
13
2
5
12
6
3
2
6
5
9
7
7
4
7
8
2
3
11
4
3
3
160
量
(千kl)
218
324
148
40
50
162
45
43
10
50
39
106
78
77
43
79
109
10
33
116
22
24
14
1,664
37,857以上
回数
8
6
3
1
0
4
0
1
2
0
2
2
0
2
3
1
2
0
2
0
0
0
0
39
量
(千kl)
684
1,089
339
118
0
713
0
81
77
0
203
117
0
965
446
95
157
0
121
0
0
0
0
5,205
(合計)
回数
142
175
209
154
139
167
186
163
140
177
163
222
337
243
268
263
244
168
132
165
165
207
168
4,397
量
(千kl)
964
1,483
551
211
94
931
103
191
144
105
298
293
178
1,094
545
222
332
62
196
161
68
74
50
7,998
International Oil Spill Statistics 1996 by Dagmar Schmidt Etkin, Oil Spill Intelligence
Reportより作成。1997年以降のデータはOSIRの2000年次統計による。
上記の統計データは、流出量が38kl以上の事故の集計である。
-16-
【180401】
4,000
(38~ 379kl)
(379~ 3,786kl)
(3,786~ 37,860kl)
(37,857kl 以 上 )
4,000
(38~ 379kl)
3,000
流出回数
総 流 出 量 ( 百 万 kl)
6,000
2,000
(379~ 3,786kl)
(3,786~ 37,860kl)
2,000
(37,857kl 以 上 )
1,000
0
0
1 区分
流出量
流 出 量1区 分
図 4.1-2
流出油量区分ごとの総流出量と回数
タンカー流出事故の 23 年間の統計データを時系列の図にすると傾向がよくわかる(図 4.1-3)。
特に、流出量の多い年は、湾岸戦争、石油生産井などの巨大事故、大型タンカー事故などが起こ
った年で、これらを差し引いてみると、80 年以降の流出量は毎年 10 万~30 万 kl であるので,必ず
しも減少傾向にはないことがわかる。流出事故の回数もここ 20 年以上さほど変化していない。
1,600
アモコカジス号 ( 260,000kl)
パイプライン(106,000kl)
アトランティスエクスプレス号( 319,000kl)
生 産 井 ( 530,000kl)
1,400
流出量( 千kl)
1,200
生 産 井 ( 159,000kl)
イレー^ネセレーデ号 (139,000kl)
湾岸戦争
( 900,000kl)
1,000
生 産 設 備 ( 300,000kl)
カストロ・デ・ベルバー号
( 297,000kl)
800
600
生 産 井 ( 300,000kl)
400
200
2000
2000
1998
1998
1999
1997
1997
1999
1996
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
1985
1984
1983
1982
1981
1980
1979
1978
0
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
1985
1984
1983
1982
1981
1979
400
350
300
250
200
150
100
50
0
1980
出 典 : International Oil Spill Statistics 1996 by Dagmar
Schmidt Etkin, Oil Spill Intelligence Reportよ り 作 成 。
( 1997年 以 降 の デ ー タ は OSIRの 2000年 次 統 計 に よ る ) 。
1978
流出回数
年
年
図 4.1-3
流出量と流出回数
-17-
【180401】
(2) 日本の油汚染
1962 年以降 97 年までに日本で発生した油流出事故のうち、流出量が 100kl 以上のものは 50 件
を超える。ナホトカ号は、日本では 4 番目の大量流出事故となったが、大きな被害をもたらした
事故は、次のように防除技術開発と法律制定の契機となった。
1) 第一宗像丸
ガソリン 3600kl を積載し、京浜運河を航行中、プロピク号(ノルウェー)と衝突炎上。
付近航行中の 2 隻の内航船を巻き込み、41 人の死者を出した。危険物積載船の事故は大
きな被害を与えることを国民に知らせるきっかけとなった。
2) ヘイムハード号
原油約 27,000kl を積載し入港着岸作業中、操船ミスで岸壁に衝突し原油が流出、直後に
引火爆発し 28 日間にわたって燃え続けた。科学消防能力を有する消防船の必要性を認識
させ、海上保安庁消防船誕生のきっかけとなった。
3) 第一新風丸
重油 500kl を積載し呉に向けて航行中、コリントス号(リベリア)と衝突・転履。「浦賀水
道における海上交通に関する緊急安全対策」が運輸省から出され、海上交通安全法制定
のきっかけとなった。
4) ジュリアナ号
荒天錨泊中、風浪に流されて座礁。船体が二分された。主要港湾に流出油災害対策協議
会が誕生するきっかけとなった。
5) 第十雄洋丸
川崎向け航行中パシフィック・アリス号(リベリア)と衝突炎上。この事故と三菱石油
水島精油所の事故が契機となり、
「海洋汚染防止法」が「海洋汚染及び海上災害の防止に
関する法律」に改正され、海上災害防止センターが設立されることとなった。
6) 三菱石油水島精油所
タンクの破損により、重油が海上に流出し、美讃瀬戸および播磨灘南部海域に拡散した。
石油コンビナート等災害防止法制定及び海洋汚染防止法改正のきっかけとなった。
図 4.1-4 には、流出量 100kl 以上の事故を●で示し、特に、日本海側の事故は船名と事故年月を
示し、また、日本海を東航北上するタンカーのルートと一年間の隻数を示した。日本海は、東京
湾、大阪湾、瀬戸内海などに比べて事故数こそ少ないが、タンカーの流出事故 10 位までのうち、
ナホトカ号、ジュリアナ号、第一春日丸、マリタイム・ガーデニア号は日本海で事故を起こして
おり、大きなタンカー事故は日本海側で少なくないこと、しかもみな冬に起きていることがわか
る。冬季の日本海が荒れることと無関係ではない。これらの事故が起きる度に油防除体制の不備
が指摘されてきたが、抜本的な改善はされてこなかった。特に、冬の日本海の大事故という共通
項があったにもかかわらず、政府の「流出油防除対策の強化について」
(平成 9 年 12 月 12 日、運
輸技術審議会)が自ら明らかにしたように、日本海に備えるという視点を欠いていた。
-18-
【180401】
また、日本の最近の油汚染事故統計(図 4.1-5)によれば、汚染事故総数はやや減少傾向にあるが、
油汚染はほぼ横ばいである。
-19-
【180401】
図 4.1-4
日本海のタンカールートと日本の主な流出油事故発生地点
出 典 : 海 上 保 安レ ポ ー ト 2004
図 4.1-5
海洋汚染発生統計(H10-14 年)
-20-
【180401】
(3) 便宜置籍船
国際法によって、船はいずれかの国に船籍を登録しなければならず、登録した国の法律や基準
に従うことが決まっている。国の法律や税制などに差があれば、緩やかな国に船舶を登録した方
が経済的に有利になる。他国より法律的税制的に優遇し、他国の船を積極的に登録させる国を便
宜置籍国という。つまり、実質的には自国の管理下にない船を形式的に登録している国である。
登録された船を便宜置籍船という。日本や欧米の船会社が船舶を自国に登録せず、便宜置籍国に
登録するのは、ひとえに次のような経済的理由による。
1) 船舶の登録税と固定資産税が桁違いに安い。
2) 法人税がないか極めて低い。
3) 人件費の低い外国人船員を雇える。
4) 船舶の安全性に関する基準が緩やかである。
便宜地籍国にはリベリアやパナマのほかに、バハマ、キプロス、バミューダ、ケイマン諸島、
クック諸島、ジブラルタル、ホンジェラス、レバノン、マーシャル諸島、モーリシャス、オラン
ダ領アンティル、セントビンセント、スリランカ、ツバル、ビルマ、ベリーズ、バルバドスなど
が ITF から指定されている。それらの国の合計船腹量は、世界の船腹量の 50%に達する。
1983 年から 9 年間の全損事故を便宜置籍国、日本、全世界について比較すると(図 4.1-6)、便
宜置籍国全体の全損率は世界平均のほぼ倍で、便宜置籍国の中でもキプロスとマルタは全損率が
高く、100 隻に 1 隻以上が事故を起こしている。便宜置籍船の全損率が高いのは、機器などの安
全性が低いこと、規制が緩いために船舶の保守がおろそかにされていること、賃金の安い外国人
船員は概ね技量が低いこと、外国人が多くなると意志の疎通が図りにくくなるなどの理由による
と考えられる。
国
総隻数
全損隻数
全損率
(A)
(B)
B/A(%)
全損率
(%) 0
リベリア
1,699
5.6
0.33
リベリア
パナマ
5,173
36.4
0.70
パナマ
キプロス
1,079
11.1
1.03
バハマ
481
1.7
0.35
マルタ
343
5.1
1.49
バハマ
その他
282
1.6
0.57
マルタ
8,957
61.4
0.69
FOC平均
日本
10,093
28.2
0.28
その他の国
57,646
171.0
0.30
世界合計
76,696
260.7
0.34
便宜置籍国合計
0.5
1
1.5
キプロス
便宜置籍
日本
世界平均
出典:「外航海運政策資料集」1993年10月、全日本会員組合企画調査部編より作成。
図 4.1-6
全損海難事故発生比較(1983~91 年)
-21-
【180401】
(4) 旗国主義と入港国管理
便宜置籍という制度を生んでいる根本原因の一つに旗国主義がある。これは、国連海洋法条約
や海洋汚染防止条約などの国際条約全てに共通する考え方で、船舶が登録されている国を「旗国」
といい、その国がその船舶の安全性を審査し、違反を取り締まる権限と責任を有するという制度
である。また、船は一定の期間毎に検査を受けるよう義務付けられているが、それも旗国に委ね
られている。ナホトカ号は便宜置籍船ではないが、ロシアの検査がいい加減であったために、船
の外板の厚さが 2/3 になっても見過ごされていた。日本海を通過しても日本の領海外なので、日
本政府はナホトカ号の構造的欠陥を取り締まることは出来ないし、知ることもなかった。
このように、公海上で発生した事故が近隣の国に多大な被害を及ぼすのを防ぐ面では、旗国主
義は障害となりえる。これに対処するためには、他国の船が起こした事故であっても緊急時には
直ちに対応できる国内体制を作るとともに、国際的には他国の船でも関係国が取り締まれるよう
な枠組みが必要である。この枠組みの一つに、1976 年の ILO 条約 147 号(商船の最低基準に関す
る条約)の「一定基準以下の船を入港国が拘留を含めた措置を執れる」という規定がある。これ
を入港国管理(PSC:Port State Control)という。しかし、技術基準を満たしていない船舶が年間
500 隻以上日本に寄港していて、このような Sub-Standard Ship は日本籍でないため、日本一国で
根絶することはは不可能である。ここに流出油防除体制を構築しなければならない最大の原因が
存在する。
(5) 考察
世界と日本の流出油事故の分析と世界の流出油事故対策の分析を通じて次のような考察を得た。
1)
油流出事故はタンカーによる輸送が活発となった 1960 年代から頻発し、数年から十年に
一度程度の巨大事故が広範囲かつ高度の油汚染をもたらしていて、その傾向は現在に至
るまであまり変わることはない。
2)
事故の原因は、船舶管理の悪さと船員の管理の悪さに起因していて、特に船舶管理の悪
さは種々の経済的圧力の中で生まれていて、
(この問題は本研究テーマを超える問題では
あるが)管理の悪い Sub-Standard Ship の取り締まりを強化するだけでは事故を根絶出来
ないことに留意しなければならない。
4.1.4
世界の流出油事故対策の分析
(7.主な研究成果等
論文(国内)6、論文(海外)2、口頭(国内)11、17 にて発表)
(1) 英国・米国・韓国
(7.主な研究成果等
論文(国内)6、論文(海外)2、口頭(国内)11)にて発表)
韓国・英国・米国の現状体制は、次のような共通的特徴を有する。
-22-
【180401】
1)
防除活動の実働部隊となる沿岸警備隊等の国家機関、燃料企業等の関連企業が設立した
防除組合、大規模国立研究機関の 3 者が中核となって防除体制が構築されている。
2)
これらの機関に対する包括的かつ強力な権限を付与された「現場調整官 (On-Scene
Coordinator)」が防除の指揮を執る。
3)
これらの国には上記のように大規模な国立海洋研究機関の存在する。米国においては商
務省の管轄下の大気海洋局(NOAA)に油流出を専門とする研究部門(Ocean Service Office
of Response and Restoration)がシアトル市にあり、韓国では海洋開発研究所(KORDI)が
仁川(インチョン)市、大田(デジュン)市などに同様な組織が置かれ、それぞれ 100
名を超える博士号取得者が活動を行っている。
【英国】
このような体制は、いずれも事故対応の反省から生み出されたもので、その端緒を 1967 年にト
リー・キャニオン号事故を経験した英国に見ることができる。同事故では、約 119,000tのクェー
ト原油が流出し、英国のコーンウォール海岸を中心にフランス領内のガーンシー島を含め 300 マ
イル以上におよぶ広範囲の海岸線が強度の汚染を被った。最初に事故対応に当たったサルベージ
会社の撤退を受け、英国政府は通常の方法による事故処理を放棄し、事故タンカーに対して海軍
戦闘機による爆撃を 3 月 18・19・20 日の 3 日間連続で行った。この爆撃ではナパーム弾、塩素酸
ナトリウム、航空機燃料が投下され、タンカーの残存油や流出油の焼却が試みられたが、原油中
の燃焼成分の大半はすでに揮発していたものと考えられ、最終的にどの程度が焼却処理できたの
かは確認されていない。また、この爆撃後、3 つの部分に破断した船体は 4 月上旬の段階で完全
に海中に沈没している。さらに、この事故では強い毒性を持つ非イオン系界面活性剤を主成分と
する分散剤(Oil Dispersant)が大量に使われ、結果的に生態系被害を拡大したことでも事故対応
に大きな教訓を残し、さらに、フランス領内侵入した流出油の処理にアステリン酸を含む天然チ
ョーク粉散布が行われ、流出油の混合物が大量に海中に沈降する事態も発生した。その後、英国
政府は大規模な海洋汚染事故対応のための体制整備が国家的なレベルで開始する。それまでの事
故対応を汚染者に完全に任ねてしまう体制を改め、既存の沿岸警備隊の内部に海洋汚染防除を専
門とする「海洋汚染規制部隊(MPCU)」が組織された。このような国家的な汚染防除体制の整備
は米国に多大な影響を与え、事故当事国の英国に先んじて油流出事故や海洋汚染防除を定めた「国
家緊急時計画(National Contingency Plan)」が策定された。
【米国】
米国においては 1989 年にアラスカで発生したエクソン・バルディーズ号事故を契機に油汚染防
除体制の整備が一気に図られている。同国ではこの事故が発生する以前の段階で世界に先駆け、
国家緊急時計画を策定しており、事故対応には万全の体制が採られていると確信していたが、エ
クソン・バルディーズ号事故が船長の「酒酔い操船」に原因があったことが明らかとなり、さら
に事故の初動体制にも大きな問題があったこと等が極めて厳格な事故原因者責任を課す OPA90
(米国油濁法)成立の背景ともなったと言われている。
-23-
【180401】
【韓国】
韓国においては 1995 年に釜山沖で発生したシープリンス号事故では、特に初動体制の構築の問
題から大規模な火災の発生は防げたものの、その後の油流出や流出油の拡散を防止することがで
きず、その対応の反省から、現場調整官や科学技術防除支援団、韓国海洋汚染防除事業者組合を
軸とした油防除体制を確立すべく、海洋汚染防止法を抜本的に改正した。折しも 1994 年から 95
年にかけて、漢江にかかる鉄橋が落下し 32 名が死亡し、またデパート火災で 500 名以上が死亡す
るなどの事故があり、
「国家受難の年」として大統領の改革への関心が非常に高く、直接大統領の
命を受けて改革に取り組むことができた。そして、1997 年『海洋汚染防止 5 ヶ年計画』が策定さ
れ、この計画の実施により韓国近海 13 海域における地域防除実行計画が完成するなど、シープリ
ンス号事故以後の体制はそれ以前のものと比較した場合、大きく異なったものとなっている。
図 4-1-7 は韓国の国家緊急時計画に示されている油汚染防除体制の模式図である。この図に示し
たとおり、事故の指揮権限は日本の海上保安庁長官に相当する海洋警察署長が統括する典型的な
現場調整官体制であり、事故の規模に応じて政府の各部局から派遣される公務員も加わった「班」
が構成され、現場調整官の指揮命令下に入る。
防除対策本部長
海洋警察庁長
(海洋警察庁の次長)
総括統制官
海洋汚染管理局長
防除技術支援団
専門家グループ
現場調整官
海洋警察署長
本庁の支援班
防除課長
地域防除対策協議会
自治体・水協・関係機関
指揮統制班
防除状況班
関係機関の支援チーム
海上・陸上
図 4.1-7
補給支援班
広報・行政支援班
海警の防除チーム
海上・陸上
現場調査班
民間の防除チーム
防除組合・防除業者
韓国の油防除体制(同国国家緊急時計画による)
(2) フィンランド
フィンランドの油防除体制の特徴は、以下の 2 点である
1) 国際間協力として、バルト海沿岸諸国により構成される地域間協定、「ヘルシンキ条約」
(HELCOM)を中心に、海上汚染に関する 5 つの主要な国際協定に加盟し、国際間協力の
-24-
【180401】
もとに進めている。
ヘルシンキ委員会の HELCOM 勧告は、加盟国の国内法に組み込むことが義務付けられ
ている。
2)
国内的には環境省所管の「フィンランド環境研究所(SYKE)」が事故発生時の実質的な指
揮命令権限を有している。油汚染対応の唯一の国家機関所轄官庁である。
フィンランドにおける環境保護 NGO は、バルト海沿岸諸国の NGO とネットワークを結んでい
るのが特徴である。国レベル、NGO 双方ともバルト海沿岸諸国と協力体制を組み、海環境保護に
取り組んでいるという共通点がある。
このような体制が生まれてきた背景には、次のような歴史的風土があると考えられる。
1) フィンランドは、大国ロシアあるいは強国スウェーデンに挟まれ、国を護る意識が強い。
2) 13 世紀にアジア系のフン族が移動してヨーロッパ系民族と混血して生まれた過程を経て、
協力によりまとめる意識が強い。
3)
フィンランドの周辺海域は航路が狭く、冬季には凍結し閉鎖的な海域であるとともに、
輸出入の 80%を海上交通に頼っているため、海を護ることに関して先進的にならざるを
得ない。
(3) ロシア(7.主な研究成果等
口頭(国内)11、17 にて発表)
日本の近くで巨大な開発が行われているロシアの流出油防除体制は、概ね米国・英国と同じ方
式で、海上保安庁が主たる任務を負う。しかし、中央政府、地方行政府ともに一般に組織形態が
複雑である。中央政府の油汚染防除関係組織は、非常事態省と運輸省から構成される。非常事態
省の任務の一つに「海洋油汚染除去に連邦政府の執行権力機関の調整」があり、この任務は同省
の「非常事態防止・除去部」が担当している。また、運輸省の油流出に関わる任務は、
「船舶およ
び施設から海上への油流出製品その他、有害物質の排出除去措置を含めて、輸送手段および輸送
通信経路非常事態の防止・除去に関する措置の導入・組織化」とされている。
急速に展開されているサハリン開発に対する防除体制の構築は法律を作るところからスタート
していて、法律に基づき国主導で実際の体制を構築しつつあるが、ロシアでも、政治体制の大き
な転換の中で、環境 NGO など民が力を付けてゆく状況がみられる。開発はサハリン-1 から 9 に
及び、先行するサハリン-2 の開発が環境破壊を起こしていることもあり、混乱中にある情勢を今
後どのように合理的に改善してゆくか注視する必要がある。
(4) 日本(7.主な研究成果等
論文(国内)6、論文(海外)2、口頭(国内)17 にて発表)
日本の油汚染防除体制は、1996 年に OPRC 条約(International Convention on Oil Pollution
Preparedness Response and Cooperation)が発効したことにより、同条約第 6 条第1項bに定められ
-25-
【180401】
た「準備および対応のために国家的な緊急時計画の策定」を遵守するため、
「油汚染事件への準備
および対応のための国家的な緊急計画」(閣議決定)を閣議決定した。その後、1997 年 1 月のナ
ホトカ号事故により、12 月に一部修正が加えられるとともに、「海洋汚染等及び海上災害の防止
に関する法律」
(海防法)が一部改正された。この改正により、日本の領海外で発生した油流出事
故に対して国の指示による防除活動が出来るようになった。
地方公共団体
環境団体
警察庁
消防庁
環境庁
法務省
文部省
科学技術庁
厚生省
防衛庁
海上保安庁
水産省
国土庁
水産業界
建設省
通産省
鉱山業界
海上災害防止
センター
図 4.1-8
外務省
運輸省
資源エネルギー
庁
IM O諸外
国政府
海運業界
石油業界
「油汚染事件への準備および対応のための国家的な緊急計画」による日本の防除体制
日本の現状の防除体制は、海上保安庁が中心となっているように見えるが(図 4.1-8)、韓国や
米国の現場調整官制度と異なり、海上保安庁は関係省庁・機関に対する直接的な指揮命令権限は
持たず、各機関が持つ権限を「調整」する役割を果たすことが定められている。1997 年 6 月に災
害対策基本法に付随する防災基本計画に「第 6 編海上災害対策編」
(第 6 編)が追加され、地方公
共団体と国の機関との連携強化などが定められたが、閣議決定、海防法、第 6 編を見ると、多数
の対策本部が乱立するような状況が起こり得る状況にあり、先に開始される海上活動と流出油が
陸上に到達した後に開始される陸上部での活動を計画的かつ効率的に実施できる体制が構築され
ているわけではない。実際、上記の各法律・計画に定められている事故発生時に都度設置される
対策本部を見ると表 4.1-3 に示したような体制が構築されることになり、これらの組織をどの機関
が主体となって統括するかについて定める法律等の条文は存在しない。
-26-
【180401】
表 4.1-3
名称
設置場所
非常災害対策本部
事故時に設置される「災害対策本部」
構成主体
本部長
事務局
部員
法的根拠
原則国土交 国土交通省等指定機 災害対策基本法
通省内
関の局長級職員
25条1
本省庁課長級職
災害対策基本法
?
員又は地方出先
25条6
機関の部長級職員
東京
国
各国務大臣
非常災害現地対策本部
現地
(現地対策本部)
国
原則国土交
通副大臣
警戒本部
現地
国
海上保安庁
長官
原則海上保
?
安庁内
(防災基本計画)
連絡調整本部
管区海上保
?
安本部内
?
管区海上保
?
安本部内
(防災基本計画)
対策本部
現地?
各事業者
?
?
?
(防災基本計画)
対策本部
現地?
指定行政機関 ?
?
?
災害対策基本法
23条
?は、設置を定める法律および計画内に記載や言及がないことを示す。
(5) 考察
世界の流出油事故対策の分析を通じて次のような考察を得る。
1) いずれの国も油流出の大事故を契機として防除体制を構築しているが、構築する過程と
その目標はいくつかのグループにまとめることが出来る(米国、英国、韓国、ロシア、
フィンランド及び日本の比較)。
*
国家機関が調整役を務めるタイプ(日本)と主導するタイプ(その他の国)
*
主導型のうち海上保安庁が主力となる国(米、英、韓、ロ)と環境省が主力となる
国(フィンランド)
(米国は、NOAA も一定の大きな役割を果たすので、環境省も調
査・方針決定では主力となっている)
*
抜本的な対策を講じなかった国(日本)と講じた国(その他の国)
*
民間の力(NGO)により達成した国(米)と国家権力に達成した国(韓、ロ)とそ
の他の国
*
自国のみで問題を解決しようとする国(米)と国際協力により解決しようとする国
(その他の国)
2) このように、方針や過程が国により異なり、それは各国の歴史に基づく結果であるから、
るため、日本は他国を真似するだけでなく、日本の風土と社会構造に適した改革方法を
考案しなければならないという結論にいたる。
-27-
【180401】
4.1.5
望まれる日本の防除体制
世界の流出油防除先進国の制度とナホトカ号事故の教訓によれば日本が構築すべき流出油防除
体制は、以下を原則に掲げるべきである。
(1) 防除原則
1) 目的と責任
油汚染の防除活動の責任範囲は、原則的に国の排他的経済水域を含め、環境および資源
保護を目的に実施し、国にはその義務を負う。また、現行の事故発生時の曖昧な責任の
体系を改め、対応責任・指揮命令系統の明確化を図る。
2) 体制と方法
日本のいかなる場所で事故が発生しても 6 時間以内に本格的な防除が開始可能な体制を
敷く。
3) 計画と実施
国は、自治体、住民、自然保護団体の参加を得て、回収から最終処分までを考慮に入れ
た油汚染の統一的防除計画を作成し、この計画に基づき回収実施する。
4) 記録と調査
国は、汚染地域の防除を記録し、さらに、環境が十分に回復するまで継続的なモニタリ
ング調査し、結果を記録する。
5) 費用と請求
国は、防除と環境回復に必要な資金を用意し、事故責任当事者あるいは国際油濁補償基
金へ請求する。また、現状の民間人・機関による請求を改め公務員による請求およびそ
のための人材育成を行う。
6)
人材の教育・育成
油汚染防除および対策に関する人材の育成に努め、諸外国との人材交流、技術交流や連
携を推進する。
(2) 防除対策
1) 防除方法
*
海上防除作業は機械力の利用を原則に、必要に応じて他の手法との併用を考慮する。
*
海岸では、人力とポンプを中心にゴミと油を分別して回収する。
*
ESI マップの情報と現場の状況を考慮し、可能な限り環境影響を低減させる手法を
選択する。
2)
ESI マップの作成
海上保安庁を中心に、国の関係機関、自治体、自然保護団体、住民が協力して ESI マッ
プを作成する。また作成されたマップには有効期限を定め、定期的な更新を実施する。
3) 防除計画
-28-
【180401】
防除計画では、ESI マップ(環境脆弱性指標図)に基づいて、海岸ごとの防除方法、ボ
ランティアの登録と支援要請手順、資材の調達方法、回収油の保管場所、回収油の処理
方法、現場指揮官、科学技術支援チームを定める。現場を指揮する担当者は、国、自治
体、民間に協力を要請し、地域住民や自然保護団体、専門家の意見を聞く。今後、諸外
国の例に倣い、油防除技術を専門とする科学技術支援チームを設立することが望まれる。
4) 防除能力の向上
*
民間の作業船や各種ポンプなど油回収に有効な機材のリストと動員計画を作成し、
排出油防除計画に組み込む。
*
防除資材の規格を B 重油から C 重油対応へ変更するなど、社会の実態と整合を図る
と同時に現状のオイルフェンスなどの「型式承認制度」の見直を行う。
5) 海上災害防止センターの機能の充実
生物および化学担当の専門官を新設し、現場を指揮する担当官を増員し、さらに、自然
保護団体、研究機関との定期的情報交換を促進する。
6)
ボランティアの登録と講習
事故時の現場作業に参加を希望するボランティアは、必要最小限の講習を受けて参加す
る。そのためのボランティア教育プログラムを新設する。
7) 国際油濁補償基金への国の働きかけ
「環境被害」の概念を明確にし、補償範囲を拡大を求めると同時に請求を担当する人材
確保に努める。
4.1.6
より高いレベルの流出油防除能力を確保するための社会的要因の分析
大規模油流出事故および沿岸汚染の発生頻度は地震や台風などの災害発生頻度と比較すれば格
段に低い。しかし一度事故が発生すると巨大な被害をもたらし、深刻な社会問題となる。従って、
汚染事故対応体制の整備を進める上で、事故に対するリスクの評価、社会認識・合意、さらにい
かに財源確保を行うかが問題となる。
(1) 科学技術とリスク
その 1:石油開発等に於ける ALARP
技術と経済の進展が極めて早い現代社会では、新技術・新経済システム・新社会システムなど
の採用の影響を十分に評価することなく応用されてきたが、そのためその成果は便利さには貢献
できても、自然環境・社会構成・倫理性等は阻害される傾向を否めない。従って、文明や技術の
進歩あるいは社会構造の変化に対して変化によって生ずる矛盾や不都合をあらかじめ考慮して技
術導入や社会構造変化の方向性を制御することは重要で、例えば海洋石油ガス開発においては、
ALARP という概念が採用されている。ALARP は、As Low As Reasonably Practicable の略で、「合
理的に実行できる限りリスクを軽減する」という意味である(図 4.1-9)。ALARP はリスクの許容
レベルを数量的に表現し、許容値と非許容値との間のリスクを可能な限り軽減し、異なる立場の
-29-
【180401】
意見を技術的・経済的実現性という指標で折り合いをつける手法である。英国では、詳細なガイ
ダンスにより、巨額の海洋石油ガス田の開発、あるいは閉鉱・撤去などは、計画が公表され広く
意見を求め、ALARP の考え方により社会的な折り合いをつけることが定められている。
図 4.1-9
リスク許容基準
出典:「石油製品総合管理推進事業/リスク評価システム開発」事後評価)分科会 資料6-2
このリスク評価、あるいは許容値の設定には多くの人が関与する。開発主体である企業は一般
的に低コスト高利益を追求する。NGO など一般国民はコストと無関係に安全性を求める。行政機
関はこの中間にあり、企業利益を守りつつ国民を説得する立場をとることが多い。
しかし、この手法は万全とは言えず、油汚染のように数量化しにくいリスクを考慮することが
できないという欠陥を内蔵している。例えば、図 4.1-10 は処理剤自身の毒性より、重油を微粒子
化する毒性効果の方が大きいことを示す実験データである。これは油を微粒子化することで生物
の体内に「取り込まれやすさ」を増大させた結果生じることが予測される被害を示すが、このよ
うな分散剤そのものが持つ毒性に起因しない、いわば「副次的」に生じる被害の程度、およびそ
の予測は極めて困難である。
-30-
【180401】
100%
出現頻度(%)
処理剤
のみ
80%
60%
40%
20%
5.0
10.0
5.0
10.0
2.5
1.0
0.5
0.25
0.1
0.05
0.025
0.01
0.005
0.0025
0.001
0.0005
0.00025
Control
原液濃度(%)
100%
出現頻度(%)
重油
+
処理剤
0.0001
0%
正常仔魚
変形仔魚
死亡仔魚
未ふ化生存
未ふ化死亡
80%
60%
40%
図 4.1-10
2.5
1.0
0.5
0.25
0.1
0.05
0.025
0.01
0.005
0.001
0.0025
0.0005
0.00025
0.0001
正常仔魚
0%
変形仔魚
死亡仔魚
未ふ化生存
未ふ化死亡
Control
20%
原液濃度(%)
処理剤と重油がムシガレイの初期発生に及ぼす影響
出典:青海忠久『重油汚染・明日のため』第 3 章1
重油と油処理剤の影響
その 2 分散剤に対する漁業協同組合の認識
ナホトカ号事故では、多くの教訓を得たが、その教訓を生かした抜本的な油汚染対策は未だ実
現されていない。2003 年から、本プロジェクトの一貫として、市民と行政が協力して地域の油防
除計画を立案する研究会を開催しているが、分散剤の使用の是非は環境面・漁業面から非常に重
要であるため、合意が困難な事項となっている。油流出で甚大な被害を被り、現場をよく知る漁
業者に、分散剤についての過去の経験や意見を訊ね、今後の日本の油防除体制を提案する上での
参考にすることを目的として、アンケート調査を実施した(グラフの数値については「北海道網
走市流出油防除計画(案)」資料 8-5 参照)。
本アンケート結果には、漁業者の意識と現在おかれている状況が顕著に表れている。分散剤に
ついての情報が少なく影響などもわからず判断材料が少ない中で、使用不使用決定には「安全性」
を第一にあげているにもかかわらず、「油が早く消えてほしい」「油漂着への風評被害を懸念」し
て、早い対応を望み、分散剤使用に同意するというジレンマに陥っていることが推測される(図
4.1-11)。この傾向は、オホーツク海沿岸の漁協でも顕著な違いはみられない。
-31-
【180401】
1) 使用を決めるときの優先事項:安全性を最優先させたいと考えている。
行政などの指導
風評
費用対効果
安全性・環境・漁場への影響
0%
20%
40%
60%
80%
100%
2) 使用を判断するための情報:大部分の人は判断するための情報がないと感じている。
わからない
ない
ある
0%
3)
20%
40%
60%
80%
分散剤使用に同意するかどうか:油が早く消えて欲しい(下記回答)ため、情報がない
にも拘わらず(上記回答)分散剤を使ってしまう傾向が窺える。
その他
風評被害
安全性未確認
有害である
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
50%
60%
4) 分散剤使用に同意する理由
その他
油漂着への風評被害
回収作業が楽
経済的である
油が早く消えてほしい
安全である
0%
図 4.1-11
10%
20%
30%
40%
分散剤使用に関する漁業者の意識調査結果
-32-
【180401】
特に、
「安全性・環境・漁場へ影響への懸念」と「情報のなさ」については切実で、記述式回答
にも表れている。
「分散剤使用に関して、漁協内でどんな議論が交わされましたか。
」の設問では、
分散剤に関する議論が漁協内で交わされたことがない、あるいは無回答の漁協が多かったが、回
答されたものには、安全性への懸念から早期の処理まで様々出されている。
「分散剤あるいは現在
の油防除体制について改善を望む点など、自由にご意見をお書き下さい。」という設問でも、
「特
になし」あるいは無回答が多かったが、回答のあったものは「分散剤に関する要望」と「油防除
体制に関する要望」の 2 つに大別できた。
「分散剤に関する要望」に関しては、
「自然環境に安全な分散剤の開発」に代表される。安全性
を求めるもの、情報に関する「情報が少ない」
、「分散剤使用による魚への影響にはどのようなも
のがあるか、詳しいデータがほしい」などで、
「知識がないので議論されていないので資料がほし
い」と資料請求をしてきた漁協もあった。
「皆でわかるパンフレットなど、知識を広めるための何
かを考えていただきたい」という具体的な提案もある。また、分散させるのではなく、素早く集
中させて船で海水ごと吸い上げる方法はできないのか(油処理専用の船を各県に置く)」、
「油の性質
(粘度)に万能な分散剤の開発」、「毒性の強さ(水産物に与える影響)の研究」などの提案や使
用方法に関するものなどがあげられている。
「油防除体制に関する要望」は、「事故の未然防止」「漁業者の初動体制」や「早急判断ができ
る事故全般の指揮・命令」に関するもの、
「地域だけの対応ではなく国による全面的な防除」を求
めるものなどがあげられている。
現実には分散剤の影響や効果は解明されてはいない。もし情報が正しく伝わっていれば、
「安全
が確認されれば」という条件付き同意や「わからない」という回答は、もっと少なくなると予想
される。もともとほとんどの人が「安全性」を懸念しているわけだから、
「油が早く消えてほしい」
、
あるいは「油漂着への風評被害を懸念」して使いたくなる気持ちも、十分な情報のもとに判断で
きれば、「リスク」回避に結びついていく可能性はあるだろう。
ナホトカ号事故では、流出した油の粘性が極めて高く、分散剤の効果がほとんど見込めず、漁
業関係者や石川県水産課の強い反発にもかかわらず、海上保安庁は 1 月 2 日より、当時新たに開
発された自己攪拌型分散剤を含め、船舶や航空機からの散布を 2 月中旬まで続けた。最終的には
6 種、合計 140kl ほどの分散剤が散布された(矢崎真澄他「分散剤使用における漁業者と行政のコ
ンフリクトに関する研究」本報告書掲載)。これに加えて、効果を確認して使うことが定められて
いたにもかかわらず、事前テストなしに浅海部で散布した例、高圧洗浄水に分散剤を混ぜて使用
した例、海岸線に漂着した油の回収を容易にするために陸上部への散布が試験的に行われた例も
ある(佐尾和子(1998)「重油にまみれて」「混迷の中で」「『重油汚染・明日のために』海洋工学
研究所出版部」。
このような状況と合わせて、アンケート結果で、事故時の分散剤使用が、「海上保安庁の要請」
のよるものが 55%を占め、
「要請を断れなかった」という状況もあることを考えると、現場ではほ
-33-
【180401】
とんど情報のない中で、現状では使用・不使用は海上保安庁、海上災害防止センター、サーベー
ヤー(海事保険関係者)が実質的な決定権を持つ。従って、現場で彼らがきちんとした環境意識
を持ち、意志決定のための情報を伝え、対応を図ることが極めて重要である。
もちろん、それ以前に、分散剤使用の環境への影響の研究を進めるとともに、その知見を広く
伝えること、即ち広い意味での教育がなされなければならない。油汚染、油防除に関する講習、
訓練、あるいは意見にもあげられているように「わかりやすいパンフレット」の作成」などが必
要である。
さらにこのような情報を漁業者、市民、行政、防除関係者などの利害関係者が共有し、地域の
油防除計画策定に参加し、議論する中でさらに知見を深め、その上で方針を計画に盛り込む。そ
して新しい知見が出てきたら計画を見直す、事故時には計画が実行されるよう協議・監視する、
そして事故後の影響も追跡できるような漁民も含め市民参加のシステムが必要とされる。
米国の「プリンス・ウィリアムサウンド地域住民アドバイザリー評議会」のような組織は一つ
のモデルであろう。報告にもあるように、当評議会では分散剤使用については、推進も反対もし
ないという立場であったが、2006 年 3 月、数年にわたる独自の研究により新たな知見が出てきた
ため、方針を改め、ノースロープ原油に対して分散剤はいかなる場合も使用を禁止すべきとの評
決を行っている。
最後に、本アンケート結果により、不透明な状況下で分散剤が現実に使用されている状況を示
している。現場の関係者が「わからなさ」の中にいることを謙虚に受け止め、
「リスク」に対する
「予防原則」の概念で対処していくことが必要であろう。
(2) 変革に必要な能力(体制)
米国や韓国の油汚染防除体制変革に対する取り組みはいずれも、実際の事故対応の「失敗」を
認識し、それを政策に反映させる政策決定スキームを持つ点で共通する。また、この政策反映過
程に米国においては、専門家と同時に広範な利害関係者の意見を直接反映させる仕組みを構築し
ている。
1)
失敗や不都合を政策に直接反映させること、これは自己変革能力の必要条件と考えられ
る。
2)
利害関係者意見を反映し、国民の総意として物事が決定される仕組みをもっている、あ
るいは、仕組みを作る能力を有していること(自己変革能力の十分条件)
(例 1)
。又は、
物事を横断的にとらえ、それを実現する機関やシステムを備えていること(例 2)。
例 1:米国では、政策決定過程や計画への市民参加は、改革の主要な要素となっており、こ
のような姿勢が、油防除計画への市民参加が OPA90 で義務づけられている事実の背景
-34-
【180401】
にあると思われる。アラスカの油流出に対する「住民アドバイザリー評議会」は、自
己変革社会システムのヒントとなりえるものと理解できる。
例 2:韓国の様々な改革の背景には政治体制の転換があり、さらに民主化運道の中で民が力
をつけていった過程がある。海洋環境保護対策では、その力が、民・官・学の総合的
なネットワークによる具体的な施策の提言・実施という一連のシステム作りへと発展
している。元々の「縦式社会」の仕組みを活用し、全体のストーリー作成と役割分担、
それを有機的につなげるシステムを作った点に特徴を持つ。このシステムが実現した
土台として、抜本的な行政改革による海洋水産部や海洋開発研究院の設置などが寄与
している。米国と同様、現在は「官民協力」で改革が進んでいると考えられる。
-35-
【180401】
4.1.7
自己変革社会システムの提案
(本報告書 7.主な研究成果等
論文(国内) 4, 5, 7, 8, 9, 10、論文(海外)5、口頭(国内) 1, 2, 3, 5, 6, 8, 12,
13, 18, 19, 20, 22, 23, 24, 25, 28, 30, 31, 33 にて発表、別冊報告書-2 第 3 章参照)
4.1.7.1
油流出事故に対する自己変革社会システムに関する基礎的研究
1997年、日本海で発生したナホトカ号事故 は、漁業・観光・地域社会に甚大な影響を与えた。
この事故は、回収作業において、適切な回収作業が実施されたとはいえず、具体的な対応の難し
さをドラスチックに国民に知らしめる事件となった。
エクソン・バルディーズ号の原油流出事故が既に示しているように、この種の災害は、発生原
因が人為的であるものの、環境に影響を与える環境災害であるという認識が必要であり、対策や
環境影響評価には、事故影響の広域・長期・複雑な環境的影響を考慮した学際的な科学的知見を
必要とする。
ナホトカ号事故 の教訓を受け、油流出事故における検討課題は以下の通りである。
1) 政府の役割の明確化
①総合的な制度の構築
②一元的な管理システム
2) 地方自治体・作業者などの役割の明確化
①総合的制度の下での実行手段の明確化
②技術システムの活用、手法、人員等の最適配備
3) 政策決定システムの確立
①情報の双方向性の確保
②地域住民・ユーザーの参加システムの確立
1) については、4.1.4および4.1.5に記載したような油流出事故対策の先進事例調査結果を
受け、日本の油流出事故対策の脆弱な部分を表4.1-4のように明らかにした。また、調査の過
程で、北海道網走市流出油防除計画立案研究会を設置し4回の研究会を開催している。その
準備過程で政府機関とのコンフリトが発生し、油防除対策における一元的な管理システムの
検討は、法の改正を伴う内容でもあり、本研究会で設置する研究会では議論できないことが
明らかになった。そこで、本研究期間の中では、理想的な自己変革可能社会システムを提案
し(4.1.7.2で後述)、それに伴う移行措置として検討すべき課題を基礎的に検討した。
表4.1-4で明らかになった内容はナホトカ号事故後も検討の余地が十分あったにもかかわ
らず、油流出事故災害が、場所的にも関係する分野においても所掌する官庁が特定できない
ため検討されてこなかった課題ばかりであるため、特に、漁業被害、ひいては環境被害につ
いては、ナホトカ号事故時の状況把握を行う作業も必要とした。本研究で、自己変革社会シ
-36-
【180401】
ステムに関する基礎的研究として行った課題は以下の通りである.
1) 事故時のステークホルダー間に発生するコンフリクトに対する合意形成手法
①利害関係を図上で調整するための社会情報を考慮したESIマップとその利用方法
(本報告書7.主な研究成果等
論文(国内)4,5、論文(海外)5、口頭(国内)2,3,5,6,8,12,19,20,22,30にて発表)
②分散剤使用の調整事項(本報告書7.主な研究成果等 論文(国内)10にて発表)
③漁業・観光業・環境・地方公共団体における被害額の損害請求方法
(本報告書7.主な研究成果等
論文(国内)7,8、口頭(国内)23,25,28,31にて発表)
2) 自己変革能力を有する社会システムとしての市民と行政の協働のあり方
(本報告書7.主な研究成果等
論文(国内)9、口頭(国内)1,13,18,24,33にて発表)
3) 網走湾流域居住者による油流出事故の環境災害リスク認知構造を考慮した地域別対策の
あり方
(別冊報告書-2 第3章参照)
1)については,国外の先進事例との比較研究より、日本に不足している油防除対策技術の抽出
結果であり、これらを事故時に克服する事がスムーズな油流出事故対策につながるものの、日常
的に会話のないステークホルダーが、事故時に一堂に会して機能できるものではない。例えば、
消防団が火事の時に機能するのは、平常時からの訓練で顔見知りの関係を作っているからである。
したがって、政府の役割を明確化し、総合的な制度を構築することは本研究では検討できないの
で、ここで検討される事項は、油流出事故における市民と行政の協働体制を基盤にしてはじめて
実現できる内容である。
1)①については、網走漁港周辺の沿岸海域において、統計資料およびヒアリングにより、漁業
者の季節別・魚種別の漁場利用実態を調査し、ESIマップに漁場利用に関する社会情報をプロット
することで、漁場利用実態に即した情報図になることを示し、ESIマップに示す社会情報の必要性
を明らかにした。社会技術として援用可能な社会情報を考慮したESIマップをまとめた(別冊報告
書-2「日本が構築すべき自己変革型社会システムの提案」第2章2.1.2参照)。
1)②については、ナホトカ号事故時の分散剤の使用状況や油流出事故対策における市民と行政
の協働体制を調査し、日本の油防除計画のソフト面での対応について、その対応の希薄さを指摘
した。日本の国家備蓄基地、千葉県消防地震防災課、北海道網走市流出油防除計画立案研究会の
分散剤使用に関する先進的な検討事例から、分散剤使用における漁業者と行政のコンフリクトに
絞り、社会技術として援用可能な分散剤使用の調整事項をまとめた(別冊報告書-2「日本が構築
すべき自己変革型社会システムの提案」第2章2.3参照)。
1)③については、漁業・観光業・環境における被害額の損害請求方法につき検討した。 漁業被
害については、ナホトカ号事故後の補償過程における漁業補償の現状を調査し、請求額と補償額
の要因について考察し、社会技術として援用可能な漁業における被害額の損害請求方法をまとめ
た(別冊報告書-2「日本が構築すべき自己変革型社会システムの提案」第2章2.2.1参照)。
-37-
【180401】
観光被害については、ナホトカ号事故における石川県の観光被害の事例を調査し、油流出事故の
損害補償請求の構造分析から、請求額と補償額の乖離の問題を抽出し、社会技術として援用可能
な観光業における被害額の損害請求方法をまとめた(別冊報告書-2「日本が構築すべき自己変革
型社会システムの提案」第2章2.2.2参照)。
環境被害については、ナホトカ号事故の場合、油流出事故と因果関係が明確でない事象に関す
る被害請求は認められていないことを岡部・山口・相澤・戸塚法律事務所、国土交通省海事局IMO
担当者、IBRRC(International Bird Rescue Research Center)のIFAW(International Fund for Animal
Welfare)スタッフのヒアリングにより明らかにし、環境における被害額の損害請求方法をまとめた
(別冊報告書-2「日本が構築すべき自己変革型社会システムの提案」第2章2.2.3参照)。
特に、ナホトカ号事故における地方公共団体の補償請求の事例を調査し、補償請求の査定基準
や査定費目の整理を踏まえて、ゼロ査定や低査定であった費目とその理由を考察し、社会技術と
して援用可能な地方公共団体における被害額の損害請求方法をまとめた(別冊報告書-2「日本が
構築すべき自己変革型社会システムの提案」第2章2.2.4参照)。
2)については、 油防除体制の国際比較と事例調査により、オホーツク沿岸都市における市民
と行政の協働による油流出時の地域防災計画の策定を支援し、油流出事故の危機管理を市民と行
政が協働して行うための方策を検討した。その検討結果に基づき、油流出事故対策の実証として
油流出事故に対応できる市民協議会に相当するものとしてオホーツクの環境を守る地域ネットの
設立支援を行った。さらに、北海道網走市流出油防除計画立案研究会を組織化し、市民と行政の
協働により、各々が行うべき役割について実証的に検討するに至った。社会技術として援用可能
な油流出事故対策における市民と行政が協働して行うための方策をまとめた(別冊報告書-2「日
本が構築すべき自己変革型社会システムの提案」第1章参照)。
3)については、海上石油輸送や油流出事故のリスクに対する網走湾流域居住者の認知の地域的
特徴を把握するとともに、事故発生時の行動、復旧予測および調査地域において、2006年2月末頃
より発生した海鳥の大量死骸漂着の風評被害に関する状況を検証し、油流出事故による環境災害
リスクを複合的に明らかにした。社会技術として援用可能な網走湾流域居住者による油流出事故
の環境災害リスク認知をまとめた(別冊報告書-2「日本が構築すべき自己変革型社会システムの
提案」第3章参照)。
-38-
【180401】
表 4.1-4
区分
油流出事故における各ステークホルダーの関心事と油防除計画の内容との対応関係
ステークホルダー(平常時の関心内容)
Ⅰ
汚染者と行政
Ⅱ
汚染者と漁業者
『蔚山地域の防除実行計画』
“ Hawaiian Area Contingency Plan”
油流出時の関心内容
『北海道沿岸海域排出油防除計画』
・損害賠償
=被害額調査、油防除清掃費 等
・損害賠償
=被害額調査、油防除清掃費、
休漁による油回収実施の扱い、
漁場への影響 等
汚染者と市民
Ⅲ
(・レジャー)
・損害賠償
=被害額調査、油防除清掃費 等
(・動植物保護)
・損害賠償
=被害額調査、油防除清掃費、
休漁による油回収実施の扱い、
漁場への影響 等
・適切な油回収方法
=防除組織
第1 章 総則(防除組織)
第5 章 防除実行(防除組織の運営)
:指揮系統、連絡体制、人員配置、
ボランティア管理 等
第2 編 第4 章 連絡及び情報の交換
第2 編 第5 章 排出油の防除及び危険の防止
第1 排出油の防除及び危険の防止 2 防除体制
第4 編 第5 章 排出油の防除
=防除資機材の配備
第4 章 防除機資材の動員及び財政
行政と漁業者
:オイルフェンス、スキマー、
(防除資機材の保有現況)
第2 編 第3 章 排出油防除資材等の保有状況と整備目標
第1 排出油防除資材等の保有状況
(・沿岸漁業振興対策)
ガット船、油吸着材、
(・水産基盤整備事業)
強力吸引車、油処理剤 等
(最大流出事故時、防除資機材の動員計画)
第5 章 防除実行(防除措置)
第2 排出油防除資材等の整備目標〈整備目標の指針〉
第3 編 第2 章 排出油防除資材等の整備状況
(・災害復旧事業)
Ⅳ
付録書Ⅲ 蔚山地域の油処理剤の使用指針
(・北海道いきいき浜づく り事業)
(・浜の改革推進事業)
=油分散剤の使用方法
付録書Ⅲ 蔚山地域の油処理剤の使用指針
=広報
第7 章 広報
(・内水面漁業振興施設設備事業)
第2 編 第5 章 排出油の防除及び危険の防止
第1 排出油の防除及び危険の防止 3 防除作業要領
(・沿岸漁業漁村振興構造改善事業)
(・漁業集落環境整備事業)
(・漁港漁村活性化対策事業)
付録書Ⅰ 言論機関の現況
(・新漁村コミュニティ基盤整備事業)
(・船揚場整備事業)
=回収した油の処理
(・水産物流通加工基盤強化対策事業)
:保管場所、処分施設 等
付録書Ⅳ Ⅵ廃棄物の処理
第4 編 第6 章 回収油の処理
=作業者の健康と安全
第5 章 防除実行(危険防止・安全及び保険)
第2 編 第5 章 排出油の防除及び危険の防止
第1 排出油の防除及び危険の防止 4 危険防止措置等
=定常的な訓練
第6 章 防除教育及び訓練
(教育及び途上訓練)
(自己防除訓練)
(官民合同防除訓練)
・適切な油回収方法
=生態系保護
第5 章 防除実行
:野生動植物の保護 等
(防除措置)
(漁場、養殖場及び野生動物の保護)
=防除組織
第1 章 総則(防除組織)
第5 章 防除実行(防除組織の運営)
:指揮系統、連絡体制、人員配置、
ボランティア管理 等
第2 編 第4 章 連絡及び情報の交換
第2 編 第5 章 排出油の防除及び危険の防止
第1 排出油の防除及び危険の防止 2 防除体制
第4 編 第5 章 排出油の防除
行政と市民
第7 章 広報
=広報
(・レジャー)
Ⅴ
付録書Ⅰ 言論機関の現況
(・動物保護)
(・密漁)
=回収した油の処理
(・ゴミ投棄)
:保管場所、処分施設 等
付録書Ⅳ Ⅵ廃棄物の処理
第4 編 第6 章 回収油の処理
=作業者の健康と安全
第5 章 防除実行(危険防止・安全及び保険)
第2 編 第5 章 排出油の防除及び危険の防止
第1 排出油の防除及び危険の防止 4 危険防止措置等
=定常的な訓練
第6 章 防除教育及び訓練
(・車輌進入禁止区域への進入)
(教育及び途上訓練)
(自己防除訓練)
(官民合同防除訓練)
=油分散財の使用方法
付録書Ⅲ 蔚山地域の油処理剤の使用指針
・適切な油回収方法
漁業者と市民
(・レジャー)
=生態系保護
(・動物保護)
:野生動植物の保護 等
第5 章 防除実行
(防除措置)
(・密漁)
(漁場、養殖場及び野生動物の保護)
(・ゴミ投棄)
Ⅵ
(=浜・磯:海水浴、潮干狩り、磯釣り)
(=海上:船釣り)
=防除組織
:指揮系統,連絡体制 等
第1 章 総則(防除組織)
第5 章 防除実行(防除組織の運営)
=定常的な訓練
第6 章 防除教育及び訓練
(・路上駐車・迷惑駐車)
(・漁網切断・漁具破損:プレジャーボート)
(・遊漁船と漁船の漁場争い)
(教育及び途上訓練)
(・接触・衝突事故)
(自己防除訓練)
(・騒音)
第2 編 第4 章 連絡及び情報の交換
第2 編 第5 章 排出油の防除及び危険の防止
第1 排出油の防除及び危険の防止 2 防除体制
第4 編 第5 章 排出油の防除
(官民合同防除訓練)
6)
資料:海上保安庁(2000)、海洋警察庁(2000)、竹ノ内徳人(1999) 、北海道網走支庁(2006)7)、U.S COAST GUARD(2002)
注 1:表中の太枠は、油防除に関して地域社会を構成するステークホルダー間で調整を必要とするような内容を示す。
注 2:
『蔚山地域の防除実行計画』および“Hawaiian Area Contingency Plan”の油防除計画の内容構成は類似している。そのため、表中では『蔚
山地域の防除実行計画』の目次を示した。
-39-
【180401】
4.1.7.2
(1)
自己変革社会システムの提案
現状と問題点
日本の油汚染防除体制が抱える主要な問題点は以下の点に集約され、これらの問題の克服が課
題とされる。
1) 排出油災害対策協議会
2) 非住民参加
3) 装備の旧式性
4) 官主導
5) 国際協力
これらについて分析し、自己変革社会への足がかりを考察する。
(1-1) 排出油災害対策協議会
排出油災害対策協議会は、全国に 11 ある海上保安本部の保安部署(合計 119)ごとに設けられ
ていて、各保安部署の署長が協議会会長となっている。該当地域の自治体、消防・警察・気象庁・
保険所・病院などの公的機関と漁業協同組合・観光協会・防除関連業者・石油関連業者など民間
機関からなる組織で、事故時に情報収集・交換を行い、全体の防除方針と各組織の防除役割分担
を決める。この協議会ごとに防除計画あるいはマニュアルが整備されることになっているが、調
査によれば、調査した 10 管区本部中 4、44 保安部署中 10 が整備されていない(海上災害対策に
関する行政評価・監視-油等流出災害を中心として-の勧告に伴う改善措置状況(その後)の概
要:総務省行政評価局ホームページより)。ほぼ日本全国に設置されている協議会の性格と参加組
織の役割は次のとおりである。
1) 指揮系統
協議会はあくまで「防除対策の協議会」であって、指揮系統ではない。議長は各保安部
署の署長であるから、海上保安庁が指揮権を持つかのように思えるが、法的には情報交
換と合意形成の場で、いかなる組織も独自性を損なわれることは形式的にはない。
2) 役割分担
共有された情報に基づいて各組織の防除分担が決められ、各組織は(必要に応じ他の組
織と連携しつつ)独自に防除活動を行う。そして、活動に要した費用のまとめと請求も
独自に行う。全体をひとまとめにする機能は有しておらず、というより他の組織の活動
に口を挟むことはしないという官僚組織の縦割り思想に倣っていると解釈して良い。
このように、防除方針を誰が決定したかという責任制は表面にはなく、実際には防除方針は話
し合い(協議)で決まるので、理想的な民主主義的決定過程とも言えなくもないが、悪くいえば
-40-
【180401】
責任のなすり合い、あるいは責任の分散体制であり、この体制に起因する数々の問題が実際にナ
ホトカ号事故対応で生じている。いずれにしても、指揮命令系統および責任体制の確立をこれま
での事故対応に対する問題点の共有を基に行う必要がある。
(1-2) 非住民参加
これまでに作成された防除計画及び防除マニュアルは多数に上るが、国のみならず市町村レベ
ルの防除計画であっても住民(NGO)が計画策定に参加した例はほとんど存在しない。日本の法
律制定、基準制定など多くの公共的な基準制定が官主導で行われていることの表れとも言えるが、
「官」以外の利害関係者参加を第一に実現しなければならない課題で、ここに自己変革社会の出
発点が存在するものと考えられる。
(1-3) 装備の旧式性および型式承認制度
海防法、石コン法では、現在ほとんど使われていない B 重油を対象として防除資機材(油回収
船、オイルフェンスなど)の性能評価が制定されている。また、型式承認制度の存在も国内をは
じめ諸外国で開発された新しい技術を用いた回収用装置類の導入を阻む「障壁」となっている。
すなわち、実際に役立ち能力の高い資機材は規格外となり、法律上は装備品にカウントできない
とともに、役に立たなくとも法律が要求する資機材を装備しておかなければならないという典型
的な政策遂行上の矛盾が散見されている。また、ナホトカ号事故後行われた白山丸などの大型回
収船の建造・配備についても、対波高特性、費用対効果の観点から十分に見直す必要がある。
(1-4) 審議会・委員会
現状政府が設置する審議会や委員会の多くは、一応種々の意見層をカバーするように招集され
るが、実質的な利害関係者を含めているかにつては改善点が多い。
(1-5) 国際協力
流出油防除の国際協力は、NOWPAP 等に基づく会合や演習など既に実施されているが日本国内
の防除体制、特に担当者の異動が極めて短期間に行われている現状では果たして実効を伴うもの
か、疑問視せざるを得ない。国際協力の構築においては、担当者間の信頼関係が極めて重要であ
るからである。
(2)
既存システムの利用
既存の社会システムの中から、自己変革に活用できる可能性があるものを以下に掲げ検討を行
う。
-41-
【180401】
(2-1) 地域防災計画
地域社会を地域住民自らの手で守るという原則は、現状の法律においても規定されている。例
えば、災害対策基本法第7条第2項には「・・・地方公共団体の住民は、自ら災害に備えるための
手段を講ずるとともに、自発的な防災活動に参加する等防災に寄与するように努めなければなら
ない」と定めていて、第8条第2項「国及び地方公共団体は、災害の発生を予防し、又は災害の拡
大を防止するため、特に次に掲げる事項の実施に努めなければならない。」に掲げる18項目の13
番目に「自主防災組織の育成、ボランティアによる防災活動の環境の整備その他国民の自発的な
防災活動の促進に関する事項」を規定している。ちなみに、平成9年4月1日現在の消防庁発表の自
主防災組織の組織率の全国平均は50.5%である。この自主防災組織育成は地震のような自然災害
を念頭においており、油流出事故を想定しているものではないが、住民参加を自治体と住民双方
に求めている規定であり、流出油防除計画策定に住民参加を実現するための十分な根拠となり得
る。
(2-2) 自然再生推進法
次のように、第1条では自然環境の修復と保全を行うこと、第4条では国及び地方公共団体が地
域住民・NPOなどが実施する自然再生事業に必要な協力を行うこと、第8条では実施に当たり実施
者・参加者・公共団体・行政機関からなる協議会を組織し自然再生事業の運営を行うことを定め
ている。
第1条:この法律は、自然再生についての基本理念を定め、実施者等の責務を明らかにするとと
もに、自然再生基本方針の策定その他の自然再生を推進するために必要な事項を定める
ことにより、自然再生に関する施策を総合的に推進し、もって生物の多様性の確保を通
じて自然と共生する社会の実現を図り、あわせて地球環境の保全に寄与することを目的
とする。
第4条:国及び地方公共団体は、地域住民、特定非営利活動法人その他の民間の団体等が実施す
る自然再生事業について、必要な協力をするよう努めなければならない。
第8条:実施者は、次項に規定する事務を行うため、当該実施者のほか、地域住民、特定非営利
活動法人、自然環境に関し専門的知識を有する者、土地の所有者等その他の当該実施者
が実施しようとする自然再生事業又はこれに関連する自然再生に関する活動に参加し
ようとする者並びに関係地方公共団体及び関係行政機関からなる自然再生協議会を組
織するものとする。
この法律の趣旨は、環境保全に対する国や自治体の責任を明確に規定し、民間の自主的な取り
組みに法的根拠を与え、国や自治体の支援義務を規定したものである。この法律が想定している
対象は、これまでに日本各地で工業化・都市化・植林・河川改修などにより破壊されてきた自然
-42-
【180401】
であり、流出油により生じた環境破壊も当然この範疇に含まれる。流出油防除体制の構築につい
て直接この法律は何らの規定も持たないものの、
「民間の取り組み支援と国の責任・支援義務」を
「重大な油汚染事故防止および防除活動」に適用すれば、その対応体制整備を含めた自己変革を
推し進めるための根拠を形成する。
(2-3) 提案公募制度
ここ 10 年程であろうか、提案公募が国・自治体で数多く採用されている。提案公募は次のよう
に利点を有する反面、欠点も有る。
利点:1) 広い範囲からアイデアが出される。
2)
(技術革新が急速なため)世に知られていないが優れた技術・アイデアなどが利
用される機会となりえる。
3) 民間の技術開発・社会改革などを支援出来る。
欠点:1)
国の研究開発は民間の出来ないことに傾注すべきで、その方針は深い分析と適切
な目標設定に基づかなければならないが、その重要性がなおざりにされ、提案を
まんべんなく採用する総花的な予算ばらまきとなりやすい。
2) 成果は実質的に民間にあるため、成果の活用に国の基本方針が生かされにくい。
このような欠点を有してはいるが、例えば、流出油防除のように非生産的な(利益をほとんど
生まない)分野の研究などを進めるためには重要な資金源となる。即ち、ボランティア的な民間
活動を支援する金銭的裏付けとなるので、少数意見や国が進めない重要な案件を前進させること
につながり、自己変革の実現となりえる。
(2-4) 特区制度
構造改革特別区域法が平成 14 年 12 月 18 日制定された。この制度では、個人、組織、自治体な
どあらゆる人々が提案出来る。社会の活性化につながる規制緩和策などの提案をし、認可されれ
ば、その特別区域では緩和された規制により事業などを営むことが出来る。多数の提案が採用さ
れ、合理的あるいは効果があると判断されたシステム・制度などは、さほど時を経ずして全国に
適用されている。この制度は、民間から提案された施策を局所的に実施し、効果を見定めた上で
全国に展開するものであるから、自己変革社会のひとつの要件を満たすものである。
(3)
自己変革社会
(3-1) 自己変革社会の定義
自己変革社会は、次のような機能を持つ社会と定義出来る。
1)
間違いを繰り返さない(不都合な状況が発生した時修復・改善出来る)。
-43-
【180401】
2)
新技術・新政策の影響を評価するシステムがある。
3)
個別の成果(局地的な成果、個別システム・技術・政策などの成果)を一般化して広く
応用出来る。
(3-2) 自己変革社会へのステップ
現実と理想・目的の隔たりを考慮し、次のような方針で実現することを提案する。
1)
まず実現しやすい環境の中で小規模に実施する。
2) そこで得られた成果を一般化させる。
3) さらにその成果を普及させ、法制化する。
これを実現するために、次のような具体的な枠組みをつくる。
1)
現実に存在する枠組み・機能などのうち、利用出来るものを利用する。
*
改善のために利用可能なものを総動員する。
*
抜本的な改革は反対を生みやすいが、部分的な改良なら受け入れられやすく、これ
を積み重ね、拡大してゆくことで目標に接近する。
2)
官民学協力により実現する。
*
自由に発想・行動出来る民間有志(NPO)が企画・作業する。
*
官は、法律的な裏付けを与え、資金的な援助を行う。
3) 国際協力により実現する。
*
NPO の活動は制限が少ないので、国際的な広がりを持ちやすく、情報交換と NPO
の実力向上を図れる。
*
国際世論を活動の背景に利用する。
4) 部分から初めて全体へ拡大する。
*
特定の地域などで実施し、成果を確認した上で、全国に拡大する・あるいは法律と
して制定する。
(3-3) 自己変革社会実現の必要条件
例えば、既に実施されている特区制度の適用範囲を質的に拡大し、地域を限定したステークホ
ルダーの発議による「社会改革推進法(仮称)」のような法律を制定し、改革モデルを作ることも
一つのアイデアとして考えられる。これは、自然再生推進法や都市再生特別措置法の社会改革版
であり、既存の事例と同様に、ステークホルダーで協議会を作りその中で議論を積み重ねるよう
なしくみがどこでもできるような仕掛けである。
(3-4) 自己変革社会実現の十分条件
必要条件は自己変革を行うための「環境」であり、この環境を利用して実施する主体の存在と
効果の証明が十分条件である。これについて議論する。
-44-
【180401】
【NPO の現状】
活動主体として最も期待出来るものは NPO である(2006 年 3 月末現在 26,000 以上の法人が認
定・登録されている)。NPO の活動状況は次の通りで(NPO 法人データ分析:日本 NPO センター
NPO 法人データベース「NPO 法人分析」
:日本 NPO センターhttp://www.jnpoc.ne.jp/)、そのデータ
から NPO が自己変革社会を実現するための起動力となり得ることがわかる。
1)
NPO の規模
平成 18 年 3 月末現在、約 26.000 の法人が登録されていて、その総社員数はデータの平
均値の石によれば、75 人×26,000 社=195 万人となる。割り引いて推定しても実質的に
活動している総数は 100 万人をくだらないであろうし、統計に入らない無認証 NPO と潜
在的ボランティアを考慮すれば、やはり 200 万人を超える活動が実態として存在すると
考えられ、これは日本人口 1 億 2756 万人(2004 年国勢調査)の 1.6%に当たり、国民の
広い範囲の問題点を見いだし・改革する原動力となり得るものと考えられる。
2)
NPO の活動範囲
現在の日本が抱える主要な問題は、次の通りである。
*
保険・医療・福祉(精神的・肉体的健全性の確保と老人福祉)
*
過剰な競争社会
*
画一的教育制度(学歴社会)
*
環境破壊(森林の減少、耕作地の減少、陸上起源による海洋汚染など)
*
食料自給率の低さ(先進国の中で最低)、即ち農林水産業の放棄
*
エネルギー自給率の低さ(先進国の中で最低)
*
アメリカ一辺倒の外交政策(近隣諸国との協調欠落)
上記の問題は、NPO の主要な活動分野に含まれていて、現状の NPO の活動範囲内で自
己変革社会の機動力となることができると考えられる。
【効果の証明】
自己変革社会推進の枠組みは、
「まず部分的に実行して、その成果を全体に普及させる」ことで
あった。対象は社会構造ばかりでなく自然あるいは人間の振るまいに係わることであるため、成
果が現れるまでの時間が長く、また成果の確認方法を簡単には決めにくいものがある。例えば、
汚染された河川の浄化には、住民の生活レベルの排水と工場排水あるいは煤煙などへの対策が含
まれるが、その改善方法は比較的明らかであり、また、成果は水質調査や生物調査により確認出
来る。そして、対策の効果は 5 年ほどで見た目にも十分現れるであろうから、成果は技術的にも
視覚的・感覚的にも容易にかつ誰の目にも明らかとなる。これに対して、例えば教育や福祉の問
題などについて、一律な評価を適用することは不可能である。
流出油防除の問題について見た場合、防除計画およびその実行に利害関係者を関与させること
-45-
【180401】
自体が成果の確認(検証)とも言えるため、特に教育問題のような成果の確認に関する不明瞭さはほ
とんどないものと考えられる。しかし、当然ながら関与する利害関係者の範囲や選択については
慎重な検討や実践例の積み重ねが必要とすることは言うまでもない。
4.1.8
自己変革一例としての網走市流出油防除計画の作成に対する取り組み
本研究の成果として作成された「網走市流出油防除計画案」
(別冊報告書-3)は、本研究におい
て実施した自己変革の一例としての取り組みであり、2006 年 11 月 21 日、網走市長に提案・説明を
行う予定である。
(1) 背景
北海道では、サハリン開発による流出油汚染が強く懸念されているが、これまでのところサハ
リン・エナジー社(サハリン 2 の開発企業)の説明会、海上保安庁後援の S&O 財団による日ロシ
ンポジウム、JBIC(国際協力銀行)主催のフォーラムなど数多くの場で出された不安や要望に対
する改善の状況の実体はいぜんとして不明なものが多い。
網走市など北海道には、海上保安庁「北海道沿岸海域排出油防除計画」、北海道防災会議「北
海道地域防災計画」、北海道「流出油事故災害対応マニュアル」平成 12 年 3 月、網走地区沿岸排
出油災害対策協議会「防除活動マニュアル」、網走市防災会議「網走市地域防災計画」平成 15 年
2 月などが存在し、これらの計画の基礎となるべき ESI マップは北海道立地質研究所で作成され
ているが、いずれの防除計画にも参照されておらず、ESI マップに基づく海岸の防除計画も存在
しない。また、計画立案に利害関係者や住民が参加していることもない。このような状況の中で、
オホーツク海沿岸部の市町村の中で多くの魚種を生産し、流出油汚染への危機感の強い網走漁協
が存在する網走市を選んで、自己変革社会の実現へのステップを「網走市流出油防除計画」の作
成過程に応用した。
(2) 自己変革の実施(網走市流出油防除計画案の作成)
【方針】
次のような方針で流出油防除に関する自己変革を試みた。
1) 現実に存在する枠組み・機能などの内、利用出来るものを用いて実現する。
*
具体的には、網走地区の防除を協議する「網走地区沿岸排出油災害対策協議会」の
枠組みを利用する。
2)
官民協力により実現する。
*
網走市の流出油防除に関連する主要な機関と住民が参加して防除計画案を作成する。
*
国の支援(具体的には JST の公募研究資金)を受けて作業を進める。
3) 国際協力により実現する。
-46-
【180401】
*
流出油防除と本防除計画案作成に関する国際的シンポジウムを開催し、国際的な広
がりを持てるようにする。
4) 部分から初めて全体へ拡大する。
網走市の防除計画は比較的狭い地域の計画であるが、より広い地域(オホーツク海沿岸
部全体)あるいは全国各地の計画に応用出来るよう、十分な普遍性を持たせる。具体的
には次の事項を考慮する。
*
自治体・住民が主として分担する海岸回収がスムーズに進められる。
*
網走市住民、特に漁民が漁船を用いた防除活動に参加出来る。
*
防除活動に関して対立する意見がある場合は、深く議論して計画に反映させる。
*
防除に関する教育・訓練を計画に具体的に織り込み、住民が必要な知識を得て自ら
の問題として対処出来るようにする。
*
ボランティアの受け入れ留意事項を計画に具体的に織り込む。
【研究会】
次の組織からなる網走市流出油防除計画案作成研究会を組織した。
1)
コーディネーター
:「油流出事故の危機管理システムに関する研究」チーム(JST チーム)
2)
住民
:網走漁業共同組合
3)
漁業協同組合:北海道漁業協同組合連合会、網走漁業共同組合
4)
自治体など
:網走市、北海道網走支庁、北海道立地質研究所
5)
海上保安庁
:網走海上保安署、(オブザーバーとして海上保安庁警備救難部)
6)
防除専門家
:海上災害防止センター
7)
動物専門家
:猛禽類医学研究所
8)
NPO
:NPO 推進オホーツクプラットフォーム、北方圏国際シンポジウム事務局
この研究会は、次のように合計 5 回開催された(第 5 回は予定)。
第 1 回:2005 年 7 月 19 日
第 2 回:2005 年 10 月 6 日
第 3 回:2005 年 11 月 29 日
第 4 回:2006 年 7 月 24 日
第 5 回:2006 年 11 月 20 日
各回の主要な議事は次のとおりで、防除計画に関して、各委員が自身の専門分野に関する部分
を分担執筆し、活発かつ激しい議論が交わされた。
第1回
1) 研究会の趣旨説明(JST チーム)
2) 研究会設置・運営要領(案)の説明(JST チーム)と了承
3) 委員自己紹介
4) 委員長・副委員長の選任
-47-
【180401】
5) 世界の流出油防除体制に関する説明(JST チーム)
6) 北海道の ESI マップに関する説明(北海道立地質研究所)
7) 北海道網走市流出油防除計画案の考え方に関する説明(JST チーム)と承認
第2回
1) 講演:日本の油防除体制(海上保安庁)
3)
サハリン原油がアニワ湾南部沖で流出した場合のシミュレーション結果の説明(JST チ
ーム)と討議
3) 網走海域の ESI マップと海域毎の防除方法の提案・説明(北海道立地質研究所)と討議
4) 網走市流出油防除計画(案)の提案・説明(JST チーム)と討議
5) 検討課題
・事故の規模の設定に応じた網走市の対応
・油防除作業での漁業協同組合の位置付け
・日常的に地域住民が準備できることの検討
6) 現地視察
・10 月 7 日(金)、ESI マップに照らし合わせ、海岸に適した防除方法を検討するため、
網走市のオホーツク海沿岸を視察した(網走漁協、北海道立地質研究所、JST チーム)
第3回
1)
「ESI マップによる海岸別流出油回収方法」の提案・説明(北海道立地質研究所)と討議
2)
ボランティアの受け入れ体制の提案・説明(海上災害防止センター)と討議
3)
野生生物の救護・リハビリの提案・説明(猛禽類医学研究所)と討議
4)
分散剤の使用に関する討議
5)
網走市の施設(回収油仮置き場、回収油積出港、宿泊施設など)の説明(網走市)
6)
ESI マップを利用した図上訓練の説明(JST チーム)と討議
第4回
1)
漁業者の初動体制の提案・説明(網走海上保安署)と討議
2)
海上回収・海岸回収(能取湖口のブームの展張方法、能取湖内部への誘導ブームの展張
方法)の提案・説明(海上災害防止センター)と討議
3)
野生生物の救護・リハビリ(野生生物の一時的な収容先としての施設利用の候補地、関
係機関の調整・連絡対応表、必要な機具のリスト)の提案・説明(猛禽類医学研究所)
と討議
4)
分散剤の使用に関する討議
5)
防除教育・訓練とボランティアの受け入れ体制の提案・説明(JST チーム)と討議
6)
補償(漁業・観光・その他)に関する提案・説明(JST チーム)と討議
7)
これまでの討議に基づく網走市流出油防除計画案の修正・追加説明(JST チーム)
第5回
-48-
【180401】
1)
網走市流出油防除計画案の最終提案・説明(JST チーム)と承認
2) 自己変革社会に関する報告(JST チーム)と討議
第 4 回の研究会において提案検討された能取湖の ESI マップとそれに基づいて考案された能取
湖の湖口を護る防除システム(図 4.1-12)を示す。
図 4.1-12
能取湖の ESI マップと湖口の防除システム
-49-
【180401】
(3) 成果と展望
合計 5 回(約1年半)の研究会を通じての討議により、網走市流出油防除計画案を作成し、網走
市長に提案・説明を行う予定となっている。この研究会に於ける防除計画立案過程を通じて得られた
「自己変革社会」に関する成果は次の通りである。
1)
防除計画立案に関連する主要な組織から委員を出すことが出来た。
2)
研究会は現地(網走市)で開催され、現地の海岸視察と現地住民(網走漁業共同組合)
による説明を通じて実情を正確に把握し、実際的な防除計画を作成出来た。
3)
多くの専門家の協力により、ESI マップに基づく実用的な防除計画を日本で初めて作成出
来た。特に、事務局が原案を作成し委員はこれを審議するという通常の委員会形式でな
く、全委員が自身の専門分野に関連する原案作成を行うことにより、今後の指針となる
有益な案が出来た。これは、出張旅費など現地研究会開催に必要な経費は JST の研究費
で賄うことが出来たことによる所が大きい。
4)
最も対立した項目は分散剤使用の可否であったが、研究会案を最新の知見においてまと
め、意見の異なる部分は資料として付記し、分散剤への理解と今後の見直しに役立つよ
うにまとめることが出来た。
5)
この研究会案は画期的な案であり、今後作成されてゆくであろう北海道オホーツク海沿
岸部全域の防除計画のひな形となることが期待されていると同時に、日本全国への広が
りが期待されている。
流出油防除は基本的に広域体制が必要である。小さな事故は局地的に対処でき被害も小さいが、
巨大な事故は汚染が広範囲に及び防除資機材の不足と偏在を招くことも十分予想され、従って、
あらかじめ広域の防除計画を作成しておくことが必要である。
網走市流出油防除計画案の作成には、網走市と網走海上保安署が参加しているため、網走市が
これを採用し、網走地区沿岸排出油災害対策協議会(会長は網走海上保安署)がこれに準拠した
防除計画を作成することは比較的スムーズに進行出来ると考えられる。また、これらの作成過程
に近隣地区(宗谷、根室)と北海道が参加すれば、北海道オホーツク海沿岸部の防除計画の作成
もスムーズに展開すると考えられる。
このような過程をたどれば、北海道全域さらに日本全国に拡大してゆくことは大きな流れとな
るものと思われる。但し、そのためには予算措置が必要であり、海上保安庁あるいは自治体が自
ら予算措置を行い、防除計画立案を行うことが望ましいが、これを期待出来ない場合は、しかる
べき法律制定が必要である(4.1.7.2(3)(3-3))。
-50-
【180401】
4.1.9
結論
本研究の成果は次の通りである。
1)
日本と世界の油流出油事故とその後の対策を調査・分析し、事故の根本原因とその事故
防止及び日本が採るべき流出油汚染防止対策を提案した。
2)
次に、各国が流出油防除対策を構築してきた歴史的背景と構築過程及び構築結果を分析
して、各国の差異と特徴を明らかにした。さらに、日本が流出油防除体制を構築するた
めに必要は社会条件を分析し、同じ失敗を 2 度は繰り返さないための自己変革社会シス
テムを提案した。
3)
このシステムを網走市の流出油防除計画に応用し、利害関係の異なる関連組織をほぼ全
てカバーする研究会を設立し、1.5 年の歳月をかけて網走市流出油防除計画案を作成し、
市長に提案説明した。
4)
この計画案作成により、提案された自己変革社会システムの適用可能性を実証した。
-51-
【180401】
4.2
本研究で得られた社会技術と今後の展開見込み
4.2.1
本研究で得られた社会技術
社会技術は、広い意味では社会のあらゆる問題を合理的に扱ってゆく手法であり、社会問題を
克服する手法であると解釈する。本研究においては、技術的側面の強い流出油防除対策という分
野に焦点を当てて、その対策が容易に進まない現実を如何に克服するかという社会技術の検討・
考察を行った。別の言葉で語れば、一部の専門家や有識者及び NGO にとっては必要性が十分に理
解されていても、他の災害に比べ発生頻度が低いために行政にとっての優先度が低く(しかし、
一度事故が起こった場合極めて憂慮すべき事態が発生する)、なかなか改善が実現しない問題とし
て流出油防除対策を取り上げ、これを実現してゆくステップを研究、実証した。
(1) 本研究で得られた社会技術
現状と主要な問題は次のように整理された。
1)
現実に油汚染という大きなリスクが認識されているにもかかわらず、既存の行政・社会
システムでは十分な対応が成されていない。
2)
北海道オホーツク海沿岸部では、このリスクに対する不安が極めて強く、万一の汚染が
巨大であれば、数千億円にも及ぶ漁業被害が想定されている。
3)
ナホトカ号事故による汚染を経験したグループには技術的および制度的な抜本的解決方
法の知見が蓄積されていた。
このような現実に対して、各国の防除対策構築の過程とその成果を分析することにより得られ
た結論は次の 2 点に集約される。
1)
各国が巨大な流出油汚染を経験して初めて抜本的な対策構築を行っている点は共通して
いるが、その社会構造、民族性、対外関係などの歴史的背景により対策とその構築過程
は異なる面と共通する面がある。
2)
日本はこれまでのところ、抜本的といえる改革は行われていないが、政府関係者間には
問題点の所在の認識が必ずしも十分ではない。認識があったとしても改革を阻む要因の
一つである縦割り行政を改革することは現時点では至難の業である。従って、既存の仕
組みをうまく利用すること、加えて日本の現在の政治風土を利用した改革を指向する方
がよほど改革を進めるに当たり得策である。また、実際にこのような方向性で制度を構
築している国家群が実際に存在する。
この社会技術は、具体的には次のような仕組みを持つ自己変革社会システムを提案する。
【自己変革社会の定義】
自己変革社会は、次のような機能を持つ社会と定義出来る。
-52-
【180401】
1)
間違いを繰り返さない(不都合な状況が発生した時修復・改善が出来る仕組みを持つ)。
2) 新技術・新政策の影響を評価する仕組みが存在する。
3)
個別の成果(局地的な成果、個別システム・技術・政策などの成果)を一般化し、広く
応用可能なシステムとして活用を促進するための仕組みが存在する。
【自己変革社会システムの実践】
4.1.7.2(3-2)で示したステップに基づき本研究では、官民協力により、特に対立する意見を調整
して必要な対策を実現する社会技術、即ち自己変革社会システムを提案し、さらにその手法を網
走市流出油防除計画に応用し、北海道網走市流出油防除計画立案研究会を組織化し、市民と行政
の協働により、各々が行うべき役割について実証的に検討し、手法の有効性を検証した。さらに、
油流出事故に対応できる市民協議会に相当するものとしてオホーツクの環境を守る地域ネットの
設立の動きが発生し、その設立支援を行った。
(2) 今後の展開見込み
一般論
上記に記した自己変革社会システムの構築・実践は、現在の状況に即したものとして実施され
たが、これはJSTという資金的・制度的支援があって可能となったものである。このような制度を
より一般化することにより、初めて日本が抱える多くの社会的技術的問題を克服することが可能
となる。その必要条件と十分条件を考察した。
【自己変革社会実現の十分条件】
現在、日本には 26,000 以上の認可 NPO 法人があり、環境保全・教育関係・国際協力などの分
野に 1/3 の NPO が関与していて、改革を進めるための潜在能力は十分有ると見なせる。
流出油防除
流出油防除は基本的に広域体制が必要である。小さな事故は局地的に対処でき被害も小さいが、
巨大な事故は汚染が広範囲に及び防除資機材の不足と偏在を招くことも十分予想され、従って、
あらかじめ広域の防除計画を作成しておくことが必要である。
網走市流出油防除計画案の作成には、網走市と網走海上保安署が参加しているため、網走市が
これを採用し、網走地区沿岸排出油災害対策協議会(会長は網走海上保安署)がこれに準拠した
防除計画を作成することは比較的スムーズに進行する可能性があると考えられる。また、これら
の作成過程に近隣地区(宗谷、根室)と北海道が参加すれば、北海道オホーツク海沿岸部の防除
計画の作成もスムーズに展開すると考えられる。
このような過程をたどれば、北海道全域さらに日本全国に拡大してゆくことは大きな流れとな
るものと思われる。ただし、そのためには予算措置が必要であり、海上保安庁あるいは自治体が
自ら予算措置を行い、防除計画立案を行うことが望ましいが、これを期待出来ない場合は、上記
-53-
【180401】
一般論に記した法律制定が必要とされる。
-54-
【180401】
4.2.2
既往研究の国内外の動向
本研究で以下の研究を実施した。
1)世界と日本の油流出事故の分析
2)英国・米国・韓国・日本の油流出事故対策の分析
3)日本の流出油防除体制の提案
4)流出油防除体制を実現するために必要な社会的・政治的要因の分析
5)日本が構築すべき自己変革型社会システムの提案
6)北海道オホーツク海沿岸部の流出油防除体制の構築
1)-4)については、それらを目的とする調査は本来、政府機関で行われるべき内容であるが、油
流出事故の性格上、場所的、現象的に所掌業務として明確化されていない環境災害であるため、
特定の機関で研究されても総合的に取りまとめられる性格のものでなく、既往研究としてまとめ
られ公表されている事例はない。
北海道地域を管轄する第一管区海上保安本部は『北海道沿岸海域排出油防除計画』を作成し、
サハリン大陸棚の石油開発に伴い、2000 年にサハリン沖油田排出油事故対策が追加されている。
韓国海洋警察庁作成の『蔚山地域の防除実行計画』、アメリカ合衆国沿岸警備隊作成の『Hawaiian
Area Contingency Plan』と『北海道沿岸海域排出油防除計画』について、ステークホルダーの平常
時・油流出事故時の関心事と計画内容との比較結果(表 4.1-4 参照)から明らかなように、『北海
道沿岸海域排出油防除計画』は、本文(43 頁)、資料(総論 15 頁、海域編 45 頁)から構成され、
韓国やアメリカ合衆国に比べ、①ESI(Environmental Sensitivity Index:環境脆弱性指標)に基づく
統一的な流出油防除計画、②油防除活動のマニュアル、③油防除資機材の整備と使用、④分散剤
の使用指針、⑤油防除の訓練の実施内容等のソフト的な対策の部分で改善の必要性を指摘するこ
とができる。さらに、サハリンの石油開発に関連し、流氷期の事故想定や環境・漁業被害額の算
定については、十分な配慮があるとは言い難く、本研究で取り上げた課題研究が必要とされる事
を示している。
5)については、4.1.7 に述べているように、2 つの要素があり、自己変革社会システムに関する
基礎的な研究とシステムの提案に関する研究に分けられる。後者については、まちづくりを初め
とし、里山、森林、流域、農業用水周辺の公共資本の管理のあり方に関する研究がそれに相当し、
例えば、地域再生の環境学(淡路剛久編著、東京大学出版会、2006)
、市民参加と合意形成(原科
幸彦編著、学芸出版社、2005)等まとめられつつあるが、油流出事故については存在しない。
前者については、ナホトカ号事故後に多くの機関で行われた研究、事例調査については、個別
分野については後述するように存在するものの、総合的にまとめた研究については存在しない。
一方、1989 年に発生したエクソン・バルディーズ号事故については、10 周年のシンポジュウムが
開催され、事故後の研究成果を閲覧できるサイトが未だに存在している。また、事故直後におい
-55-
【180401】
ては、アラスカ州がエクソン社に対して請求した環境被害額 23 億ドルをめぐる裁判で、その金額
の妥当性を審議する過程で、現在環境評価手法として使用されている CVM(Contingency Valuation
Method:仮想価値法)の世界標準ができ NOAA パネルとして現在なお使用されている。
本研究では、4.1.7.1 に記述したように、自己変革社会システムに関する基礎的な研究としては
以下の課題研究を行った。
1) 事故時のステークホルダー間に発生するコンフリクトに対する合意形成手法
①利害関係を図上で調整するための社会情報を考慮したESIマップとその利用方法
②分散剤使用の調整事項
③漁業・観光業・環境・地方公共団体における被害額の損害請求方法
2) 自己変革能力を有する社会システムとしての市民と行政の協働のあり方
3)
網走湾流域居住者による油流出事故の環境災害リスク認知構造を考慮した地域別対策の
あり方
1)①の課題については、国際的には、Gundlach, E. R., Hayes, M. O. (1978)の研究に端を発し、欧
米諸国や韓国において実用レベルに供する研究が行われているが、日本のように沿岸域を高度に
利用している地域での事例は少なく、日本独自の研究が必要とされるものの、そういった研究は、
本研究参加者のものしか存在しない。
各種自然災害におけるハザードマップのパブリックアクセプタンスの取り組みについて一部で
はあるが、以下の通りである。水災害の分野において、1998 年 8 月の水災害の事例によれば、洪
水ハザードマップを事前に見ていたか否かで避難開始に 60 分程度のずれのあったことが確認さ
れている(片田 2003)。このことは、事前にハザードマップが配布されていた効果を示している。
片田(2002)は、洪水ハザードマップを教材と位置づけて、住民に教育を行うことが重要である
としている。こうした議論を受けて、赤桐(2003)は事前のハザードマップの配布、平常時の避
難訓練の実施および住民の水防意識の向上が、水災害時の安全な避難を可能にすると指摘してい
る。
火山災害の分野において、ハザードマップの情報が如何に防災対策に活用できるかは、一般住
民に周知および啓発活動を継続することにあり、そのための最善の方法を模索することが必要で
ある(加藤 2002)。宇井(2003)は、平素から火山専門家が行政、マスコミおよび住民の防災意
識を高めるための普及啓蒙活動を行う必要性を指摘した。
有珠山では、噴火前に火山性地震が頻発するという経験則が成り立っており、1995 年『有珠山
火山防災マップ』が全住民に配布されていた。噴火の直前予知に成功した有珠山の防災対応の特
徴は、科学的な情報が地域防災に生かされたことであった(廣井ら 2002)。一方、荒牧(2002)
は、有珠山をはじめとする北海道の火山防災活動の成功は、自治体、企業および各種団体の防災
担当者が活火山に関する知識と意識を向上させていた結果であるとし、防災担当者への活火山の
-56-
【180401】
情報と知識の伝達が緊急を要するとしている。
小澤ら(2003)は、山梨県と地元 10 市町村との共催により河口湖町内で 2001 年行われた富士
山火山総合防災訓練の実施の事例をあげ、防災関係機関はもとより地域住民や観光業界等に対し、
防災マップの周知および活用を図るとともに自助および共助の精神を培うことの必要性について
言及している。
一般に地域防災計画は、災害等から想定される被害を概算して、それに見合った対策を講じて
いる。こうしたリスクアセスメントは、特に地震の多い日本で災害対策の事前準備に利用されて
いる。里山保全活動、地震防災においては、行政パートナーとして NPO や NGO の必要性が認識
され、行政の中で住民が一定の役割を果たすシステムが実施されつつある。油防除体制も同様で
あり、統制と競合のバランスについて考慮した NPO を組織化することが必要であると考える。
1)②の課題については、油流出事故時の分散剤使用に関する合意形成プロセスを取り上げた研
究は、油流出事故が沿岸域という所轄官庁があいまいな場所で発生する環境災害という学際的な
問題であるため、これまであまり取り上げられなかったものと考えられる。一般に大規模な油流
出事故発生後に行われる分散剤散布については、海洋環境保全の立場から特に漁業者を中心とし
た反発を招くことが多く、1989 年アラスカで発生したエクソン・バルディーズ号事故を題材に制
作された映画”Dead Ahead”の中にもこの対立の場面が描かれている。分散剤の成分については日
本においては、1967 年に新潟県で発生したジュリアナ号事故の際に散布された強い急性毒性を持
つエーテル型非イオン系の界面活性剤はほとんど使われなくなり、今日、毒性が格段に低いとさ
れる非イオン系エステル型が主流となっている。しかし、稚仔段階の魚類に対し微粒子化した油
が水中に存在すること自体が発生に重大な影響を及ぼすとの指摘も存在し、その安全性と影響に
ついては解明されておらず、議論を決着させるにはまだ研究途上である。さらに、国レベルの対
応を見ても分散剤使用に積極的な英国を中心とする一連の諸国と極めて消極的な態度を貫くバル
ト海沿岸諸国が現時点で同時に存在するなど全く一様な状態にない。
本研究で漁協を対象に実施した「油汚染時の分散剤使用に関するアンケート調査」結果には、
漁業者の意識と現在おかれている状況が顕著に表れている。
「分散剤についての情報が少なく影響
などもわからず判断材料が少ない」中で、使用不使用決定には「安全性」を第一にあげているに
もかかわらず、「油が早く消えてほしい」「油漂着への風評被害を懸念」して、早い対応を望み、
分散剤使用に同意するというジレンマに陥っていることが推測される。漁業者を含めた利害関係
者が情報を共有し、地域の油防除計画策定に参加し、新しい知見が出てきたら計画を見直す、事
故時には計画が実行されるよう協議・監視し、事故後の影響も追跡できるような市民参加のシス
テムが必要である。本研究の「網走市流出油防除計画立案研究会」は、この役割を担う例となり
得る。
市民のニーズの多様化等、現在の行政システムが構築された時点では想定し得なかった現象に
より、行政と市民との間のギャップが広がり、これを埋めるべく、規制緩和・行政改革の議論が
-57-
【180401】
始まっているが、情報化のスピードに行政がついていけないのが現状であろう。
里山の管理、流域の管理、地域の安心安全の管理等、行政界を超えた複数の組織にまたがるが
故に、既存の社会システムでは対応できない問題に対して、新たな意思形成プロセスが求められ
ている。例えば、社会技術研究論文集でも、これらの課題につき、合意形成手法として、道路整
備事業における利害関係の調整、原子力発電所の立地問題、大規模風力発電所の立地問題等の様々
な分野で分析が進められているものの、手法については参考にはなるが、油流出事故に適用でき
るものではない。
1)③の課題については、海洋汚染、とくに油汚染に関して、国内外における油流出事故の個別
事例が検証されてきた(柳村 1986;運輸省 1997;長塚 1997;佐々木 1999a;佐々木 1999b;佐藤
1999;後藤 2000a;後藤 2000b)。これまでの油濁事故の教訓から、大規模な油流出の海難防止お
よび緊急対応体制に関する提言(在田 1999)や防除措置の実施体制および防除資機材の整備に関
する検討(大島・除本 1998)がなされ、航行する油送タンカーの安全性向上のための方策が提示
されてきた(高等海難審判庁 2002;国土交通省 2002)。油による汚染を最小限に止めるためには、
流出した油の種類・量・性状、海象・地勢の基本情報の収集や防除方法と資機材の選別などの初
期対応のシステム化が不可欠である(佐々木 1999c;佐々木 1999d)。しかしながら、関係機関を
横断的につなぐ油防除のシステム化の議論はほとんどなされておらず、総務省からの勧告(2003)
にあるような実効性のある海上災害対策が望まれている。
2)の課題については、里山の管理、流域の管理、地域の安心安全の管理等、行政界を超えた複
数の組織にまたがるが故に、既存の社会システムでは対応できない問題に対して、新たな意思形
成プロセスが求められており、これらの課題につき、合意形成手法として多くの事例研究がある
が、油流出事故のような、場所的、現象的にも取り扱いにくい課題については事例がない。
この種の問題は政治社会体制を形成している歴史的・思想的・社会的・文化的背景、国民の意
識に基づく要素が非常に大きい。実際に関係者への聞き取り調査や歴史的背景を調査することで
解明されてくる要素が強い。油防除に関しては、海外では大別して「官主導」
「官民協力」のどち
らかで改革が行われている。環境問題への取り組みで、改革の達成要素として、官・民・学の総
合的なネットワークによる具体的な政策提言・実施のシステムを作ること、即ち全体のストーリ
ーと役割分担、それを有機的につなげるシステムを構築しつつある韓国の例は参考になる(孫
2005)。
3)の課題については、まちづくり、流域管理等の分野での市民活動に参加する住民の意識構造
を計測した事例は多く存在するが、油流出事故については事例がない。本研究では、2006 年 3 月
に知床半島に 6000 羽の海鳥の死骸が打ちあがり、本研究参加者もマスコミに意見を求められた。
ナホトカ号事故の際には、油流出事故対する意識構造を計測した事例はなく、油流出事故に類似
する事故後に行われた意識構造の分布調査としては、本研究で実施したアンケート調査が最初の
ものである。
-58-
【180401】
参考文献
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孫
明修(2005)「韓国における海洋廃棄物関連の取り組み~モニタリングを中心に~」
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-59-
【180401】
岸域学会研究討論会 2005 講演要旨集』No.18,pp.44-47
孫
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長塚誠治(1997)「石油油濁問題 日本沿海のタンカーの石油流出や座礁船など外国船海難につい
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原科幸彦編著(2005)『市民参加と合意形成』学芸出版社
馬場健司・木村
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思決定プロセス」『社会技術研究論文集』3, 241-258
廣井
川
脩・伊藤和明・西出則武・中村信郎・田鍋敏也・田中 淳・中森広道・中村
功・宇田
真・関谷直也(2002)「2000 年有珠山噴火における災害情報の伝達と住民の対応」
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柳村寛三(1986)「石油掘削船“オーシャンオデッセイ”の遭難」『航海』87, 7-10
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U.S COAST GUARD (2002) Hawaiian Area Contingency Plan. http://www.uscg.mil/USCG.shtm [2006
April 1].
4.2.3
科学技術や社会への考えられる波及効果
先進事例調査では、海外の油防除体制をどの組織にも属さない立場で行い、それらとナホトカ
号事故の教訓を生かし、日本において現状の油防除体制でなされていない項目を先進事例から抽
出し、その具体化について検討した。
先ず、日本の油防除体制は、先進事例で見られるような現場指揮官を中心としてトップダウン
のもの(図 4.1-7 参照)でなく、図 4.1-8 に示すような調整型のものである。この問題に抜本的に
対応するためには法改正が必要であり、実際に北海道網走市流出油防除計画立案研究会の準備の
過程で政府機関とのコンフリクトが発生した。それは事前に予測できたものであり、その解消方
策を検討する事が本研究の存在理由でもある。
基礎研究では、日本において現状の油防除体制で実施できていない項目を先進事例から表 4.1-4
のように整理し、4.1.7.1 のように検討した。検討項目を再掲すると以下の通りである。油流出事
故そのものが、沿岸域という場所で発生する環境災害であるため、これは正に、環境破壊を伴う
開発案件の時に生じる「環境か開発か」で議論すべき課題であり、全体をコントロールする組織
がないため、公共圏での課題として扱わなくてはならない内容である。類似した事例と比較する
ならば、阪神淡路大震災後、検討が進められてきた NPO の介在した災害普及支援に瞬時に発生す
る環境災害と併せた側面を持っており、共に現代の抱える課題を同時に扱わなければならないの
が油流出事故である。
-60-
【180401】
1) 事故時のステークホルダー間に発生するコンフリクトに対する合意形成手法
①利害関係を図上で調整するための社会情報を考慮したESIマップとその利用方法
②分散剤使用の調整事項
③漁業・観光業・環境・地方公共団体における被害額の損害請求方法
2) 自己変革能力を有する社会システムとしての市民と行政の協働のあり方
3) 網走湾流域居住者による油流出事故の環境災害リスク認知構造を考慮した地域別対策の
あり方
こういった課題に対して、サハリン石油天然ガスプロジェクトの進展で、油流出事故の危険に
さらされるオホーツク沿岸都市に限定し、油流出事故という個別事象に対しての対応策を検討し
た。
その結果、油流出事故対策の実証として油流出事故に対応できる市民協議会に相当するものと
してオホーツクの環境を守る地域ネットの設立支援を行った。さらに、北海道網走市流出油防除
計画立案研究会を組織化し、市民と行政の協働により、各々が行うべき役割について実証的に検
討し、北海道網走市流出油防除計画案として取りまとめを行った。本研究会の内容は、現在、北
海道庁とオホーツク沿岸都市全体を対象とし、政府機関を含むほとんどの関係機関によって構成
される流出油対応専門家会合で、北海道北岸における流出油事故への準備及び対応に関する地域
緊急時計画としてオホーツク沿岸都市全体の議論に貴重な資料となるものと考えられる。
また、国外との関係については、国内の油防除体制が所掌官庁の範囲で寸断されていたが故に
全体像の把握を困難にしていた内容は本研究の成果で横断的に整理した。NOWPAP 等で国境を越
えた油防除事故対応に関する議論の際には、本研究で得られた成果および人的ネットワークは国
外プロジェクトへも適用可能であり、今後の研究および政策立案への波及も考えられる。
さらに、ナホトカ号事故後、油流出事故対策に関する多くのプロジェクトが発生したが、個々
のフィールドや現象に留められ、研究成果も分散してしまっている。一方、エクソン・バルディ
ーズ号事故については、事故発生後 20 年近く経ようとしているが、研究成果は今もなお更新され
ている。本研究は、これまでに行われてきた油流出事故に関する研究で、組織に横断的にまたが
るが故、行政機関では予算化されない事象を取り上げ、今後の研究者に残すべき資料を提供でき
たと自負している。本研究に係わった研究者の多くは、ナホトカ号事故時に、エクソン・バルデ
ィーズ号事故後に公表された報告書等の原文を読んで知見を得て、事故対策の後方支援を行って
来た経験を持っている。今後同様な事故が発生した際には、本研究で得られた成果が適用でき
るものと信じている。
最後に、本研究で提案した社会技術「自己変革社会システム」は、外交問題のような対外的関
係を除き、最近急激に問題点が浮上し、既存の行政・社会システムでの対応が困難な以下に例を
示す国内問題への適用可能性を示した。
-61-
【180401】
*
保険・医療・福祉
*
教育問題
*
地域の安心安全
*
地域格差、個人所得格差の増大
*
少子高齢化、人口減少問題
*
環境問題(特に経済界の反発が強く行動計画の策定が困難な CO2 削減問題)
*
食料自給率(先進国中最低)の向上および農業振興、必要とされる人材確保
*
エネルギー安全保障問題(先進国の中最低の自給率)
共に、
①ステークホルダーが対等である
②領域が横断的である
③プロジェクトが限定的
④透明で開かれた協働作業
を可能にする組織をいかに構築するかがキーワードになる。
これらを推進するためには、運動を制度化する事は、これまでの行政が辿ってきた道を繰り返
し、組織事態の維持化、既得権益化につながってしまうことになる。これらを解消するための方
策が本研究で言う所の自己変革可能な社会システムに他ならない。既得権益化したらその組織の
役割は終了したとみなすべきであると考える。一方で、そういった社会システムを強制的に作る
必要がある。本研究で扱った油流出事故や災害対応のものがそれである。これらについては、共
同知が蓄積でき、緊急時に使用できるしくみが重要である。また、公共圏の問題については、サ
イレントマジョリティーの問題がある。これらについては、個々に訓練メニューを作るとか、か
つて講を使って地域のコミュニティーを存続させ、現在もなお続いている事例等を分析し、場所
に対する愛着を促進させる地域のしくみづくりが必要であると考えている。最近では、政策によ
る祭りの復権等がその事例であると考えるが、ステークホルダーのモチベーションの向上の問題
については今後の課題であろう。
流出油防除は環境問題であるとともに、特に過疎地で大きな問題となってきた事実が示すよう
に、多くの場合、地域・地方の問題でもある。上記の諸問題の中から、地域と環境に密接に関連
するテーマを取り上げ、それらへの本社会技術の応用を提案する。
(1) 環境保全と農漁村振興
日本の自然環境とその地域の過疎化がますます進行している農漁村には次のような問題が存在
する。
-62-
【180401】
1)
過疎化:原因は仕事がないことである。
2)
農業の衰退:原因は、安価な食料輸入と国の減反政策に有る。
3)
林業の衰退:原因は、安価な木材輸入と杉の過植林による森林荒廃にある。
4)
漁業の衰退:原因は乱獲と漁業区域の縮小にある。
農業の振興は偏に消費量の増大にかかっている。即ち、高額でも安全が保証されている製品(米
や野菜)を提供出来れば、しかも生産者と消費者が直結する形で食料を提供出来れば、安定的・
長期的な関係が作られるとともに、
(口コミなどで良さが伝搬することにより)価値がより広い範
囲で認められ、また消費者の要望が直接生産者に伝えられるため、種々の改良も速やかに行われ、
結果として消費・生産量が漸増して行くと考えられる。このような体制を実現するためには、次
のようなステップが必要と考えられる。
1) 有機栽培協議会の創設:
有機栽培による製品の販売を実現するために、農村部の農協(農業者)と都市部の生
協或いは NGO(消費者)及び事務局からなる協議会を設立し、次のテーマを調査研究す
る。
*
有機栽培実現のための技術調査
*
有機栽培実現のステップと資金計画検討
*
製品受け入れ態勢の検討
*
特区申請検討
*
その他
2) 有機栽培特区の新設:
無農薬・完全有機栽培を行う地区は、減反をしなくても同様の補助を受けられる。
3) 実施:
数年間の実施と成果の評価及び拡大
(2) 教育の自由化と農漁村振興
昨今のグリーンツーリズム・エコツーリズム或いは修学旅行に農業体験を取り入れるなど都市
と農山漁村との交流により、都市住民の地方での自然と暮らし体験と農山漁村の活性化を目指す
試みが出てきており、それを行う自然教室なども出てきている。こうした試みを更に活発化し、
積極的に学校教育にも取り入れることで、自己変革型の社会基盤を作ることが可能となる。その
ための方策を以下にあげる。そして、その中で、教育者が自ら教科書を作成し、非教育者は教育
者を選択出来るような制度(教育の自由化)を模索する。
(2-1) 農産漁村と都市交流協議会の設立:
農産漁村と都市の交流を主要テーマとし、真に優れて有効な教育方法を検討・実践する協議会
-63-
【180401】
を設立する。この協議会は次のメンバーから構成される。
1)
農漁村部の学校と地区住民及び教育委員会
2)
都市部の学校と PTA 及び教育委員会
3)
協議会を運営する事務局
(2-2) 第 1 ステップ:短期林間学校
数人から十数人を一グループとして、1 週間から 1 月程度の期間、都市部の生徒が農漁村部の
民家に宿泊し、その地域の学校に通い、そこで勉強する。生徒は年間を通じて連続的に受け入れ、
または、一人の生徒が四季毎に一度、年間 4 回農漁村に滞在出来るように計画する。この教育効
果は次のように期待出来る。
1)
学問は机上の知識だけではなく、体験が重要であるという実感が得られる。
2)
「自然」と「第一次産業」と「命のつながり」を生活者の視点で体験できる。海外留学
で異文化に触れるのと同じ効果が得られるはずである。
3)
受け入れる地域にとっても外部との交流による効果が得られる。
4)
結果として、山村留学が推進され、様々な活性化が図られる。
この短期林間学校の運営には、生徒の移動の交通費、滞在費、事務局の運営費など膨大な経費
が必要となる。これは国の資金で賄う必要があるため、「短期林間学校特区」を申請する。
(2-3) 第 2 ステップ:教育の自由化
第 1 ステップでは、異なる風土の教育を受けることになる。同じ教科書を使っていても、教育
の仕方は異なるであろう。そのような体験を通じて、教科書を教師が作ることを試みる。その具
体的手法は、第 1 ステップの経験と成果に基づいて検討する。
-64-
【180401】
5.研究実施体制
(1)体制
(株)海洋工学研究所
星稜女子短期大学・福岡工業大学
○世界と日本の油流出事故の分析
○英国・米国・韓国・日本の油流出事故
○日本の流出油防除体制の提案
対策の分析
○流出油防除体制を実現するために必要な
社会的・政治的要因の分析
立正大学
NPO 東京いのちのポータルサイト
○日本が構築すべき自己変革型社会システムの提案
○北海道オホーツク海沿岸部の流出油防除体制の構築
立正大学・(株)海洋工学研究所・星稜女子短期大学
-65-
【180401】
(2)メンバー表
①立正大学グループ
氏
名
所
属
役
職
研究項目
参加時期
・日本が構築すべき自己変革型 平成15年10月~
後藤真太郎
立正大学
地球環境科学部
教授
社会システムの提案
平成18年9月
・北海道オホーツク海沿岸部の
流出油防除体制の構築
平成16年4月~
北海道大学名誉教授,
青田昌秋
現 オ ホ ー ツ ク 流 氷 科 所長
・オホーツク海における流氷
平成18年9月
学センター
小城春雄
濱田誠一
小島誠一郎
谷口智雅
坪井塑太郎
矢﨑真澄
北海道大学名誉教授, 客員
現山階鳥類研究所
研究員
北海道立
研究
地質研究所
職員
NPO 東京いのちの
理事
ポータルサイト
執行部
東 京 大 学 空 間 情 報 科 客員
学研究センター
研究員
立正大学
研究
地球環境科学部
補助員
平成16年4月~
・サハリンにおける生態系
平成18年9月
・北海道における ESI マップ
平成16年4月~
整備
平成18年9月
平成15年10月~
・住民と行政の協働
平成18年9月
平成18年1月~
・流域圏の環境管理
平成18年9月
平成18年4月~
・流域圏の環境管理
平成18年9月
立正大学
研究
・日本が構築すべき自己変革型 平成15年12月~
平成18年9月
社会システムの提案
地球環境科学部
補助員
・北海道オホーツク海沿岸部の
流出油防除体制の構築
栗原京子
江頭有希
工藤照子
立正大学
研究
地球環境科学部
補助員
立正大学
研究
地球環境科学部
補助員
立正大学
研究
地球環境科学部
補助員
平成15年11月~
・事務担当
平成16年3月
平成16年4月~
・事務担当
平成17年11月
平成18年3月~
・事務担当
-66-
平成18年9月
【180401】
②星稜女子短期大学グループ
氏
名
所
属
役
職
研究項目
・韓国・台湾・日本の油流出
沢野伸浩
星稜女子短期大学
経営実務科
助教授
事故対策の分析
参加時期
平成15年10月~
平成18年9月
・北海道オホーツク海沿岸部の
流出油防除体制の構築
桂木健次
福岡工業大学
社会環境学部
・ロシア語およびロシア国内
教授
平成15年10月~
平成18年9月
情勢
平成15年11月~
兪
礼姫
菊井美香
星稜女子短期大学
星稜女子短期大学
学生
・韓国語および法体制
平成18年9月
平成15年11月~
研究
補助員
・事務担当
平成16年3月
③㈱海洋工学研究所グループ
氏
名
所
属
役
職
研究項目
・世界と日本の油流出事故の
佐尾邦久
㈱海洋工学研究所
代表
取締役
分析
参加時期
平成15年10月~
平成18年9月
・日本の流出油防除体制の提案
・北海道オホーツク海沿岸部の
流出油防除体制の構築
・流出油防除体制を実現する
佐尾和子
㈱海洋工学研究所
出版
部長
ために必要な社会政治的
平成15年10月~
平成18年9月
要因の分析
・北海道オホーツク海沿岸部の
流出油防除体制の構築
-67-
【180401】
6.研究期間中の主な活動
(1)ワークショップ・シンポジウム等
参加
年月日
名称
場所
概要
人数
2004年
プロジェクト
㈱海洋工学
8月30日
ミーティング
研究所
5名
以下の議題につき検討した。
(1)予算
(2)サハリン出張
(3)紋別シンポジュウム
2004年
国際油流出
星稜女子
3月27日
専門者会議
短期大学
19名
以下の5点につき検討した。
(1)アジア各国および米国における大規模油流出事故対応の経験の
~29日
共有
(2)油流 出対応 のため の緊急 時計画 のあり 方,ESIマップの 整備 ・活
用促進
(3)「地域国際問題」への対応のありかた・国際協力のありかたの
検討
(4)NGOや地域住民,ステークホルダーの関与のありかたについて討議
(5)スタディツアー(能登半島先端部と加賀市差浜域でナホトカ号事故後の
状況を観察,大規模流出事故発生時の沿岸への長期的な影響につ
いて認識の共有を促進)
2004年
ロシアサハリン州出張 ロシア(サハリン州ユ
7名
以下,3点につき検討した。
9月19日
ジノサハリンスク,コ
(1)流出 油防 除 体制の 提案:世界と 日本 の 油流出 事故 と 対策を比
~24日
ルサコフ,ドリンス
較分析/日本の流出油防除体制の問題点の明確化
ク,ホルムスク,
(2)市民と行政が協働した油防除体制・環境災害に対する防災システ
Svobodnoye
ムの提案:必要な改善が必然的に実現されるための社会システム/対立
地区)
する関係を克服調和して前進できる社会システム(自己変革能力を有
する社会システム)の提案
(3)緊急を要する北海道の流出油防除システムの確立
2004年
紋 別 シン ポシ ゙ウ ム 紋別セントラル
67名
(公開 )1997年1月, ナホトカ号事故より7年が経過したものの,事故後,油
10月9日
「油流出から北 ホテル
流出事故に対する総合的な対策は大きな改善は見られない。サハリン石
海道を守れる
油開発を対岸に控えるオホーツク沿岸都市においては,油流出事故が発生
か?」
した際の漁業に対する被害は甚大であることが予測され,その対策が
望まれている。複数の油流出時に関連する機関が行う対策をいかに
つないで有効なものにするかにつき,科学的に検討を行うことで,こ
れまでの研究成果を実際に役立て,油流出事故に対応できる地域防災
計画の作成を計画している。油流出事故の場合,「行政に委ねざるを得
ない対策」以外に,「市民にできる対策」もあるはずであり, ナホトカ号事
故の教訓を踏まえて「行政と市民が協働した油流出対策」について考
えるシンポジウム「油流出から北海道をまもれるか」を開催した。
-68-
【180401】
2004年
プロジェクト
㈱海洋工学
12月21日
ミーティング
研究所
4名
以下の議題につき検討した。
(1)千葉県ヒアリングの報告
(2)分散剤の使用基準、ガイドライン策定委員会(国家備蓄基地周辺)の
報告
(3)JSTプロジェクトの今後のスケジュール
3-1成果の見通し
3-2網走の流出油防除計画の作成手順
2005年
第 20 回 北 方 圏 北海道
36名
(公開)以下の4点につき検討した。
2月22日
国 際 シン ポシ ゙ウ ム 紋別市
(1)油防除体制の現状:北海道における流出油事故災害対策― 韓国貨
「油汚染につい 文化会館
物船マリンオオサカ号事故(2004.11.13発生)における流出油対策 ―
て」
(2)油防除体制の国際比較:日・米・韓の油防除体制の相互比較
(3)市民と行政の協働事例:油流出事故対策における市民と行政の協
働事例
(4)油流出事故から紋別を守るために:「サハリン石油天然ガス対策市民研
究会」設立準備会
2005年
プロジェクト
㈱海洋工学
11月1日
ミーティング
研究所
5名
以下の議題につき検討した。
(1)2005年11月28日ワークショップの討議の主旨
(2)準備事項
(3)地図上の掲載事項
(4)委員への質問事項
2005年
北 海 道 網 走 市 網走漁業
16 人 北海道網走市流出油防除計画立案につき,以下の7点を検討した。
7月19日
流 出 油 防 除 計 協同組合
(1)趣旨説明
画 立 案 研 究 会 2階会議室
(2)研究会設置・運営要領(案)について
(第1回)
(3)委員紹介
(4)委員長・副委員長の選任
(5)流出油防除体制について(沢野伸浩委員)
(6)北海道のESIマップについて(濱田誠一委員)
(7)北海道網走市流出油防除計画案の考え方について(佐尾邦久委員)
2005年
北 海 道 網 走 市 網走漁業
18人
10月6日
流 出 油 防 除 計 協同組合
(1)講演「日本の油防除体制」(上野春一郎講師)
画 立 案 研 究 会 2 階会議室
(2)油流出シミュレーション(矢崎真澄委員)
(第2回)
(3)網走海域のESIマップ(濱田誠一委員)
北海道網走市流出油防除計画立案につき,以下の6点を検討した。
(4)北海道網走市流出油防除計画(案)の説明(佐尾邦久委員)
(5)北海道網走市流出油防除計画(案)の討議
(6)次回の議題提案および作業分担
-69-
【180401】
2005年
オホーツクの環境を 紋別市立
45人
(公開)サハリン沖の石油・天然ガス開発事業は近年本格化し,既に月2,3船
11月27日
守る地域ネット設 博物館
のペースでタンカー輸送が行われている。2008年からは,サハリン南端のプリゴロ
立総会
ドノエ地区から石油液化天然ガスの輸送が始まる状況になっているが,
現在進行中のサハリンプロジェクトは,開発先行,環境保全不十分の状況であ
り,現在から近未来にかけての野生生物の生態系への影響,タンカー事故
等による海洋汚染などが危惧される状況だ。万が一の事故が発生し,
「知床世界自然遺産」を有する豊かな水産の海オホーツクが影響を受ける
と,地域の産業,自然環境は,長期にわたり壊滅的な影響を受けるもの
と思われる。開発と環境保全の双方を満足させる知恵が求められて
いる現在,開発企業と地域住民(ステークホルダー)と,行政のトライアングルの利害
関係を,互いに調整し,問題解決のための開かれたシステム作りを構築し
たい。
2005年
ワークショップESIマッ 網走漁業
11月28日
フ ゚ に よ る 海 岸 協同組合
14名
ESIマップを見ながら網走市の各海岸に適した具体的な防除計画(案)の
検討をするため,ワーキング形式で検討会を開催した。
別 流 出 油 回 収 2階会議室
方法の検討会
2005年
「北海道網走市 網走漁業
11月29日
流 出 油 防 除 計 協同組合
(1)「ESIマップにおける海岸別流出油回収方法の検討会」の結果報告
画立案」研究会 2階会議室
(2)ゾーン別回収方法における共通事項について
(第3回)
17名
北海道網走市流出油防除計画立案につき,以下の5点を検討した。
2-1 ボランティアの受け入れ態勢について
2-2 野生動物の救護・リハビリについて
2-3 分散剤の使用について
(3)現体制での事故規模に応じた網走市の対応について
(4)計画案に対するその他の意見
(5)地域住民の油防除作業での役割と日常的な訓練について
2006年
第 21 回 北 方 圏 紋別市
(公開)以下の8点につき検討した。
2月21日
国際シンポジウム
(1)オホーツクの環境を守る地域ネット=OEPNの発足と今後の事業計画
文化会館
【ワークショップ:油 1階
汚染】
美しいオホーツクの
環境を守る会
(新沼 透(OEPN事務局))
(2)サハリンⅡプロジェクトに関する紋別における第2回説明会
(松本英雄(サハリンエナジー社))
(3)北海道網走市流出油防除計画立案研究会の紹介
(後藤真太郎(立正大学))
(4)海外の協議会の事例(L. Emo and C. Battaglia (Focus Wildlife))
(5)市民参加の油防除対策に向けて-環境脆弱性指標地図を用いた図
上訓練の紹介(沢野伸浩(星稜女子短期大学))
(6)サハリン計画と外航タンカーの海難に伴う油流出事故のリスク評価
(大貫 伸((社)日本海難防止協会))
(7)オホーツク海域の海洋汚染の現状(岩本浩二(海上保安庁))
(8)Ceis Net (シーズネット)について(日根 実(海上保安庁))
-70-
【180401】
2006年
プロジェクト
㈱海洋工学
4月25日
ミーティング
研究所
6名
以下の議題につき検討した。
(1)アンケート調査
(2)網走市流出油防除計画立案研究会日程
(3)分散剤論文
(4)自己変革型社会システム
(5)JBIC、SEIC対応
(6)サハリン出張
(7)EBRDのパブリックコメント
2006年
北 海 道 網 走 市 網走漁業
14名
7月24日
流 出 油 防 除 計 協同組合
(1)防除戦略および計画策定の主要な内容(漁業者の初動体制)
画 立 案 研 究 会 2階会議室
(2)海上回収・海岸回収(能取湖口のブームの展張方法,能取湖内部への誘
(第4回)
導ブームの展張方法)
北海道網走市流出油防除計画立案につき,以下の7点を検討した。
(3)分散剤の使用基準
(4)回収油と廃棄物の貯蔵(油の集積地(空き地利用)の調整)
(5)野生生物の救護・リハビリ(野生生物の一時的な収容先としての施設
利用の候補地,関係機関の調整・連絡対応表,必要な機具のリスト)
(6)防除教育・訓練(ボランティアの受け入れ体制,Web-GISによるESIマップの
試作)
(7)補償(漁業・観光・その他)
2006年
北 海 道 網 走 市 網走漁業
独立行政法人科学技術振興機構(JST)の研究プロジェクトの助成を受け
11月20日
流 出 油 防 除 計 協同組合
て,2003年秋から2006年秋までの3年間「油流出事故の危機管理システムに
(予定)
画 立 案 研 究 会 2階会議室
関する研究」を実施している。研究目的は, ナホトカ号事故以来,日本の
最終報告書発
油流出防除体制が抜本的に改正されていない原因を探り,これを改善
表会
するための社会システムを提案することである。この研究では,サハリン石油・
(NHK取材)
天然ガス開発による様々なリスクにさらされている北海道オホーツク海沿岸
の網走市において,国(海上保安庁,海上災害防止センター),広域自治体(北
海道),地域自治体(市町村など),住民(漁業協同組合),NPO,NGOの関係
者全員が参加して,流出油の防除について討議する場を設け,北海道
網走市流出油防除計画案を作成した。
2006年
網 走 市 市 長 面 網走市役所
6名
11月21日
会・北海道網走
太郎(立正大学,研究代表者)・沢野伸浩(星稜女子短期大学)・矢崎真澄
(予定)
市流出油防除
(独立行政法人科学技術振興機構)が,大場脩網走市市長に面会し,北
計画案の提出
海道網走市流出油防除計画案を提出する。
佐尾邦久(㈱海洋工学研究所)・佐尾和子(㈱海洋工学研究所)・後藤真
(NHK取材)
2007年
シンポジウム
1月
(予定)
-71-
【180401】
(2)招聘した研究者等
氏
名(所属,役職)
Wen-Yan CHIAU (National
招聘の目的
国際油流出専門者会議
Sun Yat-sen University)
Lei Yang (National Sun
国際油流出専門者会議
Environment Research Center
~29日
ホテルイン 2004年3月27日
金沢
国際油流出専門者会議
滞在期間
ホテルイン 2004年3月27日
金沢
Yat-sen University)
Chang Sup Lee (Korean
滞在先
~29日
ホテルイン 2004年3月27日
金沢
~29日
for Hydrosphere, Co. Ltd.)
Jae Ryoung OH (South Sea
国際油流出専門者会議
ホテルイン 2004年3月27日
Institute of KORDI)
金沢
Gary Shigenaka (U.S National 国際油流出専門者会議
ホテルイン 2004年3月27日
Oceanic and Atmospheric
金沢
~29日
~29日
Administration Office of
Response and Restoration
Hazardous Materials
Response Division)
Susan M. Saupe (Cook Inlet
国際油流出専門者会議
Regional Citizens Advisory
ホテルイン 2004年3月27日
金沢
~29日
Council)
Eilif T.C. Wang (Association
国際油流出専門者会議
ホテルイン 2004年3月27日
of Ocean Pollution Control)
金沢
~29日
上野春一郎(海上保安庁警 北海道網走市流出油
-
2005年10月6日
-
2005年10月6日
浦野晃司(北海道総務部危 第20回北方圏国際シンポジ -
2005年2月22日
備救難部環境防災課,企画 防除計画立案研究会
係長)
内田保人(網走海上保安署,北海道網走市流出油
次長)
防除計画立案研究会
機対策室,主査)
ウム「油汚染について」
大島昌之(網走市企画総務 北海道網走市流出油
部総務課庶務係,係長)
-
防除計画立案研究会
2005年7月19日,
同年10月6日,
同年11月29日,
2006年7月24日
小川秀人(北海道網走支庁 北海道網走市流出油
-
2005年7月19日,
地域政策部地域政策課,主 防除計画立案研究会
同年10月6日,
査)
同年11月29日,
2006年7月24日
小野
哲(北方圏国際シン 北海道網走市流出油
ポジウム,事務局長)
防除計画立案研究会
川村久美子(北海道網走支 北海道網走市流出油
庁網走土木現業所)
-
2005年7月19日,
同年10月6日
-
2005年10月6日
防除計画立案研究会
-72-
【180401】
北村吉雄(網走漁業協同組 北海道網走市流出油
合,常務理事)
-
防除計画立案研究会
2005年7月19日,
同年10月6日,
同年11月29日,
2006年7月24日
小島一弘(NPO推進オホー 北海道網走市流出油
-
2005年7月19日,
ツクプラットフォーム,副 防除計画立案研究会
同年10月6日,
代表理事)
同年11月29日
齋藤慶輔(猛禽類医学研究 北海道網走市流出油
所,代表)
-
2005年11月29日
防除計画立案研究会
佐々木邦昭(独立行政法人 国際油流出専門者会議
ホテルイン 2004年3月27日
海上災害防止センター,防
金沢
~29日
-
2005年7月19日,
災部長)
佐藤正信(網走市企画総務 北海道網走市流出油
部総務課,部長)
防除計画立案研究会
長南宰司(網走海上保安署,北海道網走市流出油
署長)
同年11月29日
-
防除計画立案研究会
2005年10月6日,
同年11月29日,
2006年7月24日
長谷川啓治(元三国町重油 紋別シンポジウム
-
2004年10月9日
-
2005年10月6日,
災害ボランティア本部/㈱西 「油流出から北海道を守れ
陣,代表取締役)
るか?」
長谷田茂男(北海道漁業環 北海道網走市流出油
境保全対策本部,事務局長)防除計画立案研究会
同年11月29日,
2006年7月24日
長谷部勝也(北海道網走支 北海道網走市流出油
-
2005年7月19日,
庁地域政策部地域政策課, 防除計画立案研究会
同年10月6日,
主幹)
2006年7月24日
松尾省二(琴引浜の鳴り砂 紋別シンポジウム
-
2004年10月9日
-
2005年7月19日,
を守る会,事務局/網野町漁 「油流出から北海道を守れ
業協同組合,代表幹事)
るか?」
吉田民平(海上災害防止セ 北海道網走市流出油
ンター,防災部長)
防除計画立案研究会
同年10月6日,
同年11月29日
吉田東海雄(北海道漁業協 北海道網走市流出油
-
2005年7月19日
-
2005年7月19日,
同組合連合会,事務局長) 防除計画立案研究会
渡邊有希子(猛禽類医学研 北海道網走市流出油
究所,副代表)
防除計画立案研究会
同年10月6日,
同年11月29日,
2006年7月24日
和田俊太郎(網走市企画総 北海道網走市流出油
務部総務課,課長)
防除計画立案研究会
-
2005年7月19日,
同年10月6日,
2006年7月24日
-73-
【180401】
7.主な研究成果物,発表等
(1)論文発表(国内
10
件,海外
6
件)
〈国内〉
1.
沢野伸浩・後藤真太郎・佐尾邦久・佐尾和子:重油回収システムの運用に関する研究-ESI地
図作製を中心に-, 学術情報ネットワーク(スーパーSINET/SINET)成果報告集, pp.210-215,
2004
2.
後藤真太郎:Web-GISの最前線, 月刊海洋, Vol.36, No.5, pp.355-359, 2004
3.
矢﨑真澄・後藤真太郎:北海道網走沿岸域における漁場分布とその利用状況, 立正大学大学
院地球環境科学研究科紀要, 4号, pp.112-121, 2004
4.
矢﨑真澄・後藤真太郎:ナホトカ号重油流出事故にみる漁業補償の現状, 立正大学大学院地
球環境科学研究科紀要, 4号, pp.101-111, 2004
5.
矢﨑真澄・後藤真太郎・濱田誠一・沢野伸浩・佐尾邦久・佐尾和子:社会情報を考慮した油
流出事故用沿岸域脆弱性マップの利用に関する研究, 社会技術研究論文集, Vol2, pp.209-217,
2004
6.
沢野伸浩:日本沿岸域学会平成17年度全国大会「ナホトカ号特別セッション」と地元「学」
との関わり, 海上防災, No.127, pp.25-35, 2005
7.
矢﨑真澄・後藤真太郎・沢野伸浩・佐尾邦久・佐尾和子:ナホトカ号重油流出事故にみる漁
業補償問題-請求額と補償額の乖離について, 地域漁業研究, Vol.46(1),pp.283-296,2006
8.
矢﨑真澄・後藤真太郎:ナホトカ号重油流出事故における地方公共団体の補償請求の査定基
準について,地球環境研究,8号,受理,印刷中
9.
後藤真太郎・矢﨑真澄・沢野伸浩・佐尾邦久・佐尾和子:油流出事故対策における市民と行
政との協働に向けた検討課題,社会技術論文集,Vol.4,2006.9.27受理
10. 矢﨑真澄・後藤真太郎・沢野伸浩・佐尾邦久・佐尾和子:分散剤使用における漁業者と行政
のコンフリクトに関する研究,社会技術論文集,Vol.4,2006.9.27受理
〈海外〉
1.
Nobuhiro Sawano: What are the lessons of Nakhodoka?, The 4th APEC Round Meeting on the Private
Sector, Bulletin on Marine Resource Conservation and Fisheries, 2004
2.
Nobuhiro SAWANO, Masumi YAZAKI, Shintaro GOTO, Kazuko SAO, Kunihisa SAO, Yu yeahee:
OILSPILL CONTINGENCY PLANAS DIFFERENCES BETWEEN KOREA AND JAPAN, Recent
Advances in Marine Science and Technology, 2004, Pacon International, Honolulu, USA, pp.19-25,
2005
3.
Nobuhiro SAWANO: Spill Contingency Plants: For International Regional Cooperations, Proceeding
of International Oil Spill Conference 2005. Miami, FL.. U.S.A, pp.1-4(CD-ROM), 2005
4.
Shintaro Goto, Daisuke Miyata, Hai-Sheng Fan and Sakai Toshikazu: Risk communication for oil spill
accident using GIS, Proceeding, The International Symposiumon Management Systems for Disaster
Prevention, Kochi, Japan.(CD-ROM), 2006
-74-
【180401】
5.
Shintaro GOTO, Masumi YAZAKI, Seiichi HAMADA, Nobuhiro SAWANO, Kunihisa SAO,
Kazuko SAO: Environment sensitivity analysis for near shore region using GIS based ESI map,
Proceeding, The International Symposiumon Management Systems for Disaster Prevention, Kochi,
Japan.(CD-ROM), 2006
6.
Nobuhiro SAWANO, Yu yeahee, Shintaro GOTO, Masumi YAZAKI, Kunihisa SAO, Kazuko SAO:
Oil spill Presentation and Preparedness: -Comparative Study of Korea and Japan after Shoreline
Shocks-, Proceeding, The International Symposiumon Management Systems for Disaster Prevention,
Kochi, Japan.(CD-ROM), 2006
-75-
【180401】
(2)口頭発表
①招待,口頭講演(国内
34
件,海外
5
件)
〈国内〉
1.
Shintaro GOTO(Rissho University):Japanese domestic problems of oil spill countermeasure derived
from response act, The first professional meeting on the oil spill preparedness and environmental
protection in Okhotsk Sea, 2004.3.27
2.
Seiichi HAMADA(Geological Survey of Hokkaido):Developing ESI map covering Hokkaido region,
The first professional meeting on the oil spill preparedness and environmental protection in Okhotsk
Sea, 2004.3.27
3.
Masumi YAZAKI(Japan Science and Technology Agency(JST), Rissho University):Contingency
planning under local people's involvement -Relationship ESI map and Socio-information in Abashiri,
The first professional meeting on the oil spill preparedness and environmental protection in Okhotsk
Sea, 2004.3.27
4.
後藤真太郎(立正大学):油流出事故の危機管理システムに関する研究,社会技術研究開発
センター研究領域「社会システム/社会技術論」第1回シンポジウム,2004年5月15日
5.
矢﨑真澄((独)科学技術振興機構)・後藤真太郎(立正大学)・濱田誠一(北海道立地質研究
所)・沢野伸浩(星稜女子短期大学):自然情報を主体とした油流出事故用沿岸域脆弱性マ
ップの問題点について, 日本写真測量学会平成16年度年次学術講演会発表論文集, pp.103-106,
2004.6.17
6.
矢﨑真澄(科学技術振興機構,立正大学・PD)・後藤真太郎(立正大学)・濱田誠一(北海
道立地質研究所)・沢野伸浩(星稜女子短期大学)・佐尾邦久(㈱海洋工学研究所)・佐尾
和子(㈱海洋工学研究所):油流出災害におけるハザードマップとその問題点, 第23回日本
自然災害学会学術講演会講演概要集, pp.157-158, 2004.9.13
7.
後藤真太郎(立正大学地球環境科学部)・沢野伸浩(星稜女子短期大学):ナホトカ重油流
出事故を教訓とした広域災害情報管理に関する研究, 第23回日本自然災害学会学術講演会講
演概要集, pp.197-198, 2004.9.14
8.
矢﨑真澄(科学技術振興機構・研究補助員,立正大学・PD)・後藤真太郎(立正大学)・濱
田誠一(北海道立地質研究所)・沢野伸浩(星稜女子短期大学)・佐尾邦久(㈱海洋工学研
究所)・佐尾和子(㈱海洋工学研究所):漁場情報を加えた油流出事故用沿岸域環境脆弱性
指標地図に関する研究, 2004年秋季学術大会日本地理学会発表要旨集, No66, p.72, 2004.9.25
9.
青田昌秋(オホーツク流氷科学センター・北海道大学,名誉教授):油流出事故と北海道-
村上先生の意志を継いで-, 紋別シンポジウム「油流出から北海道をまもれるか?」,
2004.10.9
10. 佐尾和子(㈱海洋工学研究所):ナホトカ号事故の教訓と提言, 紋別シンポジウム「油流出
から北海道をまもれるか?」, 2004.10.9
11. 沢野伸浩(星稜女子短期大学):日本の防除体制の問題点, 紋別シンポジウム「油流出から
北海道をまもれるか?」, 2004.10.9
-76-
【180401】
12. 濱田誠一(北海道立地質研究所):ESI地図の作成と活用, 紋別シンポジウム「油流出から北
海道をまもれるか?」, 2004.10.9
13. 小島誠一郎(特定非営利活動法人東京いのちのポータルサイト):NPOの役割と行政との協
働, 紋別シンポジウム「油流出から北海道をまもれるか?」, 2004.10.9
14. 佐尾邦久(㈱海洋工学研究所):JSTプロジェクトの目指すもの, 紋別シンポジウム「油流出
から北海道をまもれるか?」, 2004.10.9
15. 矢﨑真澄(科学技術振興機構・研究補助員,立正大学・PD):油防除体制の国際比較, 紋別
シンポジウム「油流出から北海道をまもれるか?」, 2004.10.9
16. 浦野晃司(北海道庁)・濱田誠一(北海道立地質研究所):北海道における流出油事故災害
対策~韓国貨物船マリンオオサカ号事故(2004.11.13発生)における流出油対策~など, 第20回
北方圏国際シンポジウム【フォーラム:油汚染について】, 2005.2.22
17. 沢野伸浩(星稜女子短期大学):油汚染防除体制:日韓米の比較, 第20回北方圏国際シンポ
ジウム【フォーラム:油汚染について】, 2005.2.22
18. 後藤真太郎(立正大学)・矢﨑真澄(科学技術振興機構・研究補助員,立正大学・PD):油
流出事故における市民と行政の協働事例, 第20回北方圏国際シンポジウム【フォーラム:油
汚染について】, 2005.2.22
19. 矢﨑真澄(科学技術振興機構・研究補助員,立正大学・PD)・後藤真太郎(立正大学)・濱
田誠一(北海道立地質研究所)・沢野伸浩(星稜女子短期大学)・佐尾邦久(㈱海洋工学研
究所)・佐尾和子(㈱海洋工学研究所):社会情報を考慮した油流出事故用沿岸域脆弱性マ
ップの利用に関する研究, 第2回社会技術研究シンポジウム, 2005.3.3
20. 矢﨑真澄(科学技術振興機構・研究補助員)・後藤真太郎(立正大学)・濱田誠一(北海道
立地質研究所)・沢野伸浩(星稜女子短期大学)・佐尾邦久(㈱海洋工学研究所)・佐尾和
子(㈱海洋工学研究所):想定油流出事故をベースにした自然情報と漁場情報による環境脆
弱性評価に関する研究, 日本写真測量学会平成17年度年次学術講演会発表論文集, pp.207-210,
2005.6.24
21. 佐尾和子(㈱海洋工学研究所)・佐尾邦久(㈱海洋工学研究所)・沢野伸浩(星稜女子短期
大学)・濱田誠一(北海道立地質研究所)・後藤真太郎(立正大学)・矢﨑真澄(科学技術
振興機構・研究補助員):ナホトカの教訓を生かした油汚染対策を, 日本沿岸域学会研究討
論会2005講演概要集, No.18, pp.26-29, 2005.7.8
22. 濱田誠一(北海道立地質研究所)・後藤真太郎(立正大学)・佐尾和子(㈱海洋工学研究所)・
佐尾邦久(㈱海洋工学研究所)・沢野伸浩(星稜女子短期大学)・矢﨑真澄(科学技術振興
機構・研究補助員):ナホトカ号事故と北海道海岸環境情報図について, 日本沿岸域学会研
究討論会2005講演概要集, No.18, pp.30-31, 2005.7.8
23. 矢﨑真澄(科学技術振興機構・研究補助員)・後藤真太郎(立正大学)・濱田誠一(北海道
立地質研究所)・沢野伸浩(星稜女子短期大学)・佐尾邦久・佐尾和子(㈱海洋工学研究所):
ナホトカ号事故を教訓とした北海道網走市沿岸の漁業被害想定, 日本沿岸域学会研究討論会
2005講演概要集, No.18, pp.32-35, 2005.7.8
24. 後藤真太郎(立正大学)・矢﨑真澄(科学技術振興機構・研究補助員)・沢野伸浩(星稜女
子短期大学)・佐尾邦久(㈱海洋工学研究所)・佐尾和子(㈱海洋工学研究所)・濱田誠一
-77-
【180401】
(北海道立地質研究所):行政と市民の協働による油流出事故対策に関する研究, (社)環
境科学会2005年会, pp98-99, 2005.9.8
25. 後藤真太郎(立正大学)・矢﨑真澄(科学技術振興機構・研究補助員)・濱田誠一(北海道
立地質研究所)・沢野伸浩(星稜女子短期大学)・佐尾邦久(㈱海洋工学研究所)・佐尾和
子(㈱海洋工学研究所):サハリン沖の油流出事故を想定したオホーツク沿岸都市における
漁業被害推定-ナホトカ重油流出事故の教訓から-, 環境経済・政策学会2005年大会(CD-ROM),
pp.222-223, 2005.10.9
26. 沢野伸浩(星稜女子短期大学)・干川剛史(大妻女子大学)・小島誠一郎(東京いのちのポ
ータルサイト):『電子国土』による旧山古志村支援サイトの構築, 日本災害情報学会第7
回研究発表大会論文集, pp.121-126, 2005.10.28
27. 兪
礼姫(星稜女子短期大学)・沢野伸浩(星稜女子短期大学):日本の排出油防除計画と
韓 国地域緊急 時計画の相 違, 日 本災 害情報学会 第7 回研究 発表大会予 稿集 , pp.285-292,
2005.10.29
28. 矢﨑真澄(科学技術振興機構・研究補助員)・後藤真太郎(立正大学)・沢野伸浩(星稜女
子短期大学)・佐尾邦久(㈱海洋工学研究所)・佐尾和子(㈱海洋工学研究所)・濱田誠一
(北海道立地質研究所):北海道網走市の漁業被害想定額の算定に関する研究-ナホトカ号
重油事故の漁業被害額推定方法に基づいて-, 2005年地域安全学会梗概集, No.17, pp.11-14,
2005.11.11
29. 後藤真太郎(立正大学):北海道網走市流出油防除計画立案研究会の紹介, 第21回北方圏国
際シンポジウムワークショップ:「油汚染」, 2006.2.21
30. 沢野伸浩(星稜女子短期大学):市民参加の油防除対策に向けて-環境脆弱性指標地図を用
いた図上訓練の紹介, 第21回北方圏国際シンポジウムワークショップ:「油汚染」, 2006.2.21
31. 矢﨑真澄(科学技術振興機構・研究補助員,立正大学・非)・後藤真太郎(立正大学)・沢
野伸浩(星稜女子短期大学)・佐尾邦久(㈱海洋工学研究所)・佐尾和子(㈱海洋工学研究
所)・濱田誠一(北海道立地質研究所):ナホトカ号重油流出事故にみる観光被害の損害補
償請求に関する研究, 2006年春季学術大会日本地理学会発表要旨集, No.69, p.160, 2006.3.28
32. 濱田誠一(北海道立地質研究所):油流出事故対応への地形学的調査-礫形状と油の自然残
留特性について, 日本地形学連合, 2006.3.31
33. 後藤真太郎(立正大)・矢﨑真澄(科学技術振興機構・研究補助員)・沢野伸浩(星稜女子短大)・
佐尾邦久(㈱海洋工学研究所)・佐尾和子(㈱海洋工学研究所)・濱田誠一(北海道立地質研究所):
オホーツク沿岸都市における市民と行政の協働による油流出時の地域防災計画策定に関する
研究, 平成18年度地域安全学会研究会 2006年地域安全学会集, No.18, pp.33-36, 2006.5.19
34. 濱田誠一(北海道立地質研究所):海岸の礫形態と漂着油の自然残留特性, 合同学会, 2006.5
発表予定
〈海外〉
1.
Nobuhiro Sawano(Seiryo Women's Junior College):What are the lessons of Nakhodka?, The 4th
APEC Roundtable Meeting on Involvement of the Business/ Private Sector in Sustainability of
the Marine Environment, Taipei, TAIWAN, 2003.12.15
-78-
【180401】
2.
Shintaro Goto(Rissho University), S.M. Varlamov(Kyusyu University), Daisuke Miyata(Rissho
University), Hai-Sheng Fan(BasicEngineering Co., Ltd.) and Sakai Toshikazu(Rissho
University):Geo-informatics approach for oil-spill accident, International Symposium on
Monitoring, Prediction and Mitigation of Disasters by Satellite Remote Sensing, Awaji
Yumebutai international Conference Center, pp.163-171, 2004.1.20
3.
Nobuhiro SAWANO(Seiryo Women's Junior College), Kunihisa SAO(Ocean Engineering
Research, Inc.), Kazuko SAO(Ocean Engineering Research, Inc.), Shintaro GOTO(Rissho
University)
and
Masumi
YAZAKI(Japan
Science
and
Technology
Agency,
Rissho
University):Sakhalin's Oil: Outline of World Biggest Energy Developing Projects, The 5th
APEC Roundtable Meeting on the Involvement of the Business/ Private Sector in the
Sustainability of Marine Environment, Kaoshing Taiwan, pp.1-16, 2004.11.4
4.
Nobuhiro Sawano(Seiryo Women's Junior College):Sakhalin Islands Oil Drill Rig Development,
2005 Asia-Pacific on Marine Pollution Prevention and Control, Kaoshiung, Taiwan. (3).6-1,
2005.10.4
5.
Nobuhiro Sawano(Seiryo Women's Junior College):Long-term Shoreline Monitoring after
Nakhodka Oil Spill and Efforts for Involving Local Stakeholders, The 6th APEC Roundtable
meeting on the Involvement of the Business/ Private Sector in Sustainability of the Marine
Environment, Penhu, Taiwan, 2005.10.7
②ポスター発表(国内
1.
3
件,海外
0
件)
矢﨑真澄(立正大学・科学技術振興機構)・後藤真太郎(立正大学)・佐尾邦久(㈱海洋工学
研究所)・佐尾和子(㈱海洋工学研究所) ・沢野伸浩(星稜女子短期大学) ・濱田誠一(北海
道立地質研究所):油流出事故の危機管理システムに関する研究, 30th全科展in東京2004
科学技術総合展SIS Japan(Scientific Instruments Show in Tokyo 2004), 2004.12.1-3
2.
後藤真太郎(立正大)・矢﨑真澄(科学技術振興機構・研究補助員)・濱田誠一(北海道立地
質研究所)・沢野伸浩(星稜女子短大)・佐尾邦久(㈱海洋工学研究所)・佐尾和子(㈱海洋工
学研究所):北海道網走市沿岸における油流出事故用ハザードマップの試作, 2005年度第
60回立正地理学会研究発表大会, 2005.6.4
3.
矢﨑真澄(立正大学・科学技術振興機構)・後藤真太郎(立正大学)・佐尾邦久(㈱海洋工学
研究所)・佐尾和子(㈱海洋工学研究所) ・沢野伸浩(星稜女子短期大学) ・濱田誠一(北海
道立地質研究所):油流出事故の危機管理システムに関する研究, 2005年度全国測量技術
大会, 2005.6.24
③プレス発表
なし
-79-
【180401】
(3)特許出願(国内
0
件,海外
0
件)
①国内
②海外
-80-
【180401】
(4)新聞報道等
①新聞報道(新聞
21
件,テレビ
3
件)
〈新聞〉
1. 掲 載
掲 載
標
取材内
紙:朝日新聞
日:平成 16 年 5 月 24 日
題:ナホトカ事故 油交じり廃砂 7 年放置 石川 5500 トン,産廃置き場に
容:1997 年のナホトカ号事故により発生した重油含砂(漂着重油を含んだ海岸砂)
を加賀市内の産業廃棄物処分処理場へ搬入・処理したが,その業者が違法行為
により業務停止処分となりその後,倒産した。現在,その処置をめぐり問題が
表面化し,その対策についての取材。また,当時の行政の対処についての問題
も指摘。
取材申込者:朝日新聞社 大出記者
対 応 者:沢野伸浩(星稜女子短期大学)
取材年月日:平成 16 年 5 月 24 日
2.
掲 載 紙:北海民友新聞
掲 載 日:平成 16 年 9 月 26 日
標
題:油流出事故から北海道をまもれるか 10 月 9 日国内専門家が紋別でシンポジュ
ウム サハリンの大規模石油開発を視野に・ナホトカ号事故の教訓生かせ 万
が一に備える心がけ必要・プロジェクト X の長谷川氏ら 油防除体制の問題点
など浮き彫りに
取 材 内 容:平成 16 年 10 月 9 日に紋別で予定されているシンポジュウム「油汚染から北海
道をまもれるのか?」の開催主旨,内容等に関するもの
取材申込者:北海民友新聞社 小野 哲 氏
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 16 年 9 月 17 日
3.
掲 載
掲 載
標
取材内
4.
掲 載
掲 載
標
取材内
5.
掲 載 紙:北海民友新聞
掲 載 日:平成 16 年 10 月 12 日
標
題:ナホトカ号事故を教訓に 油流出事故対策シンポジウム 事例報告や検討に熱気
紙:北海民友新聞
日:平成 16 年 10 月 7 日
題:油流出から地球を守ろう 9 日シンポジュウム体験者の生々しい事例も
容:平成 16 年 10 月 9 日に紋別で予定されているシンポジュウム「油汚染から北海
道をまもれるのか?」の開催主旨,内容等に関するもの
取材申込者:北海民友新聞社 小野 哲 氏
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 16 年 9 月 17 日
紙:朝日新聞 北海道版
日:平成 16 年 10 月 8 日
題:油流出事故の対策・課題探る -あす紋別でシンポ容:平成 16 年 10 月 9 日に紋別で予定されているシンポジュウム「油汚染から北海
道をまもれるのか?」の開催主旨,内容等に関するもの
取材申込者:朝日新聞 北海道支社 武山忍 氏
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 16 年 10 月 1 日
-81-
【180401】
取 材 内 容:平成 16 年 10 月 9 日に紋別で開催されたシンポジウム「油汚染から北海道をま
もれるのか?」での発表の取材
取材申込者:北海民友新聞社
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 16 年 10 月 9 日
6.
掲 載 紙:北海民友新聞
掲 載 日:平成 17 年 2 月 20 日
標
題:サハリン石油開発でタンカーラッシュ 「油汚染」の機器をアピール 「対策
市民研究会」の発足準備へ
取 材 内 容:2 月 20 日から開催される第 20 回「北方圏国際シンポジウム」の中で開く「油
汚染」
(担当:後藤真太郎)についての事前取材。また,フォーラムの際に発足
準備会の立ち上げを予定している「対策市民研究会」についての取材
取材申込者:北海民友新聞社
対応者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 17 年 2 月 18 日
7.
掲 載
掲 載
標
取材内
8.
掲 載
掲 載
標
取材内
紙:北海民友新聞
日:平成 17 年 7 月 9 日
題:「オホーツクの環境を守るネット」油汚染への民間対応組織,9 月発足へ
容:平成 16 年度,紋別にて開催したシンポジウム,および「北海道網走流出油防除
計画案研究会」の内容を受け,地元の市民団体が「オホーツクの環境を守るネ
ット」の設立を発表するに至った。当研究グループは,支援体制をとっている。
取材申込者:北海民友新聞社 小野 哲 氏
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 17 年 7 月 8 日
9.
掲 載
掲 載
標
取材内
紙:北國新聞
日:平成 17 年 7 月 8 日
題:「油流出で 9 対策本部 指揮系統存在せず 誰が命令?誰が責任者?」
容:1995 年に発生したシープリス号事故後の韓国の対応,1997 年に日本で発生した
ナホトカ号事故およびその後の対応と韓国の対応との違い,両国の事故後の事
故に対する体制構築の違い,現時点における韓国の防災体制と法体系,日本の
現状の体制の主たる問題点,サハリン油開発プロジェクトの概要と現状の問題
点,その他関連事項
取材申込者:北國新聞社 編集局社会部 松本和也 記者
対応者:沢野伸浩(星稜女子短期大学)
取材年月日:平成 17 年 7 月 5 日
紙:読売新聞
日:平成 17 年 7 月 22 日
題:ナホトカ号事故から 8 年 重油,一部海岸に今も
容:ナホトカ号事故から8年後の環境影響の状況に関する影響調査とその結果を中
心とする取材を受けた。特に能登半島の遮蔽性の礫浜,4カ所の海岸線には地
表下残留を含む強度な汚染が未だに残されており,その理由として,1)地元
の対応の不徹底,2)長期的な戦略を欠いた回収活動,3)国・地方自治体レ
ベルでの防除体制の未整備等の要因があげられることを解説した。また,現在
実施している環境調査の実施地点,手法,手順等についても取材を受け,今後
の調査実施計画を解説した。
取材申込者:読売新聞 金沢支局 原 隆也 氏
対 応 者:沢野伸浩(星稜女子短期大学)
取材年月日:平成 17 年 7 月 12 日
-82-
【180401】
10. 掲 載 紙:朝日新聞
掲 載 日:平成 17 年 7 月 23 日
標
題:「尾鷲沖で衝突・炎上のタンカー旭洋丸が沈没」
取 材 内 容:尾鷲沖で発生したタンカーの衝突・炎上沈没事故による環境被害について
取材申込者:朝日新聞 星野 記者
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 17 年 7 月 22 日
11. 掲 載
掲 載
標
取材内
紙:オホーツク新聞
日:平成 17 年 11 月 28 日
題:「環境汚染対策へ地域ネット」管内市民らが設立
容:オホーツク海と沿岸地域の環境保全を目的とする市民組織「オホーツクの環境
を守るネット」
(OEPN)の設立総会が開かれた。油田地域以外で事故前に組織が
設立されるのは国内では初めてになる。パネルディスカッションではサハリン
プロジェクトによる開発の現状について最新の研究成果を発表した。研究グル
ープは,支援体制をとっている。
取材申込者:オホーツク新聞社
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 17 年 11 月 27 日
12. 掲 載 紙:北海民友新聞
掲 載 日:平成 17 年 11 月 29 日
標
題:「油事故後」も想定して活動
オホーツクの環境を守るネット 紋別で設立,拡大めざす
取 材 内 容:オホーツク海と沿岸地域の環境保全を目的とする市民組織「オホーツクの環境
を守るネット」
(OEPN)の設立総会が開かれた。油田地域以外で事故前に組織が
設立されるのは国内では初めてになる。パネルディスカッションではサハリン
プロジェクトによる開発の現状について最新の研究成果を発表した。当研究グ
ループは,支援体制をとっている。
取材申込者:北海民友新聞社 小野 哲 氏
対応者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 17 年 11 月 27 日
13. 掲 載 紙:オホーツク新聞
掲 載 日:平成 18 年 1 月 1 日
標
題:とーくらいぶ 52 新春特集
サハリン沖石油天然開発『オホーツク海の油汚染は待ってくれない』
住民の開かれたシステムで最善の環境保全を提言
「オホーツクの環境を守る地域ネット」設立シンポから(略称 OEPN)
取 材 内 容:オホーツク海と沿岸地域の環境保全を目的とする市民組織「オホーツクの環境
を守るネット」
(OEPN)の設立総会が開かれた。油田地域以外で事故前に組織が
設立されるのは国内では初めてになる。パネルディスカッションではサハリン
プロジェクトによる開発の現状について最新の研究成果を発表した。当研究グ
ループは,支援体制をとっている。
取材申込者:オホーツク新聞社 長田純一 氏
取材年月日:平成 17 年 11 月 27 日
14. 掲 載
掲 載
標
取材内
紙:オホーツク新聞
日:平成 18 年 2 月 23 日
題:「オホーツク海は我々の希望」油汚染ワークショップ
容:北方圏国際シンポジウムでの油汚染関連セッション 「オホーツクを油汚染か
-83-
【180401】
ら守る対応」での発表内容の取材
取材申込者:オホーツク新聞社
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部), 沢野伸浩(星稜女子短期大学)
取材年月日:平成 18 年 2 月 21 日
15. 掲 載
掲 載
標
取材内
紙:北海民友新聞
日:平成 18 年 2 月 23 日
題:「オホーツク海を守る」環境を守る地域ネット 独自の研究・提言も検討
容:北方圏国際シンポジウムでの油汚染関連セッション,
「オホーツクを油汚染から
守る対応」での発表内容の取材
取材申込者:北海民友新聞
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 18 年 2 月 21 日
16. 掲 載
掲 載
標
取材内
紙:毎日新聞
日:平成 18 年 5 月 1 日
題:「海洋汚染 深まる謎 航行,発生・・・情報共有を
容:・沿岸海洋汚染防除足し栄に関するロシアの取り組みの現状と問題
・国際的な防除体制構築の枠組み
・タンカー航行モニタリングシステム配備の世界的な現状
・知床半島域に今後漂着が起こる可能性
・サハリン沖で今後石油
・天然ガス開発を推進する上での環境保全上の課題
・その他関連事項
取材申込者:毎日新聞 田中泰義 氏
対 応 者:沢野伸浩(星稜女子短期大学)
取材年月日:平成 18 年 4 月 25,26,27 日
17. 掲 載
掲 載
標
取材内
紙:産経新聞
日:平成 18 年 5 月 30 日
題:知床の海鳥大量死直前サハリン沖に「油」
容:・知床半島に漂着した海鳥に付着した C 重油の汚染源の人工衛星データの評価
について
・日本の油防除体勢について
取材申込者:産経新聞 小川 記者
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 18 年 5 月 22 日
18. 掲 載
掲 載
標
取材内
紙:北海道新聞
日:平成 18 年 5 月 30 日
題:サハリン沖に油?衛星画像に黒い影
容:・知床半島に漂着した海鳥に付着した C 重油の汚染源の人工衛星データの評価
について
・日本の油防除体勢について
取材申込者:北海道新聞社
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 18 年 5 月 30 日
19. 掲 載
掲 載
標
取材内
紙:毎日新聞
日:平成 18 年 7 月 1 日
題:「油流出,必ず起こる」 サハリン周辺事故にらみ対策会議
容:平成 18 年 6 月 30 日に実施された会場祭儀防止センターが主催する「油流出専
-84-
【180401】
門家会合」について,この会議の意義,想定されるアウトプットなどについて
の質問を受けた。この会議が設置されるまでのおおまかな敬意について説明す
るとともに,防除義務責任者(想定汚染原因者)を含めた会議の意義について
解説した。
取材申込者:毎日新聞 田中泰義 氏
対 応 者:沢野伸浩(星稜女子短期大学)
取材年月日:平成 18 年 6 月 30 日
20. 掲 載
掲 載
標
取材内
紙:北海道新聞
日:平成 18 年 7 月 9 日
題:オホーツク海の環境は 東農大で公開講座 研究者が現状報告
容:東京農業大学(北海道)の公開講座にて,
「サハリンの油田問題とオホーツク海の
汚染防止」の代でサハリンプロジェクトの課題や問題点について講演した。
取材申込者:北海道新聞社 川浪伸介 氏
対 応 者:沢野伸浩(星稜女子短期大学)
取材年月日:平成 18 年 7 月 8 日
21. 掲 載 紙:「生活と自治」2006 年 8 月号
掲 載 日:平成 18 年 8 月 1 日号
標
題:海の油汚染 海鳥の死は,最後の警鐘
取 材 内 容:海鳥大量漂着事故と日本の油防除体制について
取材申込者:生活クラブ事業連合生活協同組合連合会 高橋弘子
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 18 年 6 月 21 日
記者
〈テレビ〉
1. 番 組
放 送
標
取材内
名:NHK 紋別(夕刻ニュースで北海道にて放映)
日:平成 17 年 11 月 27 日
題:-
容:オホーツク海と沿岸地域の環境保全を目的とする市民組織「オホーツクの環境
を守るネット」
(OEPN)の設立総会が開かれた。油田地域以外で事故前に組織が
設立されるのは国内では初めてになる。パネルディスカッションではサハリン
プロジェクトによる開発の現状について最新の研究成果を発表した。当研究グ
ループは,支援体制をとっている。
取材申込者:NHK 紋別 中西 氏
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 17 年 11 月 27 日
2.
番 組
放 送
標
取材内
名:北海道テレビ HTB のイチオシ!
日:平成 18 年 2 月 28 日 6 時 20 分頃
題:「北方圏国際シンポジウム」
容:北方圏国際シンポジウムでの油汚染関連セッション
「オホーツクを油汚染から守る対応」での発表内容の取材
取材申込者:北海テレビ放送株式会社 菅原裕和 氏
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部),沢野伸浩(星稜女子短期大学)
取材年月日:平成 18 年 2 月 21 日
3. 番 組
放 送
標
取材内
名:「テレメンタリー2006」テレビ朝日系全国ネット
日:平成 18 年 5 月 29 日 26 時 40 分から(東京圏)
題:「追跡!海鳥大量死」-知床に漂着した黒いメッセージ-
容:・知床半島に漂着した海鳥に付着した C 重油の汚染源の人工衛星データの評価
-85-
【180401】
について
・日本の油防除体勢について
取材申込者:北海道テレビ放送 菅野 健 氏
対 応 者:後藤真太郎(立正大学 地球環境科学部)
取材年月日:平成 18 年 5 月 11 日
②受賞
なし
③その他
出版物(国内
1
件,海外
2
件)
〈国内〉
1. 沢野伸浩: 忘れてはならないこと, 讀賣新聞(全国版)文化, 2005
〈海外〉
1.
Nobuhiro Sawano: Marine Pollution in the Sea of Japan, The State of the Environment in 2005/2006,
Japan Environmental Council(ed), springer, 2005, pp.117-121, 2005
2.
Nobuhiro Sawano: Chapter 9: Other matters with oil spill, Asian-Pacific Coasts and Their
Managements: States of the Environment, Springer, 2006出版予定
-86-
【180401】
(5)その他特記事項
〈委託開発〉
1. 翻訳
「Field Guide for Oil Spill Response in Arctic Waters」
委託先
有限会社
ラピュータ
作業期間
2006年2月1日-3月31日
納品場所
立正大学
後藤研究室
2. 翻訳
「NOWPAP Region al Oil Spill Contingency Plan & Memorandum of Understanding」
NPO法人
委託先
納品場所
河北潟湖沼研究所
星稜女子短期大学
沢野研究室
3. データ整理業務
「流出油防除資機材の保有状況データの整理」
保安庁・自治体・石油連盟・防災業者などの流出油防除資機材保有状況データの収集,デー
タのまとめ,網走地区への適用整理
委託先
納品場所
株式会社
ファゾム
㈱海洋工学研究所
〈翻訳〉
2003年度
『「サハリン-1」プロジェクト第1段階
環境への影響評価』(訳)
『海洋汚染の準備・対応に関する国家防除基本計画』(訳)
『蔚山地域の排出油防除実行計画』(訳)
2004年度
『NOWPAP Regional Oil Spill Contingency Plan & Memorandum of Understanding(北西太平洋行動
計画地域緊急時計画)』(訳)
『海洋汚染防止法』[韓国の法令](訳)
『災難管理法』[韓国の法令](訳)
『自然災害対策法』[韓国の法令](訳)
2005年度
『海洋汚染防除ハンドブック』(訳)
2006年度
『FIELD GUIDE FOR OIL SPILL RESPONSE IN ARCTIC WATERS』(訳)
『海洋科学叢書3海洋汚染と地球環境』(訳)
分散剤使用のフローチャート(訳)
-87-
【180401】
8.結び
1) 研究の目標等から見た達成度,得られた成果の意義等の自己評価(実施にあたっての反省点・
問題点等も含む)
油流出事故に対する問題点については、ナホトカ号事故の教訓、先進事例調査の結果を踏まえ、
理想像を描き、網走市においてその実装のための北海道網走市流出油防除計画立案研究会を組織
し検討ができた点では 100%の達成度であると評価する。この研究会がきっかけとなり、油流出事
故に対応できる市民協議会に相当するものとしてオホーツクの環境を守る地域ネットが設立され、
また、本研究会の内容が、北海道庁とオホーツク沿岸都市全体を対象とし、政府機関を含むほと
んどの関係機関によって構成される流出油対応専門家会合で、北海道北岸における流出油事故へ
の準備及び対応に関する地域緊急時計画としてオホーツク沿岸都市全体の議論に結びついている
事は、プロジェクト期間内において波及効果があるものと考えられる。
また、プロジェクト推進期間内でも数件の油流出事故や付随する事故が発生した。その度に、
本プロジェクト関係者が意見を求められたりしたことは、本プロジェクトの社会的な認知度を示
す指標となると考える。
さらに、ナホトカ号事故後、油流出事故対策に関する多くのプロジェクトが発生したが、個々
のフィールドや現象に留められ、研究成果も分散してしまっている。一方、エクソン・バルディ
ーズ号事故については、事故発生後 20 年近く経ようとしているが、研究成果は今もなお更新され
ている。本研究は、これまでの行われてきた油流出事故に関する研究で、組織に横断的にまたが
るが故、行政機関では予算化されない事象を取り上げ、今後の研究者に残すべき資料を提供でき
たと自負している。本研究に係わった研究者の多くは、ナホトカ号事故時に、エクソン・バルデ
ィーズ号事故後に公表された報告書等の原文を読んで知見を得て、事故対策の後方支援を行って
来た経験を持っている。今後同様な事故が発生した際には、本研究で得られた成果が適用できる
ものと信じている。
本研究では、主に油流出事故における自己変革可能な社会システムの提案について議論してき
た。その汎用化については十分な議論ができなかったが、この種の問題は、
①ステークホルダーが対等である
②領域が横断的である
③プロジェクトが限定的
④透明で開かれた協働作業
を可能とする組織をいかに構築するかかキーワードであるので今後の検討に委ねざるを得ないと
考える。
-88-
【180401】
2) 今後の研究の展開
本研究会の内容は、既に、北海道庁とオホーツク沿岸都市全体を対象とし、政府機関を含むほ
とんどの関係機関によって構成される流出油対応専門家会合で、北海道北岸における流出油事故
への準備及び対応に関する地域緊急時計画としてオホーツク沿岸都市全体の議論に展開しており、
本研究のメンバーも主体的に参加しており、より広域的な議論への展開が考えられる。
また、国外との関係については、国内の油防除体制が所掌官庁の範囲で寸断されていたが故に
全体像の把握を困難にしていた内容は本研究の成果で横断的に整理した。NOWPAP 等で国境を越
えた油防除事故対応に関する議論の際には、本研究で得られた成果および人的ネットワークは国
外プロジェクトへも適用可能であり、今後の研究および政策立案への波及も考えられる。
さらに、ナホトカ号事故後、行われてきた油流出事故に関する研究で、組織に横断的にまたが
るが故、行政機関では予算化されない事象を取り上げ、今後の研究者に残すべき資料を提供でき
たと自負している。本研究に係わった研究者の多くは、ナホトカ号事故時に、エクソン・バルデ
ィーズ号事故後に公表された報告書等の原文を読んで知見を得て、事故対策の後方支援を行って
来た経験を持っている。今後同様な事故が発生した際には、本研究で得られた成果が適用できる。
油流出事故や災害時には、自己変革可能な社会システムを強制的に作る必要がある。これらに
ついては、共同知が蓄積でき、緊急時に使用できるしくみが重要である。また、公共圏の問題に
ついては、サイレントマジョリティーの問題がある。これらについては、個々に訓練メニューを
作るとか、かつて講を使って地域のコミュニティーを存続させ、現在もなお続いている事例等を
分析し、場所に対する愛着を促進させる地域のしくみづくりが必要であると考えている。最近で
は、政策による祭りの復権等がその事例であると考えるが、ステークホルダーのモチベーション
の向上の問題については今後の課題である。
3) 研究代表者としてのプロジェクト運営について(チーム全体の研究遂行,研究費の使い方,若
手研究者の育成等)
本研究は、これまでに行われてきた油流出事故に関する研究で、組織に横断的にまたがるが故、
行政機関では予算化されない事象を取り上げ、網走市においてその実装のための北海道網走市流
出油防除計画立案研究会を組織し検討ができたのは、本研究で委員の出張旅費等の扱いが可能で
あったことに拠る。また、プロジェクトの推進において、大学内では研究目的のスタッフや若手
研究者が雇用できない場合が多く、雇用するには内部的なコンセンサスを得る必要があるが、こ
の問題に対して、JST 雇用スタッフを派遣していただいた事は内部的な研究者の長期雇用の問題
をクリヤした。これにより、研究推進過程で、若手研究者に対し、研究内容を社会に実装する事
を実勢的に示すことができた事は感謝したい。
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【180401】
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