...

第Ⅲ部 質疑応答とまとめ

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

第Ⅲ部 質疑応答とまとめ
第Ⅲ部
質疑応答とまとめ
【司会】
それでは、第3部に移らせていただきます。
第3部は質疑応答の時間でございます。先ほどいただきました質問票等を反映させた形
でのセッションとさせていただきます。
本日ご発表いただいた先生方に再度、ご登壇いただいております。こちらのほうの進行
を渡辺先生のほうにお願いしたいと思います。
それでは、よろしくお願いいたします。
【渡辺】
それでは皆様、大変長いお時間お座りいただきました。お疲れかと思います
が、あと30分でございます。もう少しご辛抱いただければと思います。
実は、皆様方から大変多くの質問をいただきました。残念なことに、持ち時間はもう3
0分を切っております。そこで、できるだけ多くの質問にお答えしたいと思いますが、全
部にお答えできない場合もあると思います。ただ、私どもといたしましては、皆様方から
の質問こそが、まさに公開講座を開いた大きな理由でもございますので、その重要性とい
うものは痛感しております。そこで、私のほうから提案でございます。きょうお答えでき
なかった方々に対しましては深くおわびを申し上げますとともに、きょういただきました
質問はすべて、このセミナーの報告書に載せさせていただきたいと思います。そして、私
ども研究者といたしましては、それを十二分によく読ませていただき、今後の私どもの研
究に役立てさせていただきたいと思います。そういうことで、ひとつご容赦をいただけれ
ばと思います。よろしくお願いいたします。
それでは、いくつか質問がきているわけですが、先生方にひとつ質問をお答えいただき
たいと思います。
まず第1番目は、永竹先生です。石田さん、読んでみてください。
【石田】
永竹由幸先生へのご質問です。イタリアにおけるミラノ、ボローニャなどの
大劇場以外の中小都市のオペラの上演の状況について、概説していただけませんでしょう
かということです。
【永竹】
イタリアの劇場のシステムは、非常にもうきちっと国家的にできてまして、
まず今は私企業化されていますけれども、これまでエンテと言われていた12のオペラハ
ウスと1つのオーケストラ、これはオーケストラはサンタチェチェーリアですけど、この
12が1年間シーズンを持っております。この1年間シーズンで、劇場に勤めている人は
全部、1年間契約というか、給料で年間契約というか、ほとんど5年間契約、10年間契
約というふうにして、みんな長い契約を持って、1年間、劇場にフィックスしている人た
-67-
ちがいます。これが12劇場あります。上からいっていきますと、先ほど言われたような
ミラノ、それからトリノ、ジェノヴァ、ボローニャ、ヴェネツィア、トリエステ、フィレ
ンツェ、ローマ、ナポリ、パレルモ、カリアリ、ヴェローナ、これで12です。これが1
年間契約の劇場です。
このあとにテアトロトラデチオナーレ(伝統的劇場)というのがあります。このテアト
ロトラデチオナーレというのは、私の知っている限りで、今42ぐらいありましたかね。
42から、ちょっと増えているかもしれませんけど。その前にエンテとテアトロトラデチ
オナーレの中間的な劇場があります。これが、エンテ法に入っていなかったんですけども、
エンテというのは、だからどちらかというと国立劇場ですね。国立劇場で、ほとんど予算
が国から大体、80%から90%、八十何%、国から予算が出ていて、あとは市と州です
か、と県でもっている、こういうところがエンテなんですけど、その以外のところが、今
度はちょっと全部は言い切れませんけども、パルマとか、それからレッジョエミーリア、
フェラーラ、マントヴァとかコモとか、こういう劇場が大体2カ月ぐらい、イタリアでは
2カ月から3カ月、シーズンを持ちます。予算は、ここもやはり国から60∼70%出て
いまして、あとは市の予算と県と州の予算です。
先ほどご質問のあった中小劇場というのは、その四十いくつ。これが大体、ほぼ州別に
分かれてグループをつくっております。例えばロンバルディアの地区ですと、スカラ座は
スカラ座で孤立しているわけですね。ここはあんまりほかの劇場のところに演奏に行った
り、交換したり、プロダクション交換したりということはしません。というのは、スカラ
座と例えばマントヴァとかコモとかいうところとのレベルは、もうこんなに違いますから。
ですから、ここはそういう州の関係の劇場とスカラ座なんかは、あまりコンタクトがない
わけです。コンタクトないわけじゃないんですけど、レベルが違うんです。
その州別に、ロンバルディアですと、コモ、マントヴァ、クレモナ、ベルガモ、ブレッ
シャ、大体ここら辺の5つぐらいの劇場、これが一つの州になっています。エミーリア地
方ですと、ピアチェンツァ、パルマ、レッジョエミーリア、モデナ、フェラーラ、そこら
辺が大体、一緒にやっていますけど、ここら辺のところになると、ボローニャと、入れか
え、ときどきありますけども、でも大体、ボローニャはボローニャで確立していて、その
ほかのところで組むわけです。州別にリグーリア州はリグーリア州、ロンバルディア州は
ロンバルディア州で大体5つか6つの劇場がグループになっているのです。20の州があ
りますから、20の州が大体、大きなのが5つ6つ、それから南のほうへいくと、小さい
-68-
ところは2つ。例えば下のほうのバジリカータとかああいうところへいくと、コゼンツァ
とかそういうのは劇場が1つしかありませんけども、そんなことで、そういう形でもって
できています。そんな形でもって、レベルによって、国別、州別、さらにもっと小さいの
もあります。そこら辺になると、もっと大体、年間1本か2本しかやりませんけども、そ
ういう劇場もあります。
これ以上、詳しくお話ししていると、時間がないので、ここら辺で。大体、そういう形
でもって、イタリアでは劇場が全国に配分されています。
【渡辺】
ありがとうございました。時間がございません。申しわけございませんが、
回答する先生方も、5分以内ということで、よろしくお願いいたしたいと思います。
では、その次は根木先生に対する質問がございます。
【石田】
根木先生に第1部の発表に関してということでいただいております。日本に
おいて、制作団体、それから箱の所有者であるホールの意思について、分析検討がなされ
ておりますが、そのほか市民オペラといったようなアマチュア集団による継続的なオペラ
上演という第3のターゲットについては、分析対象としてとらえる必要があるのか、ない
のかというようなご質問です。
【根木】
若干、舌足らずだったかとも思いますけれども、今回のアンケート調査は、
95年から発行を始めました『日本のオペラ年鑑』に載っている団体で、現在もほぼ継続
的に公演活動を行っている団体を対象にしております。したがいまして、ある程度、何回
かにわたって活動を行っておられます○○市民オペラといった団体につきましても対象に
されております。たまたま大分県県民オペラ協会さんにシンポジウムに参加していただき
ましたので、印象が強かったかもわかりませんが、そういう意味で、一応、すべてを対象
にして、その結果を数値的にあらわしたというようにご理解いただければ、ありがたいと
思います。
【渡辺】
どうもありがとうございました。ご質問された方にこれでよろしいかどうか
確認をとりません。大変申しわけございませんが、先へ進ませていただきます。
次のご質問は石田さんへの質問ですね。
【石田】
質問というか、ご意見なんですけれども、私が言及させていただきました広
島アステールプラザの活動のことです。オペラルネッサンス事業などについて、昨年と今
年、2団体が休止となる理由をホールの事業のあり方、進め方の面から申し上げたという
ことで、ホールが果たした役割を否定的に見るのはどうかと思いますというご意見です。
-69-
5団体それぞれに恩恵を受けてきたというふうに評価すべきであろうというご意見なんで
すけれども、確かに、今回、休止する理由をまさにホールの事業が団体の活動を圧迫した
からとだけ考えるのは、私もいかがかとは思います。ただ、それぞれその団体の活動が、
組織的な問題、それから経済的な問題を抱え、いろいろなことがやはり脆弱であると。そ
れがホールによるオペラ制作との対比において浮き彫りにされてしまっているのではない
か。その事例として申し上げました。また、引き続き検証を行う必要があると先ほども申
し上げております。ということで、補足とさせていただきたいと思います。
【渡辺】
それでは次の質問に移らせていただきます。中山先生に対する質問です。お
願いします。
【石田】
中山欽吾様。ご意見としていただいているんですが、これをご質問というふ
うにちょっとさせていただきます。オペラ公演のチケットの価格設定について比較的安い
値段のチケットを余裕を持って販売することは不可能でしょうかということでいただいて
いますけれども。
【中山】
非常に切実な問題でございます。ドイツあたりでは、先ほどの発表で、ソー
シャルプライスということを申し上げたんですが、ほかの娯楽と同じレベルの入場料しか
とれないということの裏返しには、それでは到底、劇場の運営はやっていけないんです。
劇場の年間コストの85%ぐらいは、地方自治体からの助成金で運営されているという実
態があるから、安いチケットが発行できるということです。
以前聞いた話ですけれども、あるドイツオペラのインタビューのときに、ある日本人が、
日本はチケットが非常に高いけど、ドイツは安い。何かからくりがあるのかという質問を
したら、あなたたちはドイツ国民の税金の援助によって、これだけ安い公演を見ることが
できるんですよと言われたという話があったんですが、ご質問をされた方に対して、どう
のこうのということでは全くありませんで、我々の現実というものをちょっとお話しさせ
ていただきたいと思います。
今、二期会の公演は普通、一番高い席で1万5,000円であります。通常の公演ですと、
一番安い席、4,000円ということで設定させていただいていますが、東京文化会館のよ
うな2,300席という大型の会場を用いることで、一番安い席をできるだけ安い価格でご
提供できないかということについては、年に1回、東京都の助成に基づく東京都民芸術フ
ェスティバルというのがございまして、そのときには一番安い席を2,000円、さらに
1,500円の学生席をつくるということが条件になっておりまして、この設定をしており
-70-
ます。
そのような状態で行いまして、ほぼ満席を達成したといたしましても、私のような事務
局長兼制作部長や、その下の制作担当者、それから広報担当者などの人件費とか活動費は
一切除いたネットの直接の制作上演費の半分を入場料収入で賄えるかどうかということで
あります。そのあとの半分は公的助成で賄えるのかというと、賄えないわけでありまして、
そこの間に非常に大きな、もう我々にとっては真っ暗やみのやみがあるということで、そ
れをどういう方法で賄うのかということで、毎回、胃が痛い思いをして、寄附をお願いし
たりしています。民間の助成も非常に貴重な、我々にとって、オペラを続けていく上での
力になっておりますが、昨今の景気の低迷で、民間の企業から賛助会員になっていただく
ご寄付というのが、右肩下がりにこの10年間下がりっぱなしでありまして、10年前と
今とでは3分の1まで減ってしまっております。私自身、オペラを見るときにもっと安く
見られないかというのは、一観客としてそう切実に思うところでありますが、現実はもう
不可能で、我々の今の値づけですら、そういう状況であるというのが実態であります。決
して満足しているわけではありませんが、それ以外に間接費が、人件費等がかかっている
という現実を考えると、これ以上安くするということは、現状の資金計画では不可能に近
いというのが、日本における我々の実態でございます。
【渡辺】
ありがとうございました。それでは、次の質問は美山先生に対する質問をお
願いします。
【石田】
はい。美山先生にお伺いします。モンゴルにおけるオペラハウスのレパート
リーを詳細に聞きたい。歌手についてもお聞きしたい。かっこ書きで、言語、字幕の有無
というふうに書いていただいております。
【美山】
私はモンゴルの言葉が全くできませんで、英語の資料をいただいてまいりま
した。今まで、現在の状況になってから、オペラとして上演されたものは、45番目の作
品がこれから上演される『ジンギス・ハーン』ですので、44作品です。それから、バレ
エに関しては41作品です。これがモンゴルのオペラ・バレエ劇場がレパートリーとして
やってきたものです。オペラに関していいますと、詳細にと言われても困るんですけど、
4割ほどがモンゴル人の作曲家の作品。残りがプッチーニ、ヴェルディ、そして、ロシア
の作品です。ドイツ語のオペラというのは、この40年間の歴史の中でたった2つ、
『魔笛』
と『ウィンザーの陽気な女房』。それから英語のオペラが『ポギーとベス』、1つです。『ポ
ギーとベス』以外はモンゴル語による上演が基本です。
-71-
詳細にといいますと、1つの作品ずつ申し上げていくことになるのですけれども、私の
知らない作曲家、どうやって訳していいかわからない作品もありますし、このモンゴルの
方の英語というのは、私たちが知っている英語とちょっと違った英語でありまして、とき
どき何かなと思うのですね。チャイコフスキーのバレエ、『スリーピングビューティ』だと
思うんですけど、『スリーピングプリンセス』とか書いてありました。なるほどと思うんで
すけども。今、それらを鋭意翻訳して、完璧な目録をつくろうということでしております
ので、この研究が将来またまとまってくるときには、私のつたない訳でレパートリー一覧
表みたいのをつくろうと思っておりますが、それを期待して、来年の講演会にもぜひお越
しいただきたいと思います。
【渡辺】
ありがとうございました。そして、もう一つですが、これは私への質問でご
ざいます。
【石田】
アメリカのオペラ団体への私的寄附が高率であること、そして、その多くが
中高年を主体とする100ドル以下の寄附であることには驚きました。現在、アメリカで
こうした寄附をより円滑に行うための活動で、参考となるものがございましたら、ご教示
くださいということです。
【渡辺】
ご指摘のように、アメリカにおきましては、100ドル以下の零細寄附とい
うものが芸術を支えております。オペラも同じでございます。この100ドル以下の零細
寄附の強みというのは、少額でございますから、景気の動向を受けることが非常に少ない
わけですね。したがって、安定的な運営ができる。それだけではなく、お金を出すことに
よって、その住民がそのオペラにコミットをしてくれるということが重要なことです。
では、どうすればそういうお金が集まるかということですが、これは一つにはプロのス
ポーツをごらんいただければわかると思います。野球にいたしましても、それからサッカ
ーにいたしましても、サポーター、ファン、それが地元にいる。だからこそ、経営が成り
立つということですね。アメリカにおけるオペラのあり方というものから倣いますと、日
本におきましても、こうした地域ごとに根をおろしたオペラというものが育つことが、そ
うした住民の零細寄附を集める上では、どうしても必要かと思います。
ただ、いくら住民との連携を強め、そのために住民に対するサービスを行っても、募金、
お金が集まるとは限りません。アメリカにおきましては、募金というのはアートマネージ
メントの一番重要な役目とされており、これは専門家が行う活動であると定義されており
ます。最も優秀なアートマネージャーは募金ができるマネージャーです。
-72-
どういうふうにして募金をするのか。オペラの場合で申しますと、一般論でございます
が、まず第一に、何としてでも、今までオペラに来なかった人々にオペラの切符を買って
もらうというのが、この募金運動の第一歩です。そして、オペラにとにかく来ていた方に
は、アフターサービスもきちんといたしまして、この次にその方に定期会員になっていた
だく。その上で、その定期会員になった方々にオペラというのは入場料収入だけでは成り
立たない芸術であることをきちんと理解していただき、支援者になっていただく。この3
つのプロセスを経て支援を得るのが、一般的と言われております。
そのための事業は教育事業というふうに位置づけられておりますが、先ほど申しました
ように、これはあくまでもマーケティングの一環です。やはり日本におきましても、そう
した募金の専門家を育てるということが、これから必要になってくるのではないかと思い
ます。これは言い過ぎかもしれませんが、私はこれからの日本のオペラの将来は個人の寄
附を集められるかどうかにかかっていると、このように考えております。
どうもありがとうございました。時間がここで尽きてしまいました。先ほど申しました
ように、残りの質問は報告書の中に入れさせていただきます。
本日、大変長い間、オペラのお話をお聞きいただいたわけですが、世界のオペラという
巨大な実像をどう把握するのか。きょう、話をすればするほど、また聞けば聞くほど、難
しいなというのが実感です。それでも、きょうのプレゼンテーションから、今後、この研
究が進むべき方向、あるいは日本のオペラの運営について、いくつかの示唆が出てまいっ
たかと思います。昭和音楽大学といたしましては、今後も機会を見まして、随時、この研
究の成果を皆様方に発表させていただく予定でございます。また、そういう機会にぜひご
参加いただき、いろいろと貢献いただければと思います。
また、参加者の皆様方におかれては、このきょうの公開講座だけではなく、私どもがや
っておりますオペラ運営の研究に関しまして、ご意見、ご注意等がございましたら、昭和
音楽大学オペラ研究所あてに、どんどんお寄せいただければありがたいと考えております。
よろしくお願いします。
それでは、ありがとうございました。(拍手)
-73-
Fly UP